説明

核酸分析デバイス、及び核酸分析装置

【課題】従来の核酸分析デバイスおよび核酸分析装置において、核酸一分子を簡便かつ高効率に配列する技術はなかった。
【解決手段】本発明は、支持基板の所定位置に微小な金属製の接着用パッドを設け、当該接着用パッドに対し、疎水性を有するリンカーを固着させ、当該リンカーに核酸試料断片一分子を固定した嵩高い微粒子を結合させることにより、短時間かつ安価で、再現性がよい高効率な核酸の一分子固定を可能にした。本発明により、核酸分析装置を用いた核酸分析デバイスにおいて、読み取塩基長を長くでき、かつ多種類の被解析核酸分子を一度に解析可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸分析デバイスおよびそれを用いた核酸分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAやタンパク質等の標的物質を検出する手段として、標的物質に蛍光標識を施し、レーザ等所定の励起光を照射して発生する蛍光を検出する方法が広く用いられている。これらの応用として、基板にDNAやRNAを固定してその塩基配列を決定する並列シーケンサが提案されている。現在市販されている並列シーケンサは読み取るDNA断片を大量に並べることで、1回の分析あたりの塩基解読数と並列数を飛躍的に向上させている。これらの並列シーケンサの多くは複製したDNA鎖の束(クラスタ)を対象に塩基配列を解読する。しかし、クラスタの作製は時間や試薬のコストがかかるだけでなく、DNA鎖間でシーケンス反応のタイミングがずれる現象(ディフェイジング)が起きるためリード長は制限される。また、増幅し易いDNAと増幅されにくいDNAの間に偏りが生じるため定量解析には向かない。そこで、これらの欠点を解消できる方式として、一分子DNAシーケンス法が提案されている。本方式では単一DNA分子毎に塩基配列が決定できるため、従来技術の問題であったクローニングやPCR等での試料DNAの精製、増幅が不要にでき、ゲノム解析や遺伝子診断の迅速化が期待できる。この方式の一つとしてPacific Biosciences社のSMRT法がある(非特許文献1参照)。SMRT法はzero-mode waveguidances(ZMW)と呼ばれる数十nmの穴を多数並べた基板を作製しておき、その穴にポリメラーゼを一分子ずつ配置させる。そこに蛍光色素付きヌクレオチドを取り込ませて伸長させながら蛍光検出を行うことにより各断片の配列情報を得る。伸長させながら検出を行うこの方法は一般的にSequencing by synthesisと呼ばれる。しかし、ZMWを使用する場合、ポリメラーゼの一分子配置は確率に依存するため、多数作製したすべての穴のうちポリメラーゼ一分子が配置したものは理論上、多くとも30%程度にとどまる。Sequencing by synthesisは連続した塩基伸長反応を検出するため、一回の伸長反応が終わるまで検出する視野を移動することができない。したがって、一度に多くのサンプルを測定するには、できるだけ高密度に固定することが望まれ、最終的なシーケンシングの性能を決定する要因となる。
【0003】
DNAなどの核酸等の化学物質を分析用デバイスに複数固定させる技術について種々報告されていた(特許文献1及び2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0014151号明細書
【特許文献2】特開2010-172271号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Science 2009, Vol. 323. pp. 133-138
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では金属材料と石英で構成されたデバイスに選択結合性のある化学物質を吸着させることで生体分子の選択的固定を実現し、デバイス表面にパターンを形成させている。しかし、特許文献1に記載の固定方法においては、半導体プロセスで作製した基板に数nmサイズの小分子を複数固定しており、このような方法では原理上、高確率な核酸一分子固定は不可能である。一方、特許文献2のように予め嵩高い微粒子に核酸プローブを一分子だけ捕捉させ、その微粒子を任意に配列した金属製接着用パッドに選択的に固定する方法がある。その実施例として、微粒子と接着用パッドをつなぐリンカー分子に接着用パッドに選択的に吸着する官能基を有する分子を用い、この分子内にビオチンを付加している。一方の微粒子にはアビジンを修飾することで、アビジン-ビオチン結合による固定を行う。この方法により接着用パッドに微粒子を1つずつ固定することができ、核酸の一分子固定が可能となる。しかし、この方法の問題点として微小の接着用パターンに官能基を介してビオチンを導入する場合、ビオチンの導入密度が低い接着用パッドができてしまうことがあった。これは結合分子あたりのビオチン導入量の低さとビオチン化結合分子合成反応のばらつきに起因するものと考えられる。こうしたビオチンの例に限らず、分析用デバイス上に形成させた核酸を固定させる部分の微小パターンに微粒子を固定できる十分な量の結合分子を均一に導入することは難しい。
【0007】
本発明は、従来技術の問題を解決するために、微粒子と疎水性リンカーを用いることで高効率に簡便に核酸プローブを一分子ずつ所定の固定位置に高密度で配列する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の従来の化学物質を分析用デバイスに結合させる方法の問題点を解消し、高確率で、核酸を分析用デバイスに一分子ずつ固定し、かつ核酸を固定させる部分に均一に、すなわちほとんどすべての部分に一分子ずつ固定させる方法について鋭意検討を行った。本発明者らは一分子のプローブ分子を固定させた微粒子を上記の特許文献2に記載の方法のように、特定の分子同士の特異的な結合によらずに微粒子を基板上に結合させる方法として、疎水的相互作用の利用を考えた。微粒子を基板上に疎水的相互作用により強固に結合させることができるとは予測困難であったが、驚くべきことに、発明者らは疎水性のアルキル鎖のSAM膜(Self-Assembled Monolayer;自己組織化単分子膜)と疎水性のナノサイズの微粒子を用いて疎水的相互作用を利用する固定方法がナノサイズの微粒子の固定に適しており、かつ分析用デバイス上に形成させた核酸を固定させる部分の微小のパターンに高密度で結合することを見出した。その結果、短時間かつ安価で、均一性がよい微粒子を用いた一分子固定法を完成させた。本発明により、支持基板の所定位置に微小な金属製接着用パッドを設け、当該金属性接着用パッドに対し、アルキル鎖を主材料とする疎水性リンカーを固着させ、当該リンカーに微粒子を高効率に配列することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の核酸分析デバイスは、一分子のプローブ分子を固定させた微粒子一つを平滑支持基板上に規則正しく形成させた金属でできた接着用パッド上に疎水性相互作用を利用して固定させており、接着用パッド上に高い確率で均一に一分子のプローブ分子が固定されている。すなわち、本発明により、小分子のプローブ分子を所定位置に高効率に固定した核酸分析デバイスを安価に提供でき、本発明の核酸分析デバイス及びそれを含む核酸分析装置により、高いスループットでDNA配列決定等の核酸分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1におけるプローブ分子が捕捉された微粒子を配列した核酸分析デバイスの構造を示す図である。図1aは接着用パッドに微粒子が固定された状態を示し、図1bは基板上に微粒子が固定された接着用パッドが規則正しく整列している状態を示す。
【図2】実施例2における核酸合成酵素が捕捉された微粒子を配列した核酸分析デバイスの構造を示す図である。図2aは接着用パッドに微粒子が固定された状態を示し、図2bは基板上に微粒子が固定された接着用パッドが規則正しく整列している状態を示す。
【図3】実施例3における核酸分析デバイスの製造法の工程(a〜f)を示す図である。
【図4】実施例4における核酸分析デバイスの製造法の工程を示す図である。図4Aは、平滑支持基板上に金属薄膜を形成させた後にレジストでパターンを形成し、その後平滑被覆膜を形成する方法(工程a〜e)を、図4Bは、平滑支持基板上に平滑被覆膜を生成させた後にレジストでパターンを形成する方法(工程a〜e)を示す。
【図5】実施例5における核酸分析装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施例では、支持基板及び検出対象の核酸を捕捉できるプローブ分子を有する微粒子を含み、該微粒子を前記支持基板上に一つずつ離して固定した核酸分析デバイスであって、
前記基板上の前記微粒子の固定位置に疎水化処理を行った接着用パッドを備え、
前記接着用パッドに対して前記微粒子が疎水的相互作用により固定されることを特徴とする核酸分析デバイスを開示する。
【0012】
さらに、本実施例では、プローブ分子を一分子有する微粒子だけを選別し、その微粒子を支持基板上の接着用パッドに規則的に固定して作製した核酸分析デバイスに対して、蛍光色素を有するヌクレオチド、及び核酸試料を供給する手段と、該核酸分析デバイスにエバネッセント光を照射する手段と、核酸分析デバイス上においてヌクレオチド、核酸合成酵素、及び核酸試料が共存することにより起きる核酸伸長反応により核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光を測定する発光検出手段と、を備えた核酸試料の塩基配列情報を取得する核酸分析装置を開示する。
【0013】
さらに、本実施例では支持基板上の前記微粒子の固定位置に接着用パッドを備え、微粒子と接着用パッドとがアルキル鎖による疎水的相互作用によって結合しており、接着用パッドの直径が微粒子に対して1/5〜5倍の大きさであり、支持基板表面に非特異的吸着防止用の有機物ポリマーを材料とする薄膜層を有する、核酸分析デバイスを開示する。
【0014】
さらに、本実施例では、微粒子1個に対して、一分子のプローブ分子が固定されていることを開示する。
【0015】
さらに、本実施例では接着用パッドが、金、チタン、ニッケル、またはアルミから選ばれる材料からなることを開示する。
【0016】
さらに、本実施例では、微粒子の非特異的吸着を防止する有機ポリマーとして、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリルアミド、ポリメトキシエチルアクリレート、3-グリシドキシプロピルメトキシシラン(GOPS)などから選ばれる材料からなることを開示する。
【0017】
さらに、本実施例では前記核酸分析デバイスに光を照射する手段として、エバネッセント場を利用することを開示する。
【0018】
以下、上記及びその他の本発明の新規な特徴と効果について、図を参照して説明する。ここでは、本発明を完全に理解してもらうため、特定の実施形態について詳細な説明を行うが、本発明はここに記した内容に限定されるものではない。
【0019】
本実施例のデバイスの構成を、図1を用いて説明する。
図1aは平滑支持基板101に接着用パッド102が形成され、該接着用パッド上にプローブ分子104が固定された微粒子103が末端に官能基106を有する線状分子105から形成される疎水膜を介して疎水的相互作用により結合している状態を示し、図1bは平滑支持基板101上の接着用パッド102にプローブ分子104が固定された微粒子103が規則正しく多数固定された状態を示す。
【0020】
平滑支持基板101の上の接着用パッド102は規則正しく、多数形成され、例えば図1bに示すように格子状に形成されている。接着用パッド102と微粒子103は、線状分子105を介して化学的結合により結ばれている。また、平滑支持基板101上の接着用パッド102が形成されている領域以外の領域には非特異的吸着防止用の薄膜107が形成されている。該薄膜を非特異的吸着防止用膜という。線状分子105の末端の官能基106と、接着用パッド102とはアルキル鎖により成立する疎水的相互作用により結合していることが好ましい。官能基106は、平滑支持基板101又は非特異的吸着防止用の薄膜107との相互作用が弱く、接着用パッド102との結合が強いことが好ましく、この結果、プローブ分子104が固定された微粒子は接着用パッド102上のみに固定される。すなわち、該微粒子103は接着用パッド102に選択的に結合し得る。本発明において、微粒子104が平滑支持基板101上に一定のパターンで結合することをパターンの形成(パターニング)といい、平滑支持基板101上の接着パッド102の領域のみに選択的に結合することをパターンの選択性を有するという。
【0021】
このような観点から、平滑支持基板101、接着用パッド102及び線状分子105が有する官能基106を、接着用パッド102と官能基106との間には強い結合が成立するが、平滑支持基板101と官能基106との間には強い結合が成立しないように組合せて選択すればよい。
【0022】
平滑支持基板101としては、石英ガラス、サファイア、シリコン基板などを用いることができる。平滑支持基板101のサイズは、使用用途に合わせて適宜設計することができるが、例えば、矩形のものを用いることができる。本発明においては、平滑支持基板を単に基板ということもある。
【0023】
また、接着用パッド102は、金(Au)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)及びアルミ(Al)からなる群から選ばれる金属材料で構成することができる。また、金属製のパッドにさらに前記金属の薄膜を形成させてもよい。接着用パッド102のサイズは、使用用途や平滑支持基板のサイズによるが、例えば、円状のものを用いることができる。また、形状に限定はなく、正方形や長方形の矩形、その他の不定形のものも用いることができる。
【0024】
線状分子105の官能基106は、上記のように平滑支持基板101と接着用パッド102との組合せを考えて選択する必要があり、例えば、スルフヒドリル基(チオール基)、アミノ基、カルボキシル基、リン酸基、アルデヒド基等を用いることができる。さらに糖のヒドロキシル基も利用できる。これらの中から、官能基106と接着用パッド102との間で強い結合が成立し、官能基106と平滑支持基板101との間で強い結合が成立しないか、又は全く結合しない組合せを選択すればよい。以下にスルフヒドリル基、アミノ基、カルボキシル基、リン酸基、アルデヒド基、糖のヒドロキシル基が吸着し易い金属材料を示す。
【0025】
スルホヒドリル基 Au、Ni
アミノ基 Ti、Ni
カルボキシル基 Ti
リン酸基 Ti、Al
アルデヒド基 Ti、Ni
糖のヒドロキシル基 Ti
【0026】
また、上記官能基のうち、アミノ基、カルボキシル基及びアルデヒド基は、石英との選択性が低く、石英には結合しにくい。
【0027】
従って、例えば、平滑支持基板101として石英ガラスを用い、官能基106としてアミノ基を用い、接着用パッド102としてチタン若しくはニッケルを用いるか、平滑支持基板101として石英ガラスを用い、官能基106としてカルボキシル基を用い、接着用パッド102としてチタンを用いるか、あるいは平滑支持基板101として石英ガラスを用い、官能基106としてアルデヒド基を用い、接着用パッド102としてチタン又はニッケルを用いた組合せが好ましい。ただし、この組合せには限定されず、上記の材料の如何なる組合せも使用可能である。例えば、平滑支持基板101として石英ガラスを用い、官能基106として糖のグリコシド基を用い、接着用パッド102としてチタンを組合せて用いることもできる。糖のグリコシド基とチタンの組合せの場合、糖のグリコシド基とチタンとの結合をpHの変化等により制御することができる。従って、例えば核酸分析デバイスを用いた後に、pHを変化させ、接着用パッド102から線上分子105を外し、接着用パッド102を含む平滑支持基板101を再利用することができる。また、後述のように、平滑支持基板101上の接着用パッド102が形成されている領域以外の領域には、非特異的吸着防止膜107を形成させる。糖のグリコシド基以外の官能基は非特異的吸着防止膜107に結合し易い。従って、官能基106として、糖のグリコシド基以外のものを用いた場合は、接着用パッド102に線状分子105の官能基106を結合させた後に非特異的吸着防止膜を形成させる必要がある。一方、糖のグリコシド基は非特異的吸着防止膜107に結合しにくいか、又は結合しない。従って、官能基として糖のグリコシド基を用いた場合、接着用パッド102への線状分子の固定と非特異的吸着防止膜の形成の順序は問われない。
【0028】
線状分子105としては、疎水性の化合物の末端に上記の官能基106を有する両親媒性分子が利用できる。線状分子105は疎水性部分を有し、該疎水性部分により、線状分子105と微粒子103の間に相互作用が生じ、微粒子103と接着用パッド102を結ぶ役割を果たす。すなわち、線上分子105は接着用パッド102と微粒子103を結び付ける疎水性リンカーとして機能する。線状分子105の疎水性部分としてアルキル鎖が挙げられる。アルキル鎖は直鎖状のものが好ましい。アルキル鎖の長さに限定はないが、炭素数にして、好ましくは3〜20であり、より好ましくは8〜12である。
【0029】
以上を満たす官能基106を有する線状分子105として、例えば、アルキルリン酸、アルキルスルホン酸、アルキルグリコシド(糖アルキル)等が利用できる。具体的には、例えば、プロピルリン酸、ブチルリン酸、ペンチルリン酸、ヘキシルリン酸、ヘプチルリン酸、オクチルリン酸、ノニルリン酸、デシルリン酸、ウンデシルリン酸、ドデシルリン酸、トリデシルリン酸、テトラデシルリン酸、ペンタデシルリン酸、ヘキサデシルリン酸、ヘプタデシルリン酸、オクタデシルリン酸、ノナデシルリン酸、エイコシルリン酸;プロピルスルホン酸、ブチルスルホン酸、ペンチルスルホン酸、ヘキシルスルホン酸、ヘプチルスルホン酸、オクチルスルホン酸、ノニルスルホン酸、デシルスルホン酸、ウンデシルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、トリデシルスルホン酸、テトラデシルスルホン酸、ペンタデシルスルホン酸、ヘキサデシルスルホン酸、ヘプタデシルスルホン酸、オクタデシルスルホン酸、ノナデシルスルホン酸、エイコシルスルホン酸;プロピルグリコシド、ブチルグリコシド、ペンチルグリコシド、ヘキシルグリコシド、ヘプチルグリコシド、オクチルグリコシド、ノニルグリコシド、デシルグリコシド、ウンデシルグリコシド、ドデシルグリコシド、トリデシルグリコシド、テトラデシルグリコシド、ペンタデシルグリコシド、ヘキサデシルグリコシド、ヘプタデシルグリコシド、オクタデシルグリコシド、ノナデシルグリコシド、エイコシルグリコシド等を利用することができる。アルキル鎖は密度の高い自己組織化単層膜(SAM膜)を形成し、接着用パッド上に疎水的性質をもたらす。本発明において、アルキル鎖により形成されるSAM膜を疎水膜ともいう。ここで、疎水的性質とは水に対して濡れ性が低いことをいい、接触角が一定以上になることをいう。すなわち、アルキル鎖で形成されたSAM膜に水を接触させた場合に、水滴のSAM膜に対する接触角が一定以上になることをいう。一般的には、疎水的性質という場合、接触角が90℃以上になる場合をいう。ただし、本発明においては、接触角50°以上の場合に、パターンの選択性が大きくなり、さらに微粒子103と接着用パッド102の間に十分な固定力が得られることが確認された。疎水的相互作用は疎水性分子同士が水にはじかれ集合する現象であるため、反応液が水を主成分としている本発明においては、一般的な定義に基づいた疎水性に比べて低い疎水性であっても、微粒子103と接着用パッド102との間に強固な結合力を与えるという観点からは十分に機能していると言える。以上より、線状分子105に含まれるアルキル鎖が接触角50°以上の疎水的性質を有していればよい。接触角50°以上である限り、線状分子には他の官能基が含まれていてもよく、また構造変化を有していてもよい。
【0030】
さらに、平滑支持基板101上の接着用パッド102が形成されている領域以外の領域には、接触角50°以上で非特異的吸着防止用の薄膜(非特異的吸着防止膜)107が形成されている。該薄膜107は微粒子103の平滑支持基板101上の接着用パッド102が形成されている領域以外の領域への他の化合物の非特異的吸着を防止する有機ポリマーを材料としていることが好ましい。例えば、有機ポリマー材料として、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリーL−リジンPEG(pLL−PEG)、ポリアクリルアミド、3-グリシドキシプロピルメトキシシラン(GOPS)などを用いることができる。非特異的吸着防止膜107を形成させる方法は限定されず、公知の方法で行うことができるが、例えば、PEGシラン剤等を用いたシランカップリングにより非特異的吸着防止膜107を形成させることができる。非特異的吸着防止膜107は接着パッド102上には形成されない。
【0031】
微粒子103は、線状分子105のアルキル鎖と疎水的相互作用し、線状分子105を介して接着用パッド102に固定される。そのため、微粒子103を構成する材料自体が疎水性を有しているか、又は微粒子103が疎水性のタンパク質等の疎水性物質で修飾されている等、疎水化処理されている必要がある。このような微粒子103としては、ポリスチレン、ポリプロピレン等の樹脂製の微粒子等の有機ポリマー製微粒子、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化亜鉛(ZnS)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、酸化亜鉛(ZnO)等の半導体材料でできた量子ドット(半導体ナノ粒子)等の半導体製微粒子、金の微粒子等の金属製微粒子、シリカ製微粒子などの重合体微粒子等を用いることができる。これらの微粒子の材料が疎水性である場合はそのまま用い、そうでない場合は、微粒子を疎水性の修飾用物質で修飾すればよい。ここで、修飾とは、修飾用物質を微粒子表面に結合させること、すなわち、微粒子表面の一部又は全部を修飾用物質で被覆することをいう。修飾物質としては、タンパク質を用いることが好ましく、修飾用タンパク質は微粒子のプローブにも共用できるアビジンが好ましい。微粒子103の平均粒径は、好ましくは10nm〜1μm、より好ましくは、40nmである。
【0032】
微粒子103は一つの接着用パッド102に対して1個固定される。すなわち、微粒子103は平滑支持基板101上に一つずつ離れて接触しないように固定される。
このため、接着用パッドの直径は微粒子の直径の1/5〜5倍、好ましくは微粒子の直径以下である。
【0033】
プローブ分子は限定されないが、本発明において検出又は分析しようとする核酸を捕捉することができる、DNAやRNAの核酸分子の一本鎖を用いることができる。プローブ分子による検出又は分析しようとする核酸の捕捉はプローブ分子と検出又は分析しようとする核酸のハイブリダイゼーションにより行われる。プローブ分子のサイズも限定されないが、プローブ分子はアダプターDNA等のアダプター分子でもよく、この場合、分析対象の核酸に微粒子に固定させたアダプターDNAと相補的にハイブリダイズし得る核酸断片を結合させることにより、微粒子に分析対象の核酸分子を固定することができる。
【0034】
以上の平滑支持基板101、接着用パッド102、プローブ分子104が固定された微粒子103、線状分子105及び非特異的吸着膜107により、図1に示す核酸分析デバイスが構成される。
【0035】
平滑支持基板101上の接着用パッド102の形成は、半導体形成の際に用いられる公知の薄膜プロセスを利用することができる。
【0036】
接着用パッド102への線状分子105の結合は、接着用パッド102に線状分子105の溶液を接触させることにより行い、例えば、線状分子105の溶液中に接着用パッド102を形成させた平滑支持基板101を一定時間一定の温度下で浸漬させればよい。
【0037】
接着用パッド102に線状分子105を結合させた後、平滑支持基板101上の接着用パッド102が形成されている領域以外の領域に非特異的吸着防止膜107を形成させる。非特異的吸着防止膜107の形成は上記の非特異的吸着防止膜107の材料となる有機ポリマーのシラン誘導体をシランカップリング剤として用いてシランカップリングにより有機ポリマーのシラン膜の薄膜を形成させることにより行う。金属製の接着用パッド102上にはシラン膜は製膜されないか、あるいはごく弱い力で製膜される。金属製の接着用パッド上に結合したシラン膜は、例えば、SDS等の界面活性剤で洗浄することにより除去することが可能である。
【0038】
接着用線状分子105の接着用パッド102への結合、非特異的吸着防止膜107の形成の順序は限定されないが、線状分子105の官能基106と非特異的吸着防止膜107の形成に用いるPEG等の有機ポリマーとの結合性を考慮して順序を決めればよい。例えば、線状分子105の官能基が糖のヒドロキシル基以外、例えば線状分子105がアルキルリン酸の場合、PEG等の有機ポリマーに結合しやすいため、接着用パッド102に線状分子105を結合させた後に、非特異的吸着防止膜107を形成させることが好ましい。一方、線状分子105の官能基が糖のヒドロキシル基の場合、PEG糖の有機ポリマーには結合しにくいため、非特異的吸着防止膜107を形成させた後に、接着用パッド102に線状分子105を結合させることができる。
【0039】
微粒子103へのプローブ分子104の固定は、微粒子1個に一分子のプローブ分子が固定されるように行う。微粒子1個に一分子のプローブ分子を固定させる方法は、実施例1に記載する。微粒子103へのプローブ分子104の結合方法は、限定されず、化学的結合、物理的結合により結合させればよいが、例えば、微粒子103にアビジンやストレプトアビジンを結合させ、一方、プローブ分子104にビオチンを結合させてアビジン-ビオチン結合を利用して結合させることができる。また、吸着により結合させることもできる。
【0040】
プローブ分子104が固定された微粒子103を接着用パッド102が形成された平滑支持基板であって、非特異的吸着防止膜107を形成させた平滑支持基板101と接触させる。微粒子103は表面が疎水性であるか、又は疎水性の修飾物質で修飾されているため、接着用パッド102上に結合された疎水性の線状分子105との間で疎水性相互作用が生じ、微粒子103が接着用パッド102上に固定される。
【0041】
このようにして、プローブ分子104が結合した平滑支持基板101を製造することができる。平滑支持基板101上のプローブ分子104の存在は、例えばレーザ顕微鏡により確認することができる。
【0042】
[実施例1]
以下に、実際にプローブ分子104が固定された微粒子103を核酸分析デバイスに固定する実施例を示す。本実施例では、厚み0.7mmの石英ガラス基板上に、厚み10nm、直径60nmのチタン製の接着用パッドを1μm間隔で格子状に配列して形成した核酸分析デバイスを作製し使用した。
【0043】
接着用パッド102を石英ガラス基板上に形成する方法としては、半導体で既に実用化されている薄膜プロセスを活用した。すなわち、マスクを通した蒸着・スパッタリング、および蒸着・スパッタリングによりチタン薄膜を形成した後、EBを用いたリソグラフィによりレジストパターンを形成後、ドライおよびウエットエッチングにより接着用パッドを製造した。接着用パッド102間の間隔は任意に設定できるが、検出手段として光計測を行う場合、光検出の回折限界を考えると500nm以上が好ましい。接着用パッドの詳細な形成方法は実施例3に記載する。
【0044】
核酸分析デバイスの接着用パッド102上に微粒子固定用の線状分子105を反応させ結合させた。本実施例では、線状分子105としてアルキルリン酸であるドデシルリン酸を使用した。ドデシルリン酸の粉末を0.3mMの濃度で超純水中に分散させた溶液を調製し、上記の方法で製造した接着用パッド102が形成された核酸分析デバイスを該溶液中に入れ90℃で1時間以上処理した。0.3mMの濃度のドデシルリン酸を用いて処理する場合は、アンモニアを等モル数分加えることでドデシルリン酸の溶解性を高めることができる。また、ドデシルリン酸アンモニウム塩を直接水中に溶解させてもよい。この際、線状分子105の官能基106と接着用パッド102との結合選択性のため、線状分子105は、石英ガラス基板上の接着用パッド102以外の領域には結合しなかった。
【0045】
次に核酸分析デバイスの石英ガラス表面にPEGシラン剤で非特異的吸着防止膜107を形成させた。PEGシラン剤として2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシラン(Gelest社製 Mw:2,000)を用い、SAM膜を作製し、非特異的吸着防止膜とした。製造方法は3mMになるようにPEGシラン剤をトルエン溶媒に溶解し、触媒として終濃度1%になるようにトリエチルアミンを加えた。この混合液に核酸分析デバイスを入れ60℃で30分間反応させた。核酸分析デバイスを混合液から取り出した後、トルエンとエタノールで洗浄後、電気炉を用いて90℃で10分間ベークした。分光エリプソメーターで基板上のシラン膜の膜厚を測定した結果、膜厚20Åのシラン膜を確認した。また、ドデシルリン酸が結合した接着用パッド上にはPEGシラン膜が製膜されないことを確認した。
【0046】
つづいて核酸プローブを一分子固定した微粒子を、上記処理を行った核酸分析デバイスに室温で15分間以上反応させた。微粒子は直径40nmのポリスチレン製NeutrAvidin修飾ビーズ(FluoSpehere(登録商標) F8773 インビトロジェン社)を用いた。核酸を捕捉するプローブ分子には、ビオチン化したDNAを用いた。
【0047】
1個の微粒子に1分子のプローブ分子を結合する方法を以下に記す。本実施例ではプローブ分子として50〜100塩基のポリヌクレオチドの末端をビオチン化し、5’末端をCy3で蛍光標識した核酸試料断片を用いた。微粒子の数をプローブ分子の数よりも10倍多くして反応させると、約90%の微粒子にはプローブ分子が捕捉されず、約9%の微粒子にはプローブ分子がアビジン-ビオチン結合で一分子捕捉される。この結果は、ポアソン分布を仮定した場合の予測結果とよく一致している。したがって、プローブ分子を捕捉した微粒子のみを捕集すれば、捕集した微粒子のうち90%以上はプローブ分子を一分子のみ捕捉した微粒子となる。この状態で、分子量による分離や磁気微粒子による捕集、電荷の差を用いた電気泳動分離などを利用してプローブ分子が一分子結合した微粒子をさらに高い純度で取得することができる。基板101に固定されたプローブ分子104の確認は全反射型レーザ顕微鏡を用いて行った。当該微粒子の固定反応後、基板上を水で満たした状態で、基板裏面側よりYAGレーザ(532nm)を全反射条件で入射し、発生する蛍光を基板上面側から対物レンズを通して集光しCCDカメラで観察した。Cy3が一分子であることは、Cy3をレーザで励起、発光した後、一段階消光することで確認できる。2分子以上の場合は多段階消光になる。このような方法で一分子固定率を算出した結果、70%以上の接着用パッドに一分子のプローブ分子104が固定されていることが確認できた。さらに当該核酸分析デバイスを走査型電子顕微鏡(SEM)でランダムな500個の接着用パッドを観察すると当該微粒子が約90%の固定率で固定されていることが確認された。
【0048】
特許文献2の実施例1で示されている方法に従って、一分子あたり30分子のビオチンを導入したPVPA(ポリビニルリン酸)を用いて、500nMの密度のストレプトアビジンで修飾した微粒子を2時間反応させ、ストレプトアビジン-ビオチン結合により微粒子を基板に固定させた場合、微粒子の基板への固定密度は30〜50個/μm2である。これに対して本実施例の方法により、ドデシルリン酸を用いて、同様の密度の微粒子を2時間反応させ、疎水的相互作用により微粒子を基板に固定させた場合、微粒子の基板への固定密度は80〜100個/μm2となった。微粒子の固定量は2時間の反応でほぼ飽和状態になる。したがって、本実施例の方法により、ドデシルリン酸を用いた方が基板上において、接着分子としての密度が高いと言える。さらにドデシルリン酸を用いた場合、微粒子の固定反応は開始から10分間で60〜80個/μm2に達しており、30分間でほぼ飽和状態に達していることが確認された。この反応速度はビオチンを導入したPVPAを用いた場合の約5倍である。これは線状分子105が付着した金属部分の電荷の差が影響していると考えられる。どちらの線状分子も官能基としてリン酸基を利用しているため接着用パッドは負に帯電している。そのため、同様に負電荷を持つ微粒子に対して電気的な反発が起きる。しかし、ドデシルリン酸はアルキル鎖部分を有し、アルキル鎖部分の膜厚が2〜3nmになるため、最表面の負電荷は軽減されており上記の電気的な反発が低減され、微粒子が接着パッドに結合するときの固定反応速度が高まると考えられる。以上のように、本実施例により、微粒子を基板に結合させるときのリンカーとしてドデシルリン酸を利用した場合の方が、すなわち疎水的相互作用を利用して微粒子を基板に結合させる方が優位であるという結果が得られた。また、水に溶解するだけのドデシルリン酸の調製は非常に短時間に、かつ安価で行うことができ、さらに再現性がよいという利点を有する、従って、本発明の方法により疎水的相互作用を利用して微粒子を基板に結合させる方法は非常に有利である。
【0049】
本実施例の核酸分析デバイスから核酸試料に関する情報を検出するやり方にはいくつかの方式が考えられるが、感度や簡便性の観点から蛍光検出法を用いる方式が好ましい。まず、核酸分析デバイスに対して核酸試料を供給し、プローブ分子104に核酸試料を捕捉させる。次に、蛍光色素を有するヌクレオチドを供給し、プローブ分子104がDNAプローブである場合には、核酸合成酵素を供給する。デバイス上で核酸伸長反応を起こし、伸長反応中に核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光測定を行う。この場合、ヌクレオチドの一種類を供給,未反応ヌクレオチドの洗浄,蛍光観察,違う種類のヌクレオチドの供給,以降を繰り返し行う、いわゆる逐次伸長反応方式は容易に実現できる。蛍光観察後に蛍光色素を消光するか、蛍光色素がリン酸部位に付いたヌクレオチドを用いることにより、連続的な反応を起こし、核酸試料の塩基配列情報を得ることができる。一方、4種類のヌクレオチドが各々異なる蛍光色素を有するものを供給し、洗浄することなく、連続的な核酸伸長反応を起こし、連続的に蛍光観察を行うことで、いわゆるリアルタイム反応方式を実現することもできる。この場合、蛍光色素がリン酸部位に付いたヌクレオチドを用いると、伸長反応後リン酸部位が切断されるため、消光することなく連続的に蛍光測定して核酸試料の塩基配列情報を得ることができる。
【0050】
[実施例2]
実施例2では、線状分子105としてアルキルグリコシドの非イオン性界面活性剤であるオクチルグルコシドを用い、微粒子103として半導体製の量子ドットを用いた例を示す。ここでは実施例1で使用した核酸分析デバイスと同等の構成で、チタン製接着用パッド102の直径が20nmである、平滑支持基板101を用いた。オクチルグルコシドを使用する利点として、非特異的吸着防止膜107の作製後でも微粒子接着用の線状分子105を反応させることができること、およびpH変化等で線状分子105が着脱可能であることが挙げられる。アルキルリン酸はPEGに比較的付着しやすいため、非特異的吸着防止膜107を形成させる前に接着用パッド102をアルキルリン酸で処理して、接着用パッド102にアルキルリン酸を結合させる必要がある。一方、オクチルグルコシド等のアルキルグリコシドを用いる場合、アルキルグルコシドは非特異的吸着防止膜107にはほとんど吸着しないためPEGシラン膜製膜により非特異的吸着防止膜107を形成させた後に接着用パッド102上にアルキルグルコシドを結合させることにより疎水性パターニングが可能である。したがって、線状分子105としてアルキルグルコシドを用いる場合、核酸分析デバイスを使用した後にアルキルグルコシドを基板から除去することができ、核酸分析デバイスを繰り返し使用できるという利点がある。
【0051】
本実施例においては、実施例1と同様にPEGシラン剤として2−メトキシポリエチレンオキシプロピルトリメトキシシラン(Gelest社製 Mw:2,000)を用い、核酸分析デバイスに実施例1と同様の方法で自己組織化単層膜(SAM膜)を作製し、非特異的吸着防止膜107とした。PEGシラン膜は金属製の接着用パッド上にも形成されるが、石英ガラスに対する結合に比べて金属に対する結合力は極端に弱いため、0.1% SDS溶液による洗浄によって接着用パッド上のPEGシラン膜のみを選択的に剥離することができる。次いで、1%オクチルグルコシド水溶液に当該核酸分析デバイスを入れ、60℃で30分間反応させた。超純水で洗浄後、電気炉を用いて90℃で10分間ベークした。次に微粒子を上記処理を行った核酸分析デバイスに室温で15分間以上反応させた。微粒子は直径15nmであるCdSeのコアを持ちストレプトアビジン修飾された量子ドット(Qdot(登録商標)705 StreptAvidin Conjugated インビトロジェン社)を用いた。直径40nmのポリスチレン製NeutrAvidin修飾ビーズ(FluoSpehere(登録商標) F8773 インビトロジェン社)も使用可能である。さらに当該核酸分析デバイスを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると当該微粒子が90%以上の固定率で固定されていることが確認された。微粒子として量子ドットを使用する利点として、FRET効果が利用できることが挙げられる。つまり、光照射によって量子ドットをエネルギーのドナーとして、核酸を分析する際に捕捉した検出対象である核酸分子を標識している蛍光色素を前記エネルギーのアクセプターとして動作させ、検出対象分子の蛍光による検出を可能とすることができる。エネルギー移動は、おおよそ10nm以下の近傍でしか起こらない現象であることから、検出すべき核酸分子が同一蛍光色素でラベルされており、かつ試料溶液の濃度が高い中で特定の分子を検出する場合には有効である。この場合、励起光源は半導体微粒子のみを励起すればよく、一種類の光源でよい点で好ましい。
【0052】
また、図2のように微粒子203に核酸合成酵素であるDNAポリメラーゼ204を一分子ずつ固定する方法(酵素固定法)を用いることができる。図2aは平滑支持基板201に接着用パッド202が形成され、該接着用パッド上にDNAポリメラーゼ204が固定された微粒子203が末端に官能基206を有する線状分子205から形成される疎水膜を介して疎水的相互作用により結合している状態を示し、図2bは平滑支持基板201上の接着用パッド202にDNAポリメラーゼ204が固定された微粒子203が規則正しく形成された状態を示す。この方法は実施例1に記載した核酸分子と微粒子の1対1固定と同様に確率的な反応により一分子のDNAポリメラーゼ付き微粒子を作製する。微粒子は表面をエポキシ基、トシル基、アミノ基、カルボニル基などで修飾することでDNAポリメラーゼを固定することができる。特にDNAポリメラーゼを失活させない穏やかな結合反応が可能なエポキシ基との反応が好ましい。次に作製した酵素付き微粒子を接着性パッド202に固定する。続いて蛍光標識された4種類の塩基(A,T,C,G)209を反応液に導入すると、DNAポリメラーゼは鋳型となる核酸分子208を捕捉してから、鋳型に相補的なヌクレオチドを取り込み次々にDNA伸長反応が進行する。このとき微粒子に励起光を照射し取り込まれたヌクレオチドの蛍光を発光させ、CCDカメラにより観測する。塩基の種類ごとに異なる色の蛍光色素が標識されており、色識別を行う画像処理によりリアルタイムでDNA配列を決定することができる。酵素固定法は接着用パッド202上に酵素、すなわち蛍光標識された塩基の取り込み口が固定されているため、ロングリードの場合においても輝点の位置ずれが起こらないという利点がある。位置ずれが起こらなければ隣接した接着用パッド間でのシグナルの混在が防げるため、より密に接着用パッドを配置でき、並列数を高めることができる。また、実施例1にある核酸の鋳型を固定する方法と異なり、一度固定した酵素が失活するとその反応サイトにおいてはシーケンス反応ができなくなる。しかし、着脱可能な糖アルキルリンカーと併用することで、酵素付き微粒子をリンカーごと交換することができるため、1サイクルのシーケンス反応ごとに全酵素のリフレッシュが可能である。
【0053】
[実施例3]
核酸分析デバイスの製造方法の一例を、図3を用いて説明する。平滑支持基板301(図3a)上に接着用パッドを構成する材料、例えば、金、チタン、ニッケル又はアルミをスパッタリングで製膜する(図3b)。これを金属の薄膜(金属デポ膜)308とする。平滑支持基板301として石英ガラス基板やサファイア基板を用い、接着用パッドの材料として金、アルミ又はニッケルを用いる場合には、基板材料と接着用パッドの材料との間に接着を補強するためにチタンやクロムの薄膜を形成させることが好ましい。また、接着用パッドはできる限り薄いほうが好ましい。これは、平滑支持基板301に厚みがあると側面部の面積が増え、接着用パッドの直径が微粒子の直径以下の場合でも、複数の微粒子が固定されてしまう可能性が高まるためである。そのため、金属の薄膜308は成膜の時点でできる限り薄く作製するほうが好ましい。この金属の薄膜308の上にレジスト309でパターンを形成する(図3c)。次にレジストパターン以外の金属の薄膜308をエッチングにより除去する(図3d)。さらにレジスト309を剥離すると接着用パッド302が完成する。レジスト剥離後、接着用パッド302にのみ選択的に吸着する線状分子305を導入し(図3e)、さらに非特異的吸着防止膜307を形成させる(図3f)。
【0054】
[実施例4]
核酸分析デバイスの製造方法の一例を、図4を用いて説明する。実施例3と同様の材料を使用するが、金属薄膜(金属デポ膜)408上に例えばガラスなどを材料とする平滑被覆膜410を形成し、その平滑被覆膜410を加工することでパターニングを行う例を示す。平滑支持基板401上に接着用パッドを構成する材料で製膜する。本実施例の場合、接着用パッドを構成する材料は可視光透過性を有する必要がある。例えば、チタン又はアルミをスパッタリングで製膜する。これを金属の薄膜408とする(図4A a、図4B a)。平滑支持基板401としてガラス基板又はサファイア基板を用いる。また、接着用薄膜層408はできる限り薄いほうが好ましい。さらに接着用薄膜層408は600℃以上でアニール処理することが好ましい。これらは基板下面より照射する励起光の透過率を高めるためである。そのため、金属の薄膜408は成膜の時点でできる限り薄く作製し、アニール処理することが好ましい。
【0055】
図4Aではこの金属の薄膜408にレジスト409でパターンを形成する(図4A b)。その上に平滑被覆膜410を形成する(図4A c)。レジストパターンをレジスト409上の平滑被覆膜410と共にエッチングにより除去することで平滑被覆膜410と金属とのパターニングが完成する(図4A d)。この場合、図4A dの金属薄膜408上に平滑被覆膜410が存在しない領域が接着用パッドとして機能する。さらに、該接着用パッド部分に線状分子405を吸着させ、さらに平滑被覆膜410上に非特異的吸着防止膜407を形成させる(図4A e)。
【0056】
図4Bでは接着用薄膜層408上に平滑被覆膜410を形成する(図4B b)。その上にレジスト409で接着用パッドのパターンを形成する(図4B c)。この時、ポジ型のレジストを用いることで接着用パッド型に照射した部分のレジストのみをエッチングにより除去し、その部分を金属の最表面までエッチングを行う。最後にレジストパターンを残ったレジスト409をエッチングにより除去することで平滑被覆膜410と金属とのパターニングが完成する(図4B d)。この場合、図4B dの金属薄膜408上に平滑被覆膜410が存在しない領域が接着用パッドとして機能する。さらに、該接着用パッド部分に線状分子405を吸着させ、さらに平滑被覆膜410上に非特異的吸着防止膜407を形成させる(図4B e)。
【0057】
[実施例5]
本実施例では、核酸分析デバイスを用いた核酸分析装置の好ましい構成の一例について図5を参照しながら説明する。本実施例の核酸分析装置は、少なくとも核酸分析デバイスと、核酸分析デバイスに対して、蛍光色素を有するヌクレオチド,核酸合成酵素、及び核酸試料を供給する手段と、核酸分析デバイスに光を照射する手段と、核酸分析デバイス上においてヌクレオチド、核酸合成酵素、及び核酸試料が共存することにより起きる核酸伸長反応により核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光を測定する発光検出手段と、を備える。
【0058】
より具体的には、カバープレート501と検出窓502と溶液交換用口である注入口503と排出口504から構成される反応チャンバに前記の核酸分析デバイス505を設置する。なお、カバープレート501と検出窓502の材質として、PDMS(Polydimethylsiloxane)を使用する。また、検出窓502の厚さは0.17mmとする。YAGレーザ光源507(波長532nm,出力20mW)およびYAGレーザ光源508(波長355nm,出力20mW)から発振するレーザ光509および510を、レーザ光509のみをλ/4板511によって円偏光し、ダイクロイックミラー512(410nm以下を反射)によって、前記2つのレーザ光を同軸になるよう調整した後、レンズ513によって集光し、その後、プリズム514を介してデバイス505へ臨界角以上で照射する。核酸鎖中の蛍光色素はレーザ光で励起され、その蛍光の一部は検出窓502を介して出射される。また、検出窓502より出射される蛍光は、対物レンズ515(×60,NA1.35,作動距離0.15mm)により平行光束とされ、光学フィルタ516により背景光及び励起光が遮断され、結像レンズ517により2次元CCDカメラ518上に結像される。核酸分析デバイスを移動させ、それぞれの接着用パッド上の微粒子に固定された核酸を対象に同様の測定を繰り返し行うことができる。
【0059】
逐次反応方式の場合には、蛍光色素付きヌクレオチドとして、リボースの3′OHの位置に3′−O−アリル基を保護基として入れ、また、ピリミジンの5位の位置又はプリンの7位の位置にアリル基を介して蛍光色素と結びつけたものが使用できる。アリル基は光照射あるいはパラジウムと接触することで切断されるため、色素の消光と伸長反応の制御を同時に達成することができる。逐次反応でも、未反応のヌクレオチドを洗浄で除去する必要はない。さらに、洗浄工程が必要ないことからリアルタイムで伸長反応を計測することも可能である。この場合には、前記ヌクレオチドにおいて、リボースの3′OHの位置に3′−O−アリル基を保護基として入れる必要は無く、光照射で切断可能な官能基を介して色素と結びついているヌクレオチドを用いれば良い。
【0060】
蛍光色素へのエネルギー移動媒体として半導体微粒子を用いた場合にも、上述の核酸分析装置の例は適用可能である。例えば、半導体微粒子としてQdot(登録商標)565 StereptAvidin conjugated(インビトロジェン社製)を用いると、YAGレーザ光源507(波長532nm,出力20mW)で十分に励起できる。この励起エネルギーは532nmの光では励起されないAlexa633(インビトロジェン社製)へ移動することにより蛍光を発するようになる。つまり、未反応のヌクレオチドに付随する色素は励起されることはなく、DNAプローブに捕捉され半導体微粒子に近接しエネルギー移動が起きてはじめて発光するので、捕捉されたヌクレオチドを蛍光測定で識別することが可能である。プローブ分子固定用の微粒子の材質が有機ポリマーである場合は、外部光源の光を照射しても励起しない。そのため、励起エネルギーの移動による蛍光色素の発光は起こらず、未反応のヌクレオチドも発光し、ノイズとなる可能性がある。しかし、核酸合成酵素に半導体微粒子などのエネルギー移動をもたらす微粒子を結合することで、取り込まれたヌクレオチドだけを発光させることができる。あるいは、核酸合成酵素に金、銀、白金、アルミニウム等を結合させれば、取り込まれたヌクレオチドの蛍光を増強させることができる。あるいは、微粒子を固定する接着用パッドの材料に金、銀、白金、アルミニウム等を用いれば、接着用パッド周囲の蛍光が増強されるため、SN比を向上させることができる。
【0061】
本発明の核酸分析装置において、核酸分析デバイスに光を照射する手段として、エバネッセント場を利用する。すなわち、該光を照射する手段からエバネッセント光が照射され、すなわち、レーザ光源から発振したレーザ光をプリズム514を介してデバイス505へ臨界角以上で照射する。核酸鎖中の蛍光色素はレーザ光で励起され、その蛍光の一部は反射せずにエバネッセント光として検出窓502を介して出射され、蛍光顕微鏡で測定される。
【0062】
上記のように、本実施例の核酸分析デバイスを用いて核酸分析装置を組上げることにより、洗浄工程を入れることなく、解析時間の短縮化,デバイス及び分析装置の簡便化が図れ、逐次反応方式のみならず、リアルタイムで塩基の伸長反応を計測することが可能となり、従来技術に対して大幅な時間短縮になる。
【0063】
本発明の核酸分析デバイスを含む核酸分析装置を用いて種々の核酸分析を実施することができ、例えば、DNA配列決定やハイブリダイゼーションを行うことができる。特に本発明の核酸分析装置を用いてDNA配列決定(DNAシークエンス)を行うことができる。DNAシークエンスの方法は限定されないが、蛍光検出法を用いる方式で行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
核酸分析デバイスを用いた核酸分析において、ディフェイジングが起こることがないため、読み基長を長くでき、かつ、多種類の被解析DNA断片を迅速に大量に固定し、解析可能であるため、非常に高いスループットとすることができる。
【符号の説明】
【0065】
101,201,301,401 平滑支持基板
102,202,302,402 接着用パッド
103,203 微粒子
104 プローブ分子
105,205,305,405 線状分子
106,206 線状分子末端の官能基
107,207,307,407 非特異的吸着防止膜
204 核酸合成酵素
208 鋳型核酸断片
209 核酸基質
308,408 金属デポ膜
309,409 電子線用レジスト
410 平滑被覆膜
501 カバープレート
502 検出窓
503 注入口
504 排出口
505 デバイス
506 流路
507,508 YAGレーザ光源
509,510 レーザ光
511 λ/4板
512 ダイクロイックミラー
513 レンズ
514 プリズム
515 対物レンズ
516 光学フィルタ
517 結像レンズ
518 2次元CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板及び検出対象の核酸を捕捉できるプローブ分子を有する微粒子を含み、該微粒子を前記支持基板上に一つずつ離して固定されている核酸分析デバイスであって、
前記基板上の前記微粒子の固定位置に疎水化処理を行った接着用パッドを備え、
前記接着用パッドに対して前記微粒子が疎水的相互作用により固定されることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項2】
微粒子1個に対して、プローブ分子が一分子固定されていることを特徴とする、請求項1記載の核酸分析デバイス。
【請求項3】
微粒子が、疎水性を有する材料でできているか、又は表面に疎水性をもたらす修飾がなされていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の核酸分析デバイス。
【請求項4】
微粒子が疎水性部分としてアルキル鎖を有する線状分子を介して疎水的相互作用により接着用パッドに固定されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸分析デバイス。
【請求項5】
接着用パッドが、金、チタン、ニッケル及びアルミからなる群から選択される材料からなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の核酸分析デバイス。
【請求項6】
支持基板が、石英、サファイア及びシリコンからなる群から選択される材料からなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の核酸分析デバイス。
【請求項7】
プローブ分子が核酸又は核酸合成酵素であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の核酸分析デバイス。
【請求項8】
(i) 検出対象の核酸を捕捉できるプローブ分子を有する微粒子が、基板上に規則正しく離れて形成されている疎水化処理を行った接着用パッドに、疎水的相互作用により規則的に固定されている核酸分析デバイス、
(ii) 前記核酸分析デバイスに対して、蛍光色素を有するヌクレオチド、核酸合成酵素、及び核酸試料を供給する手段、
(iii) 前記核酸分析デバイスに光を照射する手段、
(iv) 前記核酸分析デバイス上において前記ヌクレオチド、前記核酸合成酵素、及び前記核酸試料が共存することにより起きる核酸伸長反応により核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光を測定する発光検出手段とを備えた、
核酸試料の塩基配列情報を取得する核酸分析装置。
【請求項9】
プローブ分子が、核酸又は核酸合成酵素であることを特徴とする、請求項8記載の核酸分析装置。
【請求項10】
微粒子1個に対して、プローブ分子が一分子固定されていることを特徴とする、請求項8又は9に記載の核酸分析装置。
【請求項11】
記微粒子が、疎水性を有する材料でできているか、又は表面に疎水性をもたらす修飾がなされていることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の核酸分析装置。
【請求項12】
核酸分析デバイスの接着用パッドが、金、チタン、ニッケル及びアルミからなる群から選択される材料からなることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか1項に記載の核酸分析装置。
【請求項13】
核酸分析デバイスの支持基板が、石石英、サファイア及びシリコンからなる群から選択される材料からなることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか1項に記載の核酸分析装置。
【請求項14】
分析デバイスに光を照射する手段として、エバネッセント場を利用することを特徴とする、請求項8〜13のいずれか1項に記載の核酸分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−191874(P2012−191874A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57091(P2011−57091)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】