説明

桑の葉抽出物を含むアルツハイマー病の予防または治療用の飲食物および医薬組成物

【課題】アルツハイマー病の予防および治療に有効な物質を見出す。
【解決手段】桑の葉抽出物を含有する、アルツハイマー病を予防または治療するための飲食物および医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病を予防または治療するための飲食物および医薬組成物、詳細には、桑の葉抽出物を含有する、アルツハイマー病を予防または治療するための飲食物および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、ドイツのアルツハイマー博士が報告した進行性の認知症であり、大脳皮質に老人斑と神経原線維変化が見られる疾患である。症例が報告されてから約100年を経た今日においてもその発症機序に不明な点が多く、根本的な治療方法は解明されていない。現在、日本で唯一アルツハイマー病治療薬として認可されているドネペジル(アセチルコリンエステラーゼの阻害剤)はアルツハイマー病の治療手段として貢献している。しかしながら、ドネペジルでの治療は対症療法なので一時的には記憶障害などの症状を改善し、認知症の進行を遅らせることはできるが、その進行を完全に止めることはできない。アルツハイマー病の患者数は日本で140万人、北米で450万人と推計されている。今後、高齢化社会が進展するにつれて患者数が急増することが確実視され、アルツハイマー病に対する多様な治療薬の開発は社会的に重要な課題となっている。
【0003】
桑の葉は世界各地に分布しており、その有用性について多くの報告がある。例えば、桑の葉に含まれる1−デオキシノジリマイシンは血糖値を抑制する作用があることが報告されている(非特許文献1)。その他、桑の葉には高血圧抑制作用(非特許文献2)や発癌抑制作用(非特許文献3)などがあることも報告されている。しかしながら、桑の葉のアルツハイマー病に対する予防または治療効果については、これまで報告がなかった。
【非特許文献1】神奈川県科学技術政策推進委員会;「機能性食品の共同研究事業報告」(1996)
【非特許文献2】佐藤修二, 宮原智江子,小島 尚,宮澤眞紀、鈴木 誠,堀口佳哉, 成人病予防及び生理機能評価に関する研究-桑葉の血圧抑制効果-機能性食品に関する共同研究事業報告2 43-46 (1996)
【非特許文献3】清水昭男、中村圭靖、原田昌興、高橋恭一、坂本堅五;発癌抑制に及ぼす影響(1)桑葉の発癌抑制効果についてのin vivo実験系による検討;機能性食品に関する共同研究事業報告 2 82-86(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、アルツハイマー病の予防および治療に有効な物質を見出すことであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
脳の神経細胞で生成されたアミロイド前駆体蛋白質から切断され細胞外に分泌された可溶性のアミロイドβ蛋白質(以下、「Aβ」または「Aβ蛋白質」と略称)が凝集・不溶化し蓄積重合し、老人斑が形成され、それにより神経細胞死が誘発されて、アルツハイマー病が発症すると考えられている。したがって、アルツハイマー病の治療アプローチとして、Aβの生成を抑制する、あるいはAβ蛋白質の重合・凝集を抑制することが重要である。本発明者らは鋭意研究を重ね、桑の葉抽出物にAβ凝集抑制作用があること、および神経細胞をAβの細胞毒性から保護する能力があることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は下記のものを提供する:
(1)桑の葉抽出物を含有する、アルツハイマー病を予防または治療するための飲食物;
(2)サプリメントである、(1)記載の飲食物;
(3)桑の葉抽出物を含有する、アルツハイマー病を予防または治療するための医薬組成物;
(4)桑の葉が、
赤芽一之瀬、ニグラ、赤芽熊鷹、眞門、鳴沢佐久桑、在来魯桑、遠州高助、天草桑、交配十文字、節曲、あさゆき、崇重桑、勘次郎、白芽龍、登龍、丹波黒、丹波市平、宝丸桑、橘桑、大和、あおばねずみ、改良早生十文字、司桑、本大和、日楽桑、十文字、古志織姫、保志野、富陽桑、碧海大葉、赤木一之瀬、朝鮮宣川桑、鼠返、惣助早生、白早生、古川大葉、黄葉、梨子地、御国桑、群馬赤木、洋桑、新桑2号、改良鶴田、新田錦、白庄土、秋田、青芽一之瀬、津田魯桑、鳥取2号、大類桑、北濃ー0号、国富、ナギ桑、飯山2号、太陽、古川桑、清国野菜、大紅桑、福永、赤鞘、中田桑、奈良田丸、北堀桑、高橋、永井桑、北光、富栄桑、大葉改鼡、和田桑、清次郎、赤甲撰、御所撰、しんけんもち、富士与平、丁野桑、ふかゆき、伊那桑、名乗桑、荒川、大豆島、みなみさかり、貞国、高富、丹波丸、青木コボレ、螢早生、朝鮮宣川桑、徳畑、丹波玉緒、和歌浦、強国、小牧、毘沙門、扶桑錦、愛国(農林)、ゆきしらず、千松、万国桑、深山木、桑広、国桑二十七、千松、豊国桑、摩田桑、鶏冠桑、長沼、上条、大葉、杢早生、国桑二十一号、青庄土、福永、伊豆早生、摘桑、九曲桑、枝垂椎七、万年、樺太桑、大和錦、黒コボレ、赤目魯桑、八丈桑、岡部桑、新選、白芽荊桑♂、フィリッピン一号、大内十文字、名乗桑、尾綱、赤市平、愛知錦、牡丹丸、白芽荊桑♀、佛国ルー、露国野桑、若福、国光、元右衛門、赤木、五郎泊早生、ミラン五号、晩秋大葉、鍋桑、姫鶴、大明錦、鶴田、白芽露桑、カニ桑、魁早生、大島桑、千代鶴、白芽荊桑♀、柳葉桑、重兵衛、中島早生、魁、山形四号、大葉早生、赤軸桑、坂本、国錦、通元桑、日連桑、白芽近、寒枯不死、前島、白真門、中川桑、和泉、大農錦、埴生、清桑、類無、間物、カタネオ、平次郎、小左衛門、白芽国光、権七、半、中山桑、芙蓉、青芽高橋、双蚕桑、青柳大葉、新城錦、岩黒、笊桑、五郎治、三河中島、あさゆき、甚平、多摩錦、勘次郎、雲竜、大和早世、収穫一、スリランカ、尾張高助、七福桑、山野、清十郎、飯坂大葉、黄金、玉名鼠返、直立、一ノ瀬、水内桑、班入葉、柄無桑、十文字、黒眞桑、利助、大宝、岩瀬、富源桑、白早生、栗桑、赤木十文字、改良秋田、和田桑、油木、丸森、瀬野、あさゆき、類無、川浦、東錦、国華、交配魯桑、利助桑、武蔵早生、玉名鼠返、清十早生、黒眞桑、白早生、多摩十文字、中島桑、十島、安部鶴、水潜、銀芭蕉、ビックスマルベリー、赤畦倒、丸葉魯桑、国盛、鴬早生、612、白芽十文字、清七、岩瀬、玉名鼠返、崇重桑、水沢、青木一ノ瀬、青市、収穫一、三徳白芽魯桑、赤木十文字、宝丸桑、改良猟返、軸無桑、丸紋竜、黒胴木、光沢銀竜、渋不知、利助桑、魯桑、改良一ノ瀬、飯山一号、大水車、大葉太郎、長野大葉、大福桑、矢桑、越後青軸、中田桑、東郷錦、ふかゆき、新城錦、化桑、孫左衛門、保寿丸、早生、多古、椿桑、多摩十文字、芽紫、千曲大葉、丹波国富、白眞門、鶏冠桑、八重桑、夕霧、芭蕉、龍眼、甲撰、小渕沢一号、鍋桑、三木野コボレ、清国野桑、国桑二十号、岩根桑、三島、および錦桑
からなる群より選択される1またはそれ以上の品種から採取した葉の抽出物を含有する、(1)もしくは(2)記載の飲食物または(3)記載の医薬組成物;
(5)桑の葉が、
十文字、碧海大葉、白早生、改良鶴田、富栄桑、しんけんもち、小牧、フィリピン1号、白芽国光、および三河中島
からなる群より選択される1またはそれ以上の品種から採取した葉の抽出物を含有する、(4)記載の飲食物または医薬組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アルツハイマー病を予防または治療するための飲食物および医薬組成物が提供される。本発明の飲食物および医薬組成物は、天然物である桑の葉抽出物を有効成分として含むので、安全性が極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
上述のごとく、本発明は、桑の葉抽出物を含有する、アルツハイマー病を予防または治療するための飲食物ならびに医薬組成物に関するものである。桑の品種はいずれの品種であってもよく、例えば、表1に示すような品種から葉を得て、葉抽出物を製造することができる。好ましい桑の品種としては、十文字、碧海大葉、白早生、改良鶴田、富栄桑、しんけんもち、小牧、フィリピン1号、白芽国光、および三河中島などが挙げられる。本発明に用いる桑の葉は1の品種から得られたものであってもよく、2以上の品種から得られたものを混合して用いてもよい。本発明において、「桑の葉」は、桑の葉の部分のみであってもよく、葉柄を含んでもよい。採取される葉の葉位は特に限定されない。葉の採取時期も特に限定されない。また、葉は新しいものであっても、古いものであってもよいが、古くなり変色したもの、落葉時期の近いものは好ましくない。
【0009】
本発明に用いる桑の葉抽出物は当業者に公知の方法により得ることができる。桑の葉をそのまま適当な溶媒(例えば、水、メタノール、エタノール、あるいはそれらの混合物等)に浸漬して抽出物を得てもよいが、抽出効率の点からは葉を破砕してから内容物を抽出するほうがよい。葉は生のままでも、乾燥したものであってもよい。乾燥には、温風乾燥、風乾、凍結乾燥などの公知の乾燥方法を用いることができる。葉の破砕手段は各種のものが使用可能である。例えば、手もみ、ポッター−エルベージェムホモジナイザーなどのホモジナイザー、ワーリングブレンダーなどのブレンダー、ダイノーミルなどの破砕器、フレンチプレス、乳鉢および乳棒、らいかい器、液体窒素による凍結および破砕、超音波処理などの手段により葉を破砕することができる。植物の破砕物を適当な媒体に懸濁し、内容物の抽出を行う。所望により、抽出時に撹拌してもよい。懸濁・抽出媒体としては、水、メタノール、エタノール、エーテルなど、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。懸濁・抽出時の温度、時間などの抽出条件は葉の状態、種類、量などに応じて選択することができる。通常には、常温あるいは60℃程度まで昇温して、常圧で、数分ないし数日間抽出する。抽出は浸漬法のほか、減圧抽出、ミキサー粉砕などの公知手段を用いて行うことができる。上記方法はあくまでも例示であり、当業者は、適当な方法を用いて桑の葉抽出物を得ることができる。
【0010】
必要ならば、得られた抽出物を、デカンテーション、ろ過、または遠心分離などに付して固形分および粒子状物質を除去することができる。得られた抽出物は液状であっても、固形状であっても、あるいは半固形状であってもよい。抽出物を、公知方法、例えばエバポレーションなどにより濃縮してもよい。また、抽出物を、公知方法、例えば凍結乾燥、スプレー乾燥、温風乾燥等により乾燥させ、粉砕して顆粒あるいは粉末状としてもよい。
【0011】
桑の葉抽出物を種々の飲食物に配合して、本発明の飲食物を得ることができる。桑の葉抽出物は天然物由来のため安全性が極めて高く、あらゆる飲食物に配合することができる。「飲食物」とは、動物、特にヒトが摂食するに適したあらゆる食品および飲料品を包含する。例えば、桑の葉抽出物をジュースその他の飲料に配合してもよく、ドレッシングやハーブ系調味料などに配合してもよい。本発明の桑の葉抽出物は、健康食品、栄養機能食品、あるいは特定保健用食品(いわゆる「トクホ」)などに利用することもできる。したがって、本発明の「飲食物」は健康食品、栄養機能食品、あるいは特定保健用食品なども包含する。また、本発明の桑の葉抽出物を、そのまま摂食してもよい。
【0012】
とりわけ、本発明の飲食物の好ましい形態として、サプリメントが挙げられる。サプリメントの形状は、経口摂取可能な形状であればいずれの形状であってもよく、例えば、一般の食品の形状であってもよく、錠剤、カプセル剤、顆粒、粉末(例えば凍結乾燥粉末等)、懸濁液、ドリンク剤、エリキシル、チュアブル形態、ゼリー、ドロップ、トローチなどの形状であってもよい。これらのサプリメントは、食品分野や製薬分野で用いられているプロセスに準じて製造することができる。例えば、錠剤形状のサプリメントを製造する場合には、製薬分野で用いられている混合、乾燥、打錠等の一般的なプロセスを用いることができる。また例えば、カプセル剤の形状の場合には、混合、カプセル封入等の一般的なプロセスを用いることができる。ソフトカプセル、ハードカプセルも目的に応じて適宜選択することができる。液体のサプリメントを製造するには水やエタノール等の無毒あるいは毒性の低い媒体に抽出物を溶解ないし懸濁することができる。粉末や顆粒のサプリメントを製造するには、やはり通常の混合、乾燥、粉砕、ふるい分けなどのプロセスを用いることができる。サプリメントの製造に担体や賦形剤を用いる場合には、その種類や量は製薬分野の慣習に準じて選択することができる。固体の担体または賦形剤としては、例えばタルク、カルボキシメチルセルロース、グルコース、ショ糖、でんぷん、小麦粉などがある。液体の担体としては、例えば水、エタノール、食用油脂などがある。
【0013】
飲食物あるいはサプリメントとしての1日あたりの桑の葉抽出物の摂取量は特に限定されず、飲食物の風味や必要とされる効果に応じて適宜決定されうる。成人(体重70kg)の場合1日あたり、4g〜60g程度、好ましくは12g〜30g程度の摂取量とするのが一般的である(桑の葉乾燥重量に換算)。
【0014】
本発明の飲食物やサプリメント中には、桑の葉抽出物のみならず、1種またはそれ以上の他の有効成分が混合されていてもよい。例えば、イチョウの葉エキス、ウコン、メマンチン、ガランタミン等の神経細胞を保護あるいは活性化する成分と、桑の葉抽出物とを併用してもよい。また、すでにアルツハイマー病の治療を受けている人が、本発明の飲食物を摂食することにより、治療効果を促進することも可能である。
【0015】
本発明は、桑の葉抽出物を含有する、アルツハイマー病の予防または治療用の飲食物のほかに、桑の葉抽出物を含有する、アルツハイマー病の予防または治療用の医薬組成物も提供する。本発明の医薬組成物を種々の剤形に処方することができる。本発明の医薬組成物の投与経路は特に限定されないが、経口投与が好ましく、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒、粉末、エリキシル、ドロップ、トローチ、舌下錠、ドリンク剤などの剤形にすることができる。これらの剤形は製薬分野において公知の方法により製造することができる。
【0016】
桑の葉抽出物の1日の投与量は、患者のアルツハイマー病の状態、他の身体的・精神的状態、既往症、受けている治療の種類などの要因に応じて医師が適宜決定できるが、経口投与の場合には、成人(体重70kg)の場合1日あたり、4g〜60g程度、好ましくは12g〜30g程度である(桑の葉乾燥重量に換算)。他の投与経路を用いる場合にも、医師は桑の抽出物の投与量を適宜増減することができる。
【0017】
本発明の医薬組成物中には、桑の葉抽出物のみならず、1種またはそれ以上の他の有効成分が混合されていてもよい。例えば、ドネペジルが本発明の医薬組成物において併用されてもよい。例えば、イチョウの葉エキス、ウコン、メマンチン、ガランタミン等の神経細胞を保護あるいは活性化する成分が本発明の医薬組成物において併用されてもよい。また、すでにアルツハイマー病の治療を受けている人が、本発明の医薬組成物を併用することにより、治療効果を促進することも可能である。
【0018】
本発明は、さらなる態様において、桑の葉抽出物を投与または摂食することを特徴とする、アルツハイマー病の予防または治療方法を提供する。該方法において、桑の葉抽出物は飲食物として摂食されてもよい。また該方法において、桑の葉抽出物は医薬組成物として投与されてもよい。かかる治療を、他のアルツハイマー病治療、例えば、イチョウの葉エキス、ウコン、メマンチン、ガランタミン等の神経細胞を保護あるいは活性化させる成分の投与、ドネペジルの投与、ライフスタイルの改善、音楽療法などと組み合わせて行ってもよい。
【0019】
本発明は、さらにもう1つの態様において、アルツハイマー病を予防または治療するための飲食物または医薬組成物の製造のための桑の葉抽出物の使用を提供する。かかる使用において、例えば、イチョウの葉エキス、ウコン、メマンチン、ガランタミン等の神経細胞を保護あるいは活性化させる成分、あるいはドネペジルなどの成分を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
以下に実施例を示して本発明をより具体的かつ詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
実施例1. 桑の葉抽出物の調製
マルベリーフレッシュP(KITマルベリークラブ製)(みなみさかりの葉としんいちのせの葉の混合物)1.5g(乾燥重量)を計量し、メタノール15mlを添加し、50℃のインキュベーター中で5時間撹拌した。撹拌終了後、遠心分離を行い、上清を集め、濾過滅菌(0.22μm)することにより、桑の葉抽出物を調製した。
【実施例2】
【0022】
実施例2. 桑の葉抽出物のAβ凝集抑制効果
桑の葉抽出物のAβ凝集抑制効果を調べるために、蛍光色素チオフラビンTがシート構造をとるAβ蛋白質に結合して、その波長にシフトが生じる性質を利用して、Aβ蛋白質の重合化を経時的かつ定量的に測定した。反応系は、Aβ(1−42)蛋白質(ペプチド研究所製、カタログ番号4349−v)10μM(以下、Aβ(1−42)蛋白質という場合には、これを指す)、桑の葉抽出物(実施例1で得たもの)0、10、30または100μg/ml(桑の葉乾燥重量に換算)、0.1%メタノールを含んでいた。上記反応系を37℃でインキュベーションし、チオフラビンの蛍光強度を測定した(励起波長442nm、測定波長485nm)。CLTは対照系で、桑の葉抽出物0μg/ml(すなわち無添加)であった。Aβ(1−42)蛋白質の重合による蛍光はインキュベーション開始10時間頃より生じ、その後経時的に増加した(図1A)。桑の葉抽出物はこの重合を濃度依存的に阻害した(図1A、1B)。インキュベーション開始19時間後において、桑の葉抽出物10μg/ml添加系では対照の約70%、30μg/ml添加系では対照の約30%、100μg/ml添加系では対照の約10%にまでチオフラビンT蛍光が減少していた。
【0023】
次に、原子間力顕微鏡(デジタルインスツルメント社製、型番Nanoprobe III scanning probe workstation)を用いて桑の葉抽出物のAβ重合阻害作用を形態的に観察した。反応条件は上述のとおりであり、19時間インキュベーション後に観察した。Aβ(1−42)蛋白質は桑の葉抽出物の非存在下では繊維状の凝集物を形成した(図2A、2B)。一方、桑の葉抽出物の存在下では線維状の凝集物は観察されなかった(図2C)。なお、図2Cにおいて球状粒子が観察されたが、同様の粒子が桑の葉抽出物のみでも観察されたことにより(図2D)、この球形粒子は桑の葉抽出物由来であると考えられた。このように、形態的にも桑の葉抽出物のAβ凝集阻害作用が確認された。
【実施例3】
【0024】
実施例3. 桑の葉抽出物の神経細胞保護作用
桑の葉抽出物の神経細胞保護作用を調べるために、桑の葉抽出物を添加した初代海馬神経細胞にAβ(1−42)蛋白質を添加し、48時間後に細胞死の指標として細胞培養液中に流出してくる乳酸脱水素酵素の活性を測定した。実験は、初代海馬細胞(ICRマウス胎仔16日齢の海馬より調製した)5x10個/cm、桑の葉抽出物(実施例1で得たもの)0、1、3または10μg/ml(桑の葉乾燥重量に換算)、0.1%メタノールを含むニューロベイサル培地(B27添加物、グルタミンを含有)を37℃で3時間インキュベーションした後、Aβ(1−42)蛋白質を1μMとなるよう添加した。さらに37℃で48時間インキュベーションした後、微量毒性試験用試薬 MTX ”LDH”(極東製薬工業株式会社製)を用いて乳酸脱水素酵素の活性を測定した。初代海馬神経細胞にAβ(1−42)蛋白質を添加した場合、乳酸脱水素酵素の活性が有意に低下した。桑の葉抽出物はこの酵素活性の増加を濃度依存的に阻害した(図3)。桑の葉抽出物1μg/mlを添加した場合には細胞死は約60%に抑制され、桑の葉抽出物3μg/mlを添加した場合には細胞死は約45%に抑制され、桑の葉抽出物10μg/mlを添加した場合には細胞死は約37%に抑制された。これらの結果ら、桑の葉抽出物の神経細胞保護作用および神経細胞死の予防効果が示された。なお、図3中、shamはAβ(1−42)蛋白質無添加かつ桑の葉抽出物無添加の系であった。CTLは桑の葉抽出物無添加の系であった。
【0025】
次に、位相差顕微鏡(オリンパス社製、型番IX81)を用いて桑の葉抽出物が有する神経細胞保護作用を形態的に観察した。反応条件は上述のとおりで、Aβ(1−42)蛋白質添加後48時間目に観察を行った。海馬神経細胞にAβ(1−42)蛋白質を添加すると神経突起の変性や細胞体数の減少が観察された(図4A、4B)。一方、桑の葉抽出物10μg/mlを添加した系では、神経突起の変性や細胞体数の減少は観察されず、海馬神経細胞の形態はAβ(1−42)蛋白質無添加系と同様であった(図4A、4C)。このように、形態的にも桑の葉抽出物の神経細胞保護作用および神経細胞死の予防効果が確認された。
【実施例4】
【0026】
実施例4. Aβ脱重合活性に関する桑の品種のスクリーニング
表1に示す305品種の各々から第15位の葉を採取し、品種ごとに実施例1記載の方法により桑の葉抽出物を調製した。前もって凝集させたAβ(1−42)蛋白質およびチオフラビンTの混合物に各品種の葉抽出物を150μg/ml(0.1%)添加したときの蛍光値を測定した(励起波長442nm、測定波長485nm)。対照は、桑の葉抽出物のかわりに0.1%メタノールを添加したものであり、その際の蛍光値を100%とした。いずれの品種の葉抽出物にもAβ脱重合活性が見られた。特に、十文字、碧海大葉、白早生、改良鶴田、富栄桑、しんけんもち、小牧、フィリピン1号、白芽国光、および三河中島の葉抽出物のAβ脱重合活性が強く、なかでもフィリピン1号および白芽国光の葉抽出物のAβ脱重合活性が強かった(表2)。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、飲食品の分野、特に健康食品やサプリメントの分野、および医薬品の分野等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1はベータアミロイド1−42の線維形成に対する桑の葉抽出物の影響を示す。AはチオフラビンT蛍光値の経時変化を示す。10μM Aβ(1−42)蛋白質を37℃にて0(黒丸)、10(白丸)、30(白三角)、100(白四角)μg/ml桑の葉抽出物とともにインキュベーションした。各値は3つの独立した実験の平均値を示す。Bは19時間インキュベーション後のチオフラビンT蛍光値を示す。各値は平均値±標準誤差を示す(3つの独立した実験を実施した)。**P<0.01 vs. CTL.
【図2】図2は原子間力顕微鏡の図。A,Bは10μM Aβ(1−42)蛋白質のみを37℃にて19時間インキュベーションした図、Cは10μM Aβ(1−42)蛋白質を100μg/ml桑の葉抽出物とともに37℃にて19時間インキュベーションした図、Dは100μg/ml桑の葉抽出物のみを37℃にて19時間インキュベーションした図を示す。Aのスケールバーは500nm、Bのスケールバーは250nmを示す。B−Dは同じスケール。
【図3】図3はAβ(1−42)蛋白質誘発神経細胞死に対する桑の葉抽出物の影響を示す図である。Aβ(1−42)蛋白質を培養海馬神経細胞の培地中に48時間添加することにより神経細胞死を誘発した。桑の葉抽出物(1,3,10μg/ml)はAβ(1−42)蛋白質を添加する3時間前から加えた。細胞外に流出する乳酸脱水素酵素活性を細胞死の指標とした。白いカラムは無処置を示す。各値は平均値±標準誤差を示す(5−6の独立した実験を実施した)(###P<0.001 vs. sham. **P<0.01 and ***P<0.001 vs. Aβ(1-42) alone)。
【図4】図4は位相差顕微鏡の図である。Aは無処置の図、Bは1μM Aβ(1−42)蛋白質のみを37℃にて48時間インキュベーションした図、Cは1μM Aβ(1−42)蛋白質を10μg/ml桑の葉抽出物とともに37℃にて48時間インキュベーションした図を示す。桑の葉抽出物はAβ(1−42)蛋白質を添加する3時間前から加えた。Aのスケールバーは100μm。B,Cは同じスケール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
桑の葉抽出物を含有する、アルツハイマー病を予防または治療するための飲食物。
【請求項2】
サプリメントである、請求項1記載の飲食物。
【請求項3】
桑の葉抽出物を含有する、アルツハイマー病を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項4】
赤芽一之瀬、ニグラ、赤芽熊鷹、眞門、鳴沢佐久桑、在来魯桑、遠州高助、天草桑、交配十文字、節曲、あさゆき、崇重桑、勘次郎、白芽龍、登龍、丹波黒、丹波市平、宝丸桑、橘桑、大和、あおばねずみ、改良早生十文字、司桑、本大和、日楽桑、十文字、古志織姫、保志野、富陽桑、碧海大葉、赤木一之瀬、朝鮮宣川桑、鼠返、惣助早生、白早生、古川大葉、黄葉、梨子地、御国桑、群馬赤木、洋桑、新桑2号、改良鶴田、新田錦、白庄土、秋田、青芽一之瀬、津田魯桑、鳥取2号、大類桑、北濃ー0号、国富、ナギ桑、飯山2号、太陽、古川桑、清国野菜、大紅桑、福永、赤鞘、中田桑、奈良田丸、北堀桑、高橋、永井桑、北光、富栄桑、大葉改鼡、和田桑、清次郎、赤甲撰、御所撰、しんけんもち、富士与平、丁野桑、ふかゆき、伊那桑、名乗桑、荒川、大豆島、みなみさかり、貞国、高富、丹波丸、青木コボレ、螢早生、朝鮮宣川桑、徳畑、丹波玉緒、和歌浦、強国、小牧、毘沙門、扶桑錦、愛国(農林)、ゆきしらず、千松、万国桑、深山木、桑広、国桑二十七、千松、豊国桑、摩田桑、鶏冠桑、長沼、上条、大葉、杢早生、国桑二十一号、青庄土、福永、伊豆早生、摘桑、九曲桑、枝垂椎七、万年、樺太桑、大和錦、黒コボレ、赤目魯桑、八丈桑、岡部桑、新選、白芽荊桑♂、フィリッピン一号、大内十文字、名乗桑、尾綱、赤市平、愛知錦、牡丹丸、白芽荊桑♀、佛国ルー、露国野桑、若福、国光、元右衛門、赤木、五郎泊早生、ミラン五号、晩秋大葉、鍋桑、姫鶴、大明錦、鶴田、白芽露桑、カニ桑、魁早生、大島桑、千代鶴、白芽荊桑♀、柳葉桑、重兵衛、中島早生、魁、山形四号、大葉早生、赤軸桑、坂本、国錦、通元桑、日連桑、白芽近、寒枯不死、前島、白真門、中川桑、和泉、大農錦、埴生、清桑、類無、間物、カタネオ、平次郎、小左衛門、白芽国光、権七、半、中山桑、芙蓉、青芽高橋、双蚕桑、青柳大葉、新城錦、岩黒、笊桑、五郎治、三河中島、あさゆき、甚平、多摩錦、勘次郎、雲竜、大和早世、収穫一、スリランカ、尾張高助、七福桑、山野、清十郎、飯坂大葉、黄金、玉名鼠返、直立、一ノ瀬、水内桑、班入葉、柄無桑、十文字、黒眞桑、利助、大宝、岩瀬、富源桑、白早生、栗桑、赤木十文字、改良秋田、和田桑、油木、丸森、瀬野、あさゆき、類無、川浦、東錦、国華、交配魯桑、利助桑、武蔵早生、玉名鼠返、清十早生、黒眞桑、白早生、多摩十文字、中島桑、十島、安部鶴、水潜、銀芭蕉、ビックスマルベリー、赤畦倒、丸葉魯桑、国盛、鴬早生、612、白芽十文字、清七、岩瀬、玉名鼠返、崇重桑、水沢、青木一ノ瀬、青市、収穫一、三徳白芽魯桑、赤木十文字、宝丸桑、改良猟返、軸無桑、丸紋竜、黒胴木、光沢銀竜、渋不知、利助桑、魯桑、改良一ノ瀬、飯山一号、大水車、大葉太郎、長野大葉、大福桑、矢桑、越後青軸、中田桑、東郷錦、ふかゆき、新城錦、化桑、孫左衛門、保寿丸、早生、多古、椿桑、多摩十文字、芽紫、千曲大葉、丹波国富、白眞門、鶏冠桑、八重桑、夕霧、芭蕉、龍眼、甲撰、小渕沢一号、鍋桑、三木野コボレ、清国野桑、国桑二十号、岩根桑、三島、および錦桑
からなる群より選択される1またはそれ以上の品種から採取した葉の抽出物を含有する、請求項1もしくは2記載の飲食物または請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
十文字、碧海大葉、白早生、改良鶴田、富栄桑、しんけんもち、小牧、フィリピン1号、白芽国光、および三河中島
からなる群より選択される1またはそれ以上の品種から採取した葉の抽出物を含有する、請求項4記載の飲食物または医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−100969(P2008−100969A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286658(P2006−286658)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(506354423)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(506354825)
【出願人】(506354445)
【出願人】(599137965)
【Fターム(参考)】