説明

果実風味の増強方法および果実香が増強された食品

【課題】低果汁食品に対して、高果汁食品のような風味を付与することができる素材を提供することを課題とする。
【解決手段】ドレッシングやポン酢などの調味料やたれやつゆ等の柑橘系果汁を用いている食品に、ペプチド含量が10重量%以上、且つ5‘-リボヌクレオチド含量が8%以上の酵母エキスを添加することで、柑橘系果汁独特の爽やかな香りを増強すると共に味を調え、風味豊かな食品を提供できることを見出し、本発明に至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、特にドレッシングやポン酢などの調味料における柑橘系果実風味の増強方法および果実風味が改善された食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
果汁や果実、あるいは果実香を有する食品は一般的に世界で広く存在する。その中でも低果汁の清涼飲料は大きな市場がある。しかしながら、低果汁の清涼飲料は、果汁を希釈した飲料の為、高果汁飲料に比べると味が単調で、人工的な風味を持つという欠点があった。また調味料分野において特に日本国内では、ゆずやかぼす、すだち、レモンなど柑橘系の果汁を使用したポン酢醤油やドレッシング等があり、日常的に広く用いられている。これら果実香、風味を特徴とする食品は、より本物の香り、柑橘系のフレッシュなさわやかさを求められている。
【0003】
そこで、低果汁飲料に対して、高果汁飲料のような風味を付与することができる素材が検討されてきた。
例えば、果実に含まれる渋味成分であるビセリン―2(例えば特許文献1)、ヘスペリジン配糖体またはヘスペリジン配糖体とヘスペリジンとの混合物(例えば特許文献2)、あるいはα―結合ガラクトオリゴ糖(例えば特許文献3)が、報告されている。
【0004】
又、特許文献4には、乳清を乳酸菌および酵母により発酵した乳清発酵液を添加すると果実飲料の果汁感が増すと報告されている。
【0005】
調味料分野に関しては、芋焼酎を添加することで果実香を改善する方法(例えば特許文献5)が報告されている。しかしながら、酵母エキスを用いて柑橘系の風味を増強するという発想はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−238829号公報
【特許文献2】特許第3208113号公報
【特許文献3】特許第4328490号公報
【特許文献4】特許第3343790号公報
【特許文献5】特開2009−183282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
低果汁飲料又は食品に対して、高果汁飲料又は食品のような風味を付与することができる素材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意研究の結果、柑橘系果汁を用いている食品に酵母エキスを添加することで、柑橘系果汁独特の爽やかな香りを増強すると共に味を調え、風味豊かな食品を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)果実香を有する食品に、酵母エキスを含有させることを特徴とする果実香の改善方法、
(2)前記酵母エキスのペプチド含量が10重量%以上、且つ5‘-リボヌクレオチド含量が8%以上とする前記(1)記載の改善方法、
(3)前記食品がドレッシング、たれ、つゆ、ゲル状およびペースト状の調味料からなる群より選ばれる前記(1)記載の改善方法、
(4)果実風味が、柑橘類からなる群より選ばれる果実の香りである、前記(1)〜(3)いずれか一に記載の改善方法、
を提供するものである。

【発明の効果】
【0010】
本発明によると、柑橘系果汁を用いている食品に酵母エキスを添加することで、柑橘系果汁独特の爽やかな香り、風味を増強することが出来る方法とそれを用いた風味豊かな食品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる酵母エキスは、5´-グアニル酸塩を5´-グアニル酸2ナトリウム・7水塩換算で4重量%以上、5´-イノシン酸塩を、5´-イノシン酸2ナトリウム・7水塩換算で4重量%以上含有量し、かつペプチド含有量が10重量%以上のものが望ましい。それに加えて、全アミノ酸に占めるペプチドの割合(以下「ペプチド率」という)が45重量%以上のものが更に望ましい。より望ましくは、ペプチド率70重量%以上である。
【0012】
これ以外の組成の酵母エキスでは、柑橘系の風味増強効果が、十分ではないため好ましくない。
【0013】
このような酵母エキスは、酵母菌体内の酵素を失活させ、酵母を熱水等により抽出した抽出物、あるいは酵母に細胞壁溶解酵素などを添加して得られた抽出物に、核酸分解酵素、必要に応じてアデニル酸分解酵素を作用させることにより製造することができ、具体的には(株)興人製の「アジレックスLK」、「アジパルスSS」、富士食品工業(株)製の「バーテックスIG20」等が挙げられる。
【0014】
このような酵母エキスの製造に用いられる酵母としては、パン酵母、ビール酵母、トルラ酵母などを挙げることができ、中でもトルラ酵母が望ましい。
なお、本発明でいうペプチドとは、アミノ酸が2個以上アミノ結合したものをいい、全アミノ酸量より遊離アミノ酸量を引くことにより算出した。
【0015】
本発明で用いる酵母エキスは、広い分野に応用でき、果実香を有するものであれば特に制限無く使用できる。例えば、果実香を有するドレッシング、ポン酢醤油、たれ、つゆ、ゲル状またはペースト状の調味料等を挙げることができる。ドレッシングは油を含有するものであっても、ノンオイルタイプのものでもよい。
【0016】
本発明で使用できる果実香としては、特に柑橘類(かぼす、ゆず、レモン、すだち等)の香気を挙げることができる。また、果実香の由来は、果実そのものや加工品あるいは合成香料、さらにはそれらを混合したものであっても良い。
【0017】
果実香を有する食品に酵母エキスを含有させる方法は、特に制限はないが、一般的な食品を製造する過程で原材料を調整する際に一緒に混合すると良い。食品に対する酵母エキスの含有量は、一般的に0.01〜0.5重量%であり、好ましくは0.05〜0.3%である。この範囲であれば、果実香、果実風味を明瞭に引き立てることができるが、0.01重量%より少ない含有量では明瞭な差異を認めることは困難であり、また、0.5重量%より多く含有させると酵母エキス本来の臭いが出てきたり、果実香をマスキングしたりして損ねてしまい好ましくない。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。但し、本発明は、以下の態様に限定されるものではない。
【0019】
(実施例1) かぼすドレッシングの調整および官能評価
かぼす果汁100%のものを用い、表1に示す配合割合で原材料を混合する。果実香増強素材として酵母エキス(興人製 アジレックスLK ペプチド含量12.8%、ペプチド率70.5%、5‘−IG15%)を添加し、85℃、10分間加熱後、室温まで冷ました後、蒸発した分の水分を足して元の重量に戻した。
【0020】
【表1】

【0021】
(比較例1)
実施例1において、酵母エキスを添加しないこと以外は、実施例1と同様に行い、かぼすドレッシングを得た。
【0022】
(実施例2、3、比較例2〜4)
実施例1において、酵母エキスとして「アジレックスLK」の代わりに、表2に示す5種類の酵母エキスを用いたこと以外は実施例1と同様に行い、かぼすドレッシングを得た。
【0023】
【表2】

【0024】
(評価)
実施例1〜3、及び比較例1〜4で得られたかぼすドレッシングを、10名のパネラーで官能評価を実施した。官能試験は、「かぼす風味」、「爽やかさ」、の評価項目に対してそれぞれ下記の5段階数値で回答させたのち、その平均値を示した。
4:非常に強く感じる
3:強く感じる
2:少し感じる
1:わずかに感じる
0:まったく感じない
【0025】
(結果)
表3に官能評価結果を示した。実施例1、実施例2、実施例3の酵母エキスについて、比較例よりも「かぼす風味」が増強しており、爽やかさを感じるとのとの評価であった。酵母エキスを添加した比較例2〜4については「かぼす風味」増強効果がないという結果であった。
【0026】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0027】
以上説明してきたように、本発明によると、柑橘系果汁を用いている食品に酵母エキスを添加することにより、柑橘系果汁独特の爽やかな香り、風味を増強させることができ、風味豊かな食品が提供される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実香を有する食品に、酵母エキスを含有させることを特徴とする果実香の改善方法。
【請求項2】
前記酵母エキスのペプチド含量が10重量%以上、且つ5‘-リボヌクレオチド含量が8%以上とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記食品がドレッシング、たれ、つゆ、ゲル状およびペースト状の調味料からなる群より選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
果実風味が、柑橘類からなる群より選ばれる果実の香りである、請求項1〜3記載の方法。


【公開番号】特開2011−103795(P2011−103795A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260702(P2009−260702)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年6月11日 食品化学新聞社発行の「食品化学新聞」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成21年5月20日〜22日 株式会社食品化学新聞社主催の「ifia JAPAN 2009 (第14回国際食品素材/添加物展・会議)」に出品
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】