柱梁架構の耐震補強構造
【課題】現場での溶接を行うことなく補強部材を取り付けることによって耐震補強が可能であり、従来よりも簡便に補強できる柱梁架構の耐震補強構造を提供すること。
【解決手段】建物の柱梁架構に設置される補強部材16の端部が取り付けられるガセットプレート18が、帯状の両端部のそれぞれに板状の固定用金物22,24が添えられた帯状の繊維シート20によって建物の柱梁架構の柱12に固定される。柱梁架構の柱12の一部が帯状の繊維シート20によって周方向に包まれ、繊維シート20の固定用金物22,24が添えられた両端部で、その内面同士が、両固定用金物22,24間に繊維シート20が挟まれるように重ね合わされ、この際、重ね合わされる内面間にガセットプレート18が挟まれており、ガセットプレート18とともに両固定用金物22,24間が締結用ボルト26で締め込まれる。
【解決手段】建物の柱梁架構に設置される補強部材16の端部が取り付けられるガセットプレート18が、帯状の両端部のそれぞれに板状の固定用金物22,24が添えられた帯状の繊維シート20によって建物の柱梁架構の柱12に固定される。柱梁架構の柱12の一部が帯状の繊維シート20によって周方向に包まれ、繊維シート20の固定用金物22,24が添えられた両端部で、その内面同士が、両固定用金物22,24間に繊維シート20が挟まれるように重ね合わされ、この際、重ね合わされる内面間にガセットプレート18が挟まれており、ガセットプレート18とともに両固定用金物22,24間が締結用ボルト26で締め込まれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の柱梁架構に補強部材を設置して補強する柱梁架構の耐震補強構造に関し、さらに詳しくは、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造などの建物の柱梁架構に補強部材を設置して補強する柱梁架構の耐震補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨造などの建物の柱梁架構を補強する方法としては、これらの建物の柱梁架構に方杖やブレースなどの補強部材を設置する方法がある。このような補強部材を建物の柱梁架構に設置することで、水平力に対して建物の耐力を増加させることができる。この際、柱梁架構に生じる応力を補強部材に十分伝達させるためには、補強部材の端部を柱梁架構に接合して一体化させることが必要である。したがって、その接合方法が重要となる。
【0003】
鉄骨造における接合方法としては、溶接が良く知られている。具体的には、ブレースなどの補強部材の端部をボルトなどで固定するガセットプレートを溶接によって柱梁架構の柱あるいは梁に取り付け、取り付けられたガセットプレートにブレースなどの補強部材の端部をボルトなどで固定する方法などがある。
【0004】
また、この種の接合方法においては、溶接を用いない接合方法も知られている。例えば特許文献1には、ブレースなどの補強部材の端部をボルトなどで固定するガセットプレートが固定された板部材を建物の梁又は柱をなす鋼管に接着し、この板部材の各端部で鋼管に繊維シートを巻き付けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−19662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、溶接による場合には、現場において柱梁架構の柱あるいは梁にガセットプレートの溶接を行う必要がある。この場合には、火事等の発生を予防する目的から、大規模な溶接養生が必要となり、コストの増加に繋がる。また、現場の環境が悪い場合(例えば、上向きに溶接を行う必要がある場合など)などでは溶接欠陥などが生じることがあり、耐震性能の低下が心配される。そこで、現場での溶接を必要としない接合方法が望まれる。
【0007】
これに対し、特許文献1に記載の方法は、現場での溶接を必要としない接合方法ではあるが、現場にて鋼管に繊維シートを何重にも巻き付けることから、繊維シートを巻き付ける煩雑な工程が必要となり、施工中に多大な労力と時間を要する。そこで、溶接を用いない方法であって、より簡便にガセットプレートを柱梁架構に接合できる接合方法が望まれる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、現場での溶接を行うことなく補強部材を取り付けることによって耐震補強が可能であり、従来よりも簡便に補強できる柱梁架構の耐震補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造は、建物の柱梁架構に補強部材が設置されて補強される柱梁架構の耐震補強構造において、前記柱梁架構の柱または梁の一部が周方向に沿って帯状の繊維シートで包まれ、該繊維シートの両端部のそれぞれには板状の固定用金物が添えられ、該繊維シートの固定用金物が添えられた両端部でその内面同士が合わされることにより該繊維シートの両端部が固定用金物間に挟まれ、この際、合わされる固定用金物間には、該繊維シートの両端部とともに、前記補強部材の端部が取り付けられるガセットプレートが挟まれており、該ガセットプレートとともに前記固定用金物間が締結用ボルトで締め込まれることにより前記柱または梁の外周面に前記繊維シートが密着固定されて、該繊維シートを介して前記ガセットプレートが前記柱または梁に固定され、該ガセットプレートに前記補強部材の端部が取り付けられていることを要旨とするものである。
【0010】
また、本発明に係る他の柱梁架構の耐震補強構造は、建物の柱梁架構に補強部材が設置されて補強される柱梁架構の耐震補強構造において、帯状の長手方向に沿って並べられた帯状の複数枚の繊維シートの組み合わせによって前記柱梁架構の柱または梁の一部が周方向に沿って包まれ、該複数枚の繊維シートの端部のそれぞれには板状の固定用金物が添えられ、隣り合う繊維シートの固定用金物が添えられた端部の内面同士が合わされることにより該繊維シートの端部が固定用金物間に挟まれ、この際、合わされる固定用金物間には、該繊維シートの端部とともに、前記補強部材の端部が取り付けられるガセットプレートが挟まれており、該ガセットプレートとともに前記固定用金物間が締結用ボルトで締め込まれることにより前記柱または梁の外周面に前記複数枚の繊維シートの組み合わせが密着固定されて、該複数枚の繊維シートの組み合わせを介して複数個のガセットプレートが前記柱または梁に固定され、該複数個のガセットプレートに前記補強部材の端部がそれぞれ取り付けられていることを要旨とするものである。
【0011】
これらの場合において、前記繊維シートの端部は、前記固定用金物の先端で折り返されて固定用金物の両面に固定されていることが好ましい。
【0012】
そして、前記ガセットプレートは、前記合わされる固定用金物間に挟まれる部分となる挟締部の基端から前記柱または梁の外周面に沿って延びる応力分散部を備えており、前記補強部材から該ガセットプレートに伝達される圧縮力により該ガセットプレートに生じる応力を該応力分散部で前記柱または梁の外周面に沿って分散させることが好ましい。
【0013】
さらに、前記固定用金物の基端には、前記柱の外周面に当接して該固定用金物を安定させる脚部が形成されていることが好ましい。
【0014】
そして、前記繊維シートは、前記柱の外周面との密着面で前記柱の外周面に接着されていても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造によれば、柱または梁の一部を周方向に包んだ帯状の繊維シートの両端部のそれぞれに添えられた板状の固定用金物で補強部材を取り付けるガセットプレートを繊維シートとともに挟み込んで固定することから、現場での溶接を行うことなく柱梁架構の柱または梁にガセットプレートを取り付けることができる。そして、このガセットプレートに補強部材を取り付けることによって現場での溶接を行うことなく耐震補強を行うことができる。
【0016】
また、従来のように繊維シートを何重にも巻き付けるものではなく、繊維シートの両端部のそれぞれに添えられた板状の固定用金物をガセットプレートとともに締結用ボルトで締め込むことによって柱梁架構の柱または梁にガセットプレートを取り付けることができるため、従来よりも簡便に補強することができる。
【0017】
そして、本発明に係る他の柱梁架構の耐震補強構造では、帯状の長手方向に沿って並べられた帯状の複数枚の繊維シートの組み合わせによって柱または梁の一部が周方向に包まれ、この複数枚の繊維シートの組み合わせを介して複数個のガセットプレートが柱または梁に固定されることから、柱または梁にガセットプレートを取り付ける基本的な構造は上記本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造と同様である。このため、本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造と同様の効果を奏する。
【0018】
これらの場合において、繊維シートの端部が固定用金物の先端で折り返されて固定用金物の両面に固定されていると、締結用ボルトを用いて両固定用金物間を締め込んだときに繊維シートに生じる引張力に対して、抵抗力が向上する。これにより、ガセットプレートの取付強度が向上する。
【0019】
そして、ガセットプレートが上記の応力分散部を備える場合には、補強部材からガセットプレートに圧縮力が作用した場合でも、ガセットプレートの圧縮応力がこの応力分散部で柱または梁の外周面に沿って分散されるので、挟締部の基端での応力集中が抑えられ、この圧縮力によって柱または梁の外周面が変形するのを防止することができる。
【0020】
そして、固定用金物の基端に、柱の外周面に当接して固定用金物を安定させる脚部が形成されていると、繊維シートのような剛直でない材料の両端部のそれぞれに接着された板状の固定用金物を柱の外周面に沿って安定して固定することができる。これにより、ガセットプレートの取付強度が安定する。
【0021】
そして、繊維シートが柱の外周面との密着面で柱の外周面に接着されていると、繊維シートと柱の一体性が高まる。これにより、ガセットプレートの取付強度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る柱梁架構の耐震補強構造の模式図である。
【図2】図1の柱梁架構の耐震補強構造において用いる繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。
【図3】図1の柱梁架構の耐震補強構造におけるガセットプレートの取付部分を拡大して示した図である。
【図4】本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。
【図5】本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。
【図6】本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。
【図7】本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。
【図8】図3の柱梁架構の耐震補強構造において、ガセットプレートに圧縮力が作用したときに生じるおそれがある変形を説明する図である。
【図9】本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。
【図10】図9に示したガセットプレートを適用した柱梁架構の耐震補強構造の模式図である。
【図11】本発明の他の実施形態に係る柱梁架構の耐震補強構造におけるガセットプレートの取付部分を拡大して示した図である。
【図12】本発明の他の実施形態に係る柱梁架構の耐震補強構造におけるガセットプレートの取付部分を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態について図を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る柱梁架構の耐震補強構造の模式図である。図2は、図1の柱梁架構の耐震補強構造において用いる繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。図3は、図1の柱梁架構の耐震補強構造におけるガセットプレートの取付部分を拡大して示した図である。
【0024】
図1に示す本発明の一実施形態に係る柱梁架構の耐震補強構造10において、耐震補強を施す建物は鉄骨造よりなるものである。柱梁架構の柱12は鋼管よりなる鋼管柱(いわゆるBOX柱)であり、鋼管は径方向の断面形状が略四角形状であるものからなる。また、柱梁架構の梁14はH形鋼で構成されている。このような構成の柱梁架構に対して、補強部材としてのブレース16を設置することにより柱梁架構の耐震補強が行われる。ブレース16には、例えばH形鋼や溝形鋼などの鋼材などが用いられる。
【0025】
ブレース16は、地震等の振動によって建物に作用する水平力(層間変形による力)に対して抵抗するものであり、例えば柱梁架構の対角を繋ぐように設置される。鉄骨造の柱梁架構の梁14には、通常、スラブがあることから、ブレース16の端部は柱12と梁14の接合部に隣接する位置の柱12に取り付けられる。例えば、梁14にスラブがない場合などでは、ブレース16の端部は、接合部に隣接する位置の梁14に取り付けられても良いし、接合部に隣接する位置の柱12と梁14の両方に取り付けられても良い。ブレース16の端部を柱梁架構の柱12に取り付けるための取付金具として、ガセットプレート18が用いられる。
【0026】
ガセットプレート18には、ブレース16の端部をボルト28で固定するために設けられたブレース用の固定孔18aと、後述する固定用金物22,24に繊維シート20とともに締結用ボルト26で固定するために設けられた固定用金物用の固定孔18bとが備えられている。
【0027】
繊維シート20は、カーボン繊維やアラミド繊維などの高強度繊維からなる繊維がシート状に成形されたもので構成されている。繊維シート20は、帯状に形成されており、両端部のそれぞれには板状の固定用金物22,24が添えられる。固定用金物22,24は、繊維シート20の両端部に接着等によって予め固定されて一体化されていても良いし、施工前においては固定用金物22,24と繊維シート20とが一体化されておらず、別個独立した部材とされていても良い。
【0028】
固定用金物22,24は、帯状の繊維シート20の両端部のそれぞれに添えられる一対の組からなる。一対の固定用金物22,24のそれぞれには、互いに合わせたときに繊維シート20とともにガセットプレート18を挟み込んでこれらを締結する部分となる締結部22a,24aが備えられているとともに、この締結部22a,24aの基端には脚部22b、24bが延設されて締結部22a,24aの基端から互いに外側を向くように折り曲げ形成されている。この脚部22b、24bは、板状の固定用金物22,24を柱12の外周面に沿って安定させるためのものであり、繊維シート20を挟んで柱12の外周面に当接される部分である。固定用金物22,24の締結部22a,24aには締結用ボルト26を通すためのボルト挿通孔22c、24cが形成されている。固定用金物22,24が繊維シート20の両端部に接着等によって予め固定される場合には、固定用金物22,24は、この締結部22a,24aの内面で繊維シート20に固定される。
【0029】
繊維シート20の端部は、固定用金物22,24の締結部22a,24aの先端で折り返されている。繊維シート20の折り返された端部は、締結部22a,24aの外面に接着等によって固定されていても良いし、固定されていなくても良い。
【0030】
繊維シート20の折り返しによる折り返し部20aは固定用金物22,24の締結部22a,24aの先端に接触しており、固定用金物22,24の締結部22a,24aの先端には、繊維シート20の折り返し部20aでの応力集中を緩和する先端側丸み部22d、24dが形成されている。また、固定用金物22,24の締結部22a,24aの基端には脚部22b、24bが延設されているが、この脚部22b、24bは締結部22a,24aの基端から折り曲げ形成されており、折り曲げ部分がこの部分(締結部22a,24aの基端)に接触する繊維シート20の接触部での応力集中を緩和する基端側丸み部22e,24eとなっている。
【0031】
ここで、柱梁架構の柱12にガセットプレート18を固定するには、上記帯状の繊維シート20を用いる。まず、帯状の繊維シート20を用いて柱梁架構の柱12の一部を周方向に包む。次いで、繊維シート20の両端部のそれぞれに固定用金物22,24を添える。次いで、固定用金物22,24が添えられた繊維シート20の両端部の内面同士を合わせる。これにより、繊維シート20の両端部が固定用金物22,24間に挟まれる。このとき、合わされる固定用金物22,24間に、繊維シート20の両端部とともにガセットプレート18を挟み込む。次いで、締結用ボルト26を用いてガセットプレート18とともに固定用金物22,24間を締め込む。
【0032】
固定用金物22,24間を締め込むと、繊維シート20は図3の矢印の方向(繊維シート20を柱12の外周面に沿って締付ける方向)に引っ張られて柱12の外周面に密着する。それとともに、板状の固定用金物22,24の脚部22b、24bは繊維シート20を挟んで柱12の外周面に当接し、板状の固定用金物22,24が柱12の外周面に沿って安定する。繊維シート20は、繊維シート20に生じる張力(締付け力)によって柱12の外周面に固定される。柱12に固定された繊維シート20を介して固定用金物22,24に締結されたガセットプレート18が柱12に固定される。柱12に固定されたガセットプレート18に補強部材としてのブレース16の端部を取り付けて柱梁架構にブレース16を架設することにより柱梁架構が補強される。
【0033】
このような柱梁架構の耐震補強構造10によれば、柱12の一部を周方向に包んだ帯状の繊維シート20の両端部のそれぞれに添えられた板状の固定用金物22,24で補強部材としてのブレース16を取り付けるガセットプレート18を繊維シート20とともに挟み込んで固定することから、現場での溶接を行うことなく柱梁架構の柱12にガセットプレート18を取り付けることができる。
【0034】
この際、従来のように繊維シートを何重にも巻き付けるものではなく、繊維シート20の両端部のそれぞれに添えられた板状の固定用金物22,24をガセットプレート18とともに締結用ボルト26で締め込むことによって柱梁架構の柱12にガセットプレート18を取り付けることができるため、従来よりも簡便に補強することができる。
【0035】
このとき、繊維シート20の端部が固定用金物22,24の端部で折り返されて固定用金物22,24の両面に接着等によって固定されていると、締結用ボルト26を用いて両固定用金物22,24間を締め込んだときに繊維シート20に生じる引張力に対して、抵抗力が向上する。これにより、ガセットプレート18の取付強度が向上する。
【0036】
また、このとき、板状の固定用金物22,24の先端には繊維シート20の折り返しによる折り返し部20aが接触するが、この先端には繊維シート20の折り返し部20aでの応力集中を緩和する先端側丸み部22d、24dが形成されているため、繊維シート20の折り返し部20aでの破断強度の低下が抑えられる。これにより、ガセットプレート18の取付強度が向上する。
【0037】
さらに、このとき、板状の固定用金物22,24の基端にも繊維シート20が接触するが、この基端にも繊維シート20の接触部での応力集中を緩和する基端側丸み部22e,24eが形成されているため、繊維シート20の固定用金物22,24の基端との接触部での破断強度の低下が抑えられる。これにより、ガセットプレート18の取付強度が向上する。
【0038】
繊維シート20は、柱12の外周面との密着面で柱12の外周面に接着されていても良いし、接着されていなくても良い。例えば接着されている場合には、繊維シート20と柱12の一体性がより高まる。これにより、ガセットプレート18の取付強度が向上する。
【0039】
建物の柱梁架構の柱12の外周長は、建物の種類や性能等に応じて定まっているものであることから、繊維シート20の長さや幅、固定用金物22,24の大きさなどは、あらかじめ定めることができる。このため、例えば工場などであらかじめ、繊維シート20の長さや幅を所定の長さに設定し、所定の大きさの固定用金物22,24を繊維シート20の所定の位置に固定して、あらかじめ帯状の両端部のそれぞれに板状の固定用金物22,24が固定された帯状の繊維シート20を製品として作製しておくこともできる。この場合には、現場で繊維シート20に固定用金物22,24を固定するなどの工程が生じない。
【0040】
なお、繊維シート20は、板状の固定用金物22,24の先端で必ずしも折り返されていなくても良い。例えば図4に示す他の実施形態のように、繊維シート20の端部は、合わされる固定用金物22,24間で挟まれることによって、あるいは接着等によって、固定用金物22,24の内面では固定されているが、固定用金物22,24の外面には折り返されていないために固定用金物22,24の外面では固定されていない。
【0041】
繊維シート20の端部が折り返されて固定用金物22,24の両面に固定されている場合には、繊維シート20の端部が固定用金物22,24の内面にのみ固定されている場合と比べて、繊維シート20に生じる引張力に対する抵抗力が高いというメリットがある。
【0042】
そして、繊維シート20の形状は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば図5〜7のような形状であっても良い。図5〜7は、本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物22,24とガセットプレート18の組み合わせを示した図である。
【0043】
図5に示す繊維シート30は、固定用金物22,24の締結部22a,24aの幅(図5に示す上下方向の長さ)よりも短い幅とされた細帯状に揃えられた複数本の細帯状の繊維シート32の束で構成されるものである。複数本の細帯状の繊維シート32のそれぞれは、その長さ方向の両端部で板状の固定用金物22,24の締結部22a,24aに接着等によって固定されて固定用金物22,24を介して複数本の細帯状の繊維シート32が一体化されていても良いし、施工前においては、複数本の細帯状の繊維シート32のそれぞれと固定用金物22,24とが接着等で一体化されておらず、別個独立した部材とされていても良い。
【0044】
複数本の細帯状の繊維シート32は、互いに接触しないように間隔をあけて配置されている。固定用金物22,24の締結部22a,24aにおいて、締結用ボルト26を通すためのボルト挿通孔22c、24cは、例えば細帯状の繊維シート32と細帯状の繊維シート32の間の細帯状の繊維シート32が配置されない部分などに形成すれば良い。なお、複数本の細帯状の繊維シート32は、互いに接触するように間隔をあけないで配置することもできる。
【0045】
図6に示す繊維シート40は、1本の帯状の繊維シート40により構成されるものである。帯状の繊維シート40と固定用金物22,24とは、予め接着等によって一体化されていても良いし、施工前においては、帯状の繊維シート40と固定用金物22,24とが接着等で一体化されておらず、別個独立した部材とされていても良い。図6に示す帯状の繊維シート40は、固定用金物22,24の締結部22a,24aの幅(図6に示す上下方向の長さ)よりも短い幅とされたものであり、例えばその長さ方向の両端部は固定用金物22,24の締結部22a,24aの幅方向の中央部分に配置できる。このとき、固定用金物22,24の締結部22a,24aの幅方向の両端部分は帯状の繊維シート40が配置されない部分であり、例えばこの部分に締結用ボルト26を通すためのボルト挿通孔22c、24cが形成されれば良い。
【0046】
図7に示す繊維シート50は、2本の細帯状の繊維シート52により構成されるものである。2本の細帯状の繊維シート52は、固定用金物22,24の締結部22a,24aの幅(図7に示す上下方向の長さ)よりも短い幅とされたものである。2本の細帯状の繊維シート52のそれぞれは、その長さ方向の両端部で板状の固定用金物22,24の締結部22a,24aに接着等によって固定されて固定用金物22,24を介して2本の細帯状の繊維シート52が一体化されていても良いし、施工前においては、2本の細帯状の繊維シート52のそれぞれと固定用金物22,24とが接着等で一体化されておらず、別個独立した部材とされていても良い。固定用金物22,24の締結部22a,24aの幅方向の中央部分は2本の細帯状の繊維シート52が配置されていない部分であり、例えばこの部分に締結用ボルト26を通すためのボルト挿通孔22c、24cが形成されれば良い。
【0047】
図5〜7の構成においては、固定用金物22,24の締結部22a,24aのうち、帯状の繊維シート30〜50が配置されていない部分にボルト挿通孔22c、24cを形成できる。この場合には、帯状の繊維シート30〜50に穴をあけて締結用ボルト26を通す必要がないため、帯状の繊維シート20を用いた上記実施形態のものと比べてより簡便な構成である。
【0048】
ここで、図2〜7に示すガセットプレート18は平板よりなるものであるため、ブレース16からガセットプレート18に圧縮力が作用した場合には、ガセットプレート18の基端(柱12の外周面側)にその応力が集中する。この場合、その圧縮力の大きさ次第では、例えば図8に示すように、ガセットプレート18の基端が位置する柱12の外周面の幅方向中央部分で柱12が点線で示すように凹む(変形する)おそれがある。
【0049】
そこで、このような変形を抑える対策として、図9〜10に、ガセットプレートの基端(柱12の外周面側)に応力が集中しない構成とした、他の実施形態を示す。
【0050】
図9には、本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示す。図9に示すものは、図2に示すものと比較して、ガセットプレートの形状が異なる点で相違しており、これ以外の構成については図2に示すものと同様であるため、その説明を省略する。
【0051】
ガセットプレート60には、ブレース16の端部をボルト28で固定するために設けられたブレース用の固定孔60aと、固定用金物22,24に繊維シート20とともに締結用ボルト26で固定するために設けられた固定用金物用の固定孔60bとが備えられている。固定孔60bは、繊維シート20の両端部に添えられて合わされる固定用金物22,24間に挟まれる部分となる挟締部62に設けられている。
【0052】
ガセットプレート60の挟締部62の基端(柱12の外周面側)には、応力分散部64が挟締部62と一体的に形成されている。この応力分散部64は、挟締部62の基端から柱12の外周面に沿って延びている。したがって、図10に示すように、ブレース16からガセットプレート60に圧縮力が作用すると、ガセットプレート60の圧縮応力がこの応力分散部64で柱の外周面に沿って分散されるので、挟締部62の基端での応力集中が抑えられ、この圧縮力によって柱12の外周面が凹む(変形する)のを防止することができる。
【0053】
ここで、柱12は、径方向の断面形状が略四角形状の鋼管柱(いわゆるBOX柱)であり、柱12の幅方向両端には隣接する外面がある。この外面は、ガセットプレート60を取り付ける面の幅方向両端部を支えるフランジ面となっている。応力分散部64は、このフランジ面の上まで(柱12の幅方向両端部まで)延びており、柱12の幅方向両端部まで応力を分散させることができる。すなわち、応力を幅方向両端部のフランジ面まで伝達させることができる。これにより、柱12の外面はさらに凹みにくく(変形しにくく)されている。
【0054】
応力分散部64の板厚は、応力分散機能を確保するなどの観点から、少なくとも柱12の板厚よりも厚いことが好ましい。
【0055】
ここで、上記の各実施形態においては、繊維シートや固定用金物は、柱12と梁14とで囲まれた1つの壁面内にのみガセットプレート16を取り付けるために用いられているが、例えば、隣り合う2つ以上の壁面に対し、同時に2つ以上のガセットプレートを取り付けるために用いることもできる。
【0056】
図11および図12は、それぞれ、本発明の他の実施形態に係る柱梁架構の耐震補強構造におけるガセットプレートの取付部分を拡大して示した図である。図11は、例えば建物の角部に配置された柱に対して設置する例を示したものであり、角部において直交する2つの壁面に対し、繊維シートや固定用金物を用いて同時に2つのガセットプレートを取り付けるものである。図12は、建物の面内に配置された柱に対して設置する例を示したものであり、同一面内で隣り合う2つの壁面に対し、繊維シートや固定用金物を用いて同時に2つのガセットプレートを取り付けるものである。
【0057】
図11に示す構造および図12に示す構造は、図10に示す構造と比べて、2枚の繊維シート20と2対の固定用金物22,24と2つのガセットプレート60を用いている点が相違している。これ以外の構成については図10に示すものと同様であるため、その説明を省略する。
【0058】
図11において、帯状の2枚の繊維シート201,202は帯状の長手方向に沿って並べられている。この2枚の繊維シート201,202の組み合わせによって柱12の一部が周方向に沿って包まれている。2枚の繊維シート201,202の端部201a,201b,202a,202bのそれぞれには板状の固定用金物22,24が添えられている。
【0059】
ここで、第1の繊維シート201の固定用金物24が添えられた一方の端部201aの内面と、第2の繊維シート202の固定用金物22が添えられた一方の端部202aの内面と、が合わされることにより繊維シート201,202の端部201a,202aが固定用金物22,24間に挟まれ、この際、合わされる固定用金物22,24間には、繊維シート201,202の端部201a,202aとともに、第1のガセットプレート601の挟締部621が挟まれている。
【0060】
また、第1の繊維シート201の固定用金物22が添えられた他方の端部201bの内面と、第2の繊維シート202の固定用金物24が添えられた他方の端部202bの内面と、が合わされることにより繊維シート201,202の端部201b,202bが固定用金物22,24間に挟まれ、この際、合わされる固定用金物22,24間には、繊維シート201,202の端部201b,202bとともに、第2のガセットプレート602の挟締部622が挟まれている。
【0061】
この状態で、ガセットプレート601とともに固定用金物22,24間が締結用ボルト26で締め込まれ、また、ガセットプレート602とともに固定用金物22,24間が締結用ボルト26で締め込まれると、柱12の外周面に2枚の繊維シート201,202の組み合わせが密着固定される。これと同時に、ガセットプレート601,602の応力分散部641,642の面が柱12の外周面に面を合わせて当接する。その結果、2枚の繊維シート201,202の組み合わせを介して、2つのガセットプレート601,602が柱12に固定される。次いで、各々のガセットプレート601,602に補強部材としてのブレース16の端部を取り付ければ、角部において直交する2つの壁面を補強することができる。
【0062】
図11に示す構造は、断面形状が略四角形状の鋼管柱よりなる柱12の隣り合う(直交する)2つの面の外面に2つのガセットプレート601,602が固定された構造であるのに対し、図12に示す構造は、向かい合う(平行な)2つの面の外面に2つのガセットプレート601,602が固定された構造である点が相違している。これ以外の構成については図11に示すものと同様であるため、その説明を省略する。したがって、各々のガセットプレート601,602に補強部材としてのブレース16の端部を取り付ければ、同一面内で隣り合う2つの壁面を補強することができる。
【0063】
なお、図11に示す構造や図12示す構造においては、ガセットプレートに、挟締部62と応力分散部64とを備えたT字型のガセットプレート60が用いられているが、これらの場合においては、ガセットプレートの形状としては、特にT字型のものに限定されるものではない。これ以外の形状であっても良いのは勿論である。例えば、図2などに示されるように、応力分散部がない、平板状のガセットプレート18などを、T字型のガセットプレート60に代えて、図11に示す構造や図12示す構造に適用することもできる。
【0064】
また、図11に示す構造や図12示す構造においては、隣り合う2つの壁面に対し、同時に2つのガセットプレートを取り付ける例を示しているが、これらは一例として挙げたものであり、本発明においては、隣り合う2つ以上の壁面に対し、同時に2つ以上のガセットプレートを取り付けることも可能である。例えば、帯状の繊維シートを3〜4枚用意し、固定用金物を3〜4対用意し、これらを組み合わせることによって、隣り合う3つの壁面や隣り合う4つの壁面に対し、同時に3つのガセットプレートや4つのガセットプレートを取り付けることもできるのは勿論である。
【0065】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0066】
例えば上記実施形態においては、耐震補強を施す建物として鉄骨造のものを例に挙げて本発明を説明しているが、このような耐震補強構造を適用可能な建物としては、鉄骨造のものに限定されず、鉄筋コンクリート造のものや鉄骨鉄筋コンクリート造のものなどにも適用することができるのはいうまでもない。例えば耐震補強を施す建物が鉄筋コンクリート造などである場合には、繊維シートを取り付ける柱に滑らかではない角があるときなどには、必要に応じて角金物を設置し、角で繊維シートが破断しやすくならないようにしても良い。
【0067】
また、上記実施形態においては、柱梁架構の柱12として径方向の断面形状が略四角形状の鋼管柱を例に挙げて本発明を説明しているが、略四角形状以外の断面形状(例えば円状や四角形状以外の多角形状など)の鋼管柱であっても良いし、H形鋼や溝形鋼などの形鋼よりなる柱であっても良い。このような構造の柱であっても本発明の耐震補強構造は適用可能である。この場合においても、必要に応じて角金物を設置し、形鋼の角で繊維シートが破断しやすくならないようにしても良い。
【0068】
また、上記実施形態においては、補強部材としてブレースを例に挙げて本発明を説明しているが、方杖などの補強部材に対しても本発明の耐震補強構造は適用可能である。
【0069】
また、上記実施形態においては、固定用金物の締結部の基端に脚部が設けられているものを例に挙げて本発明を説明しているが、脚部が存在しない構成であっても良い。なお、この場合には、締結部の基端にも、締結部の先端の先端側丸み部と同形状の基端側丸み部が設けられていることが好ましい。
【0070】
また、上記実施形態においては、繊維シートの柱への締付け具合を調整するなどの目的で、固定用金物の締結部間に板材などをさらに配置することもできる。
【符号の説明】
【0071】
10 柱梁架構の耐震補強構造
12 柱
14 梁
16 補強部材(ブレース)
18 ガセットプレート
20 繊維シート
22,24 固定用金物
26 締結用ボルト
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の柱梁架構に補強部材を設置して補強する柱梁架構の耐震補強構造に関し、さらに詳しくは、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造などの建物の柱梁架構に補強部材を設置して補強する柱梁架構の耐震補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨造などの建物の柱梁架構を補強する方法としては、これらの建物の柱梁架構に方杖やブレースなどの補強部材を設置する方法がある。このような補強部材を建物の柱梁架構に設置することで、水平力に対して建物の耐力を増加させることができる。この際、柱梁架構に生じる応力を補強部材に十分伝達させるためには、補強部材の端部を柱梁架構に接合して一体化させることが必要である。したがって、その接合方法が重要となる。
【0003】
鉄骨造における接合方法としては、溶接が良く知られている。具体的には、ブレースなどの補強部材の端部をボルトなどで固定するガセットプレートを溶接によって柱梁架構の柱あるいは梁に取り付け、取り付けられたガセットプレートにブレースなどの補強部材の端部をボルトなどで固定する方法などがある。
【0004】
また、この種の接合方法においては、溶接を用いない接合方法も知られている。例えば特許文献1には、ブレースなどの補強部材の端部をボルトなどで固定するガセットプレートが固定された板部材を建物の梁又は柱をなす鋼管に接着し、この板部材の各端部で鋼管に繊維シートを巻き付けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−19662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、溶接による場合には、現場において柱梁架構の柱あるいは梁にガセットプレートの溶接を行う必要がある。この場合には、火事等の発生を予防する目的から、大規模な溶接養生が必要となり、コストの増加に繋がる。また、現場の環境が悪い場合(例えば、上向きに溶接を行う必要がある場合など)などでは溶接欠陥などが生じることがあり、耐震性能の低下が心配される。そこで、現場での溶接を必要としない接合方法が望まれる。
【0007】
これに対し、特許文献1に記載の方法は、現場での溶接を必要としない接合方法ではあるが、現場にて鋼管に繊維シートを何重にも巻き付けることから、繊維シートを巻き付ける煩雑な工程が必要となり、施工中に多大な労力と時間を要する。そこで、溶接を用いない方法であって、より簡便にガセットプレートを柱梁架構に接合できる接合方法が望まれる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、現場での溶接を行うことなく補強部材を取り付けることによって耐震補強が可能であり、従来よりも簡便に補強できる柱梁架構の耐震補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造は、建物の柱梁架構に補強部材が設置されて補強される柱梁架構の耐震補強構造において、前記柱梁架構の柱または梁の一部が周方向に沿って帯状の繊維シートで包まれ、該繊維シートの両端部のそれぞれには板状の固定用金物が添えられ、該繊維シートの固定用金物が添えられた両端部でその内面同士が合わされることにより該繊維シートの両端部が固定用金物間に挟まれ、この際、合わされる固定用金物間には、該繊維シートの両端部とともに、前記補強部材の端部が取り付けられるガセットプレートが挟まれており、該ガセットプレートとともに前記固定用金物間が締結用ボルトで締め込まれることにより前記柱または梁の外周面に前記繊維シートが密着固定されて、該繊維シートを介して前記ガセットプレートが前記柱または梁に固定され、該ガセットプレートに前記補強部材の端部が取り付けられていることを要旨とするものである。
【0010】
また、本発明に係る他の柱梁架構の耐震補強構造は、建物の柱梁架構に補強部材が設置されて補強される柱梁架構の耐震補強構造において、帯状の長手方向に沿って並べられた帯状の複数枚の繊維シートの組み合わせによって前記柱梁架構の柱または梁の一部が周方向に沿って包まれ、該複数枚の繊維シートの端部のそれぞれには板状の固定用金物が添えられ、隣り合う繊維シートの固定用金物が添えられた端部の内面同士が合わされることにより該繊維シートの端部が固定用金物間に挟まれ、この際、合わされる固定用金物間には、該繊維シートの端部とともに、前記補強部材の端部が取り付けられるガセットプレートが挟まれており、該ガセットプレートとともに前記固定用金物間が締結用ボルトで締め込まれることにより前記柱または梁の外周面に前記複数枚の繊維シートの組み合わせが密着固定されて、該複数枚の繊維シートの組み合わせを介して複数個のガセットプレートが前記柱または梁に固定され、該複数個のガセットプレートに前記補強部材の端部がそれぞれ取り付けられていることを要旨とするものである。
【0011】
これらの場合において、前記繊維シートの端部は、前記固定用金物の先端で折り返されて固定用金物の両面に固定されていることが好ましい。
【0012】
そして、前記ガセットプレートは、前記合わされる固定用金物間に挟まれる部分となる挟締部の基端から前記柱または梁の外周面に沿って延びる応力分散部を備えており、前記補強部材から該ガセットプレートに伝達される圧縮力により該ガセットプレートに生じる応力を該応力分散部で前記柱または梁の外周面に沿って分散させることが好ましい。
【0013】
さらに、前記固定用金物の基端には、前記柱の外周面に当接して該固定用金物を安定させる脚部が形成されていることが好ましい。
【0014】
そして、前記繊維シートは、前記柱の外周面との密着面で前記柱の外周面に接着されていても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造によれば、柱または梁の一部を周方向に包んだ帯状の繊維シートの両端部のそれぞれに添えられた板状の固定用金物で補強部材を取り付けるガセットプレートを繊維シートとともに挟み込んで固定することから、現場での溶接を行うことなく柱梁架構の柱または梁にガセットプレートを取り付けることができる。そして、このガセットプレートに補強部材を取り付けることによって現場での溶接を行うことなく耐震補強を行うことができる。
【0016】
また、従来のように繊維シートを何重にも巻き付けるものではなく、繊維シートの両端部のそれぞれに添えられた板状の固定用金物をガセットプレートとともに締結用ボルトで締め込むことによって柱梁架構の柱または梁にガセットプレートを取り付けることができるため、従来よりも簡便に補強することができる。
【0017】
そして、本発明に係る他の柱梁架構の耐震補強構造では、帯状の長手方向に沿って並べられた帯状の複数枚の繊維シートの組み合わせによって柱または梁の一部が周方向に包まれ、この複数枚の繊維シートの組み合わせを介して複数個のガセットプレートが柱または梁に固定されることから、柱または梁にガセットプレートを取り付ける基本的な構造は上記本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造と同様である。このため、本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造と同様の効果を奏する。
【0018】
これらの場合において、繊維シートの端部が固定用金物の先端で折り返されて固定用金物の両面に固定されていると、締結用ボルトを用いて両固定用金物間を締め込んだときに繊維シートに生じる引張力に対して、抵抗力が向上する。これにより、ガセットプレートの取付強度が向上する。
【0019】
そして、ガセットプレートが上記の応力分散部を備える場合には、補強部材からガセットプレートに圧縮力が作用した場合でも、ガセットプレートの圧縮応力がこの応力分散部で柱または梁の外周面に沿って分散されるので、挟締部の基端での応力集中が抑えられ、この圧縮力によって柱または梁の外周面が変形するのを防止することができる。
【0020】
そして、固定用金物の基端に、柱の外周面に当接して固定用金物を安定させる脚部が形成されていると、繊維シートのような剛直でない材料の両端部のそれぞれに接着された板状の固定用金物を柱の外周面に沿って安定して固定することができる。これにより、ガセットプレートの取付強度が安定する。
【0021】
そして、繊維シートが柱の外周面との密着面で柱の外周面に接着されていると、繊維シートと柱の一体性が高まる。これにより、ガセットプレートの取付強度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る柱梁架構の耐震補強構造の模式図である。
【図2】図1の柱梁架構の耐震補強構造において用いる繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。
【図3】図1の柱梁架構の耐震補強構造におけるガセットプレートの取付部分を拡大して示した図である。
【図4】本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。
【図5】本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。
【図6】本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。
【図7】本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。
【図8】図3の柱梁架構の耐震補強構造において、ガセットプレートに圧縮力が作用したときに生じるおそれがある変形を説明する図である。
【図9】本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。
【図10】図9に示したガセットプレートを適用した柱梁架構の耐震補強構造の模式図である。
【図11】本発明の他の実施形態に係る柱梁架構の耐震補強構造におけるガセットプレートの取付部分を拡大して示した図である。
【図12】本発明の他の実施形態に係る柱梁架構の耐震補強構造におけるガセットプレートの取付部分を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態について図を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る柱梁架構の耐震補強構造の模式図である。図2は、図1の柱梁架構の耐震補強構造において用いる繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示した図である。図3は、図1の柱梁架構の耐震補強構造におけるガセットプレートの取付部分を拡大して示した図である。
【0024】
図1に示す本発明の一実施形態に係る柱梁架構の耐震補強構造10において、耐震補強を施す建物は鉄骨造よりなるものである。柱梁架構の柱12は鋼管よりなる鋼管柱(いわゆるBOX柱)であり、鋼管は径方向の断面形状が略四角形状であるものからなる。また、柱梁架構の梁14はH形鋼で構成されている。このような構成の柱梁架構に対して、補強部材としてのブレース16を設置することにより柱梁架構の耐震補強が行われる。ブレース16には、例えばH形鋼や溝形鋼などの鋼材などが用いられる。
【0025】
ブレース16は、地震等の振動によって建物に作用する水平力(層間変形による力)に対して抵抗するものであり、例えば柱梁架構の対角を繋ぐように設置される。鉄骨造の柱梁架構の梁14には、通常、スラブがあることから、ブレース16の端部は柱12と梁14の接合部に隣接する位置の柱12に取り付けられる。例えば、梁14にスラブがない場合などでは、ブレース16の端部は、接合部に隣接する位置の梁14に取り付けられても良いし、接合部に隣接する位置の柱12と梁14の両方に取り付けられても良い。ブレース16の端部を柱梁架構の柱12に取り付けるための取付金具として、ガセットプレート18が用いられる。
【0026】
ガセットプレート18には、ブレース16の端部をボルト28で固定するために設けられたブレース用の固定孔18aと、後述する固定用金物22,24に繊維シート20とともに締結用ボルト26で固定するために設けられた固定用金物用の固定孔18bとが備えられている。
【0027】
繊維シート20は、カーボン繊維やアラミド繊維などの高強度繊維からなる繊維がシート状に成形されたもので構成されている。繊維シート20は、帯状に形成されており、両端部のそれぞれには板状の固定用金物22,24が添えられる。固定用金物22,24は、繊維シート20の両端部に接着等によって予め固定されて一体化されていても良いし、施工前においては固定用金物22,24と繊維シート20とが一体化されておらず、別個独立した部材とされていても良い。
【0028】
固定用金物22,24は、帯状の繊維シート20の両端部のそれぞれに添えられる一対の組からなる。一対の固定用金物22,24のそれぞれには、互いに合わせたときに繊維シート20とともにガセットプレート18を挟み込んでこれらを締結する部分となる締結部22a,24aが備えられているとともに、この締結部22a,24aの基端には脚部22b、24bが延設されて締結部22a,24aの基端から互いに外側を向くように折り曲げ形成されている。この脚部22b、24bは、板状の固定用金物22,24を柱12の外周面に沿って安定させるためのものであり、繊維シート20を挟んで柱12の外周面に当接される部分である。固定用金物22,24の締結部22a,24aには締結用ボルト26を通すためのボルト挿通孔22c、24cが形成されている。固定用金物22,24が繊維シート20の両端部に接着等によって予め固定される場合には、固定用金物22,24は、この締結部22a,24aの内面で繊維シート20に固定される。
【0029】
繊維シート20の端部は、固定用金物22,24の締結部22a,24aの先端で折り返されている。繊維シート20の折り返された端部は、締結部22a,24aの外面に接着等によって固定されていても良いし、固定されていなくても良い。
【0030】
繊維シート20の折り返しによる折り返し部20aは固定用金物22,24の締結部22a,24aの先端に接触しており、固定用金物22,24の締結部22a,24aの先端には、繊維シート20の折り返し部20aでの応力集中を緩和する先端側丸み部22d、24dが形成されている。また、固定用金物22,24の締結部22a,24aの基端には脚部22b、24bが延設されているが、この脚部22b、24bは締結部22a,24aの基端から折り曲げ形成されており、折り曲げ部分がこの部分(締結部22a,24aの基端)に接触する繊維シート20の接触部での応力集中を緩和する基端側丸み部22e,24eとなっている。
【0031】
ここで、柱梁架構の柱12にガセットプレート18を固定するには、上記帯状の繊維シート20を用いる。まず、帯状の繊維シート20を用いて柱梁架構の柱12の一部を周方向に包む。次いで、繊維シート20の両端部のそれぞれに固定用金物22,24を添える。次いで、固定用金物22,24が添えられた繊維シート20の両端部の内面同士を合わせる。これにより、繊維シート20の両端部が固定用金物22,24間に挟まれる。このとき、合わされる固定用金物22,24間に、繊維シート20の両端部とともにガセットプレート18を挟み込む。次いで、締結用ボルト26を用いてガセットプレート18とともに固定用金物22,24間を締め込む。
【0032】
固定用金物22,24間を締め込むと、繊維シート20は図3の矢印の方向(繊維シート20を柱12の外周面に沿って締付ける方向)に引っ張られて柱12の外周面に密着する。それとともに、板状の固定用金物22,24の脚部22b、24bは繊維シート20を挟んで柱12の外周面に当接し、板状の固定用金物22,24が柱12の外周面に沿って安定する。繊維シート20は、繊維シート20に生じる張力(締付け力)によって柱12の外周面に固定される。柱12に固定された繊維シート20を介して固定用金物22,24に締結されたガセットプレート18が柱12に固定される。柱12に固定されたガセットプレート18に補強部材としてのブレース16の端部を取り付けて柱梁架構にブレース16を架設することにより柱梁架構が補強される。
【0033】
このような柱梁架構の耐震補強構造10によれば、柱12の一部を周方向に包んだ帯状の繊維シート20の両端部のそれぞれに添えられた板状の固定用金物22,24で補強部材としてのブレース16を取り付けるガセットプレート18を繊維シート20とともに挟み込んで固定することから、現場での溶接を行うことなく柱梁架構の柱12にガセットプレート18を取り付けることができる。
【0034】
この際、従来のように繊維シートを何重にも巻き付けるものではなく、繊維シート20の両端部のそれぞれに添えられた板状の固定用金物22,24をガセットプレート18とともに締結用ボルト26で締め込むことによって柱梁架構の柱12にガセットプレート18を取り付けることができるため、従来よりも簡便に補強することができる。
【0035】
このとき、繊維シート20の端部が固定用金物22,24の端部で折り返されて固定用金物22,24の両面に接着等によって固定されていると、締結用ボルト26を用いて両固定用金物22,24間を締め込んだときに繊維シート20に生じる引張力に対して、抵抗力が向上する。これにより、ガセットプレート18の取付強度が向上する。
【0036】
また、このとき、板状の固定用金物22,24の先端には繊維シート20の折り返しによる折り返し部20aが接触するが、この先端には繊維シート20の折り返し部20aでの応力集中を緩和する先端側丸み部22d、24dが形成されているため、繊維シート20の折り返し部20aでの破断強度の低下が抑えられる。これにより、ガセットプレート18の取付強度が向上する。
【0037】
さらに、このとき、板状の固定用金物22,24の基端にも繊維シート20が接触するが、この基端にも繊維シート20の接触部での応力集中を緩和する基端側丸み部22e,24eが形成されているため、繊維シート20の固定用金物22,24の基端との接触部での破断強度の低下が抑えられる。これにより、ガセットプレート18の取付強度が向上する。
【0038】
繊維シート20は、柱12の外周面との密着面で柱12の外周面に接着されていても良いし、接着されていなくても良い。例えば接着されている場合には、繊維シート20と柱12の一体性がより高まる。これにより、ガセットプレート18の取付強度が向上する。
【0039】
建物の柱梁架構の柱12の外周長は、建物の種類や性能等に応じて定まっているものであることから、繊維シート20の長さや幅、固定用金物22,24の大きさなどは、あらかじめ定めることができる。このため、例えば工場などであらかじめ、繊維シート20の長さや幅を所定の長さに設定し、所定の大きさの固定用金物22,24を繊維シート20の所定の位置に固定して、あらかじめ帯状の両端部のそれぞれに板状の固定用金物22,24が固定された帯状の繊維シート20を製品として作製しておくこともできる。この場合には、現場で繊維シート20に固定用金物22,24を固定するなどの工程が生じない。
【0040】
なお、繊維シート20は、板状の固定用金物22,24の先端で必ずしも折り返されていなくても良い。例えば図4に示す他の実施形態のように、繊維シート20の端部は、合わされる固定用金物22,24間で挟まれることによって、あるいは接着等によって、固定用金物22,24の内面では固定されているが、固定用金物22,24の外面には折り返されていないために固定用金物22,24の外面では固定されていない。
【0041】
繊維シート20の端部が折り返されて固定用金物22,24の両面に固定されている場合には、繊維シート20の端部が固定用金物22,24の内面にのみ固定されている場合と比べて、繊維シート20に生じる引張力に対する抵抗力が高いというメリットがある。
【0042】
そして、繊維シート20の形状は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば図5〜7のような形状であっても良い。図5〜7は、本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物22,24とガセットプレート18の組み合わせを示した図である。
【0043】
図5に示す繊維シート30は、固定用金物22,24の締結部22a,24aの幅(図5に示す上下方向の長さ)よりも短い幅とされた細帯状に揃えられた複数本の細帯状の繊維シート32の束で構成されるものである。複数本の細帯状の繊維シート32のそれぞれは、その長さ方向の両端部で板状の固定用金物22,24の締結部22a,24aに接着等によって固定されて固定用金物22,24を介して複数本の細帯状の繊維シート32が一体化されていても良いし、施工前においては、複数本の細帯状の繊維シート32のそれぞれと固定用金物22,24とが接着等で一体化されておらず、別個独立した部材とされていても良い。
【0044】
複数本の細帯状の繊維シート32は、互いに接触しないように間隔をあけて配置されている。固定用金物22,24の締結部22a,24aにおいて、締結用ボルト26を通すためのボルト挿通孔22c、24cは、例えば細帯状の繊維シート32と細帯状の繊維シート32の間の細帯状の繊維シート32が配置されない部分などに形成すれば良い。なお、複数本の細帯状の繊維シート32は、互いに接触するように間隔をあけないで配置することもできる。
【0045】
図6に示す繊維シート40は、1本の帯状の繊維シート40により構成されるものである。帯状の繊維シート40と固定用金物22,24とは、予め接着等によって一体化されていても良いし、施工前においては、帯状の繊維シート40と固定用金物22,24とが接着等で一体化されておらず、別個独立した部材とされていても良い。図6に示す帯状の繊維シート40は、固定用金物22,24の締結部22a,24aの幅(図6に示す上下方向の長さ)よりも短い幅とされたものであり、例えばその長さ方向の両端部は固定用金物22,24の締結部22a,24aの幅方向の中央部分に配置できる。このとき、固定用金物22,24の締結部22a,24aの幅方向の両端部分は帯状の繊維シート40が配置されない部分であり、例えばこの部分に締結用ボルト26を通すためのボルト挿通孔22c、24cが形成されれば良い。
【0046】
図7に示す繊維シート50は、2本の細帯状の繊維シート52により構成されるものである。2本の細帯状の繊維シート52は、固定用金物22,24の締結部22a,24aの幅(図7に示す上下方向の長さ)よりも短い幅とされたものである。2本の細帯状の繊維シート52のそれぞれは、その長さ方向の両端部で板状の固定用金物22,24の締結部22a,24aに接着等によって固定されて固定用金物22,24を介して2本の細帯状の繊維シート52が一体化されていても良いし、施工前においては、2本の細帯状の繊維シート52のそれぞれと固定用金物22,24とが接着等で一体化されておらず、別個独立した部材とされていても良い。固定用金物22,24の締結部22a,24aの幅方向の中央部分は2本の細帯状の繊維シート52が配置されていない部分であり、例えばこの部分に締結用ボルト26を通すためのボルト挿通孔22c、24cが形成されれば良い。
【0047】
図5〜7の構成においては、固定用金物22,24の締結部22a,24aのうち、帯状の繊維シート30〜50が配置されていない部分にボルト挿通孔22c、24cを形成できる。この場合には、帯状の繊維シート30〜50に穴をあけて締結用ボルト26を通す必要がないため、帯状の繊維シート20を用いた上記実施形態のものと比べてより簡便な構成である。
【0048】
ここで、図2〜7に示すガセットプレート18は平板よりなるものであるため、ブレース16からガセットプレート18に圧縮力が作用した場合には、ガセットプレート18の基端(柱12の外周面側)にその応力が集中する。この場合、その圧縮力の大きさ次第では、例えば図8に示すように、ガセットプレート18の基端が位置する柱12の外周面の幅方向中央部分で柱12が点線で示すように凹む(変形する)おそれがある。
【0049】
そこで、このような変形を抑える対策として、図9〜10に、ガセットプレートの基端(柱12の外周面側)に応力が集中しない構成とした、他の実施形態を示す。
【0050】
図9には、本発明に係る柱梁架構の耐震補強構造に適用可能な他の実施形態の繊維シートと固定用金物とガセットプレートの組み合わせを示す。図9に示すものは、図2に示すものと比較して、ガセットプレートの形状が異なる点で相違しており、これ以外の構成については図2に示すものと同様であるため、その説明を省略する。
【0051】
ガセットプレート60には、ブレース16の端部をボルト28で固定するために設けられたブレース用の固定孔60aと、固定用金物22,24に繊維シート20とともに締結用ボルト26で固定するために設けられた固定用金物用の固定孔60bとが備えられている。固定孔60bは、繊維シート20の両端部に添えられて合わされる固定用金物22,24間に挟まれる部分となる挟締部62に設けられている。
【0052】
ガセットプレート60の挟締部62の基端(柱12の外周面側)には、応力分散部64が挟締部62と一体的に形成されている。この応力分散部64は、挟締部62の基端から柱12の外周面に沿って延びている。したがって、図10に示すように、ブレース16からガセットプレート60に圧縮力が作用すると、ガセットプレート60の圧縮応力がこの応力分散部64で柱の外周面に沿って分散されるので、挟締部62の基端での応力集中が抑えられ、この圧縮力によって柱12の外周面が凹む(変形する)のを防止することができる。
【0053】
ここで、柱12は、径方向の断面形状が略四角形状の鋼管柱(いわゆるBOX柱)であり、柱12の幅方向両端には隣接する外面がある。この外面は、ガセットプレート60を取り付ける面の幅方向両端部を支えるフランジ面となっている。応力分散部64は、このフランジ面の上まで(柱12の幅方向両端部まで)延びており、柱12の幅方向両端部まで応力を分散させることができる。すなわち、応力を幅方向両端部のフランジ面まで伝達させることができる。これにより、柱12の外面はさらに凹みにくく(変形しにくく)されている。
【0054】
応力分散部64の板厚は、応力分散機能を確保するなどの観点から、少なくとも柱12の板厚よりも厚いことが好ましい。
【0055】
ここで、上記の各実施形態においては、繊維シートや固定用金物は、柱12と梁14とで囲まれた1つの壁面内にのみガセットプレート16を取り付けるために用いられているが、例えば、隣り合う2つ以上の壁面に対し、同時に2つ以上のガセットプレートを取り付けるために用いることもできる。
【0056】
図11および図12は、それぞれ、本発明の他の実施形態に係る柱梁架構の耐震補強構造におけるガセットプレートの取付部分を拡大して示した図である。図11は、例えば建物の角部に配置された柱に対して設置する例を示したものであり、角部において直交する2つの壁面に対し、繊維シートや固定用金物を用いて同時に2つのガセットプレートを取り付けるものである。図12は、建物の面内に配置された柱に対して設置する例を示したものであり、同一面内で隣り合う2つの壁面に対し、繊維シートや固定用金物を用いて同時に2つのガセットプレートを取り付けるものである。
【0057】
図11に示す構造および図12に示す構造は、図10に示す構造と比べて、2枚の繊維シート20と2対の固定用金物22,24と2つのガセットプレート60を用いている点が相違している。これ以外の構成については図10に示すものと同様であるため、その説明を省略する。
【0058】
図11において、帯状の2枚の繊維シート201,202は帯状の長手方向に沿って並べられている。この2枚の繊維シート201,202の組み合わせによって柱12の一部が周方向に沿って包まれている。2枚の繊維シート201,202の端部201a,201b,202a,202bのそれぞれには板状の固定用金物22,24が添えられている。
【0059】
ここで、第1の繊維シート201の固定用金物24が添えられた一方の端部201aの内面と、第2の繊維シート202の固定用金物22が添えられた一方の端部202aの内面と、が合わされることにより繊維シート201,202の端部201a,202aが固定用金物22,24間に挟まれ、この際、合わされる固定用金物22,24間には、繊維シート201,202の端部201a,202aとともに、第1のガセットプレート601の挟締部621が挟まれている。
【0060】
また、第1の繊維シート201の固定用金物22が添えられた他方の端部201bの内面と、第2の繊維シート202の固定用金物24が添えられた他方の端部202bの内面と、が合わされることにより繊維シート201,202の端部201b,202bが固定用金物22,24間に挟まれ、この際、合わされる固定用金物22,24間には、繊維シート201,202の端部201b,202bとともに、第2のガセットプレート602の挟締部622が挟まれている。
【0061】
この状態で、ガセットプレート601とともに固定用金物22,24間が締結用ボルト26で締め込まれ、また、ガセットプレート602とともに固定用金物22,24間が締結用ボルト26で締め込まれると、柱12の外周面に2枚の繊維シート201,202の組み合わせが密着固定される。これと同時に、ガセットプレート601,602の応力分散部641,642の面が柱12の外周面に面を合わせて当接する。その結果、2枚の繊維シート201,202の組み合わせを介して、2つのガセットプレート601,602が柱12に固定される。次いで、各々のガセットプレート601,602に補強部材としてのブレース16の端部を取り付ければ、角部において直交する2つの壁面を補強することができる。
【0062】
図11に示す構造は、断面形状が略四角形状の鋼管柱よりなる柱12の隣り合う(直交する)2つの面の外面に2つのガセットプレート601,602が固定された構造であるのに対し、図12に示す構造は、向かい合う(平行な)2つの面の外面に2つのガセットプレート601,602が固定された構造である点が相違している。これ以外の構成については図11に示すものと同様であるため、その説明を省略する。したがって、各々のガセットプレート601,602に補強部材としてのブレース16の端部を取り付ければ、同一面内で隣り合う2つの壁面を補強することができる。
【0063】
なお、図11に示す構造や図12示す構造においては、ガセットプレートに、挟締部62と応力分散部64とを備えたT字型のガセットプレート60が用いられているが、これらの場合においては、ガセットプレートの形状としては、特にT字型のものに限定されるものではない。これ以外の形状であっても良いのは勿論である。例えば、図2などに示されるように、応力分散部がない、平板状のガセットプレート18などを、T字型のガセットプレート60に代えて、図11に示す構造や図12示す構造に適用することもできる。
【0064】
また、図11に示す構造や図12示す構造においては、隣り合う2つの壁面に対し、同時に2つのガセットプレートを取り付ける例を示しているが、これらは一例として挙げたものであり、本発明においては、隣り合う2つ以上の壁面に対し、同時に2つ以上のガセットプレートを取り付けることも可能である。例えば、帯状の繊維シートを3〜4枚用意し、固定用金物を3〜4対用意し、これらを組み合わせることによって、隣り合う3つの壁面や隣り合う4つの壁面に対し、同時に3つのガセットプレートや4つのガセットプレートを取り付けることもできるのは勿論である。
【0065】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0066】
例えば上記実施形態においては、耐震補強を施す建物として鉄骨造のものを例に挙げて本発明を説明しているが、このような耐震補強構造を適用可能な建物としては、鉄骨造のものに限定されず、鉄筋コンクリート造のものや鉄骨鉄筋コンクリート造のものなどにも適用することができるのはいうまでもない。例えば耐震補強を施す建物が鉄筋コンクリート造などである場合には、繊維シートを取り付ける柱に滑らかではない角があるときなどには、必要に応じて角金物を設置し、角で繊維シートが破断しやすくならないようにしても良い。
【0067】
また、上記実施形態においては、柱梁架構の柱12として径方向の断面形状が略四角形状の鋼管柱を例に挙げて本発明を説明しているが、略四角形状以外の断面形状(例えば円状や四角形状以外の多角形状など)の鋼管柱であっても良いし、H形鋼や溝形鋼などの形鋼よりなる柱であっても良い。このような構造の柱であっても本発明の耐震補強構造は適用可能である。この場合においても、必要に応じて角金物を設置し、形鋼の角で繊維シートが破断しやすくならないようにしても良い。
【0068】
また、上記実施形態においては、補強部材としてブレースを例に挙げて本発明を説明しているが、方杖などの補強部材に対しても本発明の耐震補強構造は適用可能である。
【0069】
また、上記実施形態においては、固定用金物の締結部の基端に脚部が設けられているものを例に挙げて本発明を説明しているが、脚部が存在しない構成であっても良い。なお、この場合には、締結部の基端にも、締結部の先端の先端側丸み部と同形状の基端側丸み部が設けられていることが好ましい。
【0070】
また、上記実施形態においては、繊維シートの柱への締付け具合を調整するなどの目的で、固定用金物の締結部間に板材などをさらに配置することもできる。
【符号の説明】
【0071】
10 柱梁架構の耐震補強構造
12 柱
14 梁
16 補強部材(ブレース)
18 ガセットプレート
20 繊維シート
22,24 固定用金物
26 締結用ボルト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の柱梁架構に補強部材が設置されて補強される柱梁架構の耐震補強構造において、
前記柱梁架構の柱または梁の一部が周方向に沿って帯状の繊維シートで包まれ、
該繊維シートの両端部のそれぞれには板状の固定用金物が添えられ、
該繊維シートの固定用金物が添えられた両端部でその内面同士が合わされることにより該繊維シートの両端部が固定用金物間に挟まれ、
この際、合わされる固定用金物間には、該繊維シートの両端部とともに、前記補強部材の端部が取り付けられるガセットプレートが挟まれており、
該ガセットプレートとともに前記固定用金物間が締結用ボルトで締め込まれることにより前記柱または梁の外周面に前記繊維シートが密着固定されて、該繊維シートを介して前記ガセットプレートが前記柱または梁に固定され、
該ガセットプレートに前記補強部材の端部が取り付けられていることを特徴とする柱梁架構の耐震補強構造。
【請求項2】
建物の柱梁架構に補強部材が設置されて補強される柱梁架構の耐震補強構造において、
帯状の長手方向に沿って並べられた帯状の複数枚の繊維シートの組み合わせによって前記柱梁架構の柱または梁の一部が周方向に沿って包まれ、
該複数枚の繊維シートの端部のそれぞれには板状の固定用金物が添えられ、
隣り合う繊維シートの固定用金物が添えられた端部の内面同士が合わされることにより該繊維シートの端部が固定用金物間に挟まれ、
この際、合わされる固定用金物間には、該繊維シートの端部とともに、前記補強部材の端部が取り付けられるガセットプレートが挟まれており、
該ガセットプレートとともに前記固定用金物間が締結用ボルトで締め込まれることにより前記柱または梁の外周面に前記複数枚の繊維シートの組み合わせが密着固定されて、該複数枚の繊維シートの組み合わせを介して複数個のガセットプレートが前記柱または梁に固定され、
該複数個のガセットプレートに前記補強部材の端部がそれぞれ取り付けられていることを特徴とする柱梁架構の耐震補強構造。
【請求項3】
前記繊維シートの端部は、前記固定用金物の先端で折り返されて固定用金物の両面に固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の柱梁架構の耐震補強構造。
【請求項4】
前記ガセットプレートは、前記合わされる固定用金物間に挟まれる部分となる挟締部の基端から前記柱または梁の外周面に沿って延びる応力分散部を備えており、前記補強部材から該ガセットプレートに伝達される圧縮力により該ガセットプレートに生じる応力を該応力分散部で前記柱または梁の外周面に沿って分散させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の柱梁架構の耐震補強構造。
【請求項5】
前記固定用金物の基端には、前記柱の外周面に当接して該固定用金物を安定させる脚部が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の柱梁架構の耐震補強構造。
【請求項6】
前記繊維シートは、前記柱の外周面との密着面で前記柱の外周面に接着されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の柱梁架構の耐震補強構造。
【請求項1】
建物の柱梁架構に補強部材が設置されて補強される柱梁架構の耐震補強構造において、
前記柱梁架構の柱または梁の一部が周方向に沿って帯状の繊維シートで包まれ、
該繊維シートの両端部のそれぞれには板状の固定用金物が添えられ、
該繊維シートの固定用金物が添えられた両端部でその内面同士が合わされることにより該繊維シートの両端部が固定用金物間に挟まれ、
この際、合わされる固定用金物間には、該繊維シートの両端部とともに、前記補強部材の端部が取り付けられるガセットプレートが挟まれており、
該ガセットプレートとともに前記固定用金物間が締結用ボルトで締め込まれることにより前記柱または梁の外周面に前記繊維シートが密着固定されて、該繊維シートを介して前記ガセットプレートが前記柱または梁に固定され、
該ガセットプレートに前記補強部材の端部が取り付けられていることを特徴とする柱梁架構の耐震補強構造。
【請求項2】
建物の柱梁架構に補強部材が設置されて補強される柱梁架構の耐震補強構造において、
帯状の長手方向に沿って並べられた帯状の複数枚の繊維シートの組み合わせによって前記柱梁架構の柱または梁の一部が周方向に沿って包まれ、
該複数枚の繊維シートの端部のそれぞれには板状の固定用金物が添えられ、
隣り合う繊維シートの固定用金物が添えられた端部の内面同士が合わされることにより該繊維シートの端部が固定用金物間に挟まれ、
この際、合わされる固定用金物間には、該繊維シートの端部とともに、前記補強部材の端部が取り付けられるガセットプレートが挟まれており、
該ガセットプレートとともに前記固定用金物間が締結用ボルトで締め込まれることにより前記柱または梁の外周面に前記複数枚の繊維シートの組み合わせが密着固定されて、該複数枚の繊維シートの組み合わせを介して複数個のガセットプレートが前記柱または梁に固定され、
該複数個のガセットプレートに前記補強部材の端部がそれぞれ取り付けられていることを特徴とする柱梁架構の耐震補強構造。
【請求項3】
前記繊維シートの端部は、前記固定用金物の先端で折り返されて固定用金物の両面に固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の柱梁架構の耐震補強構造。
【請求項4】
前記ガセットプレートは、前記合わされる固定用金物間に挟まれる部分となる挟締部の基端から前記柱または梁の外周面に沿って延びる応力分散部を備えており、前記補強部材から該ガセットプレートに伝達される圧縮力により該ガセットプレートに生じる応力を該応力分散部で前記柱または梁の外周面に沿って分散させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の柱梁架構の耐震補強構造。
【請求項5】
前記固定用金物の基端には、前記柱の外周面に当接して該固定用金物を安定させる脚部が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の柱梁架構の耐震補強構造。
【請求項6】
前記繊維シートは、前記柱の外周面との密着面で前記柱の外周面に接着されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の柱梁架構の耐震補強構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−11151(P2013−11151A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146024(P2011−146024)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000245852)矢作建設工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000245852)矢作建設工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]