説明

架橋ナノ粒子を有する重合可能物

本発明は、
a)アクリレートおよび/またはメタクリレート
b)0.05〜30nmの平均粒子寸法を有する0.1〜70重量%のSiO粒子であって、メタクリロイル、アクリロイル、スチリル、イタコニル、クロトニル、ビニル、アリルおよび/またはアルケニル型の重合可能基を表面に有し、アクリレートおよび/またはメタクリレート中に分散状態で存在し、SiO粒子の少なくとも50%が個別の非凝集または非集塊の一次粒子からなる、SiO粒子、
c)2重量%以下の架橋剤分子
を含有する重合可能組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリレートおよび/またはメタクリレートをベースとする重合可能な組成物に関し、また、そのような組成物を用いて製造されるポリマー材料にも関する。これらの材料は、室温における良好な機械的特性および光学特性、ならびに高温における成形性に関して注目に値する。
【背景技術】
【0002】
ポリアクリレートおよびポリメタクリレートは従来技術において長い間知られてきた。これらは、例えば、プレキシグラス、またはアクリレートゴムと呼ばれるものを製造するのに用いられる。これらの材料の良好な特性は、ガラス転移温度より高い温度で引き延ばすことによって更に向上し得る(DE 4443355)。
【0003】
ポリマーの機械的特性は充填剤によって向上し得る。アクリル酸エステル群が比較的容易に加水分解し得ることにより、少数の充填剤のみがポリアクリレートに対して使用可能であり、その一例はカーボンブラックである。しかし、カーボンブラックは、しばしば求められるポリアクリレートの透明性を損なう。
【0004】
無機ナノ粒子で修飾されたアクリレートおよびメタクリレートネットワークを利用する様々な用途が存在し、特定の例として、傷のつきにくいコーティング(DE 698 26 226)または歯科材料(DE 196 17 931)が挙げられる。メタクリロイルオキシプロピルでグラフトされたSiOナノ粒子およびメチルメタクリレートをベースとするネットワークがMaugerらによって記載されている(Polym Int 53:378(2004))。DE 199 33 098には、ナノ粒子とエポキシ官能性バインダーとの反応によって製造されるナノ粒子修飾バインダーが開示されている。この反応は、マトリクスにおけるナノ粒子の特に良好な分布をもたらすといわれている。
【0005】
前述の従来技術は、硬度、引っかき抵抗性(または傷つきにくさ)または耐腐食性の増大に重点を置いている。しかし、例としてグレージング材料用途におけるような、例えばトンネル・アーチのような、多数のプラスチックの用途は変形性を必要とする。
【発明の概要】
【0006】
本発明の基礎となる目標は、上述の種類の重合可能な組成物であって、種々の可能な用途を有し、かつ、そのような重合可能組成物から製造可能な材料に良好な機械的特性を与える組成物を提供することである。材料のガラス転移温度Tより高い温度において、好ましくは成形を可能にする一定の伸長性が存在するべきである。
【0007】
本発明は、以下のものを含有する重合可能な組成物を提供する:
a)アクリレートおよび/またはメタクリレート、
b)1〜30nmの平均粒子寸法を有する0.1〜70重量%のSiO粒子であって、メタクリロイル、アクリロイル、スチリル、イタコニル、クロトニル、ビニル、アリルおよび/またはアルケニル型の重合可能基を表面に有し、アクリレートおよび/またはメタクリレート中に分散状態で存在し、SiO粒子の少なくとも50%が個別の非凝集または非集塊の一次粒子からなる、SiO粒子、
c)2重量%以下の架橋剤分子。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の重合可能な組成物はアクリレートおよび/または好ましくはメタクリレートをベースとする。その組成物は、表面に重合可能基を有するナノスケールSiO粒子を充填剤として含有する。そのような重合可能基は、例えば後述の適切なシラン化または別の修飾によって、SiO粒子表面に化学的に結合してよい。
【0009】
重合可能基を表面に有するシラン化SiOナノ粒子の製造は、従来技術において原則として既に公知である。例えば、SiO粒子はシリカゾルから沈殿させることができ、その後、例えばビニルシラン等の有機シランでシラン化され得る。沈殿されるシリカを経由するこの種の製造は、例えばEP 0 926 170 B1に記載されている。
【0010】
もう一つの可能性が、例えばJ.Colloid Interface Sci 26:62(1968年)に記載されている。これは、そのようなナノ粒子のいわゆるStoeber合成に関する。
【0011】
修飾されていないSiO粒子に対して考慮される一の起点は、水または溶媒中のコロイド状二酸化ケイ素の分散物である。この二酸化ケイ素がアルコキシシランの加水分解によって得られるか、または他の方法によって得られるかは重要でない。酸性水ガラスの凝縮において形成される種類の粒子が特に適している。このための多数の方法が文献に記載されており、一連の製品が市場で入手可能である。これらの商品として、例えばBindzil 40/130およびBindzil 40/220(Eka Chemicals)、Levasil 200/40%(H.C.Starck)またはNalco 2327およびNalco 2329(Nalco Company)が挙げられる。市販の溶媒ゾルの例として、Nissan Chemical American Corporation製のIPA−STおよびMIBK−STが挙げられる。
【0012】
二酸化ケイ素粒子は好ましくは、単量体との相溶化に適した、官能化のための表面修飾を有する。当業者によく知られている表面官能化の公知の方法として、例えば、表面のシラン化、アルコール分解、極性表面とイオン結合を形成する酸性、塩基性またはイオン性化合物の使用、ポリマーおよび単量体のフリーラジカル結合、ならびに疎水性ポリマーの単に物理的な付着が挙げられる。
【0013】
SiO粒子表面のシラン化は、好ましくは有機シランまたは有機シロキサンを用いて行われる。このシラン化は当該技術分野においてよく知られている技術である。
【0014】
有機シランまたは有機シロキサンは、好ましくは式RSiX4−aの有機シラン、式(RSi)NR3−bの有機シランおよび式RSiO(4−n)/2の有機シロキサンからなる群から選択され、式中、各々のRは独立して、1〜18個の炭素原子を有する炭化水素ラジカル、もしくは1〜18個の炭素原子を有する有機官能性炭化水素ラジカルから選択され、または水素原子であり、独立して選択される各々のXは加水分解性基であり、a=0、1、2または3であり、b=1、2または3であり、nは2から最大で3(3を含む)の数である。加水分解性基の例として、ハロゲン、アルコキシ、アルケノキシ、アシルオキシ(acyloxy)、オキシミノ(oximino)およびアミンオキシ(amineoxy)基が挙げられる。有機官能性炭化水素ラジカルは好ましくは、特に、フリーラジカル重合において反応する不飽和ラジカルである。そのような有機ラジカルの例として、メタクリロイル、アクリロイル、スチリル、ビニル、ヘキセニルおよびアリル官能性または基を含有する有機ラジカルが挙げられる。
【0015】
例えば以下のものが、反応性基による粒子の官能性化に関して考慮される。ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、ジビニルジクロロシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ヘキセニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリアセトキシシラン、メタクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、(メタクリロイルオキシメチル)メチルジメトキシシラン、(メタクリロイルオキシメチル)メチルジエトキシシラン、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリクロロシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメチルクロロシラン、ビニルベンジルエチレンジアミンプロピルトリメトキシシラン、ビニルベンジルエチレンジアミンプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、アリルエチレンジアミンプロピルトリメトキシシラン、アリルエチレンジアミンプロピルトリエトキシシラン、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、アリルジメチルクロロシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルジメチルエトキシシラン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシロキサン、トリメチルトリビニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、ペンタメチルペンタビニルシクロペンタシロキサンおよびヘキサメチルヘキサビニルシクロヘキサシロキサン。これらのシラン同士の混合物、またはこれらのシランと、例えばクロロトリメチルシランまたはオクチルトリメトキシシラン等の非官能化シランとの混合物を用いてよい。シラン化は、2つまたはそれより多くの工程で又は異なる溶媒中で行ってもよい。
【0016】
表面修飾の代替方法において、SiO粒子はアルコール、ポリオールまたはそれらの混合物で処理してよい。処理の結果として、SiO粒子表面におけるシラノール基がアルコールのヒドロキシル基と化学的に結合し、それによって、表面に付着したエステル基が形成される。この技術は例えばUS−A−2801185に記載されている。本発明の目的のために、不飽和である一級アルコールを少なくとも部分的に用いることが好ましい。そのようなアルコールの例として、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートおよびアリルアルコールが挙げられる。
【0017】
官能化の更なる方法は、アンカー基による表面の修飾であり、アンカー基の一例は官能化シランである。これらのシランは、分子自体が2つの反応性基を有する分子と第2段階において反応し得る反応性基を有する。一方の基はシランと反応し、他方の基はフリーラジカル重合において反応する。
【0018】
例えばクロロシラン等のハロシランも同様に使用可能である。シランは、例えば重合可能基、より特にはビニル基によって官能化されてよい。本発明において、異なるシランを用いて2つのシラン化工程を連続して行うことが可能である。例えば、官能化シラン、好ましくはビニルシランを、2つのシラン化工程の1つのみにおいて使用し得る。1つのシラン化工程において官能化シランおよび非官能化シランの混合物を用いることも同様に可能である。
【0019】
本発明により、驚くべきことに、これらの表面修飾SiO粒子が重合可能組成物のフリーラジカル重合における架橋点として機能し得ること、および硬化ポリ(メタ)アクリレートの効果的な架橋を引き起こし得ることが理解された。従って、本発明において、重合可能組成物は常套の架橋剤分子を含有せず、または最大でも少量のみ(2重量%以下)含有する。用語「架橋剤分子」は、少なくとも2つの重合可能な二重結合を有する低分子量の(好ましくは単量体)分子であって、初めに直線状の又は枝分かれしたポリマーネットワークを架橋して3次元ポリマーネットワークを形成し得る分子を意味する。架橋剤は、『Roempp Chemie−Lexikon』第10版第6巻第4836頁において定義される。
【0020】
本発明は、常套の架橋剤分子と比較してかなり改良された破断点伸びを可能にする。従来技術の架橋剤を用いると、網目の詰まった、従って伸長性の低いネットワークが形成される。本発明の重合可能組成物を用いると、表面修飾SiO粒子が用いられる結果として、得られる結点はより少なくなるが、「結点から結点への」、即ち、粒子から粒子への複数の長いネットワーク・アークが得られる。この種のネットワークは、より優れた伸長性を有し得るが、それにもかかわらず堅固である。
【0021】
アクリレートおよび/またはメタクリレートは、好ましくはアルキル鎖において1〜12個、好ましくは1〜6個のC原子を有する。アルキル鎖は直鎖または分枝鎖であってよい。
【0022】
重合可能組成物は、好ましくは50重量%〜99.5重量%のアクリレートおよび/またはメタクリレートを含有する。アルキルがメチル、エチル、ブチル、イソブチルまたはシクロヘキシルであるアルキルメタクリレートが好ましい。特に好ましい単量体はメチルメタクリレートである。一の好ましい態様において、前記単量体は、重合可能組成物において少なくとも60重量%程度まで、より好ましくは少なくとも70重量%または80重量%程度まで存在する。
【0023】
SiO粒子の平均粒子寸法の好ましい下限は2nm、3nm、4nmおよび5nmである。好ましい上限は25nmおよび20nmである。下限および上限を任意に組み合わせて本発明の範囲を形成してよい。粒子寸法は、Horiba製Dynamic Light Scattering Particle Size Analyzer LB−550における動的光散乱によって、溶液において10重量%以下の粒子濃度でもたらされてよく、分散液(または分散物)は25℃において3mPas以下の動粘度を有する。報告される粒子寸法は粒度分布のメジアン(または中央値、D50)である。
【0024】
固体において、粒子寸法は透過電子顕微鏡によって測定可能である。この目的のために、少なくとも100個の粒子を測定に供し、粒度分布を構成する。
【0025】
重合可能基によるSiO粒子の表面被覆率は、好ましくは0.01〜10個(または基)/nm(粒子表面)、より好ましくは0.01〜6個/nm(粒子表面)、より好ましくは0.01〜4個/nm(粒子表面)である。SiO粒子1つ当たり10〜2500個の重合可能基が表面に接続している場合が好ましい。もう1つの好ましい上限は、粒子1つ当たり200基である。
【0026】
粒子は、重合可能基以上に、重合において反応しない基も有してよい。
【0027】
球状粒子に関して、粒子寸法から粒子の表面積を計算してよい。計算は粒度分布のメジアン(D50)を用いて行われる。その後、粒子の密度(ρ)を用いて比表面積(A)を計算し得る:
【数1】

コロイド状二酸化ケイ素の密度は2.1g/cmである。単位表面積当たりの反応性基の数(n)は、比表面積で除された質量当たりの反応性基の数(n)の比の積である:
【数2】

【0028】
質量当たりの反応性基の数nは適切な分析方法によって規定可能である。アルコキシ、アシルオキシ、アセトキシもしくはアルケノキシ型のシランまたはオキシモシラン(oximosilane)が、表面に反応性基をもたらすのに用いられる場合、シランの加水分解が完了すると仮定し得る。このことは、用いられる基の全てが粒子表面で再び発見されることを意味する。
【0029】
粒子表面における重合可能基の数は、NMR分光法またはDSC(示差走査熱量測定)によって測定してもよい。これらの方法は、特に、反応性基を決定するのに適した分析方法(一例は、ビニル基の場合におけるヨウ素価測定である)が利用できない場合に使用してよい。DSCの場合において、粒子表面における重合可能基の数の尺度として重合熱を測定する。このDSC測定を用いて、規定された量の表面修飾SiO粒子を標準ペルオキシド溶液に混合して反応熱を測定する。この方法は、例えばDE 36 32 215 A1に記載されている。
【0030】
粒子は、重合可能基以上に、重合において反応しない基も有してよい。
【0031】
本発明の一の変形において、少なくとも2つの異なる重合可能基がSiO粒子表面に設けられる。これらの基には、より特には、第1にアクリロイル、スチリル、イタコニルおよび/またはメタクリロイル基、ならびに第2にクロトニル、ビニル、アリルおよび/またはアルケニル基が含まれてよい。
【0032】
このようなSiO粒子の二重表面修飾は、異なる反応性を有する重合可能基を粒子表面に適用し得るという利点を有する。フリーラジカル重合反応において、例えば、アクリロイルおよび/またはメタクリロイル基は、ビニル基または特にアリル基より早く反応する。従って、例えば、まず第1に、例えば70℃の比較的低い温度において、SiO粒子表面におけるメタクリロイル基のみに架橋反応を受けさせ、重合における後の時点において、温度を例えば90度に上昇させ、その結果、表面に存在するアリル基が同様に反応することが可能である。別法として、異なり且つ反応性の異なるアクリレートおよび/またはメタクリレート単量体を用いることが可能であり、それらの単量体は連続して秤量採取され、後で秤量採取されたモノマーのみがアリル基と反応する。
【0033】
好ましくはSiO粒子の少なくとも70%は、個別の非凝集または非集塊の一次粒子からなる。更なる好ましい下限は80%、90%、95%および98%である。これらのパーセンテージは重量パーセントである。従って、本発明のこの要旨によると、SiO粒子の凝集体および/または集塊を本質的に有しない分散物を提供することが可能である。このことは、その分散物を用いて製造される中間生成物および最終生成物の加工性(より低い粘度)および機械的特性を向上させる。従来技術において公知の焼成シリカは、製造ルート(火炎熱分解)に起因する一次粒子の凝集/集塊を示し、その結果、比較的大きい構造が形成され、これにより、その焼成シリカから製造される中間生成物および最終生成物の加工性が阻害される。
【0034】
粒子が(メタ)アクリレート中に分散して存在するという事実の結果として、重合の場合において粒子の分散が均一であることが可能である。粒子が(メタ)アクリレート中で分散していない場合、重合が集塊またはポリマー中の粒子の不均一分布を伴うことがある。
【0035】
粒子表面における2つの異なる重合可能基を用いることによって、および2つの異なる単量体による逐次反応を引き起こすことによって、対向する浸透において2つの異なるポリマーネットワークを有するポリマーを生成することが可能である。
【0036】
この種の二重表面修飾を形成するために、二酸化ケイ素粒子のシラン化のために、対応するシランおよび/またはシロキサンを混合物中で反応させてよい。
【0037】
表面における重合可能基の比率としてのアクリロイル、スチリル、イタコニルおよび/またはメタクリロイル基の割合が95%〜5%であり、表面における重合可能基の比率としてのクロトニル、ビニル、アリルおよび/またはアルケニル基の割合が5%〜95%であることが好ましい。
【0038】
SiO粒子が表面において0.01〜3個/nmのメタクリロイル基を有し、0.01〜3個/nmのビニル基を更に有することが好ましい。この種のSiO粒子の二重表面修飾は、SiO粒子が重合の異なる段階においてポリマー鎖の中に組み込まれるという利点を有する。従って、粒子表面におけるメタクリレート基は、重合の初期段階においてSiO粒子が既にポリマー鎖に結合されることを確保し、この結合を通じて、ポリメタクリレートマトリクスにおける粒子の効果的な分布を確保する。対照的に、ビニル基の効果は、特に高転化率において、換言すれば最終の重合において顕著になる。従って、二重修飾の結果として、重合の初期における事象は最終の重合の間の事象に関連付けられる。このようにして、得られるネットワークは不均一で且つ伸長可能である。
【0039】
本発明のポリマーは、硬化後に、SiO粒子からSiO粒子に達する長尺のポリマーネットワーク・アークを有し、即ち長尺のポリ(メタ)アクリレート鎖を有する。しかし、純粋なポリ(メタ)アクリレート鎖は低い天井温度(例えば純PMMAに対して約160℃)を示し、非常に高いZIP長(>200)も示すので、これは、高温、例えば180℃における熱成形に対して不安定である。この高い解重合傾向により、メタクリレートのみからなるポリマー鎖(例えば、主構成要素としてMMAを有し、かつ更なる構成要素としてSiO粒子表面のメタクリロイルオキシプロピル基を有する鎖)の場合において、鎖の切断はポリメタクリレート鎖の急速な解重合をもたらすことがあり、従って、元々は例えば1,000,000ダルトンの高分子量において著しい減少をもたらすことがある。
【0040】
従って、一の好ましい態様において、重合可能組成物は、1またはそれより短いZIP長を有する解重合遅延単量体を更に含有する。単量体は、好ましくはC1〜C8アルキルアクリレートからなる群から、好ましくはメチル、エチル、ブチルおよび2−エチルヘキシルアクリレートからなる群から選択される。重合可能組成物は、例えば、0.1重量%〜20重量%、好ましくは0.2重量%〜10重量%、より好ましくは0.5重量%〜5重量%の解重合遅延単量体を含有してよい。
【0041】
アルキルアクリレートと同様に、共重合の構成要素としてのSiO粒子表面におけるビニル基もまた、鎖切断後のポリマー鎖の急速な解重合を低減する。従って、ポリマーネットワークを形成するための、表面に0.2〜3個/nmのビニル基を有するSiO粒子を含有し、更に0.5重量%〜5重量%のアルキルアクリレートを含有する配合物が好ましい。
【0042】
用語「ガラス転移温度」Tは、本発明の組成物の、それらが重合(硬化)された後のガラス転移温度を意味する。対応するホモポリマーのガラス転移温度が公知であり、例えば、J.Brandrup、E.H.Immergut編著『Polymer Handbook』第1版(J.Wiley、ニューヨーク、1975年)に列挙されている。
【0043】
共重合体のガラス転移温度は、いわゆるFox式によって計算可能である(T.G.Fox、Bull.Am.Phys.Soc.(Ser.II)、1、123(1956年))。
【0044】
単量体構成要素は好ましくは、それらの重合の後に、得られるガラス転移温度が50℃より大きく、好ましくは100℃より大きいように選択される。この態様は、例えば航空機のグレージングシステム等の固体の伸長可能なアクリレートを製造するのに特に適している。
【0045】
幅広い目のネットワークの構成に関して、低分子量の架橋剤が存在しないこと、SiO粒子における架橋剤としてはたらく重合可能基が比較的少数であること、および重合の初期段階において極めて少量の開始剤を使用することが好ましい。過剰な開始剤濃度を用いると、短いポリマー鎖が形成され、従って短いネットワーク・アーク、または2つのSiO粒子を互いに架橋するには短すぎるポリマー鎖がもたらされる。
【0046】
用いられる開始剤の総量ではなく、むしろ重合条件の下で分解された量が本発明において重要である。従って、例えば80℃において1時間の内に、用いられるジドデカノイルペルオキシドの半分が分解され、一方、62℃における割合は僅か約5%である。
【0047】
本発明の重合可能組成物における架橋剤分子の割合は好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.2重量%以下である。更に好ましい態様において、重合可能組成物において技術的に関連する量の架橋剤分子は存在しない。架橋剤の機能は、専ら表面修飾SiO粒子によって引き受けられる。
【0048】
表面修飾SiO粒子の量は好ましくは0.5重量%〜5重量%、より好ましくは1重量%〜2重量%であってよい。本発明の提示された変形は、例えばキャスト重合によって加工されて、例えば航空機のグレージングシステム等の材料を形成し得る。
【0049】
本発明の組成物から製造されるそのようなキャストポリマーの場合において、問題となっているポリマーは、向上した耐腐食性を特徴とするポリ(メタ)アクリレートである。それらは延伸されてよく、好ましくは2軸延伸されてよく、その後、高い硬度および優れた光学特性(透明度)を有する透明なアクリルガラスを形成する。従って、それらは既に上で記載したように、特に航空機のグレージングシステムを製造するのに適している。
【0050】
本発明は、本発明の重合可能組成物を硬化することによって得ることができるポリマー材料を更に提供する。
【0051】
本発明は、以下の工程によって得ることができるポリマー材料を更に提供する:
a)請求項18に記載のポリマー材料を温度T>T、好ましくはT>T+10K、より好ましくはT>T+40K、より好ましくはT>T+50Kに加熱する工程;
b)材料を、少なくとも1つの空間方向に少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%伸長または圧縮させる工程;
c)負荷の下で材料を温度T<Tに冷却する工程。
【0052】
この種の延伸材料は、例えば、グレージング材料(航空機のグレージング材料)または例えば歯科用ポリマーフィルム等の医療用材料を製造するのに使用可能である。
【0053】
本発明は、請求項13または14に記載のポリマー材料を製造する方法を更に提供し、その方法は以下の工程を有する:
a)請求項1〜11のいずれか1項に記載の重合可能組成物を供給する工程;
b)重合開始剤を加える工程;
c)用いられる単量体の少なくとも50%が重合するまで、温度T<T、好ましくはT<T−10K、より好ましくはT<T−20K(製造すべき材料のT)で部分的重合を行う工程;
d)温度T>T−20K、好ましくはT>T−10K、より好ましくはT>Tで重合を完了する工程。
【0054】
重合は、好ましくは熱分解開始剤、レドックス開始剤またはUV開始剤等のフリーラジカル開始剤を用いて、存在する単量体の50%より多く(好ましくは70%より多く)が10〜200mol(開始剤)/1,000,000mol(単量体)の有効な開始剤濃度で重合するような方法で行われ、その後、T>Tで重合が完了する。
【0055】
本方法は好ましくは以下の工程を更に含む:
e)ポリマー材料を温度T>T、好ましくはT>T+10K、より好ましくはT>T+40K、より好ましくはT>T+50Kに加熱する工程;
f)材料を、少なくとも1つの空間方向に少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%伸長または圧縮させる工程;
g)負荷の下で材料を温度T<Tに冷却する工程。
【0056】
このようにして製造される熱成形可能品は、非常に様々な用途に対する利点と共に用いられる。主として、これらの物品は機械的および光学的に高品質のグレージング材料を表しており、これらの物品は、流動を示すことなく幅広い限定範囲内で熱成形可能である。延伸された形態において、特に航空機のグレージング材料の有用性が興味深い。
【0057】
例えば、少量のリン酸またはリン酸エステルが加えられる場合のように、低不燃性のグレージングのために延伸材料を使用することも一見したところ興味深い。
【0058】
更なる用途は、熱弾性材料として、例えば風化に対して耐性があり、収縮性があり且つ透明なUV保護フィルムとして延伸材料を使用することにある。
【0059】
非常に一般的に、熱成形品は形状記憶材料として用いることができる。この場合において、Tより高温での変形によってもたらされる形状が、Tより高温に加熱することだけでなく、例えば単量体等の膨張剤に曝すことによっても緩和され得るという事実は興味深い。このことは、医療用材料としての、例えば歯科用フィルムとしてのこれらの形状記憶材料の使用に関して興味深い。
【実施例】
【0060】
本発明の実施例を以下に記載する。
【0061】
[メチルメタクリレート中の二酸化ケイ素のコロイド状分散物(P1)の調製]
コロイド状シリカゾル(水中の40重量%のSiO、動的光散乱による粒子寸法(D50):25nm、NaOHで安定化)を、酸性イオン交換体(Amberjet 1200H、Rohm&Haas)において、pH2〜3に達するまで撹拌した。濾過してイオン交換体を除去した後、600gの酸性ゾルを、17.7gのγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランおよび10.7gのビニルトリメトキシシランと共に60分間撹拌した。
【0062】
ゾルを2000gのイソプロパノールで希釈し、1500gのイソプロパノールを加え、約3500gの溶媒/水混合物を、減圧下で45℃にて蒸留して除去した。
これにより637gのゾルが得られ、これを1600gのメチルメタクリレート(50ppmのメトキシヒドロキノンで安定化)で希釈した。イソプロパノールを減圧下で蒸留して除去し、その間に、更に260gのメチルメタクリレートを加えた。
【0063】
これにより、MMA中の42.8重量%のSiO粒子の澄んだゾルが得られ、粒子は表面においてビニルトリメトキシシランからの1.6mmol/nmのビニル基、およびγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランからの1.6mmol/nmのメタクリロイル基を有する。
【0064】
[実施例1:1.7重量%のSiO粒子を有する熱成形シート]
0.07gのジドデカノイルペルオキシド
0.11gのベンゾイルペルオキシド(25重量%の水を含有)
1.00gのエチルアクリレート
47.00gのメチルメタクリレート、および
2.00gのP1
の混合物を脱気し(およそ20mbar)、室温で重合チャンバーの中に導入する。重合チャンバーの外形寸法:150×200nm。チャンバーの構成:ガラスプレート/PETフィルム(Mitsubishi Film GmbH製のHostaphan RN)/スペーサーコード(3mm)/ガラスプレート。
【0065】
その後、水浴においてまず70℃で3時間、次いで85℃で2時間重合を行う。最後の重合のために、加熱キャビネットにおいて110℃で2時間加熱を行う。
【0066】
生成物は、機械的加工(例えば切り出し)によく役立つ無色透明な硬質シートである。
【0067】
[熱成形試験]
熱成形挙動を調べるために、約3mm厚さのシートから約40×80mmの切片を切り出し、150℃における曲げ試験に供する。この目的のために、シートをその長端で固定し、加熱キャビネットにおいてガラス棒(直径14mm)の上で曲げる。成形操作の継続時間:20分、その後、室温に冷却する。これにより、角度が90°のガラスのように透明なプラスチックシートが得られる。屈曲部の曲げ半径は約10mmである。これは、10%より大きい伸長/圧縮に対応する。
【0068】
[耐性検査]
このようにして形成されたプラスチックの角度を、負荷をかけずに150℃で10分間加熱する。これにより、滑らかで平坦なシートが再び得られる(変形の名残は認められず)。
【0069】
[実施例2:0.85重量%のSiO粒子を含有する熱成形シート]
実施例1の重合試験を繰り返すが、選択する組成物は異なる:初期質量:0.04gのジドデカノイルペルオキシド、0.10gのジベンゾイルペルオキシド、1gのエチルアクリレート、48gのメチルメタクリレート、1.0gのP1。
【0070】
生成物は無色透明な硬質シートである。
【0071】
[熱成形試験]
実施例1の手順を繰り返すが、屈曲のために選択される支持体は太さがちょうど6mmのガラス棒であり、温度:150℃、曲げ操作の継続時間:20分間である。
【0072】
これにより、角度が90°のガラスのように透明なプラスチックシートが得られる。曲げ半径は約6mmである。
【0073】
[実施例3:3.4重量%のSiO粒子を含有する熱成形シート]
実施例2の試験を繰り返すが、選択する組成物は異なる:初期質量:1gのエチルアクリレート、45gのメチルメタクリレート、4gのP1。
【0074】
この場合において、PETフィルムで重合チャンバーの両側を囲む。
【0075】
生成物は無色透明な硬質シートである。
【0076】
[熱成形試験]
実施例1と同様の曲げ試験を行う。
加熱キャビネットにおける温度170℃、成形操作の継続時間:30分にてガラス棒(直径14mm)の上で曲げ、その後、室温に冷却する。これにより、角度が90°のガラスのように透明なプラスチックシートが得られる。屈曲部における曲げ半径は約10mmである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)アクリレートおよび/またはメタクリレート
b)1〜30nmの平均粒子寸法を有する0.05〜70重量%のSiO粒子であって、メタクリロイル、アクリロイル、スチリル、イタコニル、クロトニル、ビニル、アリルおよび/またはアルケニル型の重合可能基を表面に有し、アクリレートおよび/またはメタクリレート中に分散状態で存在し、SiO粒子の少なくとも50%が個別の非凝集または非集塊の一次粒子からなる、SiO粒子、
c)2重量%以下の架橋剤分子
を含有することを特徴とする、重合可能組成物。
【請求項2】
50重量%〜99.5重量%のアクリレートおよび/またはメタクリレートを含有することを特徴とする、請求項1に記載の重合可能組成物。
【請求項3】
少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%のメチルメタクリレートを含有することを特徴とする、請求項2に記載の重合可能組成物。
【請求項4】
SiO粒子の平均粒子寸法が好ましくは少なくとも2nm、より好ましくは少なくとも3nm、より好ましくは少なくとも4nm、より好ましくは少なくとも5nmであること;およびSiO粒子の平均粒子寸法が好ましくは25nmであり、より好ましくは20nm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合可能組成物。
【請求項5】
SiO粒子が0.01〜10個/nm(粒子表面)、好ましくは0.01〜6個/nm(粒子表面)、より好ましくは0.01〜4個/nm(粒子表面)の濃度で重合可能基を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の重合可能組成物。
【請求項6】
SiO粒子の少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%が個別の非凝集または非集塊の一次粒子からなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の重合可能組成物。
【請求項7】
少なくとも2つの異なる重合可能基がSiO粒子表面に配置され、異なる重合可能基は好ましくは第1にアクリロイル、メタクリロイル、イタコニルおよび/またはスチリル基、ならびに第2にクロトニル、ビニル、アリルおよび/またはアルケニル基を含み;更に好ましくは表面における重合可能基の比率としてのアクリロイル、メタクリロイル、イタコニルおよび/またはスチリル基の割合が95%〜5%であり、表面における重合可能基の比率としてのクロトニル、ビニル、アリルおよび/またはアルケニル基の割合が5%〜95%であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の重合可能組成物。
【請求項8】
SiO粒子が表面において0.01〜3個/nmのメタクリロイル基を有し、0.01〜3個/nmのビニル基を更に有することを特徴とする、請求項7に記載の重合可能組成物。
【請求項9】
1またはそれより小さいZIP長を有する解重合遅延単量体を更に含有する重合可能組成物であって、単量体は好ましくはC1〜C8アルキルアクリレート、スチレン、イタコネート、N−アルキルマレイミドおよびN−アリールマレイミドからなる群から選択され、更に好ましくはメチル、エチル、ブチルおよび2−エチルヘキシルアクリレートからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の重合可能組成物。
【請求項10】
0.1重量%〜20重量%、好ましくは0.2重量%〜10重量%、より好ましくは0.5重量%〜5重量%の解重合遅延単量体を含有することを特徴とする、請求項9に記載の重合可能組成物。
【請求項11】
架橋剤分子の割合が1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.2重量%以下であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の重合可能組成物。
【請求項12】
SiO粒子の量が0.05重量%〜5重量%、好ましくは0.05重量%〜3重量%、より好ましくは0.1重量%〜2重量%であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の重合可能組成物である。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の重合可能組成物を硬化することによって得られるポリマー材料であって、ポリマー材料が好ましくは熱成形可能品、形状記憶材料または延伸グレージング材料である、ポリマー材料。
【請求項14】
以下の工程:
a)請求項13に記載のポリマー材料を温度T>T、好ましくはT>T+10K、より好ましくはT>T+40K、より好ましくはT>T+50Kに加熱する工程;
b)少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、少なくとも1つの空間方向に伸長または圧縮させる工程;
c)負荷の下で材料を温度T<Tに冷却する工程
によって得られる、請求項13に記載の延伸ポリマー材料。
【請求項15】
グレージング材料または医療用材料を製造するための、請求項13または14に記載のポリマー材料の使用。
【請求項16】
請求項13または14に記載のポリマー材料を製造する方法であって、以下の工程:
a)請求項1〜11のいずれか1項に記載の重合可能組成物を供給する工程;
b)重合開始剤を加える工程;
c)温度T<T、好ましくはT<T−10K、より好ましくはT<T−20K(製造すべき材料のT)で、使用される単量体の少なくとも50%が重合するまで、部分的重合を行う工程;
d)温度T>T−20K、好ましくはT>T−10K、より好ましくはT>Tで重合を完了させる工程
を有する方法。
【請求項17】
以下の工程:
e)ポリマー材料を温度T>T、好ましくはT>T+10K、より好ましくはT>T+40K、より好ましくはT>T+50Kに加熱する工程;
f)材料を少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、少なくとも1つの空間方向に伸長または圧縮する行程;
g)負荷の下で材料を温度T<Tに冷却する工程
を更に含むことを特徴とする、請求項16に記載の方法。

【公表番号】特表2011−517720(P2011−517720A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504385(P2011−504385)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002856
【国際公開番号】WO2009/127435
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(510027537)ナノレジンス・アクチェンゲゼルシャフト (6)
【氏名又は名称原語表記】nanoresins AG
【Fターム(参考)】