説明

果樹剪定枝を原材料とする家畜用飼料及びその製造方法

【課題】 産業廃棄物となる果樹剪定枝を有効活用できる家畜用飼料を提供することにある。
【解決手段】 果樹剪定枝のチップを水蒸気雰囲気のもとで高温高圧処理を施して形成したことを特徴とする果樹剪定枝を原材料とする家畜用飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹剪定枝を原材料とする家畜用飼料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばカキ,西洋ナシ,サクランボ,リンゴ等の果樹にあっては、その生育や結実を均
一にし且つ樹形を整えるために枝の一部を切り取るいわゆる枝の剪定を行うが、この剪定
作業に伴って毎年大量の剪定枝が排出される。
【0003】
この排出された果樹剪定枝の処理方法として従来は野積みして焼却していたが、産業廃
棄物処理法の改正以降は焼却することが困難になった。そのため、焼却場に持ち込んで剪
定枝の焼却を依頼するか或いは剪定枝を細かく切断し、これを果樹園の農地表面に散布し
ているのが現状である。
【0004】
しかし、焼却場での焼却処分には費用が嵩み経済的な負担が大きい。そこで、剪定枝を
破砕機などで切断してチップ化し、これを果樹園の農地表面に散布する方法が最も安上が
りで簡便な処分方法である。しかし、剪定枝には害虫が付着していたり、或いは疫病に汚
染されているものもあるため、これを農地等に散布することは果樹園の破壊ひいては害虫
や疫病に侵された果実が結実することに繋がる等非常に危険な処理方法であるといった問
題点があった。
【0005】
このような問題点を解決するため、毎年大量に排出される剪定枝を家畜の飼料として利
用することが可能になれば、環境の保全と有用資源エネルギーの有効利用を図ることがで
きるとの期待から、果樹の剪定枝にはどのような化学成分が含まれているかを先ず調べ、
次にこの成分が飼料として有効利用できるかどうかの調査,実験を行った。本発明はこの
ような実験の結果知得したデータに基づいてなされたものである。
【0006】
山形県では、カキ,西洋ナシ,サクランボ,リンゴ等の生産量が多く、県内における年
間に排出されるこれらの果樹の剪定枝の量は約3万トンに及ぶともいわれている。したが
って、本実験での供試試料として、カキ(平種無),西洋ナシ(ラ・フランス),サクラ
ンボ(佐藤錦),リンゴ(ふじ)の4種の果樹剪定枝を選び、それぞれの化学成分を測定
した。その結果は表1に示す通りである。
【0007】
【表1】

【0008】
表1に示すように、果樹の種類によってその剪定枝に含まれる化学成分は若干異なって
いる。サクランボの剪定枝にあっては粗タンパク質と粗脂肪が高く、リンゴの剪定枝にあ
っては粗脂肪が、そして西洋ナシの剪定枝にあっては粗灰分がそれぞ高い数値を示した。
これらの化学成分の数値から、これらの剪定枝を家畜用の飼料として使用することに大き
な効果が期待できるとの結論を得た。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これらの剪定枝はそのいづれも繊維性成分が多く含まれている点に問題点があ
る。最も繊維性成分が多かったのは西洋ナシの剪定枝であり、このような繊維性成分が多
く含まれている剪定枝を飼料として家畜に食べさせた場合、繊維性成分の大部分が消化さ
れない未消化の状態で排便されたり、或いは消化不良を起こして下痢をするといった諸問
題点がある。すなわち、果樹剪定枝を飼料として利用できるようにするためには、家畜の
胃の中での乾物と繊維性成分の消失率をどうやって高めることができるかといった問題点
を解決する必要があった。
【0010】
本発明は、乾物と繊維性成分の消失率を高めて消化性が良好なものとするとゝもに、果
樹剪定枝に含まれている有効成分を家畜が有効に摂取できる家畜用の飼料を提供すること
を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の目的を達成するためになされたもので、第1の課題解決手段は、果樹剪
定枝のチップを水蒸気雰囲気のもとで高温高圧処理を施して形成したことを特徴とする果
樹剪定枝を原材料とする家畜用飼料である。
【0012】
また、第2の課題解決手段は、果樹剪定枝のチップに、水蒸気雰囲気のもとで、温度1
70〜190℃,圧力10〜13気圧,時間1〜3時間、高温高圧処理を施すことを特徴
とする果樹剪定枝を原材料とする家畜用飼料の製造方法である。
【0013】
さらに、第3の課題解決手段は、前記第2の課題解決手段にあって、水蒸気雰囲気のも
とで果樹剪定枝のチップに施す高温高圧処理を、コンクリートパイル形成用のオートクレ
ーブで行うことを特徴とする請求項2記載の果樹剪定枝を原材料とする家畜用飼料の製造
方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記のような構成であるから、ダイオキシンの発生源として焼却が禁止されて
いて処理に困ってる果樹剪定枝を、家畜用の飼料として有効利用することができる。また
高温高圧蒸気処理をコンクリートパイル用のオートクレーブを使用することにより製造す
ることが出来るため、既存の設備をそのまま使用できる。したがって、新たな設備投資が
不要であるとゝもに、本願の第2の課題解決手段に係る発明にあっては、高温高圧蒸気処
理は前記通常のコンクリートパイル用のオートクレーブにおいて設定できる範囲のもので
あり、作業が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明すると、果樹の剪定枝を切断又はチッピングし、チップ化し
たこの剪定枝に水蒸気雰囲気のもとで高温高圧処理を施す。果樹剪定枝としてはカキ(平
種無),西洋ナシ(ラ・フランス),サクランボ(佐藤錦),リンゴ(ふじ)など、果樹
園から排出される果樹の剪定枝を使用する。その大きさは約1〜200mm程度、好まし
くは5mm程度の範囲内が好ましい。
【0016】
さらに、本発明では、前記チップ化した果樹の剪定枝に水蒸気雰囲気のもとで高温高圧
処理を施すが、この処理にはコンクリートパイル製造用のオートクレーブを転用し、既存
設備の有効利用を図っている。この高温高圧による処理の条件は、好ましくは約170〜
190℃,10〜13気圧,1〜3時間とする。この条件で前記剪定枝を処理した処理済
みチップ材、すなわち、本発明に係る家畜用の飼料が得られる。
【0017】
図1〜図4は4種類の果樹剪定枝、すなわち、カキ(平種無),西洋ナシ(ラ・フラン
ス),サクランボ(佐藤錦),リンゴ(ふじ)等の果樹剪定枝をそれぞれ5mm程度のチ
ップに切断し、これをオートクレーブに入れ、水蒸気の雰囲気のもとで各種の高温高圧処
理し、高温高圧処理後の繊維性成分(中性デタージェント繊維「NDF」)の増減を原材
料と比較した図である。
【0018】
すなわち、各果樹剪定枝に対して、(A)温度(圧力)処理:120℃(4気圧)、1
40℃(6気圧)、160℃(8気圧)、180℃(10気圧)の計4処理、(B)処理
時間:1,2,4,8および16の5処理の組み合わせで、高温高圧処理後の繊維性成分
(中性デタージェント繊維「NDF」)の増減を、高温高圧処理する前の原材料と比較し
たものである。いづれの剪定枝も高温高圧処理後のNDF含量は78%以上であり、高温
高圧処理してもNDF含量の明確な増減の傾向は見られなかった。
【0019】
つぎに、上記高温高圧処理した果樹剪定枝について、ナイロンバッグ法により48時間
培養後の乾物と中性デタージェント繊維(NDF)の消失率を測定した。この乾物とND
F消失率の測定方法は、高温高圧処理後の果樹剪定枝チップを乾燥し粉砕したものをナイ
ロンバッグに入れ、これを反芻家畜(ホルスタイン牛)の第一胃内に入れて48時間培養
し、48時間培養後の乾物とNDF消失率を算出した。その結果は図5〜図8に示す通り
である。
【0020】
図5〜図8に示すように、120℃(4気圧)で1時間と2時間処理したとき、いずれ
の剪定枝の乾物とNDF消失率は無処理(0時間)より低下する傾向を示した。また、乾
物消失率は40〜60%、NDF消失率は35〜55%程度の範囲で低く推移し、処理時
間を長くしても改善効果はみられなかった。
【0021】
処理温度と処理圧力を高くすると、いずれの剪定枝の乾物消失率とNDF消失率は高く
なったが、処理時間を長くしても消失率の改善効果は小さい傾向を示した。最も繊維成分
が多かった西洋ナシチップでは、高温・高圧処理による乾物とNDF消失率の改善効果が
みられた。すなわち、図9に示すように、180℃(10気圧)処理した西洋ナシチップ
の乾物とNDF消失率は、120℃(4気圧)処理より著しく改善された。しかし、18
0℃(10気圧)処理したものでも、1時間と16時間処理を比較しても6〜7%しか上
昇しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】カキ剪定枝の高温高圧処理後のNDF含量を示す図である。
【図2】西洋ナシ剪定枝の高温高圧処理後のNDF含量を示す図である。
【図3】サクランボ剪定枝の高温高圧処理後のNDF含量を示す図である。
【図4】リンゴ剪定枝の高温高圧処理後のNDF含量を示す図である。
【図5】120℃,4気圧で処理した果樹剪定枝のナイロンバッグ法による乾物とNDFの第一胃内消失率を示す図である。
【図6】140℃,6気圧で処理した果樹剪定枝の同じく第一胃内消失率を示す図である。
【図7】160℃,8気圧で処理した果樹剪定枝の同じく第一胃内消失率を示す図である。
【図8】180℃,10気圧で処理した果樹剪定枝の同じく第一胃内消失率を示す図である。
【図9】西洋ナシ剪定枝の180℃(10気圧)で処理したものと、120℃(4気圧)処理したものの乾物とNDF消失率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果樹剪定枝のチップを水蒸気雰囲気のもとで高温高圧処理を施して形成したことを特徴
とする果樹剪定枝を原材料とする家畜用飼料。
【請求項2】
果樹剪定枝のチップに、水蒸気雰囲気のもとで温度170〜190℃,圧力10〜13
気圧,時間1〜3時間、高温高圧処理を施すことを特徴とする果樹剪定枝を原材料とする
家畜用飼料の製造方法。
【請求項3】
果樹剪定枝のチップに水蒸気雰囲気のもとで施す高温高圧処理を、コンクリートパイル
形成用のオートクレーブで行うことを特徴とする請求項2記載の果樹剪定枝を原材料とす
る家畜用飼料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−82509(P2007−82509A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278640(P2005−278640)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月26日 日本草地学会発行の「日本草地学会誌(Japanese Journal of Grassland Science 第51巻 別号」に発表
【出願人】(000201504)前田製管株式会社 (35)
【Fターム(参考)】