核医学診断装置
【課題】エネルギ情報に準じた情報を用いて散乱補正を行うことができる核医学診断装置を提供することを目的とする。
【解決手段】γ線検出器32へのγ線が入射する検出深さを示す情報である検出深さ情報に基づいて、同時計数回路35で出力された同時計数データを、全同時計数データと、所定の深さを有したγ線検出器32の検出層が深いγ線同士の同時計数データとに検出深さ情報弁別部41は弁別して分類する。その検出深さ情報弁別部41で分類された検出層が深いγ線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を散乱補正部43が行うことで、エネルギ情報に準じた検出深さ情報を用いて散乱補正を行うことができる。
【解決手段】γ線検出器32へのγ線が入射する検出深さを示す情報である検出深さ情報に基づいて、同時計数回路35で出力された同時計数データを、全同時計数データと、所定の深さを有したγ線検出器32の検出層が深いγ線同士の同時計数データとに検出深さ情報弁別部41は弁別して分類する。その検出深さ情報弁別部41で分類された検出層が深いγ線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を散乱補正部43が行うことで、エネルギ情報に準じた検出深さ情報を用いて散乱補正を行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線に基づいて被検体の核医学用データを求める核医学診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上述した核医学診断装置、すなわちECT(Emission Computed Tomography)装置として、PET(Positron Emission Tomography)装置を例に採って説明する。PET装置は、陽電子(Positron)、すなわちポジトロンの消滅によって発生する複数本のγ線を検出して複数個の検出器でγ線を同時に検出したときのみ被検体の断層画像を再構成するように構成されている。
【0003】
具体的には、陽電子放出核種を含んだ放射性薬剤を被検体内に投与して、投与された被検体内から放出される511KeVの対消滅γ線を多数の検出素子(例えばシンチレータ)群からなる検出器で検出する。そして、2つの検出器で一定時間内にγ線を検出した場合に同時に検出したとして、それを一対の対消滅γ線として計数し、さらに対消滅発生地点を、検出した検出器対の直線上と特定する。このような同時計数情報を蓄積して再構成処理を行って、陽電子放出核種分布画像(すなわち断層画像)を得る。
【0004】
γ線を同時に検出(同時計数)するには同時計数回路に各γ線を入力して、入力されたγ線の時間差が所定のタイムウィンドウ内に収まっているか否かで判断される。実際の同時計数回路では、一般的に4ns〜20ns(ns=10−9s)程度の非常に短いタイムウィンドウ内に検出されたγ線を「同時」とみなしている。したがって、互いに異なる2点で発生したγ線のそれぞれ一方を同時計数する可能性が生じてしまう。これを『偶発同時計数(random coincidence)』という。一方、一対のγ線の一方あるいは双方が被検体内でコンプトン散乱を起こした後に同時計数された場合、これを『散乱同時計数(scatter coincidence)』という。また、本来であれば一対のγ線の双方が同時計数された場合、これを『真の同時計数(true coincidence)』という。
【0005】
核医学診断において画像の定量性を確保するには、上述の散乱同時計数の正確な補正(例えば全同時計数データからの減算処理)が必要である。散乱成分は、実際の放射能分布の周辺に平坦に拡がりをもった形状で検出されるので、測定データ(真の同時計数+散乱同時計数の画像もしくはサイノグラム)に低域通過フィルタ(LPF: Low Pass Filter)を作用させて散乱成分を求める手法(これを「手法1」と呼ぶ)や、散乱を含む画像と吸収体の分布とを考慮して計測時の散乱をシミュレーションする手法(これを「手法2」と呼ぶ)が一般的に用いられている。
【0006】
また、複数のエネルギウィンドウが設定可能な装置においては、そのエネルギ情報に基づいて2つ以上の同時計数データを構築し、微小角散乱成分のみを含む同時計数データ(すなわち散乱線の少ない同時計数データ)と統計精度の高い全同時計数データとを構築して、全同時計数データの散乱補正を行う手法(これを「手法3」と呼ぶ)を実施している。これら3つの手法のうち、エネルギ情報を用いた手法3が、最も高い定量性を維持することができる(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0007】
従来手法として述べた上述の手法3では、所定のしきい値(例えば500KeV、511KeVあるいは600KeV)よりも高いエネルギウィンドウ(UEW: Upper Energy Window)同士で同時計数された同時計数データ(特許文献1の図4、非特許文献のFig.1を参照)について簡易的なデコンボリューション(deconvolution)法で散乱成分(特許文献1の図5の「散乱線」を参照)を推定して、その散乱成分を減算することで真の同時計数のUEWデータを求める。そして、所定の範囲(例えば下限値は300KeV〜400KeV、上限値は600KeV〜800KeV)において全エネルギ(SEW: Standard Energy Window)で同時計数された全同時計数データ(特許文献1の図4、非特許文献のFig.1を参照)から、真の同時計数のUEWデータを増幅させたデータを減算することで、散乱成分のみのSEWデータを推定する。さらに、ノイズ除去のための平滑化処理(smoothing)を、推定されたSEWデータに適用し、散乱成分のみのSEWデータを最終的に求めた後、全同時計数データから最終的に求められた散乱成分のみのSEWデータを減算することで、散乱成分を含まない真の同時計数データを求めることができる。このようにして、同時計数データの散乱補正を行う(特許文献1の図5、非特許文献のFig.2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−218769号公報(第1−8頁、図1,3−5、7)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】水田哲郎、他:島津製3D PETの散乱補正・吸収補正の定量評価
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、UEWを設定するエネルギウィンドウのしきい値(上述したように、例えば500KeV、511KeVあるいは600KeV)を光電ピーク付近に設定するので、検出器出力を示す光電ピークチャンネルが少しでも変動すると、UEWのカウント(計数値)が増減し、画素値の変動を引き起こしてしまう。検出器の出力は、検出器の動作温度や検出素子特性の変化、回路上のバイアスによって変化し得るが、これらを根本的に対策することは困難を要する。
【0011】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、エネルギ情報に準じた情報を用いて散乱補正を行うことができる核医学診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、この発明に係る核医学診断装置は、放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線に基づいて被検体の核医学用データを求める核医学診断装置であって、
前記放射線を検出する放射線検出手段と、
その放射線検出手段で放射線が同時に検出されたか否かを判定して、同時に検出された放射線を同時計数データとして出力する同時計数手段と、
その同時計数手段で出力された同時計数データを、前記放射線検出手段への放射線が入射する検出深さを示す情報である検出深さ情報に基づいて、全同時計数データと、所定の深さを有した前記放射線検出手段の検出層が深い放射線同士の同時計数データとに分類する第1同時計数分類手段と、
その第1同時計数分類手段で分類された前記検出層が深い放射線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行う散乱補正手段と
を備えることを特徴とするものである。
【0013】
[作用・効果]放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線が放射線検出手段に入射されたときに、入射エネルギの低い散乱成分は、そのエネルギの低さから浅い検出深さで相互作用を起こしやすい。一方、入射エネルギが高い放射線の方がエネルギの低い放射線よりも透過特性が高いので、検出深さの深い領域で相互作用を起こしやすく、その領域で検出されたデータは高エネルギである確率が高いと予測される。そこで、この発明に係る核医学診断装置によれば、従来のエネルギ情報の代わりに、放射線検出手段への放射線が入射する検出深さを示す情報である検出深さ情報に基づいて、同時計数手段で出力された同時計数データを、全同時計数データと、所定の深さを有した放射線検出手段の検出層が深い放射線同士の同時計数データとに第1同時計数分類手段は分類する。その第1同時計数分類手段で分類された検出層が深い放射線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を散乱補正手段が行うことで、エネルギ情報に準じた検出深さ情報を用いて散乱補正を行うことができる。また、エネルギ情報における光電ピーク位置の変動による影響を回避することができる。
【0014】
上述した発明において、検出深さ情報の他にエネルギ情報も用いて散乱補正を行ってもよい。すなわち、同時計数手段で出力された同時計数データを、放射線のエネルギ情報に基づいて、全同時計数データと、所定値よりも高いエネルギウィンドウを有する同時計数データとに分類する第2同時計数分類手段を備え、散乱補正手段は、第2同時計数分類手段で分類された高いエネルギウィンドウを有する同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行ってもよい。
【0015】
また、検出深さ情報の他にエネルギ情報も用いて散乱補正を行う場合には、以下のように分類および散乱補正を行うのが好ましい。すなわち、第2同時計数分類手段は、第1同時計数分類手段で分類された検出層が深い放射線同士の同時計数データを、検出層が深い放射線同士の全同時計数データと、検出層が深い放射線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データとに分類し、散乱補正手段は、第2同時計数分類手段で分類された検出層が深い放射線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データに基づいて、検出層が深い放射線同士の同時計数データの散乱補正を行った後に、その散乱補正後の検出層が深い放射線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行うのが好ましい。
【0016】
上述したこれらの発明において、放射線検出手段を、放射線が入射する深さ方向に複数の層で積層して構成し、入射順に第1層、第2層、…としたときに、第2層以降でともに検出された放射線の同時計数データを、第1同時計数分類手段は、検出層が深い放射線同士の同時計数データとして分類するのが好ましい。
【0017】
放射線が放射線検出手段に入射されたときに、入射エネルギの低い散乱成分は、浅い第1層で相互作用を起こしやすく、入射エネルギが高い放射線の方は、第2層以降の深い領域で相互作用を起こしやすい。したがって、第2層以降でともに検出された放射線の同時計数データを、検出層が深い放射線同士の同時計数データとして分類する。このように分類することで、検出層が深い放射線同士の同時計数データが高エネルギである確率が高くなる。
【0018】
検出層が深い放射線同士の同時計数データが高エネルギである確率をより向上させるためには、最も深い層でともに検出された放射線の同時計数データを、第1同時計数分類手段は、検出層が深い放射線同士の同時計数データとして分類するのがより好ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明に係る核医学診断装置によれば、放射線検出手段への放射線が入射する検出深さを示す情報である検出深さ情報に基づいて、同時計数手段で出力された同時計数データを、全同時計数データと、所定の深さを有した放射線検出手段の検出層が深い放射線同士の同時計数データとに第1同時計数分類手段は分類する。その第1同時計数分類手段で分類された検出層が深い放射線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を散乱補正手段が行うことで、エネルギ情報に準じた検出深さ情報を用いて散乱補正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】各実施例に係るPET装置の側面図である。
【図2】実施例1に係るPET装置のブロック図である。
【図3】γ線検出器の具体的構成の概略図である。
【図4】実施例1に係る検出深さ情報弁別部での弁別・分類を模式的に示した図である。
【図5】実施例1に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】実施例1に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】実施例2に係るPET装置のブロック図である。
【図9】(a)はエネルギに対するγ線の計数値を表したエネルギスペクトル、(b)は同時計数の対象となる各γ線のエネルギ分布である。
【図10】実施例2に係る検出深さ情報弁別部・エネルギ弁別部での弁別・分類を模式的に示した図である。
【図11】実施例2に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】実施例2に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】実施例2に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【実施例1】
【0021】
以下、図面を参照してこの発明の実施例1を説明する。
図1は、実施例1に係るPET装置の側面図であり、図2は、実施例1に係るPET装置のブロック図である。後述する実施例2も含めて、本実施例1では、核医学診断装置として、PET (Positron Emission Tomography) 装置を例に採って説明する。
【0022】
後述する実施例2も含めて、図1に示すように、本実施例1に係るPET装置1は、水平姿勢の被検体Mを載置する天板2を備えている。この天板2は、上下に昇降移動、被検体Mの体軸に沿って平行移動するように構成されている。PET装置1は、天板2に載置された被検体Mを診断するPET検出部3を備えている。PET装置1は、この発明における核医学診断装置に相当する。
【0023】
PET検出部3は、開口部31aを有したガントリ31と被検体Mから発生したγ線を検出するγ線検出器32とを備えている。γ線検出器32は、被検体Mの体軸周りを取り囲むようにしてリング状に配置されており、ガントリ31内に埋設されている。γ線検出器32は、シンチレータブロック32aとライトガイド32bと光電子増倍管(PMT)32c(図3を参照)とを備えている。シンチレータブロック32aは、複数個のシンチレータからなる。放射性薬剤が投与された被検体Mから発生したγ線をシンチレータブロック32aが光に変換して、変換されたその光をライトガイド32bが案内して、光電子増倍管32cが光電変換して電気信号に出力する。γ線検出器32は、この発明における放射線検出手段に相当する。γ線検出器32の具体的な構成については、図3で後述する。
【0024】
続いて、PET装置1のブロック図について説明する。図2に示すように、PET装置1は、上述した天板2やPET検出部3の他に、コンソール4を備えている。PET検出部3は、上述したガントリ31やγ線検出器32の他に、増幅器33とAD変換器34と同時計数回路35とを備えている。同時計数回路35は、この発明における同時計数手段に相当する。
【0025】
コンソール4は、検出深さ情報弁別部41と散乱補正部43と画像再構成部44とメモリ部45と入力部46と出力部47とコントローラ48とを備えている。検出深さ情報弁別部41は、この発明における第1同時計数分類手段に相当し、散乱補正部43は、この発明における散乱補正手段に相当する。
【0026】
増幅器33は、γ線検出器32で検出されて出力された電気信号を増幅させる。AD変換器34は、増幅器33で増幅された電気信号のアナログ値をディジタル値に変換してディジタル出力する。
【0027】
同時計数回路34は、γ線がγ線検出器32で同時に検出(すなわち同時計数)されたか否かを判定する。同時計数回路51で同時計数された同時計数データ(エミッションデータ)をコンソール4の検出深さ情報弁別部41に送り込む。
【0028】
検出深さ情報弁別部41は、同時計数データ(本実施例1ではサイノグラムのコロナル断面)を検出深さ情報に基づいて各データ(本明細書では「Depthデータ」、「Allデータ」と呼ぶことにする、図4、図5〜図7の「Depth」、「All」を参照)を弁別して分類する。ここで、検出深さ情報とは、γ線検出器32へのγ線が入射する検出深さ(図3中のrを参照)を示す情報であり、後述する実施例2も含めて、本実施例1では、γ線検出器32のシンチレータブロック32a(図3を参照)の層毎の情報である。
【0029】
散乱補正部43は、検出深さ情報弁別部41で分類されたγ線検出器32の検出層が深いγ線同士の同時計数データ(ここではサイノグラムのコロナル断面)に基づいて、同時計数データの散乱補正を行う。散乱補正部43は、散乱補正後の同時計数データを画像再構成部44に送り込む。画像再構成部44は、散乱補正後の同時計数データを再構成して断層画像を生成する。
【0030】
メモリ部45は、コントローラ48を介して、PET検出部3で得られた各々のデータや検出深さ情報弁別部41で分類されたデータや散乱補正部43で散乱補正が行われたデータや画像再構成部44で再構成された断層画像などのデータを書き込んで記憶し、適宜必要に応じて読み出して、コントローラ48を介して、各々のデータを出力部47に送り込んで出力する。メモリ部45は、ROM(Read-only Memory)やRAM(Random-Access Memory)などに代表される記憶媒体で構成されている。
【0031】
後述する実施例2も含めて、本実施例1では、メモリ部45は、散乱補正部43での一連の散乱補正処理において後述するDepthデータを増幅させるための増幅率を予め記憶する増幅率メモリ部を備えている。散乱補正部43で増幅率を用いてDepthデータを増幅させるときには、増幅率メモリ部に記憶された増幅率を読み出して行う。
【0032】
入力部46は、オペレータが入力したデータや命令をコントローラ48に送り込む。入力部46は、マウスやキーボードやジョイスティックやトラックボールやタッチパネルなどに代表されるポインティングデバイスで構成されている。出力部47は、モニタなどに代表される表示部やプリンタなどで構成されている。
【0033】
コントローラ48は、後述する実施例2も含めて、本実施例1に係るPET装置1を構成する各部分を統括制御する。コントローラ48は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されている。PET検出部3で得られた各々のデータや検出深さ情報弁別部41で分類されたデータや散乱補正部43で散乱補正が行われたデータや画像再構成部44で再構成された断層画像などのデータを、コントローラ48を介して、メモリ部45に書き込んで記憶、あるいは出力部47に送り込んで出力する。出力部47が表示部の場合には出力表示し、出力部47がプリンタの場合には出力印刷する。
【0034】
放射性薬剤が投与された被検体Mから発生したγ線をγ線検出器32のうち該当するγ線検出器32のシンチレータブロック32a(図3を参照)が光に変換して、変換されたその光をγ線検出器32の光電子増倍管32c(図3を参照)が光電変換して電気信号に出力する。その電気信号を画像情報(画素値)として同時計数回路35とともに増幅器33に送り込む。
【0035】
具体的には、被検体Mに放射性薬剤を投与すると、ポジトロン放出型のRIのポジトロンが消滅することにより、2本のγ線が発生する。同時計数回路35は、γ線検出器32のシンチレータブロック32a(図3を参照)の位置とγ線の入射タイミングとをチェックし、被検体Mを挟んで互いに対向位置にある2つのシンチレータブロック32aでγ線が同時に入射したとき(すなわち同時計数したとき)のみ、送り込まれた画像情報を適正なデータと判定する。一方のシンチレータブロック32aのみにγ線が入射したときには、同時計数回路35は、ポジトロンの消滅により生じたγ線ではなくノイズとして扱い、そのときに送り込まれた画像情報もノイズと判定してそれを棄却する。
【0036】
同時計数回路35に送り込まれた画像情報を同時計数データ(エミッションデータ)として、検出深さ情報弁別部41に送り込む。検出深さ情報弁別部41は、検出深さ情報に基づいて、同時計数データを、全同時計数データであるAllデータと、所定の深さ(本実施例1では2層目)を有した検出層が深いγ線同士の同時計数データであるDepthデータとに分類して、散乱補正部42に送り込む。散乱補正部42は、検出深さ情報弁別部41で分類されたDepthデータに基づいて、同時計数データの散乱補正を行い、散乱補正後の同時計数データを画像再構成部44に送り込み、送り込まれた散乱補正後の同時計数データを画像再構成部44は再構成して断層画像を生成する。
【0037】
次に、本実施例1に係るγ線検出器32の具体的な構成について、図3を参照して説明する。図3は、γ線検出器の具体的構成の概略図である。
【0038】
γ線検出器32は、深さ方向に減衰時間が互いに異なる検出素子であるシンチレータを複数組み合わせて構成されたシンチレータブロック32aと、シンチレータブロック32aに光学的に結合されたライトガイド32bと、ライトガイド32bに光学的に結合された光電子増倍管32cとを備えて構成されている。シンチレータブロック32a中の各シンチレータは、入射されたγ線によって発光して光に変換することでγ線を検出する。なお、シンチレータブロック32aについては、必ずしも深さ方向(図3ではr)に減衰時間が互いに異なるシンチレータを組み合わせる必要はない。また、深さ方向に2層のシンチレータを組み合わせたが、単層のシンチレータでシンチレータブロック32aを構成してもよい。
【0039】
次に、検出深さ情報弁別部41での弁別・分類および散乱補正部43での散乱補正について、図4〜図7を参照して説明する。図4は、実施例1に係る検出深さ情報弁別部での弁別・分類を模式的に示した図であり、図5〜図7は、実施例1に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【0040】
図3に示すように、γ線検出器32を、γ線が入射する深さ方向(図3ではr)に複数の層(図3、図4では2層)で積層して構成する。入射順から第1層、第2層、…としたときに、図4に示すように、第2層以降でともに検出されたγ線の同時計数データを、検出深さ情報弁別部41は、検出層が深いγ線同士の同時計数データとして弁別して分類する。より好ましくは、最も深い層でともに検出されたγ線の同時計数データを、検出深さ情報弁別部41は、検出層が深いγ線同士の同時計数データとして弁別して分類する。
【0041】
後述する実施例2も含めて、本実施例1では、図3、図4に示すように、γ線検出器32は、深さ方向に2層のシンチレータブロック32a(図3を参照)を組み合わせて構成されており、図4の点線に示すように、第2層でともに検出されたγ線の同時計数データを、検出層が深いγ線同士の同時計数データであるDepthデータに分類する。なお、図4の実線は、少なくとも第1層で検出されたγ線の同時計数データである。図4の点線や図4の実線も含めて、全同時計数データをAllデータとする。
【0042】
本実施例1では、深さ方向に減衰時間が互いに異なるシンチレータを複数組み合わせてγ線検出器32を構成することで深さ方向を弁別したが、これに限定されない。γ線検出器32毎に個別に読み出しが行えるのであれば、各γ線検出器32を深さ方向に組み立ててもよい。また、深さ方向に同じ物質で形成されたシンチレータを複数組み合わせてγ線検出器32を構成してもよい。また、γ線検出器32の反射材の入れ方を工夫することで重心演算された2次元ポジションマップ上の位置で深さ方向を弁別してもよい。
【0043】
図4〜図7に示すように、同時計数データとしてサイノグラムのコロナル断面を例に採って説明する。なお、サイノグラムに限定されないし、コロナル断面以外の断面(例えばアキシャル断面、サジタル断面)であってもよい。
【0044】
後述する実施例2も含めて、本実施例1では、偶発同時計数については既に除去されているものとして以下を説明する。偶発同時計数を除去するためには、時間差をつけて同時計数する遅延同時計数や、検出器ブロックもしくは検出素子ごとに用意されたカウンタで計数されたシングル計数から推定された同時計数を用いて偶発同時計数を除去する補正を行えばよい。偶発同時計数の除去後は、各同時計数データは、真の同時計数、散乱同時計数の2つの成分となるので、全同時計数データAllを、図6に示すように「All(T+S)」とも表し、検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthを、図5に示すように「Depth(T+S)」とも表すことにする。各データ中の括弧内のTは真の同時計数の成分を表し、Sは散乱同時計数の成分(すなわち散乱成分)を表す。
【0045】
散乱補正部43は、検出深さ情報弁別部41で分類されたDepthデータに基づいて、図5のステップS1〜S3、図6のステップS4〜S6の散乱補正を行い、図7に示すように、散乱補正後の同時計数データAll(T)を出力する。
【0046】
先ず、検出深さ情報弁別部41で分類された検出層が深いγ線同士の同時計数データDepth(=Depth(T+S))についてデコンボリューション(deconvolution)法により散乱成分を求めて除去する(図5中のステップS1の「deconvolution」を参照)。具体的には、2次元フーリエ変換、低域通過フィルタ(LPF)および2次元逆フーリエ変換によるデコンボリューションフィルタを適用することで散乱成分Depth(S)を推定する。サイノグラムのコロナル断面に対して2次元フーリエ変換を行うことで空間周波数領域に展開する。散乱成分は低周波領域で現れるので、2次元フーリエ変換後のデータに対して低域通過フィルタ(LPF)を作用させることで、低周波領域である散乱成分のみを通過させる。2次元逆フーリエ変換を行うことで、元のコロナル断面に戻して、元の同時計数データDepth(T+S)の他に、散乱成分Depth(S)を求めて推定する。
【0047】
次に、推定された散乱成分Depth(S)を元の同時計数データDepth(T+S)から減算する(図5中のステップS2の「Depth(T)=Depth(T+S)−Depth(S)」を参照)ことで、散乱成分Depth(S)が除去されたDepth(T)を求める。この散乱成分Depth(S)が除去されたDepth(T)に対して増幅率fを適用して、All(T)と同じ感度に増幅されたf×Depth(T)を作成する(図5中のステップS3の「f*Depth(T)」を参照)。
【0048】
増幅率fについては、放射性薬剤を内部に注入した試験用の円筒形ファントムを用意して、事前に求める。先ず、被検体Mと同様に、円筒形ファントムについて、全同時計数データAll(=All(T+S))のサイノグラムと検出層が深いγ線同士の同時計数データDepth(=Depth(T+S))のサイノグラムとにそれぞれ分類する。増幅率fを変化させながら、All(T+S)−f×Depth(T)で与えられる擬似散乱成分サイノグラムを求める。この擬似散乱成分サイノグラムに高域通過フィルタ(HPF: High Pass Filter)を作用させて、パワースペクトルを最小とする増幅率fを最適な増幅率とする処理を行う。この処理は、散乱成分が低周波成分のみからなり、高周波成分を含まないという先見情報に基づいている。このような処理で求められた増幅率fを、メモリ部45の増幅率メモリ部に予め書き込んで記憶し、散乱補正部43で増幅率を用いてDepth(T)を増幅させるときには、増幅率メモリ部に記憶された増幅率を読み出して行う。
【0049】
All(T)と同じ感度に増幅されたf×Depth(T)を全同時計数データAll(T+S)から減算する(図6中のステップS4の「All(S‘)=All(T+S)−f×Depth(T)」を参照)ことで、All(T)と同じ感度に増幅されたf×Depth(T)が除去されたAll(S‘)を求める。ノイズ除去処理のために、All(S‘)に対して平滑化処理(smoothing)を行って(図6中のステップS5の「smoothing」を参照)、平滑化処理後のAll(S)を求める。
【0050】
そして、All(S)を最終散乱成分として、全同時計数データAll(T+S)から減算する(図6中のステップS6中の「All(T)=All(T+S)−All(S)」を参照)ことで、最終散乱成分としてAll(S)が除去された同時計数データAll(T)、すなわち最終的な散乱補正後の同時計数データAll(T)を、図7に示すように求める。このようにして、散乱成分を含まない真の同時計数データAll(T)が求まる。散乱補正後の同時計数データAll(T)を画像再構成部44に送り込み、送り込まれた散乱補正後の同時計数データを画像再構成部44は再構成して断層画像を生成する。
【0051】
放射性薬剤が投与された被検体Mから発生したγ線がγ線検出器32に入射されたときに、入射エネルギの低い散乱成分は、そのエネルギの低さから浅い検出深さで相互作用を起こしやすい。一方、入射エネルギが高いγ線の方がエネルギの低いγ線よりも透過特性が高いので、検出深さの深い領域で相互作用を起こしやすく、その領域で検出されたデータは高エネルギである確率が高いと予測される。そこで、上述の構成を備えた本実施例1に係るPET装置1によれば、従来のエネルギ情報の代わりに、γ線検出器32へのγ線が入射する検出深さを示す情報である検出深さ情報に基づいて、同時計数回路35で出力された同時計数データを、全同時計数データと、所定の深さを有したγ線検出器32の検出層が深いγ線同士の同時計数データとに検出深さ情報弁別部41は分類する。その検出深さ情報弁別部41で分類された検出層が深いγ線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を散乱補正部43が行うことで、エネルギ情報に準じた検出深さ情報を用いて散乱補正を行うことができる。また、エネルギ情報における光電ピーク位置の変動による影響を回避することができる。
【0052】
本実施例1では、γ線検出器32を、γ線が入射する深さ方向(図3ではr)に複数の層(図3、図4では2層)で積層して構成し、入射順に第1層、第2層、…としたときに、好ましくは、第2層以降でともに検出されたγ線の同時計数データを、検出深さ情報弁別部41は、検出層が深いγ線同士の同時計数データとして弁別して分類する。
【0053】
γ線がγ線検出器32に入射されたときに、入射エネルギの低い散乱成分は、浅い第1層で相互作用を起こしやすく、入射エネルギが高い放射線の方は、第2層以降の深い領域で相互作用を起こしやすい。したがって、第2層以降でともに検出されたγ線の同時計数データを、検出層が深いγ線同士の同時計数データとして分類する。このように分類することで、検出層が深いγ線同士の同時計数データが高エネルギである確率が高くなる。
【0054】
検出層が深いγ線同士の同時計数データが高エネルギである確率をより向上させるためには、より好ましくは、最も深い層でともに検出されたγ線の同時計数データを、検出深さ情報弁別部41は、検出層が深いγ線同士の同時計数データとして弁別して分類する。
【実施例2】
【0055】
次に、図面を参照してこの発明の実施例2を説明する。
図8は、実施例2に係るPET装置のブロック図である。なお、PET装置1の概略については、実施例1の図1と同様の構成である。上述の実施例1と共通する箇所については同じ符号を付して、その箇所の説明については省略する。
【0056】
本実施例2に係るPET装置1では、図8に示すように、コンソール4は、実施例1と同様に検出深さ情報弁別部41と散乱補正部43と画像再構成部44とメモリ部45と入力部46と出力部47とコントローラ48とを備えている他に、エネルギ弁別部42を備えている。エネルギ弁別部42は、この発明における第2同時計数分類手段に相当する。
【0057】
エネルギ弁別部42は、同時計数データ(本実施例2でもサイノグラムのコロナル断面)をγ線のエネルギ情報に基づいて各データ(本実施例2ではUEWデータ、SEWデータ)を弁別して分類する。ここで、全同時計数データをSEWデータ、所定値(図9ではUfrom)よりも高いエネルギウィンドウを有する同時計数データをUEWデータとする。
【0058】
散乱補正部43は、エネルギ弁別部42で分類された高いエネルギウィンドウを有する同時計数データであるUEWデータに基づいて、同時計数データの散乱補正を行う。実施例1と同様に、散乱補正部43は、散乱補正後の同時計数データを画像再構成部44に送り込む。画像再構成部44は、散乱補正後の同時計数データを再構成して断層画像を生成する。
【0059】
本実施例2では、エネルギ弁別部42は、検出深さ情報弁別部41で分類された検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthを、検出層が深いγ線同士の全同時計数データSEWと、検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWとに分類する。そして、散乱補正部43は、エネルギ弁別部42で分類された検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWに基づいて、検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthの散乱補正を行った後に、その散乱補正後の検出層が深いγ線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行う。
【0060】
次に、エネルギ弁別部42での弁別・分類および散乱補正部43での散乱補正について、図9〜図13を参照して説明する。図9(a)は、エネルギに対するγ線の計数値を表したエネルギスペクトルであり、図9(b)は、同時計数の対象となる各γ線のエネルギ分布であり、図10は、実施例2に係る検出深さ情報弁別部・エネルギ弁別部での弁別・分類を模式的に示した図であり、図11〜図13は、実施例2に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【0061】
図9(a)に示すように、横軸をエネルギ、縦軸をγ線の計数値とすると、エネルギに対するγ線の計数値を表したエネルギスペクトルとなる。また、図9(b)に示すように、同時計数の対象となる各γ線のエネルギのうち、横軸を一方のγ線のエネルギ(図9(b)では「Energy of photon 1」で表記)、縦軸を他方のγ線のエネルギ(図9(b)では「Energy of photon 2」で表記)とすると、同時計数の対象となる各γ線のエネルギ分布となる。
【0062】
図9(a)に示すように、511keVのγ線のエネルギをピークとした分布をしている。SfromからStoまでの全体のエネルギウィンドウ(図9ではSEW)と、所定のしきい値(図9ではUfrom)からStoまでのエネルギウィンドウ(図9ではUEW)を設定すると、図9(b)のようになる。下限値となるSfromでは300KeV〜400KeVに設定され、上限値となるStoでは600KeV〜800KeVに設定され、Ufromとなる所定のしきい値としては、ピークの近傍となる500KeV、511KeVあるいは好ましくはピークよりも高いエネルギ600KeV(図9(b)では550KeV)に設定される。所定のしきい値よりも高いエネルギウィンドウとして、ピーク近傍あるいはピークよりも高いエネルギを設定することで、図9(a)のエネルギスペクトルからも明らかなように、γ線の散乱成分がある程度少なくなるエネルギウィンドウを選択することができる。
【0063】
このようなエネルギウィンドウに基づいて、エネルギ弁別部42は、全同時計数データSEWと、高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWとに分類する。上述したように、本実施例2では、図10に示すように、全同時計数データAllを、検出深さ情報弁別部41は、全同時計数データAllと検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthとに分類し、検出深さ情報弁別部41で分類された検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthを、検出層が深いγ線同士の全同時計数データSEWと、検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWとに分類する。
【0064】
本実施例2でも、上述した実施例1と同様に、偶発同時計数については既に除去されているものとして以下を説明する。上述した実施例1と同様に、全同時計数データAllを、「All(T+S)」とも表し、検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthを、「Depth(T+S)」とも表すことにする。さらに、検出層が深いγ線同士の全同時計数データSEWを、「SEW(T+S)」とも表し、検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWを、「UEW(T+S)」とも表すことにする。各データ中の括弧内のTは真の同時計数の成分を表し、Sは散乱同時計数の成分(すなわち散乱成分)を表す。また、本実施例2では、特に断りがない限り、検出層が深いγ線同士の全同時計数データSEWを、「全同時計数データSEW」と略し、検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWを、「高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEW」と略して、以下を説明する。
【0065】
散乱補正部43は、高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWに基づいて、図11のステップT1〜T3、図12のステップT4〜T6の同時計数データDepthの散乱補正を行った後に、その散乱補正後の検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthに基づいて、図13のステップS1〜S6の同時計数データの散乱補正を行い、図13に示すように、散乱補正後の同時計数データAll(T)を出力する。
【0066】
先ず、検出深さ情報弁別部41で分類された同時計数データDepth(=Depth(T+S))を、検出層が深いγ線同士の全同時計数データSEW(=SEW(T+S))とする。さらに、その全同時計数データSEWからエネルギ弁別部42で分類された高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEW(=UEW(T+S))についてデコンボリューション(deconvolution)法により散乱成分を求めて除去する(図11中のステップT1の「deconvolution」を参照)。デコンボリューション法については、実施例1と同様であるので、その説明を省略する。デコンボリューション法によって、元の同時計数データUEW(T+S)の他に、散乱成分UEW(S)を求めて推定する。
【0067】
次に、推定された散乱成分UEW(S)を元の同時計数データUEW(T+S)から減算する(図11中のステップT2の「UEW(T)=UEW(T+S)−UEW(S)」を参照)ことで、散乱成分UEW(S)が除去されたUEW(T)を求める。この散乱成分UEW(S)が除去されたUEW(T)に対して増幅率fを適用して、SEW(T)と同じ感度に増幅されたf×UEW(T)を作成する(図11中のステップT3の「f*UEW(T)」を参照)。
【0068】
SEW(T)と同じ感度に増幅されたf×UEW(T)を全同時計数データSEW(T+S)から減算する(図12中のステップT4の「SEW(S‘)=SEW(T+S)−f×UEW(T)」を参照)ことで、SEW(T)と同じ感度に増幅されたf×UEW(T)が除去されたSEW(S‘)を求める。ノイズ除去処理のために、SEW(S‘)に対して平滑化処理(smoothing)を行って(図12中のステップT5の「smoothing」を参照)、平滑化処理後のSEW(S)を求める。
【0069】
そして、SEW(S)を散乱成分として、全同時計数データSEW(T+S)から減算する(図12中のステップT6中の「SEW(T)=SEW(T+S)−SEW(S)」を参照)ことで、散乱成分としてSEW(S)が除去された同時計数データSEW(T)、すなわち散乱補正後の同時計数データSEW(T)を、図13に示すように求める。本実施例2の図11、図12のフローまでは、実施例1の図5、図6のフローにおけるAllを本実施例2でSEWに置き換えて、Depthを本実施例2でUEWに置き換えた内容となっているのは明らかである。
【0070】
次に、この同時計数データSEW(T)は、検出層が深いγ線同士の同時計数データであるので、検出層が深いγ線同士の同時計数データDepth(=Depth(T+S))として、実施例1と同様の処理(ステップS1〜S6)を行う。ステップS1〜S6は、図5、図6のステップS1〜S6と同様であるので、その説明を省略する。そして、最終的に散乱成分を含まない真の同時計数データAll(T)が求まる。散乱補正後の同時計数データAll(T)を画像再構成部44に送り込み、送り込まれた散乱補正後の同時計数データを画像再構成部44は再構成して断層画像を生成する。
【0071】
このように、本実施例2では、検出深さ情報の他にエネルギ情報も用いて散乱補正を行っている。すなわち、同時計数回路35で出力された同時計数データを、γ線のエネルギ情報に基づいて、全同時計数データと、所定値よりも高いエネルギウィンドウを有する同時計数データとに分類するエネルギ弁別部42を備え、散乱補正部43は、エネルギ弁別部42で分類された高いエネルギウィンドウを有する同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行っている。
【0072】
また、本実施例2のように検出深さ情報の他にエネルギ情報も用いて散乱補正を行う場合には、上述のように分類および散乱補正を行っている。すなわち、エネルギ弁別部42は、検出深さ情報弁別部41で分類された検出層が深いγ線同士の同時計数データを、検出層が深いγ線同士の全同時計数データと、検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データとに分類している。そして、散乱補正部43は、エネルギ弁別部42で分類された検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データに基づいて、検出層が深いγ線同士の同時計数データの散乱補正を行った後に、その散乱補正後の検出層が深いγ線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行っている。
【0073】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0074】
(1)上述した各実施例では、PET装置単体を例に採って説明したが、PET装置とトランスミッション装置とを組み合わせた装置や、PET装置とX線CT装置とを組み合わせた装置や、PET装置とMR装置とを組み合わせた装置などに例示されるように、PET装置と他の装置を組み合わせた組み合わせ型PET装置に適用してもよい。
【0075】
(2)上述した各実施例では、放射線としてγ線を例に採って説明したが、γ線以外(α線やβ線)の放射線を用いた核医学診断に用いることもできる。
【0076】
(3)上述した各実施例では、散乱補正として、デコンボリューション法や増幅率fでの増幅や平滑化処理法を組み合わせたが、これに限定されない。
【符号の説明】
【0077】
1 … PET装置
32 … γ線検出器
35 … 同時計数回路
41 … 検出深さ情報弁別部
42 … エネルギ弁別部
43 … 散乱補正部
M … 被検体
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線に基づいて被検体の核医学用データを求める核医学診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上述した核医学診断装置、すなわちECT(Emission Computed Tomography)装置として、PET(Positron Emission Tomography)装置を例に採って説明する。PET装置は、陽電子(Positron)、すなわちポジトロンの消滅によって発生する複数本のγ線を検出して複数個の検出器でγ線を同時に検出したときのみ被検体の断層画像を再構成するように構成されている。
【0003】
具体的には、陽電子放出核種を含んだ放射性薬剤を被検体内に投与して、投与された被検体内から放出される511KeVの対消滅γ線を多数の検出素子(例えばシンチレータ)群からなる検出器で検出する。そして、2つの検出器で一定時間内にγ線を検出した場合に同時に検出したとして、それを一対の対消滅γ線として計数し、さらに対消滅発生地点を、検出した検出器対の直線上と特定する。このような同時計数情報を蓄積して再構成処理を行って、陽電子放出核種分布画像(すなわち断層画像)を得る。
【0004】
γ線を同時に検出(同時計数)するには同時計数回路に各γ線を入力して、入力されたγ線の時間差が所定のタイムウィンドウ内に収まっているか否かで判断される。実際の同時計数回路では、一般的に4ns〜20ns(ns=10−9s)程度の非常に短いタイムウィンドウ内に検出されたγ線を「同時」とみなしている。したがって、互いに異なる2点で発生したγ線のそれぞれ一方を同時計数する可能性が生じてしまう。これを『偶発同時計数(random coincidence)』という。一方、一対のγ線の一方あるいは双方が被検体内でコンプトン散乱を起こした後に同時計数された場合、これを『散乱同時計数(scatter coincidence)』という。また、本来であれば一対のγ線の双方が同時計数された場合、これを『真の同時計数(true coincidence)』という。
【0005】
核医学診断において画像の定量性を確保するには、上述の散乱同時計数の正確な補正(例えば全同時計数データからの減算処理)が必要である。散乱成分は、実際の放射能分布の周辺に平坦に拡がりをもった形状で検出されるので、測定データ(真の同時計数+散乱同時計数の画像もしくはサイノグラム)に低域通過フィルタ(LPF: Low Pass Filter)を作用させて散乱成分を求める手法(これを「手法1」と呼ぶ)や、散乱を含む画像と吸収体の分布とを考慮して計測時の散乱をシミュレーションする手法(これを「手法2」と呼ぶ)が一般的に用いられている。
【0006】
また、複数のエネルギウィンドウが設定可能な装置においては、そのエネルギ情報に基づいて2つ以上の同時計数データを構築し、微小角散乱成分のみを含む同時計数データ(すなわち散乱線の少ない同時計数データ)と統計精度の高い全同時計数データとを構築して、全同時計数データの散乱補正を行う手法(これを「手法3」と呼ぶ)を実施している。これら3つの手法のうち、エネルギ情報を用いた手法3が、最も高い定量性を維持することができる(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0007】
従来手法として述べた上述の手法3では、所定のしきい値(例えば500KeV、511KeVあるいは600KeV)よりも高いエネルギウィンドウ(UEW: Upper Energy Window)同士で同時計数された同時計数データ(特許文献1の図4、非特許文献のFig.1を参照)について簡易的なデコンボリューション(deconvolution)法で散乱成分(特許文献1の図5の「散乱線」を参照)を推定して、その散乱成分を減算することで真の同時計数のUEWデータを求める。そして、所定の範囲(例えば下限値は300KeV〜400KeV、上限値は600KeV〜800KeV)において全エネルギ(SEW: Standard Energy Window)で同時計数された全同時計数データ(特許文献1の図4、非特許文献のFig.1を参照)から、真の同時計数のUEWデータを増幅させたデータを減算することで、散乱成分のみのSEWデータを推定する。さらに、ノイズ除去のための平滑化処理(smoothing)を、推定されたSEWデータに適用し、散乱成分のみのSEWデータを最終的に求めた後、全同時計数データから最終的に求められた散乱成分のみのSEWデータを減算することで、散乱成分を含まない真の同時計数データを求めることができる。このようにして、同時計数データの散乱補正を行う(特許文献1の図5、非特許文献のFig.2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−218769号公報(第1−8頁、図1,3−5、7)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】水田哲郎、他:島津製3D PETの散乱補正・吸収補正の定量評価
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、UEWを設定するエネルギウィンドウのしきい値(上述したように、例えば500KeV、511KeVあるいは600KeV)を光電ピーク付近に設定するので、検出器出力を示す光電ピークチャンネルが少しでも変動すると、UEWのカウント(計数値)が増減し、画素値の変動を引き起こしてしまう。検出器の出力は、検出器の動作温度や検出素子特性の変化、回路上のバイアスによって変化し得るが、これらを根本的に対策することは困難を要する。
【0011】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、エネルギ情報に準じた情報を用いて散乱補正を行うことができる核医学診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、この発明に係る核医学診断装置は、放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線に基づいて被検体の核医学用データを求める核医学診断装置であって、
前記放射線を検出する放射線検出手段と、
その放射線検出手段で放射線が同時に検出されたか否かを判定して、同時に検出された放射線を同時計数データとして出力する同時計数手段と、
その同時計数手段で出力された同時計数データを、前記放射線検出手段への放射線が入射する検出深さを示す情報である検出深さ情報に基づいて、全同時計数データと、所定の深さを有した前記放射線検出手段の検出層が深い放射線同士の同時計数データとに分類する第1同時計数分類手段と、
その第1同時計数分類手段で分類された前記検出層が深い放射線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行う散乱補正手段と
を備えることを特徴とするものである。
【0013】
[作用・効果]放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線が放射線検出手段に入射されたときに、入射エネルギの低い散乱成分は、そのエネルギの低さから浅い検出深さで相互作用を起こしやすい。一方、入射エネルギが高い放射線の方がエネルギの低い放射線よりも透過特性が高いので、検出深さの深い領域で相互作用を起こしやすく、その領域で検出されたデータは高エネルギである確率が高いと予測される。そこで、この発明に係る核医学診断装置によれば、従来のエネルギ情報の代わりに、放射線検出手段への放射線が入射する検出深さを示す情報である検出深さ情報に基づいて、同時計数手段で出力された同時計数データを、全同時計数データと、所定の深さを有した放射線検出手段の検出層が深い放射線同士の同時計数データとに第1同時計数分類手段は分類する。その第1同時計数分類手段で分類された検出層が深い放射線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を散乱補正手段が行うことで、エネルギ情報に準じた検出深さ情報を用いて散乱補正を行うことができる。また、エネルギ情報における光電ピーク位置の変動による影響を回避することができる。
【0014】
上述した発明において、検出深さ情報の他にエネルギ情報も用いて散乱補正を行ってもよい。すなわち、同時計数手段で出力された同時計数データを、放射線のエネルギ情報に基づいて、全同時計数データと、所定値よりも高いエネルギウィンドウを有する同時計数データとに分類する第2同時計数分類手段を備え、散乱補正手段は、第2同時計数分類手段で分類された高いエネルギウィンドウを有する同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行ってもよい。
【0015】
また、検出深さ情報の他にエネルギ情報も用いて散乱補正を行う場合には、以下のように分類および散乱補正を行うのが好ましい。すなわち、第2同時計数分類手段は、第1同時計数分類手段で分類された検出層が深い放射線同士の同時計数データを、検出層が深い放射線同士の全同時計数データと、検出層が深い放射線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データとに分類し、散乱補正手段は、第2同時計数分類手段で分類された検出層が深い放射線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データに基づいて、検出層が深い放射線同士の同時計数データの散乱補正を行った後に、その散乱補正後の検出層が深い放射線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行うのが好ましい。
【0016】
上述したこれらの発明において、放射線検出手段を、放射線が入射する深さ方向に複数の層で積層して構成し、入射順に第1層、第2層、…としたときに、第2層以降でともに検出された放射線の同時計数データを、第1同時計数分類手段は、検出層が深い放射線同士の同時計数データとして分類するのが好ましい。
【0017】
放射線が放射線検出手段に入射されたときに、入射エネルギの低い散乱成分は、浅い第1層で相互作用を起こしやすく、入射エネルギが高い放射線の方は、第2層以降の深い領域で相互作用を起こしやすい。したがって、第2層以降でともに検出された放射線の同時計数データを、検出層が深い放射線同士の同時計数データとして分類する。このように分類することで、検出層が深い放射線同士の同時計数データが高エネルギである確率が高くなる。
【0018】
検出層が深い放射線同士の同時計数データが高エネルギである確率をより向上させるためには、最も深い層でともに検出された放射線の同時計数データを、第1同時計数分類手段は、検出層が深い放射線同士の同時計数データとして分類するのがより好ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明に係る核医学診断装置によれば、放射線検出手段への放射線が入射する検出深さを示す情報である検出深さ情報に基づいて、同時計数手段で出力された同時計数データを、全同時計数データと、所定の深さを有した放射線検出手段の検出層が深い放射線同士の同時計数データとに第1同時計数分類手段は分類する。その第1同時計数分類手段で分類された検出層が深い放射線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を散乱補正手段が行うことで、エネルギ情報に準じた検出深さ情報を用いて散乱補正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】各実施例に係るPET装置の側面図である。
【図2】実施例1に係るPET装置のブロック図である。
【図3】γ線検出器の具体的構成の概略図である。
【図4】実施例1に係る検出深さ情報弁別部での弁別・分類を模式的に示した図である。
【図5】実施例1に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】実施例1に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】実施例2に係るPET装置のブロック図である。
【図9】(a)はエネルギに対するγ線の計数値を表したエネルギスペクトル、(b)は同時計数の対象となる各γ線のエネルギ分布である。
【図10】実施例2に係る検出深さ情報弁別部・エネルギ弁別部での弁別・分類を模式的に示した図である。
【図11】実施例2に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】実施例2に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】実施例2に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【実施例1】
【0021】
以下、図面を参照してこの発明の実施例1を説明する。
図1は、実施例1に係るPET装置の側面図であり、図2は、実施例1に係るPET装置のブロック図である。後述する実施例2も含めて、本実施例1では、核医学診断装置として、PET (Positron Emission Tomography) 装置を例に採って説明する。
【0022】
後述する実施例2も含めて、図1に示すように、本実施例1に係るPET装置1は、水平姿勢の被検体Mを載置する天板2を備えている。この天板2は、上下に昇降移動、被検体Mの体軸に沿って平行移動するように構成されている。PET装置1は、天板2に載置された被検体Mを診断するPET検出部3を備えている。PET装置1は、この発明における核医学診断装置に相当する。
【0023】
PET検出部3は、開口部31aを有したガントリ31と被検体Mから発生したγ線を検出するγ線検出器32とを備えている。γ線検出器32は、被検体Mの体軸周りを取り囲むようにしてリング状に配置されており、ガントリ31内に埋設されている。γ線検出器32は、シンチレータブロック32aとライトガイド32bと光電子増倍管(PMT)32c(図3を参照)とを備えている。シンチレータブロック32aは、複数個のシンチレータからなる。放射性薬剤が投与された被検体Mから発生したγ線をシンチレータブロック32aが光に変換して、変換されたその光をライトガイド32bが案内して、光電子増倍管32cが光電変換して電気信号に出力する。γ線検出器32は、この発明における放射線検出手段に相当する。γ線検出器32の具体的な構成については、図3で後述する。
【0024】
続いて、PET装置1のブロック図について説明する。図2に示すように、PET装置1は、上述した天板2やPET検出部3の他に、コンソール4を備えている。PET検出部3は、上述したガントリ31やγ線検出器32の他に、増幅器33とAD変換器34と同時計数回路35とを備えている。同時計数回路35は、この発明における同時計数手段に相当する。
【0025】
コンソール4は、検出深さ情報弁別部41と散乱補正部43と画像再構成部44とメモリ部45と入力部46と出力部47とコントローラ48とを備えている。検出深さ情報弁別部41は、この発明における第1同時計数分類手段に相当し、散乱補正部43は、この発明における散乱補正手段に相当する。
【0026】
増幅器33は、γ線検出器32で検出されて出力された電気信号を増幅させる。AD変換器34は、増幅器33で増幅された電気信号のアナログ値をディジタル値に変換してディジタル出力する。
【0027】
同時計数回路34は、γ線がγ線検出器32で同時に検出(すなわち同時計数)されたか否かを判定する。同時計数回路51で同時計数された同時計数データ(エミッションデータ)をコンソール4の検出深さ情報弁別部41に送り込む。
【0028】
検出深さ情報弁別部41は、同時計数データ(本実施例1ではサイノグラムのコロナル断面)を検出深さ情報に基づいて各データ(本明細書では「Depthデータ」、「Allデータ」と呼ぶことにする、図4、図5〜図7の「Depth」、「All」を参照)を弁別して分類する。ここで、検出深さ情報とは、γ線検出器32へのγ線が入射する検出深さ(図3中のrを参照)を示す情報であり、後述する実施例2も含めて、本実施例1では、γ線検出器32のシンチレータブロック32a(図3を参照)の層毎の情報である。
【0029】
散乱補正部43は、検出深さ情報弁別部41で分類されたγ線検出器32の検出層が深いγ線同士の同時計数データ(ここではサイノグラムのコロナル断面)に基づいて、同時計数データの散乱補正を行う。散乱補正部43は、散乱補正後の同時計数データを画像再構成部44に送り込む。画像再構成部44は、散乱補正後の同時計数データを再構成して断層画像を生成する。
【0030】
メモリ部45は、コントローラ48を介して、PET検出部3で得られた各々のデータや検出深さ情報弁別部41で分類されたデータや散乱補正部43で散乱補正が行われたデータや画像再構成部44で再構成された断層画像などのデータを書き込んで記憶し、適宜必要に応じて読み出して、コントローラ48を介して、各々のデータを出力部47に送り込んで出力する。メモリ部45は、ROM(Read-only Memory)やRAM(Random-Access Memory)などに代表される記憶媒体で構成されている。
【0031】
後述する実施例2も含めて、本実施例1では、メモリ部45は、散乱補正部43での一連の散乱補正処理において後述するDepthデータを増幅させるための増幅率を予め記憶する増幅率メモリ部を備えている。散乱補正部43で増幅率を用いてDepthデータを増幅させるときには、増幅率メモリ部に記憶された増幅率を読み出して行う。
【0032】
入力部46は、オペレータが入力したデータや命令をコントローラ48に送り込む。入力部46は、マウスやキーボードやジョイスティックやトラックボールやタッチパネルなどに代表されるポインティングデバイスで構成されている。出力部47は、モニタなどに代表される表示部やプリンタなどで構成されている。
【0033】
コントローラ48は、後述する実施例2も含めて、本実施例1に係るPET装置1を構成する各部分を統括制御する。コントローラ48は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されている。PET検出部3で得られた各々のデータや検出深さ情報弁別部41で分類されたデータや散乱補正部43で散乱補正が行われたデータや画像再構成部44で再構成された断層画像などのデータを、コントローラ48を介して、メモリ部45に書き込んで記憶、あるいは出力部47に送り込んで出力する。出力部47が表示部の場合には出力表示し、出力部47がプリンタの場合には出力印刷する。
【0034】
放射性薬剤が投与された被検体Mから発生したγ線をγ線検出器32のうち該当するγ線検出器32のシンチレータブロック32a(図3を参照)が光に変換して、変換されたその光をγ線検出器32の光電子増倍管32c(図3を参照)が光電変換して電気信号に出力する。その電気信号を画像情報(画素値)として同時計数回路35とともに増幅器33に送り込む。
【0035】
具体的には、被検体Mに放射性薬剤を投与すると、ポジトロン放出型のRIのポジトロンが消滅することにより、2本のγ線が発生する。同時計数回路35は、γ線検出器32のシンチレータブロック32a(図3を参照)の位置とγ線の入射タイミングとをチェックし、被検体Mを挟んで互いに対向位置にある2つのシンチレータブロック32aでγ線が同時に入射したとき(すなわち同時計数したとき)のみ、送り込まれた画像情報を適正なデータと判定する。一方のシンチレータブロック32aのみにγ線が入射したときには、同時計数回路35は、ポジトロンの消滅により生じたγ線ではなくノイズとして扱い、そのときに送り込まれた画像情報もノイズと判定してそれを棄却する。
【0036】
同時計数回路35に送り込まれた画像情報を同時計数データ(エミッションデータ)として、検出深さ情報弁別部41に送り込む。検出深さ情報弁別部41は、検出深さ情報に基づいて、同時計数データを、全同時計数データであるAllデータと、所定の深さ(本実施例1では2層目)を有した検出層が深いγ線同士の同時計数データであるDepthデータとに分類して、散乱補正部42に送り込む。散乱補正部42は、検出深さ情報弁別部41で分類されたDepthデータに基づいて、同時計数データの散乱補正を行い、散乱補正後の同時計数データを画像再構成部44に送り込み、送り込まれた散乱補正後の同時計数データを画像再構成部44は再構成して断層画像を生成する。
【0037】
次に、本実施例1に係るγ線検出器32の具体的な構成について、図3を参照して説明する。図3は、γ線検出器の具体的構成の概略図である。
【0038】
γ線検出器32は、深さ方向に減衰時間が互いに異なる検出素子であるシンチレータを複数組み合わせて構成されたシンチレータブロック32aと、シンチレータブロック32aに光学的に結合されたライトガイド32bと、ライトガイド32bに光学的に結合された光電子増倍管32cとを備えて構成されている。シンチレータブロック32a中の各シンチレータは、入射されたγ線によって発光して光に変換することでγ線を検出する。なお、シンチレータブロック32aについては、必ずしも深さ方向(図3ではr)に減衰時間が互いに異なるシンチレータを組み合わせる必要はない。また、深さ方向に2層のシンチレータを組み合わせたが、単層のシンチレータでシンチレータブロック32aを構成してもよい。
【0039】
次に、検出深さ情報弁別部41での弁別・分類および散乱補正部43での散乱補正について、図4〜図7を参照して説明する。図4は、実施例1に係る検出深さ情報弁別部での弁別・分類を模式的に示した図であり、図5〜図7は、実施例1に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【0040】
図3に示すように、γ線検出器32を、γ線が入射する深さ方向(図3ではr)に複数の層(図3、図4では2層)で積層して構成する。入射順から第1層、第2層、…としたときに、図4に示すように、第2層以降でともに検出されたγ線の同時計数データを、検出深さ情報弁別部41は、検出層が深いγ線同士の同時計数データとして弁別して分類する。より好ましくは、最も深い層でともに検出されたγ線の同時計数データを、検出深さ情報弁別部41は、検出層が深いγ線同士の同時計数データとして弁別して分類する。
【0041】
後述する実施例2も含めて、本実施例1では、図3、図4に示すように、γ線検出器32は、深さ方向に2層のシンチレータブロック32a(図3を参照)を組み合わせて構成されており、図4の点線に示すように、第2層でともに検出されたγ線の同時計数データを、検出層が深いγ線同士の同時計数データであるDepthデータに分類する。なお、図4の実線は、少なくとも第1層で検出されたγ線の同時計数データである。図4の点線や図4の実線も含めて、全同時計数データをAllデータとする。
【0042】
本実施例1では、深さ方向に減衰時間が互いに異なるシンチレータを複数組み合わせてγ線検出器32を構成することで深さ方向を弁別したが、これに限定されない。γ線検出器32毎に個別に読み出しが行えるのであれば、各γ線検出器32を深さ方向に組み立ててもよい。また、深さ方向に同じ物質で形成されたシンチレータを複数組み合わせてγ線検出器32を構成してもよい。また、γ線検出器32の反射材の入れ方を工夫することで重心演算された2次元ポジションマップ上の位置で深さ方向を弁別してもよい。
【0043】
図4〜図7に示すように、同時計数データとしてサイノグラムのコロナル断面を例に採って説明する。なお、サイノグラムに限定されないし、コロナル断面以外の断面(例えばアキシャル断面、サジタル断面)であってもよい。
【0044】
後述する実施例2も含めて、本実施例1では、偶発同時計数については既に除去されているものとして以下を説明する。偶発同時計数を除去するためには、時間差をつけて同時計数する遅延同時計数や、検出器ブロックもしくは検出素子ごとに用意されたカウンタで計数されたシングル計数から推定された同時計数を用いて偶発同時計数を除去する補正を行えばよい。偶発同時計数の除去後は、各同時計数データは、真の同時計数、散乱同時計数の2つの成分となるので、全同時計数データAllを、図6に示すように「All(T+S)」とも表し、検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthを、図5に示すように「Depth(T+S)」とも表すことにする。各データ中の括弧内のTは真の同時計数の成分を表し、Sは散乱同時計数の成分(すなわち散乱成分)を表す。
【0045】
散乱補正部43は、検出深さ情報弁別部41で分類されたDepthデータに基づいて、図5のステップS1〜S3、図6のステップS4〜S6の散乱補正を行い、図7に示すように、散乱補正後の同時計数データAll(T)を出力する。
【0046】
先ず、検出深さ情報弁別部41で分類された検出層が深いγ線同士の同時計数データDepth(=Depth(T+S))についてデコンボリューション(deconvolution)法により散乱成分を求めて除去する(図5中のステップS1の「deconvolution」を参照)。具体的には、2次元フーリエ変換、低域通過フィルタ(LPF)および2次元逆フーリエ変換によるデコンボリューションフィルタを適用することで散乱成分Depth(S)を推定する。サイノグラムのコロナル断面に対して2次元フーリエ変換を行うことで空間周波数領域に展開する。散乱成分は低周波領域で現れるので、2次元フーリエ変換後のデータに対して低域通過フィルタ(LPF)を作用させることで、低周波領域である散乱成分のみを通過させる。2次元逆フーリエ変換を行うことで、元のコロナル断面に戻して、元の同時計数データDepth(T+S)の他に、散乱成分Depth(S)を求めて推定する。
【0047】
次に、推定された散乱成分Depth(S)を元の同時計数データDepth(T+S)から減算する(図5中のステップS2の「Depth(T)=Depth(T+S)−Depth(S)」を参照)ことで、散乱成分Depth(S)が除去されたDepth(T)を求める。この散乱成分Depth(S)が除去されたDepth(T)に対して増幅率fを適用して、All(T)と同じ感度に増幅されたf×Depth(T)を作成する(図5中のステップS3の「f*Depth(T)」を参照)。
【0048】
増幅率fについては、放射性薬剤を内部に注入した試験用の円筒形ファントムを用意して、事前に求める。先ず、被検体Mと同様に、円筒形ファントムについて、全同時計数データAll(=All(T+S))のサイノグラムと検出層が深いγ線同士の同時計数データDepth(=Depth(T+S))のサイノグラムとにそれぞれ分類する。増幅率fを変化させながら、All(T+S)−f×Depth(T)で与えられる擬似散乱成分サイノグラムを求める。この擬似散乱成分サイノグラムに高域通過フィルタ(HPF: High Pass Filter)を作用させて、パワースペクトルを最小とする増幅率fを最適な増幅率とする処理を行う。この処理は、散乱成分が低周波成分のみからなり、高周波成分を含まないという先見情報に基づいている。このような処理で求められた増幅率fを、メモリ部45の増幅率メモリ部に予め書き込んで記憶し、散乱補正部43で増幅率を用いてDepth(T)を増幅させるときには、増幅率メモリ部に記憶された増幅率を読み出して行う。
【0049】
All(T)と同じ感度に増幅されたf×Depth(T)を全同時計数データAll(T+S)から減算する(図6中のステップS4の「All(S‘)=All(T+S)−f×Depth(T)」を参照)ことで、All(T)と同じ感度に増幅されたf×Depth(T)が除去されたAll(S‘)を求める。ノイズ除去処理のために、All(S‘)に対して平滑化処理(smoothing)を行って(図6中のステップS5の「smoothing」を参照)、平滑化処理後のAll(S)を求める。
【0050】
そして、All(S)を最終散乱成分として、全同時計数データAll(T+S)から減算する(図6中のステップS6中の「All(T)=All(T+S)−All(S)」を参照)ことで、最終散乱成分としてAll(S)が除去された同時計数データAll(T)、すなわち最終的な散乱補正後の同時計数データAll(T)を、図7に示すように求める。このようにして、散乱成分を含まない真の同時計数データAll(T)が求まる。散乱補正後の同時計数データAll(T)を画像再構成部44に送り込み、送り込まれた散乱補正後の同時計数データを画像再構成部44は再構成して断層画像を生成する。
【0051】
放射性薬剤が投与された被検体Mから発生したγ線がγ線検出器32に入射されたときに、入射エネルギの低い散乱成分は、そのエネルギの低さから浅い検出深さで相互作用を起こしやすい。一方、入射エネルギが高いγ線の方がエネルギの低いγ線よりも透過特性が高いので、検出深さの深い領域で相互作用を起こしやすく、その領域で検出されたデータは高エネルギである確率が高いと予測される。そこで、上述の構成を備えた本実施例1に係るPET装置1によれば、従来のエネルギ情報の代わりに、γ線検出器32へのγ線が入射する検出深さを示す情報である検出深さ情報に基づいて、同時計数回路35で出力された同時計数データを、全同時計数データと、所定の深さを有したγ線検出器32の検出層が深いγ線同士の同時計数データとに検出深さ情報弁別部41は分類する。その検出深さ情報弁別部41で分類された検出層が深いγ線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を散乱補正部43が行うことで、エネルギ情報に準じた検出深さ情報を用いて散乱補正を行うことができる。また、エネルギ情報における光電ピーク位置の変動による影響を回避することができる。
【0052】
本実施例1では、γ線検出器32を、γ線が入射する深さ方向(図3ではr)に複数の層(図3、図4では2層)で積層して構成し、入射順に第1層、第2層、…としたときに、好ましくは、第2層以降でともに検出されたγ線の同時計数データを、検出深さ情報弁別部41は、検出層が深いγ線同士の同時計数データとして弁別して分類する。
【0053】
γ線がγ線検出器32に入射されたときに、入射エネルギの低い散乱成分は、浅い第1層で相互作用を起こしやすく、入射エネルギが高い放射線の方は、第2層以降の深い領域で相互作用を起こしやすい。したがって、第2層以降でともに検出されたγ線の同時計数データを、検出層が深いγ線同士の同時計数データとして分類する。このように分類することで、検出層が深いγ線同士の同時計数データが高エネルギである確率が高くなる。
【0054】
検出層が深いγ線同士の同時計数データが高エネルギである確率をより向上させるためには、より好ましくは、最も深い層でともに検出されたγ線の同時計数データを、検出深さ情報弁別部41は、検出層が深いγ線同士の同時計数データとして弁別して分類する。
【実施例2】
【0055】
次に、図面を参照してこの発明の実施例2を説明する。
図8は、実施例2に係るPET装置のブロック図である。なお、PET装置1の概略については、実施例1の図1と同様の構成である。上述の実施例1と共通する箇所については同じ符号を付して、その箇所の説明については省略する。
【0056】
本実施例2に係るPET装置1では、図8に示すように、コンソール4は、実施例1と同様に検出深さ情報弁別部41と散乱補正部43と画像再構成部44とメモリ部45と入力部46と出力部47とコントローラ48とを備えている他に、エネルギ弁別部42を備えている。エネルギ弁別部42は、この発明における第2同時計数分類手段に相当する。
【0057】
エネルギ弁別部42は、同時計数データ(本実施例2でもサイノグラムのコロナル断面)をγ線のエネルギ情報に基づいて各データ(本実施例2ではUEWデータ、SEWデータ)を弁別して分類する。ここで、全同時計数データをSEWデータ、所定値(図9ではUfrom)よりも高いエネルギウィンドウを有する同時計数データをUEWデータとする。
【0058】
散乱補正部43は、エネルギ弁別部42で分類された高いエネルギウィンドウを有する同時計数データであるUEWデータに基づいて、同時計数データの散乱補正を行う。実施例1と同様に、散乱補正部43は、散乱補正後の同時計数データを画像再構成部44に送り込む。画像再構成部44は、散乱補正後の同時計数データを再構成して断層画像を生成する。
【0059】
本実施例2では、エネルギ弁別部42は、検出深さ情報弁別部41で分類された検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthを、検出層が深いγ線同士の全同時計数データSEWと、検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWとに分類する。そして、散乱補正部43は、エネルギ弁別部42で分類された検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWに基づいて、検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthの散乱補正を行った後に、その散乱補正後の検出層が深いγ線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行う。
【0060】
次に、エネルギ弁別部42での弁別・分類および散乱補正部43での散乱補正について、図9〜図13を参照して説明する。図9(a)は、エネルギに対するγ線の計数値を表したエネルギスペクトルであり、図9(b)は、同時計数の対象となる各γ線のエネルギ分布であり、図10は、実施例2に係る検出深さ情報弁別部・エネルギ弁別部での弁別・分類を模式的に示した図であり、図11〜図13は、実施例2に係る散乱補正部での散乱補正に関する処理の流れを示すフローチャートである。
【0061】
図9(a)に示すように、横軸をエネルギ、縦軸をγ線の計数値とすると、エネルギに対するγ線の計数値を表したエネルギスペクトルとなる。また、図9(b)に示すように、同時計数の対象となる各γ線のエネルギのうち、横軸を一方のγ線のエネルギ(図9(b)では「Energy of photon 1」で表記)、縦軸を他方のγ線のエネルギ(図9(b)では「Energy of photon 2」で表記)とすると、同時計数の対象となる各γ線のエネルギ分布となる。
【0062】
図9(a)に示すように、511keVのγ線のエネルギをピークとした分布をしている。SfromからStoまでの全体のエネルギウィンドウ(図9ではSEW)と、所定のしきい値(図9ではUfrom)からStoまでのエネルギウィンドウ(図9ではUEW)を設定すると、図9(b)のようになる。下限値となるSfromでは300KeV〜400KeVに設定され、上限値となるStoでは600KeV〜800KeVに設定され、Ufromとなる所定のしきい値としては、ピークの近傍となる500KeV、511KeVあるいは好ましくはピークよりも高いエネルギ600KeV(図9(b)では550KeV)に設定される。所定のしきい値よりも高いエネルギウィンドウとして、ピーク近傍あるいはピークよりも高いエネルギを設定することで、図9(a)のエネルギスペクトルからも明らかなように、γ線の散乱成分がある程度少なくなるエネルギウィンドウを選択することができる。
【0063】
このようなエネルギウィンドウに基づいて、エネルギ弁別部42は、全同時計数データSEWと、高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWとに分類する。上述したように、本実施例2では、図10に示すように、全同時計数データAllを、検出深さ情報弁別部41は、全同時計数データAllと検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthとに分類し、検出深さ情報弁別部41で分類された検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthを、検出層が深いγ線同士の全同時計数データSEWと、検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWとに分類する。
【0064】
本実施例2でも、上述した実施例1と同様に、偶発同時計数については既に除去されているものとして以下を説明する。上述した実施例1と同様に、全同時計数データAllを、「All(T+S)」とも表し、検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthを、「Depth(T+S)」とも表すことにする。さらに、検出層が深いγ線同士の全同時計数データSEWを、「SEW(T+S)」とも表し、検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWを、「UEW(T+S)」とも表すことにする。各データ中の括弧内のTは真の同時計数の成分を表し、Sは散乱同時計数の成分(すなわち散乱成分)を表す。また、本実施例2では、特に断りがない限り、検出層が深いγ線同士の全同時計数データSEWを、「全同時計数データSEW」と略し、検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWを、「高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEW」と略して、以下を説明する。
【0065】
散乱補正部43は、高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEWに基づいて、図11のステップT1〜T3、図12のステップT4〜T6の同時計数データDepthの散乱補正を行った後に、その散乱補正後の検出層が深いγ線同士の同時計数データDepthに基づいて、図13のステップS1〜S6の同時計数データの散乱補正を行い、図13に示すように、散乱補正後の同時計数データAll(T)を出力する。
【0066】
先ず、検出深さ情報弁別部41で分類された同時計数データDepth(=Depth(T+S))を、検出層が深いγ線同士の全同時計数データSEW(=SEW(T+S))とする。さらに、その全同時計数データSEWからエネルギ弁別部42で分類された高いエネルギウィンドウを有する同時計数データUEW(=UEW(T+S))についてデコンボリューション(deconvolution)法により散乱成分を求めて除去する(図11中のステップT1の「deconvolution」を参照)。デコンボリューション法については、実施例1と同様であるので、その説明を省略する。デコンボリューション法によって、元の同時計数データUEW(T+S)の他に、散乱成分UEW(S)を求めて推定する。
【0067】
次に、推定された散乱成分UEW(S)を元の同時計数データUEW(T+S)から減算する(図11中のステップT2の「UEW(T)=UEW(T+S)−UEW(S)」を参照)ことで、散乱成分UEW(S)が除去されたUEW(T)を求める。この散乱成分UEW(S)が除去されたUEW(T)に対して増幅率fを適用して、SEW(T)と同じ感度に増幅されたf×UEW(T)を作成する(図11中のステップT3の「f*UEW(T)」を参照)。
【0068】
SEW(T)と同じ感度に増幅されたf×UEW(T)を全同時計数データSEW(T+S)から減算する(図12中のステップT4の「SEW(S‘)=SEW(T+S)−f×UEW(T)」を参照)ことで、SEW(T)と同じ感度に増幅されたf×UEW(T)が除去されたSEW(S‘)を求める。ノイズ除去処理のために、SEW(S‘)に対して平滑化処理(smoothing)を行って(図12中のステップT5の「smoothing」を参照)、平滑化処理後のSEW(S)を求める。
【0069】
そして、SEW(S)を散乱成分として、全同時計数データSEW(T+S)から減算する(図12中のステップT6中の「SEW(T)=SEW(T+S)−SEW(S)」を参照)ことで、散乱成分としてSEW(S)が除去された同時計数データSEW(T)、すなわち散乱補正後の同時計数データSEW(T)を、図13に示すように求める。本実施例2の図11、図12のフローまでは、実施例1の図5、図6のフローにおけるAllを本実施例2でSEWに置き換えて、Depthを本実施例2でUEWに置き換えた内容となっているのは明らかである。
【0070】
次に、この同時計数データSEW(T)は、検出層が深いγ線同士の同時計数データであるので、検出層が深いγ線同士の同時計数データDepth(=Depth(T+S))として、実施例1と同様の処理(ステップS1〜S6)を行う。ステップS1〜S6は、図5、図6のステップS1〜S6と同様であるので、その説明を省略する。そして、最終的に散乱成分を含まない真の同時計数データAll(T)が求まる。散乱補正後の同時計数データAll(T)を画像再構成部44に送り込み、送り込まれた散乱補正後の同時計数データを画像再構成部44は再構成して断層画像を生成する。
【0071】
このように、本実施例2では、検出深さ情報の他にエネルギ情報も用いて散乱補正を行っている。すなわち、同時計数回路35で出力された同時計数データを、γ線のエネルギ情報に基づいて、全同時計数データと、所定値よりも高いエネルギウィンドウを有する同時計数データとに分類するエネルギ弁別部42を備え、散乱補正部43は、エネルギ弁別部42で分類された高いエネルギウィンドウを有する同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行っている。
【0072】
また、本実施例2のように検出深さ情報の他にエネルギ情報も用いて散乱補正を行う場合には、上述のように分類および散乱補正を行っている。すなわち、エネルギ弁別部42は、検出深さ情報弁別部41で分類された検出層が深いγ線同士の同時計数データを、検出層が深いγ線同士の全同時計数データと、検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データとに分類している。そして、散乱補正部43は、エネルギ弁別部42で分類された検出層が深いγ線同士で、かつ高いエネルギウィンドウを有する同時計数データに基づいて、検出層が深いγ線同士の同時計数データの散乱補正を行った後に、その散乱補正後の検出層が深いγ線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行っている。
【0073】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0074】
(1)上述した各実施例では、PET装置単体を例に採って説明したが、PET装置とトランスミッション装置とを組み合わせた装置や、PET装置とX線CT装置とを組み合わせた装置や、PET装置とMR装置とを組み合わせた装置などに例示されるように、PET装置と他の装置を組み合わせた組み合わせ型PET装置に適用してもよい。
【0075】
(2)上述した各実施例では、放射線としてγ線を例に採って説明したが、γ線以外(α線やβ線)の放射線を用いた核医学診断に用いることもできる。
【0076】
(3)上述した各実施例では、散乱補正として、デコンボリューション法や増幅率fでの増幅や平滑化処理法を組み合わせたが、これに限定されない。
【符号の説明】
【0077】
1 … PET装置
32 … γ線検出器
35 … 同時計数回路
41 … 検出深さ情報弁別部
42 … エネルギ弁別部
43 … 散乱補正部
M … 被検体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線に基づいて被検体の核医学用データを求める核医学診断装置であって、
前記放射線を検出する放射線検出手段と、
その放射線検出手段で放射線が同時に検出されたか否かを判定して、同時に検出された放射線を同時計数データとして出力する同時計数手段と、
その同時計数手段で出力された同時計数データを、前記放射線検出手段への放射線が入射する検出深さを示す情報である検出深さ情報に基づいて、全同時計数データと、所定の深さを有した前記放射線検出手段の検出層が深い放射線同士の同時計数データとに分類する第1同時計数分類手段と、
その第1同時計数分類手段で分類された前記検出層が深い放射線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行う散乱補正手段と
を備えることを特徴とする核医学診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の核医学診断装置において、
前記同時計数手段で出力された前記同時計数データを、前記放射線のエネルギ情報に基づいて、全同時計数データと、所定値よりも高いエネルギウィンドウを有する同時計数データとに分類する第2同時計数分類手段を備え、
前記散乱補正手段は、前記第2同時計数分類手段で分類された前記高いエネルギウィンドウを有する同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行うことを特徴とする核医学診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の核医学診断装置において、
前記第2同時計数分類手段は、前記第1同時計数分類手段で分類された前記検出層が深い放射線同士の同時計数データを、検出層が深い放射線同士の全同時計数データと、検出層が深い放射線同士で、かつ前記高いエネルギウィンドウを有する同時計数データとに分類し、
前記散乱補正手段は、前記第2同時計数分類手段で分類された前記検出層が深い放射線同士で、かつ前記高いエネルギウィンドウを有する同時計数データに基づいて、前記検出層が深い放射線同士の同時計数データの散乱補正を行った後に、その散乱補正後の前記検出層が深い放射線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行うことを特徴とする核医学診断装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の核医学診断装置において、
前記放射線検出手段を、前記放射線が入射する深さ方向に複数の層で積層して構成し、
入射順に第1層、第2層、…としたときに、第2層以降でともに検出された放射線の同時計数データを、前記第1同時計数分類手段は、前記検出層が深い放射線同士の同時計数データとして分類することを特徴とする核医学診断装置。
【請求項5】
請求項4に記載の核医学診断装置において、
最も深い層でともに検出された放射線の同時計数データを、前記第1同時計数分類手段は、前記検出層が深い放射線同士の同時計数データとして分類することを特徴とする核医学診断装置。
【請求項1】
放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線に基づいて被検体の核医学用データを求める核医学診断装置であって、
前記放射線を検出する放射線検出手段と、
その放射線検出手段で放射線が同時に検出されたか否かを判定して、同時に検出された放射線を同時計数データとして出力する同時計数手段と、
その同時計数手段で出力された同時計数データを、前記放射線検出手段への放射線が入射する検出深さを示す情報である検出深さ情報に基づいて、全同時計数データと、所定の深さを有した前記放射線検出手段の検出層が深い放射線同士の同時計数データとに分類する第1同時計数分類手段と、
その第1同時計数分類手段で分類された前記検出層が深い放射線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行う散乱補正手段と
を備えることを特徴とする核医学診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の核医学診断装置において、
前記同時計数手段で出力された前記同時計数データを、前記放射線のエネルギ情報に基づいて、全同時計数データと、所定値よりも高いエネルギウィンドウを有する同時計数データとに分類する第2同時計数分類手段を備え、
前記散乱補正手段は、前記第2同時計数分類手段で分類された前記高いエネルギウィンドウを有する同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行うことを特徴とする核医学診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の核医学診断装置において、
前記第2同時計数分類手段は、前記第1同時計数分類手段で分類された前記検出層が深い放射線同士の同時計数データを、検出層が深い放射線同士の全同時計数データと、検出層が深い放射線同士で、かつ前記高いエネルギウィンドウを有する同時計数データとに分類し、
前記散乱補正手段は、前記第2同時計数分類手段で分類された前記検出層が深い放射線同士で、かつ前記高いエネルギウィンドウを有する同時計数データに基づいて、前記検出層が深い放射線同士の同時計数データの散乱補正を行った後に、その散乱補正後の前記検出層が深い放射線同士の同時計数データに基づいて、同時計数データの散乱補正を行うことを特徴とする核医学診断装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の核医学診断装置において、
前記放射線検出手段を、前記放射線が入射する深さ方向に複数の層で積層して構成し、
入射順に第1層、第2層、…としたときに、第2層以降でともに検出された放射線の同時計数データを、前記第1同時計数分類手段は、前記検出層が深い放射線同士の同時計数データとして分類することを特徴とする核医学診断装置。
【請求項5】
請求項4に記載の核医学診断装置において、
最も深い層でともに検出された放射線の同時計数データを、前記第1同時計数分類手段は、前記検出層が深い放射線同士の同時計数データとして分類することを特徴とする核医学診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−153975(P2011−153975A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16668(P2010−16668)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
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