説明

栽培システム

【課題】省エネルギーを実現しつつ、食料に関する安全性や品質を高く保つ栽培システムを提供する。
【解決手段】建築物2の外壁面3に沿って配設された透明体の被覆収納容器4と、前記被覆収納容器4内に収納され、栽培トレイ6を所定の間隔をおいて上下に複数配設し、当該配設された複数の栽培トレイ6を上下方向、及び前記被覆収納容器4が配設された前記建築物2の外壁面3に対して前後方向に循環させて移動する駆動装置5とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直物工場における栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題が大きく取り沙汰されており、省エネルギーを目的とした壁面緑化の技術が開発されている。また、食の安全についても大きく取り沙汰されており、食の安全を確保するために、閉鎖的な空間で植物の栽培を行う植物工場の技術が開発されている。壁面緑化、及び植物工場に関する技術として、例えば特許文献1ないし3に示す技術が開示されている。
【0003】
特許文献1に示す技術は、建築物屋上層の該壁面に延長して突出させた一対の片持ち梁の間にモーターで駆動されるスプロケットを設けて、立体栽培バスケットを懸架したチェーンを建築物外壁面の下層の水槽に該バスケットが浸漬するように配置し、日照調節装置及び該モーターによる潅水などを制御するプログラマブル制御装置又は手動操作により行わしめ、また、建物側には各階に栽培作業用の平台ステップ及び作業時には上方に反転して作業スペースを開放する手摺を設けるものである。
【0004】
特許文献2に示す技術は、高層建物等の壁面緑化工法において、上部枠体と下部枠体の両隅に左右対象に配して壁面に沿って垂直固定した一対のコ型支柱の間を、ウインチによって上昇又は下降を可能とした昇降棒と数本の継ぎ目棒に、植栽ユニット籠を上下のフックで多数着脱自在に掛合懸架し、これを壁面に沿って連結併設して建設物壁面全面に配置した緑化植栽ユニットを昇降可能にし、植栽ユニット籠は、全体を鉄、ステンレス、アルミの金属格子枠メッシュとし、壁側の裏面と下半分を植物を植栽する培養土を充填保持してこぼれ落ちを防ぐ棕櫚、不織布等の通気保水面体として、上半分を細目網シート体を張架した構成とし、必要に応じて上半前面を開閉扉としたものである。
【0005】
特許文献3に示す技術は、栽培植物を栽培する温室内を空調する植物工場における空調システムにおいて、蓄冷熱槽内の水を夜間電力で冷却して蓄冷し、その蓄冷熱槽内の冷水を充填式空調機に導入し、他方、温室内に設置した栽培植物の栽培棚の周囲を間仕切り壁にて局所的に仕切り、その間仕切り壁にて仕切った局所空間に浸み出しダクトと還気ダクトを設け、その還気ダクトから局所空間内の空気を吸引して上記充填式空調機に導入すると共に上記冷水と直接熱交換し、その熱交換後の冷却空気を浸み出しダクトに供給して局所空間を空調するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−261352号公報
【特許文献2】特開2008−289462号公報
【特許文献3】特開2000−93010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に示す技術は、壁面緑化による環境負荷を低減することが可能であるが、食料問題を考慮した技術ではないため、安全性や品質の観点から食物の育成には不向きな技術になってしまうという課題を有する。また、建築物への入射光の量や温度の調整がなされていないため、必要以上に光を入射したり遮蔽する可能性があるという課題を有する。
【0008】
特許文献3に示す技術は、植物工場内の空調システムの省電力化を図ることができるが、植物工場は元々照明に掛かる電力や空調に掛かる電力が膨大なものとなるため、省エネルギーという観点から課題が多く残ってしまう。
【0009】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、省エネルギーを実現しつつ、食料に関する安全性や品質を高く保つ栽培システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る栽培システムは、建築物の外壁面に沿って配設された透明体の被覆収納容器と、前記被覆収納容器内に収納され、栽培トレイを所定の間隔をおいて上下に複数配設し、当該配設された複数の栽培トレイを上下方向、及び前記被覆収納容器が配設された外壁面に対して前後方向に循環させて移動する駆動装置とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
このように、本発明に係る栽培システムによれば、建築物の外壁面に沿って配設された透明体の被覆収納容器内で、栽培トレイを所定の間隔をおいて上下に複数配設し、配設された複数の栽培トレイを上下方向、及び被覆収納容器が配設された建築物の外壁面に対して前後方向に循環させて移動するため、建築物の壁面から放出される熱によりヒートアイランド現象の防止や、植物の蒸散作用による壁面温度の上昇等の環境負荷を軽減することができると共に、狭い土地を有効に活用して、安全で品質が高い食物を大量に栽培することが可能になるという効果を奏する。
【0012】
また、栽培トレイを建築物の外壁面に対して前後方向に循環させて移動するため、植物に照射される太陽光の量を調整し、植物を効率よく栽培することができるという効果を奏する。
【0013】
本発明に係る栽培システムは、少なくとも太陽光の入射角に関する情報、栽培トレイの現在位置に関する情報、及び前記建築物の窓の位置に関する情報を登録する登録部と、前記登録部に登録された情報に基づいて、前記栽培トレイの移動速度、及び/又は位置を制御する制御部とを備えることを特徴とするものである。
【0014】
このように、本発明に係る栽培システムによれば、少なくとも太陽光の入射角に関する情報、栽培トレイの現在位置に関する情報、及び前記建築物の窓の位置に関する情報に基づいて栽培トレイの移動速度、及び/又は位置を制御するため、建築物に入射する太陽光の量を調整して、建築物内の室内の照度を適切な値に保ち、快適な空間にすることができるという効果を奏する。
【0015】
本発明に係る栽培システムは、前記登録部が、前記栽培トレイで栽培される植物の育成状態に関する情報を登録し、前記制御部が、前記登録部に登録された情報に基づいて、前記栽培トレイの移動速度、及び/又は位置を制御することを特徴とするものである。
【0016】
このように、本発明に係る栽培システムによれば、栽培される植物の育成状態に応じて栽培トレイの移動速度、及び/又は位置を制御するため、育成状態が悪い栽培トレイを太陽光が直射する前面部に長く滞留させたり、高温を要する時期の植物が栽培されている栽培トレイを被覆収納容器の上部に長く滞留させる等の制御を行うことで、植物を効率よく育成することができるという効果を奏する。
【0017】
本発明に係る栽培システムは、前記栽培トレイを上下方向、及び前後方向に駆動する第1ギアと、前記第1ギアに嵌合する一又は複数の他のギアとを備え、前記制御部が、前記他のギアの回動軸の位置を前記第1ギアの周方向に平行移動させることで、前記第1ギアと他のギアとが嵌合する位置を変更し、前記栽培トレイの前後方向の距離を調整して、前記栽培トレイの移動速度、及び/又は位置を制御することを特徴とするものである。
【0018】
このように、本発明に係る栽培システムによれば、栽培トレイを上下方向、及び前後方向に駆動する第1ギアと、第1ギアに嵌合する一又は複数の他のギアとを備え、第1ギアと他のギアとが嵌合する位置を変更することで、栽培トレイの前後方向の距離を変化させて、栽培トレイの移動速度、及び/又は位置を制御するため、栽培トレイの位置を微調整することが可能となり、建築物内の照度をより適切な値に保つことができるという効果を奏する。
【0019】
本発明に係る栽培システムは、前記被覆収納容器内で発生する熱エネルギーを、前記建築物の空調システム、給湯システム、及び/又は電力システムで利用するエネルギーに変換する変換部を備えることを特徴するものである。
【0020】
このように、本発明に係る栽培システムによれば、被覆収納容器内で発生する余剰な熱エネルギーを、建築物の空調システム、給湯システム、及び/又は電力システムで利用するエネルギーに変換するため、無駄なエネルギーを有効活用して省エネルギーを実現することができるという効果を奏する。特に、被覆収納容器内で発生した熱を、冬場であれば暖房に利用することができ、夏場であれば給湯に利用することができる。また、電気エネルギーに変換することで、電力として利用することができる。さらに、被覆収納容器内は植物により清浄された空気となっているため、そのまま空調に利用することで、建築物に清浄された空気を供給することができ、快適な空間を提供することが可能になるという効果を奏する。
【0021】
本発明に係る栽培システムは、前記被覆収納容器内の温度と前記建築物内の温度との温度差を利用して、ヒートポンプにより前記建築物の空調システムを調整することを特徴とするものである。
【0022】
このように、本発明に係る栽培システムによれば、被覆収納容器内の温度と建築物内の温度との温度差を利用して、ヒートポンプにより建築物の空調システムを調整するため、季節に影響なく、被覆収納容器内の余剰熱を有効に活用して省エネルギーを実現することができるという効果を奏する。

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態に係る栽培システムのシステム概略図である。
【図2】第1の実施形態に係る栽培システムにおける栽培トレイの全体斜視図である。
【図3】第1の実施形態に係る栽培システムにおけるギアを示す図である。
【図4】第1の実施形態に係る栽培システムにおける第1のギア、及び第2のギアの関連を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る栽培システムの構成を示すブロック図である。
【図6】第1の実施形態に係る栽培システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明は多くの異なる形態で実施可能である。従って、本実施形態の記載内容のみで本発明を解釈すべきではない。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0025】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る栽培システムについて、図1ないし図6を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る栽培システムのシステム概略図、図2は、本実施形態に係る栽培システムにおける栽培トレイの全体斜視図、図3は、本実施形態に係る栽培システムにおけるギアを示す図、図4は、本実施形態に係る栽培システムにおける第1のギア、及び第2のギアの関連を示す図、図5は、本実施形態に係る栽培システムの構成を示すブロック図、図6は、本実施形態に係る栽培システムの動作を示すフローチャートである。
【0026】
図1において、栽培システム1は、建築物2の外壁面3に沿って透明体の被覆収納容器4が配設されており、被覆収納容器4には、植物7が水耕された栽培トレイ6を所定の間隔をおいて上下に複数連続して配設し、配設された複数の栽培トレイ6を上下方向、及び外壁面3に対して前後方向に循環させて移動する駆動装置5が配設される。駆動装置5は、被覆収納容器の上部に配設されるギア8aと被覆収納容器4の下部に配設されるギア8bとが、チェーン9と嵌合して同方向に同速度で回動することでチェーン9を移動させ、チェーン9に固定して取り付けられた(詳細は図2を用いて後述する)栽培トレイ6を上下方向、及び外壁面3に対して前後方向に循環して移動させる。
【0027】
建築物2には一般的な空調システムが備えられており、屋上部に室外機10を配設し、各フロアのエアコン12と接続されて空調する。被覆収納容器4は、建築物2の窓11から直接的に強い太陽光が入射しやすく、植物の育成にも適した南側の外壁面3に沿って配設されるのが好ましい。
【0028】
図示しないが、建築物2内のいずれかのフロア(最下階が望ましい)には、植物の管理を行う植物管理室が、外壁面3に沿って配設されており、植物の収穫、監視、メンテナンス等を行うことができる。栽培トレイ6が循環して移動するため、植物管理室は一箇所に固定して配設し、そこで全ての栽培トレイ6の植物7を管理することが可能となる。また、建築物2内のいずれかの場所、又は建築物2外であって複数のビルを集中管理するビル管理室には、駆動装置5や空調システム、給湯システム、電力システム等を制御する制御部を備えており、ビル全体のシステムを一元的に制御して管理することが可能となっている。
【0029】
図2において、対向して配設された2つのギア8aに夫々嵌合するチェーン9の間に、支持体21が横方向に固定して配設されており、支持体21には栽培トレイ6が懸架されている。ギア8aが回動することにより、チェーン9が上下方向に移動すると共に、栽培トレイ6も移動する。そして、図1に示すように、栽培トレイ6は、被覆収納容器4の上部に配設されたギア8aと、被覆収納容器4の下部に配設されたギア8bとを周回しながら循環して移動する。ギア8aとチェーン9が嵌合している状態を詳細に示したものが図3である。ギア8aが矢印方向に回動することで、チェーン9に固定された支持体21に懸架する右側の栽培トレイ6は上昇し、左側の栽培トレイ6は下降する。なお、チェーン9は、ベルト、ワイヤ等、栽培トレイを支持して移動可能なものであればよい。
【0030】
ギア8a、8bの駆動は、制御部により制御される。例えば、被覆収納容器4内の空気を多く循環させたい場合や、植物の葉の湿気を防止するために多くの空気を潮流させたい場合は、ギア8a、8bの駆動速度を速く制御する。また、植物の育成状態や時期(発芽期、成長期等)に応じて、太陽の直射光の浴び易い前方向に配置したり、太陽の直射光を浴び難い後方向に配置して制御する。さらに、建築物2の窓11からの入射光の量を調整するために、太陽の角度、天気、時刻、季節、窓の位置、室内の照度、室内の温度、室内の湿度等の情報に基づいて、栽培トレイ6の位置や速度を制御する。特に夏の直射光が強い時期には、直射光が室内に入射しないように栽培トレイ6の位置を制御し、曇りや雨の日であれば直射光が入射することがないことから、自然光を最大限に利用するため、速い速度で栽培トレイ6の移動を制御する。
【0031】
また、栽培トレイ6の外壁面3に対する前後方向の距離を変化させることで、栽培トレイ6の位置、及び速度を微細に制御することが可能となる。栽培トレイ6の外壁面3に対する前後方向の距離を変化させる方法として、例えばギア8a、8b(ギア8a、8bを駆動ギアとする)に嵌合する他の一又は複数のギア(調整ギアとする)を備え、駆動ギアと調整ギアとが嵌合する位置を変化させることが考えられる。図4において、駆動ギア8a、8bに嵌合する調整ギアとして調整ギア41、42、43、44を備え、ギア8aとギア41、42は、それぞれ接続体41a、42aにより接続されており、ギア8bとギア43、44は、それぞれ接続体43a、44aにより接続されている。また、駆動ギア8a、8bは、回動軸が上下方向に移動して、それぞれの回動軸間の距離を変更できる構成となっている。
【0032】
図4(a)において、接続体41aと42aとがなす角度θを変更すると、図4(b)のようにギア41と42との回動軸が、ギア8aの周方向に平行移動する。ギア41、42の平行移動により、チェーン9の幅(外壁面3に対して前後方向の幅)が変化し、それに伴い栽培トレイ6の前後方向の位置関係も変化する。チェーン9の外壁面3に対して前後方向の幅の変化に連動して、駆動ギア8a、8b間の距離も変化させることで、チェーン9の長さを一定に保ちつつ、栽培トレイ6の位置を自由に変更して最適な入射光の量を調整することが可能となる。
【0033】
つまり、太陽の角度、天気、時刻、季節、窓の位置、室内の照度、室内の温度、室内の湿度等の情報から、栽培トレイ6を上下方向に移動させて最適な位置を算出するだけでなく、前後方向の位置関係も考慮した最適な位置を算出して制御することが可能となる。なお、他のギアの数は図4に示すように4つでもよいし、1ないし3個のいずれでもよい。
【0034】
次に、図5を用いて栽培システム1のシステム構成を説明する。栽培システム1は、植物7が水耕され、上下に複数配設された栽培トレイ6と、当該栽培トレイ6を循環させて移動する駆動装置5と、それらを収納する被覆収納容器4とを有する植物工場50と、当該植物工場50が外壁面3に沿って配設されている建築物2と、利用者から入力された入力情報53を記憶するデータ部51と、データ部51の情報に基づいて植物工場50内に備えられた駆動装置5の動作を制御する制御部52と、植物工場50で発生した余剰熱を建築物2の空調システム22、給湯システム23、及び/又は電力システム24に供給するための変換部55とを備える。
【0035】
入力情報53として入力され、データ部51に記憶される情報には、植物の育成状態、成長時期、収穫、太陽の角度、天気、時刻、季節、窓の位置、建築物の室内の最適照度の値、建築物の室内に設置された照度センサの値、建築物の室内の温度、建築物の室内の湿度等の情報が含まれる。これらの情報は、利用者が直接キーボードやマウスを操作して入力してもよいし、情報通信回線を介して定期的に取得、又はダウンロードしてもよい。
【0036】
制御部52は、データ部51に記憶された各情報に基づいて、上記で説明した機構で栽培トレイ6の位置、速度を制御する。また、植物工場50で余剰熱が発生しているかどうかを判断し、余剰熱が発生している場合には、変換部55を介して、発生した余剰熱をエネルギーに変換、又は植物工場50内の温度と建築物2内の温度差を利用したヒートポンプにより、建築物2の空調システム22、給湯システム23、電力システム24等に供給する。なお、変換されたエネルギーは、建築物2内の各システムに利用してもよいし、建築物2に関連する周辺施設のシステムに利用してもよい。
【0037】
図6を用いて、栽培システム1の動作の一例を説明する。まず、入力情報53をデータ部51に登録する(S61)。制御部52がデータ部51に登録された情報を読み込み(S62)、読み込んだ情報に基づいて室内の照度が最適値となる、栽培トレイ6の移動速度、及び配置の理論値を算出する(S63)。制御部52が、算出した理論値に基づいて駆動ギアを制御して、栽培トレイ6の速度、位置を調整する(S64)。室内の照度が所定の範囲内で適正値を満たすかどうかを判定し(S65)、所定の範囲内で適正値を満たさない場合は、S64に戻って、再び駆動ギアを制御する。この処理は、所定の範囲内で適正値を満たすまで繰り返して行われる。
【0038】
所定の範囲内で適正値を満たす場合は、制御部52が、調整ギアを制御して栽培トレイ6の速度、及び位置を微調整する(S66)。最適値を満たすかどうかを判定し(S67)、最適値を満たさない場合は、S66に戻って、再び調整ギアを制御する。この処理は、適正値を満たすまで繰り返して行われる。
【0039】
なお、室内の照度の適正値については、データ部51に記憶された情報に基づいて、計算により算出してもよい。つまり、太陽の位置、天気、季節、時間、方角等の情報に基づいて、栽培トレイ6の位置、及び速度の制御により調整可能となる照度の範囲を決定し、その中で最適値を算出してもよい。
【0040】
また、実際の入射光には、様々なものから反射する反射光等が含まれるため、栽培トレイ6の位置、速度の制御を理論値に合わせても、室内の照度が適正値を満たさない場合がある。そのため、適正値にはある程度の範囲を持たせ、その範囲内に収まれば適性であると判断してもよい。
【0041】
さらに、栽培システム1が稼動して最初の数年は、1年間ごとに季節、天気、室内の照度等のデータを蓄積し、数年後からは、過去に蓄積されたデータに基づいて、現在の環境に最も近い過去の環境から最適な栽培トレイ6の位置、速度を算出して制御してもよい。
【0042】
S67で適正値を満たすと、植物工場50内に余剰熱が発生しているかどうかを判定し(S68)、余剰熱が発生していれば、変換部55が余剰熱をエネルギーに変換、又はヒートポンプを利用した空調の制御を行うための変換を行う(S69)。変換された熱は、空調システム22、給湯システム23、電力システム24等に供給されて消費される。そして、育成を終了するかどうかを判定し(S70)、終了しなければ最初のS61に戻る。育成を終了する場合は、栽培システム1の稼動を停止して(S71)、処理を終了する。
【0043】
このように、本実施形態に係る栽培システムによれば、建築物の外壁面に沿って配設された透明体の被覆収納容器内で、栽培トレイを所定の間隔をおいて上下に複数配設し、配設された複数の栽培トレイを上下方向、及び被覆収納容器が配設された建築物の外壁面に対して前後方向に循環させて移動するため、建築物の壁面から放出される熱によりヒートアイランド現象の防止や、植物の蒸散作用による壁面温度の上昇等の環境負荷を軽減することができると共に、狭い土地を有効に活用して、安全で品質が高い食物を大量に栽培することが可能になるという効果を奏する。
【0044】
また、栽培トレイを建築物の外壁面に対して前後方向に循環させて移動するため、植物に照射される太陽光の量を調整することができるという効果を奏する。
【0045】
さらに、栽培される植物の育成状態に応じて栽培トレイの移動速度、及び/又は位置を制御するため、育成状態が悪い栽培トレイを太陽光が直射する前面部に長く滞留させたり、高温を要する時期の植物が栽培されている栽培トレイを被覆収納容器の上部に長く滞留させる等の制御を行い、植物を効率よく育成することができるという効果を奏する。
【0046】
さらにまた、太陽光の入射角に関する情報、栽培トレイの現在位置に関する情報、及び前記建築物の窓の位置に関する情報に基づいて栽培トレイの移動速度、及び/又は位置を制御するため、建築物に入射する太陽光の量を調整して、建築物内の室内の照度を適切な値に保ち、快適な空間にすることができるという効果を奏する。
【0047】
さらにまた、栽培トレイを上下方向、及び前後方向に駆動する第1ギアと、第1ギアに嵌合する一又は複数の他のギアとを備え、第1ギアと他のギアとが嵌合する位置を変更することで、栽培トレイの前後方向の距離を変化させて、栽培トレイの移動速度、及び/又は位置を制御するため、栽培トレイの位置を微調整することが可能となり、建築物内の照度をより適切な値に保つことができるという効果を奏する。
【0048】
さらにまた、被覆収納容器内で発生する余剰な熱エネルギーを、建築物の空調システム、給湯システム、及び/又は電力システムで利用するエネルギーに変換するため、無駄なエネルギーを有効活用して省エネルギーを実現することができるという効果を奏する。特に、被覆収納容器内で発生した熱を、冬場であれば暖房に利用することができ、夏場であれば給湯に利用することができる。また、電気エネルギーに変換することで、電力として利用することができる。さらに、被覆収納容器内は植物により清浄された空気となっているため、そのまま空調に利用することで、建築物に清浄された空気を供給することができ、快適な空間を提供することが可能になるという効果を奏する。
【0049】
さらにまた、被覆収納容器内の温度と建築物内の温度との温度差を利用して、ヒートポンプにより建築物の空調システムを調整するため、季節に影響なく、被覆収納容器内の余剰熱を有効に活用して省エネルギーを実現することができるという効果を奏する。
【0050】
なお、本実施形態における栽培システムは、水耕栽培以外にも土壌栽培等の様々な栽培方法に適用可能である。
【0051】
また、制御部52が、栽培する植物の種類に応じて被覆収納容器4内の気温、湿度、光量等の環境を適正な環境に制御するようにしてもよい。
【0052】
さらに、例えば、被覆収納容器4が無菌状態ではない場合に、被覆収納容器4内の空気を建築物2内に供給するときは、消臭フィルタ、抗菌フィルタ等必要に応じてフィルタを介した空気の供給を行うようにしてもよい。逆に、被覆収納容器4が無菌状態である場合に、建築物2内の空気を被覆収納容器4に供給するときにも、必要に応じて抗菌フィルタ等のフィルタを介して空気を供給するようにしてもよい。
【0053】
さらにまた、本発明における栽培システムにより栽培する植物は、特に夏場は水耕栽培により育成できる植物が望ましい。栽培トレイ6に水が入ることで、比熱により多くの熱を吸収でき、その分建築物2に伝わる熱を減少させて建築物2の空調を弱めに設定し、省エネルギーを実現することができる。
【0054】
さらにまた、被覆収納容器4に覆われた中で無菌状態を保つことができることから、食物となる植物を育成することが望ましく、食料問題や食品の安全性の問題解決に貢献することができる。
【0055】
以上の前記各実施形態により本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は実施形態に記載の範囲には限定されず、これら各実施形態に多様な変更又は改良を加えることが可能である。そして、かような変更又は改良を加えた実施の形態も本発明の技術的範囲に含まれる。このことは、特許請求の範囲及び課題を解決する手段からも明らかなことである。

【符号の説明】
【0056】
1 栽培システム
2 建築物
3 外壁面
4 被覆収納容器
5 駆動装置
6 栽培トレイ
7 植物
8a、8b 駆動ギア
9 チェーン
10 室外機
11 窓
12 エアコン
21 支持体
22 空調システム
23 給湯システム
24 電力システム
41、42、43、44 調整ギア
41a、42a、43a、44a 接続体
50 植物工場
51 データ部
52 制御部
53 入力情報
55 変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の外壁面に沿って配設された透明体の被覆収納容器と、
前記被覆収納容器内に収納され、栽培トレイを所定の間隔をおいて上下に複数配設し、当該配設された複数の栽培トレイを上下方向、及び前記被覆収納容器が配設された前記建築物の外壁面に対して前後方向に循環させて移動する駆動装置とを備えることを特徴とする栽培システム。
【請求項2】
請求項1に記載の栽培システムにおいて、
少なくとも太陽光の入射角に関する情報、栽培トレイの現在位置に関する情報、及び前記建築物の窓の位置に関する情報を登録する登録部と、
前記登録部に登録された情報に基づいて、前記栽培トレイの移動速度、及び/又は位置を制御する制御部とを備えることを特徴とする栽培システム。
【請求項3】
請求項2に記載の栽培システムにおいて、
前記登録部が、前記栽培トレイで栽培される植物の育成状態に関する情報を登録し、
前記制御部が、前記登録部に登録された情報に基づいて、前記栽培トレイの移動速度、及び/又は位置を制御することを特徴とする栽培システム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の栽培システムにおいて、
前記栽培トレイを上下方向、及び前後方向に駆動する第1ギアと、
前記第1ギアに嵌合する一又は複数の他のギアとを備え、
前記制御部が、前記他のギアの回動軸の位置を前記第1ギアの周方向に平行移動させることで、前記第1ギアと他のギアとが嵌合する位置を変更し、前記栽培トレイの前後方向の距離を調整して、前記栽培トレイの移動速度、及び/又は位置を制御することを特徴とする栽培システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の栽培システムにおいて、
前記被覆収納容器内で発生する熱エネルギーを、前記建築物の空調システム、給湯システム、及び/又は電力システムで利用するエネルギーに変換する変換部を備えることを特徴する栽培システム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の栽培システムにおいて、
前記被覆収納容器内の温度と前記建築物内の温度との温度差を利用して、ヒートポンプにより前記建築物の空調システムを調整することを特徴とする栽培システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−30467(P2011−30467A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178261(P2009−178261)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(509215802)株式会社ネットワークテクノス (1)
【Fターム(参考)】