説明

核酸複合体

【課題】生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度よりも高い温度では疎水性となる温度応答性ポリマーブロックを有した遺伝子導入剤と核酸との複合体を提供する。
【解決手段】分岐鎖を有するポリマー材料よりなり、該ポリマーは、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性である、温度感応性ポリマーブロックを有する遺伝子導入剤を用いて核酸複合体とする。ポリマー材料は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体よりなるホモポリマーに対し、N−イソプロピルアクリルアミドをブロック重合させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入剤を用いた核酸複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
安全性、品質安定性、製造コストに問題があるウイルスベクターに代わる遺伝子導入技術として、合成高分子ベクター、カチオン性脂質ベクターが研究開発されている。
本出願人らは合成高分子ベクターとしてベンゼンなど芳香族環を核としてカチオン性ポリマー鎖が放射状に伸延する分岐構造のベクターがDNAを高密度で凝縮させて小さな核酸複合体微粒子を形成させ、効率良く細胞へ遺伝子導入できることを発明した(下記特許文献1)。この複合体微粒子が細胞膜を透過するメカニズムとしては、カチオン性ポリマー鎖による陽電荷が細胞膜表面の陰電荷と静電的に結合しエンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる作用に大きく依存していると考えられる。
これに対して、Lipofectamine2000に代表されるカチオン性脂質ベクターはDNAと形成させたリポソーム粒子表面の脂質が疎水性相互作用より細胞の細胞膜へ溶解又は融合するように膜を透過することで高い発現性を発揮している。
近年、合成高分子ベクターでもカチオン性ポリマー鎖へコレステロールなどの疎水性のセグメントを導入することで疎水性相互作用を付与する検討が盛んに行われている。しかしながら、カチオン性ポリマー鎖へコレステロールなどの疎水性物質を導入した合成高分子は水溶液中では親水性のカチオン性ポリマー鎖が外周側へ多く、疎水性物質が内殻へ多く存在するミセル類似構造またはミセル構造を形成すると考えられ、従って、DNAと形成させた複合体においてもカチオン性ブロックが優先的に水溶液側へ配向し、ポリイオン複合体の疎水性相互作用は非常に効率が悪くなるものと考えられる。
【特許文献1】WO2004/092388
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来の問題点を解消し、細胞膜との疎水性相互作用とカチオン性ブロックの静電作用の両方の作用を発現し、より効率よく細胞膜を透過することができる核酸複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の核酸複合体は、芳香族環を核とし、それから放射状に伸延した複数の分岐鎖を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤と核酸との微粒子状の複合体よりなる核酸複合体において、該ポリマー材料は、少なくとも、カチオン性ポリマーブロックと、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性である温度感応性ポリマーブロックとを有しており、前記微粒子の表面に、核酸と、カチオン性ポリマーブロックと、温度感応性ポリマーブロックとが存在していることを特徴とするものである。なお、本発明でいうポリマーとは、モノマーの2量体などのオリゴマーも包含するものとする。
【0005】
前記ポリマー材料は、カチオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体とのブロック共重合体であることが好ましく、カチオン性モノマーと非イオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体とのブロック共重合体であっても良い。
【0006】
このカチオン性ホモポリマーブロックの分子量は、2,000〜500,000が好ましく、非イオン性ポリマーブロックの分子量は2,000〜500,000が好ましい。
【0007】
このブロック共重合体の分子量は、3,000〜600,000であることが好ましい。
【0008】
前記所定温度(T)は、25〜35℃の間の温度であることが好ましい。
【0009】
前記カチオン性ホモポリマーは、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることが好ましい。
【0010】
このN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合しているものが好ましい。
【0011】
このビニル系モノマーは、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、及びメトキシエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の核酸複合体に用いられている遺伝子導入剤は、温度感応性ポリマーブロックを有しており、上記所定温度よりも低い温度では親水性であり、水溶性であるため、これを水に溶解させて核酸と複合させることができる。この遺伝子導入剤は、所定温度よりも高い温度になると疎水性となる。
【0013】
本発明で用いられる遺伝子導入剤は、ベンゼンなど芳香族環を核としてカチオン性ポリマー鎖が放射状に伸延する分岐構造の合成高分子ベクターである。この遺伝子導入剤は、その構造上の利点により、DNAを高密度に凝縮することができる。この遺伝子導入剤と核酸とを複合させた本発明の核酸複合体の微粒子の表面にはDNA、カチオン性ポリマー鎖ブロック、温度官能性ポリマー鎖ブロックガランダムに配向している。この核酸複合体を使用して細胞への遺伝子導入する際は、培養条件下で核酸複合体微粒子の表面に露出している温度官能性ブロック鎖が疎水性ブロックへ相転移し、細胞膜との疎水性相互作用とカチオン性ブロックの静電作用の両方の作用を発現し、効率よく細胞膜を透過することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で用いる遺伝子導入剤は、カチオン性ポリマーブロックと、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性である温度感応性ポリマーブロックとを有するポリマー材料よりなる。
【0015】
上記のポリマー材料としては、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させ、さらに温度感応性ポリマーブロックを導入した分岐型重合体が好適である。
【0016】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0017】
N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンである。
【0018】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン特にトルエンが好適である。
【0019】
このイニファターに重合させるモノマーとしては、ビニル系モノマー、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等、とりわけビニル系モノマーが好適であり、具体的には3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、及びメトキシエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種とりわけ3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CHが好ましい。
【0020】
イニファターと上記モノマーとを反応させるには、イニファター及びモノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対しモノマーが結合した反応生成物を生成させる。
【0021】
このモノマーの該原料溶液中の濃度は0.5M%以上、例えば0.5M〜2.5Mが好適である。
【0022】
イニファターの濃度は0.1〜100mM程度が好適である。
【0023】
照射する光の波長は300〜400nmが好適である。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
【0024】
なお、この光照射工程(第1の光照射工程)の後にさらに第2の光照射工程を行ってもよい。すなわち、この反応生成物を含む溶液をアルコール、好ましくは上記モノマーのアルコール溶液で希釈する。このアルコールとしてはメタノール又はエタノール、特にメタノールが好適である。アルコール溶液中のモノマー濃度としては、終濃度として、100mM〜5M程度が好適である。
【0025】
上記第1の光照射工程からの反応生成物含有液1体積部に対し、このアルコール溶液5〜500体積部を添加するのが好ましい。
【0026】
このようにアルコール溶液で希釈した希釈液を、第2の光照射工程に供し、上記反応生成物に対しさらに上記モノマーを重合させる。この際の照射光源としては240〜400nmの波長の光を含むものであればよく、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光照射時間は10分〜120分程度が好適である。
【0027】
この光照射により、反応液中に分岐型重合体が生成するので、必要に応じ精製して分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーを得る。
【0028】
この分岐型重合体の分子量は分岐鎖の鎖数によるが、2,000〜500,000、特に2,000〜150,000、とりわけ2,000〜100,000程度が好ましい。
【0029】
本発明では、まず分岐型重合体よりなるカチオン性ポリマーに対し、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させて温度感応性ポリマーブロックを導入し、目的とするポリマー材料とするのが好ましい。ただし、先に温度感応性ポリマーブロックを有した分岐型重合体を形成し、その後、カチオン性ポリマーブロックを導入するようにしてもよい。
【0030】
いずれの場合でも、このN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマー鎖は、低温度では親水性、高温では疎水性となる温度依存性を有する。なお、これにより上記ポリマー材料が上記温度応答性を具備するようになる。
【0031】
カチオン性ポリマーブロックにN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させるには、上記のようにして合成した分岐型重合体をメタノール等の溶媒に溶解させ、これにN−イソプロピルアクリルアミドを混合し、光を照射して重合させればよい。この重合反応を開始する際の溶液中における分岐型ポリマーの濃度は0.01〜10重量%程度が好適であり、N−イソプロピルアクリルアミドの濃度は0.3〜30重量%程度が好適である。光の照射条件は、光波長250〜400nm、照射時間1〜150分、照射強度100〜10,000μW/cm程度が好適である。
【0032】
本発明の別の一態様では、モノマーとして、カチオン性モノマーと、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体と、非イオン性モノマーとを用いる。イニファターに対する重合の順序は、任意である。即ち、1つの分岐鎖を構成するカチオン性ブロック、N−イソプロピルアクリルアミドブロック又はその誘導体、非イオン性ポリマーブロックの配列順序は任意である。
【0033】
非イオン性モノマーとしては、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールアルキルエステル(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドンなどを用いることができる。
【0034】
このブロック共重合体(ポリマー材料)の分子量は3,000〜600,000、特に3,000〜150,000であることが好ましい。
【0035】
このポリマー材料よりなる遺伝子導入剤中の温度感応性ポリマーブロックは、約30℃よりも高い温度で疎水性であり、約30℃よりも低い温度で親水性である。
【0036】
従って、約30℃よりも高い温度では、核酸を複合した遺伝子導入剤は、温度感応性核酸よりなる疎水性部分を有することになる。
【0037】
このようにして生成した遺伝子導入剤(ベクター)が核酸を核酸含有複合体として包囲することによって、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
【0038】
上記遺伝子導入剤と核酸とを複合させるには、30℃よりも低温度下において、遺伝子導入剤の濃度1〜1000μg/mL程度の水溶液に対し、核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対して遺伝子導入剤を過剰量添加し、遺伝子導入剤中のカチオン性ポリマーを核酸に対し飽和状態に核酸含有複合体として複合化させるのが好ましい。
【0039】
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0040】
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。また、上記のようなDNAなどの導入、遺伝子発現、リプレッシング以外にも細胞内のmRNAを破壊するRNA干渉をsiRNAの導入で行うことも可能である。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0041】
核酸複合体の粒径は50〜400nm程度が好適である。この粒径は、例えば、動的光散乱装置によって測定される。粒径がこれよりも小さいと、核酸複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは生体内使用の際には、腎臓にて速やかに濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、微粒子同士が凝集して沈降したり、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
【0042】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0043】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0044】
本発明において、核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
【0045】
本発明の核酸複合体は培養試験に用いるほか、任意の方法で生体に投与することができる。
【0046】
生体への投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
【0047】
この核酸複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
【0048】
また、この核酸複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
【0049】
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
【0050】
この核酸複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
【実施例】
【0051】
実施例1
[遺伝子導入剤の合成]
i)イニファターの合成
下記反応式に従って、1,2,4,5−テトラキス(N−Nジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0052】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)1.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミル酸ナトリウム4.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、減圧乾燥後、クロロホルム200mLへ溶解し、150mLの水を加えて抽出分離し、臭化ナトリウムを除去した。この操作を3回繰り返した後、クロロホルム層を硫酸マグネシウムで24時間乾燥させて、濾過後、n−ヘキサンを加え、再結晶を行って精製し、白色の1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0053】
H NMR(in CDCl)の測定結果はδ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)となった。
【0054】
【化1】

【0055】
ii)光重合による4分岐型スター型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーの合成
下記反応式に従い、次のようにして、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAmと記載することがある。)よりなるカチオン性ホモポリマーの合成を行った。
【0056】
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(以下、3−N,N−DMAPAAmと記載することがある。)19.0gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。石英セル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、200W高圧水銀灯で紫外光を35分間照射した。照射強度は照度計(UVR−1,TOPCON,Tokyo,Japan)を使用して1mW/cm(250nm)に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させて精製し、少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマー1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(pDMAPAAm)よりなるカチオン性ポリマーを得た(重合率40%)。分子量はGPCにより50,000と測定された。
【0057】
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)となった。
【0058】
【化2】

【0059】
iii)カチオン性ホモポリマーへのN−イソプロピルアクリルアミドのブロック共重合によるポリマー材料(4分岐型pDMAPAAm−b−pNIPAM)の合成
下記反応式に従い、次のようにして、テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)−ブロック−ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAm−b−pNIPAMと記すことがある。)の合成を行った。
【0060】
即ち、上記ii)で合成した4分岐型pDMAPAAmホモポリマーを1リットルフラスコへ移し、約800mLのジエイチルエーテルを投入して再沈殿させ、デカンテーションによりジエチルエーテルを除去した。ここへ約50mLのトルエンを加えポリマー成分を溶解し、再度ジエイチルエーテルを投入してポリマー成分を再沈殿した。この操作を3回繰り返した。ポリマー成分を約20mLのメタノールへ溶解し、ここへN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)0.5gを混合して全量をメタノールで60mLに調整した。ii)と同様の条件で光照射重合を行って、メタノール/ジエチルエーテル系で精製を行って4分岐型pDMAPAAmとポリN−イソプロピルアクリルアミド(pNIPAM)とのブロックポリマーよりなるポリマー材料pDMAPAAm−b−pNIPAMを得た。分子量はGPCにより55,000と測定された。
【0061】
【化3】

【0062】
以上により、目的とする分岐スター型遺伝子導入剤が得られた。
【0063】
[遺伝子導入剤と核酸との複合体]
DNAとして、ホタルルシフェラーゼをコードするpGL3コントロールベクター(プロメガ社)を濃度0.033μg/μLで調製した。
その90μLに1μg/μL濃度の上記遺伝子導入剤の生理食塩水溶液を60μLタッピングして混合した。粒子径を測定すると80〜120nm、平均110nmのイオン複合体が形成され、20〜23℃の温度下では約48時間後にも安定に分散していた。これを37℃の環境に置くと、昇温後の数時間は粒子径は90〜140nm、平均130nmで大きな変化はなかったが、24時間後には400nm程度まで増大し、微粒子同士の凝集が起こっていることが確認された。実際の遺伝子導入操作が数時間内で行われることを考慮すれば、37℃昇温後の数時間だけ核酸複合体の粒子径が維持できれば問題ないと考えられる。
次に、水溶液をすべて37℃に温調する以外はすべて前記と同様の手法で粒子径を測定した。360〜400nmのイオン複合体が形成されており、経時性に粒子径を増大し、沈降することが確認された。これは疎水性ブロックを包囲するようにミセルライクな微粒子が形成されるために粒子径が大きくなったものと推測される。
なお、上記の粒子径の測定には動的光散乱装置(HORIBA社、LB−500)を用いた。
【0064】
[遺伝子導入実験]
細胞として血管内皮細胞を使用した。
遺伝子導入剤の溶液の調製は20〜25℃の環境下で行った。DNAは濃度0.033μg/μLのTEバッファー溶液とし、その90μLに1μg/μL濃度の上記遺伝子導入剤の生理食塩水溶液を60μLタッピングして混合した後に150μLのOPTI−MEMを混合して室温で30分間インキュベートして遺伝子導入剤溶液とした。24穴培養フ゜レートへCOS−1細胞を6×10個播種し、培養24時間後にトランスフェクションを行った。
トランスフェクションは培養細胞から培地を除去し、PBSで2回洗浄後に遺伝子導入剤溶液を200μLづつ加えて3時間インキュベートし、PBSで洗浄後に完全培地を加えて48時間培養して行った。
このトランスフェクション後の48時間の培養後に遺伝子導入活性の評価をルシフェラーゼアッセイで行った結果を図1に示す。ホタルルシフェラーゼ活性はプロメガ社のアッセイキットを使用し、補正はタンパク濃度で行った。タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。
【0065】
<比較例1>
上記実施例1の合成プロセスii)を踏襲し、4分岐型pDMAPAAmホモポリマーを合成し、2リットルフラスコ内でジエチルエーテル再沈殿を7回繰り返し、その沈殿物の全量を20mLのメタノールへ溶解した。ここへスチレン1.0gを加え、メタノールで全量を50mLへ調整した。光照射重合の手法は上記合成プロセスiii)と同様に行い、4分岐型pDMAPAAm−b−Stブロックポリマーを合成した。分子量はGPCにより55,000と測定された。これより親水性のカチオン性ポリマー鎖へ疎水性のスチレンブロックが導入されたことが確認された。
この4分岐型pDMAPAAm−bStブロックポリマーとDNAのイオン複合体の粒子径を実施例1と同様に測定した。温度環境は20℃〜25℃で行い、疎水性ブロックが導入されたことによる影響を確認した。350〜450nmのイオン複合体が形成されており、数時間は安定に分散したが経時性に粒子径は増大し凝集現象が起こっていることが示唆された。
ベクターとして、この4分岐型pDMAPAAm−b−Stブロックポリマーを使用したこと以外は実施例1に準拠して遺伝子導入実験を行った。その結果を図1に示す。
【0066】
<比較例2>
ベクターに実施例1の合成プロセスii)で合成した4分岐型pDMAPAAmホモポリマーを使用したこと以外は実施例1に準拠して遺伝子導入実験を行った。その結果を図1に示す。
【0067】
[考察]
以上より、カチオン性ホモポリマーへの疎水性ブロックの固定的導入は核酸複合体の粒子径サイズ及びその安定性に影響し、若干の遺伝子導入活性の向上が確認されるが効率的でないこと考えられる。本発明では核酸複合体形成時には親水性であったブロックを細胞作用時に始めて疎水性ブロックへ相転移させることで核酸複合体の粒子径を高密度に凝縮し、安定化し、細胞作用時には細胞膜との疎水性相互作用を効率良く利用できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族環を核とし、それから放射状に伸延した複数の分岐鎖を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤と核酸との微粒子状の複合体よりなる核酸複合体において、
該ポリマー材料は、少なくとも、カチオン性ポリマーブロックと、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性である温度感応性ポリマーブロックとを有しており、
前記微粒子の表面に、核酸と、カチオン性ポリマーブロックと、温度感応性ポリマーブロックとが存在していることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項2】
請求項1において、前記ポリマー材料は、カチオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体とのブロック共重合体であることを特徴とする核酸複合体。
【請求項3】
請求項1において、前記ポリマー材料は、カチオン性モノマーと非イオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体とのブロック共重合体であることを特徴とする核酸複合体。
【請求項4】
請求項3において、非イオン性ポリマーブロックの分子量が2,000〜500,000であることを特徴とする核酸複合体。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項において、カチオン性ポリマーブロックの分子量が2,000〜500,000であることを特徴とする核酸複合体。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか1項において、該ブロック共重合体の分子量が3,000〜600,000であることを特徴とする核酸複合体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記所定温度(T)は、25〜35℃の間の温度であることを特徴とする核酸複合体。
【請求項8】
請求項2ないし7のいずれか1項において、前記ブロック共重合体は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることを特徴とする核酸複合体。
【請求項9】
請求項8において、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合していることを特徴とする核酸複合体。
【請求項10】
請求項8又は9において、ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、及びメトキシエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする核酸複合体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−195687(P2008−195687A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34898(P2007−34898)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】