説明

根部及び茎葉部から吸収される混合除草液剤

【課題】茎葉兼土壌処理効果を有し、速効性と残効性を併せ持ち、簡便に使用することが可能な混合除草液剤を提供する。
【解決手段】ターバシル、ブロマシル、ベンタゾン、メトリブジンの中から選ばれる少なくとも1種の土壌処理効果を有する光合成阻害型除草物質とグリホサートまたはグルホシネートから選ばれる少なくとも1種の茎葉処理効果を有するアミノ酸生合成阻害型除草物質を混合してアルカリ性の水に溶解させた混合除草液剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茎葉兼土壌処理効果を有し、速効性と残効性を併せ持つ混合除草液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
農耕地、非農耕地を問わず、雑草類の繁茂は農業生産性の低下、生活環境の悪化をもたらすため、物理的な刈り取りや薬剤を利用した化学的な枯殺などの対策がとられ、省力、省コストの面から除草剤が広く利用されている。その中で、土壌処理により主として雑草の根から吸収されて幅広い殺草スペクトラムを示す光合成阻害型除草剤は、緩慢な効果発現であるが残効性に優れるため、農耕地はもとより、駐車場、宅地、鉄道等の非農耕地における雑草管理、雑草防除に使用されている。また、光合成阻害型除草剤の中でベンタゾンナトリウム塩は、イネ科植物に殺草活性が低い特性を生かして水稲および畑作用に単独、もしくは植物ホルモン剤との混合製剤として使用されている。その他、米国ではブロマシル液剤(ブロマシルリチウム塩21.9%含有、ハイバーX−L、デュポン社商品)として、ブロマシルを原子量の小さなリチウム塩にして水への溶解性を向上させ、更にエチレングリコールなどの有機溶媒を水に併用させることで高濃度液剤として使用している。
【0003】
アミノ酸系アミノ酸生合成阻害型除草物質であるグリホサート、グルホシネートは、雑草類の茎葉から吸収され、植物体内を移行して比較的早く殺草効果を示す吸収移行型非選択性の除草液剤であり、一年生雑草、多年生雑草から雑潅木まで、生育期の雑草防除技術として広く普及している。
【0004】
茎葉処理型除草剤は、一般に濃厚溶液として流通しているが、近年、一般消費者向けに希釈せずにそのまま散布する希釈液剤、例えばグリホサートイソプロピルアミン塩1.0%液剤(草退治シャワー、住化タケダ園芸株式会社商品)、グルホシネート0.2%液剤(バスタ液剤0.2、バイエルクロップサイエンス株式会社商品)なども販売されている。
【0005】
残効性の長い土壌処理型除草剤と移行性に優れ効果発現の速い茎葉処理型除草剤を混合して散布する雑草防除方法は優れた雑草防除技術であり、従来から両剤を散布直前にタンク内で混合して広く使用されてきた。混合製剤品としても、例えば、グルホシネート10.0%、DCMU15.0%水和剤(ヘキストクサカットゾル、バイエルクロップサイエンス株式会社製品)が市販されていた。また、グリホサート及び光合成阻害型除草物質、さらに1種の除草成分を含有し、速効性と残効性を併せ持った除草剤組成物が示されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】 特表平8−507510
【特許文献2】 特開2003−342104
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで土壌処理効果を有する除草剤と茎葉処理効果を有する除草剤を混合した液剤は、限定された使用場面におけるベンタゾンナトリウム33%と植物ホルモン剤MCPAナトリウム6%の混合液剤(グラスジンMナトリウム液剤、日産化学工業株式会社、石原産業株式会社商品)以外、広い殺草スペクトラムを有するアミノ酸合成阻害型除草剤と組み合わせた液剤は、一般の人を対象とする直接散布型の低濃度品でさえ完成していない。
一般に、水に難溶性の土壌処理型除草物質であっても有機溶媒溶解性の高い物質は乳剤として使うことにより、土壌を経由して吸収される場合に比べ、茎葉から吸収されることによって効果の発現が早まることはよく知られている事実である。しかし、乳剤に使用しうる有機溶媒は、溶解能、安全性、価格などから全ての化合物に適用しうるものではない。また、一般的に土壌処理型除草物質は、植物体内における浸透移行性が高くないことから散布斑を発生しやすい欠点を持っている。このような背景から、一般的な有機溶媒及び水のいずれに対しても難溶性である光合成阻害型除草剤を含む多くの土壌処理型除草物質の高濃度品は、水への分散時における粉塵暴露が懸念されつつほとんどが依然として水和剤に調製され、低濃度の場合は、粒剤として使用されているのが実情である。光合成阻害型除草物質の中には通常水への溶解度が0.1%程度を示す物質もある。しかし、使用しうる経済的濃度以下であることは明らかであり、溶解度を上げる何らかの手段が必要であり、加えて、多くの化学物質は、水中で加水分解を受けやすく、数年間にわたる安定性を確保する技術も不可欠である。
【0007】
一方のアミノ酸生合成阻害型除草物質の多くは水に易溶性であるが有機溶媒には難溶性であり、全ての製品が水溶性製剤技術によるものである。茎葉から速やかに吸収され、細胞を直接殺さない生合成系阻害作用のため散布時に斑があっても植物組織に広く薬剤が浸透移行することが出来る特徴を持っている。本発明に関わるアミノ酸合成阻害型除草活性成分であるグリホサート塩類、グルホシネート塩類はいずれも非選択的に幅広い雑草に対して殺草効果を示す。しかし、これらは土壌に落下した後、吸着や分解によって急速に活性を失うため効果の持続期間が短く、刈り取り代用としての使用に限られている。
以上のような技術的課題の他、使用時に複数の薬剤を混合する場合、薬剤調製の手間を必要とし、誤使用のおそれもあり、特に作物の栽培管理を業としない一般の人にあっては、この懸念はさらに大きなものである。
【0008】
このような理由から、混合剤として直接水に溶解、もしくは分散させ、安全且つ簡単に用いることのできる製品が求められ、例えば、グルホシネートDCMU水和剤は、使用時の簡便さと安全性を特徴とする。しかしながら、固体であるDCMUを茎葉から吸収させることは困難であり、土壌落下後におけるDCMU本来の土壌処理効果とグルホシネートの茎葉散布型除草効果を併せた以上の特徴を示すことはできていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アミノ酸生合成阻害型除草物質と光合成阻害型除草物質を混合し、pHを調整して水に溶解させ、保存安定性にすぐれた混合除草液剤を完成させた。
【0010】
水への溶解度が比較的高い光合成阻害型除草物質としては、イソウロン、カルブチレート、ターバシル、テブチウロン、ブロマシル、ベンタゾン、メトリブジン等が挙げられる。ベンタゾン液剤、ブロマシル液剤で知られているようにこれらの光合成阻害型除草物質はアルカリ性で水への溶解度が増大する。本発明者らの検討によれば、これらの物質の中でターバシル、ブロマシル、ベンタゾン、メトリブジンは、実用に供しうる0.1重量%以上の溶解度と分解耐性を有している。しかし、その他の物質は、アルカリ水中における分解耐性もしくは経済性的に許容しうる濃度を有することができず、十分な除草効果を発現する薬量を製剤中に確保することは困難であった。これら光合成阻害型除草物質の有効成分使用量は、10アール当たり50〜1000gである。
【0011】
混合するアミノ酸生合成阻害型除草物質としては、グリホサートアンモニウム塩、グリホサートイソプロピルアミン塩、グリホサートトリメシウム塩、グリホサートナトリウム塩及びその他のグリホサート塩類、グルホシネート及びその塩類が挙げられる。有効成分使用量は、10アール当たり100〜2000gである。
【0012】
本発明に係る混合除草液剤は、光合成阻害型除草物質とアミノ酸生合成阻害型除草物質を混合して水に懸濁させ、攪拌しながら水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等の強アルカリ性物質の適量を加え、pHを7.5から12.5に調整することで容易に製造することができる。
【0013】
本混合除草液剤には、広く使用されている一般的な界面活性剤を使用することができる。界面活性剤は、散布された有効成分の植物体上での広がりや植物体内への速やかな浸透を促し、効果を安定させる機能を有し、併用することが好ましい。その濃度は0.05〜1重量%が適している。
【0014】
本発明に係る混合除草液剤は、光合成阻害型除草物質とアミノ酸生合成阻害型除草物質の二者を混合して用いることもできるが、さらにその他の作用性をもった除草物質を混合することも可能である。
【発明の効果】
【0015】
土壌処理効果を有する光合成阻害型除草物質を水に溶解させ、茎葉処理効果を有するアミノ酸生合成阻害型除草物質を混合することにより、幅広い雑草に対して安定した殺草効果を示し、速効性と残効性を兼ね備えた除草剤を提供する。
【0016】
作用性の異なる除草物質を混合液剤化することによって、薬剤使用量の誤りや被爆による危険性を排除し、簡便で経済的な除草技術を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(調製例1) ブロマシル0.3%、グリホサートイソプロピルアミン塩0.7%の混合除草液剤の調製
ブロマシル原体(純度98%、デュポン株式会社製品)3.1gにグリホサートイソプロピルアミン塩41%液剤(サンフーロン液剤、大成農材株式会社商品)17.1gを混合した。さらに、両成分合計の1.1倍モルとなる水酸化ナトリウム(和光純薬株式会社商品)1.85g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム50%水溶液(和光純薬株式会社商品より調製)3.0g及びポリオキシエチレンアルキルエーテル(ネオスコア2339.東邦化学工業株式会社商品)1.5gを混合して、水を加え1000mlとし液剤を調製した。本液剤のpHは9.6であった。
【0018】
(調製例2) ベンタゾンナトリウム塩0.4%、グリホサートイソプロピルアミン塩1.0%の混合除草液剤の調製
ベンタゾンナトリウム塩40%液剤(バサグラン液剤、住友化学工業株式会社商品)12.5gにグリホサートイソプロピルアミン塩41%液剤24.4gを混合した。さらに、グリホサートイソプロピルアミン塩の1.0倍モルとなる48%水酸化カリウム(日本曹達株式会社商品)5.1g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム50%水溶液3.0g及びポリオキシエチレンアルキルエーテル1.5gを混合して、水を加え1000mlとし液剤を調製した。本液剤のpHは9.1であった。
【0019】
(調製例3) ブロマシル0.5%、グルホシネート0.2%の混合除草液剤の調製
ブロマシル原体5.1gにグルホシネート18.5%液剤(バスタ液剤、バイエルクロップサイエンス株式会社商品)10.9gを混合した。さらに、ブロマシルの1.1倍モルとなる水酸化ナトリウム0.84g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム50%溶液3.0g及びポリオキシエチレンアルキルエーテル1.5gを混合して、水を加え1000mlとし液剤を調製した。本液剤のpHは9.9であった。
【0020】
(調製例4) ターバシル0.5%、グルホシネート0.2%の混合除草液剤の調製
ターバシル(99%、デュポン株式会社商品シンバー80%水和剤より調製)10.1gにグルホシネート18.5%液剤10.9gおよび、ターバシルの1.1倍モルとなる水酸化ナトリウム1.02g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム50%溶液3.0g及びポリオキシエチレンアルキルエーテル1.5gを混合して、水を加え1000mlとし液剤を調製した。本液剤のpH9.7はであった。
【0021】
(調製例5) メトリブジン0.3%、グルホシネート0.2%の混合除草液剤の調製
メトリブジン(99%、バイエルクロップサイエンス株式会社商品センコル50%水和剤より調製)3.0gにグルホシネート18.5%液剤10.9gを混合した。さらにメトリブジンの3.3倍モルとなる水酸化ナトリウム1.85g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム50%溶液3.0g及びポリオキシエチレンアルキルエーテル1.5gを混合して、水を加え1000mlとし液剤を調製した。本液剤のpHは12.5であった。
【0022】
〔安定性試験〕
調製例1〜5に基づく4点を−20℃の冷凍庫と50℃の恒温器(IC−300ALアズワン株式会社製)で3週間保管した。その後、アセトニトリル:水=1:7で希釈溶解し、高速液体クロマトグラフィー(LC−2010C 島津製作所製)を用いて、冷凍保管後のものと50℃保管後のもののピーク面積を比較することにより分解程度を判断した。グリホサート及びグルホシネートにおける高速液体クロマトグラフィーの分析条件は以下の通りである。
検出器:UV210nm、カラム:Partisil 10SAX(5μm、φ4.6mm×250mm)、温度:30℃、注入量:10μl、移動相:アセトニトリル:10mMリン酸1カリウム・pH2.5リン酸水(20:80)、流速:1.5ml/分、分析時間:16分。
ブロマシル、ベンタゾン、ターバシル、メトリブジンにおける高速液体クロマトグラフィーの分析条件は以下の通りである。
検出器:UV254nm、カラム:YMC−Pack ODS−AM(S−5μm、12nm、φ4.6mm×150mm)、温度:40℃、注入量:5μl、移動相:アセトニトリル:pH3.0リン酸水(60:40)、流速:1.0ml/分、分析時間:7分。
調製直後及び3週間保管後の残存率を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
〔効果試験〕
メヒシバ、セイタカアワダチソウが優占する茨城県つくば市殿山地区の圃場内を4.0mに区切り、調製例による液剤を希釈せずそのまま市販品の容器(草退治シャワー、住化タケダ園芸株式会社商品)を利用して、いずれの区も一平方メートル当たり50ml又は100mlを散布した。対照として、調製例1に準じて調製したターバシル0.5%液剤、ブロマシル0.5%液剤、市販のグリホサートイソプロビルアミン塩1.0%液剤(草退治シャワー、住化タケダ園芸株式会社商品)を一平方メートル当たり50ml、グルホシネート0.2%液剤(バスタ液剤0.2、バイエルクロップサイエンス株式会社商品)を一平方メートル当たり100ml散布した。処理は2005年9月12日に行った。除草効果は、3日後、8日後、15日後及び6週間後における薬剤に対する反応の度合いによって評価した。薬剤に対する反応の度合いは0(薬剤反応なし)〜10(完全枯殺)の11段階として評価した。メヒシバに対する結果を表2に、セイタカアワダチソウに対する結果を表3に示す。また、散布6週間後における一年生雑草の後発生状態を被覆割合で表4に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

発生密度は異なるが以下のような一年生雑草が発生した。
オランダミミナグサグサ、ノミノフスマ、ハコベ、ウシハコベ、タネツケバナ、ナズナ、キツネアザミ、ハハコグサ、ヒメムカシヨモギ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターバシル、ブロマシル、メトリブジン、ベンタゾン又はその塩類の中から選ばれる少なくとも1種の光合成阻害型除草物質とグリホサート又はその塩類、グルホシネート又はその塩類から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸生合成阻害型除草物質を混合してアルカリ性の水に溶解させた混合除草液剤。

【公開番号】特開2007−224002(P2007−224002A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79698(P2006−79698)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(593182923)丸和バイオケミカル株式会社 (25)
【Fターム(参考)】