説明

架橋性水性樹脂組成物

【課題】成膜助剤が低減でき、外観、硬度、光沢、耐屈曲性耐溶剤性などの塗膜諸物性に優れた塗膜を形成し得る架橋性水性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】水酸基価10〜200mgKOH/g、酸価8〜50mgKOH/gの樹脂部(A1)を含有する水性樹脂分散体(A)、及びイソシアネート化合物(B)を含んでなる架橋性水性樹脂組成物であって、該樹脂部(A1)が、2段階以上の工程で乳化重合して得られるコア部(A1α)及びシェル部(A1β)を有するコアシェル構造を有し、該シェル部(A1β)が、ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a)から導かれる構成単位12〜50質量%、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)から導かれる構成単位5〜20質量%、及びその他の重合可能な重合性単量体(c)から導かれる構成単位30〜83質量%からなる重合体を含有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜助剤の使用量を低減でき、外観、硬度、光沢、耐屈曲性、耐溶剤性等の塗膜諸物性において優れた性能を有する塗膜を形成し得る架橋性水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の観点等から各種水性塗料の研究が盛んに行われているが、有機溶剤系塗料と比べ塗膜の外観や光沢、硬度等の点でまだ十分な物性が得られていない。
【0003】
これらの物性を向上させる目的で、水系塗料中に官能基を導入し、架橋塗膜を形成させることが一般的に行われている。これらの中で、水酸基を導入した水系樹脂とイソシアネート化合物からなる架橋性の水系樹脂組成物から生成するウレタン架橋塗膜は、硬度、耐溶剤性、耐候性に優れた物性を発現するため、注目されている。
【0004】
架橋性水性組成物の分野においては、親水性有機溶剤中で重合させた樹脂を中和し水性化させることによって得られる水性樹脂を主体とした、いわゆるコロイダル・ディスパージョンと、乳化剤と水との存在下で重合を行なう、いわゆる乳化重合体とが、主に検討されて来た。
【0005】
前者のコロイダル・ディスパージョンは、乳化重合体と比較して分子量が一般に小さいため、成膜した塗膜については光沢や外観は良い反面、初期耐水性や耐久性が悪いという課題がある。また、後者の乳化重合体は、樹脂そのものの分子量が高いものを用いることができるため、良好に成膜した塗膜については優れた塗膜物性が期待できる反面、樹脂が水中に分散した不均一体であることに起因して、イソシアネート化合物と混合した時に微小な凝集物が発生しやすく、塗膜表面に微小なブツとして残るため、塗膜外観はコロイダル・ディスパージョンに比べ劣るという課題があった。
【0006】
この問題に対し、特許文献1では、数平均分子量の大きなコア成分と数平均分子量の小さなシェル成分からなる乳化重合体を使用した架橋性水系被覆組成物を提案している。また、特許文献2では、高Tgのコア成分と低Tgのシェル成分からなる乳化重合体を使用した水性樹脂組成物を提案している。しかし、これらの方法を用いてもなお、塗膜外観の改良効果の更なる向上が求められており、高外観の塗膜が要求される自動車内外装部品や家電製品に用いられるプラスチック基材や自動車補修用のクリアトップコート塗料等の用途では、特にその要求が高まっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−16193号公報
【特許文献2】特開2009−270035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、成膜性や硬度、光沢、耐屈曲性、耐溶剤性等の塗膜諸物性に優れ、かつ自動車内外装部品や家電製品に用いられるプラスチック基材や自動車補修用のクリアトップコート塗料等にも好適に使用可能な高外観の塗膜を形成し得る架橋性水性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記のような問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の第1は、
水酸基価10〜200mgKOH/g、酸価8〜50mgKOH/gの樹脂部(A1)を含有する水性樹脂分散体(A)、及び2以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)を含んでなる架橋性水性樹脂組成物であって、該樹脂部(A1)が、2段階以上の工程で乳化重合して得られるコア部(A1α)及びシェル部(A1β)を有するコアシェル構造を有し、該シェル部(A1β)が、ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a)から導かれる構成単位12〜50質量%、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)から導かれる構成単位5〜20質量%、及びその他の重合可能な重合性単量(c)から導かれる構成単位体30〜83質量%からなる重合体を含有することを特徴とする上記架橋性水性樹脂組成物である。
【0011】
本発明の第2は、前記シェル部(A1β)が上記単量体(a)、(b)、及び(c)の合計100質量部に対して分子量調整剤(d)(連鎖移動剤が好ましい)を0.1〜5質量部使用して得られたことを特徴とする前記第1の発明の架橋性水性樹脂組成物である。
【0012】
本発明の第3は、前記水性樹脂分散体(A)の樹脂部(A1)が、さらに、下記式(1)で表されるSi含有化合物(e)又はこれから得られる重合体を含んでいることを特徴とする前記第1、又は第2の発明の架橋性水性樹脂組成物である。
【0013】
(R1)n −Si−(R2)4-n (1)
(式中nは0から3の整数であり、R1は水素、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、及び炭素数5〜6のシクロアルキル基からなる群より選ばれる。n個のR1は同一であっても、異なってもよい。R2は炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、及び水酸基からなる群より選ばれる。4−n個のR2は同一であっても、異なってもよい。)
【発明の効果】
【0014】
本発明の架橋性水性樹脂組成物を使用すれば、VOC(揮発性有機化合物)の低減が可能であり、プラスチック、金属、木材、紙、無機建材等の各種基材に対する密着性に優れ、硬度、光沢、耐屈曲性、耐溶剤性等の塗膜諸物性に優れた塗膜を形成することができる。さらに、自動車内外装部品や家電製品に用いられるプラスチック基材や自動車補修用のクリアトップコート塗料に好適に使用が可能な高外観の塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明の架橋性水性樹脂組成物は、
水酸基価10〜200mgKOH/g、酸価8〜50mgKOH/gの樹脂部(A1)を含有する水性樹脂分散体(A)、及び2以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)を含んでなる架橋性水性樹脂組成物であって、該樹脂部(A1)が、2段階以上の工程で乳化重合して得られるコア部(A1α)及びシェル部(A1β)を有するコアシェル構造を有し、該シェル部(A1β)が、ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a)から導かれる構成単位12〜50質量%、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)から導かれる構成単位5〜20質量%、及びその他の重合可能な重合性単量(c)から導かれる構成単位体30〜83質量%からなる重合体を含有することを特徴とする上記架橋性水性樹脂組成物であることを特徴とする。
(A)水性樹脂分散体
本発明において使用される水性樹脂分散体(A)は、分散質(固形分)である樹脂部(A1)と、分散媒である水性媒体(A2)とを含有する。
(A1)樹脂部
本発明に用いる水性樹脂分散体(A)を構成する樹脂部(A1)の水酸基価は、10〜200mgKOH/g、好ましくは30〜150mgKOH/gである。水性樹脂分散体の水酸基価が10mgKOH/g以上なので塗膜の架橋が充分であり、200mgKOH/g以下なので重合安定性の低下が抑制でき、さらに水性樹脂分散体の粘度が高くなり過ぎず塗装作業性が良好である。また、本発明の水性樹脂分散体(A)を構成する樹脂部(A1)の酸価は、8〜50mgKOH/g、好ましくは10〜40mgKOH/gである。酸価が8mgKOH/g以上なので目的とする塗膜外観が容易に得られ、50mgKOH/g以下なので、水性樹脂分散体の粘度が高くなり過ぎず塗装作業性が良好である。
【0017】
また、本発明の水性樹脂分散体(A)を構成する樹脂部(A1)は、そのシェル成分(A1β)がヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a)から導かれる構成単位12〜50質量%、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)から導かれる構成単位5〜20質量%、その他重合可能な重合性単量体(c)から導かれる構成単位30〜83質量%からなる重合体を含有する。ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a)から導かれる構成単位が12質量%以上なので塗膜の架橋が充分であり、50質量%以下なので水性樹脂分散体の粘度が高くなり過ぎず塗装作業性が良好である。また、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)から導かれる構成単位が5質量%以上なので、目的とする塗膜外観が容易に得られ、20質量%以下なので水性樹脂分散体の粘度が高くなり過ぎず塗装作業性が良好である。
【0018】
ここで、上記水酸基価は、樹脂部(A1)1g中の水酸基を無水酢酸でアセチル化して、アセチル化に伴って生成した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表わされる。また、酸価は、樹脂1g中の遊離酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数で表わされる。これらの水酸基価、及び酸価は、水性樹脂分散体(A)を合成する際に使用するヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a)等の水酸基含有単量体、及びカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)等の酸基含有単量体の使用量から計算で求めることも可能である。
【0019】
また、本発明で用いる水性樹脂分散体(A)は、シェル部(A1β)が連鎖移動剤(分子量調整剤(d)に該当する。)を上記単量体(a)、(b)、及び(c)の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部使用して得られたものであることが望ましい。連鎖移動剤が0.1質量部以上であれば、目的とする塗膜外観が容易に得られ、5質量部以下であれば塗膜の硬度低下が抑制される。また、コア部(A1α)についても、塗膜物性を低下させない程度に連鎖移動剤を使用しても構わない。使用できる連鎖移動剤は、特に限定されるものではないが、具体的にはドデシルメルカプタン、ブチルメルカプタン等が挙げられる。
【0020】
本発明において、水性樹脂分散体(A)の樹脂部(A1)が、通常、数平均分子量100000以上のコア部(A1α)と通常、数平均分子量3000〜100000、好ましくは5000〜80000のシェル部(A1β)からなるコアシェル構造を有し、コア成分/シェル成分(質量比)=30/70〜80/20、好ましくは40/60〜70/30である場合、後述するイソシアネート化合物(B)とからなる架橋性水性樹脂組成物から、成膜助剤を使用しなくても、塗膜外観、硬度、光沢、耐屈曲性、耐溶剤性等に優れた塗膜が形成できるため、非常に好ましい。上記の水性樹脂分散体(A)の樹脂部(A1)がコア、シェル構造であることを確認する方法としてSPM(走査プローブ顕微鏡)を用いることができる。
【0021】
さらに、本発明の架橋性水性樹脂組成物は、自動車内外装部品や家電製品に用いられるプラスチック基材や自動車補修用のクリアトップコート等の塗膜硬度が要求される用途を主な目的としているため、本発明の水性樹脂分散体(A)の樹脂部(A1)のガラス転移温度(Tg)は10〜90℃の範囲が好ましく、30〜80℃の範囲がより好ましい。また、成膜性の観点では、シェル部(A1β)のTgをコア部(A1α)のTgより10℃以上低くすることが好ましく、20℃以上低くすることがさらに好ましい。また、塗膜硬度の観点では、シェル部(A1β)のTgとコア部(A1α)のTgより10℃以上高くすることが好ましく、20℃以上高くすることがより好ましい。なお、本発明において、水性樹脂分散体(A)の樹脂部(A1)、そのコア部(A1α)、及びそのシェル部(A1β)のTg(K:絶対温度)は、次のFOX式を用いて計算されるものをいう。
【0022】
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wi/Tgi+・・・Wn/Tgn
[上記FOX式は、n種の単量体からなる重合体を構成する各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度をTgi(K)とし、各モノマー単位の質量分率をWiとしている(W1+ W2+・・・+Wi+・・・+Wn=1)。]
シェル部(A1β)
本発明で用いる水性樹脂分散体(A)の樹脂部(A1)のシェル部(A1β)には、ヒドロキシル基含有重合性単量体(a)、カルボキシル基含有重合性単量体(b)、及びその他の重合可能な重合性単量体(c)から得られる重合体が使用される。
なお、同様の単量体から得られる重合体(重合比は、シェル部を構成するものと同一であっても、異なっていてもよい。)を、コア部(A1α)に使用することができる。

ヒドロキシル基含有重合性単量体(a)
ヒドロキシル基含有重合性単量体(a)は少なくとも1のヒドロキシル基(カルボキシル基を構成するものを除く。)、及び少なくとも1の重合性不飽和基を有する化合物であればよく、他に限定はないが、その具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等であり、これらからなる郡から選ばれた1又は2以上が使用される。特に好ましくは2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートである。さらにヒドロキシル基含有重合性単量体(a)は、樹脂部(A1)のシェル部(A1β)を構成する重合体を得るために使用する重合性単量体(a)、(b)、及び(c)の合計100質量%に対し、12〜50質量%、好ましくは20〜45質量%使用することが、架橋性と耐水性の観点から重要である。
カルボキシル基含有重合性単量体(b)
カルボキシル基含有重合性単量体(b)は、少なくとも1のカルボキシル基と少なくとも1の重合性不飽和基を有する化合物であればよく、他に限定はないが、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等であり、これらからなる群から選ばれた1又は2以上が使用される。特にアクリル酸とメタクリル酸が好ましい。さらに、カルボキシル基含有重合性単量体(b)は、水性樹脂分散体(A)の樹脂部(A1)のシェル部(A1β)を構成する重合体を得るために使用する重合性単量体(a)、(b)、及び(c)の合計100質量%に対し、5〜20質量%、好ましくは5〜15質量%を使用することが、塗膜外観と下地密着性の観点から重要である。
その他の重合可能な重合性単量体(c)
その他重合可能な重合性単量体(c)としては、少なくとも1の重合性不飽和基を有する化合物(前記(a)、又は(b)に該当するものを除く。)であればよく、特に限定されるものではないが、例えば(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、ビニルトルエン等の芳香族単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類、(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、ブタジエン等が挙げられる。さらに種々の官能性単量体として例えば、アルコキシシラン基含有単量体、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸グリシジル、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、ジビニルベンゼン、メチルビニルケトン等が挙げられる。
【0023】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート等がある。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル等が挙げられる。これらからなる群から選ばれた1又は2以上が使用される。
Si含有化合物(e)、又はこれから導かれる重合体
さらに、本発明の水性樹脂分散体(A)の樹脂部(A−1)は、下記式(1)で表されるSi含有化合物(e)又はこれから導かれる重合体をも含んでいることが望ましい。このうち、Si含有化合物(e)から導かれる重合体を使用することが耐候性等の点から好ましい。Si化合物から導かれる重合体としては、例えば環状シロキサン、線状シロキサン、又はアルコキシシランオリゴマーに該当するものを使用することができる。
【0024】
(R1)n−Si−(R2)4−n (1)
(式中nは0〜3の整数であり、R1は水素、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、及び炭素数5〜6のシクロアルキル基からなる群より選ばれる基。n個のR1は同一であっても、異なってもよい。R2は炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、及び水酸基からなる群より選ばれる基。4−n個のR2は同一であっても、異なってもよい。)
Si含有化合物(e)は、式(1)においてn=0としたシラン(I)及び/又はn=1とおいたシラン(II)の少なくとも1種を含んでいることが好ましく、良好な水分散体の重合安定性を得るためにはn=1のシラン(II)であることがさらに好ましい。シラン(I)のR2はそれぞれ独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、又は水酸基が好ましい。シラン(I)の好ましい具体例として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
シラン(II)のR1としてはメチル基、フェニル基が好ましく、R2はそれぞれ独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、又は水酸基が好ましい。シラン(II)の好ましい具体例としては、メチルトリメトシキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0026】
また、柔軟性を必要とされる場合には、環状シロキサン及び式(1)においてn=2とおいて得られるシラン(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これは、シラン(II)と、環状シロキサン及びシラン(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることより、Si含有化合物(e)が形成するシリコーン重合体の架橋密度を低くし、重合体の構造が複雑になるのを防ぐことができ、これによって、水性樹脂分散体から提供される塗膜に柔軟性を付与することができるためである。シラン(II)と併用した場合に特に好ましい。
環状シロキサンの具体例としては、オクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、などが挙げられる。
【0027】
シラン(III)の具体例として、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシランが挙げられる。
【0028】
さらに、加水分解基を有する線状シロキサン、アルコキシシランオリゴマー及び式(1)においてn=3とおいて得られるシラン(IV)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いてもよい。
【0029】
シラン(IV)の具体例として、トリフェニルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0030】
加水分解基を有する線状シロキサンの例としては、下記の一般式(2)、(3)、(4)で表される化合物が挙げられる。
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
【化3】

【0034】
(式中、R1は水素、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜10のアクリル酸アルキル基、及び炭素数1〜10のメタクリル酸アルキル基からなる群より選ばれ、各R2はそれぞれ、独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、水酸基、エポキシ基、アルキレンオキサイド基、及びポリアルキレンオキサイド基からなる群より選ばれ、mは1〜999の正の整数を表す。)
シラン(III)又はシラン(IV)において、R1としてはメチル基、フェニル基が特に好ましく、R2としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、水酸基が特に好ましい。
【0035】
シラン(II)及び、環状シロキサン、シラン(III)、線状シロキサン、アルコキシシランオリゴマー、シラン(IV)からなる群から選ばれる少なくとも1種に加え、クロロシラン、例えばメチルクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルクロロシラン、を使用することができる。
【0036】
本発明に使用されるSi含有化合物(e)又は上記の各種Si含有化合物によって、本発明の架橋性水性樹脂組成物より得られる塗膜の屋外等に長期曝露における光沢保持性を改善することができる。上記したシラン縮合物の存在は、29SiNMR(29Si核磁気共鳴スペクトル)又はHNMR(プロトン核磁気共鳴スペクトル)によって知ることができる。例えば、シラン(II)の縮合物は、29SiNMRのケミカルシフトが−40〜−80PPMにピークを示すことで同定することができる。
水性樹脂分散体(A)の製造方法
本発明の水性樹脂分散体(A)の製造方法としては、通常の多段乳化重合法が採用できる。その代表例としては、水中にて乳化剤及び重合開始剤等の存在下で、不飽和単量体(a)、(b)、及び(c)を通常60〜90℃の加温下で乳化重合し、この工程を複数段回繰り返し行う方法が挙げられる。前記乳化重合中のpHは、4以下であることが好ましい。前記乳化剤としては、特に限定はなく、例えばアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤、高分子乳化剤等を使用することができる。例えば、脂肪酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸塩、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸塩等のアニオン性乳化剤や、例えばアルキルトリメチルアンモニウムブロマイド、アルキルピリジニウムブロマイド、イミダゾリニウムラウリレート等の四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩型のカチオン性乳化剤や、例えばポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル等のノニオン性乳化剤等が挙げられる。前記乳化剤の使用量は、特に限定はされないが、例えば、重合性単量体成分(a)、(b)、及び(c)の合計使用量100質量%に対して、好ましくは1.0〜5.0質量%がよい。乳化剤の使用量を多くすると重合安定性が向上し、少なくすると耐水性を向上させることができる。
【0037】
本発明の水性樹脂分散体(A)を乳化重合する際の重合方法は、単量体を一括して仕込む単量体一括仕込み法や、単量体を連続的に滴下する単量体滴下法、単量体と水と乳化剤とを予め混合乳化しておき、これらを滴下するプレエマルション法、あるいは、これらを組み合わせる方法等が挙げられる。この時に重合開始剤の使用方法は特に限定されるものではない。また、Si含有化合物(e)の使用方法としては、加水分解性シランの縮合反応と不飽和単量体のラジカル重合を同時に及び/又は加水分解性シランの縮合反応を先行させた後に不飽和単量体のラジカル重合を進行させる乳化重合方法又は不飽和単量体のラジカル重合を進行させた後に加水分解性シランの縮合反応を進行させる方法等が用いられる。
【0038】
本発明の水性樹脂分散体を乳化重合する際に使用する重合開始剤としては、一般に用いられるラジカル開始剤である。ラジカル重合開始剤は、熱又は還元性物質等によってラジカルを生成して重合性単量体の付加重合を起こさせるもので、水溶性又は油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物等がある。具体的には過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等があり、好ましくは水溶性のものである。なお、重合速度の促進や低温反応を望む場合には、重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸、ホルムアルデヒドスルホオキシレート塩等の還元剤をラジカル重合開始剤と組み合わせて用いることができる。
【0039】
本発明において使用される水性樹脂分散体(A)は、エマルジョンの長期の分散安定性を保つため、塩基性物質、例えばアンモニア、ジメチルアミノエタノール等のアミン類を始めとする塩基性有機化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属塩を始めとする塩基性無機化合物等を用いてpH5〜10の範囲に調整することが好ましい。
イソシアネート化合物(B)
本発明において、水性樹脂分散体(A)と2以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)を組み合わせることにより、成膜助剤を使用しなくとも、外観、硬度、光沢、耐屈曲性、耐溶剤性等の塗膜物性に優れた塗料やコーティング用途等に用いられる架橋性水性樹脂組成物を得ることができる。
【0040】
本発明において使用されるイソシアネート化合物(B)としては、2個以上のイソシアネート基を分子内に有するものであれば特に限定されないが、その具体例としては、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、及び4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等のジイソシアネート、これらジイソシアネートの誘導体であるトリメチロールプロパンアダクト体、ビュウレット体、及びイソシアヌレート体等のアダクトポリイシシアネート化合物、上記のイソシアネート基含有重合性単量体を公知の重合方法で単独重合させ、又は他の重合性単量体と共重合させた重合体、並びにこれらの乳化物等を用いることができる。
【0041】
本発明において使用されるイソシアネート基を有する化合物(B)は、水分散性の点からは、ノニオン性及び/又はイオン性の界面活性剤等により変性処理された水分散性を有するポリイソシアネート化合物が好適である。このようなポリイソシアネート化合物としては、従来公知の手法により親水基を導入してなるものであれば特に制限なく使用でき、例えばアルコキシポリアルキレングリコールとポリイソシアネート化合物との反応生成物や、界面活性能を有するノニオン性基及びイソシアネート反応性基(水酸基等)を含有するビニル系重合体とポリイソシアネート化合物との反応生成物、ジアルカノールアミンとを反応させることにより得られる反応生成物、イセチオン酸アミン塩等のスルホン酸基とイソシアネート反応基を有する化合物とポリイソシアネート化合物の反応生成物を含有するポリイソシアネート化合物を挙げることができる。これらの中で、アルコキシポリアルキレングリコールとポリイソシアネート化合物との反応生成物を含有するポリイソシアネート化合物は水分散性が優れるため、特に好ましい。このような化合物は、市販品としては、商品名「デュラネートWT20−100」、「デュラネートWT30−100」、「デュラネートWB40−100」(以上旭化成ケミカルズ(株)製)等を挙げることができる。
その他の成分
その他、本発明の架橋性水性樹脂組成物には、通常水系塗料に添加配合される成分、例えば、増粘剤、成膜助剤、可塑剤、凍結防止剤、消泡剤、染料、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を任意に配合することができる。
【0042】
増粘剤の具体例としては、ポリビニルアルコール(部分鹸化ポリ酢酸ビニル等を含む)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の高分子分散安定剤等、その他ポリエーテル系、ポリカルボン酸系増粘剤等が挙げられる。
【0043】
成膜助剤の具体例としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ブタンジオールイソブチレート、グルタル酸ジイソプロピル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ダイアセトンアルコール等が挙げられる。これら成膜助剤は、単独又は併用等任意に配合することができる。なお、本発明の効果により、成膜助剤の使用を省略し、又はその使用量を低減することが可能である。
【0044】
可塑剤として具体的には、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等が挙げられる。
凍結防止剤として具体的には、プロピレングリコール、エチレングルコール等が挙げられる。
【0045】
紫外線吸収剤にはベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系等があり、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ステアリルオキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0046】
ラジカル重合性ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤の具体例としては、2−ヒドロキシ4−アクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メタクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−アクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−メタクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(アクリロキシ−エトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(メタクリロキシ−エトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(メタクリロキシ−ジエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(アクリロキシ−トリエトキシ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0047】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニル〕ベンゾトリアゾール)、メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネートとポリエチレングリコール(分子量300)との縮合物(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN1130)、イソオクチル−3−〔3−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN384)、2−(3−ドデシル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN571)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1フェニルエチル)フェノール(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN900)。
【0048】
ラジカル重合性ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2’ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学(株)製、製品名:RUVA−93)、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチル−3−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリリルオキシプロピル−3−tert−ブチルフェニル)5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、3−メタクリロイル−2−ヒドロキシプロピル−3−〔3’−(2’’−ベンゾトリアゾリル)−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチル〕フェニルプロピオネート(日本チバガイギー(株)製、製品名:CGL−104)等が挙げられる。
【0049】
トリアジン系紫外線吸収剤の具体例としては、TINUVIN400(製品名、日本チバガイギー(株)製)等が挙げられる。
光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤が好ましく、その中で塩基性の低いものがより好ましく、塩基定数(pKb)が8以上のものが特に好ましい。具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)サクシネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、1−〔2−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕エチル〕−4−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−セバケートの混合物(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN292)、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、TINUVIN123(製品名、日本チバガイギー(株)製)等が挙げられる。
【0050】
ラジカル重合性ヒンダードアミン系光安定剤の具体例としては、1,2,2,6,6ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルアクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−イミノピペリジルメタクリレート、2,2,6,6,−テトラメチル−4−イミノピペリジルメタクリレート、4−シアノ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、4−シアノ−1,2,2,6,6−ペンタメチル4−ピペリジルメタクリレート等が挙げられる。
【0051】
本発明において、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤は、水性樹脂分散体(A)を製造する乳化重合時に存在させることにより水性樹脂分散体(A)に導入する方法、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を成膜助剤等と混合して水性樹脂分散体(A)に添加することにより導入する方法、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を成膜助剤と混合し、界面活性剤、水を加え乳化させた後、水性樹脂分散体(A)に添加することにより導入する方法が挙げられる。また、紫外線吸収剤と光安定剤を併用すると、相乗効果により卓越した耐久性を示す。
【0052】
本発明の水性樹脂組成物に使用される水性樹脂分散体(A)は、分散質である樹脂部(A1)の平均粒子径として、30〜500nmであることが好ましい。得られたエマルジョン中の分散質(固形分)である樹脂部(A1)と分散媒としての水性媒体(A2)との質量比は通常70/30以下、好ましくは30/70以上65/35以下である。
【0053】
本発明の架橋性水性樹脂組成物は、プラスチック基材に対する密着性や硬度に優れ、高い塗膜外観を有するコーティング被膜が得られるため、自動車内外装部品や家電製品に用いられるプラスチック基材や自動車補修用のクリアトップコート塗料として有用である。また、塗料、建材の仕上げ材、紙加工剤、又は織布、不織布の仕上げ材として有用であり、とくに塗料用、建材の仕上げ材として具体的には、コンクリート、セメントモルタル、スレート板、ケイカル板、石膏ボード、押し出し成形板、発泡性コンクリート等の無機建材、織布あるいは不織布を基材とした建材、金属建材等の各種下地に対する塗料又は建築仕上げ材として、複層仕上げ塗材用の主材及びトップコート、薄付け仕上塗材、厚付け仕上塗材、石材調仕上げ材、グロスペイント等の合成樹脂エマルジョンペイント、金属用塗料、木部塗料、瓦用塗料として有用である。
【実施例】
【0054】
以下の水性樹脂分散体(A)の製造例、架橋性水性樹脂組成物の実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものでない。尚、水性樹脂分散体(A)の製造例、架橋性水性樹脂組成物の実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、別段の言及がない限り、それぞれ質量部、及び質量%を表す。また、得られた架橋性水性樹脂組成物の物性試験については、該水性樹脂分散体(A)を用いて下記に示す配合組成で塗料を調整し、以下に示す試験方法に従って試験を実施した。
(水性樹脂分散体(A)の製造)
[製造例1]
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応容器に水62部、アニオン性界面活性剤(製品名:ハイテノールLA−12、第一工業製薬(株)製)の20%水溶液を0.75部投入し、反応容器中の温度を80℃に上げてから、過硫酸アンモニウムの2%水溶液を1.5部添加した5分後に、メタクリル酸メチル50.2部、アクリル酸n−ブチル16.4部、メタクリル酸1.4部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート2部、アニオン性界面活性剤(製品名:ニューコール707SF、日本乳化剤(株)製)の30%水溶液を4.7部、ノニオン性海面活性剤(製品名:エマルゲン120、花王(株)製)の20%水溶液2部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液3.5部、水43.6部からなる乳化混合液を滴下槽より135分かけて流入させる。流入中は反応容器の温度を80℃に保つ。流入が終了してから反応容器の温度を80℃にして30分保つ。
【0055】
次に、メタクリル酸メチル6.8部、アクリル酸n−ブチル9.6部、メタクリル酸1.6部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート12部、ドデシルメルカプタン1部、ニューコール707SFの30%溶液を2部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液1.5部、水17部からなる乳化混合液を90分かけて流入させる。流入中は反応容器の温度を80℃に保つ。流入が終了してから、水7.5部を加え、反応容器の温度を80℃にして90分保つ。
【0056】
室温まで冷却後、希釈水と25%アンモニア水溶液を添加してpH8、固形分35%に調整してから100メッシュの金網でろ過した。ろ過された凝集物の乾燥質量は全単量体に対して0.002%とわずかであった。得られた水性樹脂分散体(A)の固形分率は35.4%、粒子径110nmで単一分布であった。
[製造例2〜16]
1段目及び2段目の乳化混合液に用いる各成分の種類や量、及び各乳化混合液のフィード時間を表1に示すように変更した以外は、製造例1と同様の方法にて、水性樹脂分散体を得た。得られた水性樹脂分散体について各試験を行った。結果を表1に示す。
【0057】
なお各重合性単量体の量は、両段で使用した重合性単量体成分合計量100質量部に対する比率(質量部)で示した。
<試験方法>
・水酸基価の測定
水性樹脂分散体の樹脂部(A1)の水酸基価は、水性樹脂分散体の樹脂部(A1)を合成する時に使用するヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a)の質量部(各単量体(a)、(b)、及び(c)の合計を100質量部とする。)から、次式にて計算で求めた。
水酸基価(mgKOH/g)=(aの質量部/100)/(aの分子量)×56.1×1000
・酸価の測定
水性樹脂分散体の樹脂部(A1)の酸価は、水性樹脂分散体の樹脂部(A1)を合成する時に使用するカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)の質量部(各単量体(a)、(b)、及び(c)の合計を100質量部とする。)から、次式にて計算で求めた。
酸価(mgKOH/g)=(bの質量部/100)/(bの分子量)×56.1×1000
・重合安定性の評価
乳化重合後に得られた水性樹脂分散体(A)を100メッシュの濾布で凝固物を濾過し、その残渣質量を水性樹脂分散体(A)の質量で割り、残渣率とした。残渣率が0.01%未満であれば、重合安定性は良好である。
・粘度の測定
乳化重合後に得られた水性樹脂分散体(A)をBM型粘度計を用い、23℃、ローターNo.21又は22又は23、回転数60rpmの条件で測定した。
・粒子径の測定
得られた水性樹脂分散体の平均粒子径を、リーズ&ノースラップ社製のマイクロトラック粒度分布計にて測定した。
・固形分率の測定
予め質量の分かっているアルミ皿に水性樹脂分散体を約1g正確に秤量し、恒温乾燥機で105℃にて3時間乾燥した後、シリカゲルを入れたデシケーター中で、30分放冷後に精秤する。当該物質の乾燥後質量を乾燥前質量で割ったものを固形分率とした。
<塗膜性能の評価方法>
・クリアー光沢
下記の架橋性水性樹脂組成物を黒色のABS板に、100μmの膜厚設定で塗布し、80℃、20分強制乾燥させた後、23℃、1週間乾燥させた。乾燥後の塗膜について、光沢計(マイクロトリグロスμ、BYKガードナー社製)にて60°光沢を測定した。
・塗膜外観
下記の架橋性水性樹脂組成物を透明のPC板に、100μmの膜厚設定で塗布し、80℃、20分強制乾燥させた後、23℃、1週間乾燥させた。乾燥後の塗膜の外観について、微小なブツの発生状況を目視判定した。
◎;なし。
○;少ない。
△;多い。
×;非常に多い。
・鉛筆硬度
下記の架橋性水性樹脂組成物を透明のPC板に、100μmの乾燥膜厚設定で塗布し、80℃、20分強制乾燥させた後、23℃、1週間乾燥させた。乾燥後の塗膜に対し、JIS K5600−5−4(引っかき硬度)に準じて試験を行った。
[実施例1]
製造例1の水性樹脂分散体(固形分35.4%)100部を攪拌機で攪拌し、その中にデュラネートWT30−100(旭化成ケミカルズ(株)製、固形分100%)12.2部、水23.8部を添加し、水性樹脂組成物を得た。この水性樹脂組成物について、上記の各試験を行った。
【0058】
実施例1は、塗膜外観に優れ、光沢、鉛筆硬度とも高く、良好である。
[実施例2〜12]
製造例2〜12の水性樹脂分散体を用い、デュラネートWT30−100、及び水の使用量を表2記載のものに変更したほかは、実施例1と同様な方法にて、架橋性水性樹脂組成物を得た。この水性樹脂組成物について、上記の各試験を行った。結果を表2に示す。
【0059】
実施例2〜12は、いずれも塗膜外観が良好であり、光沢、鉛筆硬度とも高く、良好である。
[比較例1〜4]
製造例13〜16の水性樹脂分散体を用い、デュラネートWT30−100、及び水の使用量を表2記載のものに変更したほかは、実施例1と同様な方法にて、架橋性水性樹脂組成物を得た。この水性樹脂組成物について、各試験を行った。結果を表2に示す。
比較例1は、光沢、鉛筆硬度とも高いが、塗膜外観が不良である。
比較例2は、塗膜外観は良好であるが、光沢が低く、塗膜外観も不良である。
比較例3は、光沢、鉛筆硬度とも高いが、塗膜外観が不良である。
比較例4は、架橋性水性樹脂組成物の粘度が高すぎるため、評価に値する塗膜が得られない。
【0060】
なお、製造例で用いた重合性単量体の表1等における略称、名称は以下の通りである。また、Foxの式により重合性単量体のガラス転移温度(Tg/℃)を算出するために使用した各々のホモポリマーのTg値を()内に示した。

ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a)
2HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(55)

カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)
AA:アクリル酸(87)
MAA:メタクリル酸(144)

その他の重合可能な重合性単量体(c)
MMA:メタクリル酸メチル(105)
BA:アクリル酸n−ブチル(−45)
BMA:メタクリル酸n−ブチル(22)
2EHA:アクリル酸2−エチルへキシル(−55)20
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル(83)

また、製造例で用いた重合性単量体以外に用いた成分は、表1においては略称又は商品名で示すが、その詳細は以下である。

分子量調整剤(d)
t−DDM:ドデシルメルカプタン

Si含有化合物(e)
SZ6030:γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン/東レダウコーニング(株)
SZ6070:メチルトリメトキシシラン/東レダウコーニング(株)
AY43−004:ジメチルジメトキシシラン/東レダウコーニング(株)

上記以外の成分
NC707SF:アニオン性乳化剤/日本乳化剤(株)
Em120:ノニオン性乳化剤 エマルゲン120/花王(株)
APS:過硫酸アンモニウム

TINUVIN123:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤/BASF(株)
TINUVIN400:ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤/BASF(株)
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の架橋性水性樹脂組成物は、自動車内外装部品や家電製品に用いられるプラスチック基材や自動車補修用のクリアトップコート塗料やコーティング用途として好適であり、産業上高い利用価値を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基価10〜200mgKOH/g、酸価8〜50mgKOH/gの樹脂部(A1)を含有する水性樹脂分散体(A)、及び2以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)を含んでなる架橋性水性樹脂組成物であって、該樹脂部(A1)が、2段階以上の工程で乳化重合して得られるコア部(A1α)及びシェル部(A1β)を有するコアシェル構造を有し、該シェル部(A1β)が、ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a)から導かれる構成単位12〜50質量%、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)から導かれる構成単位5〜20質量%、及びその他の重合可能な重合性単量体(c)から導かれる構成単位30〜83質量%からなる重合体を含有することを特徴とする上記架橋性水性樹脂組成物。
【請求項2】
前記シェル部(A1β)が、前記ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a)、前記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)及び前記その他の重合可能な重合性単量体(c)の合計100質量部に対して、分子量調整剤(d)を0.1〜5質量部使用して得られたことを特徴とする請求項1に記載の架橋性水性樹脂組成物。
【請求項3】
前記水性樹脂分散体(A)の樹脂部(A1)が、さらに、下記式(1)で表されるSi含有化合物(e)、又はこれから得られる重合体を含んでいることを特徴とする請求項1、又は2に記載の架橋性水性樹脂組成物。
(R1)n−Si−(R2)4−n(1)
(式中nは0から3の整数であり、R1は水素、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、及び炭素数5〜6のシクロアルキル基からなる群より選ばれる基。n個のR1は同一であっても、異なっても良い。R2は炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、及び水酸基からなる群より選ばれる基。4−n個のR2は同一であっても、異なっても良い。)

【公開番号】特開2011−213758(P2011−213758A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80383(P2010−80383)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】