説明

核酸のハイブリダイゼーション方法、及び標的核酸の増幅方法

【課題】核酸ハイブリダイゼーションの特異性を増大させうる手段の提供。
【解決手段】アミノ基、スルホン酸基、及び置換または非置換の炭素数3〜30のシクロアルキル基を含む、1種以上の両性イオン化合物を含む溶液中で、核酸のハイブリダイゼーションを行う段階を含む、核酸のハイブリダイゼーション方法。両性イオン化合物が、3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−(シクロヘキシルアミノ)−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CAPSO)、及び2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)からなる群から選択される1種以上である前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸のハイブリダイゼーション方法、及び標的核酸の増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリダイゼーション特異性(stringencyまたはspecificity)は、互いに相補的な2つの核酸と、非相補的な核酸とを共にハイブリダイズする際、相補的な配列間で特異的にハイブリダイズする程度を表す。一般的に、バッファー内の塩の濃度や温度を調節したり、デンハルト(Denhart)溶液のような添加物を添加したり、またはハイブリダイゼーションの競合を誘引するために非特異的なDNA若しくはRNAを添加することにより、さらに高いハイブリダイゼーション特異性を得ている。
【0003】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、変性、アニーリング及び伸長の段階を含む核酸増幅法であり、アニーリング段階で、プローブと標的核酸とのハイブリダイゼーションが起こる。プローブと標的核酸との相同性の程度により、PCR条件を変化させることができ、例えば、アニーリング温度を高めると非特異的産物の生成は減少し、アニーリング温度を低くすると非特異的産物の生成は増加する。
【0004】
ハイブリダイゼーション特異性が問題となるのは、PCRの中でも特に多重(multiplex)PCRである。多重PCRは、増幅させようとする様々な遺伝子部位を一つの反応容器内(one tube reaction)で同時に増幅させる。すなわち、各標的配列を増幅させることができるプライマーセットを1つの反応容器に入れ、単一のPCRで増幅させるのである。多重PCR用プライマーは、標的DNA配列だけに特異的であり、プライマー間の妨害がなく、標的DNAを十分に増幅させることができるものでなければならない。多重PCRでは、目的とする産物が多様なバンドとして得られるので、アニーリング時のハイブリダイゼーション特異性が低いと、目的産物である複数のバンド以外にも、数多くのバンドが電気泳動のゲル上に現れるため、多重PCRの結果を容易に解析できない。従って、ハイブリダイゼーション特異性を増大させることが切実に要求されている。
【0005】
特許文献1は、電気泳動の時間を短縮するために、両性イオン化合物であるヒスチジンを利用して電気泳動の伝導度を低くする方法を開示している。
【特許文献1】米国特許第4,936,963号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、本発明のように両性イオン化合物を利用しているが、これは電気泳動の時間を短縮するためのものであり、核酸ハイブリダイゼーション特異性を増大させることとは異なる。
【0007】
従って、本発明の目的は、核酸ハイブリダイゼーションの特異性を増大させうる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために、鋭意研究と努力とを重ねた結果、核酸ハイブリダイゼーション反応、特に、多重PCRに用いる反応溶液に特定の両性イオン化合物を添加すれば、核酸ハイブリダイゼーション特異性が増加することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の目的を解決するために、本発明は、アミノ基、スルホン酸基、及び置換または非置換の炭素数3〜30のシクロアルキル基を含む、1種以上の両性イオン化合物を含む溶液中で、核酸のハイブリダイゼーションを行う段階を含む、核酸のハイブリダイゼーション方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、アミノ基、スルホン酸基、及び置換または非置換の炭素数3〜30のシクロアルキル基を含む、1種以上の両性イオン化合物を含む溶液中で、プライマーと標的核酸とのハイブリダイゼーションを行う段階と、前記標的核酸を増幅する段階と、を含む、標的核酸の増幅方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、アミノ基、スルホン酸基、及び置換または非置換の炭素数3〜30のシクロアルキル基を含む、1種以上の両性イオン化合物を含む、核酸ハイブリダイゼーション用溶液を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記核酸ハイブリダイゼーション用溶液を含む、核酸ハイブリダイゼーションキットを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、目的産物の生成量を減少させずに、非特異的産物の生成量を減少させることにより、核酸ハイブリダイゼーション特異性を増大させることができるので、特定病原菌同定、遺伝病疾患、遺伝子配列の分析などに効果的に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、アミノ基、スルホン酸基、及び置換または非置換の炭素数3〜30のシクロアルキル基を含む、1種以上の両性イオン化合物を含む溶液中で、核酸のハイブリダイゼーションを行う段階を含む、核酸のハイブリダイゼーション方法を提供する。すなわち、本発明者らは、かような基を併せ持つ両性イオン化合物を核酸ハイブリダイゼーション反応に用いることで、核酸ハイブリダイゼーション特異性が増大することを見出したのである。
【0015】
前記シクロアルキル基は以下に制限されることはないが、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルまたはシクロオクチルのような単環基、ビシクロヘプチルまたはビシクロオクチルのような二環基、または2あるいは3個の環が融合された融合環型の基などが挙げられる。また、前記シクロアルキル基の水素原子からの置換基の例として、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基などが挙げられる。前記シクロアルキル基の炭素数は、4〜20であることが好ましく、4〜8(すなわち、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチル)であることがより好ましく、6(すなわち、シクロヘキシル)であることが更に好ましい。
【0016】
前記両性イオン化合物は、上記の基を有する化合物であれば特に制限されることはないが、3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−(シクロヘキシルアミノ)−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CAPSO)、及び2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。また、各々の分子量は、CAPSがMw=221.32、CHAPSがMw=614.88、CAPSOがMw=237.32、CHESがMw=207.29である。
【0017】
核酸のハイブリダイゼーションは、互いに異なる種由来の核酸間の結合をいい、結合しようとする核酸配列の相同性によってハイブリダイゼーションの条件を変更することができる。すなわち、核酸間の配列の相同性が高ければ、ストリンジェントな(stringent)条件を選択し、配列の相同性が低ければ、マイルド(mild)な条件を選択する。ハイブリダイゼーション条件がストリンジェントであれば、ハイブリダイゼーション特異性が増大して非特異的なハイブリダイゼーション産物が減少するが、マイルドであれば、ハイブリダイゼーション特異性が低下して非特異的なハイブリダイゼーション産物が増加する。特に後者の場合には、非特異的なハイブリダイゼーション産物を減少させる必要があり、そのために本発明では、特定の両性イオン化合物を含む溶液中で核酸をハイブリダイゼーションさせることにより、核酸ハイブリダイゼーション特異性を増大させる。
【0018】
核酸間のハイブリダイゼーションの例としては特に限定されないが、DNAとDNAとのハイブリダイゼーション、DNAとRNAとのハイブリダイゼーション、及びRNAとRNAとのハイブリダイゼーションが挙げられる。一般的に、核酸ハイブリダイゼーション反応は、サザン(Southern)ハイブリダイゼーション、ノーザン(Northern)ハイブリダイゼーションなどをいう。核酸ハイブリダイゼーション反応は、DNAチップにおいて特に重要であるが、チップ上にプローブを固定し、ここに標的核酸を含む試料を添加してハイブリダイゼーション反応を行えば、プローブに特異的な標的核酸を直ちに検出できるのである。
【0019】
両性イオン化合物は、中性溶液中で酸としても塩基としても作用できる化合物をいい、ベタイン、アミノ酸、3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−(シクロヘキシルアミノ)−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CAPSO)、2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)などが例として挙げられる。両性イオン化合物の一例であるベタイン及びCAPSの構造は、下記の通りである。
【0020】
【化1】

【0021】
ほとんどの両性イオン化合物は、核酸ハイブリダイゼーション反応で、核酸ハイブリダイゼーション特異性を増大させ、非特異的なハイブリダイゼーション産物の生成度(生成量)を減少させるが、目的産物の生成量も減少させてしまう問題がある。しかし、一部の両性イオン化合物は、目的産物の生成量を減少させることなく、非特異的な産物の生成量を減少させて核酸ハイブリダイゼーション特異性を増大させるという好ましい特性を有する。本発明において、前記好ましい特性を有する両性イオン化合物が見出され、前記両性イオン化合物は、3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−(シクロヘキシルアミノ)−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CAPSO)、2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)からなる群から選択される。
【0022】
本発明の両性イオン化合物を前記核酸ハイブリダイゼーション反応の反応溶液に添加すれば、核酸ハイブリダイゼーション反応の特異性が増大し、ハイブリダイゼーション反応時に最も問題となる偽陽性(false positive)バンドの生成量を減らすことができる。偽陽性バンドは、非特異的な核酸ハイブリダイゼーションの結果物であり、核酸ハイブリダイゼーション反応の特異性が低下すると、多量に生成される産物である。かような偽陽性バンドは、目的産物の分離を困難にし、時間的にも経済的にも目的遺伝子の分離に悪影響を及ぼす。従って、かような非特異的な産物の除去は、目的遺伝子の分離に非常に有用である。
【0023】
本発明の方法で、ハイブリダイゼーションに用いる溶液中の前記両性イオン化合物の濃度は、0.2〜3w/v%であることが好ましい。前記両性イオン化合物の濃度が0.2w/v%より低いと、核酸ハイブリダイゼーションの特異性が低下して非特異的な産物の生成量が増加してしまい、一方で3w/v%より高いと、そもそも目的産物の生成量が減少するためである。
【0024】
また、本発明は、アミノ基、スルホン酸基、及び置換または非置換の炭素数3〜30のシクロアルキル基を含む、1種以上の両性イオン化合物を含む溶液中で、プライマーと標的核酸とのハイブリダイゼーションを行う段階と、前記標的核酸を増幅する段階と、を含む標的核酸の増幅方法を提供する。
【0025】
前記両性イオン化合物は、前述と同様、3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−(シクロヘキシルアミノ)−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CAPSO)、及び2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0026】
標的核酸を増幅する方法は、変性、アニーリング及び伸長の段階を含み、アニーリング段階において、プローブと標的核酸との間でのハイブリダイゼーションが起こる。前記ハイブリダイゼーション反応の反応溶液に、本発明の両性イオン化合物を添加すれば、プローブと標的核酸とのハイブリダイゼーションの特異性が増大する。かようなハイブリダイゼーション特異性の増大により、非特異的な増幅産物の生成量が減少し、所望の目的産物のみが特異的に増幅されるのである。
【0027】
標的核酸を増幅する方法には、PCR、リガーゼ連鎖反応(Ligase Chain Reaction)、SDA(Strand Displacement Amplification)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence−Based Amplification)法、修復連鎖反応(repair chain reaction)、ヘリカーゼ連鎖反応、Qβ複製増幅(Qβ replicase amplification)、及びライゲーションが活性化された転写(ligation activated transcription)が含まれ、好ましくは、PCRを介して標的核酸を増幅を行うことができる。
【0028】
本発明の方法で、前記PCRは多重PCRであることが好ましい。本発明の方法は、核酸ハイブリダイゼーション反応時に特異性を増大させることを目的とし、具体的には、複数の病原菌を同定するための標的遺伝子の増幅の際、多重PCR上の非特異的な産物を除去することを目的としている。ほとんどの両性イオン化合物は、多重PCRで核酸ハイブリダイゼーション特異性を増大させることで、非特異的なハイブリダイゼーション産物の生成量を減少させるが、一方で目的産物の生成量も減少させてしまう問題がある。しかし、一部の特定の両性イオン化合物は、目的産物の生成量を減少させることなく、多重PCRで非特異的な産物の生成量を減少させて核酸ハイブリダイゼーション特異性を増大させるという好ましい特性を有する。前記好ましい特性は、多重PCRで偽陽性バンドを減少させ、正確に特定病原菌の同定を可能にする上で必須の要件である。
【0029】
非特異的な産物の生成は、多重PCRで特に問題となる。多重PCRは、一回のPCRで様々な遺伝子を増幅し、複数のバンドが電気泳動のゲル上に現れる。多重PCRによって所望のサイズの遺伝子増幅産物のバンド以外に、非特異的な産物のバンドが多数生成されるならば、正確に特定病原菌の同定を行うことはできない。従って、多重PCRを行うに際して、非特異的な産物のバンドをできる限り減少させる必要がある。本発明の両性イオン化合物を多重PCR反応の反応溶液に適量添加することで、非特異的な産物のバンドが顕著に減少する。
【0030】
本発明の方法による多重PCRでは、非特異的な産物をほとんど増幅せず、目的産物の生成量を減少させることもない。前述のように、両性イオン化合物を多重PCR反応に適量添加すれば、非特異的な産物のバンドは顕著に減少する。しかし、非特異的な産物の減少と共に、目的産物の生成量も減少するならば、所望の効果を得ることはできない。ほとんどの両性イオン化合物は、非特異的な産物のバンド生成量を減少させるとともに、目的産物の生成量も減少させるが、本発明の両性イオン化合物を利用すれば、目的産物の生成量を減少させることなく、非特異的な産物のバンド生成量を減少させるので非常に好ましい。
【0031】
本発明の方法で、ハイブリダイゼーションに用いる溶液中の前記両性イオン化合物の濃度は、0.2〜3w/v%であることが好ましい。前記両性イオン化合物の濃度が0.2w/v%より低いと、核酸ハイブリダイゼーションの特異性が低下して多重PCRで非特異的な産物の生成量が増加してしまい、一方、3w/v%より高いと、そもそも目的産物の生成量が減少するためである。
【0032】
本発明の方法で、前記プライマーは、複数の病原菌の検出に特異的である。本発明の両性イオン化合物を利用して多重PCRを行えば、目的産物の生成量が減少することなく非特異的な産物のバンド生成量が減少するので、従来、非特異的な産物が多量に生成することにより正確に複数の遺伝子を検出することが困難であったという問題を容易に解決できるのである。前記複数の遺伝子の検出は、病原菌関連、遺伝病関連、遺伝配列の判別などを含む。例えば、人間に呼吸器疾患を起こさせる最も知られたウイルスには、はしかウイルス(measles virus)、エンテロウイルス(entero virus)、ライノウイルス(rhino virus)、サーズ(関連)コロナウイルス(SARS−coV:SARS−associated corona Virus)、水痘ウイルス(VSV:Varicella Zoster Virus)、アデノウイルス(adenovirus)、ヒトパラインフルエンザウイルス1(HPIV 1:Human Para Influenza Virus 1)、ヒトパラインフルエンザウイルス2(HPIV 2:Human Para Influenza Virus 2)、ヒトパラインフルエンザウイルス3(HPIV 3:Human Para Influenza Virus 3)、インフルエンザウイルスA(IVA:Influenza Virus A)、インフルエンザウイルスB(IVB:Influenza Virus B)、呼吸器多核体ウイルスA(RSVA:Respiratory Syncytial Virus A)、及び呼吸器多核体ウイルスB(RSVB:Respiratory Syncytial Virus B)が含まれる。これらのウイルスを迅速かつ特異的に検出することは、呼吸器疾患の診断、予防及び治療に必須であるが、本発明の両性イオン化合物を利用して多重PCRを行えば、前記ウイルスを迅速かつ正確に検出できる。
【0033】
また、本発明は、アミノ基、スルホン酸基、及び置換または非置換の炭素数3〜30のシクロアルキル基を含む、1種以上の両性イオン化合物を含む、核酸ハイブリダイゼーション用溶液を提供する。前記両性イオン化合物は、前述と同様、3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−(シクロヘキシルアミノ)−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CAPSO)、及び2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。核酸ハイブリダイゼーション用溶液は通常、核酸ハイブリダイゼーション反応に必要な、多様な化合物を含んでいる。こうした通常用いられる化合物以外に、本発明の両性イオン化合物を含む核酸ハイブリダイゼーション用溶液を利用して核酸ハイブリダイゼーション反応を行えば、核酸ハイブリダイゼーション特異性が増大し、さらに良好なハイブリダイゼーション結果が得られる。核酸ハイブリダイゼーション反応は、DNAチップで特に重要であるが、チップ上にプローブを固定し、これに標的核酸を含む試料を添加し、前記核酸ハイブリダイゼーション用溶液を利用してハイブリダイゼーション反応を行えば、プローブに特異的な標的核酸を直ちに検出できる。
【0034】
また、本発明は、上記した両性イオン化合物を含む核酸ハイブリダイゼーション用溶液を含む核酸ハイブリダイゼーションキットを提供する。核酸ハイブリダイゼーションキットは、核酸ハイブリダイゼーションに必要な、多様な構成成分を更に含むことができ、そのような構成成分は当業者にとって周知である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を介して本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明を例示するためのものであり、本発明の技術的範囲がこれらの実施例により制限されることはない。
【0036】
実施例1:多重PCRでのハイブリダイゼーション特異性に対するCAPSの効果
多重PCR用のテンプレートとして、呼吸器感染症の主要原因菌であるヘモフィルスインフルエンザ(Haemophilus influenza)からゲノムDNA(gDNA)を分離し、分離したgDNAを0.2ng使用する区分及び1ng使用する区分を用意した。両性イオン化合物として、CAPSを使用しない区分、0.5w/v%使用する区分及び1w/v%使用する区分を設定し(計6区分)、多重PCRを行った。PCRは、GeneAmp PCR system 9700(ABI)を利用し、PCR混合物(テンプレートgDNA:0.2ngまたは1ng、CAPS:0.5w/v%または1w/v%、1×Taq Pol バッファー、200μMのdNTP mixture(共通)、400nMのPCRプライマー(配列番号1ないし配列番号10)(共通)、及び5unitのTaq Pol(共通))を用いて、95℃で1分間DNAを完全に変性した後、25サイクル(1サイクル当たり、95℃で5秒、62℃で13秒、及び72℃で15秒)を行い、最後に72℃1分間の伸長反応を行った。
【0037】
図1は、CAPSを多重PCRに添加した時の、非特異的な産物の減少を示すPCR産物の電気泳動結果である。図1から分かるように、CAPSを添加していない場合(−CAPS)と比べてCAPSを添加した場合(+CAPS)には、非特異的産物のバンドが顕著に減少し、これは、CAPSの濃度が高いほど、顕著に減少するということが分かる。CAPSを添加した場合(+CAPS)、非特異的産物のバンドは顕著に減少するが、目的産物のバンド強度は、そのまま維持されているということを示している。また、上述のように、テンプレートDNA(gDNA)の量が増加するほど、目的産物及び非特異的な産物の量も増加するということが分かる。
【0038】
CAPSで処理した場合の目的産物及び非特異的産物の生成度を定量的に評価するために、各PCR産物を電気泳動した後、Agilent、2100 Bioanalyzerを利用して蛍光度を測定した。
【0039】
図2は、Agilent、2100 Bioanalyzerを利用して目的産物及び非特異的産物の生成程度を定量的に評価したものである。図2の下段の拡大されたグラフ中の2本の曲線のうち、上側の曲線は、gDNA0.2ngを利用し、CAPSで処理していないサンプルについてのグラフであり、下側の曲線は、gDNA0.2ngを利用し、0.5w/v%のCAPSで処理したサンプルについてのグラフを表し、非特異的産物のバンド位置は矢印で示している。図2から分かるように、CAPSを処理した時と処理していない時とで、目的産物のバンドの強度はほとんど変わらないが、非特異的産物のバンドは、CAPSで処理した時には、ほとんど除去されていることが分かる。
【0040】
従って、本発明の両性イオン化合物のCAPSを多重PCRに添加すれば、目的産物の生成量を減少させることなく、非特異的産物の生成量を顕著に減少させることができ、特定病原菌の検出に非常に有用であることが分かる。
【0041】
実施例2:多重PCRでのハイブリダイゼーション特異性に対するCAPSO及びCHESの効果
両性イオン化合物の種類による多重PCRでのハイブリダイゼーション特異性を調べるために、更にCAPSO、CHESを利用した。CAPSOとCHESとをそれぞれ0.2w/v%、0.4w/v%、0.8w/v%及び1.6w/v%、多重PCR反応の反応溶液に添加し、ヘモフィルスインフルエンザgDNAテンプレートを1ng利用したことを除いては、実施例1と同じように実験を行った。
【0042】
図3は、CAPSOを多重PCRに使用した時の、非特異的な産物の減少の程度を示すPCR産物の電気泳動結果である。図3で、対照群は、CAPSOを添加せずに多重PCRを行ったものである。図3から分かるように、CAPSOを添加していない対照群に比べ、CAPSOを添加した場合には、非特異的産物のバンドが顕著に減少し、更に、CAPSOの濃度が高いほど、顕著に減少するということが分かる。図4は、CHESを多重PCRに添加した場合の、非特異的な産物の減少の程度を示すPCR産物の電気泳動結果である。図4から分かるように、CHESを用いた場合においてもCAPSOと類似した結果が得られた。
【0043】
比較例1:両性イオン化合物の種類による多重PCRでのハイブリダイゼーション特異性に対する効果
両性イオン化合物の種類による多重PCRでのハイブリダイゼーション特異性を調べるために、ベタインを利用した。ベタインとして、Solgent社の5×band doctorをそれぞれ2.5μl(0.25×)、5μl(0.5×)、10μl(1×)及び15μl(1.5×)、多重PCRに使用し、ヘモフィルスインフルエンザgDNAテンプレートをそれぞれ1ng、0.1ng及び0.01ng利用したことを除いては、実施例1と同じように実験を行った。
【0044】
図5は、ベタインを多重PCRに添加した際の、非特異的な産物の減少を示すPCR産物の電気泳動結果である。図5で対照群は、ベタインを添加せずに多重PCRを行ったものであり、「1」、「2」及び「3」と表示されているのは、テンプレートgDNAをそれぞれ1ng、0.1ng及び0.01ng使用したものを表す。なお、図中のA02、A07、16S及びA17は、発明者らが任意に命名したPCR産物の名称である。図5から分かるように、ベタインを添加していない対照群に比べ、ベタインを添加した場合には、非特異的産物のバンドが顕著に減少しており、更にベタインの濃度が高いほど顕著に減少するということが分かる。しかし、CAPSの場合とは異なり、ベタインの濃度が増大するほど、非特異的産物のバンドは顕著に減少するが、同時に目的産物のバンドも顕著に減少するということが分かる。従って、ベタインは、特定病原菌を検出するために核酸ハイブリダイゼーション特異性を増大させるという目的には、適さないことが分かる。
【0045】
従って、全ての両性イオン化合物が本発明の効果を示すのではなく、CAPSのような特定の両性イオン化合物だけが、目的産物のバンドを減少させることなく、非特異的産物のバンドを減少させることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の両性イオン化合物を利用した核酸のハイブリダイゼーション方法は、例えば、疾病予防関連の技術分野に効果的に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】CAPSを多重PCRに使用する際の非特異的な産物量の減少を示す、PCR産物の電気泳動結果の写真である。
【図2】Agilent、2100 Bioanalyzerを利用し、目的産物及び非特異的産物の生成度を定量的に評価したグラフである。
【図3】CAPSOを多重PCRに使用する際の非特異的な産物の減少を示す、PCR産物の電気泳動結果のイメージである。
【図4】CHESを多重PCRに使用する際の非特異的な産物の減少を示す、PCR産物の電気泳動結果のイメージである。
【図5】ベタインを多重PCRに使用する際の非特異的な産物の減少を示す、PCR産物の電気泳動のイメージである。
【符号の説明】
【0048】
A 非特異的産物、
B A02、A07、
C 16S、
D A17。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基、スルホン酸基、及び置換または非置換の炭素数3〜30のシクロアルキル基を含む、1種以上の両性イオン化合物を含む溶液中で、核酸のハイブリダイゼーションを行う段階を含む、核酸のハイブリダイゼーション方法。
【請求項2】
前記両性イオン化合物が、3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−(シクロヘキシルアミノ)−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CAPSO)、及び2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶液中の前記両性イオン化合物の濃度が0.2〜3w/v%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ハイブリダイゼーションは、DNAとDNAとのハイブリダイゼーション、DNAとRNAとのハイブリダイゼーション、及びRNAとRNAとのハイブリダイゼーションからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アミノ基、スルホン酸基、及び置換または非置換の炭素数3〜30のシクロアルキル基を含む、1種以上の両性イオン化合物を含む溶液中で、プライマーと標的核酸とのハイブリダイゼーションを行う段階と、
前記標的核酸を増幅する段階と、
を含む、標的核酸の増幅方法。
【請求項6】
前記両性イオン化合物が、3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−(シクロヘキシルアミノ)−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CAPSO)、及び2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)からなる群から選択される1種以上である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記標的核酸を増幅する段階では、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を介して前記標的核酸を増幅する、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記PCRが多重PCRである、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記プライマーは、複数の病原菌の検出に特異的である、請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記溶液中の前記両性イオン化合物の濃度が0.2〜3w/v%である、請求項5〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
アミノ基、スルホン酸基、及び置換または非置換の炭素数3〜30のシクロアルキル基を含む、1種以上の両性イオン化合物を含む、核酸ハイブリダイゼーション用溶液。
【請求項12】
前記両性イオン化合物が、3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−(シクロヘキシルアミノ)−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CAPSO)、及び2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)からなる群から選択される1種以上である、請求項11に記載の溶液。
【請求項13】
請求項11または12に記載の核酸ハイブリダイゼーション用溶液を含む、核酸ハイブリダイゼーションキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−275067(P2007−275067A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102030(P2007−102030)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】