説明

染色アラミドフィラメント繊維構造物及びその製造方法

【課題】通常の染色設備で多種類の色展開が可能な後染めにより染色でき、染色性の良好なアラミドフィラメント繊維構造物。特に、アラミドフィラメント繊維がパラ系アラミドフィラメント繊維であっても染色性が良好なアラミドフィラメント繊維構造物。
【解決手段】流体加工が施されたアラミドフィラメント繊維を含むアラミドフィラメント繊維構造物を染色する。アラミドフィラメント繊維がパラ系アラミドフィラメント繊維であることが好ましい。アラミドフィラメント繊維の流体加工は、単糸繊度0.1〜10デシテックス、総繊度10〜7000デシテックス、撚り係数0〜10000のアラミドフィラメント繊維をオーバーフィード率0〜15%で流体噴射ノズル内を流通させつつ、供給圧力0.29〜1MPaの流体を前記流体噴射ノズルに供給することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切れにくさ、耐熱性など、パラ系アラミド繊維の特徴を維持した消防防火服、消防防火手袋、手袋、靴下、作業服、炉前服などの防護衣料、スキー、スノーボード、登山、モーターボートなどに用いるスポーツ衣料、建築や工場などの作業用ユニフォームなどに用いる染色アラミドフィラメント繊維構造物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(以下パラ系アラミド繊維と記す)は、高強度、高弾性率、高耐熱性、非導電性、錆びないなどの高い機能性と、有機繊維特有のしなやかさと軽量性を併せ持った合成繊維である。パラ系アラミド繊維は、高強度、高モジュラスを有し、タイヤや、ベルト、光ファイバーコード、ロープなどに用いられているのはよく知られている。また、空気中で427〜482℃という有機繊維ではもっとも高い水準の熱分解温度をもち、限界酸素指数が29で、本質的に燃えにくい素材であることや、刃物によって切りにくいことから、作業用手袋や作業衣などの安全防護衣料やスポーツ衣料、消防防火服などの耐熱服も開発されている。
【0003】
これらの利用分野において、上記性能に加え、染色性の付与が求められているが、高い結晶性と分子間結合力が強固で緻密な構造のためパラ系アラミド繊維を染色することは困難であった。
【0004】
これまでアラミド繊維を染色する方法として次のような手段が提案されている。
特開昭54−59476号公報(特許文献1)には、10クリンプ/インチ以上のクリンプをかけ、坐屈した部位から染色する方法が開示されている。また、特開平2−41414号公報(特許文献2)には紡糸ドープ中に有機顔料を添加する方法が開示されている。
特開平11−217727号公報(特許文献3)には、水分含量が6%以下に乾燥された履歴を持たないことを特徴とする染色可能なポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の染色方法が提案されている。
特開平10−102384号公報(特許文献4)には、カード処理を行ったパラ系アラミド繊維の染色方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−59476号公報
【特許文献2】特開平2−41414号公報
【特許文献3】特開平11−217727号公報
【特許文献4】特開平10−102384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特開昭54−59476号公報の方法は、強度の高い剛直なパラ系アラミド繊維においては、工業的に10クリンプ/インチ以上のクリンプをかけることは困難であり、またステープルに限られるという制約がある。加えて、ステープルであるため、繊維構造物へ適用するには、紡績糸とするための紡績工程が必要である。さらに、ステープルを紡績したアラミド紡績糸からなる繊維構造物は、アラミドフィラメント糸からなる繊維構造物に比べ、毛羽が発生しやすい、引っ張り強さが低い、耐摩擦性に劣る等の問題がある。
特開平2−41414号公報は、いわゆる原着紡糸方法についての提案であり、一色あたりの量的な生産が前提となる上、色相が限られる。
【0007】
特開平10−102384号公報の方法は、アラミド紡績糸からなる繊維構造物であるため、アラミドフィラメント糸からなる繊維構造物に比べ、毛羽が発生しやすい、引っ張り強さが低い、耐摩擦性に劣る等の問題がある。
特開平11−217727号公報の方法は、パラ系アラミドフィラメントを量の多少に関わらず、多種類の色相に染め分けることができるが、均一な色相を得るために染色前のパラ系アラミド繊維の水分率を一定に維持する必要がある。また、パラ系アラミド繊維の保管、撚糸や製織、ニット工程で、パラ系アラミド繊維の乾燥が進むので染色性が低下し、保管後の糸条、織物や、ニットなどの布帛の状態でのいわゆる後染め工程で商品価値のある色相濃度に染色することは事実上困難である。
【0008】
これまで、アラミド繊維の高強度、高弾性率という特長を維持し、毛羽が出にくいフィラメントの形態で、撚糸、製織、ニットなどの高次加工品の形態で、しかも通常の染色設備で多種類の色展開が可能な後染めという手法を行う方法は実現できていない。
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消したものであり、染色性の良好なアラミドフィラメント繊維構造物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の染色アラミドフィラメント繊維構造物は、以下の形態をとる。
(1)本発明の染色アラミドフィラメント構造物は、流体加工が施されたアラミドフィラメント繊維を含むアラミドフィラメント繊維構造物を染色したことを特徴とする。
(2)本発明の染色アラミドフィラメント繊維構造物は、前記アラミドフィラメント繊維が、パラ系アラミドフィラメント繊維であることを特徴とする。
【0010】
(3)本発明の染色アラミドフィラメント繊維構造物の製造方法は、アラミドフィラメント繊維に流体加工を施し、前記流体加工を施したアラミドフィラメント繊維を染色することを特徴とする。
(4)本発明の染色アラミドフィラメント繊維構造物の製造方法は、前記流体加工は、単糸繊度0.1〜10デシテックス、総繊度10〜7000デシテックス、撚り係数0〜10000のアラミドフィラメント繊維をオーバーフィード率0〜15%で流体噴射ノズル内を流通させつつ、供給圧力0.29〜1MPaの流体を前記流体噴射ノズル内に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の染色アラミドフィラメント繊維構造物は、染色が困難であると考えられていたアラミド繊維のフィラメントであっても、またさらに、そのアラミドフィラメント繊維が、パラ系アラミドフィラメント繊維であっても種々の色に染めることが可能であり、アラミド繊維を用いたものであるにも拘らず、染色した作業用手袋や作業衣などの安全防護衣料やスポーツ衣料、消防防火服などの耐熱服に好適である。またファッション性に優れた、糸条、織物、編物等の布帛、衣服や鞄、シューズなどを提供することができる。これらの繊維製品は、アラミドフィラメント繊維で構成されるので、従来の染色したアラミド紡績糸からなるアラミド繊維製品と異なり、耐摩耗性、引っ張り強さ、毛羽立ちが少ないなどの特徴がある。また、毛羽立ちが少ないことから、毛羽やホコリがあってはならないクリーンルームや塗装工程で使用される染色した防護衣料、耐熱衣料にも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】アラミドフィラメント繊維の流体加工を説明する流体加工装置の模式図である。
【図2】流体加工前のアラミドフィラメント繊維の表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】流体加工後のアラミドフィラメント繊維の表面を示す操作型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の染色アラミドフィラメント繊維構造物は、流体加工が施されたアラミドフィラメント繊維(以下、可染性アラミドフィラメント繊維ともいう)を含むアラミドフィラメント繊維構造物を染色したものである。
【0014】
アラミドフィラメント繊維構造物とは、アラミドフィラメント繊維を含むフィラメント糸条、マルチフィラメント糸条、かさ高加工糸、フィラメント撚糸などの糸条、不織布、織物、編物である。
アラミドフィラメント繊維構造物は、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、アセテート、レーヨン等の化学繊維や綿、羊毛、絹、麻などの天然繊維をはじめ、他のアラミド繊維や全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等と混紡、混繊、交織、交編されているものであってもよい。
また、例えば、アラミドフィラメント繊維の糸条と、ナイロン、ポリエステルなどの合成繊維フィラメントや、高強度や耐薬品性などを特徴とした機能性繊維すなわちPBO繊維(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、商品名“ザイロン”、東洋紡(株)製)、ポリアリレート繊維(商品名“ベクトラン”、クラレ(株)製)、ポリフェニレンサルファイド繊維(PPS繊維)などと同時に流体加工を施した可染性のアラミドフィラメント繊維の複合糸が挙げられる。
あるいは、可染性アラミドフィラメント繊維及び/または染色したアラミドフィラメント繊維と合糸、合撚などにより、ナイロン、ポリエステルなどの合成繊維のフィラメントや、高強度や耐薬品性などを特徴とした機能性繊維すなわちPBO繊維、ポリアリレート繊維、PPS繊維などと複合糸を作ることもできる。複合糸に占める本発明のアラミドフィラメント繊維の量は限定されるものではないが、アラミドフィラメント繊維の耐熱性や切れにくさを保つ上で、複合糸の20%以上が望ましく、さらに望ましくは50%以上である。
これらの糸条、織物、編物、不織布などの繊維構造物は、衣服、手袋、鞄、靴等の形状となっていてもよい。
【0015】
本発明における可染性アラミドフィラメント繊維は、公知のアラミドフィラメント繊維に流体加工を施したものである。アラミドフィラメント繊維は、流体加工が施されることにより、染色性が良好となる。
アラミドフィラメント繊維としては、主鎖に芳香族環を有するポリアミドからなる繊維であり、耐熱性に優れたメタ系アラミド繊維(デュポン(株)商品名“ノーメックス”、帝人(株)商品名“コーネックス”など)と、耐熱性に優れ、かつ引っ張り特性において高強度、高引っ張り弾性率で、刃物で切りにくい特性を持つパラ系アラミド繊維(東レ・デュポン(株)商品名“ケブラー”、帝人(株)商品名“テクノーラ”など)が知られている。本発明では、特に染色しにくいアラミドフィラメント繊維であるパラ系アラミドフィラメント繊維を用いることができる。パラ系アラミドフィラメント繊維は、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド、及び/またはポリ−p−フェニレンテレフタルアミド/3,4’−ジフェニルエ−テルテレフタルアミド共重合体を用いて得られたものが好ましい。
【0016】
本発明の染色アラミドフィラメント繊維構造物の製造方法は、アラミドフィラメント繊維に流体加工を施し(流体加工処理)、前記流体加工を施したアラミドフィラメント繊維を染色する(染色処理)ものである。
例えば、染色アラミドフィラメント繊維構造物は、流体加工を施したアラミドフィラメント繊維を含み、1〜数千本程度のアラミドフィラメント繊維により構成された糸条のものに流体加工を行った(流体加工処理)後、フィラメント糸条、マルチフィラメント糸条、かさ高加工糸、フィラメント撚糸などの糸条、不織布、織物、編物の形態となし、または、それを用いて衣服や手袋等の形態とし(構造化処理)、該流体加工を施したアラミドフィラメント繊維を含むアラミド繊維構造物を染色する(染色処理)ことによって得られる。また、アラミドフィラメント繊維より構成された糸条の撚糸などは流体加工前に行ってもよく、かさ高加工などは流体加工と同時に行うことも可能である。
また、強度の観点からは、用いる糸条は撚糸を行ったものが好ましく、撚糸は流体加工、前、後のいずれで行ってもよい。
【0017】
流体加工処理には、公知の流体加工の方法を用いることができる。流体加工の一例について、図1を用いて説明する。図1は、アラミドフィラメント繊維の流体加工を説明する流体加工装置10の模式図である。
流体加工装置10は、流体噴射ノズル20と、フィードローラー30と、デリベリローラー40とで概略構成されている。流体噴射ノズル20の一次側には、一対のフィードローラー30が設けられている。流体噴射ノズル20の二次側には、一対のデリベリローラー40が設けられている。流体噴射ノズル20には、糸条のアラミドフィラメント繊維Fが流通するノズル孔22が設けられている。加えて、流体噴射ノズル20には、ノズル孔22に流体を供給する流体孔24が設けられている。
【0018】
流体噴射ノズル20としては公知のものを用いることができ、例えば、特公昭34−8969号公報や特公昭35−1673号公報等に記載されている、いわゆるタスランノズルを使用することが好ましい。
【0019】
次に、流体加工装置10を用いた流体加工について説明する。アラミドフィラメント繊維Fは、一対のフィードローラー30により繰り出され、ノズル孔22に流入する。次いで、流体孔24から、アラミドフィラメント繊維Fの流れ方向に向かって斜めに合流するように、流体を矢印Dの方向で供給する。ノズル孔22に流入したアラミドフィラメント繊維Fは、流体孔24から供給された流体と共にノズル孔22を流通し、ノズル孔22の出口から流出する。流出したアラミドフィラメント繊維Fは、デリベリローラー40に引き込まれるように、その進行方向を変える。この間、例えば、アラミドフィラメント繊維Fは、ノズル孔22内で流体による応力を受け加工される。また、例えば、アラミドフィラメント繊維Fは、ノズル孔22から流出し、その進行方向が変更され流体から取り出される。この時、流体がフィラメントの側面からすり抜けることで、周方向の旋回や、繊維軸方向への激しい振動等の応力が単繊維毎に加えられる。このようにアラミドフィラメント繊維Fに、流体による応力が加えられることによって、可染性アラミドフィラメント繊維となる。
ノズル孔22から流出し、流体から解放された可染性アラミドフィラメント繊維は、一対のデリベリローラー40により、巻き取り装置などに送られる。
【0020】
なお、流体のノズル孔22への供給は、アラミドフィラメント繊維Fの流れ方向に対し向流となる流れで合流するようにしてもよいし、略垂直に合流するようにしてもよい。ただし、アラミドフィラメント繊維Fに過度の応力を与えることを防止するために、流体はアラミドフィラメント繊維の流れ方向に向かって斜めに合流させることが好ましい。
【0021】
アラミドフィラメント繊維は糸条であればよいが、フィラメント数は2本以上のマルチフィラメント糸条が望ましい。糸条を構成するアラミドフィラメント繊維の単繊維の繊度(太さ:単糸繊度)は、0.1〜10デシテックスが望ましく、好ましくは0.5〜6デシテックス、さらに好ましくは1〜3デシテックスである。0.1デシテックス以下では、流体加工による外力により単繊維の一部が切断し毛羽立ちを発生する。10デシテックス以上では、繊維のしなやかさが減少して衣料への適用に支障をきたす。
【0022】
アラミドフィラメント繊維の糸条の総繊度は、10〜7000デシテックスが望ましく、好ましくは30〜4000デシテックスであり、さらに好ましくは50〜2000デシテックスである。総繊度10デシテックス以下では、流体加工時にアラミドフィラメント繊維の糸条が切断され易く、7000デシテックス以上では前記流体加工条件(流量、圧力)において染色に対する流体加工の効果が十分でない。
【0023】
流体加工に供するアラミドフィラメント繊維の糸条の撚りは、撚り係数において0〜10000が望ましく、好ましくは0〜6000であり、さらに好ましくは0〜4000である。撚り係数は下記(1)式によって定義される。
【0024】
撚り係数K=1mあたりの撚り数×√総繊度(デシテックス) ・・・(1)
【0025】
撚り係数10000以上では、アラミドフィラメント繊維の糸条を構成する単繊維は撚りによって拘束され一体となっているので、流体加工を施しても染色に対する流体加工の効果が十分ではない。
【0026】
流体噴射ノズル20に供給する流体は、圧縮空気やスチーム等の気体であってもよいし、水等の液体であってもよい。アラミドフィラメント繊維に過度の応力を与えないようにする観点から、流体は気体であることが好ましく、染色性の観点からはスチームがより好ましい。流体の供給圧力は、流体の種類、アラミドフィラメント繊維Fの種類、繊度、フィラメント数、目的とする交絡度等を勘案して決定される。例えば、圧縮空気であれば3〜10.2kgf/cm(0.29〜1MPa)が好ましく、スチームであれば3〜10.2kgf/cm(0.29〜1MPa)が好ましい。上記範囲内であれば、アラミドフィラメント繊維が可染性となると共に、高強度、高弾性率等のアラミドフィラメント繊維の特長を維持できる。
【0027】
流体加工時における、フィードローラー30とデリベリローラー40との間のオーバーフィード率は、下記(2)式で定義される。
【0028】
オーバーフィード率OF(%)=[{フィードローラー周速(m/分)/デリベリローラ周速(m/分)}−1]×100 ・・・(2)
【0029】
アラミドフィラメント繊維の糸条の流体加工時のオーバーフィード率は、可染性アラミドフィラメント繊維に求める性状等を勘案して決定でき、例えば、0〜15%が望ましく、2〜13%がより望ましい。15%を超えると、アラミドフィラメント繊維の糸条が流体噴射ノズル20の出口から垂れ下がり、流体加工が困難となる。一方、0%未満であると、アラミドフィラメント繊維の糸条を構成する単繊維は、張力によって拘束され一体となっているので、流体加工を施しても染色に対する流体加工の効果が十分でないおそれがある。
加えて、本発明では、オーバーフィード率が0%であっても染色性の改善されたアラミドフィラメント繊維を得ることができる。このため、可染性アラミドフィラメント繊維には、様々な加工を施すことができるため、得られる染色アラミドフィラメント繊維構造物は、染色による種々のカラー展開に加え、消費者の要求に応じ、風合い、外観においても様々なものが提供できる。
染色性の観点からは、オーバーフィード率は2%以上がより好ましい。
【0030】
ここで、オーバーフィード率を高くすると、アラミドフィラメント繊維の糸条はかさ高となり、かさ高加工糸の形態となる。オーバーフィード率を低くした場合、あるいは、オーバーフィード率を高くした場合でもデリベリローラの後でストレッチを加えた場合、アラミドフィラメント繊維の糸条はかさ高さが低く、流体加工前のかさ高性のないフィラメント繊維の糸条に似た形態となる。可染性アラミドフィラメント繊維は、かさ高を高くしても、かさ高を低くしても、いずれも流体加工が施されているので、可染性を有する。
【0031】
構造化処理は、従来公知の方法により、可染性アラミドフィラメント繊維をアラミドフィラメント繊維構造物にすることができる。例えば、流体加工が施されたアラミドフィラメント繊維のみを糸条として用いたり、該糸条のみを用いて織物、編物、不織布等の布帛を製造し、アラミドフィラメント繊維構造物とすることができる。また、例えば、可染性アラミドフィラメント繊維と、他の化学繊維又は天然繊維とを混紡、混繊、交織、交編し、糸条、織物、編物、不織布等のアラミドフィラメント繊維構造物とすることができる。
また、前記糸条、織物、編物、不織布を用いて衣服、手袋、鞄、靴などの形状としてもよい。
【0032】
染色処理は、アラミドフィラメント繊維構造物を染色することで、可染性アラミドフィラメント繊維を染色することができる。
【0033】
本発明において染色条件は特に限定しないが、以下の条件が望ましい。
可染性アラミドフィラメント繊維を含むアラミドフィラメント繊維構造物の染色に用いる染料は、カチオン染料、分散染料、含金属酸性染料などを挙げることができる。
【0034】
カチオン染料としては、公知のカチオン染料を用いることができ、絶縁型カチオン染料、共役型カチオン染料等任意のカチオン染料を用いることができ、市販染料では、例えば、レギュラータイプとして知られる保土谷化学工業(株)製のAizen、Aizen Cathion(商標)、DyStar Japan Ltd.製のAstrazon(商標)、日本化薬(株)製のKayacryl(商標)などを用いることができる。また、分散タイプとして知られている保土谷化学工業(株)製のAizen Cathion DP(商標)、日本化薬(株)製のKayacryl ED(商標)などを用いることができる。
【0035】
また、分散染料としては、アゾ系分散染料、アントラキノン系分散染料、縮合系分散染料など公知の分散染料を用いることができ、市販されている染料では、例えば、DyStar Japan Ltd.のDianix(商標)、日本化薬(株)製のKayalon Polyester(商標)や紀和化学工業(株)製のKiwalon Polyester(商標)などを用いることができる。
染色性、色相の観点からは、カチオン染料が好ましく用いられる。
染料の濃度は、必要とされる濃度や色相により任意に設定すればよいが、上記の市販の染料にて、アラミドフィラメント繊維の質量に対し0.0001〜20%omf程度で染色される。
【0036】
染浴中には、染料のほかに、pH調整のための酢酸、ギ酸、酢酸ソーダ、ソーダ灰や市販されているpH調整剤を用い、用いる染料のタイプに応じpHを調整すればよく、カチオン染料を用いる場合にはpH3〜pH7程度に調整するとよい。
また、染浴中には、染色濃度の向上の観点より、キャリア成分として、アセトフェノン、ベンゾアルデヒド、ベンジルアルコール、ベンゾニトリル、ジメチルスルホン酸、ジクロルフェノールのエチレンオキサイド付加物、サリチル酸メチル、安息香酸メチル、置換型けい皮酸、ベンゼンジカルボン酸など、染着促進のための無機塩として硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩など、キャリアの乳化剤として非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、例えば、ポリオキシアルキレンソルビタンアルキレート、ヒマシ油のアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ジオクチルスルホサクシネート、スルホン化ヒマシ油などの染色助剤を含むとよい。これらは1種以上を配合して用いてもよい。
また、染浴中には、耐光堅牢度向上の観点より、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤を含むとよい。
【0037】
染色時の染色温度は、用いる染料に応じ任意に設定すればよいが、カチオン染料を用いる場合には、90℃〜160℃がよい。好ましくは110〜140℃が好ましい。染色温度が90℃を下まわるとカチオン染料で、十分にアラミドフィラメント繊維を染めることができず、また、160℃を超えると酸素などが共存した場合、アラミドフィラメント繊維の強度が低下する恐れがある。
【0038】
染色処理は、糸条の場合は、高圧型のカセ染機、織物、編物、不織布などの布帛の場合は、液流型染色機、気流型染色機、高圧ジッカー、高圧ビーム型染色機、高圧ドラム型染色機などのバッチ型染色機を用いるとよい。
また、織物、編物、不織布を用いた衣服、鞄、靴、手袋などの形状となっているものは、高圧ドラム型染色機が好ましく用いられる。
染色物の濃度(濃く染まる)との観点からは、液流染色機、気流染色機、液流気流ミックス型染色機を用いるとより好ましい。
【0039】
液流型染色機若しくは液流気流ミックス型染色機を用いる場合の浴比は、流体加工を施したアラミドフィラメント繊維を含むアラミドフィラメント繊維構造物の質量を1として1:1〜1:100、より好ましくは1:3〜1:40程度が好ましい。1:1よりも染液が少ない場合には染ムラになる恐れがあり、1:100よりも染液が多い場合には濃度が十分上がらない恐れがある。
また、連続染色法や超臨界、亜臨界状態での染色を行う場合には、熱処理温度、浴比など夫々の好ましい条件にて染色処理を行えばよい。
【0040】
染色した後は、必要に応じ、ソーダ灰、苛性ソーダなどのアルカリ剤とハイドロサルファイトなどの還元剤を用いた60〜95℃程度での還元洗浄や界面活性剤を用いた40〜95℃程度でのソーピング、または、30〜95℃程度での湯洗いや常温での水洗などを行えばよい。
【0041】
必要に応じ上記のソーピングなどを行った後、80〜150℃程度にて10秒〜3分程度乾燥し、150〜230℃にて10秒〜3分程度熱セットを行うとよい。ここでの熱セットは、染色処理時にキャリアを用いた場合の脱キャリア処理も同時に行うことができる。
【0042】
染色アラミドフィラメント繊維構造物の染色の程度は、K/S値として5〜20が好ましい。K/S値が5未満であると耐光堅牢度が不十分(2級未満)となるおそれがある。K/S値が20を超えると、洗濯堅牢度が不十分(汚染3級未満)となったり、摩擦堅牢度(乾燥擦)が不十分(3級未満)となるおそれがある。
【0043】
上述のとおり、アラミドフィラメント繊維に流体加工を施すことにより、アラミドフィラメント繊維は容易に染色される。流体加工処理において、アラミドフィラメント繊維はバラバラにされ、流体による繊維の周方向への旋回や、繊維軸の垂直方向への激しい振動など、繊維一本一本に対して外力が加えられ、フィブリル化や、剥離、キンクバンド、亀裂などが発生する。これらの微細な損傷がアラミドフィラメント繊維内部への染料の浸透を許し、アラミドフィラメント繊維の可染化がなされると考えられる。
例えば、パラ系アラミドフィラメント繊維においては、伸びきり鎖結晶と伸びきり鎖非晶からなっていると考えられ、さらにこれら繊維分子が繊維軸方向に高度に配向しているので繊維軸と垂直方向に加えられる外力によって前記損傷を受けやすい。このことは、流体加工前後の繊維のSEM(走査型電子顕微鏡)写真による観察によっても説明できる。図2は、流体加工前のアラミドフィラメント繊維の表面のSEM写真である。繊維表面はなめらかで損傷は見られない。図3は、流体加工後のアラミドフィラメント繊維の表面のSEM写真である。アラミドフィラメント繊維表面に繊維軸方向のフィブリル化をおこしており、またキンクバンドも観察され、繊維にこれらの微細な損傷が発生していることが観察される。
このように、アラミドフィラメント繊維構造物は、流体加工が施されて微細な損傷が発生した可染性アラミドフィラメント繊維を含むことで、染色性が良好になると推測される。
【0044】
上述のとおり、本発明は、可染性アラミドフィラメント繊維を含むアラミドフィラメント繊維構造物である糸条及び、それを加工した撚糸、織物、編物、不織布は、染色処理まで、繊維の水分率などを一定以上に保つなど乾燥や吸湿、温度などにおいての管理は特別に行わなくともよく、通常の繊維の保管と同じ環境条件で保管することができる。
【0045】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
例えば、染色アラミドフィラメント繊維構造物は、可染性アラミドフィラメント繊維を含むアラミドフィラメント繊維構造物であるフィラメント糸条や、かさ高加工糸などの糸条を染色した後に、撚糸、織物、編物、不織布に加工しても良いし、染色する前に撚糸、織物、編物、不織布に加工してその後染色しても良い。いずれも染色後に、色調の調整のために、さらに追加の染色を行うこともできる。
また、流体加工を施したアラミドフィラメント繊維を含むアラミドフィラメント構造物である糸条、織物、編物、不織布は、染色前または染色後に、縫製、編製等にて衣服、手袋、鞄、靴などの形状となっていてもよい。
【0046】
流体加工したアラミドフィラメント繊維を含むアラミドフィラメント繊維構造物が、糸条の場合は、ナイロン、ポリエステルなどの合成繊維、羊毛、木綿、麻などの天然繊維、流体加工前のアラミド繊維、PBO繊維、ポリアリレート繊維、PPS繊維などと複合した、復合糸、交織織物、交編ニットやこれらを用いた衣服等などとした後に染色することができる。また、染色したアラミドフィラメント繊維の糸条と、ナイロン、ポリエステルなどの合成繊維、羊毛、木綿、麻などの天然繊維、流体加工前のアラミド繊維、PBO繊維、ポリアリレート繊維、PPS繊維などと複合した、復合糸、交織織物、交編ニットやこれらを用いた衣服等を作ることもできる。
複合した交織織物や交編ニットに占める本発明のアラミドフィラメント繊維の量は限定されるものではないが、アラミドフィラメント繊維の耐熱性や切れにくさを保つ上で、複合した交織織物や交編ニットの20%以上が望ましく、さらに望ましくは50%以上である。
【0047】
流体加工したアラミドフィラメント繊維の織物、編物、不織布などとナイロン、ポリエステルなどの合成繊維、羊毛、木綿、麻などの天然繊維、流体加工前のアラミド繊維、PBO繊維、ポリアリレート繊維、PPS繊維製などの織物、編物、不織布などを組み合わせて衣服等とした後、染色を行うことや、流体加工したアラミドフィラメント繊維の織物、編物、不織布などを染色した後に、ナイロン、ポリエステルなどの合成繊維、羊毛、木綿、麻などの天然繊維、流体加工前のアラミド繊維、PBO繊維、ポリアリレート繊維、PPS繊維製などの織物、編物、不織布などを組み合わせて衣服等としてもよい。
【0048】
また、必要に応じ、染色に先立ち、精練等を公知の方法で行ってもよい。また、染色処理を行う前に、流体加工を施したアラミドフィラメント繊維を含むアラミドフィラメント繊維構造物は、水分を含んでいても、また、乾燥されていてもよく、特に限定されないが、輸送の段階では、流体加工を施したアラミドフィラメント繊維を含む繊維構造物は乾いているほうが、作業性や運搬費の観点より好ましい。
【0049】
なお、本発明は、アラミド繊維のみならず、ポリエステル、PBO繊維、PPS繊維等の化学繊維、特にPBO繊維、PPS繊維等の高い結晶性の繊維においても、染色性の向上が期待できる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明の説明を更に行うが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。また、例中の「%omf」は繊維の質量に対する染料の質量%を意味する。
以下の例における測定及び評価は次の方法で行った。
引張強度:JIS L1013に記載の方法に準じて行った。なお、つかみ間隔200mm、引張速度200mm/min。
【0051】
破断伸度:JIS L1013に記載の方法に準じて行った。なお、つかみ間隔200mm、引張速度200mm/min。
【0052】
染色性:染色したアラミドフィラメント繊維構造物の均染性、染色物の濃度を目視にて観察し以下のように評価した。
○:均一に染められており濃く染められている、△:均染性若しくは濃度がやや劣る、×:濃度が低く、均染性も劣る
【0053】
染色物の濃度:染色アラミドフィラメント繊維構造物(染色物)の染色の程度であり、K/S値で表される。K/S値は、Kubelka−Munkの関数で定められるものであって、下記(3)式で表され、Rは最大吸収波長での反射率を表す。K/S値の数字の大きい方が濃く染まっている。
【0054】
K/S値=(1−R)/2R ・・・(3)
【0055】
耐光堅牢度:JIS L0842 第三露光法に準じて行った。
摩擦堅牢度:JIS L0849 学振型の摩擦試験機を用い、乾燥試験に準じて行った。
洗濯堅牢度:JIS 0844 A−2法に準じて行った。なお、添付布は綿とナイロンを用いた。
また、各実施例、比較例の流体加工条件とK/S値、染色性を表1に記した。
【0056】
(実施例1)
東レ・デュポン(株)製パラ系アラミドフィラメント繊維の糸条(商品名KEVLAR 1670デシテックス、フィラメント数1000、タイプ956、引張強度20.3cN/デシテックス、引っ張り弾性率499cN/デシテックス、破断伸度3.6%、実測総繊度1722デシテックス、単糸繊度1.7デシテックス、撚り係数0)を、下記条件にて図1に示された流体加工装置を用いたタスラン方式で流体加工して、可染性アラミドフィラメント繊維の糸条を得た。
流体加工条件
流体:スチーム
スチーム圧力:7.0kgf/cm(0.69MPa)
加工速度:280m/分
オーバーフィード率:10%
(ノズルは、0.59MPaの元圧時の流量が、145NL(ノルマルリッター)/分のものを用いた。)
【0057】
可染性アラミドフィラメント繊維の糸条の物性
総繊度:1800デシテックス
引張強度:7.00cN/デシテックス
破断伸度:7.2%
【0058】
得られた可染性アラミドフィラメント繊維の糸条を、下記条件で染色し、ソーダ灰2g/l、ハイドロサルファイト2g/lの水溶液を用い90℃×10分処理した後、水洗し、120℃×30秒乾燥後、200℃×1分間熱セットしたところ十分な濃度を有するオレンジ色の染色アラミドフィラメント繊維構造物を得た。
【0059】
染色条件
染料 Aizen Cathilon Orange RH 5%omf(保土谷化学工業(株)製、カチオン染料)
助剤 酢酸 1g/l
アセトフェノン 30g/l(キャリア)
エマルゲン910 1g/l(花王(株)製 キャリアの乳化剤)
硝酸ナトリウム 25g/l
サンライフLP−NS 1%omf(日華化学(株)製、紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系)
染色温度×時間 130℃×60分
浴比 1(繊維構造物):50(水及び染料、助剤)
染色機 高圧ドラム型染色機
【0060】
染色特性は次の通りで、衣料用として十分な性能を示した。
K/S値=13.42
染色性:○
耐光堅牢度:3級
洗濯堅牢度:変退色4−5、汚染(ナイロン)4−5、洗濯液への色落ち4
摩擦堅牢度:4−5
【0061】
(比較例1)
実施例1で使用したものと同じタイプの、流体加工前のアラミドフィラメント繊維の糸条を実施例1と同様の条件で染色等行った。結果は次のとおりで、染色したとはいえない。
K/S値=全体的に濃度も低く、ムラ状になっており測定不能
染色性:×
【0062】
(実施例2)
実施例1で得た可染性アラミドフィラメント繊維の糸条をたて糸とよこ糸に用いて、レピア織機により製織して、織物のアラミドフィラメント繊維構造物を得た。
たて糸密度:22(本/25mm)
よこ糸密度:22(本/25mm)
組織:平織り
厚さ:0.6mm
質量:323g/m
【0063】
得られた織物のアラミドフィラメント繊維構造物を、下記条件で染色し、ソーダ灰2g/l、ハイドロサルファイト2g/lの水溶液を用い、90℃×10分処理した後、水洗し、120℃×30秒乾燥後、200℃×1分間熱セットしたところ、十分な濃度を有するオレンジ色の染色アラミドフィラメント繊維構造物を得た。
【0064】
染色条件
染料 Aizen Cathilon Orange RH 5%omf(保土谷化学工業(株)製、カチオン染料)
助剤 酢酸 1g/l
ベンゾニトリル 30g/l(キャリア)
エマルゲン910 1g/l(花王(株)製 キャリアの乳化剤)
硝酸ナトリウム 25g/l
サンライフLP−NS 1%omf(日華化学(株)製 紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系)
染色温度×時間 130℃×60分
浴比 1(繊維構造物):20(水及び染料、助剤)
染色機 高圧液流染色機
【0065】
染色特性は次の通りで、衣料用として十分な性能を示した。
K/S値=13.31
染色性:○
耐光堅牢度:3級
洗濯堅牢度:変退色4−5、汚染(ナイロン)4−5、洗濯液への色落ち4
摩擦堅牢度:4−5
【0066】
(比較例2)
実施例1で使用したものと同じタイプの、流体加工前のアラミドフィラメント繊維の糸条をレピア織機により実施例2と同様に製織して、織物のアラミドフィラメント繊維構造物を得た。
得られたアラミドフィラメント繊維構造物を、実施例2と同一の条件にて染色等を行った。
結果は次のとおりで、染色したとはいえない。
K/S値=全体的に濃度も低く、ムラ状になっており測定不能
染色性:×
【0067】
(実施例3)
流体加工条件のオーバーフィード率を0%とした以外は実施例2と同様にし、オレンジ色に染色した染色アラミドフィラメント繊維構造物を得た。
可染性アラミドフィラメント繊維の糸条の物性は以下の通りであった。
総繊度:1700デシテックス
引張強度:17.1cN/デシテックス
破断伸度:4.1%
【0068】
染色特性は次の通りで、実施例2に比べるとやや劣るが、衣料用として使用可能な性能を示した。
K/S値=6.80
染色性:△
耐光堅牢度:3級未満
洗濯堅牢度:変退色2−3、汚染(ナイロン)3、洗濯液への色落ち1
摩擦堅牢度:2−3
【0069】
(実施例4)
流体加工条件のオーバーフィード率を1%とした以外は実施例2と同様にし、オレンジ色に染色した染色アラミドフィラメント繊維構造物を得た。
可染性アラミドフィラメント繊維の糸条の物性は以下の通りであった。
総繊度:1725デシテックス
引張強度:16.5cN/デシテックス
破断伸度:4.2%
【0070】
染色特性は次の通りで、実施例2に比べるとやや劣るが、衣料用として使用可能な性能を示した。
K/S値=6.23
染色性:△
耐光堅牢度:3級未満
洗濯堅牢度:変退色2−3、汚染(ナイロン)3、洗濯液への色落ち1
摩擦堅牢度:2−3
【0071】
(実施例5)
流体加工条件のオーバーフィード率を2%とした以外は実施例2と同様にし、オレンジ色に染色した染色アラミドフィラメント繊維構造物を得た。
可染性アラミドフィラメント繊維の糸条の物性は以下の通りであった。
総繊度:1737デシテックス
引張強度:12.1cN/デシテックス
破断伸度:4.2%
【0072】
染色特性は次の通りで、実施例3、4に比べて優れた性能を有し、衣料用として十分な性能を示した。
K/S値=13.06
染色性:○
耐光堅牢度:3級
洗濯堅牢度:変退色4−5、汚染(ナイロン)4−5、洗濯液への色落ち4
摩擦堅牢度:4−5
【0073】
(実施例6)
東レ・デュポン(株)製パラ系アラミドフィラメント繊維の糸条(商品名KEVLAR 800デシテックス、フィラメント数490、タイプ956、引張強度20.3cN/デシテックス、引っ張り弾性率499cN/デシテックス、破断伸度3.6%、実測総繊度824デシテックス、単糸繊度1.7デシテックス、撚り係数0)を、下記条件にて図1に示された流体加工装置を用いたタスラン方式で流体加工して、可染性アラミドフィラメント繊維の糸条を得た。
【0074】
流体加工条件
流体:スチーム
スチーム圧力:7kgf/cm(0.69MPa)
加工速度:280m/分
オーバーフィード率:6%
(ノズルは、0.59MPaの元圧時の流量が、145NL(ノルマルリッター)/分のものを用いた。)
可染性アラミドフィラメント繊維の糸条の物性
繊度:859デシテックス
引張強度:7.23cN/デシテックス
破断伸度:4.6%
【0075】
得られた可染性アラミドフィラメント繊維の糸条を用い、丸編機により製編(天竺)して、可染性アラミドフィラメント繊維を含む編物を得た。
【0076】
下記条件で染色し、ソーダ灰2g/l、ハイドロサルファイト2g/lの水溶液を用い90℃×10分処理した後、水洗し、120℃×30秒乾燥後、200℃×1分間熱セットしたところ十分な濃度を有する青色の染色アラミドフィラメント繊維構造物を得た。
【0077】
染色条件
染料 Kayacryl Blue GSL−ED 6%omf(日本化薬(株)製 カチオン染料)
助剤 酢酸 1g/l
アセトフェノン 30g/l(キャリア)
エマルゲン910 1g/l(花王(株)製 キャリアの乳化剤)
硝酸ナトリウム 25g/l
サンライフLP−NS 1%omf(日華化学(株)製 紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系)
染色温度×時間 130℃×60分
浴比 1(繊維構造物):10(水及び染料、助剤)
染色機 高圧液流染色機
【0078】
また、染色特性は次の通りで、衣料用として十分な性能を示した。
K/S値=11.37
染色性:○
耐光堅牢度:3級
洗濯堅牢度:変退色4−5、汚染(ナイロン)4−5、洗濯液への色落ち4
摩擦堅牢度:4−5
【0079】
(比較例3)
実施例6で使用したものと同じタイプの、流体加工前のアラミドフィラメント繊維の糸条を実施例6と同様の条件で製編、染色等行った。結果は次のとおりで、染色したとはいえない。
K/S値=全体的に濃度も低く、ムラ状になっており測定不能
染色性:×
【0080】
(実施例7)
流体加工条件のオーバーフィード率を12%とした以外は実施例6と同様にして得られた可染性アラミドフィラメント繊維の糸条を用い、平織物を製織し、可染性アラミドフィラメント繊維を含むアラミドフィラメント繊維構造物を得た。
【0081】
可染性アラミドフィラメント繊維の糸条の物性は以下の通りであった。
総繊度:894デシテックス
引張強度:6.05cN/デシテックス
破断伸度:7.6%
【0082】
平織物の構成
たて糸密度:32(本/25mm)
よこ糸密度:32(本/25mm)
組織:平織り
厚さ:0.48mm
質量:226g/m
【0083】
得られた可染性アラミドフィラメント繊維を含むアラミド繊維構造物を下記の条件により染色し、十分な濃度を有する黒色に染色された染色アラミドフィラメント繊維構造物を得た。
【0084】
染色条件
染料 Kayacryl Black YA 8%omf(日本化薬(株)製 カチオン染料)
助剤 酢酸 1g/l
アセトフェノン 30g/l(キャリア)
エマルゲン910 1g/l(花王(株)製 キャリアの乳化剤)
硝酸ナトリウム 25g/l
サンライフLP−NS 1%omf(日華化学(株)製 紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系)
染色温度×時間 130℃×60分
浴比 1(繊維構造物):10(水及び染料、助剤)
染色機 高圧液流染色機
【0085】
染色特性は次の通りで、優れた性能を有し、衣料用として十分な性能を示した。
K/S値=12.95
染色性:○
耐光堅牢度:3級以上
洗濯堅牢度:変退色4、汚染(ナイロン)4、洗濯液への色落ち3−4
摩擦堅牢度:4
【0086】
(比較例4)
実施例6で使用したものと同じタイプの、流体加工前のアラミドフィラメント繊維の糸条を実施例7と同様の条件で製織、染色等行った。結果は次のとおりで、染色したとはいえない。
K/S値=全体的に濃度も低く、ムラ状になっており測定不能
染色性:×
【0087】
(実施例8)
東レ・デュポン(株)製パラ系アラミドフィラメント繊維の糸条(商品名KEVLAR 1670デシテックス、フィラメント数1000、タイプ956、引張強度20.3cN/デシテックス、引っ張り弾性率499cN/デシテックス、破断伸度3.6%、実測総繊度1722デシテックス、単糸繊度1.7デシテックス、撚り係数0)に撚りをかけたもの(撚り数60回/m、撚り係数2490)を、下記条件にて水を付与しながら図1に示された流体加工装置を用いたタスラン方式で流体加工して、可染性アラミドフィラメント繊維の糸条を得た。
【0088】
流体加工条件
流体:空気
空気圧力:7.5kgf/cm(0.74MPa)
加工速度:105m/分
オーバーフィード率:5%
(ノズルは、0.59MPaの元圧時の流量が、145NL(ノルマルリッター)/分のものを用いた。)
【0089】
可染性アラミドフィラメント繊維の糸条の物性
総繊度:1734デシテックス
引張強度:11.8cN/デシテックス
破断伸度:3.6%
【0090】
得られた可染性アラミドフィラメント繊維の糸条を、下記条件で染色し、ソーダ灰2g/l、ハイドロサルファイト2g/lの水溶液を用い90℃×10分処理した後、水洗し、120℃×30秒乾燥後、200℃×1分間熱セットしたところ十分な濃度を有するオレンジ色の染色アラミドフィラメント繊維構造物を得た。
【0091】
染色条件
染料 Aizen Cathilon Orange RH 5%omf(保土谷化学工業(株)製 カチオン染料)
助剤 酢酸 1g/l
アセトフェノン 30g/l(キャリア)
エマルゲン910 1g/l(花王(株)製 キャリアの乳化剤)
硝酸ナトリウム 25g/l
サンライフLP−NS 1%omf(日華化学(株)製 紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系)
染色温度×時間 130℃×60分
浴比 1(繊維構造物):50(水及び染料、助剤)
染色機 高圧ドラム型染色機
【0092】
染色特性は次の通りで、実施例1と比べやや劣るが衣料用として使用可能な性能を示した。
K/S値=7.39
染色性:△
耐光堅牢度:3級
洗濯堅牢度:変退色3−4、汚染(ナイロン)3−4、洗濯液への色落ち 3
摩擦堅牢度:3−4
【0093】
(比較例5)
実施例8で使用したものと同じタイプの、撚りをかけた(撚り回数60回/m、撚り係数2490)流体加工前のアラミドフィラメント繊維の糸条を実施例8と同様の条件で染色等行った。結果は次のとおりで、染色したとはいえない。
K/S値=全体的に濃度も低く、ムラ状になっており測定不能
染色性:×
【0094】
(実施例9)
東レ・デュポン(株)製パラ系アラミドフィラメント繊維の糸条(商品名KEVLAR 1670T、総繊度1722デシテックス、単糸繊度1.7デシテックス、フィラメント数1000、タイプ956、撚り係数0)を、下記条件にて水を付与しながら図1に示された流体加工装置を用いたタスラン方式で流体加工して、可染性アラミドフィラメント繊維の糸条を得た。
【0095】
流体加工条件
流体:空気
空気圧力:7.5kgf/cm(0.74MPa)
加工速度:105m/分
オーバーフィード率:4%
(ノズルは、0.59MPaの元圧時の流量が、145NL(ノルマルリッター)/分のものを用いた。)
【0096】
可染性アラミドフィラメント繊維の糸条の物性
総繊度 :1748デシテックス
引張強度 :10.2cN/デシテックス
破断伸度 :4.5%
【0097】
得られた可染性アラミドフィラメント繊維の糸条を、下記条件で染色し、ソーダ灰2g/l、ハイドロサルファイト2g/lの水溶液を用い90℃×10分処理した後、水洗し、120℃×30秒乾燥後、200℃×1分間熱セットしたところ十分な濃度を有するオレンジ色の染色アラミドフィラメント繊維構造物を得た。
【0098】
染色条件
染料 Aizen Cathilon Orange RH 5%omf(保土谷化学工業(株)製 カチオン染料)
助剤 酢酸 1g/l
アセトフェノン 30g/l(キャリア)
エマルゲン910 1g/l(花王(株)製 キャリアの乳化剤)
硝酸ナトリウム 25g/l
サンライフLP−NS 1%omf(日華化学(株)製 紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系)
染色温度×時間 130℃×60分
浴比 1(繊維構造物):50(水及び染料、助剤)
染色機 高圧ドラム型染色機
【0099】
染色特性は次の通りで、衣料用として十分な性能を示した。
K/S値=12.01
染色性:○
耐光堅牢度:3級
洗濯堅牢度:変退色4−5、汚染(ナイロン)4−5、洗濯液への色落ち4
摩擦堅牢度:4−5
【0100】
(実施例10)
撚り数を90回/m(撚り係数3735)とした以外は、実施例8と同様にして、流体加工を施して可染性アラミドフィラメント繊維の糸条を得た。
【0101】
可染性アラミドフィラメント繊維の糸条の物性
総繊度:1745デシテックス
引張強度:13.5cN/デシテックス
破断伸度:3.9%
【0102】
得られた可染性アラミドフィラメント繊維の糸条を実施例8と同じ条件で染色等行って、オレンジ色の染色アラミドフィラメント繊維構造物を得た。
【0103】
染色特性は次のとおりで、実施例1と比べるとやや劣るが、衣料用として使用可能な性能を示した。
K/S値=6.63
染色性:△
耐光堅牢度:3級以下
洗濯堅牢度:変退色3、汚染(ナイロン)3−4、洗濯液への色落ち3
摩擦堅牢度:3−4
【0104】
(実施例11)
東レ・デュポン(株)製パラ系アラミドフィラメント繊維の糸条(商品名KEVLAR 3300デシテックス、フィラメント数1333、タイプ950、引張強度20.3cN/デシテックス、引っ張り弾性率499cN/デシテックス、破断伸度3.6%、実測繊度3396デシテックス、単糸繊度2.5デシテックス、撚り数0)を用いて、加工速度を200m/分とした以外は、実施例1と同じ条件で流体加工を施して可染性アラミドフィラメント繊維の糸条を得た。
【0105】
可染性アラミドフィラメント繊維の糸条の物性
総繊度:3550デシテックス
引張強度:7.8cN/デシテックス
破断伸度:7.5%
【0106】
得られた可染性アラミドフィラメント繊維の糸条を、実施例1と同じ条件で染色等を行って、オレンジ色の染色アラミドフィラメント繊維構造物を得た。
【0107】
染色特性は次のとおりで、実施例1と比べるとやや劣るが、衣料用として使用可能な性能を示した。
K/S値=9.8
染色性:△
耐光堅牢度:3級
洗濯堅牢度:変退色4、汚染(ナイロン)4、洗濯液への色落ち4
摩擦堅牢度:4
【0108】
【表1】

【符号の説明】
【0109】
10 流体加工装置
20 流体噴射ノズル
22 ノズル孔
24 流体孔
30 フィードローラー
40 デリベリローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体加工が施されたアラミドフィラメント繊維を含むアラミドフィラメント繊維構造物を染色した染色アラミドフィラメント繊維構造物。
【請求項2】
前記アラミドフィラメント繊維が、パラ系アラミドフィラメント繊維である、請求項1に記載の染色アラミドフィラメント繊維構造物。
【請求項3】
アラミドフィラメント繊維に流体加工を施し、前記流体加工を施したアラミドフィラメント繊維を染色する、請求項1又は2に記載の染色アラミドフィラメント繊維構造物の製造方法。
【請求項4】
前記流体加工は、単糸繊度0.1〜10デシテックス、総繊度10〜7000デシテックス、撚り係数0〜10000のアラミドフィラメント繊維をオーバーフィード率0〜15%で流体噴射ノズル内を流通させつつ、供給圧力0.29〜1MPaの流体を前記流体噴射ノズル内に供給する、請求項3に記載の染色アラミドフィラメント繊維構造物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−7222(P2010−7222A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131101(P2009−131101)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000184687)小松精練株式会社 (110)
【出願人】(398072562)創和テキスタイル株式会社 (2)
【出願人】(593092781)サンエス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】