説明

染毛料組成物および染毛方法

【課題】染色後の洗髪時における色落ちの解消や染色堅牢性を高めると共に、演色性の悪い蛍光灯下や白熱電球下において、緑味等を帯びることなく自然に美しく見える色味に染色することができ、退色後の色相変化が少なくできるような染毛料組成物を提供する。
【解決手段】本発明の染毛料組成物は、少なくとも酸性染料および酸を含有する染毛料組成物において、酸性染料として、(A)赤色504号、(B)橙色205号、(C)黒色401号および(D)紫色401号を夫々含有し、(A)の含有量が0.001〜1.0%(「質量%」の意味、以下同じ)、(A)と(B)の配合比率[(A):(B)]が8:1〜1:10であると共に、(C)の含有量が0.1%以下(0%を含む)、(C)と(D)の含有量の合計が0.3%以下(0%を含まない)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも酸性染料および酸を含有する染毛料組成物、およびこうした染毛料組成物を用いた染毛方法に関するものであり、特に演色性の悪い光の下においても被染色物が緑味を帯びず自然に美しく見えるようにした染毛料組成物および染毛方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
毛髪を染色するための染毛料には、毛髪を所望の色彩に染めるための色剤(色素)が配合されている。化粧料用の色素としては、酸性染料、塩基性染料、HC染料、酸化染料等、様々なものが知られている。このうち、半永久的に染毛効果を持続させることを目的とする「半永久染毛料」の色素としては、主に酸性染料が用いられており、染毛料における酸性染料の必要性は大きい。酸性染料を用いた染毛料は、酸化染毛剤によるアレルギー等、安全性上の問題や、強いアルカリ剤や過酸化水素によるダメージを避けることができる上、毛髪にハリやコシを付与できる為、白髪染め等に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、半永久染毛料には、染毛後のシャンプー処理などにより染料が徐々に流出し、早ければ数週間で退色したり、薬液が皮膚や衣類につくと着色してしまうという問題がある。特に、退色後に特定の色素が残留することで毛髪が不自然な色味となり、その後のカラー施術に影響を与えるという課題がある。また、染毛直後では、毛髪表面に物理的に吸着している染料が多いことから、洗髪時にその染料が流出して洗液へ非常に濃く色落ちする現象が見られる。また汗をかいたときにも同様の現象が見られることがある。この洗液が、洗髪後にタオルドライした時のタオルを汚し、また汗で流れ出した染料が、衣服の襟周りや帽子を汚すといった問題がある。
【0004】
白髪染めに用いられる色味としては茶色系、黒褐色系、黒色系等が中心であり、一般的には数種類の酸性染料を組み合わせることで色味を作り出している。特に、茶色や黒褐色等、白髪染め用途を中心とした色味を作り出す場合には、橙色(だいだい色)205号、黒色401号、紫色401号等が凡用されており(例えば、特許文献1、2)、それらを組み合わせることで茶色や黒褐色、黒色等の色味を作り出している。その他の染料を用いることにより見出された従来技術としては、酸性染毛料の課題である染色後の洗髪時における色落ちの解消や染色堅牢性を高めたもの(例えば、特許文献3)等が存在する。
【0005】
酸性染料を組み合わせて作り出した色味にて毛髪を染色した場合、特定の光源下では異なった色に見える現象(演色)が起こるという問題があった。この演色性(えんしょくせい)とは、特定の照明などである物体を照らしたときにその物体の色の見え方に及ぼす光源の性質のことで、一般的に自然光を基準にして「良い」、「悪い」または「高い」、「低い」と判断されている。
【0006】
一般家庭で繁用されている蛍光灯や白熱電球等は特に演色性が悪い照明であり、太陽光下や高演色性の照明下で見た色味と大きく異なることがある。例えば、茶色(ブラウン)、黒褐色(ダークブラウン)、黒色(ブラック)等で染色した白髪毛髪を演色性の悪い蛍光灯下や白熱電球下で見ると、暗い灰みの緑等の色に見えることがあり、特に酸性染毛料には演色現象が起こりやすいという問題がある。
【0007】
ところで、照明の種類や照度によって色の見え方が異なる現象は、ヘアカラーのみならず、スキンケアやネイル関連においても課題とされてきた。酸化チタン等を利用したスキンケアにおける従来技術として、例えば特許文献4〜6等も提案されている。しかしながら、酸性染毛料においてこれを解決する技術は提案されていない。
【0008】
また酸性染毛料は、酸性染料の他、アルコール類、有機溶剤、pH調整剤である有機酸等を主成分とし、これに使用時に頭髪から垂れ落ちないように増粘剤を配合したものが一般的に用いられている。しかしながら染毛効果を高めるために、酸やアルコール類、有機溶剤の添加が必要となるが、これらは安定性が低下する原因となる。そのため、安定性維持等の観点から使用される増粘剤は限定される。
【0009】
このような条件下で使用される酸性染毛料の操作性等を改善するため、種々の増粘剤が提案されている(例えば、特許文献7〜9)。しかしながら、これらの増粘剤では、その操作性の面で満足する結果が得られていないのが現状である。
【0010】
一方、犬や猫の動物の被毛を一時的に着色し、カラフルな色調を追加することによりペットの個性を引き出したり、親しみを感じる自然なカラーをペットに施し愛玩用として、ペットへのカラー施術が行われる場合がある。そのため、しっかりと美しく染まり、しかも、色落ち等が少ない特性を有する染毛料(カラー剤)の実現が望まれている(例えば、非特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−069131号公報 実施例など
【特許文献2】特開2002−226334号公報 実施例など
【特許文献3】特許第4326170号公報 特許請求の範囲など
【特許文献4】特開2000−198716号公報 特許請求の範囲など
【特許文献5】特開2009−179598号公報 特許請求の範囲など
【特許文献6】特開昭62−53916号公報 特許請求の範囲など
【特許文献7】特公平02−32253号公報 特許請求の範囲など
【特許文献8】特許第3425529号公報 特許請求の範囲など
【特許文献9】特許第3916194号公報 特許請求の範囲など
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「ハッピートリマー」 ペットライフ社 2009年発行 vol.35,p59〜67
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、染色後の洗髪時における色落ちの解消や染色堅牢性を高めると共に、演色性の悪い蛍光灯下や白熱電球下において、緑味等を帯びることなく自然に美しく見える色味に染色することができ、退色後の色相変化が少なくなり、必要によって操作性にも優れた染毛料組成物、およびこうした染毛料組成物を用いた染毛方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
茶色や黒褐色等の色味の酸性染毛料にて染色した被染色物を、演色性の悪い蛍光灯下や白熱電球下で測色した場合には、暗い灰みの緑などに見えることは前述した通りである。こうした問題を解決する為には、緑色の補色にあたる赤系の色素を多く含めれば良いことは着想できる。しかしながら、単純に赤系の色素を多く用いただけでは、赤味を帯びた色味(赤茶色、赤褐色等)しか作り出すことができず、目的とする茶色や黒褐色に染色することはできなかった。しかも、洗髪時の色落ちや染色堅牢性が悪くなるという別の問題も生じた。また黒色や灰色といった色味についても同様であり、赤系の色素を多く含んだ場合、目的とした黒色や灰色が得られないという問題があった。
【0015】
本発明者は、上記実情を鑑み鋭意検討を重ね、色素(酸性染料)の組み合わせを検討した。その結果、特定の酸性染料を特定の含有量や比率にて含有させることにより、優れた染色堅牢性を有すると共に、退色後の色味が自然であり、且つ様々な光環境下、特に演色性の悪い蛍光灯下や白熱電球下においても自然に美しく見える色味に染色することができる染毛料組成物が実現できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
即ち、本発明の染毛料組成物は、少なくとも酸性染料および酸を含有する染毛料組成物において、酸性染料として、(A)赤色504号、(B)橙色205号、(C)黒色401号および(D)紫色401号を夫々含有し、(A)の含有量が0.001〜1.0%(「質量%」の意味、以下同じ)であると共に、(A)と(B)の含有比率[(A):(B)]が8:1〜1:10であり、且つ(C)の含有量が0.1%以下(0%を含む)であると共に、(C)と(D)の含有量の合計が0.3%以下(0%を含まない)である点に要旨を有するものである。
【0017】
尚、本発明の染毛料組成物で用いる「酸性染料」は、医薬品等に使用することができるタール色素を定める省令(昭和41年厚生省令30号)に記載されているタール色素の中の酸性染料である。
【0018】
本発明の染毛料組成物には、酸性染料として、更に(E)黄色4号、黄色5号、黄色203号、黄色403号(1)、黄色406号および黄色407号よりなる群から選ばれる1種または2種以上を配合することもでき、これによって色味の微妙な調整が可能となり、より幅広い色調が得られる。
【0019】
本発明の染毛料組成物は、ヒト毛髪の染色に用いられるものであることを想定したものであるが、犬または猫の被毛の染色に用いられるものとしても有用である。
【0020】
本発明の染毛料組成物には、必要によって更に、カルボキシビニルポリマーおよびポリアクリル酸アミドを含有することも有効であり、これによって染毛料組成物の操作性も優れたものとなる。
【0021】
上記のような本発明の染毛料組成物を用いて染色することによって、染色後の被染色物が、演色性の悪い蛍光灯下や白熱電球下においても、緑味を帯びず自然に美しく見えるようになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、酸性染料として、(A)赤色504号、(B)橙色205号、(C)黒色401号および(D)紫色401号を夫々含有し、これらの含有量や含有比率を厳密に規定することによって、演色性の悪い蛍光灯下や白熱電球下においても緑味などを帯びることなく自然に美しく見える色味に染色することができ、洗髪時の色落ちが少なく、染色堅牢性に優れ、退色後の色味が自然に見える染毛料組成物が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】高演色形蛍光灯下での色味の状態を、処方例29(毛束A)と処方例32(毛束B)とを比較して示した図面代用写真である。
【図2】白熱電球下での色味の状態を、処方例29(毛束A)と処方例32(毛束B)とを比較して示した図面代用写真である。
【図3】高演色形でない蛍光灯下での色味の状態を、処方例29(毛束A)と処方例32(毛束B)とを比較して示した図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の染毛料組成物では、酸性染料として、(A)赤色504号、(B)橙色205号、(C)黒色401号および(D)紫色401号を夫々含有し、これらの含有量や含有比率を厳密に規定したものである。本発明で用いるこれらの酸性染料は、医薬品等に使用することができるタール色素を定める省令において、法定色素名が「ポンソ−SX」(赤色504号)、「オレンジII」(橙色205号)、「ナフトールブルーブラック」(黒色401号)および「アリズロールパープル」(紫色401号)として知られているものである。
【0025】
本発明の染毛料組成物では、酸性染料として赤色504号を用いることが重要な要件となるのであるが、その含有量(染毛料組成物全体に対する割合:以下同じ)は、0.001〜1.0%とする必要がある。赤色504号の含有量が0.001%未満になると、被染色物を演色性の悪い蛍光灯下や白熱電球下で観察した場合に、緑味を帯びてしまい、室内において自然な美しい色味に見えなくなり、本発明の効果が達成されない。また、この含有量が1.0%を超えると、毛髪表面に物理的に吸着する染料の量が多くなって、洗髪時にその染料が流出してしまい色落ちが生じてしまい、タオルや衣類への染着が問題となったり、退色後の毛髪に強い赤味が残留することで後々のカラー施術に影響を与えてしまうことになる。赤色504号の含有量の好ましい下限は0.01%以上(より好ましくは0.03%以上)であり、好ましい上限は0.2%以下(より好ましくは0.1%以下)である。
【0026】
(A)赤色504号と(B)橙色205号の含有比率[(A):(B)]は、8:1〜1:10とする必要があり、橙色205号の含有量をこの比率に応じて適宜設定する必要がある。この含有比率[(A):(B)]が8:1よりも大きくなると[(A)の含有比率が多くなると]、赤色504号によって赤味が強くなりすぎ、目的とする茶色や黒褐色等を作り出すことが出来なくなる。またこの含有比率[(A):(B)]が1:10よりも小さくなると[(A)の含有比率が少なくなると]、被染色物を演色性の悪い蛍光灯下や白熱電球下で測色した場合、緑味を帯びてしまい、室内において自然な美しい色味に見えなくなることから十分な効果が期待できない。この含有比率[(A):(B)]の好ましい上限は1:1以下であり、好ましい下限は1:8以上である。
【0027】
上記含有比率[(A):(B)]が1:10よりも小さくなったときに、上記のような現象が生じる理由については、その原因を解明できた訳ではないが、おそらく橙色205号が優先的に毛髪へ染着し、赤色504号の染着が阻害されることで、赤色504号による効果が十分得られなくなると考えられる。
【0028】
本発明の染毛料組成物では、上記(A)赤色504号と(B)橙色205号の他、(C)黒色401号および(D)紫色401号を含有するものであるが、このうち黒色401号の含有量は、0.1%以下とする必要がある。黒色401号の含有量が0.1%を超えて過剰になると、被染色物を演色性の悪い蛍光灯下や白熱電球下で観察した場合に、緑味を帯びてしまい、室内において自然な美しい色味に見えなくなる。黒色401号の含有量の好ましい上限は0.05%以下である。
【0029】
但し、黒色401号の含有量は、必要によって0%とすることができる。茶色や茶褐色といった白髪染めに用いられる色味の色相には大まかに赤色〜黄色まで様々であり、被施術者の好みによって目的とする明度や色相が異なるため、(C)黒色401号および(D)紫色401号の含有量を調整することになる。そのため、目的とする茶色の明度や色相によっては、(C)黒色401号を必要としない場合がある(後記処方例44参照)。
【0030】
本発明で用いる紫色401号は、茶色、黒褐色、黒色、灰色等の白髪染めに多用される色味を作り出すために必要な酸性染料である。また黒色401号と紫色401号は、濃い茶色や黒褐色といった、しっかりと白髪染めをするときに必要な酸性染料である。(C)黒色401号と(D)紫色401号の含有量の合計は、過剰になると毛髪表面に物理的に吸着する染料が多くなることから、洗髪時にその染料が流出して洗液へ非常に濃く色落ちしてしまい、タオルや衣類への染着の問題となる。こうしたことから、上記合計含有量は0.3%以下とする必要がある。好ましくは0.2%以下である。但し、濃い茶色や黒褐色の色調によってしっかりと白髪染めをする為には、合計含有量は0.05%以上とすることが好ましい(より好ましくは0.1%以上)。特に、紫色401号による上記効果を有効に発揮させるためには、紫色401号の含有量は0.01%以上(より好ましくは0.06%以上)とするのが良い。
【0031】
尚、(C)を含有する場合には、(C)と(D)の含有比率[(C):(D)]は、被染色物における退色後の色味の変化に影響を及ぼすことから、[(C):(D)]は5:1〜1:7の範囲とすることが好ましい。即ち、[(C):(D)]が5:1よりも大きくなると退色が進行することで、徐々に赤味が増していくことが問題となり、1:7よりも小さくなると退色が進行することで、徐々に黄味が増していくことが問題となる。より好ましい[(C):(D)]の範囲は、5:4〜1:5である。
【0032】
本発明の染毛料組成物では、上記(A)〜(D)の酸性染料の他、必要によって黄色系酸性染料である(E)黄色4号、黄色5号、黄色203号、黄色403号(1)、黄色406号および黄色407号から選ばれる1種または2種以上を更に配合することもできる。これらの染料を含有させることによって、色味の微妙な調整が可能となり、より幅広い色調が得られ、本来の染毛力を損ねることなく、自然光や蛍光灯、白熱電球など、様々な光環境下においても自然で美しく見える。
【0033】
但し、これらの黄色系酸性染料を含有させる場合には、その効果を発揮させるためには、0.01%以上含有させることが好ましい。しかしながら、その含有量が過剰になると洗髪時の色落ちが激しくなるので、0.5%以下とすることが好ましい。
【0034】
また、本発明の染毛料組成物では、上記で規定した要件を満足している限り、通常知られている他の酸性染料も必要によって含有させても良い。これによって、被染色物の色味を目的とする色味に近づけることができる。こうした酸性染料として、例えば、赤色2号、赤色3号、赤色102号、赤色104号(1)、赤色105号(1)、赤色106号、緑色3号、青色1号、青色2号、赤色201号、赤色227号、赤色230号(1)、赤色230号(2)、赤色231号、赤色232号、橙色207号、黄色202号(1)、黄色202号(2)、緑色201号、緑色204号、緑色205号、青色202号、青色203号、青色205号、褐色201号、赤色401号、赤色502号、赤色503号、赤色506号、橙色402号、黄色402号、緑色401号、緑色402号等を挙げることができる。
【0035】
本発明の染毛料組成物は、少なくとも上記酸性染料と酸を含むものであるが、酸は染毛料組成物(酸性染毛料)において、主として毛髪をカチオン性にし、アニオン性の酸性染料を毛髪に吸着させやすくする作用がある。本発明の染毛料組成物のpHは1.5〜5.0、好ましくは1.5〜4.0であって、pHが1.5未満であると皮膚刺激など安全性の上から好ましくなく、pHが5.0を超えると染毛性が損なわれる。染毛料組成物をこの好適のpHにするのに用いる酸としては、特に限定しないが、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸や、酢酸、クエン酸、酒石酸、プロピオン酸、乳酸、サリチル酸、グリコール酸、コハク酸、リンゴ酸、酪酸等の有機酸の1種または2種以上を用いることができる。この中で特に乳酸は、仕上がりの手触りが非常に良好であるので好ましい。また、これらの酸のアルカリ金属塩等、例えば、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化カリウムなどを組合せることにより、好適なpHの範囲内でpH緩衝能をもたせることができる。
【0036】
本発明の染毛料組成物には、必要によってカルボキシビニルポリマーおよびポリアクリル酸アミドを含有させても良く、これらの成分は染毛料組成物において、主として粘性を持たせて毛髪に塗布しやすくすると共に操作性を向上させるものである。
【0037】
このうちカルボキシビニルポリマーは、主にアクリル酸の重合体であり、増粘剤のほかに分散剤、乳化安定剤として市販もされている。カルボキシビニルポリマーの市販品としては、商品名カーボポール934、940、941、980、981、ULTREZ10(Lubrizol社製)等を挙げることができる。
【0038】
カルボキシビニルポリマーを含有させるときの含有量は、その効果が発揮されれば特に限定されないが、好ましくは染毛料組成物全体に対して0.1〜3%程度、より好ましくは0.5〜2%程度である。カルボキシビニルポリマーの含有量が0.1%未満になると、施術時に液だれを生じたり、剤型の安定性が悪くなるため好ましくない。また、3%を超えて含有させると、粘度が高くなり過ぎて施術し難くなるため好ましくない。
【0039】
ポリアクリル酸アミドも、増粘剤のほかに分散剤、乳化安定剤としても市販されている。ポリアクリル酸アミドの市販品としては、ポリアクリル酸アミド(40%)、軽質流動イソパラフィン(24%)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(7E.0)(6%)、および精製水(30%)をプレミックスしたゲル化剤「セピゲル305(SEPPIC社製・商品名)」等が挙げられる。
【0040】
ポリアクリル酸アミドの含有量は、その効果が発揮されれば特に限定されないが、好ましくは染毛料組成物全体に対して3〜7%程度であり、より好ましくは、5〜6%程度である。ポリアクリル酸アミドの含有量が3%未満となると、施術時に液だれを生じるため好ましくない。また、含有量が7%を超えると、粘度が高くなり過ぎて施術し難くなるため好ましくない。
【0041】
尚、上記のカルボキシビニルポリマーやポリアクリル酸アミドは、併用して使用するが、使用するときの粘度としては、操作性(液垂れ、伸びが良い)という観点から、液温:30℃で30000〜130000mPa・s程度が適している。
【0042】
本発明の染毛料組成物は、通常配合される添加剤を含むものであっても良い。こうした添加剤としては、例えば、油脂類・ワセリン・ワックス類などの油剤、保湿剤、界面活性剤類(アニオン性界面活性剤類・カチオン性界面活性剤類・ノニオン性界面活性剤類・両性界面活性剤類)、シリコーン類、カチオン化ポリマー、キレート剤、酸化防止剤、安定化剤、pH調整剤、溶剤、消炎剤、香料等が挙げられ、これらを通常程度配合することができる。
【0043】
本発明の酸性染料を用いた染毛料組成物の剤型は、クリーム剤型が有用であるが、ジェル状剤型で用いることもできる。
【実施例】
【0044】
次に、実施例によって本発明をより具体的に示すが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0045】
[実施例1]
実施例で用いた染毛料組成物の基本処方は下記の通りである。尚、単位は全て質量%である。
ベンジルアルコール(溶剤) 4.0%
エタノール(溶剤) 6.0%
ポリアクリル酸アミド 3.0%
カルボキシビニルポリマー 2.0%
乳酸(酸) pH3.5とする量
酸性染料 検討量(各表)
精製水 残部(合計100%にする量)
【0046】
上記した基本処方に、種々の酸性染料を配合した処方例を常法にて調製した。まず有効な色素をスクリーニングする為、以下の試験を行った。
【0047】
<演色評価試験1>
下記表1、2に示した酸性染毛料(処方例1〜10)を調製し、化学的処理(酸化染毛・脱色処理等)を受けていない人由来の毛髪の毛束(10.0cm、1.0g、100%白髪毛)に塗布し、45℃、15分間放置した。その後水洗し、ラウリル硫酸トリエタノールアミン10%水溶液で洗浄した後風乾した。この段階で、(a)色評価用高演色形蛍光灯下、(b)高演色形でない蛍光灯下、(c)白熱電球下、の夫々での色味を、専門のパネラー(10名)により目視で評価した。評価の基準として、JIS色名帳第二版(JIS Z 8102準拠、日本規格協会)を参考とし、基準値として系統色名とマンセル値を下記表1、2に示した。
【0048】
マンセル値は、日本では、JIS Z 8721(三属性による色の表示方法)として規格化されている表色系の一種であり、「色相 明度/彩度」を表している。マンセル表色系の色相は大きく10色相に分割されており(R、YR、Y、GY、G、BG、B、PB、P、RP)、この基本10色を10分割した色を1〜10として色名の頭文字に付加して表現する。例えば、「青緑」であれば10BG、「黄色」であれば5Yとなる。またマンセル表色系の明度は1〜10までであり、彩度は0〜14の間で表記される。
【0049】
試験には高演色形でない蛍光灯(白色:色温度約4200K、アイビジョン製)、白熱電球(電球色:色温度約2800K、パナソニック製)、色評価用高演色形蛍光灯(演色AAA、昼白色:色温度約5000K、アイビジョン製)を夫々用いた。
【0050】
<色落ち試験>
演色評価試験と同様の染色方法にて染色した毛束を、40℃のラウリル硫酸ナトリウム1%水溶液(500ml)に15分間浸漬し、その後十分に水洗した後風乾した。退色後の「色落ち」を、専門のパネラー(10名)により目視で評価し、以下の基準で判定した。
【0051】
[色落ち試験の評価基準]
3点:非常に少ない
2点:少ない
1点:色落ちする
0点:非常に色落ちする
【0052】
(合計値の評価基準)
◎:26点〜30点
○:21点〜25点
△:16点〜20点
×:0点〜15点
【0053】
これらの結果を、下記表1、2に併記する。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
表1、2の結果から明らかなように、(A)赤色504号(処方例1)は高演色形でない蛍光灯下および白熱電球下においても彩度がほぼ一定であり、赤系の色素の中でも特異な性質を有することが分かる。
【0057】
また、(B)橙色205号(処方例7)については、色落ちが非常に少ないことがわかる。更には、(A)赤色504号と(B)橙色205号を組み合わせたもの(処方例10)は、高演色形蛍光灯下、蛍光灯下および白熱電球下において、色相や彩度がほとんど変化せず、しかも色落ちが少ないことが分かる。
【0058】
これらの結果に基づき、蛍光灯下および白熱電球下において彩度が低下しない性質を有する(A)赤色504号を配合することで、茶色や黒褐色、黒色といった色調が高演色形でない蛍光灯下および白熱電球下において、緑味を帯びることのない染毛料組成物を得ることが出来ると考えられる。
【0059】
[実施例2]
実施例1に示した基本処方に、種々の酸性染料を配合し、下記表3〜7に示す各種染毛料組成物(処方例11〜52)を調製し、実施例1で示した色落ち試験の他、次に示す演色評価試験2、退色試験前後での色味変化試験を行った。その結果を、下記表3〜7に併記する。
【0060】
<演色評価試験2>
下記表3〜7に示した染毛料組成物(処方例11〜52)を調製し、化学的処理(酸化染毛・脱色処理等)を受けていない人由来の毛髪の毛束(10.0cm、1.0g、100%白髪毛)に塗布し、45℃、15分間放置した。その後水洗し、ラウリル硫酸トリエタノールアミン10%水溶液で洗浄した後風乾させた。この段階で、(a)高演色形でない蛍光灯下における「緑味の強さ」、(b)白熱電球下における「緑味の強さ」、(c)色評価用高演色形蛍光灯下における「色調」を、専門のパネラー(10名)により目視で評価し、以下の基準で判定した。
【0061】
[高演色形でない蛍光灯下および白熱電球下における緑味の強さの評価基準]
3点:「緑味」をまったく感じない
2点:「緑味」をあまり感じない
1点:「緑味」を感じる
0点:「緑味」を非常に感じる
【0062】
(合計値の評価基準)
◎:26点〜30点
○:21点〜25点
△:16点〜20点
×:0点〜15点
【0063】
[色評価用高演色形蛍光灯下での色調の評価基準]
3点:「赤味」を帯びない茶色
2点:「赤味」を少し帯びた茶色
1点:「赤味」を帯びた茶色
0点:「赤味」を強く帯びた茶色
【0064】
(合計値の評価基準)
◎:26点〜30点
○:21点〜25点
△:16点〜20点
×:0点〜15点
【0065】
試験には実施例1と同様に、高演色形でない蛍光灯(白色:色温度約4200K、アイビジョン製)、白熱電球(電球色:色温度約2800K、パナソニック製)、色評価用高演色形蛍光灯(演色AAA、昼白色:色温度約5000K、アイビジョン製)を夫々用いた。
【0066】
<退色試験前後での色味変化試験>
色落ち試験後の毛束の退色程度を処理前の毛束と比較し、専門のパネラー(10名)により目視にて色味の変化を評価した。
【0067】
[退色試験前後での色味変化試験の評価基準]
3点:変化なし
2点:ほとんど変化なし
1点:少し変化した
0点:大きく変化した
【0068】
(合計値の評価基準)
◎:26点〜30点
○:21点〜25点
△:16点〜20点
×:0点〜15点
【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
【表6】

【0073】
【表7】

【0074】
これらの結果から次のように考察できる。(A)赤色504号、(B)橙色205号、(C)黒色401号、(D)紫色401号を、適切に含有させたもの(処方例11、17、23、31〜34、36〜46、49〜51)は、高演色形でない蛍光灯下、および白熱電球下において、緑味の強さが感じられず、高演色形蛍光灯下で赤味を帯びることなく、しかも色落ちが少ないことが分かる。
【0075】
上記で示した処方例29(毛束A)と処方例32(毛束B)について、高演色形蛍光灯下での色味の状態を比較して図1に、白熱電球下での色味の状態を比較して図2に、高演色形でない蛍光灯下での色味の状態を比較して図3に、夫々示す。
【0076】
[実施例3]
犬の被毛に対する効果を確認する為、実施例1に示した基本処方に、種々の酸性染料を配合し、下記表8に示す各種染毛料組成物(処方例29、12、33、36、51、52:表2〜7に示したものと組成上同じ)を調製し、実施例1に示した色落ち試験、実施例2に示した退色試験前後での色味変化試験の他、下記の演色評価試験3を行った。それらの結果を、下記表8に併記した。
【0077】
<演色評価試験3>
下記表8に示した酸性染毛料を調製し、化学的処理(酸化染毛・脱色処理等)を受けていない犬の被毛束(犬種:プードル、被毛の色調:白色、約3cm、0.5g)に演色評価試験2と同様に塗布し、45℃、15分間放置した。その後水洗し、ラウリル硫酸トリエタノールアミン10%水溶液で洗浄した後風乾した。この段階で、以下の評価項目について、高演色形でない蛍光灯下および白熱電球下における「緑味の強さ」、色評価用高演色形蛍光灯下における「色調」を専門のパネラー(10名)により目視で評価し、以下の基準で判定した。
【0078】
[高演色形でない蛍光灯下および白熱電球下における緑味の強さの評価基準]
3点:「緑味」をまったく感じない
2点:「緑味」をあまり感じない
1点:「緑味」を感じる
0点:「緑味」を非常に感じる
【0079】
(合計値の評価基準)
◎:26点〜30点
○:21点〜25点
△:16点〜20点
×:0点〜15点
【0080】
[色評価用高演色形蛍光灯下での色調の評価基準]
3点:「赤味」を帯びない茶色
2点:「赤味」を少し帯びた茶色
1点:「赤味」を帯びた茶色
0点:「赤味」を強く帯びた茶色
【0081】
(合計値の評価基準)
◎:26点〜30点
○:21点〜25点
△:16点〜20点
×:0点〜15点
【0082】
【表8】

【0083】
この結果から明らかなように、(A)赤色504号、(B)橙色205号、(C)黒色401号、(D)紫色401号を、適切に含有させたもの(処方例12、33、36、51)は、犬の被毛を処理した場合であっても、人毛髪を処理した場合と同様の効果が得られていることが分かる。
【0084】
[実施例4]
下記表9に示した染毛料組成物(処方例53〜60)を調製し、専門のパネラー(10名)により、垂れ落ち試験、色評価用高演色形蛍光灯下での色調試験を行った。垂れ落ち試験については下記の方法で行い、色評価用高演色形蛍光灯下での色調試験については、上記実施例1〜3と同様に行った。尚、表9に示したキサンタンガム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルグアーガム、タマリンドガム、ジェランガムは、化粧料用増粘剤として従来から使用されているものである。その結果を、下記表9に併記した。
【0085】
<垂れ落ち試験>
上記で得られた染毛料組成物を、カップに入れ、その薬剤をコームで取る。そして毛髪に塗布したときの垂れ落ちを目視により、以下の点数による基準で評価した。
【0086】
[垂れ落ち試験の評価基準]
3点:全く垂れ落ちない
2点:ほとんど垂れ落ちない
1点:少し垂れ落ちる
0点:垂れ落ちる
【0087】
(合計値の評価基準)
◎:26点〜30点
○:21点〜25点
△:16点〜20点
×:0点〜15点
【0088】
【表9】

【0089】
この結果から明らかなように、カルボキシビニルポリマーおよびポリアクリル酸アミドを併用して適正量含有させたもの(処方例55)では、毛髪に塗布したときの垂れ落ちがなく操作性が良好になっていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸性染料および酸を含有する染毛料組成物において、酸性染料として、(A)赤色504号、(B)橙色205号、(C)黒色401号および(D)紫色401号を夫々含有し、(A)の含有量が0.001〜1.0%(「質量%」の意味、以下同じ)であると共に、(A)と(B)の含有比率[(A):(B)]が8:1〜1:10であり、且つ(C)の含有量が0.1%以下(0%を含む)であると共に、(C)と(D)の含有量の合計が0.3%以下(0%を含まない)であることを特徴とする染毛料組成物。
【請求項2】
更に、酸性染料として、(E)黄色4号、黄色5号、黄色203号、黄色403号(1)、黄色406号および黄色407号よりなる群から選ばれる1種または2種以上を配合したものである請求項1に記載の染毛料組成物。
【請求項3】
ヒト毛髪の染色に用いられるものである請求項1または2に記載の染毛料組成物。
【請求項4】
犬または猫の被毛の染色に用いられるものである請求項1または2に記載の染毛料組成物。
【請求項5】
更に、カルボキシビニルポリマーおよびポリアクリル酸アミドを含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の染毛料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の染毛料組成物を用いて染色し、染色後の被染色物が、演色性の悪い蛍光灯下や白熱電球下においても、緑味を帯びず自然に美しく見えるようにすることを特徴とする染毛方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−157290(P2011−157290A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19393(P2010−19393)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000213482)中野製薬株式会社 (57)
【Fターム(参考)】