説明

架橋性ノルボルネン樹脂組成物、樹脂フィルム

【課題】
水蒸気バリア性、耐熱性、耐油性、機械的特性、透明性、加工性等のより優れた性能の要求を満たす樹脂組成物、及びこの樹脂組成物を成形して得られる樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】
2−ノルボルネン(1−1)が90〜100重量%と置換基含有ノルボルネン単量体(1−2)が10〜0重量%とを含有してなる重合性単量体を開環重合し、水素添加して得られる、融点が110〜145℃、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が50,000〜200,000、重量平均分子量/数平均分子量が1.5〜10.0であるノルボルネン開環重合体水素添加物(1)100重量部に対して有機過酸化物(2)0.01〜20重量部を含有する架橋性ノルボルネン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近年の情報分野、食品分野、医療分野、土木分野等において要求される、水蒸気バリア性、耐熱性、耐油性、機械的特性、透明性、加工性等に優れる、ノルボルネン開環重合体水素添加物、及び有機過酸化物を含有する樹脂組成物、並びに前記樹脂組成物を成形して得られる樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネン開環重合体水素添加物は透明性に優れ、低複屈折性を有することから、光学レンズや光学シート用の樹脂材料としての利用が提案されている(特許文献1、2)。また、このものは溶融時の流動性に優れ、溶出性や耐薬品性にも優れているため、包装用フィルム、医療容器をはじめとして、光学用途以外の種々の樹脂材料としても有用であることも提案されている(特許文献3、4)。
【0003】
しかし、ノルボルネン開環重合体水素添加物の多くは非晶性であることから、その用途によっては、水蒸気バリア性、耐皮脂性、耐溶剤性等が不十分であり、物性のさらなる改善が望まれていた。
【0004】
一方、特許文献5には、ノルボルネン開環重合体水素添加物に対して有機過酸化物及び架橋助剤を含有する架橋性ノルボルネン樹脂組成物が提案されている。
【0005】
また、結晶性を有する(すなわち、融点を有する)ノルボルネン開環重合体水素添加物としては、特許文献6〜8に記載された、3環体以上のノルボルネン単量体の繰り返し単位を含有する結晶性のノルボルネン開環重合体水素添加物が知られている。これらの文献に記載のノルボルネン開環重合体水素添加物から得られる樹脂フィルムは、透明性、耐熱性及び耐薬品性に優れ、機械的強度にも優れるものである。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−26024号公報
【特許文献2】特開平9−263627号公報
【特許文献3】特開2000−313090号公報
【特許文献4】特開2003−183361号公報
【特許文献5】特開平6−248164号公報
【特許文献6】特開2002−020464号公報
【特許文献7】特開2002−194067号公報
【特許文献8】特開2006−52333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、特許文献5に記載された架橋性ノルボルネン樹脂組成物から得られる成形品は、室温での耐溶剤性は向上するものの、40℃での環境下では、溶解はしないが膨潤するなど不十分な場合があり、使用する用途によっては、耐溶剤性が必ずしも十分でないことが判った。
【0008】
一方、特許文献6〜8に記載された結晶性のノルボルネン開環重合体水素添加物は、溶剤に対する溶解性に乏しく、開環重合体を水素化した後において、溶剤から析出し、触媒残渣の除去等のポリマー精製が十分に行えない場合があった。また、当該ノルボルネン開環重合体水素添加物を使用して成形したフィルムの水蒸気バリア性は十分に要求を満たすものではなかった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、近年の情報分野、食品分野、医療分野、土木分野等における、水蒸気バリア性、耐熱性、耐油性、機械的特性、透明性、加工性等のより優れた性能の要求を満たす樹脂組成物、及びこの樹脂組成物を成形して得られる樹脂フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、上記目的を達成すべく検討した結果、2−ノルボルネンを90重量以上含有してなる重合性単量体を開環重合し、水素添加して得られる、融点が110〜145℃、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が50,000〜200,000、重量平均分子量/数平均分子量が1.5〜10.0であるノルボルネン開環重合体水素添加物(1)100重量部に対して有機過酸化物0.01〜20重量部を含有する架橋性ノルボルネン樹脂組成物を用いて得られる成形品は、耐湿性、水蒸気バリア性及び耐溶剤性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
(1)2−ノルボルネン(1−1)が90〜100重量%と置換基含有ノルボルネン単量体(1−2)が10〜0重量%とを含有してなる重合性単量体を開環重合し、水素添加して得られる、融点が110〜145℃、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が50,000〜200,000、重量平均分子量/数平均分子量が1.5〜10.0であるノルボルネン開環重合体水素添加物(1)100重量部に対して有機過酸化物0.01〜20重量部を含有する架橋性ノルボルネン樹脂組成物。
【0012】
(2)更に、架橋助剤(3)を有機過酸化物1重量部に対して0.1〜10重量部含有することを特徴とする(1)に記載の架橋性ノルボルネン樹脂組成物。
【0013】
(3)該架橋助剤がアリル架橋助剤又はメタクリレート架橋助剤である(1)又は(2)記載の架橋性ノルボルネン樹脂組成物。
【0014】
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の架橋性ノルボルネン樹脂組成物を成形して得られる樹脂フィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、近年の情報分野、食品分野、医療分野、土木分野等における、水蒸気バリア性、耐熱性、耐油性、機械的特性、透明性、加工性等のより優れた性能の要求を満たす樹脂材料、及びこの樹脂材料を成形して得られる樹脂フィルムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)ノルボルネン開環重合体水素添加物
本発明に用いるノルボルネン開環重合体水素添加物は、2−ノルボルネン(1−1)が90〜100重量%と置換基含有ノルボルネン単量体(1−2)が10〜0重量%とを含有してなる重合性単量体を開環重合し、水素添加して得られる、融点が110〜145℃、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が50,000〜200,000、重量平均分子量/数平均分子量が1.5〜10.0である。
【0017】
2−ノルボルネン(1−1)又は2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン単量体(1−2)からなる単量体混合物を、メタセシス重合触媒の存在下に開環重合することにより2−ノルボルネン単独開環重合体又は2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン単量体との開環共重合体(以下、総称して「ノルボルネン開環重合体」という)を水素添加することで、ノルボルネン開環重合体水素添加物を得ることができる。
【0018】
本発明に用いる2−ノルボルネン(1−1)は公知の化合物であり、例えば、シクロペンタジエンとエチレンとを反応させることにより得ることができる。
【0019】
置換基含有ノルボルネン単量体(1−2)は、分子内にノルボルネン骨格を有する化合物であって、置換基を有するものである。本発明に用いる「置換基含有ノルボルネン単量体」には、置換基を有する2−ノルボルネン誘導体のほか、縮合した環を有するノルボルネン化合物も含まれる。
置換基含有ノルボルネン単量体(1−2)としては、分子内にノルボルネン環と縮合する環を有しないノルボルネン単量体、及び3環以上の多環式ノルボルネン単量体等が挙げられる。
【0020】
前記分子内にノルボルネン環と縮合する環を有しないノルボルネン単量体の具体例としては、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−ヘキシルノルボルネン、5−デシルノルボルネン、5−シクロヘキシルノルボルネン、5−シクロペンチルノルボルネン等のアルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−プロペニルノルボルネン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、5−シクロペンテニルノルボルネン等のアルケニル基を有するノルボルネン類;5−フェニルノルボルネン等の芳香環を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−エトキシカルボニルノルボルネン、ノルボルネニル−2−メチルプロピオネイト、ノルボルネニル−2−メチルオクタネイト、5−ヒドロキシメチルノルボルネン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5,5−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5−ヒドロキシ−i−プロピルノルボルネン、5,6−ジカルボキシノルボルネン、5−メトキシカルボニル−6−カルボキシノルボルネン、等の酸素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;5−シアノノルボルネン等の窒素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;等が挙げられる。
【0021】
3環以上の多環式ノルボルネン単量体とは、分子内にノルボルネン環と、該ノルボルネン環と縮合している1つ以上の環とを有するノルボルネン単量体である。その具体例としては、下記に示す式(2)又は式(3)で示される単量体が挙げられる。
【0022】
【化1】

【0023】
(式中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、互いに結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の二価の炭化水素基である。)
【0024】
【化2】

【0025】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、RとRは互いに結合して環を形成していてもよい。mは1又は2である。)
【0026】
式(2)で示される単量体としては、具体的には、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン等を挙げることができる。また、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンともいう)、等の芳香環を有するノルボルネン誘導体も挙げることができる。
【0027】
式(3)で示される単量体としては、mが1であるテトラシクロドデセン類、mが2であるヘキサシクロヘプタデセン類が挙げられる。
【0028】
テトラシクロドデセン類の具体例としては、テトラシクロドデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8−シクロペンチルテトラシクロドデセン等の無置換又はアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;8−メチリデンテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセン、8−ビニルテトラシクロドデセン、8−プロペニルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8−シクロペンテニルテトラシクロドデセン等の環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;8−フェニルテトラシクロドデセン等の芳香環を有するテトラシクロドデセン類;8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8−カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸イミド等の窒素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−クロロテトラシクロドデセン等のハロゲン原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−トリメトキシシリルテトラシクロドデセン等のケイ素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類等が挙げられる。
【0029】
ヘキサシクロヘプタデセン類の具体例としては、ヘキサシクロヘプタデセン、12−メチルヘキサシクロヘプタデセン、12−エチルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキシルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンチルヘキサシクロヘプタデセン等の無置換又はアルキル基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−エチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−ビニルヘキサシクロヘプタデセン、12−プロペニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキセニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンテニルヘキサシクロヘプタデセン等の環外に二重結合を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−フェニルヘキサシクロヘプタデセン等の芳香環を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−メチル−12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−ヒドロキシメチルヘキサシクロヘプタデセン、12−カルボキシヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−シアノヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸イミド等の窒素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−クロロヘキサシクロヘプタデセン等のハロゲン原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−トリメトキシシリルヘキサシクロヘプタデセン等のケイ素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類等が挙げられる。これらのノルボルネン単量体は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
本発明においては、上記した2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン単量体と開環重合可能なその他の単量体を組み合わせて用いることもできる。
【0031】
2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン単量体と開環重合可能なその他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のモノ環状オレフィン類及びその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン等の環状ジエン及びその誘導体;等が挙げられる。
【0032】
単量体の組成は、2−ノルボルネンが、通常90〜100重量%、好ましくは95〜99重量%、より好ましくは97〜99重量%であり、置換基含有ノルボルネン系単量体は、通常0〜10重量%、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは1〜4重量%である。
【0033】
2−ノルボルネン(1−1)と置換基含有ノルボルネン単量体(1−2)とを含有する重合性単量体の開環重合は、無溶媒又は適当な溶媒中で、メタセシス重合触媒の存在下に実施することができる。
【0034】
用いることのできるメタセシス重合触媒としては、例えば、特公昭41−20111号公報、特開昭46−14910号公報、特公昭57−17883号公報、特公昭57−61044号公報、特開昭54−86600号公報、特開昭58−127728号公報、特開平1−240517号公報等に記載された、本質的に(a)遷移金属化合物触媒成分と(b)金属化合物助触媒成分からなる一般のメタセシス重合触媒;シュロック型重合触媒(特開平7−179575号公報、Schrock et al.,J.Am.Chem.Soc.,1990年,第112巻,3875頁〜等)や、グラブス型重合触媒(Fu et al.,J.Am.Chem.Soc.,1993年,第115巻,9856頁〜;Nguyen et al.,J.Am.Chem.Soc.,1992年,第114巻,3974頁〜;Grubbs et al.,WO98/21214号パンフレット等)等のリビング開環メタセシス触媒;等が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、得られる開環重合体の分子量分布が容易に制御できる観点から、(a)遷移金属化合物触媒成分と(b)金属化合物助触媒成分からなるメタセシス重合触媒の使用が好ましい。
【0036】
前記(a)遷移金属化合物触媒成分は、周期律表第3〜11族に属する遷移金属の化合物である。例えば、これらの遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物、アルコキシハロゲン化物、アルコキシド、カルボン酸塩、(オキシ)アセチルアセトネート、カルボニル錯体、アセトニトリル錯体、ヒドリド錯体、これらの誘導体、これら又はこれらの誘導体のP(C等の錯化剤による錯化物が挙げられる。
【0037】
具体例としては、TiCl、TiBr、VOCl、WBr、WCl、WOCl、MoCl、MoOCl、WO、HWO等が挙げられる。なかでも、重合活性等の点から、W、Mo、Ti、又はVの化合物が好ましく、特にこれらのハロゲン化物、オキシハロゲン化物、又はアルコキシハロゲン化物が好ましい。
【0038】
前記(b)金属化合物助触媒成分は、周期律表第1〜2族、及び第12〜14族金属に属する化合物で、少なくとも一つの金属元素−炭素結合、又は金属元素−水素結合を有するものである。例えば、Al、Sn、Li、Na、Mg、Zn、Cd、B等の有機化合物等が挙げられる。
【0039】
具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等の有機アルミニウム化合物;テトラメチルスズ、ジエチルジメチルスズ、テトラブチルスズ、テトラフェニルスズ等の有機スズ化合物;n−ブチルリチウム等の有機リチウム化合物;n−ペンチルナトリウム等の有機ナトリウム化合物;メチルマグネシウムイオジド等の有機マグネシウム化合物;ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジエチルカドミウム等の有機カドミウム化合物;トリメチルホウ素等の有機ホウ素化合物;等が挙げられる。これらの中で、第13族に属する金属の化合物が好ましく、特にAlの有機化合物が好ましい。
【0040】
また、前記(a)成分、(b)成分の他に第三成分(c)を加えて、メタセシス重合活性を高めることができる。用いる(c)成分としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、分子状酸素、アルコール、エーテル、過酸化物、カルボン酸、酸無水物、酸クロリド、エステル、ケトン、含窒素化合物、含ハロゲン化合物、その他のルイス酸等が挙げられる。
【0041】
これらの成分の配合比は、(a)成分:(b)成分が金属元素のモル比で、通常、1:1〜1:100、好ましくは1:2〜1:10の範囲である。また、(a)成分:(c)成分がモル比で、通常、1:0.005〜1:50、好ましくは1:1〜1:10の範囲である。
【0042】
また、重合触媒の使用割合は、(重合触媒中の遷移金属):(全単量体)のモル比で、通常、1:100〜1:2,000,000、好ましくは1:1,000〜1:20,000、より好ましくは1:5,000〜1:8,000である。触媒量が多すぎると重合反応後の触媒除去が困難となり、分子量分布が広がるおそれがあり、少なすぎると十分な重合活性が得られない。
【0043】
開環重合は無溶媒で行うこともできるが、適当な溶媒中で行うことが好ましい。用いる溶媒としては、開環重合体及び開環重合体水素添加物が所定の条件で溶解もしくは分散し、かつ、開環重合及び水素化反応に影響しないものであれば特に限定されないが、工業的に汎用されている溶媒が好ましい。
【0044】
このような溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン等のエ−テル類等の溶媒を使用することができる。これらの溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
これらの中でも、工業的に汎用されている芳香族炭化水素や脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、エーテル類の使用が好ましい。
【0046】
開環重合を有機溶媒中で行う場合には、溶液中の2−ノルボルネン(1−1)及び置換基含有ノルボルネン単量体(1−2)からなるモノマー混合物の濃度は、1〜50重量%が好ましく、2〜45重量%がより好ましく、3〜40重量%が特に好ましい。前記モノマー混合物の濃度が1重量%より小さいと生産性が低くなるおそれがあり、50重量%より大きいと開環重合後の溶液粘度が高すぎて、その後の水素化反応が困難となるおそれがある。
【0047】
開環重合においては、反応系に分子量調節剤を添加することができる。分子量調節剤を添加することで、得られる開環重合体の分子量を調整することができる。
【0048】
用いる分子量調節剤としては特に限定されず、従来公知のものが使用できる。例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエン等のスチレン類;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエーテル類;アリルクロライド等のハロゲン含有ビニル化合物;グリシジルメタクリレート等酸素含有ビニル化合物;アクリルアミド等の窒素含有ビニル化合物;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン等の非共役ジエン;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン;等を挙げることができる。これらの中でも、分子量調節のし易さから、α−オレフィン類が好ましい。
【0049】
分子量調節剤の添加量は、所望の分子量を持つ開環重合体を得るに足る量であればよく、(分子量調節剤):(全単量体)のモル比で、通常、1:50〜1:1,000,000、好ましくは1:100〜1:5,000、より好ましくは1:300〜1:3,000である。
【0050】
重合反応は、2−ノルボルネン(1−1)及び置換基含有ノルボルネン単量体(1−2)からなるモノマー混合物と重合触媒を混合することにより開始される。
【0051】
重合反応を行う際の温度は、特に限定されないが、通常−20〜+100℃、好ましくは10〜80℃である。温度が低すぎると反応速度が低下し、高すぎると副反応により、分子量分布が広がるおそれがある。
重合時間は、1分間から100時間で、特に制限はない。
圧力条件も特に限定されないが、通常、0〜1MPaの加圧下で重合を行う。
【0052】
反応終了後においては、通常の後処理操作により目的とするノルボルネン開環重合体を単離することができる。
【0053】
得られたノルボルネン開環重合体は、次の水素化反応工程へ供される。
また後述するように、開環重合を行った反応溶液に水素化触媒を添加して、ノルボルネン開環重合体を単離することなく、連続的に水素化反応を行うこともできる。
【0054】
ノルボルネン開環重合体の水素化反応は、ノルボルネン開環重合体の主鎖又は/及び側鎖に存在する炭素−炭素二重結合に水素化する反応である。この水素化反応は、例えば、ノルボルネン開環重合体と溶媒とを含む溶液に水素化触媒を添加し、反応系内に水素を供給して行う。
【0055】
用いる水素化触媒としては、オレフィン化合物の水素化に際して一般に使用されているものであれば、均一系触媒、不均一系触媒のいずれも使用することができる。得られる重合体中の残留金属の除去等を考慮すると、不均一系触媒が好ましい。
【0056】
均一系触媒としては、例えば、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウム等の組み合わせ等の遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなる触媒系;ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の貴金属錯体触媒;等が挙げられる。
【0057】
不均一系触媒としては、例えば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナ等の、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、又はこれらの金属をカーボン、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化チタン等の担体に担持させた固体触媒が挙げられる。
【0058】
水素化触媒の使用量は、ノルボルネン開環重合体100重量部に対し、通常0.05〜10重量部である。
【0059】
水素化反応に用いる溶媒としては、前述した2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン単量体との開環重合において用いることができる溶媒として例示したものと同様の、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン系芳香族炭化水素、含窒素炭化水素、エーテル類等が挙げられる。
【0060】
水素化反応の温度は、使用する水素化触媒系によって適する条件範囲が異なるが、通常、−20℃〜+300℃、好ましくは0℃〜+250℃、より好ましくは100℃〜200℃である。水素化反応の温度が低すぎると反応速度が遅くなるおそれがあり、高すぎると副反応が起こる可能性がある。
【0061】
水素化反応の水素圧力は、通常、0.01〜20MPa、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは1〜5MPaである。水素圧力が低すぎると水素化速度が遅くなり、高すぎると高耐圧反応装置が必要となるので好ましくない。
【0062】
本発明に用いるノルボルネン開環重合体水素添加物(以下、「開環重合体水素添加物」ということがある)は、重合体中の炭素−炭素二重結合の水素添加率が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは99.9%以上である。水素添加率が上記の範囲にあると、成形する際に樹脂焼けが起こり難く、特にフィルム成形する際には、ダイラインの発生を抑制することができるため好ましい。
【0063】
開環重合体水素添加物の水素化率は、溶媒に重クロロホルムを用い、1H−NMRにより求めることができる。
【0064】
水素化反応終了後、開環重合体水素添加物を含む溶液から水素化触媒等を濾別し、濾別後の溶液から溶媒等の揮発成分を除去することにより、目的とする開環重合体水素添加物を得ることができる。
【0065】
濾別後の開環重合体水素添加物を含む溶液から溶媒等の揮発成分を除去する方法としては、凝固法や直接乾燥法等、公知の方法を採用することができる。
【0066】
凝固法は、重合体を含む溶液を該重合体の貧溶媒と混合することにより、該重合体を析出させる方法である。用いる貧溶媒としては、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;等の極性溶媒が挙げられる。
【0067】
凝固して得られた粒子状の成分は、例えば、真空中又は窒素中若しくは空気中で加熱して乾燥させて粒子状にするか、さらに必要に応じて溶融押出機から押し出してペレット状にすることができる。
【0068】
直接乾燥法は、重合体を含む溶液を減圧下に加熱して溶媒を除去する方法である。この方法には、遠心薄膜連続蒸発乾燥機、掻面熱交換型連続反応器型乾燥機、高粘度リアクタ装置等の公知の装置を用いて行うことができる。真空度や温度は、用いる装置によって適宜選択され、特に限定されない。
【0069】
以上のようにして得られる開環重合体水素添加物中の、2−ノルボルネン由来の繰り返し単位(A)の全繰り返し単位に対する存在割合は、90〜99重量%、好ましくは、95〜99重量%、より好ましくは、97〜99重量%である。また、置換基含有ノルボルネン単量体由来の繰り返し単位(B)の全繰り返し単位に対する存在割合は、1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%である。
【0070】
繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)の存在割合がこのような範囲にあると、開環重合体水素添加物の溶剤への溶解性が良好となり、生産性に優れ、且つ精製が容易となり、且つ、該開環重合体水素添加物を用いた成形体の機械的特性、透明性、耐熱性や水蒸気バリア性が良好となる。
繰り返し単位(B)の存在割合が多すぎると、得られる成形体の耐熱性や水蒸気バリア性が悪化するおそれがある。繰り返し単位(B)の存在割合が少なすぎると、当該重合体水素添加物の溶剤への溶解性が悪化し、生産性の悪化や精製が困難になる傾向があり、また、成形体の機械的特性が低下する傾向がある。
【0071】
本発明に用いる開環重合体水素添加物は、その重量平均分子量(Mw)が、1,2,4−トリクロロベンゼンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算で、好ましくは、50,000〜200,000、より好ましくは、70,000〜180,000、特に好ましくは、80,000〜150,000である。
【0072】
開環重合体水素添加物のMwがこの範囲にあると、開環重合体水素添加物の溶剤への溶解性が良好であるためポリマーの生産性に優れ、ポリマーの精製も容易であり、かつ、成形も容易であり、成形体の機械的特性や耐熱性が良好となる。すなわち、Mwが高すぎると、溶液粘度が高くなりすぎ、濾過性が低下するため、生産性が悪化するおそれがあり、また、当該開環重合体水素添加物を含む樹脂組成物用いてをフィルム成形する際に、フィルムの膜厚精度を高めるため樹脂温度を高くする必要が生じ、樹脂焼けに起因するダイラインが発生する傾向がある。
また、Mwが低すぎると、得られる成形品の機械的特性や耐熱性が低下するおそれや、当該開環重合体水素添加物が結晶性であるため、溶剤に溶解し難くなり、ポリマーの生産性の悪化やポリマーの精製が困難になるおそれがある。
【0073】
本発明に用いる開環重合体水素添加物は、その分子量分布(Mw/Mn)が、好ましくは1.5〜7.0、より好ましくは2.0〜6.5、さらに好ましくは2.5〜6.0、特に好ましくは2.5〜5.5である。Mw/Mnが狭すぎると、該開環重合体水素添加物の温度に対する溶融粘度が敏感に変化し易くなるため、得られるフィルム、シート等の成形品の加工性が悪化するおそれがある。また、Mw/Mnが広すぎると、得られる成形品の機械的特性が低下するおそれがある。
【0074】
Mnは1,2,4−トリクロロベンゼンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算として測定した数平均分子量である。
【0075】
開環重合体水素添加物の融点は、110〜145℃、好ましくは120〜145℃、より好ましくは、130℃〜145℃である。該開環重合体水素添加物の融点が上記の範囲にあると、該開環重合体水素添加物を用いて得られるフィルムの耐熱性が優れるため好ましい。
開環重合体水素添加物の融点は、開環重合体水素添加物の分子量、分子量分布、異性化率、組成比を変更することにより調整することができる。
【0076】
開環重合体水素添加物の異性化率は、通常0〜40%、好ましくは0〜20%、より好ましくは1〜10%、特に好ましくは3〜9%である。
【0077】
異性化率は、溶媒に重クロロホルムを用い、13C−NMRにより測定した33.0ppmピーク積分値/(31.8ppmピーク積分値+33.0ppmピーク積分値)×100から算出することができる。
ちなみに、31.8ppmピークは、該重合体中の2−ノルボルネンの繰り返し単位のシス体由来のもの、33.0ppmピークは、該重合体中の2−ノルボルネンの繰り返し単位のトランス体由来のものである。
【0078】
本発明では、開環重合により、実質的にシス体である開環重合体を合成し、これを水素化して開環重合体水素添加物とすることが好ましい。水素化反応の際に、通常、トランス体への異性化が生じるが、この異性化を抑制して、トランス体の含有量を低く抑えることが好ましい。
【0079】
開環重合体水素添加物の異性化率が高すぎると、耐熱性が低下するおそれがある。
一方、異性化率が低すぎると、開環重合体水素添加物の溶剤に対する溶解性が低下し、析出するおそれがある。
【0080】
異性化率を上記範囲にするためには、開環重合体の水素化反応において、反応温度を好ましくは120〜170℃、より好ましくは130〜160℃とし、かつ、使用する水素化触媒の使用量を、開環重合体100重量部に対し、好ましくは0.2〜5重量部、より好ましくは0.2〜1重量部とする。水素化反応の反応温度及び水素化触媒の使用量がこのような範囲にあると、水素化反応速度と得られる開環重合体水素添加物の耐熱性のバランスに優れ、好適である。
【0081】
開環重合体水素添加物は、異物が少ないことが好ましい。成形品中の金属残渣や異物等は、電子部品への適用において電気特性の低下を招くおそれがある。重合反応後又は水素化反応後に、孔径が0.2μm以下のフィルターにて開環重合体を含む溶液を濾過することによって金属残査や異物等を精密に取り除くことが好ましい。
【0082】
本発明に用いる開環重合体水素添加物は、融点を有する重合体、すなわち結晶構造を形成する重合体であるので、該開環重合体水素添加物を含む樹脂組成物を用いて得られる成形品は内部に結晶部を有し(結晶化)、これと非晶部とが相俟って成形品の引張り破断伸び等の機械的特性が向上する。
【0083】
(架橋性ノルボルネン樹脂組成物)
本発明の架橋性ノルボルネン樹脂組成物は、前述のノルボルネン開環重合体水素添加物と、ノルボルネン開環重合体水素添加物100重量部に対して0.01〜20重量部の有機過酸化物とを含む。
【0084】
有機過酸化物の添加量は、ノルボルネン開環重合体水素添加添加物100重量部に対して好ましくは0.05重量部以上15重量部以下、好ましくは0.1重量部以上10重量部以下である。
有機過酸化物の添加量がこれ以下であると架橋が起こり難くなる。
一方、有機過酸化物の添加量がこれ以上であると得られる成形品の電気特性、耐水性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0085】
(有機過酸化物)
本発明に用いる有機過酸化物は、ノルボルネン開環重合体水素添加添加物に架橋反応を生じせしめ共有結合を形成する機能を有する物質である。本発明において用いることができる有機過酸化物は特に限定されず、特開昭62−34924号公報等で公知のものでよく、例えば、t−ブチルヒドロパーオキシド、p−メンタンヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド等のヒドロパーオキシド類; ジクミンパーオキシド、t−ブチルクミンパーオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン等のジアルキルパーオキシド類; ジプロピオニルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類; 2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ジ(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等のパーオキシケタール類; t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類; t−ブチルパーオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルパーオキシ)ジカルボナート等のパーオキシカルボナート等のケトンパーオキシド類; 等が挙げられる。
【0086】
(架橋助剤)
本発明の架橋性ノルボルネン樹脂組成物は架橋助剤を含むことが好ましい。
本発明に用いることのできる架橋助剤は、特に限定されず、特開昭62−34924号公報等で公知のものでよく、キノンジオキシム、ベンゾキノンジオキシム、p−ニトロソフェノール等のオキシム・ニトロソ架橋助剤; N,N−m−フェニレンビスマレイミド等のマレイミド架橋助剤; ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル架橋助剤; エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のメタクリレート架橋助剤; ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン等のビニル架橋助剤; 等が例示される。中でも、アリル架橋助剤、メタクリレート架橋助剤が、均一に分散させやすく、好ましい。
【0087】
また、架橋助剤の添加量は、有機過酸化物1重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部である。架橋助剤の添加量がこれ以下であると架橋が起こりにくく、架橋助剤の添加量がこれ以上であると架橋した樹脂の耐湿性、水蒸気バリア性等が低下する傾向がある。
【0088】
(その他の成分)
また、本発明の架橋性ノルボルネン樹脂組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤等の安定剤;核剤、発泡剤、難燃剤、熱可塑性エラストマー、滑剤等の樹脂改質剤;染料、帯電防止剤、無機微粒子、ワックス等の樹脂工業分野で通常使用される配合剤を含有させることができる。
【0089】
架橋性ノルボルネン樹脂組成物に配合剤を混合する方法に特別な制限はないが、架橋性ノルボルネン樹脂組成物及び配合剤を、単軸押出機、2軸押出機、ロール、バンバリーミキサー等の混練機によって溶融混合する方法が、生産性の観点から好適である。
【0090】
配合剤と混合する際の架橋性ノルボルネン樹脂組成物は、架橋性ノルボルネン樹脂組成物を含む反応液から単離したものであっても、前記反応液から不溶物を濾過した溶液のものであっても、濾過前の反応溶液のものであってもよい。また、配合剤は、それぞれ適当な溶媒に溶解したものであってもよい。開環重合体水素添加物の溶液及び配合剤の溶液は、それぞれ必要に応じて加熱して用いてもよい。
【0091】
(成形品)
本発明の架橋性ノルボルネン樹脂組成物を含む成形材料を、周知の方法を用いて加熱して架橋させることにより、フィルム、シート等の各種成形品に加工することができる。
成形材料は、本発明の架橋性ノルボルネン樹脂組成物に加えて、ゴム質重合体や本発明の架橋性ノルボルネン樹脂以外の公知の樹脂を含むものであっても良い。
【0092】
ゴム質重合体は、ガラス転移温度が40℃以下の重合体である。ゴム質重合体にはゴムや熱可塑性エラストマーが含まれる。ブロック共重合体のごとくガラス転移温度が2点以上ある場合は、最も低いガラス転移温度が40℃以下であればゴム質重合体として用いることができる。ゴム質重合体のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常5〜300である。
【0093】
本発明の架橋性ノルボルネン樹脂以外の公知の樹脂としては、例えば、非晶性ノルボルネン系開環重合体、非晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物、非晶性ノルボルネン系付加型重合体、結晶性ノルボルネン系開環重合体、本発明の開環重合体水素化物以外の結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物、結晶性ノルボルネン系付型加重合体、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、水素化ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等が挙げられる。
【0094】
本発明の架橋性ノルボルネン樹脂組成物を含む成形材料を用いて得られる成形品は、本発明の架橋性ノルボルネン樹脂組成物を、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上含有する。
【0095】
架橋は成形材料の流動性が無くなった状態で行っても、流動性を有する状態で行っても良い。
加熱温度は、主として有機過酸化物と架橋助剤の組み合わせにより適宜設定できるが、一般には、80〜350℃、好ましくは120℃〜320℃、さらに好ましくは150〜300℃である。
【0096】
また、架橋時間は、有機過酸化物の半減期の4倍程度にするのが好ましく、一般には、1〜120分、好ましくは3〜90分、さらに好ましくは5〜60分である。
【0097】
成形材料の流動性が無くなった状態で架橋する場合、流動途中での架橋により成形性の悪化が起こらないように、溶媒に溶解して成形して架橋するか、架橋しない温度、又は架橋速度が十分に遅い温度で溶融して成形し架橋する。溶媒としては、前述の架橋性ノルボルネン樹脂組成物を溶解する溶媒として例示したものと同様の溶媒を用いることができる。
【0098】
具体的には、溶媒に溶解した架橋性ノルボルネン樹脂組成物を流延して溶媒を除去してシートやフィルムに成形するか、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ナイロンクロス等のクロス状基材、これらと同じ材質のマット状基材、不織布、クラフト紙、リンター紙等の基材に含浸させて成形する。基材に樹脂組成物を含浸させた成形品の具体例としては、プリプレグが挙げられる。
【0099】
成形材料が流動性を有する状態で架橋を行う成形方法としては、加熱溶融成形法、単軸押出機、2軸押出機などを用いて溶融混合させると共に架橋させて押出成形を行う方法、カレンダー成形法、圧縮成形法、インフレーション成形法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などを用いてもよい。
【0100】
また、成形後、成形品の結晶性を高めるために、成形品をアニール処理しても良い。
【0101】
(フィルム)
本発明のフィルムを製造する方法は、特に限定されない。加熱溶融成形法、溶液流延法のいずれも用いることができる。
【0102】
加熱溶融成形法では、成形材料をペレットと呼ばれる米粒程度の大きさに加工し、ペレットを、重合体の融点(Tm)以上で、熱分解温度未満の温度に加熱して流動状態にしてフィルムに成形する。
加熱溶融成形法には、押出成形法、カレンダー成形法、圧縮成形法、インフレーション成形法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法等がある。
【0103】
加熱溶融成形法における加熱、溶融樹脂の吐出条件としては、成形機、用いる架橋性ノルボルネン樹脂組成物の特性等により適宜選択すればよく、温度は、通常Tm〜(Tm+100℃)、好ましくは(Tm+20℃)〜(Tm+50℃)である。
本発明の架橋性ノルボルネン樹脂組成物に含まれる開環重合体水素添加物は、融点が高いことから耐熱性に優れる特徴に加え、200〜400℃の間で著しく低粘度になって流動性を発現する特徴を有している。
この理由は明確ではないが、本発明の架橋性ノルボルネン樹脂組成物が結晶性を有するため、加熱によって液晶状態になり、その結果、急激に粘度が下がるものと考えられる。
そのため本発明の架橋性ノルボルネン樹脂組成物は溶融温度の高い樹脂であるにも拘らず、流動性が高いので短時間でフィルムに成形することができる。
【0104】
溶融樹脂の吐出圧力は、通常0.5〜100MPa、好ましくは1〜50MPaである。加圧時間は、通常数秒から数十分程度である。
【0105】
溶液流延法は、成形材料を濃度5〜50重量%程度になるように溶媒に溶解して、溶解物を平面上又はロール上にキャスティングして、溶媒を加熱により除去してフィルム及びシートを成形する方法である。
乾燥により溶媒を除去する場合は、急速な乾燥により発泡することのない方法を選択することが好ましく、例えば、低温である程度溶媒を揮発させた後、温度を上げて溶媒を十分に揮発させるようにすればよい。
【0106】
用いる溶媒としては、2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン単量体との開環重合反応及び開環重合体の水素化反応の溶媒として例示したものと同様の、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン系芳香族炭化水素、含窒素炭化水素、エーテル類等が挙げられる。
【0107】
溶液流延法においては、溶媒を揮散する温度が成形温度となり、その温度は使用する溶媒の種類によって適宜設定される。
【0108】
フィルムの結晶性を高めるために延伸処理処理を施しても良い。延伸処理はフィルムの機械的強度や水蒸気バリア性を向上させる効果がある。
延伸とは、成形されたフィルムを、続いて1.1〜10倍程度伸張して塑性変形を与えることである。この塑性変形は、内部の摩擦で、結晶鎖は勿論、非晶鎖も引き伸ばして配向させる効果を有する。
【0109】
本発明のフィルムの厚みは特に限定されないが、通常1μmから20mm、好ましくは5μmから5mm、より好ましくは10μmから2mmである。フィルムとシートの区別に格別な規定はなく、厚みによって区別することもあるが、用途や業種における慣習により呼称が変わるのが実状である。
【0110】
本発明のフィルムは、架橋性ノルボルネン樹脂組成物を含有する層と、その他の重合体を含有する層とを有する積層体であってもよい。
【0111】
その他の重合体としては、ゴム質重合体又は本発明の架橋性ノルボルネン樹脂以外の公知の樹脂が挙げられ、それらの具体例は、いずれも本発明の架橋性ノルボルネン樹脂組成物に配合して使用できるものとして前記したものと同様である。
【0112】
積層する層の数は、通常2層又は3層であるが、更に多層の積層体とすることもできる。3層以上の多層における重合体種による層の配置順序は、目的や用途により適宜設定することができる。
【0113】
また、同種の重合体の層を他の重合体の層を隔てて配置してもよく、例えば、本発明の開環重合体水素添加物を含有する2つの層の間にポリスチレンを含む層を挟む3層の積層体や、さらにその一方の外側に水素化スチレン−イソプレンブロック共重合体を含む層が積層された4層の積層体等が可能である。
【0114】
積層方法としては、層と層の間に接着剤を塗布して貼り合わせる方法、単層もしくは複数層のフィルムを熱もしくは高周波により融点以上に加熱して融着する方法、開環重合体水素添加物又はその他の重合体のフィルムの表面に、その他の重合体又は開環重合体水素添加物を溶解させた有機溶媒を塗布して乾燥させる方法等がある。
【0115】
また、押出機で開環重合体水素添加物とその他の重合体とを共押出して積層体を製造することもできる。
【0116】
本発明の樹脂フィルム等は、水蒸気バリア性、耐熱性、透明性、耐油性に優れ、かつ、引張り破断伸び等機の械的的特性に優れる。
【0117】
本発明の樹脂フィルム等の、ISO 527に基づいて測定される引張り破断伸びは、通常33%以上、好ましくは36%以上、より好ましくは40%以上である。
【0118】
本発明の樹脂フィルム等は水蒸気バリアー性に優れる。本発明のフィルムは、JIS K 7129(A法)に基づいて測定される透湿度〔g/(m・24h)〕は、厚さ100μmおいて、通常0.50〔g/(m・24h)〕以下、好ましくは0.40〔g/(m・24h)〕以下である。
【0119】
本発明の樹脂フィルム等は耐油性に優れる。本発明の架橋性ノルボルネン樹脂組成物を熱プレス成形して10mm×100mm×1mm試験片とし、該試験片の表面にサラダ油を塗布後、長径200mm、短径80mmの楕円形面を有する高さ10mmの楕円柱を同形に4分割した大きさのアルミ製治具の曲面に該試験片を1時間固定した場合であっても、試験片にはクラックが発生することがない。
【0120】
これらの特徴を有する本発明の樹脂フィルム等は、食品分野、医療分野、ディスプレイ分野、エネルギー分野、光学分野、電気電子分野、通信分野、自動車分野、民生分野、土木建築分野等の多岐の用途で利用することができる。
【0121】
なかでも、食品分野、医療分野、エネルギー分野、ディスプレイ分野等の用途に適している。
【0122】
食品分野としては、ハム、ソーセージ、レトルト食品、冷凍食品等の加工食品、乾燥食品、特定保険食品、米飯、菓子、食肉、ラップフィルム、シュリンクフィルム等の食品包装袋、ブリスター・パッケージ用フィルム等として使用できる。
【0123】
医療分野では、薬栓、輸液用バッグ、点滴用バッグ、プレス・スルー・パッケージ(PTP)用フィルム、ブリスター・パッケージ用フィルム等で使用できる。
【0124】
エネルギー分野では太陽光発電システム周辺部材、燃料電池周辺部材、アルコール含有燃料系統部材及びそれらの包装フィルム等として使用できる。
【0125】
ディスプレイ分野では、バリアーフィルム、位相差フィルム、偏光フィルム、光拡散シート、集光シート等として使用できる。
【実施例】
【0126】
以下、本発明について、実施例及び比較例を挙げて、より具体的に説明する。ただし本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、部又は%は、特に断りがない限り、重量基準である。
【0127】
以下の実施例及び比較例において、各種物性の測定法は次のとおりである。
(1)開環共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)
トルエンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として測定した。
【0128】
測定装置として、GPC−8020シリーズ(DP8020、SD8022、AS8020、CO8020、RI8020、東ソー社製)を用いた。
標準ポリスチレンとしては、標準ポリスチレン(Mwが500、2630、10200、37900、96400、427000、1090000、5480000のものの計8点、東ソー社製)を用いた。
【0129】
サンプルは、試料濃度1mg/mlになるように、測定試料をトルエンに溶解後、カートリッジフィルター(ポリテトラフルオロエチレン製、孔径0.5μm)で濾過して調製した。
【0130】
測定は、カラムに、TSKgel GMHHR−H(東ソー社製)を2本直列に繋いで用い、流速1.0ml/min、サンプル注入量100μml、カラム温度40℃の条件で行った。
【0131】
(2)開環共重合体水素添加物の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)
1,2,4−トリクロロベンゼンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として測定した。
【0132】
測定装置として、HLC−8121GPC/HT(東ソー社製)を用いた。
標準ポリスチレンとしては、標準ポリスチレン(Mwが988、2580、5910、9010、18000、37700、95900、186000、351000、889000、1050000、2770000、5110000、7790000、20000000である計16点、東ソー社製)を用いた。
【0133】
サンプルは、サンプル濃度1mg/mlになるように、140℃にて測定試料を1,2,4−トリクロロベンゼンに加熱溶解させて調製した。
【0134】
測定は、カラムに、TSKgel GMHHR−H(20)HT(東ソー社製)を3本直列に繋いで用い、流速1.0ml/min、サンプル注入量300μml、カラム温度140℃の条件で行った。
【0135】
(3)開環共重合体水素添加物の水素化率
溶媒に重クロロホルムを用い、1H−NMRにより測定した。
【0136】
(4)異性化率
溶媒に重クロロホルムを用い、13C−NMRにより測定した33.0ppmピーク及び31.8ppmピークから、33.0ppmピーク積分値/(31.8ppmピーク積分値+33.0ppmピーク積分値)×100として算出した。
ちなみに、31.8ppmピークは、該重合体中の2−ノルボルネンの繰り返し単位のシス体由来のもの、33.0ppmピークは、該重合体中の2−ノルボルネンの繰り返し単位のトランス体由来のものである。
【0137】
(5)融点
示差走査熱量分析計(DSC6220、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて、JIS K 7121に基づき、試料を融点より30℃以上高い温度まで一旦加熱した後、その後、冷却速度−10℃/minで室温まで冷却し、その後、昇温速度10℃/minで測定した。
【0138】
(6)ガラス転移温度
示差走査熱量分析計(DSC6220、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて、JIS K 6911に基づいて測定した。
【0139】
(7)耐溶剤性
40℃に保持したトルエンの溶液に成形体を浸漬し、24時間後の成形体の膨潤や溶解の状態を目視で観察した。
【0140】
[製造例1]
(開環重合体水素添加物Aの調製)
(開環重合)
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500部に、1−ヘキセン0.55部、ジイソプロピルエーテル0.30部、トリイソブチルアルミニウム0.20部、及びイソブチルアルコール0.075部を室温で反応器に入れ混合した。そこへ、2−ノルボルネン(以下、「2−NB」ということがある。)250部及び六塩化タングステン1.0%トルエン溶液15部を、55℃に保ちながら、2時間かけて連続的に添加し、重合を行った。
得られた開環重合体a1の重量平均分子量(Mw)は、83,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.8であった。重合転化率は、ほぼ100%であった。
(水素化反応)
上記で得た重合反応液を耐圧の水素化反応器に移送し、そこへ、珪藻土担持ニッケル触媒(T8400、ニッケル担持率58%、ズードケミー社製)0.5部を加え、160℃、水素圧4.5MPaで6時間反応させた。この溶液を、ラジオライト#500(昭和化学社製)を濾過床として、加圧濾過器(フンダフィルター、石川島播磨重工社製)を使用し、圧力0.25MPaで加圧濾過して、開環重合体水素添加物a2の無色透明な溶液を得た。
得られた開環重合体水素添加物a2の水素化率は99.9%、重量平均分子量(Mw)は、82,200、分子量分布(Mw/Mn)は2.9、異性化率は5%、融点は140℃であった。
開環重合体水素添加物a2の評価結果を表1に示す。
(樹脂組成物の調製)
得られた溶液に、開環重合体水素添加物a2100部当り、酸化防止剤(テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン;イルガノックス1010;チバガイギー社製)0.1部、及び結晶核剤(日本タルク社製;MS、食添タルク;長径15μm)0.5部を加え、溶解させた。
(乾燥)
この溶液を金属ファイバー製フィルター(孔径0.5μm、ニチダイ社製)にて濾過した後、濾液を「ゼータプラスフィルター30S」(孔径0.5〜1μm、キュノ社製)で濾過し、さらに、金属ファイバー製フィルター(孔径0.2μm、ニチダイ社製)で濾過して異物を除去した。得られたろ液を予備加熱装置で200℃に加熱し、圧力3MPaで薄膜乾燥機(日立製作所社製)に連続的に供給した。薄膜乾燥機の運転条件は、圧力13.4kPa、内部の濃縮された溶液の温度を240℃とした(第一段階乾燥)。
次に、濃縮された溶液を、さらに同型の薄膜乾燥機に温度240℃を保ったまま、圧力1.5MPaで供給し、乾燥して開環重合体水素添加物Aを得た。運転条件は、圧力0.7kPa、温度240℃とした(第二段階乾燥)。
【0141】
[製造例2]
(開環重合体水素添加物Bの調製)
製造例1において、2−NB 240部、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンとトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(以下、「DCP」ということがある。)10部とし、1−ヘキセンの量を0.55部、ジイソプロピルエーテルの量を0.40部、トリイソブチルアルミニウムの量を0.27部、イソブチルアルコールの量を0.10部、六塩化タングステン1.0%トルエン溶液の量を20部に変更した以外は製造例1と同様にして、重合を行った。
得られた開環重合体b1の重量平均分子量は、83,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.7であった。重合転化率は、ほぼ100%であった。
その後、製造例1と同様にして、水素添加反応を行い、開環重合体水素添加物b2190部を得た。
(重合体物性)
得られた開環重合体水素添加物b2の水素添加率は99.9%、重量平均分子量は81,300、分子量分布(Mw/Mn)は3.8、異性化率は9%、融点は134℃であった。
開環重合体水素添加物b2の評価結果を表1に示す。
次いで、実施例1と同様にして酸化防止剤及び結晶核剤を加え、その後実施例1と同様に乾燥処理を行い、開環重合体水素添加物Bを得た。
【0142】
[製造例3]
(開環重合体水素添加物Cの調製)
窒素雰囲気下、攪拌機付きオートクレーブに、70%の2−NB/トルエン溶液33.4部、DCP 2.86部と1−ヘキセン0.020部、シクロヘンサン49.3部を加えて攪拌した。続いてビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド0.023部を8.6部のトルエンに溶解した溶液を加えて、60℃にて30分間反応させた。重合転化率は、ほぼ100%であった。得られた開環重合体c1の重量平均分子量は、81,000、分子量分布(Mw/Mn)は3.6であった。
(水素添加反応)
上記で得た重合溶液にエチルビニルエーテル0.020部を加えて攪拌した後、水素圧力1.0MPa、150℃で20時間水素化反応を行なった。その後、室温まで冷却させ、活性炭粉末0.5部をシクロヘキサン10部に懸濁させた溶液を添加し、水素圧力1.0MPa、150℃で2時間反応させた。次いで反応液を孔径0.2μmのフィルターで濾過し、活性炭粉末を除去した。反応溶液を大量のイソプロパノールに注いで開環重合体水素添加物を完全に析出させ、濾別して回収し、開環重合体水素添加物c2を得た。
(重合体物性)
得られた開環重合体水素添加物c2の水素添加率は99.9%、重量平均分子量は85,000、分子量分布(Mw/Mn)は3.9、融点は101℃であった。
開環重合体水素添加物c2の評価結果を表1に示す。
次いで、実施例1と同様にして酸化防止剤及び結晶核剤を加え、その後実施例1と同様に乾燥処理を行い、開環重合体水素添加物Cを得た。
【0143】
[製造例4]
(開環重合体水素添加物Dの調製)
製造例1において、2−NB250部に代えて9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン(以下、「ETD」という。)25.0部を用い、1−ヘキセン0.55部、シクロヘキサン500部を、それぞれ、1−ヘキセン0.17部、シクロヘキサン65.0部に変更した以外は、製造例1と同様にして、重合を行った。得られた開環重合体d1の重量平均分子量は14,600、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。重合転化率は、ほぼ100%であった。その後、製造例1と同様にして、水素添加反応を行い、開環重合体水素添加物d2を得た。
(重合体物性)
得られた開環重合体水素添加物d2の水添率は99.9%、重量平均分子量は23,100、分子量分布(Mw/Mn)は1.9、異性化率は0%、ガラス転移温度は134℃であり、融点は観察されなかった。
開環重合体水素添加物d2の評価結果を表1に示す。
次いで、実施例1と同様にして酸化防止剤を加え、その後実施例1と同様に乾燥処理を行い、開環重合体水素添加物Dを得た。
【0144】
[製造例5]
(開環重合体水素添加物Eの調製)
窒素雰囲気下、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−ドデカ−3−エン(以下、ETDということがある)15部、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン85部を脱水したシクロヘキサン250部に溶解し、分子量調節剤として1−ヘキセン1.2部を添加して、公知のメタセシス開環重合触媒で重合を行った。得られた開環重合体e1の重量平均分子量(Mw)は31,000、Mw/Mnは2.0であった。重合水添率は、ほぼ100%であった。その後、製造例1と同様にして水素添加反応を行い、開環重合体水素添加物e2を得た。重合体中の各ノルボルネン類の共重合比率を、重合後の溶液中の残留ノルボルネン類組成(ガスクロマトグラフィー法による)から計算したところ、ETD/DCP=15/85でほぼ仕込組成に等しかった。
(重合体物性)
得られた開環重合体水素添加物e2の水添率は99.9%、重量平均分子量は32,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.1、異性化率は0%、ガラス転移温度は103℃であり、融点は観察されなかった。
開環重合体水素添加物e2の評価結果を表1に示す。
次いで、実施例1と同様にして酸化防止剤を加え、その後実施例1と同様に乾燥処理を行い、開環重合体水素添加物Eを得た。
【0145】
【表1】

【0146】
(実施例1)
(フィルムAの作製)
製造例1で得られた開環重合体水素添加物A100部をペレタイザー(OSP−2、長田製作所社製)でカッティングした。
得られたペレットとα,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン(以下、有機過酸化物1と呼ぶことがある)1部と、ジアリルフタレート1部とをトルエン80部中に分散させたところ、沈澱を生じない溶液を得た。
溶液を塗工機を用いて、鏡面に仕上げたSUS板上に厚さ500μmになるように塗布した。60℃で20分間、さらに120℃で10分放置して乾燥させた。その後、形成されたシートをSUS板から剥した。得られたフィルムAの厚さは101μmであった。
フィルムAの吸水率は0.01%以下であり、透湿度は0.32g/m・dayであった。
フィルムAを40℃に保持したトルエンの溶液に24時間浸漬した後取り出し、フィルムAの状態を目視で観察したところ、膨潤や溶解は認められなかった。
フィルムAの評価結果を表2に示す。
【0147】
(実施例2)
(フィルムBの作製)
実施例1において、開環重合体水素添加物Aに代えて製造例2で得られた開環重合体水素添加物Bを用いた以外は、実施例1と同様にしてフィルムBを得た。得られたフィルムBの厚さは102μmであった。
フィルムBの吸水率は0.01%以下であり、透湿度は0.30g/m・dayであった。
フィルムBを40℃に保持したトルエンの溶液に24時間浸漬した後取り出し、フィルムAの状態を目視で観察したところ、膨潤や溶解は認められなかった。
フィルムBの評価結果を表2に示す。
【0148】
[実施例3]
(フィルムCの作製)
実施例1において、開環重合体水素添加物A20部に代えて製造例2で得られた開環重合体水素添加物B14部と製造例5で得られた開環重合体水素添加物E6部を用いた以外は、実施例1と同様にしてフィルムCを得た。フィルムCの厚さは100μmであった。
フィルムCの吸水率は0.01%以下であり、透湿度は0.28g/m・dayであった。
フィルムCを40℃に保持したトルエンの溶液に24時間浸漬した後取り出し、フィルムCの状態を目視で観察したところ、膨潤や溶解は認められなかった。
フィルムCの評価結果を表2に示す。
【0149】
[実施例4]
(フィルムDの作製)
実施例2において、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼンを20部、ジアリルフタレートを0.2部に変更した以外は、実施例1と同様にしてフィルムCを得た。フィルムDの厚さは103μmであった。
フィルムDの吸水率は0.03%以下であり、透湿度は0.39g/m・dayであった。
フィルムDを40℃に保持したトルエンの溶液に24時間浸漬した後取り出し、フィルムDの状態を目視で観察したところ、膨潤や溶解は認められなかった。
フィルムDの評価結果を表2に示す。
【0150】
[実施例5]
(フィルムEの作製)
製造例2で得られた開環重合体水素添加物Bのペレット300部と2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(以下、有機過酸化物2と呼ぶことがある)9部とを、ブレンダーで混練し、次いで、スクリュー径50mmφ、圧縮比2.5、L/D=30のスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するハンガーマニュホールドタイプのTダイ式フィルム溶融押出成形機に供給して以下の成形条件でTダイ成形を行いフィルムEを得た。
成形条件;ダイリップ: 0.8mm
溶融樹脂温度: 220℃
Tダイ幅:300mm
冷却ロール:60℃
キャストロール:60℃
フィルムEの厚さは100μmであった。
フィルムEの吸水率は0.01%以下であり、透湿度は0.31g/m・dayであった。
フィルムEを40℃に保持したトルエンの溶液に24時間浸漬した後取り出し、フィルムEの状態を目視で観察したところ、膨潤や溶解は認められなかった。
フィルムEの評価結果を表2に示す。
【0151】
[比較例1]
(フィルムFの作製)
実施例1において、開環重合体水素添加物Aに代えて製造例3で得られた開環重合体水素添加物Cを用いた以外は、実施例1と同様にしてフィルムFを得た。フィルムFの厚さは101μmであった。
フィルムFの吸水率は0.01%以下であり、透湿度は0.68g/m・dayであった。
フィルムFを40℃に保持したトルエンの溶液に24時間浸漬した後取り出し、フィルムFの状態を目視で観察したところ、溶解は認められなかったが、膨潤が認められた。
フィルムFの評価結果を表2に示す。
【0152】
[比較例2]
(フィルムGの作製)
実施例1において、開環重合体水素添加物Aに代えて製造例4で得られた開環重合体水素添加物Dを用いた以外は、実施例1と同様にしてフィルムGを得た。フィルムGの厚さは102μmであった。
フィルムGの吸水率は0.01%以下であり、透湿度は1.05g/m・dayであった。
フィルムGを40℃に保持したトルエンの溶液に24時間浸漬した後取り出し、フィルムGの状態を目視で観察したところ、溶解は認められなかったが、膨潤が認められた。
フィルムGの評価結果を表2に示す。
【0153】
[比較例3]
(フィルムHの作製)
実施例2において、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼンを30部、ジアリルフタレートを0.3部に変更した以外は実施例2と同様にしてフィルムHを得た。
フィルムHの厚さは100μmであった。
フィルムHの吸水率は0.10%以下であり、透湿度は0.51g/m・dayであった。
フィルムHを40℃に保持したトルエンの溶液に24時間浸漬した後取り出し、フィルムの状態を目視で観察したところ、膨潤や溶解は認められなかった。
フィルムHの評価結果を表2に示す。
【0154】
[比較例4]
(フィルムIの作製)
実施例2において、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼンを0.005部、ジアリルフタレートを0.05部に変更した以外は実施例2と同様にしてフィルムIを得た。
フィルムIの厚さは100μmであった。
フィルムIの吸水率は0.01%以下であり、透湿度は0.29g/m・dayであった。
フィルムIを40℃に保持したトルエンの溶液に24時間浸漬した後取り出し、フィルムの状態を目視で観察したところ、溶解は認められなかったが、膨潤が認められた。
フィルムIの評価結果を表2に示す。
【0155】
【表2】

【0156】
本発明の樹脂組成物を用いて得られたフィルムは、耐湿性、耐溶剤性、水蒸気バリア性に優れる(実施例1〜5)。
それに対し、2−ノルボルネンを含まない重合性単量体より得られるノルボルネン開環重合体水素添加物を含む樹脂組成物を用いて得られるフィルム(比較例1)や、2−ノルボルネンを含む場合であっても、2−ノルボルネンの重合性単量体における存在割合が本願が規定する範囲から外れる樹脂組成物を用いて得られるフィルム(比較例2)は、水蒸気バリア性、耐溶剤性に劣る。
また、ノルボルネン開環重合体水素添加物に対する有機過酸化物が本願が規定する範囲を超えて添加された樹脂組成物を用いて得られるフィルムは、耐湿性、水蒸気バリア性に劣り(比較例3)、有機過酸化物の添加量が本願が規定する下限に満たない樹脂組成物を用いて得られるフィルムは、架橋が起こりにくい為に、耐溶剤性に劣る(比較例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−ノルボルネン(1−1)が90〜100重量%と置換基含有ノルボルネン単量体(1−2)が10〜0重量%とを含有してなる重合性単量体を開環重合し、水素添加して得られる、融点が110〜145℃、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が50,000〜200,000、重量平均分子量/数平均分子量が1.5〜10.0であるノルボルネン開環重合体水素添加物(1)100重量部に対して有機過酸化物(2)0.01〜20重量部を含有する架橋性ノルボルネン樹脂組成物。
【請求項2】
更に、架橋助剤(3)を、有機過酸化物(2)1重量部に対して0.1〜10重量部含有する、請求項1に記載の架橋性ノルボルネン樹脂組成物。
【請求項3】
前記架橋助剤がアリル架橋助剤又はメタクリレート架橋助剤である、請求項1又は請求項2記載の架橋性ノルボルネン樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から4のいずれかに記載の架橋性ノルボルネン樹脂組成物を成形して得られる樹脂フィルム。

【公開番号】特開2009−209276(P2009−209276A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54267(P2008−54267)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】