説明

木目模様印刷方法およびそれによる印刷体

【課題】 天然銘木の木目模様を安価に高忠実をもって印刷する木目模様印刷方法および印刷体
【解決手段】 なくとも印刷表面が比較的安価な木材であり、該木材は所定の表面粗さを有し、該所定の表面粗さを有する表面に、所要の浸透性を有する印刷インキにより天然銘木の木目模様の印刷を施す第1工程と、該木目模様の印刷面を自然または加熱により緩乾燥させる第2工程と、該印刷面が生乾燥状態において前記印刷面の極薄い表面層をポリッシングする第3工程と、その後乾燥定着させる第4工程よりなり、前記安価な木材の木質と該木質の細胞組織内に浸透された木目模様の印刷模様とにより忠実度の高い木目模様印刷方法およびそれによる印刷体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、木目模様印刷方法およびそれによる印刷体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
旧来より高級な木目乃至木目をモディファイした材料を用いた家具や調度品は数多くみられる。このため高級感を与えるためには、その木目の美しさから天然銘木のムク板や、銘木ツキ板を貼った天然木化粧合板を使用するケースが多くなっている。
しかしながら、特に、近年は自動車の内装品、特にハンドルやダッシュボード等に高級な木目乃至木目をモディファイしたものにより高級感を与えようとする傾向が強くでてきており、その量的にも外国の輸出規制などにより天然銘木そのものの供給が需要を満たし得なくなってきており、また、コスト的にも天然銘木の価格も高く、コストに厳しい車両用材料としては必ずしもマッチしていない。
【0003】
上記の事情に対し、比較的価格も安く、量産性も有する、いわゆるプラスチックや合板に高級木目の印刷を施した化粧紙を添付するとか、表面に木目印刷そのものを施した化粧板等が市販されている。
しかしながら、これら化粧板は、その印刷模様の印刷表面状態が、天然ムク木の如き高級感のあるものとは、比較にならないものであった。
この対策として、表面にエンボス凹凸模様を併用したり、さらにエンボス模様の凹部にワイピングインキによる着色を加味したりして、これを補足しようとする試みもされている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−193051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の内、表面に直接乃至間接的に木目印刷そのものを施した木製の化粧板については、木目外観ばかりでなく感触も優れる良さもあり、市場の要求も強いものがある。
しかしながら、表面にエンボス凹凸模様を併用したり、さらにはエンボス模様の凹部にワイピングインキによる着色を加味したりするのは、工程的に複雑であり比較的にコストアップになる嫌いがある。
従って、比較的安価で、且つ天然銘木の高級感を出し得る材料が強く望まれる市場要求に対して、上記に鑑み、量産性を具備し、且つ天然銘木の高級外観と感触を出し得る木目模様印刷方法およびそれによる印刷体を提供することを本願発明の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の木目模様印刷方法は、
1)少なくとも印刷表面が比較的安価な木材であり、該木材は所定の表面アラサを有し、該所定の表面アラサを有する表面に、所要の浸透性を有する印刷インキにより天然銘木の木目模様の印刷を施す第1工程と、該木目模様の印刷面を自然または加熱により緩乾燥させる第2工程と、該印刷面が生乾燥状態において前記印刷面の極薄い表面層をポリッシング(Polishing)する第3工程と、その後乾燥定着させる第4工程よりなり、前記安価な木材の木質と該木質の細胞内に浸透された木目模様の印刷模様とにより、該印刷表面を天然銘木の実ムク板表面の感触に類似させたものでる。
【0006】
2)上述1)において、前記所定の表面アラサが0.4S〜6.3Sであり、前記所要の浸透性を有する印刷インキが、粘度0.1〜30Pを有する印刷インキであり、
3)上述1)または2)において、前記所要の浸透性を有する印刷インキを、粘度0.1〜5Pの印刷インキとしたものであり、
4)上述1)〜3)において、前記印刷インキを、実用的尺度として通常の平版オフセット用インキの粘度の1/10〜1/50倍の粘度を有する印刷インキとしたものであり、
5)上述1)〜4)において、前記比較的安価な木材を、杉、桜、松、楢、樺、ラワン、かえで、メープル材より選ばれた中密度組織を有する木材のツキ板材またはムク板材としたものであり、
6)上述1)〜5)において、前記天然銘木の木目模様の印刷は、該天然銘木の木目模様の木目方向が略被印刷面の木目方向に沿われているものであり、
7)上述1)〜6)において、前記ポリッシングによる表面ポリッシング量を3μm以下としたものである。
【0007】
また、本発明の印刷体は、
8)上述1)乃至6)のいずれかに記載の木目模様印刷法により印刷された印刷体であり、
9)上述8)に記載の印刷体を、自動車用の内装部材またはハンドルとしたものであり、
10)上述8)に記載の印刷体を、家具、調度品または一般建築木材(例えば、天井板、柱等)としたものである。
【0008】
本発明は、被印刷体を少なくとも印刷される面が天然木質としたものであり、該天然木質の触感を損じることなく、外観のみを銘木の木目模様とした高級感を与えるところに特徴を有している。
しかも前記天然木質を比較的安価な木材を使用するものであり、比較的安価な木材における樹木細胞の大きさと印刷インキとの相互関係から該木細胞内に、平面的な横への拡散を成る可く少なく深さ方向に十分に印刷インキを浸透させ、且つ印刷表面を天然木目の印象に如何に近づけるかを目的とした解決手法を特徴としている。
【0009】
すなわち、解決手法として、(a)少なくとも被印刷面が安価で適度の細胞組織(中密度程度の組織)、適正な表面アラサを有する被印刷面であること、(b)印刷インキが、適度の浸透性、粘度を有する印刷インキであること、(c)印刷木目模様の木目と被印刷材の木目が適正な方向性を有すること、(d)印刷表面層に対するポリッシング条件が適正なものであること、の各要素を如何に組み合わせるかにより、その適正条件を求め、天然銘木の高級感である感触および外観を出すものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の少なくとも印刷表面が比較的安価な木材であり、該木材は所定の表面アラサを有し、該所定の表面アラサを有する表面に、所要の浸透性を有する印刷インキにより天然銘木の木目模様の印刷を施し、該木目模様の印刷面を自然または加熱により緩乾燥させ、該印刷面が生乾燥状態において前記印刷面の極薄い表面層をポリッシングし、その後乾燥定着させる各工程により、前記安価な木材の木質と該木質の細胞内に浸透される銘木木目模様を定着印刷することを可能とし、比較的安価で、且つ天然銘木の高級感を出し得る材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1
図1は、本発明の木目模様印刷方法を流れ図として示す説明図である。
図1において、OP1は印刷工程、OP2は緩乾燥工程、OP3はポリッシング工程、OP4は乾燥定着工程である。
前記のごとく、本発明の被印刷表面の対象は、世界的にも入手し易い比較的安価な木材表面である。すなわち、これらの木材は平均的に細胞組織が粗く、密度も中程度(約0.4〜0.6)以下のものである。
被印刷表面の木目は、まさ目(柾目)、板目のいずれでもよいが、深さ方向の浸透や横方向の拡散を少なくする意味では、柾目がより好ましい。また印刷模様の木目の方向を被印刷表面の木目方向に沿わせることが重要である。
木目方向を異にすると被印刷面の木目を完全に被覆カバーするために、より濃度の濃い印刷インキを使用することを必要とし、これにより印刷インキの被印刷面への十分な浸透性を期待できなくなり、印刷インキの定着性を損なうばかりでなく、より良いポリッシングによる天然木目感触を出す効果も望めなくなる。
【0012】
前記被印刷面の材質を限定することと相俟って、使用する印刷インキの好ましい性状を決定する。印刷インキの浸透度(浸透深さ)は、主として印刷インキを構成するビヒクルに影響され、概ねインキの粘度をもって代替えスケールとすることができる。
また、浸透度は、被印刷面のインキ受容性に関係し、被印刷面の表面アラサ、細胞組織が、それの大きな要因となる。
また、後述の、印刷模様を如何に外観的に天然銘木の木目模様に見なさせるための、ポリッシング工程による効果にも、上述の被印刷面の表面アラサ、細胞組織は重要なファクターとなる。
被印刷体の木質の細胞組織は、硬度の硬い緻密組織材でなく、比較的に中密度の組織を有する材料が好ましい。また、桐のごとく軟質過ぎるものでは、なかなか高級銘木の感触を出し得ない。 杉、桜、松、楢、樺、ラワン、かえで、メープル材の中密度の材質より選択されることが好ましい。
【0013】
図2は、本実施の形態1に係る被印刷面の表面アラサに対する印刷インキの浸透度を測定した試験結果を示す図である。
被印刷材に杉の柾目ツキ板材(50mm×100mm×5(t)mm)を用い、使用印刷インキにフレキソ印刷インキ(粘度:約5P)を用い銘木木目模様の印刷を施した。
この場合、被印刷材の印刷面の表面アラサHをJIS規格の0.2、0.4、1.2、6.3、12.5、25Sの無方向性面に作成し、該表面アラサに対する乾燥定着後の浸透深さおよび印刷模様状態を比較測定した。浸透深さは断面により、印刷模様状態は目視により測定した。
【0014】
図2より、表面アラサが微細になると、或るアラサ(0.4S)を境に浸透深さが急激に少なくなり、また、アラサが6.3Sを越えると横への拡散も増加して印刷模様がにじみ、好ましくないことがわかった。従って、被印刷材の表面アラサHは、0.4S〜6.3Sが好ましい。
【0015】
実施の形態2
図3は、本実施の形態2に係る使用印刷インキの粘度に対する印刷インキの浸透度を測定した結果を示す図である。
被印刷体は、上記実施の形態1と同様の杉の柾目ツキ板材(表面アラサ約3.2S)を用い、粘度の異なる印刷インキを用い、乾燥定着後の浸透度(浸透深さ)および印刷模様精度状態を比較測定した。
印刷インキには、粘度によりグラビアインキ、凸版印刷インキを用いた。また、浸透深さは断面により、印刷模様状態は目視により測定した。
【0016】
図3より明らかなように、インキ粘度が30P以上では浸透深さは望めない、また、低粘度0.1P以下では、被印刷体の木目模様が明確に残存しており好ましくない。従って、インキ粘度は0.1乃至10P程度が好ましいことがわかった。
なお、実用的尺度として前記印刷インキを、ポアズ単位粘度に替え、通常の平版オフセット用とし使用される印刷インキの粘度の1/10〜1/50倍の粘度を目安とする印刷インキとすることにより、実作業の簡便を図ることができる。
【0017】
実施の形態3
図4は、本実施の形態3に係るポリッシングの印刷模様に及ぼす影響を比較測定した結果の図である。(a)は被印刷体の印刷前の表面状態を示す図、(b)は印刷後ポリッシング無しの表面状態を示す図、(c)は印刷後適正なポリッシングを施した場合の表面状態を示す図、(d)は過度のポリッシングを施した場合の表面状態を示す図、である。
被印刷体には、楢の板目ツキ板材(表面アラサ約3.2S)を用い、印刷インキとしてグラビアインキ(1P相当)を用いて、銘木板目模様(ケヤキの玉杢(たまもく)模様)を印刷した。
各表面模様の状態は目視により比較測定した。
【0018】
図4より、被印刷表面は(a)のごとく節部の点在する粗い板目を呈している。表面アラサは3.2Sであった。
これに玉杢(たまもく)模様を印刷した後ポリッシングを施さない表面状態(b)においては、玉杢(たまもく)模様は明確に印刷されており、下地模様は認められない。しかしながら、印刷面は印刷面光沢が如何にも印刷そのものであることを示す状態であり、感触、外観ともに天然玉杢(たまもく)を意識させるには不十分であった。
(b)の表面を、フエルト布により軽加重でこすり、ポリッシングを施した。図(c)は、該ポリッシングされた面を示す。これにより前記印刷表面は極めて微量約2μm程度ポリッシングされ、印刷面は一見天然玉杢(たまもく)の如き外観を呈しており、下地模様も認められない。
この面を更に、加重を増してポリッシング加工を施した。ポリッシング量約10μm程度を越すと、天然玉杢(たまもく)模様が若干不鮮明となると共に下地の模様が浮き出て認められるようになり好ましくない。
従って、印刷による木目模様は、適度のポリッシングを施すことにより、天然木目様の外観を付与されることがわかった。ポリッシング量は被印刷面の印刷前アラサの1/3程度、本実施の形態3においては約1μm以下程度のポリッシング量が好ましい。
なお、ポリッシングに使用する布(ポリッシャー)は、本実施の形態3においてはフエルト布を使用しているが、被印刷材、表面アラサ、印刷インキ性状等によっては、ポリエステル繊維等の合成繊維布、綿布、麻布、ウレタン発泡成形品、更には加工性の良いメラミンフォーム発泡成形材等を使用することが望ましい。
【実施例1】
【0019】
本発明の実施例1として、自動車用ハンドル環を用い木目模様印刷を施した。
被印刷体:自動車用ハンドル環
D×d; 300mm×30mmφ
ラワン天然ムク板材(表面アラサ約3.2S)
木目印刷:
パッド方式曲面印刷法による黒檀板目模様印刷(半円弧印刷)
使用インキ パッド用印刷インキ 粘度10P
緩乾燥条件:温風乾燥(30℃、3min)
ポリシング:フエルト布により軽加重にて10往復
定着乾燥:UV乾燥(80℃、3min)
【0020】
上記条件による施工後の状態は、複数人の目視による観察の結果、若干の印刷むらが認められる外は、下地模様の露出もなく完全に黒檀板目模様が印刷されており、また印刷面は、天然黒檀の地肌感が保持されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本願発明の木目模様印刷方法は、対象が自動車用の内装部材またはハンドルや家具または調度品に限られるものではなく、一般的な建築用木材、例えば天井板、柱等の用途にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の木目模様印刷方法を流れ図として示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る被印刷面の表面アラサに対する印刷インキの浸透度を測定した試験結果を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る使用印刷インキの粘度に対する印刷インキの浸透度を測定した結果を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係るポリッシングの印刷模様に及ぼす影響を比較測定した図を示す。(a)は被印刷体の印刷前の表面状態を示す図(b)は印刷後ポリッシング無しの表面状態を示す図、(c)は印刷後適正なポリッシングを施した場合の表面状態を示す図、(d)は過度のポリッシングを施した場合の表面状態を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
OP1 印刷工程
OP2 緩乾燥工程
OP3 ポリッシング工程
OP4 乾燥定着工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも印刷表面が比較的安価な木材であり、該木材は所定の表面粗さを有し、該所定の表面粗さを有する表面に、所要の浸透性を有する印刷インキにより天然銘木の木目模様の印刷を施す第1工程と、該木目模様の印刷面を自然または加熱により緩乾燥させる第2工程と、該印刷面が生乾燥状態において前記印刷面の極薄い表面層をポリッシングする第3工程と、その後乾燥定着させる第4工程よりなり、前記安価な木材の木質と該木質の細胞組織内に浸透された木目模様の印刷模様とにより、該印刷表面を天然銘木の実ムク板表面の感触に類似させたことを特徴とする木目模様印刷方法。
【請求項2】
前記所定の表面粗さが0.4S〜6.3Sであり、前記所要の浸透性を有する印刷インキが、粘度0.1〜30Pを有する印刷インキであることを特徴とする請求項1に記載の木目模様印刷方法。
【請求項3】
前記所要の浸透性を有する印刷インキが、粘度0.1〜5Pの印刷インキであることを特徴とする請求項1または2に記載の木目模様印刷方法。
【請求項4】
前記印刷インキが、実用的尺度として通常の平版オフセット用インキの粘度の1/10〜1/50倍の粘度を有することを特徴とする請求項1乃3いずれか1項に記載の木目模様印刷方法。
【請求項5】
前記比較的安価な木材が、杉、桜、松、楢、樺、ラワン、かえで、メープル材より選ばれた中密度組織を有する木材のツキ板材またはムク板材であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の木目模様印刷方法。
【請求項6】
前記天然銘木の木目模様の印刷は、該天然銘木の木目模様の木目方向が略被印刷面の木目方向に沿われていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の木目模様印刷方法。
【請求項7】
前記ポリッシングによる表面ポリッシング量が3μm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の木目模様印刷方法。
【請求項8】
前記請求項1乃至7のいずれか1項に記載の木目模様印刷方法により印刷された印刷体。
【請求項9】
前記請求項8に記載の印刷体が、自動車用の内装部材またはハンドルであることを特徴とする印刷体。
【請求項10】
前記請求項8に記載の印刷体が、家具、調度品、または一般建築用木材であることを特徴とする印刷体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−289842(P2006−289842A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115286(P2005−115286)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000145378)株式会社秀峰 (32)
【Fターム(参考)】