説明

板状ピンとこれを用いて固定する吊下げ具

【課題】壁面に対する部材の固定において、吊下げ具のガタツキの発生を抑えて荷重支持力を向上させることができる板状ピンを提供する。
【解決手段】板状ピン4が、所定の長さを有する打ち込み脚部4aの一端に頭部4bを設けて形成され、前記打ち込み脚部4aが、板材を用いてフラットな断面形状になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、壁面等に部材を固定するために用いる板状ピンと、この板状ピンを用い、
小物部材を吊下げるための吊下げ具を石膏ボード等の壁面に固定して使用する板状ピンで固定する吊下げ具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石膏ボード等を用いた壁面に、小物部材を吊下げておくための第1の例の吊下げ具は、上下に長い板状部の上部位置に透孔と下端にフック部が設けられた吊下げ具本体と、この吊下げ具本体を壁面に固定するため、前面から背面に向けて斜めに貫通する複数の貫通孔が設けられた固定具と、前記固定具の各貫通孔に打ち込む複数本のピンとで構成され、このピンは、長くて細い丸軸の一端に先鋭端を設け、他端に頭部を設けた構造になっている。
【0003】
上記吊下げ具本体の板状部を壁面に重ねた状態で、前記透孔に固定具の背面に設けた小径軸部を嵌め込むことで、板状部の前面に固定具を重ね、この固定具の各貫通孔に対して前面側から壁面に対してピンを打ち込み、固定具で板状部を押圧することで壁面に吊下げ具本体を固定し、フック部に小物部材を吊下げることになる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、第2の例の吊下げ具としては、上下に長い板状部の上部両側に溝部と下端にフック部が設けられた吊下げ具本体と、この吊下げ具本体を壁面に固定する二又釘とからなり、前記吊下げ具本体の板状部を壁面に重ねた状態で、両側の溝部に二又釘を嵌め込み、この二又釘を壁面に水平状態に打ち込むことで壁面に吊下げ具本体を固定し、フック部に小物部材を吊下げる構造になっている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63−22418号公報
【特許文献2】意匠登録第983132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記した第1の例の吊下げ具に用いられている細くて長いピンは、斜めに打ち込む場合に打ち込み作業に手間がかかると同時に、打ち込み工具によって斜めに打ち込むときに怪我をする危険性がある。
【0007】
また、第1の例の吊下げ具において、フック部に対して被吊下げ部材を着脱する操作時に、フック部を横方向に引っ張る負荷が加わることがあるが、このようなフック部に横方向の引っ張る負荷が加わると、吊下げ具本体にはピンを支点とする回転が生じることになり、ピンが細い円軸状で斜めになっていると、吊下げ具本体は横方向の回動で壁面から浮き上がり、このような横方向の回動が繰り返し付与されることで吊下げ具本体がガタツクことになる。
【0008】
更に、第1の例の吊下げ具において、吊下げ具を壁面に固定するピンが細くて長い円軸状であると、石膏ボードのように脆弱な材質の壁面とピンによる荷重支持力が弱く、複数本のピンを打ち込んだ構造であっても、重量のある被吊下げ部材を吊下げることができないという問題がある。
【0009】
また、上記した第2の例の吊下げ具に用いられている二又釘は、壁面に対して水平に打ち込んで吊下げ具を固定した場合、吊下げ荷重が加わると下方への撓みが発生し、この撓みが抜け方向の力として作用するので、吊下げ荷重が繰り返し付与されることでガタツキが発生することになり、重量の吊下げに適さないという問題がある。
【0010】
そこで、この発明の課題は、壁面に部材を固定するピンの荷重支持力を向上させて、荷重支持強度が優れて重量物の固定が可能となる板状ピン及び、この板状ピンを用いることにより、ガタツキの発生を少なくし、重量のある被吊下げ物の吊下げを可能にすることができる板状ピンで固定する吊下げ具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような課題を解決するため、請求項1の発明は、壁面等に打ち込んで部材を固定するためのピンであり、前記ピンが、所定の長さを有する打ち込み脚部と、この打ち込み脚部の長さ方向の一方端部に設けた頭部とで形成され、前記打ち込み脚部が、板材を用いてフラットな断面形状に形成されているようにしたものである。
【0012】
請求項2の発明は、壁面等に打ち込んで部材を固定するためのピンであり、前記ピンが、所定の長さを有する打ち込み脚部と、この打ち込み脚部の長さ方向の一方端部に設けた頭部とで形成され、前記打ち込み脚部が、板材を用い、折れ曲がり又は湾曲及び折れ曲がりと湾曲の組合わせの何れかの断面形状に形成されているようにしたものである。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の板状ピンで壁面等に固定される部材が、前面にフック部材を備えた吊下げ具であり、前記吊下げ具が、前面側にフック部材が設けられた吊下げ具本体に、フック部材の上部側に位置し、前記板状ピンを壁面に向けて打ち込むための斜め下向きの打ち込み孔と、フック部材の下部側に位置し、前記打ち込み孔と反対の下側に延びて壁面へ重なる荷重分散板が設けられている板状ピンで固定するようにしたものである。
【0014】
請求項4の発明は、上記吊下げ具本体は、打ち込み孔を設ける部分が荷重分散板の前面よりも前方に突出する張出部に形成され、この張出部に打ち込み孔が設けられ、前記張出部の前方への突出によって生じた下側段部の位置にフック部材が設けられ、前記張出部と荷重分散板の背面が同一面になっているようにしたものである。
【0015】
請求項5の発明は、上記吊下げ具は、打ち込み孔と板状ピンを隠蔽するために取付けるカバーを備えているようにしたものである。
【0016】
ここで、上記ピンは、金属板を用いて形成された打ち込み脚部が、吊下げ具を貫通して壁面に所定長さ打ち込むことができる全長を有し、吊下げ具には、前記ピンの断面形状に適合する形状の打ち込み孔が形成され、この打ち込み孔は前面から背面に向けて下がり傾斜となるよう、例えば垂直線に対して50°の傾斜角度で設けられ、下向きの荷重に対するピンの支持強度の向上を図るようにしている。
【0017】
また、打ち込み脚部の折れ曲がりによる断面形状は、下向きV字形やW形、湾曲による断面形状は、下向きU字形、半円形、折れ曲がりと湾曲の組合わせによる断面形状は、下向きU字形や半円形の両側に外方への折れ曲り片を設けた断面形状を上げることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によると、壁面に対して吊下げ具を固定するために打ち込むピンの打ち込み脚部を、板材を用いてフラットな断面形状あるいは、折れ曲がり又は湾曲及び折れ曲がりと湾曲の組合わせの何れかの断面形状に形成したので、壁面への打ち込み状態において、鉛直方向の吊下げ荷重に対する支持強度に優れ、脆弱な石膏ボードの壁面に固定した吊下げ具の荷重支持力を向上させ、重量物の吊下げを可能にすることができる。
【0019】
また、ピンの打ち込み脚部を折れ曲がり又は湾曲及び折れ曲がりと湾曲の組合わせの何れかの断面形状に形成することにより、直方向の吊下げ荷重に対する打ち込み脚部の耐折れ曲り強度が向上するだけでなく、打ち込んだ状態で壁面との接触面積が増大し、壁面に対する耐引抜強度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明に係る板状ピンとこの板状ピンを用いた吊下げ具の前面側から見た分解斜視図
【図2】この発明に係る板状ピンとこの板状ピンを用いた吊下げ具の背面側から見た分解斜視図
【図3】(a)はこの発明に係る板状ピンを用いて吊下げ具を壁面に固定した縦断側面図、(b)は(a)の矢印b−bで縦断したピンの断面形状を示す縦断背面図
【図4】この発明に係る板状ピンを用いて固定する吊下げ具の各部の寸法関係を示すための側面図
【図5】(a)乃至(e)のそれぞれは、この発明に係る板状ピンの断面形状の異なる例を示す拡大した断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1乃至図4は、この発明に係る板状ピン4と、この板状ピン4を用いて壁面Aに固定する吊下げ具の一例を示し、前記吊下げ具1は、前面側にフック部材2が設けられた吊下げ具本体3の上部に、前記板状ピン4を壁面Aに向けて打ち込むための斜め下向きの打ち込み孔5を設け、フック部材2の下部側位置に、前記打ち込み孔5と反対の下側に延びて壁面Aへ重なる荷重分散板6が設けられ、この吊下げ具本体3には、前記板状ピン4の打ち込み部分を隠蔽するための化粧用のカバー7が用意されている。
【0022】
上記吊下げ具本体3は、硬質合成樹脂を用い、上下に長い板状に形成した荷重分散板6と、この荷重分散板6の上端側に一体成形することにより設けた張出部8とからなり、前記張出部8は、荷重分散板6の上部延長部分の前面側を、例えば、上端から前方下がりの傾斜面8aと、この傾斜面8aの下端から荷重分散板6に達する下面8bとで、側面から見て三角形状に前方へ突出するように形成し、この張出部8と荷重分散板6の背面は同一面になっている。
【0023】
上記張出部8には、板状ピン4を傾斜面8aから壁面Aに打ち込むための打ち込み孔5が斜め下向きの傾斜状に設けられ、図1乃至図4で示した例の前記板状ピン4は、金属板を用いた所定の長さを有する打ち込み脚部4aと、この打ち込み脚部4aの長さ方向の一方端部に設けた頭部4bとで形成され、前記打ち込み脚部4aは、両側の翼板4cが下向きV字状となる直角の断面形状に形成され、壁面Aに対して必要とする打ち込み長さに張出部8の厚みを貫通する長さを加えた長さを有し、両翼板4cの一方の端部には直角に折れ曲がる頭部4bが設けられ、他方端部が先鋭端4dになっている。
【0024】
従って、張出部8に設ける打ち込み孔5は、板状ピン4に適合するよう下向きV字状の断面形状に形成され、張出部8の傾斜面8aで幅方向の中央部からこの張出部8の背面に貫通するように設けられている。
【0025】
なお、板状ピン4の打ち込み脚部4aは図1乃至図4のような直角下向きV字状の断面形状に限るものではなく、板材を用いてフラットな断面形状、板材を用い、折れ曲がり又は湾曲及び折れ曲がりと湾曲の組合わせの何れかの断面形状に形成することができる。
【0026】
図5はその幾つかの好ましい断面形状を示し、図5(a)はフラットな断面形状、図5(b)は内角が鋭角の下向きV字状、図5(c)はW字状、図5(d)は下向きU字状又は半円状、図5(d)は下向きU字状でその両側に外方への折れ曲り片を設け形状を例示しており、上記した吊下げ具本体3の張出部8に設ける打ち込み孔5は、これら例示した打ち込み脚部4aの断面形状に一致する形状とすればよい。
【0027】
上記フック部材2は、所定太さの金属線材を略V字状に折り曲げ加工することにより形成され、上記吊下げ具本体3の前面において、張出部8の幅方向中央部で下面8bの下側に位置してその一端側が吊下げ具本体3の前方に向くよう、他端側を張出部8内に埋め込むことにより固定配置されている。
【0028】
このように、フック部材2を張出部8の下部に固定して配置することにより、打ち込み孔5はフック部材2よりも上部に位置し、また、荷重分散板6は打ち込み孔5と反対側へフック部材2よりも下側に延びた構造になる。
【0029】
上記張出部8に取付ける化粧用のカバー7は、吊下げ具本体3と同様の材料を用い、張出部8の傾斜面8aを覆うことのできる大きさに形成され、例えば、張出部8と化粧用のカバー7の重なり面の一方に設けた突軸9と他方に設けた取付け孔10を嵌め合わせることにより、張出部8に対して化粧用のカバー7を固定するようになっている。
【0030】
ここで、吊下げ具1において、石膏ボードの壁面Aに固定使用した場合に、一例として、40Kg程度の荷重支持力を得ることができるための各部の具体的な寸法関係を図4に例示すると、フック部材2は直径2.5mmの金属線材を用い、これを外径R3.5mmでV字状に折り曲げ、荷重分散板の上部前面に一方の片が重なるように張出部へ固定する。
【0031】
吊下げ具本体3は、ABS樹脂を用い、張出部8の上端から荷重分散板6の下端までの全長Hを50mm程度、幅を16mm程度とし、荷重分散板6は、板厚tを5mm、フック部材2の荷重点から下端までの長さH1が21mm、フック部材2の荷重点から背面までの距離Lを6.5mmに設定する。
【0032】
板状ピン4は、厚み0.4mmのステンレス板を用い、図1乃至図4の例において、打ち込み脚部4aにおける片翼4aの幅が4mmの断面90°のV字状断面とし、張出部8の打ち込み孔5は前面から背面側に向けての下がり傾斜の角度が垂直線に対して50°になるよう設け、フック部材2の荷重点から打ち込み孔の背面側開口位置の垂直距離H2を11.5mm、板状ピン4の壁面Aに対する打ち込み長さBを16.3mmに設定し、図4のように、フック部材2の荷重点のR中心と壁面Aに対して打ち込んだ板状ピン4の先端とが同一水平線高さになるようにしている。
【0033】
なお、荷重支持力の異なる吊下げ具1の製作において、吊下げ具1の各部の大きさと荷重支持力は比例し、吊下げ具1の大きさは、上記各部の寸法設定を上記した比率関係で拡大又は縮小させるようにすればよい。
【0034】
また、上記した板状ピン4の使用は、吊下げ具1の固定に限定されるものではなく、壁面に固定する部材の取り付けのための固定部材として広く使用することができる。
【0035】
この発明の板状ピン4とこれを用いる吊下げ具1は、上記のような構成であり、吊下げ具本体3を垂直の姿勢に保持した状態で壁面Aに重ね、張出部8の打ち込み孔5に挿入した板状ピン4を壁面Aに打ち込み、頭部4bで張出部8を押圧することにより、図3のように、壁面Aに吊下げ具本体3を固定し、この後、張出部8の前面に化粧用のカバー7を固定すれば取付けが完了する。
【0036】
上記のように、壁面Aに固定した吊下げ具1には、吊下げ具本体3の前面に位置するフック部材2に被吊下げ物を吊下げるものであり、前記フック部材2に鉛直方向の荷重が作用した場合、フック部材2を中心として回転モーメントが発生しても、フック部材2よりも下方に延びる荷重分散板6が壁面Aに当接しているので、この荷重分散板6がモーメントを壁面Aに伝え、回転モーメントを吸収することで、鉛直方向に対して極めて高い面内保持力を達成することができる。
【0037】
また、上記板状ピン4は壁面Aに対して斜め下向きに打ち込み、この板状ピン4の打ち込み脚部4aの断面形状をフラット、折れ曲がり又は湾曲及び折れ曲がりと湾曲の組合わせの何れかの断面形状に形成したので、脆弱な石膏ボードの壁面に対しても鉛直方向の荷重支持力が向上し、しかも、上記したように鉛直方向の荷重による回転モーメントを荷重分散板6で吸収することにより、板状ピン4に引抜き方向の力が加わらないようにでき、これによって、板状ピン4が抜けて緩むことによるガタツキの発生を防ぐことができる。
【0038】
また、板状ピン4の打ち込み脚部4aが、フラット、折れ曲がり又は湾曲及び折れ曲がりと湾曲の組合わせの何れかの断面形状に形成されているので、鉛直方向の荷重による吊下げ具本体3の板状ピン4を中心とする回転運動の発生を抑止することができ、これは、実用上において、絵画を吊るすような静荷重以外の荷重が作用した場合、高い効果を奏することになり、実生活においては、鍵を吊るすために所定の場所に固定した吊下げ具1が一つの実例となる。
【符号の説明】
【0039】
1 吊下げ具
2 フック部材
3 吊下げ具本体
4 板状ピン
4a 打ち込み脚部
4b 頭部
5 打ち込み孔
6 荷重分散板
7 化粧用のカバー
8 張出部
9 突軸
10 取付け孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面等に打ち込んで部材を固定するためのピンであり、
前記ピンが、所定の長さを有する打ち込み脚部と、この打ち込み脚部の長さ方向の一方端部に設けた頭部とで形成され、前記打ち込み脚部が、板材を用いてフラットな断面形状に形成されている板状ピン。
【請求項2】
壁面等に打ち込んで部材を固定するためのピンであり、
前記ピンが、所定の長さを有する打ち込み脚部と、この打ち込み脚部の長さ方向の一方端部に設けた頭部とで形成され、前記打ち込み脚部が、板材を用い、折れ曲がり又は湾曲及び折れ曲がりと湾曲の組合わせの何れかの断面形状に形成されている板状ピン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の板状ピンで壁面等に固定される部材が、前面にフック部材を備えた吊下げ具であり、前記吊下げ具が、前面側にフック部材が設けられた吊下げ具本体に、フック部材の上部側に位置し、前記板状ピンを壁面に向けて打ち込むための斜め下向きの打ち込み孔と、フック部材の下部側に位置し、前記打ち込み孔と反対の下側に延びて壁面へ重なる荷重分散板が設けられている板状ピンで固定する吊下げ具。
【請求項4】
上記吊下げ具本体は、打ち込み孔を設ける部分が荷重分散板の前面よりも前方に突出する張出部に形成され、この張出部に打ち込み孔が設けられ、前記張出部の前方への突出によって生じた下側段部の位置にフック部材が設けられ、前記張出部と荷重分散板の背面が同一面になっている請求項3に記載の板状ピンで固定する吊下げ具。
【請求項5】
上記吊下げ具は、打ち込み孔と板状ピンを隠蔽するために取付けるカバーを備えている請求項3又は4に記載の吊下げ具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−36556(P2013−36556A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173745(P2011−173745)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000181963)若井産業株式会社 (36)
【Fターム(参考)】