板状ワークの加工方法および加工体
【課題】ポケット部等の減肉部を板厚方向に精度良く加工すること。
【解決手段】複曲面を形成するように湾曲加工され板状ワークWの湾曲内面に減肉加工を施して、前記板状ワークWの軽量化を図る板状ワークWの加工方法であって、前記湾曲内面を、複数の領域に区分する段階と、前記領域毎に参照となる面32を設定する段階と、前記参照となる面32までの鉛直方向の距離L1を測定する段階と、測定された前記参照となる面32に対応する領域内に存する前記湾曲内面に、前記参照となる面32を有する凸部33、ポケット部34、および畦部35が形成されるよう、前記参照となる面32から所定の距離L2,L3だけ掘り下げるようにして、前記湾曲内面を減肉加工する段階と、を備えている。
【解決手段】複曲面を形成するように湾曲加工され板状ワークWの湾曲内面に減肉加工を施して、前記板状ワークWの軽量化を図る板状ワークWの加工方法であって、前記湾曲内面を、複数の領域に区分する段階と、前記領域毎に参照となる面32を設定する段階と、前記参照となる面32までの鉛直方向の距離L1を測定する段階と、測定された前記参照となる面32に対応する領域内に存する前記湾曲内面に、前記参照となる面32を有する凸部33、ポケット部34、および畦部35が形成されるよう、前記参照となる面32から所定の距離L2,L3だけ掘り下げるようにして、前記湾曲内面を減肉加工する段階と、を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状ワークの加工方法および加工体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
さて、民間航空機の胴体等を構成する航空機外板(スキン)には軽量なアルミニウム合金板等が用いられており、さらなる軽量化のためにポケット部加工(減肉加工)が施される場合が多い。ポケット部加工とは、外板の内面に、機械切削やケミカルミーリング(エッチング)等によって多数のポケット部(凹部)を加工し、板厚を薄くするものである。しかし、ケミカルミーリングは、加工時間が長く、コストが嵩む上に、ポケット部として除去されたアルミニウム合金が薬液に溶解されて大量の廃液となり、この廃液はリサイクルができないため、昨今の環境規制により適用が困難になりつつある。
【0003】
そこで、従来、湾曲成形された板状ワークにポケット部を後加工する方法として、例えば、特許文献1に開示されている機械加工装置を用いて機械切削する方法があった。これは、湾曲成形された板状ワークにポケット部を加工するために、板状ワークの加工面(外板の内面)に機械切削工具をあてがうと同時に、その真裏側に保持部材をあてがい、薄い板状ワークの共振や変形を阻止しながら三次元的にポケット部を加工するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−508952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている機械加工装置を用いて機械切削する方法では、機械切削工具と保持部材とを巨大な板状ワークの形状に沿って三次元的に移動させなければならない。そのため、機械加工装置が非常に大型かつ複雑で高価なものとなり、しかも機械切削工具としてはピンポイント状に切削加工するボールエンドミルを用いなければならず、加工効率が低くて(加工時間が長くて)、実用的ではなかった。
【0006】
そこで、近年、別工程で複曲面を形成するように湾曲加工されてきた板状ワークWの湾曲外面を、図12に示す真空吸着式サポート治具1の吸着面15に真空吸着させ、板状ワークWの湾曲内面にポケット部を機械切削するものが提案されている。
【0007】
ここで、民間航空機の胴体等を構成する航空機外板は湾曲成形されているが、その湾曲が単曲面であれば、航空機外板となる板状ワークを先に湾曲成形し、つぎにこの板状ワークを一旦平坦に展開して保持して、機械切削により効率良くポケット部を加工することができる。しかし、複曲面を有する板状ワークは、湾曲成形された後で平坦に展開することが困難であるため、湾曲した形状のままでポケット部を加工する必要がある。なお、板状ワークに先にポケット部を加工してから複曲面状に湾曲成形するのは、板厚が不均一になるため困難である。
【0008】
しかしながら、別工程で複曲面を形成するように湾曲加工(引っ張り成型)されてきた板状ワークWには、成型後のスプリングバック等により板厚方向に数mm程度の成型誤差が生じている。
また、成型後の複曲面を有する板状ワークWは、剛性が高いため、板状ワークWの湾曲外面を、図12に破線で示す理想的なカーブ(複曲面)を備えた真空吸着式サポート治具1の吸着面15に真空吸着させようとしても、図12に実線で示すように、真空吸着式サポート治具1の吸着面15から板状ワークWが浮き上がってしまい、成型後の複曲面を有する板状ワークWを、真空吸着式サポート治具1の吸着面15に全面的に完全密着させることは難しい。そのため、図12に破線で示す理想的なカーブ(複曲面)を基準にしてポケット部を加工すると、ポケット部の板厚が目標とする板厚よりも薄くなりすぎたり、あるいは切削工具(ボールエンドミル)が板状ワークWを板厚方向に貫通してしまい、ポケット部等の減肉部を板厚方向に精度良く(0.1mmの精度で)加工することができないといった問題点があった。
なお、図12中の符号7および符号8はそれぞれ、後述するミーリングヘッドおよび切削工具(ボールエンドミル)を示している。また、図12中における板状のワークWの浮き上がりは誇張して示しており、実際の浮き上がりは0mm〜8mm程度である。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ポケット部等の減肉部を板厚方向に精度良く加工することができる板状ワークの加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明に係る板状ワークの加工方法は、複曲面を形成するように湾曲加工され板状ワークの湾曲内面に減肉加工を施して、前記板状ワークの軽量化を図る板状ワークの加工方法であって、前記湾曲内面を、複数の領域に区分する段階と、前記領域毎に参照となる面を設定する段階と、前記参照となる面までの鉛直方向の距離を測定する段階と、測定された前記参照となる面に対応する領域内に存する前記湾曲内面に、前記参照となる面を有する凸部、ポケット部、および畦部が形成されるよう、前記参照となる面から所定の距離だけ掘り下げるようにして、前記湾曲内面を減肉加工する段階と、を備えている。
【0011】
本発明に係る板状ワークの加工方法によれば、領域毎に設定された参照となる面を基準にして、この参照となる面から所定の距離だけ掘り下げるようにして凸部、ポケット部、および畦部が形成されることになる。
これにより、例えば、真空吸着式サポート治具の吸着面から板状ワークが浮き上がっているような場合でも、ポケット部等の減肉部を板厚方向に精度良く加工することができるとともに、切削工具が板状ワークの板厚方向に貫通して、板状ワークが破損してしまうことを防止することができ、生産性を向上させることができる。
【0012】
上記板状ワークの加工方法において、前記凸部を切削する段階を備えているとさらに好適である。
【0013】
このような板状ワークの加工方法によれば、切削された(削り取られた)凸部の重量分だけさらなる軽量化を図ることができる。これは、特に、航空機用部品を生産(製造)する上で有利な点となる。
【0014】
本発明に係る加工体は、上記いずれかの板状ワークの加工方法により減肉加工されたものである。
【0015】
本発明に係る加工体によれば、ポケット部等の減肉部が板厚方向に精度良く加工されていることになるので、設計上要求された強度を確保することができ、かつ、設計上要求された軽量化を図ることができる。
また、切削工具が板状ワークの板厚方向に貫通することによる板状ワークの破損が防止され、生産性が向上することになるので、生産コスト(製造コスト)を低減させることができる。
【0016】
本発明に係る航空機用部品は、上記加工体の畦部に、ストリンガーまたはフレームの少なくともいずれかが取り付けられたものである。
【0017】
本発明に係る航空機用部品によれば、ポケット部等の減肉部が板厚方向に精度良く加工されていることになるので、設計上要求された強度を確保することができ、かつ、設計上要求された軽量化を図ることができる。
また、切削工具が板状ワークの板厚方向に貫通することによる板状ワークの破損が防止され、生産性が向上することになるので、生産コスト(製造コスト)を低減させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る板状ワークの加工方法よれば、ポケット部等の減肉部を板厚方向に精度良く加工することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る真空吸着式サポート治具が機械切削装置に設置された状態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す真空吸着式サポート治具の斜視図である。
【図3】図2のIII-III線に沿う真空吸着式サポート治具の縦断面図である。
【図4】真空吸着式サポート治具の一実施形態を示す縦断面図である。
【図5】真空吸着式サポート治具の吸着面から吸引管が突出して板状ワークに吸着した状態を示す縦断面図である。
【図6】板状ワークに吸着した吸引管が吸着面の位置まで縮んだ状態を示す縦断面図である。
【図7】吸着面に開設された吸着部に負圧が付与されて板状ワークが吸着面に真空吸着された状態を示す縦断面図である。
【図8】機械切削装置の切削工具により板状ワークの湾曲内周面に減肉加工が施されている状態を示す縦断面図である。
【図9】減肉加工工程の詳細を説明するための平面図である。
【図10】減肉加工工程の詳細を説明するための縦断面図である。
【図11】加工体の長手方向に沿ってポケット部とポケット部との間に延びる畦部にストリンガーが取り付けられ、加工体の短手方向に沿ってポケット部とポケット部との間に延びる畦部にフレームが取り付けられた航空機用部品の平面図である。
【図12】従来の問題点を説明するための縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る板状ワークの加工方法および加工体について、図1から図11を参照しながら説明する。
本実施形態に係る板状ワークWの加工方法は、例えば、図1から図8に示す真空吸着式サポート治具1および機械切削装置(減肉加工装置)2を用いて実施され、本実施形態に係る加工体W1は、例えば、図1から図8に示す真空吸着式サポート治具1および機械切削装置(減肉加工装置)2を用いて製造される。
【0021】
図1は、本実施形態に係る真空吸着式サポート治具1が機械切削装置2(減肉加工装置)に設置された状態を示す斜視図である。機械切削装置2は、例えば、ガントリー型(門型)の大型フライス盤であり、平坦なベッド3の両側にレール4が配置され、このレール4に沿って移動可能に、左右一対のコラム5に支えられたクロスヘッド6が設置され、クロスヘッド6に設けられたミーリングヘッド7がクロスヘッド6の長手方向に移動可能である。ミーリングヘッド7は5軸方向のNC制御加工が行えるものであり、その先端に回転する切削工具(ボールエンドミル)8が取り付けられている。
【0022】
真空吸着式サポート治具1は、治具本体11と、真空ポンプ12(負圧付与手段)を備えている。治具本体11は平面視で長方形であり、その長手方向が機械切削装置2のレール4に平行する方向でベッド3上に載置され、図示しない固定具によりベッド3に固定される。真空ポンプ12はベッド3から離れた場所に設置され、負圧ホース13によって治具本体11に接続されている。治具本体11の上面は、剛性を有する曲面状に形成された吸着面15となっており、この吸着面15に、別工程で複曲面を形成するように湾曲加工されてきた板状ワークWが吸着固定される。
【0023】
図2に示すように、吸着面15は、例えば、その長手方向Lおよび短手方向Sの両方向に湾曲する凹面状の複曲面である。また、吸着面15の全域に亘って出没孔16が均等な間隔で開設されている。これらの出没孔16は、例えば、吸着面15の長手方向Lに沿って3列、短手方向Sに沿って8段、計24箇所に形成されている。これらの出没孔16は、後述するように真空ポンプ12から負圧が付与されることにより、別工程で湾曲加工されてきた板状ワークWを吸着面15に真空吸着させて保持させる吸着部として機能するものである。吸着面15に真空吸着された板状ワークWには、機械切削装置2の切削工具8(図1参照)により、その湾曲内面にポケット部(図9等参照)の切削加工といった減肉加工が施される。
【0024】
図3に示すように、治具本体11の内部には負圧空間18が形成され、ここに真空ポンプ12から延びる負圧ホース13が接続されている。また、出没孔16は吸着面15から垂下して負圧空間18に連通している。このため、真空ポンプ12が起動すると、負圧空間18の内部の空気が吸引され、各出没孔16に均等な負圧が付与される。なお、上記のように吸着面15の全域に亘って多数の出没孔16を設ける代わりに、吸着面15の中央部に出没孔16を1つだけ設けるか、あるいは24箇所よりも少数の出没孔16を設け、この単一もしくは少数の出没孔16から延びる吸着溝を吸着面15の表面に沿って刻設してもよい。これにより、出没孔16を単一もしくは少数のみ形成しても、出没孔16に付与される負圧が上記吸着溝によって広く伝達され、吸着面15の全面で板状ワークWを吸着することができる。
【0025】
治具本体11の内部(負圧空間18)には、出没孔16の位置に整合し、出没孔16から出没する24基の吸引管21が設置されている。これらの吸引管21は、負圧空間18の床面に垂設されて上部が出没孔16に下方から挿入されたシリンダ22に差し込まれており、吸引管21の先端に吸盤状の真空カップ23が設けられ、シリンダ22に供給される空気圧、液圧、電磁力等の動力により上方に延びたり、縮んだりすることができる。吸引管21は吸着面15よりも上方に大きく突出した突出位置21aまで伸びることができる。また、これらの吸引管21は、図示しないNC制御装置により、その先端位置(真空カップ23の位置)を独立的にNC制御可能である。
【0026】
各吸引管21には、真空ポンプ12から延びて空気シリンダ22に繋がる負圧ホース25が接続されて負圧が付与される。負圧ホース25は、負圧空間18に負圧を付与する負圧ホース13とは独立して真空ポンプ12から延びている。真空ポンプ12は、負圧ホース13と負圧ホース25のどちらか一方にのみ選択的に負圧を付与することも、両方の負圧ホース13,25に同時に負圧を付与することもできる。負圧の大きさは、例えば−0.085MPa程度とされる。なお、真空カップ23の外径は出没孔16の内径よりも充分に小さく設定されており、真空カップ23が出没孔16の中に没入していても出没孔16が閉塞されないようになっている。
【0027】
図4に示すように、吸着面15に真空吸着される前の板状ワークWは、板状ワークWの形状に合わせて高さをNC制御され、出没孔16から一斉に突出する吸引管21によって図5に示すように吸着保持され、つぎに図6に示すように吸引管21が一斉に出没孔16の中に没入することにより吸着面15側に引き寄せられて、図7に示すように出没孔16の負圧を受けて吸着面15に真空吸着される。
【0028】
つぎに、この真空吸着式サポート治具1を用いて板状ワークWにポケット部の切削加工(減肉加工)を行う加工方法(手順)について説明する。本実施形態に係る板状ワークWの加工方法は、板状ワークWを真空吸着式サポート治具1の吸着面15に真空吸着させ、この板状ワークWを機械切削装置2に位置決めする位置決め工程Aと、機械切削装置2により板状ワークWにポケット部加工等の減肉加工を施す減肉加工工程Bと、を備えている。
【0029】
[位置決め工程A](図4から図7参照)
位置決め工程Aでは、まず、図4に示すように、真空吸着式サポート治具1の吸着面15に開設された出没孔16から複数の吸引管21を突出させ、これら各吸引管21の先端部、すなわち、真空カップ23の位置を、吸着させる板状ワークWの湾曲形状に沿うようにNC制御する。NC制御のプログラムは、板状ワークWの湾曲形状に合わせて予め設定される。そして、板状ワークWを、図示しない搬送装置、もしくは人力等により真空吸着式サポート治具1の上方に配置する。
【0030】
つぎに、図5に示すように、吸引管21に真空ポンプ12から負圧を付与し、吸引管21の上端の真空カップ23に板状ワークWを吸着させる。この時にはまだ負圧空間18には負圧を付与しなくてもよい。各吸引管21の真空カップ23は、薄い板状ワークWを変形させない程度の均等な吸着力で板状ワークWの湾曲外面側に吸着する。
【0031】
つづいて、図6に示すように、真空ポンプ12により負圧空間18にも負圧を付与するとともに、吸引管21をシリンダ22内に収縮させて出没孔16の中に没入させ、これにより吸着した板状ワークWを吸着面15側に引き寄せて板状ワークW全体を吸着面15に密着させる。吸着面15に密着した板状ワークWにより各出没孔16が閉塞されるため、負圧空間18に加わる負圧によって板状ワークWが吸着面15に真空吸着される。
【0032】
上記のように、複数の吸引管21に吸着させた板状ワークWを吸着面15側に引き寄せる時において、板状ワークWが図2に示すような長尺状である場合は、板状ワークWを吸着面15に密着させる領域の順番を、図2に示す長手方向Lに沿う中心線付近の領域→短手方向Sに沿う中心線付近の領域→その他の領域、の順番とするのが好ましい。具体的には、板状ワークWの長手方向Lに沿う中心線付近に設けられた吸引管21を、他の吸引管21よりも少し早いタイミングで吸着面15下に没入させ、つぎに板状ワークWの短手方向Sに沿う中心線付近に設けられた吸引管21を吸着面15下に没入させ、最後にその他の部分に設けられた吸引管21を吸着面15下に没入させる。
【0033】
つぎに、図7に示すように、各吸引管21への負圧供給を停止し、各吸引管21を板状ワークWから切り離して最も縮んだ状態にする。こうしても、板状ワークWは負圧空間18の負圧によって吸着面15に真空吸着され続ける。なお、各吸引管21への負圧供給を停止させず、各吸引管21を板状ワークWに吸着させたままにしておいてもよい。
【0034】
[減肉加工工程B](図8から図11参照)
減肉加工工程Bでは、まず、図9に示すように、別工程で湾曲加工されてきた板状ワークWの湾曲内面を、複数の領域(本実施形態では互いに重ならないようにして設定された6つ領域)31に区分して、領域31毎に参照(基準)となる面(以下、「参照面」という。)32を設定する(本実施形態では各領域31の中央に参照面32を設定する)。
【0035】
つぎに、図10(a)に示すように、機械切削装置2(図1参照)に取り付けられた変位計(図示せず)で参照面32までの鉛直方向の距離L1を測定する。そして、機械切削装置2のミーリングヘッド7に設けられた切削工具8を回転させながら板状ワークWの湾曲内面に押し付け、測定された参照面32に対応する(割り当てられた)領域31内に存する板状ワークWの湾曲内面に、例えば、図9に示すような予め設定された参照面32を有する(本実施形態では平面視円形状を呈する)凸部(減肉部)33、ポケット部(減肉部)34、および畦部(畦道:減肉部)35が形成されるよう、板状ワークWの湾曲内面を切削加工(減肉加工)する。すなわち、図8および図10(b)に示すように、切削工具8により参照面32から所定の距離L2だけ掘り下げるようにして板状ワークWの湾曲内面が切削加工(減肉加工)されることにより、板状ワークWの湾曲内面にポケット部34が切削加工(減肉加工)される。その後、図8、図9、および図10(b)に示すように、切削工具8により参照面32から所定の距離L3だけ掘り下げるようにして切削工具8により板状ワークWの湾曲内面が切削加工(減肉加工)されることにより、板状ワークWの湾曲内面に参照面32を有する凸部33、および畦部(畦道)35が切削加工(減肉加工)される。その後、図8および図10(c)に示すように、凸部33(本実施形態ではすべての凸部33)が切削(減肉)され、板状ワークWは加工体W1として完成する。そして、図11に示すように、加工体W1(図10(c)参照)の長手方向Lに沿ってポケット部34とポケット部34との間に延びる畦部35にストリンガー41を取り付け、加工体W1の短手方向Sに沿ってポケット部34とポケット部34との間に延びる畦部35にフレーム42を取り付けることにより、加工体W1は航空機用部品(航空機組立品)W2として完成する。
【0036】
なお、切削のパターンは予めNC制御装置にインプットされている。また、板状ワークWが航空機の胴体部に適用される外板である場合は、減肉加工が施される前の状態であっても、その厚さは非常に薄く、この薄い板状ワークWにさらに減肉加工が施されるため、極めて高精度な加工が必須条件となる。そのため、従来では機械切削よりもケミカルミーリングが多用されてきた。
【0037】
本実施形態に係る板状ワークWの加工方法によれば、領域31毎に設定された参照面32を基準にして、この参照面32から所定の距離L2,L3だけ掘り下げるようにして凸部33、ポケット部34、および畦部35が形成されることになる。
これにより、真空吸着式サポート治具1の吸着面15から板状ワークWが浮き上がっているような場合でも、凸部33、ポケット部34、および畦部35を板厚方向に精度良く加工することができるとともに、切削工具8が板状ワークWの板厚方向に貫通して、板状ワークWが破損してしまうことを防止することができ、生産性を向上させることができる。
【0038】
また、本実施形態に係る板状ワークWの加工方法によれば、切削された(削り取られた)凸部33の重量分だけさらなる軽量化を図ることができる。これは、特に、航空機用部品W2を生産(製造)する上で有利な点となる。
【0039】
さらに、本実施形態に係る板状ワークWの加工方法により減肉加工された加工体1によれば、凸部33、ポケット部34、および畦部35が板厚方向に精度良く加工されていることになるので、設計上要求された強度を確保することができ、かつ、設計上要求された軽量化を図ることができる。
また、切削工具8が板状ワークWの板厚方向に貫通することによる板状ワークWの破損が防止され、生産性が向上することになるので、生産コスト(製造コスト)を低減させることができる。
【0040】
さらにまた、本実施形態に係る加工体W1の畦部35に、ストリンガー41またはフレーム42の少なくともいずれかが取り付けられた航空機用部品W2によれば、凸部33、ポケット部34、および畦部35が板厚方向に精度良く加工されていることになるので、設計上要求された強度を確保することができ、かつ、設計上要求された軽量化を図ることができる。
また、切削工具8が板状ワークWの板厚方向に貫通することによる板状ワークWの破損が防止され、生産性が向上することになるので、生産コスト(製造コスト)を低減させることができる。
【0041】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜必要に応じて変形・変更して実施することもできる。
例えば、上述した実施形態では、すべての凸部33を切削する(削り取る)ようにしたものを一具体例として挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、切削することが必要な凸部33のみを切削するようにしてもよい。
【0042】
また、上述した実施形態では、参照面32の平面視形状が円形状を呈するものを一具体例として挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、参照面32の平面視形状は、三角形や四角形等の多角形状、楕円形状等を呈するものであってもよい。
【0043】
さらに、上述した実施形態では、加工体W1(図10(c)参照)の長手方向Lに沿ってポケット部34とポケット部34との間に延びる畦部35のすべてにストリンガー41を取り付け、加工体W1の短手方向Sに沿ってポケット部34とポケット部34との間に延びる畦部35のすべてにフレーム42を取り付けた航空機用部品W2を一具体例として挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、航空機用部品W2は、加工体W1の長手方向Lに沿ってポケット部34とポケット部34との間に延びる畦部35の必要なところにストリンガー41を取り付け、加工体W1の短手方向Sに沿ってポケット部34とポケット部34との間に延びる畦部35の必要なところにフレーム42を取り付けたりしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
31 領域
32 参照面(参照となる面)
33 凸部
34 ポケット部
35 畦部
41 ストリンガー
42 フレーム
L1 参照面までの鉛直方向の距離
L2 所定の距離
L3 所定の距離
W 板状ワーク
W1 加工体
W2 航空機用部品
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状ワークの加工方法および加工体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
さて、民間航空機の胴体等を構成する航空機外板(スキン)には軽量なアルミニウム合金板等が用いられており、さらなる軽量化のためにポケット部加工(減肉加工)が施される場合が多い。ポケット部加工とは、外板の内面に、機械切削やケミカルミーリング(エッチング)等によって多数のポケット部(凹部)を加工し、板厚を薄くするものである。しかし、ケミカルミーリングは、加工時間が長く、コストが嵩む上に、ポケット部として除去されたアルミニウム合金が薬液に溶解されて大量の廃液となり、この廃液はリサイクルができないため、昨今の環境規制により適用が困難になりつつある。
【0003】
そこで、従来、湾曲成形された板状ワークにポケット部を後加工する方法として、例えば、特許文献1に開示されている機械加工装置を用いて機械切削する方法があった。これは、湾曲成形された板状ワークにポケット部を加工するために、板状ワークの加工面(外板の内面)に機械切削工具をあてがうと同時に、その真裏側に保持部材をあてがい、薄い板状ワークの共振や変形を阻止しながら三次元的にポケット部を加工するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−508952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている機械加工装置を用いて機械切削する方法では、機械切削工具と保持部材とを巨大な板状ワークの形状に沿って三次元的に移動させなければならない。そのため、機械加工装置が非常に大型かつ複雑で高価なものとなり、しかも機械切削工具としてはピンポイント状に切削加工するボールエンドミルを用いなければならず、加工効率が低くて(加工時間が長くて)、実用的ではなかった。
【0006】
そこで、近年、別工程で複曲面を形成するように湾曲加工されてきた板状ワークWの湾曲外面を、図12に示す真空吸着式サポート治具1の吸着面15に真空吸着させ、板状ワークWの湾曲内面にポケット部を機械切削するものが提案されている。
【0007】
ここで、民間航空機の胴体等を構成する航空機外板は湾曲成形されているが、その湾曲が単曲面であれば、航空機外板となる板状ワークを先に湾曲成形し、つぎにこの板状ワークを一旦平坦に展開して保持して、機械切削により効率良くポケット部を加工することができる。しかし、複曲面を有する板状ワークは、湾曲成形された後で平坦に展開することが困難であるため、湾曲した形状のままでポケット部を加工する必要がある。なお、板状ワークに先にポケット部を加工してから複曲面状に湾曲成形するのは、板厚が不均一になるため困難である。
【0008】
しかしながら、別工程で複曲面を形成するように湾曲加工(引っ張り成型)されてきた板状ワークWには、成型後のスプリングバック等により板厚方向に数mm程度の成型誤差が生じている。
また、成型後の複曲面を有する板状ワークWは、剛性が高いため、板状ワークWの湾曲外面を、図12に破線で示す理想的なカーブ(複曲面)を備えた真空吸着式サポート治具1の吸着面15に真空吸着させようとしても、図12に実線で示すように、真空吸着式サポート治具1の吸着面15から板状ワークWが浮き上がってしまい、成型後の複曲面を有する板状ワークWを、真空吸着式サポート治具1の吸着面15に全面的に完全密着させることは難しい。そのため、図12に破線で示す理想的なカーブ(複曲面)を基準にしてポケット部を加工すると、ポケット部の板厚が目標とする板厚よりも薄くなりすぎたり、あるいは切削工具(ボールエンドミル)が板状ワークWを板厚方向に貫通してしまい、ポケット部等の減肉部を板厚方向に精度良く(0.1mmの精度で)加工することができないといった問題点があった。
なお、図12中の符号7および符号8はそれぞれ、後述するミーリングヘッドおよび切削工具(ボールエンドミル)を示している。また、図12中における板状のワークWの浮き上がりは誇張して示しており、実際の浮き上がりは0mm〜8mm程度である。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ポケット部等の減肉部を板厚方向に精度良く加工することができる板状ワークの加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明に係る板状ワークの加工方法は、複曲面を形成するように湾曲加工され板状ワークの湾曲内面に減肉加工を施して、前記板状ワークの軽量化を図る板状ワークの加工方法であって、前記湾曲内面を、複数の領域に区分する段階と、前記領域毎に参照となる面を設定する段階と、前記参照となる面までの鉛直方向の距離を測定する段階と、測定された前記参照となる面に対応する領域内に存する前記湾曲内面に、前記参照となる面を有する凸部、ポケット部、および畦部が形成されるよう、前記参照となる面から所定の距離だけ掘り下げるようにして、前記湾曲内面を減肉加工する段階と、を備えている。
【0011】
本発明に係る板状ワークの加工方法によれば、領域毎に設定された参照となる面を基準にして、この参照となる面から所定の距離だけ掘り下げるようにして凸部、ポケット部、および畦部が形成されることになる。
これにより、例えば、真空吸着式サポート治具の吸着面から板状ワークが浮き上がっているような場合でも、ポケット部等の減肉部を板厚方向に精度良く加工することができるとともに、切削工具が板状ワークの板厚方向に貫通して、板状ワークが破損してしまうことを防止することができ、生産性を向上させることができる。
【0012】
上記板状ワークの加工方法において、前記凸部を切削する段階を備えているとさらに好適である。
【0013】
このような板状ワークの加工方法によれば、切削された(削り取られた)凸部の重量分だけさらなる軽量化を図ることができる。これは、特に、航空機用部品を生産(製造)する上で有利な点となる。
【0014】
本発明に係る加工体は、上記いずれかの板状ワークの加工方法により減肉加工されたものである。
【0015】
本発明に係る加工体によれば、ポケット部等の減肉部が板厚方向に精度良く加工されていることになるので、設計上要求された強度を確保することができ、かつ、設計上要求された軽量化を図ることができる。
また、切削工具が板状ワークの板厚方向に貫通することによる板状ワークの破損が防止され、生産性が向上することになるので、生産コスト(製造コスト)を低減させることができる。
【0016】
本発明に係る航空機用部品は、上記加工体の畦部に、ストリンガーまたはフレームの少なくともいずれかが取り付けられたものである。
【0017】
本発明に係る航空機用部品によれば、ポケット部等の減肉部が板厚方向に精度良く加工されていることになるので、設計上要求された強度を確保することができ、かつ、設計上要求された軽量化を図ることができる。
また、切削工具が板状ワークの板厚方向に貫通することによる板状ワークの破損が防止され、生産性が向上することになるので、生産コスト(製造コスト)を低減させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る板状ワークの加工方法よれば、ポケット部等の減肉部を板厚方向に精度良く加工することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る真空吸着式サポート治具が機械切削装置に設置された状態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す真空吸着式サポート治具の斜視図である。
【図3】図2のIII-III線に沿う真空吸着式サポート治具の縦断面図である。
【図4】真空吸着式サポート治具の一実施形態を示す縦断面図である。
【図5】真空吸着式サポート治具の吸着面から吸引管が突出して板状ワークに吸着した状態を示す縦断面図である。
【図6】板状ワークに吸着した吸引管が吸着面の位置まで縮んだ状態を示す縦断面図である。
【図7】吸着面に開設された吸着部に負圧が付与されて板状ワークが吸着面に真空吸着された状態を示す縦断面図である。
【図8】機械切削装置の切削工具により板状ワークの湾曲内周面に減肉加工が施されている状態を示す縦断面図である。
【図9】減肉加工工程の詳細を説明するための平面図である。
【図10】減肉加工工程の詳細を説明するための縦断面図である。
【図11】加工体の長手方向に沿ってポケット部とポケット部との間に延びる畦部にストリンガーが取り付けられ、加工体の短手方向に沿ってポケット部とポケット部との間に延びる畦部にフレームが取り付けられた航空機用部品の平面図である。
【図12】従来の問題点を説明するための縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る板状ワークの加工方法および加工体について、図1から図11を参照しながら説明する。
本実施形態に係る板状ワークWの加工方法は、例えば、図1から図8に示す真空吸着式サポート治具1および機械切削装置(減肉加工装置)2を用いて実施され、本実施形態に係る加工体W1は、例えば、図1から図8に示す真空吸着式サポート治具1および機械切削装置(減肉加工装置)2を用いて製造される。
【0021】
図1は、本実施形態に係る真空吸着式サポート治具1が機械切削装置2(減肉加工装置)に設置された状態を示す斜視図である。機械切削装置2は、例えば、ガントリー型(門型)の大型フライス盤であり、平坦なベッド3の両側にレール4が配置され、このレール4に沿って移動可能に、左右一対のコラム5に支えられたクロスヘッド6が設置され、クロスヘッド6に設けられたミーリングヘッド7がクロスヘッド6の長手方向に移動可能である。ミーリングヘッド7は5軸方向のNC制御加工が行えるものであり、その先端に回転する切削工具(ボールエンドミル)8が取り付けられている。
【0022】
真空吸着式サポート治具1は、治具本体11と、真空ポンプ12(負圧付与手段)を備えている。治具本体11は平面視で長方形であり、その長手方向が機械切削装置2のレール4に平行する方向でベッド3上に載置され、図示しない固定具によりベッド3に固定される。真空ポンプ12はベッド3から離れた場所に設置され、負圧ホース13によって治具本体11に接続されている。治具本体11の上面は、剛性を有する曲面状に形成された吸着面15となっており、この吸着面15に、別工程で複曲面を形成するように湾曲加工されてきた板状ワークWが吸着固定される。
【0023】
図2に示すように、吸着面15は、例えば、その長手方向Lおよび短手方向Sの両方向に湾曲する凹面状の複曲面である。また、吸着面15の全域に亘って出没孔16が均等な間隔で開設されている。これらの出没孔16は、例えば、吸着面15の長手方向Lに沿って3列、短手方向Sに沿って8段、計24箇所に形成されている。これらの出没孔16は、後述するように真空ポンプ12から負圧が付与されることにより、別工程で湾曲加工されてきた板状ワークWを吸着面15に真空吸着させて保持させる吸着部として機能するものである。吸着面15に真空吸着された板状ワークWには、機械切削装置2の切削工具8(図1参照)により、その湾曲内面にポケット部(図9等参照)の切削加工といった減肉加工が施される。
【0024】
図3に示すように、治具本体11の内部には負圧空間18が形成され、ここに真空ポンプ12から延びる負圧ホース13が接続されている。また、出没孔16は吸着面15から垂下して負圧空間18に連通している。このため、真空ポンプ12が起動すると、負圧空間18の内部の空気が吸引され、各出没孔16に均等な負圧が付与される。なお、上記のように吸着面15の全域に亘って多数の出没孔16を設ける代わりに、吸着面15の中央部に出没孔16を1つだけ設けるか、あるいは24箇所よりも少数の出没孔16を設け、この単一もしくは少数の出没孔16から延びる吸着溝を吸着面15の表面に沿って刻設してもよい。これにより、出没孔16を単一もしくは少数のみ形成しても、出没孔16に付与される負圧が上記吸着溝によって広く伝達され、吸着面15の全面で板状ワークWを吸着することができる。
【0025】
治具本体11の内部(負圧空間18)には、出没孔16の位置に整合し、出没孔16から出没する24基の吸引管21が設置されている。これらの吸引管21は、負圧空間18の床面に垂設されて上部が出没孔16に下方から挿入されたシリンダ22に差し込まれており、吸引管21の先端に吸盤状の真空カップ23が設けられ、シリンダ22に供給される空気圧、液圧、電磁力等の動力により上方に延びたり、縮んだりすることができる。吸引管21は吸着面15よりも上方に大きく突出した突出位置21aまで伸びることができる。また、これらの吸引管21は、図示しないNC制御装置により、その先端位置(真空カップ23の位置)を独立的にNC制御可能である。
【0026】
各吸引管21には、真空ポンプ12から延びて空気シリンダ22に繋がる負圧ホース25が接続されて負圧が付与される。負圧ホース25は、負圧空間18に負圧を付与する負圧ホース13とは独立して真空ポンプ12から延びている。真空ポンプ12は、負圧ホース13と負圧ホース25のどちらか一方にのみ選択的に負圧を付与することも、両方の負圧ホース13,25に同時に負圧を付与することもできる。負圧の大きさは、例えば−0.085MPa程度とされる。なお、真空カップ23の外径は出没孔16の内径よりも充分に小さく設定されており、真空カップ23が出没孔16の中に没入していても出没孔16が閉塞されないようになっている。
【0027】
図4に示すように、吸着面15に真空吸着される前の板状ワークWは、板状ワークWの形状に合わせて高さをNC制御され、出没孔16から一斉に突出する吸引管21によって図5に示すように吸着保持され、つぎに図6に示すように吸引管21が一斉に出没孔16の中に没入することにより吸着面15側に引き寄せられて、図7に示すように出没孔16の負圧を受けて吸着面15に真空吸着される。
【0028】
つぎに、この真空吸着式サポート治具1を用いて板状ワークWにポケット部の切削加工(減肉加工)を行う加工方法(手順)について説明する。本実施形態に係る板状ワークWの加工方法は、板状ワークWを真空吸着式サポート治具1の吸着面15に真空吸着させ、この板状ワークWを機械切削装置2に位置決めする位置決め工程Aと、機械切削装置2により板状ワークWにポケット部加工等の減肉加工を施す減肉加工工程Bと、を備えている。
【0029】
[位置決め工程A](図4から図7参照)
位置決め工程Aでは、まず、図4に示すように、真空吸着式サポート治具1の吸着面15に開設された出没孔16から複数の吸引管21を突出させ、これら各吸引管21の先端部、すなわち、真空カップ23の位置を、吸着させる板状ワークWの湾曲形状に沿うようにNC制御する。NC制御のプログラムは、板状ワークWの湾曲形状に合わせて予め設定される。そして、板状ワークWを、図示しない搬送装置、もしくは人力等により真空吸着式サポート治具1の上方に配置する。
【0030】
つぎに、図5に示すように、吸引管21に真空ポンプ12から負圧を付与し、吸引管21の上端の真空カップ23に板状ワークWを吸着させる。この時にはまだ負圧空間18には負圧を付与しなくてもよい。各吸引管21の真空カップ23は、薄い板状ワークWを変形させない程度の均等な吸着力で板状ワークWの湾曲外面側に吸着する。
【0031】
つづいて、図6に示すように、真空ポンプ12により負圧空間18にも負圧を付与するとともに、吸引管21をシリンダ22内に収縮させて出没孔16の中に没入させ、これにより吸着した板状ワークWを吸着面15側に引き寄せて板状ワークW全体を吸着面15に密着させる。吸着面15に密着した板状ワークWにより各出没孔16が閉塞されるため、負圧空間18に加わる負圧によって板状ワークWが吸着面15に真空吸着される。
【0032】
上記のように、複数の吸引管21に吸着させた板状ワークWを吸着面15側に引き寄せる時において、板状ワークWが図2に示すような長尺状である場合は、板状ワークWを吸着面15に密着させる領域の順番を、図2に示す長手方向Lに沿う中心線付近の領域→短手方向Sに沿う中心線付近の領域→その他の領域、の順番とするのが好ましい。具体的には、板状ワークWの長手方向Lに沿う中心線付近に設けられた吸引管21を、他の吸引管21よりも少し早いタイミングで吸着面15下に没入させ、つぎに板状ワークWの短手方向Sに沿う中心線付近に設けられた吸引管21を吸着面15下に没入させ、最後にその他の部分に設けられた吸引管21を吸着面15下に没入させる。
【0033】
つぎに、図7に示すように、各吸引管21への負圧供給を停止し、各吸引管21を板状ワークWから切り離して最も縮んだ状態にする。こうしても、板状ワークWは負圧空間18の負圧によって吸着面15に真空吸着され続ける。なお、各吸引管21への負圧供給を停止させず、各吸引管21を板状ワークWに吸着させたままにしておいてもよい。
【0034】
[減肉加工工程B](図8から図11参照)
減肉加工工程Bでは、まず、図9に示すように、別工程で湾曲加工されてきた板状ワークWの湾曲内面を、複数の領域(本実施形態では互いに重ならないようにして設定された6つ領域)31に区分して、領域31毎に参照(基準)となる面(以下、「参照面」という。)32を設定する(本実施形態では各領域31の中央に参照面32を設定する)。
【0035】
つぎに、図10(a)に示すように、機械切削装置2(図1参照)に取り付けられた変位計(図示せず)で参照面32までの鉛直方向の距離L1を測定する。そして、機械切削装置2のミーリングヘッド7に設けられた切削工具8を回転させながら板状ワークWの湾曲内面に押し付け、測定された参照面32に対応する(割り当てられた)領域31内に存する板状ワークWの湾曲内面に、例えば、図9に示すような予め設定された参照面32を有する(本実施形態では平面視円形状を呈する)凸部(減肉部)33、ポケット部(減肉部)34、および畦部(畦道:減肉部)35が形成されるよう、板状ワークWの湾曲内面を切削加工(減肉加工)する。すなわち、図8および図10(b)に示すように、切削工具8により参照面32から所定の距離L2だけ掘り下げるようにして板状ワークWの湾曲内面が切削加工(減肉加工)されることにより、板状ワークWの湾曲内面にポケット部34が切削加工(減肉加工)される。その後、図8、図9、および図10(b)に示すように、切削工具8により参照面32から所定の距離L3だけ掘り下げるようにして切削工具8により板状ワークWの湾曲内面が切削加工(減肉加工)されることにより、板状ワークWの湾曲内面に参照面32を有する凸部33、および畦部(畦道)35が切削加工(減肉加工)される。その後、図8および図10(c)に示すように、凸部33(本実施形態ではすべての凸部33)が切削(減肉)され、板状ワークWは加工体W1として完成する。そして、図11に示すように、加工体W1(図10(c)参照)の長手方向Lに沿ってポケット部34とポケット部34との間に延びる畦部35にストリンガー41を取り付け、加工体W1の短手方向Sに沿ってポケット部34とポケット部34との間に延びる畦部35にフレーム42を取り付けることにより、加工体W1は航空機用部品(航空機組立品)W2として完成する。
【0036】
なお、切削のパターンは予めNC制御装置にインプットされている。また、板状ワークWが航空機の胴体部に適用される外板である場合は、減肉加工が施される前の状態であっても、その厚さは非常に薄く、この薄い板状ワークWにさらに減肉加工が施されるため、極めて高精度な加工が必須条件となる。そのため、従来では機械切削よりもケミカルミーリングが多用されてきた。
【0037】
本実施形態に係る板状ワークWの加工方法によれば、領域31毎に設定された参照面32を基準にして、この参照面32から所定の距離L2,L3だけ掘り下げるようにして凸部33、ポケット部34、および畦部35が形成されることになる。
これにより、真空吸着式サポート治具1の吸着面15から板状ワークWが浮き上がっているような場合でも、凸部33、ポケット部34、および畦部35を板厚方向に精度良く加工することができるとともに、切削工具8が板状ワークWの板厚方向に貫通して、板状ワークWが破損してしまうことを防止することができ、生産性を向上させることができる。
【0038】
また、本実施形態に係る板状ワークWの加工方法によれば、切削された(削り取られた)凸部33の重量分だけさらなる軽量化を図ることができる。これは、特に、航空機用部品W2を生産(製造)する上で有利な点となる。
【0039】
さらに、本実施形態に係る板状ワークWの加工方法により減肉加工された加工体1によれば、凸部33、ポケット部34、および畦部35が板厚方向に精度良く加工されていることになるので、設計上要求された強度を確保することができ、かつ、設計上要求された軽量化を図ることができる。
また、切削工具8が板状ワークWの板厚方向に貫通することによる板状ワークWの破損が防止され、生産性が向上することになるので、生産コスト(製造コスト)を低減させることができる。
【0040】
さらにまた、本実施形態に係る加工体W1の畦部35に、ストリンガー41またはフレーム42の少なくともいずれかが取り付けられた航空機用部品W2によれば、凸部33、ポケット部34、および畦部35が板厚方向に精度良く加工されていることになるので、設計上要求された強度を確保することができ、かつ、設計上要求された軽量化を図ることができる。
また、切削工具8が板状ワークWの板厚方向に貫通することによる板状ワークWの破損が防止され、生産性が向上することになるので、生産コスト(製造コスト)を低減させることができる。
【0041】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜必要に応じて変形・変更して実施することもできる。
例えば、上述した実施形態では、すべての凸部33を切削する(削り取る)ようにしたものを一具体例として挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、切削することが必要な凸部33のみを切削するようにしてもよい。
【0042】
また、上述した実施形態では、参照面32の平面視形状が円形状を呈するものを一具体例として挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、参照面32の平面視形状は、三角形や四角形等の多角形状、楕円形状等を呈するものであってもよい。
【0043】
さらに、上述した実施形態では、加工体W1(図10(c)参照)の長手方向Lに沿ってポケット部34とポケット部34との間に延びる畦部35のすべてにストリンガー41を取り付け、加工体W1の短手方向Sに沿ってポケット部34とポケット部34との間に延びる畦部35のすべてにフレーム42を取り付けた航空機用部品W2を一具体例として挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、航空機用部品W2は、加工体W1の長手方向Lに沿ってポケット部34とポケット部34との間に延びる畦部35の必要なところにストリンガー41を取り付け、加工体W1の短手方向Sに沿ってポケット部34とポケット部34との間に延びる畦部35の必要なところにフレーム42を取り付けたりしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
31 領域
32 参照面(参照となる面)
33 凸部
34 ポケット部
35 畦部
41 ストリンガー
42 フレーム
L1 参照面までの鉛直方向の距離
L2 所定の距離
L3 所定の距離
W 板状ワーク
W1 加工体
W2 航空機用部品
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複曲面を形成するように湾曲加工され板状ワークの湾曲内面に減肉加工を施して、前記板状ワークの軽量化を図る板状ワークの加工方法であって、
前記湾曲内面を、複数の領域に区分する段階と、
前記領域毎に参照となる面を設定する段階と、
前記参照となる面までの鉛直方向の距離を測定する段階と、
測定された前記参照となる面に対応する領域内に存する前記湾曲内面に、前記参照となる面を有する凸部、ポケット部、および畦部が形成されるよう、前記参照となる面から所定の距離だけ掘り下げるようにして、前記湾曲内面を減肉加工する段階と、を備えていることを特徴とする板状ワークの加工方法。
【請求項2】
前記凸部を切削する段階を備えていることを特徴とする請求項1に記載の板状ワークの加工方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の板状ワークの加工方法により減肉加工されたことを特徴とする加工体。
【請求項4】
請求項3に記載の加工体の畦部に、ストリンガーまたはフレームの少なくともいずれかが取り付けられていることを特徴とする航空機用部品。
【請求項1】
複曲面を形成するように湾曲加工され板状ワークの湾曲内面に減肉加工を施して、前記板状ワークの軽量化を図る板状ワークの加工方法であって、
前記湾曲内面を、複数の領域に区分する段階と、
前記領域毎に参照となる面を設定する段階と、
前記参照となる面までの鉛直方向の距離を測定する段階と、
測定された前記参照となる面に対応する領域内に存する前記湾曲内面に、前記参照となる面を有する凸部、ポケット部、および畦部が形成されるよう、前記参照となる面から所定の距離だけ掘り下げるようにして、前記湾曲内面を減肉加工する段階と、を備えていることを特徴とする板状ワークの加工方法。
【請求項2】
前記凸部を切削する段階を備えていることを特徴とする請求項1に記載の板状ワークの加工方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の板状ワークの加工方法により減肉加工されたことを特徴とする加工体。
【請求項4】
請求項3に記載の加工体の畦部に、ストリンガーまたはフレームの少なくともいずれかが取り付けられていることを特徴とする航空機用部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−845(P2013−845A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135413(P2011−135413)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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