説明

核酸の対立遺伝子特異的増幅

本発明は、標的配列のうち2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な内在性選択的ヌクレオチドを有する対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドを使用した対立遺伝子特異的増幅法を提供し、該方法では、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドが、その選択的ヌクレオチドが相補的である標的核酸の変異配列とハイブリダイズしたときに優先的又は選択的に、核酸ポリメラーゼによって伸長される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅の分野、特に、対立遺伝子特異的増幅の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の対立遺伝子特異的増幅は、標的配列の増幅及び解析の同時実施を可能とする。対立遺伝子特異的増幅は、一般的に、標的核酸がその配列中に1種又は2種以上の変異(多型)を有するときに使用される。核酸多型は、DNAプロファイル解析(科学捜査,父子鑑定,臓器移植のための組織適合検査),遺伝子マッピング,微生物の病原株間の識別及び珍しい突然変異(例えば、正常DNAを有する細胞を背景として存在する癌細胞で生じる突然変異)の検出で使用される。
【0003】
対立遺伝子特異的増幅が成功した場合、標的核酸のうち目的とする変異配列は増幅されるが、それ以外の変異配列は、少なくとも検出可能なレベルまでは増幅されない。典型的な対立遺伝子特異的増幅アッセイでは、標的配列のうち目的とする変異配列とハイブリッド形成した場合のみプライマー伸長が生じるように設計された、少なくとも1種の対立遺伝子特異的プライマーを使用したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が実施される。プライマーが、標的配列のうち目的としない変異配列とハイブリダイズしたとき、プライマー伸長は阻止される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プライマーの対立遺伝子特異性を向上させる数多くの方法が提案されてきた。しかしながら、臨床的に意義のある数多くの核酸標的に関して、PCRの特異性の欠如が未解決のままである。したがって、新規アプローチによる対立遺伝子特異的プライマーの設計が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様において、本発明は、数種の変異配列の形態で存在する標的配列のうち1種の変異配列を対立遺伝子特異的に増幅する方法であって、
(a)第1及び第2のオリゴヌクレオチドを、前記標的配列のうち少なくとも1種の変異配列にハイブリダイズさせるステップ、ここで、前記第1のオリゴヌクレオチドは、前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、前記第2のオリゴヌクレオチドは、前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、前記標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチドを有する、
(b)核酸ポリメラーゼによって前記第2のオリゴヌクレオチドを伸長させるステップ、ここで、前記ポリメラーゼは、前記選択的ヌクレオチドが前記標的配列と塩基対を形成するときには、前記第2のオリゴヌクレオチドを選択的に伸長させる能力を有するが、前記選択的ヌクレオチドが前記標的配列と塩基対を形成しないときには、その能力が実質的に低下する、
を含む方法に関する。
【0006】
第2の態様において、本発明は、数種の変異配列の形態で存在する標的配列のうち1種の変異配列を検出する方法であって、
(a)第1及び第2のオリゴヌクレオチドを前記標的配列のうち少なくとも1種の変異配列にハイブリダイズさせるステップ、ここで、前記第1のオリゴヌクレオチドは、前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、前記第2のオリゴヌクレオチドは、前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、前記標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチドを有する、
(b)核酸ポリメラーゼによって前記第2のオリゴヌクレオチドを伸長させるステップ、ここで、前記ポリメラーゼは、前記選択的ヌクレオチドが前記標的配列と塩基対を形成するときには、前記第2のオリゴヌクレオチドを選択的に伸長させる能力を有するが、前記選択的ヌクレオチドが前記標的配列と塩基対を形成しないときには、その能力が実質的に低下する、並びに
(c)前記オリゴヌクレオチドの伸長産物を検出するステップ、ここで、前記伸長は、前記オリゴヌクレオチドが有する選択的ヌクレオチドと相補的な標的配列の変異配列の存在を表す、
を含む方法に関する。
【0007】
第3の態様において、本発明は、数種の変異配列の形態で存在する標的配列を対立遺伝子特異的に増幅するためのキットであって、
(a)前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的な第1のオリゴヌクレオチド、及び
(b)前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、前記標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチドを有する、第2のオリゴヌクレオチド
を含むキットに関する。
【0008】
第4の態様において、本発明は、数種の変異配列の形態で存在する標的配列の対立遺伝子特異的増幅を実施するためのオリゴヌクレオチドであって、
(a)前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列の一部分と少なくとも部分的に相補的な配列、
(b)前記標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチド
を含むオリゴヌクレオチドに関する。
【0009】
第5の態様において、本発明は、数種の変異配列の形態で存在する標的配列を対立遺伝子特異的に増幅するための反応混合物であって、
(a)前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的な第1のオリゴヌクレオチド、及び
(b)前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、前記標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチドを有する、第2のオリゴヌクレオチド
を含む反応混合物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1−1】図1−1は、様々な核酸ポリメラーゼと、本発明の内在性選択的ヌクレオチドを有する様々なプライマーとを使用した対立遺伝子特異的増幅の結果を示す図である。
【図1−2】図1−2は、様々な核酸ポリメラーゼと、本発明の内在性選択的ヌクレオチドを有する様々なプライマーとを使用した対立遺伝子特異的増幅の結果を示す図である。
【図2−1】図2−1は、様々な核酸ポリメラーゼと、3’選択的ヌクレオチドを有する様々な対照プライマーとを使用した対立遺伝子特異的増幅の結果を示す図である。
【図2−2】図2−2は、様々な核酸ポリメラーゼと、3’選択的ヌクレオチドを有する様々な対照プライマーとを使用した対立遺伝子特異的増幅の結果を示す図である。
【図3−1】図3−1は、様々な核酸ポリメラーゼと、本発明の内在性選択的ヌクレオチドを有する様々なプライマー(例えば、スコーピオンARMS型プライマー)とを使用した対立遺伝子特異的増幅の結果を示す図である。
【図3−2】図3−2は、様々な核酸ポリメラーゼと、本発明の内在性選択的ヌクレオチドを有する様々なプライマー(例えば、スコーピオンARMS型プライマー)とを使用した対立遺伝子特異的増幅の結果を示す図である。
【図4】図4は、本発明で使用可能なスコーピオンARMS型の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
別段の定義がない限り、本明細書中で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が関連する技術分野の当業者に一般的に理解されているのと同じ意義を有する。本発明に関して、明細書及び特許請求の範囲では、下記定義が使用される。
【0012】
「核酸」という用語は、ヌクレオチド(例えば、リボヌクレオチド,デオキシリボヌクレオチド,ヌクレオチドアナログ等)のポリマーを意味し、互いに直鎖状又は分岐鎖状に共有結合したヌクレオチドを含む、デオキシリボ核酸(DNA),リボ核酸(RNA),DNA−RNAハイブリッド,オリゴヌクレオチド,ポリヌクレオチド,アプタマー,ペプチド核酸(PNA),PNA−DNA複合体,PNA−RNA複合体等が含まれる。核酸は、典型的には一本鎖又は二本鎖であり、一般的にはリン酸ジエステル結合を有するが、幾つかの場合には、別の骨格を有し得る核酸アナログが含まれ、別の骨格としては、例えば、ホスホラミド(Beaucage等, (1993) Tetrahedron 49(10):1925)、ホスホロチオエート(Mag等, (1991) Nucleic Acids Res. 19:1437、及び米国特許第5,644,048号)、ホスホロジチオエート(Briu等, (1989) J. Am. Chem. Soc. 111:2321)、O−メチルホスホロアミダイト結合(Eckstein, oligonucleotides and Analogues: a Practical Approach, Oxford University Press (1992))、ペプチド核酸骨格及び結合(Egholm, (1992) J. Am. Chem. Soc. 114:1895)等が挙げられる。これらのリボース−リン酸骨格の修飾は、標識等の追加分子の付加を容易にするために、又は生理環境におけるそのような分子の安定性及び半減期を変更するために、実施することができる。
【0013】
ヌクレオチドアナログには、核酸中に一般的に見られる、天然に存在する複素環塩基(例えば、アデニン,グアニン,チミン,シトシン及びウラシル)に加えて、天然に存在しない複素環塩基(例えば、Seela等, (1999) Helv. Chim. Acta 82:1640等に記載されたもの)も含まれる。ヌクレオチドアナログ中で使用される所定の塩基は、融解温度(Tm)の変更因子として機能する。例えば、これらのうちの幾つかとしては、7−デアザプリン(例えば、7−デアザグアニン,7−デアザアデニン等),ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン,プロピニル−dN(例えば、プロピニル−dU,プロピニル−dC等)等が挙げられる(例えば、米国特許第5,990,303号参照)。その他の代表的な複素環塩基としては、例えば、ヒポキサンチン,イノシン,キサンチン;2−アミノプリン,2,6−ジアミノプリン,2−アミノ−6−クロロプリン,ヒポキサンチン,イノシン及びキサンチンの8−アザ誘導体;アデニン,グアニン,2−アミノプリン,2,6−ジアミノプリン,2−アミノ−6−クロロプリン,ヒポキサンチン,イノシン及びキサンチンの7−デアザ−8−アザ誘導体;6−アザシチジン;5−フルオロシチジン;5−クロロシチジン;5−ヨードシチジン;5−ブロモシチジン;5−メチルシチジン;5−プロピニルシチジン;5−ブロモビニルウラシル;5−フルオロウラシル;5−クロロウラシル;5−ヨードウラシル;5−ブロモウラシル;5−トリフルオロメチルウラシル;5−メトキシメチルウラシル;5−エチニルウラシル;5−プロピニルウラシル等が挙げられる。
【0014】
「鋳型核酸」,「鋳型」又は「標的」という用語は、適当な条件下、プライマーがハイブリダイズして伸長することができる、目的の核酸を意味する。核酸増幅の文脈において、「標的」は、好ましくは、少なくとも2つのプライマー配列及び介在配列に、少なくとも部分的に相補的な配列からなる、核酸の一領域を意味する(標的が一本鎖核酸である場合、それは、1つのプライマーに少なくとも部分的に相補的な配列と、第2のプライマーと少なくとも部分的に同一の配列とからなる)。鋳型核酸は、単離された核酸フラグメントとして存在してもよいし、より大きな核酸フラグメントの一部分であってもよい。標的核酸は、既知微生物(cultured microorganisms),未知微生物(uncultured microorganisms),複雑な生体混合物,組織,血清,古い又は保存された組織又はサンプル,環境分離物等の、基本的にいかなる供給源に由来してもよいし、それらから単離してもよい。さらに、鋳型核酸は、必要に応じて、cDNA,RNA,ゲノムDNA,クローン化ゲノムDNA,ゲノムDNAライブラリー,酵素的にフラグメント化したDNA又はRNA,化学的にフラグメント化したDNA又はRNA,物理的にフラグメント化したDNA又はRNA等を含んでもよいし、それらに由来してもよい。鋳型核酸は、当業者に公知の技術を使用して、化学的に合成してもよい。
【0015】
「オリゴヌクレオチド」という用語は、少なくとも2個、典型的には5〜50個、さらに典型的には15〜35個のヌクレオチドを含む核酸ポリマーを意味する。オリゴヌクレオチドは、当業者に公知の適当な方法によって調製することができ、そのような方法としては、例えば、適当な配列のクローニング及び制限消化,又は直接化学合成、例えば、ホスホトリエステル法(Narang等, (1979) Meth. Enzymol. 68:90-99);ホスホジエステル法(Brown等, (1979) Meth. Enzymol. 68:109-151);ジエチルホスホラミダイト法(Beaucage等, (1981) Tetrahedron Lett. 22:1859-1862);トリエステル法(Matteucci等, (1981) J. Am. Chem. Soc. 103:3185-3191);自動合成法;固相法(米国特許第4,458,066号)又は当業者に公知のその他の化学的方法等が挙げられる。
【0016】
「プライマー」という用語は、鋳型核酸にハイブリダイズして、ヌクレオチドポリメラーゼによる鎖伸長又は延長が可能であるオリゴヌクレオチドを意味する。プライマー長は、典型的には15〜35個のヌクレオチドの範囲であるが、その他のプライマー長が使用される場合もある。短いプライマーは、一般的には、より低い温度のときに、鋳型核酸と十分に安定してハイブリッド形成する。プライマーは、伸長を生じるために、鋳型核酸と完全に相補的である必要はない。鋳型核酸に少なくとも部分的に相補的なプライマーは、典型的には、伸長が生じるように、鋳型核酸にハイブリダイズすることができる。プライマー核酸は、所望により、放射線解析,分光解析,光化学的解析,生化学的解析,免疫化学的解析又は化学的解析によって検出可能な標識を組み込むことにより、標識化することができる。
【0017】
「対立遺伝子特異的プライマー」は、鋳型核酸の数種の変異配列にハイブリダイズ可能であるが、鋳型核酸の数種の変異配列のうち一部の変異配列のみにハイブリダイズしたときに、ポリメラーゼによって伸長可能であるプライマーである。鋳型核酸のその他の変異配列に関して、 プライマー−鋳型ハイブリッドは、該ポリメラーゼによって伸長しなくてもよいし、より低い効率で伸長してもよい。
【0018】
核酸は、追加ヌクレオチドが該核酸に組み込まれたときに「伸長」又は「延長」し、追加ヌクレオチドは、例えば、ヌクレオチドの組み込みを触媒する生体触媒により、核酸の3’末端に組み込まれる。
【0019】
増幅アッセイは、1つの産物をその他の可能な産物よりも優位に(すなわち、大部分であるが100%未満)生じるとき、「選択的」又は「対立遺伝子選択的」である。標的配列のうち目的としない(ミスマッチ)変異配列の増幅が検出可能である限り、アッセイは「対立遺伝子選択的」と記載される。増幅アッセイに関して、「特異的」又は「対立遺伝子特異的」という用語は、可能な産物のうち1つが排他的に形成されるときに使用される。目的としない標的の増幅が検出不可能であるアッセイは、「対立遺伝子特異的」と呼ばれる。しかしながら、検出方法がより高感度になるにつれて、対立遺伝子特異的であることが従前知られていたアッセイが、対立遺伝子選択的であると判明することがある(すなわち、標的のうち目的としない変異配列の増幅が検出可能となる場合がある)と理解されるべきである。したがって、本発明に関して、「対立遺伝子特異的」という用語は、厳密に対立遺伝子特異的な増幅と、対立遺伝子選択的な増幅の両方を包含することが意図される。
【0020】
「遺伝子型」という用語は、細胞又は対象あるいは細胞又は対象の群における遺伝子構成のうちの全部又は一部を意味する。例えば、遺伝子型は、所定の遺伝子座に存在する又はゲノム中に分布する、特定の突然変異及び/又は対立遺伝子(例えば、一ヌクレオチド多型(SNPs)等の多型)を含む。
【0021】
「核酸ポリメラーゼ」という用語は、ヌクレオチドの核酸への組み込みを触媒する酵素を意味する。核酸ポリメラーゼの具体例としては、DNAポリメラーゼ,RNAポリメラーゼ,ターミナルトランスフェラーゼ,逆転写酵素,テロメラーゼ等が挙げられる。
【0022】
「熱安定性酵素」という用語は、所定時間、増加する温度に曝されたときに、安定であって(すなわち、分解又は変性に抵抗する)、かつ十分な触媒活性を維持する酵素を意味する。例えば、熱安定性ポリメラーゼは、二本鎖核酸の変性に必要な時間、増加する温度に曝されたとき、それに続くプライマー伸長反応を生じさせるのに十分な活性を維持する。核酸変性に必要な加熱条件は当業者に周知であり、例えば、米国特許第4,683,202号及び第4,683,195号に記載されている。本明細書中で使用されるように、熱安定性ポリメラーゼは、一般的に、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)等の温度サイクリング反応での使用に適している。熱安定性核酸ポリメラーゼの具体例としては、サーマス・アクアチクス(Thermus aquaticus)Taq DNAポリメラーゼ,サーマスsp.(Thermus sp.)Z05ポリメラーゼ,サーマス・フラバス(Thermus flavus)ポリメラーゼ,サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)ポリメラーゼ,例えば、TMA−25及びTMA−30ポリメラーゼ,Tth DNAポリメラーゼ等が挙げられる。
【0023】
「修飾」酵素は、少なくとも1個のモノマーが参照配列(例えば、天然型又は野生型の酵素)と異なるアミノ酸ポリマーを含む酵素を意味する。修飾の具体例としては、モノマーの挿入、欠失及び置換が挙げられる。修飾酵素には、2種又は3種以上の親酵素に由来する同定可能な構成配列(例えば、構造又は機能ドメイン等)を有するキメラ酵素も含まれる。修飾酵素の定義には、参照配列の化学的修飾を有するものも含まれる。修飾ポリメラーゼの具体例としては、G46E E678G CS5 DNAポリメラーゼ,G46E L329A E678G CS5 DNAポリメラーゼ,G46E L329A D640G S671F CS5 DNAポリメラーゼ,G46E L329A D640G S671F E678G CS5 DNAポリメラーゼ,G46E E678G CS6 DNAポリメラーゼ,ΔZ05ポリメラーゼ,ΔZ05−Goldポリメラーゼ,ΔZ05Rポリメラーゼ,E615G Taq DNAポリメラーゼ,E678G TMA−25ポリメラーゼ,E678G TMA−30ポリメラーゼ等が挙げられる。
【0024】
「5’から3’へのヌクレアーゼ活性」又は「5’−3’ヌクレアーゼ活性」という用語は、核酸鎖の5’末端からヌクレオチドを除去する核酸ポリメラーゼ活性を意味し、この活性は、典型的には、核酸鎖合成に関連し、例えば、E.coli DNAポリメラーゼIはこの活性を有するが、Klenowフラグメントは有しない。
【0025】
「3’から5’へのヌクレアーゼ活性」又は「3’−5’ヌクレアーゼ活性」あるいは「プルーフリーディング活性」という用語は、核酸鎖の3’末端からヌクレオチドを除去する核酸ポリメラーゼ活性を意味する。例えば、E.coli DNAポリメラーゼIIIはこの活性を有するが、サーマス・アクアチクス(Thermus aquaticus)(Taq)DNAポリメラーゼは有しない。
【0026】
「標識」は、分子に(共有結合的又は非共有結合的に)結合し、その分子に関する情報を提供することができる成分(moiety)を意味する。標識の具体例としては、蛍光標識,比色標識(colorimetric label),化学発光標識,生物発光標識,放射性標識,質量修飾基(mass-modifying group),抗体,抗原,ビオチン,ハプテン,及び酵素(例えば、ペルオキシダーゼ,ホスファターゼ等)が挙げられる。
【0027】
「忠実性(fidelity)」又は「複製忠実性(replication fidelity)」は、鋳型依存性重合(template-dependent polymerization)の際、正確なヌクレオチドを組み込む核酸ポリメラーゼの能力である。複製忠実性に関して、新生(nascent)ヌクレオチド鎖における「正確なヌクレオチド」は、標準的なワトソン・クリック塩基対によって、鋳型ヌクレオチドと対を形成するヌクレオチドである。特定のポリメラーゼの複製忠実性は、正確なヌクレオチドの組み込みと、該ポリメラーゼの3’−5’ヌクレアーゼ活性による新生ヌクレオチド鎖の3’末端からの不正確なヌクレオチドの除去との組合せによって生じる。ヌクレオチドポリメラーゼの忠実性に関する様々な測定方法が、Tindall等, (1988) Fidelity of DNA synthesis by the Thermus aquaticus DNA polymerase. Biochemistry, 27:6008-6013に概説されている。典型的には、3’−5’ヌクレアーゼ(プルーフリーディング)活性を有するポリメラーゼの忠実性は、プルーフリーディング活性を有しないポリメラーゼの忠実性よりも高い。
【0028】
「ホットスタート」は、核酸増幅反応との関連において、温度が十分に上昇し、1つのプライマー又は複数のプライマーの必要とされるハイブリダイゼーション特異性が達成されるまで、少なくとも1種の重要な試薬を反応混合物から除いておく(又は、反応混合物に存在する場合には、その試薬は不活性である)というプロトコルを意味する。「ホットスタート酵素」は、ホットスタートプロトコルにおいて、「除いておく」又は不活性である試薬として機能することができる、酵素、典型的には核酸ポリメラーゼである。
【0029】
「選択的ヌクレオチド」は、対立遺伝子選択性をプライマーに付与する、対立遺伝子特異的なプライマーにおけるヌクレオチドである。選択的ヌクレオチドは、標的核酸のうち目的とする変異配列における対応ヌクレオチドと相補的であるが、標的核酸のうち目的としない変異配列における対応ヌクレオチドとは相補的でない。プライマーにおいて、2個以上のヌクレオチドが、標的核酸のうち目的とする変異配列におけるヌクレオチドと相補的であるが、標的核酸のうち目的としない変異配列の対応ヌクレオチドと相補的でない場合もある。但し、選択的ヌクレオチドは、プライマーの特異性に影響を与えるプライマー内の位置に配置される。選択的ヌクレオチドは、標的核酸内に相補的パートナーが見出されるか又は見出されないかに依存して、標的核酸の効率的又は非効率的な増幅を可能とする。プライマーは、2個以上の選択的ヌクレオチドを含んでもよい。
【0030】
「ワトソン・クリック塩基対」又は単に「塩基対」という用語は、二本鎖核酸分子内の「通常の(conventional)」水素結合について使用される。ワトソン・クリック塩基対は、相補的塩基間の水素結合(例えば、アデニン及びチミン間、グアニン及びシトシン間、アデニン及びウラシル間、並びにこれらの塩基のアナログ間の結合)である。
【0031】
本明細書で使用される「スコーピオン」,「スコーピオン様」又は「スコーピオンARMS様」という用語は、Whitcombe等, (1999) Detection of PCR products using self-probing amplicons and fluorescence, Nature Biotech. 17:804-807に記載されるような、単分子であるプライマー−プローブの組合せを意味する。本発明の意義の範囲内において、スコーピオン又はスコーピオン様プライマーは、スコーピオンの典型的な要素、すなわち、プローブ部分,ステムループ部分及びプライマー部分を含む。「スコーピオン」又は「スコーピオン様」プライマー−プローブの単分子形態の具体例が図4に示される。
【0032】
本明細書で使用される、例えば、「標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、標的配列のうち1種のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチドを有する第2のオリゴヌクレオチド」という表現で使用される「内在性」という用語は、3’末端以外の任意のヌクレオチド、例えば、3’末端の内側の1〜5個のヌクレオチドを意味する。
【0033】
「前記ポリメラーゼは、前記選択的ヌクレオチドが前記標的配列と塩基対を形成するときには、前記第2のオリゴヌクレオチドを選択的に伸長させる能力を有するが、前記選択的ヌクレオチドが前記標的配列と塩基対を形成しないときには、その能力が実質的に低下する」という表現は、ポリメラーゼによる第2のオリゴヌクレオチドの伸長が、選択的ヌクレオチドが標的配列と塩基対を形成しないときよりも、選択的ヌクレオチドが標的配列と塩基対を形成するときに、効率的に生じることを意味する。これは、例えば、実施例1に記載の材料及び方法を使用して、測定又は定量化することができ、その結果は図1に示される。
【0034】
本発明によって、新規な対立遺伝子特異的増幅プライマー,該プライマーの設計方法,対立遺伝子特異的増幅における該プライマーの使用方法、該プライマーを含む反応混合物及びキットが開示される。プライマーの設計方法は、単独で使用してもよいし、従来の対立遺伝子特異的プライマーの設計方法と組み合わせて使用してもよい。典型的な対立遺伝子特異的プライマーは、標的配列の多型性領域にハイブリダイズし、かつ少なくとも1個の選択的ヌクレオチド(すなわち、標的配列の多型性ヌクレオチドのうち目的とする変異体に相補的であり、標的配列のうち目的としない変異体に相補的でないヌクレオチド)を含むように設計される。従来は、選択的ヌクレオチドをプライマーの3’末端に配置することが必要であると考えられていた。これは、末端ミスマッチが対立遺伝子特異的増幅の必要条件であると考えられていたためである(Newton等, (1989) Analysis of any point mutation in DNA. The amplification refractory mutation system (ARMS). Nucl. Acids Res. 17:2503-2516参照)。
【0035】
本発明者は、選択的ヌクレオチドの内在的な配置が、プライマーの対立遺伝子特異性を十分に保証することを見出した。末端ミスマッチは、特異性をプライマーに付与するために要求されない。内在性ミスマッチが単独で、ミスマッチしたプライマーのヌクレオチドポリメラーゼによる伸長を十分に阻害する。本発明によれば、選択的ヌクレオチドがプライマーの3’末端の内側、例えば、3’末端の内側の1〜5個のヌクレオチドに配置される。内在性ヌクレオチドがミスマッチするとき、目的としないミスマッチ鋳型は、増幅されないか又は増幅効率が低下するが、目的とするマッチ鋳型は効率よく増幅される。
【0036】
一実施形態において、本発明は、対立遺伝子特異的PCRで使用するためのオリゴヌクレオチド(プライマー)である。本発明のプライマーは、10〜50個、好ましくは15〜35個のヌクレオチドを含み、そのうちの大部分が、標的配列のうち2種以上の変異配列における配列と相補的である。プライマーは、標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチドも含む。
【0037】
幾つかの実施形態において、対立遺伝子特異的プライマーは、その特異性をさらに増加させる化学的修飾を有する1個又は2個以上のヌクレオチドをさらに含む。例えば、核酸塩基の環外アミンの修飾が米国特許第6,001,611号に記載されている。本発明の対立遺伝子特異的プライマーは、1個又は2個以上の核酸塩基の環外アミンにおける修飾を有していてもよい。幾つかの実施形態において、修飾塩基ヌクレオチドは、3’末端ヌクレオチドの上流の1〜5個、好ましくは3個のヌクレオチドに存在する。他の実施形態において、修飾塩基ヌクレオチドは、3’末端ヌクレオチドである。幾つかの実施形態において、修飾塩基ヌクレオチドは、3’末端と、オリゴヌクレオチドプライマー内の他の部分との両方に存在する。さらに別の実施形態において、修飾は、対立遺伝子特異的プライマー内の選択的ヌクレオチドに存在していてもよい。
【0038】
本発明において、環外アミノ基の適当な修飾は、以下の特性の存在に基づいて選択することができる:(1)修飾は、二本鎖核酸における修飾塩基と相補的塩基とのワトソン・クリック塩基対を、妨害するが、阻止しない;(2)修飾は、修飾塩基を含むプライマーの核酸ポリメラーゼによる伸長を妨害するが、阻止しない;(3)修飾は、修飾塩基が組み込まれた鎖と相補的な鎖の合成を可能とする;並びに、(4)修飾は、修飾が組み込まれたプライマーの選択性を増加させる。
【0039】
環外アミノ基の具体例としては、アデノシンの6位,グアノシンの2位及びシチジンの4位におけるアミノ基が挙げられる。相補的な核酸鎖との塩基対に関与する環外アミノ基は、ヌクレオチド内の一般的ではない様々な窒素含有塩基に存在してもよい。一般的ではない塩基を有するヌクレオシドの具体例としては、これらに限定されるわけではないが、3−メチルアデノシン,7−メチルグアノシン,3−メチルグアノシン,5−メチルシチジン,及び5−ヒドロキシメチルシチジンが挙げられる。そのような一般的ではない塩基の環外アミノ基の好適な修飾は、本発明の実証的方法に従って選択してもよい。
【0040】
修飾アデニン,グアニン,及びシトシン塩基を含む修飾ヌクレオチドの構造を、それぞれ、以下に示す。
【0041】
【化1】

【0042】
式中、Sは糖残基を表し、Rは修飾基を表す。上記4つの特性を有する様々な修飾基が想定されている。ある実施形態では、修飾基は、以下の構造を有する:
【0043】
【化2】

【0044】
式中、R1及びR2は、独立して、水素,アルキル,アルコキシ,非置換又は置換アリール及びフェノキシからなる群より選択される。
【0045】
アルキル基は、分岐鎖状であってもよいし、非分岐鎖状であってもよい。
アルキル基は、C1−C20アルキル、特にC1−C10アルキルであり得る。
アルコキシ基は、C1−C20アルコキシ、特にC1−C10アルコキシであり得る。
アリールは、非置換又は置換フェニル又はナフチルであり得る。
【0046】
一実施形態において、Rはベンジル基又は置換ベンジル基である。ある実施形態において、置換ベンジル基は、以下の構造を有し得る:
【0047】
【化3】

【0048】
式中、R3は、C1−C6分岐鎖状又は非分岐鎖状アルキル基、好ましくは、C1−C4分岐鎖状又は非分岐鎖状アルキル基,アルコキシ基,又はニトロ基を表す。好ましくは、R3はパラ位に結合している。
【0049】
幾つかの実施形態において、修飾基は、以下の構造によって表される:
【0050】
【化4】

【0051】
一般的に、本明細書に記載された化合物群からの、特定の好適な修飾基の実験的選択は、上記4つの特性の存在に基づいて、当業者が常法に従って実施することができる。好ましくは、特定の基の適合性は、対立遺伝子特異的増幅反応において、修飾ヌクレオチドを有するプライマーを使用することにより、実験的に決定される。修飾の適合性は、塩基修飾を有するプライマーを使用した反応の選択性が、未修飾プライマーを使用した同一の反応と比較したときに増加することによって示される。
【0052】
プライマーと鋳型との間のミスマッチの追加は、プライマーと標的配列のうち目的としない変異配列との間のハイブリッドをさらに不安定化する。対立遺伝子特異的プライマーのデザインの最適化方法は、Newton等(1989)(前出)中に見出すことができる。
【0053】
本発明の対立遺伝子特異的プライマーには、当業者に公知の様々な態様のプライマーデザインを組み入れることができる。例えば、プライマーは、Whitcombe等, (1999) Detection of PCR products using self-probing amplicons and fluorescence, Nature Biotech. 17:804-807に記載された「スコーピオン」と呼ばれる、単分子であるプライマー−プローブの組合せの形態をとることができる。本発明に従って設計されたスコーピオンプライマーは、スコーピオンの典型的な要素、すなわち、プローブ部分、ステムループ部分及びプライマー部分を含む。さらに、本発明に従って設計されたスコーピオンにおいて、プライマー部分は内部に配置された選択的ヌクレオチドを含む。必要に応じて、本発明に従って設計されたスコーピオンにおけるプライマー部分は、1個又は2個以上の化学的に修飾されたヌクレオチドを含むことができる。
【0054】
要約すると、本発明の対立遺伝子特異的プライマーは、少なくとも以下の4つの特徴を有する:1)標的配列のうち目的とする変異配列及び目的としない変異配列の両方と少なくとも部分的に相補的な5’側部分;2)標的配列のうち目的とする変異配列のみと相補的であり、3’側部分内に配置された内在性選択的ヌクレオチド;3)標的配列のうち目的とする変異配列及び目的としない変異配列の両方と少なくとも部分的に相補的な3’側部分;並びに4)標的配列のうち目的とする変異配列及び目的としない変異配列の両方と相補的な3’末端ヌクレオチド。5’側部分及び3’側部分は、プライマーの3’末端ヌクレオチドが標的配列のうち目的とする変異配列及び目的としない変異配列の両方と相補的である限り、標的配列のうち目的とする変異配列のみと相補的な選択的ヌクレオチドをさらに含んでもよい。
【0055】
対立遺伝子特異的プライマーの好適な5’側部分及び3’側部分の実験的選択は、当業者が常法に従って実施することができる。具体的には、プライマーの長さ、5’側部分及び3’側部分の相補性の程度、並びに5’側部分及び3’側部分のヌクレオチドの化学的修飾は、プライマーが上記4つの特徴を有する限り、変更可能である。好ましくは、特定の対立遺伝子特異的プライマーの適合性は、対立遺伝子特異的増幅におけるプライマーの使用によって実験的に決定される。プライマーの適合性は、プライマーを使用した増幅の選択性によって示される。
【0056】
別の態様において、本発明は、標的核酸を対立遺伝子特異的に増幅する方法である。増幅は、プライマーの3’末端の内側(例えば、3’末端の内側の1〜5個のヌクレオチド)に位置する選択的ヌクレオチドを有する対立遺伝子特異的プライマーを使用して実施される。
【0057】
一実施形態において、本発明は、数種の変異配列の形態で存在する標的配列のうち1種の変異配列を対立遺伝子特異的に増幅する方法であり、該方法は、標的配列のうち少なくとも1種の変異配列を含有する可能性があるサンプルを準備するステップ;標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的な第1のオリゴヌクレオチドを準備するステップ;標的配列のうち1種又は2種以上と少なくとも部分的に相補的であり、標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチドを有する第2のオリゴヌクレオチドを準備するステップ;第1及び第2のオリゴヌクレオチドの、標的配列のうち少なくとも1種の変異配列へのハイブリダイゼーションに適した条件を整えるステップ;核酸ポリメラーゼによるオリゴヌクレオチド伸長に適した条件を整えるステップ;ここで、該ポリメラーゼは、第2のオリゴヌクレオチドが、標的配列のうち、第2のオリゴヌクレオチドが有する内在性選択的ヌクレオチドと相補的な変異配列にハイブリダイズするときには、第2のオリゴヌクレオチドを伸長させる能力を有するが、第2のオリゴヌクレオチドが、標的配列のうち、第2のオリゴヌクレオチドが有する内在性選択的ヌクレオチドと相補的ではない変異配列にハイブリダイズするときには、その能力が実質的に低下する;並びに、一連のハイブリダイゼーション及び伸長ステップを複数回繰り返すステップを含む。
【0058】
本発明の幾つかの実施形態において、増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応、すなわち、鋳型の変性,オリゴヌクレオチドプライマーの鋳型へのアニーリング(ハイブリダイゼーション),及び核酸ポリメラーゼによるプライマーの伸長というサイクルの繰り返しによって実施される。幾つかの実施形態において、アニーリング及び伸長は、同じ温度ステップで生じる。
【0059】
幾つかの実施形態において、増幅反応は、ホットスタートプロトコルによって実施される。対立遺伝子特異的増幅との関連において、ミスマッチ標的配列に対する対立遺伝子特異的プライマーの選択性は、ホットスタートプロトコルの使用によって向上させることができる。数多くのホットスタートプロトコルが当業者に公知であり、例えば、ワックスの使用,他の反応混合物からの重要な試薬の分離(米国特許第5,411,876号),抗体によって可逆的に不活性化される核酸ポリメラーゼの使用(米国特許第5,338,671号),活性部位に特異的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドによって可逆的に不活性化される核酸ポリメラーゼの使用(米国特許第5,840,867号)、又は可逆性の化学的修飾を有する核酸ポリメラーゼの使用(米国特許第5,677,152号及び第5,773,528号)が挙げられる。
【0060】
本発明の幾つかの実施形態において、対立遺伝子特異的増幅アッセイは、リアルタイムPCRアッセイである。リアルタイムPCRアッセイにおいて、増幅の指標は、Ct値(すなわち「threshold cycle」)である。対立遺伝子特異的リアルタイムPCRアッセイとの関連において、マッチ鋳型及びミスマッチ鋳型間のCt値の差は、対立遺伝子間の区別又はアッセイの選択性の指標となる。差の増加は、ミスマッチ鋳型の増幅の遅延の増加、したがって対立遺伝子間の区別の増加を示す。通常、ミスマッチ鋳型は、マッチ鋳型よりも多量に存在する。例えば、組織サンプルにおいて、ごく少量の細胞が、悪性であり、対立遺伝子特異的増幅アッセイによって標的化された変異(「マッチ鋳型」)を有する場合がある。正常細胞に存在するミスマッチ鋳型は、増幅効率が低い場合があるが、多数の正常細胞は、増幅の遅延を克服し、変異鋳型の優位性を打ち消すであろう。野生型鋳型に存在する珍しい変異を検出するために、対立遺伝子特異的増幅アッセイの特異性は重要である。
【0061】
本発明の対立遺伝子特異的増幅アッセイでは、当業者に公知の適当な核酸ポリメラーゼを使用することができる。本発明の対立遺伝子特異的PCRアッセイのために、任意の熱安定性核酸ポリメラーゼを使用することができる。修飾された、遺伝子操作された又はキメラのポリメラーゼも使用することができる。プルーフリーディング(3’−5’−エキソヌクレアーゼ)活性を有しない酵素(例えば、Taq DNAポリメラーゼ)を使用することが望ましい場合もある。実質的に又は完全に5’−3’ヌクレアーゼ活性を欠く酵素(例えば、米国特許第5,795,762号に記載された酵素)を使用することが望ましい場合もある。そのような酵素の一例は、ΔZ05ポリメラーゼである。「ホットスタート」能力を有する酵素(例えば、米国特許第5,677,152号及び第5,773,528号に記載された、可逆的に修飾された酵素)を使用することが望ましい場合もある。ホットスタート酵素の一例は、ΔZ05−Goldポリメラーゼである。対立遺伝子特異的プライマーの特異性は、異なる酵素間で若干変化する可能性があることが一般的に知られている(Newton等, (1989) Analysis of any point mutation in DNA. The amplification refractory mutation system (ARMS). Nucl. Acids Res. 17:2503-2516参照)。Newton(前出)に記載されたプロトコルに基づいて、当業者は、各酵素の最大特異性を実現して特定のアッセイに関する最良の酵素を選択するために、例えば、塩濃度及び温度プロファイルを変化させることにより、反応パラメーターを最適化することができる。
【0062】
本発明の対立遺伝子特異的PCRの特別な利点は、プルーフリーディング3’−5’−ヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを使用できることである。そのような酵素の具体例は、米国特許第7,148,049号に見出すことができる。そのような酵素は、例えば、Thermatoga Maritimaを含む。これらの酵素は、典型的には、プルーフリーディング活性を有しない酵素よりも高い忠実性(すなわち、最終産物に誤って組み込まれたヌクレオチドが少ない)を有する。例えば、Taq DNAポリメラーゼ(プルーフリーディング機能を有していない)のエラー率は約10-4である(Tindall等, (1988) Fidelity of DNA synthesis by the Thermus aquaticus DNA polymerase. Biochemistry, 27:6008-6013参照)。これに対して、プルーフリーディング熱安定性Pfu DNAポリメラーゼのエラー率は約10-6である(Andre等, (1997) Fidelity and mutational spectrum of Pfu DNA polymerase on a human mitochondrial DNA sequence, Genome Res. 7:843-852参照)。本発明よりも以前は、高忠実性プルーフリーディングポリメラーゼを対立遺伝子特異的PCRに使用することはできなかった(米国特許第5,639,611号参照)。酵素のヌクレアーゼ活性は、ミスマッチした選択的ヌクレオチドをプライマーの3’末端から除去し、これにより、プライマーの対立遺伝子特異性を消去する。本発明において、対立遺伝子特異的プライマーは、3’末端ではなく内部に選択的ヌクレオチドを有する。内部ミスマッチは、プルーフリーディング酵素のエキソヌクレアーゼ活性に対する非効率な基質である。エキソヌクレアーゼのミスマッチヌクレオチド除去能力は、ミスマッチが3’末端から離れて位置するとき、劇的に減少することが観察されている(Fidalgo-Da Silva等, (2007) DNA polymerase proofreading: active site switching catalyzed by the bacteriophage T4 DNA polymerase, Nucl. Acids Res. 35:5452-5463参照)。3個のヌクレオチドの除去率は、2個のヌクレオチドよりも低い(Reddy等, (1992) Processive proofreading is intrinsic to T4 DNA polymerase. J. Biol. Chem. 267:14157-14166参照)。したがって、本発明の内在性選択的ヌクレオチドを有するプライマーは、プルーフリーディングヌクレオチドポリメラーゼと使用されてもよい。当業者は、反応条件を最適化する方法を理解しており、例えば、反応緩衝液の組成及び核酸前駆物質の濃度を変化させることにより、対立遺伝子特異的増幅に支障を来すことなく酵素のエキソヌクレアーゼ活性を最小化させることができる。ポリメリゼーションに適した条件及び様々な核酸ポリメラーゼのヌクレアーゼ消化活性に適した条件に関しては、Goodman等, (1993) Biochemical basis of DNA replication fidelity, Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol. 28:83-126を参照のこと。
【0063】
本発明の方法の幾つかの実施形態において、増幅産物は、当業者に公知の技術、例えば、これらに限定されるわけではないが、標識化プライマー及びプローブ並びに様々な核酸結合性色素の使用によって検出することができる。検出手段は、標的配列のうち1種の変異配列に特異的であってもよいし、標的配列の全ての変異配列に一般化されてもよいし、全ての二本鎖DNAに一般化されてもよい。
【0064】
増幅産物は、増幅が完了した後に、例えば、非標識産物のゲル電気泳動及び核酸結合性色素によるゲル染色によって検出することができる。また、増幅産物は、例えば、合成中の組み込みにより又は標識化プライマーの伸長産物であることにより、放射性又は化学的標識を有することができる。電気泳動の後又はその間に、標識化増幅産物は、当業者に公知の適当な放射性物質又は化学的ツールによって検出することができる。電気泳動の後、産物は、当業者に公知の方法のいずれか1つで標識化された標的特異的プローブによって検出することもできる。標識化プローブは、電気泳動なしで(すなわち、「ドットブロット」アッセイ等において)標的に適用することもできる。
【0065】
その他の実施形態において、増幅産物の存在は、ホモジニアスアッセイ、すなわち、新生産物が、増幅サイクル間に又は少なくとも同じ未開封チューブ中で検出され、増幅後の操作が必要とされないアッセイにおいて、検出することができる。ホモジニアス増幅アッセイは、例えば、米国特許第5,210,015号に記載されている。核酸インターカレーティング色素を使用したホモジニアス増幅アッセイは、例えば、米国特許第5,871,908号及び第6,569,627号に記載されている。ホモジニアスアッセイでは、相互作用する2つのフルオロフォアで標識された蛍光プローブ、例えば、「分子ビーコン(molecular beacon)」プローブ(Tyagi等, (1996) Nat. Biotechnol., 14:303-308)又は蛍光標識化ヌクレアーゼプローブ(Livak等, (1995) PCR Meth. Appl., 4:357-362)を使用することもできる。増幅産物は、「スコーピオン」と呼ばれる単分子であるプライマー−プローブの組合せを使用して検出することもできる(Whitcombe等, (1999) Detection of PCR products using self-probing amplicons and fluorescence, Nature Biotech. 17:804-807参照)。スコーピオンオリゴヌクレオチドのプライマー部分は、本発明に従って設計された対立遺伝子特異的プライマーであり得る。
【0066】
本発明の方法のある変更例において、増幅産物は、その特徴的な融解温度によって同定することもできる(例えば、米国特許第5,871,908号及び第6,569,627号)。
【0067】
別の実施形態において、本発明は、数種の変異配列の形態で存在する標的配列のうち目的とする変異配列を選択的に増幅するための反応混合物であって、標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的な第1のオリゴヌクレオチド、及び、標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチドを有する第2のオリゴヌクレオチドを含む反応混合物を提供する。反応混合物は、第2のオリゴヌクレオチドが、標的配列のうち、第2のオリゴヌクレオチドが有する内在性選択的ヌクレオチドと相補的な変異配列にハイブリダイズするときには、第2のオリゴヌクレオチドを伸長させる能力があるが、第2のオリゴヌクレオチドが、標的配列のうち、第2のオリゴヌクレオチドが有する内在性選択的ヌクレオチドと相補的ではない変異配列にハイブリダイズするときには、その能力が実質的に低下する核酸ポリメラーゼを含むことができる。幾つかの実施形態において、反応混合物は、核酸の増幅に一般的に必要とされる試薬及び溶液、例えば、核酸前駆物質(すなわち、ヌクレオシド三リン酸)、並びにヌクレオチドポリメラーゼの活性の補助に適した有機及び無機イオンをさらに含む。
【0068】
別の実施形態において、本発明は、本発明の対立遺伝子特異的増幅を実施するためのキットを提供する。本発明のキットは、一般的には、アッセイ特異的な要素と、核酸増幅を実施するために一般的に必要とされる要素とを含む。アッセイ特異的な要素として、本発明の対立遺伝子特異的増幅キットは、標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的な第1のオリゴヌクレオチド;標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチドを有する第2のオリゴヌクレオチド;並びに、必要に応じて、キットに含まれるオリゴヌクレオチドと少なくとも部分的に相補的な、標的配列の少なくとも1種の変異配列を含む対照核酸配列を含む。幾つかの実施形態において、2種以上の対照核酸配列が含まれる。核酸増幅に一般的に必要とされる要素として、本発明のキットは、1種又は2種以上の核酸ポリメラーゼ、核酸前駆物質(例えば、ヌクレオシド三リン酸、デオキシリボヌクレオシド三リン酸、又はリボヌクレオシド三リン酸)、核酸の加ピロリン酸分解(pyrophosphorolysis)を最小化するためのピロホスファターゼ、増幅反応をキャリーオーバー汚染から保護するためのウラシルN−グリコシラーゼ(UNG)、増幅反応及び検出に必要な予め調製された試薬及び緩衝液、並びに本発明の対立遺伝子特異的増幅を実施するための説明書一式を含むことができる。
【0069】
下記実施例及び図面は、本発明の理解を助ける目的で提供されており、本発明の真の範囲は、特許請求の範囲に示されている。本発明の目的の範囲内において変更が可能であると理解されるべきである。
【実施例】
【0070】
下記実施例において、鋳型配列の2種の変異配列、すなわち、対立遺伝子特異的プライマー内の選択的ヌクレオチドと相補的な配列を有するマッチ変異配列と、対立遺伝子特異的プライマー内の選択的ヌクレオチドと相補的でない配列を有するミスマッチ変異配列とを使用した。
【0071】
実施例では、マッチ標的配列として、ヒトBRAF遺伝子(GeneBank参照)のV600E変異配列を使用した。マッチ変異配列は、BRAFのV600E変異配列(配列番号19)が組み込まれた挿入配列を有するプラスミドDNAであり、ミスマッチ変異配列は、BRAFの野生型配列(配列番号20)を有する同じプラスミドであった。
【0072】
配列番号19(BRAFのV600E変異配列フラグメント)
5’-AGTAAAAATAGGTGATTTTGGTCTAGCTACAGAGAAATCTCGATGGAGTGGGTCCCATCAGTTTGAACAGTTGTCTGGATCCATTTTGTGGATGGTAAGAATTGAGGCTA-3’
【0073】
配列番号20(BRAFの野生型配列フラグメント)
5’-AGTAAAAATAGGTGATTTTGGTCTAGCTACAGTGAAATCTCGATGGAGTGGGTCCCATCAGTTTGAACAGTTGTCTGGATCCATTTTGTGGATGGTAAGAATTGAGGCTA-3’
【0074】
この変異は、BRAF遺伝子のヌクレオチド1799におけるチミン(T)からアデニン(A)への変化によって生じる、アミノ酸600のバリンからグルタミン酸への変化である。この変異は、多くの癌で観察され、MAPK経路の構成的活性化を生じるため、癌の進行の一因であると考えられている。腫瘍細胞群におけるこの単一ヌクレオチド変化の検出は、ヒト癌の診断及び治療に有用である。
【0075】
変異標的は、「マッチ」する、すなわち、各対立遺伝子特異的プライマーの選択的ヌクレオチド(表A)とA−Tワトソン・クリック塩基対を形成する。ミスマッチ標的は、野生型BRAF配列である。ミスマッチ標的は、各対立遺伝子特異的プライマーの選択的ヌクレオチドとミスマッチを形成する。
【0076】
【表1】

【0077】
実施例1
内在性選択的ヌクレオチドを有するプライマーを使用した対立遺伝子特異的増幅
本実施例において、鋳型配列の2種類の変異配列、すなわち、対立遺伝子特異的プライマー内の選択的ヌクレオチドと相補的な配列を有するマッチ変異配列と、対立遺伝子特異的プライマー内の選択的ヌクレオチドと相補的でない配列を有するミスマッチ変異配列とを使用した。マッチ変異配列は、V600E変異を有するBRAF配列に相当する挿入配列を有するプラスミドDNAであった。ミスマッチ変異配列は、BRAF野生型配列を有する同じプラスミドであった。フォワードプライマー(配列番号1〜4)及びリバースプライマー(配列番号11)は、表Aに示される。フォワード対立遺伝子特異的プライマーは、3’末端の内側の選択的ヌクレオチドをN−2位に有するように設計された。幾つかのプライマーは、表に示される化学的修飾を含んでいた。
【0078】
各50μL反応液は、105コピーのいずれかの標的配列,8%のグリセロール,50mMのトリシン(pH7.7),45mMの酢酸カリウム(pH7.5),それぞれ200μMのdATP,dCTP及びdGTP,400μMのdUTP,0.1μMのフォワードプライマー,0.7μMのリバースプライマー,2μMのSyto−13インターカレーティング色素,1%のDMSO,2ユニットのウラシル−N−グリコシラーゼ(UNG),50ユニットのΔZ05−Gold DNAポリメラーゼ,及び3mMの酢酸マグネシウムを含有していた。増幅及び解析は、Roche LightCycler480装置を使用して実施した。反応液は、次の温度プロファイルに供した:50℃で5分間(UNGステップ),95℃で10分間,その後、95℃で15秒間及び59℃で40秒間を60〜70サイクル。蛍光データは、59℃の各ステップの終点において、495〜525nmで集めた。
【0079】
結果を図1及び表1に示す。増幅の選択性は、マッチ標的とミスマッチ標的との間のCt値の差(ΔCt)によって測定される。各実験に関するΔCtは、各図表に示される。データは、標的配列のうちマッチ(変異型)変異配列がミスマッチ(野生型)変異配列よりも選択的に増幅されたことを示す。選択性は、プライマー内のヌクレオチドの化学的修飾によって促進された。この表において、位置Nは、3’末端に対するヌクレオチドの位置を意味する。
【0080】
【表2】

【0081】
実施例2
内在性選択的ヌクレオチドを有するプライマー及び様々な核酸ポリメラーゼを使用した対立遺伝子特異的増幅
本実施例において、実施例1と同じマッチ(変異型)標的配列及びミスマッチ(野生型)標的配列を、表Aに示すプライマーを使用して増幅した。増幅は、Z05,ΔZ05,又はΔZ05−Goldポリメラーゼの存在下で実施した。
全ての反応は、105コピーのいずれかの標的配列,それぞれ200μMのdATP,dCTP及びdGTP,400μMのdUTP,0.1μMのフォワードプライマー,0.7μMのリバースプライマー,2μMのSyto−13インターカレーティング色素,1%のDMSO,0.04U/μLのウラシル−N−グリコシラーゼ(UNG),及び3mMの酢酸マグネシウムを含有する15μL中で、3回実施した。Z05反応液は、3Uのポリメラーゼ,130mMの酢酸カリウム(pH7.5),5%のグリセロール,及び50mMのトリシン(pH8.3)を含有していた。ΔZ05反応液は、3Uのポリメラーゼ,25mMの酢酸カリウム(pH7.5),5%のグリセロール,及び50mMのトリシン(pH8.3)を含有していた。ΔZ05−Gold反応液は、15Uのポリメラーゼ,45mMの酢酸カリウム(pH7.5),8%のグリセロール,及び50mMのトリシン(pH7.7)を含有していた。
【0082】
増幅及び解析は、Roche LightCycler480装置を使用して実施した。反応液は、次の温度プロファイルに供した:50℃で5分間(UNGステップ),95℃で10分間、その後、95℃で15秒間及び59℃で40秒間を99サイクル。蛍光データは、59℃の各ステップの終点において、465〜510nmで集めた。
【0083】
結果を表2に示す。増幅の選択性は、マッチ標的配列とミスマッチ標的配列との間のCt値の差(ΔCt)によって測定される。各実験に関するΔCtは、表2に示される。データは、標的のマッチ(変異型)変異配列がミスマッチ(野生型)変異配列よりも選択的に増幅されたことを示す。選択性は、プライマー内のヌクレオチドのアルキル修飾によって促進された。この表において、位置Nは、3’末端に対するヌクレオチドの位置を意味する。
【0084】
【表3】

【0085】
実施例3
内在性塩基修飾及び/又は内在性選択的ヌクレオチドを有するスコーピオンARMS様プライマーを使用した対立遺伝子特異的増幅
【0086】
【表4】

【0087】
本実施例において、鋳型配列の2種の変異配列、すなわち、プライマー配列に相補的なマッチ変異配列とミスマッチ変異配列とが等量で存在していた。マッチ変異配列は、BRAFのV600E変異配列(配列番号1)に相当する挿入配列を有するプラスミドDNAであり、ミスマッチ変異配列は、BRAF野生型配列(配列番号2)を有する同じプラスミドであった。フォワードプライマー(配列番号6,9,12−17)及びリバースプライマー(配列番号11)は、表3に記載されている。フォワードASPCRプライマーは、SNPを3’末端に又はその付近に有し、N6−tert−ブチル−ベンジル−dA修飾を有するか又は有しないように設計された。ASPCRプライマーは、下流検出プローブ(配列番号18)と組み合わせられるか、又は閉鎖型スコーピオンARMS様フォーマット(closed Scorpion ARMS-like format)でプローブ相補体(probe complement)に結合している。
【0088】
各反応液50μLは、105コピーのいずれかの標的配列,5%のグリセロール,50mMのトリシン(pH8.3),150mMの酢酸カリウム(pH7.5),それぞれ200μMのdATP,dCTP及びdGTP,400μMのdUTP,0.4μMのフォワードプライマー,0.4μMのリバースプライマー,1%のDMSO,2ユニットのウラシル−N−グリコシラーゼ(UNG),10ユニットのZ05ポリメラーゼ,及び3mMの酢酸マグネシウムを含有していた。0.2μMの検出プローブを、プライマー6,9,12及び14を含有する反応液に加えた。なお、プローブ相補体はフォワードプライマーに結合していない。
【0089】
増幅及び分析を、Roche LightCycler480装置を使用して実施した。反応液を次の温度プロファイルに供した:50℃で5分間(UNGステップ)、その後、95℃で15秒間及び59℃で40秒間を95サイクル。59℃の各アニール/伸長ステップの終点において、495〜525nmの範囲で蛍光データを集めた。
【0090】
結果を図2及び表4に示す。増幅の選択性は、マッチ標的配列とミスマッチ標的配列との間のCt値の差(ΔCt)によって測定される。各試験のΔCtは、各図表に示され、表4に要約される。データは、別個のプライマー及びプローブを使用するか、又は閉鎖型スコーピオンARMS様フォーマットで結合したプライマー及びプローブを使用した場合に、標的のうちマッチ(変異型)変異配列が、ミスマッチ(野生型)変異配列よりも選択的に増幅されたことを示す。差は、選択的ヌクレオチドが3’末端に位置したか又は内部に位置したかによって生じた。さらに、増幅の選択性は、1又は2以上のアルキル修飾の付加によって促進された。
【0091】
【表5】

【0092】
本発明の詳細は実施例に記載されているが、本発明の範囲内において様々な変更を加えることができることは、当業者にとって明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、本明細書に記載された実施例に限定されるべきではなく、特許請求の範囲によって特定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数種の変異配列の形態で存在する標的配列のうち1種の変異配列を対立遺伝子特異的に増幅する方法であって、
(a)第1及び第2のオリゴヌクレオチドを、前記標的配列のうち少なくとも1種の変異配列にハイブリダイズさせるステップ、ここで、前記第1のオリゴヌクレオチドは、前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、前記第2のオリゴヌクレオチドは、前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、前記標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチドを有する、
(b)核酸ポリメラーゼによって前記第2のオリゴヌクレオチドを伸長させるステップ、ここで、前記ポリメラーゼは、前記選択的ヌクレオチドが前記標的配列と塩基対を形成するときには、前記第2のオリゴヌクレオチドを選択的に伸長させる能力を有するが、前記選択的ヌクレオチドが前記標的配列と塩基対を形成しないときには、その能力が実質的に低下する、
を含む方法。
【請求項2】
ステップ(b)における前記核酸ポリメラーゼが、前記選択的ヌクレオチドが前記標的配列と塩基対を形成するときにのみ、前記第2のオリゴヌクレオチドを伸長させることができる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記選択的ヌクレオチドが、前記オリゴヌクレオチドの3’末端付近の1〜5個のヌクレオチドに位置する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)におけるプライマー伸長産物を検出するステップ(c)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記核酸ポリメラーゼが、Taq DNAポリメラーゼ,Z05 DNAポリメラーゼ,ΔZ05 DNAポリメラーゼ及びΔZ05−Gold DNAポリメラーゼからなる群より選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸ポリメラーゼが3’−5’ヌクレアーゼ活性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記核酸ポリメラーゼが、Pfu DNAポリメラーゼ及びサーモトガ・マリティマ(Thermatoga Maritima)からなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(a)における前記変異配列が、ヒトBRAF,EGFR,PIK3CA又はKRAS遺伝子のV600E変異配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のオリゴヌクレオチドが配列番号11である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のオリゴヌクレオチドが、配列番号1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,12,13,14,15,16及び17からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
数種の変異配列の形態で存在する標的配列のうち1種の変異配列を検出する方法であって、
(a)第1及び第2のオリゴヌクレオチドを、前記標的配列のうち少なくとも1種の変異配列にハイブリダイズさせるステップ、ここで、前記第1のオリゴヌクレオチドは、前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、前記第2のオリゴヌクレオチドは、前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、前記標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチドを有する、
(b)核酸ポリメラーゼによって前記第2のオリゴヌクレオチドを伸長させるステップ、ここで、前記ポリメラーゼは、前記選択的ヌクレオチドが前記標的配列と塩基対を形成するときには、前記第2のオリゴヌクレオチドを選択的に伸長させる能力を有するが、前記選択的ヌクレオチドが前記標的配列と塩基対を形成しないときには、その能力が実質的に低下する、並びに
(c)前記オリゴヌクレオチドの伸長産物を検出するステップ、ここで、前記伸長は、前記オリゴヌクレオチドが有する選択的ヌクレオチドと相補的な標的配列の変異配列の存在を表す、
を含む方法。
【請求項12】
数種の変異配列の形態で存在する標的配列を対立遺伝子特異的に増幅するためのキットであって、
(a)前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的な第1のオリゴヌクレオチド、及び
(b)前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、前記標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチドを有する、第2のオリゴヌクレオチド
を含むキット。
【請求項13】
核酸ポリメラーゼ、ヌクレオシド三リン酸、前記核酸ポリメラーゼによる核酸伸長に適した緩衝液、及び対立遺伝子特異的増幅を実施するための説明書をさらに含む、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
数種の変異配列の形態で存在する標的配列の対立遺伝子特異的増幅を実施するためのオリゴヌクレオチドであって、
(a)前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列の一部分と少なくとも部分的に相補的な配列、
(b)前記標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチド
を含むオリゴヌクレオチド。
【請求項15】
環外アミノ基が共有結合的に修飾された塩基を有する少なくとも1個のヌクレオチドをさらに含む、請求項14に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項16】
環外アミノ基が共有結合的に修飾された塩基を有するヌクレオチドの構造が、下記群:
【化1】

[式中、Sは糖残基を表し、Rは修飾基を表す。]
から選択される、請求項15に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項17】
前記修飾ヌクレオチドが、3’末端に対して5位、4位、3位、2位又は1位に存在する、請求項16に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項18】
環外アミノ基が共有結合的に修飾された前記塩基が、下記式:
【化2】

[式中、R1及びR2は、独立して、水素、アルキル、アルコキシ、非置換又は置換アリール及びフェノキシからなる群より選択される。]
の修飾基を含む、請求項17に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項19】
前記修飾基が、下記式:
【化3】

[式中、R3は、C1−C6アルキル、アルコキシ及びニトロからなる群より選択される。]
を有する、請求項18に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項20】
前記修飾基が、下記群:
【化4】

から選択される、請求項19に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項21】
環外アミノ基が共有結合的に修飾された前記塩基が、N6−ベンジル−アデニン,N6−パラ−tert−ブチル−ベンジルアデニン,N2−アルキル−グアニン及びN4−ベンジル−シトシンからなる群より選択される、請求項16に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項22】
配列番号1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,12,13,14,15,16及び17からなる群より選択された配列を有する、請求項14に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項23】
スコーピオン型である、請求項15に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項24】
数種の変異配列の形態で存在する標的配列を対立遺伝子特異的に増幅するための反応混合物であって、
(a)前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的な第1のオリゴヌクレオチド、及び
(b)前記標的配列のうち1種又は2種以上の変異配列と少なくとも部分的に相補的であり、前記標的配列のうち1種の変異配列のみと相補的な少なくとも1個の内在性選択的ヌクレオチドを有する、第2のオリゴヌクレオチド
を含む反応混合物。
【請求項25】
核酸ポリメラーゼ、ヌクレオシド三リン酸、及び前記核酸ポリメラーゼによる核酸伸長に適した緩衝液をさらに含む、請求項24に記載の反応混合物。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−513360(P2013−513360A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542402(P2012−542402)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007560
【国際公開番号】WO2011/069677
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】