説明

材料評価方法

【課題】多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に用いる部材の材料を評価する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に用いる部材の材料を評価する方法であって、評価材料からなる内面で形成された閉空間部21cを有する容器21を作成し、閉空間部21cにシリコン試料を配置した後、容器21を所定回転数で所定時間に亘り回転軸を略水平にして回転させる回転処理を行い、その後、シリコン試料について不純物濃度を測定し、不純物濃度の測定結果に基づき材料を評価することを特徴とする材料評価方法である。これにより、多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に用いる部材の材料を評価し選定する際に、鋳造されるインゴットが不純物により汚染されるのを低減できる材料を選定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に用いる部材の材料を評価する方法に関し、さらに詳しくは、鋳造されるインゴットが不純物により汚染されるのを低減できる材料が選定可能である材料評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2排出による地球温暖化問題やエネルギー資源の枯渇問題が深刻化しており、それらの問題の対応策の一つとして、無尽蔵に降りそそぐ太陽光エネルギーを活用する太陽光発電が注目されている。太陽光発電は、太陽電池を使用して太陽光エネルギーを直接電力に変換する発電方式であり、太陽電池の基板には、多結晶のシリコンウェーハを用いるのが主流である。
【0003】
太陽電池用の多結晶シリコンウェーハは、一方向性凝固のシリコンインゴットを素材とし、このインゴットをスライスして製造される。このため、太陽電池の普及を図るには、シリコンウェーハの品質を確保するとともに、コストを低減する必要があり、その前段階で、高品質のシリコンインゴットを安価に製造することが要求される。
【0004】
多結晶のシリコンインゴットに対する品質の要求では、特にシリコンインゴットに含有される不純物の濃度が重要となる。これは、シリコンインゴットから切り出された多結晶シリコンウェーハがFeやCr、Niといった不純物で汚染されると、ウェーハを太陽電池として用いた際に光電変換効率を悪化させるからである。例えば非特許文献1では、多結晶シリコンウェーハにおける不純物濃度と光電変換効率との関係が示されている。
【0005】
図8は、多結晶シリコンウェーハにおける不純物濃度と相対変換効率との関係を示す図である。同図は、非特許文献1に記載されている図を引用したものであり、P型の多結晶シリコンウェーハを用いた太陽電池において、不純物であるTa、Mo、Nb、Zr、W、Ti、V、Au、Cr、Mn、Fe、Co、Ag、Pd、Al、Ni、CuおよびPの濃度と相対変換効率の関係を示す。同図から、いずれの不純物もそれぞれ特定の濃度を超えると相対変換効率が低下することが確認される。
【0006】
したがって、太陽電池用の多結晶シリコンウェーハでは、不純物による汚染を可能な限り低減することが望まれる。このため、多結晶シリコンウェーハの素材となるシリコンインゴットにおいて、不純物による汚染を可能な限り低減することが要求される。
【0007】
これらのコストや品質の要求に対応できる方法として、溶融シリコンをルツボまたは鋳型(モールド)内で凝固させる鋳造法(以下、「キャスト法」という)や、電磁誘導を利用した連続鋳造方法であるEMC法(Electromagnetic Casting法、電磁鋳造法)が実用化されている。
【0008】
キャスト法による多結晶シリコンインゴットの鋳造では、ルツボに装入されたシリコン原料を加熱して溶融させた後、溶融シリコンをルツボの中で凝固させるか、または鋳型に流し込んで凝固させて多結晶シリコンインゴットを得る。
【0009】
図9は、従来のEMC法に用いられる連続鋳造装置(以下、単に「EMC炉」ともいう)の構成を示す模式図である。同図に示すように、EMC炉はチャンバー1を備える。チャンバー1は、内部を外気から隔離し鋳造に適した不活性ガス雰囲気に維持する二重壁構造の水冷容器である。チャンバー1は、側壁の上部に不活性ガス導入口5が設けられ、側壁の下部に排気口6が設けられている。
【0010】
チャンバー1内には、ルツボ7、誘導コイル8およびアフターヒーター9が配置されている。ルツボ7は、融解容器としてのみならず、鋳型としても機能し、熱伝導性および電気伝導性に優れた金属(例えば、銅)製の角筒体で、チャンバー1内に吊り下げられている。このルツボ7は、軸方向の一部が、複数の短冊状の素片により、周方向で複数に分割される。また、ルツボ7は、内部を流通する冷却水によって強制冷却される。
【0011】
誘導コイル8は、ルツボ7を囲繞するように、ルツボ7と同芯に周設され、図示しない電源装置に接続されている。アフターヒーター9は、ルツボ7と同芯に、ルツボ7の下方に複数連設され、ルツボ7から引き下げられるシリコンインゴット3を加熱して、その軸方向に適切な温度勾配を与えつつ、長時間かけて室温まで冷却する。
【0012】
また、チャンバー1外の上方に、シリコン原料が保管される原料ホッパー16と、原料ホッパー16内に保管されたシリコン原料を切り出す原料供給装置2とが配置される。原料供給装置2には原料導入管11の上端が接続され、原料導入管11の上端に供給されたシリコン原料12は、原料導入管11の下端から排出されてルツボ7に装入される。原料導入管11の下部はチャンバー内に配置され、インゴットを連続鋳造する際に200℃を超える高温となることから、通常、原料導入管11はJISで規定されるSUS304ステンレス鋼といった耐熱性に優れる金属が用いられる。
【0013】
チャンバー1の底壁には、アフターヒーター9の下方に、インゴット3を抜き出すための引出し口4が設けられる。インゴット3は、引出し口4を貫通して下降する支持台15によって支えられながら引き下げられる。
【0014】
ルツボ7の真上には、プラズマトーチ14が昇降可能に設けられている。プラズマトーチ14は、図示しないプラズマ電源装置の一方の極に接続され、他方の極は、支持台15に接続されている。このプラズマトーチ14は、下降させてルツボ7内に挿入された状態で使用される。
【0015】
このようなEMC炉を用いたEMC法では、ルツボ7内にシリコン原料12を装入し、誘導コイル8に交流電流を印加するとともに、下降させたプラズマトーチ14に通電を行う。このとき、ルツボ7を構成する短冊状の各素片が互いに電気的に分割されていることから、誘導コイル8による電磁誘導に伴って各素片内で渦電流が発生し、ルツボ7の内壁の渦電流がルツボ7内に磁界を発生させる。これにより、ルツボ7内のシリコン原料は電磁誘導加熱されて融解し、溶融シリコン13が形成される。また、プラズマトーチ14とシリコン原料、さらには溶融シリコン13との間にプラズマアークが発生し、そのジュール熱によっても、シリコン原料が加熱されて融解し、電磁誘導加熱の負担を軽減して効率良く溶融シリコン13が形成される。
【0016】
溶融シリコン13は、ルツボ7の内面の渦電流に伴って生じる磁界と、溶融シリコン13の表面に発生する電流との相互作用により、溶融シリコンの外面の内側法線方向にピンチ力を受ける。このため、ルツボ7の内面と溶融シリコン13の外面とは、非接触の状態に保持される。
【0017】
ルツボ7内でシリコン原料12を融解させながら、溶融シリコン13を支える支持台15を徐々に下降させると、誘導コイル8の下端から遠ざかるにつれて誘導磁界が小さくなることから、発熱量およびピンチ力が減少し、さらにルツボ7からの冷却により、溶融シリコン13は外周部から凝固が進行する。そして、支持台15の下降に伴ってシリコン原料12を連続的に装入し、融解および凝固を継続することにより、溶融シリコン13が一方向に凝固し、インゴット3を連続して鋳造することができる。
【0018】
このようなEMC法によれば、溶融シリコン13とルツボ7との接触が軽減されるため、その接触に伴うルツボ7からの不純物の汚染が防止され、高品質のインゴット3を得ることができる。しかも、連続鋳造であることから、安価に一方向凝固されたインゴット3を製造することが可能になる。
【0019】
EMC法により鋳造されるインゴットが不純物により汚染されるのを低減する方法に関し、従来から種々の提案がなされており、例えば特許文献1がある。特許文献1では、内面にシリコンコーティングが施されたルツボを用いるインゴットの連続鋳造方法が提案されている。
【0020】
特許文献1では、ルツボの内面にシリコンコーティングを施すことにより、ルツボと直接接触した場合にインゴットが不純物で汚染されるのを低減できるとともに、ルツボが損傷するのを軽減できるとしている。しかし、太陽電池の光電変換効率をより向上させるため、さらにインゴットを連続鋳造する際に不純物による汚染を低減することが望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】JOHN RANSFORD DAVIS 他「IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES」VOL.ED−27,NO.4 APRIL 1980 682頁
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平10−101319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
前述のとおり、シリコンインゴットの鋳造では、インゴットから切り出されたウェーハを太陽電池に用いた際に光電変換効率を向上させるため、鋳造されるインゴットにおいて不純物による汚染を可能な限り低減することが要求される。
【0024】
ここで、インゴットの不純物による汚染の多くは、EMC炉といった鋳造装置の部材が供給されるシリコン原料または鋳造されるインゴットと接触した際に、部材に含まれる不純物がシリコン原料またはインゴットに付着して混入することにより発生する。したがって、鋳造装置の部材には、シリコン原料またはインゴットと鋳造装置の部材が接触した際に発生する不純物による汚染を低減できる材料を用いることが重要である。しかし、多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に用いる部材について、不純物による汚染を評価する方法は確立されていない。
【0025】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に用いる部材の材料を評価し選定する際に、鋳造されるインゴットが不純物により汚染されるのを低減できる材料が選定可能である材料評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者らは、上記課題を解決するため、種々の試験を行い、鋭意検討を重ねた結果、評価材料からなる内面で形成された閉空間部を有する容器を作成し、閉空間部にシリコン試料を配置した後、容器を所定回転数で所定時間に亘って回転させ、その後、閉空間部に配置したシリコン試料について不純物濃度を測定し、不純物濃度の測定結果に基づき材料を評価することにより、鋳造装置の部材に用いた際の不純物の汚染を評価できることを知見した。
【0027】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、下記(1)〜(4)の材料評価方法を要旨としている。
【0028】
(1)多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に用いる部材の材料を評価する方法であって、評価材料からなる内面で形成された閉空間部を有する容器を作成し、前記閉空間部にシリコン試料を配置した後、前記容器を所定回転数で所定時間に亘り回転軸を略水平にして回転させる回転処理を行い、その後、前記シリコン試料について不純物濃度を測定し、不純物濃度の測定結果に基づき材料を評価することを特徴とする材料評価方法。
【0029】
(2)上記(1)に記載の材料評価方法において、前記回転処理を行う前および後で、前記閉空間部の内面について表面性状を調査し、不純物濃度の測定結果に基づき材料を評価する際に、不純物濃度の測定結果とともに、表面性状の調査結果に基づき材料を評価することを特徴とする請求項1に記載の材料評価方法。
【0030】
(3)前記容器として、回転軸に垂直な断面における前記閉空間部の形状が矩形のものを用いることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の材料評価方法。
【0031】
(4)前記シリコン試料について不純物濃度を測定する際、全溶解法により測定することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の材料評価方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明の材料評価方法は、内面が評価材料からなる容器の閉空間部にシリコン試料を配置した後、容器を回転させて回転処理を行い、その後、シリコン試料について不純物濃度を測定する。これにより、多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に用いる部材の材料を評価し選定する際に、鋳造されるインゴットが不純物により汚染されるのを低減できる材料が選定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の材料評価方法に用いることができる評価装置を示す模式図である。
【図2】不純物濃度の測定結果を示す図であり、同図(a)はFe濃度、同図(b)はCr濃度、同図(c)はNi濃度をそれぞれ示す。
【図3】表面性状の調査結果を示す図であり、同図(a)は表面処理なしのSUS304ステンレス鋼、同図(b)はカナック処理したSUS304、同図(c)はシリコンコーティングを形成したSUS304、同図(d)は表面処理なしのSUS430、同図(e)はカナック処理したSUS430、同図(f)はPVD法によりDLCコートを形成したSUS430、同図(g)はCVD法によりDLCコートを形成したSUS430のステンレス鋼を用いた場合をそれぞれ示す。
【図4】本発明の材料評価方法により選定した材料を配置したシリコンインゴットの連続鋳造装置の構成を示す模式図である。
【図5】シリコンインゴットを分割する位置を示す模式図である。
【図6】本発明例および比較例によるウェーハの不純物濃度を示す図であり、同図(a)はFe濃度、同図(b)はCr濃度、同図(c)はNi濃度をそれぞれ示す。
【図7】本発明例および比較例により得られたウェーハのライフタイムを示す図である。
【図8】多結晶シリコンウェーハにおける不純物濃度と相対変換効率との関係を示す図である。
【図9】従来のEMC法に用いられる連続鋳造装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明の材料評価方法を図面に基づいて説明する。
【0035】
図1は、本発明の材料評価方法に用いることができる評価装置を示す模式図である。同図に示す評価装置は、回転可能に支持された容器21と、容器21を直接支持する支持軸22と、支持軸22を受け入れる軸受けを有する架台23と、架台23に固定され、支持軸22を駆動するモーター24とを備える。容器21は、シリコン試料が配置される凹部を有する容器本体21aと、板状の蓋部21bとから構成され、容器本体21aと蓋部21bにより、同図に破線で示すように、立方体状の閉空間部21cが形成される。同図に示す評価装置は、モーター24の回転駆動に伴い、支持軸22および容器21が回転する。
【0036】
本発明の材料評価方法は、多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に用いる部材の材料を評価する方法であって、評価材料からなる内面で形成された閉空間部21cを有する容器21を作成し、閉空間部21cにシリコン試料を配置した後、容器21を所定回転数で所定時間に亘り回転軸を略水平にして回転させる回転処理を行い、その後、シリコン試料について不純物濃度を測定し、不純物濃度の測定結果に基づき材料を評価することを特徴とする。
【0037】
評価材料からなる内面で形成された容器の閉空間部21cにシリコン試料を配置した後、容器21を所定回転数で所定時間に亘り回転軸を略水平にして回転させる回転処理を行い、その後、シリコン試料について不純物濃度を測定する。回転処理の際に評価材料からなる内面にシリコン試料が繰り返し接触する。これにより、評価材料を鋳造装置の部材として用いた際、供給されるシリコン原料や鋳造されるインゴットと接触して発生する不純物による汚染を評価することができる。
【0038】
回転処理の際に回転軸を垂直にして容器を回転させると、容器の閉空間部に配置されたシリコン試料は、容器とともに回転しつつ、遠心力により閉空間部の外周側に移動する。やがて、シリコン試料は閉空間部の外周側に移動した状態で容器とともに回転することから、シリコン試料は容器内面の特定の箇所と常に接触した状態となる。一方、容器21を回転軸を略水平にして回転させると、シリコン試料は重力により容器の下側に移動する。この場合、容器の回転により容器の下側に位置する内面は移動するので、シリコン試料は容器内を移動していることになる。この移動の際に、シリコン試料と評価材料からなる内面とが繰り返し接触することから、接触した際の付着や剥離による汚染を評価することができる。前記図1に示すように回転軸を水平にしてもよく、回転軸を水平面に対して5°以内で傾斜させてもよい。
【0039】
容器の閉空間部に配置するシリコン試料は、EMC法やキャスト法により多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に用いられるシリコン原料を用いることができる。
【0040】
評価材料との接触による汚染を評価するため、閉空間部を形成する内面は評価材料を用いる。容器は、評価材料からなる素材から機械加工等により作成してもよく、別の材料からなる容器の内面に、薄板状の評価材料を貼り付けて作成してもよい。
【0041】
容器として、回転軸に垂直な断面における閉空間部の形状が、矩形や円形、六角形であるものを用いることができる。閉空間部の断面形状が円形の容器を用いた場合、シリコン試料を装入して回転させた際、シリコン試料は一定の速度で移動して容器の下側に保持される。
【0042】
一方、前記図1に示すような閉空間部の断面形状が矩形の容器を用いた場合、容器が有する4つの角部が回転により順番に容器の下側となり、シリコン試料は下側となる角部への移動を繰り返す。この下側となる角部への移動する際、シリコン試料は容器の回転に伴って持ち上げられた後、落下して移動する。このため、閉空間部の断面形状が円形の容器を用いる場合に比べ、閉空間部の断面形状が矩形の容器を用いた場合は、シリコン試料と評価材料が接触する際の速度を増加させることができる。したがって、本発明の材料評価方法は、回転軸に垂直な断面の形状が矩形のものを用いるのが好ましい。
【0043】
本発明の材料評価方法は、容器の閉空間部に配置して回転させたシリコン試料について不純物濃度を測定する。不純物濃度の測定では、多結晶シリコンウェーハを用いた太陽電池において光電変換効率を悪化させるTaやMo、Nb、Zr、W、Ti、V、Au、Cr、Mn、Fe、Co、Ag、Pd、Al、Ni、Cu、Pといった不純物の濃度を測定することができる。材料の評価を効率よく行うため、評価材料の主成分に応じて、上記不純物から適宜選択して濃度を測定してもよい。
【0044】
不純物濃度の測定は、全容解法により測定するのが好ましい。全溶解法による測定は、フッ化水素酸と硝酸などの混酸で溶解し、この溶解液を原子吸光分光光度分析装置または誘導結合プラズマ質量分析装置を用いてFeなどの金属の濃度を測定する手法である。不純物濃度の測定に全容解法を用いることにより、正確かつ高感度に不純物濃度を測定することができる。
【0045】
本発明の材料評価方法は、前述の回転処理を行う前および後で、容器の閉空間部を形成する内面について表面性状を調査し、不純物濃度の測定結果に基づき材料を評価する際に、不純物濃度の測定結果とともに、表面性状の調査結果に基づき材料を評価するのが好ましい。回転処理前および回転処理後に評価材料からなる閉空間部の内面について表面性状を調査し、表面性状の調査結果に基づき材料を評価することにより、評価材料の耐久性を考慮して評価をすることができる。
【0046】
閉空間部の内面についての表面性状の調査は、顕微鏡を用いた表面性状の観察や、粗さ計を用いて表面粗さを測定することにより行うことができる。回転処理の前後における閉空間部の内面の表面性状を比較し、変化(劣化)が少ないほど、鋳造装置の部材に好適である。
【実施例】
【0047】
本発明により評価材料の適否を評価する材料評価試験を行い、鋳造装置に好適な材料を選定した。その後、本発明の材料評価方法の効果を確認するため、材料評価試験により選定された材料からなるEMC炉の部材を作成し、EMC法によりシリコンインゴットを連続鋳造する際に当該部材を配置して鋳造する試験を行った
【0048】
1.材料評価試験
[試験条件]
材料評価試験では、前記図1に示す評価装置を用い、閉空間部にシリコン試料を配置した後、容器を回転数38rpmで15時間に亘り回転軸を水平にして回転させる回転処理を行い、その後、シリコン試料の不純物濃度を測定した。容器は、閉空間部が立方体状であり、その寸法が100mm×100mm×100mmであるものを用いた。シリコン試料は、EMC法により多結晶シリコンインゴットを連続鋳造する際に用いられるシリコン原料を用い、質量180gのシリコン原料を配置した。シリコン原料は、粒径が0.6〜12mmのものを用いた。
【0049】
容器の閉空間部に配置して回転処理したシリコン試料の不純物濃度の測定は、全溶解法により、フッ化水素酸と硝酸などの混酸で溶解し、この溶解液のFe、CrおよびNi濃度を原子吸光分光光度分析装置で測定することにより行った。比較のため、回転処理前のシリコン試料について、全容解法により不純物濃度を測定した。
【0050】
さらに、評価材料の一部では、回転処理前および回転処理後に、容器の閉空間部の内面について表面性状を調査した。表面性状の調査は顕微鏡により閉空間部の内面を観察することにより行った。
【0051】
不純物濃度の測定結果および表面性状の調査結果に基づき、評価材料について、EMC炉の部材に用いる材料としての適否を評価した。評価材料としてJISで規定されるSUS304およびSUS430ステンレス鋼、EMC法により連続鋳造された多結晶シリコン、天然ゴムならびにシリコンゴムを用いた。SUS304ステンレス鋼は、表面処理を施さなかったものと、カナック処理を施したものと、および、シリコン溶射によりシリコンコーティングを形成したものとを用いた。SUS430ステンレス鋼は、表面処理を施さなかったものと、カナック処理を施したものと、および、PVD法またはCVD法によりDLCコートを形成したものとを用いた。
【0052】
カナック処理は、表面を窒化させる処理であり、これにより表面を高硬度にすることができる。また、PVD法またはCVD法を用いてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コートを形成することにより、表面を高硬度にすることができる。
【0053】
[評価基準]
不純物濃度の測定では、Fe、CrおよびNi濃度に基づき不純物による汚染の程度を評価した。表1の「不純物濃度の評価」欄の記号の意味は次のとおりである。
○:不純物濃度が、いずれも、従来からEMC炉の部材に用いられている表面処理なしのSUS304ステンレス鋼(評価材料A)の濃度値の40%未満であったことを示す。
△:不純物濃度が、いずれも、従来からEMC炉の部材に用いられている表面処理なしのSUS304ステンレス鋼(評価材料A)の濃度値の70%未満であったことを示す。
×:不純物濃度のいずれかが、従来からEMC炉の部材に用いられている表面処理なしのSUS304ステンレス鋼(評価材料A)の濃度値の70%以上であったことを示す。
【0054】
表面性状の調査では、顕微鏡により観察された表面性状に基づき評価した。表1の「表面性状の評価」欄の記号の意味は次のとおりである。
○:回転処理前と比べ、回転処理後の閉空間部の内面における表面性状がほとんど変化しなかったことを示す。
△:回転処理前と比べ、回転処理後の閉空間部の内面における表面性状の劣化が軽微であったことを示す。
×:回転処理前と比べ、回転処理後の閉空間部の内面における表面性状が著しく劣化したことを示す。
【0055】
適否評価では、不純物濃度の評価および表面性状の評価に基づき、EMC炉の部材に用いる材料としての適否を評価した。表1の「適否評価」欄の記号の意味は次のとおりである。
○:不純物濃度の評価および表面性状の評価がいずれも○であったことを示す。
△:不純物濃度の評価および表面性状の評価がいずれも△以上であったことを示す。
×:不純物濃度の評価および表面性状の評価がいずれかで×があったことを示す。
【0056】
表1に、本試験に用いた評価材料、評価材料の表面に施した表面処理、不純物濃度の評価、表面性状の評価および適否評価をそれぞれ示す。
【0057】
【表1】

【0058】
[試験結果]
図2は、不純物濃度の測定結果を示す図であり、同図(a)はFe濃度、同図(b)はCr濃度、同図(c)はNi濃度をそれぞれ示す。同図(a)〜(c)に示す不純物濃度は、従来からEMC炉の部材に用いられている表面処理なしのSUS304ステンレス鋼(評価材料A)からなる容器と接触させたシリコン原料の濃度(atoms/cc)を基準(1.0)とした相対値である。
【0059】
図3は、表面性状の調査結果を示す図であり、同図(a)は表面処理なしのSUS304ステンレス鋼、同図(b)はカナック処理したSUS304、同図(c)はシリコンコーティングを形成したSUS304、同図(d)は表面処理なしのSUS430、同図(e)はカナック処理したSUS430、同図(f)はPVD法によりDLCコートを形成したSUS430、同図(g)はCVD法によりDLCコートを形成したSUS430のステンレス鋼を用いた場合をそれぞれ示す。
【0060】
図2および表1に示す不純物濃度の評価から、不純物濃度は、表面処理なしのSUS430ステンレス鋼(評価材料D)、ならびに、カナック処理を施したSUS304およびSUS430ステンレス鋼(評価材料BおよびE)を用いた場合と、従来からEMC炉の部材に用いられている表面処理なしのSUS304ステンレス鋼(評価材料A)を用いた場合とで同程度であった。評価材料A、B、DおよびEでは、表面性状の調査を行ったが、回転処理により表面性状が劣化し、表面性状の評価は×または△となり、適否評価も×となった。
【0061】
シリコンコーティングを施したSUS304ステンレス鋼(評価材料C)、および、PVD法またはCVD法によりDLCコートを施したSUS430ステンレス鋼(評価材料FおよびG)を用いた場合では、従来(評価材料A)より不純物濃度が低下し、不純物濃度の評価は△となった。しかし、これらの場合では、前記図3(c)、(f)および(g)に示すように、回転処理により容器内面の表面性状が著しく劣化し、表面性状の評価が×となっり、適否評価も×となった。
【0062】
一方、多結晶シリコン(評価材料H)、天然ゴム(評価材料I)およびシリコンゴム(評価材料J)を用いた場合では、不純物濃度の測定値が、従来(評価材料A)より、著しく低濃度となり、不純物濃度の評価が○となった。評価材料H〜Jについては、表面性状の調査を行わなかった。
【0063】
不純物濃度の評価結果から、評価材料A〜Jのうち、鋳造されるインゴットが不純物により汚染されるのを低減できる材料として好適なものは、多結晶シリコン(評価材料H)、天然ゴム(評価材料I)およびシリコンゴム(評価材料J)であることが明らかになった。また、不純物濃度の評価および表面性状の評価に基づく適否評価結果から、評価材料A〜Gは、いずれも、鋳造されるインゴットが不純物により汚染されるのを低減でき、かつ、耐久性に優れる材料でないことが明らかになった
【0064】
2.シリコンインゴットの連続鋳造試験
[試験条件]
【0065】
インゴットの連続鋳造試験では、上述の「1.材料評価試験」における不純物濃度の評価結果に基づき選定した多結晶シリコン、天然ゴムおよびシリコンゴムからなる部材をEMC炉に配置して鋳造を行った。
【0066】
図4は、本発明の材料評価方法により選定した材料を配置したシリコンインゴットの連続鋳造装置の構成を示す模式図である。同図に示す電磁鋳造装置は、前記図9に示す電磁鋳造装置に、原料導入管11の内面に多結晶シリコンからなるインナーカバー17と、プラズマトーチ14の外面に多結晶シリコンからなるアウターカバー18とを追加したものである。
【0067】
原料導入管11およびプラズマトーチ14は、ルツボ7にシリコン原料を供給する経路上にあり、上述の「1.材料評価試験」における不純物濃度の評価結果が×となったSUS304ステンレス鋼が用いられている。多結晶シリコンを用いたインナーカバー17およびアウターカバー18を配置することにより、原料導入管11の内面およびプラズマトーチ14の外面とシリコン原料とが直接接触するのを防止した。原料導入管11およびプラズマトーチ14は、インゴットを連続鋳造する際に200℃を超える高温となり、低融点である天然ゴムおよびシリコンゴムを用いることができないことから、高融点である多結晶シリコンを用いた。
【0068】
また、原料ホッパー16および原料供給装置2がシリコン原料と直接接触するのを保護するため、原料ホッパー16および原料供給装置のシリコン原料と直接接触する部分に天然ゴムまたはシリコンゴムを用いた。
【0069】
本発明例では、このような図4に示すEMC炉を用いてシリコンインゴットの連続鋳造を行った。一方、比較例では、前記図9に示すEMC炉を用い、多結晶シリコンからなる保護部材を配置することなく、鋳造を行った。
【0070】
本発明例および比較例ともに、引き下げ長さが7000mmからなるシリコンインゴットを連続鋳造し、鋳造されたインゴットを外周から10mmの位置で切断して鋳肌面を除去した。鋳肌面を除去したインゴットを、引き下げ軸に平行な面で切断して分割した。
【0071】
図5は、シリコンインゴットを分割する位置を示す模式図である。同図に示すように、シリコンインゴット30は引き下げ軸に平行な面において縦2個、横3個に分割し、引き下げ軸方向を長手方向とする6個の分割インゴット31とした。本実施例では、同図でハッチングを施した角部に位置する分割インゴットおよびクロスハッチングを施した中央に位置する分割インゴットからウェーハを切り出した。角部および中央に位置する分割インゴットから切り出されたウェーハのうち、ボトム側から2000mm(下段)、4000mm(中段)および6000mm(上段)の位置からそれぞれ1枚のサンプルを採取した。
【0072】
採取したサンプルについて、全溶解法によりFe、NiおよびCr濃度を測定するとともに、ライフタイムを測定して不純物による汚染を評価した。ライフタイムの測定では、採取したサンプルウェーハを、フッ硝酸で表面ダメージ層をエッチングし、その後、バッファードフッ酸(BHF)で表面酸化膜を除去した。さらに、ウェーハ表面をヨウ素によりケミカルパシベーションした後、μ−PCD法によりウェーハ表面のライフタイムを測定した。
【0073】
[試験結果]
図6は、本発明例および比較例によるウェーハの不純物濃度を示す図であり、同図(a)はFe濃度、同図(b)はCr濃度、同図(c)はNi濃度をそれぞれ示す。同図(a)〜(c)に示す金属不純物濃度は、上段角部から採取したウェーハの濃度(atoms/cc)を基準(1.0)とした相対値である。同図(a)〜(c)から、鋳造されたインゴットの同じ箇所から採取したウェーハのFe濃度、Cr濃度およびNi濃度を比較すると、いずれの箇所でも比較例に比べて本発明例で低下していることが確認できた。
【0074】
図7は、本発明例および比較例により得られたウェーハのライフタイムを示す図である。同図に示すライフタイムは、上段角部から採取したウェーハの値(μs)を基準(1.0)とした相対値である。同図に示すように、鋳造されたインゴットの同じ箇所から採取したウェーハのライフタイムを比較すると、いずれの箇所でも、本発明例では、比較例よりライフタイムが上昇し、良好であった。
【0075】
これらから、本発明の材料評価方法を用いて多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に用いる部材の材料を評価することにより、インゴットの不純物による汚染を低減できる材料が選定可能であることが明らかになった。
【0076】
上記の実施例では、EMC法で使用されるEMC炉を例にして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その他のキャスト法といった鋳造法で使用される鋳造装置でも、本発明の材料評価方法によりインゴットの不純物による汚染を低減できる材料が選定可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の材料評価方法は、内面が評価材料からなる容器の閉空間部にシリコン試料を配置した後、容器を回転させて回転処理を行い、その後、シリコン試料について不純物濃度を測定する。これにより、多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に用いる部材の材料を評価し選定する際に、鋳造されるインゴットが不純物により汚染されるのを低減できる材料が選定可能である。
【0078】
したがって、本発明の材料評価方法は、太陽電池用ウェーハの製造において利用することができ、不純物の汚染を低減することによる品質向上に大きく寄与することができる。
【符号の説明】
【0079】
1:チャンバー、 2:原料供給装置、 3:シリコンインゴット、 4:引出し口、
5:不活性ガス導入口、 6:排気口、 7:ルツボ、 8:誘導コイル、
9:アフターヒーター、 11:原料導入管、 12:シリコン原料、
13:溶融シリコン、 14:プラズマトーチ、 15:支持台、
16:原料ホッパー、 17:インナーカバー、 18:アウターカバー、
21:容器、 21a:容器本体、 21b:蓋部、 21c:閉空間部、
22:支持軸、 23:架台、 24:モーター、 30:シリコンインゴット、
31:分割シリコンインゴット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶シリコンインゴットを鋳造する際に用いる部材の材料を評価する方法であって、評価材料からなる内面で形成された閉空間部を有する容器を作成し、前記閉空間部にシリコン試料を配置した後、前記容器を所定回転数で所定時間に亘り回転軸を略水平にして回転させる回転処理を行い、その後、前記シリコン試料について不純物濃度を測定し、不純物濃度の測定結果に基づき材料を評価することを特徴とする材料評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の材料評価方法において、前記回転処理を行う前および後で、前記閉空間部の内面について表面性状を調査し、
不純物濃度の測定結果に基づき材料を評価する際に、不純物濃度の測定結果とともに、表面性状の調査結果に基づき材料を評価することを特徴とする請求項1に記載の材料評価方法。
【請求項3】
前記容器として、回転軸に垂直な断面における前記閉空間部の形状が矩形のものを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の材料評価方法。
【請求項4】
前記シリコン試料について不純物濃度を測定する際、全溶解法により測定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の材料評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−111646(P2012−111646A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259942(P2010−259942)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】