説明

未晒クラフトパルプの洗浄方法

【課題】未晒クラフトパルプの洗浄方法を提供する。
【解決手段】クラフトパルプ未晒洗浄工程において、向流多段洗浄各段の洗浄ろ液中に含まれる可溶性石鹸量が、洗浄ろ液に対して3.0質量%以下であり、且つ洗浄ろ液の固形分に対して30質量%以下であることを特徴とする未晒クラフトパルプの洗浄方法。可溶性石鹸量を低減させる手段として、(1)パルプスラリーに二酸化炭素を添加する、(2)パルプスラリーから泡を除去する、(3)パルプチップをシーズニングする、手段から選ばれる少なくとも1つ以上を使用すると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未晒クラフトパルプの洗浄方法に関するものであり、詳しくは、クラフトパルプ未晒洗浄工程において、向流多段洗浄各段の洗浄ろ液中に含まれる可溶性石鹸量が、洗浄ろ液に対して3.0質量%以下であり、且つ洗浄ろ液の固形分に対して30質量%以下であることを特徴とする未晒クラフトパルプの洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材チップ及びその他繊維原料を水酸化ナトリウム及び硫化ナトリウムを主成分とする蒸解薬液によって高温で蒸解することをクラフト蒸解と言い、クラフト蒸解によって得られたパルプをクラフトパルプと言う。
【0003】
クラフト蒸解薬液の廃液を黒液と言い、蒸解後のパルプから黒液を洗い落とす工程を未晒洗浄工程と言う。
【0004】
未晒洗浄工程では、真空式フィルタ洗浄機、加圧式フィルタ洗浄機、プレス洗浄機及びディフューザー洗浄機等の各種洗浄装置を用いた向流多段洗浄によって洗浄が行われる。このようにしてパルプから洗い落とした黒液は未晒洗浄ろ液として系内を循環し、最終的には回収ボイラーへと送られる。
【0005】
未晒洗浄ろ液中には蒸解薬液のアルカリ分、蒸解によってパルプ原料から流出した有機分が含まれる。有機分としては脂肪酸石鹸、樹脂酸石鹸等の可溶性石鹸、クラフトリグニン及び低分子化した炭水化物等が挙げられる。
【0006】
このうち可溶性石鹸は高い界面活性能を有するため、未晒洗浄ろ液を発泡させる。これは未晒洗浄工程の操業性に悪影響を及ぼし、結果としてクラフトパルプ化工程全体に負の影響を及ぼす。具体的には、洗浄機の負荷増大による未晒洗浄処理量の低下、洗浄効率の低下による蒸解薬品回収率の低下や後段における晒薬品使用量の増加等が挙げられる。
【0007】
このように未晒洗浄工程における洗浄効率は非常に重要である。未晒洗浄工程の洗浄効率を向上させる方法としては、界面活性剤を添加する方法(例えば、特許文献1参照)や二酸化炭素を添加してpHを低下させる方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。しかしながら、未晒洗浄ろ液中に含まれる可溶性石鹸量に着目した例はこれまで見られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−336620号公報
【特許文献2】特許2056433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、未晒クラフトパルプを効率良く洗浄する方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、未晒クラフトパルプを洗浄する方法について鋭意検討を重ねた結果、クラフトパルプ未晒洗浄工程において、向流多段洗浄各段の洗浄ろ液中に含まれる可溶性石鹸量を、洗浄ろ液に対して3.0質量%以下、且つ洗浄ろ液の固形分に対して30質量%以下にすることによって、未晒クラフトパルプを効率良く洗浄できることを見出し、本発明に至った。
また、可溶性石鹸量を低減させる手段として、(1)パルプスラリーに二酸化炭素を添加する、(2)パルプスラリーから泡を除去する、(3)パルプチップをシーズニングする、手段から選ばれる少なくとも1つ以上を使用すると好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の未晒クラフトパルプの洗浄方法によれば、クラフトパルプ未晒洗浄工程において、向流多段洗浄各段の洗浄ろ液中に含まれる可溶性石鹸量を、洗浄ろ液に対して3.0質量%以下、且つ洗浄ろ液の固形分に対して30質量%以下にすることによって、洗浄効率を従来よりも高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の具体例を示すが、本発明は以下の具体例に限定されない。
【0013】
本発明は、クラフトパルプ未晒洗浄工程において、向流多段洗浄各段の洗浄ろ液中に含まれる可溶性石鹸量が、洗浄ろ液に対して3.0質量%以下であり、且つ洗浄ろ液の固形分に対して30質量%以下であることを特徴とする未晒クラフトパルプの洗浄方法である。
【0014】
本発明に係る可溶性石鹸は、主として脂肪酸石鹸や樹脂酸石鹸からなる。脂肪酸石鹸としては、オレイン酸ナトリウム及びリノレン酸ナトリウム、樹脂酸石鹸としてはアビエチン酸ナトリウム、ネオアビエチン酸ナトリウム、ピマール酸ナトリウム、イソピマール酸ナトリウム及びパルストリン酸ナトリウム等がその主成分である。
【0015】
本発明に用いられるクラフトパルプの未晒洗浄ろ液に特に制限はないが、針葉樹あるいは広葉樹をクラフト蒸解して得られた未晒洗浄ろ液が好ましい。
【0016】
本発明に用いられるクラフトパルプの未晒洗浄ろ液を得るために行われるクラフト蒸解の方法に特に制限はなく、クラフト蒸解後のパルプのカッパー価が針葉樹パルプの場合15〜35、広葉樹パルプの場合10〜25に収まるように蒸解温度、蒸解時間、液比、アルカリ添加率等の条件を適宜調整して構わない。蒸解装置についても特に制限はなく、連続式蒸解釜を用いても良いしバッチ式蒸解釜を用いても良い。蒸解薬液についても特に制限はなく、アントラキノン、水素化ホウ素ナトリウム等のパルプ収率向上剤を添加しても良いし、蒸解薬液中の硫化ナトリウムをポリサルファイドに酸化変換しても良い。
【0017】
本発明における未晒洗浄工程の洗浄装置とその段数に特に制限はないが、洗浄効率と回収ボイラーへの黒液送り濃度を適切な値に保つために、真空式フィルタ洗浄機、加圧式フィルタ洗浄機、プレス洗浄機及びディフューザー洗浄機を適宜組み合わせて3〜6段の向流多段洗浄を行うことが好ましい。
【0018】
本発明における未晒洗浄工程への消泡剤添加の有無に関して特に制限はないが、ナトリウム石鹸による発泡を抑制するために、シリコーン系消泡剤を未晒洗浄ろ液質量に対して10〜1000ppm程度添加することが好ましい。
【0019】
本発明では、ろ水性を向上させるために、例えば、以下の手段から選ばれる方法で実施できる。
(1)パルプスラリーに二酸化炭素を添加する。
(2)パルプスラリーから泡を除去する。
(3)パルプチップをシーズニングする。
【0020】
(1)の二酸化炭素を添加する方法では、パルプスラリー中のpHの低下によって可溶性石鹸が不溶性の酸の形になり、界面活性能が低下した結果、吸引時の発泡が抑制され、ろ水性を向上することができる。また、二酸化炭素によるpHの低下によって、パルプ繊維の膨潤度が低下するため、ろ水度が向上できる。
(2)の泡を除去する方法では、可溶性石鹸は泡部分に偏在しているので、泡の除去によって可溶性石鹸は取り除くことができる。その結果、吸引時の発泡が抑制される結果、ろ水性を向上することができる。
(3)のチップのシーズニングする方法では、系内に持ち込まれる脂肪酸や樹脂酸が減少するので、可溶性石鹸が減少し、吸引時の発泡が抑制されるため、ろ水性を向上することができる。
【0021】
本発明に用いられる未晒洗浄ろ液中に含まれる可溶性石鹸量の調整方法に特に制限はないが、硫酸や二酸化炭素等の酸性化剤を用いて未晒洗浄ろ液のpHを低下させることによって、可溶性石鹸を酸の形にする方法が好ましい。
【0022】
本発明に用いられる可溶性石鹸量の測定方法に特に制限はないが、下記論文に詳細な記載があり、記載された測定方法を用いて測定することが好ましい。これは未晒洗浄ろ液を石油エーテル抽出する方法であり、すなわち未晒洗浄ろ液のpHを1に酸性化した後石油エーテル抽出を行って得られた値(A)から、未晒洗浄ろ液を酸性化せずにそのまま石油エーテル抽出して得られた値(B)を引いた値(A−B)を可溶性石鹸含有量とする方法である。
【0023】
本発明では、詳しくは、M.DOUEK and L.H.ALLEN、“Calcium soap deposition in kraft mill brownstock systems”,PULP & PAPER CANADA,81(11),T317−T322(1980)に記載される未晒パルプろ液中の溶解性石鹸定量法により測定する。
まず、未晒パルプろ液中に溶解している石鹸成分量は2種類の抽出操作によって測定される方法である。(A)元のpH(通常10〜11)で行われ、不溶性のコロイド性樹脂を測定する。(B)pHを1に酸性化して全ての石鹸成分を酸として沈殿させる方法である。これら2つの方法で測定された(B−A)の差により、元のpHにおける可溶性石鹸の含有量を求めることができる。次に測定操作を詳細に説明する。
【0024】
[調製]
未晒パルプろ液を250mL計量し、400mLビーカーに入れる。ビーカーに過酸化水素溶液(30%過酸化水素3部、水2部)15mLを添加する。さらに、亜硫酸ナトリウム溶液15mL(無水亜硫酸ナトリウム20gを100mLの水に溶かしたもの)を添加し、良く撹拌する。
【0025】
[測定方法(A)]
撹拌後、調製された未晒パルプろ液を1Lの分液漏斗に移し、アセトン250mLとメタノール60mLを添加し良く振る。石油エーテル200mLを添加し10分間振り、相分離させる。次に、水相を取り除き、水:アセトン:メタノール=1:2:1の混合物50mLを用いてエーテル相を2回洗浄する。洗浄液は水相に加え、エーテル相を取り除く。さらに、石油エーテル200mLを用いて、上記のように水相から2回目の抽出を行う。ついで、1回目、2回目の抽出からのエーテル相を混合する。得られたエーテル相をロータリーエヴァポレーターを用いて石油エーテルを取り除き、105±2℃の乾燥機で1.5時間乾燥させた後、デシケーター中で放冷し残渣の質量を計量する。
【0026】
[測定方法(B)]
以下の酸としての抽出の場合のみ行う操作として、塩酸(濃塩酸と水の等量混合物)を用いてpHを1に酸性化する。この操作以外は、測定方法(A)と同様な抽出手段により、定量を行った。なお、抽出されたものは酸型である。値をナトリウム石鹸に変換するため、抽出物の質量に1.08を乗する。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げるが、本発明はこの実施例により何ら限定されない。
【0028】
(実施例1)
アカマツ:スギ=7:3の混合チップをバッチ式蒸解釜を用いて、蒸解時間1時間35分、蒸解温度165℃、HF1200の条件でクラフト蒸解し、未晒洗浄工程へ投入した。未晒洗浄工程は6台の洗浄装置によって構成される向流多段洗浄である。前から5段目の洗浄装置が加圧式フィルタ洗浄機で、残りの5台は全て真空式フィルタ洗浄機である。前から4段目と5段目の間には酸素脱リグニン装置が設けられている。
洗浄1段目のパルプスラリー及び5段目の洗浄ろ液に洗浄ろ液質量に対して150ppmのシリコーン系消泡剤を添加した。
2段目の洗浄機入口のパルプスラリーを500mL採取し、スラリーのpHが9.0となるように二酸化炭素を添加した。このパルプスラリーを5Aのろ紙を用いて67kPaで減圧吸引ろ過し、ろ水量を測定した。また、二酸化炭素添加後のろ液は、前述の測定方(A)と(B)から可溶性石鹸量を求めた。
【0029】
(実施例2)
2段目パルプスラリーを1200mL採取し、ろ過によってパルプとろ液を分離した後、ろ液を泡立てることによって泡部分を約600mL取り除き、残ったろ液と先に分離したパルプを合わせて元のパルプスラリーと等しいパルプ濃度・温度にして500mL採取したことに加えて、二酸化炭素を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、可溶性石鹸量を定量し、また、ろ水量を測定した。
【0030】
(実施例3)
よくシーズニングされたアカマツ:スギ=7:3の混合チップを用いたことに加えて二酸化炭素を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、可溶性石鹸量を定量し、また、ろ水量を測定した。
【0031】
(実施例4)
二酸化炭素を添加しスラリーのpHを9.0にした以外は、実施例2と同様にして、可溶性石鹸量を定量し、また、ろ水量を測定した。
【0032】
(実施例5)
二酸化炭素を添加しスラリーのpHを9.0にした以外は、実施例3と同様にして、可溶性石鹸量を定量し、また、ろ水量を測定した。
【0033】
(実施例6)
よくシーズニングされたアカマツ:スギ=7:3の混合チップを用いた以外は、実施例2と同様にして、可溶性石鹸量を定量し、また、ろ水量を測定した。
【0034】
(実施例7)
二酸化炭素を添加しスラリーのpHを9.0にした以外は、実施例6と同様にして、可溶性石鹸量を定量し、また、ろ水量を測定した。
【0035】
(比較例1)
パルプスラリーに二酸化炭素を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、可溶性石鹸量を定量し、また、ろ水量を測定した。
【0036】
【表1】

【0037】
上記表1における実施例1〜7と比較例1から明らかなように、洗浄ろ液中の可溶性石鹸量が洗浄ろ液に対して3.0質量%以下、且つ洗浄ろ液の固形分に対して30質量%以下とした方がパルプスラリーのろ水量は高い値を示した。
【0038】
比較例1と比較して、実施例1〜7のように、ろ液中の可溶性石鹸量をろ液に対して3.0質量%以下、且つろ液の固形分に対して30質量%以下とすることによって、未晒洗浄パルプの洗浄効率を従来よりも高めることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフトパルプ未晒洗浄工程において、向流多段洗浄各段の洗浄ろ液中に含まれる可溶性石鹸量が、洗浄ろ液に対して3.0質量%以下であり、且つ洗浄ろ液の固形分に対して30質量%以下であることを特徴とする未晒クラフトパルプの洗浄方法。
【請求項2】
可溶性石鹸量を低減させる手段として、(1)パルプスラリーに二酸化炭素を添加する、(2)パルプスラリーから泡を除去する、(3)パルプチップをシーズニングする、手段から選ばれる少なくとも1つ以上を使用する請求項1記載の未晒クラフトパルプの洗浄方法。