架橋した双性イオンヒドロゲル
双性イオン架橋剤、双性イオンモノマーと双性イオン架橋剤との共重合から合成された架橋した双性イオンヒドロゲル、架橋した双性イオンヒドロゲルの製造方法、および架橋した双性イオンヒドロゲルを含む装置ならびにそれを使用する方法である。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2009年11月6日に出願された米国出願第61/259,074の優先権を主張するものであり、その全体の内容を本明細書の一部として援用する。
【連邦政府の許諾権の陳述】
【0002】
本発明は、海軍研究事務所により認められ契約番号N000140910137およびN000140711036のもとでの政府の助成を受けてなされたものである。政府は、本発明において正当な権利を有する。
【発明の背景】
【0003】
ヒドロゲルは、進入型の組織環境を模倣し、高い拡散浸透性を保証し、生物模倣型の機械的強度を与えることに起因して、長い間、生物学的および医用材料用途に関心を抱かせてきた。ヒドロゲルの一般的な特性に加えて、欠陥が少なく生体不活性であって多用途であると通常考えられているので、特別な関心は、PEGヒドロゲルおよびポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)ヒドロゲルに与えられる。
【0004】
pHEMAヒドロゲルは、とりわけコンタクトレンズ、人工角膜、薬剤送達媒体、軟骨代替物、および組織骨格のような用途に用いられて、研究されてきた。しかしながら、pHEMAの水和は天然組織のそれより低く、その欠陥は低いものの他の非ファウリング材料より高い。さらに、ヒドロキシル基を介するpHEMAの機能付与は、一般に困難である。
【0005】
PEGヒドロゲルはルーチン的に用いられ、付加的な官能基がPEGヒドロゲルに導入される際に、制御されたインビトロおよびインビボの使用のための特異的に付加された生理活性官能基を伴なう生物学的不活性な基礎環境を必要とする用途のためにのみ修飾することができた。しかしながら、PEGは酸化を受けやすいことが見出された。酸化ダメージへのPEGの感受性は、長期の材料安定性を必要とする用途について、その有用性を減少させる。しかしながら、最大の生物学的安定性および非ファウリングが要求される用途のためには、PEGベースの材料は不十分である。
【0006】
近年、双性イオン化合物は、これはポリ(カルボキシベタインメタクリレート)(pCBMA、スキーム1、構造1)を含むものであるが、極低いファウリングが実証され、5ng/cm2未満のタンパク質吸着を許すポリマーで被覆された表面を意味する。双性イオンポリ(カルボキシベタインメタクリレート)で被覆された表面は、たとえ未希釈の血漿および血清からの非特異性タンパク質吸着に対しても大きな耐性を有し、また、生物緑膿菌による長期の細菌性コロニー形成を室温で10日まで禁止する。双性イオン材料の極低ファウリングは、逆の電荷の周りの高い水和、および水和層を除去するために必要とされる高いエネルギーに起因する。さらに、CBMA(カルボキシベタインメタクリレート)は、通常のEDC/NHSケミストリーによって機能付与される。
【0007】
双性イオン材料の高い水和および極低いファウリング特性のために、双性イオンヒドロゲルは医用用途のために優れた適合性を有するヒドロゲルとして興味の対象である。スルホベタインメタクリレート(SBMA)および混合電荷ヒドロゲルへの低いタンパク質付着、およびカルボキシベタインメタクリレートゲルへの低い細胞接着が立証されてきた。しかしながら、これまでに研究された双性イオンヒドロゲルは低い機械的強度を示し、このことは、その潜在的な生体利用を制限する。それゆえ、改善された機械的特性を有するヒドロゲルについての必要性が存在する。
【0008】
これらの双性イオンヒドロゲルのもう1つの基本的に制限する特徴は、親水性の架橋剤の欠乏である。最も通常に用いられている市販の“親水性”架橋剤は、N,N’−メチレンビス(アクリルアミド)(MBAA,スキーム1,構造2)である。非常に低い濃度において水溶性であるこの架橋剤は、約10%の架橋剤濃度、特に双性イオンヒドロゲルの形成に理想的な塩溶液中においてのみ、適度に可溶性である。pSBMAおよびpCBMAとの重合のための付加的な問題は、重合性部分の固有の不適合である。すなわち、架橋剤の大きく異なる化学構造は、成長するメタクリレートポリマー鎖への乏しい取り込みをもたらす。おそらく、双性イオンヒドロゲル中の架橋剤としてMBAAの最も受け入れられない特徴は、双性イオンモノマーが行なうようには、水を形成しないことである。双性イオン材料中に逆の電荷の周りで形成された水は、非ファウリングメカニズムを与える。すなわち、MBAAは整った水を分解して、タンパク質、細菌、および細胞さえも結合する部分を示し、ヒドロゲルをファウルする。さらに、MBAA架橋剤は、機能性をもたせることができない。
【0009】
非架橋の双性イオンヒドロゲルの有利な性質を維持した架橋双性イオンヒドロゲルについての要求が存在する。本発明は、この要求を満たして、関連する利点を提供する。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、双性イオン架橋剤、双性イオンモノマーと双性イオン架橋剤との共重合から合成された架橋した双性イオンヒドロゲル、架橋した双性イオンヒドロゲルの合成方法、および架橋した双性イオンヒドロゲルを含む装置、および架橋した双性イオンヒドロゲルを用いる方法を提供する。
【0011】
一態様において、本発明は下記式を有する架橋剤を提供する。
【化1】
【0012】
ここで
R1およびR2は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、および、C6〜C12アリール基からなる群から独立して選択され;
R3は、C1〜C6アルキル、C6〜C12アリール、CH2=C(R1)−L1−、およびCH2=C(R2)−L2−からなる群から選択され;
L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から独立して選択され、ここでnは1〜20の整数であり;
L3は、−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数であり;
A1は、C,S,SO,P,またはPOであり;
X-は、N+カチオン中心に結合する対イオンであり;および
M+は、(A1=O)O-アニオン中心に結合する対イオンである。
【0013】
一実施形態において、A1はCまたはSOである。
【0014】
他の態様において、本発明は、本発明の架橋剤で架橋した架橋ヒドロゲルを提供する。一実施形態においては、架橋したヒドロゲルは、繰り返し単位と複数の架橋結合とを有する架橋したポリマーを含み、それぞれの繰り返し単位は下記式を有する。
【化2】
【0015】
ここで
R4は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6−C12アリール基からなる群から選択され;
R5およびR6は、アルキルおよびアリールからなる群から独立して選択され、またはそれらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成し;
L4は、カチオン中心[N+(R5)(R6)]をポリマー主鎖[−(CH2−CR4)n−]に共有的に結合するリンカーであり;
L5は、アニオン中心[A2(=O)−O-]をカチオン中心に共有的に結合するリンカーであり;
A2は、C,S,SO,P,またはPOであり;
M+は、(A2=O)O-アニオン中心に結合する対イオンであり;
X-は、カチオン中心に結合する対イオンであり;
nは、5〜約10,000の整数であり;および
それぞれの架橋結合は下記式を有する。
【化3】
【0016】
ここで
R1およびR2は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基,およびC6−C12アリール基からなる群から独立して選択され;
R3は、C1〜C6アルキル、C6〜C12アリール、CH2=C(R1)−L1−,CH2=C(R2)−L2−からなる群から選択され、またはR3は、第3の架橋結合、−L1−CR1−CH2−または−L2−CR2−CH2−)の残部であり;
L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から独立して選択され、ここでnは1〜20の整数であり;
L3は−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数であり;
A1は、C,S,SO,P,またはPOであり;
xは、約5〜約10,000の整数であり;
X-は、N+カチオン中心に結合する対イオンであり;および
M+は、(A=O)O-アニオン中心に結合する対イオンである。
【0017】
他の実施形態において、架橋したヒドロゲルは、繰り返しを有する架橋したポリマーを含み、ここでそれぞれの繰り返し単位は下記式を有する。
【化4】
【0018】
ここで
R7およびR8は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基からなる群から独立して選択され;
R9,R10,およびR11は、アルキルおよびアリールから独立して選択され、またはそれらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成し;
A3(=O)−OM)はアニオン中心であり、ここでA3は、C,S,SO,P,またはPOであり、Mは金属または有機対イオンであり;
L6は、カチオン中心[N+(R9)(R10)(R11)]をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーであり;
L7は、アニオン中心[A(=O)−OM]をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーであり;
X-は、アニオン中心に結合する対イオンであり;
nは、約5〜約10,000の整数であり;および
pは、5〜約10,000の整数である。
【0019】
他の態様において、本発明は基材の表面を提供し、ここで表面は本発明の架橋ヒドロゲルを含む。
【0020】
以上の態様および本発明に付随する特徴の多くは、添付した図面に関連した以下の詳細な説明を参照することによって、よりよく理解されるのと同様に、より容易に認識されるようになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、カルボキシベタインモノマーである、カルボキシベタインメタクリレート(CBMA)(1)、N,N’−メチレンビス(アクリルアミド)(MBAA)(2),およびカルボキシベタインジメタクリレート(CBMAX)(3)の化学構造を示す。
【図2】図2は、本発明の代表的な双性イオン架橋剤である、カルボキシベタインジメタクリレート(CBMAX)(3)、およびカルボキシベタインジメタクリレート(CBMA3X)(4)の合成を模式的に示す。
【図3A】図3Aは、本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲル、CBMAX架橋したCBMAヒドロゲル(CBMAX)と、MBAA架橋したCBMAヒドロゲル(MBAA)との、水和特性についての比較である。体積分率は、膨潤したヒドロゲル中でのポリマーの体積による量であり、架橋剤含有量(%)の関数としている。ふさがれた棒は、CBMAX架橋したCBMAヒドロゲルを表わし、一方、あいている棒は、MBAA架橋したCBMAヒドロゲルを表わす。
【図3B】図3Bは、本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲル、CBMAX架橋したCBMAヒドロゲル(CBMAX)と、MBAA架橋したCBMAヒドロゲル(MBAA)との、水和特性についての比較である。平衡含水量は、膨潤したヒドロゲル中の水の重量による量であり、架橋剤含有量(%)の関数としている。ふさがれた棒は、CBMAX架橋したCBMAヒドロゲルを表わし、一方、あいている棒は、MBAA架橋したCBMAヒドロゲルを表わす。
【図4】図4は、CBMAX−およびMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルについて、架橋剤の量(%)の関数として相対的な細胞接着を比較する。CBMAヒドロゲルの細胞接着は、pHEMAヒドロゲルの細胞接着に規格化した。
【図5】図5は、CBMAX−およびMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルの圧縮弾性率(MPa)を架橋剤含有量(%)の関数として比較する。ヒドロゲルは圧縮できず、報告された弾性率は、最初の10%歪みから得られた。ふさがれた菱形は、CBMAX−架橋したCBMAヒドロゲルを表わし、一方、あいている四角形はMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルを表わす。
【図6A】図6Aは、CBMAX−およびMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルの物理的特性、架橋密度(μmol/mm3)の比較であり、架橋剤濃度(%)の関数として機械的および膨潤特性から算出した。ふさがれた菱形は、CBMAX−架橋したCBMAヒドロゲルを表わし、一方、あいている四角形はMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルを表わす。
【図6B】図6Bは、CBMAX−およびMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルの物理的特性、メッシュサイズ(nm)の比較であり、架橋剤濃度(%)の関数として機械的および膨潤特性から算出した。ふさがれた菱形は、CBMAX−架橋したCBMAヒドロゲルを表わし、一方、あいている四角形はMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルを表わす。
【図7】図7は、本発明の代表的な双性イオン架橋ポリマー、光重合により得られたCBMA/CBMAXの、架橋剤含有量(mol%)の関数としての水和特性(EWC)の比較である。
【図8】図8は、本発明の代表的な双性イオン架橋ポリマー、光重合により得られたCBMA/CBMAXの、架橋剤含有量(%)の関数としての圧縮強度(MPa)の比較である。
【図9】図9は、本発明の代表的な双性イオン架橋ポリマー、光重合により得られたCBMA/CBMAXの、架橋剤含有量(%)の関数としての圧縮弾性率(MPa)の比較である。
【図10】図10は、架橋剤勾配を有する本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成の模式図である。
【図11】図11は、架橋剤勾配を有する本発明の双性イオンポリマーCBMA/CBMAXの、架橋剤濃度(%)の関数としての水和特性の比較である。
【図12】図12は、架橋剤勾配を有する本発明の双性イオンポリマーCBMA/CBMAXの、架橋剤濃度(%)の関数としての架橋剤密度(μmol/mm3)の比較である。
【図13】図13は、架橋剤勾配を有する本発明の双性イオンポリマーCBMA/CBMAXの、架橋剤濃度(%)の関数としての圧縮弾性率(MPa)の比較である。
【図14】図14は、架橋剤勾配を有する本発明の双性イオンポリマーCBMA/CBMAXの、架橋剤濃度(%)の関数としてのメッシュサイズ(nm)の比較である。
【図15】図15は、代表的なCBMA/CBMAX勾配ヒドロゲルの写真である。4%のCBMA−X CBMAヒドロゲルの直径5mmの円盤(A)、および75%のCBMAX−ヒドロゲルの四角形(B)が、代表的な勾配を有するヒドロゲル(C)と比較して示され、CBMAXの架橋に付随した色の勾配を示している。
【図16】図16は、代表的な勾配を有するヒドロゲルに沿った長さ(cm)の関数として架橋剤含有量(%)を示すグラフである。
【図17】図17は、CBMAX含有量(0.1,1,10,および20%)の関数として、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルの含水量(EWC)の比較である。
【図18A】図18Aは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が0.1%のGOx固定化前である。
【図18B】図18Bは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が0.1%のGOx固定化後である。
【図18C】図18Cは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が1%のGOx固定化前である。
【図18D】図18Cは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が1%のGOx固定化後である。
【図18E】図18Eは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が10%のGOx固定化前である。
【図18F】図18Fは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が10%のGOx固定化後である。
【図18G】図18Gは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が20%のGOx固定化前である。
【図18H】図18Gは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が20%のGOx固定化後である。
【図19A】図19Aは、PBS中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量0.1%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図19B】図19Bは、PBS中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量1%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図19C】図19Cは、PBS中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量10%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図19D】図19Dは、PBS中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量20%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図20A】図20Aは、100%血清中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量0.1%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図20B】図20Bは、100%血清中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量1%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図20C】図20Cは、100%血清中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量10%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図20D】図20Dは、100%血清中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量20%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図21】図21は、未希釈の血清中でのOA−GNPs,OC−GNPs,CA−GNPs,およびCC−GNPsの流体力学的サイズの比較である。血清タンパク質は、遠心分離により除去し、測定前にPBS中に再分散させた。
【図22】図22は、未希釈の血清と混合されたOA−GNPs,OC−GNPs,CA−GNPs,およびCC−GNPsの流体力学的サイズの比較である。
【発明の詳細な説明】
【0022】
本発明は、双性イオン架橋剤、双性イオンモノマーと双性イオン架橋剤との共重合から合成された架橋双性イオンヒドロゲル、架橋双性イオンヒドロゲルの製造方法、および架橋双性イオンヒドロゲルを含む装置、および架橋双性イオンヒドロゲルを用いる方法を提供する。
【0023】
<双性イオン架橋剤>
一態様において、本発明は双性イオン架橋剤を提供する。双性イオン架橋剤は、適切な重合性のモノマーおよびコモノマーと共重合して、架橋したポリマーおよび架橋したコポリマーを提供することができる。
【0024】
双性イオン架橋剤は、1またはこれを超える双性イオンモノマーと共重合させることによって、または1またはこれを超えるイオン対コモノマーなどの電荷を有するコモノマーを共重合させることによって、架橋したヒドロゲルのような架橋したポリマーおよび架橋したコポリマーの合成に有利に用いられる。
【0025】
本発明の双性イオン架橋剤は、式(I)を有する。
【化5】
【0026】
ここで
R1およびR2は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基から独立して選択され;
R3は、C1〜C6アルキル、C6〜C12アリール、CH2=C(R1)−L1−、またはCH2=C(R2)−L2−から選択され;
L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から独立して選択され、ここでnは1〜20の整数であり;
L3は、−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数であり;および
A1は、C,S,SO,P,またはPOであり;
X-は、N+カチオン中心に結合する対イオンであり;および
M+は、(A=O)O-アニオン中心に結合する金属または有機対イオンである。
【0027】
一実施形態において、R1,R2,およびR3は、C1〜C3アルキルである。一実施形態において、R1,R2,およびR3は、メチルである。
【0028】
実施形態において、L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6である。実施形態において、L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)2−である。
【0029】
一実施形態において、L3は−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6である。一実施形態において、L3は−(CH2)−である。
【0030】
一実施形態において、A1はCである。一実施形態において、A1はSOである。
【0031】
図1は、本発明の代表的な双性イオン架橋剤の化学構造を示し、化合物3をここでCBMAXと称する。本発明の代表的な双性イオン架橋剤CBMAXの合成は、例1で述べられ、図2に模式的に示す。
【0032】
<架橋した双性イオンヒドロゲル>
他の態様において、本発明は、双性イオン架橋剤との双性イオンモノマーの共重合から合成された架橋した双性イオンヒドロゲルを提供する。双性イオン架橋剤は、適切な重合性のモノマーおよびコモノマーと共重合することができ、架橋したポリマーおよび架橋したコポリマーを提供する。
【0033】
本発明の架橋したヒドロゲルは、繰り返し基と、双性イオン架橋剤から誘導された架橋結合とを有する架橋したポリマーである。
【0034】
<双性イオンモノマー> 一実施形態において、本発明の架橋したヒドロゲルは、双性イオン架橋剤と適切な重合性双性イオンモノマーとの共重合から合成された架橋したポリマーである。この実施形態においては、架橋したポリマー(例えば、ヒドロゲル)は、式(II)を有する繰り返し単位を有する。
【化6】
【0035】
ここで
R4は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基から選択され;
R5およびR6は、アルキルおよびアリールから独立して選択され、またはそれらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成し;
L4は、カチオン中心[N+(R5)(R6)]をポリマー主鎖[−(CH2−CR4)n−]に共有的に結合するリンカーであり;
L5は、アニオン中心[A2(=O)O-]をカチオン中心に共有的に結合するリンカーであり;
A2は、C,S,SO,P,またはPOであり;
M+は、(A2=O)O-アニオン中心に結合する金属または有機対イオンであり;
X-は、カチオン中心に結合する対イオンであり;
nは、5〜約10,000の整数であり;および
*は、繰り返し単位が、隣接する繰り返し単位または双性イオン架橋結合のいずれかに共有的に連結する点を表わす。
【0036】
一実施形態においては、R4はC1〜C3アルキルである。
【0037】
R5およびR6は、アルキルおよびアリールから独立して選択され、またはそれら結びついた窒素とともにカチオン中心を形成する。一実施形態において、R5およびR6は、C1〜C3アルキルである。
【0038】
ある実施形態においては、L4は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から選択され、ここでnは1〜20の整数である。ある実施形態において、L4は−C(=O)O−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6である。
【0039】
ある実施形態において、L5は−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数である。
【0040】
ある実施形態において、A2はCまたはSOである。
【0041】
ある実施形態において、nは5〜約5,000の整数である。
【0042】
一実施形態において、R4,R5,およびR6はメチルであり、L4は−C(=O)O−(CH2)2−であり、L5は−(CH2)−であり、A1はCであり、nは10〜約1,000の整数である。
【0043】
上述の式(II)を有する繰り返し単位を有する架橋したポリマー(例えばヒドロゲル)に加えて、架橋したポリマーは、式(III)の双性イオン架橋結合を含む。
【化7】
【0044】
ここで、R1,R2,R3,L1,L2,L3,A1,X-,およびM+は、双性イオン架橋剤(式(I)について上述したようなものであり、xは約5〜約10,000の整数である。R3が重合性基を含む架橋したヒドロゲルについて、ヒドロゲルは、上記(−L1−CR1−CH2−および−L2−CR2−CH2−)に示されるようにR3を介してさらに架橋する。
【0045】
本発明の架橋した双性イオンヒドロゲルは、双性イオン架橋剤と式(IV)を有するモノマーとの共重合によって合成することができる。
【化8】
【0046】
ここで、R4,R5,R6,L4,L5,A2,X-,およびM+は、式(II)の繰り返し単位について上述したようなものである。
【0047】
本発明の代表的な架橋した双性イオンポリマーは、式(V)を有する。
【化9】
【0048】
ここで、R5,R6,L4,L5,A2,X-,M+およびnは、式(II)について上述したようなものであり、PBは、繰り返し単位[式(II)]および架橋結合[式(III)]を含むポリマー主鎖である。
【0049】
本発明の代表的な双性イオンヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成および特性評価は、例2で述べる。
【0050】
<架橋した混合電荷ヒドロゲル>
他の態様において、本発明は、双性イオン架橋剤とのイオン対コモノマーの共重合から合成された架橋した混合電荷コポリマー(またはヒドロゲル)を提供する。
【0051】
本明細書において用いられる際、用語「混合電荷コポリマー(またはヒドロゲル)」は、ポリマー主鎖、正の電荷を有する複数の繰り返し単位、および負の電荷を有する複数の繰り返し単位を有するコポリマーをさす。本発明の実施において、これらのコポリマーは、イオン対コモノマーの重合により合成することができる。
【0052】
混合電荷コポリマーは、正の電荷を有する複数の繰り返し単位と、負の電荷を有する複数の繰り返し単位とを含む。一実施形態において、混合電荷コポリマーは、実質的に電気的に中性である。ここで用いられる際、用語「実質的に電気的に中性」は、有利な非ファウリング特性をコポリマーに与えるコポリマーをさす。一実施形態において、実質的に電気的に中性なコポリマーは、実質的にゼロの正味の電荷を有するコポリマー(すなわち、正の電荷を有する繰り返し単位と負の電荷を有する繰り返し単位とがほぼ同数のコポリマー)である。一実施形態において、負の電荷を有する繰り返し単位の数に対する正の電荷を有する繰り返し単位の数の比は、約1:1.1〜約1:0.5である。一実施形態において、負の電荷を有する繰り返し単位の数に対する正の電荷を有する繰り返し単位の数の比は、約1:1.1〜約1:0.7である。一実施形態において、負の電荷を有する繰り返し単位の数に対する正の電荷を有する繰り返し単位の数の比は、約1:1.1〜約1:0.9である。
【0053】
<イオン対コモノマー> 一実施形態において、本発明の架橋したヒドロゲルは、双性イオン架橋剤と適切な重合性イオン対コノモマーとの共重合により合成される架橋したポリマーである。
【0054】
本発明に有用な代表的なイオン対コモノマーは、式(VI)および(VII)を有する。
【化10】
【0055】
本実施形態において、架橋したポリマー(例えば、ヒドロゲル)は、式(VIII)を有する繰り返し単位を有する。
【化11】
【0056】
ここで
R7およびR8は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基から独立して選択され;
R9,R10,およびR11は、アルキルおよびアリールから独立して選択され、またはそれらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成し;
A3(=O)−OM)はアニオン中心であり、ここでA3は、C,S,SO,PまたはPOであり、Mは金属または有機対イオンであり;
L6は、カチオン中心[N+(R9)(R10)(R11)]をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーであり;
L7は、アニオン中心[A(=O)−OM]をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーであり;
X-は、カチオン中心に結合する対イオンであり;
nは、5から約10,000の整数であり;
pは、5から約10,000の整数であり;および
*は、繰り返し単位が、隣接する繰り返し単位または双性イオン架橋結合のいずれかに共有的に結合する点を表わす。
【0057】
一実施形態において、R7およびR8はC1〜C3アルキルである。
【0058】
R9,R10,およびR11は、アルキルおよびアリールから独立して選択され、またはそれらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成する。一実施形態においては、R9,R10,およびR11はC1〜C3アルキルである。
【0059】
ある実施形態において、L6は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から選択され、ここでnは1〜20の整数である。ある実施形態において、L6は−C(=O)O−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6である。
【0060】
ある実施形態においては、L7はC1〜C20アルキレン鎖である。代表的なL7は、−(CH2)n−を含み、ここでnは1〜20(例えば、1,3,または5)である。
【0061】
ある実施形態において、A3は、C,S,SO,P,またはPOである。
【0062】
ある実施形態において、nは5〜約5,000の整数である。
【0063】
一実施形態において、R7,R8,R9,R10,およびR11は、メチルであり、L6およびL7は−C(=O)O−(CH2)2−であり、AはCであり、nは10〜約1,000の整数である。
【0064】
上述の式(VIII)を有する繰り返し単位を有する架橋したコポリマー(例えば、ヒドロゲル)に加えて、架橋したポリマーは式(III)を有する双性イオン架橋結合を有する。
【0065】
本発明の代表的な架橋した双性イオンポリマーは、式(IX)を有する。
【化12】
【0066】
ここで、L6,N+(R9)(R10)(R11),L7,A3(=O)OM,X-,n,およびpは、上述したようなものであり、PBは、繰り返し単位[式(VIII)]と[式(III)]とを含むポリマー主鎖である。
【0067】
以下は、上述した架橋剤、モノマー、コモノマー、ポリマー、コポリマー、および式(I)〜(IX)の架橋結合の説明である。
【0068】
上記式において、PBはポリマー主鎖である。代表的なポリマー主鎖は、ビニルモノマー(例えば、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン)から誘導されたビニル主鎖(例えば、−C(R’)(R”)−C(R''')(R'''')−、ここでR’,R”,R''',およびR'''は、水素、アルキル、およびアリールから独立して選択される)を含む。他の代表的な主鎖は、ペンダント基を与えるためのポリマー主鎖を含む。他の代表的なポリマー主鎖は、ペプチド(ポリペプチド)、ウレタン(ポリウレタン)、およびエポキシ主鎖を含む。
【0069】
同様に、上記式において、CH2=C(R)−は重合性基である。上で言及したものを含む他の重合性基は、本発明のモノマーおよびポリマーを提供するために用い得ることが理解されるであろう。
【0070】
上記式において、N+はカチオン中心である。ある実施形態において、カチオン中心は、四級アンモニウム(例えば、L4,R5,R6,およびL5に結合したN)である。アンモニウムに加えて、他の有用なカチオン中心(R5およびR6を伴なうN)は、イミダゾリウム、トリアゾリウム、ピリジニウム、モルホリニウム、オキサゾリジニウム、ピラジニウム、ピリダジニウム、ピリミジニウム、ピペラジニウム、およびピロリジニウムを含む。
【0071】
R4,R5,R6,R9,R10,およびR11は、水素、アルキル基、およびアリール基から独立して選択される。代表的なアルキル基は、C1〜C10の直鎖および分岐したアルキル基を含む。ある実施形態において、アルキル基は、例えばアリール基(例えば、−CH2C6H5,ベンジル)を含む1またはこれを超える置換基でさらに置換される。代表的なアリール基は、C6〜C12アリール基を含み、例えばフェニルを含む。上述の式のある実施形態について、R5およびR6,またはR9,R10,およびR11は、N+とともにカチオン中心を形成する。
【0072】
L4(またはL6)は、カチオン中心をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーである。ある実施形態においては、L4は、L4の残部をポリマー主鎖(またはモノマーのための重合性部分)に結合する官能基(例えば、エステルまたはアミド)を含む。官能基に加えて、L4はC1〜C20アルキレン鎖を含むことができる。代表的なL4の群は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−を含み、ここでnは1〜20(例えば、3)である。
【0073】
L5は、カチオン中心をアニオン中心(すなわち、(A=O)O-)に共有的に結合するリンカーである。L5は、C1〜C20アルキレン基とすることができる。代表的なL5の群は、−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20(例えば、1,3,または5)である。
【0074】
L7は、ポリマー主鎖をアニオン基に共有的に結合するリンカーである。L7は、C1〜C20アルキレン鎖とすることができる。代表的なL7は、−(CH2)n−を含み、ここでnは1〜20(例えば、1,3,または5)である。
【0075】
A(=O)−O-はアニオン中心である。アニオン中心は、カルボン酸エステル(AはC)、スルフィン酸(AはS)、スルホン酸(AはSO)、ホスフィン酸(AはP)、またはホスホン酸(AはPO)とすることができる。
【0076】
上記式において、代表的なアルキル基は、C1〜C30の直鎖および分岐したアルキル基を含む。ある実施形態において、アルキル基は、例えばアリール基(例えば、−CH2C6H5,ベンジル)を含む1またはこれを超える置換基でさらに置換される。
【0077】
代表的なアリール基は、C6〜C12アリール基を含み、例えば、置換されたフェニル基(例えば安息香酸)を含むフェニルを含む。
【0078】
X-は、カチオン中心に結合する対イオンである。対イオンは、カチオン性のポリマーまたはモノマーの合成に起因した対イオン(例えば、Cl-,Br-,I-)とすることができる。カチオン中心の合成から初期に得られる対イオンは、他の適切な対イオンと交換することができ、制御可能な加水分解特性および他の生物学的特性を有するポリマーを与える。代表的な疎水性の対イオンは、カルボキシレートを含み、例えば、安息香酸および脂肪酸アニオン(例えば、CH3(CH2)nCO2-、ここでn=1〜19);アルキルスルホネート(例えば、CH3(CH2)nSO3-、ここでn=1〜19);サリシレート;ラクテート;ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミドアニオン(N-(SO2CF3)2);およびそれらの誘導体などである。他の適切な対イオンもまた、クロライド、ブロマイド、アイオダイド、サルフェート;ナイトレート;パークロレート(ClO4);テトラフルオロボレート(BF4);ヘキサフルオロホスフェート(PF6);トリフルオロメチルスルフォネート(SO3CF3);およびそれらの誘導体から選択することができる。他の適切な対イオンは、疎水性の対イオン、および治療的な活性を有する対イオンを含み、(例えば、抗菌剤、サリシル酸(2−ヒドロキシ安息香酸)、ベンゾエート、およびラクテートなどである。
【0079】
モノマーについて、R1およびR2[式(I)]およびR4[式(IV)]は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、およびC1〜C6アルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル)から選択される。一実施形態において、R1,R2,およびR4は水素である。一実施形態において、R1,R2,およびR4はメチルである。
【0080】
<架橋した双性イオンヒドロゲルで処理された表面>
他の態様において、本発明は、架橋された双性イオンヒドロゲルで処理された表面を提供する。本発明の架橋された双性イオンヒドロゲルは、双性イオンポリマーに加水分解性を有し、例えば医療装置を含む種々の装置の表面のためのコーティングとして有利である。
【0081】
本発明のヒドロゲルは、表面を被覆して生体適合性、抗菌性、および非ファウリング表面を提供するために有利に用いられる。したがって、他の態様においては、本発明は、1またはこれを超える本発明の架橋した双性イオンヒドロゲルが適用された(例えば、被覆された、共有的に結合した、イオン的に結合した、疎水的に結合した)表面(例えば、1またはこれを超える表面)を有する装置または材料を提供する。本発明のヒドロゲルで有利に処理することができる、修飾されて本発明のヒドロゲルを含むことができる、または本発明のヒドロゲルを取り込むことができる代表的な装置およびキャリアは、以下を含む:
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する粒子(例えば、ナノ粒子);
本発明の材料で、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有するドラッグキャリアー;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する非ウィルス性遺伝子送達系;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有するバイオセンサー;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されてヒドロゲルを含んだ、または取り込んだ表面を有する、微生物懸濁液のためのメンブラン、ホルモン分離、タンパク質分画、細胞分離、廃水処理、オリゴ糖バイオリアクター、タンパク質限外濾過、およびダイアリープロセシング(diary processing)のようなバイオプロセスまたはバイオ分離法のための装置;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する移植可能なセンサー;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する皮下センサー;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する乳房インプラント、人工内耳、および人工歯根のようなインプラント;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有するコンタクトレンズ;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する組織足場材(tissue scaffold);
本発明のヒドロゲルで処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する人工関節、人工心臓弁、人工血管、ペースメーカー、左心補助人工心臓(LVAD)、動脈移植片、およびステントのような移植可能な医療装置;および
本発明のヒドロゲルで修飾された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有するイヤードレイナージ(ear drainage)管、栄養管、グラウコーマドレナージ管、脳水腫シャント、人工角膜、神経ガイダンス管、導尿カテーテル、組織接着剤、およびX線ガイドのような医療装置。
【0082】
本発明のヒドロゲルで有利に処理することができる他の代表的な基材および物質は、修飾されて本発明のヒドロゲルを含む、または本発明のヒドロゲルを取り込んだものであり、織物を含み、例えば、衣料品(例えば、コート、シャツ、ズボン、肌着、病院および軍の職員に着用されるものを含む)、寝具類(例えば、毛布、シーツ、枕カバー、マットレス、および枕)、タオル地、およびワイプを含む。
【0083】
本発明のヒドロゲルで有利に処理することができる他の代表的な基材および物質は、修飾されて本発明のヒドロゲルを含む、または本発明のヒドロゲルを取り込んだものであり、テーブルの上面板、机、カウンターの上面板のような作業表面を含む。
【0084】
以下は、本発明の代表的な双性イオン架橋したヒドロゲル(CBMA/CBMAX)の説明である。
【0085】
上述したように、本発明はファウリング架橋剤の使用なしに非ファウリングpCBMAヒドロゲルの機械的特性を改善するために、双性イオン架橋剤を提供する。代表的な双性イオン架橋剤であるCBMAベースのジメタクリレート架橋剤(CBMAX)の構造は、図1に構造3で示される。架橋したものは、カチオン性の第四級アミンとアニオン性のカルボキシル基との間に、2つではなく1つのカーボンスペーサーが存在し、第四級アミンの2つのメチル基が第2のメタクリレート基で置き換えられた以外はCBMAモノマーと同じ化学構造を有する。架橋剤は、1Mの塩溶液に優れた溶解性を示し、その双性イオン基はMBAAとは異なって、pCBMAヒドロゲル中の架橋結合の全域で構造化された水の連続性を与えるであろう。特別に用意したコリンリン酸ベースの架橋剤で合成された双性イオンコリンリン酸(PC)ベースのヒドロゲルの水の構造が研究され、MBAA架橋した双性イオンヒドロゲルと比較して、PC架橋した双性イオンヒドロゲル中の水に定性的な違いが観察された(Goda T, Watanabe J, Takai M, Ishihara K. Water structure and improved mechanical properties of phospholipid polymer hydrogel with phosphorylcholine centered intermolecular cross-linker. Polymer 2006;47:1390-1396; and Goda T, Matsuno R, Konno T, Takai M, Ishihara K. Protein adsorption resistance and oxygen permeability of chemically crosslinked phospholipid polymer hydrogel for ophthalmologic biomaterials. J Biomed Mater Res B Appl Biomater 2009;89:184-190)。双性イオンモノマーと双性イオン架橋剤とから得られたヒドロゲルは、双性イオンモノマーとMBAAとから得られたヒドロゲルよりも、氷のように結合した水を有し、双性イオン的に架橋した双性イオンヒドロゲルの改善された機械的特性は、水の高められたオーダーに起因する。
【0086】
本発明の代表的な双性イオン架橋剤である1−カルボキシ−N−メチル−N−ジ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(CBMX)の合成は、例1で述べる。合成は図2に示す。
【0087】
本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲル(CBMA/CBMAX)の合成は、例2で述べる。
【0088】
光重合により合成された本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成および特性は、例3で述べる。
【0089】
光重合により合成され、架橋剤勾配を有する本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成および特性は、例4で述べる。
【0090】
本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXのグルコースバイオセンサーにおける使用は、例5で述べる。
【0091】
<CBMAXでのCBMAヒドロゲルの水和特性>
ヒドロゲルの高い含水量は、生物組織の含水量をしばしば反映するので、ヒドロゲルは生物学的応用に魅力的である。CBMAヒドロゲルの膨潤特性は、数式(1)および(2)を用いて計算した。すなわち、脱水の前後におけるヒドロゲル円盤の質量および大きさを用いて、平衡含水量およびゲルの体積分率をそれぞれ計算した。図3Aおよび3Bは、平衡含水量(図3A)および体積分率(図3B)を示しており、MBAA架橋されたヒドロゲルについては、17%架橋剤における溶解度限界までであり、CBMA架橋されたヒドロゲルについては2%CBMAXから100%CBMAXまでである(それぞれ、あいている、およびふさがれた棒)。予測されるように、架橋剤含有量における増加は、水和および膨潤の減少を引き起こす。100%CBMAXにおいて、水和は約60%の平衡含水量まで低下し、そのように多量の架橋のためには著しく大きな値である。
【0092】
これらの図面が示すように、CBMAがCBMAXまたはMBAAで架橋した際には、含水量における違いは全く現れない。
【0093】
<CBMAXを伴なうCBMAヒドロゲルの非ファウリング特性>
4%のCBMAX,4%のMBAA,17%のCBMAX,および17%のMBAAを有するCBMAヒドロゲル、およびCBMAXヒドロゲルを、非ファウリングについて試験した。実際に取り扱われるのが最も低い値であるので低架橋剤含有量を選択し、一方、17%はMBAA取り込みの上限であるので、17%架橋剤ヒドロゲルを選択した。この組成は、これら2つのヒドロゲルのファウリング特性の間の任意の違いを最も明確に示すことが予測された。線維芽細胞(COS−7)細胞は、抗菌性の滅菌されたヒドロゲルの上にまいて、補充した成長培地中で3日間成長させた。3日目、細胞接着を視覚的に定量化した。すなわち、それぞれのヒドロゲル処方の顕微鏡観察の15画像を収集し、ゲルに接着した細胞の絶対数を数えた。
【0094】
それぞれの処方のヒドロゲルに接着した細胞の数は、架橋剤含有量の関数として、pHEMAヒドロゲルに接着した細胞の数で規格化して図4に定量的に比較する。塗りつぶした棒は、CBMAXで架橋したヒドロゲルを表わし、一方、あいている棒はMBAAで架橋したヒドロゲルを表わす。右端の棒は、参照のpHEMAヒドロゲルを表わす。全てのCBMAヒドロゲルは、低ファウリングのpHEMAに関連して、特に補充した成長培地中で細胞接着において有意な低下(約80〜90%)を示す。pHEMAそれ自体は、TCPS上の細胞接着の小さなパーセンテージのみを示す。
【0095】
低い架橋剤含有量において、CBMAX−およびMBAA−架橋されたヒドロゲルのいずれも非常に小さなファウリングを有し、pHEMAヒドロゲルの場合の約10〜15%(誤差範囲内と同等)である。より高い架橋剤含有量においては、顕著な相違が存在する。すなわち、CBMAXで架橋されたヒドロゲルは、非常に非ファウリングのままで残り(pHEMAの場合の約10%)、一方、MBAAで架橋されたヒドロゲルのファウリングは、より悪化した(pHEMAの場合の約20%)。さらに、100%CBMAXヒドロゲルでさえ、軽く架橋したCBMAヒドロゲルの同等の低いファウリングレベル(pHEMAヒドロゲルの場合の約10%)を示す。このように、MBAAの取り込みはCBMAヒドロゲルの非ファウリング特性を損ない、おそらく、双性イオンポリマー鎖の周りの規則正しい水を乱し、一方で、CBMA架橋剤は、分子レベルの化学的性質および水和作用の連続性を与え、それによって、CBMAヒドロゲル内の非ファウリング特性を保存することによる。これらの結果は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)による非特異的なタンパク質吸着の測定によって支持された。
【0096】
<CBMAヒドロゲルのRGC−機能付与>
上述の非ファウリング研究と同様、17%CBMAXと17%MBAAとを用いて得られたCBMAヒドロゲルは、機能付与のためのその能力を示す。ヒドロゲルは、cRGD、これは全インテグリン上に見られる細胞結合モチーフである、により従来のEDC/スルホNHSケミストリーを用いてポスト機能付与した。EDCなしの同様のケミストリーは、対照のヒドロゲルに行なった。COS−7細胞は、その後、EDC/スルホNHS−cRGD処理されたヒドロゲル上、およびスルホNHS−cRGD処理された対照ヒドロゲル上にまいた。細胞培養液は3日間培養させ、その後、細胞増殖を光学顕微鏡検査法で定量化した。それぞれのヒドロゲル処方の15写真を撮影し、ゲルに吸着した細胞の絶対数を数えた。結果を表1にまとめる。
【0097】
表1 cRGDで機能付与された17%CBMAX−およびMBAA−架橋されたヒドロゲル上の細胞接着。ELISAからの非特異タンパク質接着は、事前機能付与されたヒドロゲル上への非特異的な細胞吸着を反映する。
【表1】
【0098】
表1に示されるように、機能付与されたCBMAX−およびMBAA−架橋したヒドロゲルは、いずれも細胞接着における増加を示す。補充された培地からの非特異的に接着したタンパク質は、表面を汚損し、非特異的細胞接着を促進するであろう。ELISAによって示されるように、CBMAX架橋したヒドロゲルは、MBAA架橋したヒドロゲルの場合より効果的に非特異タンパク質吸着に抵抗し、これは、CBMAX架橋したヒドロゲルへ接着した細胞のより低い総数に反映される。17%MBAA架橋したヒドロゲル上に接着した細胞のより高い絶対数は、より高い非特異的細胞接着、すなわちファウリングを反映し、これはMBAAの存在に由来する。いずれのヒドロゲルも、cRGDで機能付与されて、特異的細胞接着を誘発し、制御された生体適合性を示す。しかしながら、CBMAX架橋したヒドロゲルは、バックグラウンド非特異的細胞接着の低いレベルを示す。
【0099】
<CBMAヒドロゲルの機械的特性>
機械的特性は、高度に水和したヒドロゲルのための大きな課題である。一般的に、ヒドロゲル中の水が多くなると構造は弱くなる。生体組織のための模倣体として効果的に作用し、細胞成長のための助けとなる環境を与えるために、ヒドロゲルは“柔軟である”べきである。また一方、実際には、機械的強度は取り扱いのために要求される。さらに、基質の堅さは、細胞の運命および幹細胞の分化に重要な役割を果たす。
【0100】
円盤状のヒドロゲルは、破壊まで圧縮し、抽出したヤング率を、架橋剤組成(CBMAX対MBAA、それぞれふさがれた菱形およびあいている四角形で表わす)および含有量(架橋剤の%)の関数として図5に示す。これらの値は、表2にもまとめる。
【0101】
表2 CBMAX−およびMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルの機械的特性。弾性率、破断歪み、および破壊ストレスは、圧縮下のCBMAヒドロゲルの応力−歪み曲線から抽出した。
【表2】
【0102】
CBMAX−およびMBAA−架橋したヒドロゲルについて直接比較できる架橋剤濃度(4%,9%,および17%)において、CBMAX架橋したヒドロゲルは、改善された機械的特性を示した。CBMAX架橋したヒドロゲルの圧縮弾性率は、いずれの架橋剤でも達成できる全濃度においてMBAA架橋したヒドロゲルの場合より大きく、破壊ストレスも同様に全濃度においてより大きい。より高い架橋剤含有量は、CBMAXで達成可能である。100%CBMAXにおいて、圧縮弾性率は8MPaに達し、比較的高い含水量(60%)を有するヒドロゲルについての印象的な数値であり、この材料は十分に関節軟骨の範囲内であると認識するものである。これは、pHEMAヒドロゲル(0.6MPaの圧縮弾性率)、およびPEGヒドロゲル(50%の架橋剤含水量で約3MPaまでの圧縮弾性率)とも都合よく比較される。
【0103】
MBAA架橋剤を有するCBMAヒドロゲルに対して、CBMAXを有するCBMAヒドロゲルの平衡含水量の間に差異が全く見られないので、これらの改善された機械的特性は、低下した水和作用に起因しないが、むしろ水構造の質の違いに起因する。
【0104】
圧縮データは、架橋剤の量とCBMA−CBMAXヒドロゲルの圧縮弾性率との間の関係の線形性を示す。架橋剤含有量の関数として、4%架橋剤から100%CBMAXまで圧縮弾性率をプロットすると(図5)、関係は直線的で0.9616の回帰である。これは、ゲル系の適合性を明確に示す。すなわち、架橋剤は、伸びる直鎖状のポリマー鎖中に低い架橋剤組成で取り込まれ、かつ、目盛りの他端においては、モノマーは高度に架橋したネットワーク中に高い架橋剤組成で均一に取り込まれる。こうして、ヒドロゲル構造はより均質になる。一方、MBAA架橋剤は、架橋剤組成と圧縮弾性率との間における、より低い線形性(R2=0.8562)の関係により証明されるように、伸びるポリマー鎖中により乏しい取り込みを示す。架橋剤含有量が9%から17%に増加すると、ゲルの機械的特性は僅かに高められる。これは、この低い濃度においても制限された溶解性、および伸びる直鎖状のCBMAポリマー中への溶解した架橋剤の乏しい取り込みに起因する。不均質なヒドロゲルネットワーク中に現れる微視的な構造欠陥は、巨視的なヒドロゲルの機械的完全性を損なう。
【0105】
<CBMAヒドロゲルの物理的特性>
上で集めた水和データおよび応力−歪み曲線を用いて、式3および4により、MBAAまたはCBMAXで架橋した際のCBMAヒドロゲルのいくつかの物理的特性を計算した。具体的には、応力−歪み曲線は、応力対(α−α-2)曲線、ここでαは本来の長さに対する変形した長さの比である、に操作した。低い歪みにおいて、この関係は線形であり、架橋剤密度は、この直線の傾きから抽出される(式3参照)。次に、体積当たりの架橋結合の数を一架橋剤当たりの体積に変換して、2つの架橋結合の間の距離を得る。架橋剤密度およびメッシュサイズの計算値は、架橋組成および含有量の関数として、図6Aおよび6Bにそれぞれ示す。同一の名目上の架橋剤含有量において、MBAA架橋したヒドロゲルの架橋密度は、CBMA架橋したヒドロゲルのそれより低く、MBAAはCBMAモノマーとの相溶性がより小さく、MBAAのアクリルアミドは伸びるメタクリレートポリマー鎖中に不十分に取り込むという仮説を強化する。一方、CBMAXで架橋したヒドロゲルの高い架橋剤密度は、伸びるメタクリレートポリマー中へのCBMAXメタクリレートのより良好な相溶性、およびより均一な取り込みを示唆する。架橋剤密度の値から算出されたメッシュサイズは、同様の筋をもたらし、モノマー−架橋剤の相溶性における差異は、CBMA−CBMAXおよびCBMA−MBAA系の機械的特性における差異に主要な役割を担うという考えをさらに支持する。
【0106】
さらに、その優れた溶解性およびCBMAモノマーとの共重合に起因して、CBMAX架橋されたヒドロゲルは、処方のより広い範囲を利用でき、これは物理的特性のより大きな多様性を与える。異なる架橋剤密度、および異なる細孔サイズは、CBMAX架橋されたヒドロゲルに制御された形態を生じるものであり、生物学的操作のさらに別の手段を与える。ヒドロゲルは、その生体模倣構造、すなわち、高い含水量および生体分子の移動を許す細孔のために評価される。糖類および成長因子のような小さな分子のための2nm未満から、大きなタンパク質および抗体のような生体マクロ分子のための10nmを超える範囲の細孔サイズは、ヒドロゲル中への取り込みを全て行ないやすくする。架橋剤含有量を制御することによって、非ファウリング特性を損なうことなく、ヒドロゲルの細孔サイズを制御することができる。
【0107】
本発明の双性イオン架橋剤は、双性イオンヒドロゲル系との優れた相溶性を有する。代表的な架橋剤CBMAXは、有用な双性イオンモノマーCBMAに対応する構造を有し、それは2つの有利な効果を与える。まず、架橋剤の双性イオンの性質は、改善された溶解性に加えて、架橋剤は双性イオンモノマー側鎖の回りに生じる水の再構築を妨害しないことを意味する。MBAAで架橋したヒドロゲルと比較して、CBMAXで架橋したヒドロゲルは、MBAA架橋したヒドロゲルに近づく全ての組成において改善された非ファウリングを示し、pHEMAヒドロゲルの非特異タンパク質吸着の約10%のみを最終的に示した。第2に、CBMAモノマーとCBMAX架橋剤との間の化学的な類似性は、大きな重合適合性を与える。CBMAX架橋したヒドロゲルは、モノマーおよび架橋剤の明確な化学量論的な取り込みを示した。一方、MBAA架橋したヒドロゲルはMBAAの溶解限界に達したので、架橋剤含有量と圧縮弾性率との間の関係は低下し始めた。このように、CBMAX架橋したヒドロゲルは、同等の名目上の架橋剤含有量において、MBAA架橋したヒドロゲルと比較して非常に高められた機械的特性を示した。CBMAX架橋剤の水溶性は、さらに、以前に可能であったよりも、広い処方範囲に到達するのを可能にする。架橋剤のみ(モノマーなし)の重合により得られたヒドロゲルは、より高い含水量(60%)、優れた非ファウリング特性(非ファウリングpHEME参照ヒドロゲルより約90%低い非特異的細胞接着)、および高い機械的強度(約8MPaの圧縮弾性率)を有することが示された。さらに、CBMAモノマーで得られたようなCBMAX架橋剤で構成されるこれらのヒドロゲルは、単純なEDC/スルホNHSケミストリーによって機能付与することができる。
【0108】
以下の例は例示の目的で与えられ、本発明を限定するものではない。
【0109】
例
<材料> NN,N’−メチレンビス(アクリルアミド)、過硫酸アンモニウム、ビス亜硫酸水素ナトリウム、2−(N−モルフォリノ)エタンスルホン酸(MES)、メタクリル酸、イオン交換樹脂(IRA 400OH型)、およびリン酸緩衝食塩水は、シグマアルドリッチ(セントルイス,MO)から購入した。エタノールはデーコンラブス(Decon Labs)(キングオブプロシア,PA)から、アセトニトリルおよびジエチルエーテルは、イーエムディーバイオサイエンシズ(EMD Biosciences)(ギブスタウン,NJ)から、エチレングリコールはヴィーダブリュ−アール(VWR)(ウェストチェスター,PA)から、テトラメチレングリコールジメタクリレートはポリサイエンシズ(Polysciences)(ウォリントン,PA)から、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、t−ブチルブロモアセテート、およびN−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(CHES)はティーシーアイアメリカ(TCI America)(ポートランド,OR)から、および、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)はバイオ−ラドラボラトリーズ(Bio−Rad Laboratories)(ハーキュリーズ,CA)から購入した。N−メチルジエタノ−ルアミン、トリエタノールアミン、メタンスルホン酸、およびトリフルオロ酢酸は、アクロスオーガニクス(Acros Organics)(モリスプレーンズ,NJ)から購入した。ダルベッコ変法イーグル培地、ウシ胎児血清、非必須アミノ酸、およびペニシリン−ストレプトマイシンは、インヴィトロゲンコープ(Invitrogen Corp)(カールズバッド,CA)から購入した。シクロ(アルギニン−グリシン−アスパラギニン−D−チロンシン−リジン)ペプチド(cRGD)は、ペプチドインターナショナル(Peptides International)(ルーイビル,KY)から購入した。過酸化水素および塩化ナトリウムは、ジェイティーベイカー(J.T.Baker)(フィリップスバーグ,NJ)から、およびイムノピュアー(ImmunoPure)(登録商標)o−フェニレンジアミンジハイドロクロライドはピース(Pierce)(ロックフォード,IL)から購入した。西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)−接合した抗フィブリノーゲンは、ユーエスバイオロジカル(US Biological)(スウォンプスコット,MA)から購入した。COS−7細胞(アフリカミドリザル線維芽細胞細胞)は、アメリカンティッシューカルチャーコレクション(American Tissue Culture Collection)(マナッサス,VA)から購入した。ここで用いた全ての水は、ミリポア簡易水精製システムで18.2mΩまで精製した。
【0110】
<例1>
<代表的な双性イオン架橋剤:1−カルボキシ−N−メチル−N−ジ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(CBMX)および1−カルボキシ−N−トリ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(CBMA3X)の合成>
この例においては、本発明の代表的な双性イオン架橋剤1−カルボキシ−N−メチル−N−ジ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(CBMX)および1−カルボキシ−N−トリ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(CBMA3X)の合成を説明する。合成は、図2に示す。
【0111】
<N−メチル−N−ジ(エタノールアミンメタクリレート)(1)> N−メチルジエタノールアミン(11.9g,0.1mol),トルエン(100ml),ヒドロキノン(2.0g),およびメタクリル酸(21.5g,0.25mol)を、スターラー、コンデンサーおよびディーンスター(Dean−Star)トラップを有する500mLの反応フラスコに加えた。メタンスルホン酸(14.4g,0.15mol)をゆっくりと加え、混合物を加熱して還流した。反応の理論水を共沸的に捕集した後、溶液を室温に冷却した。混合物は、その後、25wt%の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、有機相を10%のブライン溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥した。溶液をろ過し、ろ液を活性炭および塩基性アルミナでさらに処理した。得られた溶液を真空下で除去して、無色の油が73%の収率で得られた。1H−NMR(CDCl3)δ:6.10(s,2H),5.56(s,2H),4.25(t,J=6.0Hz,4H),2.78(t,J=6.0Hz,4H),2.39(s,3H),1.94(s,6H)。
【0112】
<N−メチル−N−ジ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)−N−1−(t−ブチロイルオキシカルボニルメチル)アンモニウムブロマイド(2)> 化合物(1)(12.75g,50mmol),t−ブチルブロモアセテート(11.70g,60mmol),アセトニトリル(100ml)を、窒素充填されたフラスコ内で混合した。混合物は、60℃で2日間攪拌した。溶媒を真空下で除去し、残渣をエーテルで洗浄し、乾燥して白色固体を90%の収率で得た。1H−NMR(CDCl3)δ:6.15(s,2H),5.67(s,2H),4.80(s,2H),4.73(t,J=6.0Hz,4H),4.47(m,4H),3.75(s,3H),1.95(s,6H),1.48(s,9H)。
【0113】
<1−カルボキシ−N−メチル−N−ジ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(3)(CBMAX)> トリフルオロ酢酸(TFA,30ml)を含むジクロロメタン(120ml)中で2日間、室温で処理して、化合物(2)のt−ブチルエステル部分(13.5g,30mmol)を除去した。溶媒を真空下で除去し、アセトニトリル(120ml)で置換した。イオン交換樹脂(IRA400 OH型)の上で溶媒を中和し、次いで、濃縮し、エタノール中で沈殿させ、最後に真空乾燥して、定量的収率で白色固体を得た。1H−NMR(D2O)δ:6.05(s,2H),5.66(s,2H),4.56(t,4H),4.20(m,2H),3.95(m,4H),3.24(s,3H),1.83(s,6H)。
【0114】
<1−カルボキシ−N−トリ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(4)(CBMA3X)> 化合物4は、CBMAXの場合と同様の方法を用いて、トリエタノールアミンとメタクリル酸とからN−トリ(エタノールアミンメタクリレート)を得、次いで、t−ブチルブロモアセテートと反応させて、N−トリ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)−N−1−(t−ブチルオキシカルボニルメチル)アンモニウムブロマイドを得た。t−ブチルエステル部分の除去後、白色固体として化合物4を得た。1H−NMR(D2O)δ:6.07(s,3H),5.70(s,3H),4.60(t,6H),4.20(t,6H),4.04(s,2H),1.85(s,9H)。
【0115】
<例2>
<代表的な双性イオン架橋ヒドロゲル:CBMA/CBMAXの合成および特性>
この例においては、本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成を説明する。双性イオンCBMAX架橋したヒドロゲル(CBMA/CBMAX)の特性は、双性イオンMBAA架橋したヒドロゲル(CBMA/MBAA)と比較した。
【0116】
2−カルボキシ−N,N−ジメチル−N−(2’−(メタクリロイルオキシ)エチル)エタンアミニウム分子内塩(カルボキシベタインメタクリレート、CBMA)は、Zhang Z,Chao T,Chen S,Jiang Sに述べられているように合成した。ガラススライド上に、超低のファウリングスルホベタインおよびカルボキシベタインポリマー。Langmuir 2006;22(24):10072−10077。
【0117】
<ヒドロゲル合成>
モノマー溶液は、1MのNaCl中で65重量%のモノマーの濃度に調製した。これらの溶液に、架橋剤(N’,N’−メチレンビス(アクリルアミド)(MBAA)またはCBMAX(例1で述べたように調製された)を、2〜23%(モノマーのモルパーセント)の範囲の量で加えた。上述のCBMAX処方は、モノマーと架橋剤との一定の総量を維持し、それらの相対モル量を調整することによって75%まで調製した。100%のCBMAXは、1MのNaClに所望量のCBMAXを溶解することによって単純に調製した。溶液は、超音波処理により混合した。いくつかの場合(上述の約10%MBAA)において、架橋剤は、完全には溶解しなかった。過硫酸アンモニウムの40%溶液および15%のメタ亜硫酸水素ナトリウムを溶液に加えて、重合を開始した。溶液は、0.5または2mm厚のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)スペーサーで隔てられたガラス製の顕微鏡スライドの間で60℃で重合させた。ゲルは、その後、スライドから取り除き、リン酸緩衝食塩水(PBS)中に浸漬して水和させた。この水和水は5日間絶えず取り換えて、未反応の化学物質および過剰の塩を除去した。バイオプシーパンチを用いて、水和されたヒドロゲルを直径5mmの薄い円盤状に抜いた。1部のエタノール、1.5部のエチレングリコール、および1.5部の水を含有する1.5ml中の混合溶媒に、0.78mlのHEMAモノマーを混合することによって、HEMAヒドロゲルを調製した。架橋剤テトラエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)を、次いで加え(60μl)、得られた溶液を超音波処理してよく混合した。最後に、24μlの40%過硫酸アンモニウムおよび7.5μlのTEMEDを加えた。このヒドロゲルは、上述したように形成された。
【0118】
<ヒドロゲルの膨潤特性>
ヒドロゲルは、PBS中で5日間、平衡状態まで膨潤させた。直径0.5cmの円盤は、0.5mm厚さの膨潤したゲルキャストから切り出した。円盤は、秤量した後、50℃、30インチHgの真空下で3日間脱水した。乾燥したヒドロゲルの円盤は、ノギスを用いて測定し秤量した。膨潤したヒドロゲルにおけるポリマーの体積分率(Φ)は下記式で与えられる。
【数1】
【0119】
ここで、D0およびDは、それぞれ、乾燥および膨潤した円盤の直径である。緩和された(非膨潤)ヒドロゲルにおけるポリマーの体積分率φ0は、モノマー/架橋剤溶液から決定される。溶液の体積を、加えられた水の体積と比較する。体積における違いは、モノマーの体積として受け止められ、これは、重合後のポリマーの体積に相当する。
【0120】
平衡含水量の値は、以下のように定義される。
【数2】
【0121】
ここで、mwは湿潤ヒドロゲルの質量であり、mdは乾燥ヒドロゲルの質量である。全てのサンプルは3回測定した。
【0122】
<酵素結合免疫測定法(ELISA)により評価されたタンパク質吸着>
フィブリノーゲン吸着を測定するために、直径0.5cmのヒドロゲル円盤(キャストした際に0.5mm厚)を、ウェルプレート中の1mg/mlのフィブリノーゲンで室温で15分間培養し、次いで、PBS緩衝液で4時間かけて洗浄した。ヒドロゲルは、その後、最後のPBS洗浄液から取り出し、新しいウェルに移した。それらは、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)接合した抗フィブリノーゲンを含むPBSの1:500希釈で10分間、次いで培養した後、同様の緩衝液でさらに5回洗浄した。ヒドロゲルは、その後、PBS緩衝液で4時間、繰り返し洗浄し、最後の洗浄液から取り出して新しいウェルに移した。最後に、1mg/mlのo−フェニレンジアミンハイドロクロライド(OPD)を含む0.1Mのリン酸クエン酸塩緩衝液、これはpH5.0で0.03%の過酸化水素を含有する、を500μl、それぞれのヒドロゲルに30秒間隔で加えた。サンプルは、OPD溶液中で光を避けて30分間培養した。上澄みは、それぞれのヒドロゲル円盤から取り出してキュベットに移し、492nmにおけるその吸光度を測定した。全てのサンプルは、3回測定した。
【0123】
<ヒドロゲルへの細胞吸着>
直径0.5cm(キャスト時に0.5mm厚)の3つのヒドロゲル円盤を、500μlのPBS溶液とともに48−ウェルプレートのウェル内にそれぞれ配置した。ヒドロゲルを滅菌するために、それらは、UV光を30分間照射し、1xペニシリン−ストレプトマイシンを含むPBS中で一晩冷凍した。COS−7細胞(p=7)は、補充されたダルベッコ変法イーグル培地中104cells/mlの濃度で、ヒドロゲルの上にまいた。細胞は、37℃、5%CO2、100%湿度で72時間成長させ、その後、Nikon Eclipse TE2000−U顕微鏡により倍率10Xでヒドロゲルを撮影した。ヒドロゲルの表面における5つの所定の領域で写真撮影し、ヒドロゲルの処方当たり合計で15画像について、それぞれの画像からの付着細胞の数を合計して、pHEMAヒドロゲルに吸着した細胞の数で規格化した。
【0124】
<EDC/スルホNHSケミストリーによって機能付与されたRGD>
CBMA/MBAAおよびCBMA/CBMAXのゲルは、cRGDで機能付与した。直径0.5cm(キャスト時0.5mm厚)の3つの薄い円盤状のヒドロゲルを、24−ウェルプレートのウェル内に配置した。それぞれの処方の全てのゲルは、2つのグループに分けた。それぞれのグループのゲルは同じウェル内に配置し、それぞれのヒドロゲルの表面が覆われないことを確保するよう配慮した。ヒドロゲルは、500μlのMES緩衝溶液(pH=5.5,10mM MES,100mM NaCl)中で一晩培養した。MESは、その後、各処方の1つのグループから取り出し、5mMのスルホNHSおよび100mMのEDCを含有するMESベースの緩衝溶液500μlで、室温で2時間置換して、表面を活性化した。対照として、それぞれの処方の第2のグループは、5mMのスルホNHSのMESベースの緩衝溶液で、同じ時間培養した。EDC/スルホNHS溶液およびスルホNHS溶液は、その後、ウェルから取り出し、ヒドロゲル円盤をMES緩衝液で3回洗浄した。全てのウェルに、1.4mMのcRGDを含有するCHES緩衝液(pH=9,50mM CHES,100mM NaCl)をさらに500μl加え、室温で反応を進行させた。3時間後、ヒドロゲルをPBEで3回洗浄した。洗浄1回当たり10分とした。最後に、機能付与された表面が上向きでとどまるよう留意して、ヒドロゲルを48ウェルポリスチレン組織培養プレートの個々のウェルに移した。ヒドロゲルは、ペニシリン−ストレプトマイシンで上述のように滅菌し、細胞接着も、上述したように翌日行なった。
【0125】
<ヒドロゲルの機械的強度>
各処方の少なくとも5つの直径0.5cmの円盤(キャスト時2mm厚)は、10Nロードセルを有するInstron 5543Aメカニカル試験機(Instron Corp.,ノーウッド,MA)を用いて1mm/minの速度で破壊まで圧縮した。ヤング率は、初期の10%歪みから算出した。
【0126】
<CBMAヒドロゲルの物理的特性の計算>
ヒドロゲルの水和特性(膨潤および緩和した体積分率)および応力−歪み曲線は、異なる2−arm CBMAX−およびMBAA−架橋したヒドロゲル処方の架橋剤密度およびメッシュサイズを計算するために用いることができる。ヒドロゲルの架橋剤密度(νe/V)を計算するために、以下の式を用いた。
【数3】
【0127】
ここで、τsは、Paのユニット内の特定の歪みにおける応力であり、αは変形率、または圧縮下での架橋したヒドロゲルの初期長さに対する変形した長さの比である。Rは、一般的な気体定数であり、Tは絶対温度、φ2は、平衡(完全に膨潤したヒドロゲル)におけるポリマーの体積分率であり、φ0は、緩和状態(非膨潤であるが、水和していないヒドロゲル)の状態のポリマーの体積分率である。(α−α-2)に対するτsのプロットは、低い歪みにおいて直線状であり、架橋剤密度(νe/V)は、傾き(νe/V)(RT)(φ2/φ0)-2から抽出される。
【0128】
モルにおける架橋結合密度/単位体積は、等式(4)を用いて、架橋結合の間の距離またはメッシュサイズに変換することができる。
【数4】
【0129】
ここで、NAはアボガドロ数である。等式(4)は、モル/体積をモル当たりの体積に逆にし、モルを架橋結合の数に変換し、立方根をとって架橋結合当たりの距離を得る。この値は、事実上、ヒドロゲルの細孔サイズである。
【0130】
<例3>
<光重合により合成された代表的な双性イオン架橋ヒドロゲル:CBMA/CBMAXの合成および特性>
この例においては、光重合により合成された、本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成を説明する。
【0131】
<CBベースヒドロゲルの合成>
モノマーおよび架橋剤の溶液を、47重量%の重合性材料を用いて、1MのNaCl中に調製した。架橋剤(CBMAX)は、モノマー(CBMA)の2〜80モル%の範囲の量で含有させた。100%CBMAXのための溶液は、47wt%CBMAXを用いて、1MのNaClに所望の量のCBMAXを溶解させることにより調製した。全ての溶液は、氷水中で超音波処理することによって混合した。1%(wt/wt)の光開始剤、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパンをそれぞれの溶液に加え、氷水中での超音波処理を用いて溶液を完全に混合した。溶液は、1mm厚のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)スペーサーで隔てられたガラス製の顕微鏡スライドの間で、両側から30分間の365nmのUV照射によって重合させた。ゲルは、その後、スライドから取り出してPBS中に浸漬して水和させた。この水和水は、5日間絶えず取り換えて、未反応の化学物質および過剰の塩を除去した。バイオプシーパンチを用いて、水和したヒドロゲルを直径5mmの円盤に抜いた。
【0132】
<ヒドロゲルの水和特性>
膨潤したヒドロゲルは、PBS中で5日間平衡にした。0.5cm円盤は、完全に水和したヒドロゲルスラブから切り取って秤量した。円盤は、その後、真空オーブン中、45℃、30インチHg真空で3日間脱水した。膨潤比は、乾燥ヒドロゲル重量に対する膨潤ヒドロゲル重量の比から決定し、各円盤の平衡含水量(EWC)は、WC=100(%)*(mw−md)/mw、ここでmwは湿潤ヒドロゲルの質量であり、mdは乾燥ヒドロゲルの質量である、として決定した。全てのサンプルは3回測定した。異なるCBMAX含有量のCBMA−CBMAXヒドロゲルについて、EWC値を図7に示す。ゲルの架橋が進むと、EWCは、50モル%を超えるCBMAXを含有するゲルについて約51%の定常値に達するまで減少する。
【0133】
<ヒドロゲルの圧縮特性>
0.5cm直径(キャスト時に1mm厚)の少なくとも3つの円盤は、10Nロードセルを有するInstron 5543Aメカニカル試験機(Instron Corp.,ノーウッド,MA)を用いて1mm/minの速度で破壊まで圧縮した。ヤング率は、初期の10%歪みから算出した。図8および9は、異なるCBMAX取り込みを有するCBMA−CBMAXヒドロゲルの、圧縮強度および圧縮弾性率をそれぞれ示す。ゲルの圧縮の強度および弾性率は、架橋剤含有量が増加するにつれて上昇する。弾性率における傾向は、熱的な開始によって合成されたヒドロゲルの場合と同じであるが、値には10倍の増加がある。熱的に重合したヒドロゲルについての減少した弾性率の値は、ゲル全域の不均質性が原因であるとすることができ、これはイニシエーションの間の熱移動の制限の結果である。一部の不均質性は、機械的特性に逆の影響を及ぼすであろう。光重合したゲルについての弾性率における増加のための別の説明は、光開始剤の溶解性が原因であるとすることができる。光開始剤は、熱開始剤より水溶性が低く、より少ないポリマー鎖がイニシエートされるであろう。これは、より長いポリマー鎖に翻訳し、ヒドロゲル中のより多くの架橋結合を有するものと同じである。
【0134】
<ヒドロゲルの細胞毒性および内毒素性の試験>
光重合したCBMAX架橋のCBMAヒドロゲルは試験して、細胞毒性の化学物質またはエンドトキシン汚染物のいずれも含まないことを保証した。生体内の移植のために調製された材料はエンドトキシンを含まないべきであり、これは、グラム陰性菌の細胞壁からの細菌の残留物である。体外の細菌の残留物は重要でないものであるが、材料に対する異物応答を高め得る免疫応答を体外で誘発可能であり、体外試験の結果を複雑にする。
【0135】
細胞毒性について試験するために、完全に水和したヒドロゲルの円盤を、補充された成長培地(89%のダルベッコ変法イーグル培地、10%のウシ胎児血清、1%のペニシリン−ストレプトマイシン、および1xの非必須アミノ酸)中に24時間浸漬し、すぐに培地をヒドロゲルから取り出して、COS−7細胞の培養に用いた。これは、新鮮な補充された培地中で事前に24時間、平板培地で成長したものである。細胞は、その後、ヒドロゲル注入で補充された培地で、さらに48時間培養し、細胞の増殖および健康状態の指標として、そのモルフォルジーを分析した。ヒドロゲル注入で補充された培地で、または新鮮な培地参照のいずれで培養されても、全ての細胞集団は、同等の増殖および健康状態の程度を示した。
【0136】
エンドトキシン汚染について試験するために、カブトガニ血球抽出成分(LAL)エンドトキシン試験を、標準手順にしたがって行なった。サンプルは、LALを含まない水で数日間抽出し、水は、次いで、約0.06EU/ml(Lonza)を超えるエンドトキシンを検出する感度を有する酵素測定法を用いて、エンドトキシンの存在下で試験した。この検出限界の濃度のエンドトキシンの存在において、酵素測定法溶液は、それ自体が架橋してゲルを形成したが、この濃度より低いエンドトキシンレベルにおいては、ゲル化は生じないであろう。標準は、サンプルと一緒に試験して結果を確認した。ゲル化測定法は、試験された全てのヒドロゲルがエンドトキシンを含まないことを明らかにした。
【0137】
<例4>
<光重合により合成され、架橋剤勾配を有する代表的な双性イオン架橋ヒドロゲル:CBMA/CBMAXの合成および性質>
この例においては、光重合により合成され、架橋剤勾配を有する本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成および性質を説明する。
【0138】
<ヒドロゲル合成>
モノマー(CBMA)溶液は、1MのNaCl中に65wt%の濃度で調製した。この溶液は、超音波処理して混合し、冷凍した。上述で用いられたものと同様の光開始剤をモノマー溶液に加え、モノマー−開始剤溶液を、2mm厚のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)スペーサーで隔てられた2枚の顕微鏡スライドの間にそのままで仕込んだ。次に、架橋剤(CBAMX)の65wt%溶液を同様に調製し、同様に超音波処理して冷凍した。この溶液をモノマー溶液に注意深く加えて、その後、顕微鏡スライド器具の中に仕込んだ。異なる溶液密度に起因して、拡散が架橋剤勾配を作り出す前に、架橋剤溶液は器具の底へ沈むように見えた。この現象の目視観察は、架橋剤中の微量の着色物質により可能とされた。このプロセスは、図10に示した。最後に、拡散が溶液を均質にする前であるが、長波長UV光により30分間重合を開始し、その後、ガラススライドからヒドロゲルを取り除き、PBS中で5日間水和させた。
【0139】
<勾配分析>
勾配を有するヒドロゲルの架橋剤プロファイルは、ヒドロゲルスラブの長さに沿った平衡含水量の測定から定量した。5mm円盤は、ゲルの縁に沿った近接する部分から切り出し、架橋剤濃度のより高い領域(より濃く着色された、図10参照)から、架橋剤濃度のより低い領域である。円盤は秤量し、50℃、30インチHg真空で3日間徹底的に脱水し、再度秤量した。各円盤の平衡含水量は、EWC=100(%)*(mw−md)/mw、ここでmwは、湿潤ヒドロゲルの質量であり、mdは乾燥ヒドロゲルの質量である、として決定した。
【0140】
<ヒドロゲル特性評価>
異なるCBMAS濃度、2%CBMAXから100%CBMAXの範囲、を有するCBMAヒドロゲルについて平衡含水量を、前もって測定した。この実証された関係を用いると、同じCBMA/CBMAXヒドロゲル上の異なる位置で測定された平衡含水量を、それぞれの特定の位置におけるCBMAX含有量に換算することができる。さらに、前述の章において行なわれた物理的および機械的特性の広範な特性評価からの結果を用いると、架橋剤含有量プロファイルは、その対応する機械的(圧縮)弾性率、メッシュサイズ、および架橋剤密度(図11〜14)と相関がある。
【0141】
<勾配を有するヒドロゲル形成および分析>
勾配を有するゲルは、上述したように形成された。架橋剤中に含まれる着色トレーサーに起因して、勾配は肉眼で見ることができる(図15)。平衡含水量は、図11に示される関係を用いて架橋剤含有量に換算した。最も高い架橋剤エッジで始まるゲルに沿った距離の関数として、架橋剤含有量を図16に示す。約100%〜30%の範囲の架橋剤含有量は、中間の領域内で極めて均一な勾配を有し、一方の端においてより高い架橋剤濃度を有する単一物質の成功した構造を示す。
【0142】
ヒドロゲルは、多種多様で空間的に制御された特性を伴なって形成される。架橋剤含有量は、約100%〜30%の範囲であり、中間の領域内で極めて均一な勾配を有する。用いられる材料、CBMAモノマーおよびCBMA架橋剤、は同じ主鎖および側鎖を有するので、ヒドロゲル全体としては実質的に単一物質で構成される。このように、含水量、架橋剤密度、およびメッシュサイズにおける勾配は、非ファウリングおよび機能付与性のようなある種の所望の特性の連続性を損なわなかった。
【0143】
ヒドロゲルは単一物質から作製され、架橋結合の均一な勾配と、対応する物理的、機械的および水和特性とを示す。モノマーと架橋剤とは、1または2のメタクリレート基によってのみ互いに異なり、こうして、全体の構造は単に双性イオンカルボキシベタインおよびメタクリレートからなる。すなわち、勾配は、メタクリレート対双性イオン比の漸進的な増加によって形成される。100%架橋剤(2:1のメタクリレート対双性イオン)においてさえ、ヒドロゲルは、非ファウリングpHEMAヒドロゲルより90%低い非特異的な細胞接着、および優れた機能付与を示す。このように、全体の勾配に沿って、機械的強度ならびに架橋剤密度の減少、および細孔サイズならびに水和作用の増加にもかかわらず、材料は、双性イオン性および機能付与性を維持して、ゲル制御可能な生理活性を与える。
【0144】
<例5>
<グルコースバイオセンサーのための双性イオンポリ(カルボキシベタイン)ヒドロゲル>
この例においては、グルコースイオンセンサーにおける本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの使用を述べる。
【0145】
<ポリCBMAヒドロゲルの合成> CBMAモノマーは、まず水と混合し、溶液を1分間超音波処理してモノマーを溶解した。CBMAXを上述の溶液に加え、0℃で1分間、混合物を超音波処理して溶解を完結させた。CBMAとCBMAXとのモル比は、1000:1,100:1,10:1,および5:1であり、CBMAの最終的な濃度は10Mであった。1%(w/w)光開始剤(Benacure 1173)を加え、溶液を0℃で混合した。溶液を、0.4mmのPTFEスペーサーで隔てられた一対のガラス板の中に移した。365nmUV光のもと、室温で30分間光重合反応を行なって、ヒドロゲルを重合させた。その後、ヒドロゲルをプレートから取り除き、大量のPBS中に浸漬した。PBSは、5日間絶えず取り換えて、さらなる使用前に残留する化学物質を除去した。
【0146】
<ヒドロゲルの機械的および細胞接着特性の分析> ヒドロゲルは、PBS緩衝液中で5日間、平衡状態になるまで膨潤させた。平衡になったヒドロゲルは、次いで、5mmの直径を有する円盤に抜いた。円盤を秤量した後、50℃、30インチHg真空における真空のもとで3日間脱水した。膨潤比は、乾燥ヒドロゲルの重量に対する膨潤ヒドロゲルの重量の比によって決定し、平衡含水量の値は上述したように決定した。全てのサンプルは、3回測定した。図17に示されるように、最も高い含水量は、0.1%CBMAXヒドロゲルについて得られ、これは94.19±0.26%である。CBMAXモル比が大きくなると、含水量は減少する。
【0147】
5mm直径の3つのヒドロゲル円盤(キャスト時0.5mm)を、500μLのPBS溶液とともに48ウェルプレートのウェル内にそれぞれ配置した。ヒドロゲルを滅菌するために、1xペニシリン−ストレプトマイシンを含むPBS中で、それらを一晩冷凍した。COS−7細胞(p=7)は、補充されたDMEM中1x104cells/mLの濃度でヒドロゲルの上にまいた。細胞は、37℃、5%CO2、および100%湿度で72時間成長させ、その後、ヒドロゲルは10×倍率のNikon Eclipse TE2000−U顕微鏡で写真撮影した。ヒドロゲルの表面の5つの所定の領域で、ヒドロゲル処方当たり合計15の写真撮影を行なった。GOx固定化の前後において、異なるCBMAXモル比ポリCBMAヒドロゲルの表面への細胞結合の違いを、図18A〜図18Hに定量的に示す。10%CBMAXを除く全てのポリCBMAヒドロゲルは、GOx固定化の前後の細胞吸着に高い抵抗を有する。すなわち、非常に低い量の表面への細胞接着があった。
【0148】
<ポリCBMAヒドロゲル被覆されたグルコースセンサーの合成> グルコースセンサーは、コイル型の移植可能なセンサーに基づく。コイル型の移植可能なセンサーは、40〜50mmの長さの白金ワイヤの上部10mmを、25ゲージのニードルに沿って巻き付け、コイル状のシリンダーを形成した。ポリpCBMAヒドロゲルの接着を改善するために、10%(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレートおよび0.5%の水をトルエン中に含む溶液を用いて、80℃でコイルの表面に機能付与した。グルコースセンサー先端へのヒドロゲルコーティングの形成のために、1.2μLの混合溶液(CBMA、CBMAX、および開始剤とともに水)をセンサーの先端にピペットで加えた。溶液は、先端の表面にわたって均一に広がった。254nmのUV光への30分間の露出の後、センサー(Pt/CBMA/GOxと称される)は、さらなる使用までPBS中に保管した。
【0149】
<NHS/EDCケミストリーによる酵素固定化> ポリpCBAAヒドロゲルのカルボキシル基は、N−ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム(5mM)およびN−エチル−N’−(3−ジエチルアミノプロピル)カルボジイミドハイドロクロライド(EDC)(100mM)を含有する10mMのMES緩衝液(pH 5.5,100mM NaCl)の新たに調製された溶液の導入により、25℃で2時間活性化した。その後、センサーを取り除いて、大量の上述のMES緩衝液中に2時間浸漬した。MES緩衝液は、数回交換して、残留する化学物質を除去した。センサーは、MES緩衝液中グルコースオキシダーゼ(GOx)(10mg/mL)を含む新たに調製された溶液中に4℃で4時間、次いで、PBS緩衝液にグルコースオキシダーゼ(GOx)(1mg/mL)を含む新たに調製された溶液中に4℃で2時間、浸漬した。さらなるグルコース試験の前、センサーは、大量のPBS中に浸漬して、全ての不安定な結合を除去した。
【0150】
<生体外のセンサー評価> センサーの生体外性能をグルコースPBS溶液中で観察して、センサーの感度および線形範囲を決定した。Pt/CBMA/GOxセンサーの感度は、まず、4および2mMのグルコースPBS溶液を用いて測定した。PBSの基本電流とサンプル中のグルコースの定常安定電流との間の差を用いて、検定グラフを得た。その後、100%のヒト血清中に分散されたグルコース溶液で、センサーを試験した。長期間にわたるセンサー評価のために、センサーは、異なる培養日数での次の試験の前に、4℃の100%ヒト血清中に浸漬した。血清サンプル中でのグルコースを測定するとき、基本電流は血清中でとられ、次いで、センサーをサンプル内に移して定常安定電流を得る。全ての実験は室温で行ない、全ての溶液は測定の間、攪拌した。電流測定は、+0.75Vvs.Ag/AgClおよび白金ワイヤカウンター電極で、室温で行なった。異なるCBMAXモル比のポリCBMAヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答を、PBS中におけるグルコース濃度の関数として、図19A〜図19Dに比較する。全てのセンサーは、非常に高い安定性、およびPBS中における電流応答を示す。さらに、それらの応答は遅延せず、4〜20mMの範囲にわたって優れた線形性を有する。異なるCBMAXモル比のポリCBMAヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答を、100%血清中におけるグルコース濃度の関数として、図20A〜20Dに比較する。0.1%CBMAXモル比のポリCBMAヒドロゲルで被覆されたセンサーは、10日を越えて血清に曝した後においても感度および線形性に低下はみられないが、一方、他のセンサーは良好に行なうことができない。結果は、ポリCBMAヒドロゲルコーティングの添加が、移植されたグルコースセンサーの長期間にわたる性能を改善することを示唆する。
【0151】
<例6>
<金ナノ粒子のための双性イオンポリ(カルボキシベタイン)ヒドロゲル>
この例においては、グルコースバイオセンサーにおける本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの使用を述べる。
【0152】
<イニシエーター修飾された金ナノ粒子の合成(GNPs)> アイザー(either)HAuCl4(30mL)の5mM水溶液を、トルエン(80mL)中に4mMのテトラオクチルブロマイド(TOAB)を含有する溶液に、10分間攪拌しつつ加えた。その後、NaBH4(0.4M,25mL)水溶液を激しく攪拌しつつ、この溶液に滴下して加えた。暗橙溶液は、数分の間に赤色に変わり、攪拌を3時間続けて、反応が完了したことを確かめた。その後、2つの相を分離し、有機相を0.1MのH2SO4、0.1MのNaOH、および水で引き続いて洗浄した(それぞれ3回)。その後、イニシエーター、274.2mgの11−メルカプトウンデシル2−ブロモイソブチレート(Br(CH3)2COO(CH2)11SH)(0.808mmol,1mLのトルエンに溶解させた)を、滴下の方法により15分間で溶液に加えた。反応は、一晩、進行させた。メタノール(60mL)を系に加えて、Au−NPsを沈殿させた。沈殿物を回収し、トルエン中で再分散させ、エタノール中に再沈させた。この沈殿および再分散のサイクルは、純粋なAu−NPs(すなわち、反応副生成物を含まない)が得られる前に2回繰り返した。NPsは、凝集することなくアセトン中によく分散して、Au−NPsの平均直径は約5nmであった。
【0153】
<ATRP(CA−GNPs)を介したCBMA被覆されたGNPsの製造> 300mgのCBMAモノマー、61.70mgの2,2−ビピリジン、および28.53mgの臭化銅(I)を、窒素雰囲気下、3mlの脱泡したアセトンおよび0.5mlのメタノールに加えた。1mLのイニシエーター修飾されたGNPs溶液は、上述の溶液と混合する前に窒素でバブリングすることによって脱酸素化した。最終混合物は、室温で2時間攪拌した(100rpm)。重合後、CA−GNPsは、水中で遠心分離/再分散させることによって数回洗浄した。CA−NPsの平均直径は、水中で69.8nmであった。
【0154】
<ATRP(OA−GNPs)を介したOEGMA被覆されたGNPsの製造> 47.7mgの臭化銅(I)、7.43mgの臭化銅(II)、および104mgの2,2−ビピリジンを、窒素のもと、4mlの脱泡したアセトンに溶解した。1mLのイニシエーター修飾されたGNPs溶液を、上述の溶液に加える前に、窒素でバブリングすることによって脱酸素化した。2gのマイクロモノマーOEGMAが得られ、最終混合物は室温で6時間攪拌した。重合後、OA−GNPsは、逆浸透水中で遠心分離/再分散させることによって数回洗浄した。PA−NPsの平均直径は、水中で72.4nmであった。
【0155】
<EGDMA架橋剤(OC−GNPs)を伴なったATRPを介したOEGMA被覆されたGNPsの製造> 47.7mgの臭化銅(I)、7.43mgの臭化銅(II)、および104mgの2,2−ビピリジンを、窒素下で4mlの脱泡したアセトンに溶解させた。1mLのイニシエーター修飾されたGNPs溶液を、上述の溶液と直接混合する前に、窒素でバブリングすることによって脱酸素化した。2gのマイクロモノマーOEGMAおよび126.4μLのEGDMAを加え、最終混合物を50℃で6時間攪拌した。重合後、OC−GNPsを逆浸透水中で遠心分離/再分散させることによって数回洗浄した。OC−NPsの平均直径は、水中で71.9nmであった。
【0156】
<CBMAX架橋剤(CC−GNPs)を伴なったATRPを介したCBMA被覆されたGNPsの製造> 300mgのCBMAモノマー、3.0mgのCBMAX、61.7mgの2,2−ビピリジン、4.4mgの臭化銅(II)、および28.533mgの臭化銅(I)を、窒素雰囲気下、3mlの脱泡したアセトンおよび0.5mlのメタノール中に溶解した。1mLのイニシエーター修飾されたGNPs溶液を、上述の溶液と直接混合する前に、窒素でバブリングすることによって脱酸素化した。最終混合物は、50℃で6時間攪拌した。重合後、CCE−GNPsは、逆浸透水中で遠心分離/再分散させることによって数回洗浄した。CC−NPsの平均直径は、水中で80nmであった。
【0157】
<ポリマー被覆されたGNPsの安定性試験> ポリマー被覆されたGNPsの安定性は、37℃の100%のヒトの血清中でさらに評価した。高いタンパク質濃度に起因して、これらのナノ粒子は、遠心分離によりヒト血清タンパク質から分離され、PBS緩衝液中に再分散させた。ナノ粒子の平均直径は、その後、DLSにより37℃で評価した。全ての溶液は、異なる培養時間における次の試験前に、37℃の100%のヒト血清と混合した。図21に示されるように、OA−GNPsは、非常に短い期間に約50nmのサイズ増加を示した。72時間の最終時点において、直径は約140nmに増加し、これは著しいタンパク質吸着および微粒子の凝集を示す。OC−GNPsは、そのような極端な状況下では安定でないものの、EGDMAの添加は安定性の向上を助けた。直径の増加量は、6時間および72時間の培養期間後、それぞれ6nmおよび30nmであった。沈殿物は、上述の溶液中に観察することができた。しかしながら、ポリCBAAコーティングでの保護を伴なう3種類のGNPs(CA−GNPs,CCE−GNPs,およびCCC−GNPs)は、タンパク質とナノ粒子との間の相互作用は、凝集を全く引き起こさず、ヒト血清タンパク質からの分離後の粒子サイズは、血清のない場合とほぼ同等(70nm,50nmおよび105.9nm)であり、その優れた安定性を示している。
【0158】
次に、ポリマー被覆されたナノ粒子を、非常に高い濃度でヒト血清と混合し、37℃で培養した。ナノ粒子の平均直径は、その後、37℃のDLSにより評価した。図22に示されるように、OA−GNPsは、サイズにおける約20nmの増加を6時間後に示した。この値は、約72時間後には200nmに増加し、これは、培養血清培地中でのタンパク質とのナノ粒子の相互作用に起因する。ここでも、EGDMAの添加は安定性を高めた。72時間の培養期間後、直径の増加は70nmであった。しかしながら、ポリCBMA被覆を伴なうと、全く凝集せず、3つのサンプルは全て、72時間の試験期間の間に明らかなサイズ増加なしに優れた安定性を示した。
【0159】
説明的な実施形態を示して述べたが、種々の変更は、本発明の意図や範囲から逸脱しない中で行ない得ることが理解されるであろう。
【0160】
独占的属性または特権である本発明の実施形態は、以下に限定するように主張される。
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2009年11月6日に出願された米国出願第61/259,074の優先権を主張するものであり、その全体の内容を本明細書の一部として援用する。
【連邦政府の許諾権の陳述】
【0002】
本発明は、海軍研究事務所により認められ契約番号N000140910137およびN000140711036のもとでの政府の助成を受けてなされたものである。政府は、本発明において正当な権利を有する。
【発明の背景】
【0003】
ヒドロゲルは、進入型の組織環境を模倣し、高い拡散浸透性を保証し、生物模倣型の機械的強度を与えることに起因して、長い間、生物学的および医用材料用途に関心を抱かせてきた。ヒドロゲルの一般的な特性に加えて、欠陥が少なく生体不活性であって多用途であると通常考えられているので、特別な関心は、PEGヒドロゲルおよびポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)ヒドロゲルに与えられる。
【0004】
pHEMAヒドロゲルは、とりわけコンタクトレンズ、人工角膜、薬剤送達媒体、軟骨代替物、および組織骨格のような用途に用いられて、研究されてきた。しかしながら、pHEMAの水和は天然組織のそれより低く、その欠陥は低いものの他の非ファウリング材料より高い。さらに、ヒドロキシル基を介するpHEMAの機能付与は、一般に困難である。
【0005】
PEGヒドロゲルはルーチン的に用いられ、付加的な官能基がPEGヒドロゲルに導入される際に、制御されたインビトロおよびインビボの使用のための特異的に付加された生理活性官能基を伴なう生物学的不活性な基礎環境を必要とする用途のためにのみ修飾することができた。しかしながら、PEGは酸化を受けやすいことが見出された。酸化ダメージへのPEGの感受性は、長期の材料安定性を必要とする用途について、その有用性を減少させる。しかしながら、最大の生物学的安定性および非ファウリングが要求される用途のためには、PEGベースの材料は不十分である。
【0006】
近年、双性イオン化合物は、これはポリ(カルボキシベタインメタクリレート)(pCBMA、スキーム1、構造1)を含むものであるが、極低いファウリングが実証され、5ng/cm2未満のタンパク質吸着を許すポリマーで被覆された表面を意味する。双性イオンポリ(カルボキシベタインメタクリレート)で被覆された表面は、たとえ未希釈の血漿および血清からの非特異性タンパク質吸着に対しても大きな耐性を有し、また、生物緑膿菌による長期の細菌性コロニー形成を室温で10日まで禁止する。双性イオン材料の極低ファウリングは、逆の電荷の周りの高い水和、および水和層を除去するために必要とされる高いエネルギーに起因する。さらに、CBMA(カルボキシベタインメタクリレート)は、通常のEDC/NHSケミストリーによって機能付与される。
【0007】
双性イオン材料の高い水和および極低いファウリング特性のために、双性イオンヒドロゲルは医用用途のために優れた適合性を有するヒドロゲルとして興味の対象である。スルホベタインメタクリレート(SBMA)および混合電荷ヒドロゲルへの低いタンパク質付着、およびカルボキシベタインメタクリレートゲルへの低い細胞接着が立証されてきた。しかしながら、これまでに研究された双性イオンヒドロゲルは低い機械的強度を示し、このことは、その潜在的な生体利用を制限する。それゆえ、改善された機械的特性を有するヒドロゲルについての必要性が存在する。
【0008】
これらの双性イオンヒドロゲルのもう1つの基本的に制限する特徴は、親水性の架橋剤の欠乏である。最も通常に用いられている市販の“親水性”架橋剤は、N,N’−メチレンビス(アクリルアミド)(MBAA,スキーム1,構造2)である。非常に低い濃度において水溶性であるこの架橋剤は、約10%の架橋剤濃度、特に双性イオンヒドロゲルの形成に理想的な塩溶液中においてのみ、適度に可溶性である。pSBMAおよびpCBMAとの重合のための付加的な問題は、重合性部分の固有の不適合である。すなわち、架橋剤の大きく異なる化学構造は、成長するメタクリレートポリマー鎖への乏しい取り込みをもたらす。おそらく、双性イオンヒドロゲル中の架橋剤としてMBAAの最も受け入れられない特徴は、双性イオンモノマーが行なうようには、水を形成しないことである。双性イオン材料中に逆の電荷の周りで形成された水は、非ファウリングメカニズムを与える。すなわち、MBAAは整った水を分解して、タンパク質、細菌、および細胞さえも結合する部分を示し、ヒドロゲルをファウルする。さらに、MBAA架橋剤は、機能性をもたせることができない。
【0009】
非架橋の双性イオンヒドロゲルの有利な性質を維持した架橋双性イオンヒドロゲルについての要求が存在する。本発明は、この要求を満たして、関連する利点を提供する。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、双性イオン架橋剤、双性イオンモノマーと双性イオン架橋剤との共重合から合成された架橋した双性イオンヒドロゲル、架橋した双性イオンヒドロゲルの合成方法、および架橋した双性イオンヒドロゲルを含む装置、および架橋した双性イオンヒドロゲルを用いる方法を提供する。
【0011】
一態様において、本発明は下記式を有する架橋剤を提供する。
【化1】
【0012】
ここで
R1およびR2は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、および、C6〜C12アリール基からなる群から独立して選択され;
R3は、C1〜C6アルキル、C6〜C12アリール、CH2=C(R1)−L1−、およびCH2=C(R2)−L2−からなる群から選択され;
L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から独立して選択され、ここでnは1〜20の整数であり;
L3は、−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数であり;
A1は、C,S,SO,P,またはPOであり;
X-は、N+カチオン中心に結合する対イオンであり;および
M+は、(A1=O)O-アニオン中心に結合する対イオンである。
【0013】
一実施形態において、A1はCまたはSOである。
【0014】
他の態様において、本発明は、本発明の架橋剤で架橋した架橋ヒドロゲルを提供する。一実施形態においては、架橋したヒドロゲルは、繰り返し単位と複数の架橋結合とを有する架橋したポリマーを含み、それぞれの繰り返し単位は下記式を有する。
【化2】
【0015】
ここで
R4は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6−C12アリール基からなる群から選択され;
R5およびR6は、アルキルおよびアリールからなる群から独立して選択され、またはそれらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成し;
L4は、カチオン中心[N+(R5)(R6)]をポリマー主鎖[−(CH2−CR4)n−]に共有的に結合するリンカーであり;
L5は、アニオン中心[A2(=O)−O-]をカチオン中心に共有的に結合するリンカーであり;
A2は、C,S,SO,P,またはPOであり;
M+は、(A2=O)O-アニオン中心に結合する対イオンであり;
X-は、カチオン中心に結合する対イオンであり;
nは、5〜約10,000の整数であり;および
それぞれの架橋結合は下記式を有する。
【化3】
【0016】
ここで
R1およびR2は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基,およびC6−C12アリール基からなる群から独立して選択され;
R3は、C1〜C6アルキル、C6〜C12アリール、CH2=C(R1)−L1−,CH2=C(R2)−L2−からなる群から選択され、またはR3は、第3の架橋結合、−L1−CR1−CH2−または−L2−CR2−CH2−)の残部であり;
L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から独立して選択され、ここでnは1〜20の整数であり;
L3は−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数であり;
A1は、C,S,SO,P,またはPOであり;
xは、約5〜約10,000の整数であり;
X-は、N+カチオン中心に結合する対イオンであり;および
M+は、(A=O)O-アニオン中心に結合する対イオンである。
【0017】
他の実施形態において、架橋したヒドロゲルは、繰り返しを有する架橋したポリマーを含み、ここでそれぞれの繰り返し単位は下記式を有する。
【化4】
【0018】
ここで
R7およびR8は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基からなる群から独立して選択され;
R9,R10,およびR11は、アルキルおよびアリールから独立して選択され、またはそれらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成し;
A3(=O)−OM)はアニオン中心であり、ここでA3は、C,S,SO,P,またはPOであり、Mは金属または有機対イオンであり;
L6は、カチオン中心[N+(R9)(R10)(R11)]をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーであり;
L7は、アニオン中心[A(=O)−OM]をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーであり;
X-は、アニオン中心に結合する対イオンであり;
nは、約5〜約10,000の整数であり;および
pは、5〜約10,000の整数である。
【0019】
他の態様において、本発明は基材の表面を提供し、ここで表面は本発明の架橋ヒドロゲルを含む。
【0020】
以上の態様および本発明に付随する特徴の多くは、添付した図面に関連した以下の詳細な説明を参照することによって、よりよく理解されるのと同様に、より容易に認識されるようになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、カルボキシベタインモノマーである、カルボキシベタインメタクリレート(CBMA)(1)、N,N’−メチレンビス(アクリルアミド)(MBAA)(2),およびカルボキシベタインジメタクリレート(CBMAX)(3)の化学構造を示す。
【図2】図2は、本発明の代表的な双性イオン架橋剤である、カルボキシベタインジメタクリレート(CBMAX)(3)、およびカルボキシベタインジメタクリレート(CBMA3X)(4)の合成を模式的に示す。
【図3A】図3Aは、本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲル、CBMAX架橋したCBMAヒドロゲル(CBMAX)と、MBAA架橋したCBMAヒドロゲル(MBAA)との、水和特性についての比較である。体積分率は、膨潤したヒドロゲル中でのポリマーの体積による量であり、架橋剤含有量(%)の関数としている。ふさがれた棒は、CBMAX架橋したCBMAヒドロゲルを表わし、一方、あいている棒は、MBAA架橋したCBMAヒドロゲルを表わす。
【図3B】図3Bは、本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲル、CBMAX架橋したCBMAヒドロゲル(CBMAX)と、MBAA架橋したCBMAヒドロゲル(MBAA)との、水和特性についての比較である。平衡含水量は、膨潤したヒドロゲル中の水の重量による量であり、架橋剤含有量(%)の関数としている。ふさがれた棒は、CBMAX架橋したCBMAヒドロゲルを表わし、一方、あいている棒は、MBAA架橋したCBMAヒドロゲルを表わす。
【図4】図4は、CBMAX−およびMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルについて、架橋剤の量(%)の関数として相対的な細胞接着を比較する。CBMAヒドロゲルの細胞接着は、pHEMAヒドロゲルの細胞接着に規格化した。
【図5】図5は、CBMAX−およびMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルの圧縮弾性率(MPa)を架橋剤含有量(%)の関数として比較する。ヒドロゲルは圧縮できず、報告された弾性率は、最初の10%歪みから得られた。ふさがれた菱形は、CBMAX−架橋したCBMAヒドロゲルを表わし、一方、あいている四角形はMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルを表わす。
【図6A】図6Aは、CBMAX−およびMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルの物理的特性、架橋密度(μmol/mm3)の比較であり、架橋剤濃度(%)の関数として機械的および膨潤特性から算出した。ふさがれた菱形は、CBMAX−架橋したCBMAヒドロゲルを表わし、一方、あいている四角形はMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルを表わす。
【図6B】図6Bは、CBMAX−およびMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルの物理的特性、メッシュサイズ(nm)の比較であり、架橋剤濃度(%)の関数として機械的および膨潤特性から算出した。ふさがれた菱形は、CBMAX−架橋したCBMAヒドロゲルを表わし、一方、あいている四角形はMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルを表わす。
【図7】図7は、本発明の代表的な双性イオン架橋ポリマー、光重合により得られたCBMA/CBMAXの、架橋剤含有量(mol%)の関数としての水和特性(EWC)の比較である。
【図8】図8は、本発明の代表的な双性イオン架橋ポリマー、光重合により得られたCBMA/CBMAXの、架橋剤含有量(%)の関数としての圧縮強度(MPa)の比較である。
【図9】図9は、本発明の代表的な双性イオン架橋ポリマー、光重合により得られたCBMA/CBMAXの、架橋剤含有量(%)の関数としての圧縮弾性率(MPa)の比較である。
【図10】図10は、架橋剤勾配を有する本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成の模式図である。
【図11】図11は、架橋剤勾配を有する本発明の双性イオンポリマーCBMA/CBMAXの、架橋剤濃度(%)の関数としての水和特性の比較である。
【図12】図12は、架橋剤勾配を有する本発明の双性イオンポリマーCBMA/CBMAXの、架橋剤濃度(%)の関数としての架橋剤密度(μmol/mm3)の比較である。
【図13】図13は、架橋剤勾配を有する本発明の双性イオンポリマーCBMA/CBMAXの、架橋剤濃度(%)の関数としての圧縮弾性率(MPa)の比較である。
【図14】図14は、架橋剤勾配を有する本発明の双性イオンポリマーCBMA/CBMAXの、架橋剤濃度(%)の関数としてのメッシュサイズ(nm)の比較である。
【図15】図15は、代表的なCBMA/CBMAX勾配ヒドロゲルの写真である。4%のCBMA−X CBMAヒドロゲルの直径5mmの円盤(A)、および75%のCBMAX−ヒドロゲルの四角形(B)が、代表的な勾配を有するヒドロゲル(C)と比較して示され、CBMAXの架橋に付随した色の勾配を示している。
【図16】図16は、代表的な勾配を有するヒドロゲルに沿った長さ(cm)の関数として架橋剤含有量(%)を示すグラフである。
【図17】図17は、CBMAX含有量(0.1,1,10,および20%)の関数として、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルの含水量(EWC)の比較である。
【図18A】図18Aは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が0.1%のGOx固定化前である。
【図18B】図18Bは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が0.1%のGOx固定化後である。
【図18C】図18Cは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が1%のGOx固定化前である。
【図18D】図18Cは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が1%のGOx固定化後である。
【図18E】図18Eは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が10%のGOx固定化前である。
【図18F】図18Fは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が10%のGOx固定化後である。
【図18G】図18Gは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が20%のGOx固定化前である。
【図18H】図18Gは、3日培養後の代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルへのCOS−7細胞付着性の比較を比較する画像であり、ヒドロゲルCBMAX含有量が20%のGOx固定化後である。
【図19A】図19Aは、PBS中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量0.1%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図19B】図19Bは、PBS中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量1%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図19C】図19Cは、PBS中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量10%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図19D】図19Dは、PBS中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量20%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図20A】図20Aは、100%血清中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量0.1%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図20B】図20Bは、100%血清中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量1%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図20C】図20Cは、100%血清中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量10%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図20D】図20Dは、100%血清中で1,10,25、および40日のグルコース濃度(mM)の関数としての、代表的なCBMA/CBMAXヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答(nA)の比較である。ヒドロゲルCBMAX含有量20%、作動電位:+0.75V vs.Ag/AgCl参照電極。
【図21】図21は、未希釈の血清中でのOA−GNPs,OC−GNPs,CA−GNPs,およびCC−GNPsの流体力学的サイズの比較である。血清タンパク質は、遠心分離により除去し、測定前にPBS中に再分散させた。
【図22】図22は、未希釈の血清と混合されたOA−GNPs,OC−GNPs,CA−GNPs,およびCC−GNPsの流体力学的サイズの比較である。
【発明の詳細な説明】
【0022】
本発明は、双性イオン架橋剤、双性イオンモノマーと双性イオン架橋剤との共重合から合成された架橋双性イオンヒドロゲル、架橋双性イオンヒドロゲルの製造方法、および架橋双性イオンヒドロゲルを含む装置、および架橋双性イオンヒドロゲルを用いる方法を提供する。
【0023】
<双性イオン架橋剤>
一態様において、本発明は双性イオン架橋剤を提供する。双性イオン架橋剤は、適切な重合性のモノマーおよびコモノマーと共重合して、架橋したポリマーおよび架橋したコポリマーを提供することができる。
【0024】
双性イオン架橋剤は、1またはこれを超える双性イオンモノマーと共重合させることによって、または1またはこれを超えるイオン対コモノマーなどの電荷を有するコモノマーを共重合させることによって、架橋したヒドロゲルのような架橋したポリマーおよび架橋したコポリマーの合成に有利に用いられる。
【0025】
本発明の双性イオン架橋剤は、式(I)を有する。
【化5】
【0026】
ここで
R1およびR2は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基から独立して選択され;
R3は、C1〜C6アルキル、C6〜C12アリール、CH2=C(R1)−L1−、またはCH2=C(R2)−L2−から選択され;
L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から独立して選択され、ここでnは1〜20の整数であり;
L3は、−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数であり;および
A1は、C,S,SO,P,またはPOであり;
X-は、N+カチオン中心に結合する対イオンであり;および
M+は、(A=O)O-アニオン中心に結合する金属または有機対イオンである。
【0027】
一実施形態において、R1,R2,およびR3は、C1〜C3アルキルである。一実施形態において、R1,R2,およびR3は、メチルである。
【0028】
実施形態において、L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6である。実施形態において、L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)2−である。
【0029】
一実施形態において、L3は−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6である。一実施形態において、L3は−(CH2)−である。
【0030】
一実施形態において、A1はCである。一実施形態において、A1はSOである。
【0031】
図1は、本発明の代表的な双性イオン架橋剤の化学構造を示し、化合物3をここでCBMAXと称する。本発明の代表的な双性イオン架橋剤CBMAXの合成は、例1で述べられ、図2に模式的に示す。
【0032】
<架橋した双性イオンヒドロゲル>
他の態様において、本発明は、双性イオン架橋剤との双性イオンモノマーの共重合から合成された架橋した双性イオンヒドロゲルを提供する。双性イオン架橋剤は、適切な重合性のモノマーおよびコモノマーと共重合することができ、架橋したポリマーおよび架橋したコポリマーを提供する。
【0033】
本発明の架橋したヒドロゲルは、繰り返し基と、双性イオン架橋剤から誘導された架橋結合とを有する架橋したポリマーである。
【0034】
<双性イオンモノマー> 一実施形態において、本発明の架橋したヒドロゲルは、双性イオン架橋剤と適切な重合性双性イオンモノマーとの共重合から合成された架橋したポリマーである。この実施形態においては、架橋したポリマー(例えば、ヒドロゲル)は、式(II)を有する繰り返し単位を有する。
【化6】
【0035】
ここで
R4は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基から選択され;
R5およびR6は、アルキルおよびアリールから独立して選択され、またはそれらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成し;
L4は、カチオン中心[N+(R5)(R6)]をポリマー主鎖[−(CH2−CR4)n−]に共有的に結合するリンカーであり;
L5は、アニオン中心[A2(=O)O-]をカチオン中心に共有的に結合するリンカーであり;
A2は、C,S,SO,P,またはPOであり;
M+は、(A2=O)O-アニオン中心に結合する金属または有機対イオンであり;
X-は、カチオン中心に結合する対イオンであり;
nは、5〜約10,000の整数であり;および
*は、繰り返し単位が、隣接する繰り返し単位または双性イオン架橋結合のいずれかに共有的に連結する点を表わす。
【0036】
一実施形態においては、R4はC1〜C3アルキルである。
【0037】
R5およびR6は、アルキルおよびアリールから独立して選択され、またはそれら結びついた窒素とともにカチオン中心を形成する。一実施形態において、R5およびR6は、C1〜C3アルキルである。
【0038】
ある実施形態においては、L4は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から選択され、ここでnは1〜20の整数である。ある実施形態において、L4は−C(=O)O−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6である。
【0039】
ある実施形態において、L5は−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数である。
【0040】
ある実施形態において、A2はCまたはSOである。
【0041】
ある実施形態において、nは5〜約5,000の整数である。
【0042】
一実施形態において、R4,R5,およびR6はメチルであり、L4は−C(=O)O−(CH2)2−であり、L5は−(CH2)−であり、A1はCであり、nは10〜約1,000の整数である。
【0043】
上述の式(II)を有する繰り返し単位を有する架橋したポリマー(例えばヒドロゲル)に加えて、架橋したポリマーは、式(III)の双性イオン架橋結合を含む。
【化7】
【0044】
ここで、R1,R2,R3,L1,L2,L3,A1,X-,およびM+は、双性イオン架橋剤(式(I)について上述したようなものであり、xは約5〜約10,000の整数である。R3が重合性基を含む架橋したヒドロゲルについて、ヒドロゲルは、上記(−L1−CR1−CH2−および−L2−CR2−CH2−)に示されるようにR3を介してさらに架橋する。
【0045】
本発明の架橋した双性イオンヒドロゲルは、双性イオン架橋剤と式(IV)を有するモノマーとの共重合によって合成することができる。
【化8】
【0046】
ここで、R4,R5,R6,L4,L5,A2,X-,およびM+は、式(II)の繰り返し単位について上述したようなものである。
【0047】
本発明の代表的な架橋した双性イオンポリマーは、式(V)を有する。
【化9】
【0048】
ここで、R5,R6,L4,L5,A2,X-,M+およびnは、式(II)について上述したようなものであり、PBは、繰り返し単位[式(II)]および架橋結合[式(III)]を含むポリマー主鎖である。
【0049】
本発明の代表的な双性イオンヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成および特性評価は、例2で述べる。
【0050】
<架橋した混合電荷ヒドロゲル>
他の態様において、本発明は、双性イオン架橋剤とのイオン対コモノマーの共重合から合成された架橋した混合電荷コポリマー(またはヒドロゲル)を提供する。
【0051】
本明細書において用いられる際、用語「混合電荷コポリマー(またはヒドロゲル)」は、ポリマー主鎖、正の電荷を有する複数の繰り返し単位、および負の電荷を有する複数の繰り返し単位を有するコポリマーをさす。本発明の実施において、これらのコポリマーは、イオン対コモノマーの重合により合成することができる。
【0052】
混合電荷コポリマーは、正の電荷を有する複数の繰り返し単位と、負の電荷を有する複数の繰り返し単位とを含む。一実施形態において、混合電荷コポリマーは、実質的に電気的に中性である。ここで用いられる際、用語「実質的に電気的に中性」は、有利な非ファウリング特性をコポリマーに与えるコポリマーをさす。一実施形態において、実質的に電気的に中性なコポリマーは、実質的にゼロの正味の電荷を有するコポリマー(すなわち、正の電荷を有する繰り返し単位と負の電荷を有する繰り返し単位とがほぼ同数のコポリマー)である。一実施形態において、負の電荷を有する繰り返し単位の数に対する正の電荷を有する繰り返し単位の数の比は、約1:1.1〜約1:0.5である。一実施形態において、負の電荷を有する繰り返し単位の数に対する正の電荷を有する繰り返し単位の数の比は、約1:1.1〜約1:0.7である。一実施形態において、負の電荷を有する繰り返し単位の数に対する正の電荷を有する繰り返し単位の数の比は、約1:1.1〜約1:0.9である。
【0053】
<イオン対コモノマー> 一実施形態において、本発明の架橋したヒドロゲルは、双性イオン架橋剤と適切な重合性イオン対コノモマーとの共重合により合成される架橋したポリマーである。
【0054】
本発明に有用な代表的なイオン対コモノマーは、式(VI)および(VII)を有する。
【化10】
【0055】
本実施形態において、架橋したポリマー(例えば、ヒドロゲル)は、式(VIII)を有する繰り返し単位を有する。
【化11】
【0056】
ここで
R7およびR8は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基から独立して選択され;
R9,R10,およびR11は、アルキルおよびアリールから独立して選択され、またはそれらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成し;
A3(=O)−OM)はアニオン中心であり、ここでA3は、C,S,SO,PまたはPOであり、Mは金属または有機対イオンであり;
L6は、カチオン中心[N+(R9)(R10)(R11)]をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーであり;
L7は、アニオン中心[A(=O)−OM]をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーであり;
X-は、カチオン中心に結合する対イオンであり;
nは、5から約10,000の整数であり;
pは、5から約10,000の整数であり;および
*は、繰り返し単位が、隣接する繰り返し単位または双性イオン架橋結合のいずれかに共有的に結合する点を表わす。
【0057】
一実施形態において、R7およびR8はC1〜C3アルキルである。
【0058】
R9,R10,およびR11は、アルキルおよびアリールから独立して選択され、またはそれらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成する。一実施形態においては、R9,R10,およびR11はC1〜C3アルキルである。
【0059】
ある実施形態において、L6は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から選択され、ここでnは1〜20の整数である。ある実施形態において、L6は−C(=O)O−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6である。
【0060】
ある実施形態においては、L7はC1〜C20アルキレン鎖である。代表的なL7は、−(CH2)n−を含み、ここでnは1〜20(例えば、1,3,または5)である。
【0061】
ある実施形態において、A3は、C,S,SO,P,またはPOである。
【0062】
ある実施形態において、nは5〜約5,000の整数である。
【0063】
一実施形態において、R7,R8,R9,R10,およびR11は、メチルであり、L6およびL7は−C(=O)O−(CH2)2−であり、AはCであり、nは10〜約1,000の整数である。
【0064】
上述の式(VIII)を有する繰り返し単位を有する架橋したコポリマー(例えば、ヒドロゲル)に加えて、架橋したポリマーは式(III)を有する双性イオン架橋結合を有する。
【0065】
本発明の代表的な架橋した双性イオンポリマーは、式(IX)を有する。
【化12】
【0066】
ここで、L6,N+(R9)(R10)(R11),L7,A3(=O)OM,X-,n,およびpは、上述したようなものであり、PBは、繰り返し単位[式(VIII)]と[式(III)]とを含むポリマー主鎖である。
【0067】
以下は、上述した架橋剤、モノマー、コモノマー、ポリマー、コポリマー、および式(I)〜(IX)の架橋結合の説明である。
【0068】
上記式において、PBはポリマー主鎖である。代表的なポリマー主鎖は、ビニルモノマー(例えば、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン)から誘導されたビニル主鎖(例えば、−C(R’)(R”)−C(R''')(R'''')−、ここでR’,R”,R''',およびR'''は、水素、アルキル、およびアリールから独立して選択される)を含む。他の代表的な主鎖は、ペンダント基を与えるためのポリマー主鎖を含む。他の代表的なポリマー主鎖は、ペプチド(ポリペプチド)、ウレタン(ポリウレタン)、およびエポキシ主鎖を含む。
【0069】
同様に、上記式において、CH2=C(R)−は重合性基である。上で言及したものを含む他の重合性基は、本発明のモノマーおよびポリマーを提供するために用い得ることが理解されるであろう。
【0070】
上記式において、N+はカチオン中心である。ある実施形態において、カチオン中心は、四級アンモニウム(例えば、L4,R5,R6,およびL5に結合したN)である。アンモニウムに加えて、他の有用なカチオン中心(R5およびR6を伴なうN)は、イミダゾリウム、トリアゾリウム、ピリジニウム、モルホリニウム、オキサゾリジニウム、ピラジニウム、ピリダジニウム、ピリミジニウム、ピペラジニウム、およびピロリジニウムを含む。
【0071】
R4,R5,R6,R9,R10,およびR11は、水素、アルキル基、およびアリール基から独立して選択される。代表的なアルキル基は、C1〜C10の直鎖および分岐したアルキル基を含む。ある実施形態において、アルキル基は、例えばアリール基(例えば、−CH2C6H5,ベンジル)を含む1またはこれを超える置換基でさらに置換される。代表的なアリール基は、C6〜C12アリール基を含み、例えばフェニルを含む。上述の式のある実施形態について、R5およびR6,またはR9,R10,およびR11は、N+とともにカチオン中心を形成する。
【0072】
L4(またはL6)は、カチオン中心をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーである。ある実施形態においては、L4は、L4の残部をポリマー主鎖(またはモノマーのための重合性部分)に結合する官能基(例えば、エステルまたはアミド)を含む。官能基に加えて、L4はC1〜C20アルキレン鎖を含むことができる。代表的なL4の群は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−を含み、ここでnは1〜20(例えば、3)である。
【0073】
L5は、カチオン中心をアニオン中心(すなわち、(A=O)O-)に共有的に結合するリンカーである。L5は、C1〜C20アルキレン基とすることができる。代表的なL5の群は、−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20(例えば、1,3,または5)である。
【0074】
L7は、ポリマー主鎖をアニオン基に共有的に結合するリンカーである。L7は、C1〜C20アルキレン鎖とすることができる。代表的なL7は、−(CH2)n−を含み、ここでnは1〜20(例えば、1,3,または5)である。
【0075】
A(=O)−O-はアニオン中心である。アニオン中心は、カルボン酸エステル(AはC)、スルフィン酸(AはS)、スルホン酸(AはSO)、ホスフィン酸(AはP)、またはホスホン酸(AはPO)とすることができる。
【0076】
上記式において、代表的なアルキル基は、C1〜C30の直鎖および分岐したアルキル基を含む。ある実施形態において、アルキル基は、例えばアリール基(例えば、−CH2C6H5,ベンジル)を含む1またはこれを超える置換基でさらに置換される。
【0077】
代表的なアリール基は、C6〜C12アリール基を含み、例えば、置換されたフェニル基(例えば安息香酸)を含むフェニルを含む。
【0078】
X-は、カチオン中心に結合する対イオンである。対イオンは、カチオン性のポリマーまたはモノマーの合成に起因した対イオン(例えば、Cl-,Br-,I-)とすることができる。カチオン中心の合成から初期に得られる対イオンは、他の適切な対イオンと交換することができ、制御可能な加水分解特性および他の生物学的特性を有するポリマーを与える。代表的な疎水性の対イオンは、カルボキシレートを含み、例えば、安息香酸および脂肪酸アニオン(例えば、CH3(CH2)nCO2-、ここでn=1〜19);アルキルスルホネート(例えば、CH3(CH2)nSO3-、ここでn=1〜19);サリシレート;ラクテート;ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミドアニオン(N-(SO2CF3)2);およびそれらの誘導体などである。他の適切な対イオンもまた、クロライド、ブロマイド、アイオダイド、サルフェート;ナイトレート;パークロレート(ClO4);テトラフルオロボレート(BF4);ヘキサフルオロホスフェート(PF6);トリフルオロメチルスルフォネート(SO3CF3);およびそれらの誘導体から選択することができる。他の適切な対イオンは、疎水性の対イオン、および治療的な活性を有する対イオンを含み、(例えば、抗菌剤、サリシル酸(2−ヒドロキシ安息香酸)、ベンゾエート、およびラクテートなどである。
【0079】
モノマーについて、R1およびR2[式(I)]およびR4[式(IV)]は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、およびC1〜C6アルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル)から選択される。一実施形態において、R1,R2,およびR4は水素である。一実施形態において、R1,R2,およびR4はメチルである。
【0080】
<架橋した双性イオンヒドロゲルで処理された表面>
他の態様において、本発明は、架橋された双性イオンヒドロゲルで処理された表面を提供する。本発明の架橋された双性イオンヒドロゲルは、双性イオンポリマーに加水分解性を有し、例えば医療装置を含む種々の装置の表面のためのコーティングとして有利である。
【0081】
本発明のヒドロゲルは、表面を被覆して生体適合性、抗菌性、および非ファウリング表面を提供するために有利に用いられる。したがって、他の態様においては、本発明は、1またはこれを超える本発明の架橋した双性イオンヒドロゲルが適用された(例えば、被覆された、共有的に結合した、イオン的に結合した、疎水的に結合した)表面(例えば、1またはこれを超える表面)を有する装置または材料を提供する。本発明のヒドロゲルで有利に処理することができる、修飾されて本発明のヒドロゲルを含むことができる、または本発明のヒドロゲルを取り込むことができる代表的な装置およびキャリアは、以下を含む:
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する粒子(例えば、ナノ粒子);
本発明の材料で、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有するドラッグキャリアー;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する非ウィルス性遺伝子送達系;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有するバイオセンサー;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されてヒドロゲルを含んだ、または取り込んだ表面を有する、微生物懸濁液のためのメンブラン、ホルモン分離、タンパク質分画、細胞分離、廃水処理、オリゴ糖バイオリアクター、タンパク質限外濾過、およびダイアリープロセシング(diary processing)のようなバイオプロセスまたはバイオ分離法のための装置;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する移植可能なセンサー;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する皮下センサー;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する乳房インプラント、人工内耳、および人工歯根のようなインプラント;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有するコンタクトレンズ;
本発明のヒドロゲルで、処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する組織足場材(tissue scaffold);
本発明のヒドロゲルで処理された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有する人工関節、人工心臓弁、人工血管、ペースメーカー、左心補助人工心臓(LVAD)、動脈移植片、およびステントのような移植可能な医療装置;および
本発明のヒドロゲルで修飾された、修飾されて含んだ、または取り込んだ表面を有するイヤードレイナージ(ear drainage)管、栄養管、グラウコーマドレナージ管、脳水腫シャント、人工角膜、神経ガイダンス管、導尿カテーテル、組織接着剤、およびX線ガイドのような医療装置。
【0082】
本発明のヒドロゲルで有利に処理することができる他の代表的な基材および物質は、修飾されて本発明のヒドロゲルを含む、または本発明のヒドロゲルを取り込んだものであり、織物を含み、例えば、衣料品(例えば、コート、シャツ、ズボン、肌着、病院および軍の職員に着用されるものを含む)、寝具類(例えば、毛布、シーツ、枕カバー、マットレス、および枕)、タオル地、およびワイプを含む。
【0083】
本発明のヒドロゲルで有利に処理することができる他の代表的な基材および物質は、修飾されて本発明のヒドロゲルを含む、または本発明のヒドロゲルを取り込んだものであり、テーブルの上面板、机、カウンターの上面板のような作業表面を含む。
【0084】
以下は、本発明の代表的な双性イオン架橋したヒドロゲル(CBMA/CBMAX)の説明である。
【0085】
上述したように、本発明はファウリング架橋剤の使用なしに非ファウリングpCBMAヒドロゲルの機械的特性を改善するために、双性イオン架橋剤を提供する。代表的な双性イオン架橋剤であるCBMAベースのジメタクリレート架橋剤(CBMAX)の構造は、図1に構造3で示される。架橋したものは、カチオン性の第四級アミンとアニオン性のカルボキシル基との間に、2つではなく1つのカーボンスペーサーが存在し、第四級アミンの2つのメチル基が第2のメタクリレート基で置き換えられた以外はCBMAモノマーと同じ化学構造を有する。架橋剤は、1Mの塩溶液に優れた溶解性を示し、その双性イオン基はMBAAとは異なって、pCBMAヒドロゲル中の架橋結合の全域で構造化された水の連続性を与えるであろう。特別に用意したコリンリン酸ベースの架橋剤で合成された双性イオンコリンリン酸(PC)ベースのヒドロゲルの水の構造が研究され、MBAA架橋した双性イオンヒドロゲルと比較して、PC架橋した双性イオンヒドロゲル中の水に定性的な違いが観察された(Goda T, Watanabe J, Takai M, Ishihara K. Water structure and improved mechanical properties of phospholipid polymer hydrogel with phosphorylcholine centered intermolecular cross-linker. Polymer 2006;47:1390-1396; and Goda T, Matsuno R, Konno T, Takai M, Ishihara K. Protein adsorption resistance and oxygen permeability of chemically crosslinked phospholipid polymer hydrogel for ophthalmologic biomaterials. J Biomed Mater Res B Appl Biomater 2009;89:184-190)。双性イオンモノマーと双性イオン架橋剤とから得られたヒドロゲルは、双性イオンモノマーとMBAAとから得られたヒドロゲルよりも、氷のように結合した水を有し、双性イオン的に架橋した双性イオンヒドロゲルの改善された機械的特性は、水の高められたオーダーに起因する。
【0086】
本発明の代表的な双性イオン架橋剤である1−カルボキシ−N−メチル−N−ジ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(CBMX)の合成は、例1で述べる。合成は図2に示す。
【0087】
本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲル(CBMA/CBMAX)の合成は、例2で述べる。
【0088】
光重合により合成された本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成および特性は、例3で述べる。
【0089】
光重合により合成され、架橋剤勾配を有する本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成および特性は、例4で述べる。
【0090】
本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXのグルコースバイオセンサーにおける使用は、例5で述べる。
【0091】
<CBMAXでのCBMAヒドロゲルの水和特性>
ヒドロゲルの高い含水量は、生物組織の含水量をしばしば反映するので、ヒドロゲルは生物学的応用に魅力的である。CBMAヒドロゲルの膨潤特性は、数式(1)および(2)を用いて計算した。すなわち、脱水の前後におけるヒドロゲル円盤の質量および大きさを用いて、平衡含水量およびゲルの体積分率をそれぞれ計算した。図3Aおよび3Bは、平衡含水量(図3A)および体積分率(図3B)を示しており、MBAA架橋されたヒドロゲルについては、17%架橋剤における溶解度限界までであり、CBMA架橋されたヒドロゲルについては2%CBMAXから100%CBMAXまでである(それぞれ、あいている、およびふさがれた棒)。予測されるように、架橋剤含有量における増加は、水和および膨潤の減少を引き起こす。100%CBMAXにおいて、水和は約60%の平衡含水量まで低下し、そのように多量の架橋のためには著しく大きな値である。
【0092】
これらの図面が示すように、CBMAがCBMAXまたはMBAAで架橋した際には、含水量における違いは全く現れない。
【0093】
<CBMAXを伴なうCBMAヒドロゲルの非ファウリング特性>
4%のCBMAX,4%のMBAA,17%のCBMAX,および17%のMBAAを有するCBMAヒドロゲル、およびCBMAXヒドロゲルを、非ファウリングについて試験した。実際に取り扱われるのが最も低い値であるので低架橋剤含有量を選択し、一方、17%はMBAA取り込みの上限であるので、17%架橋剤ヒドロゲルを選択した。この組成は、これら2つのヒドロゲルのファウリング特性の間の任意の違いを最も明確に示すことが予測された。線維芽細胞(COS−7)細胞は、抗菌性の滅菌されたヒドロゲルの上にまいて、補充した成長培地中で3日間成長させた。3日目、細胞接着を視覚的に定量化した。すなわち、それぞれのヒドロゲル処方の顕微鏡観察の15画像を収集し、ゲルに接着した細胞の絶対数を数えた。
【0094】
それぞれの処方のヒドロゲルに接着した細胞の数は、架橋剤含有量の関数として、pHEMAヒドロゲルに接着した細胞の数で規格化して図4に定量的に比較する。塗りつぶした棒は、CBMAXで架橋したヒドロゲルを表わし、一方、あいている棒はMBAAで架橋したヒドロゲルを表わす。右端の棒は、参照のpHEMAヒドロゲルを表わす。全てのCBMAヒドロゲルは、低ファウリングのpHEMAに関連して、特に補充した成長培地中で細胞接着において有意な低下(約80〜90%)を示す。pHEMAそれ自体は、TCPS上の細胞接着の小さなパーセンテージのみを示す。
【0095】
低い架橋剤含有量において、CBMAX−およびMBAA−架橋されたヒドロゲルのいずれも非常に小さなファウリングを有し、pHEMAヒドロゲルの場合の約10〜15%(誤差範囲内と同等)である。より高い架橋剤含有量においては、顕著な相違が存在する。すなわち、CBMAXで架橋されたヒドロゲルは、非常に非ファウリングのままで残り(pHEMAの場合の約10%)、一方、MBAAで架橋されたヒドロゲルのファウリングは、より悪化した(pHEMAの場合の約20%)。さらに、100%CBMAXヒドロゲルでさえ、軽く架橋したCBMAヒドロゲルの同等の低いファウリングレベル(pHEMAヒドロゲルの場合の約10%)を示す。このように、MBAAの取り込みはCBMAヒドロゲルの非ファウリング特性を損ない、おそらく、双性イオンポリマー鎖の周りの規則正しい水を乱し、一方で、CBMA架橋剤は、分子レベルの化学的性質および水和作用の連続性を与え、それによって、CBMAヒドロゲル内の非ファウリング特性を保存することによる。これらの結果は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)による非特異的なタンパク質吸着の測定によって支持された。
【0096】
<CBMAヒドロゲルのRGC−機能付与>
上述の非ファウリング研究と同様、17%CBMAXと17%MBAAとを用いて得られたCBMAヒドロゲルは、機能付与のためのその能力を示す。ヒドロゲルは、cRGD、これは全インテグリン上に見られる細胞結合モチーフである、により従来のEDC/スルホNHSケミストリーを用いてポスト機能付与した。EDCなしの同様のケミストリーは、対照のヒドロゲルに行なった。COS−7細胞は、その後、EDC/スルホNHS−cRGD処理されたヒドロゲル上、およびスルホNHS−cRGD処理された対照ヒドロゲル上にまいた。細胞培養液は3日間培養させ、その後、細胞増殖を光学顕微鏡検査法で定量化した。それぞれのヒドロゲル処方の15写真を撮影し、ゲルに吸着した細胞の絶対数を数えた。結果を表1にまとめる。
【0097】
表1 cRGDで機能付与された17%CBMAX−およびMBAA−架橋されたヒドロゲル上の細胞接着。ELISAからの非特異タンパク質接着は、事前機能付与されたヒドロゲル上への非特異的な細胞吸着を反映する。
【表1】
【0098】
表1に示されるように、機能付与されたCBMAX−およびMBAA−架橋したヒドロゲルは、いずれも細胞接着における増加を示す。補充された培地からの非特異的に接着したタンパク質は、表面を汚損し、非特異的細胞接着を促進するであろう。ELISAによって示されるように、CBMAX架橋したヒドロゲルは、MBAA架橋したヒドロゲルの場合より効果的に非特異タンパク質吸着に抵抗し、これは、CBMAX架橋したヒドロゲルへ接着した細胞のより低い総数に反映される。17%MBAA架橋したヒドロゲル上に接着した細胞のより高い絶対数は、より高い非特異的細胞接着、すなわちファウリングを反映し、これはMBAAの存在に由来する。いずれのヒドロゲルも、cRGDで機能付与されて、特異的細胞接着を誘発し、制御された生体適合性を示す。しかしながら、CBMAX架橋したヒドロゲルは、バックグラウンド非特異的細胞接着の低いレベルを示す。
【0099】
<CBMAヒドロゲルの機械的特性>
機械的特性は、高度に水和したヒドロゲルのための大きな課題である。一般的に、ヒドロゲル中の水が多くなると構造は弱くなる。生体組織のための模倣体として効果的に作用し、細胞成長のための助けとなる環境を与えるために、ヒドロゲルは“柔軟である”べきである。また一方、実際には、機械的強度は取り扱いのために要求される。さらに、基質の堅さは、細胞の運命および幹細胞の分化に重要な役割を果たす。
【0100】
円盤状のヒドロゲルは、破壊まで圧縮し、抽出したヤング率を、架橋剤組成(CBMAX対MBAA、それぞれふさがれた菱形およびあいている四角形で表わす)および含有量(架橋剤の%)の関数として図5に示す。これらの値は、表2にもまとめる。
【0101】
表2 CBMAX−およびMBAA−架橋したCBMAヒドロゲルの機械的特性。弾性率、破断歪み、および破壊ストレスは、圧縮下のCBMAヒドロゲルの応力−歪み曲線から抽出した。
【表2】
【0102】
CBMAX−およびMBAA−架橋したヒドロゲルについて直接比較できる架橋剤濃度(4%,9%,および17%)において、CBMAX架橋したヒドロゲルは、改善された機械的特性を示した。CBMAX架橋したヒドロゲルの圧縮弾性率は、いずれの架橋剤でも達成できる全濃度においてMBAA架橋したヒドロゲルの場合より大きく、破壊ストレスも同様に全濃度においてより大きい。より高い架橋剤含有量は、CBMAXで達成可能である。100%CBMAXにおいて、圧縮弾性率は8MPaに達し、比較的高い含水量(60%)を有するヒドロゲルについての印象的な数値であり、この材料は十分に関節軟骨の範囲内であると認識するものである。これは、pHEMAヒドロゲル(0.6MPaの圧縮弾性率)、およびPEGヒドロゲル(50%の架橋剤含水量で約3MPaまでの圧縮弾性率)とも都合よく比較される。
【0103】
MBAA架橋剤を有するCBMAヒドロゲルに対して、CBMAXを有するCBMAヒドロゲルの平衡含水量の間に差異が全く見られないので、これらの改善された機械的特性は、低下した水和作用に起因しないが、むしろ水構造の質の違いに起因する。
【0104】
圧縮データは、架橋剤の量とCBMA−CBMAXヒドロゲルの圧縮弾性率との間の関係の線形性を示す。架橋剤含有量の関数として、4%架橋剤から100%CBMAXまで圧縮弾性率をプロットすると(図5)、関係は直線的で0.9616の回帰である。これは、ゲル系の適合性を明確に示す。すなわち、架橋剤は、伸びる直鎖状のポリマー鎖中に低い架橋剤組成で取り込まれ、かつ、目盛りの他端においては、モノマーは高度に架橋したネットワーク中に高い架橋剤組成で均一に取り込まれる。こうして、ヒドロゲル構造はより均質になる。一方、MBAA架橋剤は、架橋剤組成と圧縮弾性率との間における、より低い線形性(R2=0.8562)の関係により証明されるように、伸びるポリマー鎖中により乏しい取り込みを示す。架橋剤含有量が9%から17%に増加すると、ゲルの機械的特性は僅かに高められる。これは、この低い濃度においても制限された溶解性、および伸びる直鎖状のCBMAポリマー中への溶解した架橋剤の乏しい取り込みに起因する。不均質なヒドロゲルネットワーク中に現れる微視的な構造欠陥は、巨視的なヒドロゲルの機械的完全性を損なう。
【0105】
<CBMAヒドロゲルの物理的特性>
上で集めた水和データおよび応力−歪み曲線を用いて、式3および4により、MBAAまたはCBMAXで架橋した際のCBMAヒドロゲルのいくつかの物理的特性を計算した。具体的には、応力−歪み曲線は、応力対(α−α-2)曲線、ここでαは本来の長さに対する変形した長さの比である、に操作した。低い歪みにおいて、この関係は線形であり、架橋剤密度は、この直線の傾きから抽出される(式3参照)。次に、体積当たりの架橋結合の数を一架橋剤当たりの体積に変換して、2つの架橋結合の間の距離を得る。架橋剤密度およびメッシュサイズの計算値は、架橋組成および含有量の関数として、図6Aおよび6Bにそれぞれ示す。同一の名目上の架橋剤含有量において、MBAA架橋したヒドロゲルの架橋密度は、CBMA架橋したヒドロゲルのそれより低く、MBAAはCBMAモノマーとの相溶性がより小さく、MBAAのアクリルアミドは伸びるメタクリレートポリマー鎖中に不十分に取り込むという仮説を強化する。一方、CBMAXで架橋したヒドロゲルの高い架橋剤密度は、伸びるメタクリレートポリマー中へのCBMAXメタクリレートのより良好な相溶性、およびより均一な取り込みを示唆する。架橋剤密度の値から算出されたメッシュサイズは、同様の筋をもたらし、モノマー−架橋剤の相溶性における差異は、CBMA−CBMAXおよびCBMA−MBAA系の機械的特性における差異に主要な役割を担うという考えをさらに支持する。
【0106】
さらに、その優れた溶解性およびCBMAモノマーとの共重合に起因して、CBMAX架橋されたヒドロゲルは、処方のより広い範囲を利用でき、これは物理的特性のより大きな多様性を与える。異なる架橋剤密度、および異なる細孔サイズは、CBMAX架橋されたヒドロゲルに制御された形態を生じるものであり、生物学的操作のさらに別の手段を与える。ヒドロゲルは、その生体模倣構造、すなわち、高い含水量および生体分子の移動を許す細孔のために評価される。糖類および成長因子のような小さな分子のための2nm未満から、大きなタンパク質および抗体のような生体マクロ分子のための10nmを超える範囲の細孔サイズは、ヒドロゲル中への取り込みを全て行ないやすくする。架橋剤含有量を制御することによって、非ファウリング特性を損なうことなく、ヒドロゲルの細孔サイズを制御することができる。
【0107】
本発明の双性イオン架橋剤は、双性イオンヒドロゲル系との優れた相溶性を有する。代表的な架橋剤CBMAXは、有用な双性イオンモノマーCBMAに対応する構造を有し、それは2つの有利な効果を与える。まず、架橋剤の双性イオンの性質は、改善された溶解性に加えて、架橋剤は双性イオンモノマー側鎖の回りに生じる水の再構築を妨害しないことを意味する。MBAAで架橋したヒドロゲルと比較して、CBMAXで架橋したヒドロゲルは、MBAA架橋したヒドロゲルに近づく全ての組成において改善された非ファウリングを示し、pHEMAヒドロゲルの非特異タンパク質吸着の約10%のみを最終的に示した。第2に、CBMAモノマーとCBMAX架橋剤との間の化学的な類似性は、大きな重合適合性を与える。CBMAX架橋したヒドロゲルは、モノマーおよび架橋剤の明確な化学量論的な取り込みを示した。一方、MBAA架橋したヒドロゲルはMBAAの溶解限界に達したので、架橋剤含有量と圧縮弾性率との間の関係は低下し始めた。このように、CBMAX架橋したヒドロゲルは、同等の名目上の架橋剤含有量において、MBAA架橋したヒドロゲルと比較して非常に高められた機械的特性を示した。CBMAX架橋剤の水溶性は、さらに、以前に可能であったよりも、広い処方範囲に到達するのを可能にする。架橋剤のみ(モノマーなし)の重合により得られたヒドロゲルは、より高い含水量(60%)、優れた非ファウリング特性(非ファウリングpHEME参照ヒドロゲルより約90%低い非特異的細胞接着)、および高い機械的強度(約8MPaの圧縮弾性率)を有することが示された。さらに、CBMAモノマーで得られたようなCBMAX架橋剤で構成されるこれらのヒドロゲルは、単純なEDC/スルホNHSケミストリーによって機能付与することができる。
【0108】
以下の例は例示の目的で与えられ、本発明を限定するものではない。
【0109】
例
<材料> NN,N’−メチレンビス(アクリルアミド)、過硫酸アンモニウム、ビス亜硫酸水素ナトリウム、2−(N−モルフォリノ)エタンスルホン酸(MES)、メタクリル酸、イオン交換樹脂(IRA 400OH型)、およびリン酸緩衝食塩水は、シグマアルドリッチ(セントルイス,MO)から購入した。エタノールはデーコンラブス(Decon Labs)(キングオブプロシア,PA)から、アセトニトリルおよびジエチルエーテルは、イーエムディーバイオサイエンシズ(EMD Biosciences)(ギブスタウン,NJ)から、エチレングリコールはヴィーダブリュ−アール(VWR)(ウェストチェスター,PA)から、テトラメチレングリコールジメタクリレートはポリサイエンシズ(Polysciences)(ウォリントン,PA)から、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、t−ブチルブロモアセテート、およびN−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(CHES)はティーシーアイアメリカ(TCI America)(ポートランド,OR)から、および、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)はバイオ−ラドラボラトリーズ(Bio−Rad Laboratories)(ハーキュリーズ,CA)から購入した。N−メチルジエタノ−ルアミン、トリエタノールアミン、メタンスルホン酸、およびトリフルオロ酢酸は、アクロスオーガニクス(Acros Organics)(モリスプレーンズ,NJ)から購入した。ダルベッコ変法イーグル培地、ウシ胎児血清、非必須アミノ酸、およびペニシリン−ストレプトマイシンは、インヴィトロゲンコープ(Invitrogen Corp)(カールズバッド,CA)から購入した。シクロ(アルギニン−グリシン−アスパラギニン−D−チロンシン−リジン)ペプチド(cRGD)は、ペプチドインターナショナル(Peptides International)(ルーイビル,KY)から購入した。過酸化水素および塩化ナトリウムは、ジェイティーベイカー(J.T.Baker)(フィリップスバーグ,NJ)から、およびイムノピュアー(ImmunoPure)(登録商標)o−フェニレンジアミンジハイドロクロライドはピース(Pierce)(ロックフォード,IL)から購入した。西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)−接合した抗フィブリノーゲンは、ユーエスバイオロジカル(US Biological)(スウォンプスコット,MA)から購入した。COS−7細胞(アフリカミドリザル線維芽細胞細胞)は、アメリカンティッシューカルチャーコレクション(American Tissue Culture Collection)(マナッサス,VA)から購入した。ここで用いた全ての水は、ミリポア簡易水精製システムで18.2mΩまで精製した。
【0110】
<例1>
<代表的な双性イオン架橋剤:1−カルボキシ−N−メチル−N−ジ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(CBMX)および1−カルボキシ−N−トリ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(CBMA3X)の合成>
この例においては、本発明の代表的な双性イオン架橋剤1−カルボキシ−N−メチル−N−ジ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(CBMX)および1−カルボキシ−N−トリ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(CBMA3X)の合成を説明する。合成は、図2に示す。
【0111】
<N−メチル−N−ジ(エタノールアミンメタクリレート)(1)> N−メチルジエタノールアミン(11.9g,0.1mol),トルエン(100ml),ヒドロキノン(2.0g),およびメタクリル酸(21.5g,0.25mol)を、スターラー、コンデンサーおよびディーンスター(Dean−Star)トラップを有する500mLの反応フラスコに加えた。メタンスルホン酸(14.4g,0.15mol)をゆっくりと加え、混合物を加熱して還流した。反応の理論水を共沸的に捕集した後、溶液を室温に冷却した。混合物は、その後、25wt%の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、有機相を10%のブライン溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥した。溶液をろ過し、ろ液を活性炭および塩基性アルミナでさらに処理した。得られた溶液を真空下で除去して、無色の油が73%の収率で得られた。1H−NMR(CDCl3)δ:6.10(s,2H),5.56(s,2H),4.25(t,J=6.0Hz,4H),2.78(t,J=6.0Hz,4H),2.39(s,3H),1.94(s,6H)。
【0112】
<N−メチル−N−ジ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)−N−1−(t−ブチロイルオキシカルボニルメチル)アンモニウムブロマイド(2)> 化合物(1)(12.75g,50mmol),t−ブチルブロモアセテート(11.70g,60mmol),アセトニトリル(100ml)を、窒素充填されたフラスコ内で混合した。混合物は、60℃で2日間攪拌した。溶媒を真空下で除去し、残渣をエーテルで洗浄し、乾燥して白色固体を90%の収率で得た。1H−NMR(CDCl3)δ:6.15(s,2H),5.67(s,2H),4.80(s,2H),4.73(t,J=6.0Hz,4H),4.47(m,4H),3.75(s,3H),1.95(s,6H),1.48(s,9H)。
【0113】
<1−カルボキシ−N−メチル−N−ジ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(3)(CBMAX)> トリフルオロ酢酸(TFA,30ml)を含むジクロロメタン(120ml)中で2日間、室温で処理して、化合物(2)のt−ブチルエステル部分(13.5g,30mmol)を除去した。溶媒を真空下で除去し、アセトニトリル(120ml)で置換した。イオン交換樹脂(IRA400 OH型)の上で溶媒を中和し、次いで、濃縮し、エタノール中で沈殿させ、最後に真空乾燥して、定量的収率で白色固体を得た。1H−NMR(D2O)δ:6.05(s,2H),5.66(s,2H),4.56(t,4H),4.20(m,2H),3.95(m,4H),3.24(s,3H),1.83(s,6H)。
【0114】
<1−カルボキシ−N−トリ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)メタンアミニウム分子内塩(4)(CBMA3X)> 化合物4は、CBMAXの場合と同様の方法を用いて、トリエタノールアミンとメタクリル酸とからN−トリ(エタノールアミンメタクリレート)を得、次いで、t−ブチルブロモアセテートと反応させて、N−トリ(2−メタクリロイルオキシ−エチル)−N−1−(t−ブチルオキシカルボニルメチル)アンモニウムブロマイドを得た。t−ブチルエステル部分の除去後、白色固体として化合物4を得た。1H−NMR(D2O)δ:6.07(s,3H),5.70(s,3H),4.60(t,6H),4.20(t,6H),4.04(s,2H),1.85(s,9H)。
【0115】
<例2>
<代表的な双性イオン架橋ヒドロゲル:CBMA/CBMAXの合成および特性>
この例においては、本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成を説明する。双性イオンCBMAX架橋したヒドロゲル(CBMA/CBMAX)の特性は、双性イオンMBAA架橋したヒドロゲル(CBMA/MBAA)と比較した。
【0116】
2−カルボキシ−N,N−ジメチル−N−(2’−(メタクリロイルオキシ)エチル)エタンアミニウム分子内塩(カルボキシベタインメタクリレート、CBMA)は、Zhang Z,Chao T,Chen S,Jiang Sに述べられているように合成した。ガラススライド上に、超低のファウリングスルホベタインおよびカルボキシベタインポリマー。Langmuir 2006;22(24):10072−10077。
【0117】
<ヒドロゲル合成>
モノマー溶液は、1MのNaCl中で65重量%のモノマーの濃度に調製した。これらの溶液に、架橋剤(N’,N’−メチレンビス(アクリルアミド)(MBAA)またはCBMAX(例1で述べたように調製された)を、2〜23%(モノマーのモルパーセント)の範囲の量で加えた。上述のCBMAX処方は、モノマーと架橋剤との一定の総量を維持し、それらの相対モル量を調整することによって75%まで調製した。100%のCBMAXは、1MのNaClに所望量のCBMAXを溶解することによって単純に調製した。溶液は、超音波処理により混合した。いくつかの場合(上述の約10%MBAA)において、架橋剤は、完全には溶解しなかった。過硫酸アンモニウムの40%溶液および15%のメタ亜硫酸水素ナトリウムを溶液に加えて、重合を開始した。溶液は、0.5または2mm厚のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)スペーサーで隔てられたガラス製の顕微鏡スライドの間で60℃で重合させた。ゲルは、その後、スライドから取り除き、リン酸緩衝食塩水(PBS)中に浸漬して水和させた。この水和水は5日間絶えず取り換えて、未反応の化学物質および過剰の塩を除去した。バイオプシーパンチを用いて、水和されたヒドロゲルを直径5mmの薄い円盤状に抜いた。1部のエタノール、1.5部のエチレングリコール、および1.5部の水を含有する1.5ml中の混合溶媒に、0.78mlのHEMAモノマーを混合することによって、HEMAヒドロゲルを調製した。架橋剤テトラエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)を、次いで加え(60μl)、得られた溶液を超音波処理してよく混合した。最後に、24μlの40%過硫酸アンモニウムおよび7.5μlのTEMEDを加えた。このヒドロゲルは、上述したように形成された。
【0118】
<ヒドロゲルの膨潤特性>
ヒドロゲルは、PBS中で5日間、平衡状態まで膨潤させた。直径0.5cmの円盤は、0.5mm厚さの膨潤したゲルキャストから切り出した。円盤は、秤量した後、50℃、30インチHgの真空下で3日間脱水した。乾燥したヒドロゲルの円盤は、ノギスを用いて測定し秤量した。膨潤したヒドロゲルにおけるポリマーの体積分率(Φ)は下記式で与えられる。
【数1】
【0119】
ここで、D0およびDは、それぞれ、乾燥および膨潤した円盤の直径である。緩和された(非膨潤)ヒドロゲルにおけるポリマーの体積分率φ0は、モノマー/架橋剤溶液から決定される。溶液の体積を、加えられた水の体積と比較する。体積における違いは、モノマーの体積として受け止められ、これは、重合後のポリマーの体積に相当する。
【0120】
平衡含水量の値は、以下のように定義される。
【数2】
【0121】
ここで、mwは湿潤ヒドロゲルの質量であり、mdは乾燥ヒドロゲルの質量である。全てのサンプルは3回測定した。
【0122】
<酵素結合免疫測定法(ELISA)により評価されたタンパク質吸着>
フィブリノーゲン吸着を測定するために、直径0.5cmのヒドロゲル円盤(キャストした際に0.5mm厚)を、ウェルプレート中の1mg/mlのフィブリノーゲンで室温で15分間培養し、次いで、PBS緩衝液で4時間かけて洗浄した。ヒドロゲルは、その後、最後のPBS洗浄液から取り出し、新しいウェルに移した。それらは、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)接合した抗フィブリノーゲンを含むPBSの1:500希釈で10分間、次いで培養した後、同様の緩衝液でさらに5回洗浄した。ヒドロゲルは、その後、PBS緩衝液で4時間、繰り返し洗浄し、最後の洗浄液から取り出して新しいウェルに移した。最後に、1mg/mlのo−フェニレンジアミンハイドロクロライド(OPD)を含む0.1Mのリン酸クエン酸塩緩衝液、これはpH5.0で0.03%の過酸化水素を含有する、を500μl、それぞれのヒドロゲルに30秒間隔で加えた。サンプルは、OPD溶液中で光を避けて30分間培養した。上澄みは、それぞれのヒドロゲル円盤から取り出してキュベットに移し、492nmにおけるその吸光度を測定した。全てのサンプルは、3回測定した。
【0123】
<ヒドロゲルへの細胞吸着>
直径0.5cm(キャスト時に0.5mm厚)の3つのヒドロゲル円盤を、500μlのPBS溶液とともに48−ウェルプレートのウェル内にそれぞれ配置した。ヒドロゲルを滅菌するために、それらは、UV光を30分間照射し、1xペニシリン−ストレプトマイシンを含むPBS中で一晩冷凍した。COS−7細胞(p=7)は、補充されたダルベッコ変法イーグル培地中104cells/mlの濃度で、ヒドロゲルの上にまいた。細胞は、37℃、5%CO2、100%湿度で72時間成長させ、その後、Nikon Eclipse TE2000−U顕微鏡により倍率10Xでヒドロゲルを撮影した。ヒドロゲルの表面における5つの所定の領域で写真撮影し、ヒドロゲルの処方当たり合計で15画像について、それぞれの画像からの付着細胞の数を合計して、pHEMAヒドロゲルに吸着した細胞の数で規格化した。
【0124】
<EDC/スルホNHSケミストリーによって機能付与されたRGD>
CBMA/MBAAおよびCBMA/CBMAXのゲルは、cRGDで機能付与した。直径0.5cm(キャスト時0.5mm厚)の3つの薄い円盤状のヒドロゲルを、24−ウェルプレートのウェル内に配置した。それぞれの処方の全てのゲルは、2つのグループに分けた。それぞれのグループのゲルは同じウェル内に配置し、それぞれのヒドロゲルの表面が覆われないことを確保するよう配慮した。ヒドロゲルは、500μlのMES緩衝溶液(pH=5.5,10mM MES,100mM NaCl)中で一晩培養した。MESは、その後、各処方の1つのグループから取り出し、5mMのスルホNHSおよび100mMのEDCを含有するMESベースの緩衝溶液500μlで、室温で2時間置換して、表面を活性化した。対照として、それぞれの処方の第2のグループは、5mMのスルホNHSのMESベースの緩衝溶液で、同じ時間培養した。EDC/スルホNHS溶液およびスルホNHS溶液は、その後、ウェルから取り出し、ヒドロゲル円盤をMES緩衝液で3回洗浄した。全てのウェルに、1.4mMのcRGDを含有するCHES緩衝液(pH=9,50mM CHES,100mM NaCl)をさらに500μl加え、室温で反応を進行させた。3時間後、ヒドロゲルをPBEで3回洗浄した。洗浄1回当たり10分とした。最後に、機能付与された表面が上向きでとどまるよう留意して、ヒドロゲルを48ウェルポリスチレン組織培養プレートの個々のウェルに移した。ヒドロゲルは、ペニシリン−ストレプトマイシンで上述のように滅菌し、細胞接着も、上述したように翌日行なった。
【0125】
<ヒドロゲルの機械的強度>
各処方の少なくとも5つの直径0.5cmの円盤(キャスト時2mm厚)は、10Nロードセルを有するInstron 5543Aメカニカル試験機(Instron Corp.,ノーウッド,MA)を用いて1mm/minの速度で破壊まで圧縮した。ヤング率は、初期の10%歪みから算出した。
【0126】
<CBMAヒドロゲルの物理的特性の計算>
ヒドロゲルの水和特性(膨潤および緩和した体積分率)および応力−歪み曲線は、異なる2−arm CBMAX−およびMBAA−架橋したヒドロゲル処方の架橋剤密度およびメッシュサイズを計算するために用いることができる。ヒドロゲルの架橋剤密度(νe/V)を計算するために、以下の式を用いた。
【数3】
【0127】
ここで、τsは、Paのユニット内の特定の歪みにおける応力であり、αは変形率、または圧縮下での架橋したヒドロゲルの初期長さに対する変形した長さの比である。Rは、一般的な気体定数であり、Tは絶対温度、φ2は、平衡(完全に膨潤したヒドロゲル)におけるポリマーの体積分率であり、φ0は、緩和状態(非膨潤であるが、水和していないヒドロゲル)の状態のポリマーの体積分率である。(α−α-2)に対するτsのプロットは、低い歪みにおいて直線状であり、架橋剤密度(νe/V)は、傾き(νe/V)(RT)(φ2/φ0)-2から抽出される。
【0128】
モルにおける架橋結合密度/単位体積は、等式(4)を用いて、架橋結合の間の距離またはメッシュサイズに変換することができる。
【数4】
【0129】
ここで、NAはアボガドロ数である。等式(4)は、モル/体積をモル当たりの体積に逆にし、モルを架橋結合の数に変換し、立方根をとって架橋結合当たりの距離を得る。この値は、事実上、ヒドロゲルの細孔サイズである。
【0130】
<例3>
<光重合により合成された代表的な双性イオン架橋ヒドロゲル:CBMA/CBMAXの合成および特性>
この例においては、光重合により合成された、本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成を説明する。
【0131】
<CBベースヒドロゲルの合成>
モノマーおよび架橋剤の溶液を、47重量%の重合性材料を用いて、1MのNaCl中に調製した。架橋剤(CBMAX)は、モノマー(CBMA)の2〜80モル%の範囲の量で含有させた。100%CBMAXのための溶液は、47wt%CBMAXを用いて、1MのNaClに所望の量のCBMAXを溶解させることにより調製した。全ての溶液は、氷水中で超音波処理することによって混合した。1%(wt/wt)の光開始剤、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパンをそれぞれの溶液に加え、氷水中での超音波処理を用いて溶液を完全に混合した。溶液は、1mm厚のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)スペーサーで隔てられたガラス製の顕微鏡スライドの間で、両側から30分間の365nmのUV照射によって重合させた。ゲルは、その後、スライドから取り出してPBS中に浸漬して水和させた。この水和水は、5日間絶えず取り換えて、未反応の化学物質および過剰の塩を除去した。バイオプシーパンチを用いて、水和したヒドロゲルを直径5mmの円盤に抜いた。
【0132】
<ヒドロゲルの水和特性>
膨潤したヒドロゲルは、PBS中で5日間平衡にした。0.5cm円盤は、完全に水和したヒドロゲルスラブから切り取って秤量した。円盤は、その後、真空オーブン中、45℃、30インチHg真空で3日間脱水した。膨潤比は、乾燥ヒドロゲル重量に対する膨潤ヒドロゲル重量の比から決定し、各円盤の平衡含水量(EWC)は、WC=100(%)*(mw−md)/mw、ここでmwは湿潤ヒドロゲルの質量であり、mdは乾燥ヒドロゲルの質量である、として決定した。全てのサンプルは3回測定した。異なるCBMAX含有量のCBMA−CBMAXヒドロゲルについて、EWC値を図7に示す。ゲルの架橋が進むと、EWCは、50モル%を超えるCBMAXを含有するゲルについて約51%の定常値に達するまで減少する。
【0133】
<ヒドロゲルの圧縮特性>
0.5cm直径(キャスト時に1mm厚)の少なくとも3つの円盤は、10Nロードセルを有するInstron 5543Aメカニカル試験機(Instron Corp.,ノーウッド,MA)を用いて1mm/minの速度で破壊まで圧縮した。ヤング率は、初期の10%歪みから算出した。図8および9は、異なるCBMAX取り込みを有するCBMA−CBMAXヒドロゲルの、圧縮強度および圧縮弾性率をそれぞれ示す。ゲルの圧縮の強度および弾性率は、架橋剤含有量が増加するにつれて上昇する。弾性率における傾向は、熱的な開始によって合成されたヒドロゲルの場合と同じであるが、値には10倍の増加がある。熱的に重合したヒドロゲルについての減少した弾性率の値は、ゲル全域の不均質性が原因であるとすることができ、これはイニシエーションの間の熱移動の制限の結果である。一部の不均質性は、機械的特性に逆の影響を及ぼすであろう。光重合したゲルについての弾性率における増加のための別の説明は、光開始剤の溶解性が原因であるとすることができる。光開始剤は、熱開始剤より水溶性が低く、より少ないポリマー鎖がイニシエートされるであろう。これは、より長いポリマー鎖に翻訳し、ヒドロゲル中のより多くの架橋結合を有するものと同じである。
【0134】
<ヒドロゲルの細胞毒性および内毒素性の試験>
光重合したCBMAX架橋のCBMAヒドロゲルは試験して、細胞毒性の化学物質またはエンドトキシン汚染物のいずれも含まないことを保証した。生体内の移植のために調製された材料はエンドトキシンを含まないべきであり、これは、グラム陰性菌の細胞壁からの細菌の残留物である。体外の細菌の残留物は重要でないものであるが、材料に対する異物応答を高め得る免疫応答を体外で誘発可能であり、体外試験の結果を複雑にする。
【0135】
細胞毒性について試験するために、完全に水和したヒドロゲルの円盤を、補充された成長培地(89%のダルベッコ変法イーグル培地、10%のウシ胎児血清、1%のペニシリン−ストレプトマイシン、および1xの非必須アミノ酸)中に24時間浸漬し、すぐに培地をヒドロゲルから取り出して、COS−7細胞の培養に用いた。これは、新鮮な補充された培地中で事前に24時間、平板培地で成長したものである。細胞は、その後、ヒドロゲル注入で補充された培地で、さらに48時間培養し、細胞の増殖および健康状態の指標として、そのモルフォルジーを分析した。ヒドロゲル注入で補充された培地で、または新鮮な培地参照のいずれで培養されても、全ての細胞集団は、同等の増殖および健康状態の程度を示した。
【0136】
エンドトキシン汚染について試験するために、カブトガニ血球抽出成分(LAL)エンドトキシン試験を、標準手順にしたがって行なった。サンプルは、LALを含まない水で数日間抽出し、水は、次いで、約0.06EU/ml(Lonza)を超えるエンドトキシンを検出する感度を有する酵素測定法を用いて、エンドトキシンの存在下で試験した。この検出限界の濃度のエンドトキシンの存在において、酵素測定法溶液は、それ自体が架橋してゲルを形成したが、この濃度より低いエンドトキシンレベルにおいては、ゲル化は生じないであろう。標準は、サンプルと一緒に試験して結果を確認した。ゲル化測定法は、試験された全てのヒドロゲルがエンドトキシンを含まないことを明らかにした。
【0137】
<例4>
<光重合により合成され、架橋剤勾配を有する代表的な双性イオン架橋ヒドロゲル:CBMA/CBMAXの合成および性質>
この例においては、光重合により合成され、架橋剤勾配を有する本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの合成および性質を説明する。
【0138】
<ヒドロゲル合成>
モノマー(CBMA)溶液は、1MのNaCl中に65wt%の濃度で調製した。この溶液は、超音波処理して混合し、冷凍した。上述で用いられたものと同様の光開始剤をモノマー溶液に加え、モノマー−開始剤溶液を、2mm厚のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)スペーサーで隔てられた2枚の顕微鏡スライドの間にそのままで仕込んだ。次に、架橋剤(CBAMX)の65wt%溶液を同様に調製し、同様に超音波処理して冷凍した。この溶液をモノマー溶液に注意深く加えて、その後、顕微鏡スライド器具の中に仕込んだ。異なる溶液密度に起因して、拡散が架橋剤勾配を作り出す前に、架橋剤溶液は器具の底へ沈むように見えた。この現象の目視観察は、架橋剤中の微量の着色物質により可能とされた。このプロセスは、図10に示した。最後に、拡散が溶液を均質にする前であるが、長波長UV光により30分間重合を開始し、その後、ガラススライドからヒドロゲルを取り除き、PBS中で5日間水和させた。
【0139】
<勾配分析>
勾配を有するヒドロゲルの架橋剤プロファイルは、ヒドロゲルスラブの長さに沿った平衡含水量の測定から定量した。5mm円盤は、ゲルの縁に沿った近接する部分から切り出し、架橋剤濃度のより高い領域(より濃く着色された、図10参照)から、架橋剤濃度のより低い領域である。円盤は秤量し、50℃、30インチHg真空で3日間徹底的に脱水し、再度秤量した。各円盤の平衡含水量は、EWC=100(%)*(mw−md)/mw、ここでmwは、湿潤ヒドロゲルの質量であり、mdは乾燥ヒドロゲルの質量である、として決定した。
【0140】
<ヒドロゲル特性評価>
異なるCBMAS濃度、2%CBMAXから100%CBMAXの範囲、を有するCBMAヒドロゲルについて平衡含水量を、前もって測定した。この実証された関係を用いると、同じCBMA/CBMAXヒドロゲル上の異なる位置で測定された平衡含水量を、それぞれの特定の位置におけるCBMAX含有量に換算することができる。さらに、前述の章において行なわれた物理的および機械的特性の広範な特性評価からの結果を用いると、架橋剤含有量プロファイルは、その対応する機械的(圧縮)弾性率、メッシュサイズ、および架橋剤密度(図11〜14)と相関がある。
【0141】
<勾配を有するヒドロゲル形成および分析>
勾配を有するゲルは、上述したように形成された。架橋剤中に含まれる着色トレーサーに起因して、勾配は肉眼で見ることができる(図15)。平衡含水量は、図11に示される関係を用いて架橋剤含有量に換算した。最も高い架橋剤エッジで始まるゲルに沿った距離の関数として、架橋剤含有量を図16に示す。約100%〜30%の範囲の架橋剤含有量は、中間の領域内で極めて均一な勾配を有し、一方の端においてより高い架橋剤濃度を有する単一物質の成功した構造を示す。
【0142】
ヒドロゲルは、多種多様で空間的に制御された特性を伴なって形成される。架橋剤含有量は、約100%〜30%の範囲であり、中間の領域内で極めて均一な勾配を有する。用いられる材料、CBMAモノマーおよびCBMA架橋剤、は同じ主鎖および側鎖を有するので、ヒドロゲル全体としては実質的に単一物質で構成される。このように、含水量、架橋剤密度、およびメッシュサイズにおける勾配は、非ファウリングおよび機能付与性のようなある種の所望の特性の連続性を損なわなかった。
【0143】
ヒドロゲルは単一物質から作製され、架橋結合の均一な勾配と、対応する物理的、機械的および水和特性とを示す。モノマーと架橋剤とは、1または2のメタクリレート基によってのみ互いに異なり、こうして、全体の構造は単に双性イオンカルボキシベタインおよびメタクリレートからなる。すなわち、勾配は、メタクリレート対双性イオン比の漸進的な増加によって形成される。100%架橋剤(2:1のメタクリレート対双性イオン)においてさえ、ヒドロゲルは、非ファウリングpHEMAヒドロゲルより90%低い非特異的な細胞接着、および優れた機能付与を示す。このように、全体の勾配に沿って、機械的強度ならびに架橋剤密度の減少、および細孔サイズならびに水和作用の増加にもかかわらず、材料は、双性イオン性および機能付与性を維持して、ゲル制御可能な生理活性を与える。
【0144】
<例5>
<グルコースバイオセンサーのための双性イオンポリ(カルボキシベタイン)ヒドロゲル>
この例においては、グルコースイオンセンサーにおける本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの使用を述べる。
【0145】
<ポリCBMAヒドロゲルの合成> CBMAモノマーは、まず水と混合し、溶液を1分間超音波処理してモノマーを溶解した。CBMAXを上述の溶液に加え、0℃で1分間、混合物を超音波処理して溶解を完結させた。CBMAとCBMAXとのモル比は、1000:1,100:1,10:1,および5:1であり、CBMAの最終的な濃度は10Mであった。1%(w/w)光開始剤(Benacure 1173)を加え、溶液を0℃で混合した。溶液を、0.4mmのPTFEスペーサーで隔てられた一対のガラス板の中に移した。365nmUV光のもと、室温で30分間光重合反応を行なって、ヒドロゲルを重合させた。その後、ヒドロゲルをプレートから取り除き、大量のPBS中に浸漬した。PBSは、5日間絶えず取り換えて、さらなる使用前に残留する化学物質を除去した。
【0146】
<ヒドロゲルの機械的および細胞接着特性の分析> ヒドロゲルは、PBS緩衝液中で5日間、平衡状態になるまで膨潤させた。平衡になったヒドロゲルは、次いで、5mmの直径を有する円盤に抜いた。円盤を秤量した後、50℃、30インチHg真空における真空のもとで3日間脱水した。膨潤比は、乾燥ヒドロゲルの重量に対する膨潤ヒドロゲルの重量の比によって決定し、平衡含水量の値は上述したように決定した。全てのサンプルは、3回測定した。図17に示されるように、最も高い含水量は、0.1%CBMAXヒドロゲルについて得られ、これは94.19±0.26%である。CBMAXモル比が大きくなると、含水量は減少する。
【0147】
5mm直径の3つのヒドロゲル円盤(キャスト時0.5mm)を、500μLのPBS溶液とともに48ウェルプレートのウェル内にそれぞれ配置した。ヒドロゲルを滅菌するために、1xペニシリン−ストレプトマイシンを含むPBS中で、それらを一晩冷凍した。COS−7細胞(p=7)は、補充されたDMEM中1x104cells/mLの濃度でヒドロゲルの上にまいた。細胞は、37℃、5%CO2、および100%湿度で72時間成長させ、その後、ヒドロゲルは10×倍率のNikon Eclipse TE2000−U顕微鏡で写真撮影した。ヒドロゲルの表面の5つの所定の領域で、ヒドロゲル処方当たり合計15の写真撮影を行なった。GOx固定化の前後において、異なるCBMAXモル比ポリCBMAヒドロゲルの表面への細胞結合の違いを、図18A〜図18Hに定量的に示す。10%CBMAXを除く全てのポリCBMAヒドロゲルは、GOx固定化の前後の細胞吸着に高い抵抗を有する。すなわち、非常に低い量の表面への細胞接着があった。
【0148】
<ポリCBMAヒドロゲル被覆されたグルコースセンサーの合成> グルコースセンサーは、コイル型の移植可能なセンサーに基づく。コイル型の移植可能なセンサーは、40〜50mmの長さの白金ワイヤの上部10mmを、25ゲージのニードルに沿って巻き付け、コイル状のシリンダーを形成した。ポリpCBMAヒドロゲルの接着を改善するために、10%(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレートおよび0.5%の水をトルエン中に含む溶液を用いて、80℃でコイルの表面に機能付与した。グルコースセンサー先端へのヒドロゲルコーティングの形成のために、1.2μLの混合溶液(CBMA、CBMAX、および開始剤とともに水)をセンサーの先端にピペットで加えた。溶液は、先端の表面にわたって均一に広がった。254nmのUV光への30分間の露出の後、センサー(Pt/CBMA/GOxと称される)は、さらなる使用までPBS中に保管した。
【0149】
<NHS/EDCケミストリーによる酵素固定化> ポリpCBAAヒドロゲルのカルボキシル基は、N−ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム(5mM)およびN−エチル−N’−(3−ジエチルアミノプロピル)カルボジイミドハイドロクロライド(EDC)(100mM)を含有する10mMのMES緩衝液(pH 5.5,100mM NaCl)の新たに調製された溶液の導入により、25℃で2時間活性化した。その後、センサーを取り除いて、大量の上述のMES緩衝液中に2時間浸漬した。MES緩衝液は、数回交換して、残留する化学物質を除去した。センサーは、MES緩衝液中グルコースオキシダーゼ(GOx)(10mg/mL)を含む新たに調製された溶液中に4℃で4時間、次いで、PBS緩衝液にグルコースオキシダーゼ(GOx)(1mg/mL)を含む新たに調製された溶液中に4℃で2時間、浸漬した。さらなるグルコース試験の前、センサーは、大量のPBS中に浸漬して、全ての不安定な結合を除去した。
【0150】
<生体外のセンサー評価> センサーの生体外性能をグルコースPBS溶液中で観察して、センサーの感度および線形範囲を決定した。Pt/CBMA/GOxセンサーの感度は、まず、4および2mMのグルコースPBS溶液を用いて測定した。PBSの基本電流とサンプル中のグルコースの定常安定電流との間の差を用いて、検定グラフを得た。その後、100%のヒト血清中に分散されたグルコース溶液で、センサーを試験した。長期間にわたるセンサー評価のために、センサーは、異なる培養日数での次の試験の前に、4℃の100%ヒト血清中に浸漬した。血清サンプル中でのグルコースを測定するとき、基本電流は血清中でとられ、次いで、センサーをサンプル内に移して定常安定電流を得る。全ての実験は室温で行ない、全ての溶液は測定の間、攪拌した。電流測定は、+0.75Vvs.Ag/AgClおよび白金ワイヤカウンター電極で、室温で行なった。異なるCBMAXモル比のポリCBMAヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答を、PBS中におけるグルコース濃度の関数として、図19A〜図19Dに比較する。全てのセンサーは、非常に高い安定性、およびPBS中における電流応答を示す。さらに、それらの応答は遅延せず、4〜20mMの範囲にわたって優れた線形性を有する。異なるCBMAXモル比のポリCBMAヒドロゲルで被覆されたグルコースセンサーの電流応答を、100%血清中におけるグルコース濃度の関数として、図20A〜20Dに比較する。0.1%CBMAXモル比のポリCBMAヒドロゲルで被覆されたセンサーは、10日を越えて血清に曝した後においても感度および線形性に低下はみられないが、一方、他のセンサーは良好に行なうことができない。結果は、ポリCBMAヒドロゲルコーティングの添加が、移植されたグルコースセンサーの長期間にわたる性能を改善することを示唆する。
【0151】
<例6>
<金ナノ粒子のための双性イオンポリ(カルボキシベタイン)ヒドロゲル>
この例においては、グルコースバイオセンサーにおける本発明の代表的な双性イオン架橋ヒドロゲルCBMA/CBMAXの使用を述べる。
【0152】
<イニシエーター修飾された金ナノ粒子の合成(GNPs)> アイザー(either)HAuCl4(30mL)の5mM水溶液を、トルエン(80mL)中に4mMのテトラオクチルブロマイド(TOAB)を含有する溶液に、10分間攪拌しつつ加えた。その後、NaBH4(0.4M,25mL)水溶液を激しく攪拌しつつ、この溶液に滴下して加えた。暗橙溶液は、数分の間に赤色に変わり、攪拌を3時間続けて、反応が完了したことを確かめた。その後、2つの相を分離し、有機相を0.1MのH2SO4、0.1MのNaOH、および水で引き続いて洗浄した(それぞれ3回)。その後、イニシエーター、274.2mgの11−メルカプトウンデシル2−ブロモイソブチレート(Br(CH3)2COO(CH2)11SH)(0.808mmol,1mLのトルエンに溶解させた)を、滴下の方法により15分間で溶液に加えた。反応は、一晩、進行させた。メタノール(60mL)を系に加えて、Au−NPsを沈殿させた。沈殿物を回収し、トルエン中で再分散させ、エタノール中に再沈させた。この沈殿および再分散のサイクルは、純粋なAu−NPs(すなわち、反応副生成物を含まない)が得られる前に2回繰り返した。NPsは、凝集することなくアセトン中によく分散して、Au−NPsの平均直径は約5nmであった。
【0153】
<ATRP(CA−GNPs)を介したCBMA被覆されたGNPsの製造> 300mgのCBMAモノマー、61.70mgの2,2−ビピリジン、および28.53mgの臭化銅(I)を、窒素雰囲気下、3mlの脱泡したアセトンおよび0.5mlのメタノールに加えた。1mLのイニシエーター修飾されたGNPs溶液は、上述の溶液と混合する前に窒素でバブリングすることによって脱酸素化した。最終混合物は、室温で2時間攪拌した(100rpm)。重合後、CA−GNPsは、水中で遠心分離/再分散させることによって数回洗浄した。CA−NPsの平均直径は、水中で69.8nmであった。
【0154】
<ATRP(OA−GNPs)を介したOEGMA被覆されたGNPsの製造> 47.7mgの臭化銅(I)、7.43mgの臭化銅(II)、および104mgの2,2−ビピリジンを、窒素のもと、4mlの脱泡したアセトンに溶解した。1mLのイニシエーター修飾されたGNPs溶液を、上述の溶液に加える前に、窒素でバブリングすることによって脱酸素化した。2gのマイクロモノマーOEGMAが得られ、最終混合物は室温で6時間攪拌した。重合後、OA−GNPsは、逆浸透水中で遠心分離/再分散させることによって数回洗浄した。PA−NPsの平均直径は、水中で72.4nmであった。
【0155】
<EGDMA架橋剤(OC−GNPs)を伴なったATRPを介したOEGMA被覆されたGNPsの製造> 47.7mgの臭化銅(I)、7.43mgの臭化銅(II)、および104mgの2,2−ビピリジンを、窒素下で4mlの脱泡したアセトンに溶解させた。1mLのイニシエーター修飾されたGNPs溶液を、上述の溶液と直接混合する前に、窒素でバブリングすることによって脱酸素化した。2gのマイクロモノマーOEGMAおよび126.4μLのEGDMAを加え、最終混合物を50℃で6時間攪拌した。重合後、OC−GNPsを逆浸透水中で遠心分離/再分散させることによって数回洗浄した。OC−NPsの平均直径は、水中で71.9nmであった。
【0156】
<CBMAX架橋剤(CC−GNPs)を伴なったATRPを介したCBMA被覆されたGNPsの製造> 300mgのCBMAモノマー、3.0mgのCBMAX、61.7mgの2,2−ビピリジン、4.4mgの臭化銅(II)、および28.533mgの臭化銅(I)を、窒素雰囲気下、3mlの脱泡したアセトンおよび0.5mlのメタノール中に溶解した。1mLのイニシエーター修飾されたGNPs溶液を、上述の溶液と直接混合する前に、窒素でバブリングすることによって脱酸素化した。最終混合物は、50℃で6時間攪拌した。重合後、CCE−GNPsは、逆浸透水中で遠心分離/再分散させることによって数回洗浄した。CC−NPsの平均直径は、水中で80nmであった。
【0157】
<ポリマー被覆されたGNPsの安定性試験> ポリマー被覆されたGNPsの安定性は、37℃の100%のヒトの血清中でさらに評価した。高いタンパク質濃度に起因して、これらのナノ粒子は、遠心分離によりヒト血清タンパク質から分離され、PBS緩衝液中に再分散させた。ナノ粒子の平均直径は、その後、DLSにより37℃で評価した。全ての溶液は、異なる培養時間における次の試験前に、37℃の100%のヒト血清と混合した。図21に示されるように、OA−GNPsは、非常に短い期間に約50nmのサイズ増加を示した。72時間の最終時点において、直径は約140nmに増加し、これは著しいタンパク質吸着および微粒子の凝集を示す。OC−GNPsは、そのような極端な状況下では安定でないものの、EGDMAの添加は安定性の向上を助けた。直径の増加量は、6時間および72時間の培養期間後、それぞれ6nmおよび30nmであった。沈殿物は、上述の溶液中に観察することができた。しかしながら、ポリCBAAコーティングでの保護を伴なう3種類のGNPs(CA−GNPs,CCE−GNPs,およびCCC−GNPs)は、タンパク質とナノ粒子との間の相互作用は、凝集を全く引き起こさず、ヒト血清タンパク質からの分離後の粒子サイズは、血清のない場合とほぼ同等(70nm,50nmおよび105.9nm)であり、その優れた安定性を示している。
【0158】
次に、ポリマー被覆されたナノ粒子を、非常に高い濃度でヒト血清と混合し、37℃で培養した。ナノ粒子の平均直径は、その後、37℃のDLSにより評価した。図22に示されるように、OA−GNPsは、サイズにおける約20nmの増加を6時間後に示した。この値は、約72時間後には200nmに増加し、これは、培養血清培地中でのタンパク質とのナノ粒子の相互作用に起因する。ここでも、EGDMAの添加は安定性を高めた。72時間の培養期間後、直径の増加は70nmであった。しかしながら、ポリCBMA被覆を伴なうと、全く凝集せず、3つのサンプルは全て、72時間の試験期間の間に明らかなサイズ増加なしに優れた安定性を示した。
【0159】
説明的な実施形態を示して述べたが、種々の変更は、本発明の意図や範囲から逸脱しない中で行ない得ることが理解されるであろう。
【0160】
独占的属性または特権である本発明の実施形態は、以下に限定するように主張される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式を有する化合物。
【化1】
ここで
R1およびR2は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基からなる群から独立して選択され;
R3は、C1〜C6アルキル、C6〜C12アリール、CH2=C(R1)−L1−、およびCH2=C(R2)−L2−からなる群から選択され;
L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から独立して選択され、ここでnは1〜20の整数であり;
L3は、−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数であり;
A1は、C,S,SO,P,またはPOであり;
X-は、N+カチオン中心に結合する対イオンであり;および
M+は、(A1=O)O-アニオン中心に結合する対イオンである。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物であって、R1,R2,およびR3は、C1〜C3アルキルからなる群から独立して選択される化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物であって、L1およびL2は、それぞれの出現において、−C(=O)O−(CH2)n−からなる群から独立して選択され、ここでnは1〜6である化合物。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物あって、L3は−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6の整数である化合物。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物であって、M+は金属または有機イオンである化合物。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物であって、X-は、ハライド、カルボキシレート、アルキルスルホネート、スルホネート;ナイトレート、パークロレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、トリフルオロメチルスルフォネート、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、ラクテート、およびサリシレートからなる群から選択される化合物。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物であって、A1はCまたはSOである化合物。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物であって、R1、R2およびR3はメチルであり、L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)2−であり、L3は−(CH2)−であり、およびA1はCまたはSOである化合物。
【請求項9】
繰り返し単位と複数の架橋結合とを有する架橋したポリマーを含む架橋ヒドロゲルであって、
それぞれの繰り返し単位は下記式を有する架橋ヒドロゲル。
【化2】
ここで
R4は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基からなる群から選択され;
R5およびR6は、アルキルおよびアリールからなる群から独立して選択され、または、それらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成し;
L4は、カチオン中心[N+(R5)(R6)]をポリマー主鎖[−(CH2−CR4)n−]に共有的に結合するリンカーであり;
L5は、アニオン中心[A2(=O)−O-]をカチオン中心に共有的に結合するリンカーであり;
A2は、C,S,SO,P,またはPOであり;
M+は、(A2=O)O-アニオン中心に結合する対イオンであり;
X-は、カチオン中心に結合する対イオンであり;
nは、5〜約10,000の整数であり;および
ここで、それぞれの架橋結合は下記式を有し:
【化3】
ここで
R1およびR2は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基からなる群から独立して選択され;
R3は、C1〜C6アルキル、C6〜C12アリール、CH2=C(R1)−L1−、CH2=C(R2)−L2−からなる群から独立して選択され、またはR3は、第3の架橋結合、−L1−CR1−CH2−または−L2−CR2−CH2−)の残部であり;
L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から独立して選択され、ここでnは1〜20の整数であり;
L3は、−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数であり;
A1は、C,S,SO,P,またはPOであり;
xは、約5〜約10,000の整数であり;
X-は、N+カチオン中心に結合する対イオンであり;および
M+は、(A=O)O-アニオン中心に結合する対イオンである。
【請求項10】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、R1,R2,R3,R4,R5,R6は、C1〜C3アルキルからなる群から独立して選択されるヒドロゲル。
【請求項11】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6であるヒドロゲル。
【請求項12】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、L3は−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6の整数であるヒドロゲル。
【請求項13】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、A1はCまたはSOであるヒドロゲル。
【請求項14】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、L4は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から選択され、ここでnは1〜20の整数であるヒドロゲル。
【請求項15】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、L5は−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数であるヒドロゲル。
【請求項16】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、A2は、CまたはSOであるヒドロゲル。
【請求項17】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、nは10〜約1,000の整数であるヒドロゲル。
【請求項18】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、M+は、それぞれの出現において金属または有機イオンであるヒドロゲル。
【請求項19】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、X-は、それぞれの出現において、ハライド、カルボキシレート、アルキルスルホネート、スルホネート;ナイトレート、パークロレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、トリフルオロメチルスルフォネート、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、ラクテート、またはサリシレートであるヒドロゲル。
【請求項20】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、xは約10〜約1,000の整数であるヒドロゲル。
【請求項21】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、R1,R2,およびR3は、メチルであり、L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)2−であり、L3は−(CH2)−であり、A1はCまたはSOであり、R4,R5,およびR6は、メチルであり、L4は−C(=O)O−(CH2)2−であり、L5は−(CH2)−であり、A2はCまたはSOであるヒドロゲル。
【請求項22】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、前記架橋ポリマーは下記式を有する繰り返し単位を有するヒドロゲル。
【化4】
ここで
R7およびR8は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1−C6アルキル基、およびC6−C12アリール基から独立して選択され;
R9,R10、およびR11は、アルキルおよびアリールから独立して選択され、またはそれらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成し;
A3(=O)−OM)はアニオン中心であり、ここでA3はC,S,SO,P,またはPOであり、Mは金属または有機対イオンであり;
L6は、カチオン中心[N+(R9)(R10)(R11)]をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーであり;
L7は、アニオン中心[A(=O)−OM]をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーであり;
X-は、カチオン中心に結合する対イオンであり;
nは、5から約10,000の整数であり;および
pは、5から約10,000の整数である。
【請求項23】
基材の表面であって、請求項9乃至22のいずれか1項に記載のポリマーを含む表面。
【請求項24】
請求項23に記載の表面であって、前記基材は、粒子、ドラッグキャリアー、非ウィルス性遺伝子送達システム、バイオセンサー、メンブラン、移植可能なセンサー、皮下センサー、インプラント、およびコンタクトレンズからなる群から選択される表面。
【請求項25】
請求項23に記載の表面であって、前記基材は、イヤードレイナージ管、栄養管、グラウコーマドレナージ管、脳水腫シャント、人工角膜、神経ガイダンス管、導尿カテーテル、組織接着剤、X線ガイド、人工関節、人工心臓弁、人工血管、ペースメーカー、左心補助人工心臓(LVAD)、動脈移植片、組織足場材、およびステントからなる群から選択される移植可能な医療装置である表面。
【請求項1】
下記式を有する化合物。
【化1】
ここで
R1およびR2は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基からなる群から独立して選択され;
R3は、C1〜C6アルキル、C6〜C12アリール、CH2=C(R1)−L1−、およびCH2=C(R2)−L2−からなる群から選択され;
L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から独立して選択され、ここでnは1〜20の整数であり;
L3は、−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数であり;
A1は、C,S,SO,P,またはPOであり;
X-は、N+カチオン中心に結合する対イオンであり;および
M+は、(A1=O)O-アニオン中心に結合する対イオンである。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物であって、R1,R2,およびR3は、C1〜C3アルキルからなる群から独立して選択される化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物であって、L1およびL2は、それぞれの出現において、−C(=O)O−(CH2)n−からなる群から独立して選択され、ここでnは1〜6である化合物。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物あって、L3は−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6の整数である化合物。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物であって、M+は金属または有機イオンである化合物。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物であって、X-は、ハライド、カルボキシレート、アルキルスルホネート、スルホネート;ナイトレート、パークロレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、トリフルオロメチルスルフォネート、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、ラクテート、およびサリシレートからなる群から選択される化合物。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物であって、A1はCまたはSOである化合物。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物であって、R1、R2およびR3はメチルであり、L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)2−であり、L3は−(CH2)−であり、およびA1はCまたはSOである化合物。
【請求項9】
繰り返し単位と複数の架橋結合とを有する架橋したポリマーを含む架橋ヒドロゲルであって、
それぞれの繰り返し単位は下記式を有する架橋ヒドロゲル。
【化2】
ここで
R4は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基からなる群から選択され;
R5およびR6は、アルキルおよびアリールからなる群から独立して選択され、または、それらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成し;
L4は、カチオン中心[N+(R5)(R6)]をポリマー主鎖[−(CH2−CR4)n−]に共有的に結合するリンカーであり;
L5は、アニオン中心[A2(=O)−O-]をカチオン中心に共有的に結合するリンカーであり;
A2は、C,S,SO,P,またはPOであり;
M+は、(A2=O)O-アニオン中心に結合する対イオンであり;
X-は、カチオン中心に結合する対イオンであり;
nは、5〜約10,000の整数であり;および
ここで、それぞれの架橋結合は下記式を有し:
【化3】
ここで
R1およびR2は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1〜C6アルキル基、およびC6〜C12アリール基からなる群から独立して選択され;
R3は、C1〜C6アルキル、C6〜C12アリール、CH2=C(R1)−L1−、CH2=C(R2)−L2−からなる群から独立して選択され、またはR3は、第3の架橋結合、−L1−CR1−CH2−または−L2−CR2−CH2−)の残部であり;
L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から独立して選択され、ここでnは1〜20の整数であり;
L3は、−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数であり;
A1は、C,S,SO,P,またはPOであり;
xは、約5〜約10,000の整数であり;
X-は、N+カチオン中心に結合する対イオンであり;および
M+は、(A=O)O-アニオン中心に結合する対イオンである。
【請求項10】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、R1,R2,R3,R4,R5,R6は、C1〜C3アルキルからなる群から独立して選択されるヒドロゲル。
【請求項11】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6であるヒドロゲル。
【請求項12】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、L3は−(CH2)n−であり、ここでnは1〜6の整数であるヒドロゲル。
【請求項13】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、A1はCまたはSOであるヒドロゲル。
【請求項14】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、L4は、−C(=O)O−(CH2)n−および−C(=O)NH−(CH2)n−からなる群から選択され、ここでnは1〜20の整数であるヒドロゲル。
【請求項15】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、L5は−(CH2)n−であり、ここでnは1〜20の整数であるヒドロゲル。
【請求項16】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、A2は、CまたはSOであるヒドロゲル。
【請求項17】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、nは10〜約1,000の整数であるヒドロゲル。
【請求項18】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、M+は、それぞれの出現において金属または有機イオンであるヒドロゲル。
【請求項19】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、X-は、それぞれの出現において、ハライド、カルボキシレート、アルキルスルホネート、スルホネート;ナイトレート、パークロレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、トリフルオロメチルスルフォネート、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、ラクテート、またはサリシレートであるヒドロゲル。
【請求項20】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、xは約10〜約1,000の整数であるヒドロゲル。
【請求項21】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、R1,R2,およびR3は、メチルであり、L1およびL2は、−C(=O)O−(CH2)2−であり、L3は−(CH2)−であり、A1はCまたはSOであり、R4,R5,およびR6は、メチルであり、L4は−C(=O)O−(CH2)2−であり、L5は−(CH2)−であり、A2はCまたはSOであるヒドロゲル。
【請求項22】
請求項9に記載のヒドロゲルであって、前記架橋ポリマーは下記式を有する繰り返し単位を有するヒドロゲル。
【化4】
ここで
R7およびR8は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、C1−C6アルキル基、およびC6−C12アリール基から独立して選択され;
R9,R10、およびR11は、アルキルおよびアリールから独立して選択され、またはそれらが結びついた窒素とともにカチオン中心を形成し;
A3(=O)−OM)はアニオン中心であり、ここでA3はC,S,SO,P,またはPOであり、Mは金属または有機対イオンであり;
L6は、カチオン中心[N+(R9)(R10)(R11)]をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーであり;
L7は、アニオン中心[A(=O)−OM]をポリマー主鎖に共有的に結合するリンカーであり;
X-は、カチオン中心に結合する対イオンであり;
nは、5から約10,000の整数であり;および
pは、5から約10,000の整数である。
【請求項23】
基材の表面であって、請求項9乃至22のいずれか1項に記載のポリマーを含む表面。
【請求項24】
請求項23に記載の表面であって、前記基材は、粒子、ドラッグキャリアー、非ウィルス性遺伝子送達システム、バイオセンサー、メンブラン、移植可能なセンサー、皮下センサー、インプラント、およびコンタクトレンズからなる群から選択される表面。
【請求項25】
請求項23に記載の表面であって、前記基材は、イヤードレイナージ管、栄養管、グラウコーマドレナージ管、脳水腫シャント、人工角膜、神経ガイダンス管、導尿カテーテル、組織接着剤、X線ガイド、人工関節、人工心臓弁、人工血管、ペースメーカー、左心補助人工心臓(LVAD)、動脈移植片、組織足場材、およびステントからなる群から選択される移植可能な医療装置である表面。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図18D】
【図18E】
【図18F】
【図18G】
【図18H】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図19D】
【図20A】
【図20B】
【図20C】
【図20D】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図18D】
【図18E】
【図18F】
【図18G】
【図18H】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図19D】
【図20A】
【図20B】
【図20C】
【図20D】
【図21】
【図22】
【公表番号】特表2013−510179(P2013−510179A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538067(P2012−538067)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/055875
【国際公開番号】WO2011/057219
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512115933)ユニヴァーシティ・オブ・ワシントン・スルー・イッツ・センター・フォー・コマーシャリゼーション (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/055875
【国際公開番号】WO2011/057219
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512115933)ユニヴァーシティ・オブ・ワシントン・スルー・イッツ・センター・フォー・コマーシャリゼーション (3)
【Fターム(参考)】
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