説明

柔軟性シートの製造方法

【課題】シートの幅が縮み難く、高い柔軟性を有し、肌触りの優れた柔軟性シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の柔軟性シートの製造方法は、基材シート10を一対の第1駆動ロール42,43から互いに噛み合う一対の歯溝ロール2,3の噛み合い部分に供給して、一対の歯溝ロール2,3間で基材シート10をその流れ方向に延伸加工する延伸工程を備えている。本発明の柔軟性シートの製造方法は、第1駆動ロール42,43の周速度V1と歯溝ロール2,3の周速度V2との関係を、V1>V2としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、互いに噛み合う歯溝が回転軸方向に沿うように周面部に設けられた一対のロールを備えた加工手段を使用し、該ロールを回転させてそれらの噛み合い部分に不織布等のシートを供給して、該シートに加工を施す技術が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、歯溝(ギヤ)の噛み合い度を調整することにより、不織布等のシートを延伸する技術が提案されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の延伸技術のように歯溝を有する一対のロール間にシートを通して延伸加工を施す場合、歯溝の深さを深くすれば、延伸倍率が高い加工を施すことができるが、その一方において、シート全体としての強度が低下し易いという問題がある。
【0004】
また、特許文献2には、歯溝(ギヤ)の噛み合い度の調整に加え、歯溝(ギヤ)による延伸の前に、不織布等のシートを予め延伸ロールにより延伸し、延伸倍率の高い加工を施す技術が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の延伸技術は、歯溝を有する一対のロールの回転速度を、該一対のロールの上流側に位置する延伸ロールの回転速度よりも早く設定しているため、不織布等のシートに流れ方向のテンションが加わり、歯溝(ギヤ)による延伸の前に不織布等のシートの幅が縮んでしまう。また、歯溝を有する一対のロールの回転速度が早いので、歯溝の深さを深く設定することができず、特許文献2に記載の延伸技術では、得られる伸縮性シートの肌触りを向上させることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−73967号公報
【特許文献2】特開2008−156785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、シートの幅が縮み難く、高い柔軟性を有し、肌触りの優れた柔軟性シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基材シートを一対の第1駆動ロールから互いに噛み合う一対の歯溝ロールの噛み合い部分に供給して、一対の該歯溝ロール間で該基材シートをその流れ方向に延伸加工する延伸工程を具備する柔軟性シートの製造方法であって、前記第1駆動ロールの周速度V1と前記歯溝ロールの周速度V2との関係を、V1>V2とした柔軟性シートの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の柔軟性シートの製造方法によれば、シートの幅が縮み難く、高い柔軟性を有し、肌触りの優れたシートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明のシートの製造方法に用いられるシートの加工手段の一実施形態及びそれを用いたシートの製造工程を模式的に示す図である。
【図2】図2は、図1に示す加工手段における一対のロールの部分拡大図である。
【図3】図3は、図1に示す加工手段において一対のロール間で基材シートに延伸加工を施している状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の柔軟性シートの製造方法をその好ましい実施態様に基づき、図面を参照しながら説明する。
図1〜図3は、本発明の柔軟性シートの製造方法に用いられる加工手段(以下、単に加工手段ともいう。)の一実施形態を模式的に示したものである。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の加工手段1は、互いに噛み合う歯溝が回転軸方向に沿うように周面部に設けられた一対の歯溝ロール2,3を備えており、歯溝ロール2,3が回転されているときにそれらの噛み合い部分に供給された基材シート10にその流れ方向に延伸加工を施して柔軟性を付与する。本実施形態の加工手段1では、歯溝ロール2,3は同じ形態のロールで構成されている。歯溝ロール2,3に互いに噛み合う歯溝が回転軸方向に沿うように周面部に設けられているとは、図1に示すように、歯溝ロール2,3の回転軸と、歯20,30が歯溝ロール2,3上に延びる方向とが、それぞれ平行になるように周面部に設けられ、歯20と歯20、又は歯30と歯30の間が溝になっていて、噛み合い部分では、互いの歯溝ロールの歯が互いの溝に噛み合うように設けられていることを意味する。
【0013】
歯溝ロール2,3は、基材シート10に高い柔軟性等の改良効果が現れ、延伸後の基材シート11の強度を保つ観点から、基材シート10を延伸倍率1.1〜5.0倍に延伸加工することが好ましく、1.5〜3.0倍に延伸加工することが更に好ましい。延伸加工の延伸倍率は、図2に示す、隣接する歯20、30どうしのピッチP及び歯溝ロール2,3の歯20,30の噛み合い深さDにより、下記の数式1で求められる。
【0014】
【数1】

【0015】
延伸倍率を前記範囲にするために、図2に示すように、各歯溝ロール2,3における隣接する歯20、30どうしのピッチPは、1.0mm〜5.0mmが好ましく、各歯20,30の根元での幅T1は、前記ピッチの0.5倍未満であり、且つ歯20,30の高さHは隣接する歯のピッチ以上であることが好ましい。ここで、歯溝ロールにおける隣接する歯どうしのピッチPとは、1つの歯の中心線とそれと隣り合う歯の中心線との距離をいう。歯溝ロールの歯の幅とは、1つの歯の幅をいう。歯の幅は均等でなく、歯の根元から歯の先端に向って細くなる台形型の歯であってもよい。根本での幅歯溝ロールの歯の高さとは、歯の根元から先端までの長さをいう。
【0016】
各歯溝ロール2,3における隣接する歯どうしのピッチPは、伸びの均一化を考慮すると、1.5〜3.5mmが更に好ましく、2.0〜3.0mmが特に好ましい。また、各歯溝ロール2,3における歯の根本での幅T1は、歯の強度を考慮すると、歯どうしのピッチPの0.25倍以上〜0.5倍未満が好ましく、0.3倍以上〜0.4倍以下がより好ましい。さらに、各歯溝ロールの歯の高さHは、材料に柔軟性を与えるために延伸倍率を高くすることを考慮すると、歯のピッチPの1.0倍以上〜2.0倍以下が好ましく、1.25倍以上〜1.75倍以下がより好ましい。台形型の歯である場合には、各歯溝ロール2,3における歯の根本での幅T1は、上述した範囲が好ましく、各歯溝ロール2,3における歯の先端での幅T2は、歯の強度を考慮すると、歯どうしのピッチPの0.2倍以上〜0.45倍以下が好ましい。
【0017】
また、各歯溝ロール2,3における歯20,30の先端の角部は、図2に示すように、角部で基材シート10にダメージが与えられないように、面取りしておくのが好ましい。面取りの曲率半径は0.1〜0.3mmが好ましい。尚、上述した各歯溝ロール2,3の幅T2の値は、面取り前の値である。
【0018】
図2に示す歯溝ロール2,3の歯20,30の噛み合い深さDは、材料に優れた柔軟性を与えることを考慮すると、ピッチPが上記範囲の場合、1.0mm以上が好ましく、2.0mm以上がより好ましい。同観点から、噛み合い深さDは、歯のピッチP以上となることが好ましい。ここで、歯の噛み合い深さDとは、歯溝ロール2,3同士を噛み合わせて回転させるとき、隣接する歯20,30同士の重なり合う長さをいう。
【0019】
歯溝ロール2,3は、何れか一方の回転軸に駆動手段(図示せず)からの駆動力が伝達されることによって噛み合って回転する、所謂連れ回り状態で回転している。なお、歯溝ロール2,3の各軸に歯20,30とは別に、一般的な、JIS B1701に規定されているギアを駆動伝達用のギアとして取り付けてもよい。それによって、歯溝ロール2,3の歯20,30が噛み合うのではなく、これらのギアが噛み合うことによって、歯溝ロール2,3に駆動が伝達され、歯溝ロール2,3を回転させることができる。この場合、歯溝ロール2,3の歯20,30は接触することはない。
【0020】
本実施形態においては、図1に示すように、歯溝ロール2、3の上流側に、基材シート10の原反(基材シートロール)を取り付けた基材シート10を繰り出す繰り出しロール41と、繰り出しロール41と歯溝ロール2,3との間に配された一対の第1駆動ロール42,43と、歯溝ロール2、3と第1駆動ロール42,43との間の搬送経路上に配された張力検出器(図示せず)と、該張力検出器の検出出力に基づいて第1駆動ロール42,43の周速度V1を制御する制御部(図示せず)とを備え、前記張力検出器の検出出力に基づいて第1駆動ロール42,43の周速度V1を互いに噛み合った状態での歯溝ロール2、3の周速度V2に対して所定速度に調整し、基材シート10に所望の張力を付与する。前記制御部による具体的な制御方法としては、所望の張力よりも大きな張力を検出した場合、歯溝ロール2、3の周速度V2より第1駆動ロール42,43の周速度V1を微増することによって、この区間の張力を小さくし、所望の張力に近づくよう調整する。一方、所望の張力より小さい張力を検出した場合、歯溝ロール2、3の周速度V2より第1駆動ロール42,43の周速度V1を微減することによって、この区間の張力を大きくし、所望の張力に近づくよう調整する。
【0021】
尚、第1駆動ロール42,43の周速度V1を繰り出しロール41から繰り出される基材シート10の繰り出し速度V4に対して所定速度に調整し、基材シート10に所望の張力を付与することもできる。
【0022】
本実施形態においては、図1に示すように、歯溝ロール2、3の下流側に、歯溝ロール2、3間で延伸加工された基材シート11を歯溝ロール2、3から引き出して次工程に搬送する一対の第2駆動ロール51,52と、第2駆動ロール51,52と歯溝ロール2、3との間の搬送経路上に配された張力検出器(図示せず)と、該張力検出器の検出出力に基づいて第2駆動ロール51,52の周速度を制御する制御部(図示せず)とを備え、前記張力検出器の検出出力に基づいて第2駆動ロール51,52の周速度V3を歯溝ロール2、3の周速度V2に対して所定速度に調整し、延伸加工した基材シート11を歯溝ロール2、3から引き出すと共に、基材シート11に所望の張力を付与する。 前記制御部による具体的な制御方法としては、所望の張力よりも大きな張力を検出した場合、歯溝ロール2、3の周速度V2より第2駆動ロール51,52の周速度V3を微減することによって、この区間の張力を小さくすることによって、所望の張力に近づくよう調整する。一方、所望の張力より小さい張力を検出した場合、歯溝ロール2、3の周速度V2より第2駆動ロール51,52の周速度V3を微増することによって、この区間の張力を大きくすることによって、所望の張力に近づくよう調整する。
【0023】
ここで、第1駆動ロール42,43の周速度V1とは、各ロール42,43表面での速度のことであり、繰り出しロール41から繰り出される基材シート10の繰り出し速度V4とは、繰り出された基材シート10表面での速度のことである。
また、第2駆動ロール51,52の周速度V3とは、第1駆動ロール42,43の周速度V1と同様に、各ロール51,52表面での速度のことである。歯溝ロール2、3の周速度V2とは、歯20,30の先端ではなく、図2に示すように、歯20,30の先端から歯20,30の噛み合い深さDの半分まで内側に入った位置D1(隣接する歯同士の重なり合う長さの半分の位置)での速度のことである。
【0024】
加工手段1は、制御手段(図示せず)を備えており、該制御手段は、前記駆動手段、張力検出器による張力の検出、並びにそれに基づく繰り出しロール41、第1駆動ロール42,43、歯溝ロール2、3及び第2駆動ロール51,52それぞれの速度制御を、所定の動作シーケンスに従って制御する。
【0025】
次に、本発明の柔軟性シートの製造方法の一実施態様を、加工手段1を用いて基材シートに柔軟加工を施す柔軟性シートの製造方法に基づいて説明する。
【0026】
本発明の柔軟性シートの製造方法は、図1に示すように、基材シートロールから基材シート10を一対の第1駆動ロール42,43間に供給して、一対の第1駆動ロール42,43から基材シート10を一対の歯溝ロール2,3の噛み合い部分に供給して、一対の歯溝ロール2,3間で基材シート10をその流れ方向に延伸加工する延伸工程を具備している。更に、本実施態様においては、延伸加工された基材シート11を一対の第2駆動ロール51,52間に供給して、一対の第2駆動ロール51,52間で基材シート10にその流れ方向に張力を加えながら一対の歯溝ロール2,3間から引き出す引き出し工程とを具備している。
以下、延伸工程、及び引き出し工程について説明する。
【0027】
延伸工程の前工程では、繰り出しロール41から第1駆動ロール42,43に基材シート10が供給される。本実施態様においては、基材シート10の供給持の第1駆動ロール42,43の周速度V1と基材シート10の繰り出し速度V4とは等速(V1=V4)である。延伸工程では、図1,図3に示すように、一対の第1駆動ロール42,43から基材シート10を、加工手段1における一対の歯溝ロール2,3を回転させながらそれらの噛み合い部分に供給し、基材シート10をその流れ方向に延伸加工する。第1駆動ロール42,43の周速度V1を、歯溝ロール2,3の周速度V2より高速とすることにより、歯溝ロール2,3に供給する前に、基材シート10の幅を縮めないようにして、張力を付与された基材シート10を歯溝ロール2,3の噛み合い部分に供給することができる。第1駆動ロール42,43の周速度V1を歯溝ロール2,3の周速度V2より高速とする(V1>V2)ことにより、言い換えれば、歯溝ロール2,3の周速度V2を第1駆動ロール42,43の周速度V1より低速にすることにより、張力を付与された基材シート10に必要以上にテンションがかからないので、歯溝ロール2,3の歯20,30の噛み合い深さDを、上述したように、深く設定することができる。このような観点から、第1駆動ロール42,43の周速度V1に対する歯溝ロール2,3の周速度V2の比率〔(V2/V1)×100〕は、60%〜90%であることが好ましく、70%〜85%であることが更に好ましく、70%〜80%であることが一層好ましい。尚、延伸工程では、歯溝ロール2,3の周速度V2を第1駆動ロール42,43の周速度V1より低速にしているが、歯溝ロール2,3の歯20,30の噛み合い深さDが、上述したように深いため、弛みを生じずに基材シート10を歯溝ロール2,3に供給することができる。
付与される張力は、基材シート10の破断荷重の10%以上50%以下であることが好ましく、10%以上40%以下であることが更に好ましい。基材シート10に付与される張力は、例えば、基材シート10の破断荷重が100mm幅あたり約60Nの場合には、延伸加工前に加える張力は100mm幅あたり6〜30Nが好ましく、100mm幅あたり6〜24Nが更に好ましい。これは張力が小さい場合は延伸加工を行っても伸縮性が十分に発現されないことがあり、逆に張力が大きい場合はこの区間において材料が伸ばされて幅縮みが起こり、延伸加工後の所望のシート幅が得られないことがあるためである。
【0028】
引き出し工程では、加工手段1における一対の第2駆動ロール51,52を回転させながらそれらの間に歯溝ロール2、3間で延伸加工された基材シート11を供給して、基材シート11に基材シート11の流れ方向に張力を加えながら一対の歯溝ロール2,3間から引き出す。具体的には、第2駆動ロール51,52の周速度V3を、歯溝ロール2,3の周速度V2より高速にし(V3>V2)て、基材シート11に所望の張力を加えることが好ましい。第2駆動ロール51,52の周速度V3と歯溝ロール2,3の周速度V2との周速差ΔV(=V3−V2)により、基材シート11に張力が加えられる。基材シート11に張力を加えながら一対の歯溝ロール2,3間から基材シート11を引き出す観点から、第2駆動ロール51,52の周速度V3に対する歯溝ロール2,3の周速度V2の比率〔(V2/V3)×100〕は、10%〜90%であることが好ましく、30%〜70%であることが更に好ましく、30%〜50%が一層好ましい。更に、第2駆動ロール51,52の周速度V3は、第1駆動ロール42,43の周速度V1よりも高速に(V3>V1)設定することが好ましい。第2駆動ロール51,52の周速度V3に対する第1駆動ロール42,43の周速度V1の比率〔(V1/V3)×100〕は、30%〜80%であることが好ましく、40%〜60%であることが更に好ましい。加えられる張力は、延伸加工後の基材シート11の破断荷重の5%以上50%以下であることが好ましく、5%以上20%以下であることが更に好ましい。
【0029】
このように、延伸工程後の基材シート11の搬送の際には、上流の延伸により低下した強度を考慮し、延伸加工後の該基材シート11の破断荷重を基準とすることが、引き出し工程後の基材シート11の破断を防ぐ点から好ましい。即ち、延伸工程より上流側の第1駆動ロール42,43に供給するときの張力より、延伸工程より下流側の第2駆動ロール51,52に供給するときの張力を小さくすることが好ましい。
【0030】
加工を施す基材シート10としては、特に制限はなく、例えば、紙、単層不織布、樹脂フィルム、2種以上の不織布の積層体、樹脂フィルムと不織布との積層体等が挙げられ、具体的には、ポリプロピレン繊維、ポリプロピレンとポリエチレンの組成物からなる繊維、及びポリプロピレンとポリエチレンのバイコンポネント繊維から選ばれるポリオレフィン繊維の熱可塑性重合体不織布が挙げられる。また、加工手段1による延伸加工により基材シート10に柔軟性を付与すると共に、更に伸縮性を付与する観点から、弾性繊維を含む不織布が好ましい。弾性繊維を含む不織布としては、弾性繊維を含む弾性繊維層の少なくとも一面に、実質的に非弾性の繊維から構成された非弾性繊維層が配され、両繊維層は、弾性繊維層の構成繊維が繊維形態を保った状態で、熱融着によって接合された伸縮性不織布(以下、伸縮性複合不織布という。)や、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した多数の弾性フィラメントが、実質的に非伸長状態で、それらの全長にわたり、伸長可能な不織布に接合されている伸縮不織布が挙げられる。
【0031】
前記弾性繊維は、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー又はポリウレタン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー、ゴム等の弾性樹脂を原料とする繊維が用いられる。また、非弾性繊維は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル(PETやPBT)、ポリアミド等からなる繊維が用いられる。
【0032】
伸縮性複合不織布としては、各種公知のものを用いることができ、例えば、特開2008−179128号公報に記載の伸縮シート、特開2007−22066号公報に記載の伸縮性シート、特開2007−22066号公報に記載の伸縮性不織布の製造方法により製造される伸縮性不織布、特許3054930号公報等を用いることもできる。
【0033】
以上説明したように、加工手段1を用いて基材シートに柔軟加工を施す本実施態様の柔軟性シートの製造方法によれば、第1駆動ロール42,43の周速度V1を歯溝ロール2,3の周速度V2より高速とする(V1>V2)ことにより、言い換えれば、歯溝ロール2,3の周速度V2を第1駆動ロール42,43の周速度V1より低速にすることにより、張力を付与された基材シートに必要以上にテンションがかからないので、歯溝ロール2,3への供給直前での基材シート10の幅W1が不必要に狭くなり難く、基材シート10の最初の幅W0に対する加工後の柔軟性シートの幅W2の比率〔(W2/W0)×100〕を80%以上とすることができる(図1参照)。このように、基材シート10の最初の幅からの幅縮みによる損失が殆ど無いため、経済性が向上する。
【0034】
また、本実施態様の柔軟性シートの製造方法によれば、歯溝ロール2,3の周速度V2を第1駆動ロール42,43の周速度V1より低速にすることにより、張力を付与された基材シートにかかるテンションを低くすることができるので、延伸工程の歯溝ロール2,3で破れやダメージ、強度低下が発生し難く、歯溝ロール2,3の歯20,30の噛み合い深さDを深く設定することができる。従って、本実施態様の柔軟性シートの製造方法により得られる柔軟性シートは、クッション性が高く、柔軟性が向上すると共に、肌触りが向上する。
【0035】
本発明の柔軟性シートの製造方法は、上述の実施態様の製造方法に何ら制限されるものではなく、適宜変更可能である。
【0036】
例えば、上述の本実施態様の柔軟性シートの製造方法に用いられる加工手段1は、図1に示すように、延伸工程において歯溝ロール2,3を一対設けているが、基材シート10の流れ方向に直列に複数対設け、基材シート10に延伸工程を繰り返し施すことにより、基材シート10に更に高い柔軟性を付与することができる。
【0037】
また、上述の本実施態様の柔軟性シートの製造方法においては、基材シート10の供給持の第1駆動ロール42,43の周速度V1と基材シート10の繰り出し速度V4とは等速(V1=V4)であるが、第1駆動ロール42,43の周速度V1を、基材シート10の繰り出し速度V4より高速にし、次工の延伸工程前に、基材シート10を予備延伸してもよい。即ち、第1駆動ロール42,43の周速度V1と基材シート10の繰り出し速度V4との周速差ΔV(=V1−V4)により、基材シート10が予備延伸される。第1駆動ロール42,43の周速度V1に対する基材シート10の繰り出し速度V4の比率〔(V4/V1)×100〕は、80%〜100%であることが好ましく、90%〜98%であることが更に好ましい。付与される張力は、基材シート10の破断荷重の10%以上50%以下であることが好ましく、10%以上20%以下であることが更に好ましい。基材シート10に付与される張力は、例えば、基材シート10の破断荷重が100mm幅あたり約60Nの場合には、延伸加工前に加える張力は100mm幅あたり6〜30Nが好ましく、100mm幅あたり6〜12Nが更に好ましい。
【0038】
また、上述の本実施態様の柔軟性シートの製造方法に用いられる加工手段1には、必要に応じてヒーターを設けてもよい。具体的には、図1に示す第1駆動ロール42,43、第2駆動ロール51,52及び歯溝ロール2,3にヒーターを設けてもよい。第1駆動ロール42,43、第2駆動ロール51,52、又は歯溝ロール2,3にヒーターを設けることにより、シートに熱を与えることによりシートが変形しやすくなり、ダメージを与えずに延伸しやすく、より伸びやすくなる効果を奏する。
【0039】
また、上述の本実施態様の柔軟性シートの製造方法に用いられる加工手段1には、必要に応じて吸引手段を設けてもよい。具体的には、図1に示す第1駆動ロール42,43及び第2駆動ロール51,52の周面に複数個の開孔およびロール内部にその開孔と通じる通路を設けて吸引路を形成し、ロール外の吸引装置とをつなげることによって吸引路を通してロールの周面に吸引力を与え、加工済みのシートを搬送できるようにしてもよい。
【0040】
本発明の製造方法により製造された柔軟性シートは、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、体液吸収パッド等に代表される吸収性物品のトップシート、バックシート、立体ギャザー、外装材等の構成材料に好適に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されない。
【0042】
図1に示す加工手段を用い柔軟性シートを得た。下記実施例1〜5の柔軟性シートは、下記の歯溝ロールを供えた装置を使用し、下記加工条件で各ロール間に下記基材シートを一度だけ通して加工を施し形成されたシートである。得られた柔軟性シートについて下記評価を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
〔実施例1〕
<歯溝ロールの形態及び歯の噛み合い深さ>歯溝ロール2,3とも同じ仕様
歯溝ロールの歯のピッチP:2.0mm
ロールの歯の幅T1:0.7mm(根元)、幅T2:0.5mm(先端)
ロールの歯の高さH:3.5mm
ロールの歯のP.C.D(Pitch Circle Diameter):150mm
ロールの歯の噛み合い深さD:3.0mm(歯の接触があり連れ回りで回転)
【0044】
<基材シートの材質>
加工を施す基材シートには、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した多数の下記弾性フィラメントが、実質的に非伸長状態で、それらの全長にわたり、伸長可能な下記不織布に接合されている伸縮性複合不織布を用いた。

弾性フィラメント:スチレン系の熱可塑性エラストマー繊維、繊維径30μm
弾性フィラメント層の坪量:40g/m2
伸長可能な不織布:PET/PE芯/鞘構造繊維、繊維太さ2dtex
伸長可能な不織布の坪量:10g/m2
複合シート坪量:50g/m2
基材シートの加工前の幅:250mm
【0045】
周速度の比率、及び基材シートにかける張力を、表1に記載の条件に設定し、基材シートに加工を施した。表1から明らかなように、実施例1は、第1駆動ロールの周速度V1を歯溝ロールの周速度V2より高速に設定していることに特徴がある。
【0046】
〔実施例2〕
ロールの歯の噛み合い深さDを2.8mmに変更した以外は、実施例1と同様の条件の歯溝ロールを用いた。また、基材シートの材質は、実施例1と同様のものを用いた。周速度の比率、及び基材シートにかける張力を、表1に記載の条件に設定し、基材シートに加工を施した。
【0047】
〔実施例3〕
ロールの歯の噛み合い深さDを2.6mmに変更した以外は、実施例1と同様の条件の歯溝ロールを用いた。また、基材シートの材質は、実施例1と同様のものを用いた。周速度の比率、及び基材シートにかける張力を、表1に記載の条件に設定し、基材シートに加工を施した。
【0048】
〔実施例4〕
ロールの歯の噛み合い深さDを2.4mmに変更した以外は、実施例1と同様の条件の歯溝ロールを用いた。また、基材シートの材質は、実施例1と同様のものを用いた。周速度の比率、及び基材シートにかける張力を、表1に記載の条件に設定し、基材シートに加工を施した。
【0049】
〔実施例5〕
ロールの歯の噛み合い深さDを2.2mmに変更した以外は、実施例1と同様の条件の歯溝ロールを用いた。また、基材シートの材質は、実施例1と同様のものを用いた。周速度の比率、及び基材シートにかける張力を、表1に記載の条件に設定し、基材シートに加工を施した。
【0050】
〔比較例1〕
ロールの歯の噛み合い深さDを2.0mmに変更した以外は、実施例1と同様の条件の歯溝ロールを用いた。また、基材シートの材質は、実施例1と同様のものを用いた。周速度の比率、及び基材シートにかける張力を、表1に記載の条件に設定し、基材シートに加工を施した。表1から明らかなように、比較例1は、実施例と異なり、歯溝ロールの周速度V2を第1駆動ロールの周速度V1より高速に設定している。
【0051】
〔比較例2〕
ロールの歯の噛み合い深さDを1.8mmに変更した以外は、実施例1と同様の条件の歯溝ロールを用いた。また、基材シートの材質は、実施例1と同様のものを用いた。周速度の比率、及び基材シートにかける張力を、表1に記載の条件に設定し、基材シートに加工を施した。表1から明らかなように、比較例1は、実施例と異なり、歯溝ロールの周速度V2を第1駆動ロールの周速度V1より高速に設定している。
【0052】
〔評価〕
実施例及び比較例の条件で柔軟性シートを製造する際に、基材シートの最初の幅W0に対する歯溝ロールへの供給直前での基材シートの幅W1の比率〔(W1/W0)×100〕、及び基材シートの最初の幅W0に対する加工後の柔軟性シートの幅W2の比率〔(W2/W0)×100〕を測定した。また、実施例及び比較例で得られた柔軟性シートについて、厚み、クッション性、120%伸張させた時点での荷重(120%強度)を以下の方法で測定した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0053】
〔厚みの測定〕
柔軟性シートの厚みは、0.5cN/cm2の荷重にて平板間に実施例及び比較例で得られた柔軟性シートを挟み、平板間の距離をキーエンス(株)のレーザー変位計LK−G030で測ることで求めた。詳細には、シートを挟む前の平板の厚み(高さ)を測定し、次にシートを挟む平板の厚み(高さ)を測定し、その差をシートの厚みとして求めた。
【0054】
〔クッション性の測定〕
測定前に実施例及び比較例で得られた柔軟性シートを計測寸法(2cm×2cm以上)にカットし24時間以上放置して、測定前にシートに加えられている歪みを取り除く。圧縮測定器を用いて、シートを0.02mm/secの圧縮速度で最大荷重50gf/cm2になるまで圧縮した時の圧縮仕事量(a)、その後同速度で圧力を取り除き荷重が0になった時の回復仕事量(b)から、次式によって圧縮回復率(%)(クッション性)を算出した。 圧縮回復率=(b/a)×100(%)
圧縮測定器は、例えばカトーテック(株)製ハンディー圧縮試験機を使用し、加圧板円形2cm2、自動反転、アンプ感設定(SENS2、STROKESET5.0)とし、ハンディ圧縮測定プログラムによりデータ化した。
【0055】
〔120%伸長時の応力の測定〕
実施例及び比較例で得られた柔軟性シートを、その機械流れ方向へ200mm、それと直交する方向へ25mmの大きさでカットし試験片を得た。島津製作所製の引張試験機AG−1kNISに試験片をチャック間距離:150mmで装着した。試験片をその長手方向へ300mm/分の速度で引っ張ったときの荷重−伸度特性を調べた。各3本の試験片について120%伸長させた時点での応力を測定した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示す結果から明らかなように、各実施例の柔軟性シートは、比較例の柔軟性シートに比べて、基材シートの最初の幅からの幅縮みによる損失が殆ど無いことが判る。また、各実施例の柔軟性シートは、比較例の柔軟性シートに比べて、伸縮特性にも遜色なく厚みがありクッション性も良好であり、肌触りが優れていることが判る。
【符号の説明】
【0058】
1 加工手段
2,3 歯溝ロール
10 歯溝ロール2、3による延伸加工前の基材シート
11 歯溝ロール2、3により延伸加工された基材シート
20,30 歯
41 繰り出しロール
42,43 第1駆動ロール
51,52 第2駆動ロール
V1 第1駆動ロールの周速度
V2 歯溝ロールの周速度
V3 第2駆動ロールの周速度
V4 繰り出しロールの周速度
W0 基材シートの最初の幅
W1 歯溝ロールへの供給直前での基材シートの幅
W2 加工後の柔軟性シートの幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートを一対の第1駆動ロールから互いに噛み合う一対の歯溝ロールの噛み合い部分に供給して、一対の該歯溝ロール間で該基材シートをその流れ方向に延伸加工する延伸工程を具備する柔軟性シートの製造方法であって、
前記第1駆動ロールの周速度V1と前記歯溝ロールの周速度V2との関係を、V1>V2とした柔軟性シートの製造方法。
【請求項2】
一対の前記歯溝ロールの噛み合い部分に供給される基材シートは、一対の前記第1駆動ロールと一対の前記歯溝ロールとの間で該基材シートの流れ方向に張力を付与される請求項1記載の柔軟性シートの製造方法。
【請求項3】
一対の歯溝ロールの噛み合い部分に供給して延伸加工された基材シートを一対の第2駆動ロールに供給して、一対の該第2駆動ロールで該基材シートにその流れ方向に張力を加えながら一対の前記歯溝ロールから引き出す引き出し工程を具備し、
前記第2駆動ロールの周速度V3と前記第1駆動ロールの周速度V1との関係を、V3>V1とした請求項1又は2に記載の柔軟性シートの製造方法。
【請求項4】
一対の前記歯溝ロールは、前記基材シートを延伸倍率1.1〜5.0倍に延伸加工する請求項1〜3の何れかに記載の柔軟性シートの製造方法。
【請求項5】
前記基材シートが弾性繊維を含む不織布からなり、前記延伸工程によって前記基材シートにその流れ方向に伸縮性を付与する請求項1〜4の何れかに記載の柔軟性シートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−80172(P2011−80172A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235050(P2009−235050)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】