説明

核酸固定用成形体および核酸固定化方法

【課題】核酸マイクロアレイの作製において、安価で効果的に核酸プローブを固定化しうる核酸固定用成形体を提供することであり、また効果的な核酸プローブの固定化方法を提供することを課題とする。
【解決手段】プラスチック基材の表面に、少なくとも親水性高分子樹脂による親水性コート層を積層してなる核酸固定用成形体であって、前記基材の中心線表面平均粗さRaが0.10μm以上であり、前記親水性コート層の厚さが、前記基材の中心線平均表面粗さRaの5%以上90%以下であることを特徴とする核酸固定用成形体による。また、核酸固定用成形体に核酸プローブ含有水溶液を滴下し、乾燥させることによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子の発現、変異、多型等の解析に有用な核酸(DNA断片やオリゴヌクレオチド)、すなわち核酸プローブを固相表面に整列させて固定させた核酸マイクロアレイに用いる核酸固定用成形体、および前記核酸固定用成形体に核酸プローブを固定化する核酸固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゲノムシークエンシングの進展により各生物のゲノムの全塩基配列が明らかにされつつある中、この結果を有効に利用する技術が望まれている。
核酸マイクロアレイとは複数の遺伝子を同時に解析できる技術であり、塩基配列決定法のみではなく、遺伝子の発現量や多型などを効率よく調べる方法として開発され、テーラーメイド医療、菌類などの生物学的分類の特定および疾病の診断などへの応用が展開されている。
【0003】
テーラーメイド医療、ならびに生物学的分類または変異体の同定に用いられうる核酸マイクロアレイは、一般に特定の塩基配列を定性的に検出する程度で十分である。さらに、院内感染の危険性を考慮すると、試験紙のような安価な使い捨て用のものが求められている。
【0004】
一方、核酸マイクロアレイに用いられる基材は、一般的にはガラスまたはシリコンが主である。これらの基材の表面に核酸プローブを固定化する場合、当前記基材の表面を、例えば、シランカップリング反応を利用することで表面に化学官能基を修飾し、一方で、核酸プローブの末端に当前記化学官能基と共有結合可能な官能基を修飾して、共有結合形成により固定化する方法が挙げられる。特許文献1では、アミノ基とエポキシ基、チオール基とマレイミド基などの組み合わせが開示されている。また、リソグラフィー技術などを用いて固定表面に直接核酸プローブを合成する技術なども存在する。
【0005】
しかしながら、ガラスなどの基材を用いた場合、作業者はその取り扱いを慎重に行わなければならない。もし、ガラス片で怪我をしてしまった場合、院内感染の恐れもある。また、ガラスなどの基材における上述の各種核酸プローブ固定化方法は、製造コストを要する。
【0006】
一方で、安価なプラスチック基材に核酸プローブを固定化する試みもなされている。これらプラスチック基材は、基材表面が疎水(撥水)性であり、親水性高分子である核酸プローブの固定化は困難である。
【0007】
かかる事情を鑑みて、プラスチック基材の表面を酸化処理を施すことにより表面に官能基を発生させ、上述した方法と同様に共有結合により核酸プローブを固定化する技術も開示される(特許文献2)。
【0008】
しかしながら、これらの各種核酸プローブ固定化方法は、製造コストを要することに変わりはなく、依然としてテーラーメイド医療に適した安価な核酸マイクロアレイは提供できていない。
【0009】
【特許文献1】特開2000−270896号公報
【特許文献2】特開2005−010004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、核酸マイクロアレイの作製において、安価で効果的に核酸プローブを固定化しうる核酸固定用成形体を提供することであり、また効果的な核酸プローブの固定化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を進めた結果、基材をプラスチック層とし、その表面に少なくとも親水性コート層を含む構成を有する核酸固定用成形体であって、前記親水性コート層の接触角および親水性コート層の厚さを工夫することにより、核酸固定用成形体に核酸プローブを効果的に固定化しうることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.プラスチック基材の表面に、少なくとも親水性高分子樹脂による親水性コート層を積層してなる核酸固定用成形体であって、前記基材の中心線表面平均粗さRaが100nm以上1000nm以下であり、前記親水性コート層の厚さが、前記基材の中心線平均表面粗さRaの5%以上90%以下であることを特徴とする、核酸固定用成形体。
2.前記親水性コート層の接触角が、0°以上60°以下である、前項1に記載の核酸固定用成形体。
3.前記プラスチックが、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、およびアクリル系樹脂から選択される何れかである、前項1または2に記載の核酸固定用成形体。
4.前記親水性高分子樹脂が、シロキサン系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、およびメラニン系樹脂から選択される1種または複数を主成分とするものである、前項1〜3の何れか1項に記載の核酸固定用成形体。
5.前項1〜4の何れか1項に記載の核酸固定用成形体に対して、核酸プローブを含有する核酸プローブ含有水溶液を滴下し、乾燥させることを特徴とする、核酸固定用成形体への核酸プローブ固定化方法。
6.前記核酸プローブにポリチミンが予め付加されることを特徴とする、前項5に記載の核酸プローブ固定化方法。
7.前記乾燥時に、紫外線を照射することを特徴とする、前項5または6に記載の核酸プローブ固定化方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の核酸固定用成形体は、プラスチック層を基材とし、その表面に親水性コート層を積層しているものを用いるため、経済的であり、取扱にも便利であり、効率よく核酸プローブを固定化することができ、院内感染などの危険性もない。本発明の核酸固定用成形体を用いた核酸固定化方法によると、効果的に核酸プローブを固定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において、「核酸固定用成形体」とは、一般的に遺伝子等の解析の分野で使用される核酸マイクロアレイにおいて、核酸プローブを固定化するためのものをいう。本発明の核酸固定用成形体は、プラスチック層を基材とし、その表面に少なくとも親水性コート層を積層してなる構成を有する。
【0015】
上記成形体の形状としては、例えば、板状素材、容器、フィルムおよびチューブなどが挙げられる。中でも取り扱いが容易である観点から、長方形状のフィルムまたは板状素材が好ましいが、これに限定されるものではない。また、成形体の大きさなどは、特に限定されるものではないが、検出を容易にする観点から、検出する面はある程度の面積が必要である。例えば、成形体が長方形状のフィルムまたは板状素材である場合、上記表面の面積は、取り扱いが容易である観点から、約40〜1000mm、好ましくは約60〜300mmである。
【0016】
上記成形体の製造方法は、当業者により状況に応じて選択することができる。例えば、押出成形、射出成形、溶融成形および圧縮成形などが挙げられ、製造コストおよび容易性の観点から、押出成形が好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
本発明において、基材として使用されるプラスチックは、工業的に汎用されている疎水性の汎用プラスチックを使用することができる。具体的には、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化エチレン、ポリイミドおよびアクリル樹脂などが挙げられる。中でも安価で、比較的強度を有し、取り扱いが容易である観点から、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミドおよびアクリル系樹脂が好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
本発明において、「中心線表面平均粗さ」とは、JIS表面粗さのJIS-B-0601により定義され、Raで表すことができるパラメーターをいう。本発明において、表面平均粗さRaの測定方法は、例えば原子間力顕微鏡を用いても求めることができるが、これに限定されるものではない。本発明の成形体の基材に用いられるプラスチックは、表面平均粗さが、100〜1000nm、好ましくは100〜900nmのものを選択することができる。
【0019】
本発明において、「接触角」とは、固体表面に液体が触れると液滴ができるが、この液滴と固体表面の接触部分がなす角度をいう。いいかえれば、接平面と液体表面および液体/固体接触点における液体/固体表面との間の角度をいう。接触角は、一般的には0〜180°の間で表すことができる。上記液滴としては、一般的に水滴が使用され、0°に近づくほど、水滴は固体塗表装面に平たく伸びている状態、つまり親水性の状態を示し、固体表面は親水的であるといえる。一方で、180°に近づくほど、完全に水滴は固定表面からを弾かれ、球体に類似した形状で塗装固体表面に接触している状態を示し、固体表面は疎水性であるといえる。本発明の親水性コート層の接触角は、核酸の固定化率の向上の観点から、0〜60°であり、好ましくは0〜40°であり、より好ましくは0〜30°である。60°より大きくなると親水性の核酸プローブの固定化が困難となるからである。
【0020】
上記の条件を満たす親水性コート層を形成する親水性材料として、各種の天然親水性高分子物質および合成水溶性高分子物質を使用することができる。
天然親水性高分子物質として、カルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプンなどのデンプン系;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系;タンニン、リグニン系、アルギン酸、アラビアゴムヘパリン、キチン、キトサンなどの多糖類などを例示することができる。
【0021】
合成親水性高分子物質としては、シロキサン系として、テトラエトキシシラン;ビニルアルコール系として、ポリビニルアルコール;ポリアルキレンオキサイド系として、ポリエチレンオキサイド;ポリアルキレングリコール系として、ポリエチレングリコール:アクリル酸系として、ポリアクリル酸ソーダ;無水マレイン酸系として、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル無水マレイン酸ソーダ、メチルビニルエーテル無水マレイン酸アンモニウム塩、無水マレイン酸エチルエステル共重合体;フタル酸系として、ポリヒドロキシエチルフタル酸エステル;水溶性ポリエステルとして、ポリジメチロールプロピオン酸エステル;アクリルアミド系として、ポリアクリルアミド加水分解物、ポリアクリルアミド四級化物、さらに、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリエチレンスルホネート、水溶性ナイロンなどが例示される。
【0022】
本発明の親水性コート層を形成する親水性材料として、上記の親水性材料のなかでも、塗工液の加工性の観点から、特に、テトラエトキシシラン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂またはメラニン系樹脂が好適である。また前記の接触角を充分に満たすため、これらの樹脂材料を混合したり、共重合を行ってもよい。さらに樹脂コート後に、アルゴン、酸素、窒素の単独または混合気体を用いてなるプラズマ処理を施すことで、接触角の低下をある程度防止することも考えられる。
【0023】
本発明の親水性コート層には、上記接触角の条件を満たすものであれば、無機添加物を含有することができる。このような無機添加物として、例えば球形粒子状、繊維状およびフレーク状のものが挙げられるが、無機添加物分散性の観点から球形粒子状のものが好ましい。また、球形粒子の粒径は、配合される成形体の表面粗さが後述する範囲内になるように、上記配合量を加味しつつ適宜選択することができるが、樹脂における無機添加物分散性の観点から、0.01〜0.10μmが好ましく、0.02〜0.08μmがより好ましい。
【0024】
前記無機添加物としては、例えば、酸化チタン、二酸化チタン、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等が例示され、これらからなる群より選択される少なくとも1種類を親水性コート層の副成分として含有することができる。中でも親水性の観点から、シリカが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
前記無機添加物の配合量は、無機添加物が配合される親水性コート層の主成分と無機添加物の種類に応じて適宜設定されるが、無機添加物の分散性の観点から、例えば、主成分100重量部に対して無機添加物10重量部以下、好ましくは1重量部以下である。
【0026】
本発明において、親水性コート層の厚さは、プラスチック層の表面平均粗さの5〜90%、好ましくは20〜80%、より好ましくは30〜70%とすることができる。90%より高い場合は、核酸プローブを固定化する表面が平滑になり、核酸プローブを固定化しにくくなる。一方、5%より低い場合は、核酸プローブを固定化する表面の親水性が十分に得られず、固定化する表面と核酸の水溶液との濡れ性が向上しないため、核酸プローブを固定化しにくいからである。一般に、疎水性を有するプラスチック層の表面に、親水性高分子である核酸プローブを固定化する際、当業者は固定化する表面と核酸プローブとの親和性のみを考慮し、前記プラスチック層に親水性コート層を「厚く」形成させ、当前記親水性コート層に核酸プローブを固定化することが考えられる。しかしながら、親水性コート層を厚く形成させたのでは核酸プローブは思うように固定化されない。
【0027】
プラスチック層上に親水性コート層を形成する方法は、プラスチック層と親水性コート層との親和性を考慮して当業者が適宜選択でき、特に限定されるものではないが、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ラングミュア−ブロジェット法、ロールコート法、マイクログラビア法およびダイ法などが挙げられ、製造コストの観点からロールコート法またはマイクログラビア法が好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
上記コーティングに使用する親水性材料の溶媒は、コーティング方法、親水性材料の溶解性、副成分の分散性および当前記溶媒とプラスチック層との親和性を考慮して当業者が適宜選択でき、特に限定されるものではないが、例えば、親水性材料の真溶剤成分がアルコール系である場合は、エタノールやイソプロピルアルコールなどが用いられる。
【0029】
本発明は、本発明の核酸固定用成形体に核酸プローブを固定化する方法にも及ぶ。核酸プローブの固定化は、スポッティング法によることができる。具体的には、本発明の核酸固定用成形体に、予め調製した核酸プローブを含む核酸含有水溶液を滴下し、乾燥することにより行うことができる。核酸含有水溶液の滴下は、核酸マイクロアレイ作製装置に備えられたスポッター装置を用いることもでき、インクジェット方式で吐出することもできる。核酸含有水溶液を滴下したのち、通常の方法により核酸含有水溶液を乾燥し、核酸プローブを核酸固定用成形体に固定化することができる。また、乾燥時に、紫外線照射を施すこともできる。
【0030】
固定化する核酸プローブとしては、DNA、RNAおよびPNA(ペプチド核酸)などを用いることができる。中でも製造コストおよび使用頻度の観点から一本鎖のDNAが選択され、一般的にDNAプローブと称される。DNAの調製方法としては、例えば、合成されたDNA(オリゴヌクレオチド)またはmRNAから逆転写されたcDNAであってもよい。前記オリゴヌクレオチドの合成は、市販の核酸の自動合成機などで合成することができる。核酸の合成または部分的合成修飾物、mRNAを鋳型にした相補的DNAであるcDNA、PCR産物などが挙げられる。本発明の核酸は、基材上との反応部位として官能基が付加されていてもよく、例えばポリチミンが付加されていても良い。
【0031】
上記核酸プローブの塩基配列などは、使用目的などにより当業者が適宜設計することができ、特に限定されるものではない。例えば、合成オリゴヌクレオチドプローブを用いる場合、そのプローブの長さは、10〜30塩基、好ましくは12〜26塩基程度に設計することができる。
【0032】
さらに上記核酸プローブの基材への固定化率を向上させるために、上記核酸プローブの末端にハイブリダイズ反応に影響しない無関係な塩基配列を50〜300塩基ほど付加する方法を用いることができる。上記無関係な塩基配列としては、例えば、ポリアデニン、ポリグアニン、ポリチミンなどが挙げられる。中でも核酸プローブの固定化率が向上する観点からポリチミンが好ましい。このポリチミンの付加は、例えば、ターミナルトランスフェラーゼなどで当業者が適宜付加反応を行うことができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の理解を深めるために、実施例を示して説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
表面平均粗さが0.19μmを示す白色ポリエチレンテレフタレートフイルム(東レ(株)ルミラーE20)を基材(以下「基材A」と記する。尚、以降に示す成形体は全て押出成形法により製造された物であることを予め断っておく。)として使用し、前記フィルムの片側に、グラビアコーターにより親水性高分子樹脂(松下電工(株)製フレッセラR)を固形分濃度を0.1%までイソプロピルアルコールにて希釈して塗工厚みが0.1μm(平均表面粗さの約53%)になるように塗工を行い、親水性コート層を積層することにより、本発明に係る核酸固定用成形体を得た。また親水性コート層面側の純水接触角を測定したところ18°を示した。
【0035】
(実施例2)
基材として表面粗さが0.13μm白色ポリエチレンテレフタレートフイルム(東洋紡績(株)クリスパーK1211)を使用した以外は実施例1と同様にして親水性コート層を有する本願発明に係る核酸固定用成形体を得た。また親水性コート層側の純水接触角を測定したところ、19°を示した。
【0036】
(実施例3)
親水性コート層を形成する親水性高分子樹脂として、ポリビニルアルコール(日本合成化学 ゴーセファイマーZ100)に コロイダルシリカ 粒径 20nmを1%添加したものを用いた。これを塗工し乾燥した後に純水接触角が60°以下になるように調整した上で、0.1μm厚みの塗工を施した以外は、実施例1と同様にして基材Aに親水性コート層を有する構成を備えた核酸固定用成形体を得た。また親水性コート層面側の純水接触角を測定したところ、18°を示した。
【0037】
(実施例4)
実施例1で得た核酸固定用成形体に対し、さらに親水性コート層の表面に対して酸素プラズマ処理を行い、核酸固定用成形体を得た。また親水性コート層面側の純水接触角を測定したところ、12°を示した。
【0038】
(比較例1)
基材Aに対し、親水性コート層の厚みが約0.3μm(平均表面粗さの約150%)とした以外は実施例1と同様にして作製し、核酸固定用成形体を得た。
【0039】
(比較例2)
プラスチック層として表面平均粗さが0.07μmの平滑なポリエチレンテレフタレートフイルム(東洋紡A4100)を使用し、その上にグラビアコーターで親水性コート層(実施例1、2に同じ)を0.1μm塗布し核酸固定用成形体を得た。
【0040】
(比較例3)
基材Aに親水性コーティングを行わずに、基材Aをそのまま核酸固定用成形体とした。
【0041】
(比較例4)
基材Aに親水性コーティングを行わず、直接、酸素プラズマ処理したものを核酸固定用成形体とした。
【0042】
(実験例1)核酸マイクロアレイの製造および検出による核酸の固定量の判定
実施例1〜4と、比較例1〜4の核酸固定用成形体に核酸プローブを固定化し、その検出を目視で判定することにより核酸の固定化が良好に行われたかどうかを検討した。
【0043】
1)核酸プローブの調製
核酸プローブとしては、配列番号1に示される核酸プローブ(シグマジェノシスジャパン社提供)を用いた。配列表の配列番号1の核酸プローブは、第1エクソンと第2エクソンの間のイントロン領域内に存在するエストロゲン受容体対立遺伝子(Xba I多型)のうち、制限酵素Xba Iにより切断されない配列(x型)を検出することができるものである。この核酸プローブに5’末端をターミナルトランスフェラーゼ(New England Biolab社製)を用いて、ポリチミンの付加を行った。具体的には、ターミナル・トランスフェラーゼ(20unit/μl)を4μl、チミジン三リン酸(10pmol/μl)を10μl、配列番号1の核酸プローブ(50mM)を4μl、製品添付のNEBuffer 4を5μl、および製品添付のカコジル酸緩衝液を5μl含んだ精製水50μlを調製した後、37℃で4時間反応させ、製品添付の20×SSC緩衝液50μlを加えることで、ポリチミン付加された核酸プローブ(約300bp)2pmol/μlをそれぞれ得た。
【0044】
配列番号1:gtggtctaga gttggg 16
【0045】
2)核酸プローブの固定化および核酸マイクロアレイの製造
次に、ポリチミン付加された配列番号1の核酸プローブを1.0pmol/μlとなるように、製品添付の10×SSC緩衝液で希釈し、実施例1〜4と、比較例1〜4の核酸固定用成形体にそれぞれ0.5μLずつ塗布し、312nmの紫外線を2分間照射して固定化することで、核酸マイクロアレイを製造した。
【0046】
3)検体のゲノムDNAの増幅
xx型の検体のゲノムDNAを配列番号2に示した塩基配列を有するフォワードプライマーおよび3に示した塩基配列を有し、かつ5’末端にビオチンを結合させたリバースプライマー、およびTaq DNAポリメラーゼ(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)を用いたPCR法によりXba I多型を含む塩基配列の増幅を行った。PCRの反応条件は、変性過程を94℃、30秒、アニール過程を55℃、20秒、鎖伸長過程を72℃、20秒とし、この工程を30サイクルおこない増幅を行った。
【0047】
配列番号2:gttccaaatg tcccagccgt 20
配列番号3:cctgcaccag aatatgttac c 21
【0048】
4)核酸の検出および核酸固定化量の確認
増幅したDNA溶液20μLに、水酸化ナトリウム(5M)、エチレンジアミン四酢酸(0.05M)の溶液(20μL)を加えてよく攪拌し、5分間放置して、増幅したDNAを1本鎖に変性した。この試料溶液中に、ドデシル硫酸ナトリウム(0.01w/v%)、塩化ナトリウム(1.8w/v%)、クエン酸ナトリウム(1.0w/v%)の溶液(1mL)および上記核酸マイクロアレイをそれぞれ加え、反応温度45℃のもとで30分間振とうして反応させた。その後、アルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンを加え、さらにニトロブルーテトラゾリウム(NBT)および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスファターゼ p−トルイジニル塩(BCIP)を加えて、検出ストリップ上の各プローブと結合した試料に結合したアルカリホスファターゼを発色させた。
【0049】
以上の結果を下記表にまとめて示す。実施例1〜4は、いずれも良好な発色であったのに対し、比較例1〜4はいずれも目視で発色を確認するのが困難であった。つまり、本発明の核酸固定用成形体の有用性が示唆された。
【0050】
5)核酸の検出および核酸固定量の確認
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の核酸固定用成形体は、基材としてプラスチック層を用いるため、経済的であり、取扱にも便利であり、院内感染などの危険性もない。また、本発明の核酸固定用成形体を用いた核酸固定化方法によると、効果的に核酸を固定化することができ、工業的な製造におけるコストを要さない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材の表面に、少なくとも親水性高分子樹脂による親水性コート層を積層してなる核酸固定用成形体であって、前記基材の中心線表面平均粗さRaが100nm以上1000nm以下であり、前記親水性コート層の厚さが、前記基材の中心線平均表面粗さRaの5%以上90%以下であることを特徴とする、核酸固定用成形体。
【請求項2】
前記親水性コート層の接触角が、0°以上60°以下である、請求項1に記載の核酸固定用成形体。
【請求項3】
前記プラスチックが、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、およびアクリル系樹脂から選択される何れかである、請求項1または2に記載の核酸固定用成形体。
【請求項4】
前記親水性高分子樹脂が、シロキサン系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、およびメラニン系樹脂から選択される1種または複数を主成分とするものである、請求項1〜3の何れか1項に記載の核酸固定用成形体。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の核酸固定用成形体に対して、核酸プローブを含有する核酸プローブ含有水溶液を滴下し、乾燥させることを特徴とする、核酸固定用成形体への核酸プローブ固定化方法。
【請求項6】
前記核酸プローブにポリチミンが予め付加されることを特徴とする、請求項5に記載の核酸プローブ固定化方法。
【請求項7】
前記乾燥時に、紫外線を照射することを特徴とする、請求項5または6に記載の核酸プローブ固定化方法。

【公開番号】特開2007−187451(P2007−187451A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3260(P2006−3260)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】