説明

木材への薬剤含浸方法

【課題】寸法変化の原因となる水を使用せず、問題となるような有害な有機溶媒も使用せずに、木材や木質接着製品(以下、木材という)への薬剤含浸をすることができる木材への薬剤含浸方法を提供する。
【解決手段】〔1〕下記式(1) で示されるジエチレングリコール誘導体に、有機金属系呈色剤を含む薬剤を混合した溶液を、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素と混合した流体を、木材に接触させて木材中に進入させ、薬剤を含浸させることを特徴とする木材への薬剤含浸方法。ただし、下記式(1) において、R は炭素数:4〜12の炭化水素基を示すものである。〔2〕前記方法において薬剤を含浸させた後、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を木材に接触させて木材をリンスするもの等。
HO-CH2CH2-O-CH2CH2-OR ------ 式(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材への薬剤含浸方法に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、長期にわたって屋外や水にさらされる場所で使用される木材や建材用木材には、防腐剤や防蟻剤、防かび剤などで薬剤処理が施されている。その薬剤処理の方法としては、JIS-A9002 にあるような方法の他に、超臨界状態の二酸化炭素(超臨界CO2 )を用いた薬剤処理方法も検討されている。
【0003】
例えば、特開昭59-101311 号公報には、超臨界CO2 や液体のCO2 に木材防腐剤を溶解した防腐剤薬液を木材に接触させ浸透させる方法について記載されている。この方法を用いると、クレオソート油やフェノール系防腐剤、ペンタクロルフェノール系防腐剤などを木材中に含浸させることが可能であると記載されている。しかしながら、これらの薬剤を木材に含浸させると、薬剤自身が有する臭いが木材から揮散してしまう。近年は住環境における VOC(volatile organic compounds)が問題となっており、臭いを発する薬剤の残留は好ましくない。
【0004】
特開平2003-285301 号公報には、難浸透性木材を超臨界CO2 およびエントレーナを含む流体で木材を処理することにより、木材への薬剤の浸透性を改善する方法について記載されている。この方法は、難浸透性の木材に薬剤を含浸できることがメリットであるが、防腐剤や防蟻剤、防かび剤を含浸させるためには更なる工程が必要になることや、エントレーナとして用いたエタノールやイソプロパノール等のアルコールが残留し、VOC の問題を引き起こす可能性がある。
【0005】
VOC 問題を起こさないようにするためには、上記処理の後に加熱・真空引き等の処理を行えばよいが、これは手間やコストアップの要因となってしまう。そこで、エントレーナとして比較的臭いが少ないものがあれば、それを用いることが望ましいと考えられる。
【特許文献1】特開昭59-101311 号公報
【特許文献2】特開平2003-285301 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、寸法変化の原因となる水を使用せず、問題となるような有害な有機溶媒も使用せずに、木材や木質接着製品(以下、木材ともいう)への薬剤含浸をすることができる木材への薬剤含浸方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0008】
このようにして完成されて上記目的を達成することができた本発明は、木材への薬剤含浸方法に係わり、特許請求の範囲の請求項1〜6記載の木材への薬剤含浸方法(第1〜6発明に係る木材への薬剤含浸方法)であり、それは次のような構成としたものである。
【0009】
即ち、請求項1記載の木材への薬剤含浸方法は、下記式(1) で示されるジエチレングリコール誘導体に、有機金属系呈色剤を含む薬剤を混合した溶液を、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素と混合した流体を、木材に接触させて進入させ、薬剤を含浸させることを特徴とする木材への薬剤含浸方法である〔第1発明〕。
HO-CH2CH2-O-CH2CH2-OR -------- 式(1)
ただし、上記式(1) において、R は炭素数:4〜12の炭化水素基を示すものである。
【0010】
請求項2記載の木材への薬剤含浸方法は、前記流体を木材に接触させて木材中に進入させた後、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を木材に接触させて木材をリンスする請求項1記載の木材への薬剤含浸方法である〔第2発明〕。請求項3記載の木材への薬剤含浸方法は、前記木材が圧力容器内に配されており、前記超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を前記圧力容器の上部から下部に向けて流す請求項2記載の木材への薬剤含浸方法である〔第3発明〕。
【0011】
請求項4記載の木材への薬剤含浸方法は、前記炭化水素基が、2-エチルヘキシル基、ブチル基、ヘキシル基の1種である請求項1〜3のいずれかに記載の木材への薬剤含浸方法である〔第4発明〕。
【0012】
請求項5記載の木材への薬剤含浸方法は、前記有機金属系呈色剤が、バーサチック酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛の1種からなる請求項1〜4のいずれかに記載の木材への薬剤含浸方法である〔第5発明〕。
【0013】
請求項6記載の木材への薬剤含浸方法は、前記薬剤が、防腐剤、防蟻剤、防カビ剤の1種以上を含む請求項1〜5のいずれかに記載の木材への薬剤含浸方法である〔第6発明〕。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る木材への薬剤含浸方法によれば、寸法変化の原因となる水を使用せず、問題となるような有害な有機溶媒も使用せずに、木材への薬剤含浸をすることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る木材への薬剤含浸方法は、前述のように、下記式(1) で示されるジエチレングリコール誘導体に、有機金属系呈色剤を含む薬剤を混合した溶液を、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素と混合した流体を、木材に接触させて進入させ、薬剤を含浸させることを特徴とする木材への薬剤含浸方法である。
HO-CH2CH2-O-CH2CH2-OR -------- 式(1)
ただし、上記式(1) において、R は炭素数:4〜12の炭化水素基を示すものである。
【0016】
上記式(1) で示されるジエチレングリコール誘導体は、ジエチレングリコール(HO-CH2CH2-O-CH2CH2-OH )の有する2つのOH基の中、一方のOH基のHを炭素数:4〜12の炭化水素基(R)で置換したもの(以下、C4-12 ジエチレングリコール誘導体ともいう)であり、室温で液体である。
【0017】
本発明者らは、前述の目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、C4-12 ジエチレングリコール誘導体は、防腐剤や防蟻剤、防カビ剤を溶かすことができ、有機金属系呈色剤でさえも溶かすことができ、また、超臨界状態の二酸化炭素(超臨界CO2 )にも亜臨界状態の二酸化炭素(亜臨界CO2 )にも可溶であり、更に、揮発性が少なく、臭いがほとんどしなくて、問題を起こすような有害な揮発性有機化合物ではないことを見出した。本発明は、かかる知見に基づき完成されたものであり、前述のような構成の木材への薬剤含浸方法としている。
【0018】
即ち、本発明に係る木材への薬剤含浸方法は、かかる知見に基づき、C4-12 ジエチレングリコール誘導体(溶液)に有機金属系呈色剤を含む薬剤を混合して溶解し、この溶液を超臨界CO2 または亜臨界CO2 に混合して溶解し、この流体を木材に接触させて進入させ、薬剤を含浸させることを特徴とするものである。つまり、超臨界CO2 または亜臨界CO2 を用いて有機金属系呈色剤を含む薬剤を木材に含浸させるに際し、エントレーナとしてC4-12 ジエチレングリコール誘導体を用いることを特徴とするものである。
【0019】
このとき、C4-12 ジエチレングリコール誘導体は、エントレーナとして充分に機能し、役目を果たす。そして、木材への薬剤含浸後、木材中に残留するが、揮発性が少なく、臭いがほとんどしなくて、問題を起こすような有害な揮発性有機化合物ではない。なお、含浸された有機金属系呈色剤もVOC 問題を起こすような揮発性有機化合物ではない。
【0020】
従って、本発明に係る木材への薬剤含浸方法によれば、寸法変化の原因となる水を使用せず、問題となるような有害な有機溶媒も使用せずに、充分に木材への薬剤含浸をすることができる。
【0021】
なお、木材へ薬剤を含浸させた後に薬剤の一部が木材表面に残留する場合には、手触りが良くない場合がある。これを防ぐためには、木材へ薬剤を含浸させた後、超臨界CO2 または亜臨界CO2 を木材に接触させて木材をリンスするとよい〔第2発明〕。
【0022】
このとき、木材から薬剤が抽出されないような条件とすることが好ましい。通常、木材は圧力容器内に配されている。この場合、超臨界CO2 または亜臨界CO2 を木材に接触させるに際しては、圧力容器内に超臨界CO2 または亜臨界CO2 を導入するか、あるいは、圧力容器内にCO2 を導入し、このCO2 を圧力容器内で超臨界CO2 または亜臨界CO2 にすればよい。リンスする時間(リンス処理時間)は、圧力容器実効内容積とリンスの際のCO2 供給速度(圧力容器内に超臨界CO2 または亜臨界CO2 で導入する場合は、その導入速度。圧力容器内にCO2 で導入し圧力容器内で超臨界CO2 または亜臨界CO2 にする場合は、その導入速度。)によって調整する必要がある。最低でも下記(1) 式の条件を満たすことが望ましく、下記(2) 式の条件を満たすことが更に望ましい。計算上、(1) 式を満たすようにした場合は超臨界CO2 または亜臨界CO2 で圧力容器内を1回置換したこととなり、(2) 式を満たすようにした場合は超臨界CO2 または亜臨界CO2 で圧力容器内を3回置換したこととなる。なお、上記圧力容器実効内容積とは、圧力容器内容積から圧力容器内容物(木材)の体積を引いた容積のことである。
【0023】
CO2供給時間(min) × CO2供給速度(ml/min)>圧力容器実効内容積(ml)×1 --- (1)式 CO2供給時間(min) × CO2供給速度(ml/min)>圧力容器実効内容積(ml)×3 --- (2)式 ただし、上記(1) 〜 (2)式において、 CO2供給時間は、圧力容器内に超臨界CO2 または亜臨界CO2 で導入する場合は、その導入時間であり、圧力容器内にCO2 で導入し圧力容器内で超臨界CO2 または亜臨界CO2 にする場合は、その導入時間である。 CO2供給速度は、圧力容器内に超臨界CO2 または亜臨界CO2 で導入する場合は、その導入速度であり、圧力容器内にCO2 で導入し圧力容器内で超臨界CO2 または亜臨界CO2 にする場合は、その導入速度である。
【0024】
木材が圧力容器内に配されており、超臨界CO2 または亜臨界CO2 で木材をリンスする際には、超臨界CO2 または亜臨界CO2 を圧力容器の上部から下部に向けて流すようにすることが望ましい〔第3発明〕。超臨界CO2 または亜臨界CO2 を圧力容器の下部から上部に向けて流すようにすると、木材表面に残留した薬剤は超臨界CO2 または亜臨界CO2 に溶解した分だけが圧力容器外へ放出されるだけとなってしまうが、超臨界CO2 または亜臨界CO2 を圧力容器の上部から下部に向けて流すようにすると、超臨界CO2 または亜臨界CO2 に溶解した薬剤に加えて、薬剤の自重(超臨界CO2 または亜臨界CO2 との比重差)により薬剤自体も圧力容器外に排出される(超臨界CO2 または亜臨界CO2 に溶解した分だけでなく、溶解せず自重で圧力容器下部に落ちた分も、圧力容器外に排出される)ことになるからである。
【0025】
このような超臨界CO2 または亜臨界CO2 の流れ方向は容易に実現できる。例えば図1に示す装置を用いる場合においては、木材へ薬剤を含浸させる際には、バルブ9、バルブ10を開放し、バルブ11、バルブ12を閉じることにより、圧力容器内を下から上に向けて流すことが可能である。木材をリンスする際には、バルブ11、バルブ12を開放し、バルブ9、バルブ10を閉じることにより、圧力容器内を上から下に流すことが可能である。なお、バルブ9、バルブ10、バルブ11、バルブ12の代わりに、図1内の13および14部に3方弁を使用することにより流路を変更させることも可能である。
【0026】
本発明に係る木材への薬剤含浸方法において、薬剤としては有機金属系呈色剤を含むこと、前記式(1) でのR は炭素数:4〜12であることとしている理由等について、以下説明する。
【0027】
日本では、木材に防腐剤・防蟻剤などを含浸させて認定製品を製造する場合には、製品を切断して防腐剤・防蟻剤などの有効成分の含浸状態が基準を満たしているか確認が要求される。このため、有効成分が無色または淡色である場合は、切断面に特定の化学物質を塗布または噴霧して鮮やかな発色を示すものが望ましい。有効成分が呈色困難または不可能な場合には、呈色可能な成分を一緒に含浸させる必要があり、これを呈色剤という。本発明では、無色で呈色できない防腐剤・防蟻剤を含浸させることを基本としているので、呈色剤を用いている。
【0028】
呈色剤としては、一般的に種々の薬剤が提案されているが、本発明では有機金属系呈色剤を用いる。これは、有機金属化合物はエントレーナ溶媒を用いることにより簡単に超臨界CO2 にも亜臨界CO2 にも溶かすことができること、比較的容易に入手可能であること、特定の化学物質と反応した際に非常に鮮やかな発色を示すことによる。従って、本発明では薬剤としては有機金属系呈色剤を含むことにしている。
【0029】
本発明においては、有機金属系呈色剤を溶かし、かつ、超臨界CO2 にも亜臨界CO2 にも可溶で臭いのほとんどない溶剤(エントレーナ)として、C4-12 ジエチレングリコール誘導体を用いる。つまり、前記式(1) での R(炭化水素基)の炭素数が4〜12のものを用いる。このように Rの炭素数を4〜12と特定した理由を、以下説明する。
【0030】
R の炭素数が4未満の場合、例えばR の炭素数が1つの場合〔即ち、ジエチレングリコールの一方のOH基のHを炭素数:1の R(メチル基)で置換したもの(ジエチレングリコールモノメチルエーテル)の場合〕、防腐剤を溶かすことはできるが、有機金属系呈色剤(有機金属化合物)をほとんど溶かさず、このため、有機金属系呈色剤の濃度を充分なものにすることができない。これは、炭素数が少なくなることによって、親油性が低下して親水性の性質が強くなったため、親油的な性質の強い有機金属化合物と混合しにくくなるからと考えられる。一方、R の炭素数が12よりも大きい場合、蒸気圧が低くなるため、揮発性は低くなるメリットはあるものの、融点が高くなるため、一旦溶解させてから使用することが必要となるため、簡単に使用することができない。R の炭素数が4以上12以下の場合、有機金属系呈色剤の溶解性に優れると共に、使用の容易性に優れ、且つ、揮発性が低く、総合的にみて最適である。従って、 Rの炭素数を4〜12と特定した。なお、このR の炭素数を4〜12と特定したもの(C4-12 ジエチレングリコール誘導体)は、一般的な防腐剤や防蟻剤、防カビ剤の溶解度も良好である。
【0031】
C4-12 ジエチレングリコール誘導体(ジエチレングリコールの一方のOH基のHを炭素数:4〜12の炭化水素基(R)で置換したもの)としては、例えば、炭素数が4つのブチル基で置換したジエチレングリコール- ブチルエーテルやジエチレングリコール- イソブチルエーテル、炭素数が8つの2-エチルヘキシル基で置換したジエチレングリコール-2- エチルヘキシルエーテルなどを挙げることができる〔第4発明〕。なお、炭素数が多くなると、融点が高くなるため、使用の際に加熱して溶かす必要がある(例えば、炭素数が12のドデシル基で置換したジエチレングリコール- ドデシルエーテルは、融点が165 ℃である)。よって、取扱いを容易にするためには炭素数が4〜10、より好ましくは4〜8の炭化水素基で置換したジエチレングリコール誘導体を用いることが好ましい。
【0032】
有機金属系呈色剤としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸鉛、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸鉄、ナフテン酸カルシウム、ナフテン酸マグネシウム、ナフテン酸銅、オクチル酸コバルト、オクチル酸鉛、オクチル酸マンガン、オクチル酸鉄、オクチル酸カルシウムまたはオクチル酸ニッケルからなるもの等がある。また、有機金属化合物が有機亜鉛化合物よりなる有機亜鉛系呈色剤がある。有機亜鉛系呈色剤としては、バーサチック酸亜鉛、オクチル酸亜鉛またはナフテン酸亜鉛からなるものがある。
【0033】
有機金属系呈色剤としては、バーサチック酸亜鉛、オクチル酸亜鉛またはナフテン酸亜鉛からなる有機亜鉛系呈色剤を用いることが好ましい〔第5発明〕。これらは超臨界CO2 および亜臨界CO2 への溶解性が比較的良好であるからである。これらの他にも、C8以上の有機亜鉛化合物よりなる有機金属系呈色剤は、超臨界CO2 及び亜臨界CO2 への溶解性が比較的良好であるため、好適に用いることができる。
【0034】
防腐剤や防蟻剤、防カビ剤としては、一般的に使用されている以下のものを用いることができる。即ち、有機系防腐剤としては、ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛、バーサチック酸亜鉛等の脂肪酸金属塩系、4-クロルフェニル-3- ヨードプロパルギルホルマール(IF1000)、3-ブロモ-2,3- ジヨード-2- プロペニルエチルカルボナート(サンプラス)、3-ヨード-2- プロペニルブチルカーバメート(IPBC)等の有機ヨード系、シプロコナゾール、アザコナゾール、テブコナゾール、プロピコナゾール等のトリアゾール系、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC) 、N,N-ジデシル-N- メチル- ポリオキシエチル- アンモニウムプロピオネート(DMPAP )、N-アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド(BKC)等の第四級アンモニウム塩系、有機系防蟻剤としては、ペルメトリン(パーメスリン)、トラロメトリン、ビフェントリン、α- シペルメトリン、シフルトリン、シフェノトリン、プラレトリン等のピレスロイド系、エトフェンプロックス、シラフルオフェン等の非エステルピレスロイド系、イミダクロプリド、アセタミプリド、ジノテフラン、チアメトキサム等のネオニコチノイド系、カルバリル、フェノルカルブ等のカーバメイト系、防蟻剤用共力剤としては、オクタクロロジプロピルエーテル(S-421)、イソボルニルチオシアノエチルエーテル(IBTE)等、防カビ剤としては、チアベンダゾール(TBZ )、イソチアゾリン、2-( チオシアノメチルチオ) ベンゾチアゾール(TCMTB )、メチレンビスチオシアネート(MBT)、2-フェニルフェノール、パラクミルフェノール等があり、これらを用いることができる。また、これらの中から複数の薬剤を混合して用いることができる。
【0035】
木材種については特に限定されず、種々の木材を用いることができ、例えば、スギ、スプルース、オウシュウアカマツ、ベイツガ、ベイマツ、ラジアータパインなどの汎用的な木材の心材や辺材の他に、集成材、 LVL(Laminated Veneer Lumber :単板積層材)、合板、 MDF(Medium Density Fiberboard :中質繊維板)、パーティクルボード、 OSB(Oriented Strand Board :配向性ストランドボード)などの木質接着製品も用いることができる。
【実施例】
【0036】
本発明の実施例および比較例について、以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0037】
〔実施例1〕
実施例1に係る木材への薬剤含浸方法に用いた装置を図1に示す。以下、図1を参照しながら実施例1を説明する。木材7として20mm×20mm×100mm に切断したベイツガを用いた。この木材(ベイツガ)7を200ml の容積を持つ圧力容器5内にセットした後、ヒーター6を40℃に設定して、圧力容器5内および木材7を温めた。
【0038】
次に、バルブ9、バルブ10を開け、バルブ11、バルブ12を閉めた状態で CO2ボンベ2を開け、高圧容器5へ CO2をボンベ圧(周囲温度によって変化するが、概ね4〜6MPa の範囲で推移する)まで供給した後、CO2 ポンプ1の電源を入れて、CO2 ボンベ2内の液体 CO2を10ml/minで圧力容器5に供給し、7MPa まで加圧した。なお、圧力調整は圧力調整弁8によって行った。
【0039】
次に、この圧力容器5に、下記の溶液3を薬液ポンプ4により0.8ml/min で15分間供給した。
【0040】
即ち、この溶液3は、C4-12 ジエチレングリコール誘導体に有機金属系呈色剤と、防腐剤、防蟻剤、防カビ剤の1種以上を混合し溶解した溶液である。このC4-12 ジエチレングリコール誘導体としては、ジエチレングリコール-2- エチルヘキシルエーテルを用いた。有機金属系呈色剤としてはバーサチック酸亜鉛(亜鉛濃度として16%の溶液) を用いた。防腐剤、防蟻剤、防カビ剤の1種以上としては、シプロコナゾール、シラフルオフェン、及び、イソボルニルチオシアノエチルエーテルを用いた。この溶液3でのC4-12 ジエチレングリコール誘導体(ジエチレングリコール-2- エチルヘキシルエーテル)の濃度は70.8%、有機金属系呈色剤(バーサチック酸亜鉛)の濃度は22%、シプロコナゾールの濃度は2.4 %、シラフルオフェンの濃度は2.4 %、イソボルニルチオシアノエチルエーテルの濃度は2.4 %である。つまり、溶液3として、70.8%ジエチレングリコール-2- エチルヘキシルエーテル・22%バーサチック酸亜鉛(亜鉛濃度として16%の溶液) ・ 2.4%シプロコナゾール・ 2.4%シラフルオフェン・ 2.4%イソボルニルチオシアノエチルエーテル溶液を用い、これを圧力容器5に0.8ml/min で15分間供給した。
【0041】
上記溶液3の供給の後、圧力調整弁を19MPa に設定し、溶液3を薬液ポンプ4により圧力容器5に供給して圧力容器5内を加圧し、19MPa に制御した。この状態(19MPa )で23分間放置した。このとき、圧力容器5内は、超臨界CO2 に溶液3(C4-12 ジエチレングリコール誘導体に有機金属系呈色剤と、防腐剤、防蟻剤、防カビ剤の1種以上が溶解した溶液)が混合され溶解した流体の雰囲気となっており、この流体の木材中への進入(浸透)が起こっている。
【0042】
この後(上記23分間放置の後)、CO2 ポンプ1および薬液ポンプ4の電源を切り、CO2 および溶液3の供給をストップさせた。その後、1MPa/min で19MPa から大気圧まで減圧させた。このとき、木材7中に進入(浸透)したCO2 および薬剤の中、CO2 が蒸発して木材7から揮散し木材7からなくなり、一方、薬剤〔ジエチレングリコール-2- エチルヘキシルエーテル、バーサチック酸亜鉛(有機金属系呈色剤)、シプロコナゾール、シラフルオフェン、イソボルニルチオシアノエチルエーテル〕は残留する。これにより、薬剤が含浸した木材となる。
【0043】
上記減圧後、木材7を圧力容器5より取り出し、最も薬剤の含浸され難い部位である木材中心部分を含む個所およびその他の個所(複数個所)を切断した。そして、これらの切断面に、0.1 %- ジチゾンのアセトン溶液(試薬)を塗布したところ、いずれの切断面も切断面全体が赤く変化し、含浸が良好に行われていることが確認された。なお、この赤色への変化は、上記試薬と有機金属系呈色剤との反応によるものである。
【0044】
上記減圧後の木材7に残留した薬剤、即ち、木材7に含浸した薬剤〔ジエチレングリコール-2- エチルヘキシルエーテル、バーサチック酸亜鉛(有機金属系呈色剤)、シプロコナゾール、シラフルオフェン、イソボルニルチオシアノエチルエーテル〕は、問題を起こすような有害な揮発性有機化合物ではない。
【0045】
従って、実施例1に係る木材への薬剤含浸方法によれば、木材への薬剤含浸後に問題を起こすような有害な揮発性有機化合物を含むことなく、木材への薬剤の含浸を良好にすることができることが確認された。
【0046】
〔実施例2〕
実施例1の場合と同様の方法により木材7への薬剤含浸の処理を行った後(19MPa で23分間放置の後)、CO2 ポンプ1および薬液ポンプ4の電源を切り、バルブ9、バルブ10を閉め、バルブ11、バルブ12を開けた後、CO2 ポンプ1の電源を入れて圧力容器5内に液体CO2 のみを10ml/minで120min供給して、リンスを行った。このCO2 は圧力容器5内に導入された後、超臨界CO2 となり、圧力容器5の上部から下部に向けて流れ、木材をリンスする。このとき、計算上の圧力容器5内の置換交換回数は9回である。即ち、超臨界CO2 で圧力容器内を9回置換したこととなる。
【0047】
この後、CO2 ポンプ1の電源を切り、CO2 の供給をストップさせた。その後、実施例1の場合と同様の方法により減圧させ、木材7を圧力容器5より取り出した。この木材表面の手触りは薬剤の含浸処理前の木材と差はなく、良好であった。また、この木材について実施例1の場合と同様の方法により薬剤の含浸が良好に行われているかどうかを調べたところ、薬剤の含浸が良好に行われていることが確認された。
【0048】
〔実施例3〕
C4-12 ジエチレングリコール誘導体として、実施例1でのジエチレングリコール-2- エチルヘキシルエーテルに代えて、ジエチレングリコール- ヘキシルエーテルを用いた。この点を除き、実施例1の場合と同様の方法により、木材7への薬剤含浸の処理を行った。そして、この薬剤含浸処理後(減圧後)の木材7について、実施例1の場合と同様の個所を切断し、これらの切断面に、0.1 %- ジチゾンのアセトン溶液(試薬)を塗布したところ、いずれの切断面も切断面全体が赤く変化し、含浸が良好に行われていることが確認された。
【0049】
上記減圧後の木材7に残留した薬剤、即ち、木材7に含浸した薬剤〔ジエチレングリコール- ヘキシルエーテル、バーサチック酸亜鉛(有機金属系呈色剤)、シプロコナゾール、シラフルオフェン、イソボルニルチオシアノエチルエーテル〕は、問題を起こすような有害な揮発性有機化合物ではない。
【0050】
従って、実施例3に係る木材への薬剤含浸方法によれば、木材への薬剤含浸後に問題を起こすような有害な揮発性有機化合物を含むことなく、木材への薬剤の含浸を良好にすることができることが確認された。
【0051】
〔比較例1〕
実施例1でのジエチレングリコール-2- エチルヘキシルエーテル(溶液3での濃度70.8%)に代えて、ジエチレングリコール- メチルエーテル(溶液3での濃度87.8%)を用いた。また、溶液3でのバーサチック酸亜鉛の濃度は5%とした。即ち、溶液3として、実施例1での70.8%ジエチレングリコール-2- エチルヘキシルエーテル・22%バーサチック酸亜鉛(亜鉛濃度として16%の溶液) ・ 2.4%シプロコナゾール・ 2.4%シラフルオフェン・ 2.4%イソボルニルチオシアノエチルエーテル溶液に代えて、87.8%ジエチレングリコール- メチルエーテル・5%バーサチック酸亜鉛(亜鉛濃度として16%の溶液) ・ 2.4%シプロコナゾール・ 2.4%シラフルオフェン・ 2.4%イソボルニルチオシアノエチルエーテル溶液を用いた。なお、上記ジエチレングリコール- メチルエーテルは、 HO-CH2CH2-O-CH2CH2-ORで示されるジエチレングリコール誘導体であるが、 R(炭化水素基)の炭素数は1であり、本発明に係るジエチレングリコール誘導体( Rの炭素数:4〜12)とは異なる。
【0052】
上記の点を除き、実施例1の場合と同様の方法により、木材7への薬剤含浸の処理を行った。そして、この薬剤含浸処理後(減圧後)の木材7について、実施例1の場合と同様の個所を切断し、これらの切断面に、0.1 %- ジチゾンのアセトン溶液(試薬)を塗布したところ、切断面全体ではなく、切断面の木材外周部から1mm幅の領域のみ赤く変化したが、その他の領域(木材中心部分を含む)は緑色(ジチゾン溶液色)であり、木材への薬剤の含浸が不十分であることが確認された。
【0053】
〔比較例2〕
実施例1でのジエチレングリコール-2- エチルヘキシルエーテルに代えて、ポリエチレングリコール(分子量 200)-2- エチルヘキシルエーテルとしたもの、即ち、溶液3として、実施例1での70.8%ジエチレングリコール-2- エチルヘキシルエーテル・22%バーサチック酸亜鉛(亜鉛濃度として16%の溶液) ・ 2.4%シプロコナゾール・ 2.4%シラフルオフェン・ 2.4%イソボルニルチオシアノエチルエーテル溶液に代えて、70.8%ポリエチレングリコール(分子量 200)-2- エチルヘキシルエーテル・22%バーサチック酸亜鉛(亜鉛濃度として16%の溶液) ・ 2.4%シプロコナゾール・ 2.4%シラフルオフェン・ 2.4%イソボルニルチオシアノエチルエーテル溶液を用いようとしたが、ポリエチレングリコール(分子量 200)-2- エチルヘキシルエーテルに対して、バーサチック酸亜鉛、シプロコナゾール、シラフルオフェン、イソボルニルチオシアノエチルエーテルはいずれも均一混合しなかった(溶解しなかった)ため、溶液3を得ることができず、このため、木材7への薬剤含浸処理を実施することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る木材への薬剤含浸方法は、寸法変化の原因となる水を使用せず、問題となるような有害な有機溶媒も使用せずに、木材や木質接着製品に薬剤含浸をすることができるので、木材へ薬剤を含浸させる場合に好適に用いることができて有用である。即ち、木材や木質接着製品へ薬剤を充分に含浸させることができ、この薬剤含浸後の木材や木質接着製品には寸法変化の原因となる水や問題となるような有害な有機溶媒が含まれていないので、薬剤含浸後に加熱・真空引き等の処理をしなくても問題を起こすことがなくて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1に係る木材への薬剤含浸方法に用いた装置の概要を示す模式図である。
【符号の説明】
【0056】
1-- CO2ポンプ、2-- CO2ボンベ、3--溶液、4--薬液ポンプ、5--圧力容器、6--ヒーター、7--木材、8--圧力調整弁、9、10、11、12--バルブ、13、14--3方弁を取り付ける場合の取り付け位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1) で示されるジエチレングリコール誘導体に、有機金属系呈色剤を含む薬剤を混合した溶液を、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素と混合した流体を、木材に接触させて木材中に進入させ、薬剤を含浸させることを特徴とする木材への薬剤含浸方法。 HO-CH2CH2-O-CH2CH2-OR -------- 式(1)
ただし、上記式(1) において、R は炭素数:4〜12の炭化水素基を示すものである。
【請求項2】
前記流体を木材に接触させて木材中に進入させた後、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を木材に接触させて木材をリンスする請求項1記載の木材への薬剤含浸方法。
【請求項3】
前記木材が圧力容器内に配されており、前記超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を前記圧力容器の上部から下部に向けて流す請求項2記載の木材への薬剤含浸方法。
【請求項4】
前記炭化水素基が、2-エチルヘキシル基、ブチル基、ヘキシル基の1種である請求項1〜3のいずれかに記載の木材への薬剤含浸方法。
【請求項5】
前記有機金属系呈色剤が、バーサチック酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛の1種からなる請求項1〜4のいずれかに記載の木材への薬剤含浸方法。
【請求項6】
前記薬剤が、防腐剤、防蟻剤、防カビ剤の1種以上を含む請求項1〜5のいずれかに記載の木材への薬剤含浸方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−331367(P2007−331367A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254765(P2006−254765)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(591226586)兼松日産農林株式会社 (23)
【Fターム(参考)】