説明

杭の打設工法

【目的】 市街地などの周辺環境条件が厳しいところにおいても振動や騒音障害を発生させずに沈下量の少ない既製杭を打設することができるとともに、場所打ち杭においても杭施工時の健全性を十分に検討できる杭の打設工法を提供することである。
【構成】 地盤1に掘削した杭打設用の掘削孔2にUターン状に折り曲げた緊張材4を挿入してその先端部を孔底下部の支持層に固定すると共に、その上端部を孔口2aから導出させた状態で前記掘削孔2にコンクリート11を打設して杭体12を形成し、該杭体12に前記緊張材4で予め所定の荷重を付加することにより杭体12を沈下させた後、前記緊張材4を引き抜き除去することである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は杭の打設工法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、建物を構築する場合、杭を含めた基礎の設計は支持力と沈下の検討が義務付けられている。
【0003】そのために直接基礎の場合は両者の検討が必ず行なわれるが、杭基礎の場合は支持力のみの検討で沈下の検討がおざなりに扱われることが多かった。これは杭で支持すれば沈下しないと考えられていたためであり、実際は建物荷重により沈下を生じていた。
【0004】特に埋め込み杭工法における既製杭においては、杭の沈下を考慮せずに建物を建てると不同沈下が生じるため、一般的には杭を打設した後に、杭頭部を軽打してある程度沈下させることが行なわれている。
【0005】また埋め込み杭工法による場所打ち杭においては、スライム処理等の打設上留意すべき点がいくつもあり、杭の健全性に対する確認も重要なものとなっているが実際にはほとんど何も行なわれておらず、まれに非破壊検査等が行なわれることもある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし上記のように埋め込み杭工法により既製杭を構築した後に杭頭部を軽打する方法は、市街地などの周辺環境条件が厳しいところにおいては振動や騒音障害が発生するという問題があった。また場所打ち杭においては杭施工時における健全性を検討するための非破壊検査等は必ずしも信頼性が高いとはいえなかった。
【0007】本発明は上記のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、市街地などの周辺環境条件が厳しいところにおいても振動や騒音障害を発生させずに既製杭を打設することができるとともに、場所打ち杭においても杭施工時の健全性を十分に検討できる杭の打設工法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】以上の課題を達成するための本発明の杭の打設工法は、地盤に掘削した杭打設用の掘削孔に緊張材を挿入してその下端部を孔底下部の支持層に固定すると共に、その上端部を孔口から導出させた状態で前記掘削孔にコンクリートを打設して杭体を形成し、該杭体に前記緊張材で予め所定の荷重を付加することにより杭体を沈下させた後、前記緊張材を除去したことを特徴とする構成とすることであり、前記杭体に予め付加される荷重は設計荷重より大きいことを特徴とする構成にすることである。
【0009】
【作用】上記構成によれば、杭体に緊張材で予め荷重を付加させることにより、市街地などの周辺環境条件が厳しいところにおいても振動や騒音障害を発生させずに埋め込み杭工法による既製杭を予め沈下させることができるとともに、場所打ち杭においては個々の杭について載荷試験をすることと同じになるので、上記の作用の他に杭の健全性を十分にチェックすることができる。また予め付加する荷重を設計荷重よりも大きな荷重とすることにより、緊張材を除去した後に付加される建設物の再荷重による杭の再沈下量を小さくすることができる。
【0010】
【実施例】以下、本発明の場所打ち杭の打設工法の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1〜図6は場所打ち杭の打設工法を示す断面図である。
【0011】場所打ち杭の打設工法はまず初めに図1に示すように、建物が構築される地盤1の所定箇所に杭打設用の掘削孔2を掘削機により掘削形成する。そして、この掘削孔2の孔底に緊張材挿入孔3を支持層、或はその近くまで掘削形成する。
【0012】次に前記掘削孔2にUターン状に折り曲げた緊張材4を挿入して、そのUターン部4aを下側にして前記緊張材挿入孔3に挿入する。この場合、杭の径に応じて複数本の緊張材4を挿入するものとするが、掘削孔3は1本、或は緊張材4の数に応じて掘削することもできる。この緊張材4は図7及び図8に示すようにPC鋼より線5を合成樹脂製のシース6で被覆してその間にグリス等の潤滑材7を充填して形成したものであり、打設後に引き抜きできるようにUターン状に折り曲げてある。
【0013】そしてこの緊張材4の下端部、すなわちUターン部4aを前記緊張材挿入孔3に挿入するとともに、その上端部を掘削孔2の孔口2aから導出した状態とする。
【0014】次に、前記緊張材挿入孔3の下端部にグラウト8を充填してアンカー体9を形成すると共に、前記アンカー体9上部の緊張材挿入孔3に杭と緊張材4との縁を切るため砂10を充填して緊張材4の下端部を固定する。
【0015】次に、掘削孔2に鉄筋籠13を挿入すると共にコンクリート11を打設して杭体12を形成する。この際前記緊張材4が杭体12のほぼ中央部に設置されるように緊張材4にスペーサ13aを取り付けておく。
【0016】そして前記コンクリート11が硬化して所定の強度を発現した後に、緊張材4の上端部を緊張ジャッキで緊張して杭体12に設計荷重よりも大きな荷重を付加することにより杭体12を沈下させる。
【0017】このように緊張材4に所定の緊張力を付加した後に、その上端部を定着金具14で固定する。そしてこの状態で所定期間経過後に前記緊張材4をアンカー体9から引き抜いて除去する。この除去はUターン状に折り曲げられた緊張材4の上端部におけるPC鋼より線5の一方を引っ張ることにより行なう。
【0018】この緊張材4を引き抜いた場合、杭体12は地盤のリバウンドが少ないために沈下量は大きく変化しない(図9参照)。
【0019】このように杭体12を予め沈下させた後、それに建設物の再荷重を付加すると再沈下量は図9の■に示す幅となる。この再沈下量は地盤によって異なるが、例えば初期沈下が50mmだとすると10mm以下となる。
【0020】そして上記のごとく杭体12を再沈下させた後に上部基礎を構築して上部構造物を構築するものとする。
【0021】また埋め込み杭工法による既製杭も上記と同様な方法により打設するものとする。
【0022】
【発明の効果】地盤に掘削形成した杭打設用の掘削孔に緊張材を挿入してその下端部を孔底下部の支持層に固定すると共に、その上端部を孔口から導出させた状態で前記掘削孔にコンクリートを打設して杭体を形成した後、該杭体に前記緊張材で予め所定の荷重を付加させて杭体を所定の深さまで沈下させた後、前記緊張材を除去することにより、市街地等の周辺環境条件が厳しい場合においても振動や騒音障害を発生させずに杭に構築時とほぼ等しい初期沈下を与えることができる。
【0023】杭体に緊張材によって荷重を付加するため、緊張力を自由に制御することにより任意の荷重を正確かつ効率よく付加することができる。
【0024】構築後杭体に予め付加される荷重を設計荷重よりも大きくすることにより、建物荷重による再荷重を付加したときに杭体の再沈下量を少なくすることができる。
【0025】また場所打ち杭においては個々の杭について載荷試験をすることと同じになるので杭の健全性を十分にチェックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】地盤に掘削された掘削孔の断面図である。
【図2】孔底の下部に緊張材挿入孔を設けた掘削孔の断面図である。
【図3】緊張材挿入孔に緊張材を固定した掘削孔の断面図である。
【図4】掘削孔にコンクリートと打設して形成した杭体の断面図である。
【図5】緊張材で荷重を付加された杭体の断面図である。
【図6】緊張材を除去した杭体の断面図である。
【図7】緊張材の横断面図である。
【図8】緊張材の正面図である。
【図9】荷重と沈下量の関係図である。
【符号の説明】
1 地盤
2 掘削孔
3 緊張材挿入孔
4 緊張材
5 PC鋼より線
6 シース
7 潤滑材
8 グラウト
9 アンカー体
10 砂
11 コンクリート
12 杭体
13 鉄筋籠
14 定着金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】 地盤に掘削した杭打設用の掘削孔に緊張材を挿入してその下端部を孔底下部の支持層に固定すると共に、その上端部を孔口から導出させた状態で前記掘削孔にコンクリートを打設して杭体を形成し、該杭体に前記緊張材で予め所定の荷重を付加することにより杭体を沈下させた後、前記緊張材を除去したことを特徴とする杭の打設工法。
【請求項2】 前記杭体に予め付加される荷重は設計荷重より大きいことを特徴とする請求項1に記載の杭の打設工法。

【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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