説明

核医学診断装置

【課題】同時計数判定のみを基にガンマ線の方向を推定する装置を用いた陽電子断層撮影では、原理的に角度揺動に起因する画質劣化を防ぐことができなかった。加えて、効率的に同時偶発事象や被検者体内散乱事象の影響を除去できず、偽信号が発生し、画質および画像の定量性が悪かった。
【解決手段】前段検出器101(101′)と後段検出器102(102′)からなる検出ヘッドを対向配置させた装置構成により、ガンマ線データに対して、同時計数判定とコンプトン散乱の運動学に基づく判定の両方を課すことができる。これによって、ガンマ線の発生箇所を3次元的に推定することができるようになる。偽信号の影響を低減することができることから、画像の解像度および画像の定量性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核医学診断装置に関し、詳しくは、ガンマ線を検出してガンマ線の発生場所を特定し、ガンマ線源の空間分布を画像化する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検者に投与された放射性標識薬剤から発生するガンマ線を検出して放射性同位元素の空間分布画像を取得するイメージング機器が、病院等の臨床分野の画像診断に利用されている。
【0003】
代表的な装置としては、陽電子断層撮影法(Positron Emission Tomography:PET)を行うPET装置がある。PET装置は、被検者に投与された陽電子放出型の放射性標識薬剤の集積箇所から、体外に放射される1対のエネルギー511keVの消滅ガンマ線を、対向配置したガンマ線検出器で検出し、同時計数判定を実施するような構成になっている。具体的には、同時計数したと見なされた1対の消滅ガンマ線の計測情報に基づき、消滅ガンマ線の発生箇所を、同時計数した検出器を繋ぐ線上に推定するようになっている。PET装置は、このようにして得られたガンマ線の方向情報をもとに画像再構成を行い、そして、放射性同位元素の体内分布画像を取得するような装置になっている。
【特許文献1】特開2006−189274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同時計数判定のみを基にガンマ線の方向を推定する装置を用いた陽電子断層撮影では、原理的に角度揺動に起因する画質劣化を防ぐことができないという問題点を有している。また、この問題点に加えて、効率的に同時偶発事象や被検者体内散乱事象の影響を除去することができず、偽信号が発生して画質および画像の定量性が悪くなるという問題点を有している。
【0005】
尚、上記の角度揺動に起因する画質劣化に関して以下、補足説明をする。放射性標識薬剤から放出された陽電子と、被検者体内の電子とが反応し、1対の消滅ガンマ線が発生する。一般的に、放射性同位元素から放出される陽電子は運動量を持っている(つまり、静止していない)。陽電子と電子の重心系(陽電子と電子の運動量ベクトルの総和がゼロの系)において、1対の消滅ガンマ線が180度対向に発生するのであって、陽電子が運動量を持っている場合、実験室系では1対の消滅ガンマ線は180度対向に発生しない。この180度からのズレが角度揺動である。従来のPET装置では、陽電子はその初期運動量を体内での電離作用によりすべて損失した後に(静止した後に)、体内の電子と対消滅反応を起こすと仮定し、角度揺動を陽電子の体内飛程(薬剤集積箇所からの移動距離)に換算する。この換算された陽電子の体内飛程が、従来のPET装置におけるPET画像の解像度の原理的な限界であり、画質劣化の一因となる。
【0006】
加えて、従来の同時計数判定のみを用いたPET装置では、対をなさない消滅ガンマ線が偶発的に同時計数される事象(偶発同時事象)や、消滅ガンマ線が被検者の体内で散乱して、消滅ガンマ線の本来の方向が変わってしまう事象(被検者体内散乱事象)の影響を効率的に除去することができない。これらの事象は偽信号となり、画像の画質および定量性を悪化させる要因となる。
【0007】
本発明の目的は、上述した事情に鑑みてなされたもので、従来のPET装置の計測法の原理的限界を克服し、高精細かつ高い定量性を有するPET画像を得ることのできる核医学診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の核医学診断装置は、コンプトン散乱の運動学を用いて被検者から放出された光子の発生箇所を算出し、この算出した情報に応じて異なる画像再構成を行うことを特徴としている。
【0009】
また、上記課題を解決するためになされた請求項2記載の本発明の核医学診断装置は、被検者を間に位置づけて配置した少なくとも2つの検出手段と、該各検出手段からの情報を処理する信号処理手段と、画像を再構成するための画像再構成手段と、を備えて構成されるとともに、前記各検出手段は、前記被検者から放出される光子を反応させ、少なくとも一回目の反応点における位置情報、及び前記反応によって生じる荷電粒子の運動量の情報をそれぞれ検出する前段検出器と、前記反応によって散乱した光子に関する情報を検出する後段検出器とを順次配置して構成され、前記信号処理手段は、前記各検出手段においての同時計測であるか否かにより情報の分類を行うとともに、コンプトン散乱の運動学に基づく算出により情報の分類を行うように構成され、更に、前記画像再構成手段は、前記信号処理手段において分類された情報に応じて異なる画像再構成を行うように構成されることを特徴としている。
【0010】
請求項3記載の本発明の核医学診断装置は、請求項2に記載の核医学診断装置において、前記コンプトン散乱の運動学に基づく算出によっての情報の分類は、交差角を分類判定基準に含むことを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、コンプトン散乱の運動学により入射ガンマ線の方向を一意に決定する装置(コンプトンカメラと呼ぶ)を基本的に構成に含む。コンプトンカメラは、被検者に投与された放射性標識薬剤の集積箇所から体外に放射される任意のガンマ線(光子)を、前段検出器でコンプトン散乱させ、後段検出器でコンプトン散乱したガンマ線を検出するとともに、前段検出器でガンマ線により反跳された電子を検出する。散乱ガンマ線と反跳電子の運動学的情報を基に、ガンマ線の検出器に対する入射方向を算出し、ガンマ線の発生箇所を算出した方向の線上に推定する。また、本発明では、1対の消滅ガンマ線を同時計測することで、ガンマ線の発生箇所を算出した2つの方向の線により交差する点に推定する。本発明は、これらの推定した情報に応じて異なる画像再構成を行う。
【0012】
初期運動量の比較的大きな陽電子について考える場合、陽電子の体内での対消滅反応の割合が電離反応の割合に比べて、無視できるほど小さくはない(つまり、陽電子が静止する前に対消滅反応が生じる場合がある)が、このような場合、本発明ではコンプトンカメラにより1対の消滅ガンマ線を同時計測すれば、陽電子の角度揺動の影響を陽電子の体内飛程にすべて換算する必要はない。つまり、角度揺動のすべてが画質を劣化させる原因にならないことになる。また、本発明では、単ガンマ線の情報のみでガンマ線の発生箇所を推定することもできるため、偶発同時事象が画質劣化や定量性低下の原因にならないことになる。
【0013】
本発明のように、コンプトンカメラの構成により1対の消滅ガンマ線を同時計測すれば、角度揺動の影響を低減することができ、結果、画質劣化を防ぐことができる。また、1対の消滅ガンマ線の方向が180度からずれた場合、本発明では3次元空間上の一点にガンマ線の発生箇所を推定でき、結果、画像の定量性を向上させることができる。
【0014】
本発明によれば、1対の消滅ガンマ線の方向が180度からずれてない場合においても、同時計数判定とコンプトン散乱の運動学に基づく判定を課す(後に発明を実施するための最良の形態の欄で詳細に説明する)ことで、偶発同時事象と被検者体内散乱事象を効率的に除去することができ、偽信号を軽減できるため、結果、画質および画像の定量性を向上させることができる。本発明によれば、偽信号を軽減して真信号を生成することができるので、撮影時間を短縮することができる。同様に、被検者への薬剤投与量を低減できるので、被検者の被爆を低減することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来PET装置の計測法の原理的限界を克服し、高精細かつ高い定量性を有するPET画像が得られる核医学診断装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明について説明する。ここでは、本発明を核医学診断装置に応用した場合、つまり、放射性同位元素で標識された薬剤が被検者に投与され、被検者から放出されるガンマ線の情報を基に薬剤の体内分布を画像化する場合の例を示して説明する。特に、放射性標識薬剤として陽電子放出型の放射性同位元素が使用され、これにより消滅ガンマ線を検出する場合の例について説明する。
【0017】
<第1実施形態>
図1は本発明の核医学診断装置の装置構成を被検者を含めた状態で示す構成図である。図1において、引用符号150は放射性薬剤が投与され、図示しない診察台に横臥する被検者を示す。また、引用符号100、100′は検出器ヘッド(検出手段)を示す。検出器ヘッド100、100′は、主な構成として前段検出器101、101′と、後段検出器102、102′とを備える。検出器ヘッド100、100′は、被検者150の周囲に対向配置される。
【0018】
本発明の核医学診断装置は、検出器ヘッド100、100′の他に、この各検出器ヘッド100、100′からの信号を収集して処理する信号処理装置(信号処理手段)110と、処理した信号から画像を再構成する画像再構成装置(画像再構成手段)120と、再構成した画像を表示する画像表示装置130とを備える。信号処理装置110、画像再構成装置120、及び画像表示装置130は、CPUやメモリ等を備えておりマイクロコンピュータの機能を有する。すなわち、制御や演算の機能を有する。
【0019】
検出器ヘッド100、100′は、図示の如く少なくとも2台あればよい。検出器ヘッド100、100′の配置は、検出器ヘッド100、100′と被検者150との間の立体角が大きいほど望ましい。図示しない診察台には、駆動機構があってもよい。前段検出器101、101′は、各検出器ヘッド100、100′に少なくとも1台あればよいが、複数台あってもよい。前段検出器101、101′は、気体検出器でもよいし、液体検出器でもよいし、固体検出器でもよい。また、これらの組み合わせであってもよい。後段検出器102、102′は、各検出器ヘッド100、100′に少なくとも1台あればよいが、複数台あってもよい。後段検出器102、102′は、前段検出器101、101′と同様に、気体検出器でもよいし、液体検出器でもよいし、固体検出器でもよい。また、これらの組み合わせであってもよい。
【0020】
各検出器ヘッド100、100′は、コンプトンカメラ(アドバンスド・コンプトンカメラ法に基づく装置)を構成する一装置であり、前段検出器101、101′は、被検者150に投与された放射性標識薬剤の集積箇所から体外に放射される任意のガンマ線をコンプトン散乱させるとともに、ガンマ線により反跳された電子を検出する装置であり、後段検出器102、102′は、前段検出器101、101′でコンプトン散乱したガンマ線を検出する装置である。
【0021】
このような構成の各検出器ヘッド100、100′を備え、信号処理装置110及び画像再構成装置120では次のようなデータ処理を行う。図2は図1の信号処理装置110及び画像再構成装置120にて行うデータ処理の説明に係るブロック図である。尚、必要に応じて図1も参照する。
【0022】
図2において、引用符号200は各検出器ヘッド100、100′から得られたガンマ線のデータ、引用符号300はガンマ線のデータ200から対向配置された各検出器ヘッド100、100′に同時にガンマ線が入射したか否かを判定する同時判定手段(方法および装置)、引用符号400はコンプトン散乱の運動学に基づいて、各ガンマ線のエネルギー、および2個のガンマ線が交わっていることを保証し、それらのガンマ線がなす角(交差角)を算出し、それらのエネルギーおよび交差角が設定範囲内であるか否かを判定する運動学判定手段(方法および装置)をそれぞれ示す。
【0023】
また、引用符号500は同時計数され、エネルギーおよび交差角が設定範囲内の1対のガンマ線を用いて、コンプトン散乱の運動学からガンマ線の発生箇所を、1事象で3次元空間のある点に推定し、画像再構成を行う二光子コンプトンカメラ画像再構成装置、引用符号600は同時計数されなかったガンマ線、およびエネルギーと交差角とが設定範囲外であったガンマ線を用いて、コンプトン散乱の運動学からガンマ線の発生箇所を、1事象で3次元空間のある線上に推定し、画像再構成を行う単光子コンプトンカメラ画像再構成装置をそれぞれ示す。尚、上記の「単光子」、「二光子」とは「1つの光子」に基づく、「2つの光子」に基づく、の意味合いからつけたコンプトンカメラ画像再構成における名称である。
【0024】
さらに、引用符号700は二光子コンプトンカメラ画像再構成装置500または単光子コンプトンカメラ画像再構成装置600により得られた画像を示す。画像700は画像表示装置130の画面上に表示される。
【0025】
図2から分かるように、事象選別を行い、二光子コンプトンカメラ画像再構成装置500または単光子コンプトンカメラ画像再構成装置600での画像再構成が行われる。言い換えれば、事象選別に応じて異なる画像再構成が行われる。
【0026】
以上のような構成により、角度揺動の影響を低減し、偶発同時事象および体内散乱事象を効率的に除去でき、偽信号の影響を軽減でき、高精細で定量性の良い、良好な画像が得られる装置になる。この点について具体的に以下で説明する。
【0027】
先ずはじめに、図2に示すように事象選別を行い、二光子コンプトンカメラ画像再構成装置500を用いて画像再構成を実施することにより画像の定量性が向上する理由について説明する。図3は画像の定量性が向上する理由についての説明図である。尚、必要に応じて図1や図2も参照する。
【0028】
図3において、被検者150に投与された放射性標識薬剤から比較的大きな初期運動量を持った陽電子2002が放出され、直後に、被検者150体内の電子2003と対消滅反応を起こすと、1対の消滅ガンマ線2004および2004′が生じる。消滅ガンマ線2004(2004′)は、前段検出器101(101′)に入射してコンプトン散乱する。コンプトン散乱により生じた散乱ガンマ線2005(2005′)は、後段検出器102(102′)において検出される。コンプトン散乱で反跳された反跳電子2006(2006′)は、前段検出器101(101′)において検出される。
【0029】
このような場合において、同時判定手段300のみを実施(実行)すると、言い換えれば従来の同時計数判定のみの装置であると、ガンマ線の発生箇所は、消滅ガンマ線2004および2004′の各前段検出器101および101′への入射点を結ぶ線3001上に一様に推定されてしまう(3001は同時計数判定のみで推定されるガンマ線の発生箇所)。このように、従来では線3001上にガンマ線源を推定するので、ガンマ線源が存在しない箇所にもガンマ線源があるかのように計数し、画像の定量性が悪化する。
【0030】
しかしながら、本発明では、運動学判定手段400により同時計数された事象にコンプトン散乱の運動学に基づく判定を課すことで、消滅ガンマ線2004(2004′)の前段検出器101(101′)への入射方向がコンプトン散乱の運動学より算出された推定方向4002(4002′)上に推定され、推定方向4002と4002′の交点4001が、ガンマ線の発生箇所に推定される(4001は同時計数判定および運動学判定により推定されるガンマ線の発生箇所)。このように、本発明では、3次元的な点にガンマ線源を局所的に推定して、ガンマ線を計数することができるので、画像の定量性が向上する。
【0031】
図4および図5を参照しながら同時判定手段300および運動学判定手段400の処理について説明する。図4は図2の同時判定手段300に係る「同時判定」のフローチャート、図5は図2の運動学判定手段400に係る「運動学判定」のフローチャートである。
【0032】
図4において、同時判定手段300では、各検出器ヘッド100、100′が収集したガンマ線データに基づき、設定された時間内でデータ収集時刻が同期しているか否かを判断する。そして、同期している場合には、図中Yesで示す如く「同時計数事象」として判定し、同期していない場合には、図中Noで示す如く「同時計数でない事象」として判定する。「同時計数事象」の判定は図2のYESに相当し、「同時計数でない事象」の判定は図2のNOに相当する。
【0033】
図5において、運動学判定手段400では、既に各検出器ヘッド100、100′がガンマ線データを収集していることから、収集したガンマ線データから、すなわち計測データからコンプトン散乱の運動学に基づきガンマ線の方向A、方向A′を算出してこのガンマ線の方向A、方向A′が空間的に重なるか否かを判断する。そして、空間的に重なっている場合には、図中Yesで示す如く「ガンマ線の発生箇所を方向A、方向A′の重なった点に推定する」として判定し、空間的に重なってない場合には、図中Noで示す如く「ガンマ線の発生箇所をそれぞれの方向A、方向A′の線上に推定する」として判定する。「ガンマ線の発生箇所を方向A、方向A′の重なった点に推定する」の判定は図2のYESに相当し、「ガンマ線の発生箇所をそれぞれの方向A、方向A′の線上に推定する」の判定は図2のNOに相当する。
【0034】
次に、図2に示すように事象選別を行い、二光子コンプトンカメラ画像再構成装置500を用いて画像再構成を実施することにより画像の画質が向上する理由について説明する。図6は画像の画質が向上する理由についての説明図である。尚、必要に応じて図1や図2も参照する。
【0035】
図6において、被検者150に投与された放射性標識薬剤から比較的大きな初期運動量を持った陽電子2002が放出され、被検者150体内の電子2003と対消滅反応を起こすと、1対の消滅ガンマ線2004および2004′が生じる。
【0036】
ここで、図6の上図(a)は、消滅ガンマ線2004(2004′)を従来の同時計数判定機能のみを備えたガンマ線検出器1001(1001′)で検出した場合の例を示し、また、図6の下図(b)は、本発明に示すような検出器ヘッド100(100′)で消滅ガンマ線2004(2004′)を検出した場合の例、すなわちコンプトンカメラを用いた場合の例を示すものとする。
【0037】
図6の(a−1)および(b−1)は、陽電子2002が薬剤集積箇所2000と同じ箇所で被検者150体内の電子2003と対消滅反応を起こした場合を示す図である。また、図6の(a−2)および(b−2)は、陽電子2002が薬剤集積箇所2000から距離2001離れた箇所まで移動し、ゼロではない運動量を持って電子2003と対消滅反応を起こした場合を示す図である。さらに、図6の(a−3)および(b−3)は、陽電子2002が薬剤集積箇所2000から距離2001′離れた箇所まで移動し、運動エネルギーを全損失した後(運動量がゼロになり)、電子2003と対消滅反応を起こした場合を示す図である。
【0038】
先ず、図6(a−1)と図6(b−1)を比較する。従来に係る図6(a−1)では、ガンマ線の発生箇所が図示の線3001上に推定され、推定箇所から対消滅反応が生じた箇所までの距離3002だけ、実際の発生箇所となる薬剤集積箇所2000からずれる。このずれは画像の解像度に直接影響して、結果、画質が劣化する。しかし、本発明に係る図6(b−1)では、このような影響はなく、画質は悪化しない。すなわち、コンプトン散乱の運動学に基づく判定を課すことで、消滅ガンマ線2004(2004′)の入射方向が図3に示す如くコンプトン散乱の運動学より算出された推定方向4002(4002′)上に推定され、推定方向4002と4002′の交点が、ガンマ線の発生箇所となる薬剤集積箇所2000に推定されることから、画質が劣化することはない。
【0039】
次に、図6(a−2)と図6(b−2)を比較する。従来に係る図6(a−2)では、ガンマ線の発生箇所が図示の線3001上に推定され、推定箇所から対消滅反応が生じた箇所までの距離3002′と、薬剤集積箇所2000から対消滅反応が生じた箇所までの距離2001だけ、実際の発生箇所の薬剤集積箇所2000からずれる。これに対して本発明に係る図6(b−2)では、ガンマ線の発生箇所が薬剤集積箇所2000から消滅反応が生じた箇所までの距離2001の点に推定され、距離2001のみしか実際の発生箇所としての薬剤集積箇所2000からずれないので、従来に係る場合と比べて画質劣化は軽減される。
【0040】
続いて、図6(a−3)と図6(b−3)を比較する。この場合、両者とも推定されるガンマ線の発生箇所は、薬剤集積箇所2000から対消滅反応が生じた箇所までの距離2001′だけ、実際の薬剤集積箇所2000からずれる。
【0041】
以上のような考察から、二光子コンプトンカメラ画像再構成装置500を用いて画像再構成を実施することにより画像の画質が向上することが分かる。
【0042】
次に、図2に示すように事象選別を行い、単光子コンプトンカメラ画像再構成装置600を用いて画像再構成を実施することにより、偶発同時事象が効率的に除去でき、画像の画質および定量性が向上する理由について説明する。図7は画像の画質および定量性が向上する理由についての説明図である。尚、必要に応じて図1や図2も参照する。
【0043】
ここで、図7では2対の消滅ガンマ線(2004と2004′が対、2014と2014′が対)について、対をなさない消滅ガンマ線2004と2014′が同時計数された場合を示すものとする。また、図7(a)では、従来の同時計数判定機能のみを持ったガンマ線検出器1001(1001′)で計測した場合を示し、図7(b)では、本発明の前段検出器101、101′および後段検出器102、102′の構成で計測した場合を示すものとする。尚、図中の引用符号2015は散乱ガンマ線、引用符号2016反跳電子を示し、これ以外の引用符号は上記と同じであるものとする。
【0044】
従来に係る図7(a)の場合では、ガンマ線の発生箇所が線3001上に推定され、この事象では偽信号を生成する。従って、画像の画質と定量性を悪化させる。これに対して、本発明に係る図7(b)の場合では、ガンマ線の発生箇所が線4002および4002′上に推定される。従って、明らかに図7(a)の場合と異なり、偽信号を生成せずに真信号を生成することになり、結果、画像の画質と定量性とを向上させる。
【0045】
続いて、図2に示すように事象選別を行い、単光子コンプトンカメラ画像再構成装置600を用いて画像再構成を実施することにより、被検者体内散乱事象が効率的に除去でき、画像の画質および定量性が向上する理由について説明する。図8は被検者体内散乱事象の場合において画像の画質および定量性が向上する理由についての説明図である。尚、必要に応じて図1や図2も参照する。
【0046】
ここで、図8では1対の消滅ガンマ線2004と2004′の片方2004′が被検者150体内で散乱され、散乱線2025となった場合を示すものとする。また、図8(a)では、従来の同時計数判定機能のみを持ったガンマ線検出器1001(1001′)で計測した場合を示し、図8(b)では、本発明の前段検出器101、101′および後段検出器102、102′の構成で計測した場合を示すものとする。尚、図中の引用符号2035は散乱ガンマ線を示し、これ以外の引用符号は上記と同じであるものとする。
【0047】
従来に係る図8(a)の場合では、ガンマ線の発生箇所が線3001上に推定され、この事象では偽信号を生成する。従って、画像の画質と定量性を悪化させる。これに対して、本発明に係る図8(b)の場合では、ガンマ線の発生箇所が線4002上に推定される。散乱線2025は、このエネルギーにより判断されてガンマ線の発生箇所の推定対象とはならない。従って、明らかに図8(a)の場合と異なり、偽信号を生成せずに真信号を生成することになり、結果、画像の画質と定量性とを向上させる。
【0048】
<第2実施形態>
第1実施形態では、同時判定手段300とコンプトン散乱の運動学に基づく運動学判定手段400を課して、二光子コンプトンカメラ画像再構成装置500を用いた画像再構成を実施する例を示したが、本形態では、図9に示す如く、二光子コンプトンカメラ画像再構成装置500に替えてPET再構成装置800を用いる。このPET再構成装置800は、同時計数した2個の検出器を結ぶ線上にガンマ線の発生箇所を推定した場合に用いられて画像再構成をする装置である。PET再構成装置800は、公知のPET装置の画像再構成方法を用いる装置構成を有するものとする。
【0049】
第2実施形態での運動学判定手段400は、第1実施形態のものと若干処理手順が異なるので、以下この点について図10を参照しながら説明する。図10は図9の運動学判定手段400に係る「運動学判定」のフローチャートである。
【0050】
図10において、第2実施形態での運動学判定手段400では、各検出器ヘッド100、100′(図1参照)によって収集したガンマ線データから(計測データから)、コンプトン散乱の運動学に基づきガンマ線の方向A、方向A′を算出してこのガンマ線の方向Aと方向A′のなす角度が180度であるか否かを判断する。そして、方向Aと方向A′のなす角度が180度である場合には、図中Yesで示す如く「ガンマ線の発生箇所を1つの方向の線上に推定する」として判定し、方向Aと方向A′のなす角度が180度でない場合には、図中Noで示す如く「ガンマ線の発生箇所をそれぞれの方向A、方向A′の線上に推定する」として判定する。「ガンマ線の発生箇所を1つの方向の線上に推定する」の判定は図9の運動学判定手段400のYESに相当し、「ガンマ線の発生箇所をそれぞれの方向A、方向A′の線上に推定する」の判定は図9の運動学判定手段400のNOに相当する。
【0051】
図9に戻り、第2実施形態では、運動学判定手段400の判定により、ガンマ線の発生箇所を1つの方向の線上に推定した場合に、言い換えれば、同時計数した2個の検出器を結ぶ線上にガンマ線の発生箇所を推定した場合に、PET再構成装置800を用いた画像再構成を実施する。これに対し、運動学判定手段400の判定において、ガンマ線の発生箇所をそれぞれの方向A、方向A′の線上に推定した場合には、単光子コンプトンカメラ画像再構成装置600を用いた画像再構成を実施する。
【0052】
第2実施形態についてもう少し詳しく説明すると、例えば、運動学判定手段400において、ガンマ線のエネルギーを511keV、交差角を180度に設定し、この条件を満たした事象(例えば図11参照)にPET再構成装置800を用いた画像再構成を実施する。条件を満たさなかった事象については、単光子コンプトンカメラ画像再構成装置600を用いて画像再構成を実施する。このような第2実施形態では、偶発同時事象および体内散乱事象を除去でき、偽信号の生成を抑制することができるので、結果、画像の画質および定量性を向上させる。
【0053】
<第3実施形態>
第3実施形態は、図12に示す如く、コンプトン散乱の運動学に基づく運動学判定手段400によって事象をより詳細に分類し、そして、分類した事象に応じて、二光子コンプトンカメラ画像再構成装置500を用いた画像再構成、単光子コンプトンカメラ画像再構成装置600を用いた画像再構成、PET再構成装置800を用いた画像再構成をそれぞれ実施する。
【0054】
第3実施形態での運動学判定手段400は、第1実施形態、第2実施形態のものと若干処理手順が異なるので、以下この点について図13を参照しながら説明する。図13は図12の運動学判定手段400に係る「運動学判定」のフローチャートである。
【0055】
図13において、第3実施形態での運動学判定手段400では、各検出器ヘッド100、100′(図1参照)によって収集したガンマ線データから(計測データから)、コンプトン散乱の運動学に基づきガンマ線の方向A、方向A′を算出してこのガンマ線の方向Aと方向A′のなす角度が180度であるか否かを判断する。そして、方向Aと方向A′のなす角度が180度である場合には、図中Yesで示す如く「ガンマ線の発生箇所を1つの方向の線上に推定する」として判定する。一方、方向Aと方向A′のなす角度が180度でない場合には、図中Noで示す如くの処理に移行し、ガンマ線の方向Aと方向A′のなす角度の180度からのズレが設定した範囲内(角度範囲内)であるか否かを判断する。
【0056】
方向Aと方向A′のなす角度の180度からのズレが設定した範囲内である場合には、図中Yesで示す如く「ガンマ線の発生箇所を重なった点(方向Aと方向A′の重なった点)に推定する」として判定する。方向Aと方向A′のなす角度の180度からのズレが設定した範囲内でない場合には、図中Noで示す如く「ガンマ線の発生箇所をそれぞれの方向A、方向A′の線上に推定する」として判定する。
【0057】
「ガンマ線の発生箇所を1つの方向の線上に推定する」の判定は図12の運動学判定手段400の「180度」に相当し、「ガンマ線の発生箇所を重なった点に推定する」の判定は図12の運動学判定手段400の「範囲内」に相当し、「ガンマ線の発生箇所をそれぞれの方向A、方向A′の線上に推定する」の判定は図12の運動学判定手段400の「範囲外」に相当する。
【0058】
第3実施形態についてもう少し詳しく説明すると、例えば、運動学判定手段400では交差角が複数設定される。交差角が180度の場合はPET再構成装置800を用いた画像再構成を実施し、交差角が陽電子の初期運動量から推定される角度揺動の範囲内の場合は二光子コンプトンカメラ画像再構成装置500を用いた画像再構成を実施し、範囲外の場合は単光子コンプトンカメラ画像再構成装置600を用いた画像再構成を実施すれば、偶発同時事象および体内散乱事象を除去でき、偽信号の生成を抑制することができるので、結果、画像の画質および定量性を向上させる。
【0059】
<第4実施形態>
上記の第1実施形態では、被検者の周囲に固定された複数の検出器ヘッドの場合について示した。これに対し本形態では、図14に示す如く、被検者150の周囲を回転する機構を備えた検出器ヘッド100(100′)の場合についての例を示す。本形態において、回転軌道5000は、円軌道でもよいし、楕円軌道でもよいし、被検者最近接軌道でもよい。このように被写体周囲に配置することで、3次元等方的なデータ収集を迅速に行うことができ、撮影時間の短縮に寄与する。
【0060】
<第5実施形態>
上記の第1実施形態では、被検者の周囲に固定された複数の検出器ヘッドの場合について示した。これに対し本形態では、図15および図16に示す如く、被検者150の周囲に環状に配置した検出器ヘッド100の場合についての例を示す。このように被写体周囲に配置することで、3次元等方的なデータ収集を迅速に行うことができ、撮影時間の短縮に寄与する。
【0061】
その他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【0062】
以下、本発明に関しての補足説明をする。
【0063】
近年、ポジトロン断層撮影装置(以下、PET装置)およびFDG(ガン細胞の活発な糖代謝によりガン細胞に特異的に集積する放射性薬剤)の普及にともない、核医学診断に対する期待は非常に高まっている。また、分子生物学や細胞生物学の急速な進展に伴い、病理や薬理を基礎科学的に解明するために、放射性同位元素で標識された化合物を広く利用しようという新しい分野、分子イメージングが登場した。このように多様化する診断や臨床実験や動物実験に対応できる、高性能なイメージング機器の開発が求められている。
【0064】
多種の薬剤が開発されるにつれ、診断上または研究上、それらの薬剤を複数同時に使用し、体内動態を観測したいというニーズが高まりつつある。現に、ガンマカメラ(SPECT装置を含む)を用いた心筋の核医学診断では、2種類の薬剤を同時に使用する診断方法がある。
【0065】
PET装置では、検出原理的に、多種の放射性薬剤から同時に放出されるガンマ線を選別して測定することはできない。ポジトロン崩壊の結果として発生する(陽電子が物質中の電子と対消滅反応を起こす)、対向した1対のガンマ線のエネルギーは、放射性同位元素の種類によらず一定である。PET装置では、対向した1対のガンマ線から得られる直線の情報をもとに、画像再構成を行う。従って、PET装置では、ガンマ線のエネルギーによって、異種の放射性同位元素を区別した画像を得ることができない。
【0066】
ガンマカメラ(SPECT装置を含む)は、機械コリメータの孔を直線的に通過したガンマ線の情報をもとに、画像再構成を行う。従って、ガンマ線のエネルギーによって、異種の放射性同位元素を区別することができる。しかしながら、ガンマカメラは、機械コリメータを用いるために、例えばPET用の放射性薬剤を使用する場合、厚いコリメータが必要になる。その結果、空間解像度または検出効率が著しく低下する。一般的に、ガンマカメラでは、ガンマ線のエネルギーが高くなるにつれ、空間解像度は劣化する。
【0067】
本発明は、検出原理的に、既存のPET用製剤とSPECT用製剤の両方を使用でき、かつ新規の放射性薬剤にも対応できる装置であることから有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の核医学診断装置の装置構成を被検者を含めた状態で示す構成図である。
【図2】図1の信号処理装置及び画像再構成装置にて行うデータ処理の説明に係るブロック図である。
【図3】画像の定量性が向上する理由についての説明図である。
【図4】図2の同時判定手段に係る「同時判定」のフローチャートである。
【図5】図2の運動学判定手段に係る「運動学判定」のフローチャートである。
【図6】画像の画質が向上する理由についての説明図である。
【図7】画像の画質および定量性が向上する理由についての説明図である。
【図8】被検者体内散乱事象の場合において画像の画質および定量性が向上する理由についての説明図である。
【図9】第2実施形態に係る図であり、信号処理装置及び画像再構成装置にて行うデータ処理の説明に係るブロック図である。
【図10】図9の運動学判定手段に係る「運動学判定」のフローチャートである。
【図11】第2実施形態での条件を満たした事象の一例を示す図である。
【図12】第3実施形態に係る図であり、信号処理装置及び画像再構成装置にて行うデータ処理の説明に係るブロック図である。
【図13】図12の運動学判定手段に係る「運動学判定」のフローチャートである。
【図14】第4実施形態に係る図であり、被検者の周囲を回転する機構を備えた検出器ヘッドの場合についての例を示す図である。
【図15】第5実施形態に係る図であり、被検者の周囲に環状に配置した検出器ヘッドの場合についての例を示す図である。
【図16】第5実施形態に係る図であり、被検者の周囲に環状に配置した検出器ヘッドの場合についての例を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
100、100′ 検出器(検出手段)
101、101′ 前段検出器
102、102′ 後段検出器
110 信号処理装置(信号処理手段)
120 画像再構成装置(画像再構成手段)
130 画像表示装置
150 被検者
300 同時判定手段
400 運動学判定手段
500 二光子コンプトンカメラ画像再構成装置
600 単光子コンプトンカメラ画像再構成装置
700 画像
800 PET再構成装置
2000 薬剤集積箇所
2002 陽電子
2003 電子
2004、2004′ 消滅ガンマ線
2005、2005′ 散乱ガンマ線
2006、2006′ 反跳電子
4001 交点
4002、4002′ コンプトン散乱の運動学より算出された推定方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプトン散乱の運動学を用いて被検者から放出された光子の発生箇所を算出し、この算出した情報に応じて異なる画像再構成を行う
ことを特徴とする核医学診断装置。
【請求項2】
被検者を間に位置づけて配置した少なくとも2つの検出手段と、該各検出手段からの情報を処理する信号処理手段と、画像を再構成するための画像再構成手段と、を備えて構成されるとともに、
前記各検出手段は、前記被検者から放出される光子を反応させ、少なくとも一回目の反応点における位置情報、及び前記反応によって生じる荷電粒子の運動量の情報をそれぞれ検出する前段検出器と、前記反応によって散乱した光子に関する情報を検出する後段検出器とを順次配置して構成され、
前記信号処理手段は、前記各検出手段においての同時計測であるか否かにより情報の分類を行うとともに、コンプトン散乱の運動学に基づく算出により情報の分類を行うように構成され、更に、
前記画像再構成手段は、前記信号処理手段において分類された情報に応じて異なる画像再構成を行うように構成される
ことを特徴とする核医学診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の核医学診断装置において、
前記コンプトン散乱の運動学に基づく算出によっての情報の分類は、交差角を分類判定基準に含む
ことを特徴とする核医学診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−232641(P2008−232641A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68451(P2007−68451)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17〜18年度、「健康安心プログラム、分子イメージング機器研究開発プロジェクト、悪性腫瘍等支援分子イメージング機器研究開発プロジェクト、悪性腫瘍等治療支援分子イメージング機器に関する先導研究、コンプトン散乱利用ガンマ線分子イメージング機器研究開発に係る先導研究」 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究、産業活力再生特別措置法第30条第1項の適用をうけるもの)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】