木製部材補強用の高強力繊維線材およびそれを用いた木製部材の接合構造
【課題】高強力繊維糸の優れた引張強度を発揮させることができ、曲げに対する強度を向上させることができる木製部材補強用の高強力繊維線材およびそれを用いた木製部材の接合構造を提供する。
【解決手段】木製部材補強用の高強力繊維線材1は、高強力繊維糸4を、繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた高強力繊維束5による芯線2と、芯線2の周囲面を他の木製部材との接着剤による接着面として露出させた状態で、芯線2の周囲を巻き回して結束する拘束材3とを備えている。拘束材3aは、芯線2を外周囲面から高強力繊維糸4がばらばらにならないように結束するもので、目の粗い組紐(丸打)としたり、目を粗く丸編したりすることができる。拘束材3aとしては、柔軟なものが好ましく、ポリエステル、ナイロン、ビニロン等の合成繊維や、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、絹、羊毛、麻、綿などの天然繊維が使用できる。
【解決手段】木製部材補強用の高強力繊維線材1は、高強力繊維糸4を、繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた高強力繊維束5による芯線2と、芯線2の周囲面を他の木製部材との接着剤による接着面として露出させた状態で、芯線2の周囲を巻き回して結束する拘束材3とを備えている。拘束材3aは、芯線2を外周囲面から高強力繊維糸4がばらばらにならないように結束するもので、目の粗い組紐(丸打)としたり、目を粗く丸編したりすることができる。拘束材3aとしては、柔軟なものが好ましく、ポリエステル、ナイロン、ビニロン等の合成繊維や、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、絹、羊毛、麻、綿などの天然繊維が使用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維束による芯線により形成された木製部材補強用の高強力繊維線材およびそれを用いた木製部材の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から様々なものが、引張強度を向上させたり、曲げに対する強度を向上させたりする補強材として用いられているが、特に、炭素繊維糸は優れた引張強度を有しているため、適用範囲が広がっていくものと思われる。
【0003】
しかしながら、炭素繊維糸は、飛行機の構造体や釣竿、テニスラケットなどの一部を除き、ほとんどが実用化されておらず活用されているとは言えない。その理由の一つとしては、炭素繊維糸は6000本や12000本、24000本を束ねた炭素繊維束として、6Kや12K、24Kなどと称されて製造され、出荷されているが、サイジング剤や収束剤と称される薬剤にて軽度な拘束力で結束されているだけでは、少しの衝撃や振動で炭素繊維束が解けたり、炭素繊維糸が折れたりしてしまい、扱い難い面があるからである。
そのため、従来では、6Kや12K、24Kなどの炭素繊維束は、織物として用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−284343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
用途によっては、炭素繊維糸は織物の状態で用いることができるものもあるが、織物の状態では、引っ張られたときに、炭素繊維糸同士の交絡点にて剪断力がかかるため、十分な強度が得られない。
そこで、炭素繊維糸の繊維方向を合わせて束ねた炭素繊維束の周囲面全体を他の繊維で覆った後、接着剤で固めて一体化して、弱い部分となる炭素繊維糸同士の交絡点のない炭素繊維線材とすることで、強度を向上させることが考えられる。
【0006】
しかし、このような炭素繊維線材を、集成材を構成するラミナ間に挟み込み、固定用の接着剤で固定した木製品として曲げに対する強度を測定すると、炭素繊維束と、その周囲面全体を覆った他の繊維との界面、または他の繊維とラミナ間に挟み込まれた接着剤との界面で引張力に耐え切れず剥離が生じてしまい、集成材と炭素繊維束とが接着していない状態となってしまう。その結果、木製品の曲げに対する強度は、期待したほどの強度の向上が得られない。
【0007】
このような問題は、炭素繊維糸だけに限らず、バサルト繊維糸やアラミド繊維糸などの高強力繊維と称される繊維を、繊維方向を合わせて束ねて高強力繊維束とし、この高強力繊維束の周囲面全体を他の繊維で覆って高強力繊維線材としても、同様である。従って、高強力繊維糸の優れた特徴を有効に活かすことができる技術が望まれている。
【0008】
そこで本発明は、高強力繊維糸の優れた引張強度を発揮させることができ、曲げに対する強度を向上させることができる木製部材補強用の高強力繊維線材およびそれを用いた木製部材の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の木製部材補強用の高強力繊維線材は、高強力繊維糸を、繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた芯線と、前記芯線の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面として露出させた状態で、前記芯線の周囲を巻き回して結束する拘束材とを備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の木製部材補強用の高強力繊維線材によれば、芯線が、高強力繊維糸の繊維方向を合わせ交絡させずに束ねたものであるため、弱い部分となる高強力繊維糸同士の交絡点が存在しないので、高い耐力を発揮させることができる。また、拘束材が、芯線の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面として露出させた状態で芯線の周囲を巻き回すことで芯線を結束しているので、露出した芯線の接着面を他の木製部材の接着面に固定用接着剤を介在させて接着させた状態とすることができる。従って、曲げるような力が加わったときに、拘束材だけが他の木製部材に接着した状態で芯線から剥離してしまったり、拘束材が芯線と接着した状態で木製部材から剥離してしまったりすることが軽減されるので、曲げに対する強度を向上させることができる。
【0011】
前記拘束材は、前記高強力繊維糸以外の繊維であって、前記高強力繊維糸より耐剪断性の高い繊維により形成されているのが望ましい。拘束材を芯線の周囲に巻き回して芯線を結束させていても、高強力繊維糸より剪断力が高いので切れ難い。また、芯線自体がばらばらになることを防止することができる。なお、ここでいう拘束材に用いる高強力繊維糸以外の繊維とは、芯線で使用されている高強力繊維糸よりも耐剪断性の高いものであればよく、そのような性能のものであれば拘束材として高強力繊維糸を用いてもよい。
【0012】
前記拘束材は、前記芯線を中心として、組紐状または編紐状に編まれたものとするのが望ましい。そうすることで、露出させた芯線の周囲面を接着面として確保した状態で、芯線に拘束材を巻き回して芯線を結束することができる。
【0013】
前記拘束材および前記芯線は、その周囲面が固化剤により硬化しているのが望ましい。そうすることで芯線と共に拘束材を一体化させることができるので、芯線自体がばらばらになってしまうことを、より一層防止することができる。また、高強力繊維線材全体の形状維持性が向上するため、高強力繊維線材を孔に挿入する場合に、作業性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の木製部材補強用の高強力繊維線材は、高強力繊維糸を、繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた芯線の周囲面に、固化剤を含浸させて硬化させることで、前記高強力繊維糸を結束させ、前記芯線の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面としたことを特徴とすることができる。
【0015】
この発明によれば、芯線が、高強力繊維糸の繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた高強力繊維束によるものであるため、弱い部分となる高強力繊維糸同士の交絡点が存在しないので、高い耐力を発揮させることができる。また、芯線の周囲面が固化剤を含浸させて硬化されており、芯線を結束する拘束材として別繊維などで被覆されていないので、芯線の周囲面を接着面として固定用接着剤を介在させて他の木製部材に接着させた状態とすることができる。従って、曲げるような力が加わったときに、拘束材が他の木製部材に接着した状態で芯線から剥離したり、拘束材が芯線と接着した状態で木製部材から剥離したりすることが軽減されるので、曲げに対する強度を向上させることができる。
【0016】
本発明の木部材の接合構造は、本発明の木製部材補強用の高強力繊維線材を補強材として、固定用接着剤と共に、第1の木製部材と第2の木製部材との間に介在させて、前記第1の木製部材と第2の木製部材とが接合されていることを特徴とする。
本発明の木部材の接合構造では、第1の木製部材と第2の木製部材との間に、本発明の木製部材補強用の高強力繊維線材を補強材として固定用接着剤と共に介在させているので、第1の木製部材と第2の木製部材との引張強度や曲げに対する強度を向上させるこができる。
【0017】
前記固定用接着剤としては、レゾルシノール樹脂、フェノールレゾルシノール樹脂、フェノール樹脂、α−オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、水性高分子−イソシアネート系樹脂等が適宜使用できるが、レゾルシノール樹脂またはフェノール変性レゾルシノール樹脂を主成分としたものとするのが望ましい。レゾルシノール樹脂またはフェノール変性レゾルシノール樹脂は、木製部材および高強力繊維糸と親和性が高いので、より接着性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、芯線が木製部材に強固に接着することで、芯線と拘束材との耐剥離性を向上させることができるので、高強力繊維糸の優れた引張強度を発揮させることができると共に、集成材等の木製部材の曲げに対する強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1に係る高強力繊維線材を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1の高強力繊維線材の第1変形例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1の高強力繊維線材の第2変形例を示す図である。
【図4】(A)〜(C)は図1〜図3に示す高強力繊維線材の芯線を結束材と共に固化剤により結束した状態を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る高強力繊維線材を示す図である。
【図6】図1〜図5に示す高強力繊維線材の製造方法を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る木製部材の接合構造を説明するための図であり、図1から図5に示す高強力繊維線材を補強材としてラミナ同士を貼り合わせた接合構造を有する集成材の一例を示す斜視図である。
【図8】図7に示す集成材の分解斜視図である。
【図9】ラミナを切削した溝形状を説明するための図であり、(A)は溝の断面が円弧状である場合を示す図、(B)は矩形状である場合を示す図である。
【図10】図7に示す集成材の製造方法の各工程を説明するためのフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態4に係る木製部材の接合構造を説明するための図であり、図1から図5に示す高強力繊維線材を補強材としてラミナ同士を貼り合わせた接合構造を有する棒状部材の一例を示す斜視図である。
【図12】実施例として作製された炭素繊維線材を示す写真である
【図13】図11に示す木製部材の接合構造の変形例を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態5に係る木製部材の接合構造を説明するための図であり、図1から図5に示す高強力繊維線材を補強材として木製部材を貼り合わせた接合構造を有する棒状部材の一例を示す斜視図である。
【図15】図14に示す棒状部材の分解斜視図である。
【図16】図14および図15に示す集成材の製造方法の各工程を説明するためのフローチャートである。
【図17】本発明の実施の形態6に係る木製部材の接合構造を説明するための図であり、図1から図5に示す高強力繊維線材を補強材として梁と柱とを接合した接合構造を有する接合部を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[木製部材補強用の高強力繊維線材]
(実施の形態1)
本発明の実施の形態に係る木製部材補強用の高強力繊維線材(以下、単に高強力繊維線材と略す。)を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、高強力繊維線材1aは、芯線2と、拘束材3aとにより構成されている。
芯線2は、高強力繊維糸4を、繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた高強力繊維束5により形成されている。
高強力繊維糸4は、スーパー繊維とも称される繊維が使用できる。高強力繊維糸4としては、例えば、炭素繊維、バサルト繊維、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維、ポリビニルアルコール(PVA繊維)などが使用できる。
【0021】
高強力繊維束5は、上記高強力繊維糸を単体で用いたり、複数を混合させたり、その他有機繊維からなる糸をその強度や曲げ性が損なわれない範囲で混合したりしたものでもよい。高強力繊維束5は、通常、高強力繊維糸4を数千本から数万本束ねてなる断面が円形状または扁平状の糸状体である。なお、この高強力繊維束5を構成する高強力繊維糸4は、特に、炭素繊維糸やバサルト繊維糸であれば、撚りがあると引張強度が低下するので、高強力繊維糸(フィラメント)に撚りを掛けず、また高強力繊維束全体にも撚りを掛けていないことで、実質的に無撚糸と同等の状態としたものである。撚りが掛かっていない高強力繊維糸や高強力繊維束を得るためには、紡糸の段階より高強力繊維糸に撚りが掛からないよう引き揃えたもの等を用いる。
なお、芯線2を構成する高強力繊維束5は、芯線2の周囲面が接着面として機能することを阻害しない程度にサイジング剤や集束剤を含浸させてもよい。
【0022】
高強力繊維糸4が炭素繊維糸であれば、PAN系、ピッチ系のいずれの炭素繊維糸も使用できる。この中でも、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維糸が好ましい。
また、この炭素繊維糸を束ねた炭素繊維束は、炭素繊維メーカーから供給される炭素繊維糸6000本(6K)、12000本(12K)、24000本(24K)を、必要とされる強度に応じて1本、または複数本束ねたものを用いることができる。
【0023】
拘束材3aは、芯線2の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面として露出させた状態で芯線2を周囲面から高強力繊維糸4がばらばらにならないように結束するものである。
本実施の形態1では、芯線2の周囲面に、拘束材3aとなる繊維を巻き回して、目の粗い筒状の組紐(丸打)を組むことで、組紐状の拘束材3aを形成している。また、拘束材としては、図2に示すように、芯線2の周囲面に拘束材3bとなる繊維を巻き回して目の粗い筒状の丸編を編むことで、編紐状の拘束材3bとすることもできる。
拘束材3a,3bとしては、柔軟なものが好ましく、ポリエステル、ナイロン、ビニロン等の合成繊維や、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、絹、羊毛、麻、綿などの天然繊維が使用できる。
拘束材3aは、芯線2の長さ方向に対して0.5mm〜30cmのピッチで交差させるとよく、特に、1cmから10cmがより好ましい。
【0024】
ここで、拘束材が芯線2を被覆する割合について説明する。
芯線2の被覆率は、高強力繊維線材の周囲面全体の面積に対する拘束材が占める面積の割合である。被覆率は、拘束材が芯線2の周囲面に一様に配置されたものであるときには、高強力繊維線材を側方から撮像し、撮像された画像から高強力繊維線材全体の面積と、拘束材が占める面積とを測定して、次式に従って演算することで算出することができる。
被覆率(%)=(拘束材が占める面積)/(高強力繊維線材全体の面積)×100
【0025】
このように算出される被覆率は、少ない方が、固定用接着剤が芯線2の周囲面に接着して接着面として機能する面積が広くなるため望ましい。特に、高強力繊維線材1aを用いて集成材同士の接着強度を向上させるとの観点からは70%以下である。より好ましくは50%以下、更に好ましくは30%以下である。被覆率の下限は、芯線2を構成する高強力繊維糸4がばらばらにならず、紐状または棒状が維持できる最も低い値とすることができる。
【0026】
この高強力繊維線材1aは、以下のようにして製造することができる。
必要本数の高強力繊維束5をクリールから引き出し、それらを束ねて芯線2とする。この芯線2を製紐機の中央に通す。そして、製紐機により芯線2の周囲面に拘束材3aにより目の粗い組物を形成する。そうすることで、組紐状の拘束材3aが芯線2の周囲面に形成されて、芯線2がばらばらにならないように結束され、長尺状の高強力繊維線材1aとなり、ドラムなどに巻き取ることができる。高強力繊維線材1aは柔軟な芯線2を拘束材3aで結束しただけなので、ドラム等に容易に巻き付けることができる。従って、移動や保管が容易である。
【0027】
なお、拘束材を編紐状とするときには、芯線2を丸編機の中央に通して芯線2の周囲面に編物を形成することで、図2に示すような拘束材3bとすることが可能である。
【0028】
また、高強力繊維線材は、拘束材を編紐状または組紐状とする以外に、高強力繊維糸4がばらばらにならないように結束できればよいので、図3に示すように、高強力繊維線材1cの芯線2を結束するための拘束材として、所定間隔ごとに配置されたゴム輪や拘束材3a,3bで挙げられている繊維等を所定間隔に配置した拘束材3cとすることもできる。
【0029】
図1から図3に示す芯線2においては、サイジング剤や集束剤を含浸させて結束することの他に、図4(A)から同図(C)に示すように、高強力繊維糸4をより強固に結束するために、拘束材3a〜3cにより結束した芯線2に固化剤を含浸させ、拘束材3a〜3cと共に芯線2を硬化させることもできる。そうすることで、芯線2および拘束材3a〜3cを強固に一体化させ棒状体とすることができる。この場合には、高強力繊維線材1d〜1fを数cm〜数m程度の長さに切断した状態で移動、保管を行うことができる。芯線2を強固に一体化させた高強力繊維線材1d〜1fであれば、木製品を製造するときの補強材として使用する場合、狭い溝に配置するときや奥行きの深い穴などに挿入するときなどに、型崩れしないため容易に配置することができる。
【0030】
使用できる固化剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよいが、可変性を持たせるためには、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。また、固定用接着剤および高強力繊維糸と親和性の高い固化剤とすることが望ましい。
好適な具体例としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン42等)、ABS樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、レゾルシノール樹脂などが挙げられるが、これに制限されない。
【0031】
この中でも酸やアルカリに対する耐久性の観点から、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、レゾルシノール樹脂が好適である。
【0032】
芯線2への上述の樹脂のコートする方法は、スプレーや刷毛で高強力繊維に樹脂をコートするなど特に制限はないが、生産性の観点から、ディプ−ニップ法やさらにダイスを用いた図6に示すような装置を用いることができる。
樹脂として熱可塑性樹脂をコートする場合で説明すると、図6に示すような装置を用いた場合、クリール7aから供給された高強力繊維束(芯線2)を製紐機(図示せず)に通したり、丸編機(図示せず)に通したりして拘束材3を形成した後、溶融あるいは溶媒に溶解した熱可塑性樹脂、あるいは熱可塑性樹脂を含むエマルジョンに浸漬し通過させ、その後、必要に応じてマングルで絞り、余分な熱可塑性樹脂を取り除いてダイス7bで線径を整えたのちに必要に応じて加熱炉7cにより乾燥、硬化させることでコーティングを行う。そして、乾燥、硬化したものを裁断機7dに所定長さに切断すれば、切断した状態で移動、保管を行うことができる。
【0033】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る高強力繊維線材を図5に基づいて説明する。なお、図5においては、図1と同じ構成のものは同符号を付して説明を省略する。
図5に示す高強力繊維線材1gは、芯線2の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面とするために、芯線2に固化剤を含浸させて高強力繊維糸4を結束したものである。
【0034】
固化剤は、芯線2に含浸させて硬化させ、芯線2を構成する高強力繊維糸4が離散しないように拘束材として機能するものであれば使用することができる。また、固化剤は、高強力繊維糸4が離散しなければよいので、芯線2の中心に至るまで含浸させる必要はなく、表層が硬化する程度に芯線2に含浸させればよい。なお、固化剤を芯線2の中心に至るまで含浸させる必要はないが、芯線2の中心まで含浸させ、芯線2全体を硬化させてもよい。
【0035】
使用できる固化剤としては、実施の形態1と同様に、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよいが、可変性を持たせるためには、熱可塑性樹脂が好ましく用いることができる。また、固定用接着剤および高強力繊維糸と親和性の高い固化剤とすることが望ましい。また、樹脂として熱可塑性樹脂をコートする場合では、実施の形態1と同様に、図6に示すような装置を用いることができる。
【0036】
このように構成された高強力繊維線材1gは、固化剤により棒状体となるため、数cm〜数m程度の長さに切断した状態で移動、保管を行うことが容易にでき、木製品を製造するときの補強材として使用するときには、狭い溝に配置するときや奥行きの深い穴などに挿入するときなど、型崩れしないため容易に配置することができる。
また、固化剤を、芯線2を結束する拘束材として機能させているため、図1〜図3に示す拘束材3a〜3cを省略することができる。
【0037】
[集成材による木製品]
(実施の形態3)
図1から図5に示す高強力繊維線材1a〜1gを補強材として用いてラミナを接合した集成材により形成した木製品を、図7から図11に基づいて説明する。図7および図8に示す集成材100は、略板状の木製部材である4本のラミナ100a〜100dの対向面を接着面として、接着面同士を貼り合わせて、厚みがあるが一枚の板状部材(柱状物)としたものである。ラミナ100a〜100dのうち、ラミナ100b(第1の木製部材)とラミナ100c(第2の木製部材)との間に、補強のための補強材1xが配置されている。
補強材1xは、図1から図5に示す高強力繊維線材1a〜1gのいずれかとすることができる。ラミナ100cには、補強材1xを配置するための溝100eが設けられている。
【0038】
この溝100eは、ラミナ100cの接着面に沿って設けられ、図9(A)に示すように底面の断面(溝の長さ方向に直交する面)が円弧状に形成されている。溝100eの底面を円弧状とすることで、補強材1xと底面との隙間がほぼ均等になるため、溝100eの内面と補強材1xの周囲とを均等に接着せることができるので、接着強度を向上させることができる。また、補強材1xと底面との隙間が少なくなるため、無駄となってしまう接着剤を減らすことができる。
また、図9(B)では、溝100fを矩形状に形成することもできる。
更に、溝を三角形状や五角形以上の多角形状とすることもできる。溝の断面を正多角形状とするときには、補強材1xを配置しやすいように、正多角形の一辺または複数の辺を開放した形状とするのが望ましい。
【0039】
溝100eは、ラミナ100cのみに形成すること以外に、ラミナ100b側に形成したり、ラミナ100bとラミナ100cとの両方に形成したりすることも可能である。溝をラミナ100bとラミナ100cとのいずれか一方の木製部材に形成する方が加工の点で簡易となるため好ましい。
【0040】
次に、図7および図8に示す集成材の接合方法を図10に基づいて説明する。
まず、ステップS10での溝切削工程にて、ラミナ100cに溝100eを形成する。溝100eの溝幅は、この溝100eに配置される補強材1xの太さに対して幅広過ぎると、大量の固定用接着剤が必要となるため、補強材1xが挿入可能な幅とするのが望ましい。
次に、ステップS20での接着剤充填工程にて、溝100eに固定用接着剤を充填すると共に、溝100eが形成されているラミナ100cの溝形成面100gに固定用接着剤を刷毛やスプレー、シャワーなどにより塗布する。
また、ラミナ100aとラミナ100b、およびラミナ100cとラミナ100dのそれぞれの対向面のいずれか一面、または両面に固定用接着剤を塗布する。
この固定用接着剤は、前述のようにレゾルシノール樹脂、フェノールレゾルシノール樹脂、フェノール樹脂、α−オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂や水性高分子−イソシアネート系樹脂等の公知の接着剤が使用できる。特に、木製部材と高強力繊維糸の両方に親和性が高いものが好ましく、高強力繊維糸として炭素繊維糸を用いる場合には、レジルシノール樹脂やフェノールレゾルシノール樹脂を好ましく用いることができる。
【0041】
次に、ステップS30での補強材配置工程にて、既に固定用接着剤が充填されている溝100eに補強材1xを配置する。予め固定用接着剤が溝100eに充填されているので、補強材1xが配置できる程度に溝幅が狭くても、補強材1xと溝100eとの間に空気が入り込んでしまうことを防ぐことができ、補強材1xと溝100eの溝面との間に十分な固定用接着剤を介在させることができる。従って、補強材1xと溝100eとの間の接着力を確保することができる。
次に、ステップS40での接合工程にて、ラミナ100aからラミナ100dの接着面同士を突き合わせ押圧して、ラミナ100aからラミナ100dを貼り合わせ接合することで、集成材100とすることができる。
このようにして、ラミナ100bとラミナ100cとの間に補強材1xを配置した状態で、段積みしたラミナ100a〜ラミナ100dを接合することができる。
【0042】
補強材1xを図1から図3に示すような高強力繊維線材1a〜1cとした場合では、拘束材3a〜3cが芯線2の全体を被覆しておらず、芯線2の周囲面を接着面として露出させた状態で結束しているので、接着面として露出した高強力繊維糸4が固定用接着剤を介在させて溝100eを有するラミナ100cと接着する。また、溝100eを覆うラミナ100bの接着面と補強材1xは強固に接着する。
【0043】
このように接着した集成材100を引っ張ったり曲げたりしても、芯線2は繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた高強力繊維線材により形成されているため、特に、高強力繊維糸として炭素繊維糸やバサルト繊維糸を用いた場合においても、これらの弱い部分となるねじれや交絡点が存在しないので、補強材1xは高い耐力を発揮する。
【0044】
また、高強力繊維線材1a〜1cとした補強材1xは、拘束材3a〜3cが芯線2全体を被覆していないため、露出した芯線2の接着面をラミナ100cの溝面やラミナ100bの接着面に固定用接着剤を介在させて接着させる面積を広く確保することができる。
従って、集成材100を曲げたときに、芯線2の接着面で十分な接着力を確保することができるので、拘束材3a〜3cだけがラミナ100cやラミナ100bに接着した状態で芯線2から剥離してしまうことや、拘束材3a〜3cがラミナ100,100bから剥離してしまうことが軽減される。よって、ラミナ100b,100cが芯線2から剥離し難くすることができるので、集成材の曲げに対する強度を向上させることができる。
【0045】
補強材1xを図4に示すような芯線2と拘束材3a〜3cとを固化剤により硬化させた高強力繊維線材1d〜1fとした場合では、芯線2は固化剤、固定用接着剤を介して溝100eを有するラミナ100cと接着する。また、図5に示すような芯線2を固化剤により硬化させた高強力繊維線材1gとした場合では、同様に芯線2の硬化した周囲面全体が固化剤、固定用接着剤を介して溝100eを有するラミナ100cと接着する。また、溝100eを覆うラミナ100bの接着面と補強材1xが強固に接着する。
【0046】
このように接着した集成材100を引っ張ったり曲げたりしても、芯線2は繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた高強力繊維線材により形成されているため、特に、高強力繊維糸として、炭素繊維糸やバサルト繊維糸を用いた場合においても、これらの弱い部分となるねじれや交絡点が存在しないので、補強材1xは高い耐力を発揮する。
また、高強力繊維線材1gとした補強材1xは、補強材1xの周囲面全体を接着面として固化剤、固定用接着剤を介してラミナ100cやラミナ100bに接着させた状態とすることができる。従って、集成材100を曲げたときに、芯線全体を被覆する別繊維が剥がれてしまうようなことを防止することができるので、集成材の曲げに対する強度を向上させることができる。
更に、高強力繊維線材1d〜1gは、芯線2が固化剤により硬質に一体化して棒状に形成されているため、高強力繊維線材1d〜1gを溝100eに容易に配置することができる。
【0047】
なお、本実施の形態3では、接着剤充填工程において、溝100eに固定用接着剤を充填すると共に、ラミナ100a〜100dのそれぞれの接着面となる対向面に固定用接着剤を塗布しているが、次のようにすることもできる。
まず、接着剤充填工程で溝100eに固定用接着剤を充填しておき、次の補強材配置工程で補強材1xを溝100eに配置し、そして、接合工程でラミナ100a〜100dのそれぞれの接着面となる対向面に固定用接着剤を塗布し、ラミナ100a〜100dを段積みして貼り合わせ集成材100とする。集成材の接合方法としては、このような手順としてもよい。
【0048】
(実施の形態4)
次に、図1から図5に示す高強力繊維線材1a〜1gを用いてラミナを接合した木製品を、図11に基づいて説明する。
図11に示す集成材101は、4本のラミナ100a〜100dのうち、ラミナ100aを第1の木製部材とし、ラミナ100bを第2の木製部材として、断面が矩形状の溝100fをラミナ100bに形成し、補強材1xを配置したものである。補強材1xが配置された位置が異なる以外は、実施の形態3にて説明した集成材100(図7から図9を参照)と同じであるため詳細な説明は省略する。
【0049】
(実施例)
図11に示す集成材101を発明品として作製した。このときの補強材1xは図1に示す高強力繊維線材1aとした(図12参照)。
芯線2は、高強力繊維糸4として、12000本の炭素繊維糸が収束された12Kの炭素繊維束を30本引き揃えたもの(炭素繊維糸にも炭素繊維束にも実質的に撚りが掛かっていない)を使用した。また、拘束材3は、1000デシテックスのポリエステル繊維を製紐機により芯線2の周囲面に、芯線2の長さ方向に対して約2.7cmのピッチで巻き回したものとした。このときの被覆率は29%であった。
【0050】
ラミナ100a〜100dは、幅約9cm、厚さ9cm、長さ2mに加工した杉材を使用した。これらの杉材のうち、ラミナ100bの幅方向の中央に、長さ方向に沿って溝幅約1cmの溝100fを形成した。固定用接着剤としては、レゾルシノール樹脂を使用して、ラミナ100a〜100dの接着面の全面に塗布すると共に、ラミナ100cの溝100fに充填した。次に、固定用接着剤が充填された溝100fに補強材1xを配置した。その後、ラミナ100a〜100dの接着面同士を突き合わせて押出して、補強材1xをラミナ100a,100bに接着させて集成材101を得た。
このような集成材101に対して、ラミナ100aの中央部に押圧力(図11においては矢印F1で示す)を加えて、曲げ強さ、ヤング係数(スパン1620mm、荷重点間距離360mm)を測定したところ、曲げ強さは68MPa、ヤング係数は8.5MPaであった。
【0051】
比較のために、同じラミナ100a〜100d(但し、ラミナ100bに溝100fはない。)による集成材であるが、補強材1xによる補強を施していないものを従来品として作製して、曲げ強さ、ヤング係数を測定した。その結果、曲げ強さは70MPa、ヤング係数は6.4MPaであった。これらからも分かるように、発明品はヤング係数が約32%と大幅に向上した。
また、測定後の発明品を観察したところ、割れた箇所は木の節がある部分であり、節のないラミナであれば更に高い曲げ強さおよびヤング係数が得られる可能性があることがわかった。また、測定後の従来品は2つに割れてしまったが、測定後の発明品は集成材が欠ける程度であった。
【0052】
この実施例では、ラミナ100aの中央部を押圧点として押圧しているので、集成材101は、ラミナ100dの中央部が下方に膨出した凸状に撓む。このように撓むと、ラミナ100aよりラミナ100dの方が押圧点から遠いため、ラミナ100dの方がラミナ100aより曲率半径が大きくなるので、ラミナ100dに対する長さ方向の引張度合いがラミナ100aより大きくなる。
従って、ラミナ100aの中央部を押圧するときには、補強材1xをラミナ100aとラミナ100bとの間に位置させるより、溝を100dに形成して、補強材1xをラミナ100cとラミナ100dとの間に位置させる方が曲げ強さやヤング係数を向上させることができる。つまり、集成材に対して押圧力が加わる位置から遠い位置にあるラミナの間に補強材を配置する方が曲げ強さやヤング係数を向上させるという点では有利である。
【0053】
なお、補強材1xをラミナ100aとラミナ100bとの間に位置させるだけでなく、反対方向からの押圧力(図13においては矢印F2で示す)に対する曲げに対する強度も向上させるために、図13に集成材102として示すように、ラミナ100dにも溝100fを設けることで、補強材1xをラミナ100c(第1の木製部材)とラミナ100d(第2の木製部材)との間に位置させてもよい。しかし、補強材1xの本数を増加させるとコスト増大となるため、曲げ方向を考慮して、補強材1xを配置するのが望ましい。図13では、矩形状の溝100fとしたが、円弧状の溝100eとしてもよい。
【0054】
(実施の形態5)
次に、図1から図5に示す高強力繊維線材1a〜1gを用いて木製部材を接合した木製品を、図14から図16に基づいて説明する。
図14および図15に示す集成材105は、2本の長尺状の木製部材105a(第1の木製部材),木製部材105b(第2の木製部材)の端面を接着面として、接着面同士を貼り合わせ、一本の棒状部材としたものである。木製部材105aと木製部材105bとには、補強のための補強材1xが2本に跨るように配置されている。
補強材1xは、図1から図5に示す高強力繊維線材1a〜1gのいずれかとすることができる。補強材1xは、木製部材105aと木製部材105bとの軸線に沿って設けられた溝105cに配置されている。溝105cは、底面が円弧面に形成されている。
【0055】
次に、本発明の実施の形態5に係る木製部材の接合方法について、図16に基づいて説明する。
まず、ステップS50での溝切削工程にて、木製部材105aと木製部材105bとに、それぞれの軸線に沿って直線状の溝105cが連続するように切削する。このとき、溝105cの溝幅が、補強材1xの太さに対して幅広過ぎないように、補強材1xが挿入可能な幅となるようにする。また、溝105cの底面が円弧面となるように切削する。溝105cの底面を円弧面とすることで、補強材1xと底面との隙間がほぼ均等になるため、溝105cの内面と補強材1xの周囲とを均等に接着せることができるので、接着強度を向上させることができる。また、補強材1xと底面との隙間が少なくなるため、無駄となってしまう固定用接着剤を減らすことができる。
【0056】
次に、ステップS60での接合工程にて、木製部材105aと木製部材105bとの溝105cが直線状になるように位置を合わせた状態で、固定用接着剤が塗布された端面(対向面)を接着面として突き合わせ、押圧力を掛けて接合する。
次に、ステップS70での接着剤充填工程にて、溝105cに固定用接着剤を充填する。木製部材105aと木製部材105bとが、ステップS60による接合工程にて端面同士が接着されているので、木製部材105aと木製部材105bとに跨るように形成された溝105cに、一度に固定用接着剤を充填することができる。
この固定用接着剤は、前述のようにレゾルシノール樹脂、フェノールレゾルシノール樹脂、フェノール樹脂、α−オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂や水性高分子−イソシアネート系樹脂等の公知の固定用接着剤が使用できる。特に、高強力繊維糸として炭素繊維糸を用いる場合には、木製部材と炭素繊維糸との両方に親和性が高いものが好ましく、レジルシノール樹脂やフェノールレゾルシノール樹脂を好ましく用いることができる。
【0057】
次に、ステップS80での補強材配置工程にて、既に固定用接着剤が充填されている溝105cに補強材1xを配置する。予め固定用接着剤が溝105cに充填されているので、補強材1xが配置できる程度に溝幅が狭くても、補強材1xと溝105cの溝面との間に十分な固定用接着剤を介在させることができ、また補強材1xと溝105cとの間に空気が入り込むことを防止することができる。従って、補強材1xと溝105cとの間の接着力を確保することができる。
【0058】
このように、木製部材10aと木製部材105bとに跨るように形成された溝105cに補強材1xを配置することにより、木製部材105aと木製部材105bとを接着面を間に挟んで補強することができるので、木製部材105aと木製部材105bとの接着面を引き剥がすような曲げに対する強度、特に引張強度を向上させることができる。
【0059】
なお、必要に応じて蓋部材(図示せず)により溝105cを覆ってもよい。蓋部材により溝105cを覆い、蓋部材の上から押圧することで、蓋部材が補強材1xおよびと木製部材105a,105bと接着するので、より曲げ強さやヤング係数、引張強度を向上させることができる。
【0060】
なお、図14および図15においては、木製部材105a,105bの上面(一面)側のみに溝105cを設けているが、下面(他面)側にも、木製部材105a,105bに跨る溝を設け、補強材1xを配置するようにしてもよい。
【0061】
また、本実施の形態5では、溝切削工程にて木製部材105a,105bに跨る溝を切削し、接合工程にて木製部材105a,105bを接着していたが、予め木製部材105a,105bを接着した後に、木製部材105a,105bに跨る溝を切削するようにしてもよい。
【0062】
[梁と柱の接合構造]
(実施の形態6)
次に、図1から図5に示す補強用炭素繊維線材を用いた梁と柱の接合構造を図17に基づいて説明する。図17に示す柱111と、梁112,113との接合部110は、補強材1xにより補強されている。
【0063】
この補強材1xは、図7に示す集成材100と同様に、図1から図5に示す高強力繊維線材1a〜1gとすることができる。
柱111と、梁112,113とを接合する際には、まず、予め柱111の所定高さに貫通孔111aを穿孔する。また、梁112,113の接合面に、貫通していない所定奥行きの深堀孔112a,113aを穿孔する。
【0064】
次に、貫通孔111aに補強材1xを挿通させて固定用接着剤を充填する。そして、柱111を挟んで両側から梁112,113の深堀孔112a,113aの位置を柱111から突出した補強材1xに合わせて、補強材1xを梁112,113の深堀孔112a,113aに挿入する。梁112,113の深堀孔112a,113aへの固定用接着剤の充填は、補強材1xへの挿入前に予め済ませておいてもよいし、完全に梁112,113を柱111に当接する前でもよい。
また、深堀孔112a,113aに固定用接着剤の注入孔を設けておき、梁112,113を柱111に当接させた後に、固定用接着剤を注入孔より充填してもよい。
【0065】
このように、柱111と梁112,113とを補強材1xを介在させて接合することで接合部110の引張強度(引き抜き抵抗力)を向上させることができる。
なお、図17に示す接合部では、補強材1xを貫通孔111aと深堀孔112a,113aとによる補強材挿入孔に配置しているが、柱111の貫通孔111aを梁112,113の上面および下面に合わせて、梁112,113の上面および下面に形成した溝に配置したり、柱111と梁112,113との両側面に形成した溝に配置したりして、柱111と梁112,113とを接合するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、引張強度を向上させたり、曲げ強さやヤング係数を向上させたりすることが要求される木製部材に適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1a〜1g 高強力繊維線材
1x 補強材
2 芯線
3a,3b,3c 拘束材
4 高強力繊維糸
5 高強力繊維束
7a クリール
7b ダイス
7c 加熱炉
7d 裁断機
100,101,102 集成材
100a〜100d ラミナ
100e,100f 溝
100g 溝形成面
105 集成材
105a,105b 木製部材
105c 溝
110 接合部
111 柱
111a 貫通孔
112,113 梁
112a,113a 深堀孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維束による芯線により形成された木製部材補強用の高強力繊維線材およびそれを用いた木製部材の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から様々なものが、引張強度を向上させたり、曲げに対する強度を向上させたりする補強材として用いられているが、特に、炭素繊維糸は優れた引張強度を有しているため、適用範囲が広がっていくものと思われる。
【0003】
しかしながら、炭素繊維糸は、飛行機の構造体や釣竿、テニスラケットなどの一部を除き、ほとんどが実用化されておらず活用されているとは言えない。その理由の一つとしては、炭素繊維糸は6000本や12000本、24000本を束ねた炭素繊維束として、6Kや12K、24Kなどと称されて製造され、出荷されているが、サイジング剤や収束剤と称される薬剤にて軽度な拘束力で結束されているだけでは、少しの衝撃や振動で炭素繊維束が解けたり、炭素繊維糸が折れたりしてしまい、扱い難い面があるからである。
そのため、従来では、6Kや12K、24Kなどの炭素繊維束は、織物として用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−284343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
用途によっては、炭素繊維糸は織物の状態で用いることができるものもあるが、織物の状態では、引っ張られたときに、炭素繊維糸同士の交絡点にて剪断力がかかるため、十分な強度が得られない。
そこで、炭素繊維糸の繊維方向を合わせて束ねた炭素繊維束の周囲面全体を他の繊維で覆った後、接着剤で固めて一体化して、弱い部分となる炭素繊維糸同士の交絡点のない炭素繊維線材とすることで、強度を向上させることが考えられる。
【0006】
しかし、このような炭素繊維線材を、集成材を構成するラミナ間に挟み込み、固定用の接着剤で固定した木製品として曲げに対する強度を測定すると、炭素繊維束と、その周囲面全体を覆った他の繊維との界面、または他の繊維とラミナ間に挟み込まれた接着剤との界面で引張力に耐え切れず剥離が生じてしまい、集成材と炭素繊維束とが接着していない状態となってしまう。その結果、木製品の曲げに対する強度は、期待したほどの強度の向上が得られない。
【0007】
このような問題は、炭素繊維糸だけに限らず、バサルト繊維糸やアラミド繊維糸などの高強力繊維と称される繊維を、繊維方向を合わせて束ねて高強力繊維束とし、この高強力繊維束の周囲面全体を他の繊維で覆って高強力繊維線材としても、同様である。従って、高強力繊維糸の優れた特徴を有効に活かすことができる技術が望まれている。
【0008】
そこで本発明は、高強力繊維糸の優れた引張強度を発揮させることができ、曲げに対する強度を向上させることができる木製部材補強用の高強力繊維線材およびそれを用いた木製部材の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の木製部材補強用の高強力繊維線材は、高強力繊維糸を、繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた芯線と、前記芯線の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面として露出させた状態で、前記芯線の周囲を巻き回して結束する拘束材とを備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の木製部材補強用の高強力繊維線材によれば、芯線が、高強力繊維糸の繊維方向を合わせ交絡させずに束ねたものであるため、弱い部分となる高強力繊維糸同士の交絡点が存在しないので、高い耐力を発揮させることができる。また、拘束材が、芯線の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面として露出させた状態で芯線の周囲を巻き回すことで芯線を結束しているので、露出した芯線の接着面を他の木製部材の接着面に固定用接着剤を介在させて接着させた状態とすることができる。従って、曲げるような力が加わったときに、拘束材だけが他の木製部材に接着した状態で芯線から剥離してしまったり、拘束材が芯線と接着した状態で木製部材から剥離してしまったりすることが軽減されるので、曲げに対する強度を向上させることができる。
【0011】
前記拘束材は、前記高強力繊維糸以外の繊維であって、前記高強力繊維糸より耐剪断性の高い繊維により形成されているのが望ましい。拘束材を芯線の周囲に巻き回して芯線を結束させていても、高強力繊維糸より剪断力が高いので切れ難い。また、芯線自体がばらばらになることを防止することができる。なお、ここでいう拘束材に用いる高強力繊維糸以外の繊維とは、芯線で使用されている高強力繊維糸よりも耐剪断性の高いものであればよく、そのような性能のものであれば拘束材として高強力繊維糸を用いてもよい。
【0012】
前記拘束材は、前記芯線を中心として、組紐状または編紐状に編まれたものとするのが望ましい。そうすることで、露出させた芯線の周囲面を接着面として確保した状態で、芯線に拘束材を巻き回して芯線を結束することができる。
【0013】
前記拘束材および前記芯線は、その周囲面が固化剤により硬化しているのが望ましい。そうすることで芯線と共に拘束材を一体化させることができるので、芯線自体がばらばらになってしまうことを、より一層防止することができる。また、高強力繊維線材全体の形状維持性が向上するため、高強力繊維線材を孔に挿入する場合に、作業性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の木製部材補強用の高強力繊維線材は、高強力繊維糸を、繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた芯線の周囲面に、固化剤を含浸させて硬化させることで、前記高強力繊維糸を結束させ、前記芯線の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面としたことを特徴とすることができる。
【0015】
この発明によれば、芯線が、高強力繊維糸の繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた高強力繊維束によるものであるため、弱い部分となる高強力繊維糸同士の交絡点が存在しないので、高い耐力を発揮させることができる。また、芯線の周囲面が固化剤を含浸させて硬化されており、芯線を結束する拘束材として別繊維などで被覆されていないので、芯線の周囲面を接着面として固定用接着剤を介在させて他の木製部材に接着させた状態とすることができる。従って、曲げるような力が加わったときに、拘束材が他の木製部材に接着した状態で芯線から剥離したり、拘束材が芯線と接着した状態で木製部材から剥離したりすることが軽減されるので、曲げに対する強度を向上させることができる。
【0016】
本発明の木部材の接合構造は、本発明の木製部材補強用の高強力繊維線材を補強材として、固定用接着剤と共に、第1の木製部材と第2の木製部材との間に介在させて、前記第1の木製部材と第2の木製部材とが接合されていることを特徴とする。
本発明の木部材の接合構造では、第1の木製部材と第2の木製部材との間に、本発明の木製部材補強用の高強力繊維線材を補強材として固定用接着剤と共に介在させているので、第1の木製部材と第2の木製部材との引張強度や曲げに対する強度を向上させるこができる。
【0017】
前記固定用接着剤としては、レゾルシノール樹脂、フェノールレゾルシノール樹脂、フェノール樹脂、α−オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、水性高分子−イソシアネート系樹脂等が適宜使用できるが、レゾルシノール樹脂またはフェノール変性レゾルシノール樹脂を主成分としたものとするのが望ましい。レゾルシノール樹脂またはフェノール変性レゾルシノール樹脂は、木製部材および高強力繊維糸と親和性が高いので、より接着性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、芯線が木製部材に強固に接着することで、芯線と拘束材との耐剥離性を向上させることができるので、高強力繊維糸の優れた引張強度を発揮させることができると共に、集成材等の木製部材の曲げに対する強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1に係る高強力繊維線材を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1の高強力繊維線材の第1変形例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1の高強力繊維線材の第2変形例を示す図である。
【図4】(A)〜(C)は図1〜図3に示す高強力繊維線材の芯線を結束材と共に固化剤により結束した状態を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る高強力繊維線材を示す図である。
【図6】図1〜図5に示す高強力繊維線材の製造方法を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る木製部材の接合構造を説明するための図であり、図1から図5に示す高強力繊維線材を補強材としてラミナ同士を貼り合わせた接合構造を有する集成材の一例を示す斜視図である。
【図8】図7に示す集成材の分解斜視図である。
【図9】ラミナを切削した溝形状を説明するための図であり、(A)は溝の断面が円弧状である場合を示す図、(B)は矩形状である場合を示す図である。
【図10】図7に示す集成材の製造方法の各工程を説明するためのフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態4に係る木製部材の接合構造を説明するための図であり、図1から図5に示す高強力繊維線材を補強材としてラミナ同士を貼り合わせた接合構造を有する棒状部材の一例を示す斜視図である。
【図12】実施例として作製された炭素繊維線材を示す写真である
【図13】図11に示す木製部材の接合構造の変形例を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態5に係る木製部材の接合構造を説明するための図であり、図1から図5に示す高強力繊維線材を補強材として木製部材を貼り合わせた接合構造を有する棒状部材の一例を示す斜視図である。
【図15】図14に示す棒状部材の分解斜視図である。
【図16】図14および図15に示す集成材の製造方法の各工程を説明するためのフローチャートである。
【図17】本発明の実施の形態6に係る木製部材の接合構造を説明するための図であり、図1から図5に示す高強力繊維線材を補強材として梁と柱とを接合した接合構造を有する接合部を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[木製部材補強用の高強力繊維線材]
(実施の形態1)
本発明の実施の形態に係る木製部材補強用の高強力繊維線材(以下、単に高強力繊維線材と略す。)を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、高強力繊維線材1aは、芯線2と、拘束材3aとにより構成されている。
芯線2は、高強力繊維糸4を、繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた高強力繊維束5により形成されている。
高強力繊維糸4は、スーパー繊維とも称される繊維が使用できる。高強力繊維糸4としては、例えば、炭素繊維、バサルト繊維、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維、ポリビニルアルコール(PVA繊維)などが使用できる。
【0021】
高強力繊維束5は、上記高強力繊維糸を単体で用いたり、複数を混合させたり、その他有機繊維からなる糸をその強度や曲げ性が損なわれない範囲で混合したりしたものでもよい。高強力繊維束5は、通常、高強力繊維糸4を数千本から数万本束ねてなる断面が円形状または扁平状の糸状体である。なお、この高強力繊維束5を構成する高強力繊維糸4は、特に、炭素繊維糸やバサルト繊維糸であれば、撚りがあると引張強度が低下するので、高強力繊維糸(フィラメント)に撚りを掛けず、また高強力繊維束全体にも撚りを掛けていないことで、実質的に無撚糸と同等の状態としたものである。撚りが掛かっていない高強力繊維糸や高強力繊維束を得るためには、紡糸の段階より高強力繊維糸に撚りが掛からないよう引き揃えたもの等を用いる。
なお、芯線2を構成する高強力繊維束5は、芯線2の周囲面が接着面として機能することを阻害しない程度にサイジング剤や集束剤を含浸させてもよい。
【0022】
高強力繊維糸4が炭素繊維糸であれば、PAN系、ピッチ系のいずれの炭素繊維糸も使用できる。この中でも、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維糸が好ましい。
また、この炭素繊維糸を束ねた炭素繊維束は、炭素繊維メーカーから供給される炭素繊維糸6000本(6K)、12000本(12K)、24000本(24K)を、必要とされる強度に応じて1本、または複数本束ねたものを用いることができる。
【0023】
拘束材3aは、芯線2の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面として露出させた状態で芯線2を周囲面から高強力繊維糸4がばらばらにならないように結束するものである。
本実施の形態1では、芯線2の周囲面に、拘束材3aとなる繊維を巻き回して、目の粗い筒状の組紐(丸打)を組むことで、組紐状の拘束材3aを形成している。また、拘束材としては、図2に示すように、芯線2の周囲面に拘束材3bとなる繊維を巻き回して目の粗い筒状の丸編を編むことで、編紐状の拘束材3bとすることもできる。
拘束材3a,3bとしては、柔軟なものが好ましく、ポリエステル、ナイロン、ビニロン等の合成繊維や、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、絹、羊毛、麻、綿などの天然繊維が使用できる。
拘束材3aは、芯線2の長さ方向に対して0.5mm〜30cmのピッチで交差させるとよく、特に、1cmから10cmがより好ましい。
【0024】
ここで、拘束材が芯線2を被覆する割合について説明する。
芯線2の被覆率は、高強力繊維線材の周囲面全体の面積に対する拘束材が占める面積の割合である。被覆率は、拘束材が芯線2の周囲面に一様に配置されたものであるときには、高強力繊維線材を側方から撮像し、撮像された画像から高強力繊維線材全体の面積と、拘束材が占める面積とを測定して、次式に従って演算することで算出することができる。
被覆率(%)=(拘束材が占める面積)/(高強力繊維線材全体の面積)×100
【0025】
このように算出される被覆率は、少ない方が、固定用接着剤が芯線2の周囲面に接着して接着面として機能する面積が広くなるため望ましい。特に、高強力繊維線材1aを用いて集成材同士の接着強度を向上させるとの観点からは70%以下である。より好ましくは50%以下、更に好ましくは30%以下である。被覆率の下限は、芯線2を構成する高強力繊維糸4がばらばらにならず、紐状または棒状が維持できる最も低い値とすることができる。
【0026】
この高強力繊維線材1aは、以下のようにして製造することができる。
必要本数の高強力繊維束5をクリールから引き出し、それらを束ねて芯線2とする。この芯線2を製紐機の中央に通す。そして、製紐機により芯線2の周囲面に拘束材3aにより目の粗い組物を形成する。そうすることで、組紐状の拘束材3aが芯線2の周囲面に形成されて、芯線2がばらばらにならないように結束され、長尺状の高強力繊維線材1aとなり、ドラムなどに巻き取ることができる。高強力繊維線材1aは柔軟な芯線2を拘束材3aで結束しただけなので、ドラム等に容易に巻き付けることができる。従って、移動や保管が容易である。
【0027】
なお、拘束材を編紐状とするときには、芯線2を丸編機の中央に通して芯線2の周囲面に編物を形成することで、図2に示すような拘束材3bとすることが可能である。
【0028】
また、高強力繊維線材は、拘束材を編紐状または組紐状とする以外に、高強力繊維糸4がばらばらにならないように結束できればよいので、図3に示すように、高強力繊維線材1cの芯線2を結束するための拘束材として、所定間隔ごとに配置されたゴム輪や拘束材3a,3bで挙げられている繊維等を所定間隔に配置した拘束材3cとすることもできる。
【0029】
図1から図3に示す芯線2においては、サイジング剤や集束剤を含浸させて結束することの他に、図4(A)から同図(C)に示すように、高強力繊維糸4をより強固に結束するために、拘束材3a〜3cにより結束した芯線2に固化剤を含浸させ、拘束材3a〜3cと共に芯線2を硬化させることもできる。そうすることで、芯線2および拘束材3a〜3cを強固に一体化させ棒状体とすることができる。この場合には、高強力繊維線材1d〜1fを数cm〜数m程度の長さに切断した状態で移動、保管を行うことができる。芯線2を強固に一体化させた高強力繊維線材1d〜1fであれば、木製品を製造するときの補強材として使用する場合、狭い溝に配置するときや奥行きの深い穴などに挿入するときなどに、型崩れしないため容易に配置することができる。
【0030】
使用できる固化剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよいが、可変性を持たせるためには、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。また、固定用接着剤および高強力繊維糸と親和性の高い固化剤とすることが望ましい。
好適な具体例としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン42等)、ABS樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、レゾルシノール樹脂などが挙げられるが、これに制限されない。
【0031】
この中でも酸やアルカリに対する耐久性の観点から、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、レゾルシノール樹脂が好適である。
【0032】
芯線2への上述の樹脂のコートする方法は、スプレーや刷毛で高強力繊維に樹脂をコートするなど特に制限はないが、生産性の観点から、ディプ−ニップ法やさらにダイスを用いた図6に示すような装置を用いることができる。
樹脂として熱可塑性樹脂をコートする場合で説明すると、図6に示すような装置を用いた場合、クリール7aから供給された高強力繊維束(芯線2)を製紐機(図示せず)に通したり、丸編機(図示せず)に通したりして拘束材3を形成した後、溶融あるいは溶媒に溶解した熱可塑性樹脂、あるいは熱可塑性樹脂を含むエマルジョンに浸漬し通過させ、その後、必要に応じてマングルで絞り、余分な熱可塑性樹脂を取り除いてダイス7bで線径を整えたのちに必要に応じて加熱炉7cにより乾燥、硬化させることでコーティングを行う。そして、乾燥、硬化したものを裁断機7dに所定長さに切断すれば、切断した状態で移動、保管を行うことができる。
【0033】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る高強力繊維線材を図5に基づいて説明する。なお、図5においては、図1と同じ構成のものは同符号を付して説明を省略する。
図5に示す高強力繊維線材1gは、芯線2の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面とするために、芯線2に固化剤を含浸させて高強力繊維糸4を結束したものである。
【0034】
固化剤は、芯線2に含浸させて硬化させ、芯線2を構成する高強力繊維糸4が離散しないように拘束材として機能するものであれば使用することができる。また、固化剤は、高強力繊維糸4が離散しなければよいので、芯線2の中心に至るまで含浸させる必要はなく、表層が硬化する程度に芯線2に含浸させればよい。なお、固化剤を芯線2の中心に至るまで含浸させる必要はないが、芯線2の中心まで含浸させ、芯線2全体を硬化させてもよい。
【0035】
使用できる固化剤としては、実施の形態1と同様に、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよいが、可変性を持たせるためには、熱可塑性樹脂が好ましく用いることができる。また、固定用接着剤および高強力繊維糸と親和性の高い固化剤とすることが望ましい。また、樹脂として熱可塑性樹脂をコートする場合では、実施の形態1と同様に、図6に示すような装置を用いることができる。
【0036】
このように構成された高強力繊維線材1gは、固化剤により棒状体となるため、数cm〜数m程度の長さに切断した状態で移動、保管を行うことが容易にでき、木製品を製造するときの補強材として使用するときには、狭い溝に配置するときや奥行きの深い穴などに挿入するときなど、型崩れしないため容易に配置することができる。
また、固化剤を、芯線2を結束する拘束材として機能させているため、図1〜図3に示す拘束材3a〜3cを省略することができる。
【0037】
[集成材による木製品]
(実施の形態3)
図1から図5に示す高強力繊維線材1a〜1gを補強材として用いてラミナを接合した集成材により形成した木製品を、図7から図11に基づいて説明する。図7および図8に示す集成材100は、略板状の木製部材である4本のラミナ100a〜100dの対向面を接着面として、接着面同士を貼り合わせて、厚みがあるが一枚の板状部材(柱状物)としたものである。ラミナ100a〜100dのうち、ラミナ100b(第1の木製部材)とラミナ100c(第2の木製部材)との間に、補強のための補強材1xが配置されている。
補強材1xは、図1から図5に示す高強力繊維線材1a〜1gのいずれかとすることができる。ラミナ100cには、補強材1xを配置するための溝100eが設けられている。
【0038】
この溝100eは、ラミナ100cの接着面に沿って設けられ、図9(A)に示すように底面の断面(溝の長さ方向に直交する面)が円弧状に形成されている。溝100eの底面を円弧状とすることで、補強材1xと底面との隙間がほぼ均等になるため、溝100eの内面と補強材1xの周囲とを均等に接着せることができるので、接着強度を向上させることができる。また、補強材1xと底面との隙間が少なくなるため、無駄となってしまう接着剤を減らすことができる。
また、図9(B)では、溝100fを矩形状に形成することもできる。
更に、溝を三角形状や五角形以上の多角形状とすることもできる。溝の断面を正多角形状とするときには、補強材1xを配置しやすいように、正多角形の一辺または複数の辺を開放した形状とするのが望ましい。
【0039】
溝100eは、ラミナ100cのみに形成すること以外に、ラミナ100b側に形成したり、ラミナ100bとラミナ100cとの両方に形成したりすることも可能である。溝をラミナ100bとラミナ100cとのいずれか一方の木製部材に形成する方が加工の点で簡易となるため好ましい。
【0040】
次に、図7および図8に示す集成材の接合方法を図10に基づいて説明する。
まず、ステップS10での溝切削工程にて、ラミナ100cに溝100eを形成する。溝100eの溝幅は、この溝100eに配置される補強材1xの太さに対して幅広過ぎると、大量の固定用接着剤が必要となるため、補強材1xが挿入可能な幅とするのが望ましい。
次に、ステップS20での接着剤充填工程にて、溝100eに固定用接着剤を充填すると共に、溝100eが形成されているラミナ100cの溝形成面100gに固定用接着剤を刷毛やスプレー、シャワーなどにより塗布する。
また、ラミナ100aとラミナ100b、およびラミナ100cとラミナ100dのそれぞれの対向面のいずれか一面、または両面に固定用接着剤を塗布する。
この固定用接着剤は、前述のようにレゾルシノール樹脂、フェノールレゾルシノール樹脂、フェノール樹脂、α−オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂や水性高分子−イソシアネート系樹脂等の公知の接着剤が使用できる。特に、木製部材と高強力繊維糸の両方に親和性が高いものが好ましく、高強力繊維糸として炭素繊維糸を用いる場合には、レジルシノール樹脂やフェノールレゾルシノール樹脂を好ましく用いることができる。
【0041】
次に、ステップS30での補強材配置工程にて、既に固定用接着剤が充填されている溝100eに補強材1xを配置する。予め固定用接着剤が溝100eに充填されているので、補強材1xが配置できる程度に溝幅が狭くても、補強材1xと溝100eとの間に空気が入り込んでしまうことを防ぐことができ、補強材1xと溝100eの溝面との間に十分な固定用接着剤を介在させることができる。従って、補強材1xと溝100eとの間の接着力を確保することができる。
次に、ステップS40での接合工程にて、ラミナ100aからラミナ100dの接着面同士を突き合わせ押圧して、ラミナ100aからラミナ100dを貼り合わせ接合することで、集成材100とすることができる。
このようにして、ラミナ100bとラミナ100cとの間に補強材1xを配置した状態で、段積みしたラミナ100a〜ラミナ100dを接合することができる。
【0042】
補強材1xを図1から図3に示すような高強力繊維線材1a〜1cとした場合では、拘束材3a〜3cが芯線2の全体を被覆しておらず、芯線2の周囲面を接着面として露出させた状態で結束しているので、接着面として露出した高強力繊維糸4が固定用接着剤を介在させて溝100eを有するラミナ100cと接着する。また、溝100eを覆うラミナ100bの接着面と補強材1xは強固に接着する。
【0043】
このように接着した集成材100を引っ張ったり曲げたりしても、芯線2は繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた高強力繊維線材により形成されているため、特に、高強力繊維糸として炭素繊維糸やバサルト繊維糸を用いた場合においても、これらの弱い部分となるねじれや交絡点が存在しないので、補強材1xは高い耐力を発揮する。
【0044】
また、高強力繊維線材1a〜1cとした補強材1xは、拘束材3a〜3cが芯線2全体を被覆していないため、露出した芯線2の接着面をラミナ100cの溝面やラミナ100bの接着面に固定用接着剤を介在させて接着させる面積を広く確保することができる。
従って、集成材100を曲げたときに、芯線2の接着面で十分な接着力を確保することができるので、拘束材3a〜3cだけがラミナ100cやラミナ100bに接着した状態で芯線2から剥離してしまうことや、拘束材3a〜3cがラミナ100,100bから剥離してしまうことが軽減される。よって、ラミナ100b,100cが芯線2から剥離し難くすることができるので、集成材の曲げに対する強度を向上させることができる。
【0045】
補強材1xを図4に示すような芯線2と拘束材3a〜3cとを固化剤により硬化させた高強力繊維線材1d〜1fとした場合では、芯線2は固化剤、固定用接着剤を介して溝100eを有するラミナ100cと接着する。また、図5に示すような芯線2を固化剤により硬化させた高強力繊維線材1gとした場合では、同様に芯線2の硬化した周囲面全体が固化剤、固定用接着剤を介して溝100eを有するラミナ100cと接着する。また、溝100eを覆うラミナ100bの接着面と補強材1xが強固に接着する。
【0046】
このように接着した集成材100を引っ張ったり曲げたりしても、芯線2は繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた高強力繊維線材により形成されているため、特に、高強力繊維糸として、炭素繊維糸やバサルト繊維糸を用いた場合においても、これらの弱い部分となるねじれや交絡点が存在しないので、補強材1xは高い耐力を発揮する。
また、高強力繊維線材1gとした補強材1xは、補強材1xの周囲面全体を接着面として固化剤、固定用接着剤を介してラミナ100cやラミナ100bに接着させた状態とすることができる。従って、集成材100を曲げたときに、芯線全体を被覆する別繊維が剥がれてしまうようなことを防止することができるので、集成材の曲げに対する強度を向上させることができる。
更に、高強力繊維線材1d〜1gは、芯線2が固化剤により硬質に一体化して棒状に形成されているため、高強力繊維線材1d〜1gを溝100eに容易に配置することができる。
【0047】
なお、本実施の形態3では、接着剤充填工程において、溝100eに固定用接着剤を充填すると共に、ラミナ100a〜100dのそれぞれの接着面となる対向面に固定用接着剤を塗布しているが、次のようにすることもできる。
まず、接着剤充填工程で溝100eに固定用接着剤を充填しておき、次の補強材配置工程で補強材1xを溝100eに配置し、そして、接合工程でラミナ100a〜100dのそれぞれの接着面となる対向面に固定用接着剤を塗布し、ラミナ100a〜100dを段積みして貼り合わせ集成材100とする。集成材の接合方法としては、このような手順としてもよい。
【0048】
(実施の形態4)
次に、図1から図5に示す高強力繊維線材1a〜1gを用いてラミナを接合した木製品を、図11に基づいて説明する。
図11に示す集成材101は、4本のラミナ100a〜100dのうち、ラミナ100aを第1の木製部材とし、ラミナ100bを第2の木製部材として、断面が矩形状の溝100fをラミナ100bに形成し、補強材1xを配置したものである。補強材1xが配置された位置が異なる以外は、実施の形態3にて説明した集成材100(図7から図9を参照)と同じであるため詳細な説明は省略する。
【0049】
(実施例)
図11に示す集成材101を発明品として作製した。このときの補強材1xは図1に示す高強力繊維線材1aとした(図12参照)。
芯線2は、高強力繊維糸4として、12000本の炭素繊維糸が収束された12Kの炭素繊維束を30本引き揃えたもの(炭素繊維糸にも炭素繊維束にも実質的に撚りが掛かっていない)を使用した。また、拘束材3は、1000デシテックスのポリエステル繊維を製紐機により芯線2の周囲面に、芯線2の長さ方向に対して約2.7cmのピッチで巻き回したものとした。このときの被覆率は29%であった。
【0050】
ラミナ100a〜100dは、幅約9cm、厚さ9cm、長さ2mに加工した杉材を使用した。これらの杉材のうち、ラミナ100bの幅方向の中央に、長さ方向に沿って溝幅約1cmの溝100fを形成した。固定用接着剤としては、レゾルシノール樹脂を使用して、ラミナ100a〜100dの接着面の全面に塗布すると共に、ラミナ100cの溝100fに充填した。次に、固定用接着剤が充填された溝100fに補強材1xを配置した。その後、ラミナ100a〜100dの接着面同士を突き合わせて押出して、補強材1xをラミナ100a,100bに接着させて集成材101を得た。
このような集成材101に対して、ラミナ100aの中央部に押圧力(図11においては矢印F1で示す)を加えて、曲げ強さ、ヤング係数(スパン1620mm、荷重点間距離360mm)を測定したところ、曲げ強さは68MPa、ヤング係数は8.5MPaであった。
【0051】
比較のために、同じラミナ100a〜100d(但し、ラミナ100bに溝100fはない。)による集成材であるが、補強材1xによる補強を施していないものを従来品として作製して、曲げ強さ、ヤング係数を測定した。その結果、曲げ強さは70MPa、ヤング係数は6.4MPaであった。これらからも分かるように、発明品はヤング係数が約32%と大幅に向上した。
また、測定後の発明品を観察したところ、割れた箇所は木の節がある部分であり、節のないラミナであれば更に高い曲げ強さおよびヤング係数が得られる可能性があることがわかった。また、測定後の従来品は2つに割れてしまったが、測定後の発明品は集成材が欠ける程度であった。
【0052】
この実施例では、ラミナ100aの中央部を押圧点として押圧しているので、集成材101は、ラミナ100dの中央部が下方に膨出した凸状に撓む。このように撓むと、ラミナ100aよりラミナ100dの方が押圧点から遠いため、ラミナ100dの方がラミナ100aより曲率半径が大きくなるので、ラミナ100dに対する長さ方向の引張度合いがラミナ100aより大きくなる。
従って、ラミナ100aの中央部を押圧するときには、補強材1xをラミナ100aとラミナ100bとの間に位置させるより、溝を100dに形成して、補強材1xをラミナ100cとラミナ100dとの間に位置させる方が曲げ強さやヤング係数を向上させることができる。つまり、集成材に対して押圧力が加わる位置から遠い位置にあるラミナの間に補強材を配置する方が曲げ強さやヤング係数を向上させるという点では有利である。
【0053】
なお、補強材1xをラミナ100aとラミナ100bとの間に位置させるだけでなく、反対方向からの押圧力(図13においては矢印F2で示す)に対する曲げに対する強度も向上させるために、図13に集成材102として示すように、ラミナ100dにも溝100fを設けることで、補強材1xをラミナ100c(第1の木製部材)とラミナ100d(第2の木製部材)との間に位置させてもよい。しかし、補強材1xの本数を増加させるとコスト増大となるため、曲げ方向を考慮して、補強材1xを配置するのが望ましい。図13では、矩形状の溝100fとしたが、円弧状の溝100eとしてもよい。
【0054】
(実施の形態5)
次に、図1から図5に示す高強力繊維線材1a〜1gを用いて木製部材を接合した木製品を、図14から図16に基づいて説明する。
図14および図15に示す集成材105は、2本の長尺状の木製部材105a(第1の木製部材),木製部材105b(第2の木製部材)の端面を接着面として、接着面同士を貼り合わせ、一本の棒状部材としたものである。木製部材105aと木製部材105bとには、補強のための補強材1xが2本に跨るように配置されている。
補強材1xは、図1から図5に示す高強力繊維線材1a〜1gのいずれかとすることができる。補強材1xは、木製部材105aと木製部材105bとの軸線に沿って設けられた溝105cに配置されている。溝105cは、底面が円弧面に形成されている。
【0055】
次に、本発明の実施の形態5に係る木製部材の接合方法について、図16に基づいて説明する。
まず、ステップS50での溝切削工程にて、木製部材105aと木製部材105bとに、それぞれの軸線に沿って直線状の溝105cが連続するように切削する。このとき、溝105cの溝幅が、補強材1xの太さに対して幅広過ぎないように、補強材1xが挿入可能な幅となるようにする。また、溝105cの底面が円弧面となるように切削する。溝105cの底面を円弧面とすることで、補強材1xと底面との隙間がほぼ均等になるため、溝105cの内面と補強材1xの周囲とを均等に接着せることができるので、接着強度を向上させることができる。また、補強材1xと底面との隙間が少なくなるため、無駄となってしまう固定用接着剤を減らすことができる。
【0056】
次に、ステップS60での接合工程にて、木製部材105aと木製部材105bとの溝105cが直線状になるように位置を合わせた状態で、固定用接着剤が塗布された端面(対向面)を接着面として突き合わせ、押圧力を掛けて接合する。
次に、ステップS70での接着剤充填工程にて、溝105cに固定用接着剤を充填する。木製部材105aと木製部材105bとが、ステップS60による接合工程にて端面同士が接着されているので、木製部材105aと木製部材105bとに跨るように形成された溝105cに、一度に固定用接着剤を充填することができる。
この固定用接着剤は、前述のようにレゾルシノール樹脂、フェノールレゾルシノール樹脂、フェノール樹脂、α−オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂や水性高分子−イソシアネート系樹脂等の公知の固定用接着剤が使用できる。特に、高強力繊維糸として炭素繊維糸を用いる場合には、木製部材と炭素繊維糸との両方に親和性が高いものが好ましく、レジルシノール樹脂やフェノールレゾルシノール樹脂を好ましく用いることができる。
【0057】
次に、ステップS80での補強材配置工程にて、既に固定用接着剤が充填されている溝105cに補強材1xを配置する。予め固定用接着剤が溝105cに充填されているので、補強材1xが配置できる程度に溝幅が狭くても、補強材1xと溝105cの溝面との間に十分な固定用接着剤を介在させることができ、また補強材1xと溝105cとの間に空気が入り込むことを防止することができる。従って、補強材1xと溝105cとの間の接着力を確保することができる。
【0058】
このように、木製部材10aと木製部材105bとに跨るように形成された溝105cに補強材1xを配置することにより、木製部材105aと木製部材105bとを接着面を間に挟んで補強することができるので、木製部材105aと木製部材105bとの接着面を引き剥がすような曲げに対する強度、特に引張強度を向上させることができる。
【0059】
なお、必要に応じて蓋部材(図示せず)により溝105cを覆ってもよい。蓋部材により溝105cを覆い、蓋部材の上から押圧することで、蓋部材が補強材1xおよびと木製部材105a,105bと接着するので、より曲げ強さやヤング係数、引張強度を向上させることができる。
【0060】
なお、図14および図15においては、木製部材105a,105bの上面(一面)側のみに溝105cを設けているが、下面(他面)側にも、木製部材105a,105bに跨る溝を設け、補強材1xを配置するようにしてもよい。
【0061】
また、本実施の形態5では、溝切削工程にて木製部材105a,105bに跨る溝を切削し、接合工程にて木製部材105a,105bを接着していたが、予め木製部材105a,105bを接着した後に、木製部材105a,105bに跨る溝を切削するようにしてもよい。
【0062】
[梁と柱の接合構造]
(実施の形態6)
次に、図1から図5に示す補強用炭素繊維線材を用いた梁と柱の接合構造を図17に基づいて説明する。図17に示す柱111と、梁112,113との接合部110は、補強材1xにより補強されている。
【0063】
この補強材1xは、図7に示す集成材100と同様に、図1から図5に示す高強力繊維線材1a〜1gとすることができる。
柱111と、梁112,113とを接合する際には、まず、予め柱111の所定高さに貫通孔111aを穿孔する。また、梁112,113の接合面に、貫通していない所定奥行きの深堀孔112a,113aを穿孔する。
【0064】
次に、貫通孔111aに補強材1xを挿通させて固定用接着剤を充填する。そして、柱111を挟んで両側から梁112,113の深堀孔112a,113aの位置を柱111から突出した補強材1xに合わせて、補強材1xを梁112,113の深堀孔112a,113aに挿入する。梁112,113の深堀孔112a,113aへの固定用接着剤の充填は、補強材1xへの挿入前に予め済ませておいてもよいし、完全に梁112,113を柱111に当接する前でもよい。
また、深堀孔112a,113aに固定用接着剤の注入孔を設けておき、梁112,113を柱111に当接させた後に、固定用接着剤を注入孔より充填してもよい。
【0065】
このように、柱111と梁112,113とを補強材1xを介在させて接合することで接合部110の引張強度(引き抜き抵抗力)を向上させることができる。
なお、図17に示す接合部では、補強材1xを貫通孔111aと深堀孔112a,113aとによる補強材挿入孔に配置しているが、柱111の貫通孔111aを梁112,113の上面および下面に合わせて、梁112,113の上面および下面に形成した溝に配置したり、柱111と梁112,113との両側面に形成した溝に配置したりして、柱111と梁112,113とを接合するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、引張強度を向上させたり、曲げ強さやヤング係数を向上させたりすることが要求される木製部材に適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1a〜1g 高強力繊維線材
1x 補強材
2 芯線
3a,3b,3c 拘束材
4 高強力繊維糸
5 高強力繊維束
7a クリール
7b ダイス
7c 加熱炉
7d 裁断機
100,101,102 集成材
100a〜100d ラミナ
100e,100f 溝
100g 溝形成面
105 集成材
105a,105b 木製部材
105c 溝
110 接合部
111 柱
111a 貫通孔
112,113 梁
112a,113a 深堀孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強力繊維糸を、繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた芯線と、
前記芯線の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面として露出させた状態で、前記芯線の周囲を巻き回して結束する拘束材とを備えたことを特徴とする木製部材補強用の高強力繊維線材。
【請求項2】
前記拘束材は、前記高強力繊維糸以外の繊維であって、前記高強力繊維糸より耐剪断性の高い繊維により形成されている請求項1記載の木製部材補強用の高強力繊維線材。
【請求項3】
前記拘束材は、前記芯線を中心として、組紐状または編紐状に編まれたものである請求項1または2記載の木製部材補強用の高強力繊維線材。
【請求項4】
前記拘束材および前記芯線は、その周囲面が固化剤により硬化している請求項1から3記載の木製部材補強用の高強力繊維線材。
【請求項5】
高強力繊維糸を、繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた芯線の周囲面に、固化剤を含浸させて硬化させることで、前記高強力繊維糸を結束させ、前記芯線の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面としたことを特徴とする木製部材補強用の高強力繊維線材。
【請求項6】
前記請求項1から5のいずれかの項に記載の木製部材補強用の高強力繊維線材を補強材として、固定用接着剤と共に、第1の木製部材と第2の木製部材との間に介在させて、前記第1の木製部材と第2の木製部材とが接合されていることを特徴とする木製部材補強用の高強力繊維線材を用いた木製部材の接合構造。
【請求項7】
前記固定用接着剤は、レゾルシノール樹脂、フェノールレゾルシノール樹脂、フェノール樹脂、α−オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、水性高分子−イソシアネート系樹脂のいずかれを主成分としたものである請求項6記載の木製部材補強用の高強力繊維線材を用いた木製部材の接合構造。
【請求項1】
高強力繊維糸を、繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた芯線と、
前記芯線の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面として露出させた状態で、前記芯線の周囲を巻き回して結束する拘束材とを備えたことを特徴とする木製部材補強用の高強力繊維線材。
【請求項2】
前記拘束材は、前記高強力繊維糸以外の繊維であって、前記高強力繊維糸より耐剪断性の高い繊維により形成されている請求項1記載の木製部材補強用の高強力繊維線材。
【請求項3】
前記拘束材は、前記芯線を中心として、組紐状または編紐状に編まれたものである請求項1または2記載の木製部材補強用の高強力繊維線材。
【請求項4】
前記拘束材および前記芯線は、その周囲面が固化剤により硬化している請求項1から3記載の木製部材補強用の高強力繊維線材。
【請求項5】
高強力繊維糸を、繊維方向を合わせ交絡させずに束ねた芯線の周囲面に、固化剤を含浸させて硬化させることで、前記高強力繊維糸を結束させ、前記芯線の周囲面を他の木製部材との固定用接着剤による接着面としたことを特徴とする木製部材補強用の高強力繊維線材。
【請求項6】
前記請求項1から5のいずれかの項に記載の木製部材補強用の高強力繊維線材を補強材として、固定用接着剤と共に、第1の木製部材と第2の木製部材との間に介在させて、前記第1の木製部材と第2の木製部材とが接合されていることを特徴とする木製部材補強用の高強力繊維線材を用いた木製部材の接合構造。
【請求項7】
前記固定用接着剤は、レゾルシノール樹脂、フェノールレゾルシノール樹脂、フェノール樹脂、α−オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、水性高分子−イソシアネート系樹脂のいずかれを主成分としたものである請求項6記載の木製部材補強用の高強力繊維線材を用いた木製部材の接合構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図12】
【公開番号】特開2013−28029(P2013−28029A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164671(P2011−164671)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000184687)小松精練株式会社 (110)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000184687)小松精練株式会社 (110)
【Fターム(参考)】
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