説明

栄養不足状態の治療のためのシトルリンの使用

本発明は、L-シトルリン(I)又はその医薬的に許容される塩の、腸の機能不全に起因しない病状の場合にタンパク質合成の低下に関係する栄養不足状態を治療するための薬物の製造のための使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある栄養不足状態の治療用の薬物の製造におけるシトルリンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの異化状態は、筋肉タンパク質の同化の低下を伴う栄養不足を特徴とする。このタンパク質合成の低下は、多くの異化状態で観察される筋萎縮症に関係し、悪液質の確立を促進する。ここで、後者が、罹患率及び死亡率を悪化させる因子であることが公知である(Schneider SM, Veyres P, Pivot X, Soummer AM, Jambou P, Filippi Jら Malnutrition is an independent factor associated with nosocomial infections. Br J Nutr 2004; 92: 105〜111)。
【0003】
本発明者らは、腸の機能不全による栄養不足状態に罹患したラットへのL-シトルリンの経腸投与が、ラットの体重再増加を可能にしたことを既に示した(フランス特許出願FR 03 08349号、FR 2 857 262号として公開)。
この特許出願に記載される発明は、腸の機能不全による栄養不足状態に罹患したラットへのL-シトルリンの経腸投与が、これらのラットの体重再増加を可能にしたという事実の証明に基づいている。
【0004】
フランス特許出願FR 03 08349号に記載される実験は、小腸のほとんどを切除されたラットに対してインビボで行われた。この切除は、栄養分吸収の低下、よって腸の機能不全をもたらし、栄養不足状態を導いた。
【0005】
この証明から導かれるシトルリンの使用は、
腸の切除の後の短小腸症候群、
腸の慢性炎症性疾患、例えばクローン病及び潰瘍性大腸炎、
年齢による腸の機能不全、
放射線照射による腸の機能不全
の治療のものであり、すなわち、原因が何であれ腸の機能不全に全て関係する病状の治療のものである。
【0006】
栄養不足の加齢ラットに対する前記の研究の枠内で、本発明者らは、末梢にもはや循環しないアミノ酸の内臓での隔離機構に実質的に起因する、年齢による腸の機能不全とも呼ばれる腸の機能不全をより顕著に観察した(Curis E, Nicolis I, Moinard C, Osowska S, Zerrouk N, Benazeth Sら Almost all about citrulline in mammals. Amino Acids 2005; 29: 177〜205)。
【0007】
シトルリンは内臓領域で保持されないので、本発明者らは、シトルリンが、末梢の窒素のベクターであろうことを提案した。
よって、本発明者らは、シトルリンを栄養不足の加齢ラットに与えることが、健康な加齢ラットのベースラインのタンパク質合成レベルと等しいタンパク質合成レベルを回復するインビボ実験を示した。
【0008】
これらの実験は、年齢による腸の機能不全の治療の枠内でシトルリンを用い得ることを示唆することを可能にするだろう(フランス特許出願FR 03 08349号で記載されるように)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、この発明の枠内で、健康な又は栄養不足の成体ラットの単離された筋肉に対してシトルリンを加えるインビトロ実験を行うことにより、筋肉に対するシトルリンの直接的な影響を研究している。
実際に、筋肉が、タンパク質合成において活性な物質にシトルリンを変換する能力を有することを示唆するデータも、シトルリンが筋肉タンパク質合成に対する直接的な作用を有することを示唆するデータも文献に見られない。
【0010】
よって、本発明者らは、タンパク質合成の刺激に対する効果を導く代謝機構を説明するために、筋肉でのシトルリンの運命を研究することにした。
【0011】
つまり、本発明者らは、以下のことを示した:
試験培地中でのシトルリンに代謝的につながるであろうアミノ酸のインビトロでの遊離が全く見られないことを考慮すると、健康又は栄養不足の成体ラットの筋肉は、シトルリンを代謝する能力を有さない;
栄養不足の成体ラットの筋肉へのシトルリンの添加は、これらの筋肉のタンパク質合成を30%まで増加させるが、健康な成体ラットの筋肉へのインビトロでのシトルリンの添加により、タンパク質合成に対する影響は観察されない。
【0012】
よって、本発明者らは、初めて、予期せぬ様式で、シトルリンが筋肉で代謝されず、消化の病状又は消化性代謝のいずれの改変につながるであろういずれの腸の機能不全からも独立した、筋肉タンパク質合成に対する直接的な作用を有することを示した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
よって、本発明の目的の1つは、栄養不足状態、より具体的には、腎機能不全に関連しない病状の枠内でタンパク質合成の低下に関連する場合の悪液質を治療する手段を提供することである。
本発明の別の目的は、腸の機能不全に起因しない病状の枠内でタンパク質合成の低下に関連する栄養不足状態にある患者の異常に低い筋肉内タンパク質合成レベルを増加させるための手段を提供することである。
【0014】
本発明は、L-シトルリン(I):
【化1】

又はその医薬的に許容される塩の1つの、腸の機能不全に起因しない病状の枠内でタンパク質合成の低下に関連する栄養不足状態を治療するための薬物の製造における使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1Aは、実施例1の手順に従って測定した、シトルリンの存在下(黒色のカラム)又はシトルリンの不存在下(対照−白色のカラム)でインキュベートした健康なラット(左のカラム)又は栄養不足のラット(右のカラム)から得られた、前肢骨格筋(epitrochlearis)のタンパク質合成(Fractional Protein Synthesis; FSR)を表す。結果は、%/対照で表す。 図1Bは、実施例1の手順に従って測定した、シトルリンの存在下(黒色のカラム)又はシトルリンの不存在下(対照−白色のカラム)でインキュベートした健康なラット(左のカラム)又は栄養不足のラット(右のカラム)から得られた、前肢骨格筋のタンパク質合成(FSR)を表す。結果は、%/対照で表す。
【図2】図2Aは、1時間の展開の後のウェスタンブロッティングを表し、実施例2の手順に従って測定された、栄養不足の加齢ラットから得られる筋肉に対するP70S6キナーゼの活性化を示す。 図2Bは、実施例2に記載される手順に従って測定された、栄養不足の加齢ラットから得られる筋肉に対するP70S6キナーゼの活性化のグラフである。AL:対照群;R:食餌制限を受けた群;R+AANE:食餌制限を受け、次いで非必須アミノ酸を補強した標準食を受けた群;R+CITR:食餌制限を受け、次いで、シトルリンを補強した(5g/kg/d)標準食を受けた群。統計学的検定:ANOVA + PLSD
【化2】

【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の範囲内で、用語「L-シトルリン」は、市場で見られる、特にSigmaにより提供される製品、又は植物、特に果汁、果肉又は抽出物の形態でのスイカ(Citrullus lanatus)から天然に得られる物質のことをいうのに用いられる。
【0017】
「腸の機能不全」は、腸、特に小腸の病的状態であって、栄養分の吸収が、正常時と比較して減少しており、この栄養分の吸収の低下が、この吸収を確実にできる腸細胞の数及び/又は機能の低下に関連し、かつこの腸細胞の数及び/又は機能の低下が、これらの細胞の物理的な消去(特に外科的手術又は放射線の使用による)又はこれらの細胞の病的な機能不全のいずれかによる状態のことをいうのに用いられる。
【0018】
本発明は、特に、腸の機能不全に起因しない病状の枠内でタンパク質合成の低下に関連する栄養不足状態の患者の異常に低い筋肉内タンパク質合成レベルを増大するための薬物の製造におけるL-シトルリンの使用に関する。
【0019】
本発明は、より具体的には、以下の障害又は病状の治療用の薬物の製造におけるL-シトルリンの上記のような使用に関する:
不十分な摂取に関連するタンパク質エネルギー栄養障害、
腸の機能不全をもたらす場合の腸癌を除く癌、
筋肉の除神経、
腸のレベルで作用するものを除く化学療法、
糖尿病、
肥満、
体重減少(weightlessness)、
骨折後の固定化された肢、
腸消化系の外科手術を除く調節された外科手術(regulated surgery)、及び
栄養失調症。
【0020】
本発明の枠内で治療され得る障害又は病状は、Couetら(Leverve X, Cosnes J, Erny P, Hasselmann M編、Traite de nutrition artificielle de l'adulte. Paris: Mariette Guena, 1998: 261〜274中のCouet C., Attaix D. Le muscle.)による文献で説明されている。
【0021】
本発明は、シトルリン又はその塩の1つの有効量を患者に投与することを含む、上記の障害及び病状を治療する方法にも関する。
【0022】
本発明は、上記の障害及び病状を治療するためのL-シトルリンに関する。
より具体的には、本発明は、腸の機能不全に起因しない病状の枠内でタンパク質合成レベルの低下に関連する栄養不足状態に罹患した患者の治療用の薬物の製造におけるL-シトルリンの使用に関する。
【0023】
よって、本発明は、腸の機能不全に起因しない病状の枠内でタンパク質合成レベルの低下に関連する栄養不足状態に罹患した患者の治療におけるL-シトルリンに関する。
【0024】
別の実施形態によると、本発明は、活性物質としてのL-シトルリン又はその医薬的に許容される塩の1つを、医薬的に許容される賦形剤とともに含む医薬組成物の製造におけるL-シトルリンの上記の使用に関する。
【0025】
特に、用語「医薬的に許容される塩」は、シトルリンマレエート、シトルリンα-ケトグルタレート、シトルリンシトレート、又はシトルリンα-ケトイソカプロエートのようなシトルリン塩のことをいうのに用いられる。
医薬的に許容される賦形剤は、当該技術の専門家に明らかである。
【0026】
本発明は、特に、約0.1 g/kg/日〜約0.5 g/kg/日の間、特に約0.25 g/kg/日の投与計画のために、L-シトルリン単位用量(unit dose)が約2 g〜約20 gの間、特に約10 gであることを特徴とする医薬組成物の製造におけるL-シトルリンの上記の使用に関する。
より具体的には、本発明は、乾燥組成物又は水溶液の形態であり得る医薬組成物の製造におけるL-シトルリンの上記の使用に関する。
さらにより具体的には、本発明は、経口、皮下、経腸、又は非経口投与され得る形態であり得る医薬組成物の製造におけるL-シトルリンの上記の使用に関する。
【0027】
経腸投与は、特に、胃管、鼻腔胃プローブ若しくは鼻腔腸プローブによる投与、胃切開若しくは空腸フィステル形成による投与に相当し、非経口投与は、特に、中枢、末梢若しくは皮下の静脈内潅流による投与に相当する。
【0028】
より具体的には、本発明は、単独、又は非経口栄養摂取用の栄養混合物、又は経腸栄養摂取用の混合物、又は経口栄養摂取用の混合物で、ロイシン、グルタミン、アルギニン、オルニチン及びそれらの種々の用い得る塩、例えばα-ケトグルタレート又はα-ケトイソカプロエートのような、栄養不足に関連する悪液質の治療のための1つ又はいくつかのその他の化合物も含む医薬組成物の製造におけるL-シトルリンの上記の使用に関する。
【0029】
別の実施形態によると、本発明は、活性物質としてのL-シトルリン又はその医薬的に許容される塩の1つを、単独、又は非経口栄養摂取用の栄養混合物、又は経腸栄養摂取用の混合物、又は経口栄養摂取用の混合物で、ロイシン、グルタミン、アルギニン、オルニチン及びそれらの種々の許容される塩、例えばα-ケトグルタレート又はα-ケトイソカプロエートのような、栄養不足に関連する場合の悪液質の治療のための少なくとも1つの別の化合物と、医薬的に許容される賦形剤とともに含むことを特徴とする医薬組成物に関する。
【0030】
別の実施形態によると、本発明は、腸の機能不全の治療の枠内で、以下の:
L-シトルリン又はその医薬的に許容される塩の1つと、
単独、又は非経口栄養摂取用の栄養混合物、又は経腸栄養摂取用の混合物、又は経口栄養摂取用の混合物で、ロイシン、グルタミン、アルギニン、オルニチン及びそれらの種々の許容される塩、例えばα-ケトグルタレート又はα-ケトイソカプロエートのような、栄養不足に関連する悪液質の治療のための少なくとも1つの別の化合物と
を、同時、別々又は遅延した使用のための併用製品として含む製品に関する。
【0031】
本発明を、以下の実施例1〜2及び図1〜3を用いて説明する。
【実施例】
【0032】
実施例1 単離され潅流された(perifused)筋肉に対してインビトロで測定される、シトルリンによる筋肉タンパク質合成の調節
1.1 材料及び方法
動物の処理:3ヶ月齢の(n=20)雄性スプレーグ-ドーリーラット(Charles River Laboratories, L'Arbresles, France)を、温度制御環境で(23℃±1℃)で個別のケージに入れ、12時間の明/暗サイクル(午前8時から午後8時の間の暗)に付す。
【0033】
ラットの環境順化は、2週間行い、この間に自発的な食物消費を測定する。ラットには、17%のタンパク質、3%の脂質、59%の炭水化物及び21%の水、繊維質、ビタミン類及びミネラルを含有する標準食(A04, UAR, Villemoisson-sur-Orge, France)を供給する。この期間の平均食餌摂取は、成体ラットについて28 g/日である。
【0034】
環境順化期間の最後に、ラットを2群に無作為化した:無制限に(AL)供給されるラットで構成される対照群と、同じ期間の間に食餌制限に付される群である:ラットは、5%タンパク質の食餌を6週間の間、自発的摂取物の50%の割合で供給される(Walrand S, Chambon-Savanovitch C, Felgines C, Chassagne J, Raul F, Normand Bら Aging: a barrier to renutrition? Nutritional and immunologic evidence in rats. Am J Clin Nutr 2000; 72: 816〜824)。
【0035】
インキュベートされた単離筋肉。筋肉を、以前に用いられた方法に従ってインキュベートした(Minet-Quinard R, Moinard C, Villie F, Vasson MP, Cynober L. Metabolic pathways implicated in the kinetic impairment of muscle glutamine homeostasis in adult and old glucocorticoid-treated rats. Am J Physiol Endocrinol Metab 2004; 287: E671〜E676)。前肢骨格筋を用いるのは、これがこの種の研究に最も適切であるからである。切開の後に、前肢骨格筋を、グルコース(8 mM)、インスリン(0.01 U/ml)及びウシ血清アルブミン(BSA) (0.1% p/v)を含有する3mLのクレブス-リンゲルバッファー(119 mM NaCl; 4.8 mM KCl; 1.25 mM MgSO4; 25 mM NaHCO3; 1.24 mM NaHPO4; 1.0 mM CaCl2; 2 mM HEPES, pH 7.4)中でインキュベートする。筋肉を、95% O2 : 5% CO2とともに37℃にて30分間プレインキュベートする。次いで、筋肉を、3 mLのインキュベーション培地(2.5 mMシトルリンとともに又はシトルリンなしの13C-フェニルアラニン(1 mM)を含む)を含有するチューブに移し、2時間インキュベートする。インキュベーションの最後に筋肉を回収し、タンパク質合成(FSR) (Guillet C, Boirie Y, Walrand S. An integrative approach to in-vivo protein synthesis measurement: from whole tissue to specific proteins. Curr Opin Clin Nutr Metab Care 2004; 7: 531〜538)を決定するために13C-フェニルアラニンの取り込みを質量分析により測定するまで-80℃で維持する。さらに、イオン交換クロマトグラフィーにより、インキュベーション培地中でアミノ酸を滴定する。
【0036】
1.2 結果
結果を、図1に示す。
シトルリンに代謝的に関連するアミノ酸がインキュベーション培地中に放出されないので、シトルリンは、筋肉により代謝されない(結果示さず)。
結果は、文献データによると、栄養不足が成体ラットにおける筋肉タンパク質合成レベルを低下させることを示す(健康な若年ラットの白色のカラム、栄養不足の若年ラットの白色のカラムに比較して、図1A)。
【0037】
上記の実験の結果は、L-シトルリンの投与が、栄養不足ラットにおける筋肉タンパク質合成の増加を可能にし、筋肉タンパク質合成レベルを低下させることを示す(+27% 図1A、若年栄養不足ラットの白色カラムと黒色カラムとの比較)。インキュベートされた単離筋肉に対してエクスビボで行われたこの研究は、L-シトルリンが筋肉レベルで直接的な作用を有することを示す。この結果は、驚くべきことであり、文献データの観点からは全く予測できなかった。なぜなら、ロイシン(必須アミノ酸)のみがそのような特性を有するからである(Crozier SJ, Kimball SR, Emmert SW, Anthony JC, Jefferson LS. Oral Leucine administration stimulates protein synthesis in rat skeletal muscle. J Nutr 2005; 135:376〜382)。ここで、L-シトルリンは、ロイシンとは構造が大きく異なるアミノ酸である。これは、タンパク質を構成せず、通常の食餌にはほとんど存在しない。
【0038】
実施例2:mTOR経路の活性化によるタンパク質合成に対する直接的作用を証明するインビボ研究
2.1 材料及び方法
動物の処理:40匹の19ヶ月齢の雄性スプレーグ-ドーリーラット(Charles River, L'Arbresle, France)を用いた。2週間の環境順化の期間の間に、動物には、標準食(UARA04, Usine d'Alimentation Rationnelle, Villemoisson-sur-Orge)を無制限に供給した。自発的摂取物の測定は、定期的に行った。この期間の後に、30匹のラットを、12週間の間、50%の食餌制限に付した。対照群(群R)として用いる10匹のラットを、食餌制限期間の最後に犠牲にした。他の20匹の動物には、犠牲にする前に1週間、再び供給した。等窒素(isonitrogen)及び等カロリーの食餌は、シトルリン5g/kg/dを補強した標準食(n = 10, 群R+CIT)、又は非必須アミノ酸(等モル比のAla, Gly, His, Asp, Ser)を補強した標準食(n = 10, 群R+AANE)のいずれかであった。10匹のラットが対照群(A.L)を構成する。これらは、犠牲にされる前に、研究の間ずっと無制限に供給される。次いで、ラットを犠牲にする。脛骨(tibialis)の筋肉を採取し、液体窒素中で急速凍結し、分析まで-80℃にて貯蔵した。
【0039】
タンパク質の抽出及び滴定:筋肉を、液体窒素中で乳鉢を用いてすりつぶす。このようにして得られた粉末を秤量し、ホスファターゼ阻害剤とプロテアーゼ阻害剤とのカクテルを含有する可溶化バッファー10容量中で再び採取する。サンプルを、凍結チャンバ中の回転に1時間付す。+4℃にて13,000 g、30分間の遠心分離の後に、上清を一定量の部分に分け、-80℃にて保存する。
【0040】
タンパク質は、ビシンコニン酸法を用いて滴定する。
【0041】
各サンプルの一定量の部分を、β-メルカプトエタノール(5%)及びLaemmliバッファー(Laemmliサンプルバッファー)を含有する変性バッファー中で、100℃の湯浴中で5分間変性させる。
mTOR (ラパマイシンの哺乳動物標的)の活性化の分析をウェスタンブロットで行い、mTORの種々の標的のリン酸化された形が示される。タンパク質の完全性を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、続いてクーマシーブルー染色により確認する。
【0042】
ウェスタンブロット法:20μgの変性タンパク質を、p70S6K及びrpS6 (リン酸化された形又は全体の形)の研究のために、それぞれ10%及び12%のポリアクリルアミドゲル上に放置する。
- 電気泳動によるタンパク質の泳動:泳動は、20 mAにて2時間の間、1×(Tris 25 mM、グリシン192 mM、SDS 0.1%)泳動バッファー中で行う。
- ニトロセルロースメンブレン上へのタンパク質の移動:次いで、ゲルをニトロセルロースメンブレン上に移す。このために、これらをそれぞれ小さい箱に入れる。移動は、冷却下で、1×移動バッファー(Tris 25 mM、グリシン192 mM、SDS 0.01%、無水エタノール20%)中で、120mAにて最短で1時間30分行う。移動の質を、ポピーレッド染色により視覚化する。
- 免疫検出:メンブレンを、適切なバッファー[Trisバッファー(Tris Buffer Saline Tween 1×(TBST)):Tris 1 mM、NaCl 15 mM、Tween 20 0.5%、pH 8;1%粉末脱脂乳、4% BSA]中で、非特異的部位を飽和させるために1時間プレインキュベートする。次いで、これらを、調べるべきタンパク質の形に応じて、ハイブリダイゼーションバッファー中で4℃にて一晩インキュベートする。リン酸化された形を調べるために、TBST 1×バッファー、1%脱脂乳、4% BSAを、1次抗体と混合する。全体の形を調べるために、TBSAバッファー(TBST 1×、5%脱脂乳)を用いて1次抗体(P70 S6キナーゼトータル#9202 dilue au 1/125e;抗ホスホ-P70 S6キナーゼ(Thr389) #9234 1/250希釈;rpS6 (5G10)トータル#2217 1/2000希釈;ホスホ-rpS6 (Ser240/244) #2215 1/2000希釈)と混合する。TBST1×溶液中で数回リンスした後に、同じ溶液中で20分間、3回の洗浄工程を行う。次いで、メンブレンを、ペルオキシダーゼと結合した2次抗体とともに3/4時間インキュベートする。これらをTBST 1×中で再び2回リンスした後に、同じ溶液中で最短で20分間、3回洗浄する。放射線フィルムの露出を、ECLキットを用いて暗室で行う。
【0043】
2.2 結果
結果を、図2に示す。
結果は、食餌制限(群R)が、P70S6キナーゼの活性を著しく低下させる(群A.L対照に比較して-83%)ことを示す。
非必須アミノ酸を補充した食餌(群R+AANE)は、この活性の一部を回復するが、著しい様式ではなく、この活性は、対照で観察されるものよりも著しく低い(群A.L.対照と比較して-45%)。
【0044】
逆に、5 g/kg/dの割合でシトルリンを補充した食餌(群R+CIT)は、この活性を著しく回復し(グループRと比較して+417%)、この活性は、対照群(群A.L.)で観察されるものと著しく異ならない。
よって、これらの結果は、シトルリンが、mTOR系の活性化によりタンパク質合成に対して直接的な活性を有することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-シトルリン(I):
【化1】

又はその医薬的に許容される塩の1つの、腸の機能不全に起因しない病状の枠内でタンパク質合成の低下に関連する栄養不足状態を治療するための薬物の製造における使用。
【請求項2】
腸の機能不全に起因しない病状の枠内でタンパク質合成の低下に関連する栄養不足状態にある患者で異常に低い場合に筋肉内タンパク質合成を増大させることを意図する薬物の製造における請求項1に記載のL-シトルリンの使用。
【請求項3】
不十分な摂取に関連するタンパク質エネルギー栄養障害、
腸の機能不全を導く腸癌を除く癌、
筋肉の除神経、
腸のレベルで作用するものを除く化学療法、
糖尿病、
肥満、
体重減少、
骨折後の固定化された肢、
腸消化系の外科手術を除く調節された外科手術、及び
栄養失調症
を含む群から選択される疾患又は病状の治療用の薬物の製造における請求項1又は2に記載のL-シトルリンの使用。
【請求項4】
医薬組成物が、活性物質として、L-シトルリン又はその医薬的の許容される塩の1つを、医薬的に許容される賦形剤とともに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のL-シトルリンの使用。
【請求項5】
L-シトルリンの単位用量が、約0.1g/kg/日〜約0.5 g/kg/日、特に約0.25 g/kg/日の投与量計画について、約2g〜約20g、特に約10gであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のL-シトルリンの使用。
【請求項6】
医薬組成物が、乾燥組成物又は水溶液の形態で得られることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のL-シトルリンの使用。
【請求項7】
医薬組成物が、経口、皮下、経腸又は非経口投与され得る形態であり得ることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のL-シトルリンの使用。
【請求項8】
医薬組成物が、単独、又は非経口栄養摂取用の栄養混合物、又は経腸栄養摂取用の混合物、又は経口栄養摂取用の混合物で、ロイシン、グルタミン、アルギニン、オルニチン及びそれらの種々の用い得る塩、例えばα-ケトグルタレート又はα-ケトイソカプロエートのような栄養不足に関連する悪液質の治療のための1つ又はいくつかのその他の化合物も含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のL-シトルリンの使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−506887(P2010−506887A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532837(P2009−532837)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【国際出願番号】PCT/FR2007/001407
【国際公開番号】WO2008/049984
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(500283125)ユニヴェルシテ パリ デカルト (8)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DESCARTES
【住所又は居所原語表記】12,rue de l’Ecole de Medecine,F−75006 Paris FRANCE
【出願人】(509109316)
【氏名又は名称原語表記】BIOCODEX
【住所又は居所原語表記】7, avenue Gallieni, F−94250 Gentilly, FRANCE
【Fターム(参考)】