説明

栽培用多孔質原石の着色方法及び着色多孔質原石

【課題】
原石のより内部まで着色料を含浸させ、色落ちを防止することのできる栽培用多孔質原石の着色方法及び着色多孔質原石を提案するものである。
【解決手段】
栽培に用いられる軽石を着色する方法において、前記軽石の積重状態における軽石全体の固有振動数と同一若しくはそれよりも小さい振動数を範囲とする、特に前記振動数が20Hz乃至200Hzである所定振動を、絶乾状態の軽石と水性着色料との混合物に対して加えることによって、積重状態にある軽石全体が共振に近い状態となるようにし、前記軽石を振動させて着色することを特徴とする栽培用多孔質原石の着色方法及び着色多孔質原石を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内の観葉植物等の栽培に用いられる、軽石をはじめとする多孔質原石の着色方法、及び当該方法によって着色された栽培用着色多孔質原石に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイドロカルチャーブームにより、室内で観葉植物等を育てることが盛んに行なわれているが、土の代わりに用いられる多孔質原石には保水性の高いものが要求されることはもちろん、着色を施すことによりインテリアとして装飾性の高いものが求められている。
【0003】
天然軽石は、密度が小さく、多孔質であることから、吸排水性、吸湿、耐火、断熱性にすぐれているため、建築材料や園芸資材として利用されてきた。しかし、乾燥時に灰白色になることもあり、「きれい」な印象がなく、室内インテリアには適さないという欠点があった。
【0004】
すでに軽石を初めとする多孔質原石を着色する方法は提案されており、例えば園芸用の芝の育成に使用するために、シラス粒子を乾燥させた後、アクリル系合成樹脂着色剤で着色し、再び乾燥したことを特徴とする着色シラス粒子の発明が提案されている(例えば特許文献1)。又、軽石を粉砕して焼成処理を行なった後、合成樹脂に含浸させ、混練することによって着色を行なう方法が開示されている(例えば特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開平4−278024号公報
【特許文献2】特開昭60−141210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の方法のように混合機で混練する方法では、着色料が多孔質原石の間隙内部まで十分に達することができず、着色が不十分であったため、原石が摩擦によって色落ちしたり、水に浸った場合に水中に顔料が溶け出したり等の色落ちが生じるという問題点があった。
【0007】
さらに着色料と軽石等の多孔質原石を容器に入れて激しく揺する方法によっては、原石のみならず着色料まで中を舞うこととなり、原石内部の間隙部に着色料が入り込めないため、十分な着色ができない。
【0008】
又、着色料と軽石等の多孔質原石を混ぜ、真空ポンプで脱気する、あるいは煮沸した着色溶液を密閉容器に入れて常温になるのを待ち、真空状態を作ることによって軽石等の多孔質原石内部の空気と着色剤を入れ替えることによって着色する方法もあるが、設備面からして容易に採用できる方法ではない。
【0009】
そのため、着色料と前記原石を激しくかき混ぜたり、その時間を長くしたり、あるいは衝撃を与えたり、容器に入れて振ったり、等の通常考えられる程度の着色方法によっては、定着性の良い着色が得られなかった。
【0010】
そこで本発明では、原石のより内部まで着色料を含浸させ、色落ちを防止することのできる栽培用多孔質原石の着色方法及び着色多孔質原石を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、積重状態にある多孔質原石を共振状態にさせて、その振動によって効果的に着色する方法を提案するものである。具体的には以下の手段によって行なう。
【0012】
(1)栽培用多孔質原石を液体着色料によって着色する方法において、前記原石の積重状態における原石全体の固有振動数と同一若しくはそれよりも小さい振動数を範囲とする所定振動を、前記液体着色料と前記原石との混合物に対して加えることによって前記原石を着色することを特徴とする栽培用多孔質原石の着色方法を提供することにより、前記課題を解決する。
【0013】
(2)前記液体着色料が水性着色剤であることを特徴とする(1)記載の栽培用多孔質原石の着色方法を提供することにより、前記課題を解決する。
【0014】
(3)前記所定振動における振動数の範囲が20Hz乃至200Hzであることを特徴とする(1)又は(2)記載の栽培用多孔質原石の着色方法を提供することにより、前記課題を解決する。
【0015】
(4)前記原石が絶乾状態の軽石であって、(1)乃至(3)による方法によって前記軽石が着色されたことを特徴とする栽培用着色多孔質原石を提供することにより、前記課題を解決する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は積重状態の多孔質原石が持つ固有周期に着目し、前記積重状態の多孔質原石全体の固有振動数と同じ、若しくはそれよりも小さい振動数の範囲の振動を、液体着色料と前記原石の混合物に対し入力することによって、共振状態を作り出し、着色の定着性の良い栽培用多孔質原石の着色方法及び着色多孔質原石を提供できる。
【0017】
尚、共振状態とは、固体が持つ固有振動数と同じ振動数の外力がその固体に入力されると、振幅が増幅し、大きな揺れを生ずる現象である。特に、本発明においては原石が積重状態にあり、全体としての固有振動数と同じ振動数の外力、つまり振動を与えることによって多孔質原石が共振状態となり、液体着色料中を移動することとなる。一方、液体着色料は多孔質原石ほど振動しないので、効率よく原石の内部まで着色料が含浸される結果となる。
【0018】
積重状態となっている多孔質原石間には粘着力がないため、振動時に原石同士が摩擦を起こすことで減衰力が発生する。減衰力が生じると振動に対する応答は小さくなるが、固有振動数を無視して振動を与えた場合に比して格段に着色率は向上する。
【0019】
尚、前記固有振動数を超えた振動数を与えた場合には泡立ちが生じてしまい、着色の妨げとなるので、少なくとも前記固有振動数よりも小さい振動数の外力(振動)を与えることが望ましい。
【0020】
本発明により軽石の内部まで着色料を含浸させることができるため、色落ちの心配がない。さらに、水性着色剤を使用することによって、原石の多孔質部分の間隙を完全に塞ぐことはなく、軽量であり、保水性を失うこともない。
【0021】
さらに、短時間で効率の良い着色をすることができるので、いわゆる土色だけでなく、赤、青、黄、緑、他、様々な着色を可能にせしめるのである。つまりユーザーの嗜好、環境等に応じた製品を提供することができるので、スマートインテリア素材として有用な素材となり得る発明である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
多孔質原石として使用するのに最も好ましいのは軽石である。軽石の硬軟によっても着色のしやすさは異なっており、軟らかい軽石の方が、間隙が多いため着色しやすくなる。しかしながら、軟らかいと壊れやすいので、簡単に指やペンチで壊れない程度の軽石を使用することが好ましい。尚、石の硬軟と着色率との関係については実施例2で詳述する。このような適度な軟らかさを持った軽石を使用し、共振状態で着色を行なうことによって、軽石の間隙部分に着色剤が入り込み、最も定着性の良い多孔質原石の着色に繋がる。
【0023】
又、多孔質原石は乾燥させ、絶乾状態にしておくことが好ましい。着色が行なわれるのは原石の多孔質部であって、ガラス質の部分にはほとんど着色は行なわれないため、多孔質部に存在する水分をすべて乾燥させておくことによって、着色料が多孔質部に容易に浸透するためである。
【0024】
着色剤としては従来から用いられている水性塗料、油性塗料、酒精塗料、合成樹脂塗料等の着色料を使用することができ、具体的にはウレタン系水性ペイント、コンクリート着色用粒状着色剤、衣料・皮革染料、藍をはじめとする天然染料、水性顔料等を使用できるが、着色率、軽量状態、保水性、植生条件等を考慮すると、水性着色剤が好ましく、より好ましくは水性顔料、及び藍をはじめとする天然染料を用いることができる。
【0025】
まず、本発明を実施するにあたり、着色対象となる多孔質原石をボウル等の容器に入れ、その前記原石の質量と剛性から決定される固有振動数を算出し、入力する振動数を決定する。通常は20Hz乃至200Hz、好ましくは20Hz乃至100Hzの振動数を範囲とする振動を与えることとなる。原石の固有振動数を超えるほどの振動数、例えば500Hz乃至4万Hz程度の音波若しくは超音波と言われる高振動数の振動を与えると、着色液中に無数の微細な気泡が発生し、通常であればその泡が破裂する際に衝撃波が発生するが、顔料固定剤の性質から気泡がはじけ難く、着色料の浸透を妨げるからである。
【0026】
入力する振動は一定の振動数の外力(振動)を加えることのできる、既存の振動機を用いることができる。好ましくは多孔質原石と着色料の混合物が投入されている容器の下部から振動を与えるならば、下から上に振動が伝播するため効率の良い着色ができる。
【0027】
振動時間は長ければ長いほど着色率は上がるが、着色対象となる多孔質原石の量や、着色料に応じて適宜判断される。
【0028】
振動を加えた後には再び前記原石を乾燥させるが、その前後に水洗い等を行なって、多孔質部分に着色できなかった余分の着色料を洗い落とす作業を加えても良い。
【実施例1】
【0029】
本発明の実施例について図面を用いて説明する。図1は本発明を実施する一つの形態である。底部が円形状の容器10に多孔質原石として絶乾状態の軽石11を投入し、固有振動数を算出した後に着色料として水性顔料12を容器10内に投入する。そして前記固有振動数と同一若しくはそれよりも小さい振動数の振動を容器10の下部から5分間入力する。尚、振動時間は着色対象となる軽石の量や着色料によって適宜変更できるのは上述したとおりである。
【0030】
本発明の有益性を示すため、他方法と比較した表を表1に示す。多孔質原石として軽石を使用し、着色剤として木材塗装用水性顔料のブラウン系の色を使用している。上記図1に示す方法によって着色したものは表中の5に表される「振動」の欄に示してある。表中の1に記載の「浸染め」は、搬入時に20%から30%の含水比を持った軽石を、他力を作用させないで24時間含浸させておくことにより着色した場合を示す。2記載の「浸染め」は上記1「浸染め」と同様に他力を作用させないで着色する方法であるが、天日干しを行なうことによって、絶乾状態のものを使用している。尚、2乃至8はすべて絶乾状態の軽石を使用している。3記載の「真空ポンプ」は真空ポンプを用いて着色を行なった方法である。4「シェイク」では容器に着色料と軽石を入れ、上下に激しく揺動させた方法によって着色させたものである。5「振動」は上述した方法により、つまり底部が円形状の容器10に軽石11と着色料12を混合させ、下部から振動を与えたものである。なお、円形状の容器10中の軽石全体の固有振動数は63Hzであり、入力振動の振動数はそれよりも小さい振動数である40Hzの外力を加えた。6「空中落下」は約3mの位置から底部に備えてある着色料に向かって軽石を落下させ、その際の衝撃で着色を図ったものである。7「超音波」は4万Hzの振動数の超音波によって着色させた方法である。8「バイブレータ」はモールドに着色料と軽石を入れ、振動機をその内部に挿入し、振動を与えた方法によって着色したものである。尚、この軽石の固有振動数は約30Hzであって、入力した振動数は170Hzであった。
【0031】
【表1】

この図から明らかなように、5「振動」及び8「バイブレータ」の方法によって着色を図った場合、効果が高かったことが明らかである。5及び8以外の方法では振動を与えているわけではなく、衝撃力であったり、一定の振動数を持たない外力を加えている。つまり、5及び8は軽石が容器の底と接しており、固定点を持っているため、軽石が積重状態となった際に全体としての固有振動数を持ち、共振状態を作り出すことができるのである。そのため、一定の振動数を範囲とする振動によって着色することが、効果的な着色に繋がると推察できるのである。
【実施例2】
【0032】
図2は多孔質原石の硬さと着色率の関係について示したものである。尚、着色液として藍(天然染料)を用いている。縦軸は浸色率(着色率)であり、断面積に対する着色できた面積の比率である。横軸は原石の硬さを示しており、1は超やわらかい、2はやわらかい、3はややかたい、4はかたい、5は超硬いものであり、かたさの判断は発明者の感覚にゆだねられているものであるが、2はペンチで簡単につぶれる程度の硬さ、3はそれよりも力を要するもの、4はかなりの力を有するもの、5は硬くて壊れない程度のものを示している。ダイヤ型の点は振動を加えた場合のもの、四角点はただ単に含浸させたものを示している。
【0033】
図2から明らかなように、ペンチで簡単につぶれる程度の硬さを持つ軽石は非常に着色率が良い。そして振動を加えたものの方が、浸色率(着色率)が良いことは明らかである。これらの結果から、硬いよりも軟らかい、つまり多孔質部の多い原石を用いる方が、浸色率(着色率)が高いことが推察される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の着色方法を示す図
【図2】石の硬さと浸色(着色)率の関係を示す図
【符号の説明】
【0035】
10 容器
11 軽石
12 水性顔料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培用多孔質原石を液体着色料によって着色する方法において、前記原石の積重状態における原石全体の固有振動数と同一若しくはそれよりも小さい振動数を範囲とする所定振動を、前記液体着色料と前記原石との混合物に対して加えることによって前記原石を着色することを特徴とする栽培用多孔質原石の着色方法。
【請求項2】
前記液体着色料が水性着色剤であることを特徴とする請求項1記載の栽培用多孔質原石の着色方法。
【請求項3】
前記所定振動における振動数の範囲が20Hz乃至200Hzであることを特徴とする請求項1又は2記載の栽培用多孔質原石の着色方法。
【請求項4】
前記原石が絶乾状態の軽石であって、請求項1乃至3による方法によって前記軽石が着色されたことを特徴とする栽培用着色多孔質原石。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−166855(P2006−166855A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367012(P2004−367012)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(504449332)町田産業株式会社 (2)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】