説明

栽培床の傾斜角の変化が可能な植物栽培装置

【課題】室内において植物を栽培するための装置を改良して、栽培床の傾斜角の変化を可能にする。
【解決手段】基台(11)、該基台に取り付けられた複数の支柱(12a、12b)、該複数の支柱に取り付けられ上面に植物の栽培領域が設定された栽培床(14)が上面に付設された栽培床支持板(13)、および該栽培床の上方で該複数の支柱に取り付けられ栽培対象植物の所定の成長後の高さの1.1〜2.0倍の高さの位置に配置され面状光源(15)が下面に付設された光源支持板(16)からなる植物栽培装置(1a)において、該栽培床支持板が各支柱の取り付け位置を結ぶ軸を中心に下限値を−10°〜10°、上限値を30°〜85°とする範囲で栽培床の傾斜角が変化する回転が可能に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内において植物を栽培するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
室内における植物栽培は、屋外栽培と異なり様々な栽培環境(光、水、温度、湿度、二酸化炭素、土壌または培養液、病虫害対策)の管理が容易であるとの利点がある。さらに、人工光源を室内で利用すると、立体的に複数の栽培空間を重ねて、面積当たり多数の植物を栽培することができる。
屋内での栽培は、栽培環境の管理が容易であるが、植物の生育状態の監視や植物に対する作業が予想外に難しい。屋内の栽培では、狭い空間を有効に利用するため、可能な限り過密な状態で植物を栽培することが普通である。立体的に複数の栽培空間を重ねると、監視や作業がさらに難しくなる。屋内では、監視カメラが比較的容易に使用できる。しかし、植物が成長して葉が茂ると、監視カメラでは観察できない箇所が多くなる。
【0003】
栽培床を傾斜させると、植物の生育状態の監視や植物に対する作業や取り入れ作業が楽になる。
特許文献1(請求項1、2、0012、0015、0019、0021、0028、0031〜0033、図1)は、占有スペースを最小限に抑え、作業者が手のとどく範囲内で各植物の取り入れを含む管理を行うことを目的として、栽培床を傾斜させること(0015)を開示している。
なお、室内における植物栽培では、前記のように立体的に複数の栽培空間を重ねて、面積当たり多数の植物を栽培することができる。そのため、室内における植物栽培では、空間の有効利用(占有スペースを最小限に抑えること)を目的として、栽培床を傾斜させる必要性は低い。
【0004】
また、栽培植物への均一な光照射あるいは培養液の循環を目的として、栽培床を傾斜させる場合がある。培養液を循環させると、培養液の使用量を大幅に削減できる。
特許文献2(請求項2、0008、0013〜0016、0019、0025、0041、図2)、特許文献3(請求項1、0007、0008、0010、0012、0015、0020、図1〜図4)、および特許文献4(請求項4、5、0054、0055、図7)は、いずれも栽培植物への均一な光照射を目的に栽培床を傾斜させている。
ただし、面状光源(例、有機エレクトロルミネッセンス素子)を室内で利用すれば、栽培床を傾斜させなくとも栽培植物に均一に光を照射することができる。特許文献2、3、および4に記載の発明で栽培床を傾斜させる場合は、いずれも面状光源ではなく、自然光単独(特許文献2)、点状光源(特許文献3)、あるいは人工光と自然光との併用(特許文献4)を光源として利用する場合を前提にしている。
特許文献5(請求項2、4、0006、0008、0018、図2)、特許文献6(請求項3、0023、0024、0026、0027、0036、図3)、および特許文献7(0016)は、いずれも養液栽培を前提に、培養液の循環を目的として、栽培床を傾斜させている。特許文献5(0006、0008)は、傾斜角度を変更することにより水流の速度変更が容易である旨を述べている。しかし、特許文献5には、傾斜角度を変更するための手段に関する記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−93026号公報(請求項1、2、0012、0015、0019、0021、0028、0031〜0033、図1)
【特許文献2】特開平6−169658号公報(請求項2、0008、0013〜0016、0019、0025、0041、図2)
【特許文献3】特開平8−331991号公報(請求項1、0007、0008、0010、0012、0015、0020、図1〜図4)
【特許文献4】特開2006−42706号公報(請求項4、5、0054、0055、図7)
【特許文献5】特開2004−344086号公報(請求項2、4、0006、0008、0018、図2)
【特許文献6】特開2005−20号公報(請求項3、0023、0024、0026、0027、0036、図3)
【特許文献7】登録実用新案第3139059号公報(0016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、室内における植物栽培では、植物の生育状態の監視や植物に対する作業を目的として、栽培床を傾斜させる必要性が高い。また、養液栽培を実施する場合は、培養液の循環を目的として、栽培床を傾斜させる場合が多い。
植物の生育状態の監視や植物に対する作業を目的として栽培床を傾斜させる場合には、高い傾斜角(30°〜85°程度)が必要である。すなわち、通常の栽培状態(傾斜角:0°)や培養液の循環を目的として栽培床を傾斜させる場合(傾斜角:1°〜10°程度)とは、栽培床の傾斜角が著しく異なる。
本発明の目的は、室内において植物を栽培するための装置を改良して、栽培床の傾斜角の変化が可能な植物栽培装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基台、該基台に取り付けられた複数の支柱、該複数の支柱に取り付けられ上面に植物の栽培領域が設定された栽培床が上面に付設された栽培床支持板、および該栽培床の上方で該複数の支柱に取り付けられ栽培対象植物の所定の成長後の高さの1.1〜2.0倍の高さの位置に配置され面状光源が下面に付設された光源支持板からなる植物栽培装置であって、該栽培床支持板が各支柱の取り付け位置を結ぶ軸を中心に下限値を−10°〜10°、上限値を30°〜85°とする範囲で栽培床の傾斜角が変化する回転が可能に取り付けられていることを特徴とする栽培床の傾斜角の変化が可能な植物栽培装置を提供する。
【0008】
上記面状光源は、有機エレクトロルミネッセンス素子からなることが好ましい。
上記光源支持板は、各支柱の取り付け位置を結ぶ軸を中心に下限値を−10°〜10°、上限値を30°〜85°とする範囲で面状光源の傾斜角が変化する回転が可能に取り付けられていることが好ましい。
また、二段目の栽培床を付設することもできる。その場合、光源支持板の上面に、上面に植物の栽培領域が設定された二段目の栽培床が付設され、さらに光源支持板の上方で複数の支柱に取り付けられ栽培対象植物の所定の成長後の高さの1.1〜2.0倍の高さの位置に配置され面状光源が下面に付設された第2の光源支持板を有する。
上記第2の光源支持板も、各支柱の取り付け位置を結ぶ軸を中心に下限値を−10°〜10°、上限値を30°〜85°とする範囲で面状光源の傾斜角が変化する回転が可能に取り付けられていることが好ましい。
さらに、養液栽培を実施するため、培養液の循環系を設けることもできる。その場合、栽培床が吸水性材料からなり、さらに、基台に取り付けられた培養液タンク、基台に取り付けられた培養液循環ポンプ、および培養液循環パイプを有し、培養液循環パイプが、培養液タンクから培養液循環ポンプ、二段目の栽培床、そして一段目の栽培床を経て培養液タンクに戻るまで配置されている。
【0009】
また、二段目の栽培床の上に、三段目の栽培床を付設することもできる。その場合、第2の光源支持板の上面に、上面に植物の栽培領域が設定された三段目の栽培床が付設され、さらに第2の光源支持板の上方で複数の支柱に取り付けられ栽培対象植物の所定の成長後の高さの1.1〜2.0倍の高さの位置に配置され面状光源が下面に付設された第3の光源支持板を有する。
上記第3の光源支持板も、各支柱の取り付け位置を結ぶ軸を中心に下限値を−10°〜10°、上限値を30°〜85°とする範囲で面状光源の傾斜角が変化する回転が可能に取り付けられていることが好ましい。
三段目の栽培床を付設する場合も、培養液の循環系を設けることもできる。その場合、栽培床が吸水性材料からなり、さらに、基台に取り付けられた培養液タンク、基台に取り付けられた培養液循環ポンプ、および培養液循環パイプを有し、培養液循環パイプが、培養液タンクから培養液循環ポンプ、三段目の栽培床、二段目の栽培床、そして一段目の栽培床を経て培養液タンクに戻るまで配置されている。
上記の支持板を繰り返して設置することにより、四段以上の栽培空間を設けることもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の栽培装置は、支持板に軸(各支柱の取り付け位置を結ぶ軸)を付設することにより、下限値を−10°〜10°、上限値を30°〜85°とする範囲内で栽培床の傾斜角の変化が可能であることを特徴とする。
植物の生育状態の監視や植物に対する作業を目的として栽培床を傾斜させる場合(傾斜角:30°〜85°)と、通常の栽培状態(傾斜角:0°)や培養液の循環を目的として栽培床を傾斜させる場合(傾斜角:1°〜10°)とは、栽培床の傾斜角が著しく異なる。
本発明に従い支持板を支柱に対して回転可能に取り付けることにより、植物の生育状態の監視や植物に対する作業(例えば、病虫害の早期発見、剪定、害虫の除去、果実の採取)を目的として栽培床を大きく傾斜させることが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の植物の栽培装置の基本的な構成例を示す模式図である。
【図2】本発明の植物の栽培装置の別の基本的な構成例を示す模式図である。
【図3】本発明の植物の栽培装置のさらに別の基本的な構成例を示す模式図である。
【図4】本発明の植物の栽培装置の好ましい構成例を示す側面図である。
【図5】本発明の植物の栽培装置の好ましい構成例を示す斜視図である。
【図6】支持板の斜視図である。
【図7】コンテナの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の植物の栽培装置の基本的な構成例を示す模式図である。栽培床支持板(13)が水平である状態(1a)と手前に傾いている状態(1b)とを示す。
図1に示す装置(1a、1b)は、基台(11)、基台に取り付けられた複数の支柱(12a、12b)、複数の支柱に取り付けられ上面に植物の栽培領域が設定された栽培床(14)が上面に付設された栽培床支持板(13)、および栽培床の上方で複数の支柱に取り付けられ面状光源(15)が下面に付設された光源支持板(16)からなる。
図1に示す装置では、栽培床支持板(13)が支柱(12a、12b)に対して、回転軸(X−X’)を中心に回転可能に取り付けられている。これにより、栽培床の傾斜角の変化が可能である。
【0013】
上面に植物の栽培領域が設定された栽培床(14)と、光源支持板(16)に取り付けられた面状光源(15)との間の栽培空間は、高さが栽培対象植物の所定の成長後の高さの1.1〜2.0倍である。栽培空間の高さは、栽培対象植物の所定の成長後の高さの1.2〜1.9倍が好ましく、1.3〜1.8倍がさらに好ましく、1.4〜1.7倍が最も好ましい。
栽培床支持板が回転する角度は、下限値が−10°〜10°、上限値が30°〜85°である。傾斜角の下限値は、通常の栽培状態を考慮して決定する。非水耕栽培を採用する場合、傾斜角の下限値は−5°〜5°が好ましく、−2°〜2°がさらに好ましく、−1°〜1°が最も好ましく、可能な限り傾斜角の下限値を0°に近づけることが好ましい。一方、水耕栽培を採用する場合(培養液の循環を目的として栽培床を傾斜させる場合)は、傾斜角の下限値は1°〜7°が好ましく、1.5°〜7°がさらに好ましく、2°〜4°が最も好ましい。傾斜角の上限値は、植物の生育状態の監視や植物に対する作業を想定して設定する。傾斜角の上限値は、35°〜75°が好ましく、40°〜65°がさらに好ましく、45°〜60°が最も好ましい。
【0014】
図2は、本発明の植物の栽培装置の別の基本的な構成例を示す模式図である。栽培床支持板(23)が水平である状態(2a)と手前に傾いている状態(2b)とを示す。
図2に示す装置(2a、2b)は、基台(21)、基台に取り付けられた複数の支柱(22a、22b、22c、22d)、複数の支柱に取り付けられ上面に植物の栽培領域が設定された栽培床(24)が上面に付設された栽培床支持板(23)、および栽培床の上方で複数の支柱に取り付けられ面状光源(25)が下面に付設された光源支持板(26)からなる。
図2に示す装置では、栽培床支持板(23)が奥の支柱(22c、22d)に対して、第1の回転軸(X−X’)を中心に回転可能に取り付けられている。第1の回転軸(X−X’)の位置は、奥の支柱(22c、22d)に対して固定されている。
【0015】
また、支柱(22a、22b、22c、22d)には、横枠(27a、27b)が上下に移動可能に取り付けられている。横枠(27a、27b)は、支柱(22a、22b、22c、22d)に設けられている直線のガイドライン(28a(図示せず)、28b(図示せず)、28c、28d)に沿って上下に移動できる。栽培床支持板(23)は、横枠(27a、27b)に対しても、第2の回転軸(Y−Y’)を中心に回転可能に取り付けられている。第2の回転軸(Y−Y’)は、横枠(27a、27b)に設けられている直線のガイドライン(29a(図示せず)、29b)に沿って前後に移動できる。
以上の構造により、栽培床の傾斜角の変化が可能である。
図2に示す装置では、奥の支柱(22c、22d)に対して、固定した第1の回転軸(X−X’)を設け、横枠(27a、27b)に対して移動可能な第2の回転軸(Y−Y’)を設けている。図2に示す装置とは逆に、手前の支柱(22a、22b)に対して、固定した第1の回転軸(X−X’)を設け、横枠(27a、27b)に対して移動可能な第2の回転軸(Y−Y’)を設けてもよい。
【0016】
図3は、本発明の植物の栽培装置のさらに別の基本的な構成例を示す模式図である。栽培床支持板(33)が水平である状態(3a)と手前に傾いている状態(3b)とを示す。
図3に示す装置(3a、3b)は、基台(31)、基台に取り付けられた複数の支柱(32a、32b、32c、32d)、複数の支柱に取り付けられ上面に植物の栽培領域が設定された栽培床(34)が上面に付設された栽培床支持板(33)、および栽培床の上方で複数の支柱に取り付けられ面状光源(35)が下面に付設された光源支持板(36)からなる。
図3に示す装置では、栽培床支持板(33)が奥の支柱(32c、32d)に対して、第1の回転軸(X−X’)を中心に回転可能に取り付けられている。第1の回転軸(X−X’)の位置は、奥の支柱(32c、32d)に対して固定されている。
【0017】
また、支柱(32a、32b、32c、32d)には、横枠(37a、37b)が取り付けられている。横枠(37a、37b)は、支柱(32a、32b、32c、32d)に対して固定されている。栽培床支持板(33)は、横枠(37a、37b)に対しても、第2の回転軸(Y−Y’)を中心に回転可能に取り付けられている。第2の回転軸(Y−Y’)は、横枠(37a、37b)に設けられている曲線のガイドライン(39a(図示せず)、39b)に沿って、第1の回転軸の位置を中心とする円弧上を移動できる。
以上の構造により、栽培床の傾斜角の変化が可能である。
図3に示す装置では、奥の支柱(32c、32d)に対して、固定した第1の回転軸(X−X’)を設け、横枠(37a、37b)に対して移動可能な第2の回転軸(Y−Y’)を設けている。図3に示す装置とは逆に、手前の支柱(32a、32b)に対して、固定した第1の回転軸(X−X’)を設け、横枠(37a、37b)に対して移動可能な第2の回転軸(Y−Y’)を設けてもよい。
【0018】
図4は、本発明の植物の栽培装置の好ましい構成例を示す側面図である。
図5は、本発明の植物の栽培装置の好ましい構成例を示す斜視図である。
図4および5に示す栽培装置は、立体的に4段の栽培空間を重ねている。図4および図5は、養液栽培を前提に、培養液の循環を目的として栽培床をわずかに(3°程度)傾斜させている状態を示す。
図4および5に示す装置は、基台(41)、基台に取り付けられた複数の支柱(42a、42b)、複数の支柱に取り付けられ上面に植物の栽培領域が設定された栽培床(44a)が上面に付設された栽培床支持板(43)、および栽培床の上方で複数の支柱に取り付けられ面状光源(45a)が下面に付設された第1の光源支持板(46a)を有する。栽培床支持板(43)に付設された栽培床(44a)と光源支持板(46a)に付設された面状光源(45a)との間の空間が第1の栽培空間を形成している。
養液栽培を実施するため、栽培床は吸水性材料からなる。
図5に示す装置では、基台(41)に取り付けられた支柱(42a、42b)の間に横枠(47)が設けられ、支柱を固定している。
【0019】
第1の光源支持板(46a)の上面に、上面に植物の栽培領域が設定された二段目の栽培床(44b)が付設され、さらに光源支持板の上方で複数の支柱に取り付けられ面状光源(45b)が下面に付設された第2の光源支持板(46b)を有する。二段目の栽培床(44b)と第2の面状光源(45b)との間の空間が第2の栽培空間を形成している。
第2の光源支持板(46b)の上面に、上面に植物の栽培領域が設定された三段目の栽培床(44c)が付設され、さらに光源支持板の上方で複数の支柱に取り付けられ面状光源(45c)が下面に付設された第3の光源支持板(46c)を有する。三段目の栽培床(44c)と第3の面状光源(45c)との間の空間が第3の栽培空間を形成している。
第3の光源支持板(46c)の上面に、上面に植物の栽培領域が設定された四段目の栽培床(44d)が付設され、さらに光源支持板の上方で複数の支柱に取り付けられ面状光源(45d)が下面に付設された第4の光源支持板(46d)を有する。四段目の栽培床(44d)と第3の面状光源(45d)との間の空間が第4の栽培空間を形成している。
【0020】
基台(41)には、培養液タンク(411)および培養液循環ポンプ(412)が取り付けられている。培養液タンク(411)にはバルブ(411a、411b)が設けられている。培養液タンクの容量は、10乃至1000リットルが好ましく、20乃至500リットルがさらに好ましく、50乃至200リットルが最も好ましい。
図4および5に示す栽培装置は、さらに培養液循環パイプ(413a〜413f)を有する。培養液循環パイプは、培養液タンクから培養液循環ポンプまで(413a)、培養液循環ポンプから四段目の栽培床まで(413b)、四段目の栽培床から三段目の栽培床まで(413c)、三段目の栽培床から二段目の栽培床まで(413d)、二段目の栽培床から一段目の栽培床まで(413e)、そして一段目の栽培床を経て培養液タンクに戻るまで(413f)配置されている。
培養液循環パイプは、栽培床の傾斜の変更に対応できるように、伸縮性のある材料(例、ゴム)からなり、寸法に余裕があることが望ましい。培養液循環パイプは、光不透過性の材料からなることも好ましい。パイプの太さ(直径)は、0.5〜20cmが好ましく、1〜10cmがさらに好ましく、2〜5cmが最も好ましい。
基台(41)には、移動が可能であるように、車輪(414a、414b、414c、414d(図示せず))が取り付けられている。栽培装置を斜めに移動できるように、車輪の向きを可変に設計することが望ましい。また、栽培中に車輪を固定できる機構を設けることも好ましい。
【0021】
図4および5に示すような複数の栽培床を有する装置では、複数の栽培床の傾斜が同じ角度となるように、全ての栽培床を連動させることが好ましい。モーターその他の動力を用いて、複数の栽培床の傾斜角を同時に変化させることが好ましい。
本発明に従い、各支柱の取り付け位置を結ぶ軸を中心に栽培床の支持板が回転可能であるように装置を設計すれば、動力を用いることにより容易に、複数の栽培床の傾斜角を同時に変化させることができる。
栽培床の傾斜角を変化させる動力は、面状光源やポンプの動力と同様に、電力であることが好ましい。これらには差し込みプラグを設けて、任意の電源を利用できるようにすることが好ましい。
【0022】
図6は、支持板の斜視図である。
本発明の栽培装置に用いる支持板は、栽培床のみが取り付けられている最下段の支持板、面状光源のみが取り付けられている最上段の支持板、および栽培床と面状光源との双方が取り付けられている中間の支持板に分類できる。図6は、中間の支持板を示す。
支持板は、金属(例、鉄、アルミニウム)またはプラスチックから作製できる。金属が好ましく、鉄またはその合金がさらに好ましく、ステンレスが特に好ましい。
【0023】
支持板(6)の寸法として、縦(長辺:図6のl1)は、20乃至5000cmが好ましく、50乃至2000cmがより好ましく、100乃至1000cmがさらに好ましく、200乃至500cmが最も好ましい。横(短辺、図6のw1)は、5乃至1000cmが好ましく、10乃至500cmがより好ましく、20乃至200cmがさらに好ましく、50乃至100cmが最も好ましい。高さ(図6のh1)は、2乃至100cmが好ましく、5乃至50cmがさらに好ましく、10乃至20cmが最も好ましい。
【0024】
図6に示す支持板(6)には、栽培床(61)と面状光源(62)との双方が設けられている。
栽培床(61)には、ゴム板(611)が取り付けられている。ゴム板は、栽培植物の根が接する部分に溝を形成するために用いられる。ゴム板により形成される溝を培養液が流れる。
ゴム板の長さは、支持板の横(短辺、図6のw1)よりも少し短い長さである。ゴム板の幅は、栽培植物の種類(根の大きさ)に応じて決定する。ゴム板の厚さは、0.2乃至10cmが好ましく、0.5乃至5cmがさらに好ましく、1乃至2cmが最も好ましい。図6に示すように、ゴム板の先端(培養液の流路における上流側)は、三角形にカットすることが好ましい。
栽培床は、ゴム板(611)を、さらに吸水性材料または植物が根を伸張できる材料(後述)で覆うことが好ましい。
【0025】
培養液は、上部の支持板から供給口(63)を経由して支持板(6)に供給される。なお、最上段の支持板のみは、上部の支持板からではなく、ポンプから供給口に培養液が供給される。最上段の支持板の供給口付近には、バルブを設けることが好ましい。
供給口(63)の大きさは、前述した培養液循環パイプの太さ(直径)に応じて決定する。
供給口(63)に供給された培養液は、上部の樋(64)を流れる。上部の樋の幅(w2)は、0.5乃至50cmが好ましく、1乃至20cmがさらに好ましく、2乃至10cmが最も好ましい。
上部の樋(64)に滞留した培養液は、仕切板(65)に設けられている溝(651)から溢れて、栽培床(61)を流れる。
仕切板(65)の高さは、0.2乃至20cmが好ましく、0.5乃至10cmがさらに好ましく、1乃至5cmが最も好ましい。
溝(651)は、V字型であることが好ましい。溝の深さは、0.05乃至5cmが好ましく、0.1乃至2cmがさらに好ましく、0.2乃至1cmが最も好ましい。溝(651)は等間隔で仕切板(65)に設けられていることが好ましい。溝(651)の間隔は、0.5乃至20cmが好ましく、1乃至10cmがさらに好ましく、2乃至5cmが最も好ましい。
【0026】
栽培床(61)を流れた培養液は、下部の樋(66)に集められる。下部の樋(66)には網(661)が掛けられていて、ゴム板(611)や栽培床を構成する材料の脱落を防止している。
下部の樋の幅(w3)は、0.5乃至50cmが好ましく、1乃至20cmがさらに好ましく、2乃至10cmが最も好ましい。
下部の樋(66)を流れた培養液は、排出口(67)から下部の支持板に供給される。なお、最下段の支持板のみは、下部の支持板ではなく、培養液タンクに培養液が戻る。
排出口(67)の大きさは、前述した培養液循環パイプの太さ(直径)に応じて決定する。
【0027】
図7は、コンテナを説明する平面図である。
図7に示すように、コンテナ(7)の内部に、本発明の栽培装置のラック(71、その他の合計6箇所)を設ける。前室(72)には断熱ドア(73)およびメインタンク(77)を設けることができる。メインタンクから、本発明の栽培装置のラック(71)に設けられるタンクに培養液を供給する。ラック(71)にタンクを設けず、メインタンク(77)から直接、本発明の栽培装置に培養液を供給してもよい。
コンテナ(7)の中央部には通路(74)、奥には設備空間(75a、75b)を設けることができる。断熱ドア(73)に加えて、コンテナの壁面(76)も断熱材からなることが望ましい。
断熱材を用いてコンテナの断熱性を高めることにより、通常の室内(ハウス)栽培と比較して、高いエネルギー効率を実現できる。また、断熱材を用いるコンテナでは、温度環境の調整も容易である。
【0028】
[培養液タンク]
培養液タンクは基台に備えることができる。培養液タンクと基台とを一体化してもよい。なお、基台に対して搬送または移動が可能となる機構(例、車輪)を取り付けることが好ましい。
培養液タンクは、金属(例、鉄、アルミニウム、チタン、それらの合金)またはプラスチック(例、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート)から作製できる。金属が好ましく、鉄またはその合金がさらに好ましく、ステンレスが特に好ましい。
培養液タンクの容量は前述した通りである。
【0029】
培養液タンクに、電気伝導度(EC)センサー、pHセンサーあるいは水位測定器を取り付けてもよい。また、これらのセンサーの値に応じて培養液の成分を補充する(ECやpHの値を調整する)ために、原液タンク、原液供給ポンプ、および原液供給のための導管を取り付けることもできる。
培養液の供給方式として閉鎖系の循環式システムを採用することが好ましい。
培養液循環ポンプ(供給ポンプ)と培養液循環パイプとを用いて、培養液タンクから上部の栽培床へ培養液を供給することができる。培養液タンクには、供給ポンプとは別に、攪拌ポンプを設けてもよい。
培養液の供給経路には、フィルター、流量計、減圧弁、あるいは電磁弁を取り付けてもよい。
上部の栽培床に供給された培養液は、栽培床を上部から下部に順次経由して、培養液タンクに戻る。
培養液タンクの上部に開口を設け、栽培床の下辺から滴下した培養液を培養液タンクに回収することができる。培養液タンクに開口を設ける代わりに、栽培床の下辺と培養液タンクとをパイプで接続し、培養液を培養液タンクに回収してもよい。
【0030】
[吸水性材料または植物が根を伸張できる材料]
吸水性材料は、可能な限り高い吸水性を有することが好ましい。乾燥時の体積当たり60%以上の吸水性を有することが好ましく、70%以上の吸水性を有することがさらに好ましく、80%以上の吸水性を有することが最も好ましい。吸水性材料面積当たり保水量は、5L/m以上であることが好ましく、10L/m以上であることがさらに好ましく、15L/m以上であることが最も好ましい。
【0031】
吸水性材料または植物が根を張ることができる材料の形状は、粒状(例、礫、砂、多孔質セラミック、もみ殻)、繊維状(例、ロックウール、不織布、ヤシ殻チップ)、フォーム状(例、発泡ポリウレタン、発泡ポリスチレン、フェノール発泡樹脂)のいずれでも良い。素材としても、天然無機物(例、砂)、人工無機物(例、ロックウール)、天然有機物(例、ヤシ殻チップ)、人工有機物(プラスチック)のいずれも用いることができる。
以上の材料を複数組み合わせてもよい。栽培床には、吸水性かつ植物が根を伸張できる材料を用いることが最も好ましい。複数の材料を組み合わせることにより、複数の機能を両立させることもできる。
【0032】
[面状光源]
面状光源は、光源そのものが面状光源を構成できる場合(例、有機EL)と、カバーと光源とを組み合わせて面状光源を構成する場合とがある。
カバーが必要である場合、カバーは、プラスチックまたは金属、好ましくはプラスチックを用いて作製できる。そして、カバーの内側(栽培床側)に、光源を設ける。二種類以上の光源を設けてもよい。
【0033】
光源としては、有機エレクトロルミネッセンス素子、無機エレクトロルミネッセンス素子、発光ダイオード、蛍光灯、あるいは小型電球を用いることができる。植物の光合成を活発にするには、植物に主として赤色光を照射することが好ましい。このため、発光体の発光色は赤色であることが好ましい。また、植物には、前記の赤色光に加えて、青色光を補助的に照射することも好ましい。従って、発光体としては、発光色の設定が容易であり、また低消費電力であることから、有機エレクトロルミネッセンス素子あるいは発光ダイオードを用いることが好ましく、発光の形状やサイズ(面積)の設定が容易であることから、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子)を用いることが特に好ましい。
【0034】
有機EL素子は、透明な基板(例、ガラス板)の表面に形成される。
有機EL素子は、基板の表面に、例えば、透明陽電極層、有機発光材料層、そして陰電極層をこの順に積層して製造される。有機EL素子は、前記の陽電極層と陰電極層との間に電気エネルギーを付与すると、陽電極層から正孔が、そして陰電極層から電子が、それぞれ有機発光材料層の内部に注入され、この正孔と電子とが有機発光材料層の内部で再結合することにより、有機発光材料層にて有機発光材料により定まる色の発光を生じる。この発光は、透明電極層、そして透明な基板を通って、照光部の外部に取り出される。なお、例えば、基板の外側の面に発光体として複数個の発光ダイオードを並べて設置する場合には、基板は透明である必要はない。
【0035】
有機EL素子の発光色を赤色に設定するには、前記の有機発光材料層を形成する有機発光材料として、例えば、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−ジュロリジル−9−エニル−4H−ピラン(4−(Dicyanomethylene)−2−methyl−6−julolidyl−9−enyl−4H−pyran)を用いることができる。また、発光色を青色に設定するには、有機発光材料として、例えば、ペリレンを用いることができる。
また、有機発光材料層の内部にて再結合させる正孔と電子とのそれぞれを、有機発光材料層の内部に効率良く注入して、有機EL素子の発光効率を高くするため、陽電極層と有機発光材料層との間に正孔輸送層、そして陰電極層と有機発光材料層との間に電子輸送層を付設することもできる。
【0036】
[栽培植物]
本発明の装置は、特に葉物野菜の栽培に適している。
一般的な葉物野菜は、キク科(例、レタス、サラダ菜、シュンギク)、アブラナ科(例、キャベツ、白菜、青梗菜、小松菜、クレソン)、およびアカザ科(例、ほうれん草)の植物が代表的である。葉物野菜には、ハーブ類も含まれる。ハーブ類は、セリ科(例、パセリ、チャービル、ディル)およびシソ科(例、バジル、ミント、セージ、タイム)の植物が代表的である。
【0037】
[培養液]
培養液の組成は、通常の養液栽培に使用される培養液と同様である。
以下に、主な葉物野菜について、窒素、リン、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムの組成(単位:me/リットル)の範囲を示す。
【0038】
───────────────────────────────────
葉物野菜 N(硝酸換算)P(リン酸換算) K Ca Mg
───────────────────────────────────
レタス 5.4〜 7.1 1.3〜2.7 3.0〜 4.4 1.6〜2.2 0.9〜2.0
サラダ菜 11.9〜20.5 3.6〜5.5 7.2〜11.5 3.6〜7.1 1.8〜3.2
クレソン 4.0〜11.4 2.7〜4.9 3.1〜 7.4 0.9〜3.0 0.9〜3.3
ほうれん草 9.6〜19.3 2.4〜4.9 4.7〜11.3 3.6〜9.1 2.4〜4.4
───────────────────────────────────
【実施例】
【0039】
[実施例1]
図4、5に示す装置を作製した。装置は、図7に示すように、コンテナ内に配置した。
支持台(棚)と培養液タンクとは、ステンレスで作製した。光源には、有機EL素子を採用した。栽培床は、図6に示すゴム板の上に、発泡プラスチック(90cm×60cm)を横向きに3枚並べて積層した。
以上の装置を用いて、レタスを栽培した。
培養液中の主要元素の組成は、窒素109.2mg/リットル、リン50.4mg/リットル、カリウム170.1mg/リットル、カルシウム96.6mg/リットル、マグネシム0.63mg/リットルであった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の装置を用いることにより、必要に応じて栽培床の傾斜角を変化させながら、植物を栽培することが可能になった。
【符号の説明】
【0041】
1a、1b、2a、2b、3a、3b 栽培装置
1a、2a、3a 栽培床支持板が水平である状態
1b、2b、3b 栽培床支持板が手前に傾いている状態
11、21、31、41 基台
12a、12b、22a、22b、22c、22d、32a、32b、32c、32d、42a、42b 支柱
13、23、33、43 栽培床支持板
14、24、34、44a、44b、44c、44d、61 栽培床
15、25、35、45a、45b、45c、45d、62 面状光源
16、26、36、46a、46b、46c、46d 光源支持板
27a、27b、37a、37b、47 横枠
28a、28b、28c、28d 支柱に設けられている直線のガイドライン
29a、29b 横枠に設けられている直線のガイドライン
39a、39b 横枠に設けられている曲線のガイドライン
411 培養液タンク
411a、411b バルブ
412 培養液循環ポンプ
413a、413b、413c、413d、413e、413f 培養液循環パイプ
414a、414b、414c、414d 車輪
6 支持板
611 ゴム板
63 供給口
64 上部の樋
65 仕切板
651 溝
66 下部の樋
661 網
67 排出口
7 コンテナ
71 ラック
72 前室
73 断熱ドア
74 通路
75a、75b 設備空間
76 壁面
77 メインタンク
X−X’ (第1の)回転軸
Y−Y’ 第2の回転軸
l1 支持板の縦(寸法)
w1 支持板の横(寸法)
h1 支持板の高さ(寸法)
w2 上部の樋の幅(寸法)
w3 下部の樋の幅(寸法)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台、該基台に取り付けられた複数の支柱、該複数の支柱に取り付けられ上面に植物の栽培領域が設定された栽培床が上面に付設された栽培床支持板、および該栽培床の上方で該複数の支柱に取り付けられ栽培対象植物の所定の成長後の高さの1.1〜2.0倍の高さの位置に配置され面状光源が下面に付設された光源支持板からなる植物栽培装置であって、該栽培床支持板が各支柱の取り付け位置を結ぶ軸を中心に下限値を−10°〜10°、上限値を30°〜85°とする範囲で栽培床の傾斜角が変化する回転が可能に取り付けられていることを特徴とする栽培床の傾斜角の変化が可能な植物栽培装置。
【請求項2】
光源支持板が各支柱の取り付け位置を結ぶ軸を中心に下限値を−10°〜10°、上限値を30°〜85°とする範囲で面状光源の傾斜角が変化する回転が可能に取り付けられている請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項3】
光源支持板の上面に、上面に植物の栽培領域が設定された二段目の栽培床が付設され、さらに光源支持板の上方で複数の支柱に取り付けられ栽培対象植物の所定の成長後の高さの1.1〜2.0倍の高さの位置に配置され面状光源が下面に付設された第2の光源支持板を有する請求項2に記載の植物栽培装置。
【請求項4】
栽培床が吸水性材料からなり、さらに、基台に取り付けられた培養液タンク、基台に取り付けられた培養液循環ポンプ、および培養液循環パイプを有し、培養液循環パイプが、培養液タンクから培養液循環ポンプ、二段目の栽培床、そして一段目の栽培床を経て培養液タンクに戻るまで配置されている請求項3に記載の植物栽培装置。
【請求項5】
面状光源が有機エレクトロルミネッセンス素子からなる請求項1乃至4のいずれか一項に記載の植物栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−55234(P2012−55234A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201859(P2010−201859)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】