説明

析出物掻き取り式電解装置における掻き取り刃

【課題】 電極上に析出した目的元素をスムーズに掻き落とし、当該析出物への掻き取り刃の固着を防ぐ。
【解決手段】 析出物掻き取り式電解装置1における掻き取り刃2は、電解槽中での電解精製の際、電解槽の中に設けられた円筒形電極上に析出した目的元素を掻き取って回収するための刃であるが、この掻き取り刃2を、円筒形電極5のほぼ中心で回転する回転電極4の周囲に、当該回転電極4の軸方向に複数に分割した状態で、尚かつこの回転電極4の回転軸に対して傾斜して設ける。この場合、析出した目的元素6を電解槽3の底部に向けて掻き落とすように回転方向斜め上向きに傾斜させていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、析出物掻き取り式電解装置における掻き取り刃に関する。さらに詳述すると、本発明は、溶媒塩中での電気分解精製により金属ウランなどの目的元素を析出させて回収する過程において、析出した元素を掻き取り回収するために用いる掻き取り刃の構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
溶媒塩を用いた金属燃料再処理では、溶媒塩中での電気分解によって電極上に析出した目的元素を以下のような電解精製工程を経ることにより回収している。すなわち、ウラン、超ウラン元素(以下、ウランの場合について述べる)を核分裂生成物から分離するために、共晶塩化リチウム−塩化カリウム等の溶媒塩を溶媒とし、陽極に再処理すべき金属燃料を装荷し、陰極に鉄などの金属を用い、両電極間に一定の電流を流す。これにより、陽極に装荷した金属元素(ウラン)をイオンとして溶媒塩中に溶解させ、この溶媒塩中のイオンを陰極にて金属に還元する。このような電解精製工程では、陽極でのイオンへのなりやすさ、あるいは陰極での金属への還元されやすさの違いから、ウランを核分裂生成物等の不要元素と分離することができる。
【0003】
ここで、以上のような電解精製工程においては、ウランが陰極上で析出して樹枝状に成長することが知られている。そこで、従来、このような析出物を効率良く回収するために、析出したウランを掻き取り、掻き取った析出物(ウラン)を電解装置の下部に設置した網や受け皿、バスケット等で回収するという手段が利用されている。具体的には、例えば、円筒形の電極を使って電解精製を実施する際、一定以上に成長したウラン析出物を電解槽の中で回転する掻き取り刃(スクレーパ)により掻き落とすという構造の電解装置、あるいは、回転する陰極上に析出したウランをその周囲に設けておいた固定的な掻き取り刃により掻き落とすという構造の電解装置が提案され、利用されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−332880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように刃でウラン析出物を掻き取る方式の電解装置の場合、析出したウランが溶媒塩を巻き込んで硬くなることから、掻き取り刃が析出物(ウラン)と干渉し、場合によっては掻き取り刃がウランに固着してしまうことがあるという問題がある。このような状態に陥ると、硬化したウランと干渉する結果、掻き取り刃の回転が停止に至る場合もある。
【0006】
そこで、本発明は、電極上に析出した目的元素をスムーズに掻き落とし、尚かつ刃の固着を防ぐようにした析出物掻き取り式電解装置における掻き取り刃を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明者は種々の検討を行った。析出する目的元素を掻き取って回収していくという方式自体、析出物を次々と回収できるという点で優れたものであるが、干渉が起こり、ひいては回転が停止する場合があるという点からすると構造上の問題があると考えられた。そこで検討すると、これまでの掻き取り刃は垂直形状の刃が円周上に複数配置されたものであり、陰極上で成長した析出元素を掻き取って回転方向(周方向)に押し込む作用は発揮するものの、掻き取った析出元素を積極的に下に落とすような構造にはなっていない。このため、掻き取られた析出元素が掻き取り刃と電極の間に堆積し、これが陰極面に残留している析出元素と作用し、あたかもロール状に成長するケースが見られるとの見解が得られるに至り、このような問題を解消するための知見を得るに至った。
【0008】
本発明はかかる知見に基づくものであり、請求項1に記載の発明は、電解槽中での電解精製の際、電解槽の中に設けられた円筒形電極上に析出した目的元素を掻き取って回収するための析出物掻き取り式電解装置における掻き取り刃において、円筒形電極のほぼ中心で回転する回転電極の周囲に、当該回転電極の軸方向に複数に分割された状態で、尚かつこの回転電極の回転軸に対して傾斜して設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明における掻き取り刃は、ウラン等の析出物を回転軸方向に押し下げ、あるいは押し上げるように傾斜が付けられたいわば傾斜型ブレードとして構成されているものである。このため、これまでの垂直刃とは異なり、掻き取り時、電極上の析出物に対して軸方向への分力を生じさせることができることから、単に回転方向(周方向)へと掻き出すのではなく、斜め方向に掻いて削り落とすというように作用する。このようにして掻き取られたウラン析出物は、円筒型電極の電極面から分断されて底部に落ちる。
【0010】
また、これまでのような一体型の掻き取り刃であるならば、刃に傾斜を設けるにしても目的元素が溶媒塩中を通過するための開口部や流路の確保、あるいは刃成形のしやすさといった点から傾斜角度がある程度制限されていたと考えられるが、本発明にかかる掻き取り刃は軸方向に複数に分割されていることから、目的元素流通のための開口部や流路を確保しやすいし、各々の刃の傾斜角度を種々の角度に設定することも行いやすい。また場合によっては各掻き取り刃の傾斜角度をそれぞれ異ならせるという構造とすることも可能となっている。
【0011】
上述の発明においては、請求項2に記載のように、掻き取り刃が、析出した目的元素を電解槽の底部に向けて掻き落とすように回転方向斜め上向きに傾斜していることが好ましい。この場合の掻き取り刃は、析出した元素を掻き取ると同時に下向きの分力を作用させて底部に向けて掻き落とすように作用する。
【0012】
また、請求項3に記載のように、回転方向にずらして設置された掻き取り刃のうち少なくとも回転方向に隣り合う掻き取り刃どうしの軸方向位置が互いにずれていることも好ましい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の析出物掻き取り式電解装置における掻き取り刃は、いわば傾斜型のブレードを構成するものであり、電極面上の析出物をスムーズに掻き落とし、尚かつ刃自体が固着するのを防止することができる。すなわち、従来の掻き取り刃の場合には、掻き取った析出元素が回収部(電解槽底部の受け取り皿など)に移行するための力が重力のみに依存していたのとは異なり、掻き取り動作と同時に掻き取られた析出元素が回収部へ移行するような力あるいは押し上げるような力を積極的に与えることができる。したがって、析出元素との干渉や刃の回転停止を効果的に抑制することができ、ひいてはこの結果、一回の電解における運転継続時間の長時間化、目的元素の回収・処理速度の高速化を図ることが可能となる。さらには、陽極に装荷したウランを全量溶解させることにもつながる。
【0014】
しかも、刃を回転軸方向に分割し、これら分割した刃を軸方向に並べたいわば縦分割した構造としていることから、掻き取り刃単体の刃の長さをいたずらに延長する必要がない。このため、電解精製の際、目的元素が溶媒塩中を通過するために必要な開口部あるいはその通路を狭めるようなことにならないで済む。また、こうした場合には掻き取り刃が回転電極の側面を占める面積を減らすことにもつながるから、これによって回転電極(陽極)側から円筒形電極(陰極)側への溶媒塩の流量が増大し、これに伴って目的元素の流量増大を促進するという作用も得られる。さらには、縦分割した傾斜刃を採用することによりロール状析出物の成長を抑制し、尚かつ、析出物のスムーズな脱落、細かな析出物の回収を促進するという効果を得ることもできる。
【0015】
加えて、掻き取り刃を傾斜させた本発明の場合には、掻き取り刃自体、回転軸、さらには回転動力源に対する負荷が少なくて済むという利点もある。すなわち、従来の垂直型掻き取り刃だと刃全体が一度に析出物に当たる場合があり、このような場合には刃や軸などに対する負荷の変動が大きいのに対し、本発明のごとく傾斜した掻き取り刃であれば、刃の端の方から順次析出物に当たって掻き出していうことになるため負荷変動が小さく、刃や軸に対する負担が従来よりも少なくて済む。
【0016】
請求項2に記載の掻き取り刃によると、析出した目的元素を当該電解装置の底部に向け下向きに掻き落とすことができる。これによれば、析出物をスムーズに掻き落として刃の固着を防ぐことに加え、掻き落とした析出物を効果的に回収することが可能となる。
【0017】
さらに、隣り合う掻き取り刃どうしの軸方向位置を互いにずらすようにした請求項3に記載の発明によると、掻き取り刃全体として電極上への析出物を遺漏なく掻き落とすことを可能としつつ、ある一定の領域内で必要な掻き取り刃の数を減らし、掻き取り刃のない空間を作り出すことで、析出物の落下に必要な空間を確保することが可能となる。しかもこのようにして複数の掻き取り刃を円周方向(回転方向)に適宜分散して配置することは、重量配分の偏りをなくして回転むらを起こさないようにするという点でも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1〜図2に本発明の実施の一形態を示す。本実施形態にかかる析出物掻き取り式電解装置1における掻き取り刃2は、電解槽3中での電解精製の際、電解槽3の中に設けられた円筒形電極(陰極)5上に析出した析出物(目的元素)6を掻き取って回収するために設けられている刃であり、本実施形態の場合には、円筒形電極5のほぼ中心で回転する回転電極4の周囲に、当該回転電極4の軸方向に複数に分割された状態で、尚かつこの回転電極4の回転軸に対して傾斜して設けられているいわば傾斜付きブレードとなっている。
【0020】
このような掻き取り刃2が設けられている析出物掻き取り式の電解装置1においては、陽極たる回転電極4と陰極たる円筒形電極5との間で通電することにより金属ウラン等を電気的に溶解して円筒形電極5上に析出させる。この際、通電中に析出して成長するこの析出物6を回転する掻き取り刃2で連続的に掻き落とし、電解槽3の底部に備えて付けておいた例えば析出物回収用の回収バスケット9で回収する(図1参照)。この場合、円筒形電極(陰極)5の内周面から掻き落とされた析出物6は底部の回収バスケット9上に堆積することになる。この回収バスケット9の底部には金属網(図示省略)が張ってあり、電極構造物(ここでいう電極構造物とは電解装置1のうち電解槽3と溶媒塩7を除く部分のこと、つまり、掻き取り刃2、回転電極4、円筒形電極5等で構成される部分のこと)を溶媒塩7から引き上げた際に、溶媒塩6が金属網を通ってドレンされ、回収しようとする析出物6に付着している溶媒塩7の量をできるだけ減らすことが可能となっている。以下、この電解装置1の各部について簡単に説明した後、掻き取り刃2についての説明を加える。
【0021】
電解槽3は例えば使用済み核燃料の乾式再処理のうちの電解精製工程が行われる槽である(図1参照)。この電解槽3の中には溶媒塩7が貯溜されていて、当該溶媒塩7中に溶解したウランをイオン化して析出させるようになっている。なお、図1と図2においてはこの電解槽3として底面形状が矩形のものを示しているがこれは一例に過ぎず、他の形状としても構わないことはいうまでもない。また、図1においてハッチングは省略している。
【0022】
回転電極4は、溶媒塩7中のほぼ中央に浸漬された棒状の電極で、電解精製工程における陽極として作用する。この回転電極4はその上部が図示していない回転モータ等の回転動力源に接続されており、この動力源によって例えば図2に示すように反時計方向に駆動される。
【0023】
円筒形電極5は、電解槽3中の溶媒塩7に浸漬される円筒形状の電極である(図1参照)。電解槽3にて電解精製工程を経た場合、この円筒形電極5の表面には目的元素(ウランなど)が徐々に析出して成長していくことになる。
【0024】
回転電極4には、この回転電極4とともに回転する陽極バスケット8と掻き取り刃2とが設けられている。このうち、陽極バスケット8は、回転電極(陽極)4の周囲における溶媒塩7の流動を増加させる働きをする。陽極バスケット8の形状などは特に限定されるものではないが、例えば本実施形態においては矩形のバスケットを形成し、4つのバスケットを回転電極4の周囲に4方向に広がるように配置して十字型の矩形バスケットを構成している(図2参照)。この陽極バスケット8には金属ウランが装荷される。陽極バスケット8を本実施形態のように十字型とした場合、回転電極4の周囲における溶媒塩7の流動をさらに増加させることが可能となり、さらには陽極に装荷するウラン量を増加させることもできるようになる。
【0025】
掻き取り刃2は、円筒形電極5の表面(内周面)にて一定以上の厚さに成長した析出物6を掻き落とすために設けられる刃(ブレード)である。例えば本実施形態の掻き取り刃2は回転電極(陽極)4の周囲に形成され、電解精製工程の間、回転電極4とともに回転し、円筒形電極5上で成長して一定量を超えたウラン析出物6を掻き取りそれ以上は析出させないように機能する。ここで、本実施形態においては、掻き取られた析出物6が円筒形電極5に滞留するのを防ぐため、掻き取り刃2に傾斜を設けている。具体的には、析出した目的元素を電解槽3の底部に向けて下向きに掻き落とすことができるように、掻き取り刃2は回転方向斜め上向きに傾斜した状態となっている。例えば本実施形態のように回転電極4および掻き取り刃2を上面から見て反時計回りに回転させている場合であれば(図2参照)、正面から見た掻き取り刃2の形状あるいはその断面形状は、図1に示すように左下から右上がりに傾斜した形状となっている(図1参照)。
【0026】
また、本実施形態においては上述の掻き取り刃2を軸方向に分割した形態とし、その個数は必要に応じて適宜変えることが可能な構造としている。すなわち、必要な電極有効高さを確保するためには傾斜角度に応じて必要な掻き取り刃2の長さが増大する場合があるが、いたずらに掻き取り刃2の長さを延長することは、電解精製の際、目的元素が溶媒塩7中を通過するために必要な開口部あるいはその通路を狭めることになりかねず、必ずしも好ましいとはいえない。そこで、必要に応じて短い掻き取り刃2を縦方向に複数配置し、円周長さを占める掻き取り刃2の設置割合を適宜減らすことが可能である(図1参照)。析出物(目的元素)6は回転電極(陽極)4側で溶解して溶媒塩中7に溶け、溶媒塩7の流動により円筒形電極(陰極)5側にたどり着いたものが金属として析出する。したがって、陽極側から陰極側への溶媒塩7の流量を増大し、析出物(目的元素)6の流量増大を促進するという観点からすれば、回転電極4の側面積中に占める掻き取り刃2の割合を減らすことが好ましいといえる。このように掻き取り刃2を回転軸方向にいわば縦分割し、これを軸方向に沿って並べた場合には、掻き取りロスの生じる部分はなくしつつ、掻き取り刃2が回転電極4の側面を占める面積を減らすことが可能となる。
【0027】
加えて、円周方向(回転方向)に掻き取り刃2を複数個所配置する場合には、1つの領域(ここでいう領域とは、2つの母線で挟まれた軸方向に長いある領域のこと)内における掻き取り刃2どうしの設置間隔を広げ、さらに、他の領域における掻き取り刃2との高さ(換言すれば軸方向位置)を互いにずらすことも好ましい。こうした場合、掻き取り刃2の全体として円筒形電極5上の析出物6を遺漏なく掻き落とすことを可能としつつ、1つの領域内で必要な掻き取り刃2の数を減らし、掻き取り刃2のない空間を作り出すことで、析出物6の落下に必要な空間を確保することが可能となる。しかもこのようにして複数の掻き取り刃2を円周方向(回転方向)に適宜分散して配置することは、重量配分の偏りをなくして回転むらを起こさないようにするという点でも有利である。もちろん、各掻き取り刃2を1つの領域内に一列に配列することも可能ではあるが、上述のように適宜分散して配置した場合には上述のような利点があるという点で好ましい。
【0028】
続いて、上述した析出物掻き取り式電解装置1による処理の概要について以下に説明しておく。ここでは、金属燃料サイクルの中で使用済み金属燃料を処理する場面について簡単に説明する。
【0029】
本実施形態の析出物掻き取り式電解装置1による処理対象物としては、金属燃料(ウラン、プルトニウム、ジルコニウムを主成分とする合金)を高速炉で使用した後に出てくる使用済みの金属燃料を挙げることができる。これは、上記の金属燃料に核分裂生成物が蓄積したものであるが、基本的にウラン、プルトニウムなどのアクチニド元素は金属状態を保っている。また、燃料は金属製の被覆管に封入された状態で原子炉に入るので、使用済み燃料も核分裂生成物と共に金属製の被覆管に入った状態でせん断工程に持ち込まれる。
【0030】
せん断工程では、この使用済み燃料の入った被覆管を中身の燃料ごと数mm〜1cm程度の間隔で輪切りにし、その後、せん断された被覆管が付いた状態で陽極(本実施形態の場合であれば回転電極4)に装荷する。電解中は、陽極電位を被覆管や陽極構造物が溶解しない程度の電位に保つため、基本的にウラン、プルトニウムなどのアクチニド元素、ならびにジルコニウムなどのウランよりやや溶解しやすい元素のみを溶解させる。また核分裂生成物では、アクチニド元素類より溶解しやすい希土類、アルカリ土類、アルカリ金属元素が溶媒塩中に溶解する。これに対し、核分裂生成物のうちの貴金属元素はジルコニウムよりも溶解しにくく、電解精製時には陽極(回転電極4)に残留し、除染されるものと期待されている。また、溶媒塩中に溶解しやすい希土類、アルカリ土類、アルカリ金属元素などの核分裂生成物は、アクチニド元素が析出する電位は陰極(本実施形態の場合であれば円筒形電極5)側で析出しないため、基本的に溶媒塩7中に残留し、除染することができる。陰極(円筒形電極5)で析出させたアクチニド元素を主体とする回収物は、次段階の陰極析出物処理工程にて付着する溶媒塩7が蒸留分離され、金属塊になる。これは燃料製造工程にて次のリサイクル燃料製造のための原料として用いられる。以上が金属燃料サイクルの中で使用済み金属燃料を処理する場面についてである。
【0031】
ここまで説明したように、本実施形態にかかる電解装置1においては、ウランなどの析出物6を掻き取る際、軸方向に分割され尚かつ傾斜して形成された掻き取り刃2を用いることから、析出物6をスムーズに掻き落とすことによって当該掻き取り刃2と析出物6との干渉を抑え、回転電極(陽極)4の回転が停止するのを抑制するという効果を奏する。この結果、一回の電解工程中における運転継続時間の長時間化、目的元素の回収・処理速度の高速化といった効果が得られる利点もある。
【0032】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では、掻き取り刃2を傾斜させる場合の好ましい態様として回転方向斜め上向きに傾斜させた場合を説明したが、これとは逆に、回転に伴い析出物6が上に押し上げられるような傾斜とすることも可能である。こうした場合、ウランなどの析出物6は、掻き取り刃2によって掻き取られる際に上方への作用を受けるようになるため、いったん押し上げられるようにして掻き取られてから溶媒塩7中を落下していくことになるが、析出物6をスムーズに掻き落として刃自体が固着するのを防止するという観点からすれば、このように傾斜の向きを逆にした場合であっても得られる効果は特に変わるところがない。
【0033】
また、傾斜の態様についても様々であり、例えば本実施形態では掻き取り刃2の断面形状(あるいは正面から見たときの形状)をおよそ平行四辺形として図示したが(図1参照)、これは一例に過ぎず、例えば円弧状に曲がった湾曲形状や、途中で折り曲げられて開いたV字形状(あるいは逆V字形状)などとしてももちろん構わない。例えば断面形状が平板状である場合と湾曲したり曲がったりしている場合とでは、刃による掻き取り能力や析出物6の落下態様、さらには回転時に溶媒塩7から受ける抵抗などにおいて差異が生じる場合もあるので、各種状況に応じて種々の形状の掻き取り刃2を適宜採用することが好ましい。さらに、本実施形態のように掻き取り刃2を軸方向に分割して複数設けている場合であれば、各掻き取り刃2の形状をそれぞれ異ならせるといったことも可能である。
【0034】
また、上述の実施形態で説明したのは円筒形電極5内にて回転する掻き取り刃2を軸方向に分割して尚かつ傾斜させたという態様であるが、電解装置1がこれとは逆の構造である場合においても本実施形態で説明した技術を適用することが可能である。すなわち、電解槽3の中心で陰極を回転させ、この回転陰極上の析出物を、回転陰極の周囲に固定的に設置した掻き取り刃2によって掻き落とすという構造をとる電解装置1も利用されているが、このような構造であれば、回転陰極の周囲に固定的に設置した掻き取り刃2を本実施形態と同様に分割し、傾斜させることによって本発明と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0035】
また、本実施形態では溶媒塩7の相として、塩化カリウム−塩化リチウム系を例示したが、例えば塩化カリウム−塩化ナトリウム系溶媒塩、塩化セシウム−塩化ナトリウム系溶媒塩、塩化カリウム−塩化リチウム−塩化ナトリウム系溶媒塩、塩化カルシウム−塩化バリウム−塩化リチウム−塩化ナトリウム系溶媒塩、塩化カルシウム−塩化バリウム−塩化リチウム−塩化カリウム系溶媒塩などを使用してもよい。さらには、溶媒塩を使う代わりに水溶液などの溶媒を適用することも可能である。すなわち、上述した実施形態ではウランの電解精製を念頭においているために「溶媒塩」と表現して説明したが、本発明にかかる析出物掻き取り式電解装置1およびこの電解装置1における掻き取り刃2の適用範囲が「溶媒塩」を用いる系に限定されるということではなく、尚かつ厳密な意味でいえば溶媒塩は溶媒の一種であることからすれば、例えば水溶液などの溶媒を用いた系であっても適用することは可能である。
【0036】
なお、上述した実施形態では析出物6の例としてウランを挙げて説明したが、これは便宜的に代表的な例を挙げて説明したものに過ぎず、掻き取って回収する金属元素に超ウランも含まれることはいうまでもない。したがって、ウランの電解精製に限らず、同様の方法で他の目的元素を析出・回収する電解システムにおいて析出物6と掻き取り刃2の干渉による固着が問題となる場合に本発明を適用することが当然に可能である。
【実施例1】
【0037】
本実施形態にかかる析出物掻き取り式電解装置1が奏する効果を確認するための試験を行った。以下に実施例1として記載する。なお、以下に述べる実施例1〜実施例3に共通する試験条件は以下のとおりである。
[試験条件]
・浴塩:4000g、底部Cd:1900g (電解浴:170mmφ×130mmD)
・塩中ウラン濃度:約2wt%
・陽極回転速度:100rpm
【0038】
実施例1においては、5.8mmφ×約20mmの無被覆金属ウランを490g用意し、これを各陽極バスケット8にほぼ均等に、ランダムに装荷した。電解電流:20A、通電量:465g-U相当、陽極溶解量:222g-U、平均処理速度:28.4g-U/h(18.9g-U/h・リットル)で、回収されたウランは64.25gであった。試験の結果を図3に示す。(1)これまでの実績値(図3中における「H14Run-3」)と比較して、「H15Run-1」として示す今回の電解開始時の電解電流は1.5倍程度に増加していた。このことから、上述した構造の析出物掻き取り式電解装置1によれば処理速度が向上することが確認された。(2)ロール状ではない、細かな析出物6が回収されたことから、掻き取り刃2の形状を従来と異ならせたことの効果が確認された。(3)電解途中より陽極電位の大きな変動が見られた。掻き取り刃2の形状を新規なものとしたことに伴い、ロールが生成しなくなったことから掻き取り刃2が常に陰極析出物と接触し、陽極(回転電極4)−陰極(円筒形電極5)間の電気的短絡が増大したことが一因と考えられた。
【実施例2】
【0039】
析出物掻き取り式電解装置1の処理速度向上を確認するための試験を行った。本実施例2においては、5.8mmφ×約20mmの無被覆金属ウランを327g用意し、これを各陽極バスケット8にほぼ均等に、ランダムに装荷した。陽極溶解量:290g-U、電流効率:53%、電解電流:15〜30A、平均処理速度:34.4g-U/h(22.9g-U/h・リットル)で、あった。この電解装置1における処理速度はこれまでの実績値を8%上回った(ただし、546g-U相当まで電解を行ったところで回転電極4の回転が停止した)。また、連続処理量としては、従来の実績値(170g-U)を上回る290g-U程度以上を達成したことも確認された。
【実施例3】
【0040】
析出物掻き取り式電解装置1における被覆管の影響、および逆電解と逆回転の効果を確認するための試験を行った。本実施例3においては、5.8mmφ×約20mmの金属ウラン(7.0mmOD×6.0mmID×22mmLのSUS304被覆付き)を510g用意し、これを各陽極バスケット8にほぼ均等に、横向きに装荷した。ここでは原則として60分の電解毎に5分間の逆電解と陽極逆回転を実施した。電解電流:2〜20A(大半は15A以上)、通電量:675g-U相当(逆電解分差し引き後)、平均処理速度:25.1g-U/h(16.7g-U/h・リットル)、ただし電解電流を15A未満に下げる以前(91%のUを電解済み)では30.3g-U/h(20.2g-U/h・リットル)であった。試験の結果を図4に示す。図4では、実施例1の結果を「Run-1」、本実施例3の結果を「Run-3」として表している。この結果から、実施例1(無被覆)と比較して電解電流が2/3程度に減少したことが確認され、被覆管による表面積減少の影響は小さいことがわかった。また、3Aでの電解をできなくなるまで電解を継続したところ、回転電極(陽極)4に残留ウランは観察されなかった。また、電流効率は76%に向上したことから、逆電解と逆回転の効果が表れたことが確認された。
【0041】
さらに、電極占有体積とウラン回収速度との関係を図5に示す。上記実施例2の結果を「Run-2」、本実施例3の結果を「Run-3」として表している。また、本実施例3と同様の条件下での従来構造の電解装置1に対する試験結果を「H14 Run-3」と表している。この結果、被覆管付きの場合でも、陽極ウラン枯渇以前はRun-2と遜色ない速度で電解できたことが確認された。なお、補足的に説明を加えておくと、図5中でいう「従来配置」とは棒状固体陰極への析出試験での結果値であり、約9g-ウラン/h ・リットルを意味している。なお、この数値は、実際に電極に析出したU量(g)を、電解に要した時間(h)および電極占有体積(最終的な陰極電析物のおおまかな体積の2倍)で除して得たものである。体積の2倍としたのは、陽極体積として、陰極と同程度の体積を要すると仮定したためである。これに対し、本実施形態にかかる電解装置1では、回転電極(陽極)4と円筒形電極(陰極)5とが一体化されているため、電極占有体積は単に溶媒塩7に漬っている部分の体積ということになる。また、図5中の2倍、4倍とは上記の値に対して2倍、4倍ということであり、約18g-ウラン/h ・リットル、約36g-ウラン/h ・リットルにそれぞれ相当する。
【0042】
以上の各実施例の結果、以下のことが確認できた。(1)電解装置1の構造を新規なものとすることにより、装荷ウラン量を増やし、ウランの処理速度をさらに向上させることができた(最高22.9g-U/h・リットル、従来の実績に比べて+8%)。(2)電解装置1および運転方法の改良(逆電解と逆回転)により、ロール状ではないさらに細かい析出物6を回収した。また、析出物6との干渉による回転電極4の回転停止を抑制し、回転電極4に装荷した510gのウランを全量溶解させた。(3)被覆管付きのウランを装荷した試験により、被覆管による陽極ウランの表面積減少が電解に及ぼす影響は小さいことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明にかかる掻き取り刃を示す析出物掻き取り式電解装置の正面図である。
【図2】図1に示した析出物掻き取り式電解装置の平面図である。
【図3】実施例1の結果を示すグラフで、従来構造の電解装置と本発明にかかる電解装置との電解電流の比較を表したものである。
【図4】実施例3の結果を示すグラフで、被覆管の有無による電解電解電流の比較を表したものである。
【図5】実施例2および実施例3における電極占有体積とウラン回収速度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1 析出物掻き取り式の電解装置
2 掻き取り刃
3 電解槽
4 回転電極(陽極)
5 円筒形電極(陰極)
6 析出物(析出した目的元素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽中での電解精製の際、前記電解槽の中に設けられた円筒形電極上に析出した目的元素を掻き取って回収するための析出物掻き取り式電解装置における掻き取り刃において、前記円筒形電極のほぼ中心で回転する回転電極の周囲に、当該回転電極の軸方向に複数に分割された状態で、尚かつこの回転電極の回転軸に対して傾斜して設けられていることを特徴とする析出物掻き取り式電解装置における掻き取り刃。
【請求項2】
前記析出した目的元素を前記電解槽の底部に向けて掻き落とすように回転方向斜め上向きに傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の析出物掻き取り式電解装置における掻き取り刃。
【請求項3】
回転方向にずらして設置された掻き取り刃のうち少なくとも回転方向に隣り合う掻き取り刃どうしの軸方向位置が互いにずれていることを特徴とする請求項2に記載の析出物掻き取り式電解装置における掻き取り刃。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−213972(P2006−213972A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28673(P2005−28673)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年8月5日 社団法人日本原子力学会発行の「日本原子力学会 2004年秋の大会 予稿集 第3分冊(総論、核燃料サイクルと材料)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月 財団法人電力中央研究所研究企画グループ発行の「研究年報/2004年版」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年(2004年)10月8日 財団法人電力中央研究所がインターネットアドレス(http://criepi.denken.or.jp/jp/pub/annual/2004/)にて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省平成15年度電源開発促進対策特別会計委託事業「金属燃料の乾式再処理プロセスの合理化に関する技術開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】