説明

木質ボードの製造方法

【課題】リサイクル木質チップやリサイクル木質繊維を主原料として製造した木質ボードにおいて、その製品から放散するホルムアルデヒド量が建築基準法で規制された厳しい規制値に合格し、かつMDI系化合物を接着剤に使用したときの生産コストを低減し、地球環境改善効果を有する木質ボードの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の木質ボードの製造方法は、MDI系化合物を主成分とする液状化合物100重量部に、水に難溶性若しくは不溶性の植物性タンパク質、水に難溶性若しくは不溶性であって1分子中に1個以上のアミノ基を有する植物性炭水化物及びその炭水化物の誘導体からなる群より選ばれた1種又は2種以上の植物資源由来の添加剤粉末を1〜40重量部の割合で混合してなる接着剤を木質小片又は木質繊維に塗布して加熱加圧成形することにより、地球環境負荷を低減した木質ボードを得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境保全を考慮して改良された木質ボードの製造方法に関するものである。更に詳しくは、木材又はリサイクル木材から得た木質小片や木質繊維に対して、ジフェニルメタンジイソシアネート化合物又はそのプレポリマー(以下、MDI系化合物という。)に、天然資源由来の粉末物質を添加混合してなる接着剤をバインダとして用いることにより、地球環境及び生活環境への負荷を低減した木質ボードを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パーティクルボードや繊維板などの木質ボードは、木材又は住宅解体材などのリサイクル木材を小片又は繊維状にし、それにユリア樹脂やフェノール樹脂などのホルムアルデヒド系樹脂接着剤を吹き付けて塗布し、加熱加圧成形する方法によって製造されている。パーティクルボードは、木材を細かく切削したチップ(削片)に、接着剤を塗布し、加熱加圧成形した木質ボードであり、木材のような天然材に比べて厚さや大きさを自由に加工することが可能で、狂いやそりが少ないのが特徴である。
【0003】
近年、木質ボードからのホルムアルデヒド放散量を減少させる目的で、ユリア樹脂やフェノール樹脂などのホルムアルデヒド系樹脂接着剤の代わりにMDI系化合物を接着剤に用いて木質ボードを製造する方法が行われている。また、平成15年7月の建築基準法の改正によって、ホルムアルデヒドの室内濃度が厳しく規制されたことにより、木質ボードなどの建築材料から放散するホルムアルデヒド量の規制も厳しくなり、木質ボードを成形するときに使用する接着剤も次第に非ホルムアルデヒド樹脂系が多く使用されるようになってきた。
【0004】
しかし、MDI系化合物は、ホルムアルデヒド系樹脂接着剤に比べて高価であるため、木質ボードの一種であるパーティクルボード等では、表層部分のバインダとしてホルムアルデヒド放散量が比較的少ないフェノール樹脂接着剤を使用し、芯層のみにイソシアネート化合物をバインダとして使用するパーティクルボードの製造方法が一般的に行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−34017号公報(請求項1、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に木質ボードに使用される木質小片、即ち木質チップや木質繊維は、その原料の一部又は大部分に合板などの木材工業から排出される木材廃棄物や使用済みの合板廃材、廃棄パレット並びに住宅解体材など、既に使用されて廃棄される木質材料から得た、いわゆるリサイクル木質チップやリサイクル木質繊維を使用しており、産業廃棄物として排出される木質廃棄物の減少に大きく貢献している。
【0006】
ところが、そのボード製造に際して使用される全エネルギや炭酸ガス、NOx、SOx等の排出量を計算して地球環境への影響度を調べるインベントリー分析を行うと、丸太を原料にして得た木質チップや木質繊維を使用して木質ボードを生産するケースとを比較してライフサイクルアセスメント(LCA)分析した場合に、使用する接着剤による影響が極めて大きくなり、リサイクル木質チップやリサイクル木質繊維を原料とすることによる地球環境改善への効果は少ないことが明らかになった。その上、リサイクル木質チップやリサイクル木質繊維を原料を用いた木質ボードは、原料としたリサイクル木質チップやリサイクル木質繊維に既にホルムアルデヒドが含まれているため、ホルムアルデヒド放散量が多くなり、建築基準法で決められたホルムアルデヒド放散量の規制値に合格するのが困難であるという問題があり、この種の木質ボードを生産する際には、非ホルムアルデヒド系接着剤であるMDI系化合物を使用しなければならないのが実情であった。しかし、この接着剤は、ホルムアルデヒド系接着剤に比べて高価であり、ボードの生産コストが上昇するという問題がある。特にユリア樹脂やフェノール樹脂などのホルムアルデヒド系樹脂接着剤を使用する場合に比べて、MDI系化合物を接着剤に使用した場合は、LCA分析の結果、全エネルギ使用量は多くなるという問題が明らかになった。
【0007】
本発明の目的は、リサイクル木質チップやリサイクル木質繊維を主原料として製造した木質ボードにおいて、その製品から放散するホルムアルデヒド量が建築基準法で規制された厳しい規制値に合格し、かつMDI系化合物を接着剤に使用したときの生産コストを低減し、地球環境改善効果を有する木質ボードの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、MDI系化合物を主成分とする液状化合物100重量部に、水に難溶性若しくは不溶性の植物性タンパク質、水に難溶性若しくは不溶性であって1分子中に1個以上のアミノ基を有する植物性炭水化物及びその炭水化物の誘導体からなる群より選ばれた1種又は2種以上の植物資源由来の添加剤粉末を1〜40重量部の割合で混合してなる接着剤を木質小片又は木質繊維に塗布して加熱加圧成形することにより、地球環境負荷を低減した木質ボードを得ることを特徴とする木質ボードの製造方法である。
請求項1に係る発明では、MDI系化合物を主成分とする液状化合物に混合する上記添加剤粉末は、いずれもその原料が植物資源に由来し、炭素成分も多く含まれる。上記添加剤粉末をMDI系化合物を主成分とする液状化合物に混合することで、木質廃棄物から得た木質チップや木質繊維を主原料として製造した木質ボード中に含まれているホルムアルデヒドをこの添加剤粉末が吸収結合するため、製造した木質ボードのホルムアルデヒド放散量を低減することができる。また、上記添加剤粉末はMDI系化合物とも緩やかに化学反応して結合するため、接着剤の木質内部への浸透を防止し、木質ボードの接着強度を高める効果が得られる。また、接着剤に添加剤粉末を所定の割合で混合することにより、石油資源に由来するMDI系化合物の使用量を低減することが可能になるため、地球上の炭素循環及び地球温暖化の原因になる炭酸ガス排出量を低減できる。従って、本発明の製造方法は、環境に優しく、地球環境改善効果を有する。更に、木質ボードの製造コストを上昇させる要因である接着剤のコストを大きく低減するという効果も著しい。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、水に難溶性若しくは不溶性の植物性タンパク質が高温脱脂大豆滓である木質ボードの製造方法である。
請求項2に係る発明では、タンパク質が熱変性して水に溶解し難くなった高温脱脂大豆滓は、MDI系化合物に対して多量に添加混合しても、接着剤の粘度上昇が少ないため、木質チップや木質繊維の表面にこの高温脱脂大豆滓を混合した接着剤をスプレーによって均一に噴霧又は散布することができる。また、高温脱脂大豆滓の有するアミノ基は、ホルムアルデヒドとも容易に反応するので、木質材料内部に存在する遊離のホルムアルデヒドと結合して、ホルムアルデヒド放散量が低減する効果がある。また、高温脱脂大豆滓は、イソシアネート基と容易に反応する水酸基やアミノ基を有するので、充填剤として働いてMDI系化合物と強固に結合し、木質小片や木質繊維などの木質材料内部へ接着剤が浸透するのを防止する。そのため、MDI系化合物に対する高温脱脂大豆滓の添加量が多くなっても、得られた木質ボードの曲げ強度や剥離強度、耐水接着性能の低下が小さい。高温脱脂大豆滓はMDI系化合物に多量に混合できるため、それだけ接着剤のコストを低減することができ、地球環境改善効果を有する。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明であって、水に難溶性若しくは不溶性の植物性タンパク質がトウモロコシタンパク質である木質ボードの製造方法である。
請求項3に係る発明では、水に難溶なプロラミンタンパクからなるコーングルテンの粉末を、MDI系化合物に添加混合して接着剤として使用することで、タンパク質が熱変性して水に溶解し難くなった高温脱脂大豆滓と同様な添加効果を有する。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明であって、水に難溶性若しくは不溶性で1分子中に1個以上のアミノ基を有する植物性炭水化物がカルバミン酸変性デンプンである木質ボードの製造方法である。
請求項4に係る発明では、カルバミン酸変性デンプンが未変性のデンプンに比べて水に難溶性若しくは不溶性であり、アルカリ性水でも溶解し難いこと、及び分子中にアミノ基を有してホルムアルデヒドやイソシアネートと反応し易い性質があるのを利用したものである。このような性質を有するカルバミン酸変性デンプンをMDI系化合物に対して多量に混合しても、カルバミン酸変性デンプンは溶解して接着剤の粘度を増加させることがないので、接着剤の粘度上昇が極めて少ないため、木質チップや木質繊維の表面にこのカルバミン酸変性デンプンを混合した接着剤をスプレーによって塗布したときに、カルバミン酸変性デンプンを添加混合しない接着剤と比べても全く支障なく使用できる。このような特徴は高温脱脂大豆滓やトウモロコシタンパク質を添加混合する場合に比べて著しく、更に、ホルムアルデヒド捕集効果も高温脱脂大豆滓やトウモロコシタンパク質に比べて大きい。従って、木質ボードの製造に際して、植物資源由来のカルバミン酸変性デンプンは理想的な充填剤であり、カルバミン酸変性デンプンをMDI系化合物に添加した接着剤は、使用済み合板や木質ボード類などの木質廃棄物を再利用した木質ボードの接着剤として最も好適であり、接着剤のコストを削減し、大気中の炭酸ガス削減にも寄与する。このカルバミン酸変性デンプンを用いた製造方法は、環境に優しく、地球環境改善効果を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の木質ボードの製造方法は、MDI系化合物を主成分とする液状化合物に、水に難溶性若しくは不溶性の植物性タンパク質、水に難溶性若しくは不溶性であって1分子中に1個以上のアミノ基を有する植物性炭水化物及びその炭水化物の誘導体からなる群より選ばれた1種又は2種以上の植物資源由来の添加剤粉末を所定の割合で混合してなる接着剤を木質小片又は木質繊維に塗布して加熱加圧成形することを特徴とする。MDI系化合物を主成分とする液状化合物に混合する上記添加剤粉末は、いずれもその原料が植物資源に由来し、炭素成分も多く含まれる。上記添加剤粉末をMDI系化合物を主成分とする液状化合物に混合することで、木質廃棄物から得た木質チップや木質繊維を主原料として製造した木質ボード中に含まれているホルムアルデヒドをこの添加剤粉末が吸収結合するため、製造した木質ボードのホルムアルデヒド放散量を低減することができる。また、上記添加剤粉末はMDI系化合物とも緩やかに化学反応して結合するため、接着剤の木質内部への浸透を防止し、木質ボードの接着強度を高める効果が得られる。また、接着剤に添加剤粉末を所定の割合で混合することにより、石油資源に由来するMDI系化合物の使用量を低減することが可能になるため、地球上の炭素循環及び地球温暖化の原因になる炭酸ガス排出量を低減できる。従って、本発明の製造方法は、環境に優しく、地球環境改善効果を有する。更に、木質ボードの製造コストを上昇させる要因である接着剤のコストを大きく低減するという効果も著しい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
従来、木質ボードは、木質小片や木質繊維に接着剤を固形分換算で2〜25%噴霧塗布してから、平坦なマット状に重ね、それを120〜250℃の熱板温度に保持したホットプレスに挿入して0.5〜5MPaの圧力をボード厚さ1mm当たり3〜60秒の割合で加えて圧締して成形することにより得ている。その際に接着剤としてユリア樹脂、メラミン・ユリア樹脂などのアミノ系樹脂、或いはフェノール樹脂などのホルムアルデヒドを一部の原料に使用するホルムアルデヒド系樹脂を通常使用していた。
【0014】
しかし、このようにして得た木質ボードの製品からは、ホルムアルデヒドガスが放散し、その製品を使用した場合に室内空間の大気を汚染してしまうことが問題となり、数年前より、大気中に放散するホルムアルデヒドガスの濃度が厳しく規制されるようになった。製品から放散するホルムアルデヒド量の建築基準法の規制が特に厳しい等級区分「F☆☆☆☆」の製品には、アミノ系樹脂接着剤を接着剤として使用しても規制値に適合しないので、上記等級区分に適合する製品に使用される接着剤には、MDI系化合物を用いるのが一般的であった。しかしながら、MDI系化合物は価格が高いので、表層部分などにフェノール樹脂接着剤を使用する方法等が採用され、MDI系化合物の使用量の低減を図っていた。また、MDI系化合物接着剤のコスト低減のために、炭酸カルシウムなどの無機質系充填剤を添加することが行われるが、それはボードの密度を高めたり、また切削用刃物を傷めるので、好ましい方法ではなかった。
【0015】
本発明者らは、上記諸問題を解決するために、鋭意研究した結果、MDI系化合物に対して、水に難溶性若しくは不溶性のタンパク質、水に難溶性若しくは不溶性であって1分子中に1個以上のアミノ基を有する炭水化物及びその炭水化物の誘導体からなる群より選ばれた1種又は2種以上の植物資源由来の添加剤粉末を混合することで、所望の効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明の木質ボードの製造方法は、MDI系化合物を主成分とする液状化合物100重量部に、水に難溶性若しくは不溶性の植物性タンパク質、水に難溶性若しくは不溶性であって1分子中に1個以上のアミノ基を有する植物性炭水化物及びその炭水化物の誘導体からなる群より選ばれた1種又は2種以上の植物資源由来の添加剤粉末を1〜40重量部の割合で混合してなる接着剤を木質小片又は木質繊維に塗布して加熱加圧成形することにより、地球環境負荷を低減した木質ボードを得ることを特徴とする。
【0017】
MDI系化合物を主成分とする液状化合物に混合する上記添加剤粉末は、いずれもその原料が植物資源に由来し、炭素成分も多く含まれる。上記添加剤粉末をMDI系化合物を主成分とする液状化合物に混合することで、木質廃棄物から得た木質チップや木質繊維を主原料として製造した木質ボード中に含まれているホルムアルデヒドをこの添加剤粉末が吸収結合するため、製造した木質ボードのホルムアルデヒド放散量を低減することができる。また、上記添加剤粉末はMDI系化合物とも緩やかに化学反応して結合するため、接着剤の木質内部への浸透を防止し、かつ架橋密度を高める構造をとらせて、木質ボードの接着強度と耐水接着性能を高める効果が得られる。言わば反応性充填剤と考えて良いものであり、この効果は、通常使用されている小麦粉や低温脱脂大豆など水に溶解若しくは膨張する増量剤とは異なり、接着剤との急速な反応が抑制されるので、MDI系化合物接着剤に多量に添加することが可能になり、多量添加による木質ボードの耐水性能の低下を緩やかにする特徴が認められる。
【0018】
このような効果は、使用する木質小片がチップ状、フレーク状若しくはスティック状などの形状に関係することなく、パーティクルボード、フレークボード及びスティックボード、更にはそれらを配向させたストランドボード(OSB;Oriented Strand Board)及び木質繊維を使用したMDF(Midium Density Fiberboard)やHDF(High Density Fiberboard)、ハードボードやインシュレーションボードなどの木質ボード類のいずれでも同様な効果が得られる。
【0019】
またアミノ基はホルムアルデヒドとも容易に反応するので、木質材料内部に存在する遊離のホルムアルデヒドとも結合することにより、本発明の方法により製造された木質ボード製品からのホルムアルデヒド放散量が低減するという効果もある。この効果は特にカルバミン酸エステルデンプンの場合に著しく認められ、木質ボードの表層にフェノール樹脂やメラミン・ユリア樹脂などのホルムアルデヒド系樹脂接着剤を使用し、内層に本発明の接着剤糊液を用いた場合でもその効果が認められる。しかし、ホルムアルデヒド系樹脂接着剤に添加した場合は、その添加可能量は接着剤100重量部に対して1〜10重量部程度であり、それ以上の添加量では耐水接着性能の低下が大きくなるので、本発明の効果を半減させる結果になる。
【0020】
更には、これらのアミノ基を有するタンパク質並びにデンプン誘導体の粉末をMDI系化合物と混合したときにも、従来より通常使用されている小麦粉、低温脱脂大豆などの増量剤と異なり、反応の進行や粉末粒子の水による膨潤に起因する接着剤糊液の粘度上昇が緩やかであり、スプレー塗布する際の使用は何ら認められない。従って、生産性の低下などの問題点もない。
【0021】
また、接着剤に添加剤粉末を所定の割合で混合することにより、石油資源に由来するMDI系化合物の使用量を低減することが可能になるため、地球上の炭素循環及び地球温暖化の原因になる炭酸ガス排出量を低減できる。従って、本発明の製造方法は、環境に優しく、地球環境改善効果を有する。更に、木質ボードの製造コストを上昇させる要因である接着剤のコストを大きく低減するという効果も著しい。
【0022】
本発明の木質ボードの製造方法で使用する木質小片又は木質繊維としては、木質廃棄物から得たリサイクル木質小片又はリサイクル木質繊維の一部又は大部分を使用することが好適であるが、リサイクル木質材料のみならず、山より切り出した丸太や間伐材、林地残材、柱や梁などの住宅解体材から得た木質小片又は木質繊維等が挙げられる。また木質小片又は木質繊維の形状は、特に問わない。
【0023】
添加剤粉末の添加量は、MDI系化合物を主成分とする液状化合物100重量部に対して、1〜40重量部、好ましくは10〜30重量部の割合で混合する。添加剤粉末の割合が、上記範囲内であればホルムアルデヒド放散量の低減や接着性能向上の効果が得られる。なお、添加剤粉末の割合が1重量部未満では、所望の効果が得られず、添加剤粉末の割合が40重量部を越えると耐水接着性能の低下が顕著になる。
【0024】
水に難溶性若しくは不溶性の植物性タンパク質としては、高温脱脂大豆滓、トウモロコシタンパク質が挙げられる。高温脱脂大豆滓は、食用油の生産の際に多量に排出されるものであり、価格も安価であるために、木質ボードの製造コストを大きく低減することができる。高温脱脂大豆滓は、タンパク質が熱変性して水に溶解し難くなったものであり、MDI系化合物に対して多量に添加混合しても、接着剤の粘度上昇が少ないため、木質チップや木質繊維の表面にこの高温脱脂大豆滓を混合した接着剤をスプレーによって均一に噴霧又は散布することができる。また、高温脱脂大豆滓の有するアミノ基は、ホルムアルデヒドとも容易に反応するので、木質材料内部に存在する遊離のホルムアルデヒドと結合して、ホルムアルデヒド放散量が低減する効果がある。また、高温脱脂大豆滓は、イソシアネート基と容易に反応する水酸基やアミノ基を有するので、充填剤として働いてMDI系化合物と強固に結合し、木質小片や木質繊維などの木質材料内部へ接着剤が浸透するのを防止する。そのため、MDI系化合物に対する高温脱脂大豆滓の添加量が多くなっても、得られた木質ボードの曲げ強度や剥離強度、耐水接着性能の低下が小さい。高温脱脂大豆滓はMDI系化合物に多量に混合できるため、それだけ接着剤のコストを低減することができ、地球環境改善効果を有する。
【0025】
トウモロコシタンパク質は、水に難溶なプロラミンタンパクからなるコーングルテンの粉末を、MDI系化合物に添加混合して接着剤として使用することで、タンパク質が熱変性して水に溶解し難くなった高温脱脂大豆滓と同様な添加効果を有する。
【0026】
水に難溶性若しくは不溶性で1分子中に1個以上のアミノ基を有する植物性炭水化物としては、カルバミン酸変性デンプンが挙げられる。カルバミン酸変性デンプンの作製方法は、先ず、米、麦、トウモロコシ、ヒエ、キビ、アワ、コーリャン(タカキビ又はソルガム)、ジャガイモ、サツマイモ、タピオカなどの植物デンプンに、そのグルコース単位1モルあたり0.5〜4モルの尿素を混合し、粉砕しながら更に均一な混合を行う。混合後は、得られた混合物を100〜200℃の温度で0.5〜5時間加熱する。この加熱により、尿素が脱アンモニア反応を起こしてカルバミン酸となり、更にカルバミン酸がグルコース中の水酸基とエステル化反応を起こしてデンプンの変性物が生成する。生成したデンプンの変性物は、冷却した後、60〜200メッシュの大きさに粉砕することにより、カルバミン酸変性デンプンが得られる。
【0027】
デンプンを構成するグルコースの有する水酸基のうち、エステル化が可能な水酸基は3個であるため、理論上は3モルを越える尿素を加えてもそれ以上のエステル化反応が起こらない。しかし、脱アンモニア反応を起こさず、未反応で残留する尿素も存在するため、植物デンプンへの尿素の添加量の上限を4モルとした。なお、4モルを越える尿素を加えても遊離尿素の形でデンプン中に残量するので、効果がない。また、植物デンプンへの尿素の添加量が0.5モル未満では本発明の製造方法で期待する程度の耐水強度の向上効果やホルムアルデヒド吸収効果は見られない。
【0028】
このようにして得られたカルバミン酸変性デンプンは、未変性のデンプンに比べて水に難溶性若しくは不溶性となり、アルカリ性水でも溶解し難い性質を有する。また、分子中にアミノ基を有してホルムアルデヒドやイソシアネートと反応し易い性質も併せ持つ。カルバミン酸変性デンプンをホルムアルデヒド系樹脂接着剤やMDI系化合物対して多量に混合しても、カルバミン酸変性デンプンは溶解して接着剤の粘度を増加させることがないので、接着剤の粘度上昇が極めて少ないため、木質チップや木質繊維の表面にこのカルバミン酸変性デンプンを混合した接着剤をスプレーによって塗布したときに、カルバミン酸変性デンプンを添加混合しない接着剤と比べても全く支障なく使用できる。このような特徴は高温脱脂大豆滓やトウモロコシタンパク質を添加混合する場合に比べて著しく、更に、ホルムアルデヒド捕集効果も高温脱脂大豆滓やトウモロコシタンパク質に比べて大きい。従って、木質ボードの製造に際して、植物資源由来のカルバミン酸変性デンプンは理想的な充填剤であり、カルバミン酸変性デンプンをMDI系化合物に添加した接着剤は、使用済み合板や木質ボード類などの木質廃棄物を再利用した木質ボードの接着剤として最も好適であり、接着剤のコストを削減し、大気中の炭酸ガス削減にも寄与する。このカルバミン酸変性デンプンを用いた製造方法は、環境に優しく、地球環境改善効果を有する。
【0029】
本発明の製造方法では、木質チップ又は木質繊維をボード化する条件は公知の条件を適用できる。例えば、MDI系化合物に対して添加剤粉末を所望の割合で混合した接着剤を全乾チップ又は全乾繊維の重量に対して、接着剤固形分が2〜25%の割合になるように、木質チップ等に噴霧又は散布によって均一に塗布する。チップへの接着剤のスプレー塗布後は、チップを搬送用板又はベルト上に載せ、マット状に堆積した後に、形成したマットを120〜250℃に保持したホットプレスに挿入し、0.5〜5MPaの圧力を加えて、成形するボード厚さ1mm当たり3〜60秒間、好ましくは8〜15秒間加熱加圧成形することにより、任意の厚さ、任意の密度の木質ボードが得られる。
【実施例】
【0030】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1〜4、比較例1>
先ず、木質小片として、平均厚さが0.7mm、長さ方向の平均が約12mm、幅方向の平均が約3mmで、平均含水率が8%のスギセミフレークチップを用意した。
次いで、ポリメリックMDI(日本ポリウレタン工業社製;WC−230)100重量部に対して、以下のように試作したカルバミン酸変性デンプンを10、20、30及び40重量部を添加混合して接着剤を調製した。試作したカルバミン酸変性デンプンは、精米粉及び玄米粉を植物デンプンとし、これらの植物デンプンに、そのグルコース単位1モルあたり1モルの割合で尿素を混合し、粉砕しながら均一な混合を行った後、混合物を150℃の温度で3時間加熱することにより、エステル化反応させ、生成物を60〜200メッシュの大きさに粉砕したものである。
【0031】
次に、調製したこれらの接着剤をチップ全乾重量あたり7.5%の割合でスプレー塗布し、それを実施例1〜4の塗布済みチップとした。同様に、比較対象としてポリメリックMDIのみから構成された接着剤をチップ全乾重量あたり7.5%の割合でスプレー塗布し、これを比較例1の塗布済みチップとした。チップへの接着剤のスプレー塗布後は、チップを40mm×40mmのアルミニウム製コールプレート(caul plate)上に載せ、厚さが均一なマットを形成した。形成したマットを熱板温度180℃に保持したホットプレスに挿入し、30kg/cm2(約2.94MPa)の圧力を加えて3分間加熱加圧成形した。成形後ホットプレスから取り出して、厚さが10mm、密度が0.6g/cm3の試験用パーティクルボードを各3枚ずつ合計15枚を得た。
【0032】
実施例1〜4及び比較例1で得られた試験用パーティクルボードの性能をJIS A 5908に規定する試験方法により試験した。常態曲げ強さ(modulus of rupture)、湿潤時曲げB試験、剥離強さ、吸水厚さ膨潤率及び吸水率についての結果を図1〜図3にそれぞれ示す。またホルムアルデヒド放散量についての結果を次の表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1より明らかなように、ホルムアルデヒド放散量は、カルバミン酸変性デンプンの添加率が高くなるにつれて、低減する傾向が見られた。
また図1〜図3の各性能試験結果から、ポリメリックMDIへのカルバミン酸変性デンプンの添加量は40重量部までは大きな性能変化はないことが示された。
【0035】
<実施例5〜7、比較例2,3>
先ず、リサイクルチップを用いたチップを用意した。このチップは、合板廃材、使用済みパレット等の木質廃棄物から得たリサイクルチップを用いてパーティクルボードを製造する工場より入手したものである。
次いで、フェノール樹脂接着剤(自社製品)に対して3%となるようにワックスエマルジョンを添加混合して接着剤を調製し、チップに対する含脂率が13%となるように接着剤をスプレー塗布したものを表層用チップとした。
【0036】
次に、ポリメリックMDI(日本ポリウレタン工業社製;MR−200)100重量部に対して、前述した実施例1で試作したものと同様のカルバミン酸変性デンプン、高温脱脂大豆滓(Jオイル社製;ソイプロ)及びコーングルテン粉末(日本コーンスターチ社製)をそれぞれ20重量部ずつ混合して接着剤を調製した。調製したこれらの接着剤をチップ全乾重量あたり5%の割合でスプレー塗布し、それを実施例5〜7の芯層用チップとした。同様に、比較対照としてポリメリックMDIのみから構成された接着剤をチップ全乾重量あたり5%及び4%の割合でそれぞれスプレー塗布し、それを比較例2,3の芯層用チップとした。
次に、これら前もって準備した表層用チップと実施例5〜7及び比較例2,3の芯層用チップを4対6の割合になるように40mm×40mmのアルミニウム製コールプレート上に散布して厚さが均一なマットを形成した。形成したマットを熱板温度220℃に保持したホットプレスに挿入し、30kg/cm2(約2.94MPa)の圧力を加えて170秒間、次いで20kg/cm2(約1.96MPa)の圧力を加えて30秒間、更に10kg/cm2(約0.98MPa)の圧力を加えて15秒間加熱加圧成形した。成形後ホットプレスから取り出して、厚さが20mm、密度が0.75g/cm3の試験用パーティクルボードを各3枚ずつ合計15枚を得た。
【0037】
実施例5〜7及び比較例2,3で得られた試験用パーティクルボードの性能をJIS A 5908に規定する試験方法により試験した。常態曲げ強さ、湿潤時曲げB試験、剥離強さ、吸水厚さ膨潤率、吸水率及びホルムアルデヒド放散量についての結果を表2にそれぞれ示す。またスプレー性能の経時変化についての結果を表3に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
表2より明らかなように、実施例5〜7と比較例2のパーティクルボードについての各性能試験を比較したところ、パーティクルボードの性能には大きな変化は見られなかった。この結果からポリメリックMDIにカルバミン酸変性デンプン、高温脱脂大豆滓及びコーングルテン粉末のような添加剤を加えても、パーティクルボードは実用上問題なく使用できることが確認された。また実施例5〜7と比較例2のホルムアルデヒド放散量を比較したところ、実施例5〜7のパーティクルボードでは、ホルムアルデヒド放散量を低減させる効果があることが明らかになった。特にカルバミン酸変性デンプンを添加剤として使用した実施例5がホルムアルデヒド放散量の低減効果が大きい結果であった。添加剤を混合したポリメリックMDI混合液を用いて作製した実施例5〜7のパーティクルボードは、チップ重量に対して5%相当量をスプレー塗布しているため、ポリメリックMDIの実質含脂率は約4%になる。そこで実施例5〜7と、MDIのみを芯層チップに対して4%の割合で塗布した比較例3とを比較したところ、ホルムアルデヒド放散量は実施例7と比較例3は同程度であったが、実施例5及び6は比較例3よりも低い放散量となっていた。またパーティクルボードの他の性能では、比較例3は実施例5〜7に比べてボード性能が低下しているので、この結果から、ポリメリックMDIが同程度の使用量であっても、所望の添加剤を加えることで増強効果があることが確認された。
【0041】
また、表3より明らかなように、実施例5のカルバミン酸変性デンプンは、ポリメリックMDIに添加した後も長時間スプレー塗布性能に変化がなく、混合液は安定であり、接着剤混合液の可能使用時間が高い結果が得られた。実施例6の高温脱脂大豆滓については、ポリメリックMDIのみの比較例2,3と同様、混合直後は均一に噴霧することができており、放置2時間後でも、十分に噴霧することが可能であった。また放置3時間後は、やや粘度上昇が見られたが、実際に使用する分には、十分に噴霧することが可能であった。実施例7のコーングルテン粉末については、ポリメリックMDIのみの比較例2,3と同様、混合直後は均一に噴霧することができており、放置3時間後でも、十分に噴霧に使用することが可能であった。
【0042】
<実施例8及び9、比較例4>
先ず、リサイクルチップを用いたチップを用意した。このチップは、合板廃材、使用済みパレットなどの木質廃棄物から得たリサイクルチップを用いてパーティクルボードを製造する工場より入手したものである。
次いで、フェノール樹脂接着剤(自社製品)に対して3%となるようにワックスエマルジョンを添加混合して接着剤を調製し、チップに対する含脂率が13%となるように接着剤をスプレー塗布したものを表層用チップとした。
【0043】
次に、ポリメリックMDI(日本ポリウレタン工業社製;MR−200)100重量部に対して、前述した実施例1で試作したものと同様のカルバミン酸変性デンプンと高温脱脂大豆滓(Jオイル社製;ソイプロ)をそれぞれ10重量部ずつ合計20重量部を混合して接着剤を調製した。同様に、ポリメリックMDI(日本ポリウレタン工業社製;MR−200)100重量部に対して、前述した実施例1で試作したものと同様のカルバミン酸変性デンプンとコーングルテン粉末(日本コーンスターチ社製)をそれぞれ10重量部ずつ合計20重量部を混合して接着剤を調製した。調製したこれらの接着剤をチップ全乾重量あたり5%の割合でスプレー塗布し、それを実施例8,9の芯層用チップとした。同様に、比較対照としてポリメリックMDIのみから構成された接着剤をチップ全乾重量あたり5%の割合でスプレー塗布し、それを比較例4の芯層用チップとした。
次に、これら前もって準備した表層用チップと実施例8,9及び比較例4の芯層用チップを4対6の割合になるように40mm×40mmのアルミニウム製コールプレート上に散布して厚さが均一なマットを形成した。成形したマットを熱板温度220℃に保持したホットプレスに挿入し、30kg/cm2(約2.94MPa)の圧力を加えて170秒間、次いで20kg/cm2(約1.96MPa)の圧力を加えて30秒間、更に10kg/cm2(約0.98MPa)の圧力を加えて15秒間加熱加圧成形した。成形後ホットプレスから取り出して、厚さ20mm、密度が0.75g/cm3の試験用パーティクルボードを各3枚ずつ合計15枚を得た。
【0044】
実施例8,9及び比較例4で得られた試験用パーティクルボードの性能をJIS A 5908に規定する試験方法により試験した。常態曲げ強さ、湿潤時曲げB試験、剥離強さ、吸水厚さ膨潤率、吸水率及びホルムアルデヒド放散量についての結果を表4にそれぞれ示す。
【0045】
【表4】

【0046】
表4より明らかなように、実施例8,9では、添加剤としてカルバミン酸変性デンプンと高温脱脂大豆滓、或いはカルバミン酸変性デンプンとコーングルテン粉末をポリメリックMDIに混合した接着剤を使用しても、ポリメリックMDIのみを接着剤として使用した比較例4の性能と遜色なく、上記添加剤を任意の割合で混合使用することが可能であることが明らかとなった。高温脱脂大豆滓は食用油の生産の際に多量に排出されるものであり、価格も安価であるために、これに任意の割合でカルバミン酸変性デンプンなどを混合することにより、添加剤のコストを調製することができる。それと同時にインベントリー分析の結果、本発明の方法によってメラミン・ユリア樹脂やフェノール樹脂などのホルムアルデヒド系樹脂接着剤に比べて炭酸ガス排出量と環境負荷量が高いイソシアネート化合物系樹脂(服部順昭;第22回木質ボード・木質複合材シンポジウム講演要旨集、p49(2006))に炭酸ガスを吸収固定する植物資源由来の添加剤を加えることが可能になり、それだけ環境改善を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】常態曲げ強さとカルバミン酸変性デンプン添加率との関係を示す図。
【図2】剥離強さとカルバミン酸変性デンプン添加率との関係を示す図。
【図3】吸水厚さ膨潤率及び吸水率とカルバミン酸変性デンプン添加率との関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジフェニルメタンジイソシアネート系化合物を主成分とする液状化合物100重量部に、水に難溶性若しくは不溶性の植物性タンパク質、水に難溶性若しくは不溶性であって1分子中に1個以上のアミノ基を有する植物性炭水化物及びその炭水化物の誘導体からなる群より選ばれた1種又は2種以上の植物資源由来の添加剤粉末を1〜40重量部の割合で混合してなる接着剤を木質小片又は木質繊維に塗布して加熱加圧成形することにより、地球環境負荷を低減した木質ボードを得ることを特徴とする木質ボードの製造方法。
【請求項2】
水に難溶性若しくは不溶性の植物性タンパク質が高温脱脂大豆滓である請求項1記載の木質ボードの製造方法。
【請求項3】
水に難溶性若しくは不溶性の植物性タンパク質がトウモロコシタンパク質である請求項1記載の木質ボードの製造方法。
【請求項4】
水に難溶性若しくは不溶性で1分子中に1個以上のアミノ基を有する植物性炭水化物がカルバミン酸変性デンプンである請求項1記載の木質ボードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−331286(P2007−331286A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167178(P2006−167178)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(599042245)東京ボード工業株式会社 (3)
【出願人】(390001339)光洋産業株式会社 (46)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】