説明

木材防腐剤およびそれを用いる木材の処理方法

【課題】 安全性の高い有効成分を使用して、オオウズラタケ、カワラタケなどの木材腐朽菌に対する強力な防除効果するとともに、取扱い性および作業性に優れ、かつ、有効成分の残存性の高い木材防腐剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 人体中に含まれる、あるいは化粧品原料基準に収載されるといった、安全性の高いスクアレンおよびスクアランから選ばれた少なくとも一種を有効成分として含有する木材防腐剤により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木材防腐剤およびそれを用いる木材の処理方法に関する。さらに詳しくは、オオウズラタケ、カワラタケおよびナミダタケなどによる木材の腐朽を防止または抑制し、安全性に優れた木材防腐剤およびそれを用いる木材の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は軽量でありながら強度が大きいことや、加工のしやすさ、人体にやさしいなど、その優れた特質により様々な分野で重用されている。しかしながら、生物系材料であるために避けられない幾つかの欠点、すなわち燃え易い、狂い易い、腐り易い、虫に食われ易い、変色し易い、割れ易いなどの性質を併せもっている。これらの欠点、特に木材腐朽菌による腐朽や、シロアリなどによる虫害を防ぐことは、木材の供用期間の延長や木材製品の信頼性向上のために必要不可欠であり、これらの欠点が克服されれば、資源としての木材をより一層有効に利用でき、ひいては地球環境の保全に大きく寄与できる。
【0003】
このような点に鑑み、木材腐朽菌の防除薬剤、すなわち木材防腐剤として、フェノール系化合物、有機ハロゲン系化合物、有機錫系化合物、ナフテン酸系化合物およびタール系化合物などの有機系薬剤や、銅化合物、クロム化合物とヒ素化合物との混合物であるCCA薬剤、銅化合物と有機系薬剤との併用、ならびに第4級アンモニウム塩とホウ酸系化合物と水溶性アルカノールアミンと亜鉛イオン供給化合物とから構成される薬剤などが提案されている。
【0004】
上記の木材防腐剤の中で、有機系薬剤は効力の持続性および安全性に問題があり、また有害な元素や重金属を含有する薬剤は、環境規制に抵触する懸念があることからその使用が制限されたり、困難となってきていることから、高い安全性と効力持続性を兼ね備えた木材防腐剤の早期開発が望まれている。
【0005】
一方、スクアレンは、深海産のサメの肝油に多量に含まれる他、魚類の油、植物油中にも含まれており、人間の体内でも生産されて皮脂に含まれる、安全性の高い物質である(非特許文献1)。また、スクアレンに水素を付加して安定化されたスクアランは、化粧品原料基準に収載され、一般に溶剤として化粧品中に配合されており、皮膚への浸透性の向上や保湿効果が得られる。しかしながら、化粧品中で防腐成分としては適用されておらず、木材腐朽菌に対する抗菌活性を有することも知られていない。
【0006】
【非特許文献1】友田正司著、「植物薬品化学」、株式会社廣川書店、1988年2月15日第3版3刷発行、p.166
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、安全性の高い防腐有効成分を使用して、オオウズラタケ、カワラタケなどの木材腐朽菌に対する強力な防除効果を発揮するとともに、取扱い性および作業性に優れ、かつ、有効成分の残存性の高い木材防腐剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、人体中に含まれる、あるいは化粧品原料基準に収載されるといった、安全性の高いスクアレンおよびスクアランから選ばれた少なくとも一種が、意外にも顕著な木材防腐効果を有する事実を見出し、この発明を完成するに到った。
【0009】
かくしてこの発明によれば、スクアレンおよびスクアランから選ばれた少なくとも一種を有効成分とする木材防腐剤が提供される。
【0010】
また、この発明によれば、スクアレンおよびスクアランから選ばれた少なくとも一種を有効成分とする木材防腐剤で、木材を処理することを特徴とする木材の処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、オオウズラタケ、カワラタケおよびナミダタケなどの木材腐朽菌に対して強力な防除効果を発揮し、かつ安全性の高い木材防腐剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明で用いるスクアレンとしては、天然物からの抽出品、合成品を問わず、市販されているものを好適に用いることができる。また、アイザメ、ユメザメ、ヘラツミザメ、カスミザメなどのサメの肝油に多量のスクアレンが含有されていることから、これらの肝油を用いることもできる。
【0013】
また、この発明で用いるスクアランは、スクアレンに水素を添加した後、真空蒸留して得られる物質であり、主に化粧品原料として市販されているものを好適に用いることができる。
【0014】
この発明の木材防腐剤の剤型としては、使用目的により液剤(例えば水溶剤、水和剤(フロアブル製剤)、乳剤、油剤)、固型剤(例えば粉剤、粒剤)、エアゾール剤など種々の剤型が可能であるが、水溶剤、乳剤または油剤が好ましく、水溶剤が特に好ましい。また、上記いずれの製剤も公知の方法を利用して製剤化することができる。
以下に、この発明の木材防腐剤の製剤法について述べる。
【0015】
水溶剤とする場合には、通常、有効成分を有機溶媒に溶解したものを界面活性剤および水に加えて製剤化する。また、水溶剤を木材に塗布処理する場合には、必要に応じて水溶剤に被膜形成能を有する樹脂エマルションを添加してもよい。
【0016】
この発明の木材防腐剤を水溶剤とする場合に好適に用いられる有機溶媒を以下に例示する。
1)脂肪族炭化水素系
n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンなど
2)芳香族炭化水素系
キシレン、トルエン、エチルベンゼン、クメンなど
3)エステル系
酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸n−ブチル、酢酸アミルなど
4)アルコール系
イソブタノール、sec−ブタノール、2−エチル−1−ブタノール、イソペンタノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、ネオペンチルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(MDG)など
5)ケトン系
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノンなど
6)カーボネート
エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなど
上記の有機溶媒は、単独でまたは2種以上のものを組み合わせて用いることができる。
【0017】
水溶剤としては、アルコール系溶剤および/または界面活性剤を使用できるが、製剤の安定性の点でノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ソルビタン型、アルキルエーテル型およびアルキロールアミド型の界面活性剤などが挙げられる。
【0018】
樹脂エマルションとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル樹脂エマルション(樹脂固形分率40〜50%、平均分子量2,000〜100,000)、ポリ酢酸ビニル・エチレン共重合体樹脂エマルション(樹脂固形分率40〜50%、平均分子量2,000〜100,000)、ポリアクリル酸エステル樹脂エマルション(樹脂固形分率30〜40%、粘度100〜500cPs、平均分子量3,000〜50,000)が挙げられる。
【0019】
水溶剤は、通常、有効成分を例えばアルコール系溶媒に溶解したものを界面活性剤および水に加えて製剤化する。水溶剤は、製剤を100重量部としたとき、有効成分量が1〜40重量部、残部を有機溶媒と水と界面活性剤とするのが好ましい。これらの水溶剤は、使用時に水で所定の倍率、例えば1〜10倍に希釈して使用することもできる。
【0020】
また、水和剤(フロアブル製剤)は、製剤を100重量部としたとき、有効成分が1〜40重量部、乳化剤または増粘剤(例えばポリアクリル酸またはその塩、ポリビニルアルコール)が10〜40重量部程度とするのが好ましい。
【0021】
乳剤とする場合には、通常、有効成分を乳化のための乳化剤と混合し、これに有機溶媒と水を加えて製剤化する。また、乳剤を木材に塗布処理した場合の被膜形成のために、必要に応じて水溶剤で例示された樹脂エマルションを乳剤に添加してもよい。乳剤において、有効成分を溶解させる有機溶媒としては、疎水性有機溶媒が好適に用いられる。
【0022】
乳剤は、製剤を100重量部としたとき、有効成分量が1〜50重量部、残部を有機溶媒、水および界面活性剤、さらには樹脂エマルションとするのが好ましい。これらの乳剤は、使用時に水で所定の倍率、例えば1〜10倍に希釈して使用される。
【0023】
油剤とする場合には、水溶剤で例示された有機溶媒の他、灯油、重油、スピンドル油などの炭化水素溶媒を用いて製剤化する。油剤は、製剤を100重量部としたとき、有効成分量が1〜100重量部とするのが好ましい。
【0024】
粉剤とする場合には、通常、有効成分を固体希釈剤(例えばカオリン、クレー、ベントナイト、CMC、二酸化チタン、ホワイトカーボン、タルク、木粉、澱粉、デキストリン、シリカゲル粉末、水酸化カルシウムなどのカルシウム塩、無水石膏など)で希釈し、混合粉砕して製剤化する。
また、粒剤とする場合には、前記粉剤を成形して製剤化する。
粉剤および粒剤のような固型剤は、製剤を100重量部としたとき、有効成分量が1〜20重量部とするのが好ましい。
【0025】
エアゾール剤とする場合、有機溶媒としては、水溶剤で例示された有機溶媒を使用することができる。また、噴射剤としては、代替フロン、液化天然ガスを好適に用いることができる。使用時には、これを噴霧部と弁を備えた気密容器に加圧充填して用いる。
【0026】
この発明によれば、スクアレンおよびスクアランから選ばれた少なくとも一種を有効成分とする木材防腐剤で、木材を処理することを特徴とする木材の処理方法が提供される。具体的には、木材処理用の減圧・加圧可能な注入缶、薬液貯蔵・回収用タンクおよびこれらを接続する配管から構成される木材注入処理系内で、木材を常法により処理することからなる木材の処理方法が提供される。
木材の処理方法は、この減圧・加圧などの注入法のほかに、塗布、浸漬、噴霧などの通常の方法であってもよい。
【0027】
この方法で木材に注入されるべき処理剤中のスクアレンおよびスクアランから選ばれた少なくとも一種の量は、処理される木材の種類や用途、形状によっても左右されるが、通常、木材1m当たり、約1〜25kgである。そのためには処理液中の有効成分の濃度を0.01〜30%とすると都合がよい。
【0028】
この発明の木材防腐剤は、多くの既存の木材防腐・防蟻・防カビ剤と混合して使用することができる。混合できる木材防腐剤としては、例えばヒノキチオール(別名:β−ツヤプリシン)、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン、β−ドラブリン、ノートカチンなどのトロポロン系化合物、桂皮アルデヒドおよびその誘導体、直鎖アルデヒドおよびその誘導体、4−クロルフェニル−3−ヨードプロパギルフォルマール、3−エトキシカルビニルオキシ−1−ブロム−1,2−ヨードプロペン、3−ヨード−2−ユーピロベニルブチルカーバメートなどの有機ヨード系化合物類、ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛などのナフテン酸金属塩類、N−ニトロン−シクロヘキシルヒドロキシルアミンアルミニウムなどのヒドロキシルアミン系化合物類、モノクロルナフタリンなどのナフタリン系化合物類、N−メトキシ−N−シクロヘキシル−4−(2,5−ジメイルフラン)カルバリニドなどのアニリド系化合物類、N,N−ジメチル−N'−フェニル−N'(ジクロフルオロメチルチオ)スルファミドなどのハロアルキルチオ系化合物類、テトラクロルイソフタロニトリルなどのニトリル系化合物類、クレオソート油などのタール系化合物類、ジニトロフェノール、ジニトロクレゾール、クロロニトロフェノール、2,5−ジクロロ−4−ブロモフェノールなどのフェノール類、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート、N−アルキルベンジルメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩類、ホルマリン、グルタルアルデヒド、パラホルムアルデヒドなどのアルデヒド類、TBTO、トリブチルスズフタレートなどの有機スズ類、エタノール、イソプロパノール、プロパノールなどのアルコール類、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、またはそれらの金属塩などのイソチアゾロン系化合物類、その他パーメスリン、テブコナゾール、シプロコナゾール、プロピコナゾール、アザコナゾール、2−メルカプトベンゾチアゾールなどの有機化合物類、ヒ素化合物、五酸化二ヒ素、ヒ酸水素ナトリウム、ヒ酸、クロム化合物、三酸化クロム、二クロム酸カリウム、二クロム酸ナトリウム、二クロム酸アンモニウム、銅化合物、酸化第二銅、硫酸銅、硝酸銀、ふっ化ナトリウム、けいふっ化銅、けいふっ化亜鉛、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、酸化アンチモンなどの無機化合物類などが挙げられる。
【0029】
また、混合できる木材防蟻剤としては、例えばヒノキチオールなどのトロポロン系化合物、ヒバ油、中性ヒバ油などの精油、デカン酸などのアルキルカルボン酸誘導体、デカン酸などを含むヤシ油誘導体、ホキシム、クロルホピリス、ピリダフェンチオン、テトラクロルビンホス、フェニトロチオン、プロペンタンホスなどの有機リン系化合物類、ペルメトリン、トラロメスリン、アレスリンなどのピレスロイド系化合物類、シラフルオフェン、エントフェンブロックスなどのピレスロイド様化合物類、プロボクサル、バッサなどのカーバメート系化合物類、トリプロピルイソシアヌレートなどのトリアジン系化合物類、モノクロルナフタリンなどのナフタリン系化合物類、オクタクロロジプロピルエーテルなどの塩素化ジアルキルエーテル添加系化合物類、イミダクロプリドなどのクロルニコチニル化合物類などが挙げられる。
【0030】
また、この発明の木材防腐剤は、一般に建築用、土木工事用および紙・パルプなど工業製品製造用繊維原料用の木材を対象とするが、特に環境、種々の条件などにより木材腐朽菌が発生しやすいアカマツ、スギおよびブナなどに好適に用いることができる。
【0031】
この発明の木材防腐剤で処理された木材を、浸透性・造膜性を有する硬化型合成樹脂塗料でさらに全面塗装処理すれば、処理済みの木材を屋外で使用しても有効成分の揮発や溶脱が抑制され、防腐効果がより一層補強され、屋外での長期使用にも十分耐え得る性能を付与することができる。そのような硬化型合成樹脂塗料としては、例えばポリウレタン樹脂塗料などが挙げられる。
【実施例】
【0032】
この発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、これらの実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0033】
下記の有効成分、有機溶媒を混合、撹拌することにより木材防腐剤製剤を調製した。
製剤例1
スクアレン 15重量部
ジエチレングリコールモノメチルエーテル 85重量部
【0034】
試験は木材防腐剤の性能基準及び試験方法(JIS K 1571:1998)に準拠した(全て耐候操作あり)。供試菌株には農林水産省森林総合研究所(FFPRI)で分離した木材防腐剤防腐性能試験用標準菌より継代培養したカワラタケ(Trametes versicolor(L.:Fr.)Pilat FFPRI 1030、以下「COV」と略す。)を使用した。 供試薬剤および試験結果を表1に示す。
【0035】
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクアレンおよびスクアランから選ばれた少なくとも一種を有効成分として含有する木材防腐剤。
【請求項2】
請求項1に記載の木材防腐剤で、木材を処理することを特徴とする木材の処理方法。

【公開番号】特開2006−8573(P2006−8573A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187121(P2004−187121)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Fターム(参考)】