説明

栽培用コンテナ装置および植物・きのこ類の栽培・収穫方法

【課題】コンテナを有効利用して高い生産効率で植物、きのこ類を栽培できる栽培用コンテナ装置を提案すること。
【解決手段】栽培用コンテナ装置1は、陸上輸送用のコンテナ2の内部に、その天井面に沿って配置された複数組のガイドレール対7に沿ってスライド可能な複数の栽培棚3が吊り下げられている。栽培棚3をコンテナ幅方向にスライドさせることにより、隣接する栽培棚3の間、コンテナ内の内側側面と栽培棚の間に、人が移動可能な通路を確保できる。コンテナ2内に設けた通路の両側に栽培棚3を固定配置する場合に比べて、栽培棚3を密に配列することができ、単位面積当たりの生産量を高めることができる。コンテナ2内の狭い空間を栽培に適した環境に維持すればよいので、温度、湿度などの管理も容易になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陸上輸送用あるいは海上輸送用のコンテナを利用して植物、きのこ類を栽培する栽培用コンテナ装置に関する。また、本発明は、栽培用コンテナ装置を用いた植物、きのこ類の栽培・収穫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の植物、きのこ類の施設栽培においてはパイプハウス、ビニールハウスなどの固定構造物が用いられている。固定構造物の代わりに陸上輸送あるいは海上輸送用のコンテナを栽培施設として用いれば栽培施設を簡単に構築できるので好ましい。特許文献1には、このようなコンテナを利用したキノコ・植物栽培装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−180158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1において提案されているコンテナを利用したキノコ・植物栽培装置は、単に、従来における固定構造物の代わりにコンテナを利用しているだけである。本発明の課題は、コンテナを有効利用して高い生産効率で植物、きのこ類を栽培できる栽培用コンテナ装置を提案することにある。また、本発明の課題は、新たな栽培用コンテナ装置を用いて、植物、きのこ類を必要な時に必要な量だけ収穫して食することのできる植物、きのこ類の栽培・収穫方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の栽培用コンテナ装置は、
陸上あるいは海上輸送用のコンテナと、
コンテナ内部の天井面に沿ってコンテナ幅方向に架け渡した複数本のガイド部材と、
各ガイド部材から吊り下げられていると共に当該ガイド部材に沿ってコンテナ幅方向にスライド可能な栽培棚とを有し、
ガイド部材は、コンテナ内部の天井面において、コンテナ長さ方向に沿って所定の間隔で配列されており、
各ガイド部材にはコンテナ幅方向に複数の栽培棚が吊り下げられており、
各ガイド部材に吊り下げられている複数の栽培棚をコンテナ幅方向にスライドさせることにより、隣接する栽培棚の間、あるいはコンテナ内部の側面と栽培棚の間に、人がコンテナ長さ方向に移動可能な通路用空間が形成されることを特徴としている。
【0006】
本発明の栽培用コンテナ装置では、栽培棚をスライドさせると、栽培棚の間、あるいは、栽培棚とコンテナ内側の側面との間に通路用のスペースを確保できる。従来のように、コンテナ内に設けた通路の両側に栽培棚を固定配置する場合に比べて、栽培棚を密に配列することができ、単位面積当たりの生産量を高めることができる。また、コンテナ内の狭い空間を栽培に適した環境に維持すればよいので、温度、湿度などの管理も容易になる。
【0007】
ここで、コンテナ内の温度、あるいは温度および湿度を調整するためには、コンテナにおける開閉扉が取り付けられている端面とは反対側の端面に、空調設備を備えた空調室を付設しておけばよい。また、採光が必要な場合には、コンテナの天面に採光窓を設けておけばよい。さらに、必要に応じて換気を行うことができるようにするために、コンテナの開閉扉に開閉可能な換気窓を設けておけばよい。
【0008】
次に、本発明は、上記構成の栽培用コンテナ装置を用いた植物、きのこ類の栽培・収穫方法であって、
植物あるいはきのこ類の出荷元において、コンテナ内の各栽培棚に、植物の苗あるいはきのこ類の菌を植え付けた栽培床を配置し、
植物あるいはきのこ類が所定の生育状態になるまで栽培し、
しかる後に、コンテナを出荷先まで移送し、
出荷先に前記コンテナを据え付けて、当該コンテナ内において植物あるいはきのこ類の栽培を継続して、コンテナ内の栽培棚で栽培されている植物、きのこ類を必要時に必要量だけ収穫できるようにすることを特徴としている。
【0009】
本発明の方法では、植物、きのこ類を栽培地から収穫して出荷するのではなく、栽培途中にある植物あるいはきのこ類が収納されているコンテナ自体を、出荷先に輸送し、そこで収穫されるまで栽培を継続するようにしている。例えば、地方の農場においてコンテナを用意し、都心部の出荷先、例えば飲食店に向けて輸送し、飲食店に隣接している駐車場あるいは空地などにコンテナを据え付け、そこで栽培を継続することができる。飲食店では、必要時に必要量の植物、きのこ類を収穫して食材として利用することができる。したがって、常に新鮮な植物、きのこ類を用いることができるので極めて便利である。
【0010】
また、本発明によるコンテナを用いた植物、きのこ類の栽培・収穫方法では、コンテナを入れ替えることにより、出荷先において継続して植物、きのこ類をコンテナから収穫して用いることができるので便利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した栽培用コンテナ装置を示す説明図である。
【図2】図1のコンテナ内の栽培棚の配列状態を示す縦断面図、横断面図および平面図である。
【図3】(a)は開閉扉に換気窓が形成されているコンテナを示す説明図であり、(b)は天面に採光用の窓が形成されているコンテナを示す説明図であり、(c)はコンテナの外壁構造の一例を示す説明図である。
【図4】図1の栽培用コンテナ装置を用いた植物、きのこ類の栽培・収穫方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して本発明を適用した栽培用コンテナ装置および植物、きのこ類の栽培・収穫方法の実施の形態を説明する。
【0013】
(栽培用コンテナ装置)
図1および図2を参照して説明すると、栽培用コンテナ装置1は、横長の箱状のコンテナ、例えば陸上輸送用のコンテナ2を備えており、このコンテナ2の内部には複数の栽培棚3が収納されている。コンテナ2において、左右の開閉扉4L、4Rが取り付けられている後端面2aとは反対側の前端面2bには、空調用機器が内蔵された空調室5が付設されている。コンテナ2の底面2cの四隅は土台6を介して設置面、例えば地盤面に固定されている。
【0014】
コンテナ2の内部には、その天井面2dに沿って複数組のガイドレール対7(ガイド部材)がコンテナ幅方向に水平に架け渡されている。例えば3組のガイドレール対7がコンテナ前後方向に一定の間隔で配列されている。各ガイドレール対7は一定の間隔で平行に配置された前後のガイドレール7a、7bからなり、各ガイドレール7a、7bには例えばH型鋼が用いられている
【0015】
各ガイドレール対7には、それぞれ、複数の栽培棚3がスライド可能な状態で吊り下げられている。栽培棚3は上下に長い偏平な直方体形状となるように組まれた金属枠3aと、この金属枠3aに水平に取り付けた複数段の棚板3b、例えば5段の棚板3bから構成されている。栽培棚3はガイドレール対7に直交する状態、すなわちコンテナ長さ方向を向く状態に配置されており、その金属枠3aの上端部には前後一対の吊り下げ枠3cが固定されており、各吊り下げ枠3cの上端部には、それぞれガイドレール7a、7bに沿って転動自在なローラ対が回転自在の状態で保持されている。
【0016】
例えば、4個の栽培棚3が各ガイドレール対7に沿ってスライド自在の状態で吊り下げられている。したがって、合計12個の栽培棚3がコンテナ2内に収納されている。これ以外の個数であってもよいことは勿論である。
【0017】
ここで、各列の栽培棚3の幅寸法および配列数を適切に設定することにより、それらを隙間なく密に接した状態となるようにコンテナ幅方向にスライドすると、作業員一人分が通ることのできる幅の通路が形成されるようになっている。例えば、図2(b)に示すように、作業員一人分が通ることのできる幅の通路が栽培棚3の間に形成される。または、栽培棚3とコンテナ2の左側の内側側面2eの間、あるいは、栽培棚3と右側の内側側面2fとの間に形成される。したがって、コンテナ2内において各栽培棚3における作業を行う場合には、開閉扉4L、4Rを開けてコンテナ2内に入り、栽培棚3を左右(コンテナ幅方向)にスライドさせて奥に進む操作を行えばよく、コンテナ奥側から戻る場合にも同様な操作を行いながら移動すればよい。また、栽培棚3をスライドすることにより、各栽培棚3にアクセスすることができ、各栽培棚3において作業等を行うことができる。
【0018】
なお、栽培に当っては各栽培棚3に植物の苗木、きのこ類の菌を植え付けた栽培床8が配列される。コンテナ2内の栽培環境、例えば温度は空調室5内の空調機器を駆動制御することによって制御することができる。また、人手により定期的に給水が行われる。
【0019】
ここで、栽培時に十分な換気を必要とする植物の場合には、例えば、図3(a)に示すように、開閉扉4L、4Rなどに開閉式の換気口11L、11Rを配置すればよい。また、採光が必要な植物の場合には、例えば、図3(b)に示すようにコンテナ2の天板2gに複数の採光窓12を配置すればよい。さらに、コンテナ2の内部環境が外部環境によって影響を受けないようにするためにはコンテナ2の外壁を断熱構造とすることが望ましい。例えば、図3(c)に示すように、アルミニウム板などの金属板13の内側に断熱材14を張り付け、その内側に、プラスチックダンボールなどの内装板15を張りつけた断熱構造の外壁16を用いることが望ましい。
【0020】
(植物、きのこ類の栽培・収穫方法)
上記の構成の栽培用コンテナ装置1は、例えば、図4に示すように用いることができる。まず、農家などの植物、きのこ類の出荷元21において、栽培用コンテナ装置1を設置して、そのコンテナ2内の各栽培棚3に、植物の苗あるいはきのこ類の菌を植え付けた栽培床8を配置し、植物あるいはきのこ類が所定の生育状態になるまで栽培する(矢印a)。
【0021】
次に、コンテナ2、あるいは栽培用コンテナ装置一式を、コンテナトラック22を用いて都心部に位置する飲食店などの出荷先23まで輸送する(矢印b)。そして、出荷先23にコンテナ2を据え付け、あるいは栽培用コンテナ装置1を据え付けて、当該コンテナ2内において植物あるいはきのこ類の栽培を継続する(矢印c)。例えば、出荷先23に隣接している駐車場24などにコンテナ2あるいは栽培用コンテナ装置一式を据え付ける。
【0022】
出荷先23では、コンテナ2内の栽培棚3で栽培されている植物あるいはきのこ類を、必要時に必要量だけ収穫して食材などとして用いることができる(点線の矢印d)。出荷先23において、コンテナ2内の植物、きのこ類の収穫が終わった場合には、収穫の終わったコンテナ2を回収し(矢印e)、この代わりに、植物あるいはきのこ類が栽培されている新たなコンテナ2を据え付ける。回収したコンテナ2は、植物あるいはきのこ類の栽培のために再び用いられる。
【符号の説明】
【0023】
1 栽培用コンテナ装置
2 コンテナ
3 栽培棚
4L、4R 開閉扉
5 空調室
6 土台
7 ガイドレール対
7a、7b ガイドレール
8 栽培床
11L、11R 換気口
12 採光窓
13 金属板
14 断熱材
15 内装板
16 外壁
21 出荷元
22 コンテナトラック
23 出荷先
24 駐車場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陸上あるいは海上輸送用のコンテナと、
コンテナ内部の天井面に沿ってコンテナ幅方向に架け渡した複数本のガイド部材と、
各ガイド部材から吊り下げられていると共に当該ガイド部材に沿ってコンテナ幅方向にスライド可能な栽培棚とを有し、
ガイド部材は、コンテナ内部の天井面において、コンテナ長さ方向に沿って所定の間隔で配列されており、
各ガイド部材にはコンテナ幅方向に複数の栽培棚が吊り下げられており、
各ガイド部材に吊り下げられている複数の栽培棚をコンテナ幅方向にスライドさせることにより、隣接する栽培棚の間、あるいはコンテナ内部の側面と栽培棚の間に、人がコンテナ長さ方向に移動可能な通路用空間が形成されることを特徴とする栽培用コンテナ装置。
【請求項2】
請求項1において、
コンテナにおける開閉扉が取り付けられている端面とは反対側の端面には、コンテナ内部の温度を調整するための空調設備を備えた空調室が取り付けられていることを特徴とする栽培用コンテナ装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
コンテナの天面には採光窓が形成されていることを特徴とする栽培用コンテナ装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項において、
コンテナの開閉扉には開閉可能な換気窓が形成されていることを特徴とする栽培用コンテナ装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちのいずれかの項に記載の栽培用コンテナ装置を用いた植物・きのこ類の栽培収穫方法であって、
植物あるいはきのこ類の出荷元において、コンテナ内の各栽培棚に、植物の苗あるいはきのこ類の菌を植え付けた栽培床を配置し、
植物あるいはきのこ類が所定の生育状態になるまで栽培し、
しかる後に、コンテナを出荷先まで移送し、
出荷先に前記コンテナを据え付けて、当該コンテナ内において植物あるいはきのこ類の栽培を継続して、コンテナ内の栽培棚で栽培されている植物あるいはきのこ類を必要時に必要量だけ収穫できるようにすることを特徴とする植物・きのこ類の栽培・収穫方法。
【請求項6】
請求項5において、
出荷先において、収穫の終わったコンテナの代わりに、植物あるいはきのこ類が栽培されている新たなコンテナを据え付け、
収穫の終わったコンテナを再び出荷元に回収して、植物あるいはきのこ類の栽培用に再利用することを特徴とする植物・きのこ類の栽培・収穫方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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