説明

核酸単離のためのシリカ表面の再活性化の方法

本発明は、水溶液および/または水による処理によって、シリカ表面、特にシリカマトリックスの結合容量を増加させる方法、特に再活性化する方法に関し、また、シリカ膜の再活性化のための水の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシリカ膜、シリカ粒子、またはシリカ層を有するカラム等のシリカ表面の再活性化の方法および使用に関する。その機器および使用は、例えば生化学、分子生物学、分子遺伝学、微生物学、医療診断学、食品の安全性試験、または法医学における用途に適している。
【背景技術】
【0002】
シリカ表面は、例えば生化学、分子生物学、分子遺伝学、微生物学、医療診断学、食品の安全性試験、または法医学の分野に広く普及しており、通常、生体分子の分離、単離、および精製に使用されている。頻繁に用いられる方法は、例えば核酸、例えばDNAまたはRNA、の単離におけるシリカ膜の使用である。
【0003】
この目的のため、単離対象でありかつサンプルに含まれるDNAおよび/またはRNAは、例えば「カオトロピックな」試薬の存在下でシリカ膜と結合する。その後、すすぎおよび洗浄によるサンプルの残存成分の除去が可能である。その後に、DNAまたはRNAが放出されて、分析される。
【0004】
本出願人による組織内研究の一環として、いくつかのシリカマトリックス、より詳細には市販のシリカ膜が、特定の膜の場合、核酸に結合する能力が(保存)時間の経過と共に低下することがあるという、問題を示すことが明らかになっている。それらが室温またはより高い温度で保存される場合は、特にそうである。2〜8℃で保存することにより、最長その製品の失効日まで質の低下が実質的に解消され、この問題の大幅な先送りが可能であるものの、欠点と考えられるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来技術による上記の欠点を少なくとも大幅に改善すること、より詳細にはシリカ表面の活性を増大させる、より詳細にはシリカ表面の活性を回復できる、機器および使用の幅広い用途を創出すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その目的は、本発明の請求項1に請求される方法によって達成される。すなわち、水溶液および/または水による処理によって、シリカ表面、より詳細には例えばシリカ膜またはシリカ粒子等のシリカマトリックス、の活性を増大させる方法が提案される。
【0007】
本発明の目的は、本発明の請求項2に請求される使用により、同様に達成される。すなわち、シリカ表面、より詳細には例えばシリカ膜またはシリカ粒子等のシリカマトリックスの活性を増大させるための水の使用が提案される。
【0008】
「水溶液」という用語は、≧80重量%の、好ましくは≧90重量%の、より好ましくは≧95重量%の、特に好ましくは≧98重量%の、まさしく特に好ましくは≧99重量%の、最も好ましくは≧99.5重量%の、水からなる溶液を特に意味すると理解される。
【0009】
「活性」という用語は、核酸に結合するおよび/または核酸を固定化する能力を特に意味すると理解される。
【0010】
本発明の目的のため、「核酸」という用語は、これらに限定されるものではないが、RNA、より詳細には、mRNA、一本鎖および二本鎖のウイルス性RNA、siRNA、miRNA、snRNA、snoRNA、scaRNA、tRNA、hnRNA、またはリボザイム、ゲノム性、細菌性、もしくはウイルス性のDNA(一本鎖および二本鎖)、染色体性およびエピソーム性のDNA、遊離循環核酸および類似物、合成核酸または修飾核酸、例えばオリゴヌクレオチド、より詳細にはPCRにおいて用いられるプライマー、プローブ、または標準物質、ジゴキシゲニン性、ビオチン性、または蛍光性の色素標識化核酸、あるいはPNAs(ペプチド核酸)として知られるもの、等の天然の、好ましくは直線状の、分岐した、または円形の、核酸を意味すると理解される。
【0011】
本発明の目的のため、「固定化」という用語は、特に、これに限定されるものではないが、好適な固相上の可逆性の固定化を意味すると理解される。
【0012】
「増大する」という用語は、特に、そして本発明の好ましい実施形態において、再活性化を意味すると理解される。
【0013】
「シリカ表面」という用語は、特に、これらに限定されるものではないが、例えば、シリカ膜、粘着性のない層としてのシリカ粒子、シリカ被覆の磁性、常磁性、強磁性、または超強磁性の粒子あるいはシリカ繊維を意味すると理解される。
【0014】
「シリカ膜」という用語は、特に、これらに限定されるものではないが、取り込まれたシリカ繊維、取り込まれたシリカゲルを有する膜、何らかの他の形状で膜に統合された、または膜に結合したシリカ、を意味すると理解される。
【発明の効果】
【0015】
そのような方法は、本発明の意味合いでの幅広い範囲の用途について、以下の利点の少なくとも一つをもたらす:
−非常に温和な条件下での単純な段階によって、活性が増大する、より詳細には、マトリックス(例えば膜)が再活性化される。
−本発明の意味合いでのほとんどすべての用途について、再活性化が完全であって、低温での保存を不要にすることが可能である。
−再活性化の段階は、マトリックス類(特にカラム類の形状における)の品質および機能が一定であることを確実にすることができる。
−その結果として、用途における再現性が著しく上昇する。
【0016】
本発明による方法は、核酸の結合および/または固定化に使用されるシリカマトリックスに特に使用可能であるため、いっそう意外であることが指摘される。結合および/または固定化がおこなわれる条件は、通常、以下のようなものである:
−その効果にはとりわけ核酸周辺の水和包膜を破壊することが含まれる、カオトロピック試薬が使用される;および
−固定化が脱水条件下(例えば溶剤としてアルコールを用いることにより)で実施される。
【0017】
したがって、固定化の間に水が完全に除去されるわけではないが、核酸周辺の水和包膜は、少なくとも大幅に除去される。シリカマトリックス類の活性(固定化能)における回復または増大が本発明による単純な条件下で生じるだけに、いっそう意外である。
【0018】
水または水溶液による処理は、好ましくは≧5分、より好ましくは≧10分、特に好ましくは≧15分、まさしく特に好ましくは≧30分、続く。原則として、処理の時間に上限はないが、60分を超える(多くの場合45分を超える)処理が活性における更なる実質的な増大をもたらさないことが、ほとんどすべての用途においてわかっている。したがって、好ましい処理の時間は、15分と60分の間であり、特に好ましくは30分と45分の間である。
【0019】
原則として、水または水溶液による処理は、達成される効果が最大となるため、シリカマトリックスの意図される使用の前に、短い時間間隔で、特に好ましくは(たとえ他の条件等があったとしても、洗浄段階のみで解釈して)直前に、実施される。
【0020】
また、水または水溶液による処理は、好ましくは0℃、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、の温度、特に好ましくは≧5℃の温度で、実施される。原則として、処理温度に上限はないが、最高≦45℃の温度であれば取扱いが容易であり、≧20℃で≦30℃の温度範囲が好ましいことが、ほとんどすべての用途においてわかっている。理想的には、温度は、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、または29℃であり、室温が好ましい。
【0021】
本発明による処理に使用される水溶液は、以下の群から選択される一つまたは複数の成分を付加的に含むことができる:
−緩衝性物質、特に、それらに限定されるものではないが、トリス、トリス/HCl、HEPES、MOPS、酢酸ナトリウム緩衝剤、リン酸緩衝剤、酢酸アンモニウム緩衝剤;
−塩類、例えば、それらに限定されるものではないが、ハロゲン化合物、塩化物、より詳細には、NaCl、KCl、MgCl2、CaCl2、MnCl2、酢酸アンモニウム、酢酸マグネシウム、および他の酢酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩;
−安定剤、特に、例えば、EDTA、RGTA、NTA、EDDHA、DTPA、HEEDTA、等のキレート化剤;
−保存剤、特に、それらに限定されるものではないが、アジ化ナトリウム、ProClin、ソルビン酸、ソルビン酸塩、安息香酸塩;
−洗浄剤、例えば、それらに限定されるものではないが、Triton、SDS、Tween、Brij、またはその他;
ならびにそれらの混合物。
【0022】
ただし、意外にも、カオトロピック試薬の比較的大量の添加によって、活性化が低下することが、わかっている。したがって、水溶液は、まったくカオトロピック試薬を含まないまたはカオトロピック試薬を低濃度(好ましくは≦100 mM、特に好ましくは≦10 mM、まさしく特に好ましくは≦1 mM)でのみ含むことが、好ましい。
【0023】
また、本発明によって処理のために使用される水溶液は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10のpHを有している。好適には、水溶液は、≧2で≦9.5、好ましくは≧4で≦9、特に好ましくは≧5で≦8.5、まさしく好ましくは≧6で≦8、のpHを有しており、最も好ましくは基本的に中性である。
【0024】
本発明によって使用される、上記の、また請求される、ならびに例示的実施形態に記載の、成分は、それらのサイズ、形状、材料選択、および技術的概念に関しては特定の除外条件の対象ではなく、そのため、用途の分野で知られている選択基準は、限定なしに適用可能である。
【0025】
本発明の対象のさらなる詳細、特徴、および利点は、従属クレーム、図および実施例を伴う以下の記述からのものであり、実施例には、例として、本発明の複数の実施形態および可能な使用が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】3週間の異なる温度での保存後に、本発明に従って水で処理された、さまざまなシリカマトリックスの活性が示されている。
【図2】3週間の保存後に、本発明に従って異なる水溶液で処理された、さまざまなシリカマトリックスの活性が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0027】
例1:3週間の異なる温度での保存後に、本発明に従って水で処理された、シリカマトリックスの活性の決定
【0028】
以下の手順が採用された:
複数のQIAamp MinEluteカラム(QIAGEN社から入手)を、45℃で3週間保存し、同時に参照カラム(同一のロット番号の)を5℃で保存した。
45℃で保存したカラムの半数につき、使用に先立ち、室温の水で30分間、プレインキュベーションを行った。
その後、カラムの活性を測定した。
【0029】
この目的のため、B型肝炎ウイルスと混合したヒトの血漿(10e4 c/ml、HBV)をサンプルとして、「真空」プロトコル(QIAamp MinEluteウイルス真空ハンドブック、第3版、2007年3月)または「スピン」プロトコル(QIAamp MinEluteウイルススピンハンドブック、第3版、2007年2月)を用いて処理/精製した。
【0030】
精製した核酸(二本鎖の循環DNA)を、HBV特異的リアルタイムPCRで定量した。単離したHBV DNAの量は、カラムの結合活性の評価基準として使用可能である。Ct値(閾サイクル数;核酸が最初に検知可能となるPCRのサイクル数)が低いことは、結合活性が高いことの証拠であり、高いCt値は、結合活性が低いことを示す。
【0031】
活性の測定値を図1に示す。45℃で保存したカラムの活性、45℃で保存しその後本発明に従って水で処理したカラムの活性(45℃、水)、および対照として5℃で保存したカラムの活性を、それぞれ示している。
【0032】
その結果は、5℃で保存したカラム(この場合活性は低下しない)に比べ、45℃で保存したカラムのエイジングが、3週間後に約1 Ctの変化に(すなわち約50%の結合能力の低下に)つながっていることを、示している。
【0033】
一方、45℃で保存したカラムの前保温(45℃/水)は、意外にも、エイジングを完全に逆戻しできることを、示している。使用に先立って本発明に従って処理された45℃で保存されたカラムは、冷温で、すなわち5℃で、保存されたカラムと同じ性能を示す。
【0034】
例2:3週間の保存後に、本発明に従って異なる水溶液で処理された、シリカマトリックスの活性の決定
実施例1と同様に、複数のQIAamp MinEluteカラムを、45℃で3週間保存し、同時に参照カラム(同一のロット番号の)を5℃で保存した。
【0035】
活性の測定に先立って、複数のカラムにつき下記の溶液のそれぞれにより室温で30分間前のインキュベーションを行った:
【表1】

【0036】
次に、実施例1に記載のように、HBVと混合したヒトの血漿(10e4 c/ml、HBV)を真空プロトコルに従って精製し、精製した核酸(二本鎖の循環DNA)の結合活性を、HBV特異的リアルタイムPCRで定量した。
【0037】
対照(C)として、45℃又は5℃で保存したカラムの活性も測定した。
【0038】
結果を図2に示す。原則として、本発明に従うすべての水溶液によるシリカマトリックスの処理は、再活性化をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液および/または水による処理によって、シリカ表面の活性を増大させる方法。
【請求項2】
シリカ表面が核酸の固定化のために用いられる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法がシリカ表面の再活性化に用いられる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記処理が≧5分続く請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記処理が≧0℃の温度で行われる請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記処理に用いられる水溶液が≧1から≦10のpHを有する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
シリカ表面の活性を増大させるための水溶液および/または水の使用。
【請求項8】
前記水溶液が≧80重量%の水からなる請求項8に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−527991(P2012−527991A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512311(P2012−512311)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056937
【国際公開番号】WO2010/136372
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【Fターム(参考)】