説明

架橋ポリ塩化ビニル−ポリウレタン水性複合樹脂組成物

【課題】艶消し性、艶消し耐久性、機械強度及び耐水性や耐薬品性の改善された、架橋ポリ塩化ビニル樹脂水性分散体とポリウレタン樹脂水性分散体からなる複合樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(A)とポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)とを混合して得られる水性複合樹脂組成物であって、当該水性複合樹脂組成物に対し、テトラヒドロフラン不溶分を10〜80重量%含有することを特徴とする水性複合樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体とポリウレタン樹脂粒子の水性分散体を混合して得られる水性複合樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種ポリマー成型品の外観や質感向上、防眩処理のため、表面に凹凸を付与する艶消し剤が使用される。艶消し粒子としては、無機系のシリカやタルク、又は有機系のポリマーゲル粒子等が用いられ、これらをバインダー樹脂に分散させたものが艶消し剤として市販されている。
【0003】
バインダー樹脂としては、アクリル樹脂やウレタン樹脂が多用されており、特に最近では、作業環境改善の観点から、これらの水性分散体が利用されるケースが増えてきている。このような水性艶消し剤としては、例えば、アクリルエマルジョンにシリカ粒子を分散させたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この組成物は、確かにシリカ粒子の効果により高い艶消し性は付与できるものの、ドライタッチ性(シート状物に触れたときのいわゆるヌメリ感がない感触のこと)が強く、レザー表面等に求められる高級感のあるソフトフィール性(触感が柔らかく、弾力性があること)に優れた艶消し表面を実現することは困難であった。また、シリカ粒子とアクリル樹脂の親和性も十分には高くなく、表面磨耗によるシリカ粒子の欠落、及びそれによる艶戻りの問題が指摘されている。
【0004】
これらの問題に対応するため、艶消し粒子としてアクリルやポリウレンタンのゲル粒子を分散させる方法が提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。同文献によれば、凹凸を形成する艶消し粒子が有機系のものであるため、ソフトフィール性に優れた艶消し表面を得ることができるとされる。また、バインダー樹脂との親和性も高く、磨耗による艶消し性の低下(艶戻り)も抑制されるとされている。しかしながら、これらの有機系の艶消し剤は、シリカ粒子等の無機粒子に比べて艶消し付与効果が劣るという問題があった。また、摩擦熱や環境温度の上昇による熱履歴によっては、艶消し性がさらに低下するという問題も指摘されている。
【0005】
一方、バインダー樹脂として、アクリル系樹脂エマルジョンが広く使用されているが、素材との密着性、耐磨耗性、耐久性の面で十分な性能を確保できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−2152号公報
【特許文献2】特開2002−212490号公報
【特許文献3】特開2004−175970公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、無機系艶消し剤のような高い艶消し効果を維持しつつ、表面磨耗や熱に対する耐久性に優れ、素材に対する密着性や機械的特性、耐溶剤性において高い性能を示す艶消し表面を与える有機系の水性複合樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、特定の架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体と、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体とを混合して得られる水性複合樹脂組成物が、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりの水性複合樹脂組成物に関する。
【0010】
[1]架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(A)とポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)とを混合して得られる水性複合樹脂組成物であって、当該水性複合樹脂組成物に対し、テトラヒドロフラン不溶分を10〜80重量%含有することを特徴とする水性複合樹脂組成物。
【0011】
[2][架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(A)]/[ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)]が、樹脂固形分換算の重量比で、20/80〜80/20の範囲であることを特徴とする上記[1]に記載の水性複合樹脂組成物。
【0012】
[3]水性複合樹脂組成物を乾燥して得られる複合樹脂組成物を電子顕微鏡により測定したとき、当該複合樹脂組成物中の架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の平均粒径が、0.2〜10.0μmの範囲であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の架橋ポリ塩化ビニル−ポリウレタン複合樹脂水性分散体。
【0013】
[4]水性複合樹脂組成物中の樹脂固形分100重量部に対し、水溶性多糖類(C)を0.2〜5重量部含有することを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の水性複合樹脂組成物。
【0014】
[5]水溶性多糖類(C)が、水溶性セルロース誘導体及び水溶性多糖類ガムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする上記[4]に記載の架橋ポリ塩化ビニル−ポリウレタン複合樹脂水性分散体組成物。
【0015】
[6]水溶性多糖類(C)が、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デキストラン、ゲランガム、ラムサンガム、ウエランガム及びキサンタンガムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする上記[4]に記載の架橋ポリ塩化ビニル−ポリウレタン複合樹脂水性分散体組成物。
【0016】
[7]上記[1]乃至[6]のいずれかに記載の水性複合樹脂組成物を乾燥することにより得られる複合樹脂組成物。
【0017】
[8]上記[1]乃至[6]のいずれかに記載の水性複合樹脂組成物を乾燥し、成型して得られる複合樹脂組成物の成型体。
【0018】
[9]上記[1]乃至[6]のいずれかに記載の水性複合樹脂組成物からなる艶消し剤。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水性複合樹脂組成物は、無機系艶消し剤のような高い艶消し効果を維持しつつ、表面磨耗や熱に対する耐久性に優れ、素材に対する密着性や機械的特性、耐溶剤性において高い性能を示す艶消し表面を与えることができる。
【0020】
そして、本発明の水性複合樹脂組成物を乾燥することにより、艶消し性や艶消し耐久性のみならず、機械強度や耐水性、耐薬品性に優れた塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
本発明の架橋ポリ塩化ビニル−ポリウレタン複合樹脂水性分散体は、
架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(A)とポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)とを混合して得られる水性複合樹脂組成物であって、
当該水性複合樹脂組成物に対し、テトラヒドロフラン不溶分を10〜80重量%含有すること
をその特徴とする。
【0023】
まず、本発明で使用される架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(A)について説明する。
【0024】
本発明において、架橋ポリ塩化ビニル樹脂としては、例えば、塩化ビニル単量体(又は塩化ビニル単量体及びこれと共重合可能な共重合性単量体)と、エチレン性二重結合を分子内に2個以上有する多官能性単量体からなる塩化ビニル系共重合体が好適に使用される。
【0025】
このような架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体は、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂粒子の水性分散体の一般的な重合条件で製造できる。このような方法としては、例えば、
(1)塩化ビニル単量体等の塩化ビニル系単量体、界面活性剤、必要に応じて高級アルコール等の補助乳化剤、油溶性重合開始剤等を脱イオン水中でホモジナイザー等により混合分散した後、緩やかな攪拌下で重合を行なうミクロ懸濁重合法、
(2)ミクロ懸濁重合法で油溶性開始剤を含有するシードを調製し、該シードに塩化ビニル単量体の塩化ビニル系単量体と、必要に応じ界面活性剤等を加え重合するシード懸濁重合法、
(3)乳化重合法又はミクロ懸濁重合法で得られた粒子をシードとして用い、該シードに塩化ビニル単量体等の塩化ビニル系単量体、水溶性開始剤及び必要に応じて界面活性剤等を加え重合を行なうシード乳化重合法、
等が挙げられる。
【0026】
そして、このような架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体は、上記の重合の際に、塩化ビニル単量体(又は塩化ビニル単量体及びこれと共重合可能な共重合性単量体)と共に、例えば、エチレン性二重結合を分子内に2個以上有する多官能性単量体を併用すれば得られる。このようなエチレン性二重結合を分子内に2個以上有する多官能性単量体としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメレテート、エチレングリコールジアクリレート、ジアリルフタレート、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0027】
上記重合法において用いられる油溶性重合開始剤としては、塩化ビニル単量体に溶解し、ポリ塩化ビニル樹脂水性分散体を得るための温度において適当な半減期を有するものであれば特に制限はない。例えば、2、4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、ジー2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、t−ブチルパーオキシビバレート、t−ブチルパーネオデカノエート等のパーオキシエステル類、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド等の有機化酸化物等を使用することができる。また、上記重合法において用いられる水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過酸化水素、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0028】
これらの重合開始剤は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また重合開始剤は重合時間を調節する目的で、例えば、硫酸ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を重合時に添加してもよいし、チオ硫酸鉄−アスコルビン酸、硫酸銅−アスコルビン酸のようなレドックス系開始剤とを併用してもよい。
【0029】
上記重合法に用いられる界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルスルホン酸塩類のアニオン性界面活性剤を用いることができる。また重合の安定化を目的に、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタンエステル類等のノニオン性界面活性剤や、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール等の高級アルコールをアニオン界面活性剤と併用することができる。
【0030】
更に、上記重合時に分散剤を添加してもよい。使用される分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース誘導体、酢酸ビニル−無水マレイン酸等が挙げられる。
【0031】
本発明において使用される架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(A)は、上記したとおり、塩化ビニル単量体を単独で使用して重合するほか、塩化ビニル単量体と塩化ビニル単量体に共重合し得る共重合性単量体との共重合によっても得られる。
【0032】
塩化ビニル単量体に共重合し得る共重合性単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルミリスチン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基又はその酸無水物基含有単量体、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体、アクリル酸のメチル、エチル、ブチル等のエステル類、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、桂皮酸エステル等の不飽和カルボン酸エステル類、ビニルメチルエーテル、ビニルアミルエーテル、ビニルフェニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のモノオレフィン類、塩化ビニリデン類、スチレン又はその誘導体、アクリルニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらを単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0033】
次に、本発明で使用されるポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)について説明する。
【0034】
本発明で使用されるポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)は、例えば、ポリイソシアネート成分(b1)、ポリオール成分(b2)、及び活性水素を有する親水基含有化合物(b3)の反応により得られる。具体的には、ポリイソシアネート成分(b1)、ポリオール成分(b2)、及び活性水素を有する親水基含有化合物(b3)を反応させて、プレポリマーを合成した後、それを乳化することが好ましい。
【0035】
本発明で使用されるポリイソシアネート成分(b1)としては、通常入手できる各種の脂肪族、脂環族、芳香族のイソシアネート化合物を用いることが可能である。
【0036】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられる。
【0037】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3−イソシアナトメチル−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0038】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0039】
本発明においてポリオールとは、イソシアネート基に対して反応性を有する水酸基を2個以上含む化合物をいう。
【0040】
本発明で使用されるポリオール成分(b2)としては、通常入手できる各種のポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテルポリオール、分子量400未満の低分子ポリオール等を用いることが可能である。
【0041】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、縮合ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリラクトンポリオール等が挙げられる。
【0042】
縮合ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のジオール類と、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸との反応物が挙げられる。具体的には、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール等のアジペート系縮合ポリエステルジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール等のアゼレート系縮合ポリエステルジオール等が例示される。
【0043】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、上記ジオール類とジメチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類との反応物等が挙げられる。具体的には、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリ3−メチルペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等が例示される。
【0044】
ポリラクトンポリオールとしては、例えば、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、及びこれらの2種以上の混合物の開環重合物等が挙げられ、具体的にはポリカプロラクトンジオール等が例示される。
【0045】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、カテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA等の活性水素原子を少なくとも2個有する化合物を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレン等のモノマーを付加重合させた反応物が挙げられる。2種以上のモノマーを付加重合させる場合は、ブロック付加、ランダム付加、又は両者の混合系でもよい。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が例示される。
【0046】
分子量400未満の低分子ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の脂肪族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリロトール等の多官能脂肪族ポリオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等の脂環族ジオール、ビスフェノールA、ハイドロキノン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族ジオール、これらのアルキレンオキシド付加体のポリオール等が挙げられる。分子量400未満の低分子ポリオールは物性調整を目的として一般に使用される。
【0047】
本発明で使用される活性水素を有する親水基含有化合物(b3)としては、例えば、カルボキシル基を有するジオールを使用することができ、具体的には、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸等が挙げられる。また、これらを原料の一部として製造したカルボン酸基含有ポリエステルポリオールも好適に用いることができる。さらに、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸等によってスルホン酸基が導入されたポリエステルポリオールを使用しても良い。これらの親水基が導入された活性水素を有する親水基含有化合物を、アンモニア、トリエチルアミン等の有機アミンやNa、K、Li等の金属塩基等によって中和することで、得られるポリウレタン樹脂を水中に分散することができる。
【0048】
また、本発明においては、活性水素としてアミノ基を有する親水基含有化合物を使用することもでき、例えば、2−(2−アミノエチルアミノ)エタンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とエチレンジアミンとの付加反応物のナトリウム塩、リジン、1,3−プロピレンジアミン−β−エチルスルホン酸等が挙げられる。
【0049】
本発明において、ポリイソシアネート成分(b1)、ポリオール成分(b2)、及び活性水素を有する親水基含有化合物(b3)を反応させて、プレポリマーを合成する際に、反応を均一に進行させるため、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のイソシアネート基に不活性な有機溶剤を、反応中又は反応終了後に添加してもよい。
【0050】
プレポリマーがカルボン酸基やスルホン酸基等の塩形成可能な親水基を含む場合は、中和剤を用いて親水化(中和)させることが望ましい。中和剤としては、例えば、塩基性化合物が使用でき、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基類、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール、N−メチルモルホリン等の第3級アミン類、アンモニア水等が例示される。
【0051】
親水化(中和)の方法としては、特に限定するものではないが、例えば、(1)プレポリマーの合成前、合成中又は合成後に中和剤と反応させる方法、(2)乳化の際に用いる水に中和剤を添加する方法等が挙げられる。
【0052】
本発明において、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)は、例えば、プレポリマーに水を分散しながら水性ポリウレタン樹脂を得る転相乳化や、非イオン性界面活性剤を含む水中のプレポリマーを乳化し水性ポリウレタン樹脂を得る強制乳化等の乳化方法によって得られる。
【0053】
乳化に用いられる界面活性剤としては、一般に非イオン性界面活性剤が用いられ、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アセチレンジオールの酸化エチレン付加物、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。
【0054】
非イオン性界面活性剤の添加法については、特に限定するものではないが、例えば(1)乳化前に添加する方法、(2)乳化中に使用する水と共に添加する方法等が挙げられる。
【0055】
本発明において、乳化前、乳化中又は乳化後に鎖延長剤を添加して、プレポリマーを高分子量化することが望ましい。本発明において、鎖延長剤とは、水又は1級若しくは2級のアミノ基を2個以上含有するポリアミン化合物をいう。プレポリマーの残イソシアネート基を鎖延長剤により鎖延長することでプレポリマーの高分子量化が達成できる。このようなポリアミン化合物として、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ピペラジン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0056】
ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)が低沸点の有機溶剤を含有する場合は、減圧下、30〜80℃で有機溶剤を留去することが望ましい。また、水を追加又は留去することで、水性ポリウレタン樹脂組成物中の樹脂固形分濃度を調整することも可能である。
【0057】
本発明において、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)を製造する際に、更に耐久性を向上させる目的で、架橋剤を配合することもできる。架橋剤としては、通常に使用されるものでよく、特に限定するものではないが、例えば、アミノ樹脂、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物等を挙げることができる。
【0058】
次に本発明の水性複合樹脂組成物について説明する。
【0059】
本発明の水性複合樹脂組成物は、架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(A)とポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)とを混合して得られる水性複合樹脂組成物であって、当該水性複合樹脂組成物に対し、テトラヒドロフラン不溶分を10〜80重量%含有する。ここでテトラヒドロフラン不溶分とは、架橋ポリ塩化ビニル樹脂からなるものであって、このテトラヒドロフラン不溶分を10重量%以上とすることで、水性複合樹脂組成物の艶消し性や耐水性及び耐薬品性が向上し、80重量%以下とすることで、艶消し耐久性や機械強度が向上する。
【0060】
本発明において、[架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(A)]/[ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)]は、樹脂固形分換算の重量比で、20/80〜80/20の範囲であることが好ましい。(A)/(B)の樹脂固形分換算の重量比が20/80未満では、水性複合樹脂組成物の艶消し性や耐薬品性が低下するおそれがあり、また80/20を超えると、艶消し耐久性や機械物性が低下するおそれがある。
【0061】
本発明の水性複合樹脂組成物を乾燥して得られる複合樹脂組成物を、電子顕微鏡により測定したときの、当該複合樹脂組成物中の架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の平均粒径は、0.2〜10.0μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が0.2μm未満だと艶消し性が低下するおそれがあり、また10.0μmを超えると基材との剥離性が増し、艶消し耐久性や機械強度が低下するおそれがある。
【0062】
なお、本発明において、複合樹脂組成物中の架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の平均粒径の測定方法としては、一般的な粒子の測定方法を用いることができる。例えば、透過型電子顕微鏡(TEM),電界放射型透過電子顕微鏡(FE−TEM),電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)等を適宜使用することができる。例えば、上記装置を用いて測定して観測された視野の中から、粒子径が比較的そろっている箇所を選択し、粒径測定に最も適した倍率で撮影する。得られた写真から、一番多数存在すると思われる粒子を複数個選択し、その直径をものさしで測り、測定倍率を除してそれぞれの粒径を算出する。これらの値を算術平均することにより、平均粒径を求めることができる。
【0063】
本発明の水性複合樹脂組成物によれば、従来の無機系艶消し剤や有機系艶消し剤に比べて、艶消し性や艶消し耐久性のみならず、機械的特性及び耐溶剤性が向上した水性艶消し剤が得られるが、艶消し性や艶消し耐久性、機械強度及び耐溶剤性を更に向上させるため、相溶化剤として、水溶性多糖類(C)を添加してもよい。
【0064】
本発明で用いられる水溶性多糖類(C)は、水性複合樹脂組成物中の樹脂固形分100重量部に対し、0.2〜5重量部の範囲で添加することが好ましい。水溶性多糖類(C)が、0.2重量部未満だと、相溶化効果が小さく、艶消し性や艶消し耐久性及び機械強度が低下するおそれがあり、また5重量部を超えると、相溶化剤の過度の添加により機械物性が低下したり、耐水性や耐薬品性が低下したりするおそれがある。
【0065】
本発明において、水溶性多糖類(C)は、水溶液や、高せん断力のホモジナイザー等を用い、直接、ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(A)とポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)との混合物中で溶解することが好ましい。水溶性多糖類(C)が混合物中で未溶解だと、未溶解の水溶性多糖類(C)と、ポリ塩化ビニル樹脂及びポリウレタン樹脂とのゲル化が起きて、水性複合樹脂組成物の貯蔵安定性や、乾燥後の成型性が損なわれるおそれがある。
【0066】
本発明で用いられる水溶性多糖類(C)としては、特に限定するものではないが、水溶性セルロース誘導体及び水溶性多糖類ガムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることが好ましい。
【0067】
水溶性セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0068】
また、水溶性多糖類ガムとしては、例えば、デキストラン、ゲランガム、ラムサンガム、ウエランガム、キサンタンガム等が挙げられる。
【0069】
本発明において、架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(A)、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)、及び必要に応じて水溶性多糖類(C)を混合する方法としては、特に限定するものではないが、攪拌翼による混合分散、マグネッチクスターラーによる混合分散、ホモジナイザー等による混合分散等が挙げられる。
【0070】
また、本発明においては、架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(A)を噴霧ドライヤー等の乾燥機で水分を除去して得られたパウダーを、直接、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)に再分散してもよく、更には当該パウダーを予め水に再分散した分散液を、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)及び必要に応じて水溶性多糖類(C)と混合してもよい。
【0071】
本発明の水性複合樹脂組成物には、必要に応じて、ウレタン変性ポリエーテル系シックナー、変性ポリアクリル酸系シックナー等の増粘剤、フェノール系老化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、シリコーン系等の帯電防止剤、着色剤、顔料、滑剤等の添加剤を艶消し塗膜成型時の配合剤として加えてもよい。
【0072】
本発明においては、水性複合樹脂組成物が低沸点の有機溶剤を含有する場合、減圧下、30〜80℃で有機溶剤を留去することが望ましい。また、水を追加又は留去することで、水性複合樹脂組成物中の樹脂固形分濃度を調整することも可能である。
【0073】
本発明の水性複合樹脂組成物を乾燥することにより、塗膜や、フィルム、シート等の成型体を得ることができる。
【0074】
そして、本発明の水性分散体組成物は、コーティング・塗料、電気部品、自動車部品、自動車内装材、レザー類、車両,船舶、タンク、プラント、橋梁等の構造物、建築物の外壁や、床材、鋼板、標識、家具、什器等の日用品、玩具等の広範な用途に使用される。
【実施例】
【0075】
以下の実施例、比較例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0076】
なお、以下の実施例、比較例における水性複合樹脂組成物及びそれを乾燥し得られた艶消し塗膜、乾燥シートの評価法は以下のとおりである。
【0077】
<テトラヒドロフラン不溶分の測定方法>
水性複合樹脂組成物を120℃で1時間乾燥して得られた、複合樹脂組成物1gにテトラヒドロフラン50mlを加え、60℃にて24時間攪拌し、その後、遠心沈降機(日立05−P21型)で4000rpm×60分処理することにより、テトラヒドロフラン不溶分を沈降分離し、上澄み液を除去後、不溶分を回収し、乾燥後の重量を測定し不溶分を求めた。また架橋ポリ塩化ビニル樹脂のテトラヒドロフラン不溶分も複合樹脂と同様の方法で求めた。
【0078】
<平均粒径の測定方法>
架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体とポリウレタン樹脂粒子の水性分散体のそれぞれの平均粒径は、マイクロトラックUPA150(日機装社製)を用い、分散媒の屈折率を1.33に設定し粒径分布を測定し、メジアン粒径を求め、各々の樹脂粒子の平均粒径とした。
【0079】
<艶消し塗膜の塗布方法>
水性複合樹脂組成物を、厚み0.4mmのポリエチレンテレフタレート(PET)シート上でバーコーターを用い塗布後、130℃の乾燥機で10分間乾燥し乾燥フィルム(艶消し塗膜)を得た。
【0080】
<艶消し性>
グロスメーター(日本電色工業社製、型式VG2000)を用い、艶消し塗膜に入射角60°で照射された光の反射率を測定し、反射率を艶消し性の評価とした。反射率が小さいほど艶消しの度合いが大きい。
【0081】
<艶消し耐久性>
PETシートに塗布された艶消し塗膜に対し、幅3mm、長さ20mmの長さに対し、シリコーンゴムを約60°の角度で当てて繰り返し擦り、艶消し塗膜の艶消し性がなくなるまでの擦り回数の測定を行なった他、塗膜とPETシートの剥離状態等を観察した。
【0082】
<複合樹脂組成物の乾燥シート作成方法>
水性複合樹脂組成物を、ガラス製の流延板上で流延し、130℃の乾燥機で10分間乾燥し乾燥シートを得た。
【0083】
<複合樹脂組成物中の架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の平均粒径測定方法>
流延成型後の乾燥シートを走査型電子顕微鏡(日立製作所製、型式S−4500)により観察し、粒径測定に最も適した倍率で撮影した。得られた写真から、一番多数存在すると思われる粒子を複数個選択し、その直径をものさしで測り、測定倍率を除して粒径を算出した。そして、これらの値を算術平均した値を複合樹脂組成物中の架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の平均粒径とした。
【0084】
<複合樹脂組成物のフィルム強度の測定>
流延成型後の乾燥シートを用い、130℃で2分間、5MPaの熱プレス成型を行い、恒温室でフィルムを状態調整後、JIS4号ダンベルで打ち抜いて試験片を得た。この試験片について、引張り試験機(東洋ボールドウイン社製、テンシロンUTM−4−100型)を用い、引張り速度200(mm/分)で引張り試験を行った。
【0085】
<複合樹脂組成物フィルムの耐水性及び耐薬品性の測定>
流延成型後の乾燥シートを、純水及びイソプロピルアルコールに室温でそれぞれ30分間浸漬した後、浸漬前と浸漬後の重量を測定し重量変化率を求めた。
【0086】
調製例1 架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体の調製(1).
2.5L重合缶内に脱イオン水720g、塩化ビニル単量体600g、過酸化ラウロイル11.4g及び15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液60gを仕込み、該重合液をホモミキサーにて75分間均質化処理後、温度を45℃に上げて重合を行なった。圧力が低下した後、未反応塩化ビニル単量体を回収することにより、過酸化ラウロイルを2重量%含有させたシード粒子1を得た。シード粒子1のテトラヒドロフラン不溶分は63重量%、平均粒径は0.55μmであった。
【0087】
次に2.5L重合缶内に脱イオン水500g、塩化ビニル単量体800g、トリアリルイソシアヌレート2.4g、シード粒子1を60g、15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液6.0g、0.1重量%硫酸第一鉄水溶液8gを仕込み、45℃で重合を開始し、重合反応終了まで0.1重量%アスコルビン酸水溶液120g及び15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液37.3gを連続的に添加した。重合缶内の圧力が0.3MPaに低下した時点で重合反応を停止し、未反応塩化ビニル単量体を回収して、架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体を得た(以下、「ポリマーA」と称する。)。ポリマーAのテトラヒドロフラン不溶分は71重量%、平均粒径は1.2μmであった。
【0088】
調製例2 架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体の調製(2).
2.5L重合缶内に脱イオン水500g、塩化ビニル単量体800g、トリアリルイソシアヌレート5.1g、シード粒子1を60g仕込み、調製例1と同様の方法で、テトラヒドロフラン不溶分92重量%、平均粒径1.5μmの架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体を得た(以下、「ポリマーB」と称する。)。
【0089】
調製例3 架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体の調製(3).
2.5L重合缶内に脱イオン水500g、塩化ビニル単量体800g、トリアリルイソシアヌレート2.4g、シード粒子1を80g仕込み、52℃で重合を開始し、重合反応終了まで15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液59.0gを連続的に添加した以外は調製例1と同様の方法で重合を行い、テトラヒドロフラン不溶分70重量%、平均粒径0.1μmの架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体を得た(以下、「ポリマーC」と称する。)。
【0090】
調製例4 架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体の調製(4).
2.5L重合缶内に脱イオン水500g、塩化ビニル単量体800g、トリアリルイソシアヌレート2.4g、シード粒子1を10g仕込み、重合反応終了まで15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液4.0gを連続的に添加した以外は調製例1と同様の方法で重合を行い、テトラヒドロフラン不溶分67重量%、平均粒径11.2μmの架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体を得た(以下、「ポリマーD」と称する。)。
【0091】
調製例5 ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体の調製.
<ウレタンプレポリマー溶液の合成>
還流冷却器を備えた反応器にポリイソシアネート成分として1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成社製)500g、ポリエステルポリオールとしてポリヘキサメチレンアジペートのジオール(日本ポリウレタン社製、ニッポラン4073)500g、ジメチロールプロピオン酸(東京化成社製)24.68g及びメチルエチルケトン263gを加えて、反応温度80℃で固形分70重量%のプレポリマー有機溶剤溶液を調製した。
【0092】
<ポリウレタン樹脂水性分散体の合成>
3Lの乳化槽に、固形分70重量%のプレポリマー有機溶剤溶液をアセトンで更に固形分60重量%に希釈したプレポリマー有機溶剤溶600gを入れ、トリエチルアミン25.45gを溶解した後、25℃で50分間純水1150gを滴下し転相乳化を行なった。その後、ピペラジン3.92gを水に溶解した水溶液を乳化槽中の水性ウレタンエマルションに2分間滴下し1時間熟成した。そして、乳化槽中の水性ウレタンエマルションから、エバポレーターを用い45℃で減圧条件下攪拌しながら有機溶剤を蒸留除去し、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体を得た(以下、「ポリマーE」と称する。)。
【0093】
実施例1.
樹脂固形分にして、架橋ポリ塩化ビニル樹脂50重量部に対し、ポリウレタン樹脂50重量部になるよう調製したポリマーA及びポリマーEを、200mLビーカーに入れマグネチックスターラーで30分間攪拌して、水性複合樹脂組成物を調製し、上記したとおり評価した。結果を表1に示す。
【0094】
【表1】

表1から明らかなとおり、実施例1の水性複合樹脂組成物から得られる艶消し塗膜は、市販の艶消し水性アクリル樹脂や、従来の無機系艶消し剤のシリカを配合したポリウレタン樹脂水性分散体組成物に比べ、塗膜の艶消し性や艶消し耐久性に優れていた。また、複合樹脂組成物からなる乾燥シートは、機械強度や耐水性、耐薬品性に優れていた。
【0095】
実施例2.
樹脂固形分にして、架橋ポリ塩化ビニル樹脂50重量部に対し、ポリウレタン樹脂50重量部になるよう調製したポリマーAとポリマーEを、200mLビーカーに入れマグネチックスターラーで攪拌しながら、水溶性多糖類としてヒドロキシプロピルセルロース(和光純薬工業社製試薬)0.5重量部を2.5%水溶液として滴下し、30分間攪拌して、水性複合樹脂組成物を調製し、上記したとおり評価した。結果を表1に併せて示す。
【0096】
表1から明らかなとおり、実施例2の水性複合樹脂組成物から得られる艶消し塗膜は、市販の艶消し水性アクリル樹脂や、従来の無機系艶消し剤のシリカを配合したポリウレタン樹脂水性分散体組成物に比べ、塗膜の艶消し性や艶消し耐久性に優れていた。また、複合樹脂組成物の乾燥シートは、機械強度や耐水性、耐薬品性に優れていた。また、水溶性多糖類を加えることで、水溶性多糖類を加えていない水性複合樹脂組成物(実施例1)に比べ、塗膜の艶消し性、艶消し耐久性や、複合樹脂組成物の乾燥シートの機械強度、耐水性、耐薬品性が向上した。
【0097】
実施例3〜実施例6.
実施例1と同様にして、表1に示すとおりの水性複合樹脂組成物を調製し、上記したとおり評価した。結果を表1に併せて示す。
【0098】
表1から明らかなとおり、これら実施例の水性複合樹脂組成物から得られる艶消し塗膜は、艶消し性、艶消し耐久性に優れ、複合樹脂組成物の乾燥シートは、機械強度や耐水性、耐薬品性に優れていた。
【0099】
比較例1.
市販の艶消し水溶性アクリル樹脂系ニス(カンペパピオ社製)を用い、室温で1日乾燥する以外は、上記したとおり評価した。結果を表2に示す。
【0100】
【表2】

表2から明らかなように、実施例1に比べ、比較例1では艶消し耐久性や、機械強度、耐水性、耐薬品性が劣っていた。
【0101】
比較例2.
艶消しシリカ(ニップシールE200A、東ソーシリカ社製)の20重量%のスラリー水溶液を調製し、これをポリマーEに混合し30分間攪拌して、水性複合樹脂組成物を調製し、上記したとおり評価した。結果を表2に併せて示す。
【0102】
表2から明らかなように、実施例1に比べ、比較例2では艶消し耐久性や、機械強度、耐水性、耐薬品性が劣っていた。
【0103】
比較例3〜比較例6.
実施例1と同様にして、表2に示すとおりの水性複合樹脂組成物を調製し、上記したとおり評価した。結果を表2に併せて示す。
【0104】
表2から明らかなように、実施例1に比べ、いずれの比較例も、艶消し性や、艶消し耐久性、機械強度、耐水性、耐薬品性が劣っていた。
【0105】
比較例7〜比較例10.
実施例1と同様にして、表3に示すとおりの水性複合樹脂組成物を調製し、上記したとおり評価した。結果を表3に併せて示す。
【0106】
【表3】

表3から明らかなように、実施例1に比べ、いずれの比較例も、艶消し性や、艶消し耐久性、機械強度、耐水性、耐薬品性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(A)とポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)とを混合して得られる水性複合樹脂組成物であって、当該水性複合樹脂組成物に対し、テトラヒドロフラン不溶分を10〜80重量%含有することを特徴とする水性複合樹脂組成物。
【請求項2】
[架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(A)]/[ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(B)]が、樹脂固形分換算の重量比で、20/80〜80/20の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の水性複合樹脂組成物。
【請求項3】
水性複合樹脂組成物を乾燥して得られる複合樹脂組成物を電子顕微鏡により測定したとき、当該複合樹脂組成物中の架橋ポリ塩化ビニル樹脂粒子の平均粒径が、0.2〜10.0μmの範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の架橋ポリ塩化ビニル−ポリウレタン複合樹脂水性分散体。
【請求項4】
水性複合樹脂組成物中の樹脂固形分100重量部に対し、水溶性多糖類(C)を0.2〜5重量部含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の水性複合樹脂組成物。
【請求項5】
水溶性多糖類(C)が、水溶性セルロース誘導体及び水溶性多糖類ガムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項4に記載の架橋ポリ塩化ビニル−ポリウレタン複合樹脂水性分散体組成物。
【請求項6】
水溶性多糖類(C)が、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デキストラン、ゲランガム、ラムサンガム、ウエランガム及びキサンタンガムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項4に記載の架橋ポリ塩化ビニル−ポリウレタン複合樹脂水性分散体組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の水性複合樹脂組成物を乾燥することにより得られる複合樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の水性複合樹脂組成物を乾燥し、成型して得られる複合樹脂組成物の成型体。
【請求項9】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の水性複合樹脂組成物からなる艶消し剤。

【公開番号】特開2012−136608(P2012−136608A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288894(P2010−288894)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】