説明

核磁気共鳴イメージング装置及び核磁気共鳴イメージング方法

【課題】光磁力計のバイアス磁場と試料に印加する静磁場とを共通のものとして使う際に、光磁力計の感度がゼロとなる領域を避け、強い磁気共鳴によるイメージングが可能となる核磁気共鳴イメージング装置等を提供する。
【解決手段】核磁気共鳴イメージングを行う核磁気共鳴イメージング装置であって、
核磁気共鳴信号を検出するセンサがアルカリ金属セルによって構成されたスカラ磁力計を有し、
スカラ磁力計を動作させるバイアス磁場と、静磁場印加手段における試料に印加する静磁場とに、共通の磁場が使用可能に構成され、
静磁場印加手段によって試料に静磁場を印加する方向をz方向とするとき、
スカラ磁力計のアルカリ金属セルの位置が、イメージングする領域とz方向において重ならず、且つ、z方向と垂直な面内方向において交差しない位置に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴イメージング装置及び核磁気共鳴イメージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属ガスの電子スピンを利用した高感度の光磁力計が提案されている。
この光磁力計を用いて磁気共鳴の計測(磁気イメージング)を行う際に、この磁力計を動作させるためのバイアス磁場と試料に印加する静磁場との関係には一定の制約がある。
アルカリ金属やプロトンのラーモア周波数ω0は、磁場の大きさ|B|に比例して、ω0=γA|B|となるためである。
比例定数のγAが磁気回転比と呼ばれる量である。
アルカリ金属の電子スピンに起因する磁気回転比に対して、プロトンの核スピンの磁気回転比は小さく、例えばプロトンの磁気回転比はカリウムの磁気回転比の1/167ほどとなっている。
【0003】
そこで、このような性質を有するアルカリ金属の光磁力計を用いた核磁気共鳴イメージングにおいて、アルカリ金属のラーモア周波数とプロトンのラーモア周波数を一致させるという方法がある。
例えば、非特許文献1においては、アルカリ金属に印加するバイアス磁場を調整するヘルムホルツコイルと試料を囲むソレノイドコイルとの組み合わせが開示されている。
この組合わせによって、バイアス磁場と試料に印加する静磁場とを独立に調整し、プロトンのラーモア周波数がカリウムのラーモア周波数と一致するようにして、磁気共鳴信号を取得するようにされている。
【0004】
また、光磁力計のバイアス磁場と試料に印加する静磁場とを同じ均一磁場にする方法も知られている。
このような方法として、例えば非特許文献2では、試料内の磁気ダイポールのうちバイアス磁場に垂直な方向を向いた振動成分に着目し、この成分が発生する磁場がバイアス磁場と平行な方向を向く位置にセルのアクティブボリュームを配する手法が開示されている。
このような非特許文献2の方法では、静磁場中のプロトンの核磁気共鳴から発する自由誘導減衰(Free Induction Deacy)の磁場がカリウムのバイアス磁場に重畳して、そのラーモア周波数に周波数変調が加えられる。そして、この周波数変調された信号を復調することで、自由誘導減衰の信号を取り出す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】I.Savukov,S.Seltzer,and M.Romalis,Detection of NMR signals with a radio−frequency atomic magnetometer,Journal of Magnetic Resonance,185,214(2007).
【非特許文献2】G.Bevilacqua,V.Biancalana, Y.Dancheva,L.Moi,Journal of Magnetic Resonance,201,222(2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光磁力計を用いた核磁気共鳴イメージングに際し、非特許文献2のように磁力計のバイアス磁場と試料に印加する静磁場とを同じ均一磁場にする方法によれば、非特許文献1のように複雑な磁場の調整を回避することができる。
すなわち、非特許文献1のように、アルカリ金属のラーモア周波数とプロトンのラーモア周波数を一致させるため、バイアス磁場と試料に印加する静磁場とを独立に調整する等、複雑な磁場の調整が必要となる。
これに対して、非特許文献2ではこのような複雑な磁場の調整を必要とすることなく、光磁力計のバイアス磁場と試料に印加する静磁場とに、共通の磁場を使うことができる。
しかしながら、このように光磁力計のバイアス磁場と試料に印加する静磁場とを共通のものとして使う際に、光磁力計の感度がゼロとなる領域を避け、強い磁気共鳴によるイメージングに必要な条件等については、これまで明らかにされていない。
【0007】
そこで、本発明は、光磁力計のバイアス磁場と試料に印加する静磁場とを共通のものとして使う際に、
光磁力計の感度がゼロとなる領域を避け、強い磁気共鳴によるイメージングが可能となる核磁気共鳴イメージング装置及び核磁気共鳴イメージング方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の核磁気共鳴イメージング装置は、イメージングする領域に配置された試料に静磁場を印加する静磁場印加手段と、RFパルスを印加するRFパルス印加手段と、勾配磁場を印加する勾配磁場印加手段と、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴信号手段と、
を備え、核磁気共鳴イメージングを行う核磁気共鳴イメージング装置であって、
前記核磁気共鳴信号手段として、前記核磁気共鳴信号を検出するセンサがアルカリ金属セルによって構成されたスカラ磁力計を有し、
前記スカラ磁力計を動作させるバイアス磁場と、前記静磁場印加手段における試料に印加する静磁場とに、共通の磁場が使用可能に構成され、
前記静磁場印加手段によって前記試料に静磁場を印加する方向をz方向とするとき、
前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルの位置が、前記イメージングする領域と前記z方向において重ならず、且つ、前記z方向と垂直な面内方向において交差しない位置に配置されていることを特徴とする。
また、本発明の核磁気共鳴イメージング方法は、イメージングする領域に配置された試料に静磁場を印加する静磁場印加手段と、RFパルスを印加するRFパルス印加手段と、勾配磁場を印加する勾配磁場印加手段と、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴信号手段と、
を用いて、核磁気共鳴イメージングを行う核磁気共鳴イメージング方法であって、
前記核磁気共鳴信号手段として、前記核磁気共鳴信号を検出するセンサがアルカリ金属セルによって構成されたスカラ磁力計を有し、
前記スカラ磁力計を動作させるバイアス磁場を、前記静磁場印加手段における試料に印加する静磁場と共通の磁場として作用させる際において、
前記静磁場印加手段によって前記試料に静磁場を印加する方向をz方向とするとき、
前記イメージングする領域と前記z方向において重ならず、且つ、前記z方向と垂直な面内方向において交差しない位置に、前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルを配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光磁力計のバイアス磁場と試料に印加する静磁場とを共通のものとして使う際、光磁力計の感度がゼロとなる領域を避け、強い磁気共鳴によるイメージングが可能となる核磁気共鳴イメージング装置及び核磁気共鳴イメージング方法が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態における原点に配置したスカラ磁力計の感度分布を示す図。
【図2】本発明の実施形態におけるスカラ磁力計で磁気共鳴計測を行うときの不感領域を示す図。
【図3】本発明の実施形態における核磁気共鳴イメージングを行う際のアルカリ金属セルの配置例を示す図であり、(a)はアルカリ金属セルの配置の平面図、(b)はその側面図。
【図4】本発明の実施例1における核磁気共鳴イメージング装置の構成例を説明する図。
【図5】本発明の実施例1におけるモジュールを外部の光源、フォトディテクタ、制御システムと接続して、スカラタイプの光磁力計として動作させるように構成した光磁力計システムのブロック図。
【図6】本発明の実施例1で用いるスカラ磁力計モジュールの1例を示す図。
【図7】本発明の実施例1における試料からの磁気共鳴信号を計測してイメージングを行う際に用いるスピンエコーのパルスシーケンスを示す図。
【図8】本発明の実施例2における核磁気共鳴イメージングを行うためのアルカリ金属セルの配置例を示す図であり、(a)はアルカリ金属セルの配置の平面図、(b)はその側面図。
【図9】本発明の実施例3における核磁気共鳴イメージングを行うためのアルカリ金属セルの配置例を示す図であり、(a)はアルカリ金属セルの配置の平面図、(b)はその側面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、前記スカラ磁力計を動作させるバイアス磁場を、前記静磁場印加手段における試料に印加する静磁場と共通の磁場として作用させる際、光磁力計の感度がゼロとなる領域を避け、強い磁気共鳴によるイメージングが可能となる核磁気共鳴イメージングにおける原理を見出したものである。
以下に、このような光磁力計の感度がゼロとなる領域について説明するため、本実施形態では、まず、光磁力計としてスカラ磁力計を用いた構成例について説明する。
スカラ磁力計は、核磁気共鳴イメージングを行う核磁気共鳴イメージング装置において、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴信号手段として用いられる。
すなわち、本実施形態の核磁気共鳴イメージング装置は、
イメージングする領域に配置された試料に静磁場を印加する静磁場印加手段と、RFパルスを印加するRFパルス印加手段と、勾配磁場を印加する勾配磁場印加手段と、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴信号手段と、を備える。
スカラ磁力計は、このような核磁気共鳴イメージング装置において核磁気共鳴信号手段を構成している。
このようなスカラ磁力計は、磁場の大きさ|B|に応じた出力を生じる磁力計であり、アルカリ金属のラーモア周波数ω0が、ω0=γA|B|となることを測定の原理に用いるものである。
【0012】
ここで、静磁場の大きさをBdc、試料からのFID信号の大きさをBac、アルカリ金属セルを配した測定点で静磁場とFID信号の磁場のなす角度をθとしたときに、静磁場BdcがFID信号の磁場Bacよりも十分大きいという条件の下では、次式となる。

【0013】
この式から、非特許文献2には記載されていない以下の事柄を新たに見出した。すなわち、試料からのFID信号Bacの静磁場方向成分が大きくなる場所にセンサを配置したときに、磁気共鳴信号が強く得られるのである。
ここで、静磁場Bdc中でのFID信号は、角周波数ωH=γBdcで振動する成分Bacと、緩和時間T2で横緩和する成分とからなる。
ここでは、緩和時間よりも短い時間スケールでの共鳴について注目する。
【0014】
静磁場Bdc中に置かれた磁化mは、静磁場に平行な成分m//、および静磁場に垂直で角周波数ωH=γBdcで振動する成分m⊥との重ね合わせと考えることができる。
ベクトルである磁化m⊥が静磁場となす角度をφとすると、m//=|m|cosφとなりまたm⊥の大きさは、|m⊥|=|m|sinφとなる。
核磁気共鳴イメージングにおける信号の観察においては、ベクトルm⊥によって生じてその回転に伴って角周波数ωHで振動する磁場を観測することになる。
ちなみに、sinφの項は比例係数で、緩和時間T2で緩和していく。
そこで、センサを配置する位置を考える上では、試料位置で磁場に垂直な磁化 m⊥が作るFID信号の磁場分布を考える。
その磁場の静磁場方向の成分が大きくなる配置を考えれば、スカラ磁力計で大きな信号が得られることがわかる。
原点に配置した磁化m⊥が位置dに作る磁場B(d)は、ベクトルd方向の単位ベクトルをnとして、次式で表される。

【0015】
B(d)のうち静磁場方向の成分B//(d)について計算して等強度線の図を描くと、図1のような図が得られる。
この図は、zを静磁場の方向として、原点に軸方向に向けて置いた磁化m⊥=(1,0,0)の作る磁場のz成分についての計算結果を示している。
【0016】
ここまで計算してきた内容をもとに、核磁気共鳴イメージングを行うときのセンサの感度分布を考えることができる。そのためには、図1の磁場強度の分布から、センサ感度の分布として読み換えればよい。
図1は、原点においた磁化m⊥が、位置ベクトルdの場所に作る磁場(のz成分)を考えたものである。
これは、センサを中心に考えると、センサからベクトル−d離れた位置に磁化m⊥を配置した時の幾何学的配置から定まる感度に他ならない。
こうして、図1を読み換えて、スカラ磁力計を原点に配置した時に、空間上のいろいろな点に置かれた磁化m⊥による信号に対する感度の分布を表したものと考えることができる。
分布が原点に関して対称なので、ベクトルdをベクトル−dに置きかえる変換も不要である。
【0017】
上記図1から、センサの感度に関して符号が切り替わる領域があることがわかる。センサから静磁場方向に伸びる軸上とセンサを含んで静磁場に垂直な面内である。
核磁気共鳴イメージングにおける各画素からの信号は、ボクセル内からの磁気共鳴信号の空間平均値とみなすことができる。
核磁気共鳴イメージングのあるボクセルが、このようなセンサ応答の符号が切り替わる領域をまたいでいるときには、ボクセル内の空間平均は符号の異なる信号の足し合わせとなる。
このときこのボクセルから得られるシグナルは著しく小さなものとなり、実質的にはゼロに近くなる。
また、ここまでの説明ではセンサを理想的な点とみなしてきた。実際は、センサは有限の大きさを有したアルカリ金属セルを用いて磁場を読みだすものである。上記のセンサ感度が低減する空間については、(アルカリ金属セルのサイズ+ボクセルのサイズ)程度の拡がりを考慮しておく必要がある。
結局、アルカリ金属セルを中心として、図2に示すような柱状の部分の幅や奥行きと円盤状部分の厚さによる領域が、核磁気共鳴イメージングにおける感度がゼロまたはゼロに近い領域となる。
206は、光磁力計で磁場を検出するためにアルカリ金属を封入したガラスセルを表している。ただし、ボクセルサイズは、撮像時に定めるパラメータである。
【0018】
図2の領域のサイズは、予め正確に定まっているわけではない。
典型的にはミリメートルオーダーのボクセルサイズに対して、アルカリ金属セルのサイズがセンチメートルのオーダーである場合には、この不感領域の広がりについては、アルカリ金属セルのサイズの影響が支配的である。
すなわち、図2に示す不感領域のサイズ(柱状の部分の幅や奥行きと円盤状部分の厚さ)は、ほぼアルカリ金属セルのサイズで定まると考えてよい。
そこで、試料の中で核磁気共鳴イメージングの画像化をする領域を定めた上で、この不感領域を避けたところにアルカリ金属セルが配置されるように、光磁力計のセンサモジュールの位置を定める必要がある。
【0019】
図3を用いて、核磁気共鳴イメージング装置におけるセンサの配置例について説明する。
図3で、207は光磁力計モジュールであり、光ファイバーなどで外部のコントローラと接続される。206は、このモジュール内に配されたアルカリ金属を封入したガラスセルである。
205は、核磁気共鳴イメージング装置で画像化する領域を表す。試料に対する静磁場は、図中zの方向に印加されている。
このとき221はセルの静磁場方向に広がる不感領域を図示したものである。
また、222は、セルを含んで静磁場に垂直な方向に広がる不感領域を図示したものである。
すなわち、イメージングする領域205を定めたとき、スカラ磁力計のアルカリ金属セル206の位置は、静磁場にそった方向の座標(図3ではzとしている)が、イメージングする領域205と重ならないことが必要である。
また、セル206の位置は、静磁場に垂直な面内(図3のxy面内)で、イメージングする領域205と交差しないようにすることが必要である。
つまり、静磁場印加手段によって試料に静磁場を印加する方向をz方向とするとき、
上記スカラ磁力計のアルカリ金属セル(セル206)の位置は、上記イメージングする領域と前記z方向において重ならず、且つ、上記z方向と垂直な面内方向において交差しない位置に配置されるようにする。
これにより、スカラ磁力計を動作させるバイアス磁場と、静磁場印加手段における試料に印加する静磁場とに、共通の磁場が使用可能に構成されている際に、光磁力計の感度がゼロとなる領域を避け、強い核磁気共鳴によるイメージングが可能となる。
さらに、磁気信号は試料に近いほど大きなものが得られるので、セルをイメージングする領域に対して近い位置に配置するため、つぎのような位置に配置することが望ましい。
すなわち、静磁場を印加する方向であるz方向と垂直な面内方向のアルカリ金属セルと対向しているイメージングする領域の一端側と他端側のそれぞれと、
アルカリ金属セルの中心と、を結ぶ線とのなす角度θ(セル206の中心からイメージング領域205を見込む角度θ)が、90度を超える位置に、セルを配置することが望ましい。
また、セル206の中心からイメージング領域205を見込む角度θは、上記した最初の2つの制約から90度を超えることができない場合には、少なくとも60度以上となる位置に配置することが望ましい。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した核磁気共鳴イメージング装置の構成例について、図4を用いて説明する。
本実施例の核磁気共鳴イメージング装置は、図4に示すように、3軸方向それぞれを向いた3つのコイルペア201で囲まれている。これは地磁気をキャンセルするためのものである。
さらに、試料に静磁場を印加するためのヘルムホルツコイルペア202を有する。
このコイルペアでは、例えば、50μTから200μT程度の強さの静磁場B0を印加する。
分極コイル203は静磁場B0と直交する方向の磁場を発生させ、試料にスピン偏極を生じさせるためのものである。例えば、40mTから100mTの磁場を印加する。
また、RFコイル204は180度パルスや90度パルスを試料に印加して、試料のスピンの向きを操るものである。
この核磁気共鳴装置全体は、測定環境から飛来する磁場ノイズを抑止するために、不図示のアルミニウム製の電磁シールドボックスに収められている。
205は、この装置内でイメージングをする領域を模式的に表したものである。装置に入れる試料や生体そのものは、これよりもはるかに大きいことがある。
磁気共鳴を検出するための磁気センサとしてアルカリ金属セルを用いたクローズループのスカラ磁力計モジュール207を用いる。この磁力計の中には、アルカリ金属セル206があって、このアルカリ金属蒸気のスピンの挙動を光学的に読みだすことで、磁場を検知するものである。スカラ磁力計の詳細は後で詳しく述べる。
図4には、モジュールに接続してスカラ磁力計として動作させるために必要な光源などは表記していない。これらについては以下に詳しく説明する。
また、イメージングを行うための勾配磁場を印加するためのコイルとして 208のGzコイル、209のGxコイル、210のGyコイルを有する。
ここで、Gzとは、z方向の磁場Bzが、z座標の値に依存した磁場強度(勾配磁場)を有することを意味している。
同様に、Gy、Gxもz方向の磁場Bzが、それぞれy座標、x座標の値に依存した磁場強度(勾配磁場)を有することを表している。
【0021】
図6に、ここで用いるスカラ磁力計モジュールの1例を示す。
セル421はガラスなどプローブ光やポンプ光に対して透明な材料で作られている。
セル421の中にはアルカリ金属原子群としてカリウム(K)を封入し気密にしている。また、バッファーガス及びクエンチャガスとして、ヘリウム(He)と窒素(N2)とを封入しておく。
バッファーガスは偏極アルカリ金属原子の拡散を抑えてセル壁との衝突によるスピン緩和を抑制するので、アルカリ金属の偏極率を高めるために有効である。
また、N2ガスは励起状態にあるKからエネルギーを奪って発光を抑えるクエンチャガスであり、光ポンピングの効率を上げるために有効である。
【0022】
セル421の周囲にはオーブン431が設置されている。
セル421内のアルカリ金属ガスの密度を高めて磁力計を動作させるために、セル421を最大200度程度まで加熱する。
このために、オーブン431の内部にはヒーターが配置されている。オーブン431は、内部の熱が外に逃げないようにする役割も兼ね、断熱材料で表面が覆われている。
また、後に述べるポンプ光とプローブ光が通る光路上には光学窓が配置されて光路を確保している。
なお、図6では上面が開口となっているが、これは中のセル421を図示するためであり、実際的には全面がオーブンで覆われている。
【0023】
401から404はポンプ光の光学系である。401は光ファイバーコネクターである。
ここに接続された不図示の光ファイバーの端面から出射されたレーザ光は、光ファイバーの開口数(NA)で定まる放射角の範囲内に広がっていく。
この光は凸レンズ402で平行光とされて、偏光ビームスプリッター403と4分の一波長板404とで円偏光のポンプ光として、セル421に照射される。
また、411から415はプローブ光の光学系である。
411は光ファイバーコネクタ−であり、ここに接続された不図示の光ファイバーの端面から出射されたレーザ光は、光ファイバーの開口数(NA)で定まる放射角の範囲内に広がっていく。この光を凸レンズ412で平行光とする。
この実施例では、モジュールを小型にするために、ミラー413で光路を折り返している。
偏光子414を透過した直線偏光の偏光面を2分の一波長板415で回転させて調整し、直線偏光のプローブ光として、セル421に照射する。
また、416から420は偏光測定を行うバランス型の受光系である。偏光ビームスプリッタ416からの透過光と反射光はそれぞれ、集光レンズ417、419で集光される。
ファイバーコネクタ−418、420に接続された光ファイバーの端面に集光された光は、ファイバーの導波モードに結合されて、モジュールの外に取り出される。
このモジュールの中でアルカリセルの位置は、出来るだけ試料に近づけることができるように、中心ではなくモジュールの端に配置している。
しかし、アルカリ金属セルそのものが有限の大きさのものであり、それをヒーターや断熱層などからなるオーブンの中に配置しているために、モジュールの外からアルカリ金属セルの中心までの距離は有限のdという値となる。dの値としては、例えば3cm程度となる。
【0024】
このモジュールを図5のように、外部の光源、フォトディテクタ、制御システムと接続して、スカラタイプの光磁力計として動作させる。
図5のブロック図において、502はポンプ光用のレーザ光源である。
ポンプ光の波長は、セル内の原子群を偏極出来る波長、例えばアルカリ金属であるカリウムのD1共鳴線に合わせてある。これは約770nmに相当する。
503はこのレーザ光に強度変調を加えるための光変調器であり、ここではEOモジュレータを使用している。
EOモジュレータから出力された光は、偏波面保存のシングルモードファイバーに結合される。光ファイバーの出射端は、図6のモジュールの光ファイバーコネクター(図6の401)に接続する。
また、501はプローブ光用の光源である。レーザの光出力は偏波面保存のシングルモードファイバーに結合される。
光ファイバーの出射端は、モジュール504の光ファイバーコネクター(図6の411)に接続する。プローブ光は、不要なポンピングを避け、偏光面の回転角を大きくするために、原子の共鳴線の遷移に対して、ある程度の離調をとってあることが望ましい。例えば、769.9nmの光などが用いられる。
また、モジュールのバランス型受光器のファイバーコネクタ−(図6の418、420)には、マルチモードファイバーを接続して、ここからの光をひと組のバランス型フォトディテクタ505で受光する。
フォトディテクタに接続された作動増幅回路506の出力として偏光面の回転角が測定できる。
この磁力計は、z方向のバイアス磁場下で動作する。EOモジュレータで作りだされたポンプ光の変調は、この周期でセル内のスピン偏極をx軸方向に作りだす。
アルカリ金属のスピン偏極は、バイアス磁場の方向であるz方向を回転軸としてラーモア周波数で歳差運動を行う。
これは、y方向に通過するプローブ光の偏波面の回転にラーモア周波数での変調を与えることになる。
ロックインアンプ507では、シンセサイズド・ファンクション・ジェネレータ509の出力を参照信号として用いたロックイン検出を行う。
モジュール内のアルカリ金属セルの磁場に応じたラーモア周波数の変動は、参照信号に対する位相シフトとしてロックインアンプから取り出すことができる。
位相シフト量を誤差信号としてPIDコントローラ508を動作させ、誤差信号が0となるようなフィードバック信号をシンセサイズド・ファンクション・ジェネレータ509に戻す。
こうしてシンセサイズド・ファンクション・ジェネレータ509の発振周波数を制御することで、発振周波数を、モジュールのセル部分での磁場の強さに応じて変化させながら自励発振するスカラ磁力計を構成することができる。
【0025】
スカラ磁力計の構成方法は、これに限定されるものではなく、例えばアルカリ金属セル内のスピン偏極を静磁場の周りで強制的に歳差運動させるためにRF磁場を印加するタイプのつぎのような磁力計を利用することができる。
すなわち、M−z磁力計(N.Beverini,E.Alzetta,E. Maccioni,O.Faggioni,C.Carmisciano:A potassium vapor magnetometer optically pumped by a diode laser, on Proceeding of the 12th European Forum on Time and Frequency(EFTF 98))を利用することができる。
また、M−x磁力計(S.Groeger,G.Bison,J.−L.Schenker,R.Wynands and A.Weis,A high−sensitivity laser−pumped Mx magnetometer,The European Physical Journal D − Atomic,Molecular,Optical and Plasma Physics,Volume 38,239−247)を利用することもできる。
【0026】
この装置で、以下の図7に示すようなスピンエコーのパルスシーケンスを用いて、試料からの磁気共鳴信号を計測して、イメージングを行う。
ヘルムホルツペア202には測定の最初から最後まで、一定の電流を流し、z方向(図中では、山つきのzという記号でこのことを表記)の静磁場B0を発生させてこれを試料とスカラ磁力計207とに印加する。
初めに、分極コイル203に電流を流し、80mTの大きさのy方向の磁場を発生させ、試料を分極する。
この磁場の印加時間tpは、試料のプロトンスピンの縦緩和時間よりも長いことが望ましい。
分極コイル203に流す電流を速やかに落として、試料のスピンをz方向にそろえる。
遅延時間tdだけ経過したら、Gzコイル208で発生させたスライス選択傾斜磁場を印加しながらRFコイル204から90°パルスを印加して、FID信号を発生させる。再収束傾斜磁場パルスを加えてスピンの位相を揃える。
位相エンコード方向のy軸に対してGyコイル209で傾斜磁場を発生させて試料に加える。
また同時に、周波数エンコードを行うx軸に対してGxコイル210に傾斜磁場を加える。
時間τの経過後に180°パルスを印加して試料のスピンの回転位相を180°反転させ、再び周波数エンコードを行うx軸に対してGxコイルに傾斜磁場を加える。
最初の90°パルスから時間2τが経過したところで、スピンエコーのピークを観測する。
y軸方向の分割数だけ位相エンコードステップを繰り返して、異なるGyを生成して、全データを取得し、実空間のイメージを生成する。
磁気共鳴信号からイメージングを行うためのパルスシーケンスはこれに限るものではない。
例えば、公知のグラジエントエコー法も適用可能である。スライス選択する代わりに、z軸方向も位相エンコーディング方向としてしまって、3D領域のイメージングをする方法なども適用可能である。
【0027】
[実施例2]
実施例2として、イメージングをする領域の形状が、実施例1と異なっている構成例について、図8を用いて説明する。
実施例1ではメージングする領域が、上記z方向における領域の断面形状が薄い板状の形状であり、該z方向と垂直な面内方向の断面形状が、該薄い板状の厚さより大きいサイズを一辺とする方形の形状とされている。
これに対して、本実施例ではイメージングする領域が、上記z方向と垂直な面内方向の断面形状が薄い板状の形状であり、該z方向における領域の断面形状が、該薄い板状の厚さより大きいサイズを一辺とする方形の形状とされている。
すなわち、図8に示されるように、y方向に薄い板状の領域とされている。
この場合にも、発明の実施の形態に記載したのと同じような制約を受ける。
すなわち、イメージングする領域205を定めたとき、スカラ磁力計のアルカリ金属セル206の位置は、静磁場にそった方向の座標(図8ではzとしている)が、イメージングする領域205と重ならないことが必要である。
また、セル206の位置は、静磁場に垂直な面内(図3のxy面内)で、イメージングする領域205と交差しないようにすることが必要である。
さらに、磁気信号は試料に近いほど大きなものが得られることから、つぎのような位置に配置することが望ましい。
すなわち、静磁場を印加する方向であるz方向と垂直な面内方向のアルカリ金属セルと対向しているイメージングする領域の一端側と他端側のそれぞれと、
アルカリ金属セルの中心と、を結ぶ線とのなす角度θ(セル206の中心からイメージング領域205を見込む角度θ)は、上記した最初の2つの制約から90度を超えることはできない場合には、少なくとも60度以上となる配置が望ましい。
また、このようなセル206の中心からイメージング領域205を見込む角度θは、イメージング領域の厚みによって規定されるので、必ずしも大きくはならないこともある。
【0028】
[実施例3]
実施例3では、イメージングする空間の中の試料がイメージング空間を埋めつくさず、イメージの中に空気しかない領域があることが分かっている場合の、可能なセンサ配置例について、図9を用いて説明する。
例えば、イメージングする領域が、該イメージングする領域内の楕円柱状の試料領域を含むとき、具体的には、イメージングする空間205に対し、楕円柱状の試料を含んでいるような場合には、図9のように配置する。
すなわち、楕円柱の側面に添わせるような位置にセンサモジュール207を配置すれば、必ずしもセルは、イメージング空間の中に侵入しても実用上の障害とならない。
図9に示すように、セル206の位置は、静磁場に垂直な面内(図9のxy面内)で、試料と交差していなければ、画像の構成は可能である。
【符号の説明】
【0029】
205:核磁気共鳴イメージング装置で画像化する領域
206:アルカリ金属セル
207:光磁力計モジュール
221:セルの静磁場方向に広がる不感領域
222:セルを含んで静磁場に垂直な方向に広がる不感領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イメージングする領域に配置された試料に静磁場を印加する静磁場印加手段と、RFパルスを印加するRFパルス印加手段と、勾配磁場を印加する勾配磁場印加手段と、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴信号手段と、
を備え、核磁気共鳴イメージングを行う核磁気共鳴イメージング装置であって、
前記核磁気共鳴信号手段として、前記核磁気共鳴信号を検出するセンサがアルカリ金属セルによって構成されたスカラ磁力計を有し、
前記スカラ磁力計を動作させるバイアス磁場と、前記静磁場印加手段における試料に印加する静磁場とに、共通の磁場が使用可能に構成され、
前記静磁場印加手段によって前記試料に静磁場を印加する方向をz方向とするとき、
前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルの位置が、前記イメージングする領域と前記z方向において重ならず、且つ、前記z方向と垂直な面内方向において交差しない位置に配置されていることを特徴とする核磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記z方向と垂直な面内方向の前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルと対向している前記イメージングする領域の一端側と他端側のそれぞれと、
前記アルカリ金属セルの中心と、
を結ぶ線とのなす角度が90度を超える位置に、前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の核磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記z方向と垂直な面内方向の前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルと対向する前記イメージングする領域の一端側と他端側のそれぞれと、
前記アルカリ金属セルの中心と、
を結ぶ線とのなす角度が60度を超える位置に、前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の核磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記イメージングする領域は、前記z方向における領域の断面形状が薄い板状の形状であり、
前記z方向と垂直な面内方向の断面形状が、前記薄い板状の厚さより大きいサイズを一辺とする方形の形状であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の核磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記イメージングする領域は、前記z方向と垂直な面内方向の断面形状が薄い板状の形状であり、
前記z方向における領域の断面形状が、前記薄い板状の厚さより大きいサイズを一辺とする方形の形状であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の核磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記イメージングする領域が、該イメージングする領域内の楕円柱状の試料領域を含むとき、
前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルの位置が、前記イメージングする領域内の楕円柱状の試料領域と前記z方向において重ならず、且つ、前記z方向と垂直な面内方向において前記楕円柱状の試料領域の側面に添わせた交差しない位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の核磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
イメージングする領域に配置された試料に静磁場を印加する静磁場印加手段と、RFパルスを印加するRFパルス印加手段と、勾配磁場を印加する勾配磁場印加手段と、核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴信号手段と、
を用いて、核磁気共鳴イメージングを行う核磁気共鳴イメージング方法であって、
前記核磁気共鳴信号手段として、前記核磁気共鳴信号を検出するセンサがアルカリ金属セルによって構成されたスカラ磁力計を有し、
前記スカラ磁力計を動作させるバイアス磁場を、前記静磁場印加手段における試料に印加する静磁場と共通の磁場として作用させる際において、
前記静磁場印加手段によって前記試料に静磁場を印加する方向をz方向とするとき、
前記イメージングする領域と前記z方向において重ならず、且つ、前記z方向と垂直な面内方向において交差しない位置に、前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルを配置することを特徴とする核磁気共鳴イメージング方法。
【請求項8】
前記z方向と垂直な面内方向の前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルと対向している前記イメージングする領域の一端側と他端側のそれぞれと、
前記アルカリ金属セルの中心と、
を結ぶ線とのなす角度が90度を超える位置に、前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルを配置することを特徴とする請求項7に記載の核磁気共鳴イメージング方法。
【請求項9】
前記z方向と垂直な面内方向の前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルと対向する前記イメージングする領域の一端側と他端側のそれぞれと、
前記アルカリ金属セルの中心と、
を結ぶ線とのなす角度が60度を超える位置に、前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルを配置することを特徴とする請求項7に記載の核磁気共鳴イメージング方法。
【請求項10】
前記イメージングする領域は、前記z方向における領域の断面形状が薄い板状の形状であり、
前記z方向と垂直な面内方向の断面形状が、前記薄い板状の厚さより大きいサイズを一辺とする方形の形状であることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の核磁気共鳴イメージング方法。
【請求項11】
前記イメージングする領域は、前記z方向と垂直な面内方向の断面形状が薄い板状の形状であり、
前記z方向における領域の断面形状が、前記薄い板状の厚さより大きいサイズを一辺とする方形の形状であることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の核磁気共鳴イメージング方法。
【請求項12】
前記イメージングする領域が、該イメージングする領域内の楕円柱状の試料領域を含むとき、
前記イメージングする領域内の楕円柱状の試料領域と前記z方向において重ならず、且つ、前記z方向と垂直な面内方向において前記楕円柱状の試料領域の側面に添わせた交差しない位置に、前記スカラ磁力計のアルカリ金属セルの位置を配置することを特徴とする請求項7に記載の核磁気共鳴イメージング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−74994(P2013−74994A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216293(P2011−216293)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成(高次生体イメージング先端テクノハブ)」に係わる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用           を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】