説明

木材の改質処理方法

【課題】
木材の経年変化による寸法安定性については種々の技術が開発されているが、シックハウス症候群による弊害や重量の変化、又は強度低下等の問題が生じていて最適な処理が見出せないまま今日に至っている。
【解決手段】
本発明は、不飽和モノカルボン酸の水溶液に重合開始剤またはさらにエステル化触媒を添加した水溶液を木材に注入し、さらに加熱処理をすることによって、木材本来の特性を失うことなく、寸法安定性が向上し、その効果を持続させる木材の改質処理方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材の寸法安定性を図る改質処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、水分による寸法変動が大きい材料である。それゆえに、木材に寸法安定性能を付与する化学処理技術に関する研究が盛んに行われてきた。代表的な処理方法としては、アセチル化、ホルマール化、ポリエチレングリコール(PEG)処理があげられる。最近では、リンゴ酸等を用いて、吸放湿性を維持しつつ寸法安定性を付与する技術なども開発
されている。
【特許文献1】特開2002−86405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、アセチル化は高い寸法安定性能を木材に付与できるものの、木材中に副産物として生じてしまう酢酸を木材内部から取り除かなければならず、どうしてもコスト高になってしまう。ホルマール化は、アセチル化以上に木材に高寸法安定性能を付与できる処理であるが、シックハウス症候群の原因物質の一つとされるホルムアルデヒドが放散してしまう処理であること、また木材の強度が処理によって低下してしまうという欠点がある。PEG処理は、高い寸法安定性を木材に付与できる処理であるが、PEG自体が親水性であるため、高湿度状態に置かれると、木材内部からPEGが溶脱してしまう。リンゴ酸処理は、低環境負荷型の優れた処理であるが、寸法安定性を付与するのに、高い重量増加率が不可欠である点が問題である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の課題は、上記の既存処理のような欠点を有しない処理法を開発することである。すなわち、木材内部で薬剤と木材が化学反応を起こした場合、アセチル化の場合の酢酸のような除去の必要不可欠な副生物ができることがなく、ホルマール化のような木材の強度低下を誘発することなく、さらにPEG処理のような水による薬剤の流脱がなく、さらに軽量性という木材の長所を失わない化学処理方法を提案する。
【0005】
本発明は、このような処理方法によって高い寸法安定性が付与できるばかりか、シックハウスによる弊害もなく施工後も住生活に不安が生じない。
【発明の効果】
【0006】
上述のように本発明の処理方法によるときは、木材の持つ本来の特性を失うことなく、寸法安定性が向上し、その効果は長期間に亘って持続し、しかも処理工程が簡単で処理後の作業工程に何ら支障がない。
以下の実施例においては、スギ材を使用しているが、他の建築用木材に使っても、同様の効果が得られる。
【実施例】
【0007】
[実施例1] 試験体として、気乾状態のスギ辺材部から寸法30mm(接線方向、T)×30mm(放射方向、R)×5mm(繊維方向、L)に切削加工した木口試験体を用いた。改質処理を行う前に、試験体を105℃で24時間以上乾燥させた。そして全乾状態での重量及び寸法(T,R)を測定した。不飽和モノカルボン酸にはアクリル酸を採用し、蒸留水で希釈し5、10、15、20%の4水準の水溶液を調製した。さらにアクリル酸に対し、重量比で1%のペルオキソ二硫酸カリウムと4%のリン酸二水素ナトリウムをそれぞれの水溶液に添加した。試験体を1時間減圧した後、減圧状態を保ったまま処理溶液を注入し15分間この状態を保持し、その後大気圧状態に戻した。減圧含浸処理後、105℃72時間の加熱処理を施し、重量と寸法を測定した。
【0008】
次に、改質処理した試験体と無処理の試験体を減圧容器中に入れ、処理溶液を注入した場合と同じ条件で蒸留水を含浸し、続いて24時間常温常圧下で静置した。そしてその後、T、Rの寸法を測定し、抗膨潤能(ASE)を次式に従って求めた。
ASE(%)={(無処理材の木口面積膨潤率−処理材の木口面積膨潤率)÷(無処理材の木口面積膨潤率)}×100
【0009】
図1は、処理溶液濃度とASEの関係を示している。なお、処理溶液0%の値は、処理溶液を注入せずに同様の熱処理のみを施した試験体の結果である。この結果から、処理溶液濃度の増加とともにASEの値も大きくなり、処理溶液濃度20%で約20%のASEが得られることが分かる。
【0010】
[実施例2] 上記実施例1と同様に、30mm(T)×30mm(R)×5mm(L)のスギ辺材に、アクリル酸に対し重量比で1%のペルオキソ二硫酸カリウムと4%のリン酸二水素ナトリウムを含むアクリル酸20%水溶液を減圧含浸した。大気圧状態に戻した後、一昼夜常温常圧下でさらに処理溶液を浸せきさせた。その後24時間風乾し105℃、72時間の加熱処理を施し、さらに半数の試験体には150℃、24時間の加熱処理を加えた。その後、実施例1と同様に、ASEを求めた。そして、さらに試験体を風乾後105℃で48時間以上加熱し全乾状態とし、再び蒸留水を減圧含浸し再度ASEを求め、ASEがどの程度保持されているのかを確認した。
【0011】
【表1】

表1に、実施例2における、最終熱処理温度と重量増加率、バルキング率、ASE(測定1回目)との関係を示す。なお、バルキング率は次式に従って求めた。
バルキング率(%)={(処理後の木口面積−処理前の木口面積)÷(処理前の木口面積)}×100
【0012】
表1から、105℃処理の場合のASE22.0%にくらべ、150℃処理の場合はASE26.9%と、より高い値を示していることが分かる。さらに、150℃処理の場合、重量増加率、バルキング率がほぼ0に近い値であるにもかかわらず、26.9%ものASEを付与できているところに特徴がある。
【0013】
図2に、実施例2における測定1回目と2回目のASEの関係を示す。測定2回目のASEに注目すると、105℃処理の場合は22.0%か24.6%、150℃処理の場合は26.9%から25.9%と、ほとんど値が変化しないことが分かる。つまり、最終熱処理温度の大小にかかわらず、寸法安定性の耐水性能が付与される。
【0014】
[実施例3] 30mm(T)×30mm(R)×5mm(L)のスギ辺材に、アクリル酸に対し重量比で1%のペルオキソ二硫酸カリウムを含むアクリル酸20%水溶液を減圧含浸した。大気圧状態に戻した後、一昼夜、常温常圧下でさらに処理溶液を浸せきさせた。その後24時間風乾し105℃、72時間の加熱処理を施し、さらに半数の試験体には1
50℃、24時間の加熱処理を加えた。その後、実施例1および実施例2と同様に、ASEを求めた。そして、さらに試験体を105℃で48時間以上加熱し全乾状態とし、再び蒸留水を減圧含浸し再度ASEを求め、ASEがどの程度保持されているのかを確認した。
【0015】
【表2】

表2に、実施例3における、最終熱処理温度と重量増加率、バルキング率、ASE(測定1回目)との関係を示す。
【0016】
表2から、105℃処理の場合のASE20.2%にくらべ、150℃処理の場合ASE30.2%と、より高い値を示し、実施例2の場合と同様の傾向であることが分かる。また、150℃処理の場合、重量増加率、バルキング率がほぼ0に近い値である点も、実施例2の場合と同様である。
【0017】
図3に、実施例3における、測定1回目と2回目のASEの関係を示す。測定2回目のASEに注目すると、105℃処理の場合は20.2%から28.7%、150℃処理の場合は30.2%から32.5%と、蒸留水の浸せきによって寸法安定性能が低下しないことも実施例2の場合と同様である。つまりこの結果から、リン酸塩を添加しない場合も、添加した場合とほぼ同様の寸法安定性能が付与できることが分かる。
【0018】
[実施例4] 30mm(T)×30mm(R)×5mm(L)のスギ辺材に、アクリル酸とN,N’−メチレンビスアクリルアミドのモル比を10:1とし、両者の合計重量をもって濃度を20%とした水溶液を減圧含浸した。この処理溶液には実施例1,2に準じ、アクリル酸とN,N’−メチレンビスアクリルアミドの合計重量に対し、1%のペルオキ
ソ二硫酸カリウムと4%のリン酸二水素ナトリウムを添加してある。大気圧状態に戻した後、一昼夜、常温常圧下でさらに処理溶液を浸せきさせた。その後105℃、72時間の加熱処理を施し、さらに半数の試験体は150℃、24時間の加熱処理を加えた。その後、実施例2および実施例3と同様にASEを2回求めた。
【0019】
【表3】

表3に、実施例4における最終熱処理温度と重量増加率、バルキング率、ASE(測定1回目)との関係を示す。
【0020】
表1の結果と比較すると、N,N’−メチレンビスアクリルアミドを添加することによって、重量増加率、バルキング率、ASE全ての値がN,N’−メチレンビスアクリルアミドを添加しない場合よりも増加していることが分かる。一方、最終熱処理温度に注目すると、表1の結果とは異なり最終熱処理温度による差がほとんどなく、105℃処理の場
合のASEは34.9%、150℃処理の場合のASEは33.0%と、ともにASEが30%を超えている。
【0021】
図4に、実施例4における、測定1回目と2回目のASEの関係を示す。測定2回目のASEに注目すると、105℃処理の場合は34.9%から38.5%、150℃処理の場合は、33.0%から33.4%と、ほとんど値が変化しない。つまり実施例2および実施例3の場合と同様、最終熱処理温度の大小にかかわらず、寸法安定性の耐水性能が付与されることが分かる。しかし、実施例2の場合と異なるのは、ASE測定1回目および2回目ともに、105℃処理のASEの方が150℃処理のそれを上回っているということである。すなわち、N,N’−メチレンビスアクリルアミドを添加する系は、添加しない系よりも重量増加率が大きくなってしまうもののASEそのものは大きい値を得ることができ、処理温度も105℃で十分であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、木材の寸法安定性と耐久性の向上を目的とし、取扱い容易な薬剤と実用的な処理温度で処理が可能なため産業上の利用可能性は大である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】処理溶液濃度とASEの関係図
【図2】実施例2の薬剤処理におけるASE値
【図3】実施例3の薬剤処理におけるASE値
【図4】実施例4の薬剤処理におけるASE値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和モノカルボン酸水溶液に重合開始剤またはさらにエステル化触媒としてリン酸塩を添加した水溶液を木材に注入し、加熱処理をすることを特徴とした木材の改質処理方法。
【請求項2】
不飽和モノカルボン酸としてアクリル酸を選び、加熱処理として105℃で72時間行うこと、またはさらに150℃で24時間加熱処理することを特徴とした請求項1に記載の木材の改質処理方法。
【請求項3】
アクリル酸とN,N’−メチレンビスアクリルアミドをモル比で10:1とした水溶液に浸せき処理することを特徴とした請求項1,2に記載の木材の改質処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−181752(P2006−181752A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375399(P2004−375399)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(593022021)山形県 (34)
【Fターム(参考)】