説明

染毛料組成物

【課題】本発明に使用される染料の組み合わせは、黒色に配合しやすく、染着性に優れ、また従来の染毛用染料であるカチオン染料の配合例と比較し、シャンプー堅牢性にも優れ、退色時の不自然な色味も抑えることができる黒褐色〜黒色系染毛料組成物を提供すること。
【解決手段】特に人の毛髪等に含まれるケラチン繊維に対する染着性に優れ、また従来の黒色系カチオン染料を配合した染毛料組成物と比較し、染着性に優れ、シャンプー堅牢性が改善された色調変化の少ない黒色系染毛料組成物を見出した。すなわち、オキサジン系染毛用染料とキサンテン系染毛用染料および染毛用として使用可能なその他の染毛用染料を含有する染毛用染料(a)成分、助剤(b)成分(湿潤剤、膨潤剤、浸透剤、pH調整剤、界面活性剤、香料など)、および水(c)成分を含有する黒褐色〜黒色系染毛料組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染毛用染料としてBasic Blue 75、Basic Violet 10およびBasic Brown 16を配合し、必要ならその他の染毛用染料を混合し、特に人の毛髪および家畜の毛に含まれるケラチン繊維を黒褐色〜黒色系に染色し、シャンプー・トリートメント処理しても色調変化が少ない染毛料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な染毛の分類としては、(1)パラフェニレンジアミンなどの酸化染料に、使用時に過酸化水素水と混合することにより毛髪中のメラニン色素を脱色と酸化発色して化学的に人の毛髪に含まれるケラチン繊維と反応させる化学反応型(染毛剤)と(2)酸性染料や塩基性染料などの直接染料がプラスやマイナスの電荷を持つケラチン繊維に物理的吸着することにより、染料分子が毛髪に浸透し染着する物理吸着型(染毛料)に大きく分けることができる。
【0003】
毛髪染色の大部分は酸化染料を用いる染色方法であるが、この方法は毛髪に無色の前駆物質を付与し、この前駆物質を酸化重合させて巨大着色物質を形成するものである。それにより永く安定した染毛が保持できるが、ジアミン系の酸化染料の一部には体質によりまれに皮膚アレルギー反応(カブレ)を引き起こすことがあるなど、毒物学的危険の可能性がある。また、その他の成分としてアンモニアなどのアルカリ剤を含むため、毛髪を痛める欠点がある。
【0004】
一方、毛髪を一時的に着色するもので代表的製品としてヘアマニキュアやカラーリンスがある。このヘアマニキュアやカラーリンスの主染料は化粧品に使用される酸性染料で、先の酸化染料と比較してアレルギー反応性は低いため染毛剤でカブレを起こす人でも使用できる利点がある。またアルカリ剤を使用しないので、毛髪へのダメージは少ない。しかし、化学反応型の酸化染料と比較して、洗髪時に色落ちがしやすいなどの欠点がある。
さらに酸性染料同士を混合し、黒髪に染めることができるが、ヘアカラーに使用される酸性染料には良好な青色が少ないため、シャンプー・トリートメントで繰り返し洗浄すると赤味の強い髪色に変化する欠点がある。
【0005】
また、この毛髪を一時的に着色するヘアマニキュア等の着色料として、酸性染料以外に塩基性染料が使用されているが、これらによる染毛の堅牢度は中程度を有する。特に、塩基性染料の中でも、カチオン染料による染毛の耐光堅牢性やシャンプー堅牢性は低いといわれている。
さらに塩基性染料同士を混合して黒髪に染めることができるが、ヘアカラーに使用される塩基性染料には良好な赤色が少ないため、特願2007-249854に示される優れた青色染毛用染料のBasic Blue 75を使用したときは、シャンプー・トリートメントで繰り返し洗浄すると緑味の髪色に変化する問題がある。
【0006】
染料の三原色(黄、赤、青)を適当に組み合わせて配合することにより、任意の色に調色することができるが、反応型染毛剤の場合には色番ごとに酸化剤との混合割合を変えるために染毛時の色が色番と異なることが多い。一方、ヘアマニキュアなどの染毛料の場合は発色した各染料を配合して使用するため、目的とする色番に調製し易いなどの利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
人の毛髪や家畜の毛に上記の直接染料で急速に染色する方法として、染色に適切な溶媒中でアリールメタン染料、カチオン性アゾ染料、メチン染料、アゾメチン染料等を用いて染色する方法(例えば、特許文献1参照)やケラチン含有繊維、特に人の毛髪をカチオン染料で染色する方法に関する文献(例えば、特許文献2参照)がある。
特に、カチオン染料は高い染着性と良好な水溶性を有しているので、人の毛髪および家畜の毛の染色に好適であるが、染毛の耐光堅牢性やシャンプー堅牢性ではまだ充分でない。
【特許文献1】特開2004−285048号公報
【特許文献2】特表平8−507545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カチオン染料の高い染着性と良好な水溶性特性を生かし、人の毛髪や家畜等の毛に含まれるケラチン繊維に対して染着性が優れ、シャンプー洗髪しても色調変化が少なく、シャンプー堅牢性にも優れた、黒褐色〜黒色系染毛料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、配合した黒色系カチオン染料を使用した染毛料組成物の中で、特に人の毛髪等に含まれるケラチン繊維の染着性に優れ、また従来の黒色系カチオン染料を配合した染毛料組成物と比較し、その弱点であるシャンプー堅牢性が改善され、色調変化が少ない黒色系染毛料組成物を鋭意検討の末に見出した。
【0010】
すなわち本発明は、一般式(I)で表わされるオキサジン系染毛用染料と一般式(II)で表わされるキサンテン系染毛用染料および染毛用として使用可能なその他の染毛用染料を含有する、染毛用染料(a)成分、助剤(b)成分としては湿潤剤、膨潤剤、浸透剤、pH調整剤、界面活性剤、香料等、および水(c)成分を含み、前記染毛用染料(a)成分の含有量は全染毛料組成物に対し0.001〜5質量%であり、前記助剤(b)成分としては、少なくともアニオン界面活性剤またはカチオン界面活性剤またはノニオン界面活性剤を含有することを特徴とする、染着性およびシャンプー堅牢性に優れた、黒褐色〜黒色系染毛料組成物である。
【0011】
【化1】

【0012】
式中、R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子または直鎖もしくは分岐のアルキル基(炭素数1〜5)、また陰イオンAnは、塩素イオン、臭素イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、有機陰イオン、または錯塩陰イオンを表す。
【0013】
【化2】



(II)
【0014】
式中Anは、塩素イオンまたはR−COOイオンを表す。Rは、炭素数1〜18までのアルキル基を表す。
【0015】
前記助剤(b)成分としての界面活性剤は、少なくともアニオン界面活性剤またはカチオン界面活性剤またはポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等のノニオン界面活性剤である。
【0016】
さらに本発明の染毛料組成物のpH値が3〜8であることを特徴とする、染着性に優れ、シャンプー洗浄しても色調変化が少なく、シャンプー堅牢性に優れた、黒褐色〜黒色系染毛料組成物である。
【0017】
さらに一般式(I)における前記錯塩陰イオンが一般式(III)で表される陰イオンであることを特徴とする。
【0018】
【化3】

【0019】
さらに一般式(I)で表される染料が一般式(IV)で表される染料C.I.Basic Blue 75であることを特徴とする。
【0020】
【化4】

(IV)
【0021】
陰イオンAnは、塩素イオン、臭素イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、ヨウ素イオンその他の無機陰イオン、有機陰イオン、または錯塩陰イオンを表す。
【0022】
さらに一般式(II)で表わされる染料が一般式(V)で表わされる染料Basic Violet 10であることを特徴とする。
【0023】
【化5】


(V)
【0024】
また本発明は、前記染毛用染料(a)が、一般式(IV)で表わされるオキサジン系青色染料のBasic Blue 75、一般式(V)で表わされるキサンテン系赤色染料のBasic Violet 10および茶色染料Basic Brown 16であることを特徴とする、染着性およびシャンプー堅牢性に優れた、黒褐色〜黒色系染毛料組成物である。
【0025】
さらに本発明は、前記染毛用染料(a)が、Basic Blue 75、Basic Violet 10、Basic Brown 16、およびこれら以外に染毛用として使用可能な染毛用染料を含有することを特徴とする、染着性およびシャンプー堅牢性に優れた、黒褐色〜黒色系染毛料組成物である。
【発明の効果】
【0026】
実施例の評価試験結果より明らかなように、本発明に使用される染料の組み合わせは、黒色に配合しやすく、染着性に優れ、また従来の染毛用染料であるカチオン染料の配合例と比較し、シャンプー堅牢性にも優れ、退色時の不自然な色味も抑えることができる。
【0027】
また、当該染毛料組成物は、pH値が3〜8の広い範囲で使用が可能である。
【0028】
青色カチオン染料のBasic Blue 75は、濃色に染まる長所を有するが、髪への染着性が強すぎ、混合して他のカチオン染料を配合し黒褐色〜黒色としたとき、繰り返しシャンプー・トリートメントで洗髪すると青色が強く残留するため、洗髪後の髪色が緑味に変化するという問題があった。
【0029】
本発明の当該染毛料組成物は、赤色のBasic Violet 10および茶色のBasic Brown 16を併用することにより、シャンプー堅牢性に優れ、黒色から洗髪後、淡黒色へと色調の変化が少ない。しかし、例えばBasic Violet 10のかわりに、染毛用に使用できる赤色カチオン染料である、Basic Red 76、 Basic Red 51を使用した場合は、シャンプー・トリートメント試験後は、青味の色が強く、洗髪後の髪は緑味となる。
【0030】
これらのことから、本発明のBasic Blue 75、Basic Violet 10およびBasic Brown 16を配合した染毛料組成物は、染着力に優れ、髪を黒色に濃く染めると同時に、シャンプー・トリートメント処理を繰り返しても、赤味や緑味になることなく、黒味を保持しながら退色し、染毛料組成物として優れた特徴がある。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の染毛料組成物は、複数の当該染毛用染料(a)成分、助剤(b)成分(湿潤剤、膨潤剤、浸透剤、pH調整剤、界面活性剤、香料など)、および水(c)成分を含有するものである。
【0032】
本発明の目的に合わせ適宜配合する界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤またはノニオン界面活性剤等であるが、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビトールアルキルエーテル等の糖アルコールエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等が挙げられる。好ましいのは、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートである。
【0033】
一般式(IV)で表わされる染料C.I.Basic Blue 75(CAS.番号12221−43−1、CAS.番号73398−25−1)と一般式(V)で表わされるBasic Violet 10に、他のカチオン染料であるBasic Brown 16などを混合して使用することができる。その配合量の合計は、全染毛料組成物に対し0.001〜5質量%である。0.001質量%未満の濃度では、色調維持および均染性の効果は得られず、また5質量%を超える場合は添加の効果は期待できない。好ましくは0.01〜2.5質量%である。
【0034】
本発明の染毛料組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で従来公知の化粧品用成分も添加し使用することができる。たとえば、高級アルコール、ワセリン、多価アルコール、エステル類、防腐剤、殺菌剤、シリコーン誘導体、増粘剤、溶媒等が挙げられる。また、染毛料組成物のpH値は3〜8である。
【0035】
本発明で使用する水は、複数の当該染毛用染料(a)成分と、助剤(b)成分を溶解するために配合され、その配合割合は、全体の100質量%から(a)成分と(b)成分の質量%を差し引いた残余である。なお、水とはイオン交換水、精製水または浄水である。
【0036】
なお、以下の実施例および比較例に記載の染料名は、以下の通り略称する。
C.I.Basic Blue 75: Blue 75
C.I.Basic Blue 99: Blue 99
C.I.Basic Violet 10: Violet 10
C.I.Basic Brown 16: Brown 16
C.I.Basic Red 76: Red 76
C.I.Basic Red 51: Red 51
C.I.Solvent Red 49(Stearate): S.Red 49
【実施例】
【0037】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、配合量は質量部を表す。
【0038】
実施例1〜6、比較例1〜5
[検体作製]
各染色組成液の組成内容を[表2]および[表3]に示す。また、染色組成液で人毛白髪を染色するため、黒色の染色組成液10質量部を染色容器に採り、前記人毛白髪100%(株式会社ビューラックス製BM−W)1質量部を入れて、45℃×20分染色した。この染毛を軽く水洗して、5%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液10質量部中で45℃×5分処理し、水洗して自然乾燥して試験用検体とした。これら各検体を下記の試験法、評価法に従って評価を行った。その結果を[表2]および[表3]に示す。
【0039】
[シャンプー・トリートメン試験法]
検体1質量部を5%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液10質量部中で45℃×20分処理し、水洗後に5%塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液10質量部中で45℃×20分処理し、水洗する。この操作を5回繰り返す。
【0040】
[評価法]
これら試験前後の検体を[表1]に示す「評価項目および条件」に従って評価を行ない、その結果を[表2]および[表3]に示す。
【0041】
[濃度]
反射率Rを分光色彩計JS555(株式会社カラーテクノシステム製)で測定し、下式(Kubelka−Munk式)により濃度(K/S)を算出した。
K/Sは濃度に比例し、数値の大きい方が濃度は高い。
K/S=Σ(1−Rλ)2/2Rλ
λ:波長λの反射率を100で割った数値
λ :400〜700nmの10nm間隔
K/Sd:ブランク(未染毛)のK/Sを差引いた数値
【0042】
[彩度C*、彩度差ΔC*、色差ΔE*の計算]
分光色彩計JS555を使用してL*a*b*(CIE1976表色系)を測定して下記の式より求めた。
【0043】
表色は3つのパラメーター(L*、a*およびb*)で規定される。
L*は明度、a*、b*は色相と彩度を示す色度。
L*値が大きいほど着色の強度は小さい。
a*は、赤/緑の対の軸に対応する。プラスが赤、マイナスが緑である。
b*は、黄/青の対の軸に対応する。プラスが黄、マイナスが青である。
【0044】
C*={(a*)+(b*)1/2
C*は彩度を表し、数値が小さい方がくすんだ色(Grayish)である。
ΔC*は彩度差を表し、数値の小さい方が彩度の差が小さい。
彩度差ΔC*が3.0以下であれば彩度が類似の範囲といえる。
【0045】
ΔE*={(ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2
ΔE*は色差を表し、数値の小さい方が色の差が小さい。
【0046】
[評価項目と条件]
下記[表1]の(1)〜(7)項目について、その条件を満足するものは○、不満足のものは×とした。
【0047】
【表1】

【0048】
[総合評価]
全評価項目を満足するものを合格とし◎、評価項目2つが不満足なものを△、
評価項目3つ以上が不満足なものを×とした。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0051】
詳述したように本発明によれば、染着力に優れ、髪を黒色に濃く染めると同時に、シャンプー・トリートメント処理を繰り返しても、赤味、緑味になることなく、黒味を保ちながら退色するため、色変化が少ない自然な毛髪感の染毛料が提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表わされるオキサジン系染毛用染料と下記一般式(II)で表わされるキサンテン系染毛用染料および染毛用として使用可能なその他の染毛用染料を含有する、染毛用染料(a)成分、助剤(b)成分、および水(c)成分を含み、
前記染毛用染料(a)成分の含有量は全染毛料組成物に対し0.001〜5質量%であり、前記助剤(b)成分としては、少なくともアニオン界面活性剤またはカチオン界面活性剤またはノニオン界面活性剤を含有することを特徴とする、染着性およびシャンプー堅牢性に優れた、黒褐色〜黒色系染毛料組成物。
【化1】

(I)

[式中R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子または直鎖若しくは分岐の炭素数1〜
5のアルキル基、陰イオンAnは、塩素イオン、臭素イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、有機陰イオン、または錯塩陰イオンを表す。]
【化2】


(II)

[式中Anは、塩素イオンまたはR−COOイオンを表す。Rは、炭素数1〜18までのア
ルキル基を表す。]
【請求項2】
前記染毛料組成物のpH値が3〜8であることを特徴とする請求項1記載の染着性および
シャンプー堅牢性に優れた、黒褐色〜黒色系染毛料組成物。
【請求項3】
前記染毛用染料(a)が、Basic Blue 75、Basic Violet 10およびBasic Brown 16であることを特徴とする請求項1記載の染着性および
シャンプー堅牢性に優れた、黒褐色〜黒色系染毛料組成物。
【請求項4】
前記染毛用染料(a)が、Basic Blue 75、Basic Violet 10、Basic Brown 16およびこれら以外に染毛用として使用可能な染毛用染料を含有することを特徴とする請求項1記載の染着性およびシャンプー堅牢性に優れた、黒褐色〜黒色系染毛料組成物。

【公開番号】特開2011−190187(P2011−190187A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55659(P2010−55659)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】