説明

架空送電線

【課題】低コストで製造でき、長期間安定した低弛度特性を維持できる架空送電線を提供することを目的とする。
【解決手段】鋼心の外周に隙間を設けてアルミニウム層を配置した電線であって、前記隙間にシリコーングリースが充填された架空送電線、および、鋼心の外周に隙間を設けてアルミニウム層を配置した電線であって、前記隙間に潤滑剤を混合したグリースが充填された架空送電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線に関し、詳しくは弛度を小さく抑え、かつ電流容量が大きい架空送電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、架空送電線として、鋼心部の外周にアルミニウム撚線からなるアルミニウム素線層を配置した鋼心アルミ撚線を用いたものが知られている。
通常の電線は、大きな電流を通電しようとすると、電線温度が高温になるため温度伸びが生じ、弛度が大きくなるという欠点がある。このため、許容電流が大きくかつ高温での運用時にも弛度を抑制した低弛度増容量電線と呼ばれる一連の電線が開発されてきた。従来、低弛度増容量電線としては、大きく分けてインバ電線やギャップ電線が用いられてきた。
【0003】
インバ電線は、鋼心に温度伸び(線膨張係数)の小さいインバ合金を用いることにより、温度伸びとこれに伴う弛度の増大を小さく抑えたものである。
しかし、通常の電線が鋼心に安価な亜鉛めっき鋼線を用いているのに対し、インバ電線では鋼心にFe−Niからなる特殊合金であるインバ合金線を用いているため非常に高価になるという欠点があった。
【0004】
一方、ギャップ電線の構造は図5の例に示すとおりであり、鋼心11とアルミニウム層12との間に隙間(ギャップ)13を設けていることが最大の特徴である。鋼心11は通常の亜鉛めっき鋼線が適用可能である。アルミニウム層12には増容量が目的であるため、通常の硬アルミニウム線より高温で使用可能な「耐熱アルミ合金線」または「超耐熱アルミ合金線」と呼ばれるアルミニウム線などが用いられてきた。そして、ギャップ電線は、ギャップ13に鉱油系グリースを充填することによりアルミニウム層11と鋼心12との間の摩擦を小さくし、さらに、アルミニウム層11が張力を分担しないように施工することで線膨張係数を小さくし、弛度の増大を抑えるものである(例えば、特許文献1)。また、鋼心とアルミニウム層との間に隙間を設けてグリースを充填することにより、送電線の微風振動により最内側のアルミニウム層と鋼撚線部が衝突してもグリースの減摩効果によりアルミニウム、鋼共に摩耗しがたいことが開示される(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2006−318869号公報
【特許文献2】実公昭54−25630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のギャップ電線では、アルミニウム層と鋼心の間の摩擦を小さくするためグリースを充填しているが、通常の鉱油系グリースの耐熱温度は180℃程度であり、これ以上の温度で長時間使用した場合、グリースの劣化によりアルミニウム層と鋼心間に大きな摩擦が生じ、弛度特性が極端に悪くなるという欠点があった。また、比較的低温での使用においても、通常の鉱油系グリースでは、その粘性のためアルミニウム層と鋼心間に少なからず摩擦力を生じ、十分な弛度抑制効果が発揮されないという欠点があった。
そこで、本発明は、低コストで製造でき、長期間安定した低弛度特性を維持できる架空送電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1)鋼心の外周に隙間を設けてアルミニウム層を配置した電線であって、前記隙間にシリコーングリースが充填されたことを特徴とする架空送電線、
(2)鋼心の外周に隙間を設けてアルミニウム層を配置した電線であって、前記隙間に潤滑剤を混合したグリースが充填されたことを特徴とする架空送電線、
(3)鋼心の外周に隙間を設けてアルミニウム層を配置した電線であって、前記隙間に潤滑剤を混合したシリコーングリースが充填されたことを特徴とする架空送電線、
(4)前記鋼心が3本以上鋼線からなる鋼撚線で形成され、前記鋼撚線の内部には少なくとも潤滑剤を混合したシリコーングリースが充填されないことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の架空送電線、および
(5)前記鋼撚線の最外層が略平滑に形成され、前記鋼撚線の内部には少なくとも潤滑剤を混合したシリコーングリースが充填されないことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の架空送電線
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のグリースに耐熱性の高いシリコーングリースを用いた架空送電線は、高温で使用しても鋼心−アルミニウム層間の摩擦が大きくならず、長期間安定した低弛度特性を維持できる。
また、本発明のグリースに潤滑剤を添加した架空送電線は、鋼心−アルミニウム層間の摩擦が小さく、安定した低弛度特性が期待できる。
また、鋼心内部にグリースを充填せず、必要最小限の範囲にグリースを充填することで、高価なシリコーングリース等の使用量を少なくし、電線のコスト増大を抑えることができる。
さらに、本発明の架空送電線は、インバ合金など特殊で高価な材料を必要とせず、低コストで製造可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の架空送電線の一つの実施形態は、鋼心の外周に隙間を設けてアルミニウム層を配置した電線であって、上記隙間にシリコーングリースを充填したものである。
本実施形態に好適なシリコーングリースとしては、ジメチルシリコーンをベースオイルとし、これに増ちょう材としてシリカなどを加えたものが挙げられる。増ちょう材の好ましい濃度は、2〜10質量%である。通常の鉱油系グリースでは耐熱温度が180℃程度であるのに対し、シリコーングリースでは240℃まで使用可能である。
【0009】
本発明の架空送電線の別の実施形態は、鋼心の外周に隙間を設けてアルミニウム層を配置した電線であって、上記隙間に潤滑剤を混合したグリースを充填したものである。
本実施形態ではグリースに潤滑剤を添加することにより、グリースの潤滑性を増大させ、アルミニウム層−鋼心間の摩擦を小さくしている。潤滑剤としては、カーボングラファイトやケイ酸マグネシウムなどの微粉末が好適である。カーボングラファイトは、炭素から成る亀の甲状の層状物質であり、耐熱性や耐食性に優れていると同時に、潤滑性を向上させる効果がある。ケイ酸マグネシウムは一般に滑石やろう石と呼ばれる鉱物で、水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなり、微粉末は潤滑性に優れている。
【0010】
上記の潤滑剤を添加するベースのグリースとしては、従来用いられている鉱油系のグリースでも良いが、上記のシリコーングリースであることが好ましい。
潤滑剤の含有量は、潤滑剤を含んだグリース全体おいて10〜50質量%が好ましく、40質量%程度がさらに好ましい。
【0011】
本発明において用いられる鋼心としては、従来のギャップ電線に用いられる鋼心を用いることができ、例えば、亜鉛めっき鋼線を7〜19本撚り合せたものを用いていることができ。また、特別強力亜鉛めっき鋼線や超強力亜鉛めっき鋼線を用いても良い。なお、特別強力亜鉛めっき鋼線、および超強力亜鉛めっき鋼線について、詳しくは、社団法人日本電気協会発行「架空送電規定」に記載されている。
【0012】
鋼心が3本以上鋼線の撚り線から構成されているときには、鋼線同士で囲まれた、より線の内部には上記のグリースを充填しないことが、通常のグリース比べ比較的高価であるシリコーングリース等の使用量を少なくすることができ好ましい。又、長尺な架空送電線の自重を軽減することができる。
【0013】
本発明において用いられるアルミニウム層としては、従来のギャップ電線に用いられるアルミニウム層を用いることができ、例えば、超耐熱アルミ合金線、耐熱アルミ合金線などのアルミニウム素線を撚り合わせたものを用いることができる。なお、超耐熱アルミ合金線、耐熱アルミ合金線について、詳しくは、上記「架空送電規定」に記載されている。
【0014】
本発明のグリース充填前の電線は、従来のギャップ電線と同様に作成することができる。また、上記のグリースの充填も、従来のギャップ電線における鉱油系グリースの充填と同様に行うことができる。また、鋼心の内部にグリースを充填しない場合には、内層の鋼心をより合わせるとき、グリースを充填しなければ良い。
なお、製造段階でのドラム巻取り時の電線の変形、延線工事の際の金車(滑車状の構造のもの)通過時の電線の変形や、電線の端末処理時に工事による回転の履歴が開放される等によって、鋼線と鋼線に隙間が生じてグリースが鋼心の内部に浸透することがある。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
実施例1
図1は、本発明の架空送電線の1例の断面図である。この電線は、中心に3.5mm径の亜鉛めっき鋼線を7本より合わせた鋼心1と、その周囲に最短0.6mmの隙間(ギャップ)3を設けて10本の超耐熱アルミニウム合金線をより合わせたアルミニウム層2の内層2aと、内層2aの外周に接するように配置された18本の超耐熱アルミニウム合金線を撚り合わせたアルミニウム層2の外層2bとを備えている。延線工事時の金車通過などによりギャップ3が潰れないよう、内層2aの超耐熱アルミ合金線は断面が略台形のセグメント構造としている。この略台形の高さ(内層2aの厚さ)は4.15mmである。また、外層2bは断面が径4.0mmの円形の超耐熱アルミニウム合金線を撚り合わせて形成したものである。
ギャップ3にはジメチルシリコーン油にシリカを混合したシリコーングリースをベースとして、さらに潤滑剤としてカーボングラファイトを40%添加したグリースを充填している。
鋼心1の内部4にも上記のシリコーングリースをベースとしてカーボングラファイトが添加されたグリースが充填されている。
【0017】
次にこの実施例1の電線の径間長300mにおける温度−弛度特性の測定を行った。また、比較の意味で、グリースを潤滑剤入りシリコーングリースから、通常の鉱油系グリースに変更した以外は、実施例1と同様に作成した電線についても同様に温度−弛度特性の測定を行った。通電による電線温度と弛度の測定結果を図2に示す。
図2に示されるように、潤滑剤入りシリコーングリースを用いた電線は、通常のグリースを用いた電線よりも、同じ温度でも弛度が低く、また、通常のグリースの耐熱温度の180度を超える温度であっても、低弛度のまま使用することができる。
なお、温度−弛度特性の計算条件は、電線外径約28mm、通常のグリース入り電線又は潤滑剤入りシリコーングリース入り電線の重さ約1.678kg/mである。
【0018】
実施例2
図3は、本発明の架空送電線の別の例の断面図である。図3に示す電線は、図1に示す実施例1の電線とは、グリースの充填に相違がある以外は同様の構造である。実施例1では、鋼心1を構成する7本の鋼線の内部4にもグリースを充填しているのに対し、実施例2では、鋼心1−アルミニウム層2の間の隙間3だけにグリースを充填し、鋼心1の内部4には充填していない。実施例1の電線に比べ、実施例2の電線ではシリコーングリースの使用量を約15%少なくすることができる。
【0019】
実施例3
図4は、本発明の架空送電線の別の例の断面図である。図4に示す実施例3の電線は、図1に示す実施例1の電線とは、鋼撚線の構成に相違がある以外は同様の構造である。
なお、実施例1と同様のアルミニウム層2の内層2aと外層2bを設けてよく。また、例えば、内層2aを厚くすることにより、電線の電気抵抗が小さくなるので電流容量を大きくすることができる。
さらに、電線断面の略中心から内層2aの内側までの距離を、図3ではr1(電線外径をd1)、図4ではr2(電線外径をd2)とすると、r1>r2であるr2から内層2aを設け、その周囲の外層2bを任意に設計すれば、実施例3の電線外径をd1<d2とすることができる。したがって、実施例1のような構造の電線に比べ、実施例3のような構造の電線では、電流容量が同程度であっても、外径を小さくすることができ、風圧の影響を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の架空送電線の断面図である。
【図2】実施例1の架空送電線の温度−弛度特性測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例2の架空送電線の断面図である。
【図4】実施例3の架空送電線の断面図である。
【図5】従来のギャップ電線の断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 鋼心
2 アルミニウム層
2a アルミニウム層の内層
2b アルミニウム層の外層
3 隙間(ギャップ)
4 銅心の内部
11 鋼心
12 アルミニウム層
13 隙間(ギャップ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼心の外周に隙間を設けてアルミニウム層を配置した電線であって、前記隙間にシリコーングリースが充填されたことを特徴とする架空送電線。
【請求項2】
鋼心の外周に隙間を設けてアルミニウム層を配置した電線であって、前記隙間に潤滑剤を混合したグリースが充填されたことを特徴とする架空送電線。
【請求項3】
鋼心の外周に隙間を設けてアルミニウム層を配置した電線であって、前記隙間に潤滑剤を混合したシリコーングリースが充填されたことを特徴とする架空送電線。
【請求項4】
前記鋼心が3本以上鋼線からなる鋼撚線で形成され、前記鋼撚線の内部には潤滑剤を少なくとも混合したシリコーングリースが充填されないことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の架空送電線。
【請求項5】
前記鋼撚線の最外層が略平滑に形成され、前記鋼撚線の内部には少なくとも潤滑剤を混合したシリコーングリースが充填されないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の架空送電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−295326(P2009−295326A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145747(P2008−145747)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】