説明

果肉変色抑制バナナの製造方法

【課題】 皮を剥いた後において長期間に亘り果肉の変色を抑制することができることで、加工食品などへの利用にあたり、商品価値に優れた果肉変色抑制バナナを製造することができる果肉変色抑制バナナの製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 皮を剥いていない状態でバナナの果柄および/または花柱側先端部を果肉変色抑制液に浸漬する工程を有する。本発明によれば、果肉の食味や食感、風味を損なうことなく、皮を剥いた後の果肉の変色を抑制できるとともに、皮を剥いた後において長期間に亘って果肉の変色を抑制することができ、商品価値に優れた果肉変色抑制バナナを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果肉変色抑制バナナの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な環境下においては、バナナの果肉は皮を剥いた直後から変色がはじまる。この変色は時間の経過とともに進行し、その色合いが褐色から黒色へと次第に濃くなる。この変色の一因は、皮を剥くことにより果肉表面の細胞が破れ、細胞内に分かれて存在しているポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼとが酸素の存在下で接触し、その結果、ポリフェノールが酸化されてキノン体が生じ、このキノン体が重合や縮合などを経て黒色の色素となるためである。
【0003】
変色したバナナの果肉は、変色しないものと比較して風味や見た目の点で劣り、商品価値も劣るため、加工食品などへの利用にあたって、果肉の変色を抑制する方法が研究開発されている。例えば、特開2002−315509号公報には、還元剤とポリフェノールオキシダーゼ阻害剤とを添加したクリームにバナナの果肉を包埋する方法(特許文献1)が、特開平7−289163号公報には、ポリフェノールオキシダーゼ阻害剤と可食性フィルムコーティング剤とを含有する処理液にバナナの果肉を浸漬する方法(特許文献2)が、特開平7−123915号公報には、麹酸と有機酸塩とを含む処理液にバナナの果肉を浸漬する方法(特許文献3)が、特開平6−284861号公報には、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウムおよびL−アスコルビン酸ナトリウムを含む処理液にバナナの果肉を浸漬する方法(特許文献4)が、それぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−315509号公報
【特許文献2】特開平7−289163号公報
【特許文献3】特開平7−123915号公報
【特許文献4】特開平6−284861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法は、クリームを使用しない場合のバナナの果肉には用いることができず、特許文献2〜特許文献4に開示された方法は、いずれも皮を剥いた後にバナナの果肉を処理液に浸漬する方法であり、果肉の濡れに起因する食味や風味の劣化、微生物汚染の機会増大などの虞がある他、大量の果肉を浸漬処理する場合は果肉同士が擦れ合いなどを起こしてその部分が変色し、十分な変色抑制効果が得られないなどの問題がある。
【0006】
本発明は、皮を剥いた後において長期間に亘り果肉の変色を抑制することができることで、加工食品などへの利用にあたり、商品価値に優れた果肉変色抑制バナナを製造することができる果肉変色抑制バナナの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究の結果、バナナの果柄および花柱側先端部の少なくともいずれか一方を、皮を剥いていない状態で果肉変色抑制液に浸漬することにより、果肉の食味や食感、風味を損なうことなく、皮を剥いた後の果肉の変色を抑制できることを見出し、下記の各発明を完成した。
【0008】
(1)皮を剥いていない状態でバナナの果柄および/または花柱側先端部を果肉変色抑制液に浸漬する工程を有する、果肉変色抑制バナナの製造方法。
【0009】
(2)果柄が、褐変部分が除去された果柄である、(1)に記載の果肉変色抑制バナナの製造方法。
【0010】
(3)果柄が、5mm以上となるようにその端部が切除された果柄である、(1)に記載の果肉変色抑制バナナの製造方法。
【0011】
(4)果柄が、切れ込みが形成された果柄である、(1)から(3)のいずれかに記載の果肉変色抑制バナナの製造方法。
【0012】
(5)果肉変色抑制液に浸漬する工程が、12℃より高温の大気温下で果肉変色抑制液に浸漬する工程である、(1)から(4)のいずれかに記載の果肉変色抑制バナナの製造方法。
【0013】
(6)果肉変色抑制液に浸漬する工程が、果肉変色抑制液に9時間より長時間浸漬する工程である、(1)から(5)のいずれかに記載の果肉変色抑制バナナの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、果肉の食味や食感、風味を損なうことなく、皮を剥いた後の果肉の変色を抑制できるとともに、皮を剥いた後において長期間に亘って果肉の変色を抑制することができ、商品価値に優れた果肉変色抑制バナナを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】房の統括部分、皮の内側に果肉を含む膨大部、果柄および花柱側先端部を示す図である。
【図2】果柄の端部を切除する様子を示す図である。
【図3】端部を切除した果柄を示す図である。
【図4】果柄の褐変部分を切除する様子を示す図である。
【図5】果柄を果肉変色抑制液に浸漬する様子を示す図である。上図中、矢印で示す線より下部の果柄を果肉変色抑制液に浸漬する。
【図6】果柄を果肉変色抑制液に浸漬した後、皮を剥いて静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【図7】果柄を果肉変色抑制液に浸漬した後2日間保管し、その後皮を剥いて静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【図8】果柄を果肉変色抑制液に浸漬した後3日間保管し、その後、皮を剥いて静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【図9】果柄を果肉変色抑制液に浸漬した後4日間保管し、その後、皮を剥いて静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【図10】皮を剥いて果肉全体を果肉変色抑制液に浸漬する様子、皮を剥いていない状態でその全体またはその花柱側先端部を果肉変色抑制液に浸漬する様子を示す図である。
【図11】皮を剥いて果肉全体を果肉変色抑制液に浸漬した後に静置したもの、皮を剥いていない状態でその全体を果肉変色抑制液に浸漬した後に皮を剥いて静置したもの、および皮を剥いていない状態でその花柱側先端部を果肉変色抑制液に浸漬した後に皮を剥いて静置したものを観察した結果を示す図である。
【図12】左図は、褐変部分が存在する果柄を示す図である。右図は、褐変部分が存在する果柄を果肉変色抑制液に浸漬した後、皮を剥いて静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【図13】左図は、房ごと果柄を果肉変色抑制液に浸漬する様子を示す図である。右図は、房ごと果柄を果肉変色抑制液に浸漬した後、皮を剥いて静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【図14】房からもぎ取ったままの果柄(バナナA)、果柄が約5mmとなるようにその端部をナイフで切除した果柄(バナナB)、果柄が約1cmとなるようにその端部をナイフで切除した後、果柄に針を用いて穴を空けた果柄(バナナC)、果柄が約2cmとなるようにその端部をナイフで切除した後、その長手方向に略垂直となるように切り込みを1本入れた果柄(バナナD)、果柄が約2cmとなるようにその端部をナイフで切除した後、その長手方向に果肉に到達する程度に切り込みを1本入れた果柄(バナナE)を示す図である。
【図15】房からもぎ取ったままの果柄(バナナA)、果柄が約5mmとなるようにその端部をナイフで切除した果柄(バナナB)または果柄が約1cmとなるようにその端部をナイフで切除した後、果柄に針を用いて穴を空けた果柄(バナナC)を果肉変色抑制液に浸漬した後、皮を剥いて静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【図16】果柄が約2cmとなるようにその端部をナイフで切除した後、その長手方向に略垂直となるように切り込みを1本入れた果柄(バナナD)または果柄が約2cmとなるようにその端部をナイフで切除した後、その長手方向に果肉に到達する程度に切り込みを1本入れた果柄(バナナE)を果肉変色抑制液に浸漬して静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【図17】室温を8℃、12℃または13℃として果柄を果肉変色抑制液に浸漬した後、皮を剥いて静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【図18】室温を14℃または15℃として果柄を果肉変色抑制液に浸漬した後、皮を剥いて静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【図19】浸漬時間を8時間、9時間または10時間として果柄を果肉変色抑制液に浸漬した後、皮を剥いて静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【図20】浸漬時間を11時間、12時間または13時間として果柄を果肉変色抑制液に浸漬した後、皮を剥いて静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【図21】浸漬時間を14時間、16時間または17時間として果柄を果肉変色抑制液に浸漬した後、皮を剥いて静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【図22】浸漬時間を18時間、19時間または20時間として果柄を果肉変色抑制液に浸漬した後、皮を剥いて静置し、果肉を観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る果肉変色抑制バナナの製造方法について詳細に説明する。本発明に係る果肉変色抑制バナナの製造方法は、皮を剥いていない状態でバナナの果柄および/または花柱側先端部を果肉変色抑制液に浸漬する工程を有する。
【0017】
本発明において果柄とは、皮を剥いていない状態のバナナにおいて、房の統括部分から、皮の内側に果肉を含む膨大部までの、内側に果肉を含まない軸状の部分のことをいう。また、花柱側先端部とは、皮を剥いていない状態のバナナにおいて、果柄と反対側の先端部のことをいう。房の統括部分、皮の内側に果肉を含む膨大部、果柄および花柱側先端部を図1に示す。また、果肉とは、バナナの皮を剥いた時に露出する通常食用とする部分のことをいう。果肉の表面に付着した白色の繊維状のものは維管束であり、本発明において果肉は維管束を含める場合がある。なお、果柄側先端部果肉とは、果肉の端部のうち皮を剥いていない状態では果柄の側に位置する端部のことをいい、花柱側先端部果肉とは、果肉の端部のうち皮を剥いていない状態では花柱側先端部の側に位置する端部のことをいう。
【0018】
本発明において「果肉変色」、「果肉の変色」は、それぞれ「果肉褐変」、「果肉の褐変」と交換可能に用いられる。また、本発明において果肉の変色とは、果肉が白色でない色を呈することをいう。変色した果肉の色合いは、褐色に限らず、黒色、焦茶色、茶褐色、黄褐色、栗色、赤茶色、紅褐色、土色、チョコレート色などを呈する場合がある。また、本発明において果肉の軟化とは、果肉が透明化して柔らかくなることや溶けることをいい、滲出液とは、果肉の組織や細胞の内部に保持されていた水分が、果肉の組織の外へ浸み出した液体のことをいう。
【0019】
本発明において果肉変色抑制液は、野菜や果物の変色防止や鮮度保持に通常用いられる液体を適宜調製または購入して用いることができる。そのような液体のうち、購入可能なものとしては、例えば、シグマ塩水(シグマ社)、AP220(奥野製薬工業社)、フルーツ小町S(奥野製薬工業社)、上記特許文献2〜4においてそれぞれ開示された処理液、ニューカセン(農化研社)、食塩水、レモン果汁などを挙げることができる。
【0020】
また、果肉変色抑制液には、果肉変色抑制効果を損なわない限り、各種の物質を適宜含有することができる。含有する物質としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどのナトリウム塩、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、臭化マグネシウムなどのマグネシウム塩、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムなどのカルシウム塩、硫酸カリウム、塩化カリウムなどのカリウム塩、その他の無機塩類、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオンなどの金属イオン、アスコルビン酸やアスコルビン酸塩、麹酸、フェルラ酸、クマリン酸、システイン、L−システイン塩酸塩、グルタチオン、α−ルチン、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、フィチン酸、クルクミン、カテキン類含有エキス、ポリゴジアール含有エキス、プロアントシアニジン含有エキス、ポリリジン、アリルイソチオシアネートなどのポリフェノールオキシダーゼ阻害剤、エリソルビン酸ナトリウムなどの酸化防止剤、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸塩、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、コハク酸、フマル酸、乳酸、酢酸などの有機酸やその塩類などのpH調製剤、ケイ皮酸、バニリンなどの香料、グリセリン脂肪酸エステル、エタノールなどの抗菌剤、トレハロースなどの糖類、ミョウバンなどを挙げることができる。なお、本実施例においては、塩化ナトリウムとマグネシウムイオンを含有する果肉変色抑制液を好適な果肉変色抑制液として用いている。
【0021】
本発明においてバナナを果肉変色抑制液に浸漬する方法としては、皮を剥いていない状態のバナナの果柄および花柱側先端部のいずれか一方を浸漬する方法を用いてもよく、果柄および花柱側先端部のいずれも浸漬する方法を用いてもよい。また、予め房から1本ずつもぎ取ったバナナを果肉変色抑制液に浸漬してもよく、もぎ取らずにバナナを房ごと果肉変色抑制液に浸漬してもよい。
【0022】
果柄および花柱側先端部のいずれも浸漬する方法は、例えば、バナナ全体を浸漬することにより簡便に行うことができる。また、果柄または花柱側先端部のどちらか一方を浸漬する方法は、バナナ全体を浸漬する方法と比較して、果肉変色抑制液の使用量が少量で済み、さらに、皮に付着した細菌や汚れなどが果肉変色抑制液へほとんど混入しないため、果肉変色抑制液の劣化を遅らせることができる。
【0023】
また、花柱側先端部と比較して、果柄は付着している細菌は少数であり、汚れも少量であることから、果柄のみを浸漬する方法は、花柱側先端部のみを浸漬する方法と比較して、果肉変色抑制液の劣化を遅らせることができる。
【0024】
果柄に褐変部分が存在する場合、果肉が露出しない範囲で褐変部分を除去してから果肉変色抑制液に浸漬することが好ましい。果柄に存在する褐変部分は組織が枯死しているか、または枯死に近い状態であることから、褐変していない部分と比較して付着している細菌は多数であり、また、果肉変色抑制液の吸収力も低下する傾向にある。よって、褐変部分を除去することにより果肉変色抑制液の劣化を遅らせることができ、また、果肉変色抑制液の吸収効率を高めることができる。なお、本発明において果柄に存在する褐変部分とは、果柄において、黄色または緑色でない色を呈した部分のことをいう。果柄に存在する褐変部分の色合いは、褐色に限らず、黒色、焦茶色、茶褐色、黄褐色、栗色、赤茶色、紅褐色、土色、チョコレート色などを呈する場合がある。また、本発明において褐変部分が除去された果柄とは、褐変部分が完全に取り除かれた果柄のみならず、褐変部分がある程度取り除かれたものの、若干残存している果柄も含まれる。
【0025】
また、果柄は、穿孔、切れ込みまたはその端部を切除するなどしてから果肉変色抑制液に浸漬することが好ましい。これらの処理により、穿孔部、切れ込み形成部または切除された果柄端部から吸収された果肉変色抑制液が、皮の内側に果肉を含む膨大部へ速やかに到達することができることから、果肉変色抑制液への短時間の浸漬で果肉変色抑制効果を得ることができる。なお、穿孔、切れ込みまたは端部切除などの果柄への処理は、適宜組み合わせることができる他、類似の処理を代替して行うこともできる。
【0026】
果柄の端部を切除する場合、切除後の果柄の長さは、果肉が露出しない程度とするのが好ましく、3mm以上とするのがより好ましく、5mm以上とするのがさらに好ましく、1cm程度とするのがもっとも好ましい。また、切れ込みの方向、長さおよび切れ込みを形成する部位は特に限定されないが、いずれも果肉が露出しない方向、長さおよび部位とすることが好ましい。この点、例えば、切れ込みを果柄の長手方向に略垂直に形成する場合は、切れ込みを果柄の長手方向に形成する場合と比較して、切れ込みが開裂して果肉が露出する虞が小さいことから、切れ込みを形成する方向は長手方向に略垂直に近い方向とすることが好ましい。また、切れ込みの本数も特に限定されず、果肉が露出しない範囲で1または2以上の本数の切れ込みを形成することができる。
【0027】
本発明において、バナナを果肉変色抑制液に浸漬する気温Tは12℃<Tであることが好ましく、浸漬する時間Hは9時間<Hであることが好ましい。
【0028】
本発明の果肉変色抑制バナナの製造方法において、バナナの殺菌処理は行ってもよく、行わなくてもよい。殺菌処理を行う場合は適宜常法に従い行うことができ、例えば、ピュアスター(森永エンジニアリング社)を用いて製造したピュアスター水に浸漬する方法や、次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬する方法、消毒用エタノールを噴霧する方法などを用いて行うことができる。バナナの殺菌処理は果肉変色抑制液に浸漬する前後いずれかにおいて、または前後いずれにおいても行うことができるが、果肉変色抑制液に浸漬する前に行った場合は、果肉変色抑制液の劣化を遅らせることができる。
【0029】
以下、本発明に係る果肉変色抑制バナナの製造方法について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0030】
<実施例1>果肉変色抑制バナナの製造
(1)殺菌処理
追熟加工が完了したバナナ(ユニオン社)の房から1本ずつ合計8本のバナナをもぎ取った。もぎ取ったバナナを、ピュアスター(森永エンジニアリング社)を用いて製造したピュアスター水(有効塩素濃度約20ppm、pH6〜7)に室温20℃で10分間浸漬することにより殺菌処理を行った後、ブロアーを用いてバナナ表面のピュアスター水を乾燥させた。
【0031】
(2)果肉変色抑制液への浸漬
果柄が約1cmとなるように、ナイフを用いて本実施例(1)のバナナの果柄の端部を切除した。果柄の端部を切除する様子を図2に、端部を切除した果柄を図3にそれぞれ示す。またこの際、果柄に褐変部分が存在する場合は、果肉が露出しない範囲で果柄の褐変部分を切除した。果柄の褐変部分を切除する様子を図4に示す。次に、果肉変色抑制液(シグマ塩水;シグマ社)を深さ約1cmとなるよう容器に注いだ。果柄を下にした状態で4本のバナナをこの容器に入れ、室温20℃で15時間、果柄を果肉変色抑制液に浸漬した。残りの4本のバナナを取り分け、果肉変色抑制液に浸漬せずに室温20℃で15時間保管し、コントロールとした。シグマ社の公開資料より引用したシグマ塩水の組成(社団法人日本食品分析センター分析試験成績書)を表1に、果柄を果肉変色抑制液に浸漬する様子を図5にそれぞれ示す。
【0032】
【表1】

【0033】
(3)果肉変色抑制液浸漬後の殺菌処理
本実施例(1)に記載の方法により、本実施例(2)のバナナについて、再度殺菌処理を行った。
【0034】
<実施例2>果肉変色抑制効果の確認
果柄を果肉変色抑制液に浸漬して得られた果肉変色抑制バナナ1本とコントロールのバナナ1本、合計2本を一つの群として、実施例1(3)のバナナをA群、B群、C群およびD群の4つの群に分けた。A群は実施例1(3)の殺菌処理後、皮を剥いて室温20℃で72時間静置した。B群、C群およびD群は、実施例1(3)の殺菌処理後、室温20℃でそれぞれ2日間、3日間および4日間保管した後に、皮を剥いて室温20℃で72時間静置した。静置している間、目視によりA群、B群、C群およびD群の果肉の状態を観察した。静置開始時、2時間後、4時間後、6時間後、10時間後、24時間後、48時間後および72時間後のA群、B群、C群およびD群の観察結果を、それぞれ図6〜図9に示す。
【0035】
図6に示すように、A群の果肉変色抑制バナナでは、静置開始時と比較して2時間後も変化はみられず、4時間後および6時間後には維管束の一部にわずかな褐変が観察された。10時間後、24時間後および48時間後には維管束および果柄側先端部果肉の打撲部位に褐変が観察された。72時間後には、維管束、果柄側先端部果肉および花柱側先端部果肉に褐変が観察され、また、果柄側先端部果肉および花柱側先端部果肉にわずかな軟化が観察された。
【0036】
一方、図6に示すように、A群のコントロールのバナナでは、静置開始から2時間後には果肉全体に褐変が観察され、4時間後および6時間後には維管束および打撲部位に褐変が観察され、また、果柄側先端部果肉に軟化が観察された。10時間後には維管束、果柄側先端部果肉および花柱側先端部果肉に褐変が観察されるとともに、果柄側先端部果肉に軟化が観察された。24時間後には維管束、果柄側先端部果肉および花柱側先端部果肉に褐変が観察されるとともに、果肉全体に軟化が観察され、さらに、果肉の容器への接地部分に滲出液が観察された。48時間後には果肉全体に褐変が観察されるとともに、果肉全体に軟化が観察され、さらに、果肉の容器への接地部分に滲出液が観察された。72時間後には果肉全体に褐変が観察されるとともに、果肉全体に軟化が観察され、さらに、果肉全体に滲出液が観察された。
【0037】
また、図7に示すように、B群の果肉変色抑制バナナでは、静置開始時と比較して、静置開始から2時間後、4時間後および6時間後も変化はみられず、10時間後に、花柱側先端部果肉にわずかな褐変が観察された。24時間後には花柱側先端部果肉および維管束にわずかな褐変が観察され、48時間後には花柱側先端部果肉、維管束および果柄側先端部果肉に褐変が観察されるとともに、果肉の容器への接地部分にわずかな滲出液が観察された。72時間後には、花柱側先端部果肉、維管束、果柄側先端部果肉および打撲部位に褐変が観察されるとともに、果柄側先端部果肉および花柱側先端部果肉にわずかな軟化が観察され、さらに、果柄側先端部果肉にわずかな滲出液が観察された。
【0038】
一方、図7に示すように、B群のコントロールのバナナでは、静置開始時と比較して、静置開始から2時間後も変化はみられず、4時間後および6時間後に、花柱側先端部果肉に褐変が観察された。10時間後には花柱側先端部果肉および果肉全体に褐変が観察されるとともに、果肉全体にわずかな軟化が観察された。24時間後には花柱側先端部果肉および果肉全体に褐変が観察されるとともに、果肉全体に軟化が観察され、さらに、果肉全体にわずかな滲出液が観察された。48時間後には花柱側先端部果肉、果肉全体および果柄側先端部果肉に褐変が観察されるとともに、果肉全体に軟化が観察された。軟化は果肉の容器への接地部分において著しく、さらに、この部分に滲出液が観察された。72時間後には花柱側先端部果肉、果肉全体および果柄側先端部果肉に進行した褐変が観察されるとともに、花柱側先端部果肉および果柄側先端部果肉に軟化が観察され、さらに、果肉全体に滲出液が観察された。
【0039】
また、図8に示すように、C群の果肉変色抑制バナナでは、静置開始時と比較して、静置開始から2時間後、4時間後、6時間後、10時間後および24時間後も変化はみられなかった。48時間後に、果柄側先端部果肉にわずかな褐変が観察されるとともに、果柄側先端部果肉および果肉の容器への接地部分にわずかな軟化が観察された。72時間後には、果柄側先端部果肉および花柱側先端部果肉に褐変が観察されるとともに、果柄側先端部果肉にわずかな軟化が観察され、さらに、果肉の容器への接地部分に滲出液が観察された。
【0040】
一方、図8に示すように、C群のコントロールのバナナでは、静置開始時と比較して、静置開始から2時間後も変化はみられず、4時間後に、維管束および果柄側先端部果肉に褐変が観察された。6時間後には維管束、果柄側先端部果肉および花柱側先端部果肉に褐変が観察されるとともに、果柄側先端部果肉に軟化が観察され、さらに、果肉の容器への接地部分に滲出液が観察された。10時間後および24時間後には、維管束、果柄側先端部果肉および花柱側先端部果肉に褐変が観察されるとともに、果柄側先端部果肉および果肉の容器への接地部分に軟化が観察され、さらに、果肉の容器への接地部分に滲出液が観察された。48時間後には、維管束、果柄側先端部果肉および花柱側先端部果肉に褐変が観察されるとともに、果柄側先端部果肉および果肉の容器への接地部分に軟化が観察され、さらに、果肉全体に滲出液が観察された。72時間後には維管束、果柄側先端部果肉、花柱側先端部果肉および果肉全体に褐変が観察されるとともに、果柄側先端部果肉および花柱側先端部果肉に軟化が観察され、さらに、果肉の容器への接地部分に滲出液が観察された。
【0041】
また、図9に示すように、D群の果肉変色抑制バナナでは、静置開始時と比較して、静置開始から2時間後、4時間後、6時間後および10時間後も変化はみられなかった。24時間後に、果肉の容器への接地部分にわずかな滲出液が観察され、48時間後には、花柱側先端部の維管束にわずかな褐変が観察されるとともに、果肉の容器への接地部分に滲出液が観察された。72時間後には、花柱側先端部の維管束、果柄側先端部果肉および花柱側先端部果肉に褐変が観察されるとともに、花柱側先端部果肉にわずかな軟化が観察され、さらに、果肉の容器への接地部分に滲出液が観察された。
【0042】
一方、図9に示すように、D群のコントロールのバナナでは、静置開始から2時間後には打撲部位に褐変が観察され、4時間後には打撲部位および花柱側先端部果肉に褐変が観察された。6時間後には打撲部位、花柱側先端部果肉および果柄側先端部果肉に褐変が観察されるとともに、果柄側先端部果肉に軟化が観察された。10時間後には打撲部位、花柱側先端部果肉および果柄側先端部果肉に褐変が観察されるとともに、果柄側先端部果肉に軟化が観察され、さらに果柄側先端部果肉に滲出液が観察された。24時間後、48時間後および72時間後には、打撲部位、花柱側先端部果肉、果柄側先端部果肉および果肉全体に褐変が観察されるとともに、果肉全体に軟化が観察され、さらに、果肉の容器への接地部分に滲出液が観察された。
【0043】
これらの結果から、果柄を果肉変色抑制液に浸漬して得られる果肉変色抑制バナナでは、コントロールのバナナと比較して、皮を剥いた後の果肉の変色、果肉の軟化および滲出液の浸み出しが抑制されることが示された。また、その抑制効果は、果肉変色抑制液に適当な条件下で一定の時間浸漬し、2日間、3日間または4日間経過した後に皮を剥いた場合でも、有効であることが示された。
【0044】
<実施例3>果肉変色抑制効果の確認(皮を剥いて果肉全体を浸漬した場合/皮を剥いていない状態でバナナ全体を浸漬した場合/皮を剥いていない状態で花柱側先端部を浸漬した場合)
追熟加工が完了したバナナ(ユニオン社)の房から1本ずつ合計3本のバナナをもぎ取り、実施例1(1)に記載の方法により殺菌処理を行った後、そのうち1本の皮を剥いた。続いて、皮を剥いたバナナはその果肉全体を、残りの2本のうち、1本のバナナは皮を剥いていない状態でその全体を、他の1本のバナナは皮を剥いていない状態でその花柱側先端部を、それぞれ室温20℃で15時間、果肉変色抑制液に浸漬した。それぞれ、果肉変色抑制液に浸漬する様子を図10に示す。次に、3本のうち皮を剥いていない状態の2本のバナナについて、実施例1(1)に記載の方法により再度殺菌処理を行った後、皮を剥いた。続いて、皮を剥いて果肉全体を果肉変色抑制液に浸漬したバナナについては2日間、皮を剥いていない状態でその全体またはその花柱側先端部を果肉変色抑制液に浸漬したバナナについては4日間、それぞれ室温20℃で静置し、目視により果肉の状態を観察した。皮を剥いて果肉全体を果肉変色抑制液に浸漬したバナナについては、静置開始時、静置開始から1日後および2日後の観察結果を、皮を剥いていない状態でその全体またはその花柱側先端部を果肉変色抑制液に浸漬したバナナについては、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後の観察結果を、それぞれ図11に示す。
【0045】
図11に示すように、皮を剥いて果肉全体を果肉変色抑制液に浸漬したバナナでは、静置開始時には果肉全体の表面が溶けたようなヌルヌルが観察された。静置開始から1日後には果肉全体に褐変が観察されるとともに、果肉全体に軟化が観察され、さらに、酸味を帯びた臭気が感じられた。2日後には果肉全体に進行した褐変が観察され、また、果肉全体に進行した軟化が観察され、さらに、異臭が感じられた。これらの結果から、皮を剥いて果肉全体を果肉変色抑制液に浸漬したバナナでは、その浸漬直後から果肉の軟化が進行し、また、果肉の変色も抑制されないことが示された。
【0046】
また、図11に示すように、皮を剥いていない状態でバナナ全体を果肉変色抑制液に浸漬したバナナでは、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に維管束にわずかな褐変が観察されたが、果肉には褐変や軟化などは観察されなかった。これらの結果から、皮を剥いていない状態でその全体を果肉変色抑制液に浸漬したバナナ、すなわち皮を剥いていない状態でバナナの果柄および花柱側先端部を果肉変色抑制液に浸漬したバナナでは、皮を剥いた後の果肉の変色や軟化などが抑制されることが示された。
【0047】
さらに、図11に示すように、皮を剥いていない状態でその花柱側先端部を果肉変色抑制液に浸漬したバナナでは、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に、果肉に褐変や軟化などは観察されなかった。これらの結果から、皮を剥いていない状態でその花柱側先端部を果肉変色抑制液に浸漬したバナナでは、皮を剥いた後の果肉の変色や軟化などが抑制されることが示された。
【0048】
<実施例4>果肉変色抑制バナナの細菌検査
皮を剥いていない状態で果柄を果肉変色抑制液に浸漬したバナナ、皮を剥いていない状態でその全体を果肉変色抑制液に浸漬したバナナおよび皮を剥いていない状態でその花柱側先端部を浸漬したバナナの、それぞれの果肉について、ペトリフィルム培地CCプレート(住友スリーエム社)およびペトリフィルム培地ACプレート(住友スリーエム社)を用いて、添付の使用書に従い、大腸菌群および一般細菌の生菌数の測定を行った。
【0049】
具体的には、実施例1(1)〜(3)に記載の方法により皮を剥いていない状態で果柄を果肉変色抑制液に浸漬したバナナ、実施例3に記載の方法により皮を剥いていない状態でその全体を果肉変色抑制液に浸漬したバナナおよび実施例3に記載の方法により皮を剥いていない状態でその花柱側先端部を浸漬したバナナの、それぞれの皮を剥き、ピンセットを用いて果肉を5gずつ採取した。採取した果肉をそれぞれフィルター/ストッパー付きサンプルバッグ(ストマフィルターECO;GSIクレオス社)に入れ、袋の上から潰した。続いて、45mLの生理食塩水を添加してよく混合した後、スポイトを用いて濾液を1mLずつ採取し、ペトリフィルム培地CCプレート(住友スリーエム社)のフィルムをめくり、採取した濾液をその中央に滴下した。再度、スポイトを用いてそれぞれの濾液を1mLずつ採取し、9mLの滅菌水と合わせて希釈した後、ペトリフィルム培地ACプレート(住友スリーエム社)のフィルムをめくり、希釈した濾液のうち1mLをその中央に滴下した。気泡が入らないようにそれぞれのプレートのフィルムをゆっくりと閉じて封入した後、添付のスプレッダーを用いて均一に広がるよう上から軽く抑え、ゲル化されるまで約1分間待った後、35℃の保温庫に入れて、CCプレートについては24時間、ACプレートについては48時間培養した。その後、保温庫から取り出し、コロニーの数を数えた。その結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示すように、皮を剥いていない状態で果柄を果肉変色抑制液に浸漬したバナナ、皮を剥いていない状態でその全体を果肉変色抑制液に浸漬したバナナおよび皮を剥いていない状態でその花柱側先端部を浸漬したバナナのいずれの果肉においても大腸菌は検出されず、また、いずれの果肉においても一般細菌の生菌数は1.0×10 cfu/gであった。
【0052】
これらの結果から、皮を剥いていない状態で果柄を果肉変色抑制液に浸漬したバナナ、皮を剥いていない状態でその全体を果肉変色抑制液に浸漬したバナナおよび皮を剥いていない状態でその花柱側先端部を浸漬したバナナの、いずれの果肉も食品として適格であることが示された。
【0053】
<実施例5>果肉変色抑制効果の確認(褐変部分が存在する果柄を浸漬した場合)
追熟加工が完了したバナナ(ユニオン社)の房から、果柄に褐変部分が存在するバナナを1本もぎ取り、実施例1(1)に記載の方法により殺菌処理を行った後、実施例1(2)に記載の方法により果肉変色抑制に浸漬した。ただし、バナナの果柄に存在する褐変部分の除去は行わなかった。このバナナの果柄を図12の左図に示す。続いて、実施例1(1)に記載の方法により、再度殺菌処理を行った後、バナナの皮を剥き、室温20℃で4日間静置し、目視により果肉の状態を観察した。静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後の観察結果を図12の右図にそれぞれ示す。
【0054】
図12の右図それぞれに示すように、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に、果柄側先端部果肉に褐変が観察されたが、果柄側先端部以外の果肉には、褐変や軟化などは観察されなかった。また、静置開始から1日後に観察された果柄側先端部果肉の褐変は、2日後、3日後および4日後においても同程度であり、褐変の進行は観察されなかった。
【0055】
これらの結果から、皮を剥いていない状態で褐変部分が存在する果柄を果肉変色抑制液に浸漬したバナナでは、皮を剥いた後の果肉の変色や軟化などが抑制されることが示された。ただし、褐変部分が存在するバナナをそのまま果肉変色抑制液に浸漬し、これを繰り返す場合、果肉変色抑制液の劣化が顕著であることが発明者により明らかとされている。
【0056】
<実施例6>果肉変色抑制効果の確認(様々な形態の果柄を浸漬した場合)
(1)房ごと果柄を浸漬した場合
追熟が完了したバナナ(ユニオン社)の房からバナナをもぎ取らずに、実施例1(1)に記載の方法により房ごと殺菌処理を行った。続いて、果肉変色抑制液が注がれた容器に房ごと果柄を下にして入れ、室温20℃で15時間、果柄を果肉変色抑制液に浸漬した。房ごと果柄を果肉変色抑制液に浸漬する様子を図13の左図に示す。その後、実施例1(1)に記載の方法により再度殺菌処理を行った。続いて、房からバナナを1本もぎ取って皮を剥き、室温20℃で4日間静置し、目視により果肉の状態を観察した。静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後の観察結果を図13の右図にそれぞれ示す。
【0057】
図13の右図それぞれに示すように、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に、維管束の一部にわずかな褐変が観察されたが、果肉に変色や軟化などは観察されなかった。これらの結果から、皮を剥いていない状態で房ごと果柄を果肉変色抑制液に浸漬したバナナでは、皮を剥いた後の果肉の変色や軟化などが抑制されることが示された。
【0058】
(2)様々な形態に切除などを行った果柄を浸漬した場合
追熟が完了したバナナ(ユニオン社)の房から、1本ずつ合計5本のバナナをもぎ取り、それぞれ、バナナA、バナナB、バナナC、バナナDおよびバナナEとした。これらのバナナA〜Eについて、実施例1(1)に記載の方法により殺菌処理を行った後、果柄を次のように処理した。
【0059】
バナナA;無処理(房からもぎ取ったままの状態)
バナナB;果柄が約5mmとなるようにその端部をナイフで切除した。
バナナC;果柄が約1cmとなるようにその端部をナイフで切除した後、果柄に針を用いて穴を空けた。
バナナD;果柄が約2cmとなるようにその端部をナイフで切除した後、その長手方向に略垂直となるように切り込みを1本入れた。
バナナE;果柄が約2cmとなるようにその端部をナイフで切除した後、その長手方向に果肉に到達する程度に切り込みを1本入れた。
【0060】
上記の処理を行ったバナナA〜Eの果柄を図14に示す。実施例1(2)に記載の方法によりバナナA〜Eの果柄を果肉変色抑制液に浸漬した後、実施例1(1)に記載の方法により、再度殺菌処理を行った。続いて、皮を剥いて室温20℃で4日間静置し、目視により果肉の状態を観察した。静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後の観察結果を、バナナA〜Cについては図15に、バナナDおよびEについては図16にそれぞれ示す。
【0061】
図15に示すように、バナナAでは、静置開始から1日後および2日後には維管束の一部にわずかな褐変が観察され、3日後および4日後には維管束に進行した褐変が観察されたが、果肉に変色や軟化などは観察されなかった。また、バナナBおよびバナナCでは、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に果柄側先端部果肉にわずかな褐変が観察されたが、その部分以外の果肉に変色や軟化などは観察されなかった。静置開始から1日後に観察された果柄側先端部果肉の褐変は、2日、3日および4日後においても同程度であり、褐変の進行は観察されなかった。また、図16に示すように、バナナDでは、静置開始から1日後には果肉に褐変や軟化などは観察されず、2日後、3日後および4日後には、維管束の一部にわずかな褐変が観察されたが、果肉に褐変や軟化などは観察されなかった。2日後に観察されたこの維管束の褐変は3日および4日後においても同程度であり、褐変の進行は観察されなかった。バナナEでは、静置開始から1日後には果柄側先端部果肉に褐変が観察されるとともに、果柄側先端部果肉に軟化が観察された。2日後、3日後および4日後には、果柄側先端部果肉に進行した褐変が観察されるとともに、果柄側先端部果肉に進行した軟化が観察された。
【0062】
これらの結果から、房からもぎ取ったままの状態の無処理の果柄、約5mmとなるようにその端部を切除した果柄、約1cmとなるように端部を切除した後、穴を空けた果柄または約2cmとなるように端部を切除した後、その長手方向に略垂直となるように切り込みを1本入れた果柄を果肉変色抑制液に浸漬した、それぞれのバナナでは、皮を剥いた後の果肉の変色や軟化などが抑制されることが示された。一方、果柄が約2cmとなるように端部を切除した後、その長手方向に果肉に到達する程度に切り込みを1本入れた果柄を果肉変色抑制液に浸漬したバナナでは、果肉変色抑制液およびピュアスター水に接触した果柄側先端部果肉が褐変し、軟化することが示された。
【0063】
<実施例7>果肉変色抑制効果の確認(浸漬温度の検討)
追熟が完了したバナナ(ユニオン社)の房から、1本ずつ合計5本のバナナをもぎ取り、実施例1(1)に記載の方法により殺菌処理を行った。続いて、実施例1(2)に記載の方法により果肉変色抑制液に浸漬した。ただし、果柄を果肉変色抑制液に浸漬する際、室温を20℃に代えて8℃、12℃、13℃、14℃および15℃とした。その後実施例1(1)に記載の方法により、再度殺菌処理を行った後、皮を剥いて室温20℃で4日間静置し、目視により果肉の状態を観察した。静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後の結果を、浸漬温度(室温)8℃、12℃および13℃の場合については図17に、浸漬温度(室温)14℃および15℃の場合については図18にそれぞれ示す。
【0064】
図17に示すように、浸漬温度(室温)8℃の場合は、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に、果肉全体に褐変が観察された。静置開始から1日後に観察されたこの褐変は、2日、3日および4日後においても同程度であり、褐変の進行は観察されなかった。浸漬温度(室温)12℃の場合は、静置開始から1日後には維管束に褐変が観察され、2日後、3日後および4日後には果柄側先端部果肉および果肉全体に褐変が観察された。浸漬温度(室温)13℃の場合は、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に、果肉に褐変や軟化などは観察されなかった。また、図18に示すように、浸漬温度(室温)14℃の場合および15℃の場合はいずれも、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に、果肉に褐変や軟化などは観察されなかった。
【0065】
これらの結果から、室温13℃〜15℃で果柄を果肉変色抑制液に浸漬したバナナでは、皮を剥いた後の果肉の変色が抑制されることが確認された。一方、室温8℃または12℃で果柄を果肉変色抑制液に浸漬したバナナでは、果肉の変色が抑制されにくいことが確認された。
【0066】
<実施例8>果肉変色抑制効果の確認(浸漬時間についての検討)
追熟が完了したバナナ(ユニオン社)の房から、1本ずつ合計13本のバナナをもぎ取り、実施例1(1)に記載の方法により殺菌処理を行った。続いて、実施例1(2)に記載の方法により果肉変色抑制液に浸漬した。ただし、果柄を果肉変色抑制液に浸漬する時間を15時間に代えて、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間とした。その後、それぞれの時間浸漬したバナナについて、実施例1(1)に記載の方法により再度殺菌処理を行った後、皮を剥いて室温20℃で4日間静置し、目視により果肉の状態を観察した。静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後の結果を、浸漬時間8時間、9時間および10時間の場合については図19に、浸漬時間11時間、12時間および13時間の場合については図20に、浸漬時間14時間、16時間および17時間の場合については図21に、浸漬時間18時間、19時間および20時間の場合については図22に、それぞれ示す。
【0067】
図19に示すように、浸漬時間8時間の場合は、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に維管束および果肉全体に褐変が観察された。静置開始から2日後に観察された維管束および果肉全体の褐変は3日後および4日後においても同程度であり、褐変の進行は観察されなかった。浸漬時間9時間の場合は、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に、維管束および果肉全体に褐変が観察された。静置開始から1日後に観察された維管束および果肉全体の褐変は、2日後、3日後および4日後と時間の経過につれ進行した。浸漬10時間の場合は、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に、果肉に褐変や軟化などは観察されなかった。
【0068】
また、図20に示すように、浸漬時間11時間の場合および浸漬時間13時間の場合はいずれも静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に、果肉に褐変や軟化などは観察されなかった。浸漬時間12時間の場合は、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に、打撲部位に褐変が観察された。静置開始から1日後に観察された打撲部位の褐変は、2日後、3日後および4日後と時間の経過につれ進行したが、それ以外の部分の果肉に褐変や軟化などは観察されなかった。
【0069】
また、図21に示すように、浸漬時間14時間、浸漬時間15時間および浸漬時間16時間の場合はいずれも、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に、打撲部位に褐変が観察された。1日後に観察された打撲部位の褐変は、静置開始から2日後、3日後および4日後と時間の経過につれ進行したが、それ以外の部分の果肉に褐変や軟化などは観察されなかった。
【0070】
また、図22に示すように、浸漬時間18時間および浸漬時間19時間の場合はいずれも、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に、打撲部位に褐変が観察された。静置開始から1日後に観察された打撲部位の褐変は、2日後、3日後および4日後と時間の経過につれ進行したが、それ以外の部分の果肉に褐変や軟化などは観察されなかった。浸漬時間20時間の場合は、静置開始から1日後、2日後、3日後および4日後に、果肉に褐変や軟化などは観察されなかった。
【0071】
これらの結果から、少なくとも9時間より長時間、果柄を果肉変色抑制液に浸漬したバナナでは、皮を剥いた後の果肉の変色や軟化などが抑制されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮を剥いていない状態でバナナの果柄および/または花柱側先端部を果肉変色抑制液に浸漬する工程を有する、果肉変色抑制バナナの製造方法。
【請求項2】
果柄が、褐変部分が除去された果柄である、請求項1に記載の果肉変色抑制バナナの製造方法。
【請求項3】
果柄が、5mm以上となるようにその端部が切除された果柄である、請求項1に記載の果肉変色抑制バナナの製造方法。
【請求項4】
果柄が、切れ込みが形成された果柄である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の果肉変色抑制バナナの製造方法。
【請求項5】
果肉変色抑制液に浸漬する工程が、12℃より高温の大気温下で果肉変色抑制液に浸漬する工程である、請求項1から請求項4のいずれかに記載の果肉変色抑制バナナの製造方法。
【請求項6】
果肉変色抑制液に浸漬する工程が、果肉変色抑制液に9時間より長時間浸漬する工程である、請求項1から請求項5のいずれかに記載の果肉変色抑制バナナの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−200138(P2011−200138A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68752(P2010−68752)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(510081551)株式会社北海道フードサポート (1)
【出願人】(510081562)有限会社徳尾商事 (3)
【出願人】(591107975)
【Fターム(参考)】