説明

末梢ニューロンへの核酸の送達方法

本発明は、後根神経節中の標的ニューロンを特定すること、および核酸を含むベクターをその後根神経節ニューロンにクモ膜下腔経由で送達することによって、末梢ニューロン中に核酸を送達するための方法を提供する。この核酸は、末梢神経障害を治療するために、または神経ガイド管と併用して、切断された末梢神経を治療するために使用され得る神経栄養因子をコードしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、末梢ニューロンに核酸を送達するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
神経再生は、複雑な生物学的プロセスである。中枢および末梢神経系中の神経に対する損傷後に起こる変性プロセスは、いくつかの点で類似しているが、他の点では異なっている。最も大きな違いのうちの1つは、末梢神経の方が、神経損傷後に軸索を再生する能力がはるかに大きいということである(Fenrich, K. et al. 2004, Can J Neurol Sci. 31 (2): 142)(非特許文献1)。
【0003】
SchmidtおよびLeach(2003, Annu. Rev. Biomed. Eng. 5:293)(非特許文献2)は、最近、神経損傷を治療するためのいくつかの方法を再検討した。損傷により誘発される神経欠損に対する現在の治療は、典型的には、患者から得られるドナー組織に依拠している。これは、ドナー部位の機能の喪失、潜在的な疼痛を伴う神経腫の形成、ドナー神経とレシピエント神経との構造の違い、および広範囲の修復用のグラフト材料の不足という問題を提起している。これらの問題を回避するために、切断された神経断端を導管(conduit)の2つの端の中に固定することによって神経の間隙を埋めるための人工神経ガイド管(nerve guide conduit)(NGC)が開発された(US 5,019,087)(特許文献1)。例えば、Integra Neurosciences Type Iコラーゲン(collage)チューブおよびSaluMedica's SaluBridge(商標)Nerve Cuffなどいくつかの器具が、米国食品医薬品局によって承認されている。しかしながら、これらの器具は、比較的短い神経欠損の治療用に準備されており、かつ、たいていの場合、人工管は、神経自家移植ほどうまくは機能しない(Schmidt & Leach 2003, Annu. Rev. Biomed. Eng. 5:293)(非特許文献2)。
【0004】
中空のチューブ内部に神経栄養因子を送達することを含む、いくつかの組織工学的アプローチが、NGCの性能を向上させるために提案されている。透析した血漿でシリコンNGCを満たすと、リン酸緩衝化生理食塩水で満たしたNGCと比べて、8週時点の機能回復が3〜5倍向上した(Williams et al. 1987, J. Comparative Neurology 264:284)(非特許文献3)。または、導管内部に送達される、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、グリア成長因子(GFG)、および毛様体神経栄養因子(CNTF)などの神経栄養因子も、切断および修復された神経の形態学的および/または機能的回復を著しく向上させ得る。
【0005】
NGFは、最初にかつ最も良く特徴づけられた神経由来因子であり、末梢神経系の交感神経、および感覚ニューロンの部分集団、ならびに脳中の線条体(striatial)および中隔のコリン作動性ニューロンを含む、比較的限定された種類のニューロン集団に作用する(Terenghi, G. 1999, J. Anat 194:1-14)(非特許文献4)。正常な状況においては、NGFは極めて低濃度で存在するが、実験的な神経損傷動物モデルにおいては急激に増加する。NGFは、標的組織、および損傷された神経の遠位断端中のシュワン細胞によって主に産生され、次いで、細胞体へと逆方向に輸送された後、ニューロン上のレセプターに作用し、神経栄養性の効果を生じる。末梢神経障害においては、罹患神経内のこのような輸送に影響が及ぼされて、低減され、または完全に遮断されることがある。NGFの送達は、初期段階では導管内での神経再生を促進するものの、おそらくは、37℃の水性媒体における分解によって引き起こされる導管中のNGF濃度の急速な低下、導管からの漏出、および/または流入する液体による希釈が原因で、その促進効果は1ヵ月後まで持続することができない。さらに、NGC中への神経栄養因子の導入の時期が、修復または再生プロセスに顕著な影響を与える:様々な作用物質を導入するのが早すぎまたは遅すぎると、再生プロセスを阻害することがある(US 5,584,885)(特許文献2)。
【0006】
感覚ニューロンの細胞体は、後根神経節(DRG)、すなわち各脊髄神経の後根の遠位端の小節中に位置している。背側および腹側の神経根は、硬膜鞘内にあり、かつ脳脊髄液(CSF)に囲まれており、椎間孔から出ている。椎間孔では、後根は後根神経節を形成し、その後、前根と結合して脊髄神経根を形成している。形態学的には、DRG中の体性感覚ニューロンは、単極構造を有しており、脊髄内部の長い上行性軸索によって中枢神経系(CNS)に、および脊髄神経根を通り、さらに出て末梢神経中に下行する第2の軸索分枝によって末梢神経系(PNS)に連結している。機能的には、DRGニューロンは、触覚、体温、疼痛から固有感覚に及ぶ多様な感覚モダリティの、異成分からなる(heterogeneous)、シグナル伝達レセプターに伝達される刺激である。
【0007】
【非特許文献1】Fenrich, K. et al. 2004, Can J Neurol Sci. 31 (2): 142
【非特許文献2】Schmidt & Leach 2003, Annu. Rev. Biomed. Eng. 5:293
【非特許文献3】Williams et al. 1987, J. Comparative Neurology 264:284
【非特許文献4】Terenghi, G. 1999, J. Anat 194:1-14
【特許文献1】US 5,019,087
【特許文献2】US 5,584,885
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
一局面において、本発明は、宿主の末梢神経系中のニューロン細胞中に核酸を送達する方法であって、後根神経節中の標的ニューロン細胞を特定する段階、および標的ニューロン細胞の細胞体中に核酸を送達するのに十分な程度、後根神経節の近位にある、宿主の脳脊髄液中のある部位中にその核酸を含むベクターを投与する段階を含む方法を提供する。
【0009】
別の局面において、本発明は、宿主中の末梢神経障害を治療する方法であって、神経障害によって冒された後根神経節中の標的ニューロン細胞を特定する段階、および標的ニューロン細胞の細胞体中に核酸を送達するのに十分な程度、後根神経節の近位にある、宿主の脳脊髄液中のある部位中に治療用核酸を含むベクターを投与する段階を含む方法を提供する。
【0010】
別の局面において、本発明は、宿主中の近位および遠位の断端を有する切断された末梢神経を治療する方法であって、治療用核酸を含むベクターを後根神経節ニューロン細胞にクモ膜下投与する段階を含み、それらの近位および遠位の断端が神経ガイド管に固定される方法を提供する。
【0011】
別の局面において、本発明は、後根神経節中の標的ニューロン細胞中に核酸を送達するための、核酸を含むベクターの使用法であって、該送達が、標的ニューロン細胞の細胞体中に核酸を送達するのに十分な程度、後根神経節の近位にある、脳脊髄液中のベクター投与部位から実施される使用法を提供する。
【0012】
さらに別の局面において、本発明は、宿主中の末梢神経障害を治療するための、治療用核酸を含むベクターの使用法であって、その核酸が、標的ニューロン細胞の細胞体中に核酸を送達するのに十分な程度、後根神経節の近位にある、脳脊髄液中のベクター投与部位から、神経障害によって冒された後根神経節中の標的ニューロン細胞中に送達される使用法を提供する。
【0013】
さらにまた別の局面において、本発明は、宿主中の近位断端および遠位断端を有する切断された末梢神経を治療するための、治療用核酸を含むベクターの使用法であって、近位および遠位の断端が神経ガイド管に固定され、かつ、核酸が、脳脊髄液中の投与部位から後根神経節ニューロン細胞へと送達される使用法を提供する
【0014】
本発明の他の局面および特徴は、本発明の個々の態様についての以下の説明を添付図と組み合わせて再検討すれば、当業者には明らかになるであろう。
【0015】
詳細な説明
本発明者らは、驚くべきことに、脊髄(spinal chord)を取り囲む脳脊髄液中への核酸ベクターの投与が、後根神経節中のニューロンの細胞体中に外来性の核酸を送達する有効な方法であることを発見した。より具体的には、脳脊髄液中にクモ膜下注入される、NGFをコードする核酸ベクターは、神経ガイド管内での切断された坐骨神経の再生に好影響を与えることが示された。
【0016】
「ニューロン細胞」および「ニューロン」という用語は、本明細書において同義的に使用され、当技術分野において通常の意味に従って、典型的には、細胞体(cell body)または細胞体(soma)、いくつかの樹状突起、および1つの軸索を含む、神経系の任意の伝導細胞を意味する。これらの用語は、文脈において特に明確に指示が無い限り、単一の細胞、ならびに複数の細胞または細胞の集団を含む。
【0017】
後根神経節の近位の脳脊髄液中への組換えベクターのクモ膜下投与は、軸索輸送から独立することができ、かつ、比較的最小限に侵襲的な技術によって遂行され得る方式で、後根神経節ニューロン細胞をトランスフェクションすることを可能にする。末梢神経損傷後、シュワン細胞を含む、損傷部位の周囲の細胞および組織は、通常は、損傷されたまたは傷められたニューロンの軸索によって取り込まれる因子を分泌する。これらの因子は、一般に、軸索輸送によって、損傷された神経の細胞体へと輸送され、そこで、レセプターと相互作用し、生物学的効果を及ぼす。ヘルペスおよびポリオウイルスベースの療法を含む、いくつかのウイルスベースの遺伝子治療システムは、中枢神経系内部のものを含む、他の方法では近づき難いニューロンに治療用遺伝子を送達するためにこの軸索輸送を利用している。当業者には理解されるように、これらのアプローチは、例えば、糖尿病性神経障害、および外傷、圧迫、または切断によって引き起こされる末梢神経損傷などの例えばいくつかの神経障害の場合など、軸索輸送が損なわれている状況において最適とは言えない遺伝子送達を提供することがある。
【0018】
標的DRGニューロンへのクモ膜下注入を用いることによって、適切なプロモーターの制御下にある外来性遺伝子をコードしている核酸ベクターを、末梢の軸索輸送が損なわれ、または止められている状況におけるDRG中の細胞の細胞体に送達することができる。したがって、核酸を含むベクターを脳脊髄液中に投与することによって、末梢神経系中のニューロン細胞体に核酸を送達させることができる。理解されるように、脳脊髄液中の注入部位は、その中への核酸送達が望まれる、後根神経節の個々の標的ニューロン細胞に依存すると考えられる。より具体的には、投与部位は、標的とされる細胞の細胞体中に核酸を送達するのに十分な程度、標的DRGニューロン細胞の近位となるように選択することができ、これは、送達が、軸索輸送から独立して媒介または実施され得ることを意味する。したがって、核酸は、軸索輸送から独立して標的細胞に送達され得る。当業者なら、末梢神経系の分節的構造から、投与部位は、どのDRG神経細胞がトランスフェクションの標的とされるかに依存するであろうことを理解するであろう。例えば、被験者の示指中へと伸びている末梢神経にトランスジェニック遺伝子産物を送達するためには、ベクターは、好ましくは、被験者のC6椎骨の周囲または近くのCSF中にクモ膜下投与される。適切な注入部位は、例えば、Introduction to Human Anatomy 6th edition, Francis, C.V. Mosby Company, 1973などの一般的な解剖学教科書を参照することによって決定することができる。
【0019】
特定の態様において、ベクターは、腰椎注射によって投与される。腰椎注射は、馬尾のレベルの比較的広いクモ膜下腔中の脳脊髄液(CSF)が、針穿刺に対する反応において神経根にある程度の可動性を与えるため、安全とみなされ、脊髄および神経根を損傷する危険がほとんど生じない。したがって、この方法は、腰椎DRGに遺伝子送達するための安全な複数回の投与を可能にすると思われる。腰椎穿刺は、脊椎麻酔、および治療用物質または診断用物質の導入のための利用方法として臨床的に使用されてきた。
【0020】
したがって、クモ膜下投与される、核酸配列を含むベクターは、外傷または疾患の後に末梢ニューロンに治療用生成物を提供するために、または末梢ニューロンにおける遺伝子発現を研究するために、後根神経節中に位置するニューロン細胞における任意の外来性核酸の発現を指示するのに使用することができる。
【0021】
異なる態様において、ベクターは、ウイルスベクターである。「ウイルスベクター」とは、細胞中への外来性核酸の導入を実施するために人工的に設計された組換えウイルスを意味する。ウイルスベクターには、例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、アルファウイルスベクター、アルファウイルスレプリコン、およびレンチウイルスベクターが含まれる。
【0022】
ウイルスベクターによる細胞中への核酸の送達は、例えば、糖タンパク質Dと細胞表面レセプター、ヘルペスウイルス侵入媒介物A、またはネクチン-1との間のものなど、ウイルスエンベロープの外表面上の分子と、トランスフェクトしようとする細胞表面の分子との間の特異的な相互作用を必要とすることがある(Krummenacher et al. 2003, Journal of Virology 77(16): 8985)。または、ウイルス系遺伝子送達系は、例えば、哺乳動物細胞のバキュロウイルス感染など非特異的な相互作用を含んでもよい。バキュロウイルスは、哺乳動物細胞に対する広範な向性を提示し、ウイルスの侵入は、細胞特異的でなくてもよい静電的相互作用によって媒介され得る(Sarkis et al. 2000, Proc. Nat Acad. Sci. 97: 14638)。当業者は、トランスフェクトしようとする標的細胞の性質に応じて、ウイルス系遺伝子送達系のうちのどれが最も適切であり得るかを容易に決定することができる。
【0023】
特定の態様において、ウイルスベクターは、バキュロウイルスベクターまたはAAVベクターでよい。バキュロウイルスベクターは、増殖性および非増殖性の哺乳動物静止細胞の双方において広範な向性があり、脊椎動物細胞における複製が無く、かつ顕微鏡的に観察可能な細胞毒性が皆無もしくはそれに近いという理由から、新世代の遺伝子治療媒介物として最近考えられている(Ghosh et al., 2002, Mol Ther 6:5;Kost & Condreay, 2002, Trends Biotechnol 20: 173)。例えば、オートグラファ・カリフォルニカマルチキャプシド核多角体病ウイルス(Autographa Californica Multicapsid Nucleopolyhedrovirus)(AcMNPV)から誘導されるものの、例えばバキュロウイルスベクターは、それらがエピソームであり、かつ、そのプロモーターが哺乳動物細胞において機能しないことにより、ヒト細胞において非複製的になっているため、非分裂細胞の遺伝子治療に非常に適し得る(Sarkis et al. 2000, Proc. Nat. Acad. Sci. 97: 14638)。バキュロウイルスベクターは、インビボで直接注入された場合、脳細胞をトランスフェクトすることが示されている(Sarkis et al. 2000, Proc. Nat. Acad. Sci 97: 14638;Tani et al. 2003, Journal of Virology 77(18):9799)。さらに、バキュロウイルスベクターが誘発するミクログリア応答は、アデノウイルスベクターに比べてすっと少なくてすむ(Lehtolainen et al.2002, Gene Therapy 9: 1693)。
【0024】
神経系における遺伝子トランスフェクションのためにバキュロウイルスベクターを使用することの実現性が、2つの研究で調査されている。最初の報告では、インビトロおよびインビボにおける神経細胞の効率的な形質導入が説明された(Sarkis et al., 2000, Proc. Nat. Acad. Sci 97: 14638)。ヒト胎児脳の初代細胞培養物において、神経上皮細胞、神経芽細胞、およびグリア細胞を感染させることができたが、成体ヌードマウスを用いたインビボの研究では、主に星状膠細胞およびごく少数のニューロンが形質導入されることが実証された。第2の研究では、脳におけるバキュロウイルスを介した遺伝子発現の細胞型特異性を検討し、主要標的として脈絡叢の立方上皮細胞が特定され、内皮細胞では中程度の遺伝子発現が認められ、ニューロンおよび星状膠細胞を含む他のタイプの脳細胞においては発現は極めて限られ、または皆無であった(Lehtolainen et al., 2002, Gene Therapy 9:1693)。
【0025】
本発明者らは、バキュロウイルスが、クモ膜下注入によって、DRG中の感覚ニューロンを感染させ得ることを初めて示した。
【0026】
当業者なら、本発明において使用するためのバキュロウイルスベクターの構築の仕方を容易に理解するはずである。市販のバキュロウイルス発現系、例えば、Bac-to-Bac(登録商標)Expression system(Invitrogen)に添付された取扱い説明書に従って、組換えバキュロウイルスベクターを構築してよい。当業者には公知であり、かつ、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning A Laboratory Manual (3rd ed.), Cold Spring Harbour Pressにおいて記載されているような、PCRに基づく技術および他のクローニング技術を含む分子生物学的技術によって、組換えバキュロウイルスベクターを改変してもよい。
【0027】
高レベルのウイルスエンベロープ糖タンパク質gp64を含有するようにウイルスベクターを人工的に設計してもよい。哺乳動物細胞中へのウイルス侵入に対するgp64の作用のメカニズムは不明であるが、高レベルのpg64を有するウイルスベクターは、高レベルの形質導入を示す(Tani et al. 2001, Virology 279: 343)。組換えウイルスベクターはまた、ウイルスビリオンのエンベロープ中に外来のエンベロープタンパク質を組み込むことによって改変してもよい。例えば、神経の感染効率の上昇は、狂犬病ウイルス糖タンパク質(RVG)もしくは水疱性口内炎ウイルスGタンパク質(VSVG)(Tani et al. 2003, Journal of Virology 77(18): 9799)、ヘルペスエンベロープ糖タンパク質、またはウイルスもしくはラブドウイルスに由来するエンベロープタンパク質(Ghosh et al. 2002, Molecular Therapy 6(1):5)をウイルスビリオンのエンベロープ中にシュードタイピング(Sarkis et al. 2000, Proc. Nat. Acad. Sci. 97: 14638)することによって、実現することができる。RVGは、ウイルス侵入のためにニコチン性アセチルコリンレセプターおよび低親和性の神経成長因子レセプターを使用することが公知であり、RVGにより改変されたバキュロウイルスは、未改変のバキュロウイルスより10〜5000倍高い神経細胞のトランスフェクション効率を有することが示されている(Tani et al. 2003, Journal of Virology 77(18): 9799)。または、ウイルス感染の細胞特異性は、細胞特異的なタンパク質レセプターを標的とする抗体をウイルスエンベロープに組み込むことによっても、高めることができる。
【0028】
血清補体による不活性化が起こる可能性を最小化または回避するために(Tani et al. 2003, Journal of Virology, 77(18):9799)、例えば、ヒト崩壊促進因子をウイルスエンベロープ中に組み込むことによるものを含めて、補体系に対する耐性を高めるように組換えウイルスを改変してもよい(Huser et al., 2001, Nature Biotechnology 19:451)。
【0029】
他の態様において、ベクターは、非ウイルスベクターである。「非ウイルスベクター」とは、外来性核酸、例えばプラスミドを細胞中に導入するために使用され得る、ウイルスベクター以外の系を意味する。非ウイルスベクターには、ポリマーベース、ペプチドベース、および脂質ベースのベクターが含まれるがこれらに限定されない。例えば、PEI 25K(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)、リポフェクトアミン(商標)2000(Invitrogen, Carlsbad CA)など多くの非ウイルスベクターが市販されている。これらのベクターおよび核酸の複合体は、市販品の取扱い説明書に従って、または、例えばBoussifら(1995, Proc. Nat. Acad. Sci. 92:7297)などの当業者には公知のプロトコールに従うことによって、調製することができる。
【0030】
一般に、非ウイルス系遺伝子送達系は、標的核酸の直接送達または非特異的なインターナリゼーション方法に依拠する。非ウイルス系遺伝子送達系およびそれらのトランスフェクションのための方法は当業者には公知であると思われ、例えば、裸のプラスミド、DEAE-デキストラン、リン酸カルシウム共沈、マイクロインジェクション、リポソームを用いたトランスフェクション、カチオン性脂質、およびポリカチオンポリマーが含まれる。さらに当業者には理解されるように、例えば、マイクロインジェクション、リポソームを用いたトランスフェクション、ポリカチオンポリマーなどこれらの方法のうちのいくつかは、インビボおよびインビトロの双方で細胞をトランスフェクトすることができる。これらの非ウイルスベクターは、例えば、特異的にまたは選択的にニューロン細胞に結合し得る1つまたは複数のリガンドにベクターを結合させることによって、神経に特異的なトランスフェクションを促進するように改変することができる。例えば、ポリリジン/DNA複合体の神経特異的なトランスフェクションは、破傷風毒素の無毒性フラグメントCをポリリジンに共有結合させることによって、得ることができる(Knight et al. 1999, Eur J. Biochem 259: 762-769)。
【0031】
細菌配列を有するDNAを含有する非ウイルスベクターは、しばしば、真核生物に比べて多いパリンドロームCpG配列を有し、これらの外来CpG配列は、脊椎動物において強力な免疫賦活物質として働き得る。CpG配列は真核性の宿主中でメチル化されることがあり、その結果、転写のサイレンシングが生じ得るため、したがって、CpG含有量を減少させることは、有利となることがあり、かつ、タンパク質発現を促進することもある(Chevalier-Mariette et al.2003, Genome Biology 4:R53)。いくつかの態様において、DNAベースの非ウイルス系ベクターのDNAのCpG含有量は減らされる。CpG部位でのものを含む、第1世代アデノウイルスのCMVプロモーターエンハンサー(CMV P/E)内のシトシン残基のメチル化は、導入遺伝子発現の低減の主要メカニズムであることが示されている(Brooks et al. 2004, J. Gene Med. 6:395)。当業者なら、オリゴヌクレオチド、または例えばChevalier-Mariette et al.2003, Genome Biology 4:R53に記載されているようなPCRに基づく変異誘発などの標準の分子生物学技術を用いて、ベクターのCpGジヌクレオチド含有量を減少させられることを容易に理解するであろう。
【0032】
いくつかの態様において、非ウイルスベクターは、ポリエチレンイミン/DNA複合体(PEI/DNA)である。ポリカチオンのPEIは、インビトロおよびインビボの双方で高いトランスフェクション効率を有する(Boussif et al. 1995, Proc. Nat. Acad. Sci. 92:7297)。好ましくは、PEI/DNA中のDNAは、プラスミドDNAである。PEI/DNA複合体において、PEIの窒素とDNAのリン酸の比は、好ましくは6〜30、より好ましくは6〜20、および最も好ましくは6〜15である(Boussif et al. 1995, Proc. Nat. Acad. Sci. 92:7297)。当業者は、例えば、確立された商業的プロトコールに従うことによって、PEI/DNAを容易に調製することができる。神経系に入った後、PEIは、最終分化を遂げた非分裂ニューロンにおけるDNAトランスフェクションを媒介することができる(Boussif et al. 1995, Proc. Nat. Acad. Sci. 92:7297)。直接的な脳内注入の後、PEI/DNA複合体は、HIV由来ベクターを用いて得られるより高く、かつ、アデノウイルスベクターを用いて達成されるのと同じ範囲内の導入遺伝子発現レベルを提供することができる。PEI/DNA複合体中のPEIの平均分子量は、800kD、50kD、またはより好ましくは25kDでよい(Abdallah et al. 1996, Hum Gene Ther. 7(16): 1947)。PEIはまた、例えばPEI/DNA複合体の細胞毒性を低下させるためのポリエチレングリコールなど他のポリマーを用いて共有結合的に修飾してもよい(Shi et al. 2003, Gene Therapy 10, 1179)。
【0033】
異なる態様において、ベクターは、コーディング核酸配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む。このプロモーターは、CMVなど強力なウイルスプロモーターまたはニューロン特異的プロモーターでよい。細胞特異的プロモーターを使用することによって、選択された細胞型における特異的な遺伝子発現を実現することができる。
【0034】
ニューロン特異的プロモーターは、ニューロンまたはニューロン細胞内で、作動可能に連結された配列の転写を活性化するように機能し、かつ、他の細胞型では実質的に機能しない、任意のヌクレオチド配列でよい。これらの細胞型のうちの任意のものにおける作動可能に連結された配列の転写レベルが、細胞の生理的機能性に影響を及ぼさない程度に十分に低い場合、プロモーターは、実質的には転写を活性化しない。
【0035】
ニューロン特異的プロモーターには、シナプシンI、ニューロン特異的エノラーゼ、ニューロフィラメントL、およびニューロペプチドYなどのニューロン遺伝子に対するプロモーター、ならびに特定のタイプのニューロン細胞に特異的なプロモーターが含まれ得る。例えば、チロシンヒドロキシラーゼ遺伝子のプロモーター(4.8kb 5'UTR)は、カテコールアミン作動性ニューロンおよびCNSニューロンに対して特異的であり、ドーパミン-b-ヒドロキシラーゼ遺伝子のプロモーターは、アドレナリン作動性およびノルアドレナリン作動性のニューロンに対して特異的であり、L7プルキンエ細胞タンパク質プロモーターは、網膜桿体の双極性ニューロンに対して特異的である。DlAドーパミンレセプター遺伝子プロモーター、ヒトヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼプロモーター、SCG10プロモーター、Tαl α-チューブリンプロモーター、アルドラーゼCプロモーター、β-チューブリン遺伝子プロモーター、GnRH遺伝子エンハンサーおよびプロモーター、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65遺伝子プロモーター、β-ガラクトシドα1,2-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子プロモーター、ニューロンのニコチン性アセチルコリンレセプターβ3遺伝子プロモーター、GABA(A)レセプターδサブユニット遺伝子プロモーター、ニューロン特異的FE65遺伝子プロモーター、N型カルシウムチャネルα1Bサブユニット遺伝子プロモーター、ならびに、微小管関連タンパク質1B遺伝子プロモーターを含む、これらおよび他のニューロン特異的プロモーターに関しては、以下を参照されたい。



。他のニューロン特異的プロモーターは、当業者には公知であろう。
【0036】
ニューロン特異的プロモーターは、作動可能に連結された配列のニューロン細胞に特異的な発現を活性化することができる少なくとも1つのヌクレオチド配列を含み、いくつかの態様において、このヌクレオチド配列は、その配列がプロモーターとして作用するために必要とされる、転写因子に対する最小限の結合部位を保有すると考えられる。いくつかの態様において、ベクターは、この配列の複数のコピー、または転写活性を活性化するのにそれぞれ有効な2つもしくはそれ以上の異なるヌクレオチド配列を含む。使用され得る様々なプロモーターについて、転写因子結合部位は、当技術分野において公知の前述の方法を用いて、当業者によって識別または特定され得る。適切なプロモーター/エンハンサー構築物は、標準の発現アッセイによって容易に決定され得る。
【0037】
血小板由来増殖因子β鎖(PDGFβ)プロモーター(Sasahara M, Fries JW, Raines EW, Gown AM, Westrum LE, Frosch MP, Bonthron DT, Ross R, Collins T. PDGF β-chain in neurons of the central nervous system, posterior pituitary, and in a transgenic model. Cell 1991; 64:217-227)は、ドーパミン作動性ニューロンを含むニューロン細胞に対して特異的であることが示されており、一態様において、ニューロン特異的プロモーターは、PDGFβプロモーターである。特定の態様において、ニューロン特異的プロモーターは、ヒトPDGFβプロモーターである。
【0038】
場合によっては、プロモーターの転写活性が弱く、理想的なレベルより低い治療用遺伝子配列の発現しか提供しないことがある。様々な態様において、プロモーターは、エンハンサーに作動可能に連結されてよい。当業者には理解されるように、「エンハンサー」とは、作動可能に連結されたプロモーターの転写活性を高めることができる任意のヌクレオチド配列であり、ニューロン特異的プロモーターの場合、ニューロン細胞中のプロモーターの転写活性を選択的に高めることができる任意のヌクレオチド配列である。多数のエンハンサーが公知であり、かつ、当業者なら、例えば、例えば機能マッピングにより、レポーター遺伝子の転写を増加させることができるヌクレオチド配列をスクリーニングすることによって、新規なエンハンサー配列をスクリーニングする方法も知っているはずである。
【0039】
各配列が機能的な関係に配置されている場合、第1の核酸配列は、第2の核酸配列に作動可能に連結されている。例えば、プロモーターがコード配列の転写を活性化する場合、コード配列は、プロモーターに作動可能に連結されている。同様に、エンハンサーが、作動可能に連結された配列の転写を増加させる場合、プロモーターおよびエンハンサーは、作動可能に連結されている。エンハンサーは、プロモーターから離れている場合に機能することができ、したがって、エンハンサーは、たとえプロモーターに隣接していなくても、作動可能に連結され得る。しかしながら、一般的に、作動可能に連結された配列は隣接している。
【0040】
異なる態様において、エンハンサーは、異種エンハンサー、すなわち、天然にはプロモーターに作動可能に連結されておらず、かつ、そのように作動可能に連結された場合には、プロモーターの転写活性を高めるヌクレオチド配列でもよい。転写活性を高めることへの言及は、レポーター遺伝子構築物を用いるものを含む標準の転写アッセイにおいて検出され得るような、プロモーターのみを用いて観察される転写レベルと比較した、作動可能に連結された配列の転写レベルの検出可能な任意の上昇を意味することが意図されている。
【0041】
エンハンサーは、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター(Gorman et al 1982. Proc. Nat. Acad. Sci.79:6777-6781)、SV40プロモーター(Ghosh et al. 1981, Proc. Nat. Acad. Sci. 78: 100)、CMV前初期(IE)遺伝子エンハンサー(CMVIEエンハンサー)を含むCMVエンハンサーもしくはプロモーター(Boshart et al 1985,Cell 41 :521;Niwa et al.1991, Gene 108: 193;米国特許第5,849,522号および米国特許第5,168,062号も参照されたい)など公知の強力なウイルスエンハンサーエレメントでもよい。
【0042】
本発明の一態様において、CMVエンハンサーは、PDGFβプロモーターの上流に作動可能に連結されている。別の態様において、CMVEエンハンサーは、PDGFβプロモーターの上流に作動可能に連結されており、かつ、2種の配列は隣接している。別の態様において、CMVエンハンサーは、CMVプロモーター(CMV E/P)に作動可能に連結されている。
【0043】
公知のプロモーターおよびエンハンサー配列の対立遺伝子変異体および誘導体を含む、エンハンサーに作動可能に連結され得るニューロン特異的プロモーターのさらなる例は、米国特許出願第10/407,009号に記載されている。
【0044】
様々な態様において、このような変異体および誘導体は、それらが緩和なまたはストリンジェントな条件下で公知のエンハンサーおよびプロモーター配列にハイズリダイズするという点で、実質的に相同であり得る。適度にストリンジェントな条件下でのフィルターに結合された配列へのハイブリダイゼーションは、例えば、65℃、0.5M NaHPO4、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1mM EDTA中で実施することができ、洗浄は、42℃、0.2×SSC/0.1%SDS中で実施することができる(Ausubel, et al. (eds), 1989, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, Green Publishing Associates, Inc., and John Wiley & Sons, Inc., New York, at p. 2.10.3を参照されたい)。または、ストリンジェントな条件下でのフィルターに結合された配列へのハイブリダイゼーションは、例えば、65℃、0.5M NaHPO4、7%SDS、1mM EDTA中で実施することができ、洗浄は、68℃、0.1×SSC/0.1%SDS中で実施することができる(前記Ausubel, et al. (eds), 1989を参照されたい)。ハイブリダイゼーション条件は、対象となる配列に応じて、公知の方法に従って変更してよい(Tijssen, 1993, Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology - Hybridization with Nucleic Acid Probes, Part I, Chapter 2 "Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays", Elsevier, New Yorkを参照されたい)。一般に、ストリンジェントな条件は、所定のイオン強度およびpHにおける個々の配列の熱融点より約5℃低くなるようように選択される。ストリンジェントなハイブリダイゼーションは、例えば、42℃、5×SSCおよび50%ホルムアミド中で実施し、65℃で、0.1×SSCからなる洗浄用緩衝液中で洗浄してよい。ストリンジェントなハイブリダイゼーションのための洗浄は、例えば、少なくとも15分間、30分間、45分間、60分間、75分間、90分間、105分間、または120分間でよい。
【0045】
配列間の相同性の程度は、それらの配列が最適に整列された場合の同一性の比率、すなわち、配列間の厳密な一致の発生率としても表され得る。同一性を比較するための最適な配列アライメントは、Smith and Waterman, 1981, Adv. Appl. Math 2: 482の局所的相同性アルゴリズム、Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48:443の相同性アライメントアルゴリズム、Pearson and Lipman, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 2444の類似性検索法、およびこれらのアルゴリズムのコンピュータによる実行(Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group, Madison, WI, U.S.A.)中のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTAなど)など様々なアルゴリズムを用いて実施することができる。配列アラインメントはまた、Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol. 215:403-10に記載されているBLASTアルゴリズムを用いて(公開されているデフォルト設定値を用いて)実施してもよい。BLAST解析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationを通して(インターネットのhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/から)入手可能である。様々な態様において、変異体および誘導体は、これらのアルゴリズムを用いて測定した場合、少なくとも50%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%同一である。
【0046】
異なる態様において、ベクターは、その発現および細胞局在化または細胞内(subscellular)局在化が容易に測定され得るマーカータンパク質をコードする遺伝子を含む。「マーカータンパク質」とは、緑色蛍光タンパク質(GFP)またはその強化された誘導体のうちの任意のものなど、その存在または細胞内局在化が容易に測定され得るタンパク質を意味する。他のマーカータンパク質は、当業者には公知であろう。異なる態様において、遺伝子は、例えば、ルシフェラーゼを含有する細胞または細胞溶解物にルシフェリンを提供することによってなど、特異的な基質を提供し、酵素の代謝回転の生成物を検出することによって、その発現が容易に測定され得る酵素をコードしてもよい。他の態様において、マーカータンパク質は、例えば、そのマーカータンパク質を特異的に認識する標識抗体を提供することによって、その発現が免疫学的に検出され得る任意のタンパク質でもよい。この抗体は、好ましくはモノクローナル抗体であり、例えば、蛍光色素での標識および蛍光顕微鏡によるタンパク質発現の検出など、当技術分野において公知の方法に従って、直接的または間接的に標識してよい。限定されるわけではないが、免疫金染色、放射標識、酵素沈殿の比色を含む、他の免疫学的検出方法は、当業者には公知であろう。
【0047】
好ましくは、核酸ベクターは、その発現により治療用生成物を生じる治療用遺伝子または治療用導入遺伝子を含む。「遺伝子」という用語は、その通常の定義に従って、核酸配列の作動的に連結されたグループを意味するために使用される。本明細書において使用される場合、「治療用生成物」とは、所望の結果、例えば、疾患の治療、予防、または改善をもたらす任意の生成物を示す。治療用生成物は、治療用タンパク質、治療用ペプチド、または、例えば低分子干渉RNA(siRNA)もしくはアンチセンスRNAなどの治療用RNAでよい。
【0048】
いくつかの態様において、治療用生成物は、例えば神経成長因子などの神経栄養因子である。本明細書において使用される場合、「神経成長因子」とは、例えば、ニューロトロフィン、ニューロトロフィンレセプター、および神経栄養因子など、神経細胞の成長および/または神経再生を促進することができる任意の因子を意味する。「ニューロトロフィン」とは、ニューロンの存続および/または神経再生を支援することができるタンパク質ファミリーを意味する。例えば、ニューロトロフィンには、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン3(NT-3)、ニューロトロフィン4/5(NT-4/5)、ならびにニューロトロフィン変異体が含まれる。「変異体」とは、1つまたは複数のアミノ酸の置換、付加、または欠失によって、その配列が、天然に存在するタンパク質の配列とは異なるが、天然に存在するタンパク質の生物活性の一部を保持しているタンパク質を意味する。当業者には理解されるように、変異体は、天然に存在するタンパク質との間に約60%、70%、80%、好ましくは90%、またはより好ましくは95%を超える相同性を有してよい。特定の態様において、治療用生成物は、NGFである。特定の態様において、ベクターは、CMV E/Pに作動的に連結された、NGFをコードする遺伝子を含む。
【0049】
「ニューロトロフィンレセプター」とは、ニューロトロフィンに結合することができるタンパク質を意味する。ニューロトロフィンレセプターには、例えば、低親和性のp75レセプター、および、例えばtrkA、trkB、およびtrkCなどの高親和性レセプター、ならびにそれらの変異体が含まれる。「神経栄養因子」には、例えば、毛様体神経栄養因子(CNTF)、海馬由来神経栄養因子(HDNF)、白血病抑制因子(LIF)(Yamamori et al.1989, Science 246: 1412)、酸性および塩基性の線維芽細胞成長因子(aFGF、bFGF)、ならびにそれらの変異体が含まれる。
【0050】
「神経栄養因子」にはまた、例えば、イムノフィリンリガンドFK506(Lee et al. 2000, Muscle Nerve 23:633)およびその変異体など、インビトロおよび/またはインビボで神経突起の伸長を促進することができ、軸索の再生を強化することができ、または、軸索再生に対する長期的軸索切断の負の効果を打ち消すのに有効となり得る、他の因子も含まれる。
【0051】
他の態様において、治療用生成物は、例えばbcl-2またはbcl-XLなどの抗アポトーシス因子である。成人では、末梢神経損傷に続いて、DRGにおける20〜40%の細胞消失が起こり、これは、アポトーシスに起因する可能性が高い(Terenghi 1999, J.Anat. 194:1)。特定の理論に限定されるわけではないが、DRG中のニューロン細胞への抗アポトーシスタンパク質の送達は、この細胞消失を減少させ得る、または防止し得ると考えられている。
【0052】
組換えベクターを調製するための方法、例えば、Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd ed) Cold Spring Harbour Laboratory Press (2001)および他の実験マニュアルに記載されているもの、ならびに市販品の取扱い説明書に記載されているようなものは、当業者には周知であろう。
【0053】
投与を支援するために、薬学的組成物中の成分としてベクターを配合してもよい。これらの組成物は、通常、薬学的に許容される濃度の塩、緩衝剤、保存剤、および適合性のある様々な担体または希釈剤を含有してよい。全ての形態の送達に関して、ベクターは、生理的塩類溶液中に配合してよい。
【0054】
薬学的に許容される希釈剤の比率およびアイデンティティは、選択される投与経路、ベクターとの適合性、および標準的な薬学的実践によって決定される。一般に、薬学的組成物は、ベクターの生物活性をあまり損なわないと考えられる成分と配合される。適切なビヒクルおよび希釈剤は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., USA 1985)に記載されている。
【0055】
ベクターの溶液は、生理学的に適した緩衝液中で調製してよい。通常の保存および使用条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するがベクターを不活性化しない保存剤を含有する。当業者なら、適切な配合物の調製の仕方が分かるであろう。適切な配合物を選択および調製するための通常の手順および成分は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciencesおよび1999年に発行されたThe United States Pharmacopeia: The National Formulary (USP 24 NF 19) において記載されている。
【0056】
いくつかの態様において、ベクターは、脊椎動物宿主に投与される。特定の態様において、ベクターは、ヒト宿主に投与される。
【0057】
DRGは、末梢神経障害の最も一般的な形態である糖尿病性神経障害を含む、いくつかのタイプの末梢神経障害における初期の、かつ重要な標的としてみなされている(Kishi et al 2002, Diabetes 51:819; England & Asbury, 2004 Lancet 363:2151)。糖尿病性神経障害の患者は、明らかな運動障害を伴わず、感覚性および自律神経性の症状のみを示すことがある。ヒトおよび実験的な糖尿病性神経障害の病理学的研究では、DRG中の細胞消失が確認され、これは、観察された有髄線維(mylenated fiber)の損失および軸索萎縮に起因した可能性がある。DRG中のニューロンはまた、身体的外傷、圧迫、または切断によって引き起こされる末梢神経損傷の病態生理学に直接関与している。末梢神経切断はまた、冒されたDRG中の生き残っているニューロンの核周部中のニューロペプチド、サイトカイン、および転写因子の発現の生化学的変化、ならびに近位の神経断端における萎縮を引き起こすこともある(Stoll & Muller 1999, Brain Pathol. 9(2):313)。これらの病理学的変化は、皮膚、筋肉、および内臓のような身体部分からの感覚シグナルのCNSへの伝達を確実に妨害すると考えられる。結果として、身体部分が不適切に機能し、または、全く機能しないことがある。
【0058】
DRGにおける治療用遺伝子、特にニューロトロフィンをコードしているものの発現は、実験的な神経障害において神経変性を防止する(Glorioso et al. 2003, Curr Opin Mol Ther. 5:483)。しかしながら、DRGへの遺伝子導入は、それらの解剖学的特徴のために、なお難易度が高い。以前の研究では、神経終末によって取り込まれ、次いで軸索原形質に入ってDRG中のニューロンの細胞体へと輸送され得る、ウイルスベクター、主に単純ヘルペスウイルス(HSV)の筋肉内または皮下注射を通じて、導入が実現された(Haase et al, 1998, J. Neurol Sci.160 Suppl.;Jackson et al., 2003, Virology 314:45;Goss et al. 2001, Gene Therapy 8:551)。有効ではあるものの、このアプローチは、神経終末でのエンドサイトーシスおよび逆行性軸索輸送を含む、機能性の細胞メカニズムに依拠しており、これらは、末梢神経障害性の状態のもとでは既に損傷されている可能性がある。
【0059】
神経終末でのエンドサイトーシスおよび逆行性軸索輸送に依存しない別の方法において、Glatzelら(2000, Proc. Nat. Acad. Sci. 97:442)およびXuら(2003, Biomaterials 24:2405)は、最近、DRG中に遺伝子導入ベクターを直接注射するために神経外科顕微鏡下手術技術を使用し、その結果、感覚神経路に沿って、レポーター遺伝子が強く発現された。注射処置では、DRGへの道筋を得るために、1つの椎骨を取り除くことを要する。これはまた、DRGの組織に対して侵襲的であり、かつ、例えば、慢性障害の長期的治療のためなど、反復注入の計画が必要とされる場合、実用的ではない。
【0060】
したがって、本発明による、後根神経節内のニューロンの細胞体への、治療用生成物をコードする遺伝子を含むベクターの最小限に侵襲的な送達は、末梢神経障害を治療して、成長を促進し、かつ/または損傷された末梢神経を再生するのに有利に使用され得る。当業者には理解されるように、「末梢神経障害」とは、明らかな運動障害を伴うまたは伴わない、末梢ニューロン細胞またはそれらの機能の消失を意味する。したがって、このような細胞は、末梢神経障害によって冒され、かつ、細胞内での治療用遺伝子の発現によって治療され得る標的細胞である。末梢神経障害は、疾患または障害によって、または全身性疾患の結果として引き起こされ得る。多くの神経障害は、例えば、糖尿病、尿毒症、AIDS、ライム病、または栄養不足など明確な原因を有する。末梢神経障害の他の原因には、圧迫もしくは絞扼などの機械的圧力、直接的外傷、穿通損傷、挫傷、骨折もしくは骨の脱臼;表面神経に影響を与える圧力;神経内出血;冷気もしくは放射線、または、まれに、ある種の医薬品もしくは毒性物質への曝露;ならびに、例えば、アテローム性動脈硬化症、全身性エリテマトーデス、強皮症、サルコイドーシス、関節リウマチ、および結節性多発動脈炎など血管またはコラーゲンの障害が含まれる。末梢神経障害の原因は様々であるが、それらは一般に、脱力感、しびれ感、感覚異常(灼熱感、くすぐり感、刺痛、またはチクチク感などの異常な感覚)、ならびに腕、手、下肢および/または足の疼痛を含む共通の症状をもたらす。多数の事例の原因が分かっていない。
【0061】
ベクターは、好ましくは、所望の結果、例えば、標的細胞における有効量の治療用遺伝子の発現を実現するのに十分な量で、クモ膜下注入によって投与される。.
【0062】
いくつかの態様において、ベクターは、腰椎穿刺によって投与される。腰椎穿刺は、脊髄(spinal chord)に対して最小限の危険性しか有さない、比較的慣例的かつ非外傷性の臨床手技である。一般に、ベクターを含む溶液は、シリンジまたはマイクロシリンジに連結された、例えば26ゲージの針などの細い針を用いて、脳脊髄液中に投与される。ラットでは、クモ膜下腔中への適切な注入を示唆する、尾部のわずかな動きによって、クモ膜下腔内の適切な針の位置を確認することができる。注入後、針は、例えば取り除くまでの2分間などの一定期間、クモ膜下腔中に残留してもよい。
【0063】
初期の治療計画の効果に応じて、有効量のベクターを繰り返し与えてよい。典型的には、投与は、反応を観察しながら定期的に実施される。選択された投与計画および投与経路に従って、より少量または多量の用量を与えてもよいことが、当業者には理解されよう。
【0064】
例えば、ヒト患者に投与される場合、ベクターは、所望の結果を実現するのに有効な量で、かつ十分な期間、投与される。例えば、ベクターは、その生成物が、末梢ニューロンの神経障害を緩和、改善、軽減、寛解、安定化し、拡大を防止し、進行を引き伸ばしもしくは遅延化し、または治癒するように機能する治療用遺伝子を送達するのに必要な量および用量で投与してよい。
【0065】
患者に投与されるべき有効量は、特に、治療用遺伝子生成物の薬力学的諸特性、投与形態、年齢、被験者の健康状態および体重、障害または疾患の状態の性質および程度、治療頻度、ならびに、もしあれば、併用治療のタイプなど多くの因子に応じて変動し得る。ウイルスベクターを使用する態様において、有効量は、ウイルスのビルレンスおよびタイターにも依存し得る。
【0066】
当業者なら、上記の因子に基づいて適量を決定することができる。ベクターは、最初は、患者の臨床反応に応じて、必要に応じて調整され得る適切な量で投与してよい。ベクターの有効量は、実験的に測定することができ、安全に投与され得るベクターの最大量に依存する。いくつかの態様において、ベクターは、脊椎動物においてほとんど細胞毒性を有さず、大量に投与され得る。しかしながら、投与されるベクターの量は、所望の結果をもたらす最低限の量であるべきである。
【0067】
様々な態様において、約109個の組換えバキュロウイルス粒子からなる用量が、ヒト患者に投与される。他の態様において、約102〜約109個の組換えバキュロウイルス粒子、約106〜約109個の組換えバキュロウイルス粒子、約102〜約107個の組換えバキュロウイルス粒子、約103〜約106個の組換えバキュロウイルス粒子、または約104〜約105個の組換えバキュロウイルス粒子が、1回量で投与され得る。いくつかの態様において、ベクターは、例えば反復注射によって、1回以上投与してよい。他の態様において、ウイルスベクターは、文献(Jackson et al.2001, Human Gene Therapy 12: 1827)に記載されているように、ベクターを含む組成物を含有する貯蔵器に連結されたクモ膜下腔内カテーテルを通して、繰り返し投与してもよい。
【0068】
他の態様において、約4μgのDNAを含む非ウイルスベクターを、1回量で宿主に投与してもよい。非ウイルスベクターは、標的細胞中にトランスフェクトされた後、治療用遺伝子を一過的に発現するだけで、最適とは言えない導入遺伝子発現をもたらすことがある。本発明のいくつかの態様において、ベクターは、例えば、反復注射によって、1回以上投与してよい。他の態様において、非ウイルスベクターは、文献(Jackson et al.2001, Human Gene Therapy 12: 1827)に記載されているように、ベクターを含む組成物を含有する貯蔵器に連結されたクモ膜下腔内カテーテルを通して、繰り返し投与してもよい。
【0069】
切断された末梢神経は、有利には、以下のように処置され得る。治療用遺伝子生成物、例えば、NGFなどの神経成長因子をコードするベクターは、その切断された近位および遠位の神経断端が神経ガイド管に固定されている、宿主のDRGニューロン細胞にクモ膜下投与される。切断された神経の細胞体中に核酸を送達するために、後根神経節を取り囲む脳脊髄液中にベクターを投与してもよい。例えば、坐骨神経が切断されている場合、腰椎注射によって、L4椎骨とL5椎骨の間の脊椎腔(intraspine space)中の脳脊髄液中にベクターをクモ膜下注入してよい。
【0070】
本明細書において使用される場合、「神経ガイダンスチャネル(nerve guidance channel)」または単に「神経ガイド」 としても公知である「神経ガイド管」とは、内部経路によって連結された第1および第2の開口端を有し、その導管の内径が両端における切断を受け入れるのに十分である器具を意味する。神経ガイド管は、近位の神経終末から伸びている軸索を方向づけるのに役立つことができ、損傷された神経終末によって分泌される成長因子を拡散させるための導管となることができ、かつ、瘢痕組織の浸潤を低減させることができる(Schmidt et al. 2003, Annu Rev Biomed Eng 5: 293)。当技術分野において公知であるように、神経ガイド管は、細胞外マトリックスタンパク質、例えば、コラーゲン(US 50190987)、ラミニン、フィブロネクチン、フィブリン/フィブリノーゲン、ヒアルロン酸塩基物質などのバイオマテリアルから、または、例えば、シリコン、発泡ポリ(テトラフルオロエチレン)などの物質から誘導され得る。人工の神経ガイド管はまた、例えば、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PLG)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ウレタン)、ポリ(オルガノ)ホスファゼン、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、およびメタクリル酸ベースのヒドロゲルなど生体吸収性または生体分解性の物質で作られてもよい(Schmidt & Leachおよびその中の参考文献を参照されたい)。神経ガイド管は、無孔性、多孔性、または半多孔性でよく、例えば、シュワン細胞などの神経支持細胞を組み入れてもよく、向きを定められた神経の土台(oriented nerve substratum)を有してもよく、1つまたは複数の腔内チャネルを有してもよい(Hudson et al. 1999, Clin Plast Surg 26:617)。
【0071】
当業者なら、例えば、Schmidt et al. 2003, Ann. Rev. Biomed. Eng. 293に従って、切断された神経を神経ガイド管中に固定する方法が分かるであろう。一般に、切断された末梢神経の近位および遠位の断端は、例えば、9-0または10-0縫合糸によって、神経ガイド管の内部チャネル内に固定される。好ましくは、神経ガイド管の内部チャネルは、軸索の伸長を支援する溶液、懸濁液、またはゲルで満たされている。
【0072】
正常な状況においては、NGFは極めて低濃度で存在し、かつ、動物モデルにおいて神経損傷が起こると急激に増加する。切断されると、NGFは、標的組織および損傷された神経の遠位断端中のシュワン細胞によって主に産生され、それは、神経細胞体へと逆方向に輸送される。後根神経節中のニューロンの細胞体内部でのNGFの外因性発現は、逆方向輸送により送達されるNGFを補充し、またはその代用となり得る。特定の理論に限定されるわけではないが、NGFの外因性発現は、切断された神経の近位断片への神経栄養因子の順行性輸送を促進し得、かつ、これらの因子は、神経ガイド管を通って拡散し、導管内部の神経再生を促進し得る。
【0073】
当業者には理解されるように、ベクターの投与は、神経断端が導管中に固定される前、またはより好ましくは後に遂行してよい。末梢神経再生を促進するのに効果的な、宿主にベクターを投与する時期は、当業者によって容易に決定され得る。
【0074】
本明細書において参照されるすべての文献は、参照により本明細書に完全に組み入れられる。
【0075】
本発明の様々な態様が本明細書において開示されるが、当業者の共通の一般的な知識に従って、本発明の範囲内で、多くの改変および修正を行ってもよい。このような修正には、実質的に同じ方法で同じ結果を実現するために、本発明の任意の局面の代わりに公知の等価物を用いることが含まれる。他に規定されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0076】
「含む(comprising)」という単語は、「含むがこれらに限定されない(including, butnot limited to)」という語句と実質的に同義の制限の無い用語として使用される。明細書中の「a」および「the」などの単数形の冠詞は、文脈において特に指示がない限り、単数形と複数形の双方を含む。
【0077】
以下の実施例は、本発明の様々な局面の例示であり、本明細書において開示される本発明の広範な局面を限定しない。
【0078】
実施例
材料および方法
遺伝子送達ベクター
3種の非ウイルス系遺伝子送達系、すなわち、ポリエチレンイミン(PEI)/プラスミドDNA複合体、リポフェクトアミン(商標)2000/DNA複合体、およびペプチドベースの系、ならびに、2種のウイルスベクター、すなわち組換えバキュロウイルスおよびアデノ随伴ウイルス2型(AAV-2)ベクターを試験した。
【0079】
PEI/DNA複合体を調製するために、適量のPEI溶液をDNA溶液中に添加し、ボルテックス攪拌によって簡単に混合し、室温で30分間放置することによって、5%グルコース溶液中で、プラスミドDNA pCMV E/P-luc(Liu et al. 2004, Gene Ther. 11 :52)またはpcDNA3.1/NGFをPEI(25kDa; Sigma-Aldrich, San Diego, CA)と混合した。マウス脳cDNAライブラリーから得た完全長DNA断片をEcoRIで消化したpcDNA3(Invitrogen)中に挿入することによって、pcDNA3.1/NGFを構築した。細胞トランスフェクションおよび動物実験のために使用されるPEIとDNAの比率は、それぞれ、DNAのリン酸エステル1つ当たり10および14当量のPEI窒素であった。いくつかの実験において、DNAと混合する前に、カルボシアニン色素Cy3(Amersham, Uppsala, Sweden)でPEIを標識した。プラスミドの必要量は、1μgのDNAが3nmolのリン酸エステルを含有することを考慮することによって、算出した。リポフェクトアミン(商標)2000/DNA複合体を調製するために、希釈したDNA溶液中に適量のリポフェクトアミン(商標)2000を添加し、穏やかに混合し、室温で20分間インキュベートすることによって、5%グルコース溶液中で、pCMV E/P-lucをリポフェクトアミン(商標)2000(Invitrogen, Singapore)と混合した。動物実験のために使用されるDNA(μg)とリポフェクトアミン(商標)2000(μl)の比率は1対3であった。
【0080】
ペプチドベースの遺伝子送達系を調製するために、ペプチドNL4-10KおよびPEI600を使用した。このペプチドは、DNA結合ドメインとしての10-リジン残基と結合したNGFループ4含有領域(aa80-108)に由来する29アミノ酸フラグメントを有する(Zeng et al., J Gene Medicine, 2004,印刷中)。DNA複合体を調製するために、初めに、窒素/リン酸エステル比が5となるようにDNAとPEI600で複合体を形成させ、その後に、ペプチド/DNA(nmol/g)比が1.5となるようにペプチドを添加した。
【0081】
Bac-To-Bac(登録商標)バキュロウイルス発現系(Gibco BRL, Life Technologies, USA)のマニュアルに従って、組換えバキュロウイルスベクターを構築した。ヒトCMV E/PプロモーターまたはCMV E/PDGFプロモーターの制御下のルシフェラーゼcDNAは、LiuらのGene Therapy, 2004, 11 : 52において構築されたベクターから得た。このプロモーターをpFastBaclのNotIおよびXbaI部位の間に挿入し、ルシフェラーゼcDNAをこのプロモーターの下流のXhoIおよびHindIII部位の間に挿入した。組換えバキュロウイルスをSf9昆虫細胞中で増殖させた。昆虫細胞培養培地から出芽したウイルスをポアサイズ0.2μmのフィルターを通してろ過し、25,000gで60分間超遠心することによって濃縮した。取込み実験のために、供給業者(Amersham, Uppsala, Sweden)によって提供されるマニュアルに従って、カルボシアニン色素Cy3でバキュロウイルスを標識した。pCMV E/Pベクターに由来するCMV E/PプロモーターまたはpCMV E/PDGFベクターに由来するCMV E/PDGFプロモーター(Liu et al.2004, Gene Therapy, 11 : 52)を、ITR配列にはさまれている改変pAAVプラスミド中にサブクローニングすることによって、組換えAAV-2ベクターを構築した。このpAAVプラスミドは、pAAV-MCS-lucと名づけられており、プラスミドpAA V-MCS(Stratagene, La Jolla, CA)の2つのNot I部位の間の元の配列を、フォワードプライマー

およびリバースプライマー

を有するpGL3基本プラスミド(Promega, USA)からPCR増幅させたマルチクローニング部位(MCS)-ルシフェラーゼ-ポリA発現カセットで置き換えることによって構築した。プロモーターを、pAAV-MCS-lucのKpn IおよびHind III部位の間に挿入した。このプラスミドを、AAV-2パッケージングプラスミドpAAV-RCおよびアデノウイルスヘルパープラスミドpHelper(Stratagene, La Jolla, CA)とともに使用して、HEK293(ヒト胚性腎臓)細胞をトランスフェクトした。トランスフェクトされたHEK293細胞中にパッケージングされたAAV-2ベクターを、凍結/解凍サイクルを2回行うことによって、採取した細胞から遊離させ、シングルステップの自然流下式ヘパリンアフィニティカラムによって精製した。
【0082】
動物および手術
Laboratory Animal Center, National University of Singaporeによって供給された体重250〜320gの雄の成体ウィスターラットを研究の間、一貫して使用した。ルシフェラーゼ活性アッセイのために、50匹のラットを使用し、そのうち30匹のラットを経時変化研究に(各時間間隔当たり5匹)使用し、PEI、リポフェクトアミン(商標)2000、AAV、およびバキュロウイルスベクターの試験用に各5匹を使用した。免疫組織化学的研究のために、12匹のラットを使用し、そのうち6匹を偽手術群で使用し、6匹を実験群で使用した。PCR解析のために、12匹のラットを使用し、そのうち6匹を偽手術群で使用し、6匹を実験群で使用した。注入後の様々な時点に、ラットを各群に無作為に割り当てた。22℃の一定温度、湿度60%、明暗サイクル(12h/12h)、1ケージ当たり4匹でそれらを飼育し、通常の実験ラット用飼料を与えた。すべての動物の取扱いおよび世話において、World Heath Organizationによって規定され(1985)、Laboratory Animal Center, National University of Singaporeによって採用されているInternational Guiding Principles for Animal Researchに従った。
【0083】
クモ膜下注入のために、ペントバルビタールナトリウム(60mg/kg体重)を腹腔内注射することによって、ラットを麻酔した。ラットの背中の皮膚を切開し、脊椎を露出させた。腰椎4および5(L4〜5)の間の脊椎腔を注入部位として選択した。26ゲージの針付きの10μlマイクロシリンジを使用して注入を実施した。ラット尾部のわずかな動きが、クモ膜下腔中への適切な注入を示唆した。20μl中の、4μgのプラスミドDNAを有する複合体、1×108個のAAV-2粒子、または1×107個のバキュロウイルス粒子を各注入用に使用した。2〜5分間かけてゆっくり投与した後、針は、取り除くまでの2分間インサイチューに残留することが許された。注入後、外科用クリップで皮膚を閉じた。
【0084】
神経損傷および再生のラットモデルを作製するために(Xu et al. 2003, Biomaterials 24:2504)、長さ2cmの皮膚切開によって、麻酔したラットの右坐骨神経を露出させた。7mmの神経片を取り除き、次いで、近位および遠位の神経断端をシリコン製神経ガイド管(NGC、Tygon(登録商標)内径:0.05インチ、外径:0.09インチ、長さ:1.4cm)の各開口部中に2mmずつ引き入れ、10mmの断端間間隙を残した。近位断片をチューブ開口部に引き入れる前に、チューブ中に25マイクロリットルの生理食塩水を満たした。1本の10-0神経周膜用縫合糸(Ethilon)を用いて、2つの断端をチューブに固定した。20μlの、4μgのpcDNA/NGFを含有するPEI複合体、または対照ラット用のPEI/pcDNA3/luc複合体の、L4椎骨とL5椎骨の間の脊椎内領域中へのクモ膜下注入をNGC埋め込みの直後に実施した。30匹のラットをこの実験で使用し、そのうち15匹にPEI/pcDNA3.1/NGF複合体の注入を施し、他の15匹は対照とした。
【0085】
レポーター遺伝子検出
DRG中に輸送されたレポーター遺伝子を検出するためにPCR増幅を実施した。PEI/DNA複合体またはバキュロウイルスベクターの腰部クモ膜下注入後2日目に、深麻酔の後に0.1M PBS(pH7.4)を心臓内潅流させることによってラットを屠殺し、注入部位周辺の3組のDRG対(腰椎L4〜L6)を採取した。かみそりの刃を用いて切り刻むことによってこれらの組織をホモジナイズし、DNeasy Tissue Kit (Qiagen, Hilden, Germany)の標準プロトコールに従ってDNAを抽出した。ルシフェラーゼ遺伝子配列に基づいてPCR用のオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。これらを以下に記載する:5'プライマー


増幅される生成物の予測サイズは540bpである。増幅サイクルは、94℃、5分を1サイクル;94℃で45秒、55℃で30秒、72℃で30秒を35サイクル、最後に72℃で7分間の伸長ステップからなった。工程全体の汚染を考慮に入れないために、偽手術を施したラットからの試料を同時に使用した。
【0086】
ルシフェラーゼ活性アッセイによって、ルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現を検査した。注入後2日目に、深麻酔の後に0.1 M PBS(pH7.4)を心臓内潅流させることによってラットを屠殺した。注入部位周辺の6組のDRG対を採取し、処理するまで-80℃で保存した。PBS緩衝液(組織50mg当たり100μlのPBS)を添加した後、氷上で10秒間超音波処理することによって各試料をホモジナイズし、次いで、微量遠心機中で13,000rpm、4℃で遠心分離した。室温の10マイクロリットルの上清をPromega(Madison, WI, USA)社製のアッセイキットを使用するルシフェラーゼ活性アッセイのために使用した。シングルウェルの照度計(Berthold Lumat LB 9501)中で10秒間測定を実施した。タンパク質アッセイキット(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を用いて測定した、組織抽出物の全タンパク質濃度によってRLUを標準化した。
【0087】
免疫染色のために、注入後2日目にラットを屠殺した。深麻酔した後、最初にリンゲル液、次いで0.1M PBS(pH7.4)中2%パラホルムアルデヒドでラットを潅流した。潅流後、3組のDRG対(L4〜L6)を取り出し、15%ショ糖含有0.1M PBS中に移す前に、同じ固定液中で2〜4時間後固定した。凍結した切片を30μmの厚さに切り、コートスライド上に載せた。0.2%Triton X-100含有0.1M PBS、pH7.4中で20分間切片を洗浄し、次いで、1時間、PBS中5%正常ヤギ血清でブロッキングした。次いで、ポリクローナル抗ルシフェラーゼ1次抗体(Promega;希釈率1:150)およびニューロン特異的核タンパク質(NeuN)に対するモノクローナル1次抗体(Chemicon International, USA;希釈率1:500)とともに切片を一晩インキュベートした。0.1M PBS中で切片を洗浄し、抗ウサギIgG Tritc結合体(Sigma-Aldrich, Inc., USA;希釈率1:100)および抗マウスIgG Fitc結合体(Sigma-Aldrich;希釈率1:100)とともに1時間さらにインキュベートした。インキュベーション後、PBS中で切片を3回洗浄し、DAKO蛍光封入剤で封入し、カバーガラスでカバーした。対照の切片は、1次抗体無しでインキュベートした。共焦点レーザー走査型顕微鏡Olympus500を用いて切片を検査した。Fitcフルオレセインの検出に場合は、488nmのレーザー線および発光フィルターBP510〜525、ならびにTritcフルオレセインの検出の場合は、543nmのレーザー線および発光フィルターLP570を用いて、各切片を最初に観察した。
【0088】
NGFアッセイ
プラスミドpcDNA3.1/NGFからの遺伝子発現を試験するためのインビトロでのトランスフェクション用にCos7細胞を使用した。6ウェルプレート中に60〜70%の細胞密度で培養細胞を播種した。一晩インキュベーションした後、培養培地をOpti-MEMに交換し、4μgのpcDNA3.1/NGFを含有するPEI/DNA複合体を25μlずつ各ウェルに加えた。37℃で3時間、細胞とともにDNA/PEI複合体をインキュベートした。次いで、培地を新鮮な完全培地に交換した。さらに24時間インキュベーションした後、高精度のNGF ELISA Kit (Boehringer Mannheim)によるNGFアッセイのために細胞および培地を採取した。対照群に対しては、pcDNA3.1/NGFの代わりにpcDNA3-Lucを使用した。インビボのNGF発現解析のために、15匹のラットを使用し、そのうち10匹を実験群で使用し、3日目および7日目の各時間間隔に対して5匹を使用した。残りの5匹のラットを正常な対照として使用した。4μgのpcDNA3.1/NGFまたはpcDNA3lucを20μl中でPEIと複合体を形成させ、前述したように各ラット中に注入した。DRGを採取し、ホモジナイズした。上清をNGF ELISAのために使用した。
【0089】
神経再生の評価
手術後4週目に、再びラットに麻酔をかけ、NGCとともに坐骨神経を露出させ、周辺組織から注意深く分離した。神経再生の成功を確認するために、チューブから遠位の神経部分を1対の鉗子で挟んだ。背中の筋肉の攣縮または下肢の収縮が、挟まれている部分中の再生している感覚線維の存在を示し、これらの線維の不在の指標としての反応は得られなかった。
【0090】
組織学的検査のために、NGC内部の再生された神経ケーブルを採取し、PBS緩衝液(pH=7.4)中2.5%グルタラデリド(glutaradelyde)中で一晩固定した。その後の固定、包埋、切片化、および染色手順は、以前に記載されているのと同じであった(Xu et al.2003, Biomaterials 24:2504)。次いで、再生された神経の遠位部分から超準薄切片を作製し、形態計測解析のためにTolubine Blueで染色した。再生された軸索の数、線維の数、および線維径を測定するために、10mmの間隙の中間部分から得た17個の準超薄横断切片試料を解析した。Micro Image Lite(商標)(Olympus, Image Analysis Software)を用いて、定量的測定および評価を実施した。対象となる領域を超薄切片化用に選択した。超薄切片(100nm)をクエン酸鉛で染色し、銅メッシュグリッド上に採取し、80〜100kVで作動するPhilips EM 208s電子顕微鏡中で検査した。神経組織の再生およびポリマーに対する異物反応について試料を評価した。
【0091】
実施例1:腰部クモ膜下注入を介するDRGへの遺伝子導入
本発明者らは、バキュロウイルスベクターまたはCy3で共有結合的に標識されたPEI/DNA複合体のクモ膜下投与後のDRGによる遺伝子ベクターの取込みを評価することから始めた。注入後2日目に、注入部位近くのDRGを採取し、anit-NeuNによってそれらの切片を染色した。高倍率下で、赤のCy3シグナルが、DRG中、主にNeuN陽性細胞の細胞質中で検出可能であった(図1)。注入後1日目および3日目に採取されたDRG試料のPCR解析により、CNS注入後に、これらのPNS領域において輸送されたレポーター遺伝子が存在することが明らかになった(図2)。
【0092】
ルシフェラーゼレポーター遺伝子を有する4種の異なるタイプの遺伝子送達系およびベクター、すなわち、PEI/DNA複合体、リポフェクタミン/DNA複合体、バキュロウイルスベクター、およびAAV-2ベクターを、DRG細胞中への導入遺伝子の導入を媒介する際のそれらの効果について試験した。腰部クモ膜下注入後2日目に、すべてのタイプのベクターについて、DRG細胞中でルシフェラーゼ活性が容易に検出された(図3)。PEI/DNA複合体からのトランスジェニックルシフェラーゼ発現の経時変化研究においては、酵素活性が注入後早くも1日目に検出され、3日目にピークに達し、次いで、その後の数週間を通して低下したが、注入後4週目時点でも低い活性がなお検出可能であった(図3)。ルシフェラーゼの免疫染色は、DRG中で検出されるタンパク質が上皮表面だけに限定されず、神経節細胞中にも存在することを実証した。ルシフェラーゼおよびニューロン特異的NeuNタンパク質に対する二重免疫染色により、DRG中のルシフェラーゼ陽性細胞のうちの大半が、NeuN陽性でもあり、ごく少数のルシフェラーゼ陽性細胞のみが非ニューロン細胞であることが示された(図5)。
【0093】
実施例2:神経ガイド管によるNGF cDNAトランスフェクションおよび神経再生
NGF、すなわち感覚ニューロンおよび交感神経ニューロンに主に作用する神経栄養因子(Thorne, R.G., and Frey, W.H. II 2001, Clin Pharmocokinet 40:907)を、DRGにおけるその発現が、神経ガイド管(NGC)、すなわち神経欠損を修復するための前臨床研究において広範に試験されている器具(Schmidt et al. 2003, Ann. Rev. Biomed. Eng. 293)による末梢神経再生に与える影響を試験するために選択した。本発明者らは、PEIの媒介による遺伝子送達からのNGF cDNAの発現を検査した。COS7細胞のトランスフェクション後、高感度のELISAにおいて検出されたように、培養培地中のNGF濃度は、1ml当たり約1ngのレベルで上昇し、対照より6倍高かった(図6A)。細胞溶解物を解析した場合にも、同様の上昇が観察された(図6B)。PEI/NGF cDNA複合体の腰部クモ膜下注入後、DRGにおけるNGFの発現レベルは対照より3倍高く、少なくとも7日間持続した。
【0094】
実施例3:神経再生に対するNGF発現の影響
ピンチテストにおいて実証されたように、NGCによる神経再生の好結果の速度は、対照群の67%に対して、手術後4週目のNGF群において87%であった。2つの神経断端の間の10mmの間隙を埋めていた、再生された組織ケーブルを、ピンチテストにおいて陽性であったラットから採取した導管内部で発見することができた。NGF群のNGCから採取されたこれらの組織ケーブルは、それらの対照よりも改善された再生特性を示し、神経線維の直径は著しく上昇し、G比(Friende et al. 1982, Brain Research 235:335)、すなわち有髄線維の直径に対する軸索径によって決定される比は減少した(図7)。検討された他の2種のパラメーター、すなわち線維の数および密度は、NGF群におけるある程度の改善は認識できたものの、おそらくは大きな標準偏差が原因で、統計的有意差は見出されなかった(図7)。
【0095】
透過型電子顕微鏡によって、神経再生の形態学的特徴も検査した。再生された神経ケーブルは、導管内の中央に配置され、薄い神経上膜によって取り囲まれていた。NGF群および対照群の双方において、ケーブルは、再生された有髄軸索ならびに無髄軸索の多数の束を有していた。NGF群の有髄軸索の数、直径、および密度は、対照群のものより、それぞれ、多く、大きく、高かった(図8)。NGF群において示されたミエリン鞘もまた、対照群のものよりはるかに厚かった(図8)。
【0096】
したがって、本研究は、切断された坐骨神経の再生に対する治療用NGF遺伝子の好ましい影響を実証し、末梢神経再生のための遺伝子治療の一例を提供する。NGFは、最初にかつ最も良く特徴づけられた神経由来因子であり、末梢神経系の交感神経ニューロンおよび感覚ニューロンの部分集団、脳内の線条体(striatial)および中隔のコリン作動性ニューロンを含む、比較的限定された種類のニューロン集団に作用する(Terenghi, G. 1999, J. Anat 184:1)。NGFは、正常な状況においては極めて低濃度で存在し、かつ、実験的な神経損傷動物モデルにおいては急激に増加する。これらのタンパク質は、標的組織および損傷された神経の遠位断端中のシュワン細胞によって主に産生され、次いで、細胞体へと逆方向に輸送された後、ニューロン上のレセプターに作用し、神経栄養性の効果を生じる。末梢神経障害が起こると、罹患神経内のこのような輸送は、悪い方向に低減され、またはさらに完全に遮断されることがある。輸送メカニズムを維持し、それによって、冒されたニューロンの正常な機能を維持するための代替手段は、末梢神経障害の治療において不可欠であると思われる。クモ膜下注入によってDRGニューロンに送達される遺伝子ベクターは、細胞体に到達するために軸索輸送を必要とせず、DRG中のニューロンの機能を支援し、それによって関与している軸索の変性プロセスを遅延または停止させるために有益に利用され得る。
【0097】
DRGにおけるNGFトランスフェクション、神経再生、特に新しい軸索の直径は、形態計測解析およびTEM解析の双方によって実証されたように、改善されていた。軸索内部のニューロフィラメントの数は、軸索径を調節するための鍵となる要因とみなされており、かつ、感覚ニューロンにおいては、おそらくは、NGFの調節の支配下にある。末梢神経切断の後、神経体サイズ、軸索径、ニューロフィラメント合成、およびニューロフィラメントの軸索輸送は、感覚ニューロンにおいてすべて低減している。NGF cDNAのトランスフェクションは、NGFタンパク質の発現を上方調節すると思われ、かつ、本研究で観察された、ニューロフィラメント合成の増大および線維径の顕著な改善に寄与した可能性がある。
【0098】
当業者には理解できるように、本明細書において記載した例示的な態様に対する多くの修正が可能である。本発明は、正しくは、特許請求の範囲によって定義されるように、その範囲内のこのような全ての修正を包含すると意図される。
【図面の簡単な説明】
【0099】
これらの図面は本発明の態様を例示するが、これらは単なる例に過ぎない。
【図1】注入後2日目のラットDRG中のCy3標識されたバキュロウイルスまたはPEI/DNA複合体の共焦点走査型顕微鏡の画像を示す。DRGニューロンは、FITC標識されたNeuNで染色されている(緑)。Cy3標識されたバキュロウイルスおよびPEI複合体(赤)は、細胞の細胞質中に主に存在し、NeuNシグナルとよく共局在している(矢印)。
【図2】クモ膜下注入後1日目(上の図)または3日目(下の図)の、ホタルルシフェラーゼ(Luc)遺伝子をコードするPEI/DNAまたはバキュロウイルスベクターを用いたDRG細胞のトランスフェクションを示す。540bpのPCR断片が、ホタルルシフェラーゼ遺伝子の部分に対応している。
【図3】DRGにおける、CMV E/Pプロモーターを有する4種の異なるベクターからのルシフェラーゼ発現を示す。注入後2日目にルシフェラーゼ活性を測定し、タンパク質1ミリグラム当たり(図3A)または組織当たり(図3B)の相対発光量(RLU)で表している。図3Cは、PEI/DNA複合体のクモ膜下注入後のDRG中のルシフェラーゼ活性の時間依存性の変化を示し、タンパク質1ミリグラムあたりのRLUで表している。
【図4】脊髄およびDRGにおける、CMVE/PDGFプロモーターを有する4種の異なるベクターからのルシフェラーゼ発現を示す。注入後2日目にルシフェラーゼ活性を測定し、組織当たり(図4A)またはタンパク質1ミリグラム当たり(図4B)の相対発光量(RLU)で表している。
【図5】DRG中のニューロンにおけるルシフェラーゼ発現の共焦点走査型顕微鏡の画像を示す。PEI/DNA複合体の注入後2日目に採取したラットDRGの凍結切片を、トランスフェクトされた細胞を示すためのルシフェラーゼに対する染色とニューロンを示すためのNeuNに対する染色との二重免疫染色用に使用した。細胞の大半はよく共局在しているが(NeuN+Luc、矢印)、ルシフェラーゼ陽性細胞のうちのいくつかはNeuNによって標識されていない(矢印先端部)。
【図6】インビトロ(A、B)およびインビボ(C)の遺伝子トランスフェクション後のNGF濃度を示す。COS7細胞培養物中のNGFの濃度を、培養培地1ml当たり(図6A)または細胞溶解物のタンパク質1mg当たり(図6B)で表している。細胞は、インビトロのトランスフェクション後24時間目に採取した。DRGは、pcDNA3-NGFまたは対照のプラスミドpcDNA3-lucを含有するPEI複合体のクモ膜下注入後3日目および7日目に採取した(図6C)。
【図7】クモ膜下注入後4週目のNGC内の神経再生の形態計測解析を示す。PEI/pcDNA-NGFトランスフェクション群に由来する試料は、対照群に由来する試料と比較して、より大きな線維径およびより低いG比を示す(p<0.0l)。線維の数および密度の点では2群の間に有意な差異は無い。
【図8】NGFによってトランスフェクトされた群(B)および対照群(A)に由来する再生された神経線維の電子顕微鏡による形態を示す。試料は、手術後4週目に採取した。MA:有髄軸索。NGF群における、より厚いミエリンを有するより大型の軸索に注目されたい。倍率10000倍。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主の末梢神経系中のニューロン細胞中に核酸を送達する方法であって、後根神経節中の標的ニューロン細胞を特定する段階、および標的ニューロン細胞の細胞体中に核酸を送達するのに十分な程度、後根神経節の近位にある、宿主の脳脊髄液中のある部位中にその核酸を含むベクターを投与する段階を含む方法。
【請求項2】
宿主中の末梢神経障害を治療する方法であって、神経障害によって冒された、後根神経節中の標的ニューロン細胞を特定する段階、および標的ニューロン細胞の細胞体中に核酸を送達するのに十分な程度、後根神経節の近位にある、宿主の脳脊髄液中のある部位中に治療用核酸を含むベクターを投与する段階を含む方法。
【請求項3】
宿主中の近位および遠位の断端を有する切断された末梢神経を治療する方法であって、治療用核酸を含むベクターを後根神経節ニューロン細胞に投与する段階を含み、ここで遠位および近位の断端が神経ガイド管に固定される方法。
【請求項4】
後根神経節ニューロン細胞にベクターを投与する段階が、後根神経節ニューロン細胞の細胞体中に核酸を送達するのに十分な程度、後根神経節ニューロン細胞の近位にある、脳脊髄液中のある部位にベクターを投与する段階を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
末梢神経障害が、糖尿病性神経障害、神経圧迫、または神経切断である、請求項2記載の方法。
【請求項6】
核酸が、プロモーターに作動可能に連結されたコード配列を含む、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
プロモーターがウイルスプロモーターである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ウイルスプロモーターがCMVプロモーターである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
プロモーターがニューロン特異的プロモーターである、請求項6記載の方法。
【請求項10】
ニューロン特異的プロモーターがPDGFβプロモーターである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
プロモーターがエンハンサーに作動可能に連結されている、請求項6〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
エンハンサーがCMVエンハンサーである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
核酸が神経栄養因子をコードする、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
神経栄養因子が神経成長因子である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
神経成長因子がNGFである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
核酸が抗アポトーシス因子をコードする、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
抗アポトーシス因子がbcl-2である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
ベクターがウイルスベクターである、請求項1〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
ウイルスベクターがバキュロウイルスベクターまたはAAVベクターである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
ベクターが非ウイルスベクターである、請求項1〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
非ウイルスベクターが、ポリマーベースのベクター、ポリペプチドベースのベクター、または脂質ベースのベクターである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ポリマーベースのベクターがポリエチレンイミンである、請求項21記載の方法。
【請求項23】
ベクターが注入によって投与される、請求項1〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
ベクターが腰椎注射によって投与される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
後根神経節中の標的ニューロン細胞中に核酸を送達するための、核酸を含むベクターの使用であって、該送達が、標的ニューロン細胞の細胞体中に核酸を送達するのに十分な程度、後根神経節の近位にある、脳脊髄液中のベクター投与部位から実施される使用。
【請求項26】
宿主中の末梢神経障害を治療するための、治療用核酸を含むベクターの使用であって、核酸が、標的ニューロン細胞の細胞体中に核酸を送達するのに十分な程度、後根神経節の近位にある、脳脊髄液中のベクター投与部位から、神経障害によって冒された後根神経節中の標的ニューロン細胞中に送達される使用。
【請求項27】
宿主中の近位断片および遠位断端を有する切断された末梢神経を治療するための、治療用核酸を含むベクターの使用であって、近位および遠位の断端が神経ガイド管に固定され、かつ、核酸が、脳脊髄液中の投与部位から後根神経節ニューロン細胞へと送達される使用。
【請求項28】
投与部位が、後根神経節ニューロン細胞の細胞体中にベクターを送達するのに十分な程度、後根神経節ニューロン細胞の近位にある脳脊髄液中にある、請求項27記載の使用。
【請求項29】
末梢神経障害が、糖尿病性神経障害、神経圧迫、または神経切断である、請求項25記載の使用。
【請求項30】
核酸が、プロモーターに作動可能に連結されたコード配列を含む、請求項25〜29のいずれか一項記載の使用。
【請求項31】
プロモーターがウイルスプロモーターである、請求項30記載の使用。
【請求項32】
ウイルスプロモーターがCMVプロモーターである、請求項31記載の使用。
【請求項33】
プロモーターがニューロン特異的プロモーターである、請求項30記載の使用。
【請求項34】
ニューロン特異的プロモーターがPDGFβプロモーターである、請求項33記載の使用。
【請求項35】
プロモーターがエンハンサーに作動可能に連結されている、請求項30〜34のいずれか一項記載の使用。
【請求項36】
エンハンサーがCMVエンハンサーである、請求項35記載の使用。
【請求項37】
核酸が神経栄養因子をコードする、請求項25〜36のいずれか一項記載の使用。
【請求項38】
神経栄養因子が神経成長因子である、請求項37記載の使用。
【請求項39】
神経成長因子がNGFである、請求項38記載の使用。
【請求項40】
核酸が抗アポトーシス因子をコードする、請求項25〜36のいずれか一項記載の使用。
【請求項41】
抗アポトーシス因子がbcl-2である、請求項40記載の使用。
【請求項42】
ベクターがウイルスベクターである、請求項25〜41のいずれか一項記載の使用。
【請求項43】
ウイルスベクターがバキュロウイルスベクターまたはAAVベクターである、請求項42記載の使用。
【請求項44】
ベクターが非ウイルスベクターである、請求項25〜41のいずれか一項記載の使用。
【請求項45】
非ウイルスベクターが、ポリマーベースのベクター、ポリペプチドベースのベクター、または脂質ベースのベクターである、請求項44記載の使用。
【請求項46】
ポリマーベースのベクターがポリエチレンイミンである、請求項45記載の使用。
【請求項47】
投与部位が腰部中にある、請求項25〜46のいずれか一項記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−528485(P2008−528485A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552094(P2007−552094)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【国際出願番号】PCT/SG2005/000015
【国際公開番号】WO2006/078221
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】