説明

栽培装置、及び、栽培方法

【課題】地下部組織(根、根茎、塊茎等)を主な薬用部位とする薬用植物を栽培するための栽培装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る栽培装置は、植物が植え付けられて、栽培される栽培容器と、栽培容器が内設され、植物の生育を促進する養液が貯留可能な養液槽と、を備える。栽培容器は、栽培容器内に養液を流入させる底孔部と、底孔部を塞ぐように敷設される養液が浸透可能なシートと、シート上に敷設される礫片と、礫片上に敷設され、シートを浸透した養液を吸収して保持可能な第1の支持体と、第1の支持体上に、植物を支持するように敷設され、養液を吸収して保持可能な第2の支持体とを備え、養液は、第1の支持体の全部又はその一部が埋没する高さまで貯留される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下部組織(根、根茎、塊茎等)を主な薬用部位とする薬用植物を栽培するための栽培装置、及び、栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬用植物が生産する二次代謝物は、強い薬理作用を持つものが多く、単離精製された化合物及びそれらの化合物から半合成されたものが医薬品として利用され、さらにそれらの成分を含有する植物製品(生薬)も医薬品として利用されている。
【0003】
また、たとえばウラルカンゾウの生産する代表的な二次代謝物であるグリチルリチン酸のように、食品として大量に消費されるものや、その他、香料・化粧品あるいは殺虫剤として利用・消費されるものもある。
【0004】
しかしながら、現状では、薬用植物の供給は、その約80%以上が野生植物資源の採取に依存しており、気候変動、自然災害等の環境変化や人為的な環境かく乱等の影響でその資源は急速に減少し、特に良品に分類される薬用植物資源が激減している。現在日本における薬用植物需要の90%以上は、中国を中心とする海外に依存しており、国内自給率はわずか10%以下である。
【0005】
従って、輸出国の気象や経済・政治状況などによって影響を受け、恒常的な需要を満たすには不安定な状態であり、現に麻黄や甘草の輸入は制限されている。
【0006】
一般に薬用植物は、栽培年数が長い上、栽培が難しく費やす労力が大きいため、農業労働者の高齢化が進む中では栽培が敬遠される傾向が強い(非特許文献1)。また、その含有する薬用成分組成及び含量は、その生育環境により大きく左右され、収穫時期や乾燥・保管及び加工条件も収穫物の薬用成分含量に影響を与える。
【0007】
このような背景の中、植物種が明確で、品質が安定した薬用植物を大量かつ安定的に供給することが可能となれば、安全性の高い高品質の医薬資源の供給につながり医療への大きな貢献になると考えられる。そのためには、環境を人為的に制御できる閉鎖系栽培施設を利用し薬用植物を栽培することが有効な方法であると考えられる。
また、このような屋内栽培が可能となれば、野生薬用植物の乱獲を防ぎ、自生地の自然環境の保全にも貢献できると考えられる。
さらに、適切な出入管理、栽培管理を行うことにより、無農薬栽培や多角栽培が可能となり、薬用植物の国内生産の活性化を推進することが可能である。
【0008】
薬用植物の養液栽培システムを用いた生産は、未だ実用化された報告はない。研究室レベルでは、水耕法を用いた栽培研究が行われてきたが、地上部を利用目的とした報告が多い。一般に水耕法で栽培した植物の根は、分枝根が多くなり、主根部が肥大しないことから、農作物でも根菜類の栽培には適さないとされ、特に肥大した根を使用する例が多い薬用植物においても水耕栽培の実用化は困難であるとされてきた。根を使用目的とする薬用植物の水耕・養液栽培研究は、ミシマサイコ(非特許文献2参照)や、スペインカンゾウ(非特許文献3及び4参照)の例がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】厚生労働省ホームページ 薬用植物の利用開発等に関する検討について(中間まとめ) 平成14年3月(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/03/s0312-1.html)
【非特許文献2】南基泰ら、薬学雑誌、115巻(10号)832-842(1995)
【非特許文献3】角谷晃司ら、Natural Medicines 51(5), 447-451(1997)
【非特許文献4】角谷晃司、Bull. Pharm. Res. Technol. Inst. 12, 133-138(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献2に開示されているミシマサイコの例では、ロックウールを支持体としたシグマ式Ebb&Floodシステムでの栽培により、主要成分のサイコサポニン含量は、日本薬局方(第十五改正日本薬局方、1187、2006年)の規定値の0.35%以上を満たすものの、土耕に比べて根の生産性が十分ではなかった。
【0011】
また、非特許文献3及び4に開示されているスペインカンゾウの例では、培養苗を各種水耕栽培装置(噴霧耕、湛水耕及びロックウール耕)で栽培し、ロックウール耕で肥大した根が形成されたものの、日本薬局方規定値グリチルリチン酸2.5%以上を満たす根を得るには至っていない。
【0012】
従って、簡便かつ実用的であり、また、生薬として使用することのできる薬用植物の地下部組織を得るのに好適な新たな栽培方法が求められている。
【0013】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、地下部組織(根、根茎、塊茎等)を主な薬用部位とする薬用植物を栽培するための栽培装置、及び、栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る栽培装置は、
植物が植え付けられて、栽培される栽培容器と、
前記栽培容器が内設され、前記植物の生育を促進する養液が貯留可能な養液槽と、を備え、
前記栽培容器は、
当該栽培容器内に前記養液を流入させる底孔部と、
前記底孔部を塞ぐように敷設される前記養液が浸透可能なシートと、
前記シート上に敷設される礫片と、
前記礫片上に敷設され、前記シートを浸透した前記養液を吸収して保持可能な第1の支持体と、
前記第1の支持体上に、前記植物を支持するように敷設され、前記養液を吸収して保持可能な第2の支持体と、を備え、
前記養液は、前記第1の支持体の全部又はその一部が埋没する高さまで貯留される、
ことを特徴とする。
【0015】
前記第1の支持体は、前記栽培容器のほぼ半分の高さまで敷設される、ことも可能である。
【0016】
前記植物は、地下部組織を主な薬用部位とする薬用植物である、ことも可能である。
【0017】
上記の目的を達成するため、本発明の他の観点に係る栽培方法は、
第1の観点に係る栽培装置を用いて、植物を栽培する栽培方法であって、
前記植物を、温度:15℃〜28℃、湿度:15%〜100%、日照時間:12時間/日〜20時間/日で栽培する、ことを特徴とする。
【0018】
上記の目的を達成するため、本発明の他の観点に係る栽培装置は、
植物が植え付けられて、栽培される栽培容器と、
前記栽培容器の底部に設置され、前記植物の生育を促進する養液が貯留可能な養液槽と、を備え、
前記栽培容器は、
当該栽培容器内に前記養液を流入させる底孔部と、
当該栽培容器及び前記養液槽の底面部に敷設され、当該養液槽に貯留される前記養液を吸収する給水シートと、
前記給水シート上に前記植物を支持するように敷設され、前記給水シートが吸収する前記養液を吸収して保持可能な支持体と、を備える、
ことを特徴とする。
【0019】
上記の目的を達成するため、本発明の他の観点に係る栽培方法は、
他の観点に係る栽培装置を用いて、植物を栽培する栽培方法であって、
前記植物を、温度:15℃〜28℃、湿度:15%〜100%、日照時間:12時間/日〜20時間/日で栽培する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、地下部組織(根、根茎、塊茎等)が十分に生育し、薬用成分を蓄積した薬用植物を得ることができる。また、本発明によれば、薬用成分を蓄積した薬用植物を効率的に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態1に係る栽培装置の模式図である。
【図2】実施形態2に係る栽培装置の模式図である。
【図3】実施例1で得られたウラルカンゾウ(Gu2-3-2)養液栽培401日後の収穫物(根、細根、根茎)を示す図である。
【図4】実施例1において行ったウラルカンゾウ(Gu)鉢栽培1009日後とウラルカンゾウ(Gu2-2-1及びGu2-3-2)養液栽培401日後との最大根長及び最大根幅を比較した結果を示す図である。
【図5】実施例1において行ったウラルカンゾウ(Gu)鉢栽培1009日後とウラルカンゾウ(Gu2-2-1及びGu2-3-2)養液栽培401日後との地下部(根、細根、根茎)の乾燥重量を比較した結果を示す図である。
【図6】実施例1において行ったウラルカンゾウ(Gu)鉢栽培1009日後とウラルカンゾウ(Gu2-2-1及びGu2-3-2)養液栽培401日後との根のグリチルリチン酸含量及び株あたりの収量を比較した結果を示す図である。
【図7】実施例1において行ったウラルカンゾウ(Gu)鉢栽培1009日後とウラルカンゾウ(Gu2-2-1及びGu2-3-2)養液栽培401日後との細根のグリチルリチン酸含量及び株あたりの収量を比較した結果を示す図である。
【図8】実施例1において行ったウラルカンゾウ(Gu)鉢栽培1009日後とウラルカンゾウ(Gu2-2-1及びGu2-3-2)養液栽培401日後との根茎のグリチルリチン酸含量及び株あたりの収量を比較した結果を示す図である。
【図9】実施例2で得られたベラドンナ養液栽培147日後の収穫物(根及び細根)を示す図である。
【図10】実施例2において行ったベラドンナ鉢栽培と養液栽培との141日後の地上部(草丈、葉数、最大葉長、最大葉幅)の生育を比較した結果を示す図である。
【図11】実施例2において行ったベラドンナ鉢栽培と養液栽培との147日後の最大根長及び最大根幅を比較した結果を示す図である。
【図12】実施例2において行ったベラドンナ鉢栽培と養液栽培との146日後の葉の乾燥重量または147日後の根及び細根の乾燥重量を比較した結果を示す図である。
【図13】実施例2において行ったベラドンナ鉢栽培と養液栽培との146日後の葉または147日後の根及び細根のアルカロイド(アトロピン、スコポラミン)含量を比較した結果を示す図である。
【図14】実施例2において行ったベラドンナ鉢栽培と養液栽培146日後の葉または147日後の根及び細根のアルカロイド(アトロピン、スコポラミン)収量を比較した結果を示す図である。
【図15】実施例3で得られたセリバオウレン非形質転換体(CjWT)の鉢栽培(左)及び養液栽培(右)の栽培580日後の植物体を比較した結果を示す図である。
【図16】実施例3において行った4’OMT遺伝子導入セリバオウレン形質転換体(CjHE4’)の鉢栽培(左)及び養液栽培(右)の栽培454日後の植物体を比較した結果を示す図である。
【図17】実施例3において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT)の鉢栽培と養液栽培との579日後の地上部(草丈、果茎長、葉数、最大葉身長、最大頂小葉身長、最大側小葉身長、最大葉身幅、最大頂小葉幅、最大側小葉身幅)の生育を比較した結果を示す図である。
【図18】実施例3において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT)の鉢栽培と養液栽培との580日後の植物体各部位、及び、薬用部位である根茎の乾燥重量を比較した結果を示す図である。
【図19】実施例3において行った4’OMT遺伝子導入セリバオウレン形質転換体(CjHE4’)の鉢栽培と養液栽培との454日後の植物体各部位、及び、薬用部位である根茎の乾燥重量を比較した結果を示す図である。
【図20】実施例3において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT、栽培580日後)及び4’OMT遺伝子導入セリバオウレン形質転換体(CjHE4’、栽培454日後)の鉢栽培と養液栽培との植物体各部位のベルベリン含量を比較した結果を示す図である。
【図21】実施例3において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT、栽培580日後)及び4’OMT遺伝子導入セリバオウレン形質転換体(CjHE4’、栽培454日後)の鉢栽培と養液栽培との植物体各部位のベルベリン収量を比較した結果を示す図である。
【図22】実施例3において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT、栽培580日後)及び4’OMT遺伝子導入セリバオウレン形質転換体(CjHE4’、栽培454日後)の鉢栽培と養液栽培との薬用部位である根茎のベルベリン含量を丹波黄連のベルベリン含量の文献値と比較した結果を示す図である。
【図23】実施例3において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT、栽培580日後)及び4’OMT遺伝子導入セリバオウレン形質転換体(CjHE4’、栽培454日後)の鉢栽培と養液栽培との薬用部位である根茎のベルベリン収量を丹波黄連のベルベリン収量の文献値と比較した結果を示す図である。
【図24】実施例3において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT)の鉢栽培とココピートを用いた養液栽培との189日後の植物体各部位のベルベリン含量を比較した結果を示す図である。
【図25】実施例3において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT)の鉢栽培とココピートを用いた養液栽培との189日後の植物体各部位のベルベリン収量を比較した結果を示す図である。
【図26】実施例4において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT)及び4’OMT遺伝子導入セリバオウレン形質転換体(CjHE4’)の養液栽培を示す図である。
【図27】実施例4において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT)及び4’OMT遺伝子導入セリバオウレン形質転換体(CjHE4’)の養液栽培162日後の地上部(草丈、葉数、最大葉身長、最大頂小葉身長、最大側小葉身長、最大葉身幅、最大頂小葉身幅、最大側小葉身幅)の生育結果を示す図である。
【図28】実施例4において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT)及び4’OMT遺伝子導入セリバオウレン形質転換体(CjHE4’)の養液栽培189日後の植物体各部位、及び、薬用部位である根茎の乾燥重量の結果を示す図である。
【図29】実施例4において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT)及び4’OMT遺伝子導入セリバオウレン形質転換体(CjHE4’)の養液栽培189日後の植物体各部位のベルベリン含量の結果を示す図である。
【図30】実施例4において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT)及び4’OMT遺伝子導入セリバオウレン形質転換体(CjHE4’)の養液栽培189日後の植物体各部位のベルベリン収量の結果を示す図である。
【図31】実施例4において行ったセリバオウレン非形質転換体(CjWT)及び4’OMT遺伝子導入セリバオウレン形質転換体(CjHE4’)の薬用部位である根茎のベルベリン含量、及び、ベルベリン収量を丹波黄連のベルベリン含量及び収量の文献値と比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書の全体にわたり、単数系の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語及び科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、定義を含めて本明細書が優先する。
【0023】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0024】
本発明において、「支持体」とは、植物を栽培するために、種子または栄養繁殖体(根、塊根、根茎、塊茎、りん茎、挿し穂及び走出枝などの植物個体に分化する器官)を植え付け、植物の地下部組織を保持するために使用されるものをいう。
【0025】
「植物組織培養」とは、植物の種々の器官、組織あるいは細胞を無菌的に分離し、これを適当な条件下で無菌的に培養したものをいう。
【0026】
「培養植物体」とは、植物組織培養物のうち、植物形態学的な地上部組織「茎葉」と地下部組織「根」を有するものをいう。
また、「植物体」とは、被子植物、裸子植物、シダ植物、もしくは、コケ植物に分類される植物をいい、例えば、当該植物の培養植物体、種子、苗も含まれる。
【0027】
「養液」とは、植物の成長に必要な窒素、りん、カリ、金属などの栄養となる成分を含む液体をいう。
【0028】
「栽培容器」とは、前記支持体を入れるための容器をいう。
【0029】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る栽培装置100について、図1を参照して説明する。栽培装置100は、主として根を薬用部位とする薬用植物の栽培に適している。
【0030】
栽培装置100は、栽培容器110、シート120、礫片130、支持体140、支持体150、植物体160、養液槽170、養液180から構成される。
【0031】
栽培容器110は、例えば、上径15cm、下径10.5cm、長さ30.5cmのポリポットである。栽培容器110は、適度の強度を有する素材から形成され、後述する植物体160が植え付けられる。栽培容器110のサイズ及び形状は任意であり、植物体160の形状や大きさによって、適宜変更することもできる。
【0032】
栽培容器110の底部には、例えば、底面穴111が1個、かど穴112が4個形成されている。後述する養液180が、底面穴111及びかど穴112から浸水して、栽培容器110の内部に満たされるように、底面穴111及びかど穴112は形成される。養液180が栽培容器110の内部に浸水すればよいため、底面穴111及びかど穴112のサイズ、形状、及び、位置は任意である。
【0033】
植物体160の栽培効率を高めるために、後述する養液槽170内に、栽培容器110は複数設置される。養液槽170内に設置される栽培容器110の数は任意である。
【0034】
シート120は、例えば、鉢底ネットあるいはJKワイパー(日本製紙クレシア製)である。シート120は、通水性と耐久性とを備える任意の素材から形成され、底面穴111とかど穴112とを塞ぐように、栽培容器110の底部に敷かれる。シート120は、栽培容器110の底部のサイズ及び形状に対応するように、成形される。
【0035】
礫片130は、珪酸塩白土の礫片(ソフトシリカ社製:ミリオンA)である。礫片130は、植物体160の根腐れ及び水腐れを防止できる任意の素材から形成される。礫片130は、栽培容器110の底部に敷かれるシート120上に、均一になるように敷き詰められる。礫片130の量は、約200gであり、約0.5cm〜2cmの厚みになるよう形成される。礫片130の量は、栽培容器110のサイズや植物体160によって異なり、任意である。
【0036】
支持体140は、ハイドロボール中粒(都市園芸研究所社製)からなる。ハイドロボールとは、粘土と水とを混ぜながら、約1200℃で焼成発泡させた人工の煉石である。ハイドロボールの表面には、水を吸水して保持する気孔が無数にあり、内部には独立気泡が存在する。ハイドロボール中粒は、直径約10mm〜20mmであり、球体又は円柱体に形成されている。支持体140は、敷き詰められた礫片130上に、栽培容器110の高さの半分程度の高さまで敷き詰められる。
【0037】
支持体150は、ハイドロボール小粒(都市園芸研究所社製)からなる。ハイドロボール小粒は、直径約3mm〜5mmであり、球体又は円柱体に形成されている。支持体150は、敷き詰められた支持体140上に、栽培容器110の上部から数cm程度下まで敷き詰められる。
【0038】
支持体150として直径の短いハイドロボール小粒を利用することにより集積率が高くなるため、支持体150は、植物体160の地下部組織(根、根茎、塊茎等)を支持できて、植物体160が転倒することを防止できる。
また、支持体140として直径の長いハイドロボール中粒を利用することにより集積率が低くなるため、支持体140により、植物体160の地下部組織の生育が妨げられることがない。
【0039】
支持体140及び支持体150は、ココピート(ヤシの実を果熟して褐色化した果実の粗い繊維と粒子からなる中果皮)、パミスサンド(3mm以下の粒状の火山性軽石)、ハイドロボール、ピートモス(ミズゴケ類などの植物が堆積し、腐植化した泥炭を脱水、粉砕、及び選別したもの)、バーミキュライト(原鉱石の蛭石を800℃ほどで焼結処理し、10倍以上に膨張させたもの)等の保水性と通気性を有する素材が好適に用いられ、望ましくはパミスサンドまたはハイドロボールであるが、これらに限定されない。また、支持体140及び支持体150は、オートクレーブ等で殺菌されているか、あるいは購入後未使用であるのが望ましい。
【0040】
支持体140及び支持体150にハイドロボールを用いる場合、栽培容器110の下部は中粒、上部は小粒を使用し、栽培容器110の底面に珪酸塩白土の礫片を添加することが望ましい。
【0041】
植物体160は、種子、根、塊根、根茎、塊茎、りん茎、挿し穂、走出枝、その他の栄養繁殖体あるいは植物組織培養により増殖した培養植物体であり、望ましくは常法により殺菌した種子、栄養繁殖体あるいは培養植物体である。植物体160は、支持体150が敷き詰められた栽培容器110に植え付けられる。植物体160が培養植物体である場合、植え付け直後は、馴化のために培養植物体の地上部をプラカップで覆い、1〜2週間後、当該プラカップを取り除くこともできる。
【0042】
本発明の対象となる植物体160は、主として根を薬用部位とするウラルカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis)、スペインカンゾウ(Glycyrrhiza glabra)、ベラドンナ(Atropa belladonna)、トウキ(Angelica acutiloba)、ヨロイグサ(Angelica dahurica)、シシウド(Angelica pubescens)、ウスバサイシン(Asiasarum sieboldii)、ケイリンサイシン(Asiasarum heterotropoides var. mandshuricum)、クサスギカズラ(Asparagus cochinchinensis)、キバナオウギ(Astragalus membranaceus)、モウコオウギ(Astragalus mongholicus)、ヒナタイノコズチ(Achyranthes fauriei)、トウゴシツ(Achyranthes bidentata)、ミシマサイコ(Bupleurum falcatum)、トコン(Cephaelis ipecacuanha)、サキシマボタンヅル(Clematis chinensis)、ゲンチアナ(Gentiana lutea)、トウリンドウ(Gentiana scabra)、ハマボウフウ(Glehnia littoralis)、コロンボ(Jateorhiza columba)、テンダイウヤク(Lindera strychnifolia)、ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon)、クコ(Lycium chinense)、ナガバクコ(Lycium barbatum)、マグワ(Morus alba)、ジャノヒゲ(Ophiopogon japonicus)、シャクヤク(Paeonia lactiflora)、ボタン(Paeonia suffruticosa)、オタネニンジン(Panax ginseng)、キキョウ(Platycodon grandiflorum)、オンジ(Polygala tenuifolia)、セネガ(Polygala senega)、イトヒメハギ(Polygala tenuifolia)、クズ(Pueraria lobata)、アカヤジオウ(Rehmannia glutinosa var. purpurea)、カイケイジオウ(Rehmannia glutinosa f.hueichigensis)、ボウフウ(Saposhnikovia divaricata)、モッコウ(Saussurea lappa)、コガネバナ(Scutellaria baicalensis)、クララ(Sophora flavescens)、キカラスウリ(Trichosanthues kirilowii)、インドジャボク(Rauwolfia serpentina)、カノコソウ(Valeriana fauriei)、主として塊根を薬用部位とするツルドクダミ(Polygonum multiflorum)、主として根茎を薬用部位とするオウレン(Coptis japonica)、コプティス・キネンシス(Coptis chinensis)、コプティス・デルトイデア(Coptis deltoidea)、リョウキョウ(Alpinia officinarum)、ハナスゲ(Anemarrhena asphodeloides)、ドクカツ(Aralia cordata)、オケラ(Atractylodes japonica)、オオバナオケラ(Atractylodes ovata)、ホソバオケラ(Atractylodes lancea)、サラシナショウマ(Cimicifuga simplex)、ホクショウマ(Cimicifuga dahurica)、カンショウマ(Cimicifuga heracleifolia)、センキュウ(Cnidium officinale)、ウコン(Curcuma longa)、ガジュツ(Curcuma zedoaria)、ハマスゲ(Cyperus rotundus)、ヤマノイモ(Dioscorea japonica)、ナガイモ(Dioscorea batatas)、エゾウコギ(Eleutherococcus senticosus)、チガヤ(Imperata cylindrica)、キョウカツ(Notopterygium incisum)、コウホネ(Nuphar japonicum)、トチバニンジン(Panax japonicus)、ポドフィルム・ペルタツム(Podophyllum peltatum )、ナルコユリ(Polygonatum falcatum)、カギクルマバナルコユリ(Polygonatum kingianum)、ショウヨウダイオウ(Rheum palmatum)、ハシリドコロ(Scopolia japonica)、ショウガ(Zingiber officinale)、主として塊茎を薬用部位とするオクトリカブト(Aconitum japonicum)、ハナトリカブト(Aconitum carmichaeli)、サジオモダカ(Alisma orientale)、エンゴサク(Corydaris turtschaninovii f. yanhusuo)、オニノヤガラ(Gastrodia elata)、カラスビシャク(Pinellia ternata)、サンキライ(Smilax glabra)、主としてりん茎を薬用部位とするアミガサユリ(Fritillaria verticillata var. thunbergii)、である。
なお、その他地下部組織を薬用部位とする植物であれば特に限定されるものではない。また、主として地上部(葉、茎、花、蕾、実など)を薬用部位とする植物も使用することが出来る。
【0043】
植物体160の殺菌は、種皮を取り除いた、あるいは種皮に化学的または機械的処理を加えた種子、または適当な大きさに調製した栄養繁殖体を75%エタノールで1分間殺菌、滅菌水で1回すすぎ、次いでTween20(1滴/30ml)を含む2%次亜塩素酸ナトリウム溶液で10分間殺菌後、滅菌水で3回すすぐことによって行うことが出来るが、これに限定されない。
【0044】
植物体160が培養植物体である場合、培養植物体は、植物組織培養に用いたゲル等の培地成分を良く洗い落とし、植え付け後、1〜2週間は、透明なプラスチックカバー等で覆いながら湿度を高く保ち、栽培環境に馴化させることが望ましい。
【0045】
養液槽170は、例えば、内径32cm×42cm×20cmからなるポリプロピレン製コンテナである。養液槽170内に、複数個(例えば、6個)の栽培容器110が設置される。養液槽170のサイズ及び形状は任意である。
【0046】
養液180としては、一般的に用いられる養液栽培肥料、たとえばマツザキ1号及び2号(マツザキアグリビジネス社製)である。表1に養液180の成分及び組成を示す。なお、表1に記載される数値は代表例であり、当該数値に限定されるものではない。
【0047】
【表1】

【0048】
養液180の成分は限定されないが、アンモニア性窒素、硝酸性窒素、リン酸、加里(カリ)、苦土、マンガン、ホウ素、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、石灰を含むことができ、電気伝導度(EC)0.2 mS/cm〜2.5 mS/cm、pH 3〜pH 8に調整される。ECの一般的な推奨は、2.4 mS/cmであるが、推奨値より低い値がより好ましい。pHは、植物体160よって異なり、例えば、ウラルカンゾウでは中性〜弱アルカリ性、オウレンでは中性〜弱酸性に調整される。
【0049】
なお、養液栽培肥料の組成及び濃度は、目的とする薬用植物に応じて、あるいは薬用植物の成長過程に伴って、適宜変更することができる。例えば、植物体160の植え付け直後から1,2ヶ月程度では、養液180の濃度を10%〜25%とする。その後、植物体160の高さや葉の枚数が、2〜3倍程度になる等の植物体160の成長に合わせて、養液180の濃度を50%、75%、100%と、適宜変更することもできる。
【0050】
養液180は、底面穴111及びかど穴112からシート120を透過して、栽培容器110の内部に浸水して、支持体140がすべてあるいはその一部が浸水する程度の高さ、又は、栽培容器110の高さの半分程度の高さになるように、養液槽170内に満たされる。養液180の量は、栽培容器110のサイズ、もしくは植物体160の成長過程に応じて、適宜変更することができる。支持体140及び支持体150の内部に保持される養液180、又は、栽培容器110の内部に浸水している養液180が、植物体160の根を含む地下部組織に提供されて、植物体160が成長できれば、養液180の量は、任意であり、適宜変更することができる。具体的には、植物体160の地下部組織の長さ(高さ)が、栽培容器110の高さの半分未満の場合には、支持体140すべてが浸水する程度の養液180の量とし、栽培容器110の高さの半分以上の場合には、支持体140の一部(例えば、半分)が浸水する程度の養液180の量とすることもできる。
【0051】
栽培装置100に植え付けられた植物体160は、支持体140がすべてあるいはその一部が浸るほどまで満たされた養液180から、また、支持体150が養液180を吸水して、支持体150内部に保持された養液180から、水分及び栄養分を得ることにより成長する。植物体160が成長することにより、主な薬用成分を有する植物体160の地下部組織も成長する。植物体160の地下部組織が成長する栽培容器110の内部は、支持体140及び支持体150により充填されているため、一般的な土壌と比較して充填率が低く、植物組織が成長するための適度な空間を備える。このため、植物体160の地下部組織の成長が妨げられることはない。
【0052】
なお、栽培装置100は、養液180を循環させるためのポンプ装置(図示せず)を備えることもできる。また、栽培装置100は、養液180の量を検知する検知センサー(図示せず)を備え、養液180の減少を検知して、減少分を適宜補うこともできる。
【0053】
栽培装置100を用いて植物体160を栽培する場所、すなわち、栽培装置100の設置場所は、ビニールハウス、ガラス温室、閉鎖型温室、植物工場、恒温室、グロースチャンバー等であり、望ましくは、人工的に温度、湿度、日長、光強度などの栽培環境を制御できるガラス温室、閉鎖型温室あるいは植物工場であるが、これに限定されない。
【0054】
植物体160を栽培する場所の温度は、代表的には10℃〜35℃、好ましくは15℃〜28℃である。光条件は特に限定しないが、12時間/日〜20時間/日に調整できることが望ましい。光の強度、波長、及び、光量は、任意であり、植物体160によって、適宜条件を変更することもできる。湿度条件は特に限定しないが、好ましくは15%〜100%、より好ましくは25%〜50%である。
【0055】
栽培装置100は、日照時間を一定にするために、補光照明装置(図示せず)を備えることもできる。季節や時間帯により太陽光が少ない場合には、補光照明装置を用いて、日照時間を適宜変更することができる。また、多くの光量を必要としない植物体160の場合には、太陽光の光量をカットする遮光シート(図示せず)を使用することもできる。
【0056】
植物体160を栽培するための温度等の条件は、栽培する植物に応じて任意に変更することができる。例えば、乾燥地帯に自生する植物は、湿度条件を0%〜30%とすることができる。また、植物の成長過程に応じて、温度、湿度、日照時間、養液180の濃度等の条件を変更することもできる。
【0057】
以上のように、本実施形態では、地下部組織(根、根茎、塊茎等)が十分に生育し、薬用成分を蓄積した薬用植物を得ることができる。また、薬用成分を蓄積した薬用植物を効率的に生産することができる。
【0058】
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係る栽培装置200について、図2を参照して説明する。栽培装置200は、主として、塊根、根茎、塊茎、及び、りん茎を薬用部位とする薬用植物の栽培に適している。
【0059】
栽培装置200は、栽培容器210、養液220、給水シート230、支持体240、植物体250から構成される。
【0060】
栽培容器210は、例えば、幅65cm×長さ90cm×高さ17.5cmの発泡スチロール成型の栽培ベッド(エスペックミック社製)からなる。栽培容器210は、栽培容器210の底面部に、後述する養液220を貯蔵するための養液槽211を備える。栽培容器210と養液槽211とは少なくとも1つの穴を介して接続されており、後述する給水シート230を通じて養液槽211に蓄えられた養液220が栽培容器210の内部に浸水するように、栽培容器210及び養液槽211は成型される。
【0061】
なお、栽培容器210の形状及びサイズは任意であり、後述する植物体250の形状及びサイズによって、変更することができる。また、栽培容器210は、後述する支持体240及び植物体250を支えるための適度な強度を有し、防水性の優れる素材であれば、任意の素材で成型されうる。
【0062】
養液槽211の形状、サイズ及び位置は、任意である。また、支持体240を支えるために、養液槽211の上面を、適度な強度を有する網やシートで覆うこともできる。
【0063】
養液220は、毛細管現象により給水シート230を伝って上昇するように、養液槽211に蓄えられる。給水シート230が絶えず養液220に浸かるように、養液220の量が調整される。
【0064】
養液220の成分及び組成は、実施形態1の養液180と同一であるため、説明を省略する。なお、養液220は、毛細管現象が促進されるように、界面活性を促進する成分を含むこともできる。
【0065】
給水シート230は、吸水性の優れる素材をシート状にしたものである。給水シート230の一部は、養液槽211の底面に、養液220に浸るように敷かれる。また、給水シート230の一部は、栽培容器210の底面のほぼ全面に、支持体240と接触するように敷かれる。養液槽211に蓄えられた養液220は、毛細管現象により給水シート230を伝って上昇して、さらに、給水シート230と接触する支持体240を伝って上昇して、植物体250の地下部組織まで到達する。すなわち、給水シート230は、養液220に蓄えられた養液220を、支持体240まで届ける役割を果たす。
なお、給水シート230と養液220の液面との接触角は任意であるが、毛細管現象を促進させるために、90度未満であることが望ましい。
【0066】
支持体240は、例えば、通気性及び保水性を有するココピート、もしくは、パミスサンド(大江化学工業社製)からなる。支持体240は、栽培容器210を満たすように敷き詰められる。支持体240は、実施形態1の支持体140、もしくは、支持体150と同一のものとすることができる。支持体240は、支持体140や支持体150と同一の性質を有するため、説明を省略する。
【0067】
植物体250は、実施形態1の植物体160と同一であるため、説明を省略する。植物体250は、支持体240が敷き詰められた栽培容器210に植え付けられる。植物体250が培養植物体である場合、植え付け直後は、馴化のために培養植物体の地上部をプラカップで覆い、1〜2週間後、当該プラカップを取り除くこともできる。
【0068】
栽培装置200を用いて植物体250を栽培する場所、すなわち、栽培装置200の設置場所は、実施形態1と同様である。また、植物体250を栽培するための条件も同様である。
【0069】
栽培装置200に植え付けられた植物体250は、支持体240が給水シート230に保持される養液220を吸水して、支持体240内部に保持された養液220から、水分及び栄養分を得ることにより成長する。植物体250が成長することにより、主な薬用成分を有する植物体250の地下部組織も成長する。
【0070】
栽培装置200には、植物体250に対して養液220を供給するために、養液220を循環させるためのポンプ等の機械の必要性はない。このため、植物体250による養液220の消費あるいは栽培場所での蒸発による養液220の減少を補うだけで良く、栽培装置200は、簡便であり、安価に設計される。
【0071】
なお、実施形態1に示すように、栽培容器210の底面に数カ所の穴が形成された栽培容器210を、養液220で満たされた養液槽170に設置することもできる。ただし、本実施形態では、養液220に浸る部分は、栽培容器210内の約1%〜70%であることが好ましく、より好ましくは1%〜10%である。
【0072】
以上のように、本実施形態では、地下部組織(根、根茎、塊茎等)が十分に生育し、薬用成分を蓄積した薬用植物を得ることができる。また、薬用成分を蓄積した薬用植物を効率的に生産することができる。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。この実施例は、本発明を限定するものではない。実施例で使用した、材料、試薬などは、他に特定のない限り、商業的な供給源から入手可能である。
【0074】
(実施例1:ウラルカンゾウの栽培)
実施形態1に係る栽培装置100を用いて、主として根を薬用部位とするウラルカンゾウを栽培した実施例について、以下に説明する。
【0075】
(材料)
以下の方法によって得たウラルカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis Fisher)の培養植物体を材料に養液栽培を行った。シュート培養として継代維持中のウラルカンゾウの2クローン(以下、「Gu」、「GuH」という)のうち、再生植物体の鉢栽培1年生株での生育がより良好で、根及び細根中のグリチルリチン酸がより高含量であったGuを材料に、ストロン(走出枝)様組織の誘導による苗について、6%ショ糖とナフタレン酢酸0.01mg/lとを含むMurashge & Skoogの液体培地、20℃、及び、暗所の条件下、増殖を行った(特開2005-137291参照)。当該苗の増殖後、増殖効率の良い3サブクローン(以下、「Gu2-2-1」、「Gu2-3-2」、「Gu2-5-2」という)を得た。これらのストロン様培養物より、節切片あるいは頂芽切片を調製して、植物体再生培地(ナフタレン酢酸0.1mg/l、カイネチン 0.5mg/l、1%ショ糖、及び、グルタミン 10mg/lを含むWoody Plant液体培地、培養中の支持体としてフロリアライトを使用)、20℃、14時間照明下で培養し、得られた培養植物体を、養液栽培の材料とした。養液栽培の材料であるウラルカンゾウ培養植物体を、栽培装置100に植え付けた。なお、礫片130はミリオンA(ソフトシリカ社製)、支持体140はハイドロボール中粒(都市園芸研究所社製)、支持体150はハイドロボール小粒(都市園芸研究所社製)とした。植え付け直後は、馴化のために苗の地上部をプラカップで覆い、1〜2週間後、プラカップを取り除いた。
【0076】
(養液の調製)
養液肥料は、表1に示されるマツザキ1号及び2号(マツザキアグリビジネス社製)を用いた。養液は、説明書により推奨される濃度(水8Lに対し、マツザキ1号6g、マツザキ2号4g)より、マツザキ1号及び2号の量を減らした25%濃度(水8Lに対し、マツザキ1号1.5g、マツザキ2号1g)に調製して使用した。このときの養液槽内の養液の電気伝導度(EC)は1.332 mS/cm、pH 7.39であった。栽培301日後には、養液濃度を説明書が推奨する濃度の50%濃度に変更した。このときの養液槽内の養液の電気伝導度(EC)は1.128 mS/cm、pH 7.54であった。
【0077】
(栽培環境条件)
ウラルカンゾウが植え付けられた栽培装置100は閉鎖温室内に設置され、当該室内の環境条件は、室温20℃、相対湿度60%、補光照明を用いて16時間照明/日とした。栽培195日後では、室温20℃、相対湿度50%、補光照明を用いて14時間照明/日とした。
【0078】
(比較対照植物)
上径15cm(下径10.5cm)×長さ30.5cmのポリポット(底面穴1個、かど穴4個)の底に鉢底ネットを敷き、調製した培養土[ベラボン(フジック社製):赤玉土:クレハ培養土:堆肥=5:3:1:1]を入れ、ウラルカンゾウ培養植物体(Gu)を植出し、閉鎖温室、室温20℃、相対湿度60%、16時間照明/日(補光照明を使用)で栽培した。以下、本実施例では当該栽培を鉢栽培という。栽培803日後に室温20℃、相対湿度50%、補光照明を用い14時間照明/日とした。液肥としてハイポネックス原液6-10-5(ハイポネックスジャパン社製)1000倍液を週1回散布した。
【0079】
(生育調査と収穫)
養液栽培のGu2-2-1及びGu2-3-2は、栽培401日後に収穫し、最大根長、最大根幅を測定後、根、根茎、細根(径1mm以下の根)に分けて新鮮重量を測定した。図3は、Gu2-3-2養液栽培401日後の収穫物(根、細根、根茎)である。また、50℃で数日間温風乾燥後、乾燥重量を測定した。同様に、鉢栽培のGuは、栽培1009日後に収穫し、生育調査及び新鮮重量、乾燥重量の測定を行った。反復数は3個体とした。
【0080】
図4は、Gu鉢栽培1009日後とGu2-2-1及びGu2-3-2養液栽培401日後との最大根長及び最大根幅を比較した結果である。図中のエラーバーは、当該測定結果の標準偏差を示すものである。なお、以降の図において示されるエラーバーも同様である。養液栽培401日後のGu2-2-1及びGu2-3-2は、鉢栽培1009日後のGuに比べて最大根長、最大根幅とも大きく、特に最大根幅はそれぞれGuの1.6倍(Gu2-2-1)及び1.9倍(Gu2-3-2)であった。
【0081】
図5は、Gu鉢栽培1009日後とGu2-2-1及びGu2-3-2養液栽培401日後との地下部(根、細根、根茎)の乾燥重量を比較した結果である。地下部の収量(乾燥重量)もGuに比べて、根はそれぞれ1.5倍(Gu2-2-1)及び2.5倍(Gu2-3-2)、根茎は3.2倍(Gu2-2-1)及び13.5倍(Gu2-3-2)であった。なお、Gu2-2-1及びGu2-3-2は、ともにGuのサブクローン化されたものであり、遺伝的背景はGuである。
【0082】
(グリチルリチン酸分析)
次に、Gu鉢栽培1009日後とGu2-2-1及びGu2-3-2養液栽培401日後との地下部(根、細根、根茎)に含まれるグリチルリチン酸を定量した。グリチルリチン酸の定量は、日本薬局方、甘草中のグリチルリチン酸定量法を参考に行った。乾燥後の植物試料を粉末にし、その約100mgを精密に量り取って15ml容のコニカルチューブに入れ、50%エタノール7mlを正確に加え、超音波洗浄機で30分間、ボルテックスミキサーで1分間抽出した。遠心分離(4,500rpm、3分間)後、上清300μLをウルトラフリーMC(日本ミリポア社製)に入れ、15,000rpm、20℃で1分間遠心濾過し、HPLC(High Performance Liquid Chromatography)分析試料とした。
【0083】
(グリチルリチン酸標準溶液)
生薬試験用のグリチルリチン酸標準品(和光純薬工業製)を精密に5mg量りとって20ml容のメスフラスコにいれ、50%エタノールで正確に20mlとすることにより、グリチルリチン酸標準溶液(0.25mg/ml)とした。この標準溶液を50%エタノールで順次2倍に希釈し、検量線作成用標準液とした。
【0084】
(HPLC条件)
装置は、Waters Alliance PDA HPLC system(セパレーションモジュール:2795、フォトダイオードアレイ検出器:2996)を用い、分析条件は、カラム TSKgel ODS-100V(TOSOH、径4.6mm×250mm、5μm)、移動相 アセトニトリル(溶媒A)-2%酢酸(溶媒B)=2:3、流速:1.0 ml/分、カラム温度 20℃、検出 UV 254 nm(定量)、200-400 nm(定性)とした。
【0085】
(グリチルリチン酸含量及び収量)
図6は、Gu鉢栽培1009日後とGu2-2-1及びGu2-3-2養液栽培401日後との根のグリチルリチン酸含量及び株あたりの収量を比較した結果である。図7は、Gu鉢栽培1009日後とGu2-2-1及びGu2-3-2養液栽培401日後との細根のグリチルリチン酸含量及び株あたりの収量を比較した結果である。図8は、Gu鉢栽培1009日後とGu2-2-1及びGu2-3-2養液栽培401日後との根茎のグリチルリチン酸含量及び株あたりの収量を比較した結果である。
【0086】
図6〜図8に示すように、養液栽培401日後のGu2-2-1及びGu2-3-2は、根及び根茎において、鉢栽培1009日のGuよりも高いグリチルリチン酸含量を示し、Gu2-2-1及びGu2-3-2の1mm以上の根は、約3%のグリチルリチン酸含量であった。これは日本薬局方が規定するグリチルリチン酸含量2.5%以上を満たしており、わずか401日間の栽培で、生薬としての使用に値する根が得られることを示している。Gu2-2-1及びGu2-3-2の根の株あたりのグリチルリチン酸収量は、それぞれGuの1.9倍(Gu2-2-1)及び3.1倍(Gu2-3-2)であった。
【0087】
以上説明したように、本発明に係る栽培装置100及び栽培方法により、栽培期間が半分以下のわずか400日で、鉢栽培1009日の根よりも肥大し、収量の多い根及び根茎が得られた。また、本発明は、グリチルリチン酸生産方法としても優れている。さらに、本発明では地上部の生育も非常に良好であることから、通常は入手が困難なウラルカンゾウ地上部(葉、茎など)も生産が可能である。ウラルカンゾウ地上部は、食品や化粧品分野において機能性素材として注目されているフラボノイド類が豊富であり、ウラルカンゾウ地上部の新たな用途開発も可能である。
【0088】
(実施例2:ベラドンナの栽培)
次に、実施形態1に係る栽培装置100を用いて、主として根及び葉を薬用部位とするベラドンナを栽培した実施例について、以下に説明する。
【0089】
(材料)
3%ショ糖、Murashige & Skoog固形培地で継代維持中のベラドンナ(Atropa belladonna L.)の培養植物体を材料に養液栽培を行った。当該ベラドンナ培養植物体を、栽培装置100に植え付けて栽培した。なお、礫片130はミリオンA(ソフトシリカ社製)、支持体140はハイドロボール中粒(都市園芸研究所社製)、支持体150はハイドロボール小粒(都市園芸研究所社製)とした。植え付け直後は、馴化のために苗の地上部をプラカップで覆い、1〜2週間後、プラカップを取り除いた。
【0090】
(栽培環境条件)
ベラドンナ培養植物体が植え付けられた栽培装置100は閉鎖温室内に設置され、当該室内の環境条件は、室温20℃、相対湿度50%、補光照明を用い14時間照明/日とした。養液肥料は、実施例1と同様に、表1に示されるマツザキ1号及び2号(マツザキアグリビジネス社製)を用いた。養液は、植え付け後は推奨濃度の25%濃度として、栽培32日後に推奨濃度の50%濃度に変更した。
【0091】
(比較対照植物)
素焼きの植木鉢5号に調製した培養土(赤玉土:クレハ培養土:堆肥=3:1:1)を入れ、ベラドンナ培養植物体を植出し、閉鎖温室、室温20℃、相対湿度50%、14時間照明/日(補光照明使用)で栽培した。以下、本実施例では当該栽培を鉢栽培という。液肥としてハイポネックス原液6-10-5(ハイポネックスジャパン社製)1000倍液を週1回散布した。
【0092】
(生育調査と収穫)
養液栽培、鉢栽培ともに栽培141日後に地上部の生育調査を行った。また、栽培146日後に葉の収穫、147日後に地下部の収穫を行い、根と細根(径1mm以下)に分離後、それぞれ新鮮重量を測定した。葉、根及び細根は、凍結乾燥後、乾燥重量を測定した。図9は、ベラドンナ養液栽培147日後の収穫物(根及び細根)である。
【0093】
図10は、ベラドンナ鉢栽培と養液栽培との141日後の地上部(草丈、葉数、最大葉長、最大葉幅)の生育を比較した結果である。図11は、ベラドンナ鉢栽培と養液栽培との147日後の最大根長及び最大根幅を比較した結果である。図12は、ベラドンナ鉢栽培と養液栽培との146日後の葉の乾燥重量または147日後の根及び細根の乾燥重量を比較した結果である。
【0094】
図10に示すように、栽培141日後の地上部の生育(草丈、葉数、最大葉長、最大葉幅)は、いずれも養液栽培の方が優れており、鉢栽培に比べて草丈は4倍、葉数は6.5倍、最大葉長は1.5倍、最大葉幅は1.4倍であった。
【0095】
(根の生育及び葉、根、細根の収量)
図11に示すように、栽培147日後の根の生育は、養液栽培の方が優れており、鉢栽培に比べて、最大根長は1.7倍、最大根幅は1.9倍であった。また、図12に示すように、葉、根及び細根の収量(乾燥重量)も養液栽培の方が優れており、鉢栽培に比べて葉は6.5倍、根は10.8倍、細根は4.3倍であった。
【0096】
(アルカロイドの抽出)
次に、146日後または147日後の鉢栽培と養液栽培とから得られたベラドンナの葉及び地下部(根、細根)に含まれるアルカロイドを抽出した。ベラドンナの主要な薬用成分としては、副交感神経遮断作用を示すアトロピン、スコポラミン等のアルカロイドが知られており、主アルカロイドはアトロピンである。また、日本薬局方ではベラドンナの根(ベラドンナコン)が生薬として収載されているが、英国薬局方では葉(ベラドンナヨウ)も生薬として収載されており、葉、根の両方が薬用に供される。
【0097】
アルカロイドの抽出及び精製は、日本ウォーターズ社製固相抽出カラムOasisMCX1cc/30mgを用いた。乾燥後の植物試料を粉末にし、その約100mgを精密に量り取って15ml容のコニカルチューブに入れ、5%酢酸溶液3mlを正確に加え、超音波洗浄機で30分間、ボルテックスミキサーで1分間抽出した。OasisMCX1cc/30mgカラムにメタノール1mlを入れて洗浄後、ミリQ水1mlを入れて洗浄した。5%酢酸抽出液を遠心分離(4,500rpm、3分間)後、上清1mLを正確に量りとり、OasisMCXカラムに負荷した。マニホールドを用いながらOasisMCXカラムにメタノール1mlを入れ洗浄し、さらに2%ギ酸溶液1mLで洗浄した。その後、OasisMCXカラムにアンモニア水/メタノール混液(5:95)1mLを入れ、アルカロイドを溶出した。溶媒を留去後、メタノール500μlに再溶解してウルトラフリーMC(日本ミリポア社製)に入れ、15,000rpm、20℃で1分間遠心濾過し、HPLC分析試料とした。
【0098】
(HPLC用標準溶液)
生薬試験用のアトロピン硫酸塩水和物(和光純薬工業製)、生薬試験用のスコポラミン臭化水素酸塩水和物(和光純薬工業製)それぞれ約1mgを精密に量り取り、メタノール1mlを正確に加え溶解した。それぞれ0.5mlを正確に量り取り、良く混和し、アルカロイド標準溶液とした。この標準溶液をメタノールで順次2倍に希釈し、検量線作成用標準液とした。
【0099】
(HPLC条件)
装置は、Waters Alliance PDA HPLC system(セパレーションモジュール:2795、フォトダイオードアレイ検出器:2996)を用い、分析条件は、カラム TSKgel ODS-100V(TOSOH、径4.6mm×250mm、5μm)、移動相 アセトニトリル(溶媒A)-10mM 1-ヘプタンスルホンサンナトリウム(pH 3.5)(溶媒B)=1:3、流速:1.0 ml/分、カラム温度 40℃、検出 UV 210 nm(定量)、200-400 nm(定性)とした。
【0100】
(アルカロイド含量及び収量)
図13は、ベラドンナ鉢栽培と養液栽培との146日後の葉のアルカロイド含量または147日後の根及び細根のアルカロイド含量を比較した結果である。図14は、ベラドンナ鉢栽培と養液栽培146日後の葉、または147日後の根及び細根のアルカロイド収量を比較した結果である。
【0101】
図13に示すように、養液栽培の根のアトロピン含量は、鉢栽培の60%であったが、葉及び細根においてはほぼ同等の含量であった。また、養液栽培は、鉢栽培に比べて、葉、根及び細根の収量が顕著に多いことから、図14に示すように、アルカロイド収量が高くなり、それぞれのアトロピン収量は、鉢栽培に比べて葉では6.4倍、根では7.1倍、細根では5.0倍であった。
【0102】
以上説明したように、本発明に係る栽培装置100及び栽培方法により、ベラドンナの地下部の生育が促進されるため、生薬ベラドンナヨウ、ベラドンナコンを生産する方法として、また、アトロピンを生産する方法として優れていることが示された。
【0103】
(実施例3:セリバオウレンの養液栽培)
次に、実施形態2に係る栽培装置200を用いて、主として根茎を薬用部位とするセリバオウレンを栽培した実施例について、以下に説明する。
【0104】
(材料)
3%ショ糖、10mg/lグルタミン、1mg/lナフタレン酢酸、2mg/lカイネチン含有Woody Plant固形培地(WPGN1K2培地)、20℃、暗所で培養中のセリバオウレン[Coptis japonica Makino var.dissecta(Yatabe)Nakai]不定胚より再生した培養植物体(非形質転換体:CjWT)を材料として養液栽培を行った。また、WPGN1K2培地、20℃、暗所で継代維持中の3’hydroxy-N-methylcoclaurine 4’O-methyltransferase(以下、「4’OMT」という)遺伝子(主薬用成分ベルベリン生合成鍵酵素遺伝子の1種)を導入した不定胚より再生した培養植物体(4’OMT遺伝子導入体:CjHE4’)を材料として養液栽培を行った。
セリバオウレン培養植物体(以下「CjWT」、「CjHE4’」という)は3%ショ糖、10mg/lグルタミン含有Woody Plant固形培地、20℃、14時間照明下で培養し育成したものを用いた。養液栽培の材料であるセリバオウレン培養植物体を、支持体240がココピートである栽培装置200に植え付けた。植え付け直後は、馴化のために苗の地上部をプラカップで覆い、1〜2週間後、プラカップを取り除いた。
【0105】
(栽培条件)
セリバオウレンが植え付けられた栽培装置200は閉鎖温室内に設置され、当該室内の環境条件は、室温20℃、相対湿度60%、補光照明を用いて16時間照明/日とした。CjWTについては栽培333日後、CjHE4’については208日後に、環境条件を室温20℃、相対湿度50%、補光照明を用いて14時間照明/日に変更した。
【0106】
養液肥料は、実施例1と同様に、表1に示されるマツザキ1号及び2号(マツザキアグリビジネス社製)を用いた。養液は、植え付け後は推奨濃度の25%濃度として、CjWTについては栽培389日後、CjHE4’については栽培264日後に、推奨濃度の50%濃度に変更した。
【0107】
(比較対照植物)
素焼きの植木鉢3号に調製した培養土(赤玉土:クレハ培養土:堆肥=3:1:1)を入れ、セリバオウレン培養植物体(CjWT及びCjHE4’)を植出し、閉鎖温室、室温20℃、相対湿度60%、補光照明を用いて16時間照明/日で栽培した。養液栽培と同様に、CjWTついては栽培333日後、CjHE4’ついては208日後に相対湿度50%、14時間照明/日に環境条件を変更した。液肥としてハイポネックス原液6-10-5(ハイポネックスジャパン社製)1000倍液を週1回散布した。
【0108】
(生育調査と収穫)
CjWTでは、栽培579日後に地上部の生育調査を行った。また、CjWTは栽培580日後に、CjHE4’は栽培454日後に植物体の収穫を行い、各部位(葉身、葉柄、茎、根茎、根、果茎、実及び花)に分割し、それぞれ新鮮重量を測定した。葉身、葉柄、茎、根茎及び根は、凍結乾燥後、乾燥重量を測定した。図15は、CjWTの鉢栽培(左)及び養液栽培(右)の栽培580日後の植物体を比較した結果である。図16は、CjHE4’の鉢栽培(左)及び養液栽培(右)の栽培454日後の植物体を比較した結果である。
【0109】
図15及び図16に示すように、養液栽培により得られたセリバオウレンは、鉢栽培のセリバオウレンと比較して、地上部及び地下部ともに生育が良好であった。
【0110】
(CjWT地上部の生育)
CjWTの鉢栽培と養液栽培との579日後の地上部(草丈、果茎長、葉数、最大葉身長、最大頂小葉身長、最大側小葉身長、最大葉身幅、最大頂小葉幅、最大側小葉身幅)について、生育の比較を行った。図17は、CjWTの鉢栽培と養液栽培との579日後の地上部の生育を比較した結果である。
【0111】
図17に示すように、CjWTを579日間、鉢栽培または養液栽培したときの地上部の生育は、測定したすべての項目について養液栽培が勝っており、特に薬用部位である根茎の収量増加に寄与する影響が大きいとされる養液栽培の葉数は、鉢栽培の2.2倍であった。
【0112】
(ベルベリンの抽出)
次に、鉢栽培と養液栽培とから得られたセリバオウレンの地上部及び地下部に含まれるベルベリンを抽出した。「道衛研所報第44集、1-6、1994」に記載される方法に基づいて、ベルベリンの抽出及び精製を行った。乾燥後の植物試料を粉末にし、その約20mgを精密に量り取って15ml容のコニカルチューブに入れ、メタノール・酢酸混液(99:1)5mlを正確に加え、超音波洗浄機で30分間、ボルテックスミキサーで1分間抽出した。遠心分離(4,500rpm、3分間)後、上清500μLをウルトラフリーMC(日本ミリポア社製)に入れ、15,000rpm、20℃で1分間遠心濾過し、HPLC分析試料とした。
【0113】
(HPLC条件)
装置は、Waters Alliance PDA HPLC system(セパレーションモジュール:2795、フォトダイオードアレイ検出器:2996)を用い、分析条件は、カラムTSKgel ODS-100V(TOSOH、径4.6mm×250mm、5μm)、移動相、アセトニトリル(溶媒A)-10 mM 1-ヘプタンスルホン酸ナトリウム(pH 3.5)(溶媒B)、溶媒グラジェント:0-15分 27-29% 溶媒A、15-25分 29-39% 溶媒A、25-31分 39-51% 溶媒A、31-34分 51% 溶媒A;流速:0.8 ml/分;カラム温度:40℃;検出:UV 284 nm(定量)、200-400 nm(定性)とした。
【0114】
(CjWT及びCjHE4’の各部位の乾燥重量)
図18は、CjWTの鉢栽培と養液栽培との580日後の植物体各部位、及び、薬用部位である根茎の乾燥重量を比較した結果である。図19は、CjHE4’の鉢栽培と養液栽培との454日後の植物体各部位、及び、薬用部位である根茎の乾燥重量を比較した結果である。
【0115】
図18及び図19に示すように、栽培580日後のCjWT及び栽培454日後のCjHE4’の植物体各部位の乾燥重量は、いずれも養液栽培が勝っており、特に養液栽培での薬用部位である根茎の収量(乾燥重量)は、それぞれ鉢栽培の4.4倍(CjWT)及び6.7倍(CjHE4’)であった。
【0116】
(各部位のベルベリン含量及び収量)
図20は、CjWTの栽培580日後、及び、CjHE4’の栽培454日後の鉢栽培と養液栽培との植物体各部位のベルベリン含量を比較した結果である。図21は、CjWTは栽培580日後、及び、CjHE4’の栽培454日後の鉢栽培と養液栽培との植物体各部位のベルベリン収量を比較した結果である。
【0117】
図20に示すように、CjHE4’の根茎ベルベリン含量を除き、CjWT及びCjHE4’ともに、鉢栽培と養液栽培でのベルベリン含量の差は認められなかった。従って、図21に示すように、CjWT及びCjHE4’のいずれの部位においても養液栽培の方が、ベルベリンの収量が顕著に高かった。
【0118】
(根茎のベルベリン含量及び収量)
図22は、CjWTの栽培580日後、及び、CjHE4’の栽培454日後の鉢栽培と養液栽培との薬用部位である根茎のベルベリン含量を丹波黄連のベルベリン含量の文献値と比較した結果である。図23は、CjWTの栽培580日後、及び、CjHE4’の栽培454日後の鉢栽培と養液栽培との薬用部位である根茎のベルベリン収量を丹波黄連のベルベリン収量の文献値と比較した結果である。図22及び図23において、CjWT及びCjHE4’鉢栽培及び養液栽培時の根茎のベルベリン含量及び収量を、かつての国内最大のオウレン生産地丹波地方で生産された生薬「黄連(基原:セリバオウレン、一般に丹波黄連とよばれる)」の文献値(薬用植物栽培と品質評価 Part1、厚生省薬務局監修、薬事日報社参照)と比較した。
【0119】
図22に示すように、CjWT580日間、CjHE4’454日間の養液栽培の根茎は、畑作5年の丹波黄連のベルベリン含量約7%には達しないものの、日本薬局方が定める規格値「塩化ベルベリンとして4.2%以上(ベルベリンとして3.8%以上)」を達成した。また、図23に示すように、CjWTでは約1/3の期間で丹波黄連5年の55%のベルベリン収量が得られ、CjHE4’では約1/4の栽培期間で丹波黄連5年の約1/3のベルベリン収量が得られた。
【0120】
次に、CjWTの鉢栽培と養液栽培との189日後の植物体各部位(葉、茎、根茎、根)のベルベリンの乾燥重量及び収量を比較した結果を示す。図24は、CjWTの鉢栽培とココピートを用いた養液栽培との189日後の植物体各部位のベルベリン含量を比較した結果である。図25は、CjWTの鉢栽培とココピートを用いた養液栽培との189日後の植物体各部位のベルベリン収量を比較した結果である。
【0121】
図25に示すように、鉢栽培に比べて養液栽培では、ベルベリンの収量が顕著に高かった。
【0122】
以上説明したように、本発明に係る栽培装置200及び栽培方法により、セリバオウレンのベルベリン生合成能に影響を及ぼすことなく、セリバオウレンの地上部及び地下部の生育が促進されるため、栽培期間の短縮、また、ベルベリン収量の増加が望める方法として優れていることが示された。
【0123】
(実施例4:セリバオウレンの養液栽培)
次に、実施形態2に係る栽培装置200を用いて、主として根茎を薬用部位とするセリバオウレンを栽培した実施例について、以下に説明する。
【0124】
(材料)
実施例3と同様の不定胚より再生した培養植物体(非形質転換体:CjWT及び4’OMT遺伝子導入体:CjHE4’)を材料として養液栽培を行った。図26は、本実施例において行ったCjWT及びCjHE4’の養液栽培を示す図である。図26に示すように、本実施例では、養液栽培の材料であるセリバオウレン培養植物体を、支持体240がパミスサンドである栽培装置200に植え付けた。植え付け直後は、馴化のために苗の地上部をプラカップで覆い、1〜2週間後、プラカップを取り除いた。
【0125】
(栽培条件)
セリバオウレンが植え付けられた栽培装置200は、閉鎖温室内に設置され、当該室内の環境条件は、室温20℃、相対湿度50%、補光照明を用いて14時間照明/日とした。
【0126】
養液肥料は、実施例1と同様に、表1に示されるマツザキ1号及び2号(マツザキアグリビジネス社製)を用いた。養液は、植え付け後は推奨濃度の25%濃度として、養液栽培57日後に、推奨濃度の50%濃度に変更し、さらに、養液栽培146日後に、推奨濃度、すなわち、100%濃度に変更した。
【0127】
(CjWT及びCjHE4’の地上部の生育)
CjWT及びCjHE4’について、養液栽培162日後に地上部(草丈、果茎長、葉数、最大葉身長、最大頂小葉身長、最大側小葉身長、最大葉身幅、最大頂小葉身幅、最大側小葉身幅)の生育調査を行った。図27は、CjWT及びCjHE4’の養液栽培162日後の地上部の生育結果を示す図である。
【0128】
図27に示すように、CjWT及びCjHE4’のいずれも良好に生育した。本実施例では、CjWT及びCjHE4’の両者について、生育結果の差は認められなかった。
【0129】
(CjWT及びCjHE4’の各部位の乾燥重量)
CjWT及びCjHE4’について、養液栽培189日後に植物体の収穫を行い、各部位(葉身、葉柄、茎、根茎、根)に分割し、それぞれ新鮮重量を測定した。各部位について、凍結乾燥後、乾燥重量を測定した。図28は、CjWT及びCjHE4’の養液栽培189日の植物体各部位、及び、薬用部位である根茎の乾燥重量の結果である。
【0130】
図28に示すように、養液栽培189日後のCjWT及びCjHE4’の植物体各部位及び薬用部位である根茎の収量(乾燥重量)はほぼ同等であった。
【0131】
(ベルベリンの抽出)
次に、CjWT及びCjHE4’の養液栽培から得られたセリバオウレンの地上部及び地下部に含まれるベルベリンを抽出した。ベルベリンの抽出及び精製方法は、実施例3と同様である。
【0132】
(各部位のベルベリン含量及び収量)
図29は、CjWT及びCjHE4の養液栽培189日後の植物体各部位のベルベリン含量の結果である。図30は、CjWT及びCjHE4の養液栽培189日後の植物体各部位のベルベリン収量の結果である。
【0133】
図29に示すように、養液栽培189日後のCjWT及びCjHE4’の植物体各部位のベルベリン含量は、実施例3におけるココピートを支持体とした養液栽培189日間のCjWTの各部位のベルベリン含量(図24参照)よりも高く、特に、茎、根茎は、日本薬局方が定める規格値「塩化ベルベリンとして4.2%以上(ベルベリンとして3.8%以上)」以上の値であった。また、図30に示すように、ベルベリン収量は、CjWT及びCjHE4’ともに根が最も高かった。
【0134】
(根茎のベルベリン含量及び収量)
図31は、CjWT及びCjHE4’の薬用部位である根茎のベルベリン含量、及び、ベルベリン収量の結果である。図31においては、かつての国内最大のオウレン生産地丹波地方で生産された生薬「黄連(基原:セリバオウレン、一般に丹波黄連とよばれる)」の文献値(薬用植物栽培と品質評価 Part1、厚生省薬務局監修、薬事日報社参照)とも比較した。
【0135】
図31に示すように、本実施例のパミスサンドを支持体とする養液栽培では、わずか189日の栽培期間で、CjWT及びCjHE4’の根茎は、日本薬局方が定める規格値「塩化ベルベリンとして4.2%以上(ベルベリンとして3.8%以上)」を達成し、特にCjHE4’のベルベリン含量は、畑作5年の丹波黄連のベルベリン含量約7%に匹敵した。
【0136】
セリバオウレンは、初期生育が遅いことが知られている。パミスサンドを支持体とする本実施例における養液栽培では、図24及び図25に示されるココピートを支持体とする実施例3における養液栽培189日のときのベルベリン含量及び収量と比較して、遥かに高い値を示している。図29に示すように、本実施例では、通常は生薬としない根においても、ベルベリン含量1.7%以上を達成し、根の利用方法を拡大する可能性がある。
【0137】
以上説明したように、本発明に係る栽培装置200及び栽培方法により、セリバオウレンのベルベリン生合成能に影響を及ぼすことなく、セリバオウレンの地上部及び地下部の生育が促進されるため、栽培期間の短縮、また、ベルベリン収量の増加が望める方法として優れていることが示された。
【符号の説明】
【0138】
100 栽培装置
110 栽培容器
111 底面穴
112 かど穴
120 シート
130 礫片
140、150 支持体
160 植物体
170 養液槽
180 養液
200 栽培装置
210 栽培容器
211 養液槽
220 養液
230 給水シート
240 支持体
250 植物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物が植え付けられて、栽培される栽培容器と、
前記栽培容器が内設され、前記植物の生育を促進する養液が貯留可能な養液槽と、を備え、
前記栽培容器は、
当該栽培容器内に前記養液を流入させる底孔部と、
前記底孔部を塞ぐように敷設される前記養液が浸透可能なシートと、
前記シート上に敷設される礫片と、
前記礫片上に敷設され、前記シートを浸透した前記養液を吸収して保持可能な第1の支持体と、
前記第1の支持体上に、前記植物を支持するように敷設され、前記養液を吸収して保持可能な第2の支持体と、を備え、
前記養液は、前記第1の支持体の全部又はその一部が埋没する高さまで貯留される、
ことを特徴とする栽培装置。
【請求項2】
前記第1の支持体は、前記栽培容器のほぼ半分の高さまで敷設される、
ことを特徴とする請求項1に記載の栽培装置。
【請求項3】
前記植物は、地下部組織を主な薬用部位とする薬用植物である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の栽培装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の栽培装置を用いて、植物を栽培する栽培方法であって、
前記植物を、温度:15℃〜28℃、湿度:15%〜100%、日照時間:12時間/日〜20時間/日で栽培する、
ことを特徴とする栽培方法。
【請求項5】
植物が植え付けられて、栽培される栽培容器と、
前記栽培容器の底部に設置され、前記植物の生育を促進する養液が貯留可能な養液槽と、を備え、
前記栽培容器は、
当該栽培容器内に前記養液を流入させる底孔部と、
当該栽培容器及び前記養液槽の底面部に敷設され、当該養液槽に貯留される前記養液を吸収する給水シートと、
前記給水シート上に前記植物を支持するように敷設され、前記給水シートが吸収する前記養液を吸収して保持可能な支持体と、を備える、
ことを特徴とする栽培装置。
【請求項6】
請求項5に記載の栽培装置を用いて、植物を栽培する栽培方法であって、
前記植物を、温度:15℃〜28℃、湿度:15%〜100%、日照時間:12時間/日〜20時間/日で栽培する、
ことを特徴とする栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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