説明

木材保存用組成物

【課題】低濃度で使用しても広範囲な種々のカビおよび腐朽菌に対して有効な木材保存用組成物を低コストで提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする木材保存用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材の腐朽およびカビの発生を防止する木材保存用組成物に関し、さらに詳しくは低濃度で使用しても種々のカビおよび腐朽菌に対して広範囲に有効な木材保存用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、建材、家具、工業用材料、土木用材料などとして種々の用途に使用されているが、それらを野外で使用する場合には、木材腐朽菌による腐朽が生じたり、また、カビの発生による劣化が生じたりすることがあるので、その長期の使用が困難とされている。
【0003】
そこで、木材を木材腐朽菌およびカビから保護するために、第四級アンモニウム化合物を使用することが検討されており、JIS−K−1570(1998)には、第四級アンモニウムの範疇に入るジデシルジメチルアンモニウムクロライドが木材防腐剤として規定されている。また、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンを用いた木材保存剤が提案されている。さらに、アミン系溶剤を使用して製剤化した銅系木材保存剤も提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドを初めとする第四級アンモニウムは、特定のカビには有効であるが、種々のカビに対して広範囲に有効ではなく、また、JIS−K−1571(1998)に規定されている特定の坦子菌には有効であるが、土壌中に広く存在する軟腐朽菌には有効ではない、という問題があった。4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンは、皮膚刺激性が強いので高濃度で取り扱うことが困難であること、および、高価であること、といった問題があった。そして、銅塩および銅酸化物から選ばれる少なくとも1種の無機の銅化合物をアンモニア、アンモニウム塩、アミン類などで錯体化して水に可溶化したアルカリ性の木材保存剤は、コスト的にも優れ、作業上非常に使いやすく、そして、木材腐朽菌(カワラタケ、ナミダタケなど)には有効であるが、ある種のカビ(ペニシリウム、フザリウムなど)には効果はなく、むしろ、そのアルカリ成分による窒素源供給のためにカビの発生を助長するという問題があった。カビが発生した木材は、腐朽に強度劣化はないが、その表面の汚染によって、商品価値を著しく下げるものとなっていた。
【0005】
本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。すなわち、本発明は、低濃度で使用しても広範囲な種々のカビおよび腐朽菌に対して有効な木材保存用組成物を低コストで提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は以下の本発明によって達成される。
1.下記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする木材保存用組成物。

【0007】
(但し、上記一般式において、R1およびR4は、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐の同一または異なるアルキレン基であり、R2およびR5は、水素原子、同一または異なるハロゲン原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基であり、R3は、炭素数2〜12の直鎖若しくは分岐のアルキレン基であり、R6は、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、Zは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子若しくはOSO27基(R7は、低級アルキル基若しくは置換或いは無置換のフェニル基である)である。)
【0008】
2.前記一般式(1)において、R1およびR4は、ピリジン環の3または4位置に結合しているメチレン基であり、R2およびR5は、水素原子であり、R3は、テトラメチレン基であり、R6は、オクチル基、デシル基およびドデシル基から選ばれる基であり、Zは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子若しくはOSO27基(R7は、低級アルキル基若しくは置換或いは無置換のフェニル基である)である前記1に記載の木材保存用組成物。
【0009】
3.前記一般式(1)で表される化合物は、下記式(1)〜(4)で表される少なくとも1種の化合物である前記1に記載の木材保存用組成物。


【0010】


【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低濃度で使用しても広範囲な種々のカビおよび腐朽菌に対して有効な木材保存用組成物を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明に用いられる前記一般式(1)で表される化合物のなかで好ましい化合物は、前記一般式(1)において、R1およびR4が、ピリジン環の3または4位置に結合しているメチレン基であり、R2およびR5が、水素原子であり、R3が、テトラメチレン基であり、R6が、オクチル基、デシル基およびドデシル基から選ばれる基であり、Zが塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子若しくはOSO27基(R7は、低級アルキル基若しくは置換或いは無置換のフェニル基である)である化合物であり、特に好ましい化合物は前記式(1)〜(4)の化合物である。前記一般式(1)で表される化合物は、単独でも混合物としても使用できる。
【0013】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(a)

で表されるピリジン化合物と、下記一般式(b)

で表されるジオール類とを、強塩基の存在下に反応させることにより、下記一般式(c)

で表されるピリジン化合物を製し、該化合物と下記一般式(d)

で表されるピリジン化合物とを強塩基の存在下に反応させることにより下記一般式(e)

で表されるピリジン化合物を製し、該化合物と下記一般式(f)

で表されるハロゲン化合物若しくはスルホン酸エステル化合物とを反応させることによって得られる。
(但し、上記一般式(a)〜(f)において、AおよびBは塩基の作用により脱離基として機能し、アルキルカチオンを生成し得る置換基であり、XおよびYは無機、若しくは有機のプロトン酸の対アニオンであり、mおよびnは0〜1であり、R1〜R7、Zは前記と同意義である。)
【0014】
本発明の木材保存用組成物は、前記一般式(1)で表される化合物を必須成分とし、好ましくは前記一般式(1)で表される化合物を水に0.1〜60質量%の濃度に溶解した溶液として使用することが好ましい。より好ましくは0.1〜20質量%であり、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。前記一般式(1)で表される化合物が水に対して低い溶解度を有する場合にはノニオン系の界面活性剤、水溶性有機溶剤を溶解助剤として使用することもできる。
【0015】
上記ノニオン系の界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルアミンオキサイドなどが挙げられ、水溶性有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール、それらのメチル、エチル、プロピルまたはブチルエーテル、メチル、エチル、プロピルまたはブチルエステルなどが挙げられる。
【0016】
さらに本発明の木材保存用組成物は、他の公知の殺菌剤や防腐剤、例えば、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、デシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルメチルポリオキシエチルアンモニウムプロピオネート、オクチルジデシルピリジニウムアンモニウムクロライド、オクタデシルピコリニウムクロライド、ラウリルイソキノリニウムブロマイドなどを併用することができる。
【0017】
本発明の木材保存用組成物は、例えば、そのまま、あるいは水または水を含む有機溶剤に溶解して、木材の表面に塗布したり、木材を浸漬して含浸させたり、木材中に加圧して注入したりするなどの適宜の手段を採用することにより、木材に適用することができる。
【0018】
次に本発明で使用する前記一般式(1)で表される化合物の合成例を挙げる。合成例1(前記化合物(1)の合成)
[下記構造式で示される化合物(1−1)の合成]

DMF(ジメチルホルムアミド)75mlに1,4−ブタンジオール8.24g(91.43mmol)を加え、氷冷下カリウムtert−ブトキシド10.3g(91.79mmol)を添加し、室温で1.5時間撹拌した。このスラリー液に−8〜−3℃で3−クロロメチルピリジン塩酸塩1.0g(6.10mmol)およびカリウムtert−ブトキシド0.68g(6.06mmol)を交互に添加し、これを15回繰り返し、全量で3−クロロメチルピリジン塩酸塩15.0g(91.45mmol)およびカリウムtert−ブトキシド10.2g(90.9mmol)を添加した。
【0019】
添加終了後、反応混合物をHPLC(条件1)で分析すると、3−クロロメチルピリジンのピークが確認されたので、3−クロロメチルピリジンのピークが消失するまで、カリウムtert−ブトキシドを5℃以下で添加した。追加したカリウムtert−ブトキシドは1.13g(10.07mmol)であった。反応混合物を固液分離し、ケークをDMF30mlで洗浄、ろ洗液からDMFを減圧下に留去して油状の粗生成物(化合物(1−1))17.1gを得た。得られたオイルをHPLC(条件1)で分析すると、前記化合物(1−1)の面積%は76.0%であった。
【0020】
前記化合物(1−1)の粗生成物を水30mlに溶解し、トルエンで洗浄した。その後、水層に食塩6gを加え、ジクロロメタン20ml×2で抽出し、無水硫酸マグネシウムで脱水後、溶媒を留去し、油状の前記化合物(1−1)9.21g(収率(1,4−ブタンジオールより):57.2%)を得た。得られたオイルをHPLC(条件1)で分析すると、面積%は99.4%であった。(1H−NMR(CDCl3):δ1.67−1.75(4H,m,−(C22−)、δ2.35(1H,s,O)、δ3.52−3.56(2H,t,J=6.0Hz,C2)、δ3.64−3.68(2H,t,J=6.0Hz,C2)、δ4.52(2H,s,C2)、δ7.27−7.31(1H,m,arom)、δ7.66−7.70(1H,m,arom)、δ8.52−8.56(2H,m,arom ×2)、MS(APCl):m/z=182[M+H]+
【0021】
HPLC(条件1)
・カラム:Inertsil ODS-3(GL Sciences)4.6mmφ×250mm
・カラム温度:15℃付近の一定温度
・移動相:A−0.5%酢酸アンモニウム水溶液、B−アセトニトリル A:B=70:30(一定)
・流量:1.0ml/min
・検出器:UV254nm
・注入量:20μL
【0022】
[下記構造式で示される化合物(1−2)の合成]

DMF25mlに前記化合物(1−1)5.0g(27.59mmol)を加え、氷冷下カリウムtert−ブトキシド3.1g(27.63mmol)を添加した。このスラリーに5〜6℃で3−クロロメチルピリジン塩酸塩0.5g(3.05mmol)およびカリウムtert−ブトキシド0.34g(3.03mmol)を交互に添加し、これを9回繰り返し、全量で3−クロロメチルピリジン塩酸塩4.5g(27.43mmol)およびカリウムtert−ブトキシド3.06g(27.27mmol)を添加した。添加終了後、反応混合物をHPLC(条件1)で分析すると、3−クロロメチルピリジンおよび前記化合物(1−1)のピークが確認されたので、3−クロロメチルピリジンのピークおよび前記化合物(1−1)のピークが消失するまで、カリウムtert−ブトキシドを5℃以下で添加した。追加したカリウムtert−ブトキシドは0.62g(5.53mmol)であった。
【0023】
反応混合物を固液分離し、ケークをDMF30mlで洗浄、ろ洗液からDMFを減圧下に留去した。この濃縮残液にジクロロメタン20mlを添加し、溶解液を飽和食塩水で洗浄後、溶媒を留去し、油状物5.8gを得た。この粗生成物0.5gについてシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム−メタノール)で精製を行い、油状の前記化合物(1−2)0.3gを得た。(1H−NMR:δ1.70−1.74(4H,m,−(C22−)、δ3.50−3.54(4H,m,C2×2)、δ4.51(4H,s,C2×2)、δ7.25−7.29(2H,dd,J=4.9Hz,7.9Hz,arom×2)、δ7.65−7.69(2H,dt,J=1.7Hz,7.9Hz,arom×2)、δ8.52−8.57(4H,dd,J=1.7Hz,4.9Hz,arom×4)、MS(APCl):m/z=273[M+H]+
【0024】
[化合物(1)の合成]

前記化合物(1−2)5.0g(18.36mmol)にオクチルブロマイド35.5g(183.8mmol)を加え、70〜80℃で20時間反応を行った。反応混合物をHPLC(条件2)で分析すると、前記化合物(1−2)のピークは消失していた。反応混合物より上層のオクチルブロマイド層を分離し、下層油状物をアセトニトリル−酢酸エチル=1:3(v/v)混液に注加した。混合物を冷却し、析出結晶を0℃でろ過、減圧乾燥を行い、灰白色結晶9.7g(粗収率(前記化合物(1−2)より):85%)を得た。
【0025】
得られた結晶2gについてアセトニトリル−酢酸エチル=1:3(v/v)混液で再結晶を行い、微灰白色結晶の化合物(1)1.6gを得た。(融点:52〜53℃、1H−NMR(d6−DMSO):δ0.82−0.89(6H,t,J=5.3Hz,C3×2)、δ1.25−1.34(20H,m,−(C25−×2)、δ1.77−1.80(4H,m,−(C22−×2)、δ2.04−2.09(4H,t,J=7.0Hz,C2×2)、δ3.70−3.72(4H,t,J=5.9Hz,C2×2)、δ4.67−4.71(4H,t,J=7.0Hz,C2×2)、δ4.84(4H,s,C2×2)、δ8.11−8.15(2H,dd,J=6.0Hz,8.0Hz,arom×2)、δ8.56−8.59(2H,d,J=8.0Hz,arom×2)、δ8.69−8.92(4H,dd,J=6.0Hz,13.1Hz,arom×4)、MS(ESI):m/z=579[M−Br]+)。
【0026】
HPLC(条件2)
・カラム:Inertsil ODS-3(GL Sciences)4.6mmφ×250mm
・カラム温度:15℃付近の一定温度
・移動相:A−0.5%酢酸アンモニウム水溶液、B−アセトニトリル A:70%(12min保持)→(10min)→A:50%(14min保持)→A:70%
・流量:1.0ml/min
・検出器:UV254nm
・注入量:20μL
【0027】
合成例2(前記化合物(2)の合成)
[下記構造式で示される化合物(2−1)の合成:3−クロロメチルピリジン塩酸塩から4−クロロメチルピリジン塩酸塩に代え、反応条件を以下の通りにした他は合成例1と同様]

DMF75mlに1,4−ブタンジオール8.24g(91.43mmol)を加え、氷冷下カリウムtert−ブトキシド10.3g(91.79mmol)を添加し、室温で1時間撹拌した。このスラリーに−10〜−5℃で4−クロロメチルピリジン塩酸塩1.5g(9.14mmol)、カリウムtert−ブトキシド1.03g(9.18mmol)を交互に添加し、これを10回繰り返した。
【0028】
添加終了後、反応混合物をHPLC(条件1)で分析すると、4−クロロメチルピリジンのピークが確認されたので、4−クロロメチルピリジンのピークが消失するまでカリウムtert−ブトキシドを10℃以下で添加した。追加したカリウムtert−ブトキシドは1.03g(9.18mmol)であった。反応混合物を固液分離し、ケークをDMF20mlで洗浄、ろ洗液からDMFを減圧下に留去し油状の粗生成物17.0gを得た。得られたオイルをHPLC(条件1)で分析すると、前記化合物(2−1)の面積%は63.0%であった。
【0029】
粗生成物を水30mlに溶解し、トルエンで洗浄した。その後、水層に食塩6gを加え、ジクロロメタン20ml×2で抽出し、無水硫酸マグネシウムで脱水後、溶媒を留去し、油状の前記化合物(2−1)9.21g(収率(1,4−ブタンジオールより):57.2%)を得た。得られたオイルをHPLC(条件1)で分析すると、面積%は99.4%であった。(1H−NMR(CDCl3):δ1.65−1.80(4H,m,−(C22−)、δ2.4(1H,s,O)、δ3.54−3.58(2H,t,J=5.9Hz,C2)、δ3.66−3.70(2H,t,J=5.9Hz,C2)、δ4.53(2H,s,C2)、δ7.24−7.26(2H,dd,J=1.5Hz,4.5Hz,arom×2)、δ8.55−8.57(2H,dd,J=1.5Hz,4.5Hz,arom×2)、MS(APCl):m/z=182[M+H]+
【0030】
[下記構造式で示される化合物(2−2)の合成:3−クロロメチルピリジン塩酸塩から4−クロロメチルピリジン塩酸塩に代え、反応条件を以下の通りにした他は合成例1と同様]

DMF49mlに1,4−ブタンジオール2.7g(30.0mmol)を加え、氷冷下カリウムtert−ブトキシド3.4g(30.0mmol)を添加し、室温で1時間撹拌した。このスラリーに−5〜−3℃で4−クロロメチルピリジン塩酸塩0.98g(6mmol)、カリウムtert−ブトキシド0.68g(6mmol)を交互に添加し、これを5回繰り返した。これ以降の添加は、−5〜−2℃で4−クロロメチルピリジン塩酸塩0.98g(6mmol)、カリウムtert−ブトキシド1.36g(12mmol)を交互に添加し、これを5回繰り返し、全量で4−クロロメチルピリジン塩酸塩9.8g(60mmol)、カリウムtert−ブトキシド10.2g(90mmol)を添加した。
【0031】
添加終了後、反応混合物をHPLC(条件1)で分析すると、4−クロロメチルピリジンおよび前記化合物(2−1)のピークが確認されたので、4−クロロメチルピリジンのピークおよび前記化合物(2−1)のピークが消失するまで、4−クロロメチルピリジン塩酸塩とカリウムtert−ブトキシドを10℃以下で添加した。追加した4−クロロメチルピリジン塩酸塩は2.0g(12mmol)、カリウムtert−ブトキシドは2.6g(24mmol)であった。反応混合物を固液分離し、ケークをDMF20mlで洗浄、ろ洗液からDMFを減圧下に留去した。
【0032】
この濃縮残液に酢酸エチル50mlを添加し、溶解液を水で洗浄後、溶媒を留去し、黄色結晶の前記化合物(2−2)を得た。該化合物の結晶をHPLC(条件1)で分析すると、前記化合物(2−2)の面積%は70.5%であった。得られた粗生成物5g(18mmol)をイソプロピルアルコール23.3gで再結晶を行い、白色結晶の前記化合物(2−2)2.7gを得た。(融点:98.6〜100.2℃、1H−NMR(CDCl3):δ1.75−1.79(4H,m,−(C22−)、δ3.53−3.57(4H,m,C2×2)、δ4.52(4H,s,C2×2)、δ7.23−7.27(4H,dd,J=0.8Hz,6.0Hz,arom×4)、δ8.55−8.57(4H,dd,J=1.6Hz,6.0Hz,arom×4)、MS(APCl):m/z=273[M+H]+
【0033】
[下記構造式の化合物(2)の合成:前記化合物(2−2)を4−クロロメチルピリジン塩酸塩から誘導したものに代え、反応条件を以下の通りにした他は合成例1と同様]

前記化合物(2−2)2.0g(7.34mmol)にオクチルブロマイド21.3g(110.3mmol)を加え、70〜80℃で53時間反応を行った。反応混合物をHPLC(条件2)で分析すると、前記化合物(2−2)のピークは消失していた。反応混合物からオクチルブロマイドを減圧下で留去し、油状の前記化合物(2)5.2g(粗収率:107.7%)を得た。得られたオイルをHPLC(条件2)で分析すると、化合物(2)のピークの面積%は81.3%であった。
【0034】
合成例3(前記化合物(3)の合成)

前記化合物(1−2)5.0g(18.36mmol)にデシルブロマイド40.6g(183.8mmol)を加え、70〜80℃で20時間反応を行った。
【0035】
反応混合物をHPLC(条件3)で分析すると、前記化合物(1−2)のピークは消失していた。反応混合物より上層のデシルブロマイド層を分離し、下層油状物をアセトニトリル−酢酸エチル=1:3(v/v)混液に注加した。混合物を冷却し、析出結晶を0℃でろ過、減圧乾燥を行い、灰白色結晶11.6g(粗収率(前記化合物(1−2)より):88.5%)を得た。該化合物の結晶をHPLC(条件1)で分析すると、前記化合物(3)の面積%は98.4%であった。融点およびNMR分析値は以下の通りであった。
(融点:76.8〜79.2℃、1H−NMR(CD3OD):δ0.9(6H,t,C3×2)、δ1.29〜1.40(28H,m,(C27×2)、δ1.77〜1.84(4H,m,C2×2)、δ2.00〜2.05(4H,t,C2×2)、δ3.69〜3.70(4H,t,C2×2)、δ4.64〜4.68(4H,t,C2×2)、δ4.77(4H,s,C2×2)、δ8.07〜8.11(2H,dd,J=,arom×2)、δ8.55〜8.57(2H,d,arom×2)、δ8.93〜8.94(2H,d,arom×2)、δ9.02(2H,s,arom×2)
【0036】
HPLC(条件3)
・カラム:Inertsil ODS-3(GL Sciences)4.6mmφ×250mm
・カラム温度:15℃付近の一定温度
・移動相:A−0.5%酢酸アンモニウム水溶液、B−アセトニトリル A:60%(5min保持)→(10min)→A:30%(30min保持)→A:60%
・流量:1.0ml/min
・検出器:UV254nm
・注入量:10μL
【0037】
合成例4(前記化合物(4)の合成)
合成例3におけるデシルブロマイドに代えて当モル量のドデシルブロマイドを用いた以外は合成例3と同様にして下記構造式で表される化合物(4)13.0g(粗収率:91.5%)を得た。得られた化合物(4)をHPLC(条件4)で分析すると、化合物(4)のピークの面積%は97.5%であった。また、融点およびNMR分析値は以下の通りであった。

【0038】
(融点:90.0〜91.4℃、1H−NMR(CD3OD):δ0.89(6H,t,C3×2)、δ1.26〜1.39(36H,m,(C29×2)、δ1.79〜1.82(4H,m,C2×2)、δ1.84〜2.05(4H,m,C2×2)、δ3.67〜3.70(4H,t,C2×2)、δ4.65〜4.68(4H,t,C2×2)、δ4.77(4H,s,C2×2)、δ8.07〜8.11(2H,dd,arom×2)、δ8.55〜8.57(2H,d,arom×2)、δ8.93〜8.94(2H,d,arom×2)、δ9.02(2H,s,arom×2)
【0039】
HPLC(条件4)
・カラム:CAPCELL PAK C18 SG120(資生堂)4.6mmφ×250mm
・カラム温度:15℃付近の一定温度
・移動相:A−0.1Mリン酸二水素カリウム(0.05%燐酸)水溶液、B−80%アセトニトリル水溶液 A:B=30:70
・流量:1.0ml/min
・検出器:UV254nm
・注入量:20μL
【実施例】
【0040】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
実施例1〜4
前記化合物(1)(実施例1)、前記化合物(2)(実施例2)、前記化合物(3)(実施例3)および前記化合物(4)(実施例4)をそれぞれ水を加えて溶解し、濃度0.1質量%の4種の木材保存用組成物とした。
【0041】
比較例1
ジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.02質量部と4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン0.2質量部とを調合容器に秤取り、これらを均一になるまでよく攪拌して混合液とした。この混合液に水を加えて全体を100質量部とし、そして、これを均一になるまでよく攪拌して木材保存用組成物とした。
【0042】
比較例2
ジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.4質量部と4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン0.01質量部とを調合容器に秤取り、これらを均一になるまでよく攪拌して混合液とした。この混合液に水を加えて全体を100質量部とし、そして、これを均一になるまでよく攪拌して木材保存用組成物とした。
【0043】
比較例3
調合容器に秤取ったジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.1質量部に水を加えて全体を100質量部とし、そして、これを均一になるまでよく攪拌して木材保存用組成物とした。
【0044】
比較例4
調合容器に秤取ったジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.2質量部に水を加えて全体を100質量部とし、そして、これを均一になるまでよく攪拌して木材保存用組成物とした。
【0045】
以上の実施例1〜4および比較例1〜4により得られた木材保存用組成物を次に示す「防カビ性能試験」および「防腐効力試験」により評価した。
【0046】
[I]防カビ性能試験
(1)試験材およびその試験方法
(イ)試験材
試験材として4×1×7cmのベイツガ乾燥材を用いた。
(ロ)試験薬剤
試験薬剤として前記実施例1〜4および比較例1〜4により得られた木材保存用組成物を用いた。
【0047】
(ハ)試験材の処理方法
真空デシケーター内に各試験薬剤毎に試験材を15枚入れ、これらに重しを載せて真空度750mmHgで1時間保持することにより、試験材内部の空気を除いた。この試験材を入れたデシケーター内に試験薬剤を導入して試験材を完全に試験薬剤に浸漬させ、この状態で試験材を6時間保持した後取り出した。取り出した試験材の中から、各試験薬剤の平均吸収量が450±50kg/m3になるように、試験材7枚を選び出した。この選び出した試験材を室内で2週間乾燥し、次に、これらの試験材にJIS−K−1571(1998)に規定されている耐候操作を行った。すなわち、試験材を各試験薬剤毎に試験材体積の10倍容の水道水に浸漬し、続いてこれらの試験材を60℃のオーブンに16時間放置して試験材より水分を揮散させた。これらの操作を各10回繰り返した後に試験材をカビ試験に供した。
【0048】
(ニ)カビ試験
試験材を底部に水を入れたデシケーター内に水に濡れないように納め、これらの試験材に混合胞子液を噴霧した後、該デシケーターを30℃の恒温器中に放置してカビの生育を促進させた。前記混合胞子液の調整には、Fusarium sp.、Rhizopus sp.、Penicillium sp.、Aspergillus sp.、Trichoderma sp.、Aureobasidium sp.およびCeratosystis sp.を用いた。
【0049】
(2)試験結果
各試験材毎にカビの発生状況を次に示す「カビ発生被害度と評価の目安」に基づいて評価し、各試験薬剤について平均被害度を求めた。
〈カビ発生被害度と評価の目安〉
0:試験材全面積の5%未満にカビが発生
1:試験材全面積の5%以上10%未満にカビが発生
2:試験材全面積の10%以上15%未満にカビが発生
3:試験材全面積の15%以上30%未満にカビが発生
4:試験材全面積の30%以上50%未満にカビが発生
5:試験材全面積の50%以上にカビが発生
試験結果は、次の表1に示す。
【0050】

【0051】
[II]防腐効力試験
(1)試験材およびその試験方法
(イ)試験材
試験材として2×0.5×4cmのスギ材およびブナ材を用いた。
(ロ)試験薬剤
試験薬剤として前記実施例1〜4および比較例1〜4により得られた木材保存用組成物を用いた。
【0052】
(ハ)試験材の処理方法
真空デシケーター内に各試験薬剤毎に試験材を15枚入れ、これらに重しを載せて真空度750mmHgで1時間保持することにより、試験材内部の空気を除いた。この内部の空気が除かれた試験材を入れたデシケーター内に試験薬剤を導入して、試験材を完全に試験薬剤に浸漬させ、この状態で試験材を6時間保持した後取り出した。取り出した試験材の中から、各試験薬剤の平均吸収量が、スギについては800±50kg/m3になるように、ブナについては650±50kg/m3になるように、試験材9枚を選び出した。これらの試験材を前記防カビ試験で行った耐候操作を行い、続いて、60℃のオーブンに48時間放置してその重量を測定し、前重とした。
【0053】
(ニ)腐朽試験
450ml容量のガラス瓶に土壌、鹿沼土およびバーミキュライトよりなる混合物300mlを充填し、これに水80mlを入れて培養基とした。この培養基中に試験薬剤処理した試験材を埋設し、30℃の恒温室内で1年間培養した。
【0054】
(2)試験結果
培養基から試験材を取り出し、これを水で洗浄した後60℃で48時間放置し、次に、その重量を測定して後重とした。そして、次式により質量減少率を計算した。
質量減少率(%)=((前重−後重)/前重)×100
試験結果は、次の表4に示す。
【0055】

以上のように本発明の木材保存用組成物は、従来の木材保存用組成物に比べて顕著な効果を有することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、低濃度で使用しても広範囲な種々のカビおよび腐朽菌に対して有効な木材保存用組成物を低コストで提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする木材保存用組成物。

(但し、上記一般式において、R1およびR4は、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐の同一または異なるアルキレン基であり、R2およびR5は、水素原子、同一または異なるハロゲン原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基であり、R3は、炭素数2〜12の直鎖若しくは分岐のアルキレン基であり、R6は、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、Zは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子若しくはOSO27基(R7は、低級アルキル基若しくは置換或いは無置換のフェニル基である)である。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、R1およびR4は、ピリジン環の3または4位置に結合しているメチレン基であり、R2およびR5は、水素原子であり、R3は、テトラメチレン基であり、R6は、オクチル基、デシル基およびドデシル基から選ばれる基であり、Zは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子若しくはOSO27基(R7は、低級アルキル基若しくは置換或いは無置換のフェニル基である)である請求項1に記載の木材保存用組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物は、下記式(1)〜(4)で表される少なくとも1種の化合物である請求項1に記載の木材保存用組成物。





【公開番号】特開2007−204412(P2007−204412A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24323(P2006−24323)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(595137941)タマ化学工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】