説明

架橋ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】原料として供給される不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂に含まれる空気や水分を、架橋開始剤との反応の前に取り除き、架橋反応を均一に行い、均一な物性の架橋ポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】原料供給部1、脱気部2、架橋開始剤供給部3、及び吐出部4を有する押出機を用いて、(1)〜(5)の工程を順次行う架橋ポリエステル樹脂の製造方法。(1)原料供給部1から不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂Aを供給する工程(2)原料供給部1と脱気部2の間でポリエステル樹脂Aを溶融混合する工程(3)脱気部2で溶融混合したポリエステル樹脂Aの脱気を行う工程(4)脱気を行ったポリエステル樹脂Aに、架橋開始剤供給部3から架橋開始剤を供給し、架橋反応を行う工程(5)吐出部4から架橋反応した架橋ポリエステル樹脂を吐出する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出機を用いて不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂の架橋反応を行う架橋ポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成樹脂に要求される性能や品質は高まるばかりであり、異なる性質や機能を同時に満たすことが求められることも多い。また、それらの要求は産業の分野や業種別で実に多様で、それぞれに対応するためには、単独の合成樹脂では困難である。
【0003】
この解決法として、複数の合成樹脂を用いたポリマーアロイの手法が多用されている。また、押出機を用いたリアクティブプロセッシングと呼ばれる手法により特徴的な性能を有する合成樹脂が製造されている。
例えば、トナー用として低温定着性に優れた架橋ポリエステル樹脂の製造方法として、特許文献1には二軸押出機を用いて、不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂と有機過酸化物の混合物を溶融混練しながら架橋反応させ、架橋反応後に脱揮発器により揮発分を除去する架橋ポリエステル樹脂を得る方法が記載されている。
【特許文献1】特開平5−249739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、押出機で不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂を溶融させながら反応させる場合、樹脂原料は粉やペレットなど粉粒体の形状をしていることが多く、押出機に供給する際に、空気や水分が混入しやすい。とりわけ空気中の酸素は不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂と架橋開始剤との反応を阻害することが知られている。
【0005】
特許文献1の方法では、架橋反応後に脱気を行っているために、架橋反応の際の酸素や水分の影響を抑制することが困難であり、架橋反応が不規則に変化し、得られる架橋ポリエステル樹脂の物性が不均一となりやすい。
【0006】
本発明は、架橋反応を均一に行い、均一な物性の架橋ポリエステル樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、原料供給部1、脱気部2、架橋開始剤供給部3、及び吐出部4を有する押出機を用いて、(1)〜(5)の工程を順次行う架橋ポリエステル樹脂の製造方法にある。
(1)原料供給部1から不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂Aを供給する工程
(2)原料供給部1と脱気部2の間でポリエステル樹脂Aを溶融混合する工程
(3)脱気部2で溶融混合したポリエステル樹脂Aの脱気を行う工程
(4)脱気を行ったポリエステル樹脂Aに、架橋開始剤供給部3から架橋開始剤を供給し、架橋反応を行う工程
(5)吐出部4から架橋反応した架橋ポリエステル樹脂を吐出する工程
【発明の効果】
【0008】
本発明により、均一な物性の架橋ポリエステル樹脂が得られる。また、運転状態が安定し工業的に有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、原料供給部1、脱気部2、架橋開始剤供給部3、及び吐出部4を有する押出機を用いて、(1)〜(5)の工程を順次行い、不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂Aの架橋反応を行う。
(1)原料供給部1から不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂Aを供給する工程
(2)原料供給部1と脱気部2の間でポリエステル樹脂Aを溶融混合する工程
(3)脱気部2で溶融混合したポリエステル樹脂Aの脱気を行う工程
(4)脱気を行ったポリエステル樹脂Aに、架橋開始剤供給部3から架橋開始剤を供給し、架橋反応を行う工程
(5)吐出部4から架橋反応した架橋ポリエステル樹脂を吐出する工程
本発明では、原料供給部1、脱気部2、架橋開始剤供給部3、及び吐出部4を有する押出機を用いることが必要である。
【0010】
不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂を架橋開始剤を用いて架橋反応する場合、
反応系内の水分や、反応禁止剤として働く空気中の酸素の量が変動すると、架橋反応が均一に行われずに得られる架橋ポリエステル樹脂の物性にばらつきが生じる。
【0011】
本発明では、原料供給部1と架橋開始剤供給部3の間に、脱気部2を設けることにより、原料として供給される不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂に含まれる空気や水分を、架橋反応の前に取り除く事が可能となり、架橋反応が均一に行われ、均一な物性の架橋ポリエステル樹脂が得られる。
なお、本発明の押出機は、公知の単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機などが使用できる。中でも二軸押出機は、混練効果が高いため、好適である。二軸押出機であれば、スクリューの回転方向および組み合わせは、同方向回転式/異方向回転式、噛み合い式/非噛み合い式のいずれでも使用できる。中でも、同方向回転完全噛み合い式が内部のセルフクリーニング性が高いため好適である。二軸押出機は、基本的に、材料を搬送しながら材料にモーターからの回転エネルギーを与えるスクリューと、スクリューを内部に保持するシリンダによって構成される。スクリューやシリンダの樹脂原料と接する部分に使用される材質は樹脂原料により適宜選択できる。窒化鋼などの耐磨耗材、ニッケル系合金などの耐腐食材、HIP材として知られる耐腐食耐磨耗材などが使用できる。
押出機の大きさ、すなわち、スクリュー径と長さは、処理量および反応に要する時間によって適宜選定すれば良い。スクリュー径は、15mmから200mm程度が好適である。また、シリンダの全長もしくはスクリューの長さは、スクリュー径の20倍から100倍程度が好適である。
シリンダには、温度を制御するために、外部ヒーター、外部ジャケット、内部ジャケットなどを用いることができる。外部ヒーターには、バンドヒーターや、アルミ鋳込みヒーター、真鍮鋳込みヒーターなどを用いることができる。外部ジャケットや内部ジャケットの場合は、温冷水や熱媒などを流して温度を制御することができる。これらを組み合わせて使用することもなんら問題は無い。より細かい温度制御を可能とするために、シリンダを複数のブロックに分割したものを組み合わせる構成として、これらのヒーターやジャケットは分割された区分ごと設けることがより好適である。
シリンダの温度は、取り扱う不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂や架橋開始剤に応じて適宜設定する事ができる。
【0012】
次に各工程について説明する。
【0013】
(1)原料供給部1から不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂Aを供給する工程
本発明において、不飽和二重結合とは、炭素間二重結合であり、これをポリエステル樹脂の主鎖および/または側鎖に有するものを不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂とする。不飽和二重結合をポリエステル樹脂の主鎖および/または側鎖に有するためには、不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物および/または不飽和二重結合を有するアルコール化合物を用いて重縮合反応を行い、これらの化合物をポリエステル樹脂の構成成分として取り込めばよい。
【0014】
不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物の例としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、テトラヒドロフタル酸およびこれらのエステル誘導体、アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸およびこれらのエステル誘導体等が挙げられる。また、不飽和二重結合を有するアルコール化合物としては、例えば、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン等が挙げられる。
【0015】
これらの中では、反応性の観点から、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸から選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0016】
また、不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂は2種以上用いても良く、脱気部2で脱気を行う前であれば、原料供給部が複数あっても良い。
【0017】
(2)原料供給部1と脱気部2の間でポリエステル樹脂Aを溶融混合する工程
本発明では原料供給部1と脱気部2の間に溶融混合部6を有する。溶融混合することで温度が上昇し水分が蒸発しやすくなり、また、樹脂が流動化することでポリエステル樹脂A内部に溶解していたガス成分や水分も除去しやすくなり脱気効果が高くなる。
【0018】
(3)脱気部2で溶融混合したポリエステル樹脂Aの脱気を行う工程
溶融混合部部を通過したポリエステル樹脂Aは、脱気部2を通過する際に、減圧環境下におかれ、ポリエステル樹脂Aとともに押出機に混入した空気と水分が取り除かれる。この工程により架橋反応が均一に行われ、均一な物性の架橋ポリエステル樹脂が得られる。
【0019】
脱気部2の圧力は、大気圧以下の減圧状態であることが必要である。大気圧以下の減圧状態にすることにより、ポリエステル樹脂Aとともに押出機に混入した空気と水分が効率よく取り除かれて、ポリエステル樹脂Aと架橋開始剤との反応が安定する。
【0020】
反応の安定性をより高めるために、脱気部2の圧力は、−40kPa(ゲージ圧)以下の圧力であることが好ましい。脱気部2の圧力を、−40kPa(ゲージ圧)以下の圧力とすることで、より少ない量の架橋開始剤で高い反応率を得る事ができる。
脱気部2を減圧するための手段には、真空ポンプなど公知の減圧手段を使用することができる。脱気部2と真空ポンプ等の減圧手段の間に、吸気ガスを冷却する手段を設けることもできる。
【0021】
(4)脱気を行ったポリエステル樹脂Aに、架橋開始剤供給部3から架橋開始剤を供給し、架橋反応を行う工程
本発明では、溶融混合したポリエステル樹脂Aの脱気を行った後に、架橋開始剤を供給しポリエステル樹脂Aの架橋反応を行うことにより、空気中の酸素や水分による影響を受けずに安定した架橋反応が可能となり、均一な物性の架橋ポリエステル樹脂が得られる。
【0022】
架橋開始剤としては、特に制限されず、アゾ化合物や有機過酸化物が用いられる。中でも開始剤効率が高く、シアン化合物副生成物を生成しないことから、有機過酸化物が好ましい。
【0023】
有機過酸化物としては、特に制限されないが、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、α、α−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)へキサン、ジ−t−へキシルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシへキシン−3、アセチルパーオキシド、イソブチリルパーオキシド、オクタニノルパーオキシド、デカノリルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、m−トルイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンソエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート等が挙げられる。
【0024】
架橋開始剤の押出機への供給方法は、特に制限されず、架橋開始剤単体を供給してもよいし、架橋開始剤を希釈剤で希釈して供給してもよい。
【0025】
架橋開始剤の供給温度は特に制限されないが、架橋開始剤の分解を抑制する点から開始剤の10時間半減期温度より低いことが好ましい。
【0026】
また、架橋開始剤を希釈剤で希釈することが、局所的な架橋反応を防止する点から好ましいが、希釈剤は、トナー用ポリエステル樹脂中に残存することになる。そこで、トナー用ポリエステル樹脂中に残存しても、トナー製造に悪影響を及ぼさない点から、希釈剤で希釈する場合はトナーの添加剤として使用される離型剤を希釈剤として用いることが好ましい。
【0027】
さらに該離型剤が不飽和二重結合の架橋反応を阻害しないことが好ましく、このような離型剤として炭化水素系の離型剤が好ましく、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス、酸化ポリエチレンワックス等の脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物、またはこれらのブロック化合物などが挙げられる。
【0028】
これらの中では、架橋開始剤との混合が容易であり、トナーの低温定着性をさらに高めることができる傾向にあることから、離型剤の融点は120℃以下であることが好ましい。融点が120℃以下の離型剤としては、パラフィンワックスが最も好ましく、日本精鑞社製HNPシリーズ:例えばHNP−3(融点64℃)、HNP−5(融点62℃)、HNP−9、10(融点75℃)、HNP−11(融点68℃)、HNP−12(融点67℃)、HNP−51(融点77℃)、SPシリーズ:例えば、SP−0165(融点74℃)、SP−0160(融点71℃)、SP−0145(融点62℃)、HNP−3(融点64℃)、FTシリーズ:FT−0070(融点72℃)、FT−0165(融点73℃)等が挙げられる。
【0029】
架橋開始剤の供給は公知の供給方法を使用することができ、その方法に何ら制限は無い。本発明では、不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂と架橋開始剤の比率を制御することが品質上好ましく、架橋開始剤の供給には定量ポンプを用いることが好適である。
【0030】
また、架橋反応部7のスクリューには、順送りスクリューやニーディングディスクや逆送りスクリューなどを適宜組み合わせる事ができる。
【0031】
さらに本発明において、ポリエステル樹脂と架橋開始剤のほかに、顔料などの着色剤、充填材などの無機化合物、グラスファイバーやカーボンファイバーなどの補強充填材を離型剤や流動性向上剤、荷電制御剤や安定剤など各種添加剤を押出機に供給することも何ら問題はない。これらの添加剤は、原料と同時または架橋反応を行った後に添加することが好ましい。
【0032】
(5)吐出部4から架橋反応した架橋ポリエステル樹脂を吐出する工程
架橋反応が終了した樹脂は吐出部4から押し出され適宜冷却した後、造粒機や粉砕機で粉粒体に加工する。ホットカッターなどで造粒したのちに冷却する方法も使用できる。
【0033】
また、必要に応じて架橋反応部7と吐出部4の間に、得られた架橋ポリエステル樹脂中の揮発成分を除去するために、必要に応じて脱揮部を設けても良い。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の実施例を示す。評価は以下に示す方法で行った。
【0035】
(架橋反応の均一性の評価)
不飽和ポリエステル樹脂を架橋反応させると、その一部は、テトラヒドロフラン(THF)に溶解しない架橋密度の高い架橋成分(THF不溶分)に変化する。
【0036】
以下の方法で、得られた架橋ポリエステル樹脂のTHF不溶分を測定することで架橋反応の均一性を評価した。
【0037】
押出機の吐出部から吐出した樹脂を5分に1回ずつの頻度でサンプリングし、30分間で6点のサンプルを採取し、それぞれのサンプルのTHF不溶分を測定した。
【0038】
THF不溶分の測定値の最小値、最大値と平均値から、以下の式により架橋反応の均一性を評価した。
反応均一性=(最大値−最小値)/平均値×100
反応均一性の値が20以下であれば、反応が均一で物性が安定していることを示す。
【0039】
なお、THF不溶分の測定は以下の方法で行った。
【0040】
内径3.5cmの円筒状のガラスろ過器1GP100(柴田化学社製)に、セライト545(キシダ化学社製)を約2g入れ、セライト545の層の高さが変化しなくなるまで、ガラスろ過器をコルク台に軽くたたきつけた。この操作を4回繰り返して、セライト545の層の高さがフィルター面から2cmとなるように、ガラスろ過器へセライト545を充填した。このセライト545が充填されたガラスろ過器を105℃で3時間以上乾燥させて、その重さを秤量した(Yg)。
【0041】
次いで、サンプル約0.5gを三角フラスコ内に入れて精秤し(Xg)、次いでTHF50mlを加え、70℃のウォーターバスにて3時間加熱して、THF還流下でサンプルを溶解させた。
この溶液を上記セライト545が充填されたガラスろ過器へ投入し、吸引ろ過した。THF不溶分を捕捉したガラスろ過器を80℃で3時間以上乾燥させて、その重さを秤量し(Zg)、以下の式に従って、THF不溶分を算出した。
THF不溶分=(Z−Y)/X ×100 (質量%)
<不飽和ポリエステル樹脂の合成例1>
酸成分としてテレフタル酸95モル部および不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物としてフマル酸5モル部、アルコール成分としてエチレングリコールを65モル部およびネオペンチルグリコールを40モル部、また全酸成分に対して1000ppmのトリブチルスズオキシドを蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。次いで昇温を開始し、反応系内の温度が260℃になるように加熱し、この温度を保持し、反応系からの水の留出がなくなるまでエステル化反応を行なった。次いで反応系内の温度を225℃とし、反応容器内を減圧し、反応系からジオール成分を留出させながら縮合反応を実施した。反応とともに反応系の粘度が上昇し、攪拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで反応を行った。そして、所定のトルクを示した時点で反応物を取り出し冷却して、不飽和ポリエステル樹脂(a)を得た。不飽和ポリエステル樹脂(a)の仕込み組成および特性値を表1に示す。
【0042】
<不飽和ポリエステル樹脂の合成例2>
酸成分としてテレフタル酸80モル部および不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物としてフマル酸20モル部、アルコール成分としてエチレングリコールを80モル部および1,4−シクロヘキサンジメタノールを40モル部、また全酸成分に対して1500ppmの三酸化アンチモンと、全酸成分に対して2000ppmのヒンダードフェノール化合物(旭電化工業(株)製AO−60)とを合成例1と同様の反応容器に投入した。
【0043】
次いで昇温を開始し、反応系内の温度が260℃になるように加熱し、この温度を保持し、反応系からの水の留出がなくなるまでエステル化反応を継続した。次いで、反応系内の温度を270℃とし、反応容器内を減圧し、反応系からジオール成分を留出させながら縮合反応を実施した。反応とともに反応系の粘度が上昇し、攪拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで反応を行った。そして、所定のトルクを示した時点で反応物を取り出し冷却して、不飽和ポリエステル樹脂(b)を得た。不飽和ポリエステル樹脂(b)の仕込み組成および特性値を表1に示す。
【0044】
(実施例1)
二軸押出機(東芝機械株式会社 TEM−26SS スクリュー全長はスクリュー径の約64倍)を使用し、図1に準じた構成とし、原料供給部1と架橋開始剤供給部3の間に脱気部2を設けた。
【0045】
運転条件は、原料供給部1を100℃、それに続く溶融混合部6を140℃、架橋反応部7から吐出部4までを200℃に温度制御した。スクリューの回転数は200rpmとした。
【0046】
フィーダーを用いて、不飽和ポリエステル樹脂(a)no供給速度9kg/h、不飽和ポリエステル樹脂(b)の供給速度1kg/hで原料供給部1から押出機に供給した。
【0047】
脱気部2には、ダイヤフラム式真空ポンプを接続した。吐出部4から溶融したポリエステル樹脂が出ることを確認して、真空ポンプの運転を開始して、脱気部2の圧力計が −34.6kPa(ゲージ圧)を指すように調整した。
【0048】
続いて、有機過酸化物(I−1)を温度80℃で、プランジャー式定量ポンプを用いて、163g/hの速度で架橋開始剤供給部3から押出機の内部に供給した。有機過酸化物(I−1)は、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)へキサン11質量部を、80℃に加熱溶融した離型剤(日本精鑞(株)製SP−0160)89質量部に添加したものを用いた。
【0049】
吐出部4から吐出した架橋ポリエステル樹脂の評価結果を表2に示す。
【0050】
(実施例2)
脱気部2の圧力を、−48kPa(ゲージ圧)に調整した以外は、実施例1と同様の方法で運転を行った。吐出部4から吐出した架橋反応ポリエステル樹脂の評価結果を表2に示す。
【0051】
(実施例3)
脱気部2の圧力を、−61.3kPa(ゲージ圧)に調整した以外は、実施例1と同様の方法で運転を行った。吐出部4から吐出した架橋反応ポリエステル樹脂の評価結果を表2に示す。
【0052】
(比較例1)
脱気部2に接続されている真空ポンプの運転を停止した以外は、実施例1と同様の方法で運転を行った。溶融混合したポリエステル樹脂から空気、水分を除いていないため、吐出部4の出口でポリエステル樹脂が不定期に発泡し、安全に運転する事ができなかった。
【0053】
(比較例2)
二軸押出機((株)池貝 PCM−30 スクリュー全長はスクリュー径の約40倍)を使用して図2に準じた構成とし、原料供給部1と架橋開始剤供給部3の間に脱気部2は設けず、架橋反応部の後に脱気部2’を設け、ダイヤフラム式真空ポンプを接続した。
【0054】
運転条件は、原料供給部を100℃、架橋反応部7から吐出部4までを200℃に温度制御した。スクリューの回転数は200rpmとした。
【0055】
ポリエステル樹脂(a)を85質量部と、ポリエステル樹脂(b)を15質量部を混合して100質量部としたものを、フィーダーを用いて 4.2kg/hの速度で供給部1から押出機に供給した。続いて、離型剤で希釈された有機過酸化物(I−1)を温度80℃で、古江サイエンス株式会社製のマイクロフィーダーを用いて、84.0g/hの速度で、架橋開始剤供給部3から押出機の内部に供給した。
【0056】
有機過酸化物(I−1)は、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)へキサン10質量部を、80℃に加熱溶融した離型剤(日本精鑞(株)製SP−0160)89質量部に添加したものを用いた。
【0057】
脱気部2’の圧力を−23kPa(ゲージ圧)として、吐出部4から吐出した架橋ポリエステル樹脂の評価結果を表2に示す。架橋反応の前に脱気を行っていないために、架橋反応の均一性が低いものとなった。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の押出機の一例を示す図である
【図2】比較例2で実施した押出機の構成を示す図である
【符号の説明】
【0061】
1 原料供給部
2 脱気部
3 架橋開始剤供給部
4 吐出部
5 スクリュー
6 溶融混合部
7 架橋反応部
2’脱気部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料供給部1、脱気部2、架橋開始剤供給部3、及び吐出部4を有する押出機を用いて、
(1)〜(5)の工程を順次行う架橋ポリエステル樹脂の製造方法。
(1)原料供給部1から不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂Aを供給する工程
(2)原料供給部1と脱気部2の間でポリエステル樹脂Aを溶融混合する工程
(3)脱気部2で溶融混合したポリエステル樹脂Aの脱気を行う工程
(4)脱気を行ったポリエステル樹脂Aに、架橋開始剤供給部3から架橋開始剤を供給し、架橋反応を行う工程
(5)吐出部4から架橋反応した架橋ポリエステル樹脂を吐出する工程
【請求項2】
脱気の圧力が、−40kPa(ゲージ圧)以下である請求項1記載の架橋ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
架橋ポリエステル樹脂がトナー用結着樹脂である請求項1または請求項2に記載の架橋ポリエステル樹脂の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−260886(P2010−260886A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110376(P2009−110376)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】