説明

架橋性組成物、それから得られる熱可塑性エラストマーおよびその使用

【課題】架橋性組成物、それから得られる熱可塑性エラストマーおよびその使用を提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリマーおよびエラストマーをベースとする新規の架橋性組成物が提供されており、これらの組成物は、架橋系として金属イオンの特定の有機塩を含む。該組成物から、優れた物理特性、150℃を超える高温耐性、そして耐油性を有するイオン架橋化熱可塑性エラストマーが得られる。これらは、成形品の製造のために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリマーおよびエラストマーをベースとする架橋性組成物に関し、これらの組成物は、架橋系として、金属イオンの特定の有機塩のみを含む。また、これらの架橋性組成物の調製にも関する。本発明は更に、エラストマー相と熱可塑性相とを有し、エラストマー相が金属イオンの有機塩によって架橋されている熱可塑性エラストマーを生じさせるためのこれらの組成物の架橋方法に関する。本発明は更に、熱可塑性エラストマー自体、および成形品の製造のためのその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の加工特性と、不可逆的な架橋材料(熱硬化性材料と呼ばれることも多い)の弾性特性とを、例えば従来どおりに架橋されたゴム製品の形態において兼ね備えた熱可塑性加工可能なエラストマーに対する大きな要求が存在している。
【0003】
当業者には、熱可塑性エラストマーとして知られている様々な種類のものが認識されている。
【0004】
これらの熱可塑性エラストマーの1つの種類は、「TPE」として知られるもので提供される。これらは、a)融点またはガラス転移温度が室温よりも高い結晶性および/または非結晶性相と、b)ガラス転移温度が室温よりも低い非結晶性相とを同時に有するポリマーをベースとする熱可塑性エラストマーであり、相a)およびb)の架橋は、熱可塑性相a)によって生じ、ここでは物理的な架橋が関与している。
【0005】
熱可塑性エラストマーのもう1つの種類は、「TPV」として知られるもので提供される。これらは、a)融点またはガラス転移温度が室温よりも高い結晶性および/または非結晶性ポリマーと、b)ガラス転移温度が室温よりも低い非結晶性ポリマーとで構成される混合物を含む熱可塑性加硫物であり、非結晶性ポリマーb)は化学的に架橋されており、この混合物は、共連続相形態で存在するか、あるいは連続相として固相を有する。
【0006】
ユーザーの観点からすると、高温耐性と、耐油性およびバリア特性とを兼ね備えた製品に対する大きな要求が存在している。これまで従来の製品は主に、熱可塑性相としてポリアミド、ポリエステルまたはポリプロピレンをベースとする熱可塑性加硫物を含む。これらのTPVには、例えば、樹脂、過酸化物、硫黄、ジアミンまたはエポキシドによるエラストマー相の化学的な架橋が存在する。これらの系において、所望の熱可塑性加工特性を得るためには、熱可塑性材料の連続相または少なくとも共連続相の前提条件が満たされなければならず、ここで熱可塑性樹脂は、エラストマー相を実質的に包囲しなければならない。これを達成するために、エラストマー相は、調製の過程で不可逆的に化学架橋される。非常に高温での使用を対象とした所望の製品では、必要な前提条件は、融点またはガラス転移温度が200℃よりも高い高融点熱可塑性相の使用であり、これにより、架橋系および調製方法の選択がかなり制限される。そのため、所望の特性および必要な相形態を達成するために、これまでは多くの場合、多段階方法が必要とされてきた。それに応じて結果の再現性は悪い。
【0007】
使用される架橋系は、かなりの影響を及ぼす。
【0008】
従来の架橋系の既知の主要な種類は、有機過酸化物を使用し、更に、フリーラジカルの収率を改善するための助剤を使用することにより作用するフリーラジカル架橋系で提供される。
【0009】
更により広く使用される架橋系のもう1つの種類は、硫黄架橋系で提供される。当業者にはよく知られているように、これらは、多数の異なる組成物において使用することができる。
【0010】
あまり一般には使用されない架橋系は、例えば、[DOTG](ジオルトトリルグアニジン)と組み合わせた[Diak1](ヘキサメチレンジアミンカルバメート)などの立体障害アミンによるアミノ架橋をベースとするものである。これらの架橋系は、特に、カルボキシ基を含有するエラストマー、例えばAEM(例えば、VAMAC(登録商標)の形)の架橋に推奨される。
【0011】
上述の架橋系は全て、エラストマー相の不可逆的な架橋をもたらす。
【0012】
上記で所望される200℃よりも高温での架橋の可能性のために、過酸化物による架橋の実質的な欠点は、大気中の酸素との反応による架橋効率の低下(その識別できる結果は、例えば、表面粘着性の形成である)を回避するために空気を排除して架橋を行わなければならないことである。過酸化物架橋のもう1つの顕著な側面は、温度と分解速度との確固たる関係である。適切な架橋速度の達成は比較的低温(180℃未満)を有し、適切な過酸化物の選択により達成するのが比較的容易であるが、適切な過酸化物、すなわち200℃以上における制御された架橋反応のためにゴム相と選択的に反応する過酸化物を見出すのは非常に困難である。ゴム産業でゴムの架橋に通常使用される過酸化物は、激しい分解速度によりこれらの高温反応には不適切である。この方法は、高温における熱可塑性およびエラストマー相の混合の過程で、エラストマー相中の過酸化物の均一な分散を保証することができない。その他の高温過酸化物は、多くの場合、検討中のゴムでは不満足な架橋効率しか示さないか、あるいは市販されていない。更に、過酸化物架橋により製造される製品は、過酸化物の分解生成物に由来する望ましくない強い臭気を特徴とすることが多い。
【0013】
高温架橋反応を実行するもう1つの方法は、一例としてヒドロキシまたはカルボキシ基を官能基として有する反応性ポリマーにおいて、二官能性、三官能性または多官能性エポキシド、アミン、カルボン酸塩、またはイソシアナートをベースとする反応性化学架橋剤による化学的な縮合または化学的な付加過程を用いる。ここでの欠点は、多くの場合、使用される製品がかなりの毒性を有することである。
【0014】
典型的な硫黄架橋に必要とされる構成要素は数多く、そして様々であり、硫黄、硫黄ドナー、促進剤、遅延剤、反転防止剤(antireversion agent)およびその他の物質を包含する。しかしながら、180℃を超える加硫温度は、一般には使用されない。何故なら、このように高い温度では反応および過程の制御が非常に困難だからである。
【0015】
樹脂架橋として知られるものによる、PPおよびEPDMをベースとする熱可塑性加硫物の製造は、ルイス酸触媒としての二塩化スズ(SnCl)と一緒にフェニル−ホルムアルデヒド樹脂を使用することが多い。これらの系は非常に広く普及しているが、これらは多くの場合、黄茶色であるひどく変色した生成物を生じ、そして腐食性の塩素化合物を解放するという深刻な欠点を有する。従って、これらは限られた適用性を有する。
【0016】
反応性架橋という用語は、エラストマー、あるいはエラストマーおよび熱可塑性樹脂の高温混合の間の架橋過程のために使用される。この工程は、熱可塑性加硫物の製造のために重要である。
【0017】
熱可塑性エラストマーのもう1つの新しい種類は、熱可塑性アイオノマーとも呼ばれるイオン架橋化熱可塑性エラストマーで提供される。これらは、アイオノマー熱可塑性樹脂と、カルボキシ基またはスルホン酸基を含有するエラストマーとで構成され、主としてポリプロピレン(PP)系およびポリエチレン(PE)系のコポリマーをベースとする混合物を含み、その相はイオン結合により結合される。これらのイオン結合熱可塑性エラストマーは、以前に開示されている。
【0018】
一例として、(特許文献1)は、ポリアミドと、ニトリルモノマー、ジエンコモノマー、およびターモノマーとしての不飽和カルボン酸をベースとする水素化カルボキシ化ニトリルゴムとで構成されるブレンドについて記載している。
【0019】
該文献には、共有結合架橋をもたらす既知の架橋系、例えば硫黄化合物をベースとするものと、付加的なイオン架橋をもたらす金属塩とで構成される混合物の、カルボキシ基を有するエラストマーの架橋のための使用について既に記載されている。
【0020】
(特許文献2)は、結晶性ポリアミドと、モノマーとしてアクリルニトリルまたはメタクリルニトリル、ブタジエン、および1つまたは複数のα,β−不飽和カルボン酸をベースとする合成ゴム状ポリマーとを包含すると共に、更に、活性硫黄加硫剤と、金属塩/化合物をベースとする非高分子添加剤との組み合わせも含む加硫可能なゴム状組成物を開示する。これらの非高分子添加剤の量は、リチウム、マグネシウム、カルシウムおよび亜鉛のハロゲン化物から選択された添加剤が、ポリアミドを基準にして0.1〜15重量%、そしてマグネシウム、カルシウム、バリウムおよび亜鉛の酸化物および水酸化物、ならびにカルシウムおよび亜鉛の過酸化物から選択された添加剤が、高分子材料全体100重量部を基準にして約1〜10重量部である。(特許文献2)には、これらの添加剤が、ポリアミドの融点、あるいはポリアミドおよびゴム状ポリマーの相溶性に影響を与えると記載されている。
【0021】
(特許文献3)は、過酸化物と共にゴムの架橋に適切である不飽和カルボン酸の特定の金属塩を開示する。特定の金属塩は、2モルの一塩基性不飽和カルボン酸および2モルの二塩基性不飽和カルボン酸と、3モルの二価の金属酸化物との反応によって得られる。
【0022】
イオン架橋の達成のための二価の金属塩の単独使用も文献から分かっている。
【0023】
(非特許文献1)は、マレイン化ポリプロピレンの亜鉛塩(「Zn−mPP」)と、マレイン化EPDMゴム(「Zn−mEPDM」)とのアイオノマーポリマーブレンドをベースとするアイオノマー熱可塑性エラストマーを開示する。界面におけるイオン架橋は、酸化亜鉛およびステアリン酸の添加によってもたらされる。
【0024】
(非特許文献2)は、ポリプロピレン系エラストマーに無水マレイン酸をグラフトさせることができ、得られたマレイン化生成物は、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛または硫化亜鉛などの金属塩の添加によって架橋可能であることを開示する。
【0025】
(非特許文献3)には、更に、酸化亜鉛で中和されたカルボキシ化ニトリルゴム(「Zn−XNBR」)と、酸化亜鉛で中和されたポリ(エチレン−co−アクリル酸)(「Zn−PEA」)とで構成されるアイオノマーポリブレンド(polyblend)が、アイオノマー熱可塑性エラストマーとして働くと記載されている。ここにおいても、界面におけるイオン架橋は、酸化亜鉛およびステアリン酸の添加によってもたらされる。
【0026】
(非特許文献4)にも、カルボキシ化ニトリルゴムは、酸化カルシウムおよびステアリン酸を用いてイオン架橋することができると記載されている。(非特許文献5)によると、カルボキシ化ニトリルゴムは、可塑剤としてフタル酸ジオクチルまたはジメチルスルホキシドの存在下で、酸化カルシウム、酸化マグネシウムまたは酸化亜鉛を用いてイオン架橋化エラストマーに転化される。
【0027】
しかしながら、二価金属の酸化物およびその有機塩のみによるエラストマー相のこの架橋の結果は、動的負荷される生成物における高い損失係数、およびこれと共に望ましくない高レベルの動的加熱を特徴とするポリマーブレンドである。様々な熱可塑性樹脂および弾性アイオノマーのブレンドの架橋において酸化亜鉛および有機酸による架橋反応の相乗効果が見られるが、170℃〜180℃程度の低い温度範囲でイオン炭素の部分解離が推測され、高温耐性を有するアイオノマーで使用するのに有害である。
【0028】
(非特許文献6)は、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)が、ステアリン酸の存在下で酸化アルミニウムと反応されて、イオン性エラストマーを与え得ることを開示する。過酸化ジクミル(DCP)、および酸化アルミニウム/ステアリン酸を用いる「混合架橋反応」、すなわち2つの異なるタイプの架橋を有する加硫物の形成も記載されている。DCPおよび酸化アルミニウム/ステアリン酸の組み合わせを用いる混合架橋は、ブレンドの製造のためにも必要とされ、適切なブレンドは、CSM/酸化アルミニウム/ステアリン酸で構成されるマスターバッチと、エチレン−酢酸ビニルコポリマー(EVA)/DCPで構成されるマスターバッチとの激しい混合により得られる。しかしながら、酸化アルミニウム/ステアリン酸を用いて純粋にイオン架橋反応が行われる場合、不適切な圧縮変形特性を有する材料が得られるといわれている。
【特許文献1】国際公開第03/020820号パンフレット
【特許文献2】米国特許第4,508,867号明細書
【特許文献3】米国特許第6,566,463号明細書
【非特許文献1】Polymer Engineering and Science、1999年5月、第39巻、第5号、963−973頁
【非特許文献2】Journal of Applied Polymer Science、第86巻、2887−2897頁(2002年)
【非特許文献3】Polymer 41(2000年)787−793頁
【非特許文献4】J. Applied Polymer Science、第87巻、805−813頁(2003年)
【非特許文献5】Polym.Int.49、1653−1657頁(2000年)
【非特許文献6】Journal of Elastomers and Plastics、第33巻、196−210頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
既知の従来技術から、本発明の目的は、取り扱いが容易で、健康に有害でなく、そしてさらに低プロセスリスクを与え得る熱可塑性エラストマーを調製するために高温で使用することができる、非過酸化物架橋系をベースとする加硫可能な組成物を見出すことである。架橋反応によって得ることができる熱可塑性エラストマーは、その高温および耐油特性、ならびにその機械特性、臭気および本質的な色合いが、市場において得られる特性と同等であるかあるいはそれよりも優れていることが意図され、かつ、簡単で低コストの製造が可能であることも意図される。
【課題を解決するための手段】
【0030】
この目的は、熱可塑性ポリマーと、カルボキシ基を含有するエラストマーとをベースとする組成物であって、金属イオンの特定の有機塩および架橋系も含む架橋性組成物の提供によって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、
(1)1つまたは複数の熱可塑性ポリマーと、
(2)カルボキシ基を有する1つまたは複数のエラストマーと、
(3)架橋系として、一般式(I)
(Ry−x/yx+ (I)
(式中、Ry−は、y個のカルボキシ基を有するC〜C26炭化水素基であり、
yは、値1、2、3または4でよく、
xは、3または4であり、そして
Mは、3価または4価の金属である)の1つまたは複数の塩と、
を含む架橋性組成物を提供する。
【0032】
好ましいのは、
(1)10〜90重量%の1つまたは複数の熱可塑性ポリマーと、
(2)89〜9重量%の、カルボキシ基を有する1つまたは複数のエラストマーと、
(3)一般式(I)
(Ry−x/yx+ (I)
(式中、Ry−は、y個のカルボキシ基を有するC〜C26炭化水素基であり、
yは、値1、2、3または4でよく、
xは、3または4であり、そして
Mは、3価または4価の金属である)の1つまたは複数の塩を含む、1〜40重量%の架橋系と、
を含み、前記3つの成分(1)、(2)および(3)の全体が100重量%を示す架橋性組成物である。
【0033】
特に好ましいのは、
(1)15〜80重量%の1つまたは複数の熱可塑性ポリマーと、
(2)83〜18重量%の、カルボキシ基を有する1つまたは複数のエラストマーと、
(3)一般式(I)
(Ry−x/yx+ (I)
(式中、Ry−は、y個のカルボキシ基を有するC〜C26炭化水素基であり、
yは、値1、2、3または4でよく、
xは、3または4であり、そして
Mは、3価または4価の金属である)の1つまたは複数の塩を含む、2〜30重量%の架橋系と、
を含み、前記3つの成分(1)、(2)および(3)の全体が100重量%を示す架橋性組成物である。
【0034】
一般式(I)のMは、好ましくは、B、Al、Sc、Y、Fe、Sn、Pb、Ti、Zn、またはHfである。
【0035】
一般式(I)の基Ry−は、好ましくは、y個のカルボキシ基を含有するC〜C26炭化水素基であり、ここでyは、値1、2、3または4であると仮定できる。C〜C26炭化水素基は、直鎖または分枝状、飽和もしくはモノまたはポリ不飽和、非環状または環状、脂肪族または芳香族でよい。
【0036】
y−は、好ましくは、ホルマート、アセタート、アクリラート、メタクリラート、プロピオナート、ラクタート、クロトナート、ピバラート、カプロナート、ソルバート、カプリラート、オレアート、カプラート、ラウラート、リノラート、パルマート、ステアラート、レジナート、ヘキサコサナート、イコペンテナート、エイコサペンタエナート(eicosapentaenate)、オキサラート、マロナート、マレアート、フマラート、スクシナート、グルタラート、アジパート、サリチラート、ピメラート、テレフタラート、イソフタラート、シトラート、ピロメリタートである。
【0037】
本発明の架橋性組成物の架橋系(3)は、一般式(I)の1つまたは複数の塩を含むことができる。1つの特に好ましい架橋性組成物の特徴は、架橋系として、成分(3)のみを含む、すなわち他の架橋系を含まないことである。
【0038】
使用することができる熱可塑性ポリマー(1)は、融点またはガラス転移温度が90℃よりも高い、好ましくは120℃よりも高い従来の熱可塑性ポリマーのいずれかである。好ましいのは、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミドおよびポリプロピレンである。これらの熱可塑性ポリマーは、当業者には既知の方法、例えば、ガラス繊維、可塑剤、充填剤、および安定剤によって変性されていてもよい。従って、本出願の目的では、本発明の加硫可能な組成物の成分(1)としての「熱可塑性ポリマー」という用語は、適切であれば、実際の熱可塑性ポリマーと、例えば、上記の助剤または上記の添加剤とで構成される混合物も意味することができる。本発明の加硫可能な組成物の成分(1)の量についての記載に関して、ここでの意味は、特に、1つまたは複数の熱可塑性ポリマーの上記の10〜90重量%または好ましくは15〜80重量%のうち、実際の熱可塑性ポリマーがここでは特定の割合だけを構成し、残りはガラス繊維、可塑剤、充填剤、安定剤で構成されるということである。
【0039】
本発明の組成物において使用することができるポリアミドは、ポリマー主鎖がアミド結合(−C(=O)−NH−)によって結合されたモノマー単位を含有するホモポリマーまたはコポリマーである。使用可能なポリアミドの例としては、ポリカプロラクタム(ナイロン−6)、ポリラウロラクタム(ナイロン−12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン−6,6)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ナイロン−6,9)、ポリヘキサメチレンセバクアミド(ナイロン−6,10)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン−6,IP)、ポリアミノウンデカン酸(ナイロン−11)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン−4,6)、ならびにカプロラクタム、ヘキサメチレンジアミンおよびアジピン酸のコポリマー(ナイロン−6,66)、そしてポリパラフェニレンテレフタルアミドなどのアラミドが挙げられる。ポリアミドの多くは、120〜260℃の範囲の軟化点および融点を有する。ポリアミドは、好ましくは、高分子量を有し、結晶性である。
【0040】
本発明の組成物において使用することができるポリエステルは、ポリマー主鎖がエステル基(−C(=O)−O−)で結合されたモノマー単位を有するホモポリマーまたはコポリマーである。使用可能なホモポリエステルの例は、ヒドロキシカルボン酸系またはジヒドロキシジカルボン酸系である。ヒドロキシカルボン酸系は、ω−ヒドロキシカルボン酸の重縮合または環状エステル(ラクトン)の開環重合によって調製することができる。ジヒドロキシジカルボン酸系は、2つの相補的なモノマー、例えばジオールおよび飽和または不飽和ジカルボン酸の重縮合によって調製することができる。
【0041】
使用可能なポリマーは、ポリ(エチレンテレフタラート)、ポリ(オキシ−1,2−エタンジイルオキシ−カルボニル−1,4−フェニレンカルボニル)、ポリ(1,4−ジメチレンシクロヘキサンテレフタラート)、ポリ(ブチレンテレフタラート)、ポリ(テトラメチレンテレフタラート)、ポリ(オキシ−1,4−ブタンジイルオキシ−カルボニル−1,4−フェニレンカルボニル)である(ウルマン工業化学百科事典(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry) Copyright(著作権)2002年DOI:10.1002/14356007.a21_227頁 Article Online Posting Date:2000年6月15日も参照)。
【0042】
本発明の組成物において使用することができるポリイミドは、ポリマー主鎖がイミド基によって結合されたモノマー単位を含有するホモポリマーまたはコポリマーである。イミド基は、ここでは、線状または環状単位の形態をとることができる。適切なポリイミドの融点は、150〜260℃の範囲である(ウィリー−VCH社(Wiley−VCH Verlag GmbH & Co.KGaA.)によるウルマン工業化学百科事典(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry) Copyright(著作権)2002年DOI:10.1002/14356007.a21 253頁も参照)。
【0043】
本発明の組成物において使用可能なポリプロピレンは、融点が150℃よりも高く、結晶化の割合が高い任意のポリプロピレンである。
【0044】
本発明の組成物において使用可能なポリエーテルは、ポリマー主鎖がエーテル基(C−O−C)によって結合されたモノマー単位を含有し、約150℃よりも高く、約260℃よりも低い融点を特徴とするホモポリマーまたはコポリマーである。
【0045】
使用可能なエラストマー(2)は、カルボキシ基を含有する1つまたは複数の典型的なエラストマーである。
【0046】
エラストマーが、ポリマー鎖に結合したカルボキシ基を含有することは、決定的に重要である。
【0047】
エラストマーは通常、100重量%のエラストマー(2)を基準にして、0.5〜15重量%のカルボキシ基を含有する。
【0048】
エラストマーは、好ましくは、100重量%のエラストマー(2)を基準にして、0.5〜10重量%、特に好ましくは1〜7重量%、そして特に2〜5重量%のカルボキシ基を含有する。
【0049】
これらのカルボキシ基は、エラストマーのポリマー鎖に沿ってランダム分布を有することができるが、その位置は鎖の末端でもよい。
【0050】
カルボキシ基を含有する使用可能なエラストマーの例としては、
1.カルボキシ化ニトリルゴム(XNBRとも省略される)、
2.水素化カルボキシ化ニトリルゴム(HXNBRとも省略される)、
3.EPM、EPDM、HNBR、EVA、EVM、SBR、NRまたはBRをベースとする無水マレイン酸(「MAH」)グラフト化ゴム、
4.カルボキシ化スチレン−ブタジエンゴム(XSBRとも省略される)、
5.遊離カルボキシ基を有するAEM、
6.遊離カルボキシ基を有するACM、
そして上記のポリマーの所望の混合物が挙げられる。
【0051】
使用されるエラストマー(2)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、通常、1〜140の範囲、好ましくは5〜100の範囲、特に好ましくは30〜90の範囲である。
【0052】
記載されるエラストマーは自由に市販されている。適切なエラストマーは、一例として、ゴムハンドブック(Rubber Handbook)、SGF、第10版において見出すことができる。あるいは、クライナック(Krynac)(登録商標)(ランクセス・ドイチュランド社(Lanxess Deutschland GmbH)製)、テルバン(Therban)(登録商標)(ランクセス・ドイチュランド社製)、エクセロール(Exxelor)(登録商標)(エクソン(Exxon)製)、フサボンド(Fusabond)(登録商標)(デュポン(DuPont)製)、エルバロイ(Elvaloy)(登録商標)(デュポン製)、レバプレン(Levapren)(登録商標)(ランクセス・ドイチュランド社製)、バイスタル(Baystal)(登録商標)(ランクセス・ドイチュランド社製)、ベイマック(Vamac)(登録商標)(デュポン製)、ハイテンプ(HyTemp)(登録商標)(日本ゼオン(Nippon Zeon)製)、エルバックス(Elvax)(登録商標)(デュポン製)という商標で得ることができる。
【0053】
記載されるエラストマーは、文献から当業者には既知の調製方法によっても得ることができる。
【0054】
カルボキシ化ニトリルゴム(XNBRとも呼ばれる)は、少なくとも1つの不飽和ニトリルと、少なくとも1つの共役ジエンと、カルボキシ基またはカルボキシラート基を含有する少なくとも1つの他のターモノマーとで構成されるターポリマーであるゴムを意味する。
【0055】
既知の任意のα,β−不飽和ニトリルを、α,β−不飽和ニトリルとして使用することができ、好ましいのは、アクリルニトリル、メタクリルニトリル、エタクリルニトリルまたはこれらの混合物などの(C〜C)α,β−不飽和ニトリルである。アクリルニトリルが特に好ましい。
【0056】
共役ジエンはどのタイプでもよい。好ましくは、(C〜C)共役ジエンを使用する。特に好ましいのは、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ピペリレンまたはこれらの混合物である。特に好ましいのは、1,3−ブタジエンおよびイソプレンまたはこれらの混合物である。非常に特に好ましいのは、1,3−ブタジエンである。
【0057】
カルボキシ基またはカルボキシラート基を含有する使用可能なターモノマーの例は、α,β−不飽和カルボン酸またはそのエステルである。ここで好ましいのは、酸としてはフマル酸、マレイン酸、アクリル酸およびメタクリル酸、そしてアクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸エチルへキシルおよびメタクリル酸エチルへキシルなどのそのエステルである。使用可能なその他のモノマーは、不飽和ジカルボン酸もしくはエステルまたはアミドなどのその誘導体である。
【0058】
XNBRポリマー中の共役ジエンとα,β−不飽和ニトリルとの割合は、大きく変化し得る。共役ジエンの割合、あるいは共役ジエン全体の割合は、通常、全ポリマーを基準にして40〜90重量%の範囲であり、好ましくは55〜75重量%の範囲である。α,β−不飽和ニトリルの割合、あるいはα,β−不飽和ニトリル全体の割合は、通常、全ポリマーを基準にして9.9〜60重量%、好ましくは15〜50重量%である。追加のモノマーの存在量は、全ポリマーを基準にして0.1〜40重量%であり、好ましくは1〜30重量%である。各場合においてモノマー全ての割合は、全部で100重量%を示す。
【0059】
上記のモノマーの重合によるXNBRの調製は当業者にはよく知られており、文献(例えば、EP−A−0933381号明細書または米国特許第5,157,083号明細書、日本ゼオン)において広範囲にわたって記載されている。
【0060】
水素化カルボキシ化ニトリルゴム(HXNBRとも省略される)は、様々な方法で得ることができる。可能性のある例としては、カルボキシ基を含有する化合物をHNBRにグラフトさせることである。これらは、更に、カルボキシ化ニトリルゴムの水素化によって得ることができる。これらの水素化カルボキシ化ニトリルゴムは、一例として、国際公開第01/77185号パンフレットにおいて記載されている。
【0061】
原則としては、均一または不均一水素化触媒を使用して水素化を実行することが可能である。
【0062】
国際公開第01/77185号パンフレットに記載されるように、一例として、均一触媒、例えば「ウィルキンソン(Wilkinson)」触媒((PPhRhCl)として知られる触媒またはその他の触媒の使用により水素との反応を実行することが可能である。ニトリルゴムの水素化のためのプロセスは既知である。通常、ロジウムまたはチタンが触媒として使用されるが、金属の形態、あるいは好ましくは金属化合物の形態のいずれかである白金、イリジウム、パラジウム、レニウム、ルテニウム、オスミウム、コバルトまたは銅を使用することも可能である(例として、米国特許第3,700,637号明細書、DE−C−2539132号明細書、EP−A−134023号明細書、DE−A−3541689号明細書、DE−A−3540918号明細書、EP−A−298386号明細書、DE−A−3529252号明細書、DE−A−3433392号明細書、米国特許第4,464,515号明細書および米国特許第4,503,196号明細書を参照)。
【0063】
均一相水素化のための適切な触媒および溶媒は以下に記載されており、DE−A−2539132号明細書およびEP−A−0471250号明細書から分かる。
【0064】
一例として、ロジウム含有触媒の存在下で選択的な水素化を達成することができる。一例として、一般式
(RB)RhX
の触媒を使用することが可能であり、式中、Rは同一または異なり、C〜C−アルキル基、C〜C−シクロアルキル基、C〜C15−アリール基またはC〜C15−アラルキル基である。Bは、リン、ヒ素、硫黄またはスルホキシド基S=Oであり、Xは、水素またはアニオン、好ましくはハロゲン、特に好ましくは塩素または臭素であり、lは、2、3または4であり、mは2または3であり、そしてnは1、2または3、好ましくは1または3である。好ましい触媒は、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)−ロジウム(III)クロリドおよびトリス(ジメチルスルホキシド)−ロジウム(III)クロリド、ならびに式(CP)RhHのテトラキス(トリフェニルホスフィン)ロジウムヒドリド、そしてトリフェニルホスフィンが完全にまたはある程度トリシクロヘキシルホスフィンで置換された、対応する化合物である。少量の触媒を用いることができる。適切な量は、ポリマーの重量を基準にして0.01〜1重量%の範囲、好ましくは0.03〜0.5重量%の範囲、特に好ましくは0.1〜0.3重量%の範囲である。
【0065】
通常、式RB(式中、R、mおよびBは上記で定義したとおりである)の配位子である共触媒と一緒に触媒を使用することが望ましい。mは3に等しく、Bはリンであるのが好ましく、基Rは、同一でも異なっていてもよい。好ましいのは、トリアルキル、トリシクロアルキル、トリアリール、トリアラルキル、ジアリールモノアルキル、ジアリールモノシクロアルキル、ジアルキルモノアリール、ジアルキルモノシクロアルキル、ジシクロアルキルモノアリールまたはジシクロアルキルモノアリール基を有する共触媒である。
【0066】
共触媒の例は、一例として、米国特許第4,631,315号明細書において見られる。好ましい共触媒は、トリフェニルホスフィンである。共触媒の好ましい使用量は、水素化すべきニトリルゴムの重量を基準にして0.3〜5重量%の範囲、好ましくは0.5〜4重量%の範囲である。更に、好ましいのは、共触媒に対するロジウム含有触媒の重量比が、1:3〜1:55の範囲、好ましくは1:5〜1:45の範囲であることである。水素化すべきニトリルゴム100重量部を基準にして、共触媒の適切な使用量は、0.1〜33重量部、好ましくは0.5〜20重量部、非常に特に好ましくは1〜5重量部であり、特に、水素化すべきニトリルゴム100重量部を基準にして2重量部よりも多く、5重量部よりも少ない。
【0067】
この水素化の実際的なやり方は、米国特許第6,683,136号明細書から、当業者にはよく知られている。通常の方法では、水素化すべきニトリルゴムは、トルエンまたはモノクロロベンゼンなどの溶媒中で100〜150℃および50〜150バールの圧力で2〜10時間、水素で処理される。
【0068】
本出願の目的では、「水素化」または「水素化された」は、カルボキシ化ニトリルゴム中に最初に存在した二重結合が少なくとも50%、好ましくは75%、特に好ましくは85%が転化されたことを意味する。
【0069】
対応するカルボキシ化ニトリルゴムの水素化による水素化カルボキシ化ニトリルゴムの調製のために不均一触媒が使用される場合、これらは通常、パラジウムをベースとする担持触媒である。
【0070】
本出願の目的では、本発明の加硫可能な組成物の成分(2)としての用語「エラストマー」は、適切であれば、実際のエラストマーと、他の助剤または他の添加剤とで構成される混合物も意味することができる。本発明の加硫可能な組成物の成分(2)の量についての記載に関して、ここでの意味は熱可塑性ポリマーについてのこれらの記載と類似しており、特に、1つまたは複数のエラストマー(2)の上記の89〜9重量%または好ましくは83〜18重量%のうち、実際のエラストマーがここでは特定の割合だけを構成し、残りは他の助剤または他の添加剤で構成されるということである。
【0071】
エラストマー相中に存在することができる任意的な更なる成分の例は、
・ゴム産業において通常使用される充填剤、例えばカーボンブラック、シリカ、タルク、チョークまたは二酸化チタン、
・カルボキシ基で官能基化されていないエラストマー、
・可塑剤、
・加工助剤、
・安定剤および酸化防止剤、
・染料、あるいは
・繊維または繊維パルプ
である。
【0072】
本発明の組成物において酸化防止剤を使用するのが望ましいことがある。従来の酸化防止剤の例としては、p−ジクミルジフェニルアミン(ナウガード(Naugard)(登録商標)445)、ブルカノックス(Vulkanox)(登録商標)DDA(スチレン化ジフェニルアミン)、ブルカノックス(登録商標)ZMB2(メチルメルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩)、ブルカノックス(登録商標)HS(重合1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリン)、およびイルガノックス(Irganox)(登録商標)1035(チオジエチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ)ヒドロシンナマートまたはチオジエチレンビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート)が挙げられる。
【0073】
1つの好ましい実施形態では、加硫可能な組成物は、成分(1)としてポリアミドが使用され、成分(2)としてHXNBRまたはXNBRが使用されるものである。
【0074】
本発明は更に、成分(1)、(2)および(3)の全てを熱可塑性ポリマーの最高融点またはガラス転移温度よりも高い温度で混合することによってこれらの架橋性組成物を調製する方法を提供する。
【0075】
本発明の方法の第1の好ましい変形では、成分(1)および(2)が最初の装入で使用され、熱可塑性ポリマーの最高融点またはガラス転移温度よりも高い温度で密接に混合され、そして次に、混合を継続すると共に、上記の混合温度を保持しながら成分(3)が添加される。
【0076】
本発明の方法の第2の好ましい変形では、成分(2)が最初の装入で使用され、成分(1)の融点またはガラス転移温度よりもわずかに低い温度までで混合される。次に成分(1)が添加され、温度が、成分(1)の最高融点またはガラス転移温度よりも高い温度まで上昇され、そして、成分(2)および(1)が密接に混合され始めて、混合を継続すると共に熱可塑性ポリマーの最高融点またはガラス転移温度よりも高い混合温度を保持しながら、成分(3)が最後に添加される。
【0077】
第3の好ましい変形では、成分(1)が最初の装入で使用され、成分(1)の最高融点またはガラス転移温度よりも高い温度まで加熱され、次に成分(2)が添加され、成分(1)および(2)は密接に混合される。次に、混合を継続すると共に熱可塑性ポリマーの最高融点またはガラス転移温度よりも高い混合温度を保持しながら、成分(3)が添加される。
【0078】
本発明の方法の第4の好ましい変形では、熱可塑性ポリマーの最高融点またはガラス転移温度よりも高い温度において、3つ全ての成分を最初の装入で同時に使用し、次に密接に混合することができる。
【0079】
成分(1)、(2)および(3)は、ゴム技術において既知の混合システム、例えばインターメッシングまたはタンジェンシャル型のロータージオメトリを有するインターナルミキサーを使用して混合することができるし、あるいは、2〜4個のスクリューを有する混合押出機などの連続混合アセンブリにおいて混合することもできる。
【0080】
本発明の方法を実行する際、熱可塑性成分(1)が悪影響を受けることなく塑性状態に転化されるように混合温度が十分に高いことを保証することが重要である。これは、選択される温度が、熱可塑性ポリマーの最高融点またはガラス転移温度よりも高ければ保証される。200℃〜250℃の範囲の温度で成分(1)〜(3)を混合すると特に成功することが証明されている。
【0081】
更に、混合条件は、エラストマー相の架橋の前に、成分(1)および(2)が混合要素の最も細かい分散を受けるように選択されていなければならない。架橋前の熱可塑性粒子の典型的な粒径は5マイクロメートルよりも小さく、ここで熱可塑性相は、エラストマーマトリックス中の分散体として存在するか、あるいは共連続相分布が存在する。
【0082】
更に、添加時間、温度、ならびに架橋系の性質および量の選択は、エラストマー相中の架橋剤の良好な分散が保証され、エラストマー相および熱可塑性相が上記の条件下で存在し、その後ではじめてエラストマー相の定量的な架橋が生じ、その結果、転相が生じてエラストマー相および熱可塑性相の共連続相構造がもたらされるか、あるいはエラストマー相が5μmより小さい粒子の分散形態で熱可塑性相中に存在するようでなければならない。
【0083】
驚くことに、本発明の架橋性組成物は、熱可塑性エラストマーの提供に優れた適合性を有する。
【0084】
従って、本発明は、上記のタイプの本発明の架橋性組成物に、使用される熱可塑性ポリマー(1)の最高融点またはガラス転移温度よりも高い温度における連続混合手順を施すことによって、1つまたは複数の熱可塑性ポリマーと、カルボキシ基を含有する1つまたは複数のエラストマーとをベースとする熱可塑性エラストマーを調製する方法も提供する。
【0085】
本発明の架橋性組成物の調製のために3つの成分(1)、(2)および(3)を混合する手順の間、その過程で、混合アセンブリにおける電力消費が一定の値であると仮定される時点に到達する。これに関して、架橋性組成物の調製のための混合手順が完了しており、架橋性組成物が存在する。混合手順は、必要であれば、この際に完了させることができ、急冷、すなわち温度を低下させ、所望される場合には単離することによって、架橋性組成物が得られる。混合手順を継続する場合には、すぐに、あるいは上記のように中断後に、エラストマーのイオン架橋が架橋系(3)によって生じ、これは混合アセンブリの電力消費の上昇が生じるという点で識別可能である。エラストマーの動的であるが可逆性の架橋はここで生じる。
【0086】
転相が生じたらすぐ、得られた架橋生成物、すなわち熱可塑性エラストマーは、熱可塑性ポリマーの融点またはガラス転移温よりも低い温度まで急速に冷却される。
【0087】
エラストマー相中に特定の塩(3)を添加および分散した後、エラストマー相の粘度が増大し、熱可塑性およびエラストマー相で生じる結果的な相分布は、TPVに典型的なものである。
【0088】
本発明は更に、1つまたは複数の熱可塑性樹脂と、カルボキシ基を含有する1つまたは複数のエラストマーとをベースとする熱可塑性エラストマーを提供し、該エラストマーは、一般式(I)
(Ry−x/yx+ (I)
(式中、
y−は、y個のカルボキシ基を有するC〜C26炭化水素基であり、
yは、値1、2、3または4でよく、
xは、3または4であり、そして
Mは、3価または4価の金属である)の1つまたは複数の塩を含む架橋系によって架橋されている。
【0089】
使用される熱可塑性ポリマー、エラストマーおよび他の充填剤は全て無害の物質であり、得られる熱可塑性エラストマーは毒性がなく、低臭気性であり、無色である。
【0090】
本発明の熱可塑性エラストマーの特徴は、熱可塑性相およびエラストマー相を有することである。ここでのエラストマーは、記載したように相互に架橋されている。思いがけなく、これらは優れた高温特性を有する。特に自動車の構造において要求される150℃よりも著しく高い高温においても(すなわち、従来技術によるとイオン結合の強度が低下し始めた温度範囲においても)、これらは、優れた物理特性および動的特性、例えば高100モジュラスならびに高い破断時引張り歪みおよび破断時引張応力を有する。系全体が熱可塑性加工可能になるのは、熱可塑性相の溶融した後だけであり、従って、系は、熱可塑性エラストマーに必要な前提条件に従うが、熱可塑性加硫物の場合のようにエラストマー相の不可逆的な架橋に頼る必要がない。
【0091】
従って、本発明は、成形品、好ましくは駆動ベルト、ガスケット、スリーブ、ホース、膜、ダンパー、プロファイルの製造のため、またはプラスチック−ゴムの共押出のため、あるいは成形品の共射出のための熱可塑性エラストマーの使用を提供する。
【0092】
得られる成形品は、優れた物理特性、高温耐性および耐油性を特徴とし、これらは、例えば、自動車用途および産業用途では、ホース、駆動ベルト、膜、ガスケット、およびふいご(bellows)のために非常に重要である。成形品は、一段階過程における簡単な方法で製造することができ、優れた毒物学的特性を特徴とする。
[実施例]
【0093】
使用材料
1. ランクセス・ドイチュランド社製のテルバン(登録商標)XTVPKA8889:カルボキシ化水素化ニトリルゴム
CAN含量:33重量%、ムーニー粘度(ML1+4、100℃):77、残留二重結合含量:3.5%
2. ステアリン酸アルミニウム:(リーデル・デ・ヘーン(Riedel De Haen)、分析グレード
3. ランクセス・ドイチュランド社製のクライナック(登録商標)X7.50:カルボキシ基を含有するニトリルゴム
CAN含量 27重量%、ムーニー粘度(ML1+4、100℃):47
4. ランクセス・ドイチュランド社製のデュレタン(Durethan)(登録商標)B40:ポリアミド
PA6、射出成形グレード、非強化、高粘度、高負荷を受ける部品用の耐衝撃性
5. ランクセス・ドイチュランド社製のブルカジル(Vulkasil)(登録商標)A1:沈降シリカ
pH10〜12、表面積60m/g、粉末
6. プレチェザa.s.(PRECHEZA a.s.)製のプレティオックス(Pretiox)(登録商標)AV−3:二酸化チタン、未コーティング
7. ランクセス・ドイチュランド社製のブルカノックス(登録商標)SKF:安定剤、立体障害多核フェノール
8. ランクセス・ドイチュランド社製のブルカノックス(登録商標)BHT:安定剤、ジ−ブチル−p−クレゾール
9. ランクセス・ドイチュランド社製のテルバン(登録商標)A3407:水素化ニトリルゴム
CAN含量:34%、ムーニー粘度 ML1+4、100℃:70、残留二重結合含量:<0.9%
10. クロンプトン−ユニロイヤル・ケミカル(Crompton−Uniroyal Chemical)製のナウガード(登録商標)445:安定剤
4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン
11. チバ・シュペツィアリテーテンヒェミー(Ciba Spezialitaetenchemie)製のイルガノックス(登録商標)1035:安定剤
立体障害フェノール
12. アクゾ・ノーベル(Akzo Nobel)製のトリゴノックス(Trigonox)(登録商標)A80:過酸化物
tert−ブチルヒドロペルオキシド、水中に80%
【0094】
以下の表において、全ての量はphr(ゴム100に対する重量部)で記載される。エラストマー成分が100phrに相当する。
【0095】
使用した主混合アセンブリは、PES5混合ジオメトリを有するE/3ワーナー・アンド・フライダー(Werner and Pfleiderer)1.5lインターナルミキサーであった。典型的な混合方法では、200℃に予熱したインターナルミキサー内で、充填剤、可塑剤および安定剤と一緒に、熱可塑性樹脂(デュレタン(登録商標)B40)およびエラストマー(テルバン(登録商標)XTKA8889またはクライナック(登録商標)X7.50またはテルバン(登録商標)A3407)を最初の装入で用いた。インターナルミキサーの充填レベルは、約75%であった。
【0096】
20〜60rpmで混合して、約2分間にわたってせん断エネルギーを導入することによって、まず追加の充填剤をエラストマー相中に分散させ、次に、熱可塑性樹脂の融点またはガラス転移温度に達したらすぐに、エラストマー相および熱可塑性相を100rpmまでで互いに分散させた。ここでの回転速度は、混合温度が250℃を超えないように制御した。約5分後に回転速度を約30rpmに低下することによって、温度を約230℃に低下させ、架橋剤を添加した。
【0097】
回転速度を30rpmに約2分間保持している間、ミキサーの電力消費の上昇と同様に、温度上昇が観察され、エラストマー相の架橋が示された。次に、温度が250℃を超えないようにして、最大回転速度の100rpmで約3分間混合を継続した。全混合時間は約12分であった。
【0098】
混合が完了したら、混合物を排出して、直径200mmのロールを有する40℃に冷却したトロエスター(Troester)製のWNU3ロールミルで冷却し、せん断して、小片または粉末の形態の生成物が得られた。
【0099】
200バールの圧力で動作するシュバーベンタン(Schwabenthan)製のポリスタット(Polystat)400P電気プレスにおいて、230℃で20分間にわたって、この粉末を適切な形態に転化させ、これから試験片を打ち抜いた。
【0100】
以下の表1において、比較例は全てで示されている。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
本発明の組成物の以下の利点は、実験の結果から識別することができる。
【0104】
従来の過酸化物法により架橋された生成物(実施例2)との比較を行うと、ステアリン酸アルミニウムを用いて架橋された生成物は全て、300%までの破断時引張り歪の値を保持しながら、より高い引張り強さを示した。この性能は、ポリマー中のカルボニル官能基とポリアミドマトリックスとの相互作用、およびイオン架橋の強度によって促進される。これは、特に、カルボキシ官能基を持たないHNBR(テルバン(登録商標)A3407)をベースとする混合物(実施例3)との比較において著しく明白である。実施例7に従う本発明の組成物においてXNBR(クライナック(登録商標)X750)を用いる場合にも類似の性能が観察される。イオン架橋剤系を除外すると、著しく低い強度が達成される(実施例8に従う組成物を参照)。
【0105】
実施例1と市販の熱可塑性エラストマー(ゼオサーム(ZeothermTM)100−80B)との比較
「ANTECスプリング・ミーティング(ANTEC Spring Meeting)2004」は、「150℃の耐熱性および耐油性TPV−長期間の流体およびスパイク温度の比較」(著者:ジェフリー(Jeffrey)E.ディッカーフーフ(Dickerhoof)、ブライアン(Brian)J.カイル(Cail)、サムエル(Samuel)C.ハーバー(Harber))という表題で以下の表を発表した。
【0106】
【表3】

ここで、
(a) ゼオサームTM100−80B:
ポリアクリラート(ACM)ゴムおよびポリアミドをベースとするTPV。
「ACM//PA」(ゼオン・ケミカルズL.P.(Zeon Chemicals L.P.))と表される。
(b) ハイトレル(Hytrel)3078:
低デュロメータ(Low−durometer)コポリエステル樹脂。
「COPE」(E.I.デュポン)と表される。
(c) TPSiV3040−65A:
低デュロメータの専売コポリエステル樹脂//シリコーンエラストマーTPV。
「Si−TPV」(ダウ・コーニング(Dow Corning)/マルチベース)と表される。
(d) ベイマックAEM:
エチレン−アクリル熱硬化性エラストマー化合物。
AEM(E.I.デュポン)と表される。
【0107】
温度に応じた動的機械特性変化
上記の材料(a)ACM//PA(黒色曲線)および本発明の実施例1の試験片について、温度に応じた動的機械特性の変化を以下で決定した。
【0108】
図1および2は、2つの試験片について、対応する特性の変化を互いに比較する。
【0109】
耐油性であることが主張される市販の製品ゼオサームTM100−80Bとの比較は、強度に関して本発明の系が優れていることを示す。ACMゴムおよびポリアミドをベースとして調製されるが異なる架橋系を用いるゼオサームTM100−80Bとの動的機械性能の直接的な比較は、温度変化に関する特性(貯蔵弾性率E’およびtanδ)の安定性が同等であり、強度に関して記載された利点を有することを示す。図2bの本発明の実施例1と比較したときに図2aのACM//PA系(ゼオサームTM100−80B)の透過型電子顕微鏡写真によって明白に示されるように、これらの利点は、とりわけ、本発明の系の粒径を考慮して、優れた相分布に起因し得る。
【0110】
相分布、特に粒径の質は、ここでは、TPV製品の特性の実質的な品質基準であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は(a)ACM//PAおよび本発明の実施例1の試験片について、tanδの変化を温度の関数として示す。
【図2】図2は(a)ACM//PAおよび本発明の実施例1の試験片について、貯蔵弾性率E’の変化を温度の関数として示す。
【図2a】図2aは(a)ACM//PA系(ゼオサームTM100−80B)の透過型電子顕微鏡写真を示す。
【図2b】図2bは本発明の実施例1に基づく熱可塑性エラストマーの透過型電子顕微鏡写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)1つまたは複数の熱可塑性ポリマーと、
(2)カルボキシ基を有する1つまたは複数のエラストマーと、
(3)架橋系として、一般式(I)
(Ry−x/yx+ (I)
(式中、Ry−は、y個のカルボキシ基を有するC〜C26炭化水素基であり、
yは、値1、2、3または4でよく、
xは、3または4であり、そして
Mは、3価または4価の金属である)の1つまたは複数の塩と、
を含む架橋性組成物。
【請求項2】
(1)10〜90重量%の1つまたは複数の熱可塑性ポリマーと、
(2)89〜9重量%の、カルボキシ基を有する1つまたは複数のエラストマーと、
(3)一般式(I)
(Ry−x/yx+ (I)
(式中、Ry−は、y個のカルボキシ基を有するC〜C26炭化水素基であり、
yは、値1、2、3または4でよく、
xは、3または4であり、そして
Mは、3価または4価の金属である)の1つまたは複数の塩を含む、1〜40重量%の架橋系と、
を含み、前記3つの成分(1)、(2)および(3)の全体が100重量%を示す請求項1に記載の架橋性組成物。
【請求項3】
(1)15〜80重量%の1つまたは複数の熱可塑性ポリマーと、
(2)83〜18重量%の、カルボキシ基を有する1つまたは複数のエラストマーと、
(3)一般式(I)
(Ry−x/yx+ (I)
(式中、Ry−は、y個のカルボキシ基を有するC〜C26炭化水素基であり、
yは、値1、2、3または4でよく、
xは、3または4であり、そして
Mは、3価または4価の金属である)の1つまたは複数の塩を含む、2〜30重量%の架橋系と、
を含み、前記3つの成分(1)、(2)および(3)の全体が100重量%を示す請求項1に記載の架橋性組成物。
【請求項4】
前記Mが、B、Al、Sc、Y、Fe、Sn、Pb、Ti、またはHfである請求項1〜3のいずれか一項に記載の架橋性組成物。
【請求項5】
前記C〜C26炭化水素基(Ry−)が、直鎖または分枝状、飽和もしくはモノまたはポリ不飽和、非環状または環状、脂肪族または芳香族である請求項1〜4のいずれか一項に記載の架橋性組成物。
【請求項6】
前記Ry−が、ホルマート、アセタート、アクリラート、メタクリラート、プロピオナート、ラクタート、クロトナート、ピバラート、カプロナート、ソルバート、カプリラート、オレアート、カプラート、ラウラート、リノラート、パルマート、ステアラート、レジナート、ヘキサコサナート、イコペンテナート、エイコサペンタエナート、オキサラート、マロナート、マレアート、フマラート、スクシナート、グルタラート、アジパート、サリチラート、ピメラート、テレフタラート、イソフタラート、シトラートまたはピロメリタートである請求項1〜5のいずれか一項に記載の架橋性組成物。
【請求項7】
前記組成物が、架橋系として、架橋系(3)のみを含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の架橋性組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリマー(1)として、融点またはガラス転移温度が90℃よりも高く、好ましくは120℃よりも高い熱可塑性ポリマー、特に好ましくは、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミドまたはポリプロピレンが使用される請求項1〜7のいずれか一項に記載の架橋性組成物。
【請求項9】
前記エラストマー(2)が、100重量%のエラストマー(2)を基準にして0.5〜15重量%のカルボキシ基、好ましくは100重量%のエラストマー(2)を基準にして0.5〜10重量%、特に好ましくは1〜7重量%、そして特に2〜5重量%のカルボキシ基を含有する請求項1〜8のいずれか一項に記載の架橋性組成物。
【請求項10】
前記エラストマー(2)として、カルボキシ化ニトリルゴム(XNBR)、水素化カルボキシ化ニトリルゴム(HXNBR)、EPM、EPDM、HNBR、EVA、EVM、SBR、NRまたはBRをベースとする無水マレイン酸(「MAH」)グラフト化ゴム、またはカルボキシ化スチレン−ブタジエンゴム(XSBR)、遊離カルボキシ基を有するAEM、遊離カルボキシ基を有するACM、あるいはこれらのエラストマーの所望の混合物が使用される請求項1〜9のいずれか一項に記載の架橋性組成物。
【請求項11】
前記成分(1)としてポリアミドが使用され、前記成分(2)としてHXNBRまたはXNBRが使用される請求項1〜10のいずれか一項に記載の架橋性組成物。
【請求項12】
前記熱可塑性ポリマーの最高融点またはガラス転移温度よりも高い温度において成分(1)、(2)および(3)の全てを混合することによって、請求項1〜11のいずれか一項に記載の架橋性組成物を調製する方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の架橋性組成物に、使用される熱可塑性ポリマー(1)の最高融点またはガラス転移温度よりも高い温度における連続混合手順を施すことによって、1つまたは複数熱可塑性ポリマー(1)と、カルボキシ基を含有する1つまたは複数のエラストマー(2)とをベースとする熱可塑性エラストマーを調製する方法。
【請求項14】
1つまたは複数の熱可塑性樹脂(1)と、カルボキシ基を含有する1つまたは複数のエラストマー(2)とをベースとする熱可塑性エラストマーであって、前記カルボキシ基を含有するエラストマー(2)が、一般式(I)
(Ry−x/yx+ (I)
(式中、Ry−は、y個のカルボキシ基を有するC〜C26炭化水素基であり、
yは、値1、2、3または4でよく、
xは、3または4であり、そして
Mは、3価または4価の金属である)の1つまたは複数の塩を含む架橋系によって架橋されている熱可塑性エラストマー。
【請求項15】
成形品、好ましくは、駆動ベルト、ガスケット、スリーブ、ホース、膜、ダンパー、プロファイルの製造のため、またはプラスチック−ゴムの共押出のため、あるいは成形品の共射出のための、請求項14に記載の熱可塑性エラストマーの使用。
【請求項16】
請求項15に従って得ることができる成形品。

【図1】
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【図2】
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【図2a】
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【図2b】
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【公開番号】特開2007−70632(P2007−70632A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−240624(P2006−240624)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】