説明

板圧延機およびその制御方法

【課題】下分割補強ロールに荷重検出装置を配備しない簡素な構成でありながら、広幅の圧延材を圧延する場合であっても幅方向反り形状不良を発生させることなく、しかも高精度、高応答な形状制御または板厚分布制御を可能とする板圧延機およびその制御方法を提供すること。
【解決手段】下作業ロールたわみの目標値を実現するための下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を圧延条件に応じて演算し、これに基づいて幅方向プロフィル制御装置を制御する。加えて、上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値から圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布または幅方向圧延荷重分布と圧延機出側の幅方向板厚分布を推定し、所望の幅方向圧延荷重分布または幅方向板厚分布を達成するための上分割補強ロール圧下機構の制御目標値を演算し、これに基づいて上分割補強ロール圧下機構を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向に3分割以上に分割された上分割補強ロールが上作業ロールを支持し、同じく軸方向に3分割以上に分割された下分割補強ロールが下作業ロールを支持する形式の板圧延機(以下、知能圧延機と称する。)およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図8に例示する知能圧延機は、個別に上分割補強ロール荷重検出装置4と上分割補強ロール圧下機構14の双方を有する上分割補強ロール1−1によって上作業ロール2−1を直接支持する形式の板圧延機であり、上分割補強ロール荷重検出装置4で測定された上分割補強ロール荷重検出値から、上作業ロール2−1と圧延材3の間に作用している幅方向圧延荷重分布または幅方向板厚分布をリアルタイムに推定して制御することで、非定常部のない高精度、高応答な形状制御または板厚分布制御をできるのが特徴となっている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。
【0003】
この例では、上分割補強ロール1−1を圧延機入側に3個、出側に4個の合計7個を配備しているが、圧延対象となる板材の板幅範囲に応じて、さらに多くの上分割補強ロールを配備する場合がある。
例えば、板幅600〜1800mmの板材を圧延する場合は、上分割補強ロール胴長は大きくても220mm程度となり、板幅1800mmの板材を圧延するためには、胴長220mmの上分割補強ロールを9個配備する必要がある。
また、他の例としては、板幅800〜5500mmの板材を圧延する場合は、最小板幅でも3個の上分割補強ロールを大略含むように構成すべきであり、その場合、上分割補強ロール胴長は大きくても300mm程度となり、板幅5500mmの板材を圧延するためには、胴長300mmの上分割補強ロールを19個配備する必要がある。
【0004】
ところで、板幅が3000mmを超える広幅の板材を圧延する場合には、作業ロールの水平方向たわみ制御の観点からは、上分割補強ロールが上作業ロールを支持し、同じく下分割補強ロールが下作業ロールを支持する形式のロールアセンブリ構成とするのが好ましい。すなわち、下側のロールアセンブリにも分割補強ロールを採用するのが好ましい。
さらには、知能圧延機の特徴である非定常部のない高精度、高応答な形状制御または板厚分布制御を行う観点からは、上下作業ロールと圧延材3の間に作用している幅方向圧延荷重分布または幅方向板厚分布をリアルタイムに推定して制御するためには、荷重検出装置を個別に備える上分割補強ロール1−1が上作業ロール2−1を支持し、同じく荷重検出装置を個別に備える下分割補強ロール1−2が下作業ロール2−2を支持する構成とするのがより好ましい(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0005】
しかしながら、一般に圧延機の下部は、金属粉、スケール片、油等が落下・飛散するため、下ロールアセンブリ側の荷重検出装置にとっては使用環境が劣悪となる。このため、下分割補強ロール1−2が備える荷重検出装置は経年劣化が進みやすく、その結果、荷重検出精度に問題を生じる可能性が高くなる。また、これを回避するためのメンテナンス費用およびメンテナンス時間についても操業上の大きな問題となってくる。
【0006】
したがって、経年劣化による荷重検出精度の低下、ならびに、これを回避するためのメンテナンス費用・時間を考慮した場合には、下分割補強ロールには荷重検出装置を配備しないほうが好ましいと言える。
また、たとえ下分割補強ロール1−2に荷重検出装置を配備しないとしても、下ロールアセンブリに分割補強ロールを採用することで、板幅が3000mmを超える広幅の板材を圧延するような場合であっても、作業ロールの水平方向たわみをある程度は抑制することができる。
【0007】
しかしながら、下分割補強ロールに荷重検出装置を配備しない場合には、圧延材〜作業ロール間に作用している幅方向圧延荷重分布を推定するために必要となる上分割補強ロールの変形特性を同定することが困難となる。当然、下分割補強ロールの変形特性を同定することは極めて困難である。
また、確かに下分割補強ロールに荷重検出装置を配備しないとしても、下ロールアセンブリに分割補強ロールを採用することで、作業ロールの水平方向たわみをある程度は抑制することができるが、圧延荷重が大きくなると下作業ロールの鉛直方向たわみが不可避的に大きくなり、この状態のままで圧延すると、圧延材3に幅方向反りが生じ、製品としての平坦度許容範囲を超えるものが出てくる可能性がある。
【特許文献1】特開2002−205104号公報
【特許文献2】特開平5−69010号公報
【特許文献3】特開平6−262228号公報
【特許文献4】特開2005−118842号公報
【非特許文献1】第58回塑性加工連合講演会講演論文集(2007)、pp153−154
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決すべき課題は、下分割補強ロールに荷重検出装置を配備しない簡素な構成でありながら、板幅の大きい圧延材を圧延する場合であっても圧延材の幅方向反り形状不良を発生させることなく、しかも知能圧延機の特徴である非定常部のない高精度、高応答な形状制御または板厚分布制御を可能とする板圧延機およびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく様々な実験的検討および理論的検討を重ねた結果、以下の技術的知見を得た。
【0010】
(A)圧延材の幅方向反り形状不良の発生メカニズムについて
周知のとおり、知能圧延機は、各々の上分割補強ロールが個別に備える上分割補強ロール圧下機構を制御することによって、圧延材〜作業ロール間に作用する幅方向圧延荷重分布や幅方向板厚分布を制御するので、圧延荷重が大きくなって下作業ロールの鉛直方向たわみが大きくなると、上分割補強ロールによる個別圧下位置制御によって上作業ロールも下作業ロールに沿ってたわむことになる。
これは、圧延材の曲げ剛性が作業ロールの曲げ剛性に比べると無視できるほど小さいので、下作業ロールがたわむと下作業ロールに沿って圧延材が幅方向に曲げられ、上作業ロールは、幅方向圧延荷重分布を維持しようとする上分割補強ロールによる個別圧下位置制御によって圧延材の幅方向プロフィルに沿って曲げられるためである。
すなわち、圧延材は上下作業ロールによってロールバイト内にある断面全体が板厚方向に圧縮された状態で塑性変形を受けながら幅方向に曲げられるため、この幅方向曲がりの方向に永久ひずみが生じて、圧延後の圧延材に幅方向反り形状不良が発生する。これが、幅方向反り形状不良の発生メカニズムである。
【0011】
(B)幅方向反り形状不良の防止策について
上記のように幅方向反り形状不良が発生する根本的な原因は、下作業ロールの鉛直方向たわみが大きくなることにあるから、下ロールアセンブリについても、荷重検出装置と圧下機構を個別に備える下分割補強ロールが下作業ロールを支持する構成とし、圧延条件に応じて下作業ロールたわみを制御することで圧延材の幅方向反り形状不良の発生を避けることができるはずである。
【0012】
しかしながら、前記したように本発明の解決すべき課題は、下分割補強ロールに荷重検出装置を配備しない簡素な構成でありながら、板幅の大きい圧延材を圧延する場合であっても圧延材の幅方向反り形状不良を発生させることなく、しかも知能圧延機の特徴である非定常部のない高精度、高応答な形状制御または板厚分布制御を可能とする板圧延機およびその制御方法を提供することである。
したがって、単に下分割補強ロールに荷重検出装置を配備しない構成とした場合には、上下の分割補強ロールの変形特性を正確に同定することが困難となるので、圧延材〜作業ロール間に作用している幅方向圧延荷重分布または幅方向板厚分布をリアルタイムに推定することも困難となる。
【0013】
そこで、本発明においては、下ロールアセンブリに下分割補強ロールを組み込む前に、すなわち、圧延を開始する前に、個別に荷重検出装置を有する変形特性同定用分割補強ロールを下ロールアセンブリに組み込み、そして、上下作業ロールを接触させて少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、このときの上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値と変形特性同定用分割補強ロールが備える荷重検出装置で測定された荷重検出値を記録する操作を、上分割補強ロールの位置を変えて少なくとも2回以上繰り返し、これらの荷重検出値から上分割補強ロールの変形特性を同定することにした。
【0014】
そして、下分割補強ロールの変形特性の同定については、上分割補強ロールの変形特性の同定作業が完了して、下ロールアセンブリに、下分割補強ロールの幅方向プロフィルを制御する下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する下分割補強ロールを組み込んだ後であって圧延を開始する前に、上下作業ロールを接触させて少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、このときの上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値から、既に同定した上分割補強ロールの変形特性を用いて下分割補強ロールの変形特性を同定することにした。
【0015】
ただし、本発明においては下分割補強ロールに荷重検出装置を配備しないので、上分割補強ロールの変形特性のように、個々の分割補強ロールに作用する荷重によって個々の分割補強ロールの変位を表現するマトリクス形式の変形特性表現を用いて同定することはできない。
そこで、本発明においては、下分割補強ロールについては、計算上はキスロール締め込み荷重を変化させたときの全体的なたわみ形状が一致する仮想的な等価一体型補強ロールに置き換えて取り扱うこととし、キスロール締め込みデータから、まず上分割補強ロールの変形を計算し、次にこれに接触している上下作業ロールの変形を求め、最後に下作業ロールに接触している下分割補強ロールの変形を算出することとした。
そして、この下分割補強ロールの変形と略一致するような一本の仮想的な一体型補強ロール、換言すると、下分割補強ロールと力学的に等価である仮想的な一体型補強ロールの直径を求め、以後、計算上は当該ロール直径を有する一体型補強ロールとして扱うこととした。
【0016】
上記の知見に基づき、本発明者は、下分割補強ロールに荷重検出装置を配備しない簡素な構成でありながら、板幅の大きい圧延材を圧延する場合であっても圧延材の幅方向反り形状不良を発生させることなく、しかも知能圧延機の特徴である非定常部のない高精度、高応答な形状制御または板厚分布制御を可能とする板圧延機およびその制御方法に想到した。その要旨とするところは以下のとおりである。
【0017】
(1)上ロールアセンブリは軸方向に3分割以上に分割された上分割補強ロールが上作業ロールを支持し、下ロールアセンブリについても軸方向に3分割以上に分割された下分割補強ロールが下作業ロールを支持するロールアセンブリ構成で、上分割補強ロールは、個別に上分割補強ロール荷重検出装置と上分割補強ロール圧下機構の双方を有し、下分割補強ロールが、下分割補強ロールの幅方向プロフィルを制御する下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する板圧延機であって、下作業ロールたわみの目標値を実現するための下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を圧延条件に応じて演算する演算手段と、その演算された制御目標値に基づいて下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を制御する制御手段と、各々の上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値から、圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布、または当該幅方向圧延荷重分布と圧延機出側の幅方向板厚分布を推定する演算手段と、所望の幅方向圧延荷重分布または幅方向板厚分布を達成するための各々の上分割補強ロール圧下機構の制御目標値を演算する演算手段と、その演算された制御目標値に基づいて各々の上分割補強ロール圧下機構を制御する上圧下機構制御手段を備えることを特徴とする板圧延機。
【0018】
(2)上ロールアセンブリは軸方向に3分割以上に分割された上分割補強ロールが上作業ロールを支持し、下ロールアセンブリについても軸方向に3分割以上に分割された下分割補強ロールが下作業ロールを支持するロールアセンブリ構成で、上分割補強ロールは、個別に上分割補強ロール荷重検出装置と上分割補強ロール圧下機構の双方を有し、下分割補強ロールが、下分割補強ロールの幅方向プロフィルを制御する下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する板圧延機の制御方法であって、(A)上ロールアセンブリに上分割補強ロールを、下ロールアセンブリに下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する下分割補強ロールを組み込む工程と、(B)下作業ロールたわみの目標値を実現するための下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を圧延条件に応じて演算する工程と、(C)その演算された制御目標値に基づいて下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を制御する工程と、(D)各々の上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値から、圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布、または当該幅方向圧延荷重分布と圧延機出側の幅方向板厚分布を推定する工程と、(E)所望の幅方向圧延荷重分布または幅方向板厚分布を達成するための各々の上分割補強ロール圧下機構の制御目標値を演算する工程と、(F)その演算された制御目標値に基づいて各々の上分割補強ロール圧下機構を制御する工程を有することを特徴とする板圧延機の制御方法。
【0019】
(3)下作業ロールたわみの目標値は、圧延材の幅方向反り形状が平坦になることを目標として決定することを特徴とする前記(2)に記載の板圧延機の制御方法。
【0020】
(4)下ロールアセンブリに下分割補強ロールを組み込む前に、個別に荷重検出装置を有する変形特性同定用分割補強ロールを下ロールアセンブリに組み込み、次いで、上下作業ロールを接触させて少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、このときの上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値と変形特性同定用分割補強ロールが備える荷重検出装置で測定された荷重検出値を記録する操作を、上分割補強ロールの位置を変えて少なくとも2回以上繰り返し、これらの記録した荷重検出値から上分割補強ロールの変形特性を同定し、次いで、下ロールアセンブリに組み込んだ変形特性同定用分割補強ロールを取り外して、下ロールアセンブリに下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する下分割補強ロールを組み込み、圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布を推定する工程において前記同定した上分割補強ロールの変形特性を用いることを特徴とする前記(2)または(3)に記載の板圧延機の制御方法。
【0021】
(5)下ロールアセンブリに下分割補強ロールを組み込む前に、個別に荷重検出装置を有する変形特性同定用分割補強ロールを下ロールアセンブリに組み込み、次いで、上下作業ロールを接触させて少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、このときの上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値と変形特性同定用分割補強ロールが備える荷重検出装置で測定された荷重検出値を記録する操作を、上分割補強ロールの位置を変えて少なくとも2回以上繰り返し、これらの記録した荷重検出値から上分割補強ロールの変形特性を同定し、次いで、下ロールアセンブリに組み込んだ変形特性同定用分割補強ロールを取り外して、下ロールアセンブリに下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する下分割補強ロールを組み込み、次いで、上下作業ロールを接触させて少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、このときの上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値から下分割補強ロールの変形特性を同定し、圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布を推定する工程において前記同定した上分割補強ロールの変形特性を用い、下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を演算する工程において前記同定した下分割補強ロールの変形特性を用いることを特徴とする前記(2)または(3)に記載の板圧延機の制御方法。
【0022】
(6)下分割補強ロールの変形特性については、制御のための演算上は負荷条件近傍において力学的に等価な挙動を示す一本の一体型補強ロールに置き換えるものとし、下分割補強ロールの変形特性を同定する工程においては、この等価一体型補強ロールとしての等価ロール直径を求める手続きを含むことを特徴とする前記(5)に記載の板圧延機の制御方法。
【0023】
(7)下分割補強ロールの変形特性を同定する工程においては、上下作業ロールを接触させて少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、さらに下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を操作して下分割補強ロールの幅方向プロフィルについても少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、このときの上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値から、下分割補強ロールに対して力学的に等価な挙動を示す一本の一体型補強ロールとしての等価ロール直径を求めるとともに、下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の操作量をこの等価一体型補強ロールの幅方向プロフィル効果に置き換えるための換算係数を求め、これらを用いて下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を演算することを特徴とする前記(6)に記載の板圧延機の制御方法。
【発明の効果】
【0024】
(イ)本発明に係る板圧延機は、下分割補強ロールに荷重検出装置を配備しない簡素な構成でありながら、板幅の大きい圧延材を圧延する場合であっても圧延材の幅方向反り形状不良を発生させることなく、しかも知能圧延機が備える本来的特徴である非定常部のない高精度、高応答な形状制御または板厚分布制御をすることができる。
【0025】
(ロ)本発明に係るすべての板圧延機の制御方法では、下作業ロールたわみの目標値を実現するための下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を圧延条件に応じて演算し、その演算された制御目標値に基づいて下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を制御するので、板幅の大きい圧延材を圧延する場合であっても圧延材の幅方向反り形状不良を防止することができる。
【0026】
(ハ)また、本発明に係る板圧延機の制御方法によれば、圧延中の圧延材〜作業ロール間に作用する幅方向圧延荷重分布、または当該幅方向圧延荷重分布と圧延機出側の幅方向板厚分布をリアルタイムに推定することができるので、板幅の大きい圧延材を圧延する場合であっても圧延材の幅方向反り形状不良を発生させることなく、知能圧延機が備える本来的特徴である非定常部のない高精度、高応答な形状制御または板厚分布制御をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図1〜7を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は本発明に係る板圧延機の一例を示す断面図である。また、図2はこの板圧延機が備える分割補強ロールとロールキャリッジを示す斜視図であり、(a)は上分割補強ロール1−1とそのロールキャリッジ9を斜め下から見た斜視図、(b)は下分割補強ロール1−2とそのロールキャリッジ13を斜め上から見た斜視図である。
【0028】
本発明に係る板圧延機は、上ロールアセンブリについては軸方向に3分割以上に分割された上分割補強ロール1−1によって上作業ロール2−1を支持し、下ロールアセンブリについても軸方向に3分割以上に分割された下分割補強ロール1−2によって下作業ロール2−2を支持するロールアセンブリ構成である。
なお、図1〜2に示す形態は、上分割補強ロール1−1を、ミル前面に9個、後面に10個、合計で19個配備した形態である。したがって、各々の上分割補強ロール1−1が個別に備える上分割補強ロール荷重検出装置4、および、上分割補強ロール圧下機構を構成する上分割補強ロール偏心軸5、上分割補強ロール偏心アーム6、そして圧下位置制御手段7についても、合計で19セット配備している。また、下分割補強ロール1−2も、上分割補強ロール1−1と同様に、ミル前面に9個、後面に10個の合計で19個を配備している。
【0029】
各々の上分割補強ロール1−1については、各々が上作業ロール2−1との共通法線の方向に滑らかに摺動できるように、上分割補強ロール荷重検出装置4を介して上分割補強ロールキャリッジ9に取り付ける。これにより、上作業ロール2−1から共通法線方向に作用する荷重を、各々の上分割補強ロールに個別に配備された上分割補強ロール荷重検出装置4に正確に伝えることができる。
【0030】
また、前記したように各々の上分割補強ロール1−1は、上分割補強ロール偏心軸5、上分割補強ロール偏心アーム6、そして圧下位置制御手段7を構成要素とする上分割補強ロール圧下機構を個別に備える。
ここで、本発明に係る板圧延機は、(a)圧延中における各々の上分割補強ロール荷重検出装置4で測定された荷重検出値から、圧延材3〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布、または当該幅方向圧延荷重分布と圧延機出側の幅方向板厚分布を推定する演算手段と、(b)所望の幅方向圧延荷重分布または幅方向板厚分布を達成するための各々の上分割補強ロール圧下機構の制御目標値を演算する演算手段と、そして、(c)その演算された制御目標値に基づいて各々の上分割補強ロール圧下機構を制御する上圧下機構制御手段を備える。
そして、圧下位置制御手段7は、この上圧下機構制御手段から出力される信号に基づいて、上分割補強ロール偏心アーム6を介して上分割補強ロール偏心軸5の角度を自在に変化させることができ、これにより、上分割補強ロール1−1の上作業ロール2−1との共通法線方向の圧下位置を自在に制御することができる。
ここで、圧下位置制御手段7は、油圧シリンダーと、図示しない当該油圧シリンダーのロッド位置測定装置と、当該ロッド位置測定装置からの検出信号に基づいて油圧シリンダーのロッド位置を制御する油圧回路を備える。
なお、油圧シリンダーはアクチュエータとして用いるため、油圧シリンダーの代わりにサーボモーター等の電動機を使用することもできる。また、前記(a)、(b)に記載の演算手段、そして、(c)に記載の上圧下機構制御手段としては、いずれもコンピュータ(電子計算機)を用いることができる。
【0031】
上分割補強ロールキャリッジ9は、上フレーム10によって支持され、上フレーム10は、主圧下装置11を介してミルハウジング12に支持される。
そして、主圧下装置11は、作業側と駆動側に一対配備され、上分割補強ロール1−1と上作業ロール2−1の圧下方向の剛体変位成分を制御する。
【0032】
本発明に係る板圧延機が備える下分割補強ロール1−2としては、個別に下分割補強ロール圧下機構を有する下分割補強ロールを用いても、あるいは、予め定められたパターンで幅方向プロフィルを制御する機構を有する下分割補強ロールを用いても良い。これらいずれの機構であっても下分割補強ロールの幅方向プロフィルを制御可能であるので、本発明では、これらを下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置と総称する。図1〜2に示す形態は、後者の機構を用いた例である。
なお、前者の個別に下分割補強ロール圧下機構を有する下分割補強ロールを用いる場合には、上分割補強ロール圧下機構と同様の機構からなる下分割補強ロール圧下機構を用いることができるのは言うまでもない。
【0033】
図1〜2に示すように後者の下分割補強ロール1−2は、前面と後面のいずれもが一本の下分割補強ロール偏心軸8によって支持され、この下分割補強ロール偏心軸8は、下分割補強ロールキャリッジ13によって支持され、この下分割補強ロールキャリッジ13は、ミルハウジング12によって支持される。
本発明に係る板圧延機は、荷重検出装置を配備しない下分割補強ロールを採用するため、軸方向に貫通した偏心軸によって支持できる簡素な構成とすることができる。
ただし、下作業ロール2−2のたわみを目標値に制御するために、下分割補強ロール偏心軸8は、これを回動させることによって、下分割補強ロールの幅方向の位置を予め定められた特定のパターンで変化させられるように、各々の下分割補強ロール位置の偏心量を予め与えるようにしている。
【0034】
いずれにしても予め定められた特定のパターンで幅方向プロフィルを制御する下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置は、下分割補強ロール偏心軸8と、当該偏心軸を回動させる回動機構(図示しない)を備える簡素な構成である。
ここで、本発明に係る板圧延機は、いずれも図示しないが、(d)下作業ロールたわみの目標値を実現するための下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を圧延材の板幅や圧延荷重等の圧延条件に応じて演算する演算手段と、(e)その演算された制御目標値に基づいて下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を制御する下圧下機構制御手段を備える。
そして、図示しない回動機構は、この下圧下機構制御手段から出力される信号に基づいて、下分割補強ロール偏心軸8の角度を自在に変化させることができ、これにより、下分割補強ロール1−2の幅方向の位置を予め定められた特定のパターンで変化させることができる。
なお、前記(d)に記載の演算手段と(e)に記載の下圧下機構制御手段としては、いずれもコンピュータ(電子計算機)を用いることができる。また、前記したように本発明に係る板圧延機は、個別に下分割補強ロール圧下機構を有する下分割補強ロールを用いることができるが、この場合には、前記(d)に記載の演算手段は、下作業ロールたわみの目標値を実現するための下分割補強ロール圧下機構の制御目標値を圧延条件に応じて演算する。同様に、(e)に記載の下圧下機構制御手段は、その演算された制御目標値に基づいて下分割補強ロール圧下機構を制御する。
【0035】
以上説明したように、本発明に係る板圧延機は、荷重検出装置を配備しない下分割補強ロールを採用するため、例えば、下ロールアセンブリに、下分割補強ロール偏心軸8と当該偏心軸を回動させる回動機構を備える簡素な構成である下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する下分割補強ロールを採用した場合には、当該下分割補強ロールを軸方向に貫通した下分割補強ロール偏心軸8によって支持できる簡素な構成とすることができる。
しかも、本発明に係る板圧延機は、このように簡素な構成でありながら、下圧下機構制御手段から出力された信号に基づいて、回動機構がロール偏心軸8の角度を変化させ、これにより、下分割補強ロールの幅方向の位置を予め定められた特定のパターンで変化させることができることから、板幅の大きい圧延材を圧延する場合であっても、圧延材の幅方向反り形状不良を発生させることなく、しかも知能圧延機が備える本来的特徴である非定常部のない高精度、高応答な形状制御または板厚分布制御をすることができる。
【0036】
なお、以上説明した本発明に係る板圧延機は、各々の上分割補強ロール1−1は個別に上分割補強ロール荷重検出装置4と上分割補強ロール圧下機構の双方を有し、下分割補強ロール1−2は荷重検出装置を配備しない構成の知能圧延機であるが、下ロールアセンブリ側の環境が良好である場合、換言すると、金属粉、スケール片、油などが落下・飛散する等の劣悪な環境ではない場合には、ロールアセンブリ構成を上下逆さに入れ替えて、上分割補強ロール1−1に荷重検出装置を配備しない構成とすることも可能である。
【0037】
次に、以上説明した板圧延機の制御方法(以下、本発明方法と表記する。)の第1の形態について説明する。第1の形態は、以下の工程からなる。
(A)まずは、圧延開始前の準備作業として、上ロールアセンブリに上分割補強ロール1−1を組み込む。そして、下ロールアセンブリに下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する下分割補強ロール1−2を組み込む。なお、上分割補強ロール1−1と下分割補強ロール1−2の組み込み順序は特に問わない。
【0038】
(B)次いで、図3に示すように、下作業ロールたわみの目標値を実現するための、下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を、圧延材の板幅や圧延荷重等の圧延条件に応じて演算する。
ここで、下作業ロールたわみの目標値としては、圧延材3の幅方向反り形状が平坦になることを目標として決定することが望ましい。
【0039】
(C)次いで、図3に示すように、演算された制御目標値に基づいて下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を制御する。これは、前記した下圧下機構制御手段が行う。すなわち、前記したように下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置は、下分割補強ロール偏心軸8と、当該偏心軸を回動させる回動機構(図示しない)を備える簡素な構成であるところ、下圧下機構制御手段から出力された信号に基づいて、回動機構がロール偏心軸8の角度を変化させ、これにより、下分割補強ロール1−2の幅方向の位置を予め定められた特定のパターンで変化させる。
一方、下ロールアセンブリに、個別に下分割補強ロール圧下機構を有する下分割補強ロールを組み込んだ場合には、その制御目標値に基づいて下分割補強ロール圧下機構を制御する。
これで、圧延開始前の準備作業が終了する。そして、圧延材の圧延を開始する。
【0040】
(D)圧延中は、まずは、各々の上分割補強ロール荷重検出装置4で測定された荷重検出値から、図4に示すように圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布、または、図5に示すように圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布と圧延機出側の幅方向板厚分布を推定する。
ここで、図4は、圧延作業を開始してから終了するまでの間の幅方向圧延荷重分布制御の一例を示すフローチャートである。そして、図5は、圧延作業を開始してから終了するまでの間の幅方向板厚分布制御の一例を示すフローチャートである。
なお、図4、5の例では、各々の上分割補強ロール荷重検出装置4で測定された荷重検出値および上分割補強ロール圧下位置の現在値から、圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布、または当該幅方向圧延荷重分布と圧延機出側の幅方向板厚分布を推定しているが、圧延荷重が十分大きく、相対的に上作業ロールのたわみ剛性が無視できる条件であって、幅方向圧延荷重分布のみを演算する場合には、上分割補強ロール圧下位置の情報を省略して演算することも可能である。
【0041】
(E)次いで、所望の幅方向圧延荷重分布または幅方向板厚分布を達成するための各々の上分割補強ロール圧下機構の制御目標値を演算する。
すなわち、図4に示す幅方向圧延荷重分布制御の場合には、幅方向圧延荷重分布の推定値が所望の幅方向圧延荷重分布になるように、上分割補強ロール圧下機構の制御目標値を演算する。
一方、図5に示す幅方向板厚分布制御の場合には、幅方向板厚分布の推定値が所望の幅方向板厚分布になるように、上分割補強ロール圧下機構の制御目標値を演算する。
【0042】
(F)次いで、演算された制御目標値に基づいて各々の上分割補強ロール圧下機構を制御する。これは、前記した上圧下機構制御手段が行う。すなわち、前記したように各々の上分割補強ロール1−1は、上分割補強ロール偏心軸5、上分割補強ロール偏心アーム6、そして圧下位置制御手段7を構成要素とする上分割補強ロール圧下機構を個別に備えるところ、上圧下機構制御手段から出力された信号に基づいて、圧下位置制御手段7が上分割補強ロール偏心アーム6を介して上分割補強ロール偏心軸5の角度を変化させ、これにより、上分割補強ロール1−1の上作業ロール2−1との共通法線方向の圧下位置を変化させる。
以上説明した(D)〜(F)の制御サイクルを繰り返して、圧延作業が終了する。
【0043】
以上説明した第1の形態についても、下作業ロールたわみの目標値を実現するための下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を圧延条件に応じて演算し、その演算された制御目標値に基づいて下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を制御するので、第1の形態は、板幅の大きい圧延材を圧延する場合であっても圧延材の幅方向反り形状不良を防止することができる。
【0044】
次に、本発明方法の別の形態(以下、第2の形態と表記する。)について説明する。
本発明に係る板圧延機は、荷重検出装置を配備しない下分割補強ロールを採用するところ、下分割補強ロールに荷重検出装置を配備しない場合には、上下の分割補強ロールの変形特性を正確に同定することが困難となる。これは、例えば図8に示すような一体型ロールを下補強ロール1−3に採用した知能圧延機の場合、下補強ロール1−3の変形は梁理論で計算可能であり、キスロール締め込みデータから下補強ロールを基準として上分割補強ロール1−1の変形特性を同定することが可能であるが、下補強ロールの変形特性が未知な分割ロールの場合、この方法が採用できなくなるためである。したがって、圧延中における圧延材〜作業ロール間に作用している幅方向圧延荷重分布または幅方向板厚分布をリアルタイムに推定することも困難となる。
第2の形態は、これを解決するものであり、特に上分割補強ロールの変形特性の同定方法に関するものであって、本発明特有の上分割補強ロール変形特性同定方法である。
【0045】
第2の形態は、図6に示すように、下ロールアセンブリに下分割補強ロールを組み込む前に、すなわち、圧延を開始する前に、各々の分割補強ロールが個別に荷重検出装置を有する変形特性同定用分割補強ロールを下ロールアセンブリに組み込む。なお、当然ながら上ロールアセンブリには上分割補強ロールを組み込むが、その順序は特に問わない。
ここで、変形特性同定用分割補強ロールとしては、上分割補強ロールの予備ロールを分割補強ロール個別圧下機構を固定状態として用いるのが効率的である。
【0046】
次いで、主圧下装置を操作して上下作業ロールを接触させて、換言するとキスロールさせて、少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、このときの上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値と変形特性同定用分割補強ロールが備える荷重検出装置で測定された荷重検出値を記録する操作を、上分割補強ロールの位置を変えて少なくとも2回以上繰り返す。このようにすると上下作業ロールに負荷されるすべての補強ロール荷重が既知となるので上下作業ロールたわみが梁理論から計算され、これを基準として上分割補強ロールの変形特性を同定できる。
【0047】
そして、上記方法による上分割補強ロールの変形特性の同定作業が完了した後は、下ロールアセンブリに組み込んだ変形特性同定用分割補強ロールを取り外し、下ロールアセンブリに、下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する下分割補強ロールを組み込む。
【0048】
この後の工程は、第1の形態で説明した(B)〜(F)の工程と同じであるが、(D)の工程、すなわち、圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布を推定する工程において前記同定した上分割補強ロールの変形特性を用いる。これにより圧延中の圧延材〜作業ロール間に作用する幅方向圧延荷重分布をリアルタイムに推定することができるので、板幅の大きい圧延材を圧延する場合であっても圧延材の幅方向反り形状不良を発生させることなく、知能圧延機が備える本来的特徴である非定常部のない高精度、高応答な形状制御が可能となる。
【0049】
次に、本発明方法のさらに別の形態(以下、第3の形態と表記する。)について説明する。
第2の形態が、上分割補強ロールの変形特性の同定方法に関するのに対し、第3の形態は、上下分割補強ロールの変形特性の同定方法に関するものである。なお、第2の形態においては下分割補強ロールの変形特性については触れていないが、下分割補強ロールの変形特性は、上分割補強ロールの変形特性ほど精度が要求されるものではなく、例えば設計段階で予想される計算値を用いることができる。あるいは、前記した上分割補強ロールの変形特性を同定するときには上下作業ロールたわみが梁理論から計算され、これを基準として変形特性同定用分割補強ロールの変形特性を同定できるので、これを下分割補強ロールの変形特性として代用してもよい。
さて、これから説明する第3の形態は、上分割補強ロールの変形特性のみならず下分割補強ロールの変形特性についても高精度に同定する方法であり、第2の形態において、上分割補強ロールの変形特性の同定作業が完了して、下ロールアセンブリに下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する下分割補強ロールを組み込んだ後、すなわち、上ロールアセンブリには上分割補強ロールが組み込まれ、下ロールアセンブリには下分割補強ロールが組み込まれて、圧延を開始する前に、下分割補強ロールの変形特性を同定するものである。
【0050】
具体的には、主圧下装置を操作して上下作業ロールを接触させて、換言するとキスロールさせて、少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、このときの上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値から、既に同定した上分割補強ロールの変形特性を用いて下分割補強ロールの変形特性を同定する。
【0051】
この後の工程は、第1の形態で説明した(B)〜(F)の工程と同じであるが、(B)の工程、すなわち、下作業ロールたわみの目標値を実現するための下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を演算する工程において前記同定した下分割補強ロールの変形特性を用いる。そして、(D)の工程、すなわち、圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布を推定する工程において既に同定した上分割補強ロールの変形特性を用いる。前記したように第3の形態は、上下分割補強ロールの変形特性を高精度に同定するものであるから、圧延中の圧延材〜作業ロール間に作用する幅方向圧延荷重分布をリアルタイムに推定でき、これにより板幅の大きい圧延材を圧延する場合であっても圧延材の幅方向反り形状不良を発生させることなく、知能圧延機が備える本来的特徴である非定常部のない高精度、高応答な形状制御が可能となる。
【0052】
次に、本発明方法のさらに別の形態(以下、第4の形態と表記する。)について説明する。
第3の形態においては、上記説明したプロセスにより上下分割補強ロールの変形特性を同定した。
しかし、本発明に係る板圧延機は、荷重検出装置を配備しない下分割補強ロールを採用するところ、下分割補強ロールに荷重検出装置を配備しない場合には、下分割補強ロールの変形特性については、上分割補強ロールの変形特性のように、個々の分割補強ロールに作用する荷重によって個々の分割補強ロールの変位を表現するマトリクス形式の変形特性表現を用いて同定することはできない。
【0053】
そこで、これから説明する第4の形態は、下分割補強ロールについては、計算上はキスロール締め込み荷重を変化させたときの全体的なたわみ形状が一致する仮想的な等価一体型補強ロールに置き換えて取り扱うこととしたものである。
具体的には、キスロール締め込みデータから、まず上分割補強ロールの変形を計算し、次に、これに接触している上下作業ロールの変形を求め、最後に下作業ロールに接触している下分割補強ロールの変形を算出する。
そして、この下分割補強ロールの変形と略一致するような一本の仮想的な一体型補強ロール、換言すると、下分割補強ロールと力学的に等価である仮想的な一体型補強ロールの直径を求め、以後、計算上は当該ロール直径を有する一体型補強ロールとして扱う。
【0054】
第4の形態も、上分割補強ロールの変形特性の同定作業が完了して、下ロールアセンブリに下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する下分割補強ロールを組み込んだ後、すなわち、上ロールアセンブリには上分割補強ロールが組み込まれ、下ロールアセンブリには下分割補強ロールが組み込まれて、圧延を開始する前に、以下内容のプロセスを実施する。
【0055】
先ずは、主圧下装置を操作して上下作業ロールを接触させて、換言するとキスロールさせて、少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、このときの上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値を記録する操作を、下分割補強ロールの位置を変えて少なくとも2回以上繰り返す。
そして、これらの記録した荷重検出値から、下分割補強ロールと力学的に等価である仮想的な一体型補強ロールの直径、ならびに下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の操作量を前記仮想的な一体型補強ロールの幅方向プロフィル効果に置換するための換算係数を演算する。
【0056】
この後の工程は、第1の形態で説明した(B)〜(F)の工程と同じであるが、演算した一体型補強ロールの直径ならびに換算係数を用いて下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を演算する。下分割補強ロールと力学的に等価な一体型補強ロールの直径が求められれば、演算上は図8に示したように下ロールアセンブリは通常の4段圧延機と同様に扱うことができる。すなわち、圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布が与えられれば、分割モデル等の既存の計算方法によって下補強ロールたわみ、そして下作業ロールたわみが計算される。さらに、圧延材の幅方向反り形状を平坦化するため下作業ロールたわみを極小化するための下補強ロールの幅方向プロフィルを求め、上記換算係数を用いてこれを下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値に換算する。以上のようにして求められた下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値に従って制御することで、圧延材の幅方向反り形状を極小化できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る板圧延機の一例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る板圧延機が備える分割補強ロールとロールキャリッジを示す斜視図であり、(a)は上分割補強ロールとそのロールキャリッジ、(b)は下分割補強ロールとそのロールキャリッジを示す斜視図である。
【図3】本発明に係る板圧延機の制御方法を示す模式図である。
【図4】圧延作業を開始してから終了するまでの間の幅方向圧延荷重分布制御の一例を示すフローチャートである。
【図5】圧延作業を開始してから終了するまでの間の幅方向板厚分布制御の一例を示すフローチャートである。
【図6】圧延開始前の準備作業を開始してから終了するまでの間の制御の一例を示すフローチャートである。
【図7】圧延開始直前の設定作業を開始してから終了するまでの間の制御の一例を示すフローチャートである。
【図8】従来技術に係る知能圧延機を示す構成図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【符号の説明】
【0058】
1−1 上分割補強ロール 1−2 下分割補強ロール
1−3 下補強ロール(一体型)
2−1 上作業ロール 2−2 下作業ロール
3 圧延材 4 上分割補強ロール荷重検出装置
5 上分割補強ロール偏心軸 6 上分割補強ロール偏心アーム
7 圧下位置制御手段 8 下分割補強ロール偏心軸
9 上分割補強ロールキャリッジ 10 上フレーム
11 主圧下装置 12 ミルハウジング
13 下分割補強ロールキャリッジ 14 上分割補強ロール圧下機構


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)上ロールアセンブリは軸方向に3分割以上に分割された上分割補強ロールが上作業ロールを支持し、下ロールアセンブリについても軸方向に3分割以上に分割された下分割補強ロールが下作業ロールを支持するロールアセンブリ構成で、
(ロ)上分割補強ロールは、個別に上分割補強ロール荷重検出装置と上分割補強ロール圧下機構の双方を有し、
(ハ)下分割補強ロールが、下分割補強ロールの幅方向プロフィルを制御する下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する板圧延機であって、
(ニ)下作業ロールたわみの目標値を実現するための下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を圧延条件に応じて演算する演算手段と、
(ホ)その演算された制御目標値に基づいて下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を制御する制御手段と、
(へ)各々の上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値から、圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布、または当該幅方向圧延荷重分布と圧延機出側の幅方向板厚分布を推定する演算手段と、
(ト)所望の幅方向圧延荷重分布または幅方向板厚分布を達成するための各々の上分割補強ロール圧下機構の制御目標値を演算する演算手段と、
(チ)その演算された制御目標値に基づいて各々の上分割補強ロール圧下機構を制御する上圧下機構制御手段を備えることを特徴とする板圧延機。

【請求項2】
上ロールアセンブリは軸方向に3分割以上に分割された上分割補強ロールが上作業ロールを支持し、下ロールアセンブリについても軸方向に3分割以上に分割された下分割補強ロールが下作業ロールを支持するロールアセンブリ構成で、
上分割補強ロールは、個別に上分割補強ロール荷重検出装置と上分割補強ロール圧下機構の双方を有し、
下分割補強ロールが、下分割補強ロールの幅方向プロフィルを制御する下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する板圧延機の制御方法であって、
(A)上ロールアセンブリに上分割補強ロールを、下ロールアセンブリに下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する下分割補強ロールを組み込む工程と、
(B)下作業ロールたわみの目標値を実現するための下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を圧延条件に応じて演算する工程と、
(C)その演算された制御目標値に基づいて下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を制御する工程と、
(D)各々の上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値から、圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布、または当該幅方向圧延荷重分布と圧延機出側の幅方向板厚分布を推定する工程と、
(E)所望の幅方向圧延荷重分布または幅方向板厚分布を達成するための各々の上分割補強ロール圧下機構の制御目標値を演算する工程と、
(F)その演算された制御目標値に基づいて各々の上分割補強ロール圧下機構を制御する工程を有することを特徴とする板圧延機の制御方法。

【請求項3】
下作業ロールたわみの目標値は、圧延材の幅方向反り形状が平坦になることを目標として決定することを特徴とする請求項2に記載の板圧延機の制御方法。

【請求項4】
下ロールアセンブリに下分割補強ロールを組み込む前に、個別に荷重検出装置を有する変形特性同定用分割補強ロールを下ロールアセンブリに組み込み、
次いで、上下作業ロールを接触させて少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、このときの上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値と変形特性同定用分割補強ロールが備える荷重検出装置で測定された荷重検出値を記録する操作を、上分割補強ロールの位置を変えて少なくとも2回以上繰り返し、これらの記録した荷重検出値から上分割補強ロールの変形特性を同定し、
次いで、下ロールアセンブリに組み込んだ変形特性同定用分割補強ロールを取り外して、下ロールアセンブリに下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する下分割補強ロールを組み込み、
圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布を推定する工程において前記同定した上分割補強ロールの変形特性を用いることを特徴とする請求項2または3に記載の板圧延機の制御方法。

【請求項5】
下ロールアセンブリに下分割補強ロールを組み込む前に、個別に荷重検出装置を有する変形特性同定用分割補強ロールを下ロールアセンブリに組み込み、
次いで、上下作業ロールを接触させて少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、このときの上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値と変形特性同定用分割補強ロールが備える荷重検出装置で測定された荷重検出値を記録する操作を、上分割補強ロールの位置を変えて少なくとも2回以上繰り返し、これらの記録した荷重検出値から上分割補強ロールの変形特性を同定し、
次いで、下ロールアセンブリに組み込んだ変形特性同定用分割補強ロールを取り外して、下ロールアセンブリに下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を有する下分割補強ロールを組み込み、
次いで、上下作業ロールを接触させて少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、このときの上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値から下分割補強ロールの変形特性を同定し、
圧延材〜作業ロール間の幅方向圧延荷重分布を推定する工程において前記同定した上分割補強ロールの変形特性を用い、下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を演算する工程において前記同定した下分割補強ロールの変形特性を用いることを特徴とする請求項2または3に記載の板圧延機の制御方法。

【請求項6】
下分割補強ロールの変形特性については、制御のための演算上は負荷条件近傍において力学的に等価な挙動を示す一本の一体型補強ロールに置き換えるものとし、下分割補強ロールの変形特性を同定する工程においては、この等価一体型補強ロールとしての等価ロール直径を求める手続きを含むことを特徴とする請求項5に記載の板圧延機の制御方法。

【請求項7】
下分割補強ロールの変形特性を同定する工程においては、上下作業ロールを接触させて少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、さらに下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置を操作して下分割補強ロールの幅方向プロフィルについても少なくとも2水準以上の荷重レベルで締め込み、このときの上分割補強ロール荷重検出装置で測定された荷重検出値から、下分割補強ロールに対して力学的に等価な挙動を示す一本の一体型補強ロールとしての等価ロール直径を求めるとともに、下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の操作量をこの等価一体型補強ロールの幅方向プロフィル効果に置き換えるための換算係数を求め、これらを用いて下分割補強ロール幅方向プロフィル制御装置の制御目標値を演算することを特徴とする請求項6に記載の板圧延機の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−64116(P2010−64116A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234070(P2008−234070)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】