説明

染色プラスチックレンズの製造方法及び昇華染色用基板

【課題】本発明は、染料の使用制限を受けないために塗布器具としてディスペンサー等を用いたインクドットコーティング法を採用することが可能であり、更に基板上で染料同士が混合してしまうことを解決する染色プラスチックレンズの製造方法及び昇華染色用基板を提供する。
【解決手段】下記工程(1)及び工程(2)をこの順に有する染色プラスチックレンズの製造方法。
工程(1):基板表面上にシロキサン結合を介して化学結合してなる撥水撥油膜を有する基板であって、該撥水撥油膜を有する側の基板上に昇華性染料を点在させて塗布する工程
工程(2):基板表面のうち工程(1)で昇華性染料が塗布された面と、プラスチックレンズの被染色面とを離間して対向させ、該基板を加熱することにより該昇華性染料を昇華させてプラスチックレンズを染色する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華染色法による染色プラスチックレンズの製造方法及び昇華染色用基板に関する。さらに詳しくは、ムラ無く均一に染色することが可能な染色プラスチックレンズの製造方法及び昇華染色用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼鏡用のプラスチックレンズの染色には、浸漬染色法、加圧染色法、染料膜加熱法等が利用されてきた。しかし、これらの染色方法では、高屈折率のプラスチックレンズに対して高濃度でムラ無く均一に染色することが困難であった。
そこで、高屈折率のプラスチックレンズに対しても、高濃度でムラ無く均一に染色するため、昇華性染料を用いてプラスチックレンズを染色する昇華染色法を始めとする、様々な試みがなされている(例えば、特許文献1及び2参照)。
特許文献1には、基板に昇華性染料を塗布した後、前記基板の塗布面をとプラスチックレンズと非接触に対向させ、前記基板を加熱することにより昇華性染料を昇華させることでプラスチックレンズを染色させる方法が記載されている。
特許文献2には、加熱した保持材に染料を塗布及び固定した後、該保持材を加熱処理して染料を昇華させてプラスチックレンズを染色する方法が記載され、保持剤として、金属材料又は無機材料からなる基板を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−59950号公報
【特許文献2】特開2005−156630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、主にインクジェット法を用いているため、染料として、インクジェットプリンターのノズルに対応できる、粒子の細かいものを選定しなければならず、染料の使用可能範囲が制限される。
特許文献2では、インクドットコーティング法を採用した場合、一打点の径を大きくするにしたがい、昇華染料に含まれる界面活性剤等の影響で、昇華染料はガラス基材表面での表面張力が低いため、一打点ごとに独立して塗布した染料が基板上で混ざってしまうといった問題が発生し、ムラ無く均一に染色することが困難となる。
そこで、本発明は、染料の使用制限を受けないために塗布器具としてディスペンサー等を用いたインクドットコーティング法を採用することが可能であり、更に基板上で染料同士が混合してしまうことを解決する染色プラスチックレンズの製造方法及び昇華染色用基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、特定の加熱条件下で染色を行うことにより、上記課題を解決しうることが判明した。
本発明は、下記[1]〜[5]に関する。
[1]下記工程(1)及び工程(2)をこの順に有する染色プラスチックレンズの製造方法。
工程(1):基板表面上にシロキサン結合を介して化学結合してなる撥水撥油膜を有する基板であって、該撥水撥油膜を有する側の基板上に昇華性染料を点在させて塗布する工程
工程(2):基板表面のうち工程(1)で昇華性染料が塗布された面と、プラスチックレンズの被染色面とを離間して対向させ、該基板を加熱することにより該昇華性染料を昇華させてプラスチックレンズを染色する工程
[2]撥水撥油膜が、下記の一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物を用いて基板上に形成される、[1]に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Rf’は炭素数1〜16の直鎖状のパーフルオロアルキル基、Zは水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基、R1は独立に加水分解性基をそれぞれ示し、pは1〜10の整数、qは1〜50の整数、rは0〜2の整数である。)
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、Rfは、式:−(Ck2kO)−(kは1〜6の整数である)で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する二価の基、または−Cy2y−(yは1〜8の整数である)で表される単位を含むパーフルオロアルキル構造であり、Rは独立に炭素数1〜8の一価炭化水素基であり、Xは独立に加水分解性基又はハロゲン原子であり、n及びn’はそれぞれ0〜2の整数であり、m及びm’はそれぞれ1〜5の整数であり、a及びbはそれぞれ2又は3である。)
Rf"−(CH2s−Si(R2)3-h(X2)h ・・・(3)
(式中、Rf"は、炭素数1〜17の直鎖状のパーフルオロアルキル基であり、R2は独立に炭素数1〜8の一価炭化水素基であり、X2は独立に加水分解性基であり、sは0〜2の整数であり、hは2又は3である。)
[3]撥水撥油膜が、前記一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物及び下記一般式(4)で示されるアルコキシシラン化合物を含む組成物を用いて、基板上に形成される、[1]又は[2]に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
R’4-d−Si(OR")d ・・・(4)
(式中、R'は有機基であり、R"はメチル基又はエチル基であり、dは4又は3である。)
[4]撥水撥油膜が、減圧及び加熱条件下、前記一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物、又は前記一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物及び前記一般式(4)で示されるアルコキシシラン化合物を含む組成物を基材上に蒸着させて形成される、[1]〜[3]のいずれかに記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
[5]ガラス基板上に、前記一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物、又は前記一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物及び前記一般式(4)で示されるアルコキシシラン化合物を含む組成物を、減圧及び加熱条件下、蒸着することで撥水撥油膜を形成してなる昇華染色用基板。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、昇華染色法において、染料内に含まれる界面活性剤の影響を受けることなく、常に一定の形状を確保した形で基板上に昇華染色用染料を塗布することのできる、昇華染色用基板およびそれを用いたレンズの染色方法及び昇華染色用基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記の通り、本発明は、下記工程(1)及び工程(2)をこの順に有する染色プラスチックレンズの製造方法である。
工程(1):基板表面上にシロキサン結合を介して化学結合してなる撥水撥油膜を有する基板であって、該撥水撥油膜を有する側の基板上に昇華性染料を点在させて塗布する工程
工程(2):基板表面のうち工程(1)で昇華性染料が塗布された面と、プラスチックレンズの被染色面とを離間して対向させ、該基板を加熱することにより該昇華性染料を昇華させてプラスチックレンズを染色する工程
【0012】
[工程(1)]
(基板)
工程(1)では、基板表面上にシロキサン結合を介して化学結合してなる撥水撥油膜を有する基板であって、該撥水撥油膜を有する側の基板上にプラスチックレンズを染色するための昇華性染料含有インクを点在させて塗布する。
【0013】
該基板としては特に制限は無く、例えば無機材料からなる基板、有機材料からなる基板のいずれも使用できる。
上記無機材料としては、ガラス、石英、雲母等や、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維等の無機高分子化合物からなる織布又は不織布等が挙げられる。上記有機材料としては、紙等が挙げられる。基板は、2種以上の材料を複合化した複合材料で形成されていてもよく、また、複数の材料からなる多層構造体であってもよい。
基板の厚さに特に制限は無いが、後工程において加熱処理を効率良く行う観点から、0.5mm〜5mmが好ましく、1mm〜3mmがより好ましい。
上記基板は、後述する撥水撥油膜が設けられる側であり、かつプラスチックレンズと対向する側の面(塗布面)が、プラスチックレンズの被染色面側の曲面と重ね合わせたときの誤差が少ない曲面を有する形状であってもよい。この場合、基板とプラスチックレンズの間隔がレンズの曲面全体でほぼ一定になり、昇華した染料がレンズ上に均一に拡散し、プラスチックレンズをムラ無く均一に染色し易くなる。また、基板の昇華性染料含有インクを塗布する面は、プラスチックレンズを均一に染色する観点から、平滑であることが好ましい。
なお、塗布する際の基板の温度は60℃以下であり、好ましくは0〜60℃であり、プラスチックレンズをムラ無く均一に染色する観点から、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜30℃、さらに好ましくは常温(つまり、加熱していない温度)である。0℃以上であれば、後工程での加熱処理の効率が良くなるため、好ましい。一方、60℃を上回ると、工程(2)の加熱処理の温度に近づくため、加熱処理条件の制御が困難となり、結果的にムラが生じる原因となる場合がある。
【0014】
(撥水撥油膜)
本発明に用いる基板は、表面上にシロキサン結合を介して化学結合してなる撥水撥油膜を有する。撥水撥油膜は、フッ素含有シラン化合物を用いて基板上に形成されることが好ましい。
フッ素含有シラン化合物としては、下記一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0015】
【化3】

【0016】
一般式(1)中、Rf’は炭素数1〜16の直鎖状のパーフルオロアルキル基であり、パーフルオロアルキル基を構成するアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基等が挙げられる。
一般式(1)中、Zは水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基であり、低級アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。
一般式(1)中、R1は独立に加水分解性基であり、例えば、炭素数1〜6のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基)、アミノ基、塩素原子等が挙げられる。アルコキシ基の場合は、そのアルキル部分が炭素数1または2のものが特に好ましい。
一般式(1)中、pは1〜10の整数であり、好ましくは1〜8の整数である。qは1〜50の整数であり、好ましくは1〜30の整数である。rは0〜2の整数であり、好ましくは1〜2である。
また、上記一般式(1)で示されるフッ素含有シラン化合物の分子量は、良好な薄膜を得るとの観点から3500〜6500であることが好ましい。
【0017】
【化4】

【0018】
一般式(2)中、Rfは、式:−(Ck2kO)−(kは1〜6の整数である)で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する二価の基、または−Cy2y−(yは1〜8の整数である)で表される単位を含むパーフルオロアルキル構造である。Rは独立に炭素数1〜8の一価炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等)である。Xは独立に加水分解性基(例えば、アミノ基、アルコキシ基、塩素原子等)又はハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)である。n及びn’はそれぞれ0〜2の整数であり、m及びm’はそれぞれ1〜5の整数であり、a及びbはそれぞれ2又は3である。
【0019】
Rf"−(CH2s−Si(R2)3-h(X2)h ・・・(3)
一般式(3)中、Rf"は、炭素数1〜17の直鎖状のパーフルオロアルキル基であり、X2は独立に加水分解性基である。これらの具体例は、一般式(1)における、Rf'及びR1で例示したものが同様に挙げられる。R2は独立に炭素数1〜8の一価炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等)である。
一般式(3)中、sは0〜2の整数であり、好ましくは2である。hは2又は3である。
【0020】
本発明で用いる市販されている一般式(1)及び(2)で表される化合物の市販品の例としては、KY130(商品名、信越化学工業(株)製)、オプツ−ルDSX(商品名、ダイキン工業(株)製)等が挙げられる。
【0021】
一般式(3)により表される化合物の具体例として、CF3(CH22Si(OCH33、CF3(CF25(CH22Si(OCH33、CF3(CF27(CH22Si(OCH33、CF3(CF27(CH22SiCH3(OCH32、CF3(CH22Si(OC253、CF3(CF25(CH22Si(OC253、CF3(CF27(CH22Si(OC253、n−CF3CH2CH2Si(NH23、n−C37CH2CH2Si(NH23、n−C49CH2CH2Si(NH23、n−C613CH2CH2Si(NH23、n−C817CH2CH2Si(NH23等が挙げられる。
一般式(3)により表される化合物の市販品の例としては、TSL8257、TSL8233、TSL831(以上、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、KBM7803(信越化学工業(株)製)、AY43−158E(東レ・ダウコーニング(株)製)、KP801M(商品名、信越化学工業(株)製)等が挙げられる。
上記フッ素含有シラン化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明において、前記フッ素含有シラン化合物、及び下記一般式(4)で示されるアルコキシシラン化合物を含む組成物を用いて、基板上に撥水撥油膜を形成することもできる。
R’4-d−Si(OR")d ・・・(4)
一般式(4)中、R'は有機基であり、R"はメチル基又はエチル基であり、dは4又は3である。
一般式(4)で示されるシラン化合物がテトラアルコキシシランである場合(d=4)、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、特に好ましくは、テトラエトキシシランである。
【0023】
また、一般式(4)で示されるシラン化合物がトリアルコキシシランである場合(d=3)、ケイ素原子に結合するアルコキシ基以外の基(R’)としては、炭素数1〜8のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等)、炭素数2〜10のアルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基等)、炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等)、炭素数7〜10のアラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基等)、ハロゲン原子、グリシドキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、グリシドキシ基、アミノ基である。また、これらの炭化水素基には官能基が導入されていてもよく、該官能基としては、例えば、ハロゲン原子、グリシドキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基等が挙げられる。
【0024】
また、前記トリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、(2,3−エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、好ましくはメチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシランであり、特に好ましくは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランである。
前記アルコキシシランは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明における撥水撥油膜の厚さは、基本的に前記フッ素含有シラン化合物の量に依存して変化する。従って、例えば、該撥水撥油膜をオングストロームオーダで制御する際には、前記フッ素含有シラン化合物を、溶媒で希釈した溶液(撥水撥油剤溶液)を用いることが好ましい。
前記溶媒としては特に限定されないが、例えば、ジクロロペンタフルオロプロパン、m−キシレンヘキサフロライド、パーフルオロヘキサン、ハイドロフロロエーテルなどのフッ素系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、ジアセトンアルコール及び1−メトキシ−2−プロパノールなどのアルコ−ル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類及びこれらの混合物等が挙げられる。
前述した撥水撥油剤溶液に含まれる各成分は、撹拌を行いながら混合することが望ましく、攪拌の回転速度は200〜1000rpmが好ましい。撹拌時間は60〜600秒が好ましい。
溶液中のフッ素含有シラン化合物の濃度は、所望の目的を果たせれば特に制限はなく、フッ素含有シラン化合物の種類及び所望する撥水膜の厚みなどを考慮して適宜決めることができる。
【0026】
撥水撥油膜の形成方法は、特に限定されず、例えば、蒸着加熱法、浸漬塗布法、スピンコーティング法などにより形成することができる。中でも、本発明において、均質に成膜する観点から、減圧及び加熱条件下、前記フッ素含有シラン化合物又は前記組成物を基材上に蒸着させる蒸着加熱法で形成することが好ましい。
また、膜強度、及び薄膜を形成する基板や膜との密着性を得るために、イオン銃、プラズマ銃等で、成膜前処理を実施することが好ましい。
成膜時の加熱源としては、電子銃、ハロゲンヒータ、抵抗加熱、セラミックヒータ等の何れかを用いることが可能であるが、電子銃で電子ビ−ムを発生することが好ましい。電子銃としては、従来、蒸着装置で用いられている電子銃を用いることができる。電子銃を用いれば、前記撥水剤溶液全体に、均一のエネルギ−を照射することができ膜圧が均一な蒸着膜(撥水撥油膜)を形成しやすくなる。
電子銃のパワーについては、使用物質、蒸着装置、真空度、照射面積によって異なるが、好ましい条件は、加速電圧が6kV前後で、印加電流5〜80mA程度である。
【0027】
本発明における撥水撥油剤溶液は、そのまま容器に入れて加熱しても良いが、膜厚が均一な蒸着膜を多く得られるとの観点から、多孔性材料に含浸させることがより好ましく、多孔性材料としては、銅やステンレスなどの熱伝導性の高い金属粉末を焼結した焼結フィルターを用いることが好ましい。すなわち、前記撥水撥油剤溶液を、多孔性材料からなる焼結フィルターに含浸させ、真空中で該焼結フィルターを加熱して薄膜を形成することが好ましい。
また、多孔性材料としては、適度な蒸着速度が得られるという観点から、そのメッシュは通常40〜200μmであることが好ましく、80〜120μmの範囲であることがより好ましい。
【0028】
本発明において、撥水撥油剤溶液は、加熱蒸着によって基板上に蒸着され、減圧下、原料を加熱して蒸着することが好ましい。その場合の真空蒸着装置内の真空度としては、特に限定はないが、均質の撥水撥油膜を得るとの観点から、通常1.33×10-1Pa〜1.33×10-6Pa(10-3〜10-8Torr)であり、6.66×10-1Pa〜8.00×10-4Pa(5.0×10-3〜6.0×10-6Torr)の範囲であることが好ましい。
【0029】
撥水撥油剤溶液を加熱する際の温度は、フッ素含有シラン化合物の種類、蒸着する真空条件により異なるが、所望の真空度における前記フッ素含有シラン化合物の蒸着開始温度以上からフッ素含有シラン化合物の分解温度を超えない範囲で行うことが好ましい。ここで蒸着開始温度とはフッ素含有シラン化合物を含む溶液の蒸気圧が真空度と等しくなったときの温度をいい、またフッ素含有シラン化合物の分解温度とは1分間の間に該化合物の50%が分解する温度(窒素雰囲気下、該化合物と反応性のある物質が存在しない条件で)をいう。
【0030】
基板上に形成された撥水撥油膜の厚さは、特に限定されないが、基材との密着性および撥水撥油膜の耐久性の観点から、5〜10nmの範囲が好ましい。
本発明は、上記のとおりガラス基板上に前記一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物、又は前記一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物及び前記一般式(4)で示されるアルコキシシラン化合物を含む組成物を、減圧及び加熱条件下、蒸着することで撥水撥油膜を形成してなる昇華染色用基板を提供することができる。
【0031】
(昇華性染料含有インク)
工程(1)で使用するインクに含有させる昇華性染料は、加熱により昇華する性質を有する染料であれば特に制限は無い。昇華性染料は工業的に容易に入手可能であり、市販品としては、例えばカヤセットブルー906(日本化薬株式会社製)、カヤセットブラウン939(日本化薬株式会社製)、カヤセットレッド130(日本化薬株式会社製)Kayalon Microester Red C−LS conc(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Red AQ−LE(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Red DX−LS(日本化薬株式会社製)、Dianix Blue AC−E(ダイスタージャパン株式会社製)、Dianix Red AC−E 01、(ダイスタージャパン株式会社製)、Dianix Yellow AC−E new(ダイスタージャパン株式会社製)、Kayalon Microester Yellow C−LS(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Yellow AQ−LE(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Blue C−LS conc(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Blue AQ−LE(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Blue DX−LS conc(日本化薬株式会社製)等がある。
【0032】
昇華性染料は、水に分散させて昇華性染料含有インクとしてから、基板上に形成された撥水撥油膜上に点在させて塗布する。昇華性染料含有インク中における水の含有量は、通常、該インク全体に対して50〜99.5質量%、より好ましくは55〜90質量%、さらに好ましくは60〜80質量%、特に好ましくは65〜75質量%となるようにする。昇華性染料含有インク中における水の含有量を上記範囲内にしておくと、昇華性染料がインク中に十分に分散され、プラスチックレンズを高濃度且つ均一に染色し易い。
【0033】
また、昇華性染料含有インクには、プラスチックレンズを高濃度で均一に染色する観点から、界面活性剤、保湿剤、有機溶媒、粘度調整剤、pH調整剤、バインダー等を含有させてもよい。
上記界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤を昇華性染料含有インクに含有させる場合、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤を併用することが好ましい。
【0034】
アニオン系界面活性剤は公知のものを使用できる。該アニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、α−オレインスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルオキサイドジスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ノニオン性界面活性剤は公知のものを使用できる。該ノニオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のエーテル系ノニオン性界面活性剤;ステアリン酸ソルビタン、ステアリン酸プロピレングリコール等のエステル系ノニオン性界面活性剤;モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のエーテル・エステル系ノニオン性界面活性剤;ポリビニルアルコール、メチルセルロース等の水溶性ポリマー系ノニオン性界面活性剤等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、水溶性ポリマー系ノニオン性界面活性剤が好ましく、メチルセルロースがより好ましい。
界面活性剤を昇華性染料含有インクに含有させる場合、アニオン系界面活性剤の含有量は、インク中における濃度が好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.2〜5質量%、さらに好ましくは0.2〜1質量%となるようにする。また、ノニオン性界面活性剤の含有量は、インク中における濃度が好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.2〜5質量%、さらに好ましくは0.2〜1質量%となるようにする。界面活性剤の含有量がそれぞれ上記範囲内であると、プラスチックレンズをより高濃度で均一に染色することができる。
【0035】
上記保湿剤としては、例えば2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン系保湿剤;ジメチルスルホキシド、イミダゾリジノン等のアミド系保湿剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、D−ソルビトール、グリセリン等の多価アルコール系保湿剤;トリメチロールメタン等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも多価アルコール系保湿剤が好ましく、グリセリンがより好ましい。保湿剤を昇華性染料含有インクに含有させる場合、その含有量は、インク中における濃度が好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%となるようにする。保湿剤の含有量が上記範囲内であると、プラスチックレンズを高濃度で均一に染色することができる。
【0036】
なお、昇華性染料含有インクを、撥水撥油膜を有する側の基板上に点在させて塗布する方法としては特に制限はないが、ドット状にインクを点在させて塗布する方法が好ましく、例えばインクドットコーティング法、インクジェット法等が挙げられる。
これらの塗布方法の中でも、インクドットコーティング法を用いた場合は、昇華性染料含有インクの塗布に比較的多くの時間(30秒〜3分)を要し、且つ昇華性染料含有インク1打点当たりの質量が比較的大きい(約10-8〜1g、場合によっては10-7〜10-3g)。
これに対して、例えばインクジェット法の場合、10-12g程度である。該インクドットコーティング法を利用する場合において、特許文献2のように予め基板を100〜150℃に加熱しておく方法を適用すると、塗布初期と塗布後期において、インク1打点当たりの水の含有量の差が大きく異なり、染色をムラ無く均一に実施することができなくなる傾向にある。本発明では、インクドットコーティング法を利用しても、前記特許文献2のような問題は生じない。よって、インクドットコーティング法を利用する場合、本発明の効果がより顕著に現れる傾向にある。さらに、インクドットコーティング法では、他の塗布方法に比べて、例えばインクジェット用染料インクのように、目詰まりを防止するための染料微粒子化を行う必要がないため、染料の仕様条件に左右されることなく安価な昇華性染料を含めて使用することができる。
【0037】
[工程(2)]
工程(2)では、まず、プラスチックレンズを、該レンズの被染色面と前記基板の昇華性染料含有インクが塗布された面とが対向するように設置する。かかるプラスチックレンズと基板の設置の仕方は、通常の昇華染色法に従えばよく、例えば特許文献1の図2、並びに特許文献2の図1及び図2等を参照することができる。基板とプラスチックレンズの中心部との距離は、高濃度でプラスチックレンズを染色する観点から、好ましくは15mm〜120mm、より好ましくは17mm〜80mm、さらに好ましくは17mm〜30mmである。
【0038】
(プラスチックレンズ)
工程(2)で使用するプラスチックレンズの素材としては特に制限は無く、例えばスルフィド結合を有するモノマーの単独重合体;スルフィド結合を有するモノマーと1種以上の他のモノマーとの共重合体;メチルメタクリレート単独重合体;メチルメタクリレートと1種類以上の他のモノマーとの共重合体;ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体;ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種類以上の他のモノマーとの共重合体;アクリロニトリル−スチレン共重合体;ハロゲン含有共重合体;ポリカーボネート;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;不飽和ポリエステル;ポリエチレンテレフタレート;ポリウレタン;ポリチオウレタン;エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、1.7以上の高い屈折率を得ることができるという観点から、スルフィド結合を有するモノマーの単独重合体、又はスルフィド結合を有するモノマーと1種以上の他のモノマーとの共重合体が好ましい。
プラスチックレンズの形状に特に制限は無く、例えば、球面、回転対称非球面、多焦点レンズ、トーリック面等の非球面、凸面、凹面等の多様な曲面を有するプラスチックレンズを利用可能である。
【0039】
(プラズマ処理)
レンズ表面に付着する昇華性染料中の色素の結晶化をより効果的に抑制するために、被染色面にプラズマ処理を施したプラスチックレンズを使用することが好ましい。プラスチックレンズの被染色面にプラズマ処理を施しておくと、該レンズ表面に付着している有機物が取り去られ、レンズ表面と色素の親和性が良くなり、前記効果を得やすくなるものと考えられる。
プラズマ処理方法に特に制限は無く、公知のプラズマ処理装置を利用して実施すればよい。プラズマ処理は、好ましくはプラズマ出力50〜500W、より好ましくはプラズマ出力100〜300W、さらに好ましくはプラズマ出力200〜300Wで、好ましくは略真空圧下(例えば真空度1×10-3〜1×104Pa、好ましくは1×10-3〜1×103Pa、より好ましくは1×10-2〜5×102Pa)に行う。プラズマ出力及び真空度がこの範囲であれば、十分に表面処理が行われるため、昇華性染料含有インク中の昇華性染料を昇華した際にレンズ表面で色素が結晶化するという昇華染色法に特有の現象をより効果的に抑制できる。
プラスチックレンズの被染色面のプラズマ処理は、昇華性染料がレンズ内部に浸透し難い屈折率1.7以上(好ましくは1.7〜1.8、より好ましくは1.70〜1.76)のプラスチックレンズを用いた場合に、より効果的である。
【0040】
(プラスチックレンズの染色)
上記の通り、プラスチックレンズを該レンズの被染色面が前記撥水撥油膜を有する基板の昇華性染料が塗布された面と対向するように設置した後、略真空圧下で該基板を加熱することにより、基板上に塗布された昇華性染料を昇華させ、プラスチックレンズへ付着及び浸透させる。
基板を加熱する方法としては、昇華性染料が塗布されていない面側からヒーターにて加熱する方法が好ましく挙げられる。基板の加熱温度は、基板が好ましくは50〜300℃、より好ましくは80〜280℃、さらに好ましくは120〜270℃、特に好ましくは180〜250℃になるように調整する。基板の加熱温度を上記範囲内とすることにより、昇華性染料を十分に昇華させることができ、且つ対向するプラスチックレンズの熱による変形及び変色を抑制できる。
なお、基板の加熱は略真空圧下に実施するが、略真空圧下とは、通常、真空度1×10-3〜1×103Paの条件下であることをいい、レンズ表面にて昇華性染料中の色素が結晶化するのを抑制する観点から、好ましくは1×10-2〜8×102Paであり、より好ましくは1×10-2〜6×102Paである。圧力を1×10-3Pa未満にしても特に問題は無いが、装置の高性能化が必要になる。
基板の加熱時間は、プラスチックレンズを高濃度に染色する観点並びにプラスチックレンズの熱による変形及び変色を抑制する観点から、1分〜150分が好ましく、30分〜150分がより好ましく、40分〜100分がさらに好ましい。
【0041】
[工程(3)]
工程(2)の後、プラスチックレンズの染色をより均一に行うために、さらに加熱処理を施してプラスチックレンズ内部へ色素を浸透させる工程(3)を設けることが好ましい。本工程を設ける場合、工程(1)で使用する基板としては、ガラス等の熱伝導性の低い非晶質材料からなる基板を用いることが好ましい。この様な非晶質材料からなる基板を用いた場合、必要以上に基板温度を上昇させることがないため、工程(2)において、対向するプラスチックレンズへ余計な熱が伝導することを抑制でき、該レンズに付着した色素がレンズ内部へ浸透するのを抑制でき、レンズへの付着工程(2)と工程(3)とを明確に分けることが可能となり、より一層、ムラの発生を抑制し易くなる。また、基板を加熱する操作を行う際に基板全体に温度勾配が生じることがなく、この点からも、プラスチックレンズを均一に染色し易くなる。更に、基板を加熱することによる熱変形や昇華性染料を始めとする各種混合物との化学変化を起こすといった心配もない。
工程(3)においては、プラスチックレンズの種類にもよるが、該レンズの温度が好ましくは80〜170℃、より好ましくは100〜160℃、さらに好ましくは120〜150℃になるように加熱温度を設定する。
また、工程(3)における基板の加熱時間は、色素を十分に浸透させると共にレンズの変形及び変色を抑制する観点から、10分〜180分が好ましく、20分〜120分がより好ましく、30分〜80分がさらに好ましい。
なお、工程(3)における加熱操作は、昇華性染料をプラスチックレンズにより均一に浸透させていく観点から、予め上記温度範囲に加熱してある炉(例えばオーブン等)に工程(2)で得られた昇華性染料が付着したプラスチックレンズを入れる方法を採ることが好ましい。
【0042】
(染色プラスチックレンズの特性)
以上の様にして染色された染色プラスチックレンズは、屈折率が1.7以上のプラスチックレンズであっても、透過率43%以下及び染色濃度57〜63%であり、昇華性染料を高濃度で含有している。さらに、本発明の製造方法により得られる染色プラスチックレンズは、レンズの変形が無く、且つ、例え屈折率が1.7以上のプラスチックレンズであっても、高濃度で染色されているとともに、ムラが無く均一に染色されている。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各例で得られた染色プラスチックレンズは以下に示す評価方法により諸物性を評価した。
【0044】
(1)染料に対する静止接触角
接触角計(協和界面科学(株)製品、CA−D型)を使用し、25℃において直径2mmの染料含有インクの液滴を針先に作り、これを基板(染料塗布面)に触れさせて、液滴を作った。この時に生ずる液滴と面との角度を測定し静止接触角とした。静止接触角θは水滴の半径(水滴がレンズ表面に接触している部分の半径)をrとし、水滴の高さをhとしたときに、以下の式で求められる。
θ=2×tan‐1(h/r)
なお、静止接触角の測定は水の蒸発による測定誤差を最小限にするために液滴をレンズに触れさせた後10秒以内に行った。
測定後、染料の接触角を3点測定し、その平均値を求め、以下の基準に従って評価した。
−評価基準−
◎:染料接触角65°以上
○:染料接触角60°以上
×:染料接触角60°未満
【0045】
(2)昇華染料の塗布状態
昇華染料塗布後に得られたガラス基板を目視にて、基板上に塗布した染料が1打点ずつ独立した状態を保てているか否かを確認し、以下の基準に従って評価した。
−評価基準−
○:1打点ずつ染料が混ざることなく独立している。
×:隣の打点と混ざりあっており、染料単独の色を維持できていない。
【0046】
(3)染色プラスチックレンズの外観
得られた染色プラスチックレンズの外観評価を、以下の基準に従って評価した。
−評価基準−
○:ムラなく均一な染色が行えた。
×:ところどころに僅かな濃淡ムラが存在した。
【0047】
また、各例で使用するプラスチックレンズは以下のとおりである。
(プラスチックレンズ)
「EYRY(アイリー)」(商品名、HOYA株式会社製);屈折率1.70、中心厚1.4mm、レンズ度数0.00、直径80mmの、ポリスルフィド結合を有するプラスチックレンズ
【0048】
<調製例1>(混合撥水撥油剤1の調製)
上記一般式(2)で示されるフッ素含有シラン化合物「KY130」(商品名、信越化学工業(株)製)6gに、希釈剤として「HFE7200」(商品名、住友3M(株)製)を3g混合、1時間攪拌を行い、混合撥水撥油剤1を得た。
【0049】
<調製例2>(混合撥水撥油剤2の調製)
上記一般式(2)で示されるフッ素含有シラン化合物「KY130」(商品名、信越化学工業(株)製)5gに、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン「KBE903」(商品名、信越化学工業(株)製)1g混合し、さらに、希釈剤としてHFE7200(住友3M(株)製)を3g混合、1時間攪拌を行い、混合撥水撥油剤2を得た。
【0050】
<調製例3>(混合撥水撥油剤3の調製)
アミノ変性シリコーン「KF857」(商品名、信越化学工業(株)製)4gとエポキシ変性シリコーン「KBE403」(商品名、信越化学工業(株)製)1gを、混合し24時間攪拌し、混合物1を5g得た。
前記混合物1全量に、「KBE903」(商品名、信越化学工業(株)製)5gを混合し、24時間攪拌して、混合物2を10g得た。
一般式(2)で示されるフッ素含有シラン化合物「KY130」(商品名、信越化学工業(株)製)5gに前記混合物2を1g混合し、さらに、希釈剤としてHFE7200(住友3M(株)製)を3g混合、1時間攪拌を行い、混合撥水撥油剤3を得た。
【0051】
<調製例4>(混合撥水撥油剤4の調製)
一般式(3)の構造を有するパーフルオロアルキルシラン「AY43-158E」(商品名、東レ・ダウコーニング(株)製)6gに、希釈剤としてHFE7200(住友3M(株)製)を3g混合、1時間攪拌を行い、混合撥水撥油剤4を得た。
【0052】
<調製例5>(混合撥水撥油剤5の調製)
一般式(1)の構造を有する単位式C37−(OCF2CF2CF224−O(CF22−[CH2CH(Si−(OCH33)]1-10で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物(平均分子量約5000)をパーフルオロヘキサンで3質量%に希釈し、混合撥水撥油剤5を得た。
【0053】
<調製例6>(混合撥水撥油剤6の調製)
一般式(1)の構造を有する単位式C37−(OCF2CF2CF26−O(CF22−[CH2CH(Si−(OCH33)]1-10で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物(平均分子量約5000)をパーフルオロヘキサンで3質量%に希釈し、混合撥水撥油剤6を得た。
【0054】
<調製例7>(混合撥水撥油剤7の調製)
一般式(2)の構造を有する単位式C817CH2CH2Si(NH23で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物をm−キシレンヘキサクロライドで3質量%に希釈した溶液(商品名:KP−801,信越化学工業(株)製)を混合撥水撥油剤7とした。
【0055】
<調製例8>(昇華性染料含有インクの調製)
昇華性染料として「Dianix Blue AC−E」(ダイスタージャパン株式会社製)を水に分散させ、さらにアニオン系界面活性剤、ノニオン性界面活性剤及び保湿剤を混合して昇華性染料含有インクとした。各成分の組成比は以下の通りである。
昇華性染料/水/アニオン系界面活性剤/ノニオン系界面活性剤/保湿剤=5/74.55/0.25/0.2/20(質量比)
【0056】
<実施例1>
工程(1):
調製例1で得られた混合撥水撥油剤1を0.3mlしみ込ませたステンレス製焼結フィルター(細孔径80〜100μm、直径18mmφ、厚さ3mm)を80℃で2時間ドライオーブン加熱し、その後、真空蒸着装置内にセットした。以下の条件で電子銃(EB)を用いて焼結フィルター全体を加熱して、ガラス基板に撥水撥油膜を形成した。
(1)真空度:3.1×10-1〜8.0×10-4Pa(2.3×10-3〜6.0×10-6Torr)
(2)電子銃の条件
加速電圧:6kV、印加電流:11mA、照射面積:3.5×3.5cm2、蒸着時間:120秒
次に、常温(22℃)のガラス基板の撥水撥油膜を有する側の基板上に、調製例8で得られた昇華性染料含有インクをディスペンサーによって3mm間隔で碁盤目状に塗布圧0.15MPaで合計0.4g塗布した。1打点当たりの質量は0.5μgであった。
【0057】
工程(2):
工程(1)の後、プラスチックレンズを、該レンズの被染色面と前記ガラス基板のインク塗布面とが対向するように、そしてプラスチックレンズの中心とガラス基板との距離が20mmとなるように、昇華染色機内に設置した。次いで、真空度を2×102Paとし、ガラス基板を225℃で120秒加熱して昇華性染料を昇華させ、昇華性染料中の色素をプラスチックレンズに付着させた。
【0058】
工程(3):
さらに、工程(2)で得られたプラスチックレンズを、130℃に加熱したオーブン内に置いて1時間加熱(プラスチックの温度:130℃)することにより、昇華性染料中の色素をプラスチックレンズ内に浸透させ、染色プラスチックレンズを得た。上記(1)〜(3)の評価結果を表1に示す。
【0059】
<実施例2>
実施例1において、前記混合撥水撥油剤1の代わりに前記混合撥水撥油剤2を用いた以外は同様にして、ガラス基板に撥水撥油膜を形成し、染色プラスチックレンズを作製した。上記(1)〜(3)の評価結果を表1に示す。
【0060】
<実施例3>
実施例1において、前記混合撥水撥油剤1の代わりに前記混合撥水撥油剤3を用いた以外は同様にして、ガラス基板に撥水撥油膜を形成し、染色プラスチックレンズを作製した。上記(1)〜(3)の評価結果を表1に示す。
【0061】
<実施例4>
実施例1において、前記混合撥水撥油剤1の代わりに前記混合撥水撥油剤4を用いた以外は同様にして、ガラス基板に撥水撥油膜を形成し、染色プラスチックレンズを作製した。上記(1)〜(3)の評価結果を表1に示す。
【0062】
<実施例5>
実施例1において、前記混合撥水撥油剤1の代わりに前記混合撥水撥油剤5を用いた以外は同様にして、ガラス基板に撥水撥油膜を形成し、染色プラスチックレンズを作製した。上記(1)〜(3)の評価結果を表1に示す。
【0063】
<実施例6>
実施例1において、前記混合撥水撥油剤1の代わりに前記混合撥水撥油剤6を用いた以外は同様にして、ガラス基板に撥水撥油膜を形成し、染色プラスチックレンズを作製した。上記(1)〜(3)の評価結果を表1に示す。
【0064】
<実施例7>
実施例1において、前記混合撥水撥油剤1の代わりに前記混合撥水撥油剤7を用いた以外は同様にして、ガラス基板に撥水撥油膜を形成し、染色プラスチックレンズを作製した。上記(1)〜(3)の評価結果を表1に示す。
【0065】
<比較例1>
実施例1において、ガラス基板上に撥水撥油処理を施さずにそのまま使用して、染色プラスチックレンズを作製した。上記(1)〜(3)の評価結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1より、本発明に従って製造した染色プラスチックレンズは、ムラ無く均一に染色されたプラスチックレンズが得られた(実施例1〜7参照)。
一方、表1より、比較例1は、ガラス基板上で染料同士が隣の打点と混ざりあい、染料単独の色を維持できないため、染色されたプラスチックレンズには濃淡ムラが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の染色プラスチックレンズは、眼鏡、サングラス、ゴーグル等に広く用いられ、特に、屈折率1.7以上の高屈折率の眼鏡用のプラスチックレンズとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)及び工程(2)をこの順に有する染色プラスチックレンズの製造方法。
工程(1):基板表面上にシロキサン結合を介して化学結合してなる撥水撥油膜を有する基板であって、該撥水撥油膜を有する側の基板上に昇華性染料を点在させて塗布する工程
工程(2):基板表面のうち工程(1)で昇華性染料が塗布された面と、プラスチックレンズの被染色面とを離間して対向させ、該基板を加熱することにより該昇華性染料を昇華させてプラスチックレンズを染色する工程
【請求項2】
撥水撥油膜が、下記の一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物を用いて基板上に形成される、請求項1に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【化1】

(式中、Rf’は炭素数1〜16の直鎖状のパーフルオロアルキル基、Zは水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基、R1は独立に加水分解性基をそれぞれ示し、pは1〜10の整数、qは1〜50の整数、rは0〜2の整数である。)
【化2】

(式中、Rfは、式:−(Ck2kO)−(kは1〜6の整数である)で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する二価の基、または−Cy2y−(yは1〜8の整数である)で表される単位を含むパーフルオロアルキル構造であり、Rは独立に炭素数1〜8の一価炭化水素基であり、Xは独立に加水分解性基又はハロゲン原子であり、n及びn’はそれぞれ0〜2の整数であり、m及びm’はそれぞれ1〜5の整数であり、a及びbはそれぞれ2又は3である。)
Rf"−(CH2s−Si(R2)3-h(X2)h ・・・(3)
(式中、Rf"は、炭素数1〜17の直鎖状のパーフルオロアルキル基であり、R2は独立に炭素数1〜8の一価炭化水素基であり、X2は独立に加水分解性基であり、sは0〜2の整数であり、hは2又は3である。)
【請求項3】
撥水撥油膜が、前記一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物及び下記一般式(4)で示されるアルコキシシラン化合物を含む組成物を用いて、基板上に形成される、請求項1又は2に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
R’4-d−Si(OR")d ・・・(4)
(式中、R'は有機基であり、R"はメチル基又はエチル基であり、dは4又は3である。)
【請求項4】
撥水撥油膜が、減圧及び加熱条件下、前記一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物、又は前記一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物及び前記一般式(4)で示されるアルコキシシラン化合物を含む組成物を基材上に蒸着させて形成される、請求項1〜3のいずれかに記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項5】
ガラス基板上に、前記一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物、又は前記一般式(1)〜(3)から選ばれる1種以上のフッ素含有シラン化合物及び前記一般式(4)で示されるアルコキシシラン化合物を含む組成物を、減圧及び加熱条件下、蒸着することで撥水撥油膜を形成してなる昇華染色用基板。

【公開番号】特開2011−118376(P2011−118376A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242646(P2010−242646)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】