説明

核酸配列の二次構造を予測する方法、核酸配列の二次構造の予測装置及び核酸配列の二次構造の予測プログラム

【課題】核酸配列の二次構造の全体的な類似性のみならず、局所的な類似性を評価し得る、核酸配列の二次構造を予測する方法、並びにこの方法を実行する核酸配列の二次構造の予測装置及び予測プログラムを提供する。
【解決手段】核酸配列の二次構造のうち、該二次構造の構造要素を抽出する工程と;前記構造要素の特徴ベクトルに基づいて、評価の対象である核酸配列のそれぞれの構造要素の類似性を評価する工程と;を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸配列の二次構造を予測する方法、並びにこの方法を実行する核酸配列の二次構造の予測装置及び核酸配列の二次構造の予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
DNA、RNAなどの核酸配列は、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)又はチミン(T)若しくはウラシル(U)の4種類の塩基からなる分子である。この核酸配列の分子の機能は、その配列の二次構造に大きく依存することが知られ、この依存性は、エクソンなどのいわゆる構造遺伝子に代表される機能性核酸だけでなく、イントロンなどの非構造遺伝子や、セントラルドグマに準じて細胞内で内在的に転写され得ないアプタマーなどの各種の核酸配列においても、発揮される性質である。
【0003】
核酸配列の二次構造を予測することは、非常に重要であるが、同様の配列を有していても、異なる構造を与えることもあり、異なる配列を有していても、同様又は類似の構造を与えることもあり、単に核酸配列の二次構造を予測した場合であっても、その構造が必ずしもその配列において取り得る最適な二次構造を与えているとは言えない場合も、数多く考えられる。実際、アプタマーと呼ばれる核酸配列など、人工的に合成される核酸配列に関しては、核酸配列の特定の重要な領域のみによって生物学的な機能を発揮する場合が多く、その特定の領域については構造の類似性が期待されるが、その他の領域に関しては必ずしも構造の類似性があるとは限らない。そのため、特定の核酸配列について得た各二次構造について、他の核酸配列の二次構造との間の類似性を評価することで、核酸配列の二次構造予測の精度を高める試みがなされている。
【0004】
従来の核酸配列の二次構造の類似性比較の方法としては、進化的に保存されている核酸配列について、核酸配列を構成する塩基のアラインメントと核酸配列の二次構造の予測とを組み合わせたものによって評価するものが一般的である。また、核酸配列中の塩基対の形成確率などを独自に算出し、それを基にして予測構造を実際の構造に近い形に修正、再構築するような幾つかのアルゴリズムが報告されている(非特許文献1)。
【0005】
だが、このような方法で核酸配列の二次構造の類似性を評価した場合には、基本的には構造の全体としての類似性を評価することになるため、全体的には類似でなくとも局所的に類似の構造を取り得る核酸配列の構造の類似性を的確に評価することは困難であった。
【非特許文献1】Gorodkinら著、Nucleic Acids Research、1997年、25巻、p.3724〜3732
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みて提案されたものであって、核酸配列の二次構造の全体的な類似性のみならず、局所的な類似性を評価し得る、核酸配列の二次構造を予測する方法、並びにこの方法を実行する核酸配列の二次構造の予測装置及び予測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による核酸配列の二次構造を予測する方法は、核酸配列の二次構造のうち、該二次構造の構造要素を抽出する工程と;前記構造要素の特徴ベクトルに基づいて、評価の対象である核酸配列のそれぞれの構造要素の類似性を評価する工程と;を有することを特徴とする。
【0008】
本発明による核酸配列の二次構造の予測装置は、核酸配列の二次構造のうち、該二次構造の構造要素を抽出する構造要素抽出手段と、前記構造要素の特徴ベクトルに基づいて、評価の対象である核酸配列のそれぞれの構造要素の類似性を評価する局所構造類似性評価手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明による核酸配列の二次構造の予測プログラムは、核酸配列の二次構造のうち、該二次構造の構造要素を抽出する工程と;
前記構造要素の特徴ベクトルに基づいて、評価の対象である核酸配列のそれぞれの構造要素の類似性を評価する工程と;
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、局所的、全体的を問わず、任意のウィンドウサイズで配列の構造間の類似性の評価を行うことが可能である。
【0011】
また、同じ機能を持つ核酸配列は一般的に構造が類似であるため、この発明に寄れば、複数の配列を入力に用いることにより、単独の配列からよりも更に正確な二次構造の予測が可能である。
【0012】
さらに、局所的に類似な構造の局所的に類似な箇所が判明した場合、それがその核酸の機能にとって重要な領域である可能性が高い。したがって、この発明に寄れば、核酸配列中の機能的に重要な領域を予測することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、核酸配列の二次構造の予測で得た、各構造の要素を抽出して、要素の特徴を示すベクトルとして表現し、対象となる核酸配列の二次構造と、被対象である核酸配列の二次構造とを、それぞれの構造に由来するベクトルの相関を計算することによって、核酸配列に含まれる各構造の種類の影響を最小限に抑えて、核酸配列の二次構造の類似性を検討するものである。
【0014】
以下、本発明による核酸配列の二次構造の予測装置の概略図を参照しながら、本発明による核酸配列の二次構造を予測する方法、核酸配列の二次構造の予測装置、及び核酸配列の二次構造の予測プログラムについて詳細に説明する。
【0015】
なお、本発明による核酸配列の二次構造の予測装置は、本発明による核酸配列の二次構造を予測する方法を実行する装置であり、本発明による核酸配列の二次構造の予測プログラムは、本発明による核酸配列の二次構造を予測する方法を実行するプログラムである。また、本発明において、「核酸配列」とは、DNA、RNAなど、種々の遺伝子の配列をいう。
【0016】
図1は、本発明による核酸配列の二次構造の予測装置の概略図を示す。本発明による核酸配列の二次構造の予測装置は、キーボードなどの入力装置1と、プログラム制御により動作するデータ処理装置2と、情報を記憶する記憶装置3と、ディスプレイ装置や印刷装置などの出力装置4とを有する。
【0017】
データ処理装置2は、構造要素抽出手段21と、局所構造類似性評価手段22とを備える。
【0018】
構造要素抽出手段21は、まず、入力装置1から入力された、二次構造の予測の対象とする核酸配列と、その核酸配列の二次構造の構造候補の情報とを参照して、構造候補の各構造を、ステム構造と、ステム構造を構成する塩基以外の塩基で構成された周辺構造とに分割し、ステム構造及び周辺構造の構造要素を抽出する。構造要素抽出手段21は、次に、この構造要素を数値化して、特徴ベクトルを得る。特徴ベクトルには、数値化された構造要素の特徴がベクトルの形で並列に保持される。特徴ベクトルの集合として保持された核酸配列の構造情報は、構造要素記憶部31に記憶される。
【0019】
局所構造類似性評価手段22は、構造要素記憶部31に記憶された、特徴ベクトルの集合として保持された核酸配列の構造候補の情報を取り出し、一の核酸配列の各特徴ベクトルと、他の核酸配列の各特徴ベクトルとの類似性を評価する。これにより、予測の対象とした核酸配列の核酸配列の構造の局所的な類似性を評価し得る。各核酸配列は、複数の構造候補情報、及び各構造候補ごとに複数の特徴ベクトルを保持しているため、核酸配列の構造の局所的な類似性の評価は、例えば各核酸配列の保持する特徴ベクトルの総当りによる類似性の評価によって決定される。
【0020】
ここで、局所構造類似性評価手段22は、上記の通り構造要素記憶部31に記憶された特徴ベクトルを参照して、ひとつの構造候補から分割されたステム構造と周辺構造とに由来する特徴ベクトルを、それぞれ類似性の評価の対象として用いてもよく、ひとつのステム構造とこのステム構造の周囲に存在するひとつの周辺構造とに由来する各特徴ベクトルを組み合わせて、組み合わせて得た特徴ベクトルを、上記の類似性の評価の対象として用いてもよい。なお、特徴ベクトルを組み合わせる方法としては、ベクトルの加減乗除等の公知の算術方法を用いればよい。
【0021】
各特徴ベクトルを組み合わせて用いる場合、核酸配列は、その構造候補の一つを基としてステム・ループ単位に分割され、ステム・ループの集合として取り扱われる。つまり、一つの核酸配列について複数の構造候補が存在する場合、一つの核酸配列について複数のステム・ループの集合が存在することとなる。また、単位となったステム・ループは、その構造要素に応じた特徴ベクトルの形で情報を保持する。
【0022】
また、局所構造類似性評価手段22において採用され得る、特徴ベクトルの類似性の評価としては、ベクトル間の相関を評価し得る方法であれば、特に制約はない。なかでも、ベクトルの相関解析において採用されている内積の計算、サポートベクターマシーン(SVM)などによる各種パターン分類アルゴリズムの活用などの方法が挙げられる。
【0023】
記憶装置3は、構造要素記憶部31を備える。
【0024】
構造要素記憶部31は、構造要素抽出手段21によって抽出された、核酸配列の特徴ベクトルの情報を記憶する。ここで、特徴ベクトルに格納されるパラメータとしては、構造要素の特徴を示すものであれば、特に制約はなく、構造要素を構成する塩基の種類及び数、構造要素で取り得る自由エネルギーを始め、ステム構造やループ構造といった、構造の種類の別であってもよい。
【0025】
(本発明による核酸配列の二次構造を予測する方法の各工程、並びに本発明による核酸配列の二次構造の予測装置及び核酸配列の二次構造の予測プログラムの動作等)
次に、図1の概略図、並びに図2乃至図4のフローチャートを参照して、本発明による核酸配列の二次構造を予測する方法の各工程、並びに本発明による核酸配列の二次構造の予測装置及び核酸配列の二次構造の予測プログラムの動作等について詳細に説明する。
【0026】
なお、図2は、本発明による核酸配列の二次構造を予測する方法の各工程を示すフローチャートであり、図3は、構造要素を抽出する工程を示すフローチャートであり、図4は、各構造の特徴ベクトルに基づいて、構造類似性を評価する工程を示すフローチャートである。
【0027】
本発明による核酸配列の二次構造の予測装置において、入力装置1から与えられた核酸配列、及びこの核酸配列の構造候補の情報は、構造要素抽出手段21に送られる(A1、A2、A3)。なお、核酸配列の二次構造の構造候補は、ステップA2のように、入力されてもよく、また、本発明による核酸配列の二次構造の予測装置に備えた、核酸配列の二次構造を予測し得る公知の二次構造予測手段から得た二次構造の構造候補を用いてもよい。
【0028】
構造要素抽出手段21は、まず、最初の核酸配列の最初の構造候補の情報を参照して、ステム構造の単位に分割する(A31)。次に、構造要素抽出手段21は、構造候補から分割されたステム構造について、分析する(A32)。このステム構造の分析としては、このステム構造の種々の要素(本発明において、ステム構造の構造要素とも称する。)を抽出して、それぞれの構造要素を数値化することで、行う。このステム構造の構造要素としては、ステム構造の長さ、ステム構造を構成する塩基対の種類、塩基対の出現パターンが挙げられる。その後、構造要素抽出手段21は、ステム構造を構成する塩基以外の塩基で構成される周辺構造の種々の要素(本発明において、周辺構造の構造要素とも称し、上記のステム構造の構造要素とまとめて、単に構造要素とも称する。)について、ステップA32と同様に、周辺構造の構造要素を抽出してそれぞれの構造要素を数値化する分析を行う(A33)。この周辺構造としては、ステム構造を構成する塩基以外の塩基で構成される構造であれば、特に限定はなく、例えば、バルジループ構造、内部ループ構造、ヘアピンループ構造、多岐ループ構造、一本鎖末端などのループ構造や、シュードノット、Gカルテットなどの特殊な構造など、塩基配列の構造として公知の構造が挙げられる。また、この周辺構造の構造要素としては、周辺構造を構成する塩基の数、周辺構造を構成する塩基の種類、塩基の出現パターンなどが挙げられる。
【0029】
このように、ステム構造及び周辺構造の各構造要素を数値化して得た値は、ステム構造及び周辺構造の特徴を示すものとして、特徴ベクトルとして保持される。
【0030】
次に、構造要素抽出手段21は、最初の核酸配列に、未抽出の構造パターンがあるかどうかを判定する(A34)。未抽出の構造パターンがあると判定された場合には、その構造をセットして(A35)、上記のステップA31乃至A33までの各ステップを、最初の核酸配列に未抽出の構造パターンがなくなるまで、繰り返す。その後、構造要素抽出手段21は、特徴ベクトルを抽出していない核酸配列があるかどうかを判定し(A36)、未抽出の核酸配列があると判定された場合には、その配列をセットして(A37)、上記のステップA31乃至A35の各ステップを、未抽出の核酸配列がなくなるまで、繰り返す。核酸配列及びその構造候補からの特徴ベクトルの抽出が終了すると、それらの特徴ベクトルは構造要素記憶部31へ格納され(A38)、構造要素を抽出する工程は、終了する(A3)。
【0031】
次に、本発明による核酸配列の二次構造の予測装置は、ステップA3の構造要素を抽出する工程が終了すると、ステップA3で得たステム構造及び周辺構造について得た各特徴ベクトルに基づいて、局所構造類似性評価手段22を用いて、ステップA4の構造候補の類似性の評価を行う。
【0032】
局所構造類似性評価手段22は、まず、構造要素記憶部31から、評価の対象である、核酸配列の特徴ベクトルの情報を読み込む(A41)。次に、局所構造類似性評価手段22は、評価の被対象である、核酸配列の特徴ベクトルの情報を読み込む(A42)。その後、局所構造類似性評価手段22は、評価対象である特徴ベクトルと、被評価対象である特徴ベクトルとの間の類似性を評価して、評価対象である特徴ベクトルの候補評価値を得る(A43)。
【0033】
ここで、各特徴ベクトルの類似性の評価の方法としては、二つのベクトルの内積の計算などのベクトルの相関解析が挙げられる。
【0034】
次に、局所構造類似性評価手段22は、評価の被対象である特徴ベクトルのうち、類似性の評価の被対象とされていない特徴ベクトルがあるかどうかを判定する(A44)。被評価対象である特徴ベクトルのうち、未評価の特徴ベクトルがあると判定された場合には、局所構造類似性評価手段22は、その特徴ベクトルを被評価対象である特徴ベクトルとしてセットし(A45)、上記のステップA42乃至A43の各ステップを、被評価対象である特徴ベクトルのうち、未評価の特徴ベクトルがなくなるまで、繰り返す。このようにして、評価対象である特徴ベクトルについて、被評価対象である特徴ベクトルの全てに対する候補評価値が得られる。局所構造類似性評価手段22は、これらの候補評価値に基づいて、評価対象であるひとつの特徴ベクトルについての確定評価値を算出する(A46)。ここで、確定評価値としては、類似性を評価した各核酸配列について、それぞれ最高の類似性を示した特徴ベクトルとの候補評価値の平均や、一定以上の類似性があると評価された特徴ベクトルの個数が挙げられる。
【0035】
次に、局所構造類似性評価手段22は、評価の対象である、核酸配列の特徴ベクトルが他にあるかどうかを判定する(A47)。評価対象の特徴ベクトルがあると判定された場合には、その特徴ベクトルをセットし(A48)、上記の通り、ステップA42乃至A46までの各ステップを、評価の対象である、核酸配列の特徴ベクトルがなくなるまで、繰り返す。
【0036】
これら全ての特徴ベクトルについての類似性を示す確定評価値が得られることによって、ある核酸配列について、他の配列でも頻出する傾向にある特徴ベクトル、即ち局所的な構造の類似性が分かる。これらの評価結果の情報は、ディスプレイなどの出力装置4に出力される。
【0037】
なお、上記の通り、本発明において、構造要素抽出手段21は、核酸配列の二次構造のうち、該二次構造の構造要素を抽出する機能を有し、局所構造類似性評価手段22は、構造要素の特徴ベクトルに基づいて、評価の対象である核酸配列のそれぞれの構造要素の類似性を評価する機能を有する。
【実施例】
【0038】
まず、入力装置1より図5に示す、配列番号1及び2の配列、及びその構造が入力されたとすると、これは構造要素抽出手段21に送られる(A1、A2、A3)。
【0039】
構造要素抽出手段21は、まず、構造1の構造情報を参照して、ステム構造の単位に分割する(A31)。構造1は、このステップにおいて、ステム1−1とステム1−2の二つのステム構造に分割される(A31)。それぞれのステム構造について、ステム、及びループの長さのみに着目した場合、ステム1−1のステムの長さは、3であり、ループの長さは4である。また、ステム1−2のステムの長さは、4であり、ループの長さは、4である。次に、構造要素抽出手段21は、これらの構造要素の特徴をそれぞれ、(3,4)、(4,4)と数値化し、これらを特徴ベクトルとして保持する(A32、A33)。未抽出の構造パターンとして、配列1には、構造1のほかに構造候補はなく(A34)、未抽出の配列として、配列1のほかに配列2があり(A36)、配列2には、構造2があるため、次に構造要素を抽出する対象として、配列2の構造2がセットされる(A37、A35)。次に、構造要素抽出手段21は、構造2について、構造1と同様にして、ステム2−1とステム2−2の二つのステム構造に分割し(A31)、それぞれのステム2−1及び2−2の構造要素の特徴を、構造1のステム構造と同様にして、それぞれ(4,4)、及び(2,4)と数値化し、これらを特徴ベクトルとして保持する(A32、A33)。未抽出の構造パターンとして、配列2には、構造2のほかに構造候補はなく(A34)、未抽出の配列として、配列2のほかに配列は存在しないため(A36)、構造要素抽出手段21は、ステム1−1乃至ステム2−2までの4つの特徴ベクトルを、構造要素記憶部31に格納し(A38)、構造要素を抽出する工程を終了する。
【0040】
次に、局所構造類似性評価手段22は、構造要素記憶部31に記憶された4つの特徴ベクトルを読み込む(A41)。次に、局所構造類似性評価手段22は、最初の評価対象として、配列1の構造1のステム1−1の特徴ベクトルである(3,4)をセットし、最初の被評価対象の特徴ベクトルとして、配列2の構造2の一つ目のステムであるステム2−1の特徴ベクトルである(4,4)との類似性を評価する(A42、A43)。ここで、ベクトルの相関解析として、単純に二つのベクトルの内積を用いて類似性を評価する場合、この二つの特徴ベクトルの内積は、cosθ=0.9898となる(A43)。未評価の特徴ベクトルとして、配列2の構造2には、もう一つのステム構造であるステム2−2が存在するため(A44)、局所構造類似性評価手段22は、評価対象のステム構造であるステム1−1に対して、今度は被評価対象の特徴ベクトルとして、ステム2−2の特徴ベクトルである(2,4)との類似性を評価する(A45、A42)。ステム2−2についてもステム2−1と同様に類似性の評価を行うと、この二つのベクトルの内積は、cosθ=0.9839となる(A43)。
【0041】
未評価の特徴ベクトルとして、配列2には他に特徴ベクトルはないので(A44)、局所構造類似性評価手段22は、評価対象である配列1の構造1のステム1−1についての候補評価値である「0.9898」及び「0.9839」に基づいて、このステム1−1の確定評価値を算出する(A46)。ここで、候補評価値のうち、最も大きな値を確定評価値とする場合、局所構造類似性評価手段22は、「0.9898」及び「0.9839」のうち、0.9898という値を算出して(A46)、この値を確定評価値として、ステム1−1についての類似性の評価を終了する。
【0042】
次に、評価の対象である、核酸配列の特徴ベクトルとして、配列1には、ステム1−2という特徴ベクトルが存在するため(A47)、局所構造類似性評価手段22は、評価対象である、核酸配列の特徴ベクトルとして、ステム1−2の特徴ベクトルである(4,4)をセットし(A48)、上記のステップA42乃至A45と同様に、被評価対象である配列2の各ステムとの類似性の評価を行う。このようにして、ステム1−2と、ステム2−1及びステム2−2との類似性の評価の結果、ステム1−2の確定評価値として、特徴ベクトルの内積である1.0という値が得られる(A46)。
【0043】
以下、配列2の構造2のステム2−1、及びステム2−2についても、同様の評価を行い、全ての特徴ベクトルの確定評価値が得られたところで、構造類似性の評価が終了する(A47)。この例の場合、配列1では、構造1のステム1−2について、配列2では構造2のステム2−1について、それぞれ最も大きな確定評価値である1.0が得られたので、局所構造類似性評価手段22は、それぞれの配列において、それぞれのステムが局所的な構造の類似性が高い構造であると予測する。
【0044】
これらの評価結果は、必要に応じて出力装置4によってディスプレイなどに出力され(A4)、配列1及び2の予測が終了する。
【0045】
以上、本発明の好適な実施の形態により本発明を説明した。ここでは特定の具体例を示して本発明を説明したが、特許請求の範囲に定義された本発明の広範な趣旨および範囲から逸脱することなく、これら具体例に様々な修正および変更を加えることができることは明らかである。すなわち、具体例の詳細および添付の図面により本発明が限定されるものと解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による核酸配列の二次構造の予測装置の概略図を示す。
【図2】本発明による核酸配列の二次構造を予測する方法の各工程を示すフローチャートである。
【図3】構造要素を抽出する工程を示すフローチャートである。
【図4】各構造の特徴ベクトルに基づいて、構造類似性を評価する工程を示すフローチャートである。
【図5】実施例1で用いた配列、及びその構造を示す。
【符号の説明】
【0047】
1 入力装置
2 データ処理装置
3 記憶装置
4 出力装置
21 構造要素抽出手段
22 局所構造類似性評価手段
31 構造要素記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸配列の二次構造のうち、該二次構造の構造要素を抽出する工程と;
前記構造要素の特徴ベクトルに基づいて、評価の対象である核酸配列のそれぞれの構造要素の類似性を評価する工程と;
を有する
ことを特徴とする核酸配列の二次構造を予測する方法。
【請求項2】
前記の構造要素を抽出する工程は、前記核酸配列の二次構造において、ステム構造と周辺構造とを分割するステップを有することを特徴とする請求項1に記載の核酸配列の二次構造を予測する方法。
【請求項3】
前記の構造要素を抽出する工程は、前記構造要素を数値化して、特徴ベクトルを得るステップを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の核酸配列の二次構造を予測する方法。
【請求項4】
前記の類似性を評価する工程は、評価の対象である、核酸配列の構造要素に由来する特徴ベクトルと、被評価対象である、核酸配列の構造要素に由来する特徴ベクトルとの間の類似性を評価するステップを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の核酸配列の二次構造を予測する方法。
【請求項5】
前記の類似性を評価する工程は、ベクトルの相関解析を用いて行われることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の核酸配列の二次構造を予測する方法。
【請求項6】
前記の類似性を評価する工程は、評価対象である特徴ベクトルの候補評価値を得るステップを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の核酸配列の二次構造を予測する方法。
【請求項7】
前記の類似性を評価する工程は、評価対象である特徴ベクトルの確定評価値を得るステップを有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の核酸配列の二次構造を予測する方法。
【請求項8】
核酸配列の二次構造のうち、該二次構造の構造要素を抽出する構造要素抽出手段と、
前記構造要素の特徴ベクトルに基づいて、評価の対象である核酸配列のそれぞれの構造要素の類似性を評価する局所構造類似性評価手段と、
を有することを特徴とする核酸配列の二次構造の予測装置。
【請求項9】
前記構造要素抽出手段は、前記核酸配列の二次構造において、ステム構造と周辺構造とを分割することを特徴とする請求項8に記載の核酸配列の二次構造の予測装置。
【請求項10】
前記構造要素抽出手段は、前記構造要素を数値化して、特徴ベクトルを得ることを特徴とする請求項8又は9に記載の核酸配列の二次構造の予測装置。
【請求項11】
前記局所構造類似性評価手段は、評価の対象である、核酸配列の構造要素に由来する特徴ベクトルと、被評価対象である、核酸配列の構造要素に由来する特徴ベクトルとの間の類似性を評価することを特徴とする請求項8乃至10のいずれか一項に記載の核酸配列の二次構造の予測装置。
【請求項12】
前記局所構造類似性評価手段は、ベクトルの相関解析を行うことを特徴とする請求項8乃至11のいずれか一項に記載の核酸配列の二次構造の予測装置。
【請求項13】
前記局所構造類似性評価手段は、評価対象である特徴ベクトルの候補評価値を得ることを特徴とする請求項8乃至12のいずれか一項に記載の核酸配列の二次構造の予測装置。
【請求項14】
前記局所構造類似性評価手段は、評価対象である特徴ベクトルの確定評価値を得ることを特徴とする請求項8乃至13のいずれか一項に記載の核酸配列の二次構造の予測装置。
【請求項15】
核酸配列の二次構造のうち、該二次構造の構造要素を抽出する工程と;
前記構造要素の特徴ベクトルに基づいて、評価の対象である核酸配列のそれぞれの構造要素の類似性を評価する工程と;
を実行することを特徴とする核酸配列の二次構造の予測プログラム。
【請求項16】
前記の構造要素を抽出する工程は、前記核酸配列の二次構造において、ステム構造と周辺構造とを分割するステップを有することを特徴とする請求項15に記載の核酸配列の二次構造の予測プログラム。
【請求項17】
前記の構造要素を抽出する工程は、前記構造要素を数値化して、特徴ベクトルを得るステップを有することを特徴とする請求項15又は16に記載の核酸配列の二次構造の予測プログラム。
【請求項18】
前記の類似性を評価する工程は、評価の対象である、核酸配列の構造要素に由来する特徴ベクトルと、被評価対象である、核酸配列の構造要素に由来する特徴ベクトルとの間の類似性を評価するステップを有することを特徴とする請求項15乃至17のいずれか一項に記載の核酸配列の二次構造の予測プログラム。
【請求項19】
前記の類似性を評価する工程は、ベクトルの相関解析を用いて行われることを特徴とする請求項15乃至18のいずれか一項に記載の核酸配列の二次構造の予測プログラム。
【請求項20】
前記の類似性を評価する工程は、評価対象である特徴ベクトルの候補評価値を得るステップを有することを特徴とする請求項15乃至19のいずれか一項に記載の核酸配列の二次構造の予測プログラム。
【請求項21】
前記の類似性を評価する工程は、評価対象である特徴ベクトルの確定評価値を得るステップを有することを特徴とする請求項15乃至20のいずれか一項に記載の核酸配列の二次構造の予測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−283943(P2008−283943A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134529(P2007−134529)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年11月20日、日本分子生物学会2006フォーラム組織委員会発行の『日本分子生物学会2006フォーラム「分子生物学の未来」 〜コンファレンス&サイエンティフィック・エキシビジョン〜 プログラム・要旨集』に発表〔刊行物等〕平成18年12月 6日、日本分子生物学会主催の『日本分子生物学会2006フォーラム「分子生物学の未来」〜コンファレンス&サイエンティフィック・エキシビジョン〜』で、「頻度解析を用いたRNAアプタマーの二次構造予測アルゴリズム」のポスターをもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ハイスループットアプタマー作製システムの開発事業」に関する研究開発、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000232092)NECソフト株式会社 (173)
【Fターム(参考)】